台本概要

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タイトル 臆病者の狂騒。
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル コメディ
演者人数 1人用台本(女1)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 不幸な目にばかり遭う人生を送る女、イヅキの独白。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
イヅキ 1 不幸な目にばかり遭う人生を送り、それを嘆く女。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:『臆病者の狂騒』 0:イヅキが走り込んでくる。 0:中央で立ち止まると泣き出す。 イヅキ:もうこんな生活嫌、私が何をしたって言うの? どうして私ばっかりこんな目に遭うの? 私が悪い子だから、神様はきっと罰を与えるのね、そう、だって仕方ないじゃ無い、うちは貧乏だから固めるテンプルは贅沢品だったの! 悪いことだって知ってたわ。あんなにたくさんの天ぷら油を水道に流したらどうなるのかなんて、あの頃の私でも分かってた! でも、これくらいだったらって、思ったのよ! 折角、お母さんの誕生日だったんだもん、お母さんの大好きな竹輪の天ぷら、美味しく揚げたかったのよ! それだけのことで、たったそれだけのことで、いくら何でも神様ったら心が狭いわ! そうよ、私はきっと呪われているのよ。あれからというもの、真面目だった父は競馬場に入り浸りマジ卍とかいう競走馬に入れ込んで家計を圧迫した挙げ句、あっさりと数千万稼いだかと思うと失踪。お父さんの部屋を開けると真っ白い馬みたいな机があったわ。その上には札束がぽんって。三十センチも。信じられる? でも、このお金もただのお金じゃ無かった。そうよ、全部、全部二千円札だったの! 沖縄か! そしてその六百万円を文鎮にした置き手紙に書かれていたのはたった三文字! ……マジ卍。何なのよ! けれどそれだけでは暮らしていけなかった。お父さんが抜けた穴をふさぐため、レジ打ちすらしたことの無かったお母さんが家計を支えようと始めたのはキャバ嬢。バツイチ子持ちの五十二よ、信じられる? 店長より二回り年上の嬢がなんでNO.2なの? そこで野望に火がついた母は天ぷら火災のように闘志と目をぎとぎとと輝かせて、夜の街を盛ったウーパールーパーのように泳ぎ始めて気が付くと、女優になっていたわ。テレビをつければ当たり前のように映るけど、生のお母さんの顔は見れなくなった。結局のところ、夫婦なのね。まるで変わらないわ。父と同じで母も私達を置いて、どこか遠くへ行ったわ。残していったのは目が飛び出るような額の仮想通貨と、スマホを文鎮にした置き手紙。そこには女子高生みたいな丸文字で、チョベリグ。……死ね! 両親に見捨てられた私のもとにはそれでもまだ愛する家族がいた。弟の達也。運動神経抜群で勉強も英語以外はそれなりに言うこと無しで、何より心優しくて可愛かった。けれど、やっぱりというか、危惧していたとおり、達也も変わってしまった。当然よね、両親が揃っておかしくなったんだもの。言わば、これは家族で始めた発狂のチキンレースなのよ。家族の中で誰がどこまで限界に近づけるか。きっとそういうものだった。そう思わないと、やってられないじゃない。達也はね、でも、境界線を越えてあっちに行っちゃった。私達家族、家族の中でおかしなことをしていても、人様に迷惑を掛けなかった。達也は、越えてはいけないところを越えてしまった。何をやったかって? 分かるでしょ? アマゾンのレビューにソーラン節をヘブライ語でコピペするバイトを始めて、とうとう威力業務妨害でパクられたのよ。でも、そんなのよくあることよ。今は塀の向こうで何をしているのか。ああ、そうそう、最近封筒が来てね、何かなって思ったら、達也からだった。私怖かったの。もう手紙なんて見たくなかったから。みんなどこか遠くへ行っちゃうんだもん。でも、開けた。開けるしか無いでしょう? どんなに逃げて、見て見ぬ振りをしたとしても、現実から逃げ切るなんて私には出来ないもの。そこには金額の記入されていない小切手と、それがどうやら達也の例のバイト代である旨のメモが入っていた。私は少し安心したような、でもちょっと残念なような思いで、ふと、小切手を火に翳してみたわ。まさかね、あぶり出しなんてそんな……。そう思っていたら案の定浮かび上がってきたわ。達也の手紙。恐る恐る、私はそれを読んだ。ヤーレンソーランソーランソーランソーランソーランハイハイ! いや、知ってたわ! 絶対そうだろうなとは思ってたわ! ええ、分かってるわ。家族だもの、全部分かってる。でも、私はチキンだからみんなのようには出来なかった。神様ったら酷いわ。私には限界に挑む勇気をくれなかったんだもの。でも、そんなの神様のせいじゃないことは百も承知で、その上で文句を言わせて貰えるなら、どうしてこんなむごい罰を与えるのかと、私は問い糾したかった。あるいは、それは、罰じゃ無くて神様的には試練系のそれとかいうよくあるあれのつもりっぽい奴って感じなのかも知れないけど、だから私は心底恨む。神様を、この世界を。謝ったってもう遅いのよ! だって私に失うものなんて何もないんだから。天ぷら油を流して行き詰まった配管のように、私の未来にもう先は無い。 0:イヅキ、空へと手を伸ばした姿のまま溶暗。

