台本概要

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タイトル 明日世界が終わるとしたら
作者名 橘りょう  (@tachibana390)
ジャンル コメディ
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 20 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 幼馴染の俊明と翠。
俊明は現在の職場に不満たらたらで今日も翠に愚痴を吐いています。
突然翠がまじめな顔をして「私は未来が見えるんだ」と…

読み手の性別は不問。
登場人物の性別変更不可。

作品名、作者名、台本へのリンクの表記をお願いいたします。
余裕があれば後でも構わないのでTwitterなどで教えて下さると嬉しいです、
アーカイブが残っていたら喜んで聴きに行かせていただきます。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
俊明 123 としあき。職場に不満たらたらの男性。ちょっとお調子者
128 みどり。クールで男性のような口調
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
:明日世界が終わるとしたら : : : 俊明:「あぁ…もう嫌だ…」 翠:「またその話か。そろそろ私も聞きあきた」 俊明:「そう言うなよ、何度だって話してやるさ。 俊明:あのクソ店長め、新しく入ったバイトの女子高生に鼻の下伸ばしてデレデレと…あぁ!気持ち悪い! 俊明:そのくせ自分が発注間違えたのを、さも俺のミスみたいに嫌味ったらしくブツブツブツブツしつこい…セクハラパワハラも好き放題…!! 俊明:あぁ!腹立つ!!」 翠:「だから何度も言ってるじゃないか、もうそんな所は辞めて、新しい職場を探した方がいい」 俊明:「辞めたいよ!辞めたいけど…新しい職場探す気力もない」 翠:「わがままだなぁ」 俊明:「…辞めてぇ…」 翠:「だから、辞めればいい」 俊明:「働きたくない…」 翠:「究極だな」 俊明:「だって…」 翠:「まぁそう言いたい気持ちもわからんが。 翠:…なぁ、俊明。もし明日、世界が終わるとしたらどうする?」 俊明:「は?」 翠:「だから、明日もし、この世界が終わるとしたら、どうするか、と聞いている」 俊明:「…逃げる」 翠:「どこに?世界が終わるのに世界のどこに逃げるんだ」 俊明:「あぁそうか。 俊明:んーーー…明日世界が終わるとしたら… 俊明:何、何、何…何するかなぁ…」 翠:「何がしたい? 翠:どこに行きたい? 翠:具体的に考えろ」 俊明:「いきなりそんな話振られてもなぁ… 俊明:うまいもん食うかなぁ」 翠:「普段まるで不味い飯を食っているみたいだな」 俊明:「いや!そういうんじゃなくて! 俊明:銀座の回らない寿司とか、星3つの高級フレンチとか、そういうのだよ! 俊明:こんなにうまいもの食ったの初めてだ〜って気持ちで最後を迎えるのなんかいいと思わないか?高いワインなんか飲んじゃってさ!」 翠:「もしそれが口に合わなかったらどうする? 翠:高級な寿司やフレンチも、必ず口に合う訳では無いぞ? 翠:繊細な味だ、普段インスタント物ばかり食べているお前に、その味がわかるかな?ましてやワインなど飲んだこともないのに」 俊明:「うっ!…確かに、それは怪しいかもしれん」 翠:「だろう?」 俊明:「んーじゃあ、好きなバンドのライブに行く!」 翠:「ライブやってなかったら意味ないじゃないか」 俊明:「あ〜…んっとー、それなら…それなら…リゾート地だな!美人のおねーさんが迎えてくれる様な〜」 翠:「おい、鼻の下が伸びてるぞ」 俊明:「伸びてねーよ!」 翠:「くすくす…他には?もう無いのか?」 俊明:「遊園地貸し切り!」 翠:「世界の最後に大枚はたくのか?」 俊明:「おう!キャラクター独り占めだぞ〜」 翠:「それはなかなかに壮大だな」 俊明:「アトラクションも独り占め!パレードもな!」 