台本概要
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タイトル | 泡沫斜陽 BL |
---|---|
作者名 | 橘りょう (@tachibana390) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男2) |
時間 | 50 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
深夜の公園に一人、ブランコに座る青年と、残業帰りにそこを通りかかった男性。 さみしげな瞳の彼を放っておけなくなり… BL作品です(キスシーンあり) 読み手の性別は問いませんが、登場人物の性別変更は不可 作品名、作者名、台本へのリンクの表記をお願いいたします。 余裕があれば後でも構わないのでTwitterなどで教えて下さると嬉しいです、 アーカイブが残っていたら喜んで聴きに行かせていただきます。 331 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ナオ | 男 | 262 | 深夜の公園にいた青年。18歳 |
タクマ | 男 | 265 | 深夜まで働いている社畜。28歳 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
ナオ:助けてくれないなら、初めから救おうとしないでよ
:
タクマ:『泣きそうな顔で笑う、その姿が美しいと思った』
:
タクマ:『泡沫斜陽』(うたかたしゃよう)
:
:
:深夜の公園。
:ブランコに座る少年。
タクマ:おい
ナオ:……なに?
タクマ:ガキがうろついていい時間じゃねーぞ。何時だと思ってんだ
ナオ:…0時半
タクマ:時計読めるなら考えろよ
ナオ:見ず知らずのおっさんに、いきなり説教食らうとは思わなかった
タクマ:誰がおっさんだ、誰が
ナオ:あんた
タクマ:(溜め息)まぁ、お前みたいなガキから見たらおっさんなんだろうけど…いざ言われるとなぁ…
ナオ:さっきから人の事ガキガキって言ってるけど、俺ガキじゃないよ
タクマ:いくつだ
ナオ:18。成人してる
タクマ:あー、そういや成人年齢下がったんだっけ
ナオ:大人だよ
タクマ:まだ高校通ってんだろ?やっぱりガキじゃねぇか
ナオ:(ムッとした顔をする)
タクマ:まぁなんでもいいや、早く帰れよ。こんな時間までうろついてるなんて、親御さん心配すんぞ
ナオ:あんたには関係ないだろ、おっさん
タクマ:おっさんじゃねぇっての!まだ28だ!ったく…生意気だねぇ、最近のお子様は
ナオ:お子様じゃないし、ナオって名前がある!
タクマ:おーそうかいそうかい。さっさと帰れよ、クソガキ
ナオ:……(ブランコに座ったまま動かない)
:
タクマ:(立ち去りかけて足を止める)ナオ
ナオ:?!
タクマ:最近ここら辺、通り魔とか出てんだ。マジで危ないからさっさと帰れよ。初対面とはいえ、少し話した相手が被害者になるのは目覚め悪いんだ。じゃーな
ナオ:…ねぇ待ってよ!
タクマ:ん?
ナオ:名前、教えて
タクマ:…タクマ
ナオ:タクマさん、俺を買わない?
タクマ:…は?
ナオ:だから俺を…
タクマ:(遮って)聞き取れなかったとか、意味がわからなかったとかそうじゃなくて
ナオ:じゃあ何?
タクマ:意味わかって言ってんのか?
ナオ:分かってるよ
タクマ:…馬鹿なこと言ってないで早く帰れ
ナオ:本気だよ
タクマ:…最近のガキはマセてんなぁ
ナオ:だからガキじゃないって
タクマ:ふぅん…(ナオに近付く)
ナオ:慣れてるんだぜ、俺
タクマ:あっそ、なら…
:ナオの頭を掴み、顔を近づける
ナオ:…っ…!………?
タクマ:(すぐ近くで)アホか
ナオ:…ぇ…
タクマ:キスされそうになっただけで、目ェ閉じてビビってる奴が慣れてるって?
ナオ:きゅ、急だったからびっくりしただけだし!
タクマ:ハイハイ、言ってろ。じゃーな
ナオ:あっ…!
タクマ:早く帰れよー
:
ナオ:…ふん
:
:
:別の日
タクマ:…また居た
ナオ:あんた、いつもこんな時間に帰ってんの?
タクマ:(長い溜息)なんで居るんだよ
ナオ:…また会えるかもって思って
タクマ:帰れよ
ナオ:せっかく待ってたのに!
タクマ:待ってろなんて言ってない
ナオ:言われてないけど…待ってたら、ダメだった?
タクマ:この間言っただろ。最近この辺、通り魔出たんだよ。お前みたいなガキなんか標的にされちまうぞ
ナオ:…心配してくれるんだ?
タクマ:目覚め悪くなるのは勘弁して欲しいんだって…
ナオ:(嬉しそうに笑う)
タクマ:ほら、さっさと帰れよ
ナオ:ねぇ、もうちょっと話しようよ
タクマ:俺は疲れてんだ、ガキの相手するだけの余裕無いの
ナオ:ちょっと話するだけじゃん。ね、いいでしょ?
タクマ:ワガママなお子様だなぁ
ナオ:もうガキでもお子様でもなんでもいいよ…
:タクマ、隣のブランコに腰かける
タクマ:…少しの間だけだぞ
ナオ:ありがとう!
タクマ:…場所、変われ
ナオ:え?
タクマ:そっちが風下なんだよ
ナオ:え、意味わかんない
タクマ:タバコ吸うから場所変われって言ってんの
ナオ:(ぽかんとして小さく笑う)
タクマ:ほら、変われって
ナオ:気にしなくていいのに
タクマ:お前が気にしなくても俺が気にする
:2人入れ替わる
タクマ:(タバコを取りだして火をつける)
ナオ:ぶっきらぼうかと思えば律儀だよね
タクマ:そうか?
ナオ:そうだよ。周りのヤツ、誰も気にしないのに
タクマ:悪い大人と付き合ってんじゃねぇだろうな?進路に響くぞ〜
ナオ:どうせ大学とか行かないし、テキトーにどっかで働くよ
タクマ:適当って…世の中、そんなに甘くねえぞ?学歴や資格で天秤に架けられるんだから
ナオ:タクマさんは?
タクマ:ん?
ナオ:こんな時間に…仕事帰りなんだよね?
タクマ:まーな。立派な社畜やらせてもらってるよ
ナオ:立派って(笑う)
タクマ:お前は?こんな時間に外うろついて
ナオ:暇だから
タクマ:ということは、俺はお前の暇つぶしに付き合ってるってことか
ナオ:…なんかそれは語弊がある
タクマ:暇って言ったのそっちだろ
:沈黙が流れる。
:タクマは長く煙を吐き出す
タクマ:親御さん、心配すんぞ
ナオ:心配なんかしないよ
タクマ:…この前も思ったけど、事情がありそうだな
ナオ:……
タクマ:知らん人間相手の方が話しやすかったりするだろ
ナオ:……
タクマ:あー…すまん。踏み込みすぎた
ナオ:(笑う)やっぱり律儀
タクマ:忘れてくれ
:
ナオ:…俺ん家、片親なんだ
タクマ:……
ナオ:夜はさ、誰も居ないから。一人でボケっとしててもつまんないじゃん。だから夜中にね、暇つぶしに散歩
タクマ:そっか…
ナオ:俺が夜中にフラフラ外でてるのなんて、知らないと思うよ。ほとんど顔も合わさないし…メモのやり取りばっかりだから、そろそろ母さんの声忘れそう(軽く笑う)
タクマ:……
ナオ:もっと外って賑やかだと思ってたのに誰も居なくて…やっぱりつまんないなぁって思ってたら…声掛けられた
タクマ:あー…そういう…
ナオ:ははっ。いきなり説教されたのは嫌だったけど…正直嬉しかった、心配してくれた事
タクマ:そうか…
ナオ:まぁ…それでこんな、訳わかんない奴に懐かれたらたまったもんじゃないよね。ごめんなさい
タクマ:なぁ、ナオ
ナオ:名前、覚えててくれたんだ
タクマ:友達と遊んだりはしないのか?
