台本概要
214 views
タイトル | 思い出の彼方へ |
---|---|
作者名 | おちり補佐官 (@called_makki) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
純愛ラブストーリーです。 センシティブな表現も少しありますのでご注意ください。 物語の最初から観覧車のシーンまでは、美優は10歳の姿です。 終盤の同窓会シーンでは25歳です。 214 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
龍彦 | 男 | 120 | 龍彦(たつひこ) 美優のことが好きだった。しかし、美優の転校以来、会えていない。 |
美優 | 女 | 117 | 美優(みゆ) 龍彦の同級生であり、皆の人気者。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
龍彦:おい! どこから入ってきたああああ!
美優:え、どこって。どこ? ここ!
龍彦:ここは俺んちのトイレだよ! トイレ!
美優:やめて、動かないで。股間の! 見えるから......!
龍彦:ぬぁっ! わ! 見るな!
美優:待って、あんた。たってる?
龍彦:はァ!? た、た、たってないし!
美優:いやだって、そんなに手で隠すの変でしょ。不潔!
龍彦:だからそんなに見るなって!
美優:仕方ないじゃない。こんなとこに来ちゃったんだから!
龍彦:なんでトイレなんかに急に現れるんだよ、馬鹿!
美優:知らないわよ! あんたはトイレでなにしてんのよ! 変態! 不潔!
龍彦:いや、まてまて。待て!
龍彦:待て。待て!
美優:......はい。
龍彦:静かにしろ。
美優:はい。
龍彦:どうして、お前はここにいるんだ。
美優:そ、そんなの私だって知らないわよ。
龍彦:どうして、どうしてお前は浮いているんだ!
美優:それは......その......。
龍彦:そして、どうして、どうして、どうして、どうして、お前は小学校のときの姿なんだ!
美優:し、知らないわよ!
龍彦:......。
美優:......。
龍彦:今さらだが、本当に美優なのか?
美優:ええ、そうよ。
龍彦:なにがあってここに来たんだ?
美優:なにが......。
美優:あ。
龍彦:ん? どした?
美優:わたし。
龍彦:ああ。
美優:事故に遭ったんだ。
美優:それで、なんだっけ。
龍彦:......幽霊に、なったのか?
龍彦:25の俺と同い年のはずのお前が......10歳くらいの姿で?
龍彦:......は?
美優:わ、私だってわかんないわよ。
美優:そもそも、あんたとは私が小学校を転校してから、ただの一度も会ってないじゃない。
美優:......あ。
龍彦:どうした。
美優:そうだ。そうだそうだ。
龍彦:どうしたどうした。
美優:思い出した。
美優:わたし、未練があったはずなんだ。
龍彦:お? おう。とりあえず何でも分かること、言ってみろ。
美優:わたしね。事故に遭ってから......その。真っ暗な心の世界っていうのかな。そこで、不思議な声を聞いたの。
龍彦:どんな。
美優:声っていうと、ちょっと違うかもなんだけど。
美優:感覚に訴えかけえくる、みたいな。
龍彦:うん。
美優:「このまま成仏していいのか?」みたいなのが聞こえたの。
美優:でね。思ったの。
美優:私のことを強く思ってくれた人にもう一度、感謝を伝えたいなって。
龍彦:ああ。
美優:そう思ったら、急に辺りが白い光に包まれてね。で、気がついたら......。
龍彦:小学生のときの、10歳くらいの姿で、俺のトイレに来ていた、と。
美優:うん。
龍彦:そっかぁ。
美優:......なんで。
美優:なんで。
龍彦:なにが。
美優:なんで......どうして! 全然会ってない、あんたのとこに来ちゃったの。
龍彦:は。そんなこと言うんだったら、どこへでも行けばいいじゃんか。その......お化けなんだし。
美優:行けたらとっくに行ってるわよ。私を大切にしてくれたママとパパにも会いたい、彼氏にだって......何も言えずじまいだったんだから。
龍彦:......そっか。
龍彦:ごめん、な。
美優:なんで。
美優:あんただって迷惑してるでしょ。きったない一人遊びしてたところに、急に知り合いの幽霊が現れたんだもん。
龍彦:ごめんな。
美優:どうして謝るの。
龍彦:たぶん、俺のせいだ。
美優:......は? どうしてそうなるの。
龍彦:俺、いっつも考えてたんだ。美優のこと。
美優:え?
