台本概要

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タイトル 引きこもり魔王と熱血勇者。
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 たった一人と衝突したくらいで世界は変わらないが、世界の見え方は変わるもの。

◆あらすじ◇
引きこもり魔王と熱血系の勇者が戸口でわちゃわちゃする話。

文字数約12,800字

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
勇者 147 ライリー・バニング・ブレイヴハート。 熱血系勇者。発言が物騒。脳筋っぽいが意外に計算高い。
魔王 144 グレゴール・サテナ・ウィルビウス。 引きこもり魔王。物静かなゲーマー。悪いことは特に何もしていない。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:引きこもり魔王と熱血勇者。 : 0:たった一人と衝突したくらいで世界は変わらないが、世界の見え方は変わるもの。 : 0:◆あらすじ◇ 0:引きこもり魔王と熱血系の勇者が戸口でわちゃわちゃする話。 : 0:◇登場人物◆ 勇者:ライリー・バニング・ブレイヴハート。 勇者:熱血系勇者。発言が物騒。脳筋っぽいが意外に計算高い。 魔王:グレゴール・サテナ・ウィルビウス。 魔王:引きこもり魔王。物静かなゲーマー。悪いことは特に何もしていない。 : 0:◇◆◇ : 0:魔王の城の最奥。 0:巨大な扉の前で勇者が気合いを入れている。 : 勇者:……すぅぅぅぅ。 勇者:うぉぉぉぉぉ! やるぞやるぞやるぞやるぞやるぞ! 勇者:魔王ぶっころーすっ!! : 0:間。 : 勇者:……よし。行くか。 : 0:勇者、扉に手を掛ける。 0:しかし開かない。 : 勇者:ん? んんん? こんにゃろ! 開け! 扉! 勇者であるあたしを! 拒むんじゃ! ない! ぞ! うぉぉぉぉっ! 勇者:はぁはぁ……! くそ! 何故開かん! 開けろー! 魔王! 卑怯だぞ! 出てこい! : 0:勇者、激しく扉を叩く。 : 勇者:こうなったら、我が必殺の勇猛爆拳《ダイナマイト・ブレイブ》で吹き飛ばすか? おーし。そうと決まればもっぺん気合い入れるか。 勇者:……すぅぅぅぅ。 勇者:うぉぉぉぉぉ! やるぞやるぞやるぞやるぞやるぞ! 勇者:魔王ぶっこ―― : 0:扉が横に滑り、開く。 : 魔王:あのぉ、人の家の前で叫ぶのやめてもらって良いですかぁ……? 勇者:うおっ!? まさかの横に開くタイプのドアだった!? 魔王:その、近所迷惑です。 勇者:はっはっは! ここで会ったが百年目! 神の名の下に今日こそ――! 魔王:あ、私、無神論者なので~、宗教のお誘いなら間に合ってます~。 勇者:宗教勧誘じゃない! 神って言ったけどそういうニュアンスじゃ無くて! 魔王:あ、紙ですか? 新聞も大丈夫です~、世の中にそんなに興味ありませんので。 勇者:新聞じゃねーし! てか世の中にくらいちっとは興味持てよ! テレビとか見ないの? 魔王:あー、はいはい分かりますよ~? うちゲーミングモニターはありますけど、はい、テレビは見れませんので~。 勇者:そういうアレじゃ無い! でもニュースとかドラマ気になんないの!? 魔王:ツイッターとアマプラで十分です~。 勇者:なんか炎上してる芸能人とかさ!? 連日見たくならない!? 魔王:いや~、なりませんね~、対岸の火事みたいな? ただ悪趣味だな~って思うだけですぅ~。 勇者:その発言、炎上しそうだけどな! 魔王:あー、消火器もいりませんね~。うちの家、完全防火仕様なのと自前で消せますのでお手を煩わせるほどのことでは~。 勇者:いや、家ってか城じゃね? 維持費とか高そう! 魔王:あー、そうですね~、投資もマンションも興味ないです~。 勇者:いや、だから営業じゃねぇって! こんなでっけぇ城に来てわざわざマンション売るか! こんなとこまで来た目的なんて一つだろうが! 魔王:何ですか? 白蟻駆除も水道トラブルもお祓いも必要ありません~。私この田舎の一軒家で静かに暮らしてたいだけなんです~。 勇者:そうは問屋がおろさねぇ! ここで会ったが百年目、だ! 魔王:な、何ですか? 勇者:大人しくあたしの拳で砕け散れ! 魔王:うわぁ、物騒だなぁ。えーっと、僕にいきなり殴られる謂われは無いと思うのですが、あのぉ……ところであなたはどちら様でしょうか? やっぱりセールスの方ですか……? 勇者:ちげぇって言ってんだろ! 魔王:違うんですね、仕事じゃ無くて趣味で嫌がらせに……。うわぁ、ドン引きですね。 勇者:趣味じゃねぇ使命だ! あたしには皆の幸せのために戦う使命があんだよ! 魔王:誰も求めて無いと思うのですが、皆って誰ですか? 少なくとも僕は迷惑です~。 勇者:お前の迷惑なんて知ったことか! 魔王:開き直られちゃった……。というか、あなた、誰なんですか……? この辺の人じゃ無いですよね? 