翠:「寂しい遊園地だな」 俊明:「えっ?…あ〜そう言われたら確かに。客が俺だけってのもなぁ。そもそもキャラクター、よく知らんしな」 翠:「じゃあなんでそれを挙げたんだ」 俊明:「いや、何となく…大人のロマン的な?」 翠:「つまらんなぁ」 俊明:「そういう翠はどうなんだ?明日世界が終わるってなったら、何したい?」 翠:「私はもう決まっている」 俊明:「マジで?何?何?」 翠:「ふふん、興味があるか?」 俊明:「人に散々聞いておいて自分は言わないとかズルくないか?」 翠:「別にずるくはないだろう?」 俊明:「ずるいよ」 翠:「子供か。まぁ隠すつもりは無いが」 俊明:「無いのかよ」 翠:「ふふっ。 翠:私は自分の部屋でゆっくり過ごしたいね」 俊明:「は?」 翠:「自分の部屋でお気に入りの映画を観る。好きな本を読んで、好きな音楽を聴く。好きな人と他愛のない話をしながら、お気に入りの紅茶を飲むんだ。つまらないことで笑い合いながら、穏やかで静かな時間を過ごしたいんだ」 俊明:「…それだけ?」 翠:「あぁ、それだけだ」 俊明:「なんだ、つまんねーの」 翠:「つまらないとは…それこそロマンが分からない男だな」 俊明:「いや明日には世界が終わるってんだから、もっと色々やりたいじゃん!」 翠:「そうか?新しいことをやって後悔したら?悔いが残る結果になったらどうする?もっと生きたいと願うかもしれないぞ?それなら私は好きなことだけの一日を過ごしたいね」 俊明:「そんなもんかぁ?」 翠:「あぁ、そんなものだよ。刺激が無くていいんだ、穏やかで幸せな気持ちで最後を迎えるなんて、素晴らしいと思わないか?」 俊明:「んーそう言われたら、確かに…」 翠:「だろう? 翠:(真面目な口調で)実はな、お前に話して居なかった事があるんだ」 俊明:「な、なんだよ急に、改まって…」 翠:「大切な話だよ、ちゃんと聞いてくれ」 俊明:「お、おう…」 翠:「実はな… : :(間) : 翠:あぁ、でもこんなことを言っても信じて貰えないかもな…」 俊明:「いやいや、引っ張ってそれかよ。 俊明:もうお前と何年の付き合いになると思ってるんだ。生まれてすぐからだぞ?ずっとお隣で、今でもこうして顔突合せてる。お前がくだらない冗談言わないのは知ってるから…ちゃんと話せ」 翠:「…真面目な顔もできるんだな」 俊明:「おい!人が真剣に…」 翠:「わかってる、わかってるよ。 翠:すまなかった、ちゃんと話そう。実はな…」 俊明:「ゴクリ…」 翠:「私は、未来が見えるんだ」 俊明:「……は?」 翠:「ほら、信じてない」 俊明:「いやいやいや、いきなりそんなこと言われて、はいそうですかって信じられるわけないだろ!」 翠:「(とても残念そうに)…そうか」 俊明:「…まじ?」 翠:「私が昔から運が良かったのは知ってるな?」 俊明:「…あぁ」 翠:「それは、実は未来が見えるからだったんだ」 俊明:「そうなのか?!」 翠:「先のことが見えるから危険を回避出来たし、失敗を防ぐことも出来た」 俊明:「で、でも、失敗することだってあっただろ?!高校の頃、先輩に告って玉砕したことあったじゃん!」 翠:「…嫌なことを思い出させる男だな」 俊明:「正月の福袋で、訳分からんお面ばっかり入った袋引き当てたり…」 翠:「あのお面、どこやったかな…」 俊明:「老人会に寄付した」 翠:「そうだったのか、知らなかった」 俊明:「隠し芸大会に使われてたぞ」 翠:「そうか、有効利用されて何よりだ」 俊明:「じゃなくて!そういうのはどうなんだ?!」 翠:「…私の未来予知の能力は常に働く訳では無い。そして、時には必要な失敗もあるんだ」 俊明:「必要な…失敗?」 翠:「あぁ、私が失敗することで上手く回るということもある。例えば…私を振った先輩などは正にそれだ」 俊明:「そうだったのか…」 翠:「私を振ることで、彼は大きな災難を避けることが出来た。私は彼のために犠牲となり恥をかいたんだよ」 俊明:「大きな、災難…ってどんな…?」 翠:「それは…。 翠:いや、やめておこう。穏やかな話ではない」 俊明:「怖いな…。ちなみにあの福袋は?」 