台本概要

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タイトル 双花の魔王と唯我の勇者。
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル ファンタジー
演者人数 3人用台本(男2、女1)
時間 60 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 闇の中から光を知らず、二人で一つの生を授かり、死を分かち、落ちたこの地が、流れるこの血がどんな地獄であったとて、悪魔のものであったとて、それは確かな幸福で、それは一つの楽園で。君さえいれば、あなたさえいれば、ただそれだけで満たされて他には何も、他の何者も必要のない不可侵で、世界の法則だった。この世の理だった。

◇あらすじ◆
双子の魔王と、その居城に闖入してきた勇者との戦いの話。

文字数約15,700

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
勇者 212 《白蓮の勇者》ルイス・ロータスヴァイス 聖拳の使い手。好きな言葉は天上天下唯我独尊。
薔薇 360 《黒薔薇の魔王》アマラ・バジーリオ・ジルド・イル・ディアヴォロ 闇の炎の使い手。好きな言葉は一心同体。ノーラより自分の方が兄だと思っている。
百合 358 《黒百合の魔王》ノーラ・リリアーナ・ジルダ・イル・ディアヴォロ 闇の氷の使い手。好きな言葉は異体同心。アマラより自分の方が姉だと思っている。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:双花の魔王と唯我の勇者。 : 0:闇の中から光を知らず、二人で一つの生を授かり、死を分かち、落ちたこの地が、流れるこの血がどんな地獄であったとて、悪魔のものであったとて、それは確かな幸福で、それは一つの楽園で。君さえいれば、あなたさえいれば、ただそれだけで満たされて他には何も、他の何者も必要のない不可侵で、世界の法則だった。この世の理だった。 : 0:◇あらすじ◆ 0:双子の魔王と、その居城に闖入してきた勇者との戦いの話。 : 0:◆登場人物◇ 勇者:《白蓮の勇者》ルイス・ロータスヴァイス 勇者:聖拳の使い手。好きな言葉は天上天下唯我独尊。 薔薇:《黒薔薇の魔王》アマラ・バジーリオ・ジルド・イル・ディアヴォロ 薔薇:闇の炎の使い手。好きな言葉は一心同体。ノーラより自分の方が兄だと思っている。 百合:《黒百合の魔王》ノーラ・リリアーナ・ジルダ・イル・ディアヴォロ 百合:闇の氷の使い手。好きな言葉は異体同心。アマラより自分の方が姉だと思っている。 : 0:◇◆◆◇ : 0:魔王城、双つ並んだ玉座の間。 0:二人の魔王が瞑目して腰掛けている。 : 薔薇:闇の中から、 百合:光を知らず、 薔薇:あなたと、 百合:君と、 薔薇:二人で、 百合:一つの、 薔薇:生を授かり、 百合:死を分かち、 薔薇:落ちたこの地が、 百合:流れるこの血が、 薔薇:どんな地獄であったとて、 百合:悪魔のものであったとて、 薔薇:それは確かな 百合:幸福で、それは、 薔薇:一つの楽園で、 百合:君さえいれば、 薔薇:あなたさえいれば、 百合:ただそれだけで、 薔薇:満たされて、 百合:他には何も、 薔薇:他の何者も、 百合:必要のない、 薔薇:不可侵で、 百合:世界の、 薔薇:この世の、 百合:法則だった。 薔薇:理だった。 : 勇者:ぁぁぁぁぁ……! : 0:扉の向こうから声が響き、次第に大きくなる。 : 勇者:でりゃぁっ……! ほぁぁぁぁぁ……! : 0:勇者が廊下を駆け抜ける音が響く。 : 百合:そして、 薔薇:それは、 百合:僕らの、 薔薇:私達の、 百合:約束で、 薔薇:運命で、 百合:信念で、 薔薇:定義で、 百合:存在理由で、 薔薇:存在意義で、 百合:祝福で、 薔薇:呪詛で、 百合:愛で、 薔薇:絆で、 百合:絆で、 薔薇:愛で、 百合:僕の、 薔薇:私の、 百合:死ねない理由。 薔薇:生きる希望。 : 勇者:どらぁっ……! はぁっ……! うざってんだよぉ……! 勇者:纏めて去ねやぁっ……! : 0:城が大きく震動する。 : 薔薇:……はぁ。 百合:……ふぅ。 : 勇者:ふははははははははは……! 有象無象がどれだけ集まろうが、この俺様にはっ……! 勇者:無意味……! だらぁぁぁぁ……っ!! : 0:勇者が廊下を駆け抜ける音が響く。 : 百合:それでも、 薔薇:例えば、 : 勇者:あぁ……?! なんだなんだぁ……? 勇者:必死なツラでぞろぞろと……? : 百合:世界が君に牙を剝いたとき、 薔薇:この世の全てがあなたの敵になったとき、 百合:僕が、 薔薇:私が、 百合:命をかけて、 薔薇:命に代えて、 百合:世界を、 薔薇:この世を、 百合:全て凍らせ、 薔薇:全て燃やして、 百合:君の涙も、 薔薇:晴らしてみせる、 百合:そっと優しい、 薔薇:あなたの憂いも、 百合:氷に変える。 薔薇:笑顔に変える。 百合:それが僕の 薔薇:それが私の 百合:生きる希望。 薔薇:死ねない理由。 : 勇者:ははぁん……? さては俺様のファンかぁ……? よぉよぉ……! てめぇらよぉ……! : 百合:故にこそ、 薔薇:だからこそ、 : 勇者:ならこいつはサイン代わりだぜ……! : 百合:君を虐げ、 薔薇:あなたを泣かせ、 : 勇者:とくと味わいなっ……! : 百合:居場所を奪う、 薔薇:笑顔を奪う、 : 勇者:お代はてめぇの命だぜ! 勇者:俺様式勇者殺法! : 百合:こんな世界。 薔薇:そんな世界。 : 勇者:禁断の―― : 薔薇:全てが燃えて、 百合:全て凍てつき、 : 勇者:――ブレイヴ・ザ・ジャックナイフっ――! : 薔薇:灰に埋もれて、 百合:雪に埋もれて、 : 勇者:改……! : 0:爆音。 : 薔薇:(同時に)滅びてしまえ。 百合:(同時に)滅びてしまえ。 勇者:(同時に)滅びちまいなぁ……! : 0:静寂。 : 0:◆◇ : 百合:アマラ。 薔薇:ノーラ。 百合:来るよ、 薔薇:敵が、 百合:終わりが、 薔薇:でも私達は、 百合:僕達は終わらない、 薔薇:終わらせない、 百合:これまでも、 薔薇:これからも、 百合:君を、 薔薇:あなたを、 百合:守って、 薔薇:生かす、ただ、 百合:その為に、 薔薇:杖を握り、 百合:剣を携え、 薔薇:抗おう、 百合:覆そう、 薔薇:運命を、 百合:宿命を、 薔薇:世界を、 百合:滅ぼそう。 : 薔薇:(同時に)勇者を。 百合:(同時に)勇者を。 : 0:◆◇ : 勇者:どぉぉぉーーーーんっっ! : 0:扉を蹴破り勇者が現れる。 : 百合:いくよ、 薔薇:いこう、 百合:ふふふふふふ! 薔薇:はははははは! 百合:僕らの手勢を退け、 薔薇:よく来ましたね、 百合:我が宿敵、 : 薔薇:(同時に)勇―― 百合:(同時に)勇―― : 勇者:――とぉぉうっっ! 勇者:ブレェェイヴ・ジャァンッ! : 0:勇者、声を発しながら大きく跳躍する! : 薔薇:……!? 百合:……!? : 勇者:しゅたぁぁっっ!! 勇者:からの秘技っ! 勇者:ローリング・ブレイヴ受け身ぃ! 勇者:ずばぁぁぁんっ!! : 薔薇:……ねぇ、ノーラ。 百合:……なぁ、アマラ。 : 勇者:白きマントを翻し! 勇者:ばさぁっ!! 勇者:誰が呼んだかこの俺様! 勇者:魔王と悪と汚い金のあるところ! 勇者:呼ばれなくても駆けつけて! 勇者:輝く拳を振りかざし! 勇者:有象無象をぶちのめし! 勇者:死山血河の塵に変え! 勇者:愛も名誉も財産も! 勇者:一切合切全て征する! : 勇者:そう―― : 薔薇:こやつ、 百合:これ、 : 勇者:俺様こそは言わずと知れた! 薔薇:とても、 勇者:天上天下唯我独尊! 百合:かなり、 勇者:正義の化身! 薔薇:致命的に、 勇者:人呼んで白蓮のぉぉッ! 百合:絶望的に、 勇者:勇者ぁ!! : 0:間。 : 勇者:ルイーーーース! ロータスヴァァァァァイスッ! : 薔薇:ええ。 百合:うん。 : 勇者:勇☆者☆見☆参!! : 0:謎の爆発。 0:辺りが煙に包まれる。 : 勇者:どぉぉぉーーーーんっ!! : 薔薇:うざいですね。 百合:うざいな。 : 勇者:くふふふふ、 : 薔薇:こやつ真剣に、 百合:これ真面目に、 : 勇者:くはははははは、 : 薔薇:どうしましょう、ノーラ? 百合:アマラ、どうしたい? 薔薇:ええ、 百合:まぁ、 薔薇:どうするも、 百合:こうするも、 薔薇:この手合いの勇者は、 百合:人の話や、 薔薇:脈絡を、 百合:完膚なきまで、 : 勇者:はーはっはっはっはっはっはぁっ……!! : 薔薇:無視してくる、 百合:KYだから、 薔薇:それに、 : 勇者:すぅ……っげほっ! げほっ! げほぉぉっっ!? : 百合:常軌を逸した、 : 勇者:げほぁっ! 勇者:煙てぇんだけどぉっ?! : 薔薇:(同時に)阿呆です。 百合:(同時に)阿呆だね。 : 薔薇:故に、 百合:真剣に、 薔薇:真面目に、 : 勇者:火薬の量間違えたか!? : 百合:考えるだけ、 薔薇:相手するだけ、 : 勇者:うぺぇ! このままじゃ俺様燻製になっちまう! : 薔薇:無駄です。 百合:無駄だね。 : 勇者:げほっごはっ! 空調ぉ! 空調を入れろぉぉ! : 薔薇:時間と、 百合:労力の。 : 勇者:お? 少しマシになってきたか? : 薔薇:さておき、 百合:それでは、 勇者:てことは、 薔薇:煙が、 勇者:煙が晴れたら、 百合:晴れたら、 薔薇:この巫山戯た茶番も―― 勇者:お前の命運も終わりってことよ! 百合:――終わりということか。 : 勇者:さぁ晴れるぜぇ? 覚悟しろ! 魔―― : 薔薇:我が身に宿る爆炎の名において命ず。 百合:我が身に宿る氷晶の名において命ず。 : 薔薇:(同時に)壊せ――火砕流《フルッソ・ピロクラスティコ》! 百合:(同時に)潰せ――雪崩斬《タジリオ・ダ・ヴァランガ》! : 勇者:――王が、二人いるじゃねぇかぁぁぁぁぁぁっ?! : 0:晴れかけた煙が爆ぜ、再び玉座の間を炎と氷の爆発が染める。 : 薔薇:……! 百合:……! 薔薇:……やったかな。 百合:……やっただろ。 