台本概要

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タイトル 魔王と王女。
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 惹かれ合う運命は無くとも、運命さえ引き寄せんとする意志を宿し。

◆あらすじ◆
玉座の間にて待ち受ける魔王の元へ辿り着いたのは勇者ではなく、ある想いを秘めた王女だった。

文字数約7,700

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
魔王 128 レイバーン・カルティス・テオ・パルマフロスト。 若く美形の魔王。氷魔法の使い手。
王女 124 シャルロッテ・リオナ・アレクシオン。 若く可憐なアレクシア王国の第二王女。魔王に惚れている。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:魔王と王女。 : 0:惹かれ合う運命は無くとも、運命さえ引き寄せんとする意志を宿し。 : 0:◆あらすじ◆ 0:玉座の間にて待ち受ける魔王の元へ辿り着いたのは勇者ではなく、ある想いを秘めた王女だった。 : 0:◇登場人物◇ 魔王:レイバーン・カルティス・テオ・パルマフロスト。 魔王:若く美形の魔王。氷魔法の使い手。 王女:シャルロッテ・リオナ・アレクシオン。 王女:若く可憐なアレクシア王国の第二王女。魔王に惚れている。 : 0:◇◆◆◇ : 0:玉座の肘掛けに頬杖をつき待ち構える魔王 0:扉が開き、外套を羽織った王女が現れる。 : 魔王:ふはははは! 魔王:よくぞここまで生きて辿り着いたな! 勇者よ! 魔王:余は魔王レイバーン・カルティス・テオ・パルマフロスト。 魔王:褒めて遣わすぞ。 王女:有り難き幸せですわ。 王女:申し遅れました、私はシャルロッテ・リオナ・アレクシオン。以後お見知りおきを。 王女:お初にお目にかかります、魔王様。 魔王:ほう、近頃の勇者にしては随分と礼儀正しいな。関心だ。 王女:淑女の嗜みでございます。 魔王:よもや勇者が斯様に華奢で可憐な小娘だったとは。 王女:可憐だなんてそんな、勿体なきお言葉。 魔王:勿体なきお言葉? 良家の娘のような言葉遣いだな。実際貴族か何かなのか? 王女:それ程のものではございませんが、一応。 魔王:ふむ。 王女:そんなに見つめられると照れてしまいますわ。 魔王:おや、失敬。しかし報告では、此度の勇者は何やら線の細い美形の優男と聞いていたのが、其方はそう見えて……男か? 王女:女です。 魔王:だよな。すまん。 王女:いえいえ。 魔王:……というかこんな小娘に、 王女:小娘は、お気に召しませんか? 魔王:ああ、いや、そうでは無いぞ、我とて魔王。上に立つ者として年齢や性別、外見や出自でその能力の有無を測ろうとは言わぬが、やはりこの荒事の世界、どうしても偏見は拭い去れぬというか……いや、言い訳は止そう。気に障ったのなら詫びる。すまぬな勇者。 王女:いえとんでもございません。顔をお上げになって下さい、魔王様。 魔王:……いや其方、本当にしっかりしておるな。何かちょっと好感持ってきたわ、勇者なのに。 王女:こ、こ、好感を?! それはまことですか! 魔王:ぬお!? あ、ああ。敵ながらあっぱれ。しかし、精巧な造花かと思いきや、年相応の野草のような朗らかさもあるのだな。 王女:私ったら、なんとはしたない。 魔王:やはり、ここまで辿り着いただけのことはあるということか。 王女:お褒めにあずかり光栄ですわ。 魔王:うむ、やはり良いな。 王女:……良い。 魔王:配下の者共に見習わせたいくらいだ。あやつらときたらガサツと言うか、ヤクザな仕事と言うか。余は仮にも王だぞ? ザル警備が許されると思うなよ。 王女:そんな、皆様をお責めにならないで。私、こう見えても仕事の出来る女なので。 魔王:そのようだな。しかしそれを差し引いても、家臣共は何をのこのこ侵入されているのだ、情けない。 王女:此方こそ夜分に突然押しかけてしまって申し訳ございません。私ったらなんてはしたない。 魔王:いや、良い良い。其方が気にすることではあるまいよ。それに余は侵入されたことに腹を立てているのでは無く、報告が一切無かったことを憂慮しておるだけだ。まったく、魔王として情けない限りだ。 王女:そうですの。ご配慮痛み入ります。 魔王:あ奴らときたら報連相もまともにできんのか。だから負けるのだ。馬鹿者め。 : 0:間。 : 魔王:うむ。我ながら鮮やかなブーメランだな。 王女:あらまぁ。 魔王:しかし、部下の失態の尻拭いをするのも王としての責務。 王女:ご立派ですのね。 魔王:教育が足りなんだと、勉強させてもらったわ。 王女:流石ですわ。 魔王:感謝するぞ勇者。 王女:御礼には及びませんわ。 魔王:……なんかさっきからちょいちょい相槌おかしくない? 王女:そうでしょうか? 魔王:まぁ良い。 王女:心の広いところ、素敵ですわ。 