翠:「あれは私の未来予知が、働いてなかった結果だ。そんな未来が見えていたなら、福袋など買わなかった」 俊明:「それもそうか…。 俊明:…えぇー、でもマジかぁ…」 翠:「信じて、貰えたか?」 俊明:「まだ…完全に信じたかどうかは分からんけど…翠がそんな真面目な顔して言うってことは…本当なんだろうな」 翠:「私はいつも真面目だぞ」 俊明:「いや、表情少ないだけだから。 俊明:…ん?ってことは、もしかして…。 俊明:明日…世界が終わる、のか…?」 翠:「………」 俊明:「何とか言えよ!そうなのか?!翠、明日…!!」 翠:「…残念だ」 俊明:「おいおいおい、マジかマジかマジか…。どしたらいい…どこに逃げる…?」 翠:「世界が終わるのに、逃げるのか?どこに?」 俊明:「あー、さっきもそのやり取りしたな!俺、苦しんで死ぬのかな…」 翠:「そこまでは、分からんな…」 俊明:「なあ!どうしたらいいんだ?!」 翠:「…どうにもならん」 俊明:「クソっ…まじかよ…。彼女も出来ないまま、俺死ぬのか…」 翠:「悔いはそこか」 俊明:「冷静だな、おい!」 翠:「言ったろう?私は穏やかなのがいいんだと」 俊明:「あ…」 翠:「俊明、お前は最後に誰と迎えたい?そして誰の顔を見ておきたい? 翠:今、浮かんだ顔だ。お前が今この時にこそ、顔を見ておかなくてはならない相手は誰だ?」 俊明:「……母さんだ」 翠:「おばさんか。…最近いつ連絡を?」 俊明:「…もう結構、経つ。電話かかってたのに、かけ直さなくて…」 翠:「…孝行したい時に親はなし、と言うからな。…ちゃんと、おばさんの顔を見て話をして来い。喧嘩するにも感謝するにも、お互いに元気なうちでなければ出来ないんだぞ」 俊明:「そう、だな…」 翠:「今のうちだ、行ってこい。時間は、無いぞ」 俊明:「俺っ、今から行ってくる!」 翠:「うん、それがいい。 翠:…俊明、スマホを貸せ」 俊明:「な、なんだよ…」 翠:「いいから早く」 俊明:「おう…」 翠:「(スマホを操作する)これでよし。はい、返す。アラームも切って、ゆっくり実家で過ごしてくるといい。 翠:あと、おばさんに世界の終わりについての話はするな」 俊明:「な、なんでだよ?!」 翠:「混乱する。大パニックだ、分かるか?」 俊明:「でも!」 翠:「良いか?蝶の羽ばたき一つが世界を変えることもあるんだ。お前の軽率な行動ですべての終わりを早める可能性だってある。 翠:…穏やかに、一緒に笑いあって他愛のない話をして、ゆっくり過ごして来い。今のお前に必要な事だ」 俊明:「…分かった」 翠:「じゃあ、気をつけてな。あとこれは…」 :翠、封筒を渡す。 翠:「餞別だ、旅費にするなり、おばさんにお土産を買うなり好きに使え」 俊明:「こんなに!?いや、さすがにこれは…」 翠:「良いんだ、持っていけ。おばさんに、よろしくな」 俊明:「…分かった、サンキュ」 翠:「私はここでゆっくり過ごしてるよ。帰ってきたら覗いてくれ」 俊明:「おう。じゃ、行ってくる!」 :出ていく俊明 翠:「行ったな…。 翠:(電話をかける)あ、もしもし?翠です。ええ、今。あとは…はい、はい。いやいや、…気にしないでください。そうですね。じゃあ…」 : :翌日の夕方 翠:「やぁ、おかえり」 俊明:「…ただいま」 翠:「久しぶりの実家はどうだった?おばさんは元気にしてたか?」 俊明:「あぁ、めちゃくちゃ元気してた」 翠:「そうか、それは良かった。まぁ上がれ。紅茶でも入れてやろう」 :部屋にあがり、ソファーに座る俊明 翠:「砂糖は入れるか?」 俊明:「いや、今日はいいや…」 翠:「どうした、元気がないぞ。おばさんと喧嘩でもしたか?」 俊明:「してねぇよ」 翠:「ならどうした?」 俊明:「母さんさ、俺が帰ったらめちゃくちゃ喜んでんだ…。俺の好物ばっかり作ってさ…自分は肉、たいして好きじゃないのに、唐揚げとか作ってくれててさ…」 翠:「そうか、良かったな」 俊明:「土産とか、よくわからなくて…途中のサービスエリアで買った土産だったけど、すげー喜んでた」 翠:「うん、良かったな」 俊明:「子供の頃の話とか、してさ… 俺、俺っ…!」 