台本概要

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タイトル 【5人劇】法外宙域ローヴァ―ゲイル外伝『アスター・フォニー』
作者名 冷凍みかん-光柑-  (@mikanchilled)
ジャンル ファンタジー
演者人数 5人用台本(男2、女2、不問1) ※兼役あり
時間 60 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 原作ろくしょうるり様『法外宙域ローヴァ―ゲイル』外伝!
舞台は平行世界の英国、ロンドン。幻の音源モジュール『アスター・フォニー』を手に入れるべく、フウガたちは霧の衛星『スペースジャンク』へ冒険の旅に出るッ!!
※使用したフリーBGM『紫苑 -追憶-』『スモークランド』『irish_iris』『ミスト』『ミッションスタート』
※BGMは「1曲だけリピートする」モードにしてください。

着想
ろくしょうるり『法外宙域ローヴァ―ゲイル』
今昔物語集『兄弟二人、萱草、紫苑を植ゑし語』
マザーグース『Remember Remember 』
大伴克洋『彼女の想いで』
ジェームズ・マクティーグ『Vフォー・ヴェンデッタ』
Wang Chung 『Space junk』
キノトロープ『ガラージュ(Garage)』

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
■フウガ 不問 28 ハイエンドクラスAI。作中では小型ユニット、リトルフウガで活動します。■のセリフです
ロジー 173 29歳。お調子者だが、頼れるリーダーです
リリ 121 ヤマモトリリ。13歳の少女ですが、見た目は10歳のままです
〇霧の支配人 49 義肢の男と兼ね役です。本名がリアンです。初登場は「仮面の男」と表記しています。〇のセリフです
△霧の魔女 81 植物学者と兼ね役です。本名がフルワです。△のセリフです
■リトルフウガ 不問 119 フウガと兼ね役です
〇義肢の男 18 霧の支配人と兼ね役です。霧のきょうだいの父
△植物学者 18 霧の魔女と兼ね役です。霧のきょうだいの母
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:BGM『紫苑 -追憶-』 リリ:〈絵本〉母を亡くし、悲しみに暮れる兄妹のもとへ リリ:一匹の鬼が現れました リリ:紫色は過去の色。変わることなく永久(えいきゅう)に リリ:橙色は現在(いま)の色。夜を過ごせば明日が来る リリ:かわいいかわいい子供たちよ リリ:あなたはどちらを選ぶかね 0:  ■フウガ:法外宙域ローヴァ―ゲイル △霧の魔女:『アスター・フォニー』 0:BGM『スモークランド』 ■フウガ:「もっといい声になりたい」 ロジー:フウガ。いきなりどうした リリ:そのままがいいな。フウガの声、好きだよ ■フウガ:ありがとうございます、リリ。しかし私は、よりハイスペックな音源モジュールを内蔵したいのです リリ:音源、モジュール? ■フウガ:音源モジュールとは、コンピュータの入力情報に応じて ■フウガ:私の声を生成し、スピーカーに出力させる装置のことです ロジー:人間で言うところの喉だな リリ:ふーん ロジー:フウガ、喉のパーツを替えたいのはわかった。しかし何故だ?説明してくれ ■フウガ:そうですね。先日。定期メンテナンスを受けた際に、いくつか不具合が見つかりまして ロジー:おいおい、もっと早くに言えよ リリ:フウガ、大丈夫なの? ■フウガ:ええ。不具合と言っても大したことはありません。いくつかのパーツを入れ替えれば済む程度のものです ロジー:なんだ、脅かすな リリ:はあ、よかった ■フウガ:しかしながら、これを機に古いパーツを一新しようと思いまして ロジー:どうせなら質のいいモノをと? ■フウガ:そういうことです、ロジー ロジー:まあ好きにしろよ。お前は倹約家だし、「こういう時に金を使わなければいつ?」って話だしな ■フウガ:その通りですが。どうやら、ネットショッピングでは入手不可能のようです リリ:そんなに、出回ってない部品なの? ■フウガ:ええ ロジー:幻のモジュールってことか?お前、妙なところにこだわりがあるんだな ■フウガ:否定できません。私が探し求めているのは、正に幻と言われる音源モジュール ■フウガ:その名も、『アスター・フォニー』 ロジー:アスターフォニぃ? リリ:”星のような、声” ■フウガ:とても綺麗な声だとか。名前的にも、宇宙で働く私にはうってつけだと思いまして ロジー:それで、どこにあるんだ?目星はついてるんだろ? ■フウガ:地球近縁のデブリ群、通称『スペースジャンク』です ロジー:スペースジャンクだって?おいおいフウガ、ふざけてるのか リリ:ロジー、スペースジャンクって何? ロジー:ジョナサン・ウェルズの小説に出てくる架空の宙域さ。そこには宇宙ゴミが密集するため、強力な磁場が発生している ■フウガ:詳しいですね ロジー:物語としては面白いからな。19世紀のイギリスが、もしも『エナジーマテリアル』を手にしていたら! ■フウガ:好きなんですね。SFが リリ:ふふっ。ロジー子どもみたい ロジー:・・・まあ。ただの物語さ ■フウガ:ところが実際、19世紀のイギリスに『エナジーマテリアル』が渡っていたんです リリ:へーそうなの? ロジー:ばかな。その時代に『エナジーマテリアル』があるはずがない ■フウガ:実は前から、ダークウェブを通じて、ある人物とコンタクトをとっていました ロジー:フウガお前、故障の原因はダークウェブでウイルスをもらったから、というオチじゃないよな? ■フウガ:〈無視して〉その人物によると、どうやら宇宙には、我々の住む世界とは違う平行世界が存在するようです ロジー:まさか。それこそオカルトだ リリ:でもおもしろそうだよ? ロジー:リリ。こういうのは話だけにとどめるのが賢い。信じ始めたらオシマイだ ■フウガ:ロジーは20年前の、貨物船 失踪事件を知っていますか ロジー:子供の頃聞いたことがある。行方不明のまま、今も見つかっていないと ■フウガ:実はその貨物船、アクティブパスゲートを通過した際に、誤ってタイムスリップしてしまったのです ■フウガ:そう、19世紀のイギリスに ロジー:だが、実際の歴史はそうじゃないだろ ■フウガ:ええ、肝要なのはそこですよ、ロジー。 ■フウガ:貨物船が19世紀の地球近縁に出現して、当時のイギリスに『エナジーマテリアル』がもたらされた瞬間 ■フウガ:世界が2つに分岐した リリ:ありえたかもしれない、もう一つの世界線? ■フウガ:そういうことです ロジー:実在するのか、本当に・・・? ■フウガ:ダークウェブで知り合った人物の名前は『霧の支配人』 ■フウガ:ロンドンの深い霧を通じて、平行世界を行き来する男です リリ:ふーん。どうするの、ロジー? ロジー:・・・ リリ:ロジー? ロジー:フウガ。メイヤード総括に休暇申請をしてくれ ロジー:イギリスに行くぞ ■フウガ:ロジー。そうこなくては △霧の魔女:くる・・・!くる・・・?ふふふ、そうよね・・・? 0:BGM『紫苑 -追憶-』 リリ:〈N〉20年前。とある惑星 〇義肢の男:喜べ!地球へ帰れるぞ △植物学者:ほんとうなの!?ついに渡航の許可が出たのね!? 〇義肢の男:ああ、宙運連の友人が特別に便宜を図ってくれるってさ! 〇義肢の男:さっそく子供たちにも伝えてくれ!貨物船を用意する!出航の準備をするぞ! △植物学者:うれしい!今夜はパーティね! 0:BGM OFF 0:現在。ロンドン ロジー:〈M〉英国、ロンドン。かつて19世紀の産業革命を皮切りに、世界の銀行として覇権を握る ロジー:〈M〉1851年のロンドン万国博覧会は、鉄道の発展と大気汚染という、19世紀イギリスにおける光と陰の象徴となった ロジー:〈M〉それが、こちらの世界での歴史 リリ:フウガ、遅いね ロジー:「21時丁度にキングスクロス駅で」か。指定したフウガ本人が遅刻とはな リリ:フウガ大丈夫かな ロジー:心配ないだろう 0:  ■リトルフウガ:お待たせしました。リリ、ロジー ロジー:全く遅いぞ・・・って、なんだその体!? リリ:あはは、フウガ小さい子どもみたい! ■リトルフウガ:本体の不具合がいよいよひどくなってしまったので、今回はこの充電式小型ユニットで行きます ロジー:慣れない土地で大丈夫なのか。スペックはかなり落ちているだろう ■リトルフウガ:まあ戦闘はムリですね。探知やハッキングもできません ロジー:減らず口だけ残ったという感じだな ■リトルフウガ:〈思案して〉そうですね・・・この体のことは分かりやすく、リトルフウガとしましょうか リリ:買い物するだけだし、問題なさそう。嫌な予感はするけど ■リトルフウガ:じつは新たに加わった機能もあります ■リトルフウガ:二人とも、これをどうぞ リリ:何、これ? ロジー:シュークリーム?夜中にか・・・ ■リトルフウガ:正確には、フランケン・クキィと言います。菓子作りで余った端材をクリームでつなげて、専用の生地で包んだお菓子です リリ:これフウガが作ったの? ロジー:新機能って、料理することか? ■リトルフウガ:いいえ違います。フランケン・クキィはさっき洋菓子店で買いました ■リトルフウガ:そしてリトルフウガは 0:大口を開けるリトルフウガ ■リトルフウガ:これを味わうことができます ロジー:へ? ■リトルフウガ:いただきます 0:パク ■リトルフウガ:美味しい ロジー:俺のほとんどなくなったじゃねえか・・・ ■リトルフウガ:味覚って素晴らしいですね リリ:ロジー、私のをあげるよ ロジー:何を言ってるんだ、それはリリの分だ リリ:いいの。食べて?ロジー ロジー:リリ、頼むから リリ:いらない ■リトルフウガ:リリ・・・ リリ:ねえ、フウガ ■リトルフウガ:なんでしょう リリ:食べれてよかったね ■リトルフウガ:・・・ ■リトルフウガ:はい 0:BGM『紫苑 -追憶-』 ■リトルフウガ:〈M〉機械は替えが利く。故障をすれば部品を取り換え、不具合があれば改善される ■リトルフウガ:〈M〉そうしてより新しいものへと進化する ■リトルフウガ:〈M〉変わらなければ、他の機械に取って代わられる ■リトルフウガ:〈M〉変わることこそ、存在意義だ ■リトルフウガ:〈M〉リリは機械とは正反対だ ■リトルフウガ:〈M〉いつまでも幼い姿のまま。”不具合”が改善されることもなく ■リトルフウガ:〈M〉ヤマモトリリは変わらない 0:  リリ:〈N〉20年前。とある貨物船 〇義肢の男:状況が変わった △植物学者:何か悪いこと? 〇義肢の男:ああ。地球には着陸できない。このまま宇宙で待つしかない △植物学者:待つしかないって・・・食べ物はどうするの?子供たちだっているのよ 〇義肢の男:つらいが今は耐えてくれ △植物学者:お友達はどうしたの? 〇義肢の男:賄賂がばれて捕まった △植物学者:そんな・・・ 〇義肢の男:くそ!だから慎重にやれと言ったのに!! △植物学者:正式に、宙運連で手続きしたらどうかしら 〇義肢の男:やってみたが、ダメだった △植物学者:私のせい、なのね・・・? 〇義肢の男:そんなことはないよ。ただキミの研究している花を、宙運連の奴らはヤバすぎると判断した △植物学者:人に寄生するから? 〇義肢の男:制御方法が限定的だからだそうだ △植物学者:そんな、でもいつかちゃんと! 〇義肢の男:いつかじゃ納得してくれない! △植物学者:・・・! 〇義肢の男:すまない、怒鳴ってしまった・・・ △植物学者:・・・せめて子供たちだけでも 〇義肢の男:キミも、子どもたちも、僕だって寄生されているんだ。無理に決まってるだろ △植物学者:そうよね・・・ △植物学者:この紫苑は、何も悪くないのに・・・ 0:BGM OFF 0:現在。ロンドン、キングスクロス駅 ロジー:フウガ。取引相手との約束時間は平気なのか ■リトルフウガ:遅刻する旨は連絡済みです ■リトルフウガ:しかしなるべく急ぐため、3等車のチケットしか入手できませんでした ロジー:まあ、しかたないな リリ:チケット?フウガ、私たちこれから何に乗るの? ■リトルフウガ:いいですかリリ。 ■リトルフウガ:私たちはこれから ■リトルフウガ:蒸気機関車に乗ります 0:BGM『irish_iris』 ロジー:〈M〉出発の警笛が鳴り、機関車はズシンズシンと音を立てながら、ゆっくりと動き出した リリ:わあすごい!煙をあげてるよ! ■リトルフウガ:リリ、窓から身を乗り出したら危ないですよ リリ:すごいね、すごいね、トラちゃん ロジー:〈M〉リリ愛用のぬいぐるみトラちゃんは、特殊なエナジーマテリアルを内包している ロジー:〈M〉リリはそのトラちゃんを駆使して、超自然的な力を使うことができるのだ ロジー:トラちゃんさえいれば、帰りの電車の切符は買わなくて済みそうだな ■リトルフウガ:ええ、帰りは直接ホームに時空移動しましょう リリ:よかったねトラちゃん。