台本概要
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タイトル | 飛べないふたり |
---|---|
作者名 | あまくケイ (@amak0331) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
高い所から、賢人は目を細めて景色を眺めている そこに一人の女性が、子供のような表情で破れたフェンスから眺めていた 男女サシ劇 10分くらい 雰囲気を崩さないアドリブは可 381 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
賢人 | 男 | 76 | 賢人(けんと) 男性 20代前半 |
咲 | 女 | 74 | 咲(さき) 女性 20代前半 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
賢人:…高いな
賢人:それもそうか
賢人:人が来れる場所では、一番高いところ…かな、ここは
賢人:…夕方か
賢人:やっぱり、綺麗だな
賢人:…?
0:俺はふと、隣を見やった
0:同じように、眺めている女性が居た
咲:たっかーい
咲:…そう思わない?
賢人:…高い方がいい
咲:なんで?
賢人:…ジェットコースターには?
咲:何回かあるけど
賢人:…あの落ちる感覚は、脳が綺麗になる
咲:どゆこと?
賢人:何も考えなくなる
賢人:考えなくなって
賢人:痛覚があることすら、忘れそうになるからさ
咲:でも、最後には感じちゃうんでしょ?
賢人:…
賢人:…何しに来たんだ?
咲:私?
咲:飛びに来た
賢人:そっか
咲:あなたもよね?
賢人:なんでわかる
咲:そんな顔してた
賢人:お前は、「そんな顔」してないよな
咲:え? だって飛ぶんだよ?
咲:私、空を飛ぶのが夢だからさ
咲:夢をかなえるのに、そんなうつろな表情したくないじゃん?
賢人:夢なんて持ってどうするのさ
咲:夢を感じたままがいいじゃん、最後まで
賢人:…
0:そこで、俺のスマホから電話が鳴る
0:それをすぐに切った
咲:いいの? でなくて
賢人:もういいんだよ
賢人:出たくない
賢人:話したくもない
咲:話したくないの?
咲:私とは話しているのに?
賢人:それは
賢人:…
賢人:話せそうだから、話したんだ
咲:私、そんな軽い女に見えちゃうのかなぁ
咲:でも、そっか
咲:飛ぶなら、軽いほうがいいよね!
賢人:一人で納得するんだな
咲:自己完結は大事なことです
賢人:完結して、ここに来たと?
咲:うん
咲:歩くのは疲れちゃったから
咲:何処見ても、中身のない、空っぽな建物ばっかりで
咲:空っぽな人ばっかりで
咲:でも、空っぽなのに、いっちょ前に人を傷つけるのは上手で
咲:そう、地上界はとても生きづらいのであります!
賢人:羽根がついてると?
咲:天使って、結局人間が創ったものじゃん?
賢人:だから?
咲:私も、羽根がついていると思うようにしたんです
賢人:「思うようにした」って…分かってるじゃないか。
咲:い、今のは撤回
賢人:馬鹿馬鹿しいこと言うくらいなら、現実をみ……
咲:…現実を?
賢人:…いや
賢人:現実は、…そう
賢人:そう、だな
賢人:…見たくもないのに、見ろというのは、変な話だよな
咲:へー
咲:優しいね
賢人:俺が、そう思ってるだけだよ
賢人:優しくない
賢人:優しくしてしまえば、なぜか暴力がかえってくる
賢人:そんなものだろ
咲:…私は歩いてるだけで、さ。これ
0:咲はそう言って、スカートをあげる
賢人:…
咲:でっかいあざよね
咲:後ろにももう一個あるかな
咲:で、これは新しくできちゃったやつ、
賢人:それは
賢人:痛いな
咲:そ、イタイ人間が、痛いことする
咲:だから痛覚は感じたくないの、最後まで
賢人:痛覚を感じたくないために、一番高い所にしてる。
賢人:目をつぶって飛べば、問題はないだろ
賢人:飛んでたって勘違いできるままでも、悪くない
咲:でも。落ちていく中で、ふとこの目でさ、地上を見たら
咲:あ、やっぱり羽根なんかついてないんだって思っちゃうじゃない
咲:それって、落胆して終了するってことじゃんさ
賢人:ここは地上じゃないと、最後まで思い続ければいいんじゃないか?
咲:最後まで思い続けるって…あきらめない根性みたいなのやめてよー
賢人:そういう意味じゃないんだけどな
咲:「最後まで僕たちには羽根があるんだー!」って
咲:それって飛ぶ前から羽根がないって思ってる前提じゃん
賢人:そりゃそうだ
賢人:羽根なんてないわけだから
咲:ちょっとさぁ、そういうの辞めてくれない?