翠:「……泣くな」 俊明:「(泣きながら)もっと、親孝行しとけば良かった…!母さんの愚痴とか聞いたりして、もっと、一緒に…!」 翠:「…そうだな」 俊明:「旅行とか、一緒に行けば良かった…!」 翠:「…うん、そうだな」 俊明:「俺、母さんにもっと、言いたいことあったのに…何も言えなかった…!」 翠:「…そういうものだよ」 俊明:「明日、世界が終わるなんて…!!」 翠:「終わらないぞ」 俊明:「………は?」 翠:「誰が終わるなんて言ったんだ?」 俊明:「…は?…え??」 翠:「私はもし、と言ったはずだが?」 俊明:「…おわら、ない?」 翠:「終わらないが」 俊明:「…へ?でも、未来予知…」 翠:「あれは嘘だ」 俊明:「残念だって…言ったじゃん」 翠:「あぁ、お前の頭がな」 俊明:「………お前、何言ってんの?」 翠:「未来予知なんか嘘だよ。明日世界がどうなるかなんてわかりっこない」 俊明:「え、いや、でも……は?」 翠:「なんだ、まだ理解できないのか。分かるように説明がいるか?」 俊明:「いや、待って?」 翠:「うむ、待とう」 俊明:「…未来予知が、嘘?」 翠:「むしろなぜ信じた?」 俊明:「明日世界は、終わらない?」 翠:「昨日話したんだから終わるとしたら今日だな」 俊明:「お前振った先輩の大きな災難って?」 翠:「知らん。私を振るような男は階段から落ちて足でも折ればいい」 俊明:「昔から運が良かったのは…」 翠:「ただの偶然だな」 俊明:「ちょっと待てぇぇえええ!!」 翠:「うるさいぞ、近所迷惑だ」 俊明:「黙っていられるか、こんちくしょう!俺今日仕事だったんだぞ!無断欠勤だ!」 翠:「それは安心しろ。職場からの電話はブロックしておいた」 俊明:「昨日スマホ操作したのはそれだったのか!!」 翠:「そうだが?」 俊明:「どーすんだよ、おい!俺明日からどんな顔して行けばいいんだよ!あのクソ店長の嫌味聞くために行けってか?!」 翠:「行かなくていい」 俊明:「行かなくていい!それはそれは……はい?」 翠:「おまえの名前で店長宛に退職届と、数々のパワハラやセクハラの証拠を送り付けておいた。これを労基にチクられたくなかったら、退職金を口座に振り込めと、穏やかに文章を付けておいたぞ」 俊明:「なんてことしてんだよぉおお!!」 翠:「辞めたかっただろう?」 俊明:「辞めたかったよ?!辞めたかったけども!!」 翠:「退職金も入る。なんの問題があるんだ」 俊明:「無いよ、問題ないよ!でもそういうことじゃなくてええ!」 翠:「…おばさんがな、心配して私に電話かけてきたんだ」 俊明:「…へ?」 翠:「電話してもかけて来ないし、どうしてるのか気になるけど、しつこく連絡をするのも大の大人には良くないだろうから、とな。なので一芝居打たせてもらった」 俊明:「…いやいやいや、ちょっと待て?…母さんも、一枚噛んでた?」 翠:「あぁ。一枚どころか一緒に計画を立てた。いわゆる共犯だな」 俊明:「俺っ!絶対恥ずかしい事口走ってる!!」 翠:「いいじゃないか、おばさんは嬉しかったと思うよ」 俊明:「良くないわっ!!」 翠:「いい加減黙らないか。 翠:良いか?お前は不満タラタラの職場からこれで縁が切れる。腹の立つ店長ともな。退職金が入れば転職に大慌てすることもなかろう。お前の心配をしていたおばさんにも顔を見せることが出来た」 俊明:「お、おう…」 翠:「今までの世界、終わっただろ?」 俊明:「え…えぇー…そういう…」 翠:「いい加減落ち着け。せっかくの紅茶が冷めるぞ、良いやつを淹れてやったんだから飲むといい」 俊明:「そんな気分じゃ…」 翠:「俊明」 俊明:「…なに?」 翠:「実はな…」 俊明:「もうその流れはいい」 翠:「いいから聞け。 : 翠:実は、宝くじが当たったんだ」 俊明:「……で?」 翠:「一千万」 俊明:「一千万?!」 翠:「あぁ、これは本当だ」 俊明:「すげぇ!まじかよ!富豪じゃん!」 翠:「これで一緒に銀座の回らない寿司を食べに行こう」 俊明:「奢り?!」 翠:「当然だ。まあ、今回のお詫びのようなものだな。勿論、最高級のフレンチやワインも飲ませてやる」 俊明:「よっしゃー!」 