ナオ:全然
タクマ:バイトとか?
ナオ:あー…なんかこれやりたいってのが無くて。素行多少悪くてもいいけど、成績落とすなって言われてるし
タクマ:いや、逆だろ(笑う)
ナオ:俺もそう思う(笑う)
タクマ:…この間、自分の事買わないかって聞いてきたけど…
ナオ:ぁ…
タクマ:慣れてるってのは嘘だろ?
ナオ:うん…
タクマ:(少し怒り気味に)自分を粗末にするのは辞めろ
ナオ:ごめんなさい…
タクマ:…素直だな
ナオ:なんか、タクマさんはちゃんと心配してくれるんだなって思ったから…
タクマ:お前、寂しいのか?
ナオ:どうだろ?…良くわかんないや
タクマ:そうか…
ナオ:遅くまで引き止めてごめんなさい。その…
タクマ:日曜
ナオ:…え?
タクマ:暇?
ナオ:日曜って…今度の?
タクマ:あぁ
ナオ:…暇
タクマ:良かったら、昼間どっか遊びに行くか?
ナオ:え…
タクマ:深夜のこの時間だとな、俺も疲れきってんの。だから
ナオ:……
タクマ:まぁ遠出は無理だけどな。気分転換程度に
ナオ:え、でも…
タクマ:お前次第で。無理に誘ったりしないから、気が向けば
ナオ:でも、でも…!
タクマ:ん?
ナオ:……いいの?
タクマ:少なくとも、こんな真夜中に公園に引き留められるよりかマシだよ
ナオ:ぁ……
タクマ:どうする?
ナオ:…行きたい、です
タクマ:わかった。なら、連絡先
ナオ:え?
タクマ:連絡先交換しないと、待ち合わせとか分からないだろ?
ナオ:あ、そっか…
タクマ:適当にドライブ程度だからな。期待すんなよ
ナオ:十分だよ
:ナオはスマートフォンの画面をタクマに見せる
タクマ:ん、オッケ
ナオ:直前でも…!
タクマ:ん?
ナオ:…やっぱり面倒とかなったら…そう言って
タクマ:それはお互い様な。言っとくけど、俺は男を買う趣味は無いぞ
ナオ:(小さく笑う)うん、分かってる。…あの…
タクマ:どした?
ナオ:時々…連絡してもいい?
タクマ:仕事中は返信できないけど、それでいいなら
ナオ:…へへっ、良かった
タクマ:ほれ、俺も帰るから。ナオも大人しく帰れ
ナオ:うん。じゃあ、俺こっちだから
タクマ:気を付けてな
ナオ:ありがと!(走り去る)
:
タクマ:(見送って溜息)…らしくねぇなぁ。仏心なんか出してさ…
タクマ:野良猫に餌やってその場しのぎ…同じだな。家があるだけまだマシって事か
:
タクマ:『縋るような目が綺麗だと思った。ただそれだけだったんだ。たったそれだけの理由で手を差し伸べてしまった。どうにかしてやれるなんて、思ってもないのに』
:
:日曜
タクマ:おぉーい!こっちだ、こっち
ナオ:(ぽかんとしている)
タクマ:ん?どした?
ナオ:…眼鏡、かけてる
タクマ:あぁ、運転の時だけな。似合うか?
ナオ:…かっこいい…
タクマ:(吹き出す)あ、あぁ、そうかい…
ナオ:あっ!ごめん、変なこと言った!
タクマ:(照れている)いや、いいけどさ
ナオ:スーツ姿しか見てないから、髪型とか服装とか…やっぱり新鮮
タクマ:まぁ、社会人になるとそんなもんだ。どこ行きたい?昼飯食ったか?
ナオ:…休みの日、ほとんど飯食わないから
タクマ:は?だからそんなヒョロい体なんじゃねぇか。途中どっかで買うか…
ナオ:いいよ!金持ってないし…
タクマ:アホ。高校生に金出させるかよ。…ファストフード、苦手か?
ナオ:ううん、でも…
タクマ:良いから。年上に甘えとけ
ナオ:…ホントにいいの?
タクマ:いいって。何?最初は随分生意気で可愛げなかったくせに、やけにしおらしくなっちまって
ナオ:それはお互い様なんじゃないの?嫌な大人だったくせに、妙に世話焼きになって
タクマ:俺は元々こうなの。疲れてる時に生意気なガキに会えば、誰だってああなる
ナオ:…またガキ扱いしてる…
タクマ:大人に遠慮ばっかりしてる可愛げのないガキだよ。ハンバーガー、好きか?
ナオ:…!うんっ!
タクマ:じゃ、ドライブスルーでも寄って行くか。ほら、さっさと乗った乗った
ナオ:どこ、行くの?
タクマ:さぁて、まだ無計画。折角だし景色いい所行きたいな
ナオ:景色いい所…海?とか?
タクマ:あぁ、シーズンオフで人も少なそうだし良いかもな。天気も良いし
ナオ:海…よく考えたら、学校行事以外で行ったこと無いかも
タクマ:マジか。なら決まりだな
:
:
ナオ:ふわぁ…海だぁ…
タクマ:よっと…
ナオ:その鞄、何?
タクマ:ん?これか?これはな…
:鞄からカメラを取り出す
タクマ:じゃーん
ナオ:一眼レフ?
タクマ:そ。ずっと忙しくて、平日は無理だし休日も疲れて寝てたりして
タクマ:好きで持ってたはずなのになぁ。時間できたら写真取りに行くぞってずっと思ってた事すら忘れてた
ナオ:……
タクマ:どした?
ナオ:…休日、付き合ってくれてるから
タクマ:良いんだよ。そもそも誘ったのこっちだし。…あぁ、本当にいい天気だな
ナオ:海って…すごく広いね…
タクマ:あぁ、そうだな
:波打ち際に近付くナオ
ナオ:海って…こんなに綺麗なんだ
タクマ:あんまりそっち行くと靴濡れるぞ〜
ナオ:えっ?うわっ!あっぶな!
タクマ:はははっ、子供か
ナオ:ガキ扱いしてたの、そっちだろ!やばい、靴濡れた!
タクマ:もう靴脱いで置いとけよ
ナオ:そーする
:海に向かってカメラを構えているタクマ
ナオ:何撮るの?