魔王:……なんか、引っかかるが。 王女:私の胸にもあなた様が引っかかって抜けませんの。 魔王:ふむよく分からんが。さて、始めようか勇者。 王女:ええ喜んで。 魔王:ふはははは! 降ってわいたような唐突な局面ではあるが、 魔王:最後の決戦という奴を。 : 魔王:いざっ――! : 0:王女、その場で外套を脱ぎドレス姿になる。 : 魔王:……ぬ? 何を脱いでおるのだ其方! 王女:いかがなさいましたか? 魔王様? 魔王:いかがじゃなくて其方は何を徐に外套を脱いでおるのだ? 王女:邪魔になるかと思いまして。 魔王:いや、ならもっと早く脱げよ。 王女:まぁ……! 早く脱げだなんて……! 魔王:言ってないよ!? そういう意味じゃ無いからな! 王女:なんだ、違うんですの。 魔王:勇者よ、よく見れば剣どころか武器になりそうな物を何も持っておらぬようだが、まさか……、戦わぬつもりか? 王女:いいえ、これが私の戦いです。 魔王:戦場で脱ぐことが? 最近の勇者変わってんなぁ。 王女:あの魔王様、申し上げにくいのですが、 魔王:何だ? 王女:私、そもそも勇者ではありません。 : 0:間。 : 魔王:は? 勇者では無い? 王女:ええ。 魔王:……え? ではお主は一体何者ぞ? 王女:私はシャルロッテ・リオナ・アレクシオンでございます。 魔王:それは最初に聞いたわ。しかし、ふむアレクシオン……、なんか聞いたことある気もするが……。気のせいだな! 王女:まぁ、覚えてて下さったんですね、嬉しい! 魔王:何を喜んでおる! 王女:あら、私ったら。 魔王:しかし何故、勇者でも無い人間の娘が何故斯様なところに来る……? その必然性は? というか、え、じゃああいつら勇者の少女とかじゃなくて、ほんとに普通の小娘にやられたの? 情けないの次元越えてない? 王女:ごめんあそばせ。 魔王:よく見ればそれ、ドレスではないか。 王女:かわいいでしょう? これ私のお気に入りなのです。 魔王:それは知らんが。間者や刺客の類いとも思えぬ……貴族令嬢? いや、いや、違うなこの雰囲気、寧ろ王……。 王女:どうかなさいました? 私のドレス、お気に召しませんか? 魔王:……かははっ! そんな馬鹿な話よ! 王女:魔王様……? 魔王:余は何を戯けた空想をしておる? ふはははは! よもや王女が斯様な場所に騎士や従者の一人も連れずに現れるなどあり得るわけがあるまいに! 王女:王女です。 魔王:は? 王女:王女です。 魔王:……は? 王女:私、王女です。 魔王:マジ? 神に誓って? 王女:ええ、魔王様に誓って王女です。 魔王:余に誓うな。 王女:えへへ。 魔王:え、マジもんの王女? 王女:はい。申し遅れましたが。王女です。 魔王:言うの遅くない? てっきり勇者の体で話進めてたよ? 王女:ごめんなさい。王女です。 魔王:どこの? 王女:アレクシア王国の王女です。 魔王:あの、余が正式に宣戦布告した? アレクシア王国? 王女:はい、魔王様が宣戦布告したアレクシア王国の第二王女です。 魔王:第二王女……。 王女:アレクシア王国第二王女、シャルロッテ・リオナ・アレクシオンでございます。 魔王:それでシャルロッテ。 王女:気安くシャーリーとお呼び下さいませ魔王様。 魔王:シャルロッテ。 王女:シャーリー。 魔王:シャルロ―― 王女:シャーリー。 魔王:……シャーリー。 王女:はい! シャーリーです。 魔王:シャーリーよ、余が拐ったわけでもない姫君が何故我が城に?! しかも勇者を差し置いて! ていうか、勇者は何をやっておる。 王女:張り倒しました。 魔王:張り……え? 王女:張り倒しました。 魔王:張り倒した?? 勇者を? 王女:ええ、危険だとかなんとか言って付きまとってきてあまりに鬱陶しかったので、つい。 魔王:つい勇者張り倒したの!? 王女:私ったらはしたない。 魔王:はしたないというか、なんというか……! あ、いや、見張りは! 門番は! 幹部は! 四天王は! 余の側近は何をしていた!? 王女:張り倒しました。 魔王:張り倒した?? その細腕で? 王女:はい、張り倒しました。 魔王:ふ、ふふ、ふふはははは! う、嘘を言うな! あやつら基本的に仕事はほんとやっつけで、考える気とか一切無いパワープレイしかしないが、魔王配下界隈では実力もそこそこの武闘派なのだぞ? 倒せるものか! 大方忍び込んだのだろう! 王女:忍び込む? 魔王:近頃の王族は刺客を退けるために逆に隠密やら暗殺術を学ぶと聞く。その類いの技だな? 王女:あぁ、確かに王家直轄のアサシンから倣いましたわ。護身術。 魔王:ふはは、それは見事。しかし、斯様なところまでのこのこと来て何のようだ? 姫が、単身で。和平交渉のつもりか? 己の身を捧げる的な? 王女:身を捧げるだなんて、そんな……。燃えますわ! 魔王:は? : 0:間。 : 王女:あ、あら、私ったらはしたない! 魔王:…………。ふっ、だが甘いな、もう手遅れよ。 王女:手遅れ? 魔王:人と魔族の戦いは止められぬよ。 王女:そうなんですの? 