咲:乙女のロマンを汚す男って、非常によくないですよ?
賢人:…なんでそんな平気でいられるんだよ
咲:え?
賢人:…分かってここにいるんだろ?
賢人:こんな人のいない、高い場所に
賢人:怖くないのか?
咲:鳥の子供だって、最初は空を飛ぶことを知らないわけじゃない?
咲:そう思ったら、人間も変わらないよ
賢人:本気でついていると思っている人間の台詞だ、それ
咲:いや、さっきからそう言ってるし
咲:あーもう、それなら海にでもいけば?
賢人:痛覚どころじゃないだろ
賢人:最後に苦しみを感じるのは、嫌なんだよ
咲:贅沢ねー
賢人:…
0:賢人はその場に座り込む
賢人:それに
賢人:この景色がいい
咲:え?
賢人:子供の時は、好きだったから
咲:昔は多かったもんね、このデパート
賢人:知ってるのか?
咲:私もここ、よく来てたから
賢人:…そっか
咲:…飛んだ先って、どんな感じなのかな
咲:今はこうやって足をついてこの景色を見てるけど
咲:実際に飛んだら、どういう風に見えるのかなって
咲:ねぇ
咲:飛んだ先って、どこに行くと思う?
賢人:…意識がなくなったら
賢人:…ただ真っ暗な世界が続くだけ、とか?
咲:私は
咲:お花畑とか、澄み渡るような海とか、穏やかな自然とか
咲:そういうのがあるんじゃないかって、思うんだよね
咲:だから、飛ぶ!
咲:飛びます!私!
賢人:…
賢人:…分かったよ
咲:羽根があるの、理解してくれた?
賢人:最後までわからない
咲:それは、残念
賢人:真っ暗な先に
賢人:白い天井でもあって
賢人:産声でもあげて
賢人:それが、俺と違う感性なら、理解できるようになるのかもな
咲:それ随分先のように聞こえるけど?
賢人:先かどうかはわからないだろ
賢人:真っ暗になって、1秒、1分? どれくらいかしたら
賢人:子宮から出てくるんじゃないか?
咲:だからどれくらいで?
賢人:…カップラーメンが出来上がるくらい
咲:なにそれ
咲:あとさ、子宮とも限らないじゃない
咲:気づいたら、本当に羽根がついてたとかさ
咲:あ、今のは、なし
賢人:…
咲:じゃ、お先に
咲:飛んでくる
賢人:…どうぞ
咲:…天候、よし。体調、よし
賢人:体調、関係あるのかよ
咲:飛行能力にはかかせない項目です
賢人:…なぁ
咲:ん?
賢人:…その
賢人:全部、歩ききった?
咲:…え?
賢人:…お前と話してたら
賢人:…まだ
賢人:歩いていないところも、あるんじゃないかって思えて…
0:屋上の入り口扉から物音がした
咲:…あっ
賢人:!
0:警備員が俺たちを見つける
咲:ちょ、ちょっと辞めて!離して!
咲:私は、私は飛ぶの! 飛びたいの!
咲:だから、お願い…お願いだから
咲:…飛ばせてよ
0:
0:
賢人:その後、警察が来て事情聴取をされる
賢人:俺たちは、やろうとしていたことをそのまま話した
賢人:デパートの屋上は厳重に閉められることが決まり、俺達は解放された
0:
咲:…
賢人:場所がなくなったな
咲:…なんででしょうね
賢人:なにが?
咲:前もこうだったから
賢人:他の場所でも?
咲:でも、いい所で止められる
咲:…ごめんね、巻き込んじゃって
賢人:…いや
咲:もう、どこにもないや
咲:でも、海は嫌だし、自宅なんてもっと嫌だ
咲:最後くらい…気持ちよくいきたいじゃんか…
賢人:…もしかしたら
賢人:これで、良かったのかも…
咲:…え?
賢人:…「飛ぶ」ってこんなにも明るくいうやつ、そうそういない
賢人:それを見た時
賢人:…捨てたものじゃないって、思えてしまった
咲:何が?
賢人:地上で歩くっていうのも
咲:…
咲:…なにそれ
咲:じゃあ、ずっと歩けっていうの?
咲:この世の中? また空っぽな世界に戻って
咲:空っぽな、どうでもいい人たちの暴力を受けながら、生きろって?
賢人:俺は
賢人:受けたほうだから、わかる
咲:…っ
賢人:同じ、受けたやつを見たのは、はじめてだった
賢人:だから、その
賢人:一緒にこの世界を歩くなら、いいんじゃないか?