タクマ:何…なに…?んーなんだろうなぁ。撮りたいと思った物、かな
ナオ:決めないの?風景とか、人とかあるじゃん
タクマ:俺は決めて無いなぁ。あーこの瞬間を残したいって思った時、かな。まぁとりあえずはリハビリだな
ナオ:リハビリって。どれだけ放っておいたんだよ?
タクマ:年単位
ナオ:そのカメラ、使えるの?
タクマ:ちゃんと昨日、メンテナンスしてきたからな。撮ってやろうか?
ナオ:良いよ、どうせ靴濡らしたマヌケとか思ってんだろ
タクマ:おっ、よく分かったな!
ナオ:あー嫌な大人!
タクマ:その通りだよ
:二人笑う
ナオ:タクマさん
タクマ:んー?
ナオ:カメラ構えてるとかっこいいね
タクマ:カメラなくてもかっこいいだろ
ナオ:うん
タクマ:…否定しろよ
ナオ:…俺さ同級生に好きな人居たんだ
タクマ:そりゃ青春だねぇ
ナオ:すごく仲良かったんだ。なんでも話して、いつも遊ぶのも一緒で
タクマ:……
ナオ:あー好きだなぁって思ってた。同性だったけど、友達以上に好きだって思って
タクマ:……
ナオ:友達以上になりたいって思ったんだ。だから…めっちゃ勇気出してさ、好きだって言ったんだ。でも「気持ち悪い」って言われた
タクマ:そうか…(煙草に火をつける)
ナオ:噂はあっという間に広まって、いつの間にか俺の周りから誰もいなくなっちゃった。学校ダルくなって…でも母さんが嫌な顔するから渋々行って…
タクマ:集団ってのは怖いからなぁ…
ナオ:人を好きになっただけなのにね
タクマ:そう思える奴の方が(煙を吐き出す)圧倒的に少数だろうな
ナオ:タクマさんは?
タクマ:さぁ…どうだろうな。少なくとも、気持ち悪いとは思わないな
ナオ:なんで?
タクマ:なんでって言われても…
ナオ:男に好きって言われて気持ち悪くないの?
タクマ:思ったことは無いなぁ。そもそも言われたことがないし
ナオ:……
ナオ:「好き、タクマさん」
タクマ:…そりゃ、どーも
ナオ:信じてないじゃん!
タクマ:当たり前だろ
ナオ:じゃあどう言ったら信じてくれる?
タクマ:どうもこうも…
ナオ:かっこいいって思ってるのは本当だよ
タクマ:…そりゃ、どーも
ナオ:さっきと一緒じゃん!
タクマ:他に答えようが無いんだよ…
ナオ:気持ち悪くない?
タクマ:別に。そうは思わないな
ナオ:…良かった
タクマ:人に好かれて嫌な気持ちには…ならないだろ
ナオ:でも…誰も居なくなったよ。母さんも…
タクマ:……
ナオ:たまに顔合わせて声掛けたら、すごく嫌な顔される。あんたのせいで、って…よく言われるから。やっぱり嫌われてるんだ
タクマ:ナオ…
ナオ:タクマさんだけだよ。俺の事心配してくれて、話も聞いてくれる人
タクマ:…そうか
ナオ:ねぇタクマさん
タクマ:ん?
ナオ:一回でいいから…抱きついていい?
タクマ:……
ナオ:抱き返してくれなくて良いから
タクマ:…突然だな
ナオ:ダメ?
タクマ:…構わねぇよ。ほら、来い
:
:タクマに抱きつくナオ
ナオ:時々、全部が崩れていく気持ちになるんだ。自分の周りの地面や風景…自分自身も
ナオ:なんで俺、生きてるんだろって思って…怖くなる。誰にも求められてない事が怖くて…
タクマ:ナオ…
:ナオを抱き締めるタクマ
ナオ:っ?!
タクマ:……
ナオ:タクマさん…痛いよ…
タクマ:…ガキが一丁前に
ナオ:え?
タクマ:こっち向け
:顔を上げたナオに口付ける
ナオ:…タクマ、さん…?
タクマ:…すまん
ナオ:(少し笑って)…キスって…苦いんだ。知らなかった
タクマ:(誤魔化すように)あー…煙草のせい、かな
ナオ:…そっか
タクマ:なんか、こう…俺は赤の他人だから無責任に口出しはできるけど…そうじゃないんだよな
ナオ:……
タクマ:お前のしんどさとか、全然理解できてないだろうけど…もう全く知らないって訳じゃないから
ナオ:うん…
タクマ:しんどそうに笑われると…ちょっと辛い
ナオ:…ありがと
:
:
ナオ:今日、すごく楽しかった
タクマ:なら良かった
ナオ:こんなに楽しいって思ったの、何年ぶりだろって感じ
タクマ:それはさすがに言い過ぎだろ
ナオ:うん、かなり盛った
タクマ:だろうな
ナオ:あっ、ここでいいよ
タクマ:了解(車を止める)
ナオ:ありがとう、まじで楽しかった
タクマ:気分転換に付き合わせて悪かったな
ナオ:そんなことないよ!それに…
タクマ:?
ナオ:同情でも…キス、嬉しかった
タクマ:あー…うん、そっか
ナオ:また…連絡してもいい?
タクマ:良いよ。その代わり、真夜中の公園で待ち伏せは禁止な
ナオ:分かった。じゃあね(車からおりる)
タクマ:気を付けて
ナオ:うん、タクマさんも。バイバイ(走り去る)
:
タクマ:あー…ほんっと、らしくねぇなぁ
:
タクマ:『一瞬でも好きと思ってしまった。抱き返さず居ることも、ましてやキスなんて、と思ったがその時は考えるよりも先に…体が動いてた』
:
:
:数日後
:インターホンが鳴る
ナオ:…はい…あれ?大家さん…あの今、ちょっと母さん出てて…
:
ナオ:…え?……いや、全然聞いてない…ですね
:
ナオ:そう、なんですね…分かりました、確認しておきます。すみません…はい…はい……
:
ナオ:あっ、いや……大丈夫、だと思います。はい、ごめんなさい……(ドアを閉める)
:
ナオ:…電話、しなきゃ…
:
ナオ:…拒否られてる
:
ナオ:ん?手紙…
:
:
:手紙を持って座り込んでいるナオ
ナオ:…母さん、ごめんなさい
:
:
:深夜
:夜の公園
タクマ:(長い溜息)なんでまたこんな時間に居るんだよ…
ナオ:お帰りなさい
タクマ:ナオ、約束しただろ
ナオ:ん(小さく笑う)確かに
タクマ:……どした?暇つぶしって感じじゃなさそうだな
ナオ:スマホ、壊れちゃって…
タクマ:あぁ、そうだったのか。だからって…
ナオ:(遮るように)ねぇ、タクマさん。次のお休み…また海に連れて行ってくれない?
タクマ:海?って…この間の?
ナオ:うん
タクマ:明後日か…午後からしか動けないけど良いか?
ナオ:大丈夫
タクマ:…顔色、悪いんじゃないか?体調…
ナオ:え?全然元気。公園の薄明かりだからそう見えるだけでしょ
タクマ:そうか?なら、いいけど
ナオ:この間と同じ所で待ち合わせね。じゃっ
タクマ:あっ!おい!