翠:「そのあとは、この私の部屋で映画を観て、音楽を聴きながら一緒に過ごそう」 俊明:「おう!……ん?」 翠:「言ったろう?私は穏やかなのがいいんだ」 俊明:「…あの、翠さん?」 翠:「ん?なんだ?」 俊明:「それは…どういう…?」 翠:「無粋な男だな。私は好きな人と穏やかに過ごしたいだけだよ」 俊明:「…んんん?」 翠:「ふふっ。私の今までの世界も終わったが、したいことは変わらないのさ」 俊明:「そう、なんだ…」 翠:「私と一緒は、不満かな?」 俊明:「不満じゃ…ないけど」 翠:「さぁ、では私と一緒に新しい世界を始めよう」 : :終わり

:明日世界が終わるとしたら : : : 俊明:「あぁ…もう嫌だ…」 翠:「またその話か。そろそろ私も聞きあきた」 俊明:「そう言うなよ、何度だって話してやるさ。 俊明:あのクソ店長め、新しく入ったバイトの女子高生に鼻の下伸ばしてデレデレと…あぁ!気持ち悪い! 俊明:そのくせ自分が発注間違えたのを、さも俺のミスみたいに嫌味ったらしくブツブツブツブツしつこい…セクハラパワハラも好き放題…!! 俊明:あぁ!腹立つ!!」 翠:「だから何度も言ってるじゃないか、もうそんな所は辞めて、新しい職場を探した方がいい」 俊明:「辞めたいよ!辞めたいけど…新しい職場探す気力もない」 翠:「わがままだなぁ」 俊明:「…辞めてぇ…」 翠:「だから、辞めればいい」 俊明:「働きたくない…」 翠:「究極だな」 俊明:「だって…」 翠:「まぁそう言いたい気持ちもわからんが。 翠:…なぁ、俊明。もし明日、世界が終わるとしたらどうする?」 俊明:「は?」 翠:「だから、明日もし、この世界が終わるとしたら、どうするか、と聞いている」 俊明:「…逃げる」 翠:「どこに?世界が終わるのに世界のどこに逃げるんだ」 俊明:「あぁそうか。 俊明:んーーー…明日世界が終わるとしたら… 俊明:何、何、何…何するかなぁ…」 翠:「何がしたい? 翠:どこに行きたい? 翠:具体的に考えろ」 俊明:「いきなりそんな話振られてもなぁ… 俊明:うまいもん食うかなぁ」 翠:「普段まるで不味い飯を食っているみたいだな」 俊明:「いや!そういうんじゃなくて! 俊明:銀座の回らない寿司とか、星3つの高級フレンチとか、そういうのだよ! 俊明:こんなにうまいもの食ったの初めてだ〜って気持ちで最後を迎えるのなんかいいと思わないか?高いワインなんか飲んじゃってさ!」 翠:「もしそれが口に合わなかったらどうする? 翠:高級な寿司やフレンチも、必ず口に合う訳では無いぞ? 翠:繊細な味だ、普段インスタント物ばかり食べているお前に、その味がわかるかな?ましてやワインなど飲んだこともないのに」 俊明:「うっ!…確かに、それは怪しいかもしれん」 翠:「だろう?」 俊明:「んーじゃあ、好きなバンドのライブに行く!」 翠:「ライブやってなかったら意味ないじゃないか」 俊明:「あ〜…んっとー、それなら…それなら…リゾート地だな!美人のおねーさんが迎えてくれる様な〜」 翠:「おい、鼻の下が伸びてるぞ」 俊明:「伸びてねーよ!」 翠:「くすくす…他には?もう無いのか?」 俊明:「遊園地貸し切り!」 翠:「世界の最後に大枚はたくのか?」 俊明:「おう!キャラクター独り占めだぞ〜」 翠:「それはなかなかに壮大だな」 俊明:「アトラクションも独り占め!パレードもな!」 翠:「寂しい遊園地だな」 俊明:「えっ?…あ〜そう言われたら確かに。客が俺だけってのもなぁ。そもそもキャラクター、よく知らんしな」 翠:「じゃあなんでそれを挙げたんだ」 俊明:「いや、何となく…大人のロマン的な?」 翠:「つまらんなぁ」 俊明:「そういう翠はどうなんだ?明日世界が終わるってなったら、何したい?」 翠:「私はもう決まっている」 俊明:「マジで?何?何?」 翠:「ふふん、興味があるか?」 俊明:「人に散々聞いておいて自分は言わないとかズルくないか?」 翠:「別にずるくはないだろう?」 俊明:「ずるいよ」 翠:「子供か。まぁ隠すつもりは無いが」 俊明:「無いのかよ」 翠:「ふふっ。 