0:『臆病者の狂騒』 0:イヅキが走り込んでくる。 0:中央で立ち止まると泣き出す。 イヅキ:もうこんな生活嫌、私が何をしたって言うの? どうして私ばっかりこんな目に遭うの? 私が悪い子だから、神様はきっと罰を与えるのね、そう、だって仕方ないじゃ無い、うちは貧乏だから固めるテンプルは贅沢品だったの! 悪いことだって知ってたわ。あんなにたくさんの天ぷら油を水道に流したらどうなるのかなんて、あの頃の私でも分かってた! でも、これくらいだったらって、思ったのよ! 折角、お母さんの誕生日だったんだもん、お母さんの大好きな竹輪の天ぷら、美味しく揚げたかったのよ! それだけのことで、たったそれだけのことで、いくら何でも神様ったら心が狭いわ! そうよ、私はきっと呪われているのよ。あれからというもの、真面目だった父は競馬場に入り浸りマジ卍とかいう競走馬に入れ込んで家計を圧迫した挙げ句、あっさりと数千万稼いだかと思うと失踪。お父さんの部屋を開けると真っ白い馬みたいな机があったわ。その上には札束がぽんって。三十センチも。信じられる? でも、このお金もただのお金じゃ無かった。そうよ、全部、全部二千円札だったの! 沖縄か! そしてその六百万円を文鎮にした置き手紙に書かれていたのはたった三文字! ……マジ卍。何なのよ! けれどそれだけでは暮らしていけなかった。お父さんが抜けた穴をふさぐため、レジ打ちすらしたことの無かったお母さんが家計を支えようと始めたのはキャバ嬢。バツイチ子持ちの五十二よ、信じられる? 店長より二回り年上の嬢がなんでNO.2なの? そこで野望に火がついた母は天ぷら火災のように闘志と目をぎとぎとと輝かせて、夜の街を盛ったウーパールーパーのように泳ぎ始めて気が付くと、女優になっていたわ。テレビをつければ当たり前のように映るけど、生のお母さんの顔は見れなくなった。結局のところ、夫婦なのね。まるで変わらないわ。父と同じで母も私達を置いて、どこか遠くへ行ったわ。残していったのは目が飛び出るような額の仮想通貨と、スマホを文鎮にした置き手紙。そこには女子高生みたいな丸文字で、チョベリグ。……死ね! 両親に見捨てられた私のもとにはそれでもまだ愛する家族がいた。弟の達也。運動神経抜群で勉強も英語以外はそれなりに言うこと無しで、何より心優しくて可愛かった。けれど、やっぱりというか、危惧していたとおり、達也も変わってしまった。当然よね、両親が揃っておかしくなったんだもの。言わば、これは家族で始めた発狂のチキンレースなのよ。家族の中で誰がどこまで限界に近づけるか。きっとそういうものだった。そう思わないと、やってられないじゃない。達也はね、でも、境界線を越えてあっちに行っちゃった。私達家族、家族の中でおかしなことをしていても、人様に迷惑を掛けなかった。達也は、越えてはいけないところを越えてしまった。何をやったかって? 分かるでしょ? アマゾンのレビューにソーラン節をヘブライ語でコピペするバイトを始めて、とうとう威力業務妨害でパクられたのよ。でも、そんなのよくあることよ。今は塀の向こうで何をしているのか。ああ、そうそう、最近封筒が来てね、何かなって思ったら、達也からだった。私怖かったの。もう手紙なんて見たくなかったから。みんなどこか遠くへ行っちゃうんだもん。でも、開けた。開けるしか無いでしょう? どんなに逃げて、見て見ぬ振りをしたとしても、現実から逃げ切るなんて私には出来ないもの。そこには金額の記入されていない小切手と、それがどうやら達也の例のバイト代である旨のメモが入っていた。私は少し安心したような、でもちょっと残念なような思いで、ふと、小切手を火に翳してみたわ。まさかね、あぶり出しなんてそんな……。そう思っていたら案の定浮かび上がってきたわ。達也の手紙。恐る恐る、私はそれを読んだ。ヤーレンソーランソーランソーランソーランソーランハイハイ! いや、知ってたわ! 絶対そうだろうなとは思ってたわ! ええ、分かってるわ。家族だもの、全部分かってる。でも、私はチキンだからみんなのようには出来なかった。神様ったら酷いわ。私には限界に挑む勇気をくれなかったんだもの。でも、そんなの神様のせいじゃないことは百も承知で、その上で文句を言わせて貰えるなら、どうしてこんなむごい罰を与えるのかと、私は問い糾したかった。あるいは、それは、罰じゃ無くて神様的には試練系のそれとかいうよくあるあれのつもりっぽい奴って感じなのかも知れないけど、だから私は心底恨む。神様を、この世界を。謝ったってもう遅いのよ! だって私に失うものなんて何もないんだから。天ぷら油を流して行き詰まった配管のように、私の未来にもう先は無い。 0:イヅキ、空へと手を伸ばした姿のまま溶暗。