薔薇:影も、 百合:形も、 薔薇:残さず、 百合:残らず、 薔薇:灰と、 百合:雪に、 薔薇:消えた憐れな、 百合:溶けた愚かな、 薔薇:勇者に、 百合:勇者に、 薔薇:祝福と、 百合:冥福を。 百合:そういえば最期に何か、 薔薇:叫んでいたようですが、 百合:まぁそんなことは、 薔薇:取るに足りない、 百合:些末なことか。 薔薇:は、はは、 百合:ふ、ふふ、 薔薇:ふふふふふふふ! 百合:ははははははは! : 0:魔王の哄笑が響く立ち込めた蒸気と煙の中からくしゃみ。 : 勇者:――はぁっくしょぉぉぉいっっ! : 薔薇:何が……? 百合:何だ……? 勇者:――うえぇ、おいおいぶっ壊れてんなぁ……っ! 薔薇:は? 百合:え? 勇者:冷暖房的なサムシングがよぉ! 勇者:妙技――! : 勇者:――ブレイヴ・ザ・サイクロン! どぁぁぁぁっ! : 0:蒸気と煙を吹き飛ばし、勇者が現れる。 : 薔薇:なん……?! 百合:だと……!? 勇者:ふぅーーー! 薔薇:そんな、 勇者:確かに入れろっつったけどよぉ! 百合:馬鹿な、 勇者:暑くてさみいんだよクソボケが! 百合:僕らの、 薔薇:私達の、 薔薇:必殺の、 勇者:空調! 百合:攻撃で、 勇者:俺様ぁ勇者だぞ? 薔薇:全くの、 勇者:お忘れじゃぁねぇのかよ、おもてなしの心ってやつをよぉ?! 百合:無傷……!? 勇者:俺様が風邪とか熱中症とかなったらどうすんだ? 薔薇:即死しても、 勇者:ぶっ殺すぞ、おぉぉぉん? 百合:おかしくないのに、 勇者:そんでてめぇら、 薔薇:こいつは一体、 : 百合:(同時に)何者なのだ……? 薔薇:(同時に)何者なのか……? 勇者:(同時に)何もんだよ? : 百合:…………。 薔薇:…………。 勇者:あぁん、何者だぁ? おいおいおいおいさっき盛大に、天上天下マキシマム公明正大に勇者って名乗ったろうがよ! 俺様のウルトラガチで尊い名乗りを聞いてなかったのかぁ? 百合:聞いてはいたが、 薔薇:聞くに堪えませんでした。 勇者:おぉ? いまなんつった? 百合:――白連の、 薔薇:勇者、 百合:ロータス・ 薔薇:ヴァイス。 百合:といったか? 勇者:おいおいおい、なんだよ聞いてんじゃぁねぇか! 偉いじゃん! 薔薇:え、 百合:偉い? 勇者:ははっ! さっすが、魔お……おぉぉぉぉ!? 百合:忙しいやつだ。 薔薇:貴様は何を、 百合:慌てて? 勇者:じゃねぇよ! 魔王二人いんじゃん!? はぁっ?! 百合:いや、 薔薇:今更。 勇者:はぁ!? え、なに? どういうことよ……え、ひぃ、ふぅ、みぃ……。魔王が二人……?! 薔薇:「みぃ」って、 百合:いま何故無駄に、 薔薇:自分を数えたので? 勇者:……っは!? もしかしてさっき俺様がダイナミック・ブレイヴ・入☆城したときに……!! 薔薇:ダイナミック・ 百合:ブレイヴ・ 薔薇:入☆ 百合:☆城……? 勇者:ダイナミック・ブレイヴ・入☆城したときに……! 薔薇:二度も、 百合:言うな。 勇者:魔王が―― : 勇者:――割れたっ!? : 百合:(同時に)割れるか。 薔薇:(同時に)割れるか。 : 勇者:……いや、冷静に考えてそれしか考えられなくね? 百合:ちゃんと考えろ。 薔薇:どういう理屈ですか。 勇者:神の威光で海や大地や空がずばぁ! って割れる逸話あんじゃん? 薔薇:つまり同じ、 百合:理屈で魔王が、 勇者:割れる。 : 勇者:ありえるくね? : 薔薇:ねぇよ。 百合:ねぇわ。 勇者:うっそマジ? 百合:「うっそ 薔薇:マジ?」は、 百合:僕らの台詞だよ。 勇者:いや、断然俺様の台詞だわ。テメェらがあのクソしょぼい扉よろしく俺様の威光で割れたんじゃぁなけりゃ、一体どういう了見でニコイチになってんだおぉん? 百合:ニコ、 薔薇:イチ。 勇者:てか、顔クリソツだなぁ! よく見りゃ顔! イロチだから気付かんかったけどよぉ! マジで顔の造形間違い探しじゃねぇか! 同じ鋳型使ってんのか? 鯛焼きならぬ魔王焼きなのか? 薔薇:鋳型……。 百合:魔王焼き? 勇者:ってか、おいおいおいおい、もしかしてあれか? コピペ魔王なのかぁ? どっちかが偽物で、さて本物の魔王はどっちでしょう? 薔薇:偽物、 百合:本物、 勇者:的な? 薔薇:違います。 百合:僕らは、 薔薇:私達は、 勇者:お前らは何だ? 百合:見て分かるだろう? 薔薇:言わずもがなでは? 勇者:っは! 俺様が知るかよ。 百合:……はぁ。 薔薇:……ふぅ。 勇者:んだよ、言えよ? 百合:――僕らは、 薔薇:私達は―― : 百合:(同時に)双子さ。 薔薇:(同時に)双子です。 : 0:間。 : 勇者:双子ぉ? 百合:ああ。 薔薇:ええ。 勇者:へぇ。 : 勇者:…………って双子の魔王ぉ!? おいおいおいおいマジ魔王かよ!? 薔薇:だから、 百合:どっちも、 : 百合:(同時に)本物さ。 薔薇:(同時に)本物です。 : 勇者:あぁっ! なるほど! そんでさっきから、ずぅぅっとそのうざってぇ喋り方してたんだなぁ! 薔薇:貴様の喋り方も、 百合:なかなかのものだが。 勇者:てか双子の魔王なんていたんだなぁ! ま、たまにはいるわな! 出生率1%くらいなんだし、魔王を200もぶっ殺しゃ1組くらいは当たるわな!! ははぁ! 百合:あ、ああ。 薔薇:う、うむ。 勇者:いやぁ!  でもすっげぇなぁ! ほんっと、世界は広ぇなぁ! どおりで疲れるわけだよなぁクソが! 百合:こいつ、 薔薇:情緒、 勇者:ま、俺の心よりは広くはねぇけどよぉ! かはははは! 百合:不安定か? 勇者:へぇ、しっかし、双子ってぇ事はよぉ。 勇者:お前ら、魔王なのに二人、居るんだよなぁ? つまり。 百合:はぁ? 薔薇:何を当たり前の、 百合:ことを。 勇者:いやいやいやいや。当たり前じゃねぇ、当たり前じゃねぇんだよ。分っかんねぇかなぁ? 双子の魔王なんて。超絶ガチ激レアなわけよ。現に俺様は初めて見たしな? 魔王の親子とかは何か居たけど、無い訳よ、新感覚。お前らさぁ、自分のレア度把握しろ? 薔薇:自分の、 百合:レア度……? 勇者:おう、そうさなぁ、ドラゴンのクソくらいレア。 薔薇:並べんな。 勇者:じゃ、それ以上にレア。 百合:比べんな。 勇者:ま、それはさておき、激レア双子魔王をぶっ殺す。つーことは……。はっはぁ、これは難しい問題だよなぁ? 薔薇:難しい? それは双子である、 百合:僕らを倒して世界とやらを、 薔薇:救うことが、ですか? 勇者:はぁ? 世界を救う? とか、そんなつまんねぇ話じゃねぇんだよなぁ、これが。 百合:つまらない……? 薔薇:であれば、何が……? 勇者:てか、どうして超絶偉大な勇者である俺様が世界なんて救わないといけねぇんだって話。そんなもん一山いくらの勇者がやってりゃ丸くおさまらぁ。 薔薇:ノーラ、 百合:アマラ、 薔薇:マジで、 百合:こいつ、 薔薇:勇者、 百合:なのか? 勇者:おいおいおいおい、疑ってんのかよ? 双子ちゃんよぉ。ま、俺様ってば勇者は勇者だけどよぉ? 勇者の中の勇者っていうか、極めてっから。最強の勇者過ぎてマジで勇者超越してっっから。勇者っていう枠組み余裕で超えて、ザ・勇者とか真・勇者とか勇者王とか勇者神とか、勇者・オリジン。みたいなそんな感じだし? 疑うのは無理も無いけどよ、残念ながら俺様は白連の勇者! ロータス・ヴァイス! 正真正銘勇者様だぁっ! 薔薇:あぁ誠に、 百合:残念でならない。 薔薇:けれど、 百合:あぁ、 薔薇:これは、 百合:間違いなく、 薔薇:勇者だなと思わせる、 百合:このイカれたノリに、 薔薇:疑う余地は無いけれど、 百合:どうか違って欲しいと、 薔薇:思わずにはいられない。 百合:そんな魔王ごころ。 薔薇:残念です。 百合:主に頭が。 勇者:俺様という最強との邂逅に頭が追いつかねぇって? 分かるぜぇ。うんうん。けど、諦めるんだなぁ! 薔薇:諦めるしか無いようだ。 百合:覚悟するしか無いらしい。 勇者:あぁん? 薔薇:どうやら、 百合:完膚なきまで、 薔薇:終わりらしい。 百合:僕らの平穏は。 薔薇:私達の宿願は。 勇者:かははっ! 俺様前にしたら、てめぇらクソ雑魚魔王どもは決まってそういうツラしやがるなぁ! 薔薇:そういう、 百合:ツラとは? 勇者:猫に追い詰められたネズミみてぇな。いいや? 白虎に追い詰められたドブネズミみてーな悲壮に満ちたそのツラだよ! 百合:……己を白虎に喩える、 薔薇:とは、随分不釣り合いで、 百合:大きく出た物言いだけど、 : 薔薇:(同時に)ドブネズミ。 百合:(同時に)ドブネズミ。 : 勇者:あぁ、ぴったりだろぉ? 日陰者の魔王には。 : 薔薇:…………。 百合:…………。 勇者:どうした? なんか嫌なことでもあったのか? 薔薇:えぇ、目の前に。 百合:あぁ、背後に。 勇者:なんだなんだ? 前も後ろも嫌なもんだらけじゃねぇか。さっすが、世界なんて滅ぼそうとしてる魔王だな! 百合:でも、 薔薇:けれど、 勇者:あ? 百合:ぴったりさ。 薔薇:しっくりきますね。 勇者:何が? 薔薇:私達は、 百合:僕らは、 薔薇:暗渠に潜む、 百合:ドブネズミ。 薔薇:身を寄せ合いながら、 百合:闇を喰らって、 薔薇:糧を得る。いつか、 百合:僕らを捨てた、 薔薇:クズの世界を、 百合:全て喰らい尽くして、 薔薇:僕らの世界を作る。 百合:その為に、 勇者:へぇ、作る? それってネズミの王国……ディズニ―― 百合:邪魔者は全て、 薔薇:障害物は全て、 : 百合:(同時に)殺す。 薔薇:(同時に)殺す。 : 勇者:っは! 睨んじゃってまぁ、かわいい双子のネズミちゃんが。なんだよ、そんなに殺して欲しいのか? 百合:それは此方の台詞だ。 勇者:いや正直さ、ガキ殺すのは趣味じゃねぇのよ、俺様勇者だし? 勇者:だから話して心折りに来たんだが、こりゃ駄目だな。 薔薇:怖じ気づきましたか? 勇者:はぁ。窮鼠が虎の尾を噛もうとしてんならやめとけよ。マジだから。いいや、てめぇら分かってねぇのか、身の程。追い詰められてる事実。とうに詰んでんだわ、お前ら。俺様がここに来た瞬間から。 薔薇:先程から随分、 百合:調子に乗ってるようだけれど、 薔薇:私達を、 百合:僕らを、 薔薇:倒せる。 百合:とでも? 勇者:くふ、くふふ……! 薔薇:貴様何を、 百合:笑って―― 勇者:――あぁ、もういいわてめぇら。そんで、 : 勇者:魔王は、どっちだ? : 薔薇:……は? 百合:……は? 勇者:は? じゃねぇよ、さっさと答えろ。 