魔王:ああ、貴様が何を考えようと、どちらかが滅びるまで終わらぬさ。 王女:終わらぬ戦い……。 魔王:くはは、無駄足だったな。王女シャーリー。とっとと失せよ。 王女:それは、どうして? 魔王:どうして戦いは終わらぬのか? そんな物は決まっている。これは我らが誇りの為の戦い。そして貴様らの見栄の為の戦いだからだ。最初は取るに足りない小競り合いから始まり、領土争い、文化闘争、宗教戦争にまで燃え広がった。何を信じ、何を守り、そしてその為に何を奪うのか。そんな物ももはや分からなくなるほどに加熱した復讐と憎悪の闘争の為の闘争。これはそういう類いの物だ。貴様とて王家の者なら分かるだろう? 王女:私は、私には、分かりません。 魔王:分からぬ? やれやれ、礼儀正しく聡いかと思えば愚鈍な小娘だったか。失せよ、見逃してやる。そしてさっさと勇者を連れてくるがよい。あーあ、勇者かと思ったのに。がっかりだ。 王女:勇者。 魔王:うん? 王女:勇者勇者って、今、勇者のことなど、どうでも良くありません? 魔王:え? 王女:勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者者勇者勇者勇者者勇者勇者勇者!! 魔王:ちょ、え、え? 王女:ここにいない勇者のなんかじゃ無くて今あなた様の目の前に居る私のことをもっとよくご覧になって下さいまし! 魔王様! 魔王:え、な、何だ? や、やる気か?! 王女:私、本気なんですの! 魔王:本気でこの戦いを止められると? 小娘一人に? っは! 思い上がるな! 王女:ぶっちゃけんなことどうでも良いですわ! 魔王:は? 王女:結婚して下さいませ! 魔王レイバーン・カルティス・テオ・パルマフロスト様! 魔王:結婚!? そ、それは政略結婚的なサムシングか! 王女:いいえ! 純粋にあなた様に一目惚れしたのですわ! 魔王:一目惚れって、其方と会ったのはこれが初めてであろう?! よもや扉を開けた瞬間に惚れたと申すか!? 王女:生で見たときに惚れ直したのは事実ですが、 魔王:事実なのか。 王女:ほら、運命のあの日に! 魔王:運命のあの日とは? 王女:宣戦布告の! 魔王:宣戦布告? 王女:王都の空に貴方様の幻影が浮かび上がったあの瞬間! 人と魔族の戦いが勃発したあの日あの時あの場所で! 同時に私の恋心も激しく燃え上がったのですわ! 魔王:つまり、あのホログラムに惚れたと? 王女:端的に申しますとそうですわ。ホレグラムですわ! 魔王:えー、知らんけど。……何この降ってわいたような唐突な局面。 王女:正に運命! 魔王:……それで遠路遥々、勇者はっ倒してここまで来たと? 王女:そうですわ。 魔王:そんな、馬鹿な。 王女:恋は人を愚かにさせる。けれど、人はそれを幸せというのです。 魔王:知らんけど。 王女:レイ様はまだ恋を知りませんの? 魔王:……わ、悪いか! あと気安くレイ様とか言うな! 王女:まぁ……! でしたら僭越ながら私が教えて差し上げますわ? 魔王:うるせぇ余計なお世話だ……! 王女:怖がらなくても、平気ですのよ。私も初めてですの。 魔王:……ははぁ。わかったぞ。これがじいやの言っていた色仕掛け、ハニートラップと言うやつか! 油断させて暗殺しようという腹か。近寄るな下郎め! 王女:あら! 魔王:くはは、恐ろしい女よ。しかし我にその手は―― : 0:王女、一瞬で魔王に接近する。 : 王女:ふふっ、私ったらはしたない。 魔王:なっ! この距離を一瞬で!? 王女:でも、レイ様がいけないんですのよ? 魔王:ち、近い! 離れい! 氷の息吹に巻かれて眠れ! 雪泥鴻爪! ホワイトアウト! 王女:ふふふふ! 幻想的な雪の芸術ですの、流石我が愛しの君、お見事……! 魔王:躱した!? そんな、あの距離なら必中の筈! 王女:残像ですわ。 魔王:残像?! 王女:そして、本物の私は――此方に。 魔王:……! 後ろ?! 王女:ふふふ、捕まえましたわ! 魔王:な、か、身体が動かぬ!? 王女:暴れても無駄です。 魔王:な、何をした?! 魔法、いや……。 王女:関節をしっかりキメていますので。 魔王:だよな! 魔法的な干渉を一切感じないもん! 王女:ふふふ、ああ、私の腕の中で藻掻くレイ様……! 素敵ですわ……! 魔王:ならば魔法で! 王女:暴れる姿も素敵ですが、あまり無茶はしない方が身のためですわ。 魔王:う、うるさい! 余諸共に氷漬けにするまで! 決して溶けることの無い戒めと、終わることの無い後悔の底に凍てつけ! 天牢雪獄! フロストエデン! 王女:ふふふ。 魔王:っ! 魔力が、出力できない……!? どうして! 王女:先程魔力の伝達を抑制する秘孔を突かせてもらいましたわ。しばらくの間、魔力はあなた様の言うことを聞きませんの。 魔王:何神拳なんだよ! 王女:アレクシア神拳ですわ。 魔王:ほんとにあるのかよ! 何者なんだ、貴様! 王女:知りたいですかレイ様。しっかりと名乗るのは少し恥ずかしいのですが、余すこと無く私のことを知って欲しい気持ちもありますのでお伝えしますわ。