勇者:あたしが誰かって? そんなもの、勇者に決まっているだろう! 魔王:……はぁ。……ゆ? ゆう、えーと、勇者? さん? っていうんですか、はぁ~……。 勇者:そうだ! あたしはライリー・バニング・ブレイヴハート! 人はあたしを爆炎の勇者と呼ぶ! さぁ魔王大人しく爆散するがいい! 魔王:爆散に大人しさとか皆無でしょうよ! 勇者:じゃあ、荼毘に付せ。 魔王:確かに大人しい感じするけども、その台詞は勇者としてどうなのでしょう……? 勇者:地味だな! だから適当に爆ぜろ! 魔王:雑だなぁ、暑苦しいなぁ、苦手だなぁ。はぁ。……それであのぉ、ライリーさん? ここで会ったが百年目とか言ってましたが、どこかでお会いしましたか……? 勇者:いや、初めましてだ! 遠路遥々来てやったぞ魔王! 感謝しろ! そして観念するが良い! : 0:間。 : 勇者:おい! 魔王:え? あ、私のことですか? 勇者:お前以外に誰がいる! 極悪非道の魔王! 魔王:…………えっと、ま、魔王? って、その、何のことですかぁ? 勇者:何? 魔王:し、知らないなぁ~……? 勇者:お前、何を言ってるんだ! お前が魔王だろう! 魔王:ひ、人違いじゃないですか? 勇者:人違いだと? 魔王:は、はい、わ、私、魔王じゃありませんよぉ? 勇者:確かに魔王にしては、思いの外、威圧感も威厳も無いし貧相で弱そうだが? 魔王:ほっといてくれません? 勇者:ううん? でも住所は間違いなくここなんだよな……。 魔王:さ、さぁ? 桁とか間違えてるんじゃ無いですか……? それか一つ隣の谷とか。 勇者:そんな筈は! ……おい、お前、ここには他には誰も居ないのか? 魔王:え、えっと、ここには、私一人で住んでますのですので、えーっと、はい。 勇者:一人暮らし? 魔王:あー、ええ、残念ですが……魔王? はいませんね~。 勇者:ほんとか? 嘘ついたらぶん殴るぞ? 魔王:怖っ……。最近の勇者怖っ……。 勇者:最近の、勇者? 魔王:あ、いえ、あの、と、とにかくこの辺に貴方が探してる魔王? 極悪非道の誰かさんはたぶん、いないと思うので、……目の以外には。 勇者:目の前? 魔王:い、いえ。その~、えっと~お引き取りください~。……息とか。 勇者:おいお前! 魔王:うひゃ!? ま、まだ何か……? 勇者:なんでそんなに戻りたがってるんだ? もしかして? 魔王:もしかして……? 勇者:何か隠してるんじゃないのか! 魔王:はは、嫌だなぁ~……何かって何ですか? 勇者:魔王とか! 魔王:……ははは、魔王? ……僕は早く戻ってゲームしたいだけですよ~。 勇者:ゲーム? それは死のゲーム的な? 魔王:そんな参加者集めてさぁ殺し合え。みたいなことしませんよ……。マイクラです。 勇者:あー、はいはい! あのちまちましたやつな。あたしぶっ壊す方が得意だからやったこと無いわー! 魔王:でしょうね。 勇者:ふーん? 家とか作ったりしてるんだな? 魔王:そうですね。 勇者:あと街とか。 魔王:そうなんですよ、凝り始めると止まらなくって。 勇者:で、国とか作る訳だ。 魔王:そうですね、プレイ時間が四桁台に突入するともはや国と言って差し支えないかもです。 勇者:へー、すげーなー! 魔王:ははは、それ程でも……! 勇者:やっぱり本能というか、血が騒ぐみたいなとこあるのかもな~。あたしもほら、勇者だから格ゲーとかめっちゃ凝るし! ストリートファイター大好き。 魔王:あーはいはい、分かります、それで言うと僕って何か作ったりするの性に合ってるのかなぁ? 勇者:あ! あと、あれも好きだろ? 魔王:あれって? 勇者:信長の野望。 魔王:めっちゃ好きですよ~! 僕、職業柄シミュレーションゲームとか、ストラテジーゲーム好きなんですけど、やっぱ一番は信長の野望かな~、こう見えて歴史とかも好きで、あり得たかも知れない、イフの合戦とか、相見えることの無かったあの人物とあの人物との運命の出会い。はー、燃えますよねぇ……! あ、久しぶりにやろうかな……! 信長の野望! 勇者:ふーん、あ。ところでお前、信長は好き? 魔王:好きですよー! もちろん! 勇者:もちろん、ね。 魔王:だって、かっこいいじゃ無いですか! 勇者:そうだよなー? うんうん。 魔王:それになんたって―― 勇者:へー、なんたって? 魔王:第六天魔王! 勇者:第六天魔王。 : 0:間。 : 魔王:っは……! 勇者:魔王、だもんな? 魔王:ま、まぁ、そうですね、戦国時代のイノベーター。い、良いですよね~、織田信長……、さ、さーて、久しぶりに信長の野望でもやろうかなぁ? では、そういうことで! 勇者:おい! 魔王:……はい? 勇者:お前、魔王だろ? 魔王:ま、……何のことでしょう……? 分からないなぁ。 勇者:マイクラ好きで街とか国作ったりシミュレーションゲームやらストラテジーゲームちまちまやって信長の野望にどハマりしながら織田信長にシンパシー感じてるやつなんてもう魔王だろ! 魔王:すごい偏見!? い、いやいや、もう! 何言ってるんですか? あはは~。 