台本概要

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タイトル 思い出の彼方へ
作者名 おちり補佐官  (@called_makki)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 純愛ラブストーリーです。

センシティブな表現も少しありますのでご注意ください。

物語の最初から観覧車のシーンまでは、美優は10歳の姿です。
終盤の同窓会シーンでは25歳です。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
龍彦 120 龍彦(たつひこ) 美優のことが好きだった。しかし、美優の転校以来、会えていない。
美優 117 美優(みゆ) 龍彦の同級生であり、皆の人気者。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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龍彦:おい! どこから入ってきたああああ! 美優:え、どこって。どこ? ここ! 龍彦:ここは俺んちのトイレだよ! トイレ! 美優:やめて、動かないで。股間の! 見えるから......! 龍彦:ぬぁっ! わ! 見るな! 美優:待って、あんた。たってる? 龍彦:はァ!? た、た、たってないし! 美優:いやだって、そんなに手で隠すの変でしょ。不潔! 龍彦:だからそんなに見るなって! 美優:仕方ないじゃない。こんなとこに来ちゃったんだから! 龍彦:なんでトイレなんかに急に現れるんだよ、馬鹿! 美優:知らないわよ! あんたはトイレでなにしてんのよ! 変態! 不潔! 龍彦:いや、まてまて。待て! 龍彦:待て。待て! 美優:......はい。 龍彦:静かにしろ。 美優:はい。 龍彦:どうして、お前はここにいるんだ。 美優:そ、そんなの私だって知らないわよ。 龍彦:どうして、どうしてお前は浮いているんだ! 美優:それは......その......。 龍彦:そして、どうして、どうして、どうして、どうして、お前は小学校のときの姿なんだ! 美優:し、知らないわよ! 龍彦:......。 美優:......。 龍彦:今さらだが、本当に美優なのか? 美優:ええ、そうよ。 龍彦:なにがあってここに来たんだ? 美優:なにが......。 美優:あ。 龍彦:ん? どした? 美優:わたし。 龍彦:ああ。 美優:事故に遭ったんだ。 美優:それで、なんだっけ。 龍彦:......幽霊に、なったのか? 龍彦:25の俺と同い年のはずのお前が......10歳くらいの姿で? 龍彦:......は? 美優:わ、私だってわかんないわよ。 美優:そもそも、あんたとは私が小学校を転校してから、ただの一度も会ってないじゃない。 美優:......あ。 龍彦:どうした。 美優:そうだ。そうだそうだ。 龍彦:どうしたどうした。 美優:思い出した。 美優:わたし、未練があったはずなんだ。 龍彦:お? おう。とりあえず何でも分かること、言ってみろ。 美優:わたしね。事故に遭ってから......その。真っ暗な心の世界っていうのかな。そこで、不思議な声を聞いたの。 龍彦:どんな。 美優:声っていうと、ちょっと違うかもなんだけど。 美優:感覚に訴えかけえくる、みたいな。 龍彦:うん。 美優:「このまま成仏していいのか?」みたいなのが聞こえたの。 美優:でね。思ったの。 美優:私のことを強く思ってくれた人にもう一度、感謝を伝えたいなって。 龍彦:ああ。 美優:そう思ったら、急に辺りが白い光に包まれてね。で、気がついたら......。 龍彦:小学生のときの、10歳くらいの姿で、俺のトイレに来ていた、と。 美優:うん。 龍彦:そっかぁ。 美優:......なんで。 