私は―― 王女:アレクシア王国第二王女シャルロッテ・リオナ・アレクシオン。アレクシア王国王位継承権第一位にして、武人序列特一位「拳聖」。二十七代目アレクシア神拳正当継承者でもありますが……そんな物は今となっては詮無いことですわ。 魔王:いや、なんかずらずらとヤバい単語が出てきてた気がするのだが……。 王女:でも! 今は貴方様の未来の妻となるべきただの一人の女ですわ。 魔王:何か知らんうちに嫁入りすることになってるが……! いや、こんなただの女いねぇよ! 王女:特別な女だなんて照れますわ! 魔王:格別にヤバい女じゃないか! 断る! 王女:まぁ! つれないですわ! そんなところも素敵! 魔王:ほざけ小娘! たとえ余がここで敗れても、この魂まで支配できると思わぬことだ! 余は魔王レイバーン・カルティス・テオ・パルマフロスト! 余は支配者! 誰にも我を従えることは出来ぬと知れ! 王女:痺れますわ! 旦那様! 魔王:誰が旦那様だ! 王女:ですが、 王女:「欲しいものは自らの手で掴み取れ」 魔王:は? 王女:王家とてそれは同じですわ。王としての権力で手に入らないならば、拳の力、拳力で力尽くでも勝ち取りなさい! これが我が国唯一絶対の教えですわ。 魔王:なにそのマッチョな思想。 王女:だから私は、我が国に宣戦布告をしてきたあなた様に惚れたのです。ただお顔が私好みの殿方だからというだけで無く。 魔王:……余はとんでもない地雷国家を踏んだのか。 王女:あれは私にとって宣戦布告などではありません。そう、正に愛の告白。 魔王:違うわ! 王女:だからこれは一目惚れなんですの。貴方のことを思う度、私、胸がときめいておかしくなってしまいそう。 魔王:元からおかしいに一票。 王女:そう、たぶん私は、おかしかったんですの。王国のどんな猛者共をぶちのめしても、先に生まれたくらいでマウント取ってくるお兄様お姉様をマウンティングでぶん殴っても、武人序列一位でどや顔した「拳王」のお父様をワンパンでのしても、女神如きに気に入られてはしゃいでる勇者のクソガキをひっぱたいて詫び入れさせても、この胸の鼓動はなんら弾まず、心拍数は常に一定、明鏡止水。ええ、きっと私は死ぬまでこうなのだと。なんら楽しみを感じること無く、ただ目の前に何も無い道を徒然に行く。そう、その筈でしたのに、ああ、なんてことなんですの……? あの日以来、私は変わってしまった。あの時、空にでかでかと浮かび上がった貴方の綺麗なお顔を、お声を思い出すだけで、私の錆び付いていた心臓は! 強く激しく熱く猛々しくそして得も言われない程に切なく狂おしく! 脈打ち、のたうち、高鳴った! あぁハレルヤ筋繊維! もう、この気持ちは、想いは、アドレナリンと共に押し寄せ募る恋心は! 押さえられませんの! ねぇレイ様? 聞こえるでしょう? 私の乳房の向こうから聞こえる命の歌が。あぁこれは喝采。祝福。貴方に出会えた歓喜そのもの! 強く強く抱きしめて、伝わる愛の告白。狂った心が筋肉が、清く正しくあるべき場所で、貴方を求めて動き始めたのです。レイ様レイ様レイ様レイ様! ああ、甘美なその名を口にする度、シャルロットはメルトダウンしてしまいそうですわ、うふ、うふふ、うふふふふふ! あぁ、レイ様? もう、良いですわよね? シャルロットはこれまで我慢してきました、でも、もう、もう耐えられません、辛抱できません、限界なのです、自分が自分じゃ無くなるみたいで、それがとっても心地良い。…………うふふ。 魔王:……い、いや、何をするつもりだ! 王女:さぁ、一緒に考えましょ? 魔王:よ、余の何がそんなに……! 王女:全てが。 魔王:や、やめろ、は、放せ! 放してくれ! 放して下さい! 悪かった、余が悪かったです、アレクシア王国との和平交渉でも、全面降伏でも、服従でも何でもするから許してください! お願い申しあげます! 王女:まぁ……! 私の為に何でもしてくれるんですの! でも残念ながら、それは取引になりません。 魔王:え? 王女:もうありませんもの。アレクシア王国なんて。 魔王:え? 何を言って……! 王女:だって私、国を出るときに全て滅ぼしましたの。 魔王:は? 王女:魔王に嫁ぐんですもの。全て捨て去る覚悟が必要だって思った……なんて言うと、綺麗に飾り過ぎていますわね。けじめ……、でもありませんわ。そう、もう、何もいらなかったんですの。王位も、王国も、何もかも。そう、貴方以外何も。この私の身体と、貴方に気に入って貰えそうな素敵なドレス、それとあの勇者から剥ぎ取った外套を着込んで貴方のもとにはせ参じたのです。あぁ、だから、ごめんなさい。私、嘘をついてしまいました。 魔王:うそ……? 王女:私は、ここに辿り着いたときにはもうアレクシア王国第二王女シャルロッテ・リオナ・アレクシオンではなく、やはりただのシャーリーだったのです。既に滅んだ家の名前を名乗るなんて未練がましいし、そんなの愛する貴方に失礼でしょう? 魔王:は、はは、 王女:ああ、そうですわ! 魔王:うぇ……? 王女:これで終わりなき戦争も無事終わったことですし、私だけを愛してくれますよね? 魔王:…………。 王女:うふふ、お慕い申しております、レイバーン・カルティス・テオ・パルマフロスト、我が愛しの旦那様。 魔王:あ、 王女:さぁ、楽にして下さい、貴方。二人だけの世界で、永遠の愛を誓いましょう。うふふふふふふふふふふふ――。 魔王:……あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――っ! : 0:◆◆◆◆