勇者:あ、ところで、お前クラシック好き? 魔王:な、何ですかおもむろに。 勇者:うんうん。シューベルト好き? 魔王:す、好きですけど? 勇者:うんうん。何好き? 魔王:魔……笛は、モーツァルトでしたっけ? あははー、異世界の音楽ってこの世界のどの国の物とも違うから音楽家混ざっちゃうよねぇ~! 勇者:ふうん? 魔王:……なんて。 勇者:あーそうそう、お前に土産持ってきたんだった。 魔王:土産……? 勇者:ほら、芋焼酎。 魔王:うわ! なにそれ、どっから出してんの!? 勇者:さぁ? 異次元的な? 魔王:異次元……。 勇者:ま、知らねぇけど、なんか感覚で。 魔王:……これ、何。 勇者:魔王。 魔王:いや、異界の酒おもむろに渡されても……。 勇者:美味いんだぜ? 魔王:……下戸なのでいらないです。 勇者:あれ? ……呑めない感じか? 魔王:ああ、まぁ。 勇者:はぁー、そっかー、それは魔王っぽく無いな~。魔王なら、その場で開けて飲み干すかと思ったんだが。 魔王:いや、何その魔王観。 勇者:良い感じに酔っ払ったところをぶちのめしてやるつもりだったのになぁ。 魔王:なにそのえげつない戦法!? 勇者:この酒作ってる異界の国に古くから伝わる由緒正しきドラゴン退治の定石。 魔王:マジかぁ。……異世界こわっ。 勇者:はぁ、でも呑めないのか~……ってことはほんとに魔王じゃ無い感じ? : 0:間。 : 魔王:…………そっすね。 勇者:え、なに今の間。やっぱお前魔王? 取り敢えず殺しとくか。 魔王:と、取り敢えずで殺さないでくれます?! 勇者:えー? でもよく言うじゃん? 殺らぬ後悔より殺る後悔。 魔王:やっちまったら取り返しつきませんけど!? 勇者:でもよ、殺らぬ善より殺る善っていうじゃん? 魔王:言わんわ! 殺すだけしか出来ないのかあんたは!? 勇者:いや、殺すことで、救える命もあるんだよ。 魔王:それっぽく聞こえるけど、短絡的な殺意だろ。思考停止だろ! 勇者:はぁ? あたしは誰にも止められねぇから! 魔王:止まれ! 頼む、止まれ! 勇者:え……? 泊まっていけだなんて、そんな急に言われてもあたし心の準備が……。 魔王:ぶっ殺す心の準備できてるくせにお泊まり拒否ってどんな精神構造してんだよ! 違うわ! 一旦止まって考えろって言ってんの! 世界のためにもさぁ。 勇者:世界の為って、でもよ、これでもしお前が魔王だったら、世界大変なことになるじゃん? それってあたしの責任じゃん? だったらやっぱ疑わしきは粛清がベストじゃね? 魔王:それある意味魔王よりもえげつない独裁者だわ! 勇者:はぁ? 正義の為に振るわれる暴力は許容されるんだよ? そんなことも知らねぇの? 魔王:知りたくねぇよ! 魔王が言うのも何だけどその発想一番ヤバいやつだから! 勇者:ヤバくねぇし! ……てか、今―― 魔王:あ! そういえばなんで魔王倒したいんですかねぇ?! 素晴らしい勇者の中の勇者ライリー! 勇者:は? いきなり褒めんなよ、嬉しくなっちまうじゃん。でも何でってお前、さっき言っただろ? みんなのためだって! 取り敢えず魔王ぶっ殺しゃぁなんか良い感じにぱーっと良くなんだよ! 世の中全部がさ! 魔王:なんか理由ふわっとしてるぅ~。 勇者:そりゃ、勇者ってのは子供達の憧れの的だからな。ふわふわでキラキラなんだよ! 魔王:ふわふわキラキラ子供達の憧れが殺らぬ後悔より殺る後悔、疑わしきは粛清、正義の為に振るわれる暴力万歳なんて言わねぇだろうが! 勇者:言っちゃうんだなぁこれが。 魔王:ほんっと! ほんっと、頭ん中ふわふわでキラキラのポンコツ共に憎悪の的にされるのほんと不条理! 勇者:そう、この世の不条理と戦うのが勇者だ! 魔王:お前な! 不条理、お前な! てか、なるわけ無いじゃないですかぁ! 勇者:なるかも知れないじゃん。 魔王:ならねぇって。たった一人この世界から排除したら世界救われる? いやいや、そんなやついませんよ。 勇者:いる! 魔王は悪の軍勢のてっぺんだ! 頭潰せば全部解決だろう?! 魔王:いや、不良の理屈でももうちょっと複雑でしょうよ? だいたい、魔王の代わりなんていっぱい居るんですよ。倒しても正味意味ないですって。そりゃあ、魔王がなんか面倒くさいことに魔族束ねちゃったりしてるのは事実ですし? その魔族の中には気性の荒い連中がいて、小競り合いしたり、生きるために村とか襲ったりしてるかもですよ? 勇者:そうだ! あたしの故郷は魔族に襲われて、あたしが血祭りにしたんだ! 魔王:それはご愁傷様ですけど、でもそれって人間の盗賊と同じじゃ無いですか? それまでひっくるめて悪……というか、さりげに返り討ちにしてないですか? 勇者:あたしってば強いから。 魔王:……はぁ。さておき、そいつらは悪い奴らだとして、一部のはみ出し者を含む、その種族の頭張ってるから諸悪の根源? いやいや、ふざけんなよと。あぁ、魔王の僕殺したら世界救われるとか、僕ってそんなに大きな存在だったんですね! 