百合:答えるも何も、 薔薇:先程言ったでしょう、 百合:僕らは、 薔薇:双子の 百合:魔王だって。 薔薇:ボケているんですか? 勇者:あ? ボケはてめぇらだろ。いま目の前に居るのは誰だぁ? 虫も殺せねぇ優しい易しい勇者さまか? おいおいおいおい、違うだろ。俺様を前に何ちんたらやってやがる? 魔王殺しの専門家、百戦錬磨、天下無敗の勇者様だぜ? いつまで夢見てんだよいい加減見ろよ。現実ってやつをよぉ。 百合:……アマラ、 薔薇:……ノーラ、 勇者:おぉ? やっと分かったか? そうそう、楽しくお喋りフェイズは終わりなんだわ。選択肢を間違えなけりゃ、今も続いてたかもしんねぇが、残念。俺様、趣味じゃなくとも生業なんだよ、勇者殺し。 薔薇:こいつ、 勇者:分かるよな? さっきの問いの意味。 百合:分かってる、 勇者:「殺されたい魔王はどっちだ?」って意味だ。 : 薔薇:我が闇を焦がす爆炎の名の下に命ず。 百合:我が闇を鎖す氷晶の名の下に命ず。 薔薇:圧し壊せ――常闇火砕流《フルッソ・ピロクラスティコ・デロスクリタ・エテールナ》! 百合:断ち潰せ――常夜雪崩斬《タジリオ・ダ・ヴァランガ・ペル・トゥッタ・ラ・ノッテ》! : 0:勇者を中心に玉座の間が燃え上がり、凍りつく。 0:煙と霧が立ちこめる。 : 薔薇:(同時に)やったか……!? 百合:(同時に)やったの……!? : 勇者:……やってねぇよタコが。おらぁッ! ブレイヴ・ザ・タイフーン! : 0:煙と霧を吹き飛ばし、無傷の勇者が現れる。 : 薔薇:そんな、 百合:馬鹿な! 勇者:馬鹿はてめぇ。不意打ち大好きか? 学習もしねぇのか? 無駄なんだよ、全部。 薔薇:全霊を込めた、 百合:この攻撃でさえ、 勇者:っは! 全霊? 出すの遅ぇんだわ。半端な前例出しやがってよぉ、対策してくれって言ってるようなもんだろぉが! 薔薇:前例……? 勇者:ま、対策なんていらないカスだったけど。 薔薇:ならば、 百合:今までのあれは、 薔薇:ただの茶番ですか! 勇者:あぁ? どう考えても茶番だろ。舐めんなや。でもよ、威力ゴミ過ぎて反応に困ったのも事実なんだわ、マジ、なんの冗談かと思って空気読んでみたわ。ってか真に受けんなよ。馬鹿か? 薔薇:そもそも、貴様の登場の仕方が、 百合:反応に困ったのだが、 勇者:ダイナミック・ブレイブ・入☆場な。イカしてんだろ? 百合:名前も、 薔薇:動きも全部、 百合:ダサいし、 薔薇:イカレてます。 勇者:あっそ。魔王風情じゃぁこの素晴らしさはわかんえぇよなぁ。そう、でもよ、世界はイカレてるし、狂ってんだ、混沌だぁ。そんなもん、てめぇらが一番知ってんだろ? 魔王。そしてそれを糺すのが勇者であるこの俺様ってわけよ。お理解り? 薔薇:分かるわけが、 百合:ないし、分かりたくも、 薔薇:ない。 勇者:ありゃぁ? ガキには難しかったかぁ? ま、いいや。それで、どっちにするか決まったか? 百合:…………。 薔薇:…………。 勇者:なんとか言えよこら。 百合:……楽しくお喋りは。 勇者:あぁ? 薔薇:楽しくお喋りとやらは終わり、 百合:では無かったのか? 勇者:あぁ終わりだ。んでこっからは、殺伐とお喋り。 薔薇:なんだ、 百合:それは。 勇者:つまり本題だな。 薔薇:本題、 百合:だと? 勇者:あぁ。 薔薇:どちらが魔王か。 百合:殺されたい魔王は。 薔薇:という巫山戯た、 百合:問いのことか? 勇者:おいおい俺様はいつだって真面目だけどよぉ。ま、そういうことだな。 薔薇:どの口が、 百合:それを言う。 勇者:おうおう。喧しい口だなぁ、二つもあって。だから一つで良んだよ魔王の首は。そも、俺様は一人の魔王をぶっ殺しに来たんだからな。話が違う。 百合:一人の魔王。 薔薇:それは、 勇者:あぁ。グリエルモなんちゃらってジジイ魔王、グリ―― : 百合:(同時に)グリエルモ・ウベルト・パスカル・イル・ディアヴォロ。 薔薇:(同時に)グリエルモ・ウベルト・パスカル・イル・ディアヴォロ。 : 勇者:それ。 勇者:グリ……ボロ。早く出せよ。いるんなら。 薔薇:残念だが、 百合:僕らに、 薔薇:父など、 百合:居ない。 勇者:はぁ? もし隠してんなら、さっさと売っちまうのを勧めるぜ? 双子ちゃん。 百合:勧められるまでもないよ。 勇者:どういう意味だ? 薔薇:隠す。 百合:と言うのなら、正しく、 薔薇:私達がこの手で、 百合:力で、あの魔王、 薔薇:グリエルモを、 百合:隠した。と言えるし、 薔薇:売ってしまうもなにも、 百合:討ってしまったよ既に。 薔薇:故に私達は進めた。 百合:そう、前に。 勇者:つまり、てめぇらがそいつを、 : 薔薇:(同時に)焼き尽くした。 百合:(同時に)凍りつかせた。 : 勇者:っかは! 面白ぇ、ならてめぇらは魔王の仔にして魔王を討った、ある意味、勇者なわけだ。少なくとも、魔王も録に倒せず死んでしまう、情けねぇ勇者よりも、情け容赦も親子の情もねぇ魔王の仔の方がよっぽど世界を動かしてる。こりゃ商売あがったりだな。かはははは! 百合:貴様は一人で、 薔薇:何を戯けた事を。 勇者:あぁ戯れだ。思いつきのなぁ。かはは。なぁ、そうだ、俺様が口利きしてやっても良いぜ? 百合:口利き、 薔薇:だと? 勇者:あぁ。 : 勇者:てめぇら、勇者にならねぇか? : 百合:…………。 薔薇:…………。 勇者:おぉ? 黙ってんなよ。口利けなくなったか? 百合:……聴くに、 薔薇:堪えません。 百合:貴様の話は。 薔薇:勇者。 百合:に、なる? 僕らが? 勇者:おぉ、どうだ? 薔薇:舐めているのですか? 勇者:さっきまではな、 百合:喧嘩を売っているのか? 勇者:買ってやってんだよ、てめぇらの資質を。 薔薇:正気とは思えません。 百合:貴様ほんとに勇者か? 勇者:勇者に決まってんだろ? 魔王を殺す限りはな。 薔薇:魔王を殺す。 百合:それが根拠か。 勇者:そう名乗るから勇者なんじゃねぇ。そう呼ばれるから勇者なんだよ。勇者である俺様が証人だ。 薔薇:何故、私達を、 百合:僕らを勇者にしたがる? 勇者:あん? それは……。おっとすまねぇ。言い忘れてた。 薔薇:何を、 勇者:勇者になれんのはどっちかだ。だから片方は魔王として、 : 勇者:殺す。 : 0:間。 : 百合:それは、 薔薇:つまり、 百合:僕らに、 薔薇:私達の、 百合:命を、 薔薇:天秤に、 百合:かけろ、 薔薇:と、そういう意味、 百合:なのか? 勇者:さぁな。意味なんざ勝手に受け取れ。俺様は、どっちでもいいんだぜ? てめぇらが纏めて魔王として死のうが、どっちかが勇者として生きようが。半々でも全でも。ただ、ゼロはねぇ。今ここに居合わせる誰かが死ぬ。何もせずに魔王城を去るなんて、まさか思わないよな? 勇者が。勇者が魔王の城を出るときは、魔王の首が必要なのさ。だから、精々利口でドラマティックな選択をするんだなぁ? 百合:犠牲を、 薔薇:強いると? 勇者:この世界ってやつは犠牲の上に成り立ってんだよ。だから、教えろよ、犠牲になる『魔王』はどっちか? 百合:そうか、 薔薇:ならば、 百合:貴様は、 薔薇:邪悪で、 百合:俗悪な、 薔薇:世界の、 百合:クズで、 薔薇:私達の、 百合:僕らの、 薔薇:焼き尽くすべき、 百合:凍てつかせるべき、 : 薔薇:(同時に)敵ということだ。 百合:(同時に)敵ということさ。 : 勇者:おいおいおいおいおいおいおい! 勇者様に向かって悪や敵を語っちまうのかよ!? こんなに優しい選択肢を、チャンスを与えてやってる俺様に! : 百合:黙れ、 薔薇:外道。 勇者:はぁ? 俺様のどこが。 百合:僕が、 薔薇:私が、 百合:生かして、 薔薇:守るのは、 百合:己の命や、 薔薇:世界では無く、 百合:互いの命で、 薔薇:二人の世界。 百合:だから、 薔薇:故に、 百合:僕は、 薔薇:私は、 : 百合:(同時に)僕らは魔王。 薔薇:(同時に)私達は魔王。 : 百合:二人で、 薔薇:一つの、 百合:生を授かり、 薔薇:死を分かつ、 : 薔薇:(同時に)一心同体の魔王だ。 百合:(同時に)異体同心の魔王さ。 : 0:間。 : 勇者:……そうか、そうかよ、そうだな、そっかそっかそっかぁ! ならしゃぁねぇわな! ああ、さぱっと理解して欲しかったんだけどよぉ! ダメかぁ? ま、ガキだもんなぁ。だから苦手なんだよな、ガキ魔王の相手すんの。老害魔王よりも数倍フレッシュで、ぶっ殺すのは楽しいんだが、でもそれでもやっぱ苛つくよなぁ。優しく、親しみやすく、譲歩して、和やかに、そのクソみたいな生涯が、せめて最後くらいは楽しくなるよう、茶番を演出して、ゲームまで用意してやってんのに、理解ってねぇんだもんなぁ。 百合:何をだ、 薔薇:外道。 勇者:はぁ。ほんとてめぇらときたら、察し悪くて困っちまうんだけどよぉ。まぁ、この世界に生きとし生ける有象無象「俺様以外」って不具合を背負って生を受けちまったカス共は、須く理解が足りねぇのが道理だわな。血反吐はこうが、生皮引っぺがそうが、脊椎引き抜こうが、その事実は変わりゃしねぇ。カスは死んでもゴミになるだけ。自然の摂理だ、土に還れば許してやるよ。だからよ、安心しろ。てめぇらは特別じゃねぇ、特別カスなわけじゃねぇぜ? でも、もう、流石に気付いてんだよな? カスはカスなりに。気付いてねぇわけがねぇ。勘付いてるよな、感じてるよな? 理解らなくとも力量の差? 格の違いってやつ? よぉく味わってるんだよなぁ? 眼で、皮膚感覚で、魔力感知で、理性で、経験はガキにはまだ乏しいだろうが、それでも抱いてんだろ? 圧倒的力量差に対する恐怖を、絶望を、受け取ってんだろ、ひしひしと? 直感で、本能で、心で、魂で、全霊の攻撃のつもりのカスみたいな攻撃の無力さで。並の勇者ならば殺せる手筈の、俺様にとってはまさしく児戯そのものの攻撃。その失敗で。悟っちまってるんだよなぁ? 己の敗北、運命のその終わりを。死ってやつを。なぁ、そうだよなぁ、魔王? そうと言えよ。目の前には何ということだろう、俺様が、白連の勇者様が立っているんだ。断たれてるんだわ、その時点で命運を。言わずもがなだろ? まぁ、でも一応、言っておくけどよ。 : 勇者:遊びの時間は、終わりだぜ。 : 0:間。 : 薔薇:遊びの、 百合:時間だと? 勇者:そう、ガキの遊びだ。楽しかったかぁ、最期のひとときは? 薔薇:楽しい……? 巫山戯るな。クズが。 百合:僕らは徹頭徹尾甚だ不快だよ。 