0:魔王と王女。 : 0:惹かれ合う運命は無くとも、運命さえ引き寄せんとする意志を宿し。 : 0:◆あらすじ◆ 0:玉座の間にて待ち受ける魔王の元へ辿り着いたのは勇者ではなく、ある想いを秘めた王女だった。 : 0:◇登場人物◇ 魔王:レイバーン・カルティス・テオ・パルマフロスト。 魔王:若く美形の魔王。氷魔法の使い手。 王女:シャルロッテ・リオナ・アレクシオン。 王女:若く可憐なアレクシア王国の第二王女。魔王に惚れている。 : 0:◇◆◆◇ : 0:玉座の肘掛けに頬杖をつき待ち構える魔王 0:扉が開き、外套を羽織った王女が現れる。 : 魔王:ふはははは! 魔王:よくぞここまで生きて辿り着いたな! 勇者よ! 魔王:余は魔王レイバーン・カルティス・テオ・パルマフロスト。 魔王:褒めて遣わすぞ。 王女:有り難き幸せですわ。 王女:申し遅れました、私はシャルロッテ・リオナ・アレクシオン。以後お見知りおきを。 王女:お初にお目にかかります、魔王様。 魔王:ほう、近頃の勇者にしては随分と礼儀正しいな。関心だ。 王女:淑女の嗜みでございます。 魔王:よもや勇者が斯様に華奢で可憐な小娘だったとは。 王女:可憐だなんてそんな、勿体なきお言葉。 魔王:勿体なきお言葉? 良家の娘のような言葉遣いだな。実際貴族か何かなのか? 王女:それ程のものではございませんが、一応。 魔王:ふむ。 王女:そんなに見つめられると照れてしまいますわ。 魔王:おや、失敬。しかし報告では、此度の勇者は何やら線の細い美形の優男と聞いていたのが、其方はそう見えて……男か? 王女:女です。 魔王:だよな。すまん。 王女:いえいえ。 魔王:……というかこんな小娘に、 王女:小娘は、お気に召しませんか? 魔王:ああ、いや、そうでは無いぞ、我とて魔王。上に立つ者として年齢や性別、外見や出自でその能力の有無を測ろうとは言わぬが、やはりこの荒事の世界、どうしても偏見は拭い去れぬというか……いや、言い訳は止そう。気に障ったのなら詫びる。すまぬな勇者。 王女:いえとんでもございません。顔をお上げになって下さい、魔王様。 魔王:……いや其方、本当にしっかりしておるな。何かちょっと好感持ってきたわ、勇者なのに。 王女:こ、こ、好感を?! それはまことですか! 魔王:ぬお!? あ、ああ。敵ながらあっぱれ。しかし、精巧な造花かと思いきや、年相応の野草のような朗らかさもあるのだな。 王女:私ったら、なんとはしたない。 魔王:やはり、ここまで辿り着いただけのことはあるということか。 王女:お褒めにあずかり光栄ですわ。 魔王:うむ、やはり良いな。 王女:……良い。 魔王:配下の者共に見習わせたいくらいだ。あやつらときたらガサツと言うか、ヤクザな仕事と言うか。余は仮にも王だぞ? ザル警備が許されると思うなよ。 王女:そんな、皆様をお責めにならないで。私、こう見えても仕事の出来る女なので。 魔王:そのようだな。しかしそれを差し引いても、家臣共は何をのこのこ侵入されているのだ、情けない。 王女:此方こそ夜分に突然押しかけてしまって申し訳ございません。私ったらなんてはしたない。 魔王:いや、良い良い。其方が気にすることではあるまいよ。それに余は侵入されたことに腹を立てているのでは無く、報告が一切無かったことを憂慮しておるだけだ。まったく、魔王として情けない限りだ。 王女:そうですの。ご配慮痛み入ります。 魔王:あ奴らときたら報連相もまともにできんのか。だから負けるのだ。馬鹿者め。 : 0:間。 : 魔王:うむ。我ながら鮮やかなブーメランだな。 王女:あらまぁ。 魔王:しかし、部下の失態の尻拭いをするのも王としての責務。 王女:ご立派ですのね。 魔王:教育が足りなんだと、勉強させてもらったわ。 王女:流石ですわ。 魔王:感謝するぞ勇者。 王女:御礼には及びませんわ。 魔王:……なんかさっきからちょいちょい相槌おかしくない? 王女:そうでしょうか? 魔王:まぁ良い。 王女:心の広いところ、素敵ですわ。 魔王:……なんか、引っかかるが。 王女:私の胸にもあなた様が引っかかって抜けませんの。 魔王:ふむよく分からんが。さて、始めようか勇者。 王女:ええ喜んで。 魔王:ふはははは! 降ってわいたような唐突な局面ではあるが、 魔王:最後の決戦という奴を。 : 魔王:いざっ――! : 0:王女、その場で外套を脱ぎドレス姿になる。 : 魔王:……ぬ? 何を脱いでおるのだ其方! 王女:いかがなさいましたか? 魔王様? 