翠:私は自分の部屋でゆっくり過ごしたいね」 俊明:「は?」 翠:「自分の部屋でお気に入りの映画を観る。好きな本を読んで、好きな音楽を聴く。好きな人と他愛のない話をしながら、お気に入りの紅茶を飲むんだ。つまらないことで笑い合いながら、穏やかで静かな時間を過ごしたいんだ」 俊明:「…それだけ?」 翠:「あぁ、それだけだ」 俊明:「なんだ、つまんねーの」 翠:「つまらないとは…それこそロマンが分からない男だな」 俊明:「いや明日には世界が終わるってんだから、もっと色々やりたいじゃん!」 翠:「そうか?新しいことをやって後悔したら?悔いが残る結果になったらどうする?もっと生きたいと願うかもしれないぞ?それなら私は好きなことだけの一日を過ごしたいね」 俊明:「そんなもんかぁ?」 翠:「あぁ、そんなものだよ。刺激が無くていいんだ、穏やかで幸せな気持ちで最後を迎えるなんて、素晴らしいと思わないか?」 俊明:「んーそう言われたら、確かに…」 翠:「だろう? 翠:(真面目な口調で)実はな、お前に話して居なかった事があるんだ」 俊明:「な、なんだよ急に、改まって…」 翠:「大切な話だよ、ちゃんと聞いてくれ」 俊明:「お、おう…」 翠:「実はな… : :(間) : 翠:あぁ、でもこんなことを言っても信じて貰えないかもな…」 俊明:「いやいや、引っ張ってそれかよ。 俊明:もうお前と何年の付き合いになると思ってるんだ。生まれてすぐからだぞ?ずっとお隣で、今でもこうして顔突合せてる。お前がくだらない冗談言わないのは知ってるから…ちゃんと話せ」 翠:「…真面目な顔もできるんだな」 俊明:「おい!人が真剣に…」 翠:「わかってる、わかってるよ。 翠:すまなかった、ちゃんと話そう。実はな…」 俊明:「ゴクリ…」 翠:「私は、未来が見えるんだ」 俊明:「……は?」 翠:「ほら、信じてない」 俊明:「いやいやいや、いきなりそんなこと言われて、はいそうですかって信じられるわけないだろ!」 翠:「(とても残念そうに)…そうか」 俊明:「…まじ?」 翠:「私が昔から運が良かったのは知ってるな?」 俊明:「…あぁ」 翠:「それは、実は未来が見えるからだったんだ」 俊明:「そうなのか?!」 翠:「先のことが見えるから危険を回避出来たし、失敗を防ぐことも出来た」 俊明:「で、でも、失敗することだってあっただろ?!高校の頃、先輩に告って玉砕したことあったじゃん!」 翠:「…嫌なことを思い出させる男だな」 俊明:「正月の福袋で、訳分からんお面ばっかり入った袋引き当てたり…」 翠:「あのお面、どこやったかな…」 俊明:「老人会に寄付した」 翠:「そうだったのか、知らなかった」 俊明:「隠し芸大会に使われてたぞ」 翠:「そうか、有効利用されて何よりだ」 俊明:「じゃなくて!そういうのはどうなんだ?!」 翠:「…私の未来予知の能力は常に働く訳では無い。そして、時には必要な失敗もあるんだ」 俊明:「必要な…失敗?」 翠:「あぁ、私が失敗することで上手く回るということもある。例えば…私を振った先輩などは正にそれだ」 俊明:「そうだったのか…」 翠:「私を振ることで、彼は大きな災難を避けることが出来た。私は彼のために犠牲となり恥をかいたんだよ」 俊明:「大きな、災難…ってどんな…?」 翠:「それは…。 翠:いや、やめておこう。穏やかな話ではない」 俊明:「怖いな…。ちなみにあの福袋は?」 翠:「あれは私の未来予知が、働いてなかった結果だ。そんな未来が見えていたなら、福袋など買わなかった」 俊明:「それもそうか…。 俊明:…えぇー、でもマジかぁ…」 翠:「信じて、貰えたか?」 俊明:「まだ…完全に信じたかどうかは分からんけど…翠がそんな真面目な顔して言うってことは…本当なんだろうな」 翠:「私はいつも真面目だぞ」 俊明:「いや、表情少ないだけだから。 俊明:…ん?ってことは、もしかして…。 俊明:明日…世界が終わる、のか…?」 翠:「………」 俊明:「何とか言えよ!そうなのか?!翠、明日…!!」 翠:「…残念だ」 俊明:「おいおいおい、マジかマジかマジか…。どしたらいい…どこに逃げる…?」 