薔薇:突如沸いて出てきた、狂気の男、勇者を名乗る無礼で不遜で気色の悪いゴキブリじみた不審者の侵入のせいで。 百合:貴様の望みは何だ? 何がしたい? 自称勇者。醜悪なる精神構造をこれ見よがしに露出して、何のつもりかな? 薔薇:露出狂。貴様は理解したくも無い程、げに悍ましい。 百合:舐めるな、思い上がるな、見下すな、いい気になるな、傲るな、身の程を弁えろ。 薔薇:あまりにも度しがたい貴様の変態性に眉を顰め、静観していたが、その底知れない存在の歪さ。確信した。貴様は滅ぼすべき私達の敵で、 百合:貴様を勇者などと呼ぶ世界もまた滅ぼすべき害悪と。失敗、敗北、運命の終わり、死だと? 薔薇:勇者になるか? 百合:クソ食らえだ。 薔薇:遊びの時間は終わりと言ったな。 百合:ルイス・ロータスヴァイス。確かに貴様は強いらしい。 薔薇:私達の攻撃をものともしない、脅威なのだろう。 百合:しかし、それが何だというのだ? 薔薇:私達は諦めはしない。 百合:立ちはだかるのが、 薔薇:どんな苦境や、 百合:絶望だとしても、 薔薇:全て飲み下し、 百合:悉く滅ぼす。 薔薇:私達が、 百合:僕らが、 : 薔薇:(同時に)二人で一つの魔王である限り。 百合:(同時に)二人で一つの魔王である限り。 : 勇者:……は、はは、ははははははは! 薔薇:何が、 百合:おかしい? 勇者:かはははは、こんなにおかしいことは無いだろうが? 雑魚の魔王もどきが、至高の勇者である俺様の提案を蹴って、威勢良く口上を宣い始めた。勝ち目なんて微塵も無いってのに! 薔薇:私達の在り方を、生き死にを勝手に決めるなよ。 百合:下郎が。何様のつもりだ、 薔薇:私達の命は私達だけのものだ。 百合:貴様の出る幕など無い。 薔薇:塵も残さず、 百合:温度を喪い、 薔薇:疾く失せよ。 百合:さっさと死ね。 勇者:かはは! そんなに言うなら一蓮托生だ! : 薔薇:我は黒薔薇の魔王、アマラ・バジーリオ・ジルド・イル・ディアヴォロ。 百合:我は黒百合の魔王、ノーラ・リリアーナ・ジルダ・イル・ディアヴォロ。 勇者:白連の勇者! ルイス・ロータスヴァイス! : 勇者:かはは! いいぜ、送ってやらぁ! 二人纏めて地獄によぉ! : 勇者:天上の花《シャイン・ザ・ヴレイヴ・ロータス》! : 0:勇者の拳が光り輝き、玉座の間を染める。 : 勇者:くははははは! 口ほどにもなかっ――あ? : 0:光をねじ曲げる闇の中から無傷の魔王が現れる。 : 薔薇:地獄行きは、 百合:貴様の方だ。 : 勇者:な、に……? あ、ありえねぇ! 何だ、この闇の力……!? : 百合:独りぼっちの、 薔薇:勇者には分かるまい。 : 勇者:なんだと……! : 百合:命よりも、 薔薇:何よりも、 : 百合:(同時に)大切な人と歩みたいと願う力が! 薔薇:(同時に)大切な人と生きたいと望む力が! : 勇者:そんなもんにっ!! ――っは! がら空きだぁ! : 百合:っく、アマラ! 任せて! 薔薇:分かってる。やれ。 勇者:な、放せや! 薔薇:火砕流《フルッソ・ピロクラスティコ》。 : 勇者:だぁぁぁ! 効かねぇって……! : 百合:雪崩斬《タジリオ・ダ・ヴァランガ》! : 勇者:ぬわぁぁぁ!? こいつら調子に……! : 薔薇:我が闇を焦がす爆炎の名の下に命ず! 百合:我が闇を鎖す氷晶の名の下に命ず! : 勇者:な!? : 薔薇:(同時に)圧し壊せ――常闇火砕流《フルッソ・ピロクラスティコ・デロスクリタ・エテールナ》! 百合:(同時に)断ち潰せ――常夜雪崩斬《タジリオ・ダ・ヴァランガ・ペル・トゥッタ・ラ・ノッテ》! : 勇者:な、にぃぃぃぃ……!? : 0:魔王の技が玉座の間を黒く染める。 : 0:◇◆ : : 0:◇◆ : 勇者:う、嘘だ……! 薔薇:ノーラ。 百合:アマラ。 勇者:俺様が負けるなんて……! 薔薇:いくよ。 百合:いこう。 勇者:来るな! 薔薇:私らは、 百合:僕達は、 勇者:てめぇらは! 百合:終わらない、 薔薇:終わらせない、 勇者:なんなんだよ! 百合:これまでも、 薔薇:これからも、 勇者:巫山戯んな! 百合:君を、 薔薇:あなたを、 勇者:俺様は! 百合:守って、 勇者:世界を救う! 薔薇:生かす、ただ、 百合:その為に、 勇者:勇者で! 薔薇:杖を握り、 百合:剣を携え、 勇者:この拳で! 薔薇:抗おう、 百合:覆そう、 勇者:闘って! 薔薇:運命を、 百合:宿命を、 勇者:全てを! 薔薇:世界を、 百合:滅ぼそう。 勇者:ねじ伏せる! : 薔薇:(同時に)勇者を。 百合:(同時に)勇者を。 勇者:(同時に)魔王を! : 勇者:くそ、くそ! 雑魚だった! 雑魚の筈だった! この俺様に傷の一つも負わせられないいつも通りの有象無象で、よくいるただの魔王、いや、レアもんの双子の魔王で、魔王なのに魔王を殺して魔王になった魔王で、でもそんなの関係ねぇ! 俺が、俺様こそが、至高で、天上天下唯我独尊! 並ぶ者のない最強なんだ! それが負けるはずが――! : 薔薇:並ぶ者が居ないからですよ。 勇者:な、に……? 百合:そうやって、見下すばかりだから、 勇者:な、なんだその目は! 薔薇:足下を掬われる。 勇者:う、うるせぇ! てめぇらなんて一人じゃ何も出来ないくせに! 百合:一人じゃ何も? 薔薇:えぇ、出来ませんね。 勇者:は、はは、分かったら俺様に詫び入れて……、 薔薇:でも、 勇者:は? 百合:二人なら、 勇者:おい、 薔薇:何だって出来ます。 勇者:よせ、 百合:魔王殺しも、 勇者:やめろ……!? 薔薇:それに、 勇者:お、俺様が、お、俺が悪かった! だから! : 薔薇:(同時に)勇者殺し。 百合:(同時に)勇者殺し。 : 勇者:く、クソ! こんな筈じゃ……! は、はは、こんな下らない戦いに命なんてかけてられるか! いくぜ! 勇者:絶技! ブレイヴ・エスケープ! 勇者:かはは! あばよ双子のドブネズ――なっ!? : 0:勇者の足が凍りついている。 : 百合:どこに行こうと、 薔薇:言うのです? 勇者:あ、足が凍って……! 薔薇:魔王の城に踏み込んでおいて、 百合:何もせずに城を去らせるなんてまさか、 薔薇:思いませんよね? 魔王が。 勇者:な、何言って……! 薔薇:勇者が魔王の城を出るときは、 百合:魔王の首が必要、 薔薇:なんですってね? 勇者:あ、ああ、俺様は……! そう! 国王に命令されて! そう! そうだ! 命令されて仕方なくお前らの首を取りに来たんだ! 百合:へぇ、 薔薇:そうですか。 勇者:も、もし魔王の首をとって帰らないと、 薔薇:どうなるんですか? 勇者:え、……ね、姉ちゃんの命が。 百合:命が? 勇者:俺の愛する姉ちゃんが人質にとられてるんだ! 薔薇:……そうですか。 百合:それは可哀想に。 勇者:だ、だろ? だから――! 薔薇:ご冥福をお祈りします。 勇者:な!? お前らは鬼か! この人でなし! 百合:人でなし? まぁ、僕ら魔王だしね。 勇者:じ、地獄に落ちるぞ! 薔薇:構いません。 勇者:なに!? 百合:どうせこの世は、 薔薇:地獄です。 勇者:は……? 百合:この世の地獄から、 薔薇:あの世の地獄に行ったとて、 百合:一体どんな違いが、 薔薇:あるでしょうか? 勇者:ふ、巫山戯やがって……! 薔薇:それにノーラが、 百合:アマラが一緒に居たならば、 薔薇:そこがどこであるかなど、 百合:どうでもいいよ。 勇者:く、クソが……! 薔薇:だからら貴様は、 百合:一人で行ってくればいい。 薔薇:地獄に。 百合:お姉さんとやらは、 薔薇:行って天国でしょうし。まぁ、 百合:貴様の頭の外に居れば、 薔薇:の話ですが。 勇者:……クソが! クソが! クソが! クソが! クソがぁぁ! 百合:おやおや、最近の虎は、 薔薇:よく吠えるんですね。 百合:それに随分汚い。 勇者:黙れ! 汚ぇドブネズミが! 俺様を一度倒したくらいでいい気になりやがって! 復讐だ! 復讐してやる! 百合:どうやって? 勇者:生き返ってでも! 生まれ変わってでも! 祟っててでも! 薔薇:そうですか。ならば、次に出会うときは、 百合:精々利口でドラスティックな選択を、 薔薇:心がけることですね。 勇者:……後悔させてやる! 俺様に噛みついたことを! 生まれてきたことを! くは、くはは! くはははははははは! 薔薇:終わりにしよう。 百合:もういいよね。 : 薔薇:(同時に)咲け――闇の灼花《ローゼ・スクーロ・デル・プルガトーリオ》。 百合:(同時に)咲け――闇の氷花《ジーリョ・スクーロ・ディ・コチート》。 : 0:勇者を炎と氷の花が包み込み、闇色の灰と雪に変えてゆく。 : 勇者:お、れ様、は、白、連の勇、者、ルイス、ロー……。 : 0:勇者が崩れ去る。 : 百合:終わったな、アマラ。 薔薇:終わったね、ノーラ。 百合:怪我はないかい? 薔薇:ノーラこそ。 百合:怪我しか無いな。 薔薇:お互いに。 百合:強敵だった。 薔薇:死んでても、 百合:おかしくなかった。 薔薇:ノーラ。 百合:アマラ。 : 薔薇:(同時に)生きてて良かった。 百合:(同時に)生きてて良かった。 : 薔薇:あなたのいない世界なんて、 百合:君のいない人生なんて、 薔薇:考えられない。 百合:考えたくもない。 薔薇:そうだね。 百合:そうだろ。 薔薇:ところで、さ。 百合:どうした? 薔薇:あいつに、二人とも魔王だって言ったとき。 百合:言ったとき? 薔薇:……異体同心、って言ったけど、どういう意味? 百合:は? 薔薇:私達は一心同体。 百合:…………。 薔薇:じゃないのか? 百合:……やだよ。 薔薇:え? 百合:なんか、やじゃん。 薔薇:ど、どうして? 百合:心はともかく、体も一つって。 薔薇:…………。 百合:なんか、……エロい。 薔薇:……そうかな。 百合:そうなんだよ。 薔薇:まぁ、ノーラが言うなら。 百合:あぁ、一心同体は無しだアマラ。 薔薇:分かった。 百合:分かったか。 薔薇:ところで、 百合:何だ? 薔薇:どうしようか? 百合:何が? 薔薇:これの始末。 : 百合:あ。 : 薔薇:派手に始末したからね。 百合:後始末が大変だなぁ、これは。 薔薇:まぁ、 百合:それも、 : 薔薇:(同時に)生きてる。 百合:(同時に)生きてる。 : 薔薇:ってこと、 百合:なんだろうな。 薔薇:ね。 百合:アマラ。 薔薇:なに? 百合:……ここは任せた! : 0:ノーラ、逃げる。 : 薔薇:あ! ノーラ! 薔薇:……全く。 薔薇:でも、生きてて、良かった。 : 0:◆◇ : 薔薇:闇の中から、 百合:光を知らず、 薔薇:あなたと、 百合:君と、 薔薇:落ちたこの地が、 百合:流れるこの血が、 薔薇:どんな地獄であったとて、 百合:悪魔のものであったとて、 薔薇:やがて全てが黒く染まり、 百合:そして全てが黒く塗られ、 薔薇:この世の穢れを、 百合:世界の汚れを、 薔薇:忘れたならば、 百合:失くしたならば、 薔薇:灰の下から命を燃やし、 百合:雪の下から命が芽吹き、 薔薇:あなたが笑顔でいられる、 百合:君の居場所に一輪の、 薔薇:あなたの世界に一輪の、 百合:生を授かり、 薔薇:死を分かち、 : 薔薇:(同時に)愛を湛えて花は咲く。 百合:(同時に)愛を讃えて花は咲く。 : 0:◇◆