咲:…
賢人:俺は、本気で嫌だった
賢人:友人も、家族も、なにもかも
賢人:もう、話したくもない
賢人:でも、お前とは、あんな屋上で色々話せてしまった
賢人:そういう現実がやってきた
賢人:その……だから
賢人:お前が、飛びたいならまだ別だけど
賢人:俺と一緒に、歩かないか?
咲:…バカみたい
咲:あれだけ飛びたい言ってた人を引き留める理由がそれ?
咲:笑える
賢人:…あんな話ができるなら
賢人:まだ、勿体ないと思ってしまった
賢人:それは俺のエゴだってのは分かってる
咲:…別にいいけど
賢人:えっ?
咲:いいって言ったの
咲:その散歩につきあってあげる
賢人:…どこまで続くかわからないぞ?
賢人:歩いても、結局また、見晴らしのいいところについてしまうかもしれない
賢人:…でもきっと、とどまって。歩きそうな気がする
咲:…ほんとに収まったの? 君
賢人:…ああ
賢人:おさまった
咲:飛ぶかもしれないよ? 私、ほんとに
咲:散歩に飽きて、やっぱりお空に行きたいとかいって
咲:高い所を探し始めるかも
賢人:その時は、その時さ
賢人:でも、今はなんか
賢人:歩きたい気分になってしまった
咲:…で
賢人:え?
咲:どうするの?
咲:私、帰りたくないんだけど
賢人:俺も同じさ
賢人:そしたら、…そうだな。遠いところまで歩くか
咲:…足がつかれそう
賢人:疲れたら…
賢人:まぁ、どこか適当に休める場所があるだろう、きっと
賢人:…休んだら
賢人:飛ぶのもめんどくさくなったりしてな
賢人:…俺も
咲:…じゃ
咲:とっとと行こ
賢人:気が早いな
咲:だって飛べなかったし
賢人:そうですか…
咲:…夕日、とっくに落ちてるね
賢人:話が長かったな
咲:どうせそんなものでしょ
咲:…もうちょっと見ていたかったな
賢人:なら飛ばなくていいじゃないか
咲:いや、飛ぶのは諦めません
賢人:…
賢人:俺は…暗い方が落ち着くけどな。綺麗だったけど
咲:…風もさ
賢人:…ん?
咲:…気持ちいいよね、なんか
咲:前は、そんな事思わなかったのに
賢人:飛んでないのに、か
咲:…うん
賢人:じゃ
賢人:歩くか
0:
賢人:…高いな
賢人:それもそうか
賢人:人が来れる場所では、一番高いところ…かな、ここは
賢人:…夕方か
賢人:やっぱり、綺麗だな
賢人:…?
0:俺はふと、隣を見やった
0:同じように、眺めている女性が居た
咲:たっかーい
咲:…そう思わない?
賢人:…高い方がいい
咲:なんで?
賢人:…ジェットコースターには?
咲:何回かあるけど
賢人:…あの落ちる感覚は、脳が綺麗になる
咲:どゆこと?
賢人:何も考えなくなる
賢人:考えなくなって
賢人:痛覚があることすら、忘れそうになるからさ
咲:でも、最後には感じちゃうんでしょ?
賢人:…
賢人:…何しに来たんだ?
咲:私?
咲:飛びに来た
賢人:そっか
咲:あなたもよね?
賢人:なんでわかる
咲:そんな顔してた
賢人:お前は、「そんな顔」してないよな
咲:え? だって飛ぶんだよ?
咲:私、空を飛ぶのが夢だからさ
咲:夢をかなえるのに、そんなうつろな表情したくないじゃん?
賢人:夢なんて持ってどうするのさ
咲:夢を感じたままがいいじゃん、最後まで
賢人:…
0:そこで、俺のスマホから電話が鳴る
0:それをすぐに切った
咲:いいの? でなくて
賢人:もういいんだよ
賢人:出たくない
賢人:話したくもない
咲:話したくないの?
咲:私とは話しているのに?
賢人:それは
賢人:…
賢人:話せそうだから、話したんだ
咲:私、そんな軽い女に見えちゃうのかなぁ
咲:でも、そっか
咲:飛ぶなら、軽いほうがいいよね!
賢人:一人で納得するんだな
咲:自己完結は大事なことです
賢人:完結して、ここに来たと?
咲:うん
咲:歩くのは疲れちゃったから
咲:何処見ても、中身のない、空っぽな建物ばっかりで
咲:空っぽな人ばっかりで
咲:でも、空っぽなのに、いっちょ前に人を傷つけるのは上手で
咲:そう、地上界はとても生きづらいのであります!