:振り向かず走り去ってしまう
タクマ:…なんだ、アイツ…
:
:
ナオ:あー、やっぱり綺麗だなぁ
タクマ:『待ち合わせ場所に居たナオは、妙に悟ったような顔をして待っていた。車内でも口数が少なく、外を静かに眺めていた』
ナオ:ねぇタクマさん、そこら辺座ってお喋りしようよ
タクマ:お喋りって(笑う)まぁ良いけど
:砂浜に腰かける二人
タクマ:煙草、いいか?
ナオ:…一本ちょうだい
タクマ:だーめ。酒とタバコは二十歳になってから
ナオ:ちぇっ
:
:
ナオ:…母さんがね
タクマ:ん?
ナオ:母さんが出て行ったんだ
タクマ:は?
ナオ:この間大家さんが来て、引越しはいつになるんだって。俺全然知らなくて(小さく笑う)
タクマ:どういうことだ?
ナオ:家賃、今月分は入ってるから、月末までには引き払って欲しいって急に言われて、何が何だか全然分かんなくって
タクマ:…親御さんと話は?
ナオ:しばらく顔、合わせてないなぁ。元々ほぼメモのやり取りだけだったし。帰ってる気配はあったけど…改めて見たら、荷物減ってた
タクマ:なんだそれ…どういう事だ…!
ナオ:…手紙がね、ポストに入ってた。私は私の人生があって、俺にもう振り回されるのは嫌だって
タクマ:ふざけんなよ…なんだそりゃ!
ナオ:私の人生に、もうあなたは要らないってさ。いざ言葉にされると辛いねぇ
タクマ:……
ナオ:学校はどうなったのかな…行ってないから分かんないや。辞めるってなっても行きたくなかったからちょうど良かった
タクマ:ナオ…
ナオ:大家さんが来た翌日にスマホ使えなくなっちゃって。タクマさんへの連絡手段、待ち伏せだけになっちゃって
タクマ:…飯は?
ナオ:手紙と一緒に二万円入ってた。とりあえずは食べてるよ
タクマ:…無責任すぎるだろ…!
ナオ:まぁ…でも年齢的には成人してるしね。自力でどうにかするしかないかぁ…
タクマ:そういう事じゃないだろ
ナオ:友達も居なくなって、母さんも居なくなって…なんにも無いね
タクマ:ナオ
ナオ:俺さ、宝物って持ってないんだ。昔から何かねだったり出来なくて…欲しかった物もあったけど、買って欲しいって言ったらビンタされて…
タクマ:……
ナオ:俺が居るからやりたかった仕事が出来なくて、好きな人も離れていって…そんなに邪魔ならなんで産んだんだろうね
タクマ:……
ナオ:勝手に産んで、俺のせいって言われても…困っちゃうよね、ホント
タクマ:ナオ…!
ナオ:ねぇタクマさん
タクマ:…なんだ?
ナオ:…タクマさんは、俺の事愛してくれる?
タクマ:それは…、……
:
:沈黙が流れる
:
ナオ:…ごめんなさい、こんなこと言われても困るよね
タクマ:……
ナオ:今日はね、もうこのまま俺の事置いて帰って欲しいんだ
タクマ:…は?
ナオ:俺の事、ここに捨てて行って
タクマ:何言ってんだ、お前…
ナオ:どうせ帰っても行く宛も無いし、何の為に生きてるんだろって思ったら…全部どうでも良くなった
タクマ:だからって…
ナオ:タクマさんは、知らん顔して帰れば良いだけだよ
タクマ:ナオ…!
ナオ:振り回してごめんなさい
タクマ:ナオ、ちょっと人の話聞け!
ナオ:同情でしょ?
タクマ:……
ナオ:不幸なクソガキって思ってるんじゃないの?
タクマ:そんなこと…
ナオ:助けてくれないなら、初めから救おうとしないでよ
タクマ:…っ…
ナオ:……散々振り回しといて、こんな言い方無いか。ごめんなさい
:立ち上がり海に向かって歩き出すナオ
タクマ:待て!何する気だ
ナオ:波がさらってくれるよね、きっと
タクマ:アホっ!
:腕を掴んで引き寄せ、勢いで砂浜に倒れ込む
タクマ:いって…!
ナオ:なんで…?
タクマ:見殺しなんかできるか、夢見の悪い!
ナオ:……
タクマ:知らん顔して帰れって?出来るわけねぇだろうが…!
ナオ:…タクマさん
タクマ:振り回して悪いって思ってんなら、人の話聞け
ナオ:…お説教なら、聞きたくない
:
:
タクマ:なら…俺と死ぬか?
ナオ:……え
タクマ:俺と死ぬか?
ナオ:ダメ…ダメだよ、タクマさんは…
タクマ:なら!
ナオ:……
タクマ:俺と生きるか?
ナオ:…な、に…
タクマ:ガキが一丁前に大人ぶってんじゃねぇよ
タクマ:お前がどう思ってるか知らないけど、お前の母親は最低だよ。勝手に自分が背負い込んだ事を全部お前のせいにして、勝手に生きてただけだろうが
ナオ:でも…
タクマ:学校の奴らも同じだ。面白おかしく、真剣な感情を馬鹿にして笑ってやがる。ふざけんな…!(ナオを抱きしめる)
ナオ:なんで…タクマさんが怒ってるの…?
タクマ:許せないから。普通に腹立つ。…自分にも腹が立つよ。まだ短いけど、もっと頼りやすい関係作っておけたらって思ってる
:
タクマ:そしたら…助けてって言えただろ?
:
ナオ:なんで…?(嗚咽を漏らす)
:
タクマ:気付くの、遅くなって悪かった
ナオ:(泣きながら首を振っている)
タクマ:保護者にはなれないけど、お前一人くらいなら世話できる。だから、全部投げ出すなよ…
タクマ:一緒に居るから。俺の事まで、諦めるなよ…
ナオ:タクマさん…!
:
ナオ:ずっと…寂しかったんだ…誰かに、傍にいて欲しかった…!
タクマ:うん…
ナオ:誰かに…愛してるって、言って欲しかった…!言葉だけで良かった…嘘でも良かったんだ…!
タクマ:うん…
ナオ:ここに居ていいって、認めて欲しかった…!
タクマ:ここに居ればいい。俺の傍に居ればいい…
ナオ:タクマさ…!!
タクマ:居なくなって、欲しくない…!
ナオ:ほんとうに、居ていい…?俺、一緒にいていい…?
タクマ:誰にも、祝福なんてされないけど…それでいいか…?
ナオ:祝福なんて…そんなもの、要らない…タクマさんが居てくれたら、もうそれでいいよ…
タクマ:傍に居てくれ
:
タクマ:お前が、好きだ…!
:
:間
:
タクマ:落ち着いたか?
ナオ:(鼻をすする)うん…
タクマ:ナオ
:ナオに口付けるタクマ
ナオ:…じゃりじゃりするね
タクマ:(小さく吹き出す)そうだな
:ナオから離れて立ち上がるタクマ
タクマ:ほら、立てるか?
ナオ:うん…
:
ナオ:タクマさん
タクマ:ん?