龍彦:その......ひとりで、するとき。
美優:......。
龍彦:お前、いや、君のことを考えてたんだ。
美優:なんで。......そんな、ずっと?
龍彦:うん、転校したあの日から。ずっと。
龍彦:ごめんな、気持ち悪いよな。
龍彦:俺、小学生のとき、すっごい好きで、実はずっと見てたんだ。
美優:そう......なんだ。
龍彦:で、初めてひとりでしたときに、考えいてたのも君だったんだ。以来、ずっと今日まで。
龍彦:だから、美優が現れたときには勿論考えていたし、嬉しかった。だけど、反面、ついに呪われちまったかと思った。
美優:どういうこと?
龍彦:ん。勝手に、さ。ずっと変なこと考えてたから、バチでも当たったか。それとも頭がおかしくなっちまったかって。そんなところ。
美優:そう。
龍彦:うん。ごめんな。俺の至高の嗜好のために。
美優:別に、気にしてないわ。
龍彦:え。
美優:だって、好きな人のこと考えるのは至極当然でしょ。
美優:好きじゃない人のこと考えてする方が不健康ってものだと思うわ。
龍彦:そうかな。あ、ありがと。
美優:けどね。
龍彦:うん。
美優:正直いって、呪いたいわ。
龍彦:......え?
美優:だって、あなたのそんなことの為に、私はせっかくのチャンスをみすみす逃したんだもん。
龍彦:それは......。確かに。
美優:でしょう?
美優:だから。
龍彦:だから?
美優:私は、あなたのことを呪うことにする。
龍彦:え?
美優:呪いを解くには、わたしから感謝される必要がある。
龍彦:どういうこと?
美優:ん?
美優:つまりは、私が成仏するには「わたしが、私を思ってくれている人に対して感謝を伝える」必要があると思うの。
龍彦:なるほど。
美優:だから、一人遊びを邪魔されたくなければ、私を喜ばせなさい。
美優:ほら、話してると集中力が途切れて、しょんぼりしちゃってるじゃん。
龍彦:お前! 浮けるからって覗きこむな! やめろ!
美優:見た目は小学生、中身は25歳、だもんね。今さら見たって動じないわよ。
龍彦:ち、ちが。そうじゃない。
美優:なにがよ。
龍彦:あぁ、そんなに見るから......。
美優:わぁぁ......、え、そんなすぐ大きくなるの。怖、気持ち悪、なに考えてんの。
龍彦:あのなぁ。俺は、お前のその姿で、十数年にわたって自分の息子を慰めてるんだ。
龍彦:そんな子に現実に見られたらどうなるかくらいわかるだろ!
美優:け、けど、さっきまでしょんぼりだったじゃん。
龍彦:頑張って抑えてたんだよ! 真剣な話っぽかったから! 自分を呪う幽霊が、ことの顛末を話してるときに、呑気におったててたら失礼だろ?
美優:まぁ、ずっとパンツおろしっぱなしなのも失礼だと思うんだけど。
龍彦:いやそれは、な。ここ、トイレだから。
美優:ふぅーん。
龍彦:おう。
美優:んで? してくれるの?
龍彦:するもなにも、呪うんだろ。
美優:うん。妨害する。
龍彦:ったく、何すりゃいいんだよ。
美優:んー。色んな景色を見てみたい。
美優:私は、さ。自分じゃどこも行けないから。海とか山とか遊園地とか、楽しませてよ。
龍彦:そう簡単に言うけどなあ......。
龍彦:けどわかった。連れてってやる。
美優:約束だよ!
龍彦:おう。
龍彦:
龍彦:
龍彦:(M)どうやら、美優が来れるのは、俺がひとりで致したところだけらしい。それも、何度も致した場所なら、していなくてもいいのだが、数回の場所は、興奮していなければ美優は来れないようだ。
龍彦:きっと、想いの力が強ければ強いほど、彼女は存在できる。なら、俺が思わなければどうなのだろう、という考えも一瞬、頭をよぎったが、それは考えないことにした。
龍彦:そして、俺はまたズボンを脱ぐ。
龍彦:
0:山奥、小さな川のそばで、倒れた杉木の上で裸になっている龍彦
龍彦:夏のわりには寒いなあ。ま、森のなかで裸になってりゃ、そりゃそうか。
美優:やっほー! 龍彦! やってる~?