役に立てて 0:BGM『ミスト』 〇仮面の男:あの、もし良ければ、よく見せてもらえないかな 〇仮面の男:その可愛らしいぬいぐるみを ロジー:・・・あんた、突然どういうつもりだ?寝てるとばかり思っていたが。盗み聞いていたのか 〇仮面の男:いえ、違うんです!ごめんなさい!本当に用があるのは、あなたでもその娘でもなくて! 〇仮面の男:・・・あのう、もしかしてフウガさんですか ■リトルフウガ:はい、私です 〇仮面の男:あ、あ、やっぱり!そうですよね 〇仮面の男:申し遅れました。私、『霧の支配人』と申します ■リトルフウガ:まさか、あなたが・・・ 〇霧の支配人:どうもフウガさん。もう少し大人の方かと思っていました ■リトルフウガ:リトルフウガは仮の姿です。初めまして『霧の支配人』 ロジー:あんたが『霧の支配人』か。おれは 〇霧の支配人:ロジー・ガーウィンさん、ですよね。ウワサは兼ねがね ロジー:・・・どのウワサかな ■リトルフウガ:私は何もしゃべっていませんよ?ロジー 〇霧の支配人:そちらのお嬢さんが、リリ・ヤマモト 〇霧の支配人:リリィ(百合)・・・素敵な名前だ リリ:ありがとう、ございます ■リトルフウガ:集合場所はリヴァプール駅との約束ですが 〇霧の支配人:ええ。しかしながら平行世界の入口には時間の制約がありまして 〇霧の支配人:それで迎えに来た次第です ロジー:そうは言っても、列車が停まらないことには、どこへだって行けないだろ 〇霧の支配人:いいえ、平行世界の入口は霧さえあれば開きます ロジー:霧だって?イングランドの天気は今日から明日にかけて全域快晴!雲の一つだってないぞ 〇霧の支配人:ええ、19世紀のイギリスなら全く考えられないことです 〇霧の支配人:だから今夜は特別なのです ■リトルフウガ:?『エナジーマテリアル』が導入された平行世界ならば、こちらと同様に、大気汚染もなくなっているのでは? 〇霧の支配人:いいえ。むしろ新たな資源を手に入れたことで 〇霧の支配人:人間は増長しました ■リトルフウガ:本来なら一日中霧が当たり前ということですか ロジー:何でもいいが、今夜は霧がないんだ。どうするつもりだ 〇霧の支配人:その前に、一つ条件が ■リトルフウガ:なんでしょう 〇霧の支配人:お嬢さんのぬいぐるみを預からせてはもらえないかな? リリ:・・・!いや!トラちゃんは渡さない! ロジー:くっ!ようやく本性を現したか!お前、本名は何だ!?その胡散臭い仮面も外してもらおうか! 〇霧の支配人:私の本名、仮面の下の素顔・・・私の過去 〇霧の支配人:”そんなもの”、理想の未来の前では、まったく意味をなさない ロジー:理想?何の話だ 〇霧の支配人:気づきませんか?これだけ騒いでいるのに 〇霧の支配人:文句ひとつも言われない 〇霧の支配人:気づきませんか?他の乗客の静けさに ロジー:!? ロジー:〈M〉辺りを見渡すと、他の乗客は皆一様、黒いマントに怪しい仮面 ロジー:〈M〉『霧の支配人』と名乗る男と、まったく同じ姿でこちらを観察していた リリ:ひっ・・・! 〇霧の支配人:我々の名はガイ・フォークス(群生体) 0:GUY FOLKS 〇霧の支配人:史上最高の反社会組織です 0:BGM『ミッションスタート』 ロジー:ガイ・フォークス!宙運連関係者の、個人情報流出事件!! ■リトルフウガ:因縁の相手。私が宙運連だと知って近づいたというわけですか 〇霧の支配人:いいえ、フウガさん。私があなたに接触したのは、あなたが機械だからです ■リトルフウガ:どういう意味ですか ロジー:『霧の支配人』。もしも俺達に危害を加えようものなら、交渉は決裂だ! ロジー:ただちに帰らせてもらう! 〇霧の支配人:いえいえ、どうか落ち着いて 〇霧の支配人:収穫がなくてはこちらが困ります 〇霧の支配人:いいでしょう。リリさんのぬいぐるみの携帯を認めます リリ:ほっ、よかったあ 〇霧の支配人:ただし荷物代として100万ポンド頂きます ロジー:100万ポンドだって!?話にならないぜ!帰るぞ ■リトルフウガ:ええ 〇霧の支配人:フウガさん!いいのですか? 〇霧の支配人:理想の声が、『アスター・フォニー』が欲しいのでしょう? 〇霧の支配人:ダークウェブで私とやりとりしたあの熱意は 〇霧の支配人:嘘だったのですか リリ:フウガ・・・ ロジー:・・・ ■リトルフウガ:構いません。分不相応な夢でした ■リトルフウガ:100万ポンドなど、割に合わない 〇霧の支配人:・・・困りましたね、こちらとしてもタダで入口に案内することはできません 〇霧の支配人:そうだ。ならば一つ、仕事を頼みたい ■リトルフウガ:仕事? 〇霧の支配人:ええ、ちょっとしたお使いです ロジー:フウガ、騙されるなよ ■リトルフウガ:その仕事とは何ですか ロジー:・・・やれやれ 0:BGM『紫苑 -追憶-』 〇霧の支配人:花を ■リトルフウガ:花? 〇霧の支配人:姉の部屋にある花瓶の花を、どうか差し替えてほしいのです ■リトルフウガ:〈M〉霧の支配人はそう言って、胸元からオレンジ色のデイリリィを一輪差し出した 〇霧の支配人:この花を、姉の花瓶に 0:  リリ:〈N〉20年前。貨物船 △植物学者:ふふふ 〇義肢の男:どうかしたか △植物学者:こんな風にゆっくりした時間、久しぶりだなって △植物学者:それも二人で 〇義肢の男:ふっ、そうだな 〇義肢の男:そうだ、さっきフルワが僕のドックに来たよ。 〇義肢の男:あの娘はすごい。将来は素晴らしい機械技師になるだろう △植物学者:あら、私の所にだってリアンが来たわ? △植物学者:花瓶の花を差し替えてくれたの △植物学者:みて 〇義肢の男:・・・折り紙じゃないか △植物学者:でも嬉しかった △植物学者:帰れるわよね?私たち 〇義肢の男:ああ。地球に帰ろう。今度は本物の花を △植物学者:ええ 〇義肢の男:絶対に、絶対に帰るんだ 0:  0:現在。3等列車 ■リトルフウガ:いいでしょう。この花をあなたのお姉さんに届けます リリ:ロジーも、それでいい? ロジー:いいだろう。ただし仕事である以上、向こうでの必要経費は全額負担してもらうぞ 〇霧の支配人:構いませんよ。もともとこちらの貨幣は平行世界では使えませんし 〇霧の支配人:為替レートもありませんから ロジー:・・・契約成立だな リリ:ロジー、悪い顔 〇霧の支配人:さて、それでは参りましょうか ロジー:行くって、どこへ? ■リトルフウガ:霧はどこにもない 〇霧の支配人:ええ、しかし。蒸気ならすぐそばを流れているではありませんか 〇霧の支配人:この列車の屋根の上をね 0:ガッシャンガッシャンガッシャン!! 0:BGM『ミスト』 ロジー:〈M〉時速65マイルで走行する汽車の屋根の上は、向かい風と車輪機構の駆動音でまともに会話すらできない リリ:・・・! ■リトルフウガ:・・・! ロジー:〈M〉リリ、フウガ!しっかり掴まっていろよ! ロジー:〈M〉激しい風にも意を介さずに、霧の支配人はゆらゆらと前を歩く ロジー:〈M〉これだけの騒音の中、『霧の支配人』の声だけは ロジー:〈M〉はっきりと聞こえてきた 〇霧の支配人:これからあなた方が体験するのは 〇霧の支配人:世にも奇妙な世界での出来事 〇霧の支配人:しかし夢ではありません 〇霧の支配人:平行世界の住人には、それが現実なのだから ロジー:・・・! ロジー:〈M〉支配人が蒸気で包まれる度に、遠のいたり近づいたりするように見えた 〇霧の支配人:ようこそ。サビと霧の衛星『スペース・ジャンク』へ 0:  ロジー:〈M〉目の前が真っ白になって ロジー:〈M〉ふいに視界が開けると、そこにはきれいな花畑が広がっていた ロジー:え、オレ死んだ? 〇霧の支配人:困りますね、勝手に死なれては ロジー:リリとフウガがいない!霧の支配人!2人をどこへやった! 〇霧の支配人:彼らは既に目的地へと転送しました 〇霧の支配人:あなたにはここへ寄り道してもらったというわけです ロジー:ここ?この花畑が何だというんだ 〇霧の支配人:これこそ私の理想の未来 〇霧の支配人:そうだ、さきほど私に仮面をとれと言いましたね ロジー:・・・! 〇霧の支配人:いかがでしょうか ロジー:顔に、花が咲いている・・・ 〇霧の支配人:紫苑という花です。厳密に言うと、地球上の紫苑とは別種ですが ロジー:その、平気なのか、?見るからに痛そうだが 〇霧の支配人:あなたも・・・試してみますか ロジー:や、遠慮しとく・・・ 〇霧の支配人:・・・右手 ロジー:!? ロジー:おいおい、すでに生えちまってたのかよ・・・ 〇霧の支配人:ははははははは ロジー:〈M〉辺りを見渡すと色とりどりだった花畑が ロジー:〈M〉一面の紫苑で埋め尽くされていた ロジー:〈M〉俺は意識を失った 0:BGM OFF リリ:ロジー起きて ロジー:う、ここは・・・ ■リトルフウガ:不明です。通信が遮断され、この場所では宙運連のネットワークにもアクセス出来ません ロジー:どうやら俺達は完全に孤立してしまったみたいだな ロジー:〈M〉辺りを見渡す。オレンジ色のナトリウムランプ。狭くて先の見えない通路 ロジー:〈M〉むき出しの送電線やガス管 ロジー:〈M〉バルブの隙間からは定期的に蒸気が漏れていて ロジー:〈M〉それがまるで呼吸のようだった リリ:ロジー。なんだかここ、息苦しいよ ロジー:ひとまず出口を探そう 〇霧の支配人:お目覚めですか ロジー:どこだ!どこにいる! 〇霧の支配人:申し訳ないが、お答えできない ロジー:俺達がいつでも帰れることを忘れたのか?妙な気は起こさない方がいい 〇霧の支配人:ええ、いつでも帰ってご覧なさい 〇霧の支配人:花が開いても構わないなら 0:とっさに右手を見るロジー ロジー:・・・あれは夢じゃなかったのか リリ:ロジー、私にも ロジー:なんだと!? ロジー:〈M〉リリの方は少し、開きかけている・・・ ロジー:霧の支配人、俺の身体に何をした! 〇霧の支配人:霧を通過してこの星へ連れ込む際に、あなた方の体表組織に植えたのです 〇霧の支配人:未知の紫苑。タタリアン・ギャラクシアスと言います ■リトルフウガ:この花を解析したところ、どうやら人間に寄生する宇宙植物のようです ロジー:ははは、俺達は植木鉢じゃねえぞと 〇霧の支配人:さて、依頼をこなしてもらいます 〇霧の支配人:フウガさんに預けたオレンジデイリリィを、この星の最深部に届けてほしい 〇霧の支配人:期限は設定いたしませんが、きっかり3時間後にこの星の日出時刻を迎えます 〇霧の支配人:陽光で花が咲いてしまえば、二度と抜くことはできません 〇霧の支配人:早急にクリアすることをお勧めします ロジー:先を急ぐしかなさそうだな リリ:地図があればいいんだけど ■リトルフウガ:ロジー、リリ。すみませんでした ロジー:どうしたフウガ、改まって ■リトルフウガ:私が音声モジュールにこだわらなければ、2人を巻き込むこともなかった ■リトルフウガ:反省します リリ:平気だよ、仲間だから ■リトルフウガ:リリ、、 ロジー:リリの言うとおりだ、気にするな ロジー:それに、調べておきたいこともあるしな ■リトルフウガ:消息不明の貨物船の行方、ですか ロジー:ああ。これに関しては宙運連として見過ごせない案件だからな 〇霧の支配人:さて、最深部への行き方ですが 〇霧の支配人:星の中心を貫く螺旋トロッコを目指してください 〇霧の支配人:霧の回収孔も兼ねているので、蒸気の流れに沿って歩けば、たどり着きます 〇霧の支配人:それではあとはよろしく ロジー:さて行くか リリ:なんだかドキドキするね ■リトルフウガ:何が潜むか分かりません。気を引き締めていきましょう ロジー:ロジー班、出動! リリ:おー! 0:BGM『スモークランド』 ■リトルフウガ:〈M〉足元を流れる蒸気に沿って、私たちはトロッコを目指した ■リトルフウガ:〈M〉星のような声を、『アスターフォニー』を手に入れるために ■リトルフウガ:〈M〉金網の足場に差し掛かると、蒸気は網の隙間へと吸い込まれていく リリ:この金網開けれないかな ロジー:下手に足場を崩すのは良そう。どこかに下へとつながる入口があるはずだ リリ:トラウィス 0:キュイイイン ■リトルフウガ:〈M〉リリがそう言うと、ぬいぐるみのトラちゃんが発光して、足元の金網に大きな穴が開いた 0:ズズーン・・・ ロジー:おいおいマジか ■リトルフウガ:平気でしたね、ロジー ロジー:おれは慎重派なのっ リリ:見て二人とも。レールだよ ■リトルフウガ:〈M〉やや広めの通路にトロッコ用のレールが敷かれている。