城に引きこもってゲームやってるだけのニートなのに! って感じなんですけど! それは草生えますわ! 勇者:お前今「魔王の僕殺したら」って言った? 魔王:…………。 勇者:おい。何とか言えよ。 魔王:はは、は。 勇者:何笑ってるんだ? おぉん? 魔王:あ、いえ~、私魔王じゃありません~! 勇者:いや、でもあたしは確かに聞いたぞ。 魔王:こいつ、なんで脳筋のくせにさっきから変なところで智恵回ったり察しが良いんだ……!? 勇者:何か言ったか? 魔王:そしてこれは聞こえてねぇのかよ! どんな耳してんだ! 勇者:お、このピアス良いだろ? パリオースの街で買ったんだ~! 魔王:……良いっすね! 勇者:で、魔王。 魔王:あ、え~っと、あ~、はは。魔王~、あ! 勇者:あ? 魔王:そう、あまおうです~! 勇者:あまおう? 何だそれ。 魔王:私、あまおうっていうんです~! 勇者:名前か? 魔王:そうそう! かわいいでしょ~? そ、それでつい反応しちゃって~、みたいな~! ふふっ? 勇者:いや、可愛いって言うか、なんか、キモいな。 魔王:うるせぇ。 勇者:じゃぁ、やっぱり魔王じゃ無いのか? それとも魔王なのか? どっちなんだ? 魔王:魔王じゃ無くてあまおうです。 勇者:へー。 魔王:あ、えっと、だから、ね? 勇者:ね? ってなんだよ。 魔王:帰ってください。 勇者:は? 魔王:僕、何も悪いことしてませんし、ゲームしたいだけなので~! 勇者:それはお前の都合だろ。 魔王:みんなそれぞれみんなの都合で生きてるんですよ! 勇者:ほーん、それもそうか。 魔王:でしょ!? じゃあ! さよなら! 勇者さん! : 0:魔王、扉を閉じようとする。 0:勇者、扉をこじ開けようとする。 : 勇者:あ! おいこら待ちやがれ! 魔王! 魔王:待ちませんよ! 僕はあまおうですからぁ! 勇者:なめんなや! そんなんで騙されるわけねぇだろうがよ! 魔王:あ! この勇者扉に靴滑り込ましてきてるぅ! 勇者:こちとら勇者だぞ? 荒事にゃぁ慣れてんだよ! 魔王:嫌な勇者ぁ! 勇者:てめぇ! 開けねぇとぶっ殺すぞ! 魔王:開けてもぶっ殺すつもりでしょうよ! 勇者:たりめぇだ! 魔王:無茶苦茶だ! 勇者:無茶苦茶にしてやんよ! 魔王! 魔王:何なのこの勇者! 勇者:あたしは爆炎の勇者ライリー・バニング・ブレイヴハートだぁ! 魔王:うるせぇ! 暑苦しい! もう嫌だぁ! 勇者:大人しくしやがれ! 魔王:お前がなぁ! 勇者:往生際が悪いぞ魔王ゼビオラぁ! 魔王:誰ですかそれぇ! 勇者:お前の名前だろうがしらばっくれるなぁ! 魔王:だから知らないって! 勇者:はぁ!? んな訳ねぇだろ! ゼビオラ・ゲフィオナ・アーテラウ! 魔王:いや! 僕の名前グレゴール・サテナ・ウィルビウスですし! 勇者:え! 魔王:え? : 0:間。 : 勇者:違うの? 魔王ゼビオラ・ゲフィオナ・アーテラウじゃないの? 魔王:いや、僕は魔王グレゴール・サテナ・ウィルビウス、です。 勇者:そ、そんな!? 偽名で誤魔化そうったって――! 魔王:魔王ゼビオラ・ゲフィオナ・アーテラウって、それ、マジで隣の谷の魔王じゃないですか? 勇者:ちょちょちょ! え? え? どういうこと? 魔王:どういうことって、人違いだってことですよ。人というか魔王? 勇者:魔王違い……? そんな馬鹿な! 魔王がそんなにいっぱい居てたまるか! 魔王:いるいる。死ぬほどいる。 勇者:は? 魔王:さっき言いませんでした? 魔王の代わりなんていっぱい居るんですよ。 勇者:えぇ!? それそのまんまの意味なの!? 魔王:そうですが? 勇者:え、じゃあ? 世界を征服したり滅ぼそうとしたりとか……? 魔王:しませんよ。んな暇あったらゲームしますねぇ。 勇者:ぶっ倒したら世界は? 魔王:救われませんよ。僕、魔王だけどマジでゲームの片手間で領地の運営しかしてませんし。 勇者:信長の野望的な? 魔王:いや、シムシティ。 勇者:無駄足! 魔王:おい、人んち土足で踏み込んどいて随分な言い様だなぁ! 勇者:えー……、すんませんした。 魔王:はぁ……。別に良いですけど……。 勇者:そっかー。助かるわぁ。 魔王:こちらは助かりませんよ……。 勇者:あの、ところで。 魔王:ところで? 勇者:ここに来るまでに食料とか食べ尽くしちゃって……。 魔王:片道分しか持たないとか死ぬ気だったんですか? 勇者:いや、魔王の城から奪って帰れば良いかなって。 魔王:逞しいなぁ! 勇者:勇者だからな! 魔王:はぁ。それで、食料分けろって? 勇者:あと、泊めて! 魔王:心の準備のやりとり何だったんですか。 勇者:あたしの心は疲れ切ってもうへとへとなんだ! 魔王:こっちの台詞だ! 勇者:お願い! 助けて魔王さん! 魔王:はぁ、最近の勇者マジ何なんだろう……。 勇者:な、何でもするから! 魔王:何でも……? はぁ。 : 0:魔王、部屋に戻る。 : 魔王:おい、勇者。あなた何やってるんですか? 勇者:な、何って……? 魔王:泊まるんだろ? ついて来い。 勇者:え、良いの? 魔王:あ。でも今夜は寝かせませんよ? 勇者:え、そ、それって……? 魔王:やるんですよ、一緒に、 勇者:一緒に、何を……? 魔王:僕とあなたでやることなんて、決まってるでしょ? 勇者:……え、えっと、 魔王:好きなんでしょ。ストリートファイター、やりますよ? 勇者:……! うん! 魔王:ふっふっふ、僕のガイルが唸りますね。 勇者:ははは! あたしのダルシムが火を吹くぜ! 魔王:いや、ダルシムは大体火吹くでしょ。 勇者:それもそうか! 魔王:全く、最近の勇者は。 :