美優:なんで。 龍彦:なにが。 美優:なんで......どうして! 全然会ってない、あんたのとこに来ちゃったの。 龍彦:は。そんなこと言うんだったら、どこへでも行けばいいじゃんか。その......お化けなんだし。 美優:行けたらとっくに行ってるわよ。私を大切にしてくれたママとパパにも会いたい、彼氏にだって......何も言えずじまいだったんだから。 龍彦:......そっか。 龍彦:ごめん、な。 美優:なんで。 美優:あんただって迷惑してるでしょ。きったない一人遊びしてたところに、急に知り合いの幽霊が現れたんだもん。 龍彦:ごめんな。 美優:どうして謝るの。 龍彦:たぶん、俺のせいだ。 美優:......は? どうしてそうなるの。 龍彦:俺、いっつも考えてたんだ。美優のこと。 美優:え? 龍彦:その......ひとりで、するとき。 美優:......。 龍彦:お前、いや、君のことを考えてたんだ。 美優:なんで。......そんな、ずっと? 龍彦:うん、転校したあの日から。ずっと。 龍彦:ごめんな、気持ち悪いよな。 龍彦:俺、小学生のとき、すっごい好きで、実はずっと見てたんだ。 美優:そう......なんだ。 龍彦:で、初めてひとりでしたときに、考えいてたのも君だったんだ。以来、ずっと今日まで。 龍彦:だから、美優が現れたときには勿論考えていたし、嬉しかった。だけど、反面、ついに呪われちまったかと思った。 美優:どういうこと? 龍彦:ん。勝手に、さ。ずっと変なこと考えてたから、バチでも当たったか。それとも頭がおかしくなっちまったかって。そんなところ。 美優:そう。 龍彦:うん。ごめんな。俺の至高の嗜好のために。 美優:別に、気にしてないわ。 龍彦:え。 美優:だって、好きな人のこと考えるのは至極当然でしょ。 美優:好きじゃない人のこと考えてする方が不健康ってものだと思うわ。 龍彦:そうかな。あ、ありがと。 美優:けどね。 龍彦:うん。 美優:正直いって、呪いたいわ。 龍彦:......え? 美優:だって、あなたのそんなことの為に、私はせっかくのチャンスをみすみす逃したんだもん。 龍彦:それは......。確かに。 美優:でしょう? 美優:だから。 龍彦:だから? 美優:私は、あなたのことを呪うことにする。 龍彦:え? 美優:呪いを解くには、わたしから感謝される必要がある。 龍彦:どういうこと? 美優:ん? 美優:つまりは、私が成仏するには「わたしが、私を思ってくれている人に対して感謝を伝える」必要があると思うの。 龍彦:なるほど。 美優:だから、一人遊びを邪魔されたくなければ、私を喜ばせなさい。 美優:ほら、話してると集中力が途切れて、しょんぼりしちゃってるじゃん。 龍彦:お前! 浮けるからって覗きこむな! やめろ! 美優:見た目は小学生、中身は25歳、だもんね。今さら見たって動じないわよ。 龍彦:ち、ちが。そうじゃない。 美優:なにがよ。 龍彦:あぁ、そんなに見るから......。 美優:わぁぁ......、え、そんなすぐ大きくなるの。怖、気持ち悪、なに考えてんの。 龍彦:あのなぁ。俺は、お前のその姿で、十数年にわたって自分の息子を慰めてるんだ。 龍彦:そんな子に現実に見られたらどうなるかくらいわかるだろ! 美優:け、けど、さっきまでしょんぼりだったじゃん。 龍彦:頑張って抑えてたんだよ! 真剣な話っぽかったから! 自分を呪う幽霊が、ことの顛末を話してるときに、呑気におったててたら失礼だろ? 美優:まぁ、ずっとパンツおろしっぱなしなのも失礼だと思うんだけど。 龍彦:いやそれは、な。ここ、トイレだから。 美優:ふぅーん。 龍彦:おう。 美優:んで? してくれるの? 龍彦:するもなにも、呪うんだろ。 美優:うん。妨害する。 龍彦:ったく、何すりゃいいんだよ。 美優:んー。色んな景色を見てみたい。 美優:私は、さ。自分じゃどこも行けないから。