魔王:いかがじゃなくて其方は何を徐に外套を脱いでおるのだ? 王女:邪魔になるかと思いまして。 魔王:いや、ならもっと早く脱げよ。 王女:まぁ……! 早く脱げだなんて……! 魔王:言ってないよ!? そういう意味じゃ無いからな! 王女:なんだ、違うんですの。 魔王:勇者よ、よく見れば剣どころか武器になりそうな物を何も持っておらぬようだが、まさか……、戦わぬつもりか? 王女:いいえ、これが私の戦いです。 魔王:戦場で脱ぐことが? 最近の勇者変わってんなぁ。 王女:あの魔王様、申し上げにくいのですが、 魔王:何だ? 王女:私、そもそも勇者ではありません。 : 0:間。 : 魔王:は? 勇者では無い? 王女:ええ。 魔王:……え? ではお主は一体何者ぞ? 王女:私はシャルロッテ・リオナ・アレクシオンでございます。 魔王:それは最初に聞いたわ。しかし、ふむアレクシオン……、なんか聞いたことある気もするが……。気のせいだな! 王女:まぁ、覚えてて下さったんですね、嬉しい! 魔王:何を喜んでおる! 王女:あら、私ったら。 魔王:しかし何故、勇者でも無い人間の娘が何故斯様なところに来る……? その必然性は? というか、え、じゃああいつら勇者の少女とかじゃなくて、ほんとに普通の小娘にやられたの? 情けないの次元越えてない? 王女:ごめんあそばせ。 魔王:よく見ればそれ、ドレスではないか。 王女:かわいいでしょう? これ私のお気に入りなのです。 魔王:それは知らんが。間者や刺客の類いとも思えぬ……貴族令嬢? いや、いや、違うなこの雰囲気、寧ろ王……。 王女:どうかなさいました? 私のドレス、お気に召しませんか? 魔王:……かははっ! そんな馬鹿な話よ! 王女:魔王様……? 魔王:余は何を戯けた空想をしておる? ふはははは! よもや王女が斯様な場所に騎士や従者の一人も連れずに現れるなどあり得るわけがあるまいに! 王女:王女です。 魔王:は? 王女:王女です。 魔王:……は? 王女:私、王女です。 魔王:マジ? 神に誓って? 王女:ええ、魔王様に誓って王女です。 魔王:余に誓うな。 王女:えへへ。 魔王:え、マジもんの王女? 王女:はい。申し遅れましたが。王女です。 魔王:言うの遅くない? てっきり勇者の体で話進めてたよ? 王女:ごめんなさい。王女です。 魔王:どこの? 王女:アレクシア王国の王女です。 魔王:あの、余が正式に宣戦布告した? アレクシア王国? 王女:はい、魔王様が宣戦布告したアレクシア王国の第二王女です。 魔王:第二王女……。 王女:アレクシア王国第二王女、シャルロッテ・リオナ・アレクシオンでございます。 魔王:それでシャルロッテ。 王女:気安くシャーリーとお呼び下さいませ魔王様。 魔王:シャルロッテ。 王女:シャーリー。 魔王:シャルロ―― 王女:シャーリー。 魔王:……シャーリー。 王女:はい! シャーリーです。 魔王:シャーリーよ、余が拐ったわけでもない姫君が何故我が城に?! しかも勇者を差し置いて! ていうか、勇者は何をやっておる。 王女:張り倒しました。 魔王:張り……え? 王女:張り倒しました。 魔王:張り倒した?? 勇者を? 王女:ええ、危険だとかなんとか言って付きまとってきてあまりに鬱陶しかったので、つい。 魔王:つい勇者張り倒したの!? 王女:私ったらはしたない。 魔王:はしたないというか、なんというか……! あ、いや、見張りは! 門番は! 幹部は! 四天王は! 余の側近は何をしていた!? 王女:張り倒しました。 魔王:張り倒した?? その細腕で? 王女:はい、張り倒しました。 魔王:ふ、ふふ、ふふはははは! う、嘘を言うな! あやつら基本的に仕事はほんとやっつけで、考える気とか一切無いパワープレイしかしないが、魔王配下界隈では実力もそこそこの武闘派なのだぞ? 倒せるものか! 大方忍び込んだのだろう! 王女:忍び込む? 魔王:近頃の王族は刺客を退けるために逆に隠密やら暗殺術を学ぶと聞く。その類いの技だな? 王女:あぁ、確かに王家直轄のアサシンから倣いましたわ。護身術。 魔王:ふはは、それは見事。しかし、斯様なところまでのこのこと来て何のようだ? 姫が、単身で。和平交渉のつもりか? 己の身を捧げる的な? 王女:身を捧げるだなんて、そんな……。燃えますわ! 魔王:は? : 0:間。 : 王女:あ、あら、私ったらはしたない! 魔王:…………。ふっ、だが甘いな、もう手遅れよ。 王女:手遅れ? 魔王:人と魔族の戦いは止められぬよ。 王女:そうなんですの? 魔王:ああ、貴様が何を考えようと、どちらかが滅びるまで終わらぬさ。 王女:終わらぬ戦い……。 魔王:くはは、無駄足だったな。王女シャーリー。とっとと失せよ。 王女:それは、どうして? 魔王:どうして戦いは終わらぬのか? そんな物は決まっている。これは我らが誇りの為の戦い。そして貴様らの見栄の為の戦いだからだ。最初は取るに足りない小競り合いから始まり、領土争い、文化闘争、宗教戦争にまで燃え広がった。何を信じ、何を守り、そしてその為に何を奪うのか。