台本概要

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タイトル Calisson-カリソン- R18BL
作者名 橘りょう  (@tachibana390)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男2)
時間 40 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 上杉雪弥と藤森忍、二人が営む洋菓子店『カリソン』
仕事上のパートナーで、恋人同士でもある二人の始まりの話。

R18作品となっておりますので、読み手の方はもちろんリスナーさんの年齢にもご注意いただけると幸いです。当方責任はとれません。
読み手の性別は不問ですが、登場人物の性別の変更は不可

作品名、作者名、台本へのリンクの表記をお願いいたします。
余裕があれば後でも構わないのでTwitterなどで教えて下さると嬉しいです、
アーカイブが残っていたら喜んで聴きに行かせていただきます。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
雪弥 263 カリソンの代表パティシエ。顔がよく少し勝気な性格。 受
273 カリソンの接客と補助担当パティシエ。クールな性格。 攻
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
雪弥:ガトーショコラ、上がった 忍:分かった。シュークリーム、用意できるか? 雪弥:出来る 忍:ダブルがもう少ない 雪弥:分かった : 雪弥:『パティスリー「カリソン」。洋菓子を中心に扱うケーキ屋。そこが俺の城 雪弥:パティシエの俺と、補助と主に接客を担当しているのが藤森忍。ここは、二人の城』 : 忍:『雪弥が作るケーキは繊細で宝石のようなものが多い。 忍:そして本人もお綺麗な顔をしているせいか、自然と女性客が集まり、有難いことにオープンして二年。集客に悩んだことは無い』 : 忍:ご予約の方ですね、ありがとうございます。直ぐにご用意致しますので少々お待ちください 忍:(厨房)雪弥、内藤さんがケーキ取りに来られたぞ 雪弥:右の一番上、チョコのヤツな 忍:分かった 雪弥:プレート、モナちゃんって書いてるやつ 忍:…これだな、確認 雪弥:ん、合ってる 忍:…おまたせ致しました。チョコのバースデーケーキ、こちらでお間違いございませんか? 忍:…ありがとうございます。ロウソクは六本とお伺いしておりましたがよろしかったでしょうか? : :閉店後 忍:お疲れ、店頭閉めたぞ 雪弥:あぁ、お疲れ。今日の売れ残りは? 忍:ショートケーキとプリンアラモード 雪弥:最近この二つ、なんか動き悪いんだよなぁ…味変えるかな 忍:定番ではあるんだけどな…(クリームをすくって舐める) 雪弥:…問題は? 忍:自分で確認が先(指ですくったクリームを突き出す) 雪弥:…(躊躇いながらも指を舐める) 忍:問題は無いと思うが 雪弥:じゃあなんで舐めさせたんだよ 忍:嫌がらせ 雪弥:は? 忍:俺が居なくなったらどうするんだ 雪弥:味の調整くらいできる! 忍:なら尚更、毎回確認しろよ 雪弥:分かってる… 忍:…新作のオペラは男性にも人気ある 雪弥:お、マジか 忍:あぁ 雪弥:少し苦味強めにしてるから、食いやすいのかもな 忍:そうかもな。さ、片付けるか 雪弥:…… 忍:雪弥? 雪弥:ちょっと試作、作るわ 忍:今からか? 雪弥:あぁ 忍:方向性は…決まってるんだな 雪弥:オランジェット、イメージしたやつがいいかなって 忍:オランジェット?なんで? 雪弥:マーマレードのジャムはある。それを濃いめのチョコに混ぜてコートしたら…そうなるかなって 忍:マーマレードは好き嫌いが分かれないか? 雪弥:そうかもしれないけど、安定さた人気はあると思う。ある意味定番だし。オランジェットもな 忍:オランジェット…か 雪弥:何?苦手か? 忍:あ、いや。…土台、どうする? 雪弥:オレンジ風味のムース、かな 忍:あぁ、いいな(ふっと笑う) 雪弥:ん?何? 忍:いや、ふとコンクールの時のこと、思い出した 雪弥:大喧嘩したな、そういや 忍:あれはお前が全然譲らなかったからだろ 雪弥:俺の作った味にケチばっかりつけてたからだろ 忍:あの時のこと思ったら…随分穏やかになったなって 雪弥:お互い様だろ 忍:俺は変わらない 雪弥:嘘つけ 雪弥:すぐ取り掛かる。イメージが逃げる 忍:分かった、じゃあ… 雪弥:寝るなよ 忍:寝ない、起きて待ってる : 忍:『思いついた時には、もう頭の中に道筋は出来ていて…。 忍:昔から無駄のない洗練された動きは、更にその磨きを増している 忍:真剣な表情と真っ直ぐな視線…この時ばかりは、どれだけ熱こもった視線を向けても雪弥には届かない。 忍:甘いものが得意では無いこのパティシエが作り出すケーキの一つ一つが、多くの人を魅了する 忍:少し妬ける、と言ったらこいつはどんな顔をするだろうか』 : 忍:俺達の出会いは製菓の専門学校で、正直出会い方は最悪だった : :専門学校時代 雪弥:おいお前 忍:……(1度振り向くがまた歩き出す) 雪弥:おいっ!ちょっと待て! 忍:…誰 雪弥:ん?俺の事知らない奴がいるのか 忍:ここにいる 雪弥:可愛くねーな 忍:男に可愛いって言われて、喜ぶヤツいるの? 雪弥:藤森忍、お前俺と組めよ 忍:断る 雪弥:即答かよ! 忍:なんでお前と組まなきゃいけないんだ 雪弥:次の製菓コンクール、二人一組なのは知ってるだろ 忍:それがどうした 雪弥:出ないのか? 忍:…出るつもり 雪弥:パートナーは? 忍:まだ決まってないけど… 雪弥:なら俺と組めよ 忍:偉そうな奴と組むのは嫌だ 雪弥:俺のどこが偉そうなんだよ! 忍:…自覚ないのか 雪弥:パートナーのアテはあるのか? 忍:…… 雪弥:だろうな 忍:なんでそんな事… 雪弥:お前、ホモなんだろ? 