台本概要

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タイトル 月と不死の少年
作者名 凛太郎
ジャンル ホラー
演者人数 1人用台本(不問1)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 それは空に大きな 目の醒めるほど青い月が出る夜…僕は彼女と出会った。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
不問 - この物語の主人公
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:月と不死の少年 0:  本文:  本文:それは空に大きな 目の醒めるほど青い月が出る夜の事だった 本文:月は冷たく 白く輝きを放ち ただ静かにそこに在った 本文:  本文:「ああ、なんて綺麗な 月なんだ」 本文:ぼんやりとした頭でそんな事を思う。 本文:文字通り 今の僕は 頭しかなかった。 本文:  本文:ふと隣で、誰かの泣く声が聞こえた。 本文:願うような 祈るような 心の底から悲しいというように 本文:「ごめんなさい。」と嗚咽を漏らしながら 本文:  本文:彼女は 僕を解体し捕食していた 本文:  本文:夜の帳が降りた 闇の中 本文:世界は青と赤に染まり 彼女を彩っていく 本文:静寂を引き裂くのは 獣じみた食事の音だけ 本文:  本文:泣きながら 何かに願うように 祈るように 本文:それでも 彼女は手を止めない 食べるのをやめない 本文:いや正確には 本文:やめるわけにはいかない ここで止まるわけにはいかない 本文:そんな意志が 彼女の濡れる瞳に映っていた 本文:  本文:その姿は幻想的で儚くて そして同じくらい 本文:醜く 凄惨(せいさん)だった 本文:  本文:こんな状況に置かれて 本文:それでも 僕の心に浮かんだ言葉は 本文:彼女の姿は美しい というものだった。 本文:  本文:「こんばんは、月が綺麗ですね。」 本文:  本文:…自分を殺した相手に話しかけるなんて 僕もどうかしている。 本文:  本文:ここでようやく彼女は食事の手を止め 本文:「え?」と驚愕の表情を浮かべた 本文:  本文:そりゃそうだ。誰だって自分が殺した相手が しかも首だけのやつに 本文:「こんばんは」 本文:なんて脳天気に話しかけられたら そんな表情を浮かべるだろう。 本文:  本文:「何だい、別に 人外の者を見るのが初めて ってわけじゃないだろう。 本文:僕も君と同じ 人ならざるの者さ。 本文:ふむ…鋭い牙と爪、長い尻尾にケモノ耳。そうか君は人狼(ワーウルフ)だね。」 本文:  本文:極めて紳士的に話しかけたつもりだったが…あまり効果は無かったようだ。 本文:  本文:「ごめんなさい。」 本文:か細い声でそう言うと 彼女は俯いてしまう。 本文:まるで悪いことをした子供が 親に叱られるように。 本文:  本文:「どうして君が悲しそうに 僕を食べているか知らないが、 本文:どうせなら最後まで 責任をもって殺しきってくれないと。」 本文:  本文:「どういうこと?」と彼女が顔を上げるよりも先に 僕の体に異変が起きる。 本文:欠損した部位が バラバラになった肉体が まるで時間の針を戻すように 元の形に戻っていく。 本文:  本文:「僕の体は少々特殊でね、殺されても死ねないんだ。どういう原理かは解らないけど。 本文:体がバラバラになっても どこか欠損してしまったとしても 本文:体の一部が残っている限り こうやって再生してしてしまうんだ。 本文:  本文:とはいえ、痛みがないわけじゃない。痛いものは痛い。 本文:出来れば一度きりで終わらせて欲しい。 本文:だからそういう意味で、 本文:「せっかく殺したんだったら ちゃんと最後まで責任を持って殺し切ってくれないと困る」 本文:生き返ってしまったら 「また死ぬ。」 という体験をしないといけないからね。 本文:  本文:新しく生え変わった体を軽く動かし 異常がないかを確認しながら 本文:僕は事も無げに 言葉を続ける。 本文:  本文:「そう、僕は完全に死にたいんだ。 本文:だから僕を殺したことも 食べてしまった事も 気にする必要はないよ。 本文:  本文:でもそうだな、君のやり方は悪くなかった。骨の1片まで食べ尽くしてくれれば 本文:あるいは もう生き返らなくて済むのかもしれない。 