龍彦:やってるから来れたんだろ。
龍彦:ほら、どうだ。この大自然!
美優:すっごーい。龍彦が動物みたいにみえる。
龍彦:ほぉ、なんの動物?
美優:んとねぇ、猿!
龍彦:......まんまじゃねえか。
美優:それはさておき、いいところね。
龍彦:だろ? 都会のトイレとは何もかもが違うだろ。
美優:うん。優しい太陽、さざめく葉っぱ、せせらぐ川、またこんなとこに来れるだなんて。
龍彦:喜んでもらえてよかった。
龍彦:まぁ、俺も気持ちいいからウィンウィンだな。
美優:そうね。
龍彦:にしても、お前さ。
美優:なに?
龍彦:普通に見てくるようになったな。
美優:そりゃね。私を呼ぶ儀式としか思ってないから。
龍彦:そっか。
美優:それに、お互い触れることはできないからね。だから犯されるなんて心配もない!
龍彦:それもそうだな。
美優:うん。
龍彦:......な、なあ。
美優:ん?
龍彦:聞きたいことがあるんだけど、いいか?
美優:どうぞー?
龍彦:俺のとこに来てないときって、いつも何処で過ごしてんの?
美優:あー。やっぱり気になるよね。
龍彦:うん。聞いちゃまずかった?
美優:ううん、大丈夫。
美優:なーんかね、何処でもないところ。
龍彦:え?
美優:説明が難しいんだよね。
龍彦:前に声を聞いたとかいう真っ暗な世界でもなくて?
美優:うん。そこだったら、私は自分がそこにいるって思えるんだけど、本当になにもないの。
龍彦:そうなのか。
美優:ただ......。
龍彦:ん?
美優:ただね。よく言うじゃない? 人が本当に死ぬのは、忘れられたときだ。って。
龍彦:ああ。
美優:龍彦のところに来るとき以外はそんな状態に近いのかなって。そう思うの。
龍彦:うん。
美優:でね、そうだったらイヤだなって。無性に悲しくなる。だから、こうやって龍彦がどんなかたちであれ、私を思い出してくれてるのは嬉しい。
龍彦:そう、か。けど、きっとご両親も彼氏も、さ。たくさん美優のこと思ってるよ。たまたま俺のとこにしか来れなくなっただけで。
美優:だと、嬉しいな。
龍彦:でも、だからこそ俺、がんばるよ。たくさん考えて、たくさん美優をそんな悲しいところから出してきてやる。
美優:うん。
龍彦:ま、単に俺が気持ちよくなるだけなんだけどな。
美優:......龍彦くん。
龍彦:どうした。もっと自由に遊べよ。そんなに外なんて来れないんだからさ。
美優:うん。
美優:
美優:
龍彦:(M)それから、色んなところへ二人でいった。もっとも、俺が一人でいっているだけなのだけれど、たくさん、行った。
龍彦:そして今日、夜の遊園地に来た。近くの海で花火があがるそうだ。人でごった返す園内を進み、観覧車の整理券を購入した。
龍彦:
美優:こ、ここは?
龍彦:外、見てごらんよ。
美優:......動いてる。きれいな夜景。
龍彦:そう。ここは観覧車。暗くて狭い個室でここほどロマンチックなとこはないかなって。
美優:うん。
龍彦:一緒に居れて嬉しかった。けど、君は成仏すべきだと思う。で、するとしたら......ここかなって。
美優:ありがとう。
美優:こんな綺麗なところ用意してくれて。
龍彦:もちろん、だって、好きだから。
美優:龍彦くん。
龍彦:なに。
美優:泣いてる......の?
龍彦:そんなわけ、ない、だろ。
美優:待って、ハンカチがあるはず。
龍彦:触れられるのか?