そんな物ももはや分からなくなるほどに加熱した復讐と憎悪の闘争の為の闘争。これはそういう類いの物だ。貴様とて王家の者なら分かるだろう? 王女:私は、私には、分かりません。 魔王:分からぬ? やれやれ、礼儀正しく聡いかと思えば愚鈍な小娘だったか。失せよ、見逃してやる。そしてさっさと勇者を連れてくるがよい。あーあ、勇者かと思ったのに。がっかりだ。 王女:勇者。 魔王:うん? 王女:勇者勇者って、今、勇者のことなど、どうでも良くありません? 魔王:え? 王女:勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者者勇者勇者勇者者勇者勇者勇者!! 魔王:ちょ、え、え? 王女:ここにいない勇者のなんかじゃ無くて今あなた様の目の前に居る私のことをもっとよくご覧になって下さいまし! 魔王様! 魔王:え、な、何だ? や、やる気か?! 王女:私、本気なんですの! 魔王:本気でこの戦いを止められると? 小娘一人に? っは! 思い上がるな! 王女:ぶっちゃけんなことどうでも良いですわ! 魔王:は? 王女:結婚して下さいませ! 魔王レイバーン・カルティス・テオ・パルマフロスト様! 魔王:結婚!? そ、それは政略結婚的なサムシングか! 王女:いいえ! 純粋にあなた様に一目惚れしたのですわ! 魔王:一目惚れって、其方と会ったのはこれが初めてであろう?! よもや扉を開けた瞬間に惚れたと申すか!? 王女:生で見たときに惚れ直したのは事実ですが、 魔王:事実なのか。 王女:ほら、運命のあの日に! 魔王:運命のあの日とは? 王女:宣戦布告の! 魔王:宣戦布告? 王女:王都の空に貴方様の幻影が浮かび上がったあの瞬間! 人と魔族の戦いが勃発したあの日あの時あの場所で! 同時に私の恋心も激しく燃え上がったのですわ! 魔王:つまり、あのホログラムに惚れたと? 王女:端的に申しますとそうですわ。ホレグラムですわ! 魔王:えー、知らんけど。……何この降ってわいたような唐突な局面。 王女:正に運命! 魔王:……それで遠路遥々、勇者はっ倒してここまで来たと? 王女:そうですわ。 魔王:そんな、馬鹿な。 王女:恋は人を愚かにさせる。けれど、人はそれを幸せというのです。 魔王:知らんけど。 王女:レイ様はまだ恋を知りませんの? 魔王:……わ、悪いか! あと気安くレイ様とか言うな! 王女:まぁ……! でしたら僭越ながら私が教えて差し上げますわ? 魔王:うるせぇ余計なお世話だ……! 王女:怖がらなくても、平気ですのよ。私も初めてですの。 魔王:……ははぁ。わかったぞ。これがじいやの言っていた色仕掛け、ハニートラップと言うやつか! 油断させて暗殺しようという腹か。近寄るな下郎め! 王女:あら! 魔王:くはは、恐ろしい女よ。しかし我にその手は―― : 0:王女、一瞬で魔王に接近する。 : 王女:ふふっ、私ったらはしたない。 魔王:なっ! この距離を一瞬で!? 王女:でも、レイ様がいけないんですのよ? 魔王:ち、近い! 離れい! 氷の息吹に巻かれて眠れ! 雪泥鴻爪! ホワイトアウト! 王女:ふふふふ! 幻想的な雪の芸術ですの、流石我が愛しの君、お見事……! 魔王:躱した!? そんな、あの距離なら必中の筈! 王女:残像ですわ。 魔王:残像?! 王女:そして、本物の私は――此方に。 魔王:……! 後ろ?! 王女:ふふふ、捕まえましたわ! 魔王:な、か、身体が動かぬ!? 王女:暴れても無駄です。 魔王:な、何をした?! 魔法、いや……。 王女:関節をしっかりキメていますので。 魔王:だよな! 魔法的な干渉を一切感じないもん! 王女:ふふふ、ああ、私の腕の中で藻掻くレイ様……! 素敵ですわ……! 魔王:ならば魔法で! 王女:暴れる姿も素敵ですが、あまり無茶はしない方が身のためですわ。 魔王:う、うるさい! 余諸共に氷漬けにするまで! 決して溶けることの無い戒めと、終わることの無い後悔の底に凍てつけ! 天牢雪獄! フロストエデン! 王女:ふふふ。 魔王:っ! 魔力が、出力できない……!? どうして! 王女:先程魔力の伝達を抑制する秘孔を突かせてもらいましたわ。しばらくの間、魔力はあなた様の言うことを聞きませんの。 魔王:何神拳なんだよ! 王女:アレクシア神拳ですわ。 魔王:ほんとにあるのかよ! 何者なんだ、貴様! 王女:知りたいですかレイ様。しっかりと名乗るのは少し恥ずかしいのですが、余すこと無く私のことを知って欲しい気持ちもありますのでお伝えしますわ。私は―― 王女:アレクシア王国第二王女シャルロッテ・リオナ・アレクシオン。アレクシア王国王位継承権第一位にして、武人序列特一位「拳聖」。二十七代目アレクシア神拳正当継承者でもありますが……そんな物は今となっては詮無いことですわ。 魔王:いや、なんかずらずらとヤバい単語が出てきてた気がするのだが……。 王女:でも! 今は貴方様の未来の妻となるべきただの一人の女ですわ。 魔王:何か知らんうちに嫁入りすることになってるが……! いや、こんなただの女いねぇよ! 