翠:「世界が終わるのに、逃げるのか?どこに?」 俊明:「あー、さっきもそのやり取りしたな!俺、苦しんで死ぬのかな…」 翠:「そこまでは、分からんな…」 俊明:「なあ!どうしたらいいんだ?!」 翠:「…どうにもならん」 俊明:「クソっ…まじかよ…。彼女も出来ないまま、俺死ぬのか…」 翠:「悔いはそこか」 俊明:「冷静だな、おい!」 翠:「言ったろう?私は穏やかなのがいいんだと」 俊明:「あ…」 翠:「俊明、お前は最後に誰と迎えたい?そして誰の顔を見ておきたい? 翠:今、浮かんだ顔だ。お前が今この時にこそ、顔を見ておかなくてはならない相手は誰だ?」 俊明:「……母さんだ」 翠:「おばさんか。…最近いつ連絡を?」 俊明:「…もう結構、経つ。電話かかってたのに、かけ直さなくて…」 翠:「…孝行したい時に親はなし、と言うからな。…ちゃんと、おばさんの顔を見て話をして来い。喧嘩するにも感謝するにも、お互いに元気なうちでなければ出来ないんだぞ」 俊明:「そう、だな…」 翠:「今のうちだ、行ってこい。時間は、無いぞ」 俊明:「俺っ、今から行ってくる!」 翠:「うん、それがいい。 翠:…俊明、スマホを貸せ」 俊明:「な、なんだよ…」 翠:「いいから早く」 俊明:「おう…」 翠:「(スマホを操作する)これでよし。はい、返す。アラームも切って、ゆっくり実家で過ごしてくるといい。 翠:あと、おばさんに世界の終わりについての話はするな」 俊明:「な、なんでだよ?!」 翠:「混乱する。大パニックだ、分かるか?」 俊明:「でも!」 翠:「良いか?蝶の羽ばたき一つが世界を変えることもあるんだ。お前の軽率な行動ですべての終わりを早める可能性だってある。 翠:…穏やかに、一緒に笑いあって他愛のない話をして、ゆっくり過ごして来い。今のお前に必要な事だ」 俊明:「…分かった」 翠:「じゃあ、気をつけてな。あとこれは…」 :翠、封筒を渡す。 翠:「餞別だ、旅費にするなり、おばさんにお土産を買うなり好きに使え」 俊明:「こんなに!?いや、さすがにこれは…」 翠:「良いんだ、持っていけ。おばさんに、よろしくな」 俊明:「…分かった、サンキュ」 翠:「私はここでゆっくり過ごしてるよ。帰ってきたら覗いてくれ」 俊明:「おう。じゃ、行ってくる!」 :出ていく俊明 翠:「行ったな…。 翠:(電話をかける)あ、もしもし?翠です。ええ、今。あとは…はい、はい。いやいや、…気にしないでください。そうですね。じゃあ…」 : :翌日の夕方 翠:「やぁ、おかえり」 俊明:「…ただいま」 翠:「久しぶりの実家はどうだった?おばさんは元気にしてたか?」 俊明:「あぁ、めちゃくちゃ元気してた」 翠:「そうか、それは良かった。まぁ上がれ。紅茶でも入れてやろう」 :部屋にあがり、ソファーに座る俊明 翠:「砂糖は入れるか?」 俊明:「いや、今日はいいや…」 翠:「どうした、元気がないぞ。おばさんと喧嘩でもしたか?」 俊明:「してねぇよ」 翠:「ならどうした?」 俊明:「母さんさ、俺が帰ったらめちゃくちゃ喜んでんだ…。俺の好物ばっかり作ってさ…自分は肉、たいして好きじゃないのに、唐揚げとか作ってくれててさ…」 翠:「そうか、良かったな」 俊明:「土産とか、よくわからなくて…途中のサービスエリアで買った土産だったけど、すげー喜んでた」 翠:「うん、良かったな」 俊明:「子供の頃の話とか、してさ… 俺、俺っ…!」 翠:「……泣くな」 俊明:「(泣きながら)もっと、親孝行しとけば良かった…!母さんの愚痴とか聞いたりして、もっと、一緒に…!」 翠:「…そうだな」 俊明:「旅行とか、一緒に行けば良かった…!」 翠:「…うん、そうだな」 俊明:「俺、母さんにもっと、言いたいことあったのに…何も言えなかった…!」 翠:「…そういうものだよ」 俊明:「明日、世界が終わるなんて…!!」 翠:「終わらないぞ」 俊明:「………は?」 翠:「誰が終わるなんて言ったんだ?」 俊明:「…は?…え??」 翠:「私はもし、と言ったはずだが?」 俊明:「…おわら、ない?」 翠:「終わらないが」 俊明:「…へ?