ナオ:…本当に、一緒に居ていい?
タクマ:…平日は帰りが遅いぞ
ナオ:…うん
タクマ:日付変わって帰るなんてザラだし、休日出勤とかもある
ナオ:うん…
タクマ:忙しくて機嫌悪い時もある
ナオ:うん…
タクマ:お前は、それでもいいか?
ナオ:…良い。ちゃんと帰ってきて、ただいまって言ってくれたら…それでいい…!
タクマ:そうか
:
タクマ:ほら、体払って。砂まみれだ
ナオ:はは…ほんとだ
タクマ:髪も、砂だらけだな(ナオを撫でる)
:
ナオ:怒ってくれてありがとう…
タクマ:俺が腹立っただけだ
ナオ:嬉しかった
タクマ:そうか。…帰ろ
ナオ:うん…
:
:
:数日後
タクマ:荷物って…本当にこれで全部か?
ナオ:うん
タクマ:ダンボールふたつとか…どうなってんだ、全く
ナオ:でも引き払うのも早く出来たし…ちょうど良かったよ
タクマ:まあ、前向きに考えたらそうなるか
ナオ:…清掃のお金とか、ちゃんと返すから
タクマ:ばーか、俺が勝手に出しただけだ。気にすんな
ナオ:じゃあ…出世払いで
タクマ:おー、出世する気か?
ナオ:頑張るし
タクマ:期待しないで待ってるよ
ナオ:そこは期待してよ!
タクマ:はいはい
ナオ:本気なのに〜
タクマ:…学校も、本当に良かったのか?
ナオ:あー…うん。楽しくなかったし未練ない。バイトしながら通信通えば良いし
タクマ:そうか。…よし、じゃ帰るぞ
ナオ:改めて、よろしくお願いします
タクマ:……
ナオ:タクマさん…?
タクマ:…お前は、甘えるところからスタートな
ナオ:えぇ?!
タクマ:俺はもうちょい、可愛げある方が好き
ナオ:えぇ…
タクマ:あー、違うか。俺が甘やかせばいいのか
ナオ:ええぇ…
タクマ:行くぞ
ナオ:訳わかんない!
:箱をひとつ持って歩き出すタクマと、同じく箱を抱えて追うナオ
:
タクマ:いーぃ天気だなぁ…
ナオ:そうだね
タクマ:転職でもすっかなぁ…
:
ナオ:『泡沫斜陽、終幕』(うたかたしゃよう。しゅうまく)
:
:
:終
ナオ:助けてくれないなら、初めから救おうとしないでよ
:
タクマ:『泣きそうな顔で笑う、その姿が美しいと思った』
:
タクマ:『泡沫斜陽』(うたかたしゃよう)
:
:
:深夜の公園。
:ブランコに座る少年。
タクマ:おい
ナオ:……なに?
タクマ:ガキがうろついていい時間じゃねーぞ。何時だと思ってんだ
ナオ:…0時半
タクマ:時計読めるなら考えろよ
ナオ:見ず知らずのおっさんに、いきなり説教食らうとは思わなかった
タクマ:誰がおっさんだ、誰が
ナオ:あんた
タクマ:(溜め息)まぁ、お前みたいなガキから見たらおっさんなんだろうけど…いざ言われるとなぁ…
ナオ:さっきから人の事ガキガキって言ってるけど、俺ガキじゃないよ
タクマ:いくつだ
ナオ:18。成人してる
タクマ:あー、そういや成人年齢下がったんだっけ
ナオ:大人だよ
タクマ:まだ高校通ってんだろ?やっぱりガキじゃねぇか
ナオ:(ムッとした顔をする)
タクマ:まぁなんでもいいや、早く帰れよ。こんな時間までうろついてるなんて、親御さん心配すんぞ
ナオ:あんたには関係ないだろ、おっさん
タクマ:おっさんじゃねぇっての!まだ28だ!ったく…生意気だねぇ、最近のお子様は
ナオ:お子様じゃないし、ナオって名前がある!
タクマ:おーそうかいそうかい。さっさと帰れよ、クソガキ
ナオ:……(ブランコに座ったまま動かない)
:
タクマ:(立ち去りかけて足を止める)ナオ
ナオ:?!
タクマ:最近ここら辺、通り魔とか出てんだ。マジで危ないからさっさと帰れよ。初対面とはいえ、少し話した相手が被害者になるのは目覚め悪いんだ。じゃーな
ナオ:…ねぇ待ってよ!
タクマ:ん?
ナオ:名前、教えて
タクマ:…タクマ
ナオ:タクマさん、俺を買わない?
タクマ:…は?
ナオ:だから俺を…
タクマ:(遮って)聞き取れなかったとか、意味がわからなかったとかそうじゃなくて
ナオ:じゃあ何?
タクマ:意味わかって言ってんのか?
ナオ:分かってるよ
タクマ:…馬鹿なこと言ってないで早く帰れ
ナオ:本気だよ
タクマ:…最近のガキはマセてんなぁ
ナオ:だからガキじゃないって
タクマ:ふぅん…(ナオに近付く)
ナオ:慣れてるんだぜ、俺
タクマ:あっそ、なら…
:ナオの頭を掴み、顔を近づける
ナオ:…っ…!………?
タクマ:(すぐ近くで)アホか
ナオ:…ぇ…
タクマ:キスされそうになっただけで、目ェ閉じてビビってる奴が慣れてるって?
ナオ:きゅ、急だったからびっくりしただけだし!
タクマ:ハイハイ、言ってろ。じゃーな
ナオ:あっ…!
タクマ:早く帰れよー
:
ナオ:…ふん
:
:
:別の日
タクマ:…また居た
ナオ:あんた、いつもこんな時間に帰ってんの?
タクマ:(長い溜息)なんで居るんだよ
ナオ:…また会えるかもって思って
タクマ:帰れよ
ナオ:せっかく待ってたのに!
タクマ:待ってろなんて言ってない
ナオ:言われてないけど…待ってたら、ダメだった?
タクマ:この間言っただろ。最近この辺、通り魔出たんだよ。お前みたいなガキなんか標的にされちまうぞ
ナオ:…心配してくれるんだ?
タクマ:目覚め悪くなるのは勘弁して欲しいんだって…
ナオ:(嬉しそうに笑う)
タクマ:ほら、さっさと帰れよ
ナオ:ねぇ、もうちょっと話しようよ
タクマ:俺は疲れてんだ、ガキの相手するだけの余裕無いの
ナオ:ちょっと話するだけじゃん。ね、いいでしょ?
タクマ:ワガママなお子様だなぁ
ナオ:もうガキでもお子様でもなんでもいいよ…
:タクマ、隣のブランコに腰かける
タクマ:…少しの間だけだぞ
ナオ:ありがとう!
タクマ:…場所、変われ
ナオ:え?
タクマ:そっちが風下なんだよ
ナオ:え、意味わかんない
タクマ:タバコ吸うから場所変われって言ってんの
ナオ:(ぽかんとして小さく笑う)
タクマ:ほら、変われって
ナオ:気にしなくていいのに
タクマ:お前が気にしなくても俺が気にする
:2人入れ替わる
タクマ:(タバコを取りだして火をつける)
ナオ:ぶっきらぼうかと思えば律儀だよね
タクマ:そうか?