0:引きこもり魔王と熱血勇者。 : 0:たった一人と衝突したくらいで世界は変わらないが、世界の見え方は変わるもの。 : 0:◆あらすじ◇ 0:引きこもり魔王と熱血系の勇者が戸口でわちゃわちゃする話。 : 0:◇登場人物◆ 勇者:ライリー・バニング・ブレイヴハート。 勇者:熱血系勇者。発言が物騒。脳筋っぽいが意外に計算高い。 魔王:グレゴール・サテナ・ウィルビウス。 魔王:引きこもり魔王。物静かなゲーマー。悪いことは特に何もしていない。 : 0:◇◆◇ : 0:魔王の城の最奥。 0:巨大な扉の前で勇者が気合いを入れている。 : 勇者:……すぅぅぅぅ。 勇者:うぉぉぉぉぉ! やるぞやるぞやるぞやるぞやるぞ! 勇者:魔王ぶっころーすっ!! : 0:間。 : 勇者:……よし。行くか。 : 0:勇者、扉に手を掛ける。 0:しかし開かない。 : 勇者:ん? んんん? こんにゃろ! 開け! 扉! 勇者であるあたしを! 拒むんじゃ! ない! ぞ! うぉぉぉぉっ! 勇者:はぁはぁ……! くそ! 何故開かん! 開けろー! 魔王! 卑怯だぞ! 出てこい! : 0:勇者、激しく扉を叩く。 : 勇者:こうなったら、我が必殺の勇猛爆拳《ダイナマイト・ブレイブ》で吹き飛ばすか? おーし。そうと決まればもっぺん気合い入れるか。 勇者:……すぅぅぅぅ。 勇者:うぉぉぉぉぉ! やるぞやるぞやるぞやるぞやるぞ! 勇者:魔王ぶっこ―― : 0:扉が横に滑り、開く。 : 魔王:あのぉ、人の家の前で叫ぶのやめてもらって良いですかぁ……? 勇者:うおっ!? まさかの横に開くタイプのドアだった!? 魔王:その、近所迷惑です。 勇者:はっはっは! ここで会ったが百年目! 神の名の下に今日こそ――! 魔王:あ、私、無神論者なので~、宗教のお誘いなら間に合ってます~。 勇者:宗教勧誘じゃない! 神って言ったけどそういうニュアンスじゃ無くて! 魔王:あ、紙ですか? 新聞も大丈夫です~、世の中にそんなに興味ありませんので。 勇者:新聞じゃねーし! てか世の中にくらいちっとは興味持てよ! テレビとか見ないの? 魔王:あー、はいはい分かりますよ~? うちゲーミングモニターはありますけど、はい、テレビは見れませんので~。 勇者:そういうアレじゃ無い! でもニュースとかドラマ気になんないの!? 魔王:ツイッターとアマプラで十分です~。 勇者:なんか炎上してる芸能人とかさ!? 連日見たくならない!? 魔王:いや~、なりませんね~、対岸の火事みたいな? ただ悪趣味だな~って思うだけですぅ~。 勇者:その発言、炎上しそうだけどな! 魔王:あー、消火器もいりませんね~。うちの家、完全防火仕様なのと自前で消せますのでお手を煩わせるほどのことでは~。 勇者:いや、家ってか城じゃね? 維持費とか高そう! 魔王:あー、そうですね~、投資もマンションも興味ないです~。 勇者:いや、だから営業じゃねぇって! こんなでっけぇ城に来てわざわざマンション売るか! こんなとこまで来た目的なんて一つだろうが! 魔王:何ですか? 白蟻駆除も水道トラブルもお祓いも必要ありません~。私この田舎の一軒家で静かに暮らしてたいだけなんです~。 勇者:そうは問屋がおろさねぇ! ここで会ったが百年目、だ! 魔王:な、何ですか? 勇者:大人しくあたしの拳で砕け散れ! 魔王:うわぁ、物騒だなぁ。えーっと、僕にいきなり殴られる謂われは無いと思うのですが、あのぉ……ところであなたはどちら様でしょうか? やっぱりセールスの方ですか……? 勇者:ちげぇって言ってんだろ! 魔王:違うんですね、仕事じゃ無くて趣味で嫌がらせに……。うわぁ、ドン引きですね。 勇者:趣味じゃねぇ使命だ! あたしには皆の幸せのために戦う使命があんだよ! 魔王:誰も求めて無いと思うのですが、皆って誰ですか? 少なくとも僕は迷惑です~。 勇者:お前の迷惑なんて知ったことか! 魔王:開き直られちゃった……。というか、あなた、誰なんですか……? この辺の人じゃ無いですよね? 勇者:あたしが誰かって? そんなもの、勇者に決まっているだろう! 魔王:……はぁ。……ゆ? ゆう、えーと、勇者? さん? っていうんですか、はぁ~……。 勇者:そうだ! あたしはライリー・バニング・ブレイヴハート! 人はあたしを爆炎の勇者と呼ぶ! さぁ魔王大人しく爆散するがいい! 魔王:爆散に大人しさとか皆無でしょうよ! 勇者:じゃあ、荼毘に付せ。 魔王:確かに大人しい感じするけども、その台詞は勇者としてどうなのでしょう……? 