王女:特別な女だなんて照れますわ! 魔王:格別にヤバい女じゃないか! 断る! 王女:まぁ! つれないですわ! そんなところも素敵! 魔王:ほざけ小娘! たとえ余がここで敗れても、この魂まで支配できると思わぬことだ! 余は魔王レイバーン・カルティス・テオ・パルマフロスト! 余は支配者! 誰にも我を従えることは出来ぬと知れ! 王女:痺れますわ! 旦那様! 魔王:誰が旦那様だ! 王女:ですが、 王女:「欲しいものは自らの手で掴み取れ」 魔王:は? 王女:王家とてそれは同じですわ。王としての権力で手に入らないならば、拳の力、拳力で力尽くでも勝ち取りなさい! これが我が国唯一絶対の教えですわ。 魔王:なにそのマッチョな思想。 王女:だから私は、我が国に宣戦布告をしてきたあなた様に惚れたのです。ただお顔が私好みの殿方だからというだけで無く。 魔王:……余はとんでもない地雷国家を踏んだのか。 王女:あれは私にとって宣戦布告などではありません。そう、正に愛の告白。 魔王:違うわ! 王女:だからこれは一目惚れなんですの。貴方のことを思う度、私、胸がときめいておかしくなってしまいそう。 魔王:元からおかしいに一票。 王女:そう、たぶん私は、おかしかったんですの。王国のどんな猛者共をぶちのめしても、先に生まれたくらいでマウント取ってくるお兄様お姉様をマウンティングでぶん殴っても、武人序列一位でどや顔した「拳王」のお父様をワンパンでのしても、女神如きに気に入られてはしゃいでる勇者のクソガキをひっぱたいて詫び入れさせても、この胸の鼓動はなんら弾まず、心拍数は常に一定、明鏡止水。ええ、きっと私は死ぬまでこうなのだと。なんら楽しみを感じること無く、ただ目の前に何も無い道を徒然に行く。そう、その筈でしたのに、ああ、なんてことなんですの……? あの日以来、私は変わってしまった。あの時、空にでかでかと浮かび上がった貴方の綺麗なお顔を、お声を思い出すだけで、私の錆び付いていた心臓は! 強く激しく熱く猛々しくそして得も言われない程に切なく狂おしく! 脈打ち、のたうち、高鳴った! あぁハレルヤ筋繊維! もう、この気持ちは、想いは、アドレナリンと共に押し寄せ募る恋心は! 押さえられませんの! ねぇレイ様? 聞こえるでしょう? 私の乳房の向こうから聞こえる命の歌が。あぁこれは喝采。祝福。貴方に出会えた歓喜そのもの! 強く強く抱きしめて、伝わる愛の告白。狂った心が筋肉が、清く正しくあるべき場所で、貴方を求めて動き始めたのです。レイ様レイ様レイ様レイ様! ああ、甘美なその名を口にする度、シャルロットはメルトダウンしてしまいそうですわ、うふ、うふふ、うふふふふふ! あぁ、レイ様? もう、良いですわよね? シャルロットはこれまで我慢してきました、でも、もう、もう耐えられません、辛抱できません、限界なのです、自分が自分じゃ無くなるみたいで、それがとっても心地良い。…………うふふ。 魔王:……い、いや、何をするつもりだ! 王女:さぁ、一緒に考えましょ? 魔王:よ、余の何がそんなに……! 王女:全てが。 魔王:や、やめろ、は、放せ! 放してくれ! 放して下さい! 悪かった、余が悪かったです、アレクシア王国との和平交渉でも、全面降伏でも、服従でも何でもするから許してください! お願い申しあげます! 王女:まぁ……! 私の為に何でもしてくれるんですの! でも残念ながら、それは取引になりません。 魔王:え? 王女:もうありませんもの。アレクシア王国なんて。 魔王:え? 何を言って……! 王女:だって私、国を出るときに全て滅ぼしましたの。 魔王:は? 王女:魔王に嫁ぐんですもの。全て捨て去る覚悟が必要だって思った……なんて言うと、綺麗に飾り過ぎていますわね。けじめ……、でもありませんわ。そう、もう、何もいらなかったんですの。王位も、王国も、何もかも。そう、貴方以外何も。この私の身体と、貴方に気に入って貰えそうな素敵なドレス、それとあの勇者から剥ぎ取った外套を着込んで貴方のもとにはせ参じたのです。あぁ、だから、ごめんなさい。私、嘘をついてしまいました。 魔王:うそ……? 王女:私は、ここに辿り着いたときにはもうアレクシア王国第二王女シャルロッテ・リオナ・アレクシオンではなく、やはりただのシャーリーだったのです。既に滅んだ家の名前を名乗るなんて未練がましいし、そんなの愛する貴方に失礼でしょう? 魔王:は、はは、 王女:ああ、そうですわ! 魔王:うぇ……? 王女:これで終わりなき戦争も無事終わったことですし、私だけを愛してくれますよね? 魔王:…………。 王女:うふふ、お慕い申しております、レイバーン・カルティス・テオ・パルマフロスト、我が愛しの旦那様。 魔王:あ、 王女:さぁ、楽にして下さい、貴方。二人だけの世界で、永遠の愛を誓いましょう。うふふふふふふふふふふふ――。 魔王:……あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――っ! : 0:◆◆◆◆