海とか山とか遊園地とか、楽しませてよ。 龍彦:そう簡単に言うけどなあ......。 龍彦:けどわかった。連れてってやる。 美優:約束だよ! 龍彦:おう。 龍彦:  龍彦:  龍彦:(M)どうやら、美優が来れるのは、俺がひとりで致したところだけらしい。それも、何度も致した場所なら、していなくてもいいのだが、数回の場所は、興奮していなければ美優は来れないようだ。 龍彦:きっと、想いの力が強ければ強いほど、彼女は存在できる。なら、俺が思わなければどうなのだろう、という考えも一瞬、頭をよぎったが、それは考えないことにした。 龍彦:そして、俺はまたズボンを脱ぐ。 龍彦:  0:山奥、小さな川のそばで、倒れた杉木の上で裸になっている龍彦 龍彦:夏のわりには寒いなあ。ま、森のなかで裸になってりゃ、そりゃそうか。 美優:やっほー! 龍彦! やってる~? 龍彦:やってるから来れたんだろ。 龍彦:ほら、どうだ。この大自然! 美優:すっごーい。龍彦が動物みたいにみえる。 龍彦:ほぉ、なんの動物? 美優:んとねぇ、猿! 龍彦:......まんまじゃねえか。 美優:それはさておき、いいところね。 龍彦:だろ? 都会のトイレとは何もかもが違うだろ。 美優:うん。優しい太陽、さざめく葉っぱ、せせらぐ川、またこんなとこに来れるだなんて。 龍彦:喜んでもらえてよかった。 龍彦:まぁ、俺も気持ちいいからウィンウィンだな。 美優:そうね。 龍彦:にしても、お前さ。 美優:なに? 龍彦:普通に見てくるようになったな。 美優:そりゃね。私を呼ぶ儀式としか思ってないから。 龍彦:そっか。 美優:それに、お互い触れることはできないからね。だから犯されるなんて心配もない! 龍彦:それもそうだな。 美優:うん。 龍彦:......な、なあ。 美優:ん? 龍彦:聞きたいことがあるんだけど、いいか? 美優:どうぞー? 龍彦:俺のとこに来てないときって、いつも何処で過ごしてんの? 美優:あー。やっぱり気になるよね。 龍彦:うん。聞いちゃまずかった? 美優:ううん、大丈夫。 美優:なーんかね、何処でもないところ。 龍彦:え? 美優:説明が難しいんだよね。 龍彦:前に声を聞いたとかいう真っ暗な世界でもなくて? 美優:うん。そこだったら、私は自分がそこにいるって思えるんだけど、本当になにもないの。 龍彦:そうなのか。 美優:ただ......。 龍彦:ん? 美優:ただね。よく言うじゃない? 人が本当に死ぬのは、忘れられたときだ。って。 龍彦:ああ。 美優:龍彦のところに来るとき以外はそんな状態に近いのかなって。そう思うの。 龍彦:うん。 美優:でね、そうだったらイヤだなって。無性に悲しくなる。だから、こうやって龍彦がどんなかたちであれ、私を思い出してくれてるのは嬉しい。 龍彦:そう、か。けど、きっとご両親も彼氏も、さ。たくさん美優のこと思ってるよ。たまたま俺のとこにしか来れなくなっただけで。 美優:だと、嬉しいな。 龍彦:でも、だからこそ俺、がんばるよ。たくさん考えて、たくさん美優をそんな悲しいところから出してきてやる。 美優:うん。 龍彦:ま、単に俺が気持ちよくなるだけなんだけどな。 美優:......龍彦くん。 龍彦:どうした。もっと自由に遊べよ。そんなに外なんて来れないんだからさ。 美優:うん。 美優:  美優:  龍彦:(M)それから、色んなところへ二人でいった。もっとも、俺が一人でいっているだけなのだけれど、たくさん、行った。 龍彦:そして今日、夜の遊園地に来た。近くの海で花火があがるそうだ。人でごった返す園内を進み、観覧車の整理券を購入した。 龍彦:  美優:こ、ここは? 龍彦:外、見てごらんよ。 美優:......動いてる。きれいな夜景。 龍彦:そう。ここは観覧車。暗くて狭い個室でここほどロマンチックなとこはないかなって。 美優:うん。 龍彦:一緒に居れて嬉しかった。