美優:うん、涙なら。ただの水と一緒。もうそれは龍彦くんじゃないから。
龍彦:そっか。ん。ありがと。
美優:ハンカチの柄、覚えていてくれたの? 花火の柄、こんなにはっきり。
龍彦:うん、もちろん。
美優:......ね、キス、してあげようか。
龍彦:けど......。あ、そういうことか。
美優:そう。唾液は龍彦くんの物じゃないの。わたしたち、ふたりの。
龍彦:(M)口のなかで唾液が動くのにつれて、勝手に舌も動く。舌は何にも触れられないのに。そして、花火があがる。
美優:綺麗。
美優:ありがとね、龍彦くん。
美優:まさかこんな気持ちになれるなんて思ってなかった。
龍彦:うん。
美優:死んでから、もう楽しいことなんてない。綺麗な景色なんて見れない。そう思ってた。
龍彦:うん。
美優:けど違った。
美優:わたし、龍彦くんのとこに来れてよかった。
龍彦:うん。
美優:だから。ありがとう。
美優:観覧車からの花火だなんて、ずるい。
美優:嬉しいに決まってるじゃん。
龍彦:ああ。美優。
美優:龍彦くん、わたしもう行かなきゃ。
龍彦:俺も、もうすぐ。
龍彦:もうすぐなんだ。
美優:じゃあ、一緒に。一緒にいこう。
龍彦:ああ。
美優:ほら、ここにかけていいから。
美優:私も好きだよ、龍彦くん!
美優:
龍彦:(M)観覧車の永遠も、半ばを過ぎて、花火の閃光が暗い部屋を明るくする。その一瞬のひかりのせいか、美優の笑顔の上にかかったかのように見えた。そして、その俺の俺でなくなった液体は、すぐに金属の床に落ちて、今はただただ鈍く光っている。
龍彦:
龍彦:これからも君のことを思うよ。
龍彦:
龍彦:(M)そして、観覧車を降りて、まだ打ち上がっている花火には背を向けて、人混みのなかを歩いていく。
龍彦:俺の花火は、もう打ち終えたから。
龍彦:
0:数日後
龍彦:(M)俺は小学校の同窓会に来ている。懐かしい顔ぶれが揃う楽しい時間、ホテルの宴会場を貸しきっているようで、トイレまでの廊下にも知り合いが居る。
龍彦:
美優:あ。
龍彦:ん?
美優:久しぶり、もしかして。......龍彦、いや、絶対に龍彦だよね?
龍彦:う、うん。もしかして、美優?
美優:そう! 美優だよー! えー! 覚えててくれてたんだ!
龍彦:けど、どうしてここに?
美優:わたし、転校したじゃん?
龍彦:うん。
美優:けどさ、ここの小学校の皆との方が思い出とかいっぱいあるから、来ちゃった。
美優:招待状もちゃんと届いてたしね!
龍彦:そっか。
美優:へぇ、龍彦。こんなになったんだ。なんか意外。
龍彦:ほっとけよ。美優だって、随分大人っぽくなったじゃん。
美優:なに、それって褒めてる?
龍彦:ん。そりゃ。まあ。
美優:なにその返事。まあいいや。龍彦、彼女いなさそうだね。
龍彦:は。失礼な。
美優:どうなの?
龍彦:......いないけど。
美優:やーっぱり!
龍彦:だからってなんだよ。
美優:このあとさ、少人数で二次会行こうって話があるんだけど、一緒に来ないかな? って。
龍彦:へえ。
美優:別に、二人きりでもいいよ。
龍彦:......え?
美優:わたしのこと、好きだったんでしょ?
龍彦:な、なんで。
美優:だって、ずっと見てたじゃん。あの頃。
龍彦:バレてたんだ。
美優:で、どうする?
龍彦:......。
美優:思ったよりかっこよくなってたから、ちょっと見直したんだよね。どう?
龍彦:やめとく。
美優:え、どうして。
龍彦:確かに。確かに、小学生のとき、俺は君に釘付けだった。今でも、あのときのことを思い出すくらい、好き。
美優:ならなんで。
龍彦:なんでだろうね。けど行かないよ。
龍彦:ごめんね。
美優:ふーん。ま、いっか。じゃあまたね。
龍彦:うん。楽しんでね。
龍彦:
龍彦:(M)俺は廊下を奥まで進んで、個室トイレに入った。そしてドアの鍵を閉めて、一人遊びを始める。
龍彦:
龍彦:
龍彦:やっぱり、小学校のときの方が可愛い。本当に君のことが、好き、好き、大好きだ。
龍彦:これからも君のことを思うよ。俺だけの、美優......。
龍彦:おい! どこから入ってきたああああ!