0:双花の魔王と唯我の勇者。 : 0:闇の中から光を知らず、二人で一つの生を授かり、死を分かち、落ちたこの地が、流れるこの血がどんな地獄であったとて、悪魔のものであったとて、それは確かな幸福で、それは一つの楽園で。君さえいれば、あなたさえいれば、ただそれだけで満たされて他には何も、他の何者も必要のない不可侵で、世界の法則だった。この世の理だった。 : 0:◇あらすじ◆ 0:双子の魔王と、その居城に闖入してきた勇者との戦いの話。 : 0:◆登場人物◇ 勇者:《白蓮の勇者》ルイス・ロータスヴァイス 勇者:聖拳の使い手。好きな言葉は天上天下唯我独尊。 薔薇:《黒薔薇の魔王》アマラ・バジーリオ・ジルド・イル・ディアヴォロ 薔薇:闇の炎の使い手。好きな言葉は一心同体。ノーラより自分の方が兄だと思っている。 百合:《黒百合の魔王》ノーラ・リリアーナ・ジルダ・イル・ディアヴォロ 百合:闇の氷の使い手。好きな言葉は異体同心。アマラより自分の方が姉だと思っている。 : 0:◇◆◆◇ : 0:魔王城、双つ並んだ玉座の間。 0:二人の魔王が瞑目して腰掛けている。 : 薔薇:闇の中から、 百合:光を知らず、 薔薇:あなたと、 百合:君と、 薔薇:二人で、 百合:一つの、 薔薇:生を授かり、 百合:死を分かち、 薔薇:落ちたこの地が、 百合:流れるこの血が、 薔薇:どんな地獄であったとて、 百合:悪魔のものであったとて、 薔薇:それは確かな 百合:幸福で、それは、 薔薇:一つの楽園で、 百合:君さえいれば、 薔薇:あなたさえいれば、 百合:ただそれだけで、 薔薇:満たされて、 百合:他には何も、 薔薇:他の何者も、 百合:必要のない、 薔薇:不可侵で、 百合:世界の、 薔薇:この世の、 百合:法則だった。 薔薇:理だった。 : 勇者:ぁぁぁぁぁ……! : 0:扉の向こうから声が響き、次第に大きくなる。 : 勇者:でりゃぁっ……! ほぁぁぁぁぁ……! : 0:勇者が廊下を駆け抜ける音が響く。 : 百合:そして、 薔薇:それは、 百合:僕らの、 薔薇:私達の、 百合:約束で、 薔薇:運命で、 百合:信念で、 薔薇:定義で、 百合:存在理由で、 薔薇:存在意義で、 百合:祝福で、 薔薇:呪詛で、 百合:愛で、 薔薇:絆で、 百合:絆で、 薔薇:愛で、 百合:僕の、 薔薇:私の、 百合:死ねない理由。 薔薇:生きる希望。 : 勇者:どらぁっ……! はぁっ……! うざってんだよぉ……! 勇者:纏めて去ねやぁっ……! : 0:城が大きく震動する。 : 薔薇:……はぁ。 百合:……ふぅ。 : 勇者:ふははははははははは……! 有象無象がどれだけ集まろうが、この俺様にはっ……! 勇者:無意味……! だらぁぁぁぁ……っ!! : 0:勇者が廊下を駆け抜ける音が響く。 : 百合:それでも、 薔薇:例えば、 : 勇者:あぁ……?! なんだなんだぁ……? 勇者:必死なツラでぞろぞろと……? : 百合:世界が君に牙を剝いたとき、 薔薇:この世の全てがあなたの敵になったとき、 百合:僕が、 薔薇:私が、 百合:命をかけて、 薔薇:命に代えて、 百合:世界を、 薔薇:この世を、 百合:全て凍らせ、 薔薇:全て燃やして、 百合:君の涙も、 薔薇:晴らしてみせる、 百合:そっと優しい、 薔薇:あなたの憂いも、 百合:氷に変える。 薔薇:笑顔に変える。 百合:それが僕の 薔薇:それが私の 百合:生きる希望。 薔薇:死ねない理由。 : 勇者:ははぁん……? さては俺様のファンかぁ……? よぉよぉ……! てめぇらよぉ……! : 百合:故にこそ、 薔薇:だからこそ、 : 勇者:ならこいつはサイン代わりだぜ……! : 百合:君を虐げ、 薔薇:あなたを泣かせ、 : 勇者:とくと味わいなっ……! : 百合:居場所を奪う、 薔薇:笑顔を奪う、 : 勇者:お代はてめぇの命だぜ! 勇者:俺様式勇者殺法! : 百合:こんな世界。 薔薇:そんな世界。 : 勇者:禁断の―― : 薔薇:全てが燃えて、 百合:全て凍てつき、 : 勇者:――ブレイヴ・ザ・ジャックナイフっ――! : 薔薇:灰に埋もれて、 百合:雪に埋もれて、 : 勇者:改……! : 0:爆音。 : 薔薇:(同時に)滅びてしまえ。 百合:(同時に)滅びてしまえ。 勇者:(同時に)滅びちまいなぁ……! : 0:静寂。 : 0:◆◇ : 百合:アマラ。 薔薇:ノーラ。 百合:来るよ、 薔薇:敵が、 百合:終わりが、 薔薇:でも私達は、 百合:僕達は終わらない、 薔薇:終わらせない、 百合:これまでも、 薔薇:これからも、 百合:君を、 薔薇:あなたを、 百合:守って、 薔薇:生かす、ただ、 百合:その為に、 薔薇:杖を握り、 百合:剣を携え、 薔薇:抗おう、 百合:覆そう、 薔薇:運命を、 百合:宿命を、 薔薇:世界を、 百合:滅ぼそう。 : 薔薇:(同時に)勇者を。 百合:(同時に)勇者を。 : 0:◆◇ : 勇者:どぉぉぉーーーーんっっ! : 0:扉を蹴破り勇者が現れる。 : 百合:いくよ、 薔薇:いこう、 百合:ふふふふふふ! 薔薇:はははははは! 百合:僕らの手勢を退け、 薔薇:よく来ましたね、 百合:我が宿敵、 : 薔薇:(同時に)勇―― 百合:(同時に)勇―― : 勇者:――とぉぉうっっ! 勇者:ブレェェイヴ・ジャァンッ! : 0:勇者、声を発しながら大きく跳躍する! : 薔薇:……!? 百合:……!? : 勇者:しゅたぁぁっっ!! 勇者:からの秘技っ! 勇者:ローリング・ブレイヴ受け身ぃ! 勇者:ずばぁぁぁんっ!! : 薔薇:……ねぇ、ノーラ。 百合:……なぁ、アマラ。 : 勇者:白きマントを翻し! 勇者:ばさぁっ!! 勇者:誰が呼んだかこの俺様! 勇者:魔王と悪と汚い金のあるところ! 勇者:呼ばれなくても駆けつけて! 勇者:輝く拳を振りかざし! 勇者:有象無象をぶちのめし! 勇者:死山血河の塵に変え! 勇者:愛も名誉も財産も! 勇者:一切合切全て征する! : 勇者:そう―― : 薔薇:こやつ、 百合:これ、 : 勇者:俺様こそは言わずと知れた! 薔薇:とても、 勇者:天上天下唯我独尊! 百合:かなり、 勇者:正義の化身! 薔薇:致命的に、 勇者:人呼んで白蓮のぉぉッ! 百合:絶望的に、 勇者:勇者ぁ!! : 0:間。 : 勇者:ルイーーーース! ロータスヴァァァァァイスッ! : 薔薇:ええ。 百合:うん。 : 勇者:勇☆者☆見☆参!! : 0:謎の爆発。 0:辺りが煙に包まれる。 : 勇者:どぉぉぉーーーーんっ!! : 薔薇:うざいですね。 百合:うざいな。 : 勇者:くふふふふ、 : 薔薇:こやつ真剣に、 百合:これ真面目に、 : 勇者:くはははははは、 : 薔薇:どうしましょう、ノーラ? 百合:アマラ、どうしたい? 薔薇:ええ、 百合:まぁ、 薔薇:どうするも、 百合:こうするも、 薔薇:この手合いの勇者は、 百合:人の話や、 薔薇:脈絡を、 百合:完膚なきまで、 : 勇者:はーはっはっはっはっはっはぁっ……!! : 薔薇:無視してくる、 百合:KYだから、 薔薇:それに、 : 勇者:すぅ……っげほっ! げほっ! げほぉぉっっ!? : 百合:常軌を逸した、 : 勇者:げほぁっ! 勇者:煙てぇんだけどぉっ?! : 薔薇:(同時に)阿呆です。 百合:(同時に)阿呆だね。 : 薔薇:故に、 百合:真剣に、 薔薇:真面目に、 : 勇者:火薬の量間違えたか!? : 百合:考えるだけ、 薔薇:相手するだけ、 : 勇者:うぺぇ! このままじゃ俺様燻製になっちまう! : 薔薇:無駄です。 百合:無駄だね。 : 勇者:げほっごはっ! 空調ぉ! 空調を入れろぉぉ! : 薔薇:時間と、 百合:労力の。 : 勇者:お? 少しマシになってきたか? : 薔薇:さておき、 百合:それでは、 勇者:てことは、 薔薇:煙が、 勇者:煙が晴れたら、 百合:晴れたら、 薔薇:この巫山戯た茶番も―― 勇者:お前の命運も終わりってことよ! 百合:――終わりということか。 : 勇者:さぁ晴れるぜぇ? 覚悟しろ! 魔―― : 薔薇:我が身に宿る爆炎の名において命ず。 百合:我が身に宿る氷晶の名において命ず。 : 薔薇:(同時に)壊せ――火砕流《フルッソ・ピロクラスティコ》! 百合:(同時に)潰せ――雪崩斬《タジリオ・ダ・ヴァランガ》! : 勇者:――王が、二人いるじゃねぇかぁぁぁぁぁぁっ?! : 0:晴れかけた煙が爆ぜ、再び玉座の間を炎と氷の爆発が染める。 : 薔薇:……! 百合:……! 薔薇:……やったかな。 百合:……やっただろ。 薔薇:影も、 百合:形も、 薔薇:残さず、 百合:残らず、 薔薇:灰と、 百合:雪に、 薔薇:消えた憐れな、 百合:溶けた愚かな、 薔薇:勇者に、 百合:勇者に、 薔薇:祝福と、 百合:冥福を。 百合:そういえば最期に何か、 薔薇:叫んでいたようですが、 百合:まぁそんなことは、 薔薇:取るに足りない、 百合:些末なことか。 薔薇:は、はは、 百合:ふ、ふふ、 薔薇:ふふふふふふふ! 百合:ははははははは! : 0:魔王の哄笑が響く立ち込めた蒸気と煙の中からくしゃみ。 : 勇者:――はぁっくしょぉぉぉいっっ! : 薔薇:何が……? 百合:何だ……? 勇者:――うえぇ、おいおいぶっ壊れてんなぁ……っ! 薔薇:は? 百合:え? 勇者:冷暖房的なサムシングがよぉ! 勇者:妙技――! : 勇者:――ブレイヴ・ザ・サイクロン! どぁぁぁぁっ! : 0:蒸気と煙を吹き飛ばし、勇者が現れる。 : 薔薇:なん……?! 