忍:(露骨に嫌な顔をする) 雪弥:噂になってる 忍:…だから何 雪弥:他の奴はお前と組むの、嫌がってるの位知ってるだろ。どうせ友達もいないだろ 忍:大きなお世話だ 雪弥:そんな可哀想なお前に救いの手を差し伸べてやってるんたぞ?何が不満なんだよ 忍:実力のないやつと組むのはお断りだ 雪弥:実力が無いだと?! 忍:口先だけでかくても意味が無い 雪弥:…俺の名前だけじゃなく実力も知らないとはな…! 忍:上杉雪弥 雪弥:なんだ、知ってるんじゃねーか 忍:センスはあるけど腕は無いな 雪弥:なんだと? 忍:お前が作るデコレーションは確かに綺麗だと思う。でも味が足りない 雪弥:もう一回言って見ろ 忍:何回でも言ってやる 雪弥:食ったこともねぇのに…! 忍:ある 雪弥:…は? 忍:食ったことある 雪弥:…いつ 忍:先月の課題のタルト。一口食った 雪弥:一口かよ 忍:バランスが悪い 雪弥:なんだと?! 忍:ベリーのソースが甘すぎる。ソースを甘くするならクリームの甘さを抑えないとくどくなる。果物の味も見たのか? 雪弥:…… 忍:実力が無い奴とは組まない 雪弥:もう一回だ!! 忍:…は? 雪弥:今からもう一回作ってやる!それで納得したら俺と組めよ?! 忍:…僕にメリットがないんだけど 雪弥:コンクールのパートナーが出来るだろ 忍:(溜息)…なんで付き合わなきゃいけないんだ 雪弥:…自信作だったんだよ 忍:…… 雪弥:採点も申し分無かった、優良貰ったんだ。自分でもいいのができたと思った 忍:…… 雪弥:その一品にお前は今、ケチをつけた 忍:…言うんじゃなかった 雪弥:今から俺んち来いよ。美味いって言わせてやる 忍:…分かった。材料はあるのか? 雪弥:あぁ 忍:案内しろ 雪弥:約束しろ、美味いって思ったら俺と組め 忍:分かった。その代わり不味かったら今後一切この話はナシだ 雪弥:…良いだろう : :雪弥の部屋 雪弥:よし…出来た。おい、起きろよ 忍:ん…何? 雪弥:出来た 忍:あぁ… 雪弥:普通知らん顔して寝るか? 忍:ボケっと一時間以上待てって? 雪弥:作ってる所見るんだと思ったら、いきなり出来たら起こせって言うなんてな 忍:手際の良さは知ってる。見る必要ないだろ 雪弥:…ふぅん 忍:何? 雪弥:いや、別に。それはいいんだよ、こっち。さぁ食え 忍:(皿を持ち上げて眺める)…造形は綺麗だな 雪弥:素直じゃねぇか 忍:くだらない意地は張らない(一口食べる) 雪弥:どう…だ? 忍:ソースの味が変わってる 雪弥:なんで分かるんだよ?! 忍:やっぱりか 雪弥:…もしかしてカマかけた? 忍:違う。前のやつより酸味が強くなってる…なにかベリー以外入ってるな(もう一口食べる) 雪弥:当ててみろよ 忍:…ライム 雪弥:はぁ?! 忍:違うか? 雪弥:くそっ… 忍:いい酸味だと思う 雪弥:…… 忍:なんだよ、その顔 雪弥:いや、褒められると思わなかったから 忍:いい技術は認めるのは当たり前じゃないのか? 雪弥:そりゃ…まぁ 忍:…ご馳走様 雪弥:で? 忍:…お前は嫌じゃないのか? 雪弥:何が? 忍:…噂になってる事 雪弥:お前がホモだってやつか 忍:あぁ 雪弥:お前の味覚も噂になってる 忍:…… 雪弥:俺が組みたいと思ったのはそっちだ。ホモだろうがロリコンだろうが、おっさん趣味だろうが関係ないね 忍:…ホモって言うな 雪弥:じゃあなんて言うんだよ 忍:ゲイ 雪弥:へぇー。ま、それはどうでもいいんだわ。…俺はコンテストで1位を取りたい。食べた全員が感動するケーキを作る。その為にパートナー選びは重要なんだよ 忍:そうか… 雪弥:俺くらい、外見が良かったら襲いたくなっても仕方ねぇだろうしな 忍:アホくさ 雪弥:それに俺、甘いもん苦手なんだよなぁ。だからお前が味見してくれ 忍:はぁ?!じゃあなんでパティシエ目指してんだよ?! 雪弥:女にモテるだろ! 忍:馬鹿じゃねぇの?! 雪弥:誰が馬鹿だ! 忍:お前だ! 雪弥:理由なんてなんでもいいだろ!とにかく…! 雪弥:(手を差し出す)よろしくな、相棒 忍:(渋々握手する)…よろしく : :鍵を開けて室内に入ってくる 忍:くっそ、重い…そら、着いたぞ! 雪弥:んー…あぁ 忍:しっかりしてくれ…なんて俺がこんなこと… 雪弥:(酔っ払っている)ははっ、わりーわりー 忍:飲めないのに無理やり飲むなよ、アル中で死ぬぞ 雪弥:だーいじょーぶだって 忍:大丈夫だって言うなら一人で歩いてくれ…全く 雪弥:(床に転がって泣き始める) : 忍:『コンテスト、俺達は優秀賞だった。だが…最優秀賞ではなかった』 : 忍:…泣くなよ 雪弥:くそっ… 忍:女々しい奴… 雪弥:絶対…負けねぇって、思ったのに…! 忍:(溜息)泣くなって… 雪弥:(泣いている) 忍:…仕方ねぇな… :雪弥に覆い被さってキスをする忍 : 雪弥:んッ… 忍:(数回キス) 雪弥:ちょ、やめ…ん… 忍:(吐息)泣き止んだ? 雪弥:なんで… 忍:泣き止まないからだろ 雪弥:だ、だからって…! 忍:(なにかに気付く)何?キス初めて? 雪弥:んな訳… 忍:キスだけで、感じた? 雪弥:そんな訳ないだろ…! 忍:でもここ(服の上から撫でる) 雪弥:…っ! 忍:反応してる 雪弥:ちょ、なでるな…! 忍:(ズボンの中に手を入れて愛撫する)普通キスだけでこんなにならねーよ 雪弥:(吐息)やめろ、さわるな… 忍:(キスを繰り返す) 雪弥:(キスをしながら身悶える) 忍:襲いたくなっても仕方ないって言ったの…お前だろ? 雪弥:やめ… 忍:(咥える) 雪弥:(反応する)ど、こ、舐めて… 忍:何?舐められたの初めて?女とした事ねーの? 雪弥:喋るな… 忍:(執拗に舐め上げる)なんだ、童貞か 雪弥:うあっ…! 忍:可愛い顔、出来るじゃん 雪弥:ちょ、口離せ… 忍:ん?限界? 雪弥:早く、もう… 忍:出せばいい 雪弥:だから、口離せって… 忍:良いから 雪弥:頼む、お願いだから…! 忍:(強く刺激する) 雪弥:っ… 忍:(飲み下す) 雪弥:は、あ… 忍:気持ちよかった? 