美優:え、どこって。どこ? ここ!
龍彦:ここは俺んちのトイレだよ! トイレ!
美優:やめて、動かないで。股間の! 見えるから......!
龍彦:ぬぁっ! わ! 見るな!
美優:待って、あんた。たってる?
龍彦:はァ!? た、た、たってないし!
美優:いやだって、そんなに手で隠すの変でしょ。不潔!
龍彦:だからそんなに見るなって!
美優:仕方ないじゃない。こんなとこに来ちゃったんだから!
龍彦:なんでトイレなんかに急に現れるんだよ、馬鹿!
美優:知らないわよ! あんたはトイレでなにしてんのよ! 変態! 不潔!
龍彦:いや、まてまて。待て!
龍彦:待て。待て!
美優:......はい。
龍彦:静かにしろ。
美優:はい。
龍彦:どうして、お前はここにいるんだ。
美優:そ、そんなの私だって知らないわよ。
龍彦:どうして、どうしてお前は浮いているんだ!
美優:それは......その......。
龍彦:そして、どうして、どうして、どうして、どうして、お前は小学校のときの姿なんだ!
美優:し、知らないわよ!
龍彦:......。
美優:......。
龍彦:今さらだが、本当に美優なのか?
美優:ええ、そうよ。
龍彦:なにがあってここに来たんだ?
美優:なにが......。
美優:あ。
龍彦:ん? どした?
美優:わたし。
龍彦:ああ。
美優:事故に遭ったんだ。
美優:それで、なんだっけ。
龍彦:......幽霊に、なったのか?
龍彦:25の俺と同い年のはずのお前が......10歳くらいの姿で?
龍彦:......は?
美優:わ、私だってわかんないわよ。
美優:そもそも、あんたとは私が小学校を転校してから、ただの一度も会ってないじゃない。
美優:......あ。
龍彦:どうした。
美優:そうだ。そうだそうだ。
龍彦:どうしたどうした。
美優:思い出した。
美優:わたし、未練があったはずなんだ。
龍彦:お? おう。とりあえず何でも分かること、言ってみろ。
美優:わたしね。事故に遭ってから......その。真っ暗な心の世界っていうのかな。そこで、不思議な声を聞いたの。
龍彦:どんな。
美優:声っていうと、ちょっと違うかもなんだけど。
美優:感覚に訴えかけえくる、みたいな。
龍彦:うん。
美優:「このまま成仏していいのか?」みたいなのが聞こえたの。
美優:でね。思ったの。
美優:私のことを強く思ってくれた人にもう一度、感謝を伝えたいなって。
龍彦:ああ。
美優:そう思ったら、急に辺りが白い光に包まれてね。で、気がついたら......。
龍彦:小学生のときの、10歳くらいの姿で、俺のトイレに来ていた、と。
美優:うん。
龍彦:そっかぁ。
美優:......なんで。
美優:なんで。
龍彦:なにが。
美優:なんで......どうして! 全然会ってない、あんたのとこに来ちゃったの。
龍彦:は。そんなこと言うんだったら、どこへでも行けばいいじゃんか。その......お化けなんだし。
美優:行けたらとっくに行ってるわよ。私を大切にしてくれたママとパパにも会いたい、彼氏にだって......何も言えずじまいだったんだから。
龍彦:......そっか。
龍彦:ごめん、な。
美優:なんで。
美優:あんただって迷惑してるでしょ。きったない一人遊びしてたところに、急に知り合いの幽霊が現れたんだもん。
龍彦:ごめんな。
美優:どうして謝るの。
龍彦:たぶん、俺のせいだ。
美優:......は? どうしてそうなるの。
龍彦:俺、いっつも考えてたんだ。美優のこと。
美優:え?
龍彦:その......ひとりで、するとき。
美優:......。
龍彦:お前、いや、君のことを考えてたんだ。
美優:なんで。......そんな、ずっと?