賢人:羽根がついてると?
咲:天使って、結局人間が創ったものじゃん?
賢人:だから?
咲:私も、羽根がついていると思うようにしたんです
賢人:「思うようにした」って…分かってるじゃないか。
咲:い、今のは撤回
賢人:馬鹿馬鹿しいこと言うくらいなら、現実をみ……
咲:…現実を?
賢人:…いや
賢人:現実は、…そう
賢人:そう、だな
賢人:…見たくもないのに、見ろというのは、変な話だよな
咲:へー
咲:優しいね
賢人:俺が、そう思ってるだけだよ
賢人:優しくない
賢人:優しくしてしまえば、なぜか暴力がかえってくる
賢人:そんなものだろ
咲:…私は歩いてるだけで、さ。これ
0:咲はそう言って、スカートをあげる
賢人:…
咲:でっかいあざよね
咲:後ろにももう一個あるかな
咲:で、これは新しくできちゃったやつ、
賢人:それは
賢人:痛いな
咲:そ、イタイ人間が、痛いことする
咲:だから痛覚は感じたくないの、最後まで
賢人:痛覚を感じたくないために、一番高い所にしてる。
賢人:目をつぶって飛べば、問題はないだろ
賢人:飛んでたって勘違いできるままでも、悪くない
咲:でも。落ちていく中で、ふとこの目でさ、地上を見たら
咲:あ、やっぱり羽根なんかついてないんだって思っちゃうじゃない
咲:それって、落胆して終了するってことじゃんさ
賢人:ここは地上じゃないと、最後まで思い続ければいいんじゃないか?
咲:最後まで思い続けるって…あきらめない根性みたいなのやめてよー
賢人:そういう意味じゃないんだけどな
咲:「最後まで僕たちには羽根があるんだー!」って
咲:それって飛ぶ前から羽根がないって思ってる前提じゃん
賢人:そりゃそうだ
賢人:羽根なんてないわけだから
咲:ちょっとさぁ、そういうの辞めてくれない?
咲:乙女のロマンを汚す男って、非常によくないですよ?
賢人:…なんでそんな平気でいられるんだよ
咲:え?
賢人:…分かってここにいるんだろ?
賢人:こんな人のいない、高い場所に
賢人:怖くないのか?
咲:鳥の子供だって、最初は空を飛ぶことを知らないわけじゃない?
咲:そう思ったら、人間も変わらないよ
賢人:本気でついていると思っている人間の台詞だ、それ
咲:いや、さっきからそう言ってるし
咲:あーもう、それなら海にでもいけば?
賢人:痛覚どころじゃないだろ
賢人:最後に苦しみを感じるのは、嫌なんだよ
咲:贅沢ねー
賢人:…
0:賢人はその場に座り込む
賢人:それに
賢人:この景色がいい
咲:え?
賢人:子供の時は、好きだったから
咲:昔は多かったもんね、このデパート
賢人:知ってるのか?
咲:私もここ、よく来てたから
賢人:…そっか
咲:…飛んだ先って、どんな感じなのかな
咲:今はこうやって足をついてこの景色を見てるけど
咲:実際に飛んだら、どういう風に見えるのかなって
咲:ねぇ
咲:飛んだ先って、どこに行くと思う?
賢人:…意識がなくなったら
賢人:…ただ真っ暗な世界が続くだけ、とか?
咲:私は
咲:お花畑とか、澄み渡るような海とか、穏やかな自然とか
咲:そういうのがあるんじゃないかって、思うんだよね
咲:だから、飛ぶ!
咲:飛びます!私!
賢人:…
賢人:…分かったよ
咲:羽根があるの、理解してくれた?
賢人:最後までわからない
咲:それは、残念
賢人:真っ暗な先に
賢人:白い天井でもあって
賢人:産声でもあげて
賢人:それが、俺と違う感性なら、理解できるようになるのかもな
咲:それ随分先のように聞こえるけど?
賢人:先かどうかはわからないだろ
賢人:真っ暗になって、1秒、1分? どれくらいかしたら
賢人:子宮から出てくるんじゃないか?
咲:だからどれくらいで?
賢人:…カップラーメンが出来上がるくらい
咲:なにそれ
咲:あとさ、子宮とも限らないじゃない
咲:気づいたら、本当に羽根がついてたとかさ
咲:あ、今のは、なし
賢人:…
咲:じゃ、お先に
咲:飛んでくる
賢人:…どうぞ
咲:…天候、よし。体調、よし
賢人:体調、関係あるのかよ
咲:飛行能力にはかかせない項目です
賢人:…なぁ
咲:ん?