雪弥:ば、かやろ… 忍:…一回だけじゃ…足りないみたいだな 雪弥:何言ってんだ、バカ… 忍:だって、ほら…(触る) 雪弥:(反応する) 忍:うじうじ考えられないようにしてやるよ(キスをしながら愛撫する) 雪弥:ひゃ… 忍:何?ここ弱い? 雪弥:(反応する) 忍:こっちも…ほぐしてやる(執拗に愛撫する) 雪弥:?! 忍:ここじゃ、痛いか(抱き上げてベッドに運ぶ) 雪弥:わっ 忍:暴れるな、落とす 雪弥:馬鹿…ぶっ!(ベッドに落とされる) 忍:童貞卒業の前に、処女喪失だな 雪弥:へ…何… 忍:力抜けよ、辛いから 雪弥:(声にならない) 忍:だから、力抜けって 雪弥:待って…抜いて、くる、しい… 忍:…苦しいだけなら…すぐに良くなる(ゆっくり動かす) 雪弥:(吐息と嬌声が盛れる) 忍:(激しくしながら)お前だけが悔しいなんて思うなよ、俺だって悔しかったんだ 雪弥:し、のぶ… 忍:力不足だった、データも不足してた、リサーチも足りなかった 雪弥:(悲鳴に近い声が上がる) 忍:お前となら、最高の品が絶対作れるって…くっ…! 雪弥:も無理、ダメ…! :ぐったりとベッドに倒れ込む二人 忍:(息が上がっている)…悪い 雪弥:(息が上がっている)なん、だ…さっきの… 忍:セックス知らねぇの? 雪弥:そういうこと、聞いてんじゃねぇよ 忍:じゃあ何? 雪弥:俺となら、最高の品が作れるって… 忍:…あぁ 忍:お前のセンスは一級品だよ。でも俺にはお前みたいなセンスは無い、自分で分かってる。でも味覚には自信がある 雪弥:それは…認める 忍:…だから、お前と一緒ならって思ったんだよ 雪弥:…… 忍:なぁ 雪弥:なに 忍:パティシエ目指してる理由、話せよ。女にモテたいとか嘘だろ 雪弥:その前に… 忍:ん? 雪弥:シャワー、浴びさせてくれ 忍:手助けしてやろうか? 雪弥:いらねぇよ!…っと 忍:(ふらつく雪弥を支える)俺のせいだから。連れてってやる 雪弥:力入らね… 忍:気持ちよかったろ? 雪弥:それはっ…! 忍:別に弱み握ったとかじゃねぇから…犬に噛まれたと思って忘れろ 雪弥:は?! 忍:酔った勢いと、通常のメンタルじゃなかったと思えば忘れられるだろ 雪弥:お前はそれでいいのかよ?! 忍:…忘れたくない? 雪弥:そういうんじゃ…! 忍:ほら、シャワー掛けるぞ : :水音が響く 忍:物欲しそうな顔すんなよ 雪弥:してねぇし! 忍:中まで…洗わねぇとな 雪弥:自分でやる…! 忍:遠慮すんな。相棒だろ? 雪弥:そういう意味じゃねえよっ!! :間 雪弥:…昔、ケーキに救われた 忍:ん? 雪弥:俺ん家、親仲悪くて。でも誕生日の時だけはケーキ一緒に食ってた 忍:…うん 雪弥:その時だけは…笑って話出来てたんだ。 忍:そうか… 雪弥:だから、そうやって食べて笑顔になれるケーキ、作りたいって… 忍:なるほどな 雪弥:…バカみたいって思うか? 忍:思わない。お前なら、できるよ 雪弥:…なんか、気持ちわり 忍:お前ももう少し可愛げあった方がいい。さっきみたいな 雪弥:うるせぇ、バカ : :現在 : 雪弥:出来た…!オランジェット風、完成 忍:(出来上がった試作品を眺める)…案外見た目がシンプルだな 雪弥:あんまり飾り付けしない方向のが、作りたかったんだよ 忍:なんで? 雪弥:結構デコレーションには力入れて来たけど…ショートケーキもそうなんだけど、シンプルなのって影になっちまうというか… 忍:地味に見える? 雪弥:あぁ 忍:シンプルだからこそ誤魔化せないのにな 雪弥:他のを誤魔化してる、みたいに言うんじゃねぇよ 忍:言ってねぇよ(一口食べる) 雪弥:どうだ? 忍:…… 雪弥:何とか言えよ 忍:…(一筋涙が流れる) 雪弥:な、どした?! 忍:あ、すまん(慌てて拭う) 雪弥:な、なんだよー、泣くほど美味かったのかよ〜!ははっ… 忍:…あぁ、そうかもな 雪弥:…否定しろよ、馬鹿 忍:(咳払い)これでもいい味だと思うけど、少しマーマレードが強いな。少し減らすか、チョコをもう少し濃厚にするかした方がいいと思う。中のムースは美味い 雪弥:そか… 忍:…… 雪弥:なんかあったか? 忍:いや、別に 雪弥:何も無い奴がケーキ食って泣くか? 忍:ここに居る 雪弥:…俺にも、言えないことか? 忍:…… 雪弥:俺とお前って相棒っていうか、ライバルっていうか…でもそれ以前に…恋人、じゃない訳…? 忍:雪弥には関係ない事だ 雪弥:関係ないって… 忍:ほら、片付けるぞ 雪弥:忍! 忍:(無言で片付け始める) 雪弥:…なんなんだよっ! :雪弥はエプロンを投げつけて出ていってしまう 忍:…片付け、丸投げかよ、ったく… : 忍:雅臣(まさおみ)さん… : 雪弥:『しばらく頭を冷やして戻って来た時にはもう片付けは全部済んでいて、施錠ができないと文句を言う忍はいつも通りだった。 雪弥:普段クールな男が見せた涙が、脳裏に焼き付いて離れない自分に見せたことがない顔は、一体誰に向けたものだったのだろう』 : :後日 忍:なぁ、明後日の15日、早く帰っていいか? 雪弥:ん?明後日…あー、多分平気。何時? 忍:出来れば3時頃には 雪弥:まぁどうにかなんだろ。何? 忍:ちょっと… 雪弥:…まぁいっか、一応カレンダー書いといてくれ 忍:分かった : 雪弥:『試作品を作った日から、ぎこちない… 雪弥:忍は腹が立つくらいにいつも通りで、自然にしようとしてる自分が馬鹿らしくなってくる』 : 雪弥:あーぁ、今日は客足悪いなぁ 忍:雨だからな…まぁそれを見込んで品数も減らしてる訳なん…いらっしゃいませ : 忍:少々お待ちくださいね : 忍:雪弥 雪弥:んー? 忍:あちらのお客様がお前と話をしたいってさ 雪弥:…許可したのかよ 忍:どうせ暇だろ?こういうのもサービスなんだから文句言うな 雪弥:はーぁ…仕方ないか… 忍:ほら、ちゃんと笑顔作っていけよ 雪弥:わかってるよ : 雪弥:お待たせ致しました : :間 : 雪弥:はぁ 忍:おかえり 雪弥:いつも応援してますーって手紙もらった 忍:手紙を渡したかったのは1人か。