2本あるのは往路と復路で使い分けているに違いない ■リトルフウガ:〈M〉車軌(しゃき)が異なるのは、妙であるが ロジー:でかしたぞリリ!これを辿れば螺旋トロッコにつながっているはずだ ■リトルフウガ:〈M〉線路に耳を傾けて音を聞く ■リトルフウガ:〈M〉すると幅が狭い方の線路から、こちらへと迫る車輪の音が聞こえた 0:シャリシャリシャリシャリン! 0:BGM『ミッションスタート』 ロジー:お、トロッコか? リリ:ちがう!そんなんじゃない! ■リトルフウガ:〈M〉迫りくるのは足が二輪の人型のロボット 0:キイイイン!! ■リトルフウガ:〈M〉重機のように巨大な片腕を這わせながら、線路の上を駆けてくる ■リトルフウガ:ロジー、リリ!伏せて!! ロジー:・・・! リリ:きゃっ! ロジー:〈M〉巨大なアームが髪をかすめて通り過ぎる ロジー:〈M〉フウガの合図で避けなければ、首を持っていかれていた 0:ギギイ・・・プシュウ ロジー:止まった!? 0:グルンッ! リリ:ひ! ロジー:〈M〉ロボットは首と肘を180度回転させて再びこちらに突進する! 0:ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!! ■リトルフウガ:リリ、トラちゃんを早く! リリ:〈M〉大きな腕、激しい音・・・ リリ:いや、いやッ! ロジー:大丈夫だリリ!ヤツにお前を触れさせやしない!! リリ:ロジー・・・ リリ:・・・トラちゃん、お願い リリ:あいつを仕留めて 0:キュイイイン・・・ ロジー:〈M〉巨大な腕を中心に、ロボットが四散する 0:ズドン! ロジー:〈M〉突進する力を上回るほどの威力で、ロボットは向こうへ吹き飛んだ ■リトルフウガ:対象の沈黙を確認。ちょっと様子を見てきます 0:BGM OFF リリ:気をつけて、フウガ ロジー:!この顔は・・・!? ■リトルフウガ:『霧の支配人』と同じ仮面ですね・・・ ロジー:クソ、どうなってやがる! リリ:霧の支配人の、仲間? ■リトルフウガ:しかし今はとにかく、先に進むしかありません ロジー:〈M〉振り返ると、今度は太い線路の上をトロッコが緩やかに滑ってくる リリ:乗りなさいってことなのかな ■リトルフウガ:これも罠かもしれませんね ロジー:上等だ、これが終わったらあの仮面をひっぺがしてやる リリ:二人とも、早く~ ロジー:リリ!?もう乗ってるのかよ ■リトルフウガ:私達も乗りましょう、ロジー ロジー:ああ ロジー:〈乗りこむ〉よっと ■リトルフウガ:・・・ ロジー:どうした、フウガ? ■リトルフウガ:身長が足りないので、その・・・ ■リトルフウガ:たすけてください 0:BGM『スモークランド』 リリ:〈M〉私たち3人がトロッコに乗ると、トロッコはゆっくりと加速する リリ:〈M〉頭の上を、オレンジ色のランプが通り過ぎるたびに リリ:〈M〉私たちの影が踊った ロジー:リリ、平気か リリ:うん。大丈夫 ロジー:フウガ、今何時だ? ■リトルフウガ:わかりません。体内時計が狂ってしまったみたいです ■リトルフウガ:おそらく、この星の特殊な磁場が影響しているかと ロジー:日の出時刻も分からない、相当ヤバいな ■リトルフウガ:いえ、霧の支配人と別れる前にタイマーを起動しておきました ■リトルフウガ:磁場の影響を受けた後に起動したので、問題ないかと ロジー:よくやったぞフウガ!それで猶予は? ■リトルフウガ:あと一時間です ロジー:もう2時間も経過したのか・・・ リリ:ふえてる ロジー:リリ、どうかしたか リリ:線路の数が増えてる ■リトルフウガ:本線に近づいている証拠ですね。前を見て下さい ロジー:〈M〉トンネルの先では大きな穴が上下に伸びている ロジー:〈M〉中心を一本の柱が貫いて ロジー:〈M〉その周りを螺旋状の線路が取り巻いている ロジー:〈M〉ナトリウムランプが燦然と輝くも ロジー:〈M〉その終点を見ることはできない ロジー:〈M〉穴は深く深くと続いていた 0:ガタンッ! 0:BGM『ミッションスタート』 リリ:きゃっ、傾いた!? ■リトルフウガ:トロッコが螺旋の軌道上に乗ったのでしょう ロジー:どんどん加速していくぞッ! ■リトルフウガ:勾配から加速度を算出。トロッコは6秒後に時速130KMで一定になります ロジー:ほとんど落下じゃねえか!ブレーキはどこだ!? ■リトルフウガ:トロッコの機構を調べたところ、そのようなものは見当たりませんでした リリ:ロジー!さっきの奴が追ってきてるよ! リリ:今度はたくさん! ロジー:〈M〉隊列を組んで猛スピードで追いかけてくる二輪ロボットたち ロジー:くそ、懲りない奴らめ!リリ! リリ:まかせて!トラウィ・・・ △二輪ロボット:棄テタリナンカ、シナイヨネ・・・? リリ:・・・え? △二輪ロボット:ワタシハ、ゴミナンカジャ、 △二輪ロボット:ナイヨネ・・・? リリ:い、いや! 0:キュイイイン・・・! ロジー:リリ!逆だ!そっちは線路だ! 0:バコーン! ■リトルフウガ:脱線します!衝撃に備えーーーー!! リリ:〈M〉トロッコが脱線して、宙に舞う リリ:〈M〉目の前に広がるのは リリ:〈M〉どこまでも続く深い深い闇・・・ ロジー:リリ!!! リリ:ロ、ジー・・・? ロジー:線路に戻るぞッ!! ロジー:力を使え!! リリ:ッ!うん!! リリ:私達を線路に戻して!トラウィス! ロジー:でかしたぞ! ■リトルフウガ:あれは・・・?二人ともさっきの場所を見て下さい リリ:二輪ロボットたちがウロウロしてる・・・ ロジー:どうやらまいたみたいだな! リリ:ううん、なんだか様子がおかしいかも・・ ■リトルフウガ:〈M〉壊れた線路に二輪ロボットたちが集まると ■リトルフウガ:〈M〉目にも留まらぬ速さで破損個所を修復して ■リトルフウガ:〈M〉線路がたちまちにつながった 0:ガチイイイン・・・! リリ:追ってくる!? ロジー:いや、更なる補強工事に入ったぞ・・・? ■リトルフウガ:ええ、これでハッキリしましたね 0:BGM『紫苑 -追憶-』 ■リトルフウガ:二輪ロボットの最優先事項は、異状箇所を改善すること ■リトルフウガ:免疫機能は二の次であると考えられます ロジー:免疫ね。まるでこの星全体が一つの生命体みたいだな ■リトルフウガ:おそらく、この星には生命維持に必要な機能しか備わっていないのでしょう ロジー:ロボットたちの攻撃が免疫作用とすると、俺達は異物ってところか?道理で歓迎されないわけだな リリ:私たちが、異物・・・ リリ:〈M〉それなら『霧の支配人』から託されたこの花は リリ:〈M〉いったい何なんだろう ■リトルフウガ:忘れ草 リリ:え? ■リトルフウガ:オレンジ・デイリリィの別名です ■リトルフウガ:ワスレグサ、萱草(カンゾウ)、忘憂草(ボウユウソウ) ■リトルフウガ:花言葉は ロジー:「愛の忘却」 ロジー:そして「宣告」 ■リトルフウガ:ロジー、知っていたのですね ロジー:ああ ロジー:間違っても、人に渡すような花じゃない リリ:・・・トロッコが止まったよ ■リトルフウガ:最深部に到着しました ロジー:さて、ご対面だな ロジー:お姉さまとやら △霧の魔女:・・・ 0:BGM OFF ■リトルフウガ:〈M〉霧の星『スペースジャンク』の最深部 ■リトルフウガ:〈M〉真っ暗な洞窟にたった一つのドームだけが光を放つ ロジー:きっとあのドームこそ、この星の核に違いない ■リトルフウガ:何か、おかしい ロジー:どうしたフウガ ■リトルフウガ:先ほど起動したタイマーすらも、秒針がゆっくりになっています ■リトルフウガ:磁場だけじゃない。何もかもが、重い・・・ ロジー:たしかに、さっきから妙に疲れるような △霧の魔女:いらっしゃい、私のリアン リリ:〈M〉ドームの向こうから聞こえる怪しい声 リリ:〈M〉女の人の、声・・・ ロジー:リアンだと? △霧の魔女:失礼。早合点だ △霧の魔女:てっきり弟だとばかり ■リトルフウガ:ええ。まさに僕らは霧の支配人からの依頼で参りました ■リトルフウガ:あなたが彼のお姉様ですね △霧の魔女:うむ。私は彼の”お姉様” △霧の魔女:どうかな。立ち話もよくないだろう △霧の魔女:ドームの中へどうぞ リリ:〈M〉女の人の声に吸い寄せられて リリ:〈M〉というより。まるで引っ張られるかのように、 リリ:〈M〉私達はドームの中へと消える ■リトルフウガ:〈M〉廊下には、まだ起動していない二輪ロボットが吊るされている ■リトルフウガ:〈M〉ここが二輪ロボットの巣なのだろう ■リトルフウガ:〈M〉その先には広い研究室があった ロジー:おーい、誰かいないのか? リリ:ロジー見て ロジー:なんだ日誌か?これは 0:BGM『irish_iris』 △霧の魔女:〈快活に〉やあやあ!いらっしゃい △霧の魔女:私は霧の支配人の姉、霧の魔女だ! ■リトルフウガ:? ■リトルフウガ:〈M〉振り返ると、白衣を着た人型が手を振って立っていた ■リトルフウガ:〈M〉仮面をつけておらず、二本の脚で立っている。他のロボットとは明らかに別格である △霧の魔女:長旅ご苦労様!ささ、客間はこっちこっち 0:  ■リトルフウガ:〈M〉研究室の一画がお座敷になっていて、私たち3人は出された座布団の上に座った リリ:畳・・・ △霧の魔女:いいだろう!ジャパニーズスタイル!20年来だから大分くたびれてはいるけれど リリ:〈M〉畳をなぞる。イグサのかおり リリ:毎日手入れしてるのね △霧の魔女:ん~? △霧の魔女:ふふふ、まあ暇だしね △霧の魔女:・・・さて!私はこの星、『スペースジャンク』の開発者、人呼んで『霧の魔女』! △霧の魔女:改めてよろしく! ■リトルフウガ:私はフウガです ロジー:ロジーだ リリ:ヤマモトリリです △霧の魔女:ヤマモト!やはり日本人か! リリ:あ、ええと。そう、です △霧の魔女:よろしくね、リリちゃん♪ リリ:あう、よろしく・・・ね ロジー:なんか意外だな ■リトルフウガ:ええ、てっきりもっと陰気かと △霧の魔女:ん~それは △霧の魔女:日による ロジー:ああ・・・そうかい △霧の魔女:人の食べ物はないけど、精一杯もてなすぞ! △霧の魔女:金属アレルギーとか大丈夫? リリ:え、うん。大丈夫だけど・・・ ロジー:折角だが、あまり時間がないんだ △霧の魔女:右手を見せて ロジー:わかるのか? △霧の魔女:私の予測では99%の確率で、キミ達は紫苑を植えられている ■リトルフウガ:残りの1%は? △霧の魔女:弟の良心だ △霧の魔女:そんなものは無かったな!はっはっは! リリ:・・・ △霧の魔女:ああ、大丈夫。この段階なら治せるだろう リリ:ほんと!?よかったあ ロジー:いいのか? △霧の魔女:もちろん △霧の魔女:すぐそこの機械さ! △霧の魔女:明転! 0:BGM『紫苑 -追憶-』 ■リトルフウガ:〈M〉照明がつけられると、そこには一隻の貨物船が着艦していた ロジー:これは、行方不明の貨物船! リリ:どうしてここに・・・ △霧の魔女:後で説明するよ♪まずは母の実験室で治療治療~♪ △霧の魔女:さ、脱いで ロジー:な、なぜだ △霧の魔女:私はこの20年間、弟が繰り出す寄生紫苑について研究してきた! △霧の魔女:すると、どうやら寄生紫苑は霧に弱い。特にエナジーマテリアルが付帯した水分を吸うと枯れるみたいだ △霧の魔女:だからサウナに入ってもらう △霧の魔女:エナジーマテリアルで温めた、特別製のサウナ室だよ! 0:BGM OFF ロジー:熱い・・・ △霧の魔女:調子はどう~? ロジー:わからないんだが・・・いつまで入ればいい? △霧の魔女:そうだね、あと20分くらいかな! ロジー:まじか・・・ △霧の魔女:リリちゃんはへいき? リリ:うん。へいき △霧の魔女:ならお邪魔します! リリ:ええっ、ど、どうぞ リリ:〈M〉全身灰色の金属の肌、でもすごく滑らか・・・ △霧の魔女:ん?なんだ リリ:・・・本当に機械なのかなって △霧の魔女:よくできてるだろう?さわってもいいよ リリ:え、いいの? △霧の魔女:もちろん リリ:〈M〉霧の魔女は髪を前に流して、私に背を向けました リリ:〈M〉背中には人工の背骨が露出していて、胸側よりも機械らしく見えました リリ:〈M〉背骨を下から上までなぞっていくと、うなじ辺りに一つのスイッチがありました リリ:躁鬱スイッチ、? リリ:気になる・・・ △霧の魔女:さて。もう、いいかな? リリ:えいっ リリ:〈カチッ〉 0:BGM『irish_iris』 △霧の魔女:〈鬱モード〉はあ・・・なにやってんだろうなあ、マジで リリ:え・・・ △霧の魔女:こんな星に引きこもって・・・いつもそう △霧の魔女:弟が出てった時だって・・・ △霧の魔女:私はなんにも変わらないままで・・・ リリ:カチッ △霧の魔女:〈躁モード〉元気でてきたぞー!