勇者:地味だな! だから適当に爆ぜろ! 魔王:雑だなぁ、暑苦しいなぁ、苦手だなぁ。はぁ。……それであのぉ、ライリーさん? ここで会ったが百年目とか言ってましたが、どこかでお会いしましたか……? 勇者:いや、初めましてだ! 遠路遥々来てやったぞ魔王! 感謝しろ! そして観念するが良い! : 0:間。 : 勇者:おい! 魔王:え? あ、私のことですか? 勇者:お前以外に誰がいる! 極悪非道の魔王! 魔王:…………えっと、ま、魔王? って、その、何のことですかぁ? 勇者:何? 魔王:し、知らないなぁ~……? 勇者:お前、何を言ってるんだ! お前が魔王だろう! 魔王:ひ、人違いじゃないですか? 勇者:人違いだと? 魔王:は、はい、わ、私、魔王じゃありませんよぉ? 勇者:確かに魔王にしては、思いの外、威圧感も威厳も無いし貧相で弱そうだが? 魔王:ほっといてくれません? 勇者:ううん? でも住所は間違いなくここなんだよな……。 魔王:さ、さぁ? 桁とか間違えてるんじゃ無いですか……? それか一つ隣の谷とか。 勇者:そんな筈は! ……おい、お前、ここには他には誰も居ないのか? 魔王:え、えっと、ここには、私一人で住んでますのですので、えーっと、はい。 勇者:一人暮らし? 魔王:あー、ええ、残念ですが……魔王? はいませんね~。 勇者:ほんとか? 嘘ついたらぶん殴るぞ? 魔王:怖っ……。最近の勇者怖っ……。 勇者:最近の、勇者? 魔王:あ、いえ、あの、と、とにかくこの辺に貴方が探してる魔王? 極悪非道の誰かさんはたぶん、いないと思うので、……目の以外には。 勇者:目の前? 魔王:い、いえ。その~、えっと~お引き取りください~。……息とか。 勇者:おいお前! 魔王:うひゃ!? ま、まだ何か……? 勇者:なんでそんなに戻りたがってるんだ? もしかして? 魔王:もしかして……? 勇者:何か隠してるんじゃないのか! 魔王:はは、嫌だなぁ~……何かって何ですか? 勇者:魔王とか! 魔王:……ははは、魔王? ……僕は早く戻ってゲームしたいだけですよ~。 勇者:ゲーム? それは死のゲーム的な? 魔王:そんな参加者集めてさぁ殺し合え。みたいなことしませんよ……。マイクラです。 勇者:あー、はいはい! あのちまちましたやつな。あたしぶっ壊す方が得意だからやったこと無いわー! 魔王:でしょうね。 勇者:ふーん? 家とか作ったりしてるんだな? 魔王:そうですね。 勇者:あと街とか。 魔王:そうなんですよ、凝り始めると止まらなくって。 勇者:で、国とか作る訳だ。 魔王:そうですね、プレイ時間が四桁台に突入するともはや国と言って差し支えないかもです。 勇者:へー、すげーなー! 魔王:ははは、それ程でも……! 勇者:やっぱり本能というか、血が騒ぐみたいなとこあるのかもな~。あたしもほら、勇者だから格ゲーとかめっちゃ凝るし! ストリートファイター大好き。 魔王:あーはいはい、分かります、それで言うと僕って何か作ったりするの性に合ってるのかなぁ? 勇者:あ! あと、あれも好きだろ? 魔王:あれって? 勇者:信長の野望。 魔王:めっちゃ好きですよ~! 僕、職業柄シミュレーションゲームとか、ストラテジーゲーム好きなんですけど、やっぱ一番は信長の野望かな~、こう見えて歴史とかも好きで、あり得たかも知れない、イフの合戦とか、相見えることの無かったあの人物とあの人物との運命の出会い。はー、燃えますよねぇ……! あ、久しぶりにやろうかな……! 信長の野望! 勇者:ふーん、あ。ところでお前、信長は好き? 魔王:好きですよー! もちろん! 勇者:もちろん、ね。 魔王:だって、かっこいいじゃ無いですか! 勇者:そうだよなー? うんうん。 魔王:それになんたって―― 勇者:へー、なんたって? 魔王:第六天魔王! 勇者:第六天魔王。 : 0:間。 : 魔王:っは……! 勇者:魔王、だもんな? 魔王:ま、まぁ、そうですね、戦国時代のイノベーター。い、良いですよね~、織田信長……、さ、さーて、久しぶりに信長の野望でもやろうかなぁ? では、そういうことで! 勇者:おい! 魔王:……はい? 勇者:お前、魔王だろ? 魔王:ま、……何のことでしょう……? 分からないなぁ。 勇者:マイクラ好きで街とか国作ったりシミュレーションゲームやらストラテジーゲームちまちまやって信長の野望にどハマりしながら織田信長にシンパシー感じてるやつなんてもう魔王だろ! 魔王:すごい偏見!? い、いやいや、もう! 何言ってるんですか? あはは~。 勇者:あ、ところで、お前クラシック好き? 魔王:な、何ですかおもむろに。 勇者:うんうん。シューベルト好き? 魔王:す、好きですけど? 勇者:うんうん。何好き? 魔王:魔……笛は、モーツァルトでしたっけ? あははー、異世界の音楽ってこの世界のどの国の物とも違うから音楽家混ざっちゃうよねぇ~! 勇者:ふうん? 魔王:……なんて。 勇者:あーそうそう、お前に土産持ってきたんだった。 魔王:土産……? 勇者:ほら、芋焼酎。 