後のふたりは付き添いって感じだったな 雪弥:専門の時なら、女子高生にきゃあきゃあ言われたら嬉しかったんだけどなぁ 忍:今は嬉しくないのか? 雪弥:嬉しくないわけじゃねぇけど… 忍:良かったじゃないか。女の子にモテたいからって言ってたんだし 雪弥:あれはー…まぁ、うん 忍:よく来るおば様方にも、可愛いって言われるじゃないか 雪弥:それはモテとは違うだろ! 忍:贅沢なやつだな 雪弥:うるせー : 雪弥:あー、そういえばさ。お前がパティシエ目指してた理由聞いてないよな! 忍:なんだ、いきなり 雪弥:いや、ふっと思い出したんだよ。俺聞かなかったなーって 忍:そんな話したことあったっけ? 雪弥:あったよ! 忍:いつ? 雪弥:いつって…それは… 忍:(ニヤリと笑う) 雪弥:お前、覚えてるだろ… 忍:バレたか 雪弥:ほんっと、性格悪いな! 忍:(笑っている) 雪弥:ほら!言えよ、お前がパティシエ目指してた理由! 忍:聞いて面白い話じゃないと思うが? 雪弥:面白いかどうかは俺が決めるんだよ! 忍:分かった分かった : 忍:つまらない話だ、昔好きだった人がパティシエだった。それだけ : 雪弥:へ、ぇ… 忍:5歳上の、家庭教師に来てくれてる人だった。温かみのあるケーキを作る人で…自分もパティシエになったら一緒に働けるかもしれないって思ったんだ 雪弥:…… 忍:もうその頃には味覚の鋭さは自覚があったから、一緒に働いてこの味覚が助けになればなって、思ってたんだよ 雪弥:…… 忍:それだけの話。つまらないだろ? 雪弥:…そっか… 忍:まぁ、その人の助けになる前に、お前とパートナー組む羽目になったけどな : 雪弥:『そう言って笑う忍に、無性に腹が立った。 雪弥:なんで笑ってんだ…まだ、お前は…』 : 雪弥:何笑ってんだよ… 忍:雪弥? 雪弥:なんで笑ってんだよ 忍:どうした? 雪弥:まだ、その人のこと好きなんだろ…?! 忍:…… 雪弥:今ここにいるのはなんでだ?本当はその人と一緒に居たいんだろ? 忍:それは… 雪弥:俺があの時声掛けなかったら…お前のその才能はその人だけのものだったのにな。悪いことしたな 忍:何怒ってるんだ 雪弥:怒ってない 忍:いや、怒ってるだろ 雪弥:うるさい。なんでその人の所に行かねぇんだよ。あなたの為にパティシエになりましたーって行けばいいじゃねぇか 忍:行かない 雪弥:どうして?一緒に働きたかったんだろ?俺に遠慮なんかいらないから行けよ 忍:おい、話を聞け(腕を強く掴む) 雪弥:…誰よりも、その人の力になりたかったんだろ… 忍:そうだ 雪弥:じゃあ、なんでここで俺と店やってんだよ! 忍:もう死んだ : 忍:死んだんだ 雪弥:……は? 忍:俺が専門入りたての頃だ。通勤中、バイクの事故で死んだ 雪弥:…… 忍:誰よりもその人…雅臣さんの力になりたかったよ。でも叶わなかった 雪弥:…ごめん 忍:俺も先にちゃんと言えばよかった、すまん 雪弥:…ごめん 忍:謝らなくていい : 忍:…正直、訃報聞いた時に学校、辞めようかって思った。パティシエになる意味が無くなったって思った。でも… 忍:あの人が昔、才能あるよって笑ってくれたから…諦めなかった 雪弥:そか… 忍:あの人みたいなケーキ作れたらって思ってたけど…ダメだった。正直…どんなものが作りたいかとか、目標もブレブレだったんだ。そんな時に…お前が声掛けてきたんだ 雪弥:コンクール… 忍:あぁ。最初はなんだコイツって思ったけど…ケーキに向き合う姿勢は本物だったから…楽しかった。喧嘩するのも含めて、楽しかったよ 雪弥:結構ガチで喧嘩してたのにな…(笑う) 忍:だから、お前となら…って思ったんだ。だからお前の助けになりたいって思った 雪弥:…うん 忍:…満足したか? 雪弥:…ごめん 忍:…オランジェットは、雅臣さんが好きだったんだ。あの人が死んで一度も口にしてない 雪弥:もしかして、それで… 忍:…あの試作品、あの人が作るオランジェットによく似てた。少し強めのオレンジに、ほろ苦いチョコの… 雪弥:…あれ、やめた方がいいか? 忍:どうして? 雪弥:思い、出すだろ… 忍:…いい。もう思い出だから。それに雪弥が作るものは雪弥のものだ 雪弥:そっか… : 忍:…明後日 雪弥:ん? 忍:早めに店閉めて、一緒に行くか? 雪弥:どこに… 忍:墓参り。命日なんだ 雪弥:…なんで俺まで… 忍:俺のパートナーって紹介するだけ 雪弥:紹介って… 忍:報告は…してたから 雪弥:してたのかよ… 忍:行きたくないなら無理強いはしない 雪弥:…行きたくないとは、言ってない… 忍:そっか : :後日 :砂利をふむ音 忍:ここだ :持ってきた花を手向ける 雪弥:ん?なんだそれ? 忍:今朝焼いてきた。カリソンだよ 雪弥:…お前が作ったの見るの、久しぶりかもな 忍:そう…だな :墓前にカリソンの入った箱を置く 忍:雅臣さん、今年も来たよ : 雪弥:『まるでそこに本人が居るように… 雪弥:声をかける忍の声は、滅多に聞かない優しい声色だった』 : 忍:今日はさ、俺のパートナー紹介したくて連れてきた 雪弥:…えと…なんか言うべき? 忍:(笑う)上杉雪弥、最高のパートナーだと思う 雪弥:…… 忍:で、今まで言わなかったけど…恋人でもあるんだ 雪弥:その報告、いるか? 忍:良いんだよ : 忍:雅臣さんが居なくなって、ずっと避けてきたオランジェット…やっと食べれた。雪弥のおかげで。…すごく、懐かしい味だったよ : 忍:これからも…ずっと雪弥の助けになっていこうと思うから、見守ってて : 忍:よし… 雪弥:もういいのか? 忍:あぁ、帰ろう : 雪弥:なぁ 忍:ん? 雪弥:また…ケーキ作れよ 忍:は?なんで? 雪弥:補助ばっかりもつまんねーだろ 忍:良いんだよ。お前の助けになっていくって決めたんだから 雪弥:才能あるって言われたんだろ? 忍:味だけな。センスは凡人だ 雪弥:つまんねーの 忍:そういえば…もしかして嫉妬してたのか? 雪弥:…… 忍:分かった分かった 雪弥:何がだよ 忍:(腕を取って抱き寄せる) 雪弥:ちょ…!誰かに見られたら…! 忍:誰も居ない 雪弥:…でも 忍:良いから(キス) 雪弥:(逃げようとするが塞がれる) 忍:(近くで)嫉妬なんかしなくていい 雪弥:…してない 忍:俺が、お前の助けになるって決めたんだ。せいぜい、利用しろよ 雪弥:あっそ…じゃあ、そうさせて、もらう… 忍:そうしろ 雪弥:~ってか!さっきから近い!…見られる 忍:だから、誰もいないって 雪弥:…墓、あるじゃん… 忍:(吹き出す) 雪弥:な、なんだよ!まさお前だってさっき… 忍:くくく…あぁ、そうだったな、悪い悪い : 忍:じゃあ、続きは帰ってからな : : :END