でも、未来予知…」 翠:「あれは嘘だ」 俊明:「残念だって…言ったじゃん」 翠:「あぁ、お前の頭がな」 俊明:「………お前、何言ってんの?」 翠:「未来予知なんか嘘だよ。明日世界がどうなるかなんてわかりっこない」 俊明:「え、いや、でも……は?」 翠:「なんだ、まだ理解できないのか。分かるように説明がいるか?」 俊明:「いや、待って?」 翠:「うむ、待とう」 俊明:「…未来予知が、嘘?」 翠:「むしろなぜ信じた?」 俊明:「明日世界は、終わらない?」 翠:「昨日話したんだから終わるとしたら今日だな」 俊明:「お前振った先輩の大きな災難って?」 翠:「知らん。私を振るような男は階段から落ちて足でも折ればいい」 俊明:「昔から運が良かったのは…」 翠:「ただの偶然だな」 俊明:「ちょっと待てぇぇえええ!!」 翠:「うるさいぞ、近所迷惑だ」 俊明:「黙っていられるか、こんちくしょう!俺今日仕事だったんだぞ!無断欠勤だ!」 翠:「それは安心しろ。職場からの電話はブロックしておいた」 俊明:「昨日スマホ操作したのはそれだったのか!!」 翠:「そうだが?」 俊明:「どーすんだよ、おい!俺明日からどんな顔して行けばいいんだよ!あのクソ店長の嫌味聞くために行けってか?!」 翠:「行かなくていい」 俊明:「行かなくていい!それはそれは……はい?」 翠:「おまえの名前で店長宛に退職届と、数々のパワハラやセクハラの証拠を送り付けておいた。これを労基にチクられたくなかったら、退職金を口座に振り込めと、穏やかに文章を付けておいたぞ」 俊明:「なんてことしてんだよぉおお!!」 翠:「辞めたかっただろう?」 俊明:「辞めたかったよ?!辞めたかったけども!!」 翠:「退職金も入る。なんの問題があるんだ」 俊明:「無いよ、問題ないよ!でもそういうことじゃなくてええ!」 翠:「…おばさんがな、心配して私に電話かけてきたんだ」 俊明:「…へ?」 翠:「電話してもかけて来ないし、どうしてるのか気になるけど、しつこく連絡をするのも大の大人には良くないだろうから、とな。なので一芝居打たせてもらった」 俊明:「…いやいやいや、ちょっと待て?…母さんも、一枚噛んでた?」 翠:「あぁ。一枚どころか一緒に計画を立てた。いわゆる共犯だな」 俊明:「俺っ!絶対恥ずかしい事口走ってる!!」 翠:「いいじゃないか、おばさんは嬉しかったと思うよ」 俊明:「良くないわっ!!」 翠:「いい加減黙らないか。 翠:良いか?お前は不満タラタラの職場からこれで縁が切れる。腹の立つ店長ともな。退職金が入れば転職に大慌てすることもなかろう。お前の心配をしていたおばさんにも顔を見せることが出来た」 俊明:「お、おう…」 翠:「今までの世界、終わっただろ?」 俊明:「え…えぇー…そういう…」 翠:「いい加減落ち着け。せっかくの紅茶が冷めるぞ、良いやつを淹れてやったんだから飲むといい」 俊明:「そんな気分じゃ…」 翠:「俊明」 俊明:「…なに?」 翠:「実はな…」 俊明:「もうその流れはいい」 翠:「いいから聞け。 : 翠:実は、宝くじが当たったんだ」 俊明:「……で?」 翠:「一千万」 俊明:「一千万?!」 翠:「あぁ、これは本当だ」 俊明:「すげぇ!まじかよ!富豪じゃん!」 翠:「これで一緒に銀座の回らない寿司を食べに行こう」 俊明:「奢り?!」 翠:「当然だ。まあ、今回のお詫びのようなものだな。勿論、最高級のフレンチやワインも飲ませてやる」 俊明:「よっしゃー!」 翠:「そのあとは、この私の部屋で映画を観て、音楽を聴きながら一緒に過ごそう」 俊明:「おう!……ん?」 翠:「言ったろう?私は穏やかなのがいいんだ」 俊明:「…あの、翠さん?」 翠:「ん?なんだ?」 俊明:「それは…どういう…?」 翠:「無粋な男だな。私は好きな人と穏やかに過ごしたいだけだよ」 俊明:「…んんん?」 翠:「ふふっ。私の今までの世界も終わったが、したいことは変わらないのさ」 俊明:「そう、なんだ…」 翠:「私と一緒は、不満かな?」 俊明:「不満じゃ…ないけど」 翠:「さぁ、では私と一緒に新しい世界を始めよう」 : :終わり