はっはっはー! △霧の魔女:そうだ、腕のパーツでもアップグレードしようかな!弟のバカもそのうち帰ってくるよ! リリ:カチッ △霧の魔女:〈鬱モード〉いやだ、消えたい・・・全部なかったことにしたい △霧の魔女:きもい喋り方治したい・・・ リリ:カチッ △霧の魔女:〈躁モード〉そうだ!次の二輪ロボットには花を飾ってみようかな! リリ:カチッ △霧の魔女:〈鬱モード〉こんな性格の自分が嫌・・・もうだれも信用できない・・・ リリ:カチッ △霧の魔女:〈躁モード〉って、いい加減にしなさ~い!! リリ:ご、ごめんなさい △霧の魔女:ほんとうにやめてくれっ。鬱モードの私、大っ嫌いだからさ! 0:BGM OFF 0:20年前。貨物船 〇リアン:姉さん、僕だよ分かる? △フルワ:リアン・・・ 〇リアン:よかった、もうだめかと思った △フルワ:父さんと母さんは・・・? 〇リアン:大丈夫、すぐに会えるよ △フルワ:いつになったら地球に帰れるの? 〇リアン:残念だけど、僕らの知っている地球にはもう帰れないんだ △フルワ:いやだ、きっと何か、方法があるはずよ 〇リアン:?何を言ってるんだ?いいじゃないか、帰らなくて △フルワ:リアン? 〇リアン:母さんのくれた贈り物は、無駄にはしない △フルワ:リアン、一体何をするつもりなの? 〇リアン:ああ。姉さんはここで待ってくれてかまわないから △フルワ:リアン、やだ!おいてかないで! 〇リアン:ていうかもう、動けないでしょ? △フルワ:足が・・・私の、足が・・・! 〇リアン:はは、似合ってるよ。 〇リアン:真っ白な根っこ △フルワ:〈涙〉うっ・・・うっ・・・ △フルワ:大嫌い・・・あんたなんて大嫌い!! 〇リアン:僕も嫌いだよ。姉さん △フルワ:!!まって、やだ!おいてかないで!! △フルワ:やだ・・・やだよお・・・ 0:サウナから出る一行 ロジー:おお、本当に花が取れた・・・ リリ:サウナ気持ちよかったね ロジー:ああ、サウナって不思議だよな。入ってるときは辛いのに、いざ上がってみると ロジー:ふっ、こんなにも清々しい・・・ ■リトルフウガ:改めてお礼を言います。ありがとう、霧の魔女 △霧の魔女:いいえ。フウガくんも気に入ってくれた?3層式〔炭化水素〕洗浄機 ■リトルフウガ:ええ。乾燥時間をあと20秒延長されたら、天国に行けたことでしょう △霧の魔女:ふふっ、それは困るな。君たちには仕事をしてもらうからね ロジー:また仕事か?こちとら有給とって来てるんだがなあ リリ:ロジー、駄々をこねない。サウナのお礼をしなくちゃ ロジー:ま、しかたねえな。それで仕事って? △霧の魔女:うむ。時間もないし、簡単に説明しよう △霧の魔女:シフトチェンジ、『拍車モード』 0:ガチャガチャン ■リトルフウガ:〈M〉トランスミッションが作動して、霧の魔女からギアが組み替えられる音がした △霧の魔女:キミたちに寄生していた宇宙紫苑は、もともと母の研究テーマだった △霧の魔女:母と弟は植物が好きでね △霧の魔女:母は自らを実験体にしつつ、将来的には地球での栽培を計画していたんだ ■リトルフウガ:自らを実験体に? ロジー:副作用とかなかったのか △霧の魔女:平気だった。母は元々おかしかったし、活性化は父が霧で抑えてたからね △霧の魔女:父はサイバネティクスの権威だった △霧の魔女:この体も、父の設計図をもとに、私が実現したものだ! △霧の魔女:このブロマイドを見てほしい。私の研究課程を記録した、自撮り写真だ ロジー:・・・違いが分からん。全部機械って感じで △霧の魔女:なんだってー!!コレとコレなんか、ぜんぜん違うじゃないか! △霧の魔女:ほらここ!内圧を高めるために、マフラーの口径をしぼっているだろう!? リリ:・・・なに言ってるのか全然わからない ロジー:言われてみれば、たしかに?うーん・・・ ■リトルフウガ:生身の人間だったころの写真はないのですか △霧の魔女:あー、昔の写真ならどこかにあった気がする △霧の魔女:どこへやったかな・・・ △霧の魔女:まあとにかく!父は優秀な技師だった。だから宙運連にもコネクションがあった ロジー:宙運連に?それはすごいな △霧の魔女:ああ、20年前もそのコネで地球へと向かっていたんだが △霧の魔女:父の友達が汚職で失脚してね △霧の魔女:私たち家族は宇宙で漂流することになったのさ △霧の魔女:それでいろいろあって △霧の魔女:平行世界に流れ着いたというわけ △霧の魔女:今となっては私の城だ! リリ:ふーん ロジー:いろいろ、か △霧の魔女:平行世界に着いた頃には両親は死んでいたから、私は元の世界へ帰ろうとしたんだが △霧の魔女:弟は違った △霧の魔女:弟は寄生紫苑を使って平行世界を支配するつもりだ ロジー:支配・・・世界征服でもするってのか ■リトルフウガ:寄生紫苑の幻覚効果によっては、人類のマインドコントロールが可能。そういうことですか △霧の魔女:活性化すれば依存性はアヘンの8倍、感染力は結核菌の20倍に相当する △霧の魔女:弟は明朝、霧のない朝日を浴びせて、寄生紫苑を活性化させるつもりだ ロジー:そんなの・・・防ぎようがないだろ △霧の魔女:しかし希望はある △霧の魔女:幸い、弟はまだイギリスすらも掌握していない △霧の魔女:今度の議会に合わせて、手下たちを議事堂に集結させようとしてる △霧の魔女:そこを叩く ロジー:叩くったって、どうすんだ △霧の魔女:この星を投下するのさ! ロジー:・・・! △霧の魔女:寄生紫苑が集まる、ロンドンにね! 0:BGM『ミッションスタート』 ■リトルフウガ:〈M〉特別プロトコルが発令され、『スペースジャンク』に警報が鳴り響く △霧の魔女:フウガ、君がいてくれて助かった ■リトルフウガ:どうしてですか △霧の魔女:キミには『スペースジャンク』の軌道修正を任せたい △霧の魔女:星の出力制御権をキミに譲渡する。必ず成功させてほしい ■リトルフウガ:構いませんが、どうしてそこまで信用できるのですか △霧の魔女:?キミは最高峰の独立AIだろう? ■リトルフウガ:ええ、まあ △霧の魔女:そういうことだ ■リトルフウガ:〈M〉性能、利害関係、目的の共通性。あらゆる思考アルゴリズムを超越する、”何か” ■リトルフウガ:〈M〉「この者は信用に値する」 ■リトルフウガ:〈M〉それは直感、と言うのだろう ■リトルフウガ:〈M〉全身を機械で包んでもなお、霧の魔女は実に人間らしかった △霧の魔女:ワスレグサ ■リトルフウガ:あ・・・ △霧の魔女:弟から渡せとでも言われた? ■リトルフウガ:はい △霧の魔女:ふーん ■リトルフウガ:〈M〉霧の魔女は私の方へ近づいて、ワスレグサを抜き取ると、そのまま自らの髪に挿した △霧の魔女:どう、似合ってる? ■リトルフウガ:ええ、よく似合ってます △霧の魔女:ふふ ■霧の魔女:ありがと ロジー:よし、ラジエータ正常。各種点検完了! リリ:フウガ!魔女さん!突入準備できたよ! △霧の魔女:それじゃあフウガくん。頼んだよ ■リトルフウガ:ええ。任されました ■リトルフウガ:これにより衛星軌道を離脱します。出力装置オールグリーン。バーニアオープン! △霧の魔女:障害物、太陽光圧、誤差、許容範囲内 ロジー:みろ!後ろから太陽が追ってきているぞ! △霧の魔女:ッ!!今日ほどに、登る朝日を呪う夜はないね! リリ:フウガ、急いで! ■リトルフウガ:大気圏に突入します。衝撃に備えて! ロジー:ぐあっ! リリ:ううっ・・・! △霧の魔女:・・・見えてきたね ■リトルフウガ:〈M〉成層圏の乱気流を抜けると、大西洋に浮かぶグレートブリテン島が迫る ■リトルフウガ:〈M〉イングランド首都。ロンドンの地上が見えてくると、街一面が紫色に覆われていた リリ:遅かった・・・? ロジー:ロンドン中が、感染している・・・! 〇霧の支配人:くくく、やはり来たか、霧の魔女 〇霧の支配人:しかし一歩遅かったようだな!貴様の負けだ!! ロジー:あれは!霧の支配人! ■リトルフウガ:〈M〉咲き乱れる紫苑の中で、両手を広げる霧の支配人 ■リトルフウガ:〈M〉仮面を外し、自らも紫苑で覆われている 〇霧の支配人:平行世界を掌握したら 〇霧の支配人:霧のゲートを通じて、元の世界にもプレゼントしよう 〇霧の支配人:特大花束の紫苑をなァッ! ロジー:まさか、俺達のロンドンを・・・? リリ:ロジー・・・ 〇霧の支配人:ロンドンだけではない! 〇霧の支配人:手始めに清国へでも輸出して 〇霧の支配人:紫苑がもたらす幸福の、 〇霧の支配人:虜になってもらおうかアアア! △霧の魔女:いいや、まだ希望はある ロジー:!! △霧の魔女:リリちゃん、そこの赤いスイッチを押して! リリ:わかった! △霧の魔女:緊急システム起動! △霧の魔女:ロジーくん!バルブを閉めて!霧の圧力を最大にして! ロジー:んなことやったら逆流すんぞ! △霧の魔女:大丈夫!いいからお願い! ロジー:クソっ、やってやるよ! △霧の魔女:ビームバレルオープン!目標「ロンドン・メインストリート」!! ■リトルフウガ:了解しました。照準を群生体の中心にロックオン 〇霧の支配人:やめろ、やめてくれ! 〇霧の支配人:タタリアン・ギャラクシアスは!最高の花さ! 〇霧の支配人:どうして認めないんだ!! 〇霧の支配人:姉さん! △霧の魔女:もうやめよう?いつまでも過去にすがるのは! △霧の魔女:私は前に進む! △霧の魔女:あんたの野望を砕いてね! 〇霧の支配人:おのれええ! ■リトルフウガ:〈M〉周囲の紫苑を吸収して、支配人のタタリアン・ギャラクシアスが、 ロジー:巨大化したぞッ! 〇霧の支配人:降りてこい!霧の魔女オオオオ!! リリ:魔女さん! △霧の魔女:構わない!いくよフウガくん!! ■リトルフウガ:エナジーマテリアル最大出力。ビーム充填(じゅうてん) △霧の魔女:私からの愛を受け取りなさい。対・寄生紫苑・蒸気ビーム △霧の魔女:その名も、「ワスレグサ」 ■リトルフウガ:掃射。 ロジー:いけえええ!!! 〇霧の支配人:は、はは・・・ 〇霧の支配人:〈M〉・・・巨大なオレンジデイリリィの花弁から、高濃度のエナジーマテリアル蒸気が集結する 〇霧の支配人:母さん、ごめんよ・・・ 0:BGM OFF ■リトルフウガ:〈M〉ものすごい衝撃と共に19世紀のロンドンの街並みは ■リトルフウガ:〈M〉深い霧へと包まれた ■リトルフウガ:〈M〉私たちの衛星はビームの反動で減速し ■リトルフウガ:〈M〉ロンドンの象徴、ウェストミンスター宮殿を押しつぶす形で地球に着陸した リリ:終わったの・・・? ■リトルフウガ:そのようですね ロジー:2人とも無事か。リリ、フウガ ■リトルフウガ:ええ。おや?霧の魔女は・・・? ロジー:〈アゴで指すように〉ん 0:BGM『紫苑 -追憶-』 ■リトルフウガ:〈M〉巨大な紫苑が枯れた。残骸の上を歩く、霧の魔女 ■リトルフウガ:〈M〉項垂れた弟の手を引き、向き合う二人 ■リトルフウガ:〈M〉まだ低い位置にある太陽。逆光がまぶしかった △フルワ:こんなになるまで好き勝手して 〇リアン:・・・ごめん △フルワ:大勢の人様に迷惑かけて 〇リアン:ごめん △フルワ:思えば、これが初めてのケンカだね 〇リアン:・・・僕は本気だったよ △フルワ:私だってそうよ △フルワ:お帰り、リアン 〇リアン:ごめんね、姉さん △フルワ:違うね 〇リアン:え? △フルワ:そこはただいま、でしょ 〇リアン:うん 〇リアン:姉さん、ただいま ロジー:一件落着か? △霧の魔女:ああ。もう大丈夫 △霧の魔女:キミ達もありがとう リリ:平気よ。仲間だから! △霧の魔女:!!ありがとう、リリちゃん ■フウガ:それでは我々は帰ります リリ:ええ、もう帰るの? ロジー:いいのか、フウガ?『アスターフォニー』は 〇リアン:う・・・ ■フウガ:結構です。私の予測では・・・ △霧の魔女:何かな?アスターフォニーって? リリ:知らないの?星のような声が出せるんだって ■フウガ:霧の支配人がもちかけた音源モジュール『アスターフォニー』は、霧の魔女。あなたの声です △霧の魔女:は? 〇リアン:ご、誤解だ、姉さん ■フウガ:霧の支配人はアスターフォニーの魅力を切に語ってくれましたよ。それはもう、とても懐かしそうに ロジー:はーん、そういうことか △霧の魔女:あんたね・・・ 〇リアン:・・・嬉しかったんだ。機械の身体になっても、そのままでいてくれて △霧の魔女:それなら毎日聞かせてあげる。その代わり、つぶれた街の復興、手伝ってね 〇リアン:姉さん・・・ありがとう △霧の魔女:いいよ、私はあんたの姉さんなんだから 〇リアン:うん △霧の魔女:キミ達も元の世界に帰るといい ■リトルフウガ:ええ、お世話になりました リリ:名残惜しいよ ロジー:俺達にも復興を手伝わせてくれないか △霧の魔女:大丈夫。これは私たちのケジメだからね △霧の魔女:いつまでもこちらにいてはいけない 0:BGM『スモークランド』 ■リトルフウガ:ロジー、時計が回復しました ロジー:おお、そうか ■リトルフウガ:有給休暇の残り時間はあと2分です ロジー:ええ!?マズい遅刻はダメだ!絶対に! ロジー:急いで帰るぞ!リリ! リリ:む~、トラウィス △霧の魔女:皆、ほんとうにありがとう 〇霧の支配人:どうかお元気で ロジー:ああ、お前らも元気でな! ■リトルフウガ:ありがとうございました リリ:また会おうね~! 〇リアン:〈M〉そうして3人は、特殊なエナジーマテリアルの光に包まれて 〇リアン:〈M〉ロンドンの朝に消えた 〇リアン:姉さん △フルワ:なに? 〇リアン:僕にはどうも、あの三人が宙運連だって信じられないんだ △フルワ:ええ、そうね 〇リアン:きっと、彼らは”はみ出し者”なんだろう △フルワ:いいえ。きっとあれが本物 △フルワ;ふふ △フルワ:ロジー、フウガ、そしてリリちゃん △フルワ:次会う日を楽しみにするよ △フルワ:〈M〉私たちは変わり続ける。変わらないモノを胸に秘めて 0:ーFINー