雪弥:ガトーショコラ、上がった 忍:分かった。シュークリーム、用意できるか? 雪弥:出来る 忍:ダブルがもう少ない 雪弥:分かった : 雪弥:『パティスリー「カリソン」。洋菓子を中心に扱うケーキ屋。そこが俺の城 雪弥:パティシエの俺と、補助と主に接客を担当しているのが藤森忍。ここは、二人の城』 : 忍:『雪弥が作るケーキは繊細で宝石のようなものが多い。 忍:そして本人もお綺麗な顔をしているせいか、自然と女性客が集まり、有難いことにオープンして二年。集客に悩んだことは無い』 : 忍:ご予約の方ですね、ありがとうございます。直ぐにご用意致しますので少々お待ちください 忍:(厨房)雪弥、内藤さんがケーキ取りに来られたぞ 雪弥:右の一番上、チョコのヤツな 忍:分かった 雪弥:プレート、モナちゃんって書いてるやつ 忍:…これだな、確認 雪弥:ん、合ってる 忍:…おまたせ致しました。チョコのバースデーケーキ、こちらでお間違いございませんか? 忍:…ありがとうございます。ロウソクは六本とお伺いしておりましたがよろしかったでしょうか? : :閉店後 忍:お疲れ、店頭閉めたぞ 雪弥:あぁ、お疲れ。今日の売れ残りは? 忍:ショートケーキとプリンアラモード 雪弥:最近この二つ、なんか動き悪いんだよなぁ…味変えるかな 忍:定番ではあるんだけどな…(クリームをすくって舐める) 雪弥:…問題は? 忍:自分で確認が先(指ですくったクリームを突き出す) 雪弥:…(躊躇いながらも指を舐める) 忍:問題は無いと思うが 雪弥:じゃあなんで舐めさせたんだよ 忍:嫌がらせ 雪弥:は? 忍:俺が居なくなったらどうするんだ 雪弥:味の調整くらいできる! 忍:なら尚更、毎回確認しろよ 雪弥:分かってる… 忍:…新作のオペラは男性にも人気ある 雪弥:お、マジか 忍:あぁ 雪弥:少し苦味強めにしてるから、食いやすいのかもな 忍:そうかもな。さ、片付けるか 雪弥:…… 忍:雪弥? 雪弥:ちょっと試作、作るわ 忍:今からか? 雪弥:あぁ 忍:方向性は…決まってるんだな 雪弥:オランジェット、イメージしたやつがいいかなって 忍:オランジェット?なんで? 雪弥:マーマレードのジャムはある。それを濃いめのチョコに混ぜてコートしたら…そうなるかなって 忍:マーマレードは好き嫌いが分かれないか? 雪弥:そうかもしれないけど、安定さた人気はあると思う。ある意味定番だし。オランジェットもな 忍:オランジェット…か 雪弥:何?苦手か? 忍:あ、いや。…土台、どうする? 雪弥:オレンジ風味のムース、かな 忍:あぁ、いいな(ふっと笑う) 雪弥:ん?何? 忍:いや、ふとコンクールの時のこと、思い出した 雪弥:大喧嘩したな、そういや 忍:あれはお前が全然譲らなかったからだろ 雪弥:俺の作った味にケチばっかりつけてたからだろ 忍:あの時のこと思ったら…随分穏やかになったなって 雪弥:お互い様だろ 忍:俺は変わらない 雪弥:嘘つけ 雪弥:すぐ取り掛かる。イメージが逃げる 忍:分かった、じゃあ… 雪弥:寝るなよ 忍:寝ない、起きて待ってる : 忍:『思いついた時には、もう頭の中に道筋は出来ていて…。 忍:昔から無駄のない洗練された動きは、更にその磨きを増している 忍:真剣な表情と真っ直ぐな視線…この時ばかりは、どれだけ熱こもった視線を向けても雪弥には届かない。 忍:甘いものが得意では無いこのパティシエが作り出すケーキの一つ一つが、多くの人を魅了する 忍:少し妬ける、と言ったらこいつはどんな顔をするだろうか』 : 忍:俺達の出会いは製菓の専門学校で、正直出会い方は最悪だった : :専門学校時代 雪弥:おいお前 忍:……(1度振り向くがまた歩き出す) 雪弥:おいっ!ちょっと待て! 忍:…誰 雪弥:ん?俺の事知らない奴がいるのか 忍:ここにいる 雪弥:可愛くねーな 忍:男に可愛いって言われて、喜ぶヤツいるの? 雪弥:藤森忍、お前俺と組めよ 忍:断る 雪弥:即答かよ! 忍:なんでお前と組まなきゃいけないんだ 雪弥:次の製菓コンクール、二人一組なのは知ってるだろ 忍:それがどうした 雪弥:出ないのか? 忍:…出るつもり 雪弥:パートナーは? 忍:まだ決まってないけど… 雪弥:なら俺と組めよ 忍:偉そうな奴と組むのは嫌だ 雪弥:俺のどこが偉そうなんだよ! 忍:…自覚ないのか 雪弥:パートナーのアテはあるのか? 忍:…… 雪弥:だろうな 忍:なんでそんな事… 雪弥:お前、ホモなんだろ? 忍:(露骨に嫌な顔をする) 雪弥:噂になってる 忍:…だから何 雪弥:他の奴はお前と組むの、嫌がってるの位知ってるだろ。どうせ友達もいないだろ 忍:大きなお世話だ 雪弥:そんな可哀想なお前に救いの手を差し伸べてやってるんたぞ?何が不満なんだよ 忍:実力のないやつと組むのはお断りだ 雪弥:実力が無いだと?! 忍:口先だけでかくても意味が無い 雪弥:…俺の名前だけじゃなく実力も知らないとはな…! 忍:上杉雪弥 雪弥:なんだ、知ってるんじゃねーか 忍:センスはあるけど腕は無いな 雪弥:なんだと? 忍:お前が作るデコレーションは確かに綺麗だと思う。でも味が足りない 雪弥:もう一回言って見ろ 忍:何回でも言ってやる 雪弥:食ったこともねぇのに…! 