龍彦:うん、転校したあの日から。ずっと。
龍彦:ごめんな、気持ち悪いよな。
龍彦:俺、小学生のとき、すっごい好きで、実はずっと見てたんだ。
美優:そう......なんだ。
龍彦:で、初めてひとりでしたときに、考えいてたのも君だったんだ。以来、ずっと今日まで。
龍彦:だから、美優が現れたときには勿論考えていたし、嬉しかった。だけど、反面、ついに呪われちまったかと思った。
美優:どういうこと?
龍彦:ん。勝手に、さ。ずっと変なこと考えてたから、バチでも当たったか。それとも頭がおかしくなっちまったかって。そんなところ。
美優:そう。
龍彦:うん。ごめんな。俺の至高の嗜好のために。
美優:別に、気にしてないわ。
龍彦:え。
美優:だって、好きな人のこと考えるのは至極当然でしょ。
美優:好きじゃない人のこと考えてする方が不健康ってものだと思うわ。
龍彦:そうかな。あ、ありがと。
美優:けどね。
龍彦:うん。
美優:正直いって、呪いたいわ。
龍彦:......え?
美優:だって、あなたのそんなことの為に、私はせっかくのチャンスをみすみす逃したんだもん。
龍彦:それは......。確かに。
美優:でしょう?
美優:だから。
龍彦:だから?
美優:私は、あなたのことを呪うことにする。
龍彦:え?
美優:呪いを解くには、わたしから感謝される必要がある。
龍彦:どういうこと?
美優:ん?
美優:つまりは、私が成仏するには「わたしが、私を思ってくれている人に対して感謝を伝える」必要があると思うの。
龍彦:なるほど。
美優:だから、一人遊びを邪魔されたくなければ、私を喜ばせなさい。
美優:ほら、話してると集中力が途切れて、しょんぼりしちゃってるじゃん。
龍彦:お前! 浮けるからって覗きこむな! やめろ!
美優:見た目は小学生、中身は25歳、だもんね。今さら見たって動じないわよ。
龍彦:ち、ちが。そうじゃない。
美優:なにがよ。
龍彦:あぁ、そんなに見るから......。
美優:わぁぁ......、え、そんなすぐ大きくなるの。怖、気持ち悪、なに考えてんの。
龍彦:あのなぁ。俺は、お前のその姿で、十数年にわたって自分の息子を慰めてるんだ。
龍彦:そんな子に現実に見られたらどうなるかくらいわかるだろ!
美優:け、けど、さっきまでしょんぼりだったじゃん。
龍彦:頑張って抑えてたんだよ! 真剣な話っぽかったから! 自分を呪う幽霊が、ことの顛末を話してるときに、呑気におったててたら失礼だろ?
美優:まぁ、ずっとパンツおろしっぱなしなのも失礼だと思うんだけど。
龍彦:いやそれは、な。ここ、トイレだから。
美優:ふぅーん。
龍彦:おう。
美優:んで? してくれるの?
龍彦:するもなにも、呪うんだろ。
美優:うん。妨害する。
龍彦:ったく、何すりゃいいんだよ。
美優:んー。色んな景色を見てみたい。
美優:私は、さ。自分じゃどこも行けないから。海とか山とか遊園地とか、楽しませてよ。
龍彦:そう簡単に言うけどなあ......。
龍彦:けどわかった。連れてってやる。
美優:約束だよ!
龍彦:おう。
龍彦:
龍彦:
龍彦:(M)どうやら、美優が来れるのは、俺がひとりで致したところだけらしい。それも、何度も致した場所なら、していなくてもいいのだが、数回の場所は、興奮していなければ美優は来れないようだ。
龍彦:きっと、想いの力が強ければ強いほど、彼女は存在できる。なら、俺が思わなければどうなのだろう、という考えも一瞬、頭をよぎったが、それは考えないことにした。
龍彦:そして、俺はまたズボンを脱ぐ。
龍彦:
0:山奥、小さな川のそばで、倒れた杉木の上で裸になっている龍彦
龍彦:夏のわりには寒いなあ。ま、森のなかで裸になってりゃ、そりゃそうか。
美優:やっほー! 龍彦! やってる~?