けど、君は成仏すべきだと思う。で、するとしたら......ここかなって。 美優:ありがとう。 美優:こんな綺麗なところ用意してくれて。 龍彦:もちろん、だって、好きだから。 美優:龍彦くん。 龍彦:なに。 美優:泣いてる......の? 龍彦:そんなわけ、ない、だろ。 美優:待って、ハンカチがあるはず。 龍彦:触れられるのか? 美優:うん、涙なら。ただの水と一緒。もうそれは龍彦くんじゃないから。 龍彦:そっか。ん。ありがと。 美優:ハンカチの柄、覚えていてくれたの? 花火の柄、こんなにはっきり。 龍彦:うん、もちろん。 美優:......ね、キス、してあげようか。 龍彦:けど......。あ、そういうことか。 美優:そう。唾液は龍彦くんの物じゃないの。わたしたち、ふたりの。 龍彦:(M)口のなかで唾液が動くのにつれて、勝手に舌も動く。舌は何にも触れられないのに。そして、花火があがる。 美優:綺麗。 美優:ありがとね、龍彦くん。 美優:まさかこんな気持ちになれるなんて思ってなかった。 龍彦:うん。 美優:死んでから、もう楽しいことなんてない。綺麗な景色なんて見れない。そう思ってた。 龍彦:うん。 美優:けど違った。 美優:わたし、龍彦くんのとこに来れてよかった。 龍彦:うん。 美優:だから。ありがとう。 美優:観覧車からの花火だなんて、ずるい。 美優:嬉しいに決まってるじゃん。 龍彦:ああ。美優。 美優:龍彦くん、わたしもう行かなきゃ。 龍彦:俺も、もうすぐ。 龍彦:もうすぐなんだ。 美優:じゃあ、一緒に。一緒にいこう。 龍彦:ああ。 美優:ほら、ここにかけていいから。 美優:私も好きだよ、龍彦くん! 美優:  龍彦:(M)観覧車の永遠も、半ばを過ぎて、花火の閃光が暗い部屋を明るくする。その一瞬のひかりのせいか、美優の笑顔の上にかかったかのように見えた。そして、その俺の俺でなくなった液体は、すぐに金属の床に落ちて、今はただただ鈍く光っている。 龍彦:  龍彦:これからも君のことを思うよ。 龍彦:  龍彦:(M)そして、観覧車を降りて、まだ打ち上がっている花火には背を向けて、人混みのなかを歩いていく。 龍彦:俺の花火は、もう打ち終えたから。 龍彦:  0:数日後 龍彦:(M)俺は小学校の同窓会に来ている。懐かしい顔ぶれが揃う楽しい時間、ホテルの宴会場を貸しきっているようで、トイレまでの廊下にも知り合いが居る。 龍彦:  美優:あ。 龍彦:ん? 美優:久しぶり、もしかして。......龍彦、いや、絶対に龍彦だよね? 龍彦:う、うん。もしかして、美優? 美優:そう! 美優だよー! えー! 覚えててくれてたんだ! 龍彦:けど、どうしてここに? 美優:わたし、転校したじゃん? 龍彦:うん。 美優:けどさ、ここの小学校の皆との方が思い出とかいっぱいあるから、来ちゃった。 美優:招待状もちゃんと届いてたしね! 龍彦:そっか。 美優:へぇ、龍彦。こんなになったんだ。なんか意外。 龍彦:ほっとけよ。美優だって、随分大人っぽくなったじゃん。 美優:なに、それって褒めてる? 龍彦:ん。そりゃ。まあ。 美優:なにその返事。まあいいや。龍彦、彼女いなさそうだね。 龍彦:は。失礼な。 美優:どうなの? 龍彦:......いないけど。 美優:やーっぱり! 龍彦:だからってなんだよ。 美優:このあとさ、少人数で二次会行こうって話があるんだけど、一緒に来ないかな? って。 龍彦:へえ。 美優:別に、二人きりでもいいよ。 龍彦:......え? 美優:わたしのこと、好きだったんでしょ? 龍彦:な、なんで。 美優:だって、ずっと見てたじゃん。あの頃。 龍彦:バレてたんだ。 美優:で、どうする? 龍彦:......。 美優:思ったよりかっこよくなってたから、ちょっと見直したんだよね。どう? 龍彦:やめとく。 美優:え、どうして。 龍彦:確かに。確かに、小学生のとき、俺は君に釘付けだった。今でも、あのときのことを思い出すくらい、好き。 美優:ならなんで。 龍彦:なんでだろうね。けど行かないよ。 龍彦:ごめんね。 美優:ふーん。ま、いっか。じゃあまたね。 龍彦:うん。楽しんでね。 龍彦:  龍彦:(M)俺は廊下を奥まで進んで、個室トイレに入った。そしてドアの鍵を閉めて、一人遊びを始める。 龍彦:  龍彦:  龍彦:やっぱり、小学校のときの方が可愛い。本当に君のことが、好き、好き、大好きだ。 龍彦:これからも君のことを思うよ。俺だけの、美優......。