忍:ある 雪弥:…は? 忍:食ったことある 雪弥:…いつ 忍:先月の課題のタルト。一口食った 雪弥:一口かよ 忍:バランスが悪い 雪弥:なんだと?! 忍:ベリーのソースが甘すぎる。ソースを甘くするならクリームの甘さを抑えないとくどくなる。果物の味も見たのか? 雪弥:…… 忍:実力が無い奴とは組まない 雪弥:もう一回だ!! 忍:…は? 雪弥:今からもう一回作ってやる!それで納得したら俺と組めよ?! 忍:…僕にメリットがないんだけど 雪弥:コンクールのパートナーが出来るだろ 忍:(溜息)…なんで付き合わなきゃいけないんだ 雪弥:…自信作だったんだよ 忍:…… 雪弥:採点も申し分無かった、優良貰ったんだ。自分でもいいのができたと思った 忍:…… 雪弥:その一品にお前は今、ケチをつけた 忍:…言うんじゃなかった 雪弥:今から俺んち来いよ。美味いって言わせてやる 忍:…分かった。材料はあるのか? 雪弥:あぁ 忍:案内しろ 雪弥:約束しろ、美味いって思ったら俺と組め 忍:分かった。その代わり不味かったら今後一切この話はナシだ 雪弥:…良いだろう : :雪弥の部屋 雪弥:よし…出来た。おい、起きろよ 忍:ん…何? 雪弥:出来た 忍:あぁ… 雪弥:普通知らん顔して寝るか? 忍:ボケっと一時間以上待てって? 雪弥:作ってる所見るんだと思ったら、いきなり出来たら起こせって言うなんてな 忍:手際の良さは知ってる。見る必要ないだろ 雪弥:…ふぅん 忍:何? 雪弥:いや、別に。それはいいんだよ、こっち。さぁ食え 忍:(皿を持ち上げて眺める)…造形は綺麗だな 雪弥:素直じゃねぇか 忍:くだらない意地は張らない(一口食べる) 雪弥:どう…だ? 忍:ソースの味が変わってる 雪弥:なんで分かるんだよ?! 忍:やっぱりか 雪弥:…もしかしてカマかけた? 忍:違う。前のやつより酸味が強くなってる…なにかベリー以外入ってるな(もう一口食べる) 雪弥:当ててみろよ 忍:…ライム 雪弥:はぁ?! 忍:違うか? 雪弥:くそっ… 忍:いい酸味だと思う 雪弥:…… 忍:なんだよ、その顔 雪弥:いや、褒められると思わなかったから 忍:いい技術は認めるのは当たり前じゃないのか? 雪弥:そりゃ…まぁ 忍:…ご馳走様 雪弥:で? 忍:…お前は嫌じゃないのか? 雪弥:何が? 忍:…噂になってる事 雪弥:お前がホモだってやつか 忍:あぁ 雪弥:お前の味覚も噂になってる 忍:…… 雪弥:俺が組みたいと思ったのはそっちだ。ホモだろうがロリコンだろうが、おっさん趣味だろうが関係ないね 忍:…ホモって言うな 雪弥:じゃあなんて言うんだよ 忍:ゲイ 雪弥:へぇー。ま、それはどうでもいいんだわ。…俺はコンテストで1位を取りたい。食べた全員が感動するケーキを作る。その為にパートナー選びは重要なんだよ 忍:そうか… 雪弥:俺くらい、外見が良かったら襲いたくなっても仕方ねぇだろうしな 忍:アホくさ 雪弥:それに俺、甘いもん苦手なんだよなぁ。だからお前が味見してくれ 忍:はぁ?!じゃあなんでパティシエ目指してんだよ?! 雪弥:女にモテるだろ! 忍:馬鹿じゃねぇの?! 雪弥:誰が馬鹿だ! 忍:お前だ! 雪弥:理由なんてなんでもいいだろ!とにかく…! 雪弥:(手を差し出す)よろしくな、相棒 忍:(渋々握手する)…よろしく : :鍵を開けて室内に入ってくる 忍:くっそ、重い…そら、着いたぞ! 雪弥:んー…あぁ 忍:しっかりしてくれ…なんて俺がこんなこと… 雪弥:(酔っ払っている)ははっ、わりーわりー 忍:飲めないのに無理やり飲むなよ、アル中で死ぬぞ 雪弥:だーいじょーぶだって 忍:大丈夫だって言うなら一人で歩いてくれ…全く 雪弥:(床に転がって泣き始める) : 忍:『コンテスト、俺達は優秀賞だった。だが…最優秀賞ではなかった』 : 忍:…泣くなよ 雪弥:くそっ… 忍:女々しい奴… 雪弥:絶対…負けねぇって、思ったのに…! 忍:(溜息)泣くなって… 雪弥:(泣いている) 忍:…仕方ねぇな… :雪弥に覆い被さってキスをする忍 : 雪弥:んッ… 忍:(数回キス) 雪弥:ちょ、やめ…ん… 忍:(吐息)泣き止んだ? 雪弥:なんで… 忍:泣き止まないからだろ 雪弥:だ、だからって…! 忍:(なにかに気付く)何?キス初めて? 雪弥:んな訳… 忍:キスだけで、感じた? 雪弥:そんな訳ないだろ…! 忍:でもここ(服の上から撫でる) 雪弥:…っ! 忍:反応してる 雪弥:ちょ、なでるな…! 忍:(ズボンの中に手を入れて愛撫する)普通キスだけでこんなにならねーよ 雪弥:(吐息)やめろ、さわるな… 忍:(キスを繰り返す) 雪弥:(キスをしながら身悶える) 忍:襲いたくなっても仕方ないって言ったの…お前だろ? 雪弥:やめ… 忍:(咥える) 雪弥:(反応する)ど、こ、舐めて… 忍:何?舐められたの初めて?女とした事ねーの? 雪弥:喋るな… 忍:(執拗に舐め上げる)なんだ、童貞か 雪弥:うあっ…! 忍:可愛い顔、出来るじゃん 雪弥:ちょ、口離せ… 忍:ん?限界? 雪弥:早く、もう… 忍:出せばいい 雪弥:だから、口離せって… 忍:良いから 雪弥:頼む、お願いだから…! 忍:(強く刺激する) 雪弥:っ… 忍:(飲み下す) 雪弥:は、あ… 忍:気持ちよかった? 雪弥:ば、かやろ… 忍:…一回だけじゃ…足りないみたいだな 雪弥:何言ってんだ、バカ… 忍:だって、ほら…(触る) 雪弥:(反応する) 忍:うじうじ考えられないようにしてやるよ(キスをしながら愛撫する) 雪弥:ひゃ… 忍:何?ここ弱い? 雪弥:(反応する) 忍:こっちも…ほぐしてやる(執拗に愛撫する) 雪弥:?! 忍:ここじゃ、痛いか(抱き上げてベッドに運ぶ) 雪弥:わっ 忍:暴れるな、落とす 雪弥:馬鹿…ぶっ!