0:BGM『紫苑 -追憶-』 リリ:〈絵本〉母を亡くし、悲しみに暮れる兄妹のもとへ リリ:一匹の鬼が現れました リリ:紫色は過去の色。変わることなく永久(えいきゅう)に リリ:橙色は現在(いま)の色。夜を過ごせば明日が来る リリ:かわいいかわいい子供たちよ リリ:あなたはどちらを選ぶかね 0:  ■フウガ:法外宙域ローヴァ―ゲイル △霧の魔女:『アスター・フォニー』 0:BGM『スモークランド』 ■フウガ:「もっといい声になりたい」 ロジー:フウガ。いきなりどうした リリ:そのままがいいな。フウガの声、好きだよ ■フウガ:ありがとうございます、リリ。しかし私は、よりハイスペックな音源モジュールを内蔵したいのです リリ:音源、モジュール? ■フウガ:音源モジュールとは、コンピュータの入力情報に応じて ■フウガ:私の声を生成し、スピーカーに出力させる装置のことです ロジー:人間で言うところの喉だな リリ:ふーん ロジー:フウガ、喉のパーツを替えたいのはわかった。しかし何故だ?説明してくれ ■フウガ:そうですね。先日。定期メンテナンスを受けた際に、いくつか不具合が見つかりまして ロジー:おいおい、もっと早くに言えよ リリ:フウガ、大丈夫なの? ■フウガ:ええ。不具合と言っても大したことはありません。いくつかのパーツを入れ替えれば済む程度のものです ロジー:なんだ、脅かすな リリ:はあ、よかった ■フウガ:しかしながら、これを機に古いパーツを一新しようと思いまして ロジー:どうせなら質のいいモノをと? ■フウガ:そういうことです、ロジー ロジー:まあ好きにしろよ。お前は倹約家だし、「こういう時に金を使わなければいつ?」って話だしな ■フウガ:その通りですが。どうやら、ネットショッピングでは入手不可能のようです リリ:そんなに、出回ってない部品なの? ■フウガ:ええ ロジー:幻のモジュールってことか?お前、妙なところにこだわりがあるんだな ■フウガ:否定できません。私が探し求めているのは、正に幻と言われる音源モジュール ■フウガ:その名も、『アスター・フォニー』 ロジー:アスターフォニぃ? リリ:”星のような、声” ■フウガ:とても綺麗な声だとか。名前的にも、宇宙で働く私にはうってつけだと思いまして ロジー:それで、どこにあるんだ?目星はついてるんだろ? ■フウガ:地球近縁のデブリ群、通称『スペースジャンク』です ロジー:スペースジャンクだって?おいおいフウガ、ふざけてるのか リリ:ロジー、スペースジャンクって何? ロジー:ジョナサン・ウェルズの小説に出てくる架空の宙域さ。そこには宇宙ゴミが密集するため、強力な磁場が発生している ■フウガ:詳しいですね ロジー:物語としては面白いからな。19世紀のイギリスが、もしも『エナジーマテリアル』を手にしていたら! ■フウガ:好きなんですね。SFが リリ:ふふっ。ロジー子どもみたい ロジー:・・・まあ。ただの物語さ ■フウガ:ところが実際、19世紀のイギリスに『エナジーマテリアル』が渡っていたんです リリ:へーそうなの? ロジー:ばかな。その時代に『エナジーマテリアル』があるはずがない ■フウガ:実は前から、ダークウェブを通じて、ある人物とコンタクトをとっていました ロジー:フウガお前、故障の原因はダークウェブでウイルスをもらったから、というオチじゃないよな? ■フウガ:〈無視して〉その人物によると、どうやら宇宙には、我々の住む世界とは違う平行世界が存在するようです ロジー:まさか。それこそオカルトだ リリ:でもおもしろそうだよ? ロジー:リリ。こういうのは話だけにとどめるのが賢い。信じ始めたらオシマイだ ■フウガ:ロジーは20年前の、貨物船 失踪事件を知っていますか ロジー:子供の頃聞いたことがある。行方不明のまま、今も見つかっていないと ■フウガ:実はその貨物船、アクティブパスゲートを通過した際に、誤ってタイムスリップしてしまったのです ■フウガ:そう、19世紀のイギリスに ロジー:だが、実際の歴史はそうじゃないだろ ■フウガ:ええ、肝要なのはそこですよ、ロジー。 ■フウガ:貨物船が19世紀の地球近縁に出現して、当時のイギリスに『エナジーマテリアル』がもたらされた瞬間 ■フウガ:世界が2つに分岐した リリ:ありえたかもしれない、もう一つの世界線? ■フウガ:そういうことです ロジー:実在するのか、本当に・・・? ■フウガ:ダークウェブで知り合った人物の名前は『霧の支配人』 ■フウガ:ロンドンの深い霧を通じて、平行世界を行き来する男です リリ:ふーん。どうするの、ロジー? ロジー:・・・ リリ:ロジー? ロジー:フウガ。メイヤード総括に休暇申請をしてくれ ロジー:イギリスに行くぞ ■フウガ:ロジー。そうこなくては △霧の魔女:くる・・・!くる・・・?ふふふ、そうよね・・・? 0:BGM『紫苑 -追憶-』 リリ:〈N〉20年前。とある惑星 〇義肢の男:喜べ!地球へ帰れるぞ △植物学者:ほんとうなの!?ついに渡航の許可が出たのね!? 〇義肢の男:ああ、宙運連の友人が特別に便宜を図ってくれるってさ! 〇義肢の男:さっそく子供たちにも伝えてくれ!貨物船を用意する!出航の準備をするぞ! △植物学者:うれしい!今夜はパーティね! 0:BGM OFF 0:現在。ロンドン ロジー:〈M〉英国、ロンドン。かつて19世紀の産業革命を皮切りに、世界の銀行として覇権を握る ロジー:〈M〉1851年のロンドン万国博覧会は、鉄道の発展と大気汚染という、19世紀イギリスにおける光と陰の象徴となった ロジー:〈M〉それが、こちらの世界での歴史 リリ:フウガ、遅いね ロジー:「21時丁度にキングスクロス駅で」か。指定したフウガ本人が遅刻とはな リリ:フウガ大丈夫かな ロジー:心配ないだろう 0:  ■リトルフウガ:お待たせしました。リリ、ロジー ロジー:全く遅いぞ・・・って、なんだその体!? リリ:あはは、フウガ小さい子どもみたい! ■リトルフウガ:本体の不具合がいよいよひどくなってしまったので、今回はこの充電式小型ユニットで行きます ロジー:慣れない土地で大丈夫なのか。スペックはかなり落ちているだろう ■リトルフウガ:まあ戦闘はムリですね。探知やハッキングもできません ロジー:減らず口だけ残ったという感じだな ■リトルフウガ:〈思案して〉そうですね・・・この体のことは分かりやすく、リトルフウガとしましょうか リリ:買い物するだけだし、問題なさそう。嫌な予感はするけど ■リトルフウガ:じつは新たに加わった機能もあります ■リトルフウガ:二人とも、これをどうぞ リリ:何、これ? ロジー:シュークリーム?夜中にか・・・ ■リトルフウガ:正確には、フランケン・クキィと言います。菓子作りで余った端材をクリームでつなげて、専用の生地で包んだお菓子です リリ:これフウガが作ったの? ロジー:新機能って、料理することか? ■リトルフウガ:いいえ違います。フランケン・クキィはさっき洋菓子店で買いました ■リトルフウガ:そしてリトルフウガは 0:大口を開けるリトルフウガ ■リトルフウガ:これを味わうことができます ロジー:へ? ■リトルフウガ:いただきます 0:パク ■リトルフウガ:美味しい ロジー:俺のほとんどなくなったじゃねえか・・・ ■リトルフウガ:味覚って素晴らしいですね リリ:ロジー、私のをあげるよ ロジー:何を言ってるんだ、それはリリの分だ リリ:いいの。食べて?ロジー ロジー:リリ、頼むから リリ:いらない ■リトルフウガ:リリ・・・ リリ:ねえ、フウガ ■リトルフウガ:なんでしょう リリ:食べれてよかったね ■リトルフウガ:・・・ ■リトルフウガ:はい 0:BGM『紫苑 -追憶-』 ■リトルフウガ:〈M〉機械は替えが利く。故障をすれば部品を取り換え、不具合があれば改善される ■リトルフウガ:〈M〉そうしてより新しいものへと進化する ■リトルフウガ:〈M〉変わらなければ、他の機械に取って代わられる ■リトルフウガ:〈M〉変わることこそ、存在意義だ ■リトルフウガ:〈M〉リリは機械とは正反対だ ■リトルフウガ:〈M〉いつまでも幼い姿のまま。”不具合”が改善されることもなく ■リトルフウガ:〈M〉ヤマモトリリは変わらない 0:  リリ:〈N〉20年前。とある貨物船 〇義肢の男:状況が変わった △植物学者:何か悪いこと? 〇義肢の男:ああ。地球には着陸できない。このまま宇宙で待つしかない △植物学者:待つしかないって・・・食べ物はどうするの?子供たちだっているのよ 〇義肢の男:つらいが今は耐えてくれ △植物学者:お友達はどうしたの? 〇義肢の男:賄賂がばれて捕まった △植物学者:そんな・・・ 〇義肢の男:くそ!だから慎重にやれと言ったのに!! △植物学者:正式に、宙運連で手続きしたらどうかしら 〇義肢の男:やってみたが、ダメだった △植物学者:私のせい、なのね・・・? 〇義肢の男:そんなことはないよ。ただキミの研究している花を、宙運連の奴らはヤバすぎると判断した △植物学者:人に寄生するから? 〇義肢の男:制御方法が限定的だからだそうだ △植物学者:そんな、でもいつかちゃんと! 〇義肢の男:いつかじゃ納得してくれない! △植物学者:・・・! 〇義肢の男:すまない、怒鳴ってしまった・・・ △植物学者:・・・せめて子供たちだけでも 〇義肢の男:キミも、子どもたちも、僕だって寄生されているんだ。無理に決まってるだろ △植物学者:そうよね・・・ △植物学者:この紫苑は、何も悪くないのに・・・ 0:BGM OFF 0:現在。ロンドン、キングスクロス駅 ロジー:フウガ。取引相手との約束時間は平気なのか ■リトルフウガ:遅刻する旨は連絡済みです ■リトルフウガ:しかしなるべく急ぐため、3等車のチケットしか入手できませんでした ロジー:まあ、しかたないな リリ:チケット?フウガ、私たちこれから何に乗るの? ■リトルフウガ:いいですかリリ。 ■リトルフウガ:私たちはこれから ■リトルフウガ:蒸気機関車に乗ります 0:BGM『irish_iris』 ロジー:〈M〉出発の警笛が鳴り、機関車はズシンズシンと音を立てながら、ゆっくりと動き出した リリ:わあすごい!煙をあげてるよ! ■リトルフウガ:リリ、窓から身を乗り出したら危ないですよ リリ:すごいね、すごいね、トラちゃん ロジー:〈M〉リリ愛用のぬいぐるみトラちゃんは、特殊なエナジーマテリアルを内包している ロジー:〈M〉リリはそのトラちゃんを駆使して、超自然的な力を使うことができるのだ ロジー:トラちゃんさえいれば、帰りの電車の切符は買わなくて済みそうだな ■リトルフウガ:ええ、帰りは直接ホームに時空移動しましょう リリ:よかったねトラちゃん。役に立てて 0:BGM『ミスト』 〇仮面の男:あの、もし良ければ、よく見せてもらえないかな 〇仮面の男:その可愛らしいぬいぐるみを ロジー:・・・あんた、突然どういうつもりだ?寝てるとばかり思っていたが。盗み聞いていたのか 〇仮面の男:いえ、違うんです!ごめんなさい!本当に用があるのは、あなたでもその娘でもなくて! 〇仮面の男:・・・あのう、もしかしてフウガさんですか ■リトルフウガ:はい、私です 〇仮面の男:あ、あ、やっぱり!そうですよね 〇仮面の男:申し遅れました。私、『霧の支配人』と申します ■リトルフウガ:まさか、あなたが・・・ 〇霧の支配人:どうもフウガさん。もう少し大人の方かと思っていました ■リトルフウガ:リトルフウガは仮の姿です。初めまして『霧の支配人』 ロジー:あんたが『霧の支配人』か。おれは 〇霧の支配人:ロジー・ガーウィンさん、ですよね。