魔王:うわ! なにそれ、どっから出してんの!? 勇者:さぁ? 異次元的な? 魔王:異次元……。 勇者:ま、知らねぇけど、なんか感覚で。 魔王:……これ、何。 勇者:魔王。 魔王:いや、異界の酒おもむろに渡されても……。 勇者:美味いんだぜ? 魔王:……下戸なのでいらないです。 勇者:あれ? ……呑めない感じか? 魔王:ああ、まぁ。 勇者:はぁー、そっかー、それは魔王っぽく無いな~。魔王なら、その場で開けて飲み干すかと思ったんだが。 魔王:いや、何その魔王観。 勇者:良い感じに酔っ払ったところをぶちのめしてやるつもりだったのになぁ。 魔王:なにそのえげつない戦法!? 勇者:この酒作ってる異界の国に古くから伝わる由緒正しきドラゴン退治の定石。 魔王:マジかぁ。……異世界こわっ。 勇者:はぁ、でも呑めないのか~……ってことはほんとに魔王じゃ無い感じ? : 0:間。 : 魔王:…………そっすね。 勇者:え、なに今の間。やっぱお前魔王? 取り敢えず殺しとくか。 魔王:と、取り敢えずで殺さないでくれます?! 勇者:えー? でもよく言うじゃん? 殺らぬ後悔より殺る後悔。 魔王:やっちまったら取り返しつきませんけど!? 勇者:でもよ、殺らぬ善より殺る善っていうじゃん? 魔王:言わんわ! 殺すだけしか出来ないのかあんたは!? 勇者:いや、殺すことで、救える命もあるんだよ。 魔王:それっぽく聞こえるけど、短絡的な殺意だろ。思考停止だろ! 勇者:はぁ? あたしは誰にも止められねぇから! 魔王:止まれ! 頼む、止まれ! 勇者:え……? 泊まっていけだなんて、そんな急に言われてもあたし心の準備が……。 魔王:ぶっ殺す心の準備できてるくせにお泊まり拒否ってどんな精神構造してんだよ! 違うわ! 一旦止まって考えろって言ってんの! 世界のためにもさぁ。 勇者:世界の為って、でもよ、これでもしお前が魔王だったら、世界大変なことになるじゃん? それってあたしの責任じゃん? だったらやっぱ疑わしきは粛清がベストじゃね? 魔王:それある意味魔王よりもえげつない独裁者だわ! 勇者:はぁ? 正義の為に振るわれる暴力は許容されるんだよ? そんなことも知らねぇの? 魔王:知りたくねぇよ! 魔王が言うのも何だけどその発想一番ヤバいやつだから! 勇者:ヤバくねぇし! ……てか、今―― 魔王:あ! そういえばなんで魔王倒したいんですかねぇ?! 素晴らしい勇者の中の勇者ライリー! 勇者:は? いきなり褒めんなよ、嬉しくなっちまうじゃん。でも何でってお前、さっき言っただろ? みんなのためだって! 取り敢えず魔王ぶっ殺しゃぁなんか良い感じにぱーっと良くなんだよ! 世の中全部がさ! 魔王:なんか理由ふわっとしてるぅ~。 勇者:そりゃ、勇者ってのは子供達の憧れの的だからな。ふわふわでキラキラなんだよ! 魔王:ふわふわキラキラ子供達の憧れが殺らぬ後悔より殺る後悔、疑わしきは粛清、正義の為に振るわれる暴力万歳なんて言わねぇだろうが! 勇者:言っちゃうんだなぁこれが。 魔王:ほんっと! ほんっと、頭ん中ふわふわでキラキラのポンコツ共に憎悪の的にされるのほんと不条理! 勇者:そう、この世の不条理と戦うのが勇者だ! 魔王:お前な! 不条理、お前な! てか、なるわけ無いじゃないですかぁ! 勇者:なるかも知れないじゃん。 魔王:ならねぇって。たった一人この世界から排除したら世界救われる? いやいや、そんなやついませんよ。 勇者:いる! 魔王は悪の軍勢のてっぺんだ! 頭潰せば全部解決だろう?! 魔王:いや、不良の理屈でももうちょっと複雑でしょうよ? だいたい、魔王の代わりなんていっぱい居るんですよ。倒しても正味意味ないですって。そりゃあ、魔王がなんか面倒くさいことに魔族束ねちゃったりしてるのは事実ですし? その魔族の中には気性の荒い連中がいて、小競り合いしたり、生きるために村とか襲ったりしてるかもですよ? 勇者:そうだ! あたしの故郷は魔族に襲われて、あたしが血祭りにしたんだ! 魔王:それはご愁傷様ですけど、でもそれって人間の盗賊と同じじゃ無いですか? それまでひっくるめて悪……というか、さりげに返り討ちにしてないですか? 勇者:あたしってば強いから。 魔王:……はぁ。さておき、そいつらは悪い奴らだとして、一部のはみ出し者を含む、その種族の頭張ってるから諸悪の根源? いやいや、ふざけんなよと。あぁ、魔王の僕殺したら世界救われるとか、僕ってそんなに大きな存在だったんですね! 城に引きこもってゲームやってるだけのニートなのに! って感じなんですけど! それは草生えますわ! 勇者:お前今「魔王の僕殺したら」って言った? 魔王:…………。 勇者:おい。何とか言えよ。 魔王:はは、は。 勇者:何笑ってるんだ? おぉん? 魔王:あ、いえ~、私魔王じゃありません~! 勇者:いや、でもあたしは確かに聞いたぞ。 魔王:こいつ、なんで脳筋のくせにさっきから変なところで智恵回ったり察しが良いんだ……!? 勇者:何か言ったか? 魔王:そしてこれは聞こえてねぇのかよ! どんな耳してんだ! 