(ベッドに落とされる) 忍:童貞卒業の前に、処女喪失だな 雪弥:へ…何… 忍:力抜けよ、辛いから 雪弥:(声にならない) 忍:だから、力抜けって 雪弥:待って…抜いて、くる、しい… 忍:…苦しいだけなら…すぐに良くなる(ゆっくり動かす) 雪弥:(吐息と嬌声が盛れる) 忍:(激しくしながら)お前だけが悔しいなんて思うなよ、俺だって悔しかったんだ 雪弥:し、のぶ… 忍:力不足だった、データも不足してた、リサーチも足りなかった 雪弥:(悲鳴に近い声が上がる) 忍:お前となら、最高の品が絶対作れるって…くっ…! 雪弥:も無理、ダメ…! :ぐったりとベッドに倒れ込む二人 忍:(息が上がっている)…悪い 雪弥:(息が上がっている)なん、だ…さっきの… 忍:セックス知らねぇの? 雪弥:そういうこと、聞いてんじゃねぇよ 忍:じゃあ何? 雪弥:俺となら、最高の品が作れるって… 忍:…あぁ 忍:お前のセンスは一級品だよ。でも俺にはお前みたいなセンスは無い、自分で分かってる。でも味覚には自信がある 雪弥:それは…認める 忍:…だから、お前と一緒ならって思ったんだよ 雪弥:…… 忍:なぁ 雪弥:なに 忍:パティシエ目指してる理由、話せよ。女にモテたいとか嘘だろ 雪弥:その前に… 忍:ん? 雪弥:シャワー、浴びさせてくれ 忍:手助けしてやろうか? 雪弥:いらねぇよ!…っと 忍:(ふらつく雪弥を支える)俺のせいだから。連れてってやる 雪弥:力入らね… 忍:気持ちよかったろ? 雪弥:それはっ…! 忍:別に弱み握ったとかじゃねぇから…犬に噛まれたと思って忘れろ 雪弥:は?! 忍:酔った勢いと、通常のメンタルじゃなかったと思えば忘れられるだろ 雪弥:お前はそれでいいのかよ?! 忍:…忘れたくない? 雪弥:そういうんじゃ…! 忍:ほら、シャワー掛けるぞ : :水音が響く 忍:物欲しそうな顔すんなよ 雪弥:してねぇし! 忍:中まで…洗わねぇとな 雪弥:自分でやる…! 忍:遠慮すんな。相棒だろ? 雪弥:そういう意味じゃねえよっ!! :間 雪弥:…昔、ケーキに救われた 忍:ん? 雪弥:俺ん家、親仲悪くて。でも誕生日の時だけはケーキ一緒に食ってた 忍:…うん 雪弥:その時だけは…笑って話出来てたんだ。 忍:そうか… 雪弥:だから、そうやって食べて笑顔になれるケーキ、作りたいって… 忍:なるほどな 雪弥:…バカみたいって思うか? 忍:思わない。お前なら、できるよ 雪弥:…なんか、気持ちわり 忍:お前ももう少し可愛げあった方がいい。さっきみたいな 雪弥:うるせぇ、バカ : :現在 : 雪弥:出来た…!オランジェット風、完成 忍:(出来上がった試作品を眺める)…案外見た目がシンプルだな 雪弥:あんまり飾り付けしない方向のが、作りたかったんだよ 忍:なんで? 雪弥:結構デコレーションには力入れて来たけど…ショートケーキもそうなんだけど、シンプルなのって影になっちまうというか… 忍:地味に見える? 雪弥:あぁ 忍:シンプルだからこそ誤魔化せないのにな 雪弥:他のを誤魔化してる、みたいに言うんじゃねぇよ 忍:言ってねぇよ(一口食べる) 雪弥:どうだ? 忍:…… 雪弥:何とか言えよ 忍:…(一筋涙が流れる) 雪弥:な、どした?! 忍:あ、すまん(慌てて拭う) 雪弥:な、なんだよー、泣くほど美味かったのかよ〜!ははっ… 忍:…あぁ、そうかもな 雪弥:…否定しろよ、馬鹿 忍:(咳払い)これでもいい味だと思うけど、少しマーマレードが強いな。少し減らすか、チョコをもう少し濃厚にするかした方がいいと思う。中のムースは美味い 雪弥:そか… 忍:…… 雪弥:なんかあったか? 忍:いや、別に 雪弥:何も無い奴がケーキ食って泣くか? 忍:ここに居る 雪弥:…俺にも、言えないことか? 忍:…… 雪弥:俺とお前って相棒っていうか、ライバルっていうか…でもそれ以前に…恋人、じゃない訳…? 忍:雪弥には関係ない事だ 雪弥:関係ないって… 忍:ほら、片付けるぞ 雪弥:忍! 忍:(無言で片付け始める) 雪弥:…なんなんだよっ! :雪弥はエプロンを投げつけて出ていってしまう 忍:…片付け、丸投げかよ、ったく… : 忍:雅臣(まさおみ)さん… : 雪弥:『しばらく頭を冷やして戻って来た時にはもう片付けは全部済んでいて、施錠ができないと文句を言う忍はいつも通りだった。 雪弥:普段クールな男が見せた涙が、脳裏に焼き付いて離れない自分に見せたことがない顔は、一体誰に向けたものだったのだろう』 : :後日 忍:なぁ、明後日の15日、早く帰っていいか? 雪弥:ん?明後日…あー、多分平気。何時? 忍:出来れば3時頃には 雪弥:まぁどうにかなんだろ。何? 忍:ちょっと… 雪弥:…まぁいっか、一応カレンダー書いといてくれ 忍:分かった : 雪弥:『試作品を作った日から、ぎこちない… 雪弥:忍は腹が立つくらいにいつも通りで、自然にしようとしてる自分が馬鹿らしくなってくる』 : 雪弥:あーぁ、今日は客足悪いなぁ 忍:雨だからな…まぁそれを見込んで品数も減らしてる訳なん…いらっしゃいませ : 忍:少々お待ちくださいね : 忍:雪弥 雪弥:んー? 忍:あちらのお客様がお前と話をしたいってさ 雪弥:…許可したのかよ 忍:どうせ暇だろ?こういうのもサービスなんだから文句言うな 雪弥:はーぁ…仕方ないか… 忍:ほら、ちゃんと笑顔作っていけよ 雪弥:わかってるよ : 雪弥:お待たせ致しました : :間 : 雪弥:はぁ 忍:おかえり 雪弥:いつも応援してますーって手紙もらった 忍:手紙を渡したかったのは1人か。後のふたりは付き添いって感じだったな 雪弥:専門の時なら、女子高生にきゃあきゃあ言われたら嬉しかったんだけどなぁ 忍:今は嬉しくないのか? 雪弥:嬉しくないわけじゃねぇけど… 忍:良かったじゃないか。女の子にモテたいからって言ってたんだし 雪弥:あれはー…まぁ、うん 忍:よく来るおば様方にも、可愛いって言われるじゃないか 雪弥:それはモテとは違うだろ! 忍:贅沢なやつだな 雪弥:うるせー : 雪弥:あー、そういえばさ。お前がパティシエ目指してた理由聞いてないよな! 忍:なんだ、いきなり 雪弥:いや、ふっと思い出したんだよ。俺聞かなかったなーって 忍:そんな話したことあったっけ? 