龍彦:おい! どこから入ってきたああああ! 美優:え、どこって。どこ? ここ! 龍彦:ここは俺んちのトイレだよ! トイレ! 美優:やめて、動かないで。股間の! 見えるから......! 龍彦:ぬぁっ! わ! 見るな! 美優:待って、あんた。たってる? 龍彦:はァ!? た、た、たってないし! 美優:いやだって、そんなに手で隠すの変でしょ。不潔! 龍彦:だからそんなに見るなって! 美優:仕方ないじゃない。こんなとこに来ちゃったんだから! 龍彦:なんでトイレなんかに急に現れるんだよ、馬鹿! 美優:知らないわよ! あんたはトイレでなにしてんのよ! 変態! 不潔! 龍彦:いや、まてまて。待て! 龍彦:待て。待て! 美優:......はい。 龍彦:静かにしろ。 美優:はい。 龍彦:どうして、お前はここにいるんだ。 美優:そ、そんなの私だって知らないわよ。 龍彦:どうして、どうしてお前は浮いているんだ! 美優:それは......その......。 龍彦:そして、どうして、どうして、どうして、どうして、お前は小学校のときの姿なんだ! 美優:し、知らないわよ! 龍彦:......。 美優:......。 龍彦:今さらだが、本当に美優なのか? 美優:ええ、そうよ。 龍彦:なにがあってここに来たんだ? 美優:なにが......。 美優:あ。 龍彦:ん? どした? 美優:わたし。 龍彦:ああ。 美優:事故に遭ったんだ。 美優:それで、なんだっけ。 龍彦:......幽霊に、なったのか? 龍彦:25の俺と同い年のはずのお前が......10歳くらいの姿で? 龍彦:......は? 美優:わ、私だってわかんないわよ。 美優:そもそも、あんたとは私が小学校を転校してから、ただの一度も会ってないじゃない。 美優:......あ。 龍彦:どうした。 美優:そうだ。そうだそうだ。 龍彦:どうしたどうした。 美優:思い出した。 美優:わたし、未練があったはずなんだ。 龍彦:お? おう。とりあえず何でも分かること、言ってみろ。 美優:わたしね。事故に遭ってから......その。真っ暗な心の世界っていうのかな。そこで、不思議な声を聞いたの。 龍彦:どんな。 美優:声っていうと、ちょっと違うかもなんだけど。 美優:感覚に訴えかけえくる、みたいな。 龍彦:うん。 美優:「このまま成仏していいのか?」みたいなのが聞こえたの。 美優:でね。思ったの。 美優:私のことを強く思ってくれた人にもう一度、感謝を伝えたいなって。 龍彦:ああ。 美優:そう思ったら、急に辺りが白い光に包まれてね。で、気がついたら......。 龍彦:小学生のときの、10歳くらいの姿で、俺のトイレに来ていた、と。 美優:うん。 龍彦:そっかぁ。 美優:......なんで。 美優:なんで。 龍彦:なにが。 美優:なんで......どうして! 全然会ってない、あんたのとこに来ちゃったの。 龍彦:は。そんなこと言うんだったら、どこへでも行けばいいじゃんか。その......お化けなんだし。 美優:行けたらとっくに行ってるわよ。私を大切にしてくれたママとパパにも会いたい、彼氏にだって......何も言えずじまいだったんだから。 龍彦:......そっか。 龍彦:ごめん、な。 美優:なんで。 美優:あんただって迷惑してるでしょ。