百合:だと……!? 勇者:ふぅーーー! 薔薇:そんな、 勇者:確かに入れろっつったけどよぉ! 百合:馬鹿な、 勇者:暑くてさみいんだよクソボケが! 百合:僕らの、 薔薇:私達の、 薔薇:必殺の、 勇者:空調! 百合:攻撃で、 勇者:俺様ぁ勇者だぞ? 薔薇:全くの、 勇者:お忘れじゃぁねぇのかよ、おもてなしの心ってやつをよぉ?! 百合:無傷……!? 勇者:俺様が風邪とか熱中症とかなったらどうすんだ? 薔薇:即死しても、 勇者:ぶっ殺すぞ、おぉぉぉん? 百合:おかしくないのに、 勇者:そんでてめぇら、 薔薇:こいつは一体、 : 百合:(同時に)何者なのだ……? 薔薇:(同時に)何者なのか……? 勇者:(同時に)何もんだよ? : 百合:…………。 薔薇:…………。 勇者:あぁん、何者だぁ? おいおいおいおいさっき盛大に、天上天下マキシマム公明正大に勇者って名乗ったろうがよ! 俺様のウルトラガチで尊い名乗りを聞いてなかったのかぁ? 百合:聞いてはいたが、 薔薇:聞くに堪えませんでした。 勇者:おぉ? いまなんつった? 百合:――白連の、 薔薇:勇者、 百合:ロータス・ 薔薇:ヴァイス。 百合:といったか? 勇者:おいおいおい、なんだよ聞いてんじゃぁねぇか! 偉いじゃん! 薔薇:え、 百合:偉い? 勇者:ははっ! さっすが、魔お……おぉぉぉぉ!? 百合:忙しいやつだ。 薔薇:貴様は何を、 百合:慌てて? 勇者:じゃねぇよ! 魔王二人いんじゃん!? はぁっ?! 百合:いや、 薔薇:今更。 勇者:はぁ!? え、なに? どういうことよ……え、ひぃ、ふぅ、みぃ……。魔王が二人……?! 薔薇:「みぃ」って、 百合:いま何故無駄に、 薔薇:自分を数えたので? 勇者:……っは!? もしかしてさっき俺様がダイナミック・ブレイヴ・入☆城したときに……!! 薔薇:ダイナミック・ 百合:ブレイヴ・ 薔薇:入☆ 百合:☆城……? 勇者:ダイナミック・ブレイヴ・入☆城したときに……! 薔薇:二度も、 百合:言うな。 勇者:魔王が―― : 勇者:――割れたっ!? : 百合:(同時に)割れるか。 薔薇:(同時に)割れるか。 : 勇者:……いや、冷静に考えてそれしか考えられなくね? 百合:ちゃんと考えろ。 薔薇:どういう理屈ですか。 勇者:神の威光で海や大地や空がずばぁ! って割れる逸話あんじゃん? 薔薇:つまり同じ、 百合:理屈で魔王が、 勇者:割れる。 : 勇者:ありえるくね? : 薔薇:ねぇよ。 百合:ねぇわ。 勇者:うっそマジ? 百合:「うっそ 薔薇:マジ?」は、 百合:僕らの台詞だよ。 勇者:いや、断然俺様の台詞だわ。テメェらがあのクソしょぼい扉よろしく俺様の威光で割れたんじゃぁなけりゃ、一体どういう了見でニコイチになってんだおぉん? 百合:ニコ、 薔薇:イチ。 勇者:てか、顔クリソツだなぁ! よく見りゃ顔! イロチだから気付かんかったけどよぉ! マジで顔の造形間違い探しじゃねぇか! 同じ鋳型使ってんのか? 鯛焼きならぬ魔王焼きなのか? 薔薇:鋳型……。 百合:魔王焼き? 勇者:ってか、おいおいおいおい、もしかしてあれか? コピペ魔王なのかぁ? どっちかが偽物で、さて本物の魔王はどっちでしょう? 薔薇:偽物、 百合:本物、 勇者:的な? 薔薇:違います。 百合:僕らは、 薔薇:私達は、 勇者:お前らは何だ? 百合:見て分かるだろう? 薔薇:言わずもがなでは? 勇者:っは! 俺様が知るかよ。 百合:……はぁ。 薔薇:……ふぅ。 勇者:んだよ、言えよ? 百合:――僕らは、 薔薇:私達は―― : 百合:(同時に)双子さ。 薔薇:(同時に)双子です。 : 0:間。 : 勇者:双子ぉ? 百合:ああ。 薔薇:ええ。 勇者:へぇ。 : 勇者:…………って双子の魔王ぉ!? おいおいおいおいマジ魔王かよ!? 薔薇:だから、 百合:どっちも、 : 百合:(同時に)本物さ。 薔薇:(同時に)本物です。 : 勇者:あぁっ! なるほど! そんでさっきから、ずぅぅっとそのうざってぇ喋り方してたんだなぁ! 薔薇:貴様の喋り方も、 百合:なかなかのものだが。 勇者:てか双子の魔王なんていたんだなぁ! ま、たまにはいるわな! 出生率1%くらいなんだし、魔王を200もぶっ殺しゃ1組くらいは当たるわな!! ははぁ! 百合:あ、ああ。 薔薇:う、うむ。 勇者:いやぁ!  でもすっげぇなぁ! ほんっと、世界は広ぇなぁ! どおりで疲れるわけだよなぁクソが! 百合:こいつ、 薔薇:情緒、 勇者:ま、俺の心よりは広くはねぇけどよぉ! かはははは! 百合:不安定か? 勇者:へぇ、しっかし、双子ってぇ事はよぉ。 勇者:お前ら、魔王なのに二人、居るんだよなぁ? つまり。 百合:はぁ? 薔薇:何を当たり前の、 百合:ことを。 勇者:いやいやいやいや。当たり前じゃねぇ、当たり前じゃねぇんだよ。分っかんねぇかなぁ? 双子の魔王なんて。超絶ガチ激レアなわけよ。現に俺様は初めて見たしな? 魔王の親子とかは何か居たけど、無い訳よ、新感覚。お前らさぁ、自分のレア度把握しろ? 薔薇:自分の、 百合:レア度……? 勇者:おう、そうさなぁ、ドラゴンのクソくらいレア。 薔薇:並べんな。 勇者:じゃ、それ以上にレア。 百合:比べんな。 勇者:ま、それはさておき、激レア双子魔王をぶっ殺す。つーことは……。はっはぁ、これは難しい問題だよなぁ? 薔薇:難しい? それは双子である、 百合:僕らを倒して世界とやらを、 薔薇:救うことが、ですか? 勇者:はぁ? 世界を救う? とか、そんなつまんねぇ話じゃねぇんだよなぁ、これが。 百合:つまらない……? 薔薇:であれば、何が……? 勇者:てか、どうして超絶偉大な勇者である俺様が世界なんて救わないといけねぇんだって話。そんなもん一山いくらの勇者がやってりゃ丸くおさまらぁ。 薔薇:ノーラ、 百合:アマラ、 薔薇:マジで、 百合:こいつ、 薔薇:勇者、 百合:なのか? 勇者:おいおいおいおい、疑ってんのかよ? 双子ちゃんよぉ。ま、俺様ってば勇者は勇者だけどよぉ? 勇者の中の勇者っていうか、極めてっから。最強の勇者過ぎてマジで勇者超越してっっから。勇者っていう枠組み余裕で超えて、ザ・勇者とか真・勇者とか勇者王とか勇者神とか、勇者・オリジン。みたいなそんな感じだし? 疑うのは無理も無いけどよ、残念ながら俺様は白連の勇者! ロータス・ヴァイス! 正真正銘勇者様だぁっ! 薔薇:あぁ誠に、 百合:残念でならない。 薔薇:けれど、 百合:あぁ、 薔薇:これは、 百合:間違いなく、 薔薇:勇者だなと思わせる、 百合:このイカれたノリに、 薔薇:疑う余地は無いけれど、 百合:どうか違って欲しいと、 薔薇:思わずにはいられない。 百合:そんな魔王ごころ。 薔薇:残念です。 百合:主に頭が。 勇者:俺様という最強との邂逅に頭が追いつかねぇって? 分かるぜぇ。うんうん。けど、諦めるんだなぁ! 薔薇:諦めるしか無いようだ。 百合:覚悟するしか無いらしい。 勇者:あぁん? 薔薇:どうやら、 百合:完膚なきまで、 薔薇:終わりらしい。 百合:僕らの平穏は。 薔薇:私達の宿願は。 勇者:かははっ! 俺様前にしたら、てめぇらクソ雑魚魔王どもは決まってそういうツラしやがるなぁ! 薔薇:そういう、 百合:ツラとは? 勇者:猫に追い詰められたネズミみてぇな。いいや? 白虎に追い詰められたドブネズミみてーな悲壮に満ちたそのツラだよ! 百合:……己を白虎に喩える、 薔薇:とは、随分不釣り合いで、 百合:大きく出た物言いだけど、 : 薔薇:(同時に)ドブネズミ。 百合:(同時に)ドブネズミ。 : 勇者:あぁ、ぴったりだろぉ? 日陰者の魔王には。 : 薔薇:…………。 百合:…………。 勇者:どうした? なんか嫌なことでもあったのか? 薔薇:えぇ、目の前に。 百合:あぁ、背後に。 勇者:なんだなんだ? 前も後ろも嫌なもんだらけじゃねぇか。さっすが、世界なんて滅ぼそうとしてる魔王だな! 百合:でも、 薔薇:けれど、 勇者:あ? 百合:ぴったりさ。 薔薇:しっくりきますね。 勇者:何が? 薔薇:私達は、 百合:僕らは、 薔薇:暗渠に潜む、 百合:ドブネズミ。 薔薇:身を寄せ合いながら、 百合:闇を喰らって、 薔薇:糧を得る。いつか、 百合:僕らを捨てた、 薔薇:クズの世界を、 百合:全て喰らい尽くして、 薔薇:僕らの世界を作る。 百合:その為に、 勇者:へぇ、作る? それってネズミの王国……ディズニ―― 百合:邪魔者は全て、 薔薇:障害物は全て、 : 百合:(同時に)殺す。 薔薇:(同時に)殺す。 : 勇者:っは! 睨んじゃってまぁ、かわいい双子のネズミちゃんが。なんだよ、そんなに殺して欲しいのか? 百合:それは此方の台詞だ。 勇者:いや正直さ、ガキ殺すのは趣味じゃねぇのよ、俺様勇者だし? 勇者:だから話して心折りに来たんだが、こりゃ駄目だな。 薔薇:怖じ気づきましたか? 勇者:はぁ。窮鼠が虎の尾を噛もうとしてんならやめとけよ。マジだから。いいや、てめぇら分かってねぇのか、身の程。追い詰められてる事実。とうに詰んでんだわ、お前ら。俺様がここに来た瞬間から。 薔薇:先程から随分、 百合:調子に乗ってるようだけれど、 薔薇:私達を、 百合:僕らを、 薔薇:倒せる。 百合:とでも? 勇者:くふ、くふふ……! 薔薇:貴様何を、 百合:笑って―― 勇者:――あぁ、もういいわてめぇら。そんで、 : 勇者:魔王は、どっちだ? : 薔薇:……は? 百合:……は? 勇者:は? じゃねぇよ、さっさと答えろ。 百合:答えるも何も、 薔薇:先程言ったでしょう、 百合:僕らは、 薔薇:双子の 百合:魔王だって。 薔薇:ボケているんですか? 勇者:あ? ボケはてめぇらだろ。いま目の前に居るのは誰だぁ? 虫も殺せねぇ優しい易しい勇者さまか? おいおいおいおい、違うだろ。俺様を前に何ちんたらやってやがる? 魔王殺しの専門家、百戦錬磨、天下無敗の勇者様だぜ? いつまで夢見てんだよいい加減見ろよ。現実ってやつをよぉ。 百合:……アマラ、 薔薇:……ノーラ、 勇者:おぉ? やっと分かったか? そうそう、楽しくお喋りフェイズは終わりなんだわ。選択肢を間違えなけりゃ、今も続いてたかもしんねぇが、残念。俺様、趣味じゃなくとも生業なんだよ、勇者殺し。 薔薇:こいつ、 勇者:分かるよな? さっきの問いの意味。 百合:分かってる、 勇者:「殺されたい魔王はどっちだ?」