台本概要
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タイトル | 肩車 |
---|---|
作者名 | 椿 麗華 (@Tsubaki_Reika) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 1人用台本(女1) |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
遠い夏の日の記憶。実話です。戦争をくぐり抜けて生きてきた父の最期は、とても穏やかでした。 ひとり読み・朗読用 所要時間6~7分程度 *配信アプリ、動画サイト、ディスコード、ツイキャス等でのご使用にあたって、個別の連絡は不要ですが、必ず「作者名」「作品名」の表記をお願い致します。 196 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
父 | 女 | 2 | 私(読み手)の父親。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:
0:父の肩車は心地良かった。
0:父の肩に乗っかり、頭の上に手を置く。
0:すると視界が広がり、地面を歩いている時とは違う世界が、目に飛び込んでくる。
0:いつもだったら手の届かない、木々の枝に触れ、小さな虫を見つける。
0:高い所が苦手なくせに、何故か父の肩車だけは怖くはなかった。
0:その温もりが、娘の私の全てを守ってくれているのだという、安心感があったのだろう。
0:
0:青春時代を陸軍の将校として生き、戦地で背中に銃弾を食らい
0:右目に流れ弾を受け、それでも弱音を吐くこともせず
0:ただひたすら血を流し、心を鬼にして戦い
0:多くの命を奪い、そしてまた、多くの戦友を失った。
0:
父:「心というものを、何処かに忘れてきてしまったようだな」
0:
0:ある時、ポツリとさみしげに呟いた言葉が、忘れられない。
0:
0:そんな父が大好きだったのが、向日葵だ。
0:庭に沢山の種をまき、夏には大輪の花を咲かせる。
0:
父:「パパはな、向日葵が好きだ。だってさ、いつもお日さまを見上げているだろう?」
0:
0:その目には、うっすらと泪が光っていたことを、思い出した。
0:私は子供ながらに、戦争というものの残酷さを想像してみる。
0:強靭な肉体とは裏腹に、その内側は優しくて愛に溢れ
0:だからこそ肩車というものに、特別な居心地を覚えたのかもしれない。
0:
0:
0:そんな父が病に倒れたのは、数年前のことだった。
0:
0:入院して三か月経った頃から、一歩一歩、その命が死に近づく。
0:あと数日しかもたないかもしれないというある日、母と弟と共に、病院を訪ねる。
0:私の顔を見ると「ママをよろしく頼むよ」と私の手を握った。
0:死を悟っていたのだろうか、その顔は妙に穏やかで、しかしまだ元気に見えた。
0:また週末に来る予定だったので、皆でその場を後にする。
0:まさかそれが、最後になるとは思いもせずに。
0:振り返ると、父が私に向かって、仰向けになったまま
0:ありったけの体力を振り絞って、手を振ってくれていた。
0:何か、何度も何度も頷きながら・・・。
0:その姿を見た瞬間、堪えていた涙が溢れてきて、止まらなかった。
0:
0:あれから三日後、月曜日の朝、仕事中に
0:母から、父が息を引き取ったことを告げられる。
0:ちょうど母が見舞いに行こうと、バスに乗った時に容体が急変し、
0:母が到着するのを待って、無事、看取られてあの世に旅立った。
0:最期はきっと、夫婦水入らずで過ごしたかったのだろう。
0:
0:父の亡骸(なきがら)を見た時、真っ先に頭に浮かんだのは、肩車だった。
0:戦火をくぐり抜け、終戦をむかえたその後の人生は
0:戦争中よりも辛かったのかもしれない。
0:その両肩には、背負いきれないほどの痛みと悲しみが
0:重石となっていたに違いない。
0:
0:「きっとパパは、あなたに肩車をしてる間だけは、全ての罪と悲しみを忘れて、喜びにしていたのかもしれないね」
0:母が静かに口を開いた。
0:
0:小さくなってしまった肩に触れ、そっとさすってみる。
0:何だか、まだ温かいような気がしてならなかった。
0:その顔は、今まで見たこともないような、安らかな
0:そして、穏やかな死に顔でした。
0:アスファルトを溶かすほど暑い、遠い遠い夏の日。
0:
0:(終わり)
0:
0:父の肩車は心地良かった。
0:父の肩に乗っかり、頭の上に手を置く。
0:すると視界が広がり、地面を歩いている時とは違う世界が、目に飛び込んでくる。
0:いつもだったら手の届かない、木々の枝に触れ、小さな虫を見つける。
0:高い所が苦手なくせに、何故か父の肩車だけは怖くはなかった。
0:その温もりが、娘の私の全てを守ってくれているのだという、安心感があったのだろう。
0:
0:青春時代を陸軍の将校として生き、戦地で背中に銃弾を食らい
0:右目に流れ弾を受け、それでも弱音を吐くこともせず
0:ただひたすら血を流し、心を鬼にして戦い
0:多くの命を奪い、そしてまた、多くの戦友を失った。
0:
父:「心というものを、何処かに忘れてきてしまったようだな」
0:
0:ある時、ポツリとさみしげに呟いた言葉が、忘れられない。
0:
0:そんな父が大好きだったのが、向日葵だ。
0:庭に沢山の種をまき、夏には大輪の花を咲かせる。
0:
父:「パパはな、向日葵が好きだ。だってさ、いつもお日さまを見上げているだろう?」
0:
0:その目には、うっすらと泪が光っていたことを、思い出した。
0:私は子供ながらに、戦争というものの残酷さを想像してみる。
0:強靭な肉体とは裏腹に、その内側は優しくて愛に溢れ
0:だからこそ肩車というものに、特別な居心地を覚えたのかもしれない。
0:
0:
0:そんな父が病に倒れたのは、数年前のことだった。
0:
0:入院して三か月経った頃から、一歩一歩、その命が死に近づく。
0:あと数日しかもたないかもしれないというある日、母と弟と共に、病院を訪ねる。
0:私の顔を見ると「ママをよろしく頼むよ」と私の手を握った。
0:死を悟っていたのだろうか、その顔は妙に穏やかで、しかしまだ元気に見えた。
0:また週末に来る予定だったので、皆でその場を後にする。
0:まさかそれが、最後になるとは思いもせずに。
0:振り返ると、父が私に向かって、仰向けになったまま
0:ありったけの体力を振り絞って、手を振ってくれていた。
0:何か、何度も何度も頷きながら・・・。
0:その姿を見た瞬間、堪えていた涙が溢れてきて、止まらなかった。
0:
0:あれから三日後、月曜日の朝、仕事中に
0:母から、父が息を引き取ったことを告げられる。
0:ちょうど母が見舞いに行こうと、バスに乗った時に容体が急変し、
0:母が到着するのを待って、無事、看取られてあの世に旅立った。
0:最期はきっと、夫婦水入らずで過ごしたかったのだろう。
0:
0:父の亡骸(なきがら)を見た時、真っ先に頭に浮かんだのは、肩車だった。
0:戦火をくぐり抜け、終戦をむかえたその後の人生は
0:戦争中よりも辛かったのかもしれない。
0:その両肩には、背負いきれないほどの痛みと悲しみが
0:重石となっていたに違いない。
0:
0:「きっとパパは、あなたに肩車をしてる間だけは、全ての罪と悲しみを忘れて、喜びにしていたのかもしれないね」
0:母が静かに口を開いた。
0:
0:小さくなってしまった肩に触れ、そっとさすってみる。
0:何だか、まだ温かいような気がしてならなかった。
0:その顔は、今まで見たこともないような、安らかな
0:そして、穏やかな死に顔でした。
0:アスファルトを溶かすほど暑い、遠い遠い夏の日。
0:
0:(終わり)