ナオ:そうだよ。周りのヤツ、誰も気にしないのに
タクマ:悪い大人と付き合ってんじゃねぇだろうな?進路に響くぞ〜
ナオ:どうせ大学とか行かないし、テキトーにどっかで働くよ
タクマ:適当って…世の中、そんなに甘くねえぞ?学歴や資格で天秤に架けられるんだから
ナオ:タクマさんは?
タクマ:ん?
ナオ:こんな時間に…仕事帰りなんだよね?
タクマ:まーな。立派な社畜やらせてもらってるよ
ナオ:立派って(笑う)
タクマ:お前は?こんな時間に外うろついて
ナオ:暇だから
タクマ:ということは、俺はお前の暇つぶしに付き合ってるってことか
ナオ:…なんかそれは語弊がある
タクマ:暇って言ったのそっちだろ
:沈黙が流れる。
:タクマは長く煙を吐き出す
タクマ:親御さん、心配すんぞ
ナオ:心配なんかしないよ
タクマ:…この前も思ったけど、事情がありそうだな
ナオ:……
タクマ:知らん人間相手の方が話しやすかったりするだろ
ナオ:……
タクマ:あー…すまん。踏み込みすぎた
ナオ:(笑う)やっぱり律儀
タクマ:忘れてくれ
:
ナオ:…俺ん家、片親なんだ
タクマ:……
ナオ:夜はさ、誰も居ないから。一人でボケっとしててもつまんないじゃん。だから夜中にね、暇つぶしに散歩
タクマ:そっか…
ナオ:俺が夜中にフラフラ外でてるのなんて、知らないと思うよ。ほとんど顔も合わさないし…メモのやり取りばっかりだから、そろそろ母さんの声忘れそう(軽く笑う)
タクマ:……
ナオ:もっと外って賑やかだと思ってたのに誰も居なくて…やっぱりつまんないなぁって思ってたら…声掛けられた
タクマ:あー…そういう…
ナオ:ははっ。いきなり説教されたのは嫌だったけど…正直嬉しかった、心配してくれた事
タクマ:そうか…
ナオ:まぁ…それでこんな、訳わかんない奴に懐かれたらたまったもんじゃないよね。ごめんなさい
タクマ:なぁ、ナオ
ナオ:名前、覚えててくれたんだ
タクマ:友達と遊んだりはしないのか?
ナオ:全然
タクマ:バイトとか?
ナオ:あー…なんかこれやりたいってのが無くて。素行多少悪くてもいいけど、成績落とすなって言われてるし
タクマ:いや、逆だろ(笑う)
ナオ:俺もそう思う(笑う)
タクマ:…この間、自分の事買わないかって聞いてきたけど…
ナオ:ぁ…
タクマ:慣れてるってのは嘘だろ?
ナオ:うん…
タクマ:(少し怒り気味に)自分を粗末にするのは辞めろ
ナオ:ごめんなさい…
タクマ:…素直だな
ナオ:なんか、タクマさんはちゃんと心配してくれるんだなって思ったから…
タクマ:お前、寂しいのか?
ナオ:どうだろ?…良くわかんないや
タクマ:そうか…
ナオ:遅くまで引き止めてごめんなさい。その…
タクマ:日曜
ナオ:…え?
タクマ:暇?
ナオ:日曜って…今度の?
タクマ:あぁ
ナオ:…暇
タクマ:良かったら、昼間どっか遊びに行くか?
ナオ:え…
タクマ:深夜のこの時間だとな、俺も疲れきってんの。だから
ナオ:……
タクマ:まぁ遠出は無理だけどな。気分転換程度に
ナオ:え、でも…
タクマ:お前次第で。無理に誘ったりしないから、気が向けば
ナオ:でも、でも…!
タクマ:ん?
ナオ:……いいの?
タクマ:少なくとも、こんな真夜中に公園に引き留められるよりかマシだよ
ナオ:ぁ……
タクマ:どうする?
ナオ:…行きたい、です
タクマ:わかった。なら、連絡先
ナオ:え?
タクマ:連絡先交換しないと、待ち合わせとか分からないだろ?
ナオ:あ、そっか…
タクマ:適当にドライブ程度だからな。期待すんなよ
ナオ:十分だよ
:ナオはスマートフォンの画面をタクマに見せる
タクマ:ん、オッケ
ナオ:直前でも…!
タクマ:ん?
ナオ:…やっぱり面倒とかなったら…そう言って
タクマ:それはお互い様な。言っとくけど、俺は男を買う趣味は無いぞ
ナオ:(小さく笑う)うん、分かってる。…あの…
タクマ:どした?
ナオ:時々…連絡してもいい?
タクマ:仕事中は返信できないけど、それでいいなら
ナオ:…へへっ、良かった
タクマ:ほれ、俺も帰るから。ナオも大人しく帰れ
ナオ:うん。じゃあ、俺こっちだから
タクマ:気を付けてな
ナオ:ありがと!(走り去る)
:
タクマ:(見送って溜息)…らしくねぇなぁ。仏心なんか出してさ…
タクマ:野良猫に餌やってその場しのぎ…同じだな。家があるだけまだマシって事か
:
タクマ:『縋るような目が綺麗だと思った。ただそれだけだったんだ。たったそれだけの理由で手を差し伸べてしまった。どうにかしてやれるなんて、思ってもないのに』
:
:日曜
タクマ:おぉーい!こっちだ、こっち
ナオ:(ぽかんとしている)
タクマ:ん?どした?
ナオ:…眼鏡、かけてる
タクマ:あぁ、運転の時だけな。似合うか?
ナオ:…かっこいい…
タクマ:(吹き出す)あ、あぁ、そうかい…
ナオ:あっ!ごめん、変なこと言った!
タクマ:(照れている)いや、いいけどさ
ナオ:スーツ姿しか見てないから、髪型とか服装とか…やっぱり新鮮
タクマ:まぁ、社会人になるとそんなもんだ。どこ行きたい?昼飯食ったか?
ナオ:…休みの日、ほとんど飯食わないから
タクマ:は?だからそんなヒョロい体なんじゃねぇか。途中どっかで買うか…
ナオ:いいよ!金持ってないし…
タクマ:アホ。高校生に金出させるかよ。…ファストフード、苦手か?
ナオ:ううん、でも…
タクマ:良いから。年上に甘えとけ
ナオ:…ホントにいいの?
タクマ:いいって。何?最初は随分生意気で可愛げなかったくせに、やけにしおらしくなっちまって
ナオ:それはお互い様なんじゃないの?嫌な大人だったくせに、妙に世話焼きになって
タクマ:俺は元々こうなの。疲れてる時に生意気なガキに会えば、誰だってああなる
ナオ:…またガキ扱いしてる…
タクマ:大人に遠慮ばっかりしてる可愛げのないガキだよ。ハンバーガー、好きか?
ナオ:…!うんっ!
タクマ:じゃ、ドライブスルーでも寄って行くか。ほら、さっさと乗った乗った
ナオ:どこ、行くの?