ウワサは兼ねがね ロジー:・・・どのウワサかな ■リトルフウガ:私は何もしゃべっていませんよ?ロジー 〇霧の支配人:そちらのお嬢さんが、リリ・ヤマモト 〇霧の支配人:リリィ(百合)・・・素敵な名前だ リリ:ありがとう、ございます ■リトルフウガ:集合場所はリヴァプール駅との約束ですが 〇霧の支配人:ええ。しかしながら平行世界の入口には時間の制約がありまして 〇霧の支配人:それで迎えに来た次第です ロジー:そうは言っても、列車が停まらないことには、どこへだって行けないだろ 〇霧の支配人:いいえ、平行世界の入口は霧さえあれば開きます ロジー:霧だって?イングランドの天気は今日から明日にかけて全域快晴!雲の一つだってないぞ 〇霧の支配人:ええ、19世紀のイギリスなら全く考えられないことです 〇霧の支配人:だから今夜は特別なのです ■リトルフウガ:?『エナジーマテリアル』が導入された平行世界ならば、こちらと同様に、大気汚染もなくなっているのでは? 〇霧の支配人:いいえ。むしろ新たな資源を手に入れたことで 〇霧の支配人:人間は増長しました ■リトルフウガ:本来なら一日中霧が当たり前ということですか ロジー:何でもいいが、今夜は霧がないんだ。どうするつもりだ 〇霧の支配人:その前に、一つ条件が ■リトルフウガ:なんでしょう 〇霧の支配人:お嬢さんのぬいぐるみを預からせてはもらえないかな? リリ:・・・!いや!トラちゃんは渡さない! ロジー:くっ!ようやく本性を現したか!お前、本名は何だ!?その胡散臭い仮面も外してもらおうか! 〇霧の支配人:私の本名、仮面の下の素顔・・・私の過去 〇霧の支配人:”そんなもの”、理想の未来の前では、まったく意味をなさない ロジー:理想?何の話だ 〇霧の支配人:気づきませんか?これだけ騒いでいるのに 〇霧の支配人:文句ひとつも言われない 〇霧の支配人:気づきませんか?他の乗客の静けさに ロジー:!? ロジー:〈M〉辺りを見渡すと、他の乗客は皆一様、黒いマントに怪しい仮面 ロジー:〈M〉『霧の支配人』と名乗る男と、まったく同じ姿でこちらを観察していた リリ:ひっ・・・! 〇霧の支配人:我々の名はガイ・フォークス(群生体) 0:GUY FOLKS 〇霧の支配人:史上最高の反社会組織です 0:BGM『ミッションスタート』 ロジー:ガイ・フォークス!宙運連関係者の、個人情報流出事件!! ■リトルフウガ:因縁の相手。私が宙運連だと知って近づいたというわけですか 〇霧の支配人:いいえ、フウガさん。私があなたに接触したのは、あなたが機械だからです ■リトルフウガ:どういう意味ですか ロジー:『霧の支配人』。もしも俺達に危害を加えようものなら、交渉は決裂だ! ロジー:ただちに帰らせてもらう! 〇霧の支配人:いえいえ、どうか落ち着いて 〇霧の支配人:収穫がなくてはこちらが困ります 〇霧の支配人:いいでしょう。リリさんのぬいぐるみの携帯を認めます リリ:ほっ、よかったあ 〇霧の支配人:ただし荷物代として100万ポンド頂きます ロジー:100万ポンドだって!?話にならないぜ!帰るぞ ■リトルフウガ:ええ 〇霧の支配人:フウガさん!いいのですか? 〇霧の支配人:理想の声が、『アスター・フォニー』が欲しいのでしょう? 〇霧の支配人:ダークウェブで私とやりとりしたあの熱意は 〇霧の支配人:嘘だったのですか リリ:フウガ・・・ ロジー:・・・ ■リトルフウガ:構いません。分不相応な夢でした ■リトルフウガ:100万ポンドなど、割に合わない 〇霧の支配人:・・・困りましたね、こちらとしてもタダで入口に案内することはできません 〇霧の支配人:そうだ。ならば一つ、仕事を頼みたい ■リトルフウガ:仕事? 〇霧の支配人:ええ、ちょっとしたお使いです ロジー:フウガ、騙されるなよ ■リトルフウガ:その仕事とは何ですか ロジー:・・・やれやれ 0:BGM『紫苑 -追憶-』 〇霧の支配人:花を ■リトルフウガ:花? 〇霧の支配人:姉の部屋にある花瓶の花を、どうか差し替えてほしいのです ■リトルフウガ:〈M〉霧の支配人はそう言って、胸元からオレンジ色のデイリリィを一輪差し出した 〇霧の支配人:この花を、姉の花瓶に 0:  リリ:〈N〉20年前。貨物船 △植物学者:ふふふ 〇義肢の男:どうかしたか △植物学者:こんな風にゆっくりした時間、久しぶりだなって △植物学者:それも二人で 〇義肢の男:ふっ、そうだな 〇義肢の男:そうだ、さっきフルワが僕のドックに来たよ。 〇義肢の男:あの娘はすごい。将来は素晴らしい機械技師になるだろう △植物学者:あら、私の所にだってリアンが来たわ? △植物学者:花瓶の花を差し替えてくれたの △植物学者:みて 〇義肢の男:・・・折り紙じゃないか △植物学者:でも嬉しかった △植物学者:帰れるわよね?私たち 〇義肢の男:ああ。地球に帰ろう。今度は本物の花を △植物学者:ええ 〇義肢の男:絶対に、絶対に帰るんだ 0:  0:現在。3等列車 ■リトルフウガ:いいでしょう。この花をあなたのお姉さんに届けます リリ:ロジーも、それでいい? ロジー:いいだろう。ただし仕事である以上、向こうでの必要経費は全額負担してもらうぞ 〇霧の支配人:構いませんよ。もともとこちらの貨幣は平行世界では使えませんし 〇霧の支配人:為替レートもありませんから ロジー:・・・契約成立だな リリ:ロジー、悪い顔 〇霧の支配人:さて、それでは参りましょうか ロジー:行くって、どこへ? ■リトルフウガ:霧はどこにもない 〇霧の支配人:ええ、しかし。蒸気ならすぐそばを流れているではありませんか 〇霧の支配人:この列車の屋根の上をね 0:ガッシャンガッシャンガッシャン!! 0:BGM『ミスト』 ロジー:〈M〉時速65マイルで走行する汽車の屋根の上は、向かい風と車輪機構の駆動音でまともに会話すらできない リリ:・・・! ■リトルフウガ:・・・! ロジー:〈M〉リリ、フウガ!しっかり掴まっていろよ! ロジー:〈M〉激しい風にも意を介さずに、霧の支配人はゆらゆらと前を歩く ロジー:〈M〉これだけの騒音の中、『霧の支配人』の声だけは ロジー:〈M〉はっきりと聞こえてきた 〇霧の支配人:これからあなた方が体験するのは 〇霧の支配人:世にも奇妙な世界での出来事 〇霧の支配人:しかし夢ではありません 〇霧の支配人:平行世界の住人には、それが現実なのだから ロジー:・・・! ロジー:〈M〉支配人が蒸気で包まれる度に、遠のいたり近づいたりするように見えた 〇霧の支配人:ようこそ。サビと霧の衛星『スペース・ジャンク』へ 0:  ロジー:〈M〉目の前が真っ白になって ロジー:〈M〉ふいに視界が開けると、そこにはきれいな花畑が広がっていた ロジー:え、オレ死んだ? 〇霧の支配人:困りますね、勝手に死なれては ロジー:リリとフウガがいない!霧の支配人!2人をどこへやった! 〇霧の支配人:彼らは既に目的地へと転送しました 〇霧の支配人:あなたにはここへ寄り道してもらったというわけです ロジー:ここ?この花畑が何だというんだ 〇霧の支配人:これこそ私の理想の未来 〇霧の支配人:そうだ、さきほど私に仮面をとれと言いましたね ロジー:・・・! 〇霧の支配人:いかがでしょうか ロジー:顔に、花が咲いている・・・ 〇霧の支配人:紫苑という花です。厳密に言うと、地球上の紫苑とは別種ですが ロジー:その、平気なのか、?見るからに痛そうだが 〇霧の支配人:あなたも・・・試してみますか ロジー:や、遠慮しとく・・・ 〇霧の支配人:・・・右手 ロジー:!? ロジー:おいおい、すでに生えちまってたのかよ・・・ 〇霧の支配人:ははははははは ロジー:〈M〉辺りを見渡すと色とりどりだった花畑が ロジー:〈M〉一面の紫苑で埋め尽くされていた ロジー:〈M〉俺は意識を失った 0:BGM OFF リリ:ロジー起きて ロジー:う、ここは・・・ ■リトルフウガ:不明です。通信が遮断され、この場所では宙運連のネットワークにもアクセス出来ません ロジー:どうやら俺達は完全に孤立してしまったみたいだな ロジー:〈M〉辺りを見渡す。オレンジ色のナトリウムランプ。狭くて先の見えない通路 ロジー:〈M〉むき出しの送電線やガス管 ロジー:〈M〉バルブの隙間からは定期的に蒸気が漏れていて ロジー:〈M〉それがまるで呼吸のようだった リリ:ロジー。なんだかここ、息苦しいよ ロジー:ひとまず出口を探そう 〇霧の支配人:お目覚めですか ロジー:どこだ!どこにいる! 〇霧の支配人:申し訳ないが、お答えできない ロジー:俺達がいつでも帰れることを忘れたのか?妙な気は起こさない方がいい 〇霧の支配人:ええ、いつでも帰ってご覧なさい 〇霧の支配人:花が開いても構わないなら 0:とっさに右手を見るロジー ロジー:・・・あれは夢じゃなかったのか リリ:ロジー、私にも ロジー:なんだと!? ロジー:〈M〉リリの方は少し、開きかけている・・・ ロジー:霧の支配人、俺の身体に何をした! 〇霧の支配人:霧を通過してこの星へ連れ込む際に、あなた方の体表組織に植えたのです 〇霧の支配人:未知の紫苑。タタリアン・ギャラクシアスと言います ■リトルフウガ:この花を解析したところ、どうやら人間に寄生する宇宙植物のようです ロジー:ははは、俺達は植木鉢じゃねえぞと 〇霧の支配人:さて、依頼をこなしてもらいます 〇霧の支配人:フウガさんに預けたオレンジデイリリィを、この星の最深部に届けてほしい 〇霧の支配人:期限は設定いたしませんが、きっかり3時間後にこの星の日出時刻を迎えます 〇霧の支配人:陽光で花が咲いてしまえば、二度と抜くことはできません 〇霧の支配人:早急にクリアすることをお勧めします ロジー:先を急ぐしかなさそうだな リリ:地図があればいいんだけど ■リトルフウガ:ロジー、リリ。すみませんでした ロジー:どうしたフウガ、改まって ■リトルフウガ:私が音声モジュールにこだわらなければ、2人を巻き込むこともなかった ■リトルフウガ:反省します リリ:平気だよ、仲間だから ■リトルフウガ:リリ、、 ロジー:リリの言うとおりだ、気にするな ロジー:それに、調べておきたいこともあるしな ■リトルフウガ:消息不明の貨物船の行方、ですか ロジー:ああ。これに関しては宙運連として見過ごせない案件だからな 〇霧の支配人:さて、最深部への行き方ですが 〇霧の支配人:星の中心を貫く螺旋トロッコを目指してください 〇霧の支配人:霧の回収孔も兼ねているので、蒸気の流れに沿って歩けば、たどり着きます 〇霧の支配人:それではあとはよろしく ロジー:さて行くか リリ:なんだかドキドキするね ■リトルフウガ:何が潜むか分かりません。気を引き締めていきましょう ロジー:ロジー班、出動! リリ:おー! 0:BGM『スモークランド』 ■リトルフウガ:〈M〉足元を流れる蒸気に沿って、私たちはトロッコを目指した ■リトルフウガ:〈M〉星のような声を、『アスターフォニー』を手に入れるために ■リトルフウガ:〈M〉金網の足場に差し掛かると、蒸気は網の隙間へと吸い込まれていく リリ:この金網開けれないかな ロジー:下手に足場を崩すのは良そう。どこかに下へとつながる入口があるはずだ リリ:トラウィス 0:キュイイイン ■リトルフウガ:〈M〉リリがそう言うと、ぬいぐるみのトラちゃんが発光して、足元の金網に大きな穴が開いた 0:ズズーン・・・ ロジー:おいおいマジか ■リトルフウガ:平気でしたね、ロジー ロジー:おれは慎重派なのっ リリ:見て二人とも。レールだよ ■リトルフウガ:〈M〉やや広めの通路にトロッコ用のレールが敷かれている。2本あるのは往路と復路で使い分けているに違いない ■リトルフウガ:〈M〉車軌(しゃき)が異なるのは、妙であるが ロジー:でかしたぞリリ!これを辿れば螺旋トロッコにつながっているはずだ ■リトルフウガ:〈M〉線路に耳を傾けて音を聞く ■リトルフウガ:〈M〉すると幅が狭い方の線路から、こちらへと迫る車輪の音が聞こえた 0:シャリシャリシャリシャリン! 0:BGM『ミッションスタート』 ロジー:お、トロッコか? リリ:ちがう!そんなんじゃない! ■リトルフウガ:〈M〉迫りくるのは足が二輪の人型のロボット 0:キイイイン!! ■リトルフウガ:〈M〉重機のように巨大な片腕を這わせながら、線路の上を駆けてくる ■リトルフウガ:ロジー、リリ!伏せて!! ロジー:・・・! リリ:きゃっ! ロジー:〈M〉巨大なアームが髪をかすめて通り過ぎる ロジー:〈M〉フウガの合図で避けなければ、首を持っていかれていた 0:ギギイ・・・プシュウ ロジー:止まった!? 0:グルンッ! リリ:ひ! ロジー:〈M〉ロボットは首と肘を180度回転させて再びこちらに突進する! 0:ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!! ■リトルフウガ:リリ、トラちゃんを早く! リリ:〈M〉大きな腕、激しい音・・・ リリ:いや、いやッ! ロジー:大丈夫だリリ!ヤツにお前を触れさせやしない!! リリ:ロジー・・・ リリ:・・・トラちゃん、お願い リリ:あいつを仕留めて 0:キュイイイン・・・ ロジー:〈M〉巨大な腕を中心に、ロボットが四散する 0:ズドン! ロジー:〈M〉突進する力を上回るほどの威力で、ロボットは向こうへ吹き飛んだ ■リトルフウガ:対象の沈黙を確認。ちょっと様子を見てきます 0:BGM OFF リリ:気をつけて、フウガ ロジー:!この顔は・・・!? ■リトルフウガ:『霧の支配人』と同じ仮面ですね・・・ ロジー:クソ、どうなってやがる! リリ:霧の支配人の、仲間? ■リトルフウガ:しかし今はとにかく、先に進むしかありません ロジー:〈M〉振り返ると、今度は太い線路の上をトロッコが緩やかに滑ってくる リリ:乗りなさいってことなのかな ■リトルフウガ:これも罠かもしれませんね ロジー:上等だ、これが終わったらあの仮面をひっぺがしてやる リリ:二人とも、早く~ ロジー:リリ!?もう乗ってるのかよ ■リトルフウガ:私達も乗りましょう、ロジー ロジー:ああ ロジー:〈乗りこむ〉よっと ■リトルフウガ:・・・ ロジー:どうした、フウガ? ■リトルフウガ:身長が足りないので、その・・・ ■リトルフウガ:たすけてください 0:BGM『スモークランド』 リリ:〈M〉私たち3人がトロッコに乗ると、トロッコはゆっくりと加速する リリ:〈M〉頭の上を、オレンジ色のランプが通り過ぎるたびに リリ:〈M〉私たちの影が踊った ロジー:リリ、平気か リリ:うん。大丈夫 ロジー:フウガ、今何時だ? ■リトルフウガ:わかりません。体内時計が狂ってしまったみたいです ■リトルフウガ:おそらく、この星の特殊な磁場が影響しているかと ロジー:日の出時刻も分からない、相当ヤバいな ■リトルフウガ:いえ、霧の支配人と別れる前にタイマーを起動しておきました ■リトルフウガ:磁場の影響を受けた後に起動したので、問題ないかと ロジー:よくやったぞフウガ!それで猶予は? ■リトルフウガ:あと一時間です ロジー:もう2時間も経過したのか・・・ リリ:ふえてる ロジー:リリ、どうかしたか リリ:線路の数が増えてる ■リトルフウガ:本線に近づいている証拠ですね。前を見て下さい ロジー:〈M〉トンネルの先では大きな穴が上下に伸びている ロジー:〈M〉中心を一本の柱が貫いて ロジー:〈M〉その周りを螺旋状の線路が取り巻いている ロジー:〈M〉ナトリウムランプが燦然と輝くも ロジー:〈M〉その終点を見ることはできない ロジー:〈M〉穴は深く深くと続いていた 0:ガタンッ! 0:BGM『ミッションスタート』 リリ:きゃっ、傾いた!? ■リトルフウガ:トロッコが螺旋の軌道上に乗ったのでしょう ロジー:どんどん加速していくぞッ! ■リトルフウガ:勾配から加速度を算出。トロッコは6秒後に時速130KMで一定になります ロジー:ほとんど落下じゃねえか!ブレーキはどこだ!? ■リトルフウガ:トロッコの機構を調べたところ、そのようなものは見当たりませんでした リリ:ロジー!さっきの奴が追ってきてるよ! リリ:今度はたくさん! ロジー:〈M〉隊列を組んで猛スピードで追いかけてくる二輪ロボットたち ロジー:くそ、懲りない奴らめ!リリ! リリ:まかせて!トラウィ・・・ △二輪ロボット:棄テタリナンカ、シナイヨネ・・・? リリ:・・・え? △二輪ロボット:ワタシハ、ゴミナンカジャ、 △二輪ロボット:ナイヨネ・・・? リリ:い、いや! 0:キュイイイン・・・! ロジー:リリ!逆だ!そっちは線路だ! 0:バコーン! ■リトルフウガ:脱線します!衝撃に備えーーーー!! リリ:〈M〉トロッコが脱線して、宙に舞う リリ:〈M〉目の前に広がるのは リリ:〈M〉どこまでも続く深い深い闇・・・ ロジー:リリ!!! リリ:ロ、ジー・・・? ロジー:線路に戻るぞッ!! ロジー:力を使え!! リリ:ッ!うん!! リリ:私達を線路に戻して!トラウィス! ロジー:でかしたぞ! ■リトルフウガ:あれは・・・?二人ともさっきの場所を見て下さい リリ:二輪ロボットたちがウロウロしてる・・・ ロジー:どうやらまいたみたいだな! リリ:ううん、なんだか様子がおかしいかも・・ ■リトルフウガ:〈M〉壊れた線路に二輪ロボットたちが集まると ■リトルフウガ:〈M〉目にも留まらぬ速さで破損個所を修復して ■リトルフウガ:〈M〉線路がたちまちにつながった 0:ガチイイイン・・・! リリ:追ってくる!? ロジー:いや、更なる補強工事に入ったぞ・・・? ■リトルフウガ:ええ、これでハッキリしましたね 0:BGM『紫苑 -追憶-』 ■リトルフウガ:二輪ロボットの最優先事項は、異状箇所を改善すること ■リトルフウガ:免疫機能は二の次であると考えられます ロジー:免疫ね。まるでこの星全体が一つの生命体みたいだな ■リトルフウガ:おそらく、この星には生命維持に必要な機能しか備わっていないのでしょう ロジー:ロボットたちの攻撃が免疫作用とすると、俺達は異物ってところか?道理で歓迎されないわけだな リリ:私たちが、異物・・・ リリ:〈M〉それなら『霧の支配人』から託されたこの花は リリ:〈M〉いったい何なんだろう ■リトルフウガ:忘れ草 リリ:え? ■リトルフウガ:オレンジ・デイリリィの別名です ■リトルフウガ:ワスレグサ、萱草(カンゾウ)、忘憂草(ボウユウソウ) ■リトルフウガ:花言葉は ロジー:「愛の忘却」 ロジー:そして「宣告」 ■リトルフウガ:ロジー、知っていたのですね ロジー:ああ ロジー:間違っても、人に渡すような花じゃない リリ:・・・トロッコが止まったよ ■リトルフウガ:最深部に到着しました ロジー:さて、ご対面だな ロジー:お姉さまとやら △霧の魔女:・・・ 0:BGM OFF ■リトルフウガ:〈M〉霧の星『スペースジャンク』の最深部 ■リトルフウガ:〈M〉真っ暗な洞窟にたった一つのドームだけが光を放つ ロジー:きっとあのドームこそ、この星の核に違いない ■リトルフウガ:何か、おかしい ロジー:どうしたフウガ ■リトルフウガ:先ほど起動したタイマーすらも、秒針がゆっくりになっています ■リトルフウガ:磁場だけじゃない。何もかもが、重い・・・ ロジー:たしかに、さっきから妙に疲れるような △霧の魔女:いらっしゃい、私のリアン リリ:〈M〉ドームの向こうから聞こえる怪しい声 リリ:〈M〉女の人の、声・・・ ロジー:リアンだと? △霧の魔女:失礼。早合点だ △霧の魔女:てっきり弟だとばかり ■リトルフウガ:ええ。まさに僕らは霧の支配人からの依頼で参りました ■リトルフウガ:あなたが彼のお姉様ですね △霧の魔女:うむ。私は彼の”お姉様” △霧の魔女:どうかな。立ち話もよくないだろう △霧の魔女:ドームの中へどうぞ リリ:〈M〉女の人の声に吸い寄せられて リリ:〈M〉というより。まるで引っ張られるかのように、 リリ:〈M〉私達はドームの中へと消える ■リトルフウガ:〈M〉廊下には、まだ起動していない二輪ロボットが吊るされている ■リトルフウガ:〈M〉ここが二輪ロボットの巣なのだろう ■リトルフウガ:〈M〉その先には広い研究室があった ロジー:おーい、誰かいないのか? リリ:ロジー見て ロジー:なんだ日誌か?これは 0:BGM『irish_iris』 △霧の魔女:〈快活に〉やあやあ!いらっしゃい △霧の魔女:私は霧の支配人の姉、霧の魔女だ! ■リトルフウガ:? ■リトルフウガ:〈M〉振り返ると、白衣を着た人型が手を振って立っていた ■リトルフウガ:〈M〉仮面をつけておらず、二本の脚で立っている。他のロボットとは明らかに別格である △霧の魔女:長旅ご苦労様!ささ、客間はこっちこっち 0:  ■リトルフウガ:〈M〉研究室の一画がお座敷になっていて、私たち3人は出された座布団の上に座った リリ:畳・・・ △霧の魔女:いいだろう!ジャパニーズスタイル!20年来だから大分くたびれてはいるけれど リリ:〈M〉畳をなぞる。イグサのかおり リリ:毎日手入れしてるのね △霧の魔女:ん~? △霧の魔女:ふふふ、まあ暇だしね △霧の魔女:・・・さて!私はこの星、『スペースジャンク』の開発者、人呼んで『霧の魔女』! △霧の魔女:改めてよろしく! ■リトルフウガ:私はフウガです ロジー:ロジーだ リリ:ヤマモトリリです △霧の魔女:ヤマモト!やはり日本人か! リリ:あ、ええと。そう、です △霧の魔女:よろしくね、リリちゃん♪ リリ:あう、よろしく・・・ね ロジー:なんか意外だな ■リトルフウガ:ええ、てっきりもっと陰気かと △霧の魔女:ん~それは △霧の魔女:日による ロジー:ああ・・・そうかい △霧の魔女:人の食べ物はないけど、精一杯もてなすぞ! △霧の魔女:金属アレルギーとか大丈夫? リリ:え、うん。大丈夫だけど・・・ ロジー:折角だが、あまり時間がないんだ △霧の魔女:右手を見せて ロジー:わかるのか? △霧の魔女:私の予測では99%の確率で、キミ達は紫苑を植えられている ■リトルフウガ:残りの1%は? △霧の魔女:弟の良心だ △霧の魔女:そんなものは無かったな!はっはっは! リリ:・・・ △霧の魔女:ああ、大丈夫。この段階なら治せるだろう リリ:ほんと!?よかったあ ロジー:いいのか? △霧の魔女:もちろん △霧の魔女:すぐそこの機械さ! △霧の魔女:明転! 0:BGM『紫苑 -追憶-』 ■リトルフウガ:〈M〉照明がつけられると、そこには一隻の貨物船が着艦していた ロジー:これは、行方不明の貨物船! リリ:どうしてここに・・・ △霧の魔女:後で説明するよ♪まずは母の実験室で治療治療~♪ △霧の魔女:さ、脱いで ロジー:な、なぜだ △霧の魔女:私はこの20年間、弟が繰り出す寄生紫苑について研究してきた! △霧の魔女:すると、どうやら寄生紫苑は霧に弱い。特にエナジーマテリアルが付帯した水分を吸うと枯れるみたいだ △霧の魔女:だからサウナに入ってもらう △霧の魔女:エナジーマテリアルで温めた、特別製のサウナ室だよ! 0:BGM OFF ロジー:熱い・・・ △霧の魔女:調子はどう~? ロジー:わからないんだが・・・いつまで入ればいい? △霧の魔女:そうだね、あと20分くらいかな! ロジー:まじか・・・ △霧の魔女:リリちゃんはへいき? リリ:うん。へいき △霧の魔女:ならお邪魔します! リリ:ええっ、ど、どうぞ リリ:〈M〉全身灰色の金属の肌、でもすごく滑らか・・・ △霧の魔女:ん?なんだ リリ:・・・本当に機械なのかなって △霧の魔女:よくできてるだろう?さわってもいいよ リリ:え、いいの? △霧の魔女:もちろん リリ:〈M〉霧の魔女は髪を前に流して、私に背を向けました リリ:〈M〉背中には人工の背骨が露出していて、胸側よりも機械らしく見えました リリ:〈M〉背骨を下から上までなぞっていくと、うなじ辺りに一つのスイッチがありました リリ:躁鬱スイッチ、? リリ:気になる・・・ △霧の魔女:さて。もう、いいかな? リリ:えいっ リリ:〈カチッ〉 0:BGM『irish_iris』 △霧の魔女:〈鬱モード〉はあ・・・なにやってんだろうなあ、マジで リリ:え・・・ △霧の魔女:こんな星に引きこもって・・・いつもそう △霧の魔女:弟が出てった時だって・・・ △霧の魔女:私はなんにも変わらないままで・・・ リリ:カチッ △霧の魔女:〈躁モード〉元気でてきたぞー!はっはっはー! △霧の魔女:そうだ、腕のパーツでもアップグレードしようかな!弟のバカもそのうち帰ってくるよ! リリ:カチッ △霧の魔女:〈鬱モード〉いやだ、消えたい・・・全部なかったことにしたい △霧の魔女:きもい喋り方治したい・・・ リリ:カチッ △霧の魔女:〈躁モード〉そうだ!次の二輪ロボットには花を飾ってみようかな! リリ:カチッ △霧の魔女:〈鬱モード〉こんな性格の自分が嫌・・・もうだれも信用できない・・・ リリ:カチッ △霧の魔女:〈躁モード〉って、いい加減にしなさ~い!! リリ:ご、ごめんなさい △霧の魔女:ほんとうにやめてくれっ。鬱モードの私、大っ嫌いだからさ! 0:BGM OFF 0:20年前。貨物船 〇リアン:姉さん、僕だよ分かる? △フルワ:リアン・・・ 〇リアン:よかった、もうだめかと思った △フルワ:父さんと母さんは・・・? 〇リアン:大丈夫、すぐに会えるよ △フルワ:いつになったら地球に帰れるの? 〇リアン:残念だけど、僕らの知っている地球にはもう帰れないんだ △フルワ:いやだ、きっと何か、方法があるはずよ 〇リアン:?何を言ってるんだ?