龍彦:やってるから来れたんだろ。
龍彦:ほら、どうだ。この大自然!
美優:すっごーい。龍彦が動物みたいにみえる。
龍彦:ほぉ、なんの動物?
美優:んとねぇ、猿!
龍彦:......まんまじゃねえか。
美優:それはさておき、いいところね。
龍彦:だろ? 都会のトイレとは何もかもが違うだろ。
美優:うん。優しい太陽、さざめく葉っぱ、せせらぐ川、またこんなとこに来れるだなんて。
龍彦:喜んでもらえてよかった。
龍彦:まぁ、俺も気持ちいいからウィンウィンだな。
美優:そうね。
龍彦:にしても、お前さ。
美優:なに?
龍彦:普通に見てくるようになったな。
美優:そりゃね。私を呼ぶ儀式としか思ってないから。
龍彦:そっか。
美優:それに、お互い触れることはできないからね。だから犯されるなんて心配もない!
龍彦:それもそうだな。
美優:うん。
龍彦:......な、なあ。
美優:ん?
龍彦:聞きたいことがあるんだけど、いいか?
美優:どうぞー?
龍彦:俺のとこに来てないときって、いつも何処で過ごしてんの?
美優:あー。やっぱり気になるよね。
龍彦:うん。聞いちゃまずかった?
美優:ううん、大丈夫。
美優:なーんかね、何処でもないところ。
龍彦:え?
美優:説明が難しいんだよね。
龍彦:前に声を聞いたとかいう真っ暗な世界でもなくて?
美優:うん。そこだったら、私は自分がそこにいるって思えるんだけど、本当になにもないの。
龍彦:そうなのか。
美優:ただ......。
龍彦:ん?
美優:ただね。よく言うじゃない? 人が本当に死ぬのは、忘れられたときだ。って。
龍彦:ああ。
美優:龍彦のところに来るとき以外はそんな状態に近いのかなって。そう思うの。
龍彦:うん。
美優:でね、そうだったらイヤだなって。無性に悲しくなる。だから、こうやって龍彦がどんなかたちであれ、私を思い出してくれてるのは嬉しい。
龍彦:そう、か。けど、きっとご両親も彼氏も、さ。たくさん美優のこと思ってるよ。たまたま俺のとこにしか来れなくなっただけで。
美優:だと、嬉しいな。
龍彦:でも、だからこそ俺、がんばるよ。たくさん考えて、たくさん美優をそんな悲しいところから出してきてやる。
美優:うん。
龍彦:ま、単に俺が気持ちよくなるだけなんだけどな。
美優:......龍彦くん。
龍彦:どうした。もっと自由に遊べよ。そんなに外なんて来れないんだからさ。
美優:うん。
美優:
美優:
龍彦:(M)それから、色んなところへ二人でいった。もっとも、俺が一人でいっているだけなのだけれど、たくさん、行った。
龍彦:そして今日、夜の遊園地に来た。近くの海で花火があがるそうだ。人でごった返す園内を進み、観覧車の整理券を購入した。
龍彦:
美優:こ、ここは?
龍彦:外、見てごらんよ。
美優:......動いてる。きれいな夜景。
龍彦:そう。ここは観覧車。暗くて狭い個室でここほどロマンチックなとこはないかなって。
美優:うん。
龍彦:一緒に居れて嬉しかった。けど、君は成仏すべきだと思う。で、するとしたら......ここかなって。
美優:ありがとう。
美優:こんな綺麗なところ用意してくれて。
龍彦:もちろん、だって、好きだから。
美優:龍彦くん。
龍彦:なに。
美優:泣いてる......の?
龍彦:そんなわけ、ない、だろ。
美優:待って、ハンカチがあるはず。
龍彦:触れられるのか?