勇者:お、このピアス良いだろ? パリオースの街で買ったんだ~! 魔王:……良いっすね! 勇者:で、魔王。 魔王:あ、え~っと、あ~、はは。魔王~、あ! 勇者:あ? 魔王:そう、あまおうです~! 勇者:あまおう? 何だそれ。 魔王:私、あまおうっていうんです~! 勇者:名前か? 魔王:そうそう! かわいいでしょ~? そ、それでつい反応しちゃって~、みたいな~! ふふっ? 勇者:いや、可愛いって言うか、なんか、キモいな。 魔王:うるせぇ。 勇者:じゃぁ、やっぱり魔王じゃ無いのか? それとも魔王なのか? どっちなんだ? 魔王:魔王じゃ無くてあまおうです。 勇者:へー。 魔王:あ、えっと、だから、ね? 勇者:ね? ってなんだよ。 魔王:帰ってください。 勇者:は? 魔王:僕、何も悪いことしてませんし、ゲームしたいだけなので~! 勇者:それはお前の都合だろ。 魔王:みんなそれぞれみんなの都合で生きてるんですよ! 勇者:ほーん、それもそうか。 魔王:でしょ!? じゃあ! さよなら! 勇者さん! : 0:魔王、扉を閉じようとする。 0:勇者、扉をこじ開けようとする。 : 勇者:あ! おいこら待ちやがれ! 魔王! 魔王:待ちませんよ! 僕はあまおうですからぁ! 勇者:なめんなや! そんなんで騙されるわけねぇだろうがよ! 魔王:あ! この勇者扉に靴滑り込ましてきてるぅ! 勇者:こちとら勇者だぞ? 荒事にゃぁ慣れてんだよ! 魔王:嫌な勇者ぁ! 勇者:てめぇ! 開けねぇとぶっ殺すぞ! 魔王:開けてもぶっ殺すつもりでしょうよ! 勇者:たりめぇだ! 魔王:無茶苦茶だ! 勇者:無茶苦茶にしてやんよ! 魔王! 魔王:何なのこの勇者! 勇者:あたしは爆炎の勇者ライリー・バニング・ブレイヴハートだぁ! 魔王:うるせぇ! 暑苦しい! もう嫌だぁ! 勇者:大人しくしやがれ! 魔王:お前がなぁ! 勇者:往生際が悪いぞ魔王ゼビオラぁ! 魔王:誰ですかそれぇ! 勇者:お前の名前だろうがしらばっくれるなぁ! 魔王:だから知らないって! 勇者:はぁ!? んな訳ねぇだろ! ゼビオラ・ゲフィオナ・アーテラウ! 魔王:いや! 僕の名前グレゴール・サテナ・ウィルビウスですし! 勇者:え! 魔王:え? : 0:間。 : 勇者:違うの? 魔王ゼビオラ・ゲフィオナ・アーテラウじゃないの? 魔王:いや、僕は魔王グレゴール・サテナ・ウィルビウス、です。 勇者:そ、そんな!? 偽名で誤魔化そうったって――! 魔王:魔王ゼビオラ・ゲフィオナ・アーテラウって、それ、マジで隣の谷の魔王じゃないですか? 勇者:ちょちょちょ! え? え? どういうこと? 魔王:どういうことって、人違いだってことですよ。人というか魔王? 勇者:魔王違い……? そんな馬鹿な! 魔王がそんなにいっぱい居てたまるか! 魔王:いるいる。死ぬほどいる。 勇者:は? 魔王:さっき言いませんでした? 魔王の代わりなんていっぱい居るんですよ。 勇者:えぇ!? それそのまんまの意味なの!? 魔王:そうですが? 勇者:え、じゃあ? 世界を征服したり滅ぼそうとしたりとか……? 魔王:しませんよ。んな暇あったらゲームしますねぇ。 勇者:ぶっ倒したら世界は? 魔王:救われませんよ。僕、魔王だけどマジでゲームの片手間で領地の運営しかしてませんし。 勇者:信長の野望的な? 魔王:いや、シムシティ。 勇者:無駄足! 魔王:おい、人んち土足で踏み込んどいて随分な言い様だなぁ! 勇者:えー……、すんませんした。 魔王:はぁ……。別に良いですけど……。 勇者:そっかー。助かるわぁ。 魔王:こちらは助かりませんよ……。 勇者:あの、ところで。 魔王:ところで? 勇者:ここに来るまでに食料とか食べ尽くしちゃって……。 魔王:片道分しか持たないとか死ぬ気だったんですか? 勇者:いや、魔王の城から奪って帰れば良いかなって。 魔王:逞しいなぁ! 勇者:勇者だからな! 魔王:はぁ。それで、食料分けろって? 勇者:あと、泊めて! 魔王:心の準備のやりとり何だったんですか。 勇者:あたしの心は疲れ切ってもうへとへとなんだ! 魔王:こっちの台詞だ! 勇者:お願い! 助けて魔王さん! 魔王:はぁ、最近の勇者マジ何なんだろう……。 勇者:な、何でもするから! 魔王:何でも……? はぁ。 : 0:魔王、部屋に戻る。 : 魔王:おい、勇者。あなた何やってるんですか? 勇者:な、何って……? 魔王:泊まるんだろ? ついて来い。 勇者:え、良いの? 魔王:あ。でも今夜は寝かせませんよ? 勇者:え、そ、それって……? 魔王:やるんですよ、一緒に、 勇者:一緒に、何を……? 魔王:僕とあなたでやることなんて、決まってるでしょ? 勇者:……え、えっと、 魔王:好きなんでしょ。ストリートファイター、やりますよ? 勇者:……! うん! 魔王:ふっふっふ、僕のガイルが唸りますね。 勇者:ははは! あたしのダルシムが火を吹くぜ! 魔王:いや、ダルシムは大体火吹くでしょ。 勇者:それもそうか! 魔王:全く、最近の勇者は。 :