雪弥:あったよ! 忍:いつ? 雪弥:いつって…それは… 忍:(ニヤリと笑う) 雪弥:お前、覚えてるだろ… 忍:バレたか 雪弥:ほんっと、性格悪いな! 忍:(笑っている) 雪弥:ほら!言えよ、お前がパティシエ目指してた理由! 忍:聞いて面白い話じゃないと思うが? 雪弥:面白いかどうかは俺が決めるんだよ! 忍:分かった分かった : 忍:つまらない話だ、昔好きだった人がパティシエだった。それだけ : 雪弥:へ、ぇ… 忍:5歳上の、家庭教師に来てくれてる人だった。温かみのあるケーキを作る人で…自分もパティシエになったら一緒に働けるかもしれないって思ったんだ 雪弥:…… 忍:もうその頃には味覚の鋭さは自覚があったから、一緒に働いてこの味覚が助けになればなって、思ってたんだよ 雪弥:…… 忍:それだけの話。つまらないだろ? 雪弥:…そっか… 忍:まぁ、その人の助けになる前に、お前とパートナー組む羽目になったけどな : 雪弥:『そう言って笑う忍に、無性に腹が立った。 雪弥:なんで笑ってんだ…まだ、お前は…』 : 雪弥:何笑ってんだよ… 忍:雪弥? 雪弥:なんで笑ってんだよ 忍:どうした? 雪弥:まだ、その人のこと好きなんだろ…?! 忍:…… 雪弥:今ここにいるのはなんでだ?本当はその人と一緒に居たいんだろ? 忍:それは… 雪弥:俺があの時声掛けなかったら…お前のその才能はその人だけのものだったのにな。悪いことしたな 忍:何怒ってるんだ 雪弥:怒ってない 忍:いや、怒ってるだろ 雪弥:うるさい。なんでその人の所に行かねぇんだよ。あなたの為にパティシエになりましたーって行けばいいじゃねぇか 忍:行かない 雪弥:どうして?一緒に働きたかったんだろ?俺に遠慮なんかいらないから行けよ 忍:おい、話を聞け(腕を強く掴む) 雪弥:…誰よりも、その人の力になりたかったんだろ… 忍:そうだ 雪弥:じゃあ、なんでここで俺と店やってんだよ! 忍:もう死んだ : 忍:死んだんだ 雪弥:……は? 忍:俺が専門入りたての頃だ。通勤中、バイクの事故で死んだ 雪弥:…… 忍:誰よりもその人…雅臣さんの力になりたかったよ。でも叶わなかった 雪弥:…ごめん 忍:俺も先にちゃんと言えばよかった、すまん 雪弥:…ごめん 忍:謝らなくていい : 忍:…正直、訃報聞いた時に学校、辞めようかって思った。パティシエになる意味が無くなったって思った。でも… 忍:あの人が昔、才能あるよって笑ってくれたから…諦めなかった 雪弥:そか… 忍:あの人みたいなケーキ作れたらって思ってたけど…ダメだった。正直…どんなものが作りたいかとか、目標もブレブレだったんだ。そんな時に…お前が声掛けてきたんだ 雪弥:コンクール… 忍:あぁ。最初はなんだコイツって思ったけど…ケーキに向き合う姿勢は本物だったから…楽しかった。喧嘩するのも含めて、楽しかったよ 雪弥:結構ガチで喧嘩してたのにな…(笑う) 忍:だから、お前となら…って思ったんだ。だからお前の助けになりたいって思った 雪弥:…うん 忍:…満足したか? 雪弥:…ごめん 忍:…オランジェットは、雅臣さんが好きだったんだ。あの人が死んで一度も口にしてない 雪弥:もしかして、それで… 忍:…あの試作品、あの人が作るオランジェットによく似てた。少し強めのオレンジに、ほろ苦いチョコの… 雪弥:…あれ、やめた方がいいか? 忍:どうして? 雪弥:思い、出すだろ… 忍:…いい。もう思い出だから。それに雪弥が作るものは雪弥のものだ 雪弥:そっか… : 忍:…明後日 雪弥:ん? 忍:早めに店閉めて、一緒に行くか? 雪弥:どこに… 忍:墓参り。命日なんだ 雪弥:…なんで俺まで… 忍:俺のパートナーって紹介するだけ 雪弥:紹介って… 忍:報告は…してたから 雪弥:してたのかよ… 忍:行きたくないなら無理強いはしない 雪弥:…行きたくないとは、言ってない… 忍:そっか : :後日 :砂利をふむ音 忍:ここだ :持ってきた花を手向ける 雪弥:ん?なんだそれ? 忍:今朝焼いてきた。カリソンだよ 雪弥:…お前が作ったの見るの、久しぶりかもな 忍:そう…だな :墓前にカリソンの入った箱を置く 忍:雅臣さん、今年も来たよ : 雪弥:『まるでそこに本人が居るように… 雪弥:声をかける忍の声は、滅多に聞かない優しい声色だった』 : 忍:今日はさ、俺のパートナー紹介したくて連れてきた 雪弥:…えと…なんか言うべき? 忍:(笑う)上杉雪弥、最高のパートナーだと思う 雪弥:…… 忍:で、今まで言わなかったけど…恋人でもあるんだ 雪弥:その報告、いるか? 忍:良いんだよ : 忍:雅臣さんが居なくなって、ずっと避けてきたオランジェット…やっと食べれた。雪弥のおかげで。…すごく、懐かしい味だったよ : 忍:これからも…ずっと雪弥の助けになっていこうと思うから、見守ってて : 忍:よし… 雪弥:もういいのか? 忍:あぁ、帰ろう : 雪弥:なぁ 忍:ん? 雪弥:また…ケーキ作れよ 忍:は?なんで? 雪弥:補助ばっかりもつまんねーだろ 忍:良いんだよ。お前の助けになっていくって決めたんだから 雪弥:才能あるって言われたんだろ? 忍:味だけな。センスは凡人だ 雪弥:つまんねーの 忍:そういえば…もしかして嫉妬してたのか? 雪弥:…… 忍:分かった分かった 雪弥:何がだよ 忍:(腕を取って抱き寄せる) 雪弥:ちょ…!誰かに見られたら…! 忍:誰も居ない 雪弥:…でも 忍:良いから(キス) 雪弥:(逃げようとするが塞がれる) 忍:(近くで)嫉妬なんかしなくていい 雪弥:…してない 忍:俺が、お前の助けになるって決めたんだ。せいぜい、利用しろよ 雪弥:あっそ…じゃあ、そうさせて、もらう… 忍:そうしろ 雪弥:~ってか!さっきから近い!…見られる 忍:だから、誰もいないって 雪弥:…墓、あるじゃん… 忍:(吹き出す) 雪弥:な、なんだよ!まさお前だってさっき… 忍:くくく…あぁ、そうだったな、悪い悪い : 忍:じゃあ、続きは帰ってからな : : :END