賢人:…その
賢人:全部、歩ききった?
咲:…え?
賢人:…お前と話してたら
賢人:…まだ
賢人:歩いていないところも、あるんじゃないかって思えて…
0:屋上の入り口扉から物音がした
咲:…あっ
賢人:!
0:警備員が俺たちを見つける
咲:ちょ、ちょっと辞めて!離して!
咲:私は、私は飛ぶの! 飛びたいの!
咲:だから、お願い…お願いだから
咲:…飛ばせてよ
0:
0:
賢人:その後、警察が来て事情聴取をされる
賢人:俺たちは、やろうとしていたことをそのまま話した
賢人:デパートの屋上は厳重に閉められることが決まり、俺達は解放された
0:
咲:…
賢人:場所がなくなったな
咲:…なんででしょうね
賢人:なにが?
咲:前もこうだったから
賢人:他の場所でも?
咲:でも、いい所で止められる
咲:…ごめんね、巻き込んじゃって
賢人:…いや
咲:もう、どこにもないや
咲:でも、海は嫌だし、自宅なんてもっと嫌だ
咲:最後くらい…気持ちよくいきたいじゃんか…
賢人:…もしかしたら
賢人:これで、良かったのかも…
咲:…え?
賢人:…「飛ぶ」ってこんなにも明るくいうやつ、そうそういない
賢人:それを見た時
賢人:…捨てたものじゃないって、思えてしまった
咲:何が?
賢人:地上で歩くっていうのも
咲:…
咲:…なにそれ
咲:じゃあ、ずっと歩けっていうの?
咲:この世の中? また空っぽな世界に戻って
咲:空っぽな、どうでもいい人たちの暴力を受けながら、生きろって?
賢人:俺は
賢人:受けたほうだから、わかる
咲:…っ
賢人:同じ、受けたやつを見たのは、はじめてだった
賢人:だから、その
賢人:一緒にこの世界を歩くなら、いいんじゃないか?
咲:…
賢人:俺は、本気で嫌だった
賢人:友人も、家族も、なにもかも
賢人:もう、話したくもない
賢人:でも、お前とは、あんな屋上で色々話せてしまった
賢人:そういう現実がやってきた
賢人:その……だから
賢人:お前が、飛びたいならまだ別だけど
賢人:俺と一緒に、歩かないか?
咲:…バカみたい
咲:あれだけ飛びたい言ってた人を引き留める理由がそれ?
咲:笑える
賢人:…あんな話ができるなら
賢人:まだ、勿体ないと思ってしまった
賢人:それは俺のエゴだってのは分かってる
咲:…別にいいけど
賢人:えっ?
咲:いいって言ったの
咲:その散歩につきあってあげる
賢人:…どこまで続くかわからないぞ?
賢人:歩いても、結局また、見晴らしのいいところについてしまうかもしれない
賢人:…でもきっと、とどまって。歩きそうな気がする
咲:…ほんとに収まったの? 君
賢人:…ああ
賢人:おさまった
咲:飛ぶかもしれないよ? 私、ほんとに
咲:散歩に飽きて、やっぱりお空に行きたいとかいって
咲:高い所を探し始めるかも
賢人:その時は、その時さ
賢人:でも、今はなんか
賢人:歩きたい気分になってしまった
咲:…で
賢人:え?
咲:どうするの?
咲:私、帰りたくないんだけど
賢人:俺も同じさ
賢人:そしたら、…そうだな。遠いところまで歩くか
咲:…足がつかれそう
賢人:疲れたら…
賢人:まぁ、どこか適当に休める場所があるだろう、きっと
賢人:…休んだら
賢人:飛ぶのもめんどくさくなったりしてな
賢人:…俺も
咲:…じゃ
咲:とっとと行こ
賢人:気が早いな
咲:だって飛べなかったし
賢人:そうですか…
咲:…夕日、とっくに落ちてるね
賢人:話が長かったな
咲:どうせそんなものでしょ
咲:…もうちょっと見ていたかったな
賢人:なら飛ばなくていいじゃないか
咲:いや、飛ぶのは諦めません
賢人:…
賢人:俺は…暗い方が落ち着くけどな。綺麗だったけど
咲:…風もさ
賢人:…ん?
咲:…気持ちいいよね、なんか
咲:前は、そんな事思わなかったのに
賢人:飛んでないのに、か
咲:…うん
賢人:じゃ
賢人:歩くか
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