って意味だ。 : 薔薇:我が闇を焦がす爆炎の名の下に命ず。 百合:我が闇を鎖す氷晶の名の下に命ず。 薔薇:圧し壊せ――常闇火砕流《フルッソ・ピロクラスティコ・デロスクリタ・エテールナ》! 百合:断ち潰せ――常夜雪崩斬《タジリオ・ダ・ヴァランガ・ペル・トゥッタ・ラ・ノッテ》! : 0:勇者を中心に玉座の間が燃え上がり、凍りつく。 0:煙と霧が立ちこめる。 : 薔薇:(同時に)やったか……!? 百合:(同時に)やったの……!? : 勇者:……やってねぇよタコが。おらぁッ! ブレイヴ・ザ・タイフーン! : 0:煙と霧を吹き飛ばし、無傷の勇者が現れる。 : 薔薇:そんな、 百合:馬鹿な! 勇者:馬鹿はてめぇ。不意打ち大好きか? 学習もしねぇのか? 無駄なんだよ、全部。 薔薇:全霊を込めた、 百合:この攻撃でさえ、 勇者:っは! 全霊? 出すの遅ぇんだわ。半端な前例出しやがってよぉ、対策してくれって言ってるようなもんだろぉが! 薔薇:前例……? 勇者:ま、対策なんていらないカスだったけど。 薔薇:ならば、 百合:今までのあれは、 薔薇:ただの茶番ですか! 勇者:あぁ? どう考えても茶番だろ。舐めんなや。でもよ、威力ゴミ過ぎて反応に困ったのも事実なんだわ、マジ、なんの冗談かと思って空気読んでみたわ。ってか真に受けんなよ。馬鹿か? 薔薇:そもそも、貴様の登場の仕方が、 百合:反応に困ったのだが、 勇者:ダイナミック・ブレイブ・入☆場な。イカしてんだろ? 百合:名前も、 薔薇:動きも全部、 百合:ダサいし、 薔薇:イカレてます。 勇者:あっそ。魔王風情じゃぁこの素晴らしさはわかんえぇよなぁ。そう、でもよ、世界はイカレてるし、狂ってんだ、混沌だぁ。そんなもん、てめぇらが一番知ってんだろ? 魔王。そしてそれを糺すのが勇者であるこの俺様ってわけよ。お理解り? 薔薇:分かるわけが、 百合:ないし、分かりたくも、 薔薇:ない。 勇者:ありゃぁ? ガキには難しかったかぁ? ま、いいや。それで、どっちにするか決まったか? 百合:…………。 薔薇:…………。 勇者:なんとか言えよこら。 百合:……楽しくお喋りは。 勇者:あぁ? 薔薇:楽しくお喋りとやらは終わり、 百合:では無かったのか? 勇者:あぁ終わりだ。んでこっからは、殺伐とお喋り。 薔薇:なんだ、 百合:それは。 勇者:つまり本題だな。 薔薇:本題、 百合:だと? 勇者:あぁ。 薔薇:どちらが魔王か。 百合:殺されたい魔王は。 薔薇:という巫山戯た、 百合:問いのことか? 勇者:おいおい俺様はいつだって真面目だけどよぉ。ま、そういうことだな。 薔薇:どの口が、 百合:それを言う。 勇者:おうおう。喧しい口だなぁ、二つもあって。だから一つで良んだよ魔王の首は。そも、俺様は一人の魔王をぶっ殺しに来たんだからな。話が違う。 百合:一人の魔王。 薔薇:それは、 勇者:あぁ。グリエルモなんちゃらってジジイ魔王、グリ―― : 百合:(同時に)グリエルモ・ウベルト・パスカル・イル・ディアヴォロ。 薔薇:(同時に)グリエルモ・ウベルト・パスカル・イル・ディアヴォロ。 : 勇者:それ。 勇者:グリ……ボロ。早く出せよ。いるんなら。 薔薇:残念だが、 百合:僕らに、 薔薇:父など、 百合:居ない。 勇者:はぁ? もし隠してんなら、さっさと売っちまうのを勧めるぜ? 双子ちゃん。 百合:勧められるまでもないよ。 勇者:どういう意味だ? 薔薇:隠す。 百合:と言うのなら、正しく、 薔薇:私達がこの手で、 百合:力で、あの魔王、 薔薇:グリエルモを、 百合:隠した。と言えるし、 薔薇:売ってしまうもなにも、 百合:討ってしまったよ既に。 薔薇:故に私達は進めた。 百合:そう、前に。 勇者:つまり、てめぇらがそいつを、 : 薔薇:(同時に)焼き尽くした。 百合:(同時に)凍りつかせた。 : 勇者:っかは! 面白ぇ、ならてめぇらは魔王の仔にして魔王を討った、ある意味、勇者なわけだ。少なくとも、魔王も録に倒せず死んでしまう、情けねぇ勇者よりも、情け容赦も親子の情もねぇ魔王の仔の方がよっぽど世界を動かしてる。こりゃ商売あがったりだな。かはははは! 百合:貴様は一人で、 薔薇:何を戯けた事を。 勇者:あぁ戯れだ。思いつきのなぁ。かはは。なぁ、そうだ、俺様が口利きしてやっても良いぜ? 百合:口利き、 薔薇:だと? 勇者:あぁ。 : 勇者:てめぇら、勇者にならねぇか? : 百合:…………。 薔薇:…………。 勇者:おぉ? 黙ってんなよ。口利けなくなったか? 百合:……聴くに、 薔薇:堪えません。 百合:貴様の話は。 薔薇:勇者。 百合:に、なる? 僕らが? 勇者:おぉ、どうだ? 薔薇:舐めているのですか? 勇者:さっきまではな、 百合:喧嘩を売っているのか? 勇者:買ってやってんだよ、てめぇらの資質を。 薔薇:正気とは思えません。 百合:貴様ほんとに勇者か? 勇者:勇者に決まってんだろ? 魔王を殺す限りはな。 薔薇:魔王を殺す。 百合:それが根拠か。 勇者:そう名乗るから勇者なんじゃねぇ。そう呼ばれるから勇者なんだよ。勇者である俺様が証人だ。 薔薇:何故、私達を、 百合:僕らを勇者にしたがる? 勇者:あん? それは……。おっとすまねぇ。言い忘れてた。 薔薇:何を、 勇者:勇者になれんのはどっちかだ。だから片方は魔王として、 : 勇者:殺す。 : 0:間。 : 百合:それは、 薔薇:つまり、 百合:僕らに、 薔薇:私達の、 百合:命を、 薔薇:天秤に、 百合:かけろ、 薔薇:と、そういう意味、 百合:なのか? 勇者:さぁな。意味なんざ勝手に受け取れ。俺様は、どっちでもいいんだぜ? てめぇらが纏めて魔王として死のうが、どっちかが勇者として生きようが。半々でも全でも。ただ、ゼロはねぇ。今ここに居合わせる誰かが死ぬ。何もせずに魔王城を去るなんて、まさか思わないよな? 勇者が。勇者が魔王の城を出るときは、魔王の首が必要なのさ。だから、精々利口でドラマティックな選択をするんだなぁ? 百合:犠牲を、 薔薇:強いると? 勇者:この世界ってやつは犠牲の上に成り立ってんだよ。だから、教えろよ、犠牲になる『魔王』はどっちか? 百合:そうか、 薔薇:ならば、 百合:貴様は、 薔薇:邪悪で、 百合:俗悪な、 薔薇:世界の、 百合:クズで、 薔薇:私達の、 百合:僕らの、 薔薇:焼き尽くすべき、 百合:凍てつかせるべき、 : 薔薇:(同時に)敵ということだ。 百合:(同時に)敵ということさ。 : 勇者:おいおいおいおいおいおいおい! 勇者様に向かって悪や敵を語っちまうのかよ!? こんなに優しい選択肢を、チャンスを与えてやってる俺様に! : 百合:黙れ、 薔薇:外道。 勇者:はぁ? 俺様のどこが。 百合:僕が、 薔薇:私が、 百合:生かして、 薔薇:守るのは、 百合:己の命や、 薔薇:世界では無く、 百合:互いの命で、 薔薇:二人の世界。 百合:だから、 薔薇:故に、 百合:僕は、 薔薇:私は、 : 百合:(同時に)僕らは魔王。 薔薇:(同時に)私達は魔王。 : 百合:二人で、 薔薇:一つの、 百合:生を授かり、 薔薇:死を分かつ、 : 薔薇:(同時に)一心同体の魔王だ。 百合:(同時に)異体同心の魔王さ。 : 0:間。 : 勇者:……そうか、そうかよ、そうだな、そっかそっかそっかぁ! ならしゃぁねぇわな! ああ、さぱっと理解して欲しかったんだけどよぉ! ダメかぁ? ま、ガキだもんなぁ。だから苦手なんだよな、ガキ魔王の相手すんの。老害魔王よりも数倍フレッシュで、ぶっ殺すのは楽しいんだが、でもそれでもやっぱ苛つくよなぁ。優しく、親しみやすく、譲歩して、和やかに、そのクソみたいな生涯が、せめて最後くらいは楽しくなるよう、茶番を演出して、ゲームまで用意してやってんのに、理解ってねぇんだもんなぁ。 百合:何をだ、 薔薇:外道。 勇者:はぁ。ほんとてめぇらときたら、察し悪くて困っちまうんだけどよぉ。まぁ、この世界に生きとし生ける有象無象「俺様以外」って不具合を背負って生を受けちまったカス共は、須く理解が足りねぇのが道理だわな。血反吐はこうが、生皮引っぺがそうが、脊椎引き抜こうが、その事実は変わりゃしねぇ。カスは死んでもゴミになるだけ。自然の摂理だ、土に還れば許してやるよ。だからよ、安心しろ。てめぇらは特別じゃねぇ、特別カスなわけじゃねぇぜ? でも、もう、流石に気付いてんだよな? カスはカスなりに。気付いてねぇわけがねぇ。勘付いてるよな、感じてるよな? 理解らなくとも力量の差? 格の違いってやつ? よぉく味わってるんだよなぁ? 眼で、皮膚感覚で、魔力感知で、理性で、経験はガキにはまだ乏しいだろうが、それでも抱いてんだろ? 圧倒的力量差に対する恐怖を、絶望を、受け取ってんだろ、ひしひしと? 直感で、本能で、心で、魂で、全霊の攻撃のつもりのカスみたいな攻撃の無力さで。並の勇者ならば殺せる手筈の、俺様にとってはまさしく児戯そのものの攻撃。その失敗で。悟っちまってるんだよなぁ? 己の敗北、運命のその終わりを。死ってやつを。なぁ、そうだよなぁ、魔王? そうと言えよ。目の前には何ということだろう、俺様が、白連の勇者様が立っているんだ。断たれてるんだわ、その時点で命運を。言わずもがなだろ? まぁ、でも一応、言っておくけどよ。 : 勇者:遊びの時間は、終わりだぜ。 : 0:間。 : 薔薇:遊びの、 百合:時間だと? 勇者:そう、ガキの遊びだ。楽しかったかぁ、最期のひとときは? 薔薇:楽しい……? 巫山戯るな。クズが。 百合:僕らは徹頭徹尾甚だ不快だよ。 薔薇:突如沸いて出てきた、狂気の男、勇者を名乗る無礼で不遜で気色の悪いゴキブリじみた不審者の侵入のせいで。 百合:貴様の望みは何だ? 何がしたい? 自称勇者。醜悪なる精神構造をこれ見よがしに露出して、何のつもりかな? 薔薇:露出狂。貴様は理解したくも無い程、げに悍ましい。 百合:舐めるな、思い上がるな、見下すな、いい気になるな、傲るな、身の程を弁えろ。 薔薇:あまりにも度しがたい貴様の変態性に眉を顰め、静観していたが、その底知れない存在の歪さ。確信した。貴様は滅ぼすべき私達の敵で、 百合:貴様を勇者などと呼ぶ世界もまた滅ぼすべき害悪と。失敗、敗北、運命の終わり、死だと? 薔薇:勇者になるか? 百合:クソ食らえだ。 薔薇:遊びの時間は終わりと言ったな。 百合:ルイス・ロータスヴァイス。確かに貴様は強いらしい。 