美優:うん、涙なら。ただの水と一緒。もうそれは龍彦くんじゃないから。
龍彦:そっか。ん。ありがと。
美優:ハンカチの柄、覚えていてくれたの? 花火の柄、こんなにはっきり。
龍彦:うん、もちろん。
美優:......ね、キス、してあげようか。
龍彦:けど......。あ、そういうことか。
美優:そう。唾液は龍彦くんの物じゃないの。わたしたち、ふたりの。
龍彦:(M)口のなかで唾液が動くのにつれて、勝手に舌も動く。舌は何にも触れられないのに。そして、花火があがる。
美優:綺麗。
美優:ありがとね、龍彦くん。
美優:まさかこんな気持ちになれるなんて思ってなかった。
龍彦:うん。
美優:死んでから、もう楽しいことなんてない。綺麗な景色なんて見れない。そう思ってた。
龍彦:うん。
美優:けど違った。
美優:わたし、龍彦くんのとこに来れてよかった。
龍彦:うん。
美優:だから。ありがとう。
美優:観覧車からの花火だなんて、ずるい。
美優:嬉しいに決まってるじゃん。
龍彦:ああ。美優。
美優:龍彦くん、わたしもう行かなきゃ。
龍彦:俺も、もうすぐ。
龍彦:もうすぐなんだ。
美優:じゃあ、一緒に。一緒にいこう。
龍彦:ああ。
美優:ほら、ここにかけていいから。
美優:私も好きだよ、龍彦くん!
美優:
龍彦:(M)観覧車の永遠も、半ばを過ぎて、花火の閃光が暗い部屋を明るくする。その一瞬のひかりのせいか、美優の笑顔の上にかかったかのように見えた。そして、その俺の俺でなくなった液体は、すぐに金属の床に落ちて、今はただただ鈍く光っている。
龍彦:
龍彦:これからも君のことを思うよ。
龍彦:
龍彦:(M)そして、観覧車を降りて、まだ打ち上がっている花火には背を向けて、人混みのなかを歩いていく。
龍彦:俺の花火は、もう打ち終えたから。
龍彦:
0:数日後
龍彦:(M)俺は小学校の同窓会に来ている。懐かしい顔ぶれが揃う楽しい時間、ホテルの宴会場を貸しきっているようで、トイレまでの廊下にも知り合いが居る。
龍彦:
美優:あ。
龍彦:ん?
美優:久しぶり、もしかして。......龍彦、いや、絶対に龍彦だよね?
龍彦:う、うん。もしかして、美優?
美優:そう! 美優だよー! えー! 覚えててくれてたんだ!
龍彦:けど、どうしてここに?
美優:わたし、転校したじゃん?
龍彦:うん。
美優:けどさ、ここの小学校の皆との方が思い出とかいっぱいあるから、来ちゃった。
美優:招待状もちゃんと届いてたしね!
龍彦:そっか。
美優:へぇ、龍彦。こんなになったんだ。なんか意外。
龍彦:ほっとけよ。美優だって、随分大人っぽくなったじゃん。
美優:なに、それって褒めてる?
龍彦:ん。そりゃ。まあ。
美優:なにその返事。まあいいや。龍彦、彼女いなさそうだね。
龍彦:は。失礼な。
美優:どうなの?
龍彦:......いないけど。
美優:やーっぱり!
龍彦:だからってなんだよ。
美優:このあとさ、少人数で二次会行こうって話があるんだけど、一緒に来ないかな? って。
龍彦:へえ。
美優:別に、二人きりでもいいよ。
龍彦:......え?
美優:わたしのこと、好きだったんでしょ?
龍彦:な、なんで。
美優:だって、ずっと見てたじゃん。あの頃。
龍彦:バレてたんだ。
美優:で、どうする?
龍彦:......。
美優:思ったよりかっこよくなってたから、ちょっと見直したんだよね。どう?
龍彦:やめとく。
美優:え、どうして。
龍彦:確かに。確かに、小学生のとき、俺は君に釘付けだった。今でも、あのときのことを思い出すくらい、好き。
美優:ならなんで。
龍彦:なんでだろうね。けど行かないよ。
龍彦:ごめんね。
美優:ふーん。ま、いっか。じゃあまたね。
龍彦:うん。楽しんでね。
龍彦:
龍彦:(M)俺は廊下を奥まで進んで、個室トイレに入った。そしてドアの鍵を閉めて、一人遊びを始める。
龍彦:
龍彦:
龍彦:やっぱり、小学校のときの方が可愛い。本当に君のことが、好き、好き、大好きだ。
龍彦:これからも君のことを思うよ。俺だけの、美優......。