きったない一人遊びしてたところに、急に知り合いの幽霊が現れたんだもん。 龍彦:ごめんな。 美優:どうして謝るの。 龍彦:たぶん、俺のせいだ。 美優:......は? どうしてそうなるの。 龍彦:俺、いっつも考えてたんだ。美優のこと。 美優:え? 龍彦:その......ひとりで、するとき。 美優:......。 龍彦:お前、いや、君のことを考えてたんだ。 美優:なんで。......そんな、ずっと? 龍彦:うん、転校したあの日から。ずっと。 龍彦:ごめんな、気持ち悪いよな。 龍彦:俺、小学生のとき、すっごい好きで、実はずっと見てたんだ。 美優:そう......なんだ。 龍彦:で、初めてひとりでしたときに、考えいてたのも君だったんだ。以来、ずっと今日まで。 龍彦:だから、美優が現れたときには勿論考えていたし、嬉しかった。だけど、反面、ついに呪われちまったかと思った。 美優:どういうこと? 龍彦:ん。勝手に、さ。ずっと変なこと考えてたから、バチでも当たったか。それとも頭がおかしくなっちまったかって。そんなところ。 美優:そう。 龍彦:うん。ごめんな。俺の至高の嗜好のために。 美優:別に、気にしてないわ。 龍彦:え。 美優:だって、好きな人のこと考えるのは至極当然でしょ。 美優:好きじゃない人のこと考えてする方が不健康ってものだと思うわ。 龍彦:そうかな。あ、ありがと。 美優:けどね。 龍彦:うん。 美優:正直いって、呪いたいわ。 龍彦:......え? 美優:だって、あなたのそんなことの為に、私はせっかくのチャンスをみすみす逃したんだもん。 龍彦:それは......。確かに。 美優:でしょう? 美優:だから。 龍彦:だから? 美優:私は、あなたのことを呪うことにする。 龍彦:え? 美優:呪いを解くには、わたしから感謝される必要がある。 龍彦:どういうこと? 美優:ん? 美優:つまりは、私が成仏するには「わたしが、私を思ってくれている人に対して感謝を伝える」必要があると思うの。 龍彦:なるほど。 美優:だから、一人遊びを邪魔されたくなければ、私を喜ばせなさい。 美優:ほら、話してると集中力が途切れて、しょんぼりしちゃってるじゃん。 龍彦:お前! 浮けるからって覗きこむな! やめろ! 美優:見た目は小学生、中身は25歳、だもんね。今さら見たって動じないわよ。 龍彦:ち、ちが。そうじゃない。 美優:なにがよ。 龍彦:あぁ、そんなに見るから......。 美優:わぁぁ......、え、そんなすぐ大きくなるの。怖、気持ち悪、なに考えてんの。 龍彦:あのなぁ。俺は、お前のその姿で、十数年にわたって自分の息子を慰めてるんだ。 龍彦:そんな子に現実に見られたらどうなるかくらいわかるだろ! 美優:け、けど、さっきまでしょんぼりだったじゃん。 龍彦:頑張って抑えてたんだよ! 真剣な話っぽかったから! 自分を呪う幽霊が、ことの顛末を話してるときに、呑気におったててたら失礼だろ? 美優:まぁ、ずっとパンツおろしっぱなしなのも失礼だと思うんだけど。 龍彦:いやそれは、な。ここ、トイレだから。 美優:ふぅーん。 龍彦:おう。 美優:んで? してくれるの? 龍彦:するもなにも、呪うんだろ。 美優:うん。妨害する。 龍彦:ったく、何すりゃいいんだよ。 美優:んー。色んな景色を見てみたい。 美優:私は、さ。自分じゃどこも行けないから。海とか山とか遊園地とか、楽しませてよ。 龍彦:そう簡単に言うけどなあ......。 龍彦:けどわかった。連れてってやる。 美優:約束だよ! 龍彦:おう。 龍彦:  龍彦:  龍彦:(M)どうやら、美優が来れるのは、俺がひとりで致したところだけらしい。それも、何度も致した場所なら、していなくてもいいのだが、数回の場所は、興奮していなければ美優は来れないようだ。 龍彦:きっと、想いの力が強ければ強いほど、彼女は存在できる。