薔薇:私達の攻撃をものともしない、脅威なのだろう。 百合:しかし、それが何だというのだ? 薔薇:私達は諦めはしない。 百合:立ちはだかるのが、 薔薇:どんな苦境や、 百合:絶望だとしても、 薔薇:全て飲み下し、 百合:悉く滅ぼす。 薔薇:私達が、 百合:僕らが、 : 薔薇:(同時に)二人で一つの魔王である限り。 百合:(同時に)二人で一つの魔王である限り。 : 勇者:……は、はは、ははははははは! 薔薇:何が、 百合:おかしい? 勇者:かはははは、こんなにおかしいことは無いだろうが? 雑魚の魔王もどきが、至高の勇者である俺様の提案を蹴って、威勢良く口上を宣い始めた。勝ち目なんて微塵も無いってのに! 薔薇:私達の在り方を、生き死にを勝手に決めるなよ。 百合:下郎が。何様のつもりだ、 薔薇:私達の命は私達だけのものだ。 百合:貴様の出る幕など無い。 薔薇:塵も残さず、 百合:温度を喪い、 薔薇:疾く失せよ。 百合:さっさと死ね。 勇者:かはは! そんなに言うなら一蓮托生だ! : 薔薇:我は黒薔薇の魔王、アマラ・バジーリオ・ジルド・イル・ディアヴォロ。 百合:我は黒百合の魔王、ノーラ・リリアーナ・ジルダ・イル・ディアヴォロ。 勇者:白連の勇者! ルイス・ロータスヴァイス! : 勇者:かはは! いいぜ、送ってやらぁ! 二人纏めて地獄によぉ! : 勇者:天上の花《シャイン・ザ・ヴレイヴ・ロータス》! : 0:勇者の拳が光り輝き、玉座の間を染める。 : 勇者:くははははは! 口ほどにもなかっ――あ? : 0:光をねじ曲げる闇の中から無傷の魔王が現れる。 : 薔薇:地獄行きは、 百合:貴様の方だ。 : 勇者:な、に……? あ、ありえねぇ! 何だ、この闇の力……!? : 百合:独りぼっちの、 薔薇:勇者には分かるまい。 : 勇者:なんだと……! : 百合:命よりも、 薔薇:何よりも、 : 百合:(同時に)大切な人と歩みたいと願う力が! 薔薇:(同時に)大切な人と生きたいと望む力が! : 勇者:そんなもんにっ!! ――っは! がら空きだぁ! : 百合:っく、アマラ! 任せて! 薔薇:分かってる。やれ。 勇者:な、放せや! 薔薇:火砕流《フルッソ・ピロクラスティコ》。 : 勇者:だぁぁぁ! 効かねぇって……! : 百合:雪崩斬《タジリオ・ダ・ヴァランガ》! : 勇者:ぬわぁぁぁ!? こいつら調子に……! : 薔薇:我が闇を焦がす爆炎の名の下に命ず! 百合:我が闇を鎖す氷晶の名の下に命ず! : 勇者:な!? : 薔薇:(同時に)圧し壊せ――常闇火砕流《フルッソ・ピロクラスティコ・デロスクリタ・エテールナ》! 百合:(同時に)断ち潰せ――常夜雪崩斬《タジリオ・ダ・ヴァランガ・ペル・トゥッタ・ラ・ノッテ》! : 勇者:な、にぃぃぃぃ……!? : 0:魔王の技が玉座の間を黒く染める。 : 0:◇◆ : : 0:◇◆ : 勇者:う、嘘だ……! 薔薇:ノーラ。 百合:アマラ。 勇者:俺様が負けるなんて……! 薔薇:いくよ。 百合:いこう。 勇者:来るな! 薔薇:私らは、 百合:僕達は、 勇者:てめぇらは! 百合:終わらない、 薔薇:終わらせない、 勇者:なんなんだよ! 百合:これまでも、 薔薇:これからも、 勇者:巫山戯んな! 百合:君を、 薔薇:あなたを、 勇者:俺様は! 百合:守って、 勇者:世界を救う! 薔薇:生かす、ただ、 百合:その為に、 勇者:勇者で! 薔薇:杖を握り、 百合:剣を携え、 勇者:この拳で! 薔薇:抗おう、 百合:覆そう、 勇者:闘って! 薔薇:運命を、 百合:宿命を、 勇者:全てを! 薔薇:世界を、 百合:滅ぼそう。 勇者:ねじ伏せる! : 薔薇:(同時に)勇者を。 百合:(同時に)勇者を。 勇者:(同時に)魔王を! : 勇者:くそ、くそ! 雑魚だった! 雑魚の筈だった! この俺様に傷の一つも負わせられないいつも通りの有象無象で、よくいるただの魔王、いや、レアもんの双子の魔王で、魔王なのに魔王を殺して魔王になった魔王で、でもそんなの関係ねぇ! 俺が、俺様こそが、至高で、天上天下唯我独尊! 並ぶ者のない最強なんだ! それが負けるはずが――! : 薔薇:並ぶ者が居ないからですよ。 勇者:な、に……? 百合:そうやって、見下すばかりだから、 勇者:な、なんだその目は! 薔薇:足下を掬われる。 勇者:う、うるせぇ! てめぇらなんて一人じゃ何も出来ないくせに! 百合:一人じゃ何も? 薔薇:えぇ、出来ませんね。 勇者:は、はは、分かったら俺様に詫び入れて……、 薔薇:でも、 勇者:は? 百合:二人なら、 勇者:おい、 薔薇:何だって出来ます。 勇者:よせ、 百合:魔王殺しも、 勇者:やめろ……!? 薔薇:それに、 勇者:お、俺様が、お、俺が悪かった! だから! : 薔薇:(同時に)勇者殺し。 百合:(同時に)勇者殺し。 : 勇者:く、クソ! こんな筈じゃ……! は、はは、こんな下らない戦いに命なんてかけてられるか! いくぜ! 勇者:絶技! ブレイヴ・エスケープ! 勇者:かはは! あばよ双子のドブネズ――なっ!? : 0:勇者の足が凍りついている。 : 百合:どこに行こうと、 薔薇:言うのです? 勇者:あ、足が凍って……! 薔薇:魔王の城に踏み込んでおいて、 百合:何もせずに城を去らせるなんてまさか、 薔薇:思いませんよね? 魔王が。 勇者:な、何言って……! 薔薇:勇者が魔王の城を出るときは、 百合:魔王の首が必要、 薔薇:なんですってね? 勇者:あ、ああ、俺様は……! そう! 国王に命令されて! そう! そうだ! 命令されて仕方なくお前らの首を取りに来たんだ! 百合:へぇ、 薔薇:そうですか。 勇者:も、もし魔王の首をとって帰らないと、 薔薇:どうなるんですか? 勇者:え、……ね、姉ちゃんの命が。 百合:命が? 勇者:俺の愛する姉ちゃんが人質にとられてるんだ! 薔薇:……そうですか。 百合:それは可哀想に。 勇者:だ、だろ? だから――! 薔薇:ご冥福をお祈りします。 勇者:な!? お前らは鬼か! この人でなし! 百合:人でなし? まぁ、僕ら魔王だしね。 勇者:じ、地獄に落ちるぞ! 薔薇:構いません。 勇者:なに!? 百合:どうせこの世は、 薔薇:地獄です。 勇者:は……? 百合:この世の地獄から、 薔薇:あの世の地獄に行ったとて、 百合:一体どんな違いが、 薔薇:あるでしょうか? 勇者:ふ、巫山戯やがって……! 薔薇:それにノーラが、 百合:アマラが一緒に居たならば、 薔薇:そこがどこであるかなど、 百合:どうでもいいよ。 勇者:く、クソが……! 薔薇:だからら貴様は、 百合:一人で行ってくればいい。 薔薇:地獄に。 百合:お姉さんとやらは、 薔薇:行って天国でしょうし。まぁ、 百合:貴様の頭の外に居れば、 薔薇:の話ですが。 勇者:……クソが! クソが! クソが! クソが! クソがぁぁ! 百合:おやおや、最近の虎は、 薔薇:よく吠えるんですね。 百合:それに随分汚い。 勇者:黙れ! 汚ぇドブネズミが! 俺様を一度倒したくらいでいい気になりやがって! 復讐だ! 復讐してやる! 百合:どうやって? 勇者:生き返ってでも! 生まれ変わってでも! 祟っててでも! 薔薇:そうですか。ならば、次に出会うときは、 百合:精々利口でドラスティックな選択を、 薔薇:心がけることですね。 勇者:……後悔させてやる! 俺様に噛みついたことを! 生まれてきたことを! くは、くはは! くはははははははは! 薔薇:終わりにしよう。 百合:もういいよね。 : 薔薇:(同時に)咲け――闇の灼花《ローゼ・スクーロ・デル・プルガトーリオ》。 百合:(同時に)咲け――闇の氷花《ジーリョ・スクーロ・ディ・コチート》。 : 0:勇者を炎と氷の花が包み込み、闇色の灰と雪に変えてゆく。 : 勇者:お、れ様、は、白、連の勇、者、ルイス、ロー……。 : 0:勇者が崩れ去る。 : 百合:終わったな、アマラ。 薔薇:終わったね、ノーラ。 百合:怪我はないかい? 薔薇:ノーラこそ。 百合:怪我しか無いな。 薔薇:お互いに。 百合:強敵だった。 薔薇:死んでても、 百合:おかしくなかった。 薔薇:ノーラ。 百合:アマラ。 : 薔薇:(同時に)生きてて良かった。 百合:(同時に)生きてて良かった。 : 薔薇:あなたのいない世界なんて、 百合:君のいない人生なんて、 薔薇:考えられない。 百合:考えたくもない。 薔薇:そうだね。 百合:そうだろ。 薔薇:ところで、さ。 百合:どうした? 薔薇:あいつに、二人とも魔王だって言ったとき。 百合:言ったとき? 薔薇:……異体同心、って言ったけど、どういう意味? 百合:は? 薔薇:私達は一心同体。 百合:…………。 薔薇:じゃないのか? 百合:……やだよ。 薔薇:え? 百合:なんか、やじゃん。 薔薇:ど、どうして? 百合:心はともかく、体も一つって。 薔薇:…………。 百合:なんか、……エロい。 薔薇:……そうかな。 百合:そうなんだよ。 薔薇:まぁ、ノーラが言うなら。 百合:あぁ、一心同体は無しだアマラ。 薔薇:分かった。 百合:分かったか。 薔薇:ところで、 百合:何だ? 薔薇:どうしようか? 百合:何が? 薔薇:これの始末。 : 百合:あ。 : 薔薇:派手に始末したからね。 百合:後始末が大変だなぁ、これは。 薔薇:まぁ、 百合:それも、 : 薔薇:(同時に)生きてる。 百合:(同時に)生きてる。 : 薔薇:ってこと、 百合:なんだろうな。 薔薇:ね。 百合:アマラ。 薔薇:なに? 百合:……ここは任せた! : 0:ノーラ、逃げる。 : 薔薇:あ! ノーラ! 薔薇:……全く。 薔薇:でも、生きてて、良かった。 : 0:◆◇ : 薔薇:闇の中から、 百合:光を知らず、 薔薇:あなたと、 百合:君と、 薔薇:落ちたこの地が、 百合:流れるこの血が、 薔薇:どんな地獄であったとて、 百合:悪魔のものであったとて、 薔薇:やがて全てが黒く染まり、 百合:そして全てが黒く塗られ、 薔薇:この世の穢れを、 百合:世界の汚れを、 薔薇:忘れたならば、 百合:失くしたならば、 薔薇:灰の下から命を燃やし、 百合:雪の下から命が芽吹き、 薔薇:あなたが笑顔でいられる、 百合:君の居場所に一輪の、 薔薇:あなたの世界に一輪の、 百合:生を授かり、 薔薇:死を分かち、 : 薔薇:(同時に)愛を湛えて花は咲く。 百合:(同時に)愛を讃えて花は咲く。 : 0:◇◆