本文:なぁ、良かったら僕を完全に食べきってくれないか?」 本文:  本文:「こいつ馬鹿なの…」と彼女は困惑の表情を浮かべ、 本文:しばし沈黙したあと 首を横に振った。 本文:どうやら今日はもうお腹いっぱいで これ以上は入らないのだそうだ。 本文:  本文:「次の食事は一ヶ月後。」 本文:そう言った彼女の顔は 苦虫を噛み潰したかの様に曇っていた。 本文:  本文:なる程、彼女が泣いていた理由はこれか。 本文:彼女は 好き好んで食べているわけではない。 本文:生きるため どんな事をしてでも生き延びるため。 本文:例えそれで 誰がどうなろうとも 自分がどんな事になっても。 本文:彼女は生き続けると決めているのだ。 本文:  本文:だからあんなにも 願うように 祈るように 本文:ただただ泣きながら 食事をしていたのだ。 本文:  本文:彼女が何のために そこまでして生きようとしているのかは知らない。 本文:  本文:だけど、きっとこの先も彼女は この蒼い月が昇るたびに 本文:涙を流し 心を殺し 人を襲うのだろう。 本文:  本文:自分の願いが 祈りが 天に届くまで。 本文:  本文:「そうか、じゃあ僕が君の傍に居よう。 本文:君の願いが叶うまで 君の祈りが届くまで。 本文:その時まで 僕は君に食べ続けられよう。 本文:  本文:その代わり、君の願いが 祈りが叶った時は 本文:どうか僕を 完全に殺して欲しい。」 本文:  本文:気が付けば そう言葉を放っていた。 本文:  本文:食べられるのが 怖くないわけではない。 本文:だが少なくとも 僕が我慢すれば 本文:彼女はもう 誰も襲わなくて済むのだ。 本文:  本文:それに ああ そうだ 僕は 本文:あの夜空に浮かぶ蒼い月に 目を奪われたように 本文:彼女に 心を奪われたのだ 本文:  本文:心を奪われた ただそれだけ 本文:だけど それが全て。 本文:  本文:彼女はどうしていいか解らず 困惑の表情を浮かべるが 本文:やがて「本当にいいの?」と呟いた。 本文:  本文:僕は彼女の手を取る。 本文:ビクリ と怯えたように震えたが、手を解(ほど)くことはしなかった。 本文:  本文:「あたたかい」と一言漏らすと 本文:彼女は静かに 目を瞑る。 本文:  本文:祈るように 頼るように 本文:ただずっと 僕の手を握っていた。 本文:  本文:月が沈み、夜が明けようとしていた。 本文:  本文:どうか願わくば 彼女の旅の果てが 本文:笑顔でありますように。 本文:  0:完

0:月と不死の少年 0:  本文:  本文:それは空に大きな 目の醒めるほど青い月が出る夜の事だった 本文:月は冷たく 白く輝きを放ち ただ静かにそこに在った 本文:  本文:「ああ、なんて綺麗な 月なんだ」 本文:ぼんやりとした頭でそんな事を思う。 本文:文字通り 今の僕は 頭しかなかった。 本文:  本文:ふと隣で、誰かの泣く声が聞こえた。 本文:願うような 祈るような 心の底から悲しいというように 本文:「ごめんなさい。」と嗚咽を漏らしながら 本文:  本文:彼女は 僕を解体し捕食していた 本文:  本文:夜の帳が降りた 闇の中 本文:世界は青と赤に染まり 彼女を彩っていく 本文:静寂を引き裂くのは 獣じみた食事の音だけ 本文:  本文:泣きながら 何かに願うように 祈るように 本文:それでも 彼女は手を止めない 食べるのをやめない 本文:いや正確には 本文:やめるわけにはいかない ここで止まるわけにはいかない 本文:そんな意志が 彼女の濡れる瞳に映っていた 本文:  本文:その姿は幻想的で儚くて そして同じくらい 本文:醜く 凄惨(せいさん)だった 本文:  本文:こんな状況に置かれて 本文:それでも 僕の心に浮かんだ言葉は 本文:彼女の姿は美しい というものだった。 本文:  本文:「こんばんは、月が綺麗ですね。」 本文:  本文:…自分を殺した相手に話しかけるなんて 僕もどうかしている。 本文:  本文:ここでようやく彼女は食事の手を止め 本文:「え?」と驚愕の表情を浮かべた 本文:  本文:そりゃそうだ。誰だって自分が殺した相手が しかも首だけのやつに 本文:「こんばんは」 本文:なんて脳天気に話しかけられたら そんな表情を浮かべるだろう。 本文:  本文:「何だい、別に 人外の者を見るのが初めて ってわけじゃないだろう。 