なら、俺が思わなければどうなのだろう、という考えも一瞬、頭をよぎったが、それは考えないことにした。 龍彦:そして、俺はまたズボンを脱ぐ。 龍彦:  0:山奥、小さな川のそばで、倒れた杉木の上で裸になっている龍彦 龍彦:夏のわりには寒いなあ。ま、森のなかで裸になってりゃ、そりゃそうか。 美優:やっほー! 龍彦! やってる~? 龍彦:やってるから来れたんだろ。 龍彦:ほら、どうだ。この大自然! 美優:すっごーい。龍彦が動物みたいにみえる。 龍彦:ほぉ、なんの動物? 美優:んとねぇ、猿! 龍彦:......まんまじゃねえか。 美優:それはさておき、いいところね。 龍彦:だろ? 都会のトイレとは何もかもが違うだろ。 美優:うん。優しい太陽、さざめく葉っぱ、せせらぐ川、またこんなとこに来れるだなんて。 龍彦:喜んでもらえてよかった。 龍彦:まぁ、俺も気持ちいいからウィンウィンだな。 美優:そうね。 龍彦:にしても、お前さ。 美優:なに? 龍彦:普通に見てくるようになったな。 美優:そりゃね。私を呼ぶ儀式としか思ってないから。 龍彦:そっか。 美優:それに、お互い触れることはできないからね。だから犯されるなんて心配もない! 龍彦:それもそうだな。 美優:うん。 龍彦:......な、なあ。 美優:ん? 龍彦:聞きたいことがあるんだけど、いいか? 美優:どうぞー? 龍彦:俺のとこに来てないときって、いつも何処で過ごしてんの? 美優:あー。やっぱり気になるよね。 龍彦:うん。聞いちゃまずかった? 美優:ううん、大丈夫。 美優:なーんかね、何処でもないところ。 龍彦:え? 美優:説明が難しいんだよね。 龍彦:前に声を聞いたとかいう真っ暗な世界でもなくて? 美優:うん。そこだったら、私は自分がそこにいるって思えるんだけど、本当になにもないの。 龍彦:そうなのか。 美優:ただ......。 龍彦:ん? 美優:ただね。よく言うじゃない? 人が本当に死ぬのは、忘れられたときだ。って。 龍彦:ああ。 美優:龍彦のところに来るとき以外はそんな状態に近いのかなって。そう思うの。 龍彦:うん。 美優:でね、そうだったらイヤだなって。無性に悲しくなる。だから、こうやって龍彦がどんなかたちであれ、私を思い出してくれてるのは嬉しい。 龍彦:そう、か。けど、きっとご両親も彼氏も、さ。たくさん美優のこと思ってるよ。たまたま俺のとこにしか来れなくなっただけで。 美優:だと、嬉しいな。 龍彦:でも、だからこそ俺、がんばるよ。たくさん考えて、たくさん美優をそんな悲しいところから出してきてやる。 美優:うん。 龍彦:ま、単に俺が気持ちよくなるだけなんだけどな。 美優:......龍彦くん。 龍彦:どうした。もっと自由に遊べよ。そんなに外なんて来れないんだからさ。 美優:うん。 美優:  美優:  龍彦:(M)それから、色んなところへ二人でいった。もっとも、俺が一人でいっているだけなのだけれど、たくさん、行った。 龍彦:そして今日、夜の遊園地に来た。近くの海で花火があがるそうだ。人でごった返す園内を進み、観覧車の整理券を購入した。 龍彦:  美優:こ、ここは? 龍彦:外、見てごらんよ。 美優:......動いてる。きれいな夜景。 龍彦:そう。ここは観覧車。暗くて狭い個室でここほどロマンチックなとこはないかなって。 美優:うん。 龍彦:一緒に居れて嬉しかった。けど、君は成仏すべきだと思う。で、するとしたら......ここかなって。 美優:ありがとう。 美優:こんな綺麗なところ用意してくれて。 龍彦:もちろん、だって、好きだから。 美優:龍彦くん。 龍彦:なに。 美優:泣いてる......の? 龍彦:そんなわけ、ない、だろ。 美優:待って、ハンカチがあるはず。 龍彦:触れられるのか? 美優:うん、涙なら。ただの水と一緒。もうそれは龍彦くんじゃないから。 龍彦:そっか。ん。ありがと。 美優:ハンカチの柄、覚えていてくれたの? 