タクマ:さぁて、まだ無計画。折角だし景色いい所行きたいな
ナオ:景色いい所…海?とか?
タクマ:あぁ、シーズンオフで人も少なそうだし良いかもな。天気も良いし
ナオ:海…よく考えたら、学校行事以外で行ったこと無いかも
タクマ:マジか。なら決まりだな
:
:
ナオ:ふわぁ…海だぁ…
タクマ:よっと…
ナオ:その鞄、何?
タクマ:ん?これか?これはな…
:鞄からカメラを取り出す
タクマ:じゃーん
ナオ:一眼レフ?
タクマ:そ。ずっと忙しくて、平日は無理だし休日も疲れて寝てたりして
タクマ:好きで持ってたはずなのになぁ。時間できたら写真取りに行くぞってずっと思ってた事すら忘れてた
ナオ:……
タクマ:どした?
ナオ:…休日、付き合ってくれてるから
タクマ:良いんだよ。そもそも誘ったのこっちだし。…あぁ、本当にいい天気だな
ナオ:海って…すごく広いね…
タクマ:あぁ、そうだな
:波打ち際に近付くナオ
ナオ:海って…こんなに綺麗なんだ
タクマ:あんまりそっち行くと靴濡れるぞ〜
ナオ:えっ?うわっ!あっぶな!
タクマ:はははっ、子供か
ナオ:ガキ扱いしてたの、そっちだろ!やばい、靴濡れた!
タクマ:もう靴脱いで置いとけよ
ナオ:そーする
:海に向かってカメラを構えているタクマ
ナオ:何撮るの?
タクマ:何…なに…?んーなんだろうなぁ。撮りたいと思った物、かな
ナオ:決めないの?風景とか、人とかあるじゃん
タクマ:俺は決めて無いなぁ。あーこの瞬間を残したいって思った時、かな。まぁとりあえずはリハビリだな
ナオ:リハビリって。どれだけ放っておいたんだよ?
タクマ:年単位
ナオ:そのカメラ、使えるの?
タクマ:ちゃんと昨日、メンテナンスしてきたからな。撮ってやろうか?
ナオ:良いよ、どうせ靴濡らしたマヌケとか思ってんだろ
タクマ:おっ、よく分かったな!
ナオ:あー嫌な大人!
タクマ:その通りだよ
:二人笑う
ナオ:タクマさん
タクマ:んー?
ナオ:カメラ構えてるとかっこいいね
タクマ:カメラなくてもかっこいいだろ
ナオ:うん
タクマ:…否定しろよ
ナオ:…俺さ同級生に好きな人居たんだ
タクマ:そりゃ青春だねぇ
ナオ:すごく仲良かったんだ。なんでも話して、いつも遊ぶのも一緒で
タクマ:……
ナオ:あー好きだなぁって思ってた。同性だったけど、友達以上に好きだって思って
タクマ:……
ナオ:友達以上になりたいって思ったんだ。だから…めっちゃ勇気出してさ、好きだって言ったんだ。でも「気持ち悪い」って言われた
タクマ:そうか…(煙草に火をつける)
ナオ:噂はあっという間に広まって、いつの間にか俺の周りから誰もいなくなっちゃった。学校ダルくなって…でも母さんが嫌な顔するから渋々行って…
タクマ:集団ってのは怖いからなぁ…
ナオ:人を好きになっただけなのにね
タクマ:そう思える奴の方が(煙を吐き出す)圧倒的に少数だろうな
ナオ:タクマさんは?
タクマ:さぁ…どうだろうな。少なくとも、気持ち悪いとは思わないな
ナオ:なんで?
タクマ:なんでって言われても…
ナオ:男に好きって言われて気持ち悪くないの?
タクマ:思ったことは無いなぁ。そもそも言われたことがないし
ナオ:……
ナオ:「好き、タクマさん」
タクマ:…そりゃ、どーも
ナオ:信じてないじゃん!
タクマ:当たり前だろ
ナオ:じゃあどう言ったら信じてくれる?
タクマ:どうもこうも…
ナオ:かっこいいって思ってるのは本当だよ
タクマ:…そりゃ、どーも
ナオ:さっきと一緒じゃん!
タクマ:他に答えようが無いんだよ…
ナオ:気持ち悪くない?
タクマ:別に。そうは思わないな
ナオ:…良かった
タクマ:人に好かれて嫌な気持ちには…ならないだろ
ナオ:でも…誰も居なくなったよ。母さんも…
タクマ:……
ナオ:たまに顔合わせて声掛けたら、すごく嫌な顔される。あんたのせいで、って…よく言われるから。やっぱり嫌われてるんだ
タクマ:ナオ…
ナオ:タクマさんだけだよ。俺の事心配してくれて、話も聞いてくれる人
タクマ:…そうか
ナオ:ねぇタクマさん
タクマ:ん?
ナオ:一回でいいから…抱きついていい?
タクマ:……
ナオ:抱き返してくれなくて良いから
タクマ:…突然だな
ナオ:ダメ?
タクマ:…構わねぇよ。ほら、来い
:
:タクマに抱きつくナオ
ナオ:時々、全部が崩れていく気持ちになるんだ。自分の周りの地面や風景…自分自身も
ナオ:なんで俺、生きてるんだろって思って…怖くなる。誰にも求められてない事が怖くて…
タクマ:ナオ…
:ナオを抱き締めるタクマ
ナオ:っ?!
タクマ:……
ナオ:タクマさん…痛いよ…
タクマ:…ガキが一丁前に
ナオ:え?
タクマ:こっち向け
:顔を上げたナオに口付ける
ナオ:…タクマ、さん…?
タクマ:…すまん
ナオ:(少し笑って)…キスって…苦いんだ。知らなかった
タクマ:(誤魔化すように)あー…煙草のせい、かな
ナオ:…そっか
タクマ:なんか、こう…俺は赤の他人だから無責任に口出しはできるけど…そうじゃないんだよな
ナオ:……
タクマ:お前のしんどさとか、全然理解できてないだろうけど…もう全く知らないって訳じゃないから
ナオ:うん…
タクマ:しんどそうに笑われると…ちょっと辛い
ナオ:…ありがと
:
:
ナオ:今日、すごく楽しかった
タクマ:なら良かった
ナオ:こんなに楽しいって思ったの、何年ぶりだろって感じ
タクマ:それはさすがに言い過ぎだろ
ナオ:うん、かなり盛った
タクマ:だろうな
ナオ:あっ、ここでいいよ
タクマ:了解(車を止める)
ナオ:ありがとう、まじで楽しかった
タクマ:気分転換に付き合わせて悪かったな
ナオ:そんなことないよ!それに…
タクマ:?
ナオ:同情でも…キス、嬉しかった
タクマ:あー…うん、そっか
ナオ:また…連絡してもいい?