本文:僕も君と同じ 人ならざるの者さ。 本文:ふむ…鋭い牙と爪、長い尻尾にケモノ耳。そうか君は人狼(ワーウルフ)だね。」 本文:  本文:極めて紳士的に話しかけたつもりだったが…あまり効果は無かったようだ。 本文:  本文:「ごめんなさい。」 本文:か細い声でそう言うと 彼女は俯いてしまう。 本文:まるで悪いことをした子供が 親に叱られるように。 本文:  本文:「どうして君が悲しそうに 僕を食べているか知らないが、 本文:どうせなら最後まで 責任をもって殺しきってくれないと。」 本文:  本文:「どういうこと?」と彼女が顔を上げるよりも先に 僕の体に異変が起きる。 本文:欠損した部位が バラバラになった肉体が まるで時間の針を戻すように 元の形に戻っていく。 本文:  本文:「僕の体は少々特殊でね、殺されても死ねないんだ。どういう原理かは解らないけど。 本文:体がバラバラになっても どこか欠損してしまったとしても 本文:体の一部が残っている限り こうやって再生してしてしまうんだ。 本文:  本文:とはいえ、痛みがないわけじゃない。痛いものは痛い。 本文:出来れば一度きりで終わらせて欲しい。 本文:だからそういう意味で、 本文:「せっかく殺したんだったら ちゃんと最後まで責任を持って殺し切ってくれないと困る」 本文:生き返ってしまったら 「また死ぬ。」 という体験をしないといけないからね。 本文:  本文:新しく生え変わった体を軽く動かし 異常がないかを確認しながら 本文:僕は事も無げに 言葉を続ける。 本文:  本文:「そう、僕は完全に死にたいんだ。 本文:だから僕を殺したことも 食べてしまった事も 気にする必要はないよ。 本文:  本文:でもそうだな、君のやり方は悪くなかった。骨の1片まで食べ尽くしてくれれば 本文:あるいは もう生き返らなくて済むのかもしれない。 本文:なぁ、良かったら僕を完全に食べきってくれないか?」 本文:  本文:「こいつ馬鹿なの…」と彼女は困惑の表情を浮かべ、 本文:しばし沈黙したあと 首を横に振った。 本文:どうやら今日はもうお腹いっぱいで これ以上は入らないのだそうだ。 本文:  本文:「次の食事は一ヶ月後。」 本文:そう言った彼女の顔は 苦虫を噛み潰したかの様に曇っていた。 本文:  本文:なる程、彼女が泣いていた理由はこれか。 本文:彼女は 好き好んで食べているわけではない。 本文:生きるため どんな事をしてでも生き延びるため。 本文:例えそれで 誰がどうなろうとも 自分がどんな事になっても。 本文:彼女は生き続けると決めているのだ。 本文:  本文:だからあんなにも 願うように 祈るように 本文:ただただ泣きながら 食事をしていたのだ。 本文:  本文:彼女が何のために そこまでして生きようとしているのかは知らない。 本文:  本文:だけど、きっとこの先も彼女は この蒼い月が昇るたびに 本文:涙を流し 心を殺し 人を襲うのだろう。 本文:  本文:自分の願いが 祈りが 天に届くまで。 本文:  本文:「そうか、じゃあ僕が君の傍に居よう。 本文:君の願いが叶うまで 君の祈りが届くまで。 本文:その時まで 僕は君に食べ続けられよう。 本文:  本文:その代わり、君の願いが 祈りが叶った時は 本文:どうか僕を 完全に殺して欲しい。」 本文:  本文:気が付けば そう言葉を放っていた。 本文:  本文:食べられるのが 怖くないわけではない。 本文:だが少なくとも 僕が我慢すれば 本文:彼女はもう 誰も襲わなくて済むのだ。 本文:  本文:それに ああ そうだ 僕は 本文:あの夜空に浮かぶ蒼い月に 目を奪われたように 本文:彼女に 心を奪われたのだ 本文:  本文:心を奪われた ただそれだけ 本文:だけど それが全て。 本文:  本文:彼女はどうしていいか解らず 困惑の表情を浮かべるが 本文:やがて「本当にいいの?」と呟いた。 本文:  本文:僕は彼女の手を取る。 本文:ビクリ と怯えたように震えたが、手を解(ほど)くことはしなかった。 本文:  本文:「あたたかい」と一言漏らすと 本文:彼女は静かに 目を瞑る。 本文:  本文:祈るように 頼るように 本文:ただずっと 僕の手を握っていた。 本文:  本文:月が沈み、夜が明けようとしていた。 本文:  本文:どうか願わくば 彼女の旅の果てが 本文:笑顔でありますように。 本文:  0:完