花火の柄、こんなにはっきり。 龍彦:うん、もちろん。 美優:......ね、キス、してあげようか。 龍彦:けど......。あ、そういうことか。 美優:そう。唾液は龍彦くんの物じゃないの。わたしたち、ふたりの。 龍彦:(M)口のなかで唾液が動くのにつれて、勝手に舌も動く。舌は何にも触れられないのに。そして、花火があがる。 美優:綺麗。 美優:ありがとね、龍彦くん。 美優:まさかこんな気持ちになれるなんて思ってなかった。 龍彦:うん。 美優:死んでから、もう楽しいことなんてない。綺麗な景色なんて見れない。そう思ってた。 龍彦:うん。 美優:けど違った。 美優:わたし、龍彦くんのとこに来れてよかった。 龍彦:うん。 美優:だから。ありがとう。 美優:観覧車からの花火だなんて、ずるい。 美優:嬉しいに決まってるじゃん。 龍彦:ああ。美優。 美優:龍彦くん、わたしもう行かなきゃ。 龍彦:俺も、もうすぐ。 龍彦:もうすぐなんだ。 美優:じゃあ、一緒に。一緒にいこう。 龍彦:ああ。 美優:ほら、ここにかけていいから。 美優:私も好きだよ、龍彦くん! 美優:  龍彦:(M)観覧車の永遠も、半ばを過ぎて、花火の閃光が暗い部屋を明るくする。その一瞬のひかりのせいか、美優の笑顔の上にかかったかのように見えた。そして、その俺の俺でなくなった液体は、すぐに金属の床に落ちて、今はただただ鈍く光っている。 龍彦:  龍彦:これからも君のことを思うよ。 龍彦:  龍彦:(M)そして、観覧車を降りて、まだ打ち上がっている花火には背を向けて、人混みのなかを歩いていく。 龍彦:俺の花火は、もう打ち終えたから。 龍彦:  0:数日後 龍彦:(M)俺は小学校の同窓会に来ている。懐かしい顔ぶれが揃う楽しい時間、ホテルの宴会場を貸しきっているようで、トイレまでの廊下にも知り合いが居る。 龍彦:  美優:あ。 龍彦:ん? 美優:久しぶり、もしかして。......龍彦、いや、絶対に龍彦だよね? 龍彦:う、うん。もしかして、美優? 美優:そう! 美優だよー! えー! 覚えててくれてたんだ! 龍彦:けど、どうしてここに? 美優:わたし、転校したじゃん? 龍彦:うん。 美優:けどさ、ここの小学校の皆との方が思い出とかいっぱいあるから、来ちゃった。 美優:招待状もちゃんと届いてたしね! 龍彦:そっか。 美優:へぇ、龍彦。こんなになったんだ。なんか意外。 龍彦:ほっとけよ。美優だって、随分大人っぽくなったじゃん。 美優:なに、それって褒めてる? 龍彦:ん。そりゃ。まあ。 美優:なにその返事。まあいいや。龍彦、彼女いなさそうだね。 龍彦:は。失礼な。 美優:どうなの? 龍彦:......いないけど。 美優:やーっぱり! 龍彦:だからってなんだよ。 美優:このあとさ、少人数で二次会行こうって話があるんだけど、一緒に来ないかな? って。 龍彦:へえ。 美優:別に、二人きりでもいいよ。 龍彦:......え? 美優:わたしのこと、好きだったんでしょ? 龍彦:な、なんで。 美優:だって、ずっと見てたじゃん。あの頃。 龍彦:バレてたんだ。 美優:で、どうする? 龍彦:......。 美優:思ったよりかっこよくなってたから、ちょっと見直したんだよね。どう? 龍彦:やめとく。 美優:え、どうして。 龍彦:確かに。確かに、小学生のとき、俺は君に釘付けだった。今でも、あのときのことを思い出すくらい、好き。 美優:ならなんで。 龍彦:なんでだろうね。けど行かないよ。 龍彦:ごめんね。 美優:ふーん。ま、いっか。じゃあまたね。 龍彦:うん。楽しんでね。 龍彦:  龍彦:(M)俺は廊下を奥まで進んで、個室トイレに入った。そしてドアの鍵を閉めて、一人遊びを始める。 龍彦:  龍彦:  龍彦:やっぱり、小学校のときの方が可愛い。本当に君のことが、好き、好き、大好きだ。 龍彦:これからも君のことを思うよ。俺だけの、美優......。