いいじゃないか、帰らなくて △フルワ:リアン? 〇リアン:母さんのくれた贈り物は、無駄にはしない △フルワ:リアン、一体何をするつもりなの? 〇リアン:ああ。姉さんはここで待ってくれてかまわないから △フルワ:リアン、やだ!おいてかないで! 〇リアン:ていうかもう、動けないでしょ? △フルワ:足が・・・私の、足が・・・! 〇リアン:はは、似合ってるよ。 〇リアン:真っ白な根っこ △フルワ:〈涙〉うっ・・・うっ・・・ △フルワ:大嫌い・・・あんたなんて大嫌い!! 〇リアン:僕も嫌いだよ。姉さん △フルワ:!!まって、やだ!おいてかないで!! △フルワ:やだ・・・やだよお・・・ 0:サウナから出る一行 ロジー:おお、本当に花が取れた・・・ リリ:サウナ気持ちよかったね ロジー:ああ、サウナって不思議だよな。入ってるときは辛いのに、いざ上がってみると ロジー:ふっ、こんなにも清々しい・・・ ■リトルフウガ:改めてお礼を言います。ありがとう、霧の魔女 △霧の魔女:いいえ。フウガくんも気に入ってくれた?3層式〔炭化水素〕洗浄機 ■リトルフウガ:ええ。乾燥時間をあと20秒延長されたら、天国に行けたことでしょう △霧の魔女:ふふっ、それは困るな。君たちには仕事をしてもらうからね ロジー:また仕事か?こちとら有給とって来てるんだがなあ リリ:ロジー、駄々をこねない。サウナのお礼をしなくちゃ ロジー:ま、しかたねえな。それで仕事って? △霧の魔女:うむ。時間もないし、簡単に説明しよう △霧の魔女:シフトチェンジ、『拍車モード』 0:ガチャガチャン ■リトルフウガ:〈M〉トランスミッションが作動して、霧の魔女からギアが組み替えられる音がした △霧の魔女:キミたちに寄生していた宇宙紫苑は、もともと母の研究テーマだった △霧の魔女:母と弟は植物が好きでね △霧の魔女:母は自らを実験体にしつつ、将来的には地球での栽培を計画していたんだ ■リトルフウガ:自らを実験体に? ロジー:副作用とかなかったのか △霧の魔女:平気だった。母は元々おかしかったし、活性化は父が霧で抑えてたからね △霧の魔女:父はサイバネティクスの権威だった △霧の魔女:この体も、父の設計図をもとに、私が実現したものだ! △霧の魔女:このブロマイドを見てほしい。私の研究課程を記録した、自撮り写真だ ロジー:・・・違いが分からん。全部機械って感じで △霧の魔女:なんだってー!!コレとコレなんか、ぜんぜん違うじゃないか! △霧の魔女:ほらここ!内圧を高めるために、マフラーの口径をしぼっているだろう!? リリ:・・・なに言ってるのか全然わからない ロジー:言われてみれば、たしかに?うーん・・・ ■リトルフウガ:生身の人間だったころの写真はないのですか △霧の魔女:あー、昔の写真ならどこかにあった気がする △霧の魔女:どこへやったかな・・・ △霧の魔女:まあとにかく!父は優秀な技師だった。だから宙運連にもコネクションがあった ロジー:宙運連に?それはすごいな △霧の魔女:ああ、20年前もそのコネで地球へと向かっていたんだが △霧の魔女:父の友達が汚職で失脚してね △霧の魔女:私たち家族は宇宙で漂流することになったのさ △霧の魔女:それでいろいろあって △霧の魔女:平行世界に流れ着いたというわけ △霧の魔女:今となっては私の城だ! リリ:ふーん ロジー:いろいろ、か △霧の魔女:平行世界に着いた頃には両親は死んでいたから、私は元の世界へ帰ろうとしたんだが △霧の魔女:弟は違った △霧の魔女:弟は寄生紫苑を使って平行世界を支配するつもりだ ロジー:支配・・・世界征服でもするってのか ■リトルフウガ:寄生紫苑の幻覚効果によっては、人類のマインドコントロールが可能。そういうことですか △霧の魔女:活性化すれば依存性はアヘンの8倍、感染力は結核菌の20倍に相当する △霧の魔女:弟は明朝、霧のない朝日を浴びせて、寄生紫苑を活性化させるつもりだ ロジー:そんなの・・・防ぎようがないだろ △霧の魔女:しかし希望はある △霧の魔女:幸い、弟はまだイギリスすらも掌握していない △霧の魔女:今度の議会に合わせて、手下たちを議事堂に集結させようとしてる △霧の魔女:そこを叩く ロジー:叩くったって、どうすんだ △霧の魔女:この星を投下するのさ! ロジー:・・・! △霧の魔女:寄生紫苑が集まる、ロンドンにね! 0:BGM『ミッションスタート』 ■リトルフウガ:〈M〉特別プロトコルが発令され、『スペースジャンク』に警報が鳴り響く △霧の魔女:フウガ、君がいてくれて助かった ■リトルフウガ:どうしてですか △霧の魔女:キミには『スペースジャンク』の軌道修正を任せたい △霧の魔女:星の出力制御権をキミに譲渡する。必ず成功させてほしい ■リトルフウガ:構いませんが、どうしてそこまで信用できるのですか △霧の魔女:?キミは最高峰の独立AIだろう? ■リトルフウガ:ええ、まあ △霧の魔女:そういうことだ ■リトルフウガ:〈M〉性能、利害関係、目的の共通性。あらゆる思考アルゴリズムを超越する、”何か” ■リトルフウガ:〈M〉「この者は信用に値する」 ■リトルフウガ:〈M〉それは直感、と言うのだろう ■リトルフウガ:〈M〉全身を機械で包んでもなお、霧の魔女は実に人間らしかった △霧の魔女:ワスレグサ ■リトルフウガ:あ・・・ △霧の魔女:弟から渡せとでも言われた? ■リトルフウガ:はい △霧の魔女:ふーん ■リトルフウガ:〈M〉霧の魔女は私の方へ近づいて、ワスレグサを抜き取ると、そのまま自らの髪に挿した △霧の魔女:どう、似合ってる? ■リトルフウガ:ええ、よく似合ってます △霧の魔女:ふふ ■霧の魔女:ありがと ロジー:よし、ラジエータ正常。各種点検完了! リリ:フウガ!魔女さん!突入準備できたよ! △霧の魔女:それじゃあフウガくん。頼んだよ ■リトルフウガ:ええ。任されました ■リトルフウガ:これにより衛星軌道を離脱します。出力装置オールグリーン。バーニアオープン! △霧の魔女:障害物、太陽光圧、誤差、許容範囲内 ロジー:みろ!後ろから太陽が追ってきているぞ! △霧の魔女:ッ!!今日ほどに、登る朝日を呪う夜はないね! リリ:フウガ、急いで! ■リトルフウガ:大気圏に突入します。衝撃に備えて! ロジー:ぐあっ! リリ:ううっ・・・! △霧の魔女:・・・見えてきたね ■リトルフウガ:〈M〉成層圏の乱気流を抜けると、大西洋に浮かぶグレートブリテン島が迫る ■リトルフウガ:〈M〉イングランド首都。ロンドンの地上が見えてくると、街一面が紫色に覆われていた リリ:遅かった・・・? ロジー:ロンドン中が、感染している・・・! 〇霧の支配人:くくく、やはり来たか、霧の魔女 〇霧の支配人:しかし一歩遅かったようだな!貴様の負けだ!! ロジー:あれは!霧の支配人! ■リトルフウガ:〈M〉咲き乱れる紫苑の中で、両手を広げる霧の支配人 ■リトルフウガ:〈M〉仮面を外し、自らも紫苑で覆われている 〇霧の支配人:平行世界を掌握したら 〇霧の支配人:霧のゲートを通じて、元の世界にもプレゼントしよう 〇霧の支配人:特大花束の紫苑をなァッ! ロジー:まさか、俺達のロンドンを・・・? リリ:ロジー・・・ 〇霧の支配人:ロンドンだけではない! 〇霧の支配人:手始めに清国へでも輸出して 〇霧の支配人:紫苑がもたらす幸福の、 〇霧の支配人:虜になってもらおうかアアア! △霧の魔女:いいや、まだ希望はある ロジー:!! △霧の魔女:リリちゃん、そこの赤いスイッチを押して! リリ:わかった! △霧の魔女:緊急システム起動! △霧の魔女:ロジーくん!バルブを閉めて!霧の圧力を最大にして! ロジー:んなことやったら逆流すんぞ! △霧の魔女:大丈夫!いいからお願い! ロジー:クソっ、やってやるよ! △霧の魔女:ビームバレルオープン!目標「ロンドン・メインストリート」!! ■リトルフウガ:了解しました。照準を群生体の中心にロックオン 〇霧の支配人:やめろ、やめてくれ! 〇霧の支配人:タタリアン・ギャラクシアスは!最高の花さ! 〇霧の支配人:どうして認めないんだ!! 〇霧の支配人:姉さん! △霧の魔女:もうやめよう?いつまでも過去にすがるのは! △霧の魔女:私は前に進む! △霧の魔女:あんたの野望を砕いてね! 〇霧の支配人:おのれええ! ■リトルフウガ:〈M〉周囲の紫苑を吸収して、支配人のタタリアン・ギャラクシアスが、 ロジー:巨大化したぞッ! 〇霧の支配人:降りてこい!霧の魔女オオオオ!! リリ:魔女さん! △霧の魔女:構わない!いくよフウガくん!! ■リトルフウガ:エナジーマテリアル最大出力。ビーム充填(じゅうてん) △霧の魔女:私からの愛を受け取りなさい。対・寄生紫苑・蒸気ビーム △霧の魔女:その名も、「ワスレグサ」 ■リトルフウガ:掃射。 ロジー:いけえええ!!! 〇霧の支配人:は、はは・・・ 〇霧の支配人:〈M〉・・・巨大なオレンジデイリリィの花弁から、高濃度のエナジーマテリアル蒸気が集結する 〇霧の支配人:母さん、ごめんよ・・・ 0:BGM OFF ■リトルフウガ:〈M〉ものすごい衝撃と共に19世紀のロンドンの街並みは ■リトルフウガ:〈M〉深い霧へと包まれた ■リトルフウガ:〈M〉私たちの衛星はビームの反動で減速し ■リトルフウガ:〈M〉ロンドンの象徴、ウェストミンスター宮殿を押しつぶす形で地球に着陸した リリ:終わったの・・・? ■リトルフウガ:そのようですね ロジー:2人とも無事か。リリ、フウガ ■リトルフウガ:ええ。おや?霧の魔女は・・・? ロジー:〈アゴで指すように〉ん 0:BGM『紫苑 -追憶-』 ■リトルフウガ:〈M〉巨大な紫苑が枯れた。残骸の上を歩く、霧の魔女 ■リトルフウガ:〈M〉項垂れた弟の手を引き、向き合う二人 ■リトルフウガ:〈M〉まだ低い位置にある太陽。逆光がまぶしかった △フルワ:こんなになるまで好き勝手して 〇リアン:・・・ごめん △フルワ:大勢の人様に迷惑かけて 〇リアン:ごめん △フルワ:思えば、これが初めてのケンカだね 〇リアン:・・・僕は本気だったよ △フルワ:私だってそうよ △フルワ:お帰り、リアン 〇リアン:ごめんね、姉さん △フルワ:違うね 〇リアン:え? △フルワ:そこはただいま、でしょ 〇リアン:うん 〇リアン:姉さん、ただいま ロジー:一件落着か? △霧の魔女:ああ。もう大丈夫 △霧の魔女:キミ達もありがとう リリ:平気よ。仲間だから! △霧の魔女:!!ありがとう、リリちゃん ■フウガ:それでは我々は帰ります リリ:ええ、もう帰るの? ロジー:いいのか、フウガ?『アスターフォニー』は 〇リアン:う・・・ ■フウガ:結構です。私の予測では・・・ △霧の魔女:何かな?アスターフォニーって? リリ:知らないの?星のような声が出せるんだって ■フウガ:霧の支配人がもちかけた音源モジュール『アスターフォニー』は、霧の魔女。あなたの声です △霧の魔女:は? 〇リアン:ご、誤解だ、姉さん ■フウガ:霧の支配人はアスターフォニーの魅力を切に語ってくれましたよ。それはもう、とても懐かしそうに ロジー:はーん、そういうことか △霧の魔女:あんたね・・・ 〇リアン:・・・嬉しかったんだ。機械の身体になっても、そのままでいてくれて △霧の魔女:それなら毎日聞かせてあげる。その代わり、つぶれた街の復興、手伝ってね 〇リアン:姉さん・・・ありがとう △霧の魔女:いいよ、私はあんたの姉さんなんだから 〇リアン:うん △霧の魔女:キミ達も元の世界に帰るといい ■リトルフウガ:ええ、お世話になりました リリ:名残惜しいよ ロジー:俺達にも復興を手伝わせてくれないか △霧の魔女:大丈夫。これは私たちのケジメだからね △霧の魔女:いつまでもこちらにいてはいけない 0:BGM『スモークランド』 ■リトルフウガ:ロジー、時計が回復しました ロジー:おお、そうか ■リトルフウガ:有給休暇の残り時間はあと2分です ロジー:ええ!?マズい遅刻はダメだ!絶対に! ロジー:急いで帰るぞ!リリ! リリ:む~、トラウィス △霧の魔女:皆、ほんとうにありがとう 〇霧の支配人:どうかお元気で ロジー:ああ、お前らも元気でな! ■リトルフウガ:ありがとうございました リリ:また会おうね~! 〇リアン:〈M〉そうして3人は、特殊なエナジーマテリアルの光に包まれて 〇リアン:〈M〉ロンドンの朝に消えた 〇リアン:姉さん △フルワ:なに? 〇リアン:僕にはどうも、あの三人が宙運連だって信じられないんだ △フルワ:ええ、そうね 〇リアン:きっと、彼らは”はみ出し者”なんだろう △フルワ:いいえ。きっとあれが本物 △フルワ;ふふ △フルワ:ロジー、フウガ、そしてリリちゃん △フルワ:次会う日を楽しみにするよ △フルワ:〈M〉私たちは変わり続ける。変わらないモノを胸に秘めて 0:ーFINー