タクマ:良いよ。その代わり、真夜中の公園で待ち伏せは禁止な
ナオ:分かった。じゃあね(車からおりる)
タクマ:気を付けて
ナオ:うん、タクマさんも。バイバイ(走り去る)
:
タクマ:あー…ほんっと、らしくねぇなぁ
:
タクマ:『一瞬でも好きと思ってしまった。抱き返さず居ることも、ましてやキスなんて、と思ったがその時は考えるよりも先に…体が動いてた』
:
:
:数日後
:インターホンが鳴る
ナオ:…はい…あれ?大家さん…あの今、ちょっと母さん出てて…
:
ナオ:…え?……いや、全然聞いてない…ですね
:
ナオ:そう、なんですね…分かりました、確認しておきます。すみません…はい…はい……
:
ナオ:あっ、いや……大丈夫、だと思います。はい、ごめんなさい……(ドアを閉める)
:
ナオ:…電話、しなきゃ…
:
ナオ:…拒否られてる
:
ナオ:ん?手紙…
:
:
:手紙を持って座り込んでいるナオ
ナオ:…母さん、ごめんなさい
:
:
:深夜
:夜の公園
タクマ:(長い溜息)なんでまたこんな時間に居るんだよ…
ナオ:お帰りなさい
タクマ:ナオ、約束しただろ
ナオ:ん(小さく笑う)確かに
タクマ:……どした?暇つぶしって感じじゃなさそうだな
ナオ:スマホ、壊れちゃって…
タクマ:あぁ、そうだったのか。だからって…
ナオ:(遮るように)ねぇ、タクマさん。次のお休み…また海に連れて行ってくれない?
タクマ:海?って…この間の?
ナオ:うん
タクマ:明後日か…午後からしか動けないけど良いか?
ナオ:大丈夫
タクマ:…顔色、悪いんじゃないか?体調…
ナオ:え?全然元気。公園の薄明かりだからそう見えるだけでしょ
タクマ:そうか?なら、いいけど
ナオ:この間と同じ所で待ち合わせね。じゃっ
タクマ:あっ!おい!
:振り向かず走り去ってしまう
タクマ:…なんだ、アイツ…
:
:
ナオ:あー、やっぱり綺麗だなぁ
タクマ:『待ち合わせ場所に居たナオは、妙に悟ったような顔をして待っていた。車内でも口数が少なく、外を静かに眺めていた』
ナオ:ねぇタクマさん、そこら辺座ってお喋りしようよ
タクマ:お喋りって(笑う)まぁ良いけど
:砂浜に腰かける二人
タクマ:煙草、いいか?
ナオ:…一本ちょうだい
タクマ:だーめ。酒とタバコは二十歳になってから
ナオ:ちぇっ
:
:
ナオ:…母さんがね
タクマ:ん?
ナオ:母さんが出て行ったんだ
タクマ:は?
ナオ:この間大家さんが来て、引越しはいつになるんだって。俺全然知らなくて(小さく笑う)
タクマ:どういうことだ?
ナオ:家賃、今月分は入ってるから、月末までには引き払って欲しいって急に言われて、何が何だか全然分かんなくって
タクマ:…親御さんと話は?
ナオ:しばらく顔、合わせてないなぁ。元々ほぼメモのやり取りだけだったし。帰ってる気配はあったけど…改めて見たら、荷物減ってた
タクマ:なんだそれ…どういう事だ…!
ナオ:…手紙がね、ポストに入ってた。私は私の人生があって、俺にもう振り回されるのは嫌だって
タクマ:ふざけんなよ…なんだそりゃ!
ナオ:私の人生に、もうあなたは要らないってさ。いざ言葉にされると辛いねぇ
タクマ:……
ナオ:学校はどうなったのかな…行ってないから分かんないや。辞めるってなっても行きたくなかったからちょうど良かった
タクマ:ナオ…
ナオ:大家さんが来た翌日にスマホ使えなくなっちゃって。タクマさんへの連絡手段、待ち伏せだけになっちゃって
タクマ:…飯は?
ナオ:手紙と一緒に二万円入ってた。とりあえずは食べてるよ
タクマ:…無責任すぎるだろ…!
ナオ:まぁ…でも年齢的には成人してるしね。自力でどうにかするしかないかぁ…
タクマ:そういう事じゃないだろ
ナオ:友達も居なくなって、母さんも居なくなって…なんにも無いね
タクマ:ナオ
ナオ:俺さ、宝物って持ってないんだ。昔から何かねだったり出来なくて…欲しかった物もあったけど、買って欲しいって言ったらビンタされて…
タクマ:……
ナオ:俺が居るからやりたかった仕事が出来なくて、好きな人も離れていって…そんなに邪魔ならなんで産んだんだろうね
タクマ:……
ナオ:勝手に産んで、俺のせいって言われても…困っちゃうよね、ホント
タクマ:ナオ…!
ナオ:ねぇタクマさん
タクマ:…なんだ?
ナオ:…タクマさんは、俺の事愛してくれる?
タクマ:それは…、……
:
:沈黙が流れる
:
ナオ:…ごめんなさい、こんなこと言われても困るよね
タクマ:……
ナオ:今日はね、もうこのまま俺の事置いて帰って欲しいんだ
タクマ:…は?
ナオ:俺の事、ここに捨てて行って
タクマ:何言ってんだ、お前…
ナオ:どうせ帰っても行く宛も無いし、何の為に生きてるんだろって思ったら…全部どうでも良くなった
タクマ:だからって…
ナオ:タクマさんは、知らん顔して帰れば良いだけだよ
タクマ:ナオ…!
ナオ:振り回してごめんなさい
タクマ:ナオ、ちょっと人の話聞け!
ナオ:同情でしょ?
タクマ:……
ナオ:不幸なクソガキって思ってるんじゃないの?
タクマ:そんなこと…
ナオ:助けてくれないなら、初めから救おうとしないでよ
タクマ:…っ…
ナオ:……散々振り回しといて、こんな言い方無いか。ごめんなさい
:立ち上がり海に向かって歩き出すナオ
タクマ:待て!何する気だ
ナオ:波がさらってくれるよね、きっと
タクマ:アホっ!
:腕を掴んで引き寄せ、勢いで砂浜に倒れ込む
タクマ:いって…!
ナオ:なんで…?
タクマ:見殺しなんかできるか、夢見の悪い!
ナオ:……
タクマ:知らん顔して帰れって?出来るわけねぇだろうが…!
ナオ:…タクマさん
タクマ:振り回して悪いって思ってんなら、人の話聞け
ナオ:…お説教なら、聞きたくない
:
:
タクマ:なら…俺と死ぬか?
ナオ:……え
タクマ:俺と死ぬか?
ナオ:ダメ…ダメだよ、タクマさんは…
タクマ:なら!
ナオ:……
タクマ:俺と生きるか?
ナオ:…な、に…
タクマ:ガキが一丁前に大人ぶってんじゃねぇよ
タクマ:お前がどう思ってるか知らないけど、お前の母親は最低だよ。勝手に自分が背負い込んだ事を全部お前のせいにして、勝手に生きてただけだろうが
ナオ:でも…
タクマ:学校の奴らも同じだ。面白おかしく、真剣な感情を馬鹿にして笑ってやがる。ふざけんな…!(ナオを抱きしめる)
ナオ:なんで…タクマさんが怒ってるの…?
タクマ:許せないから。普通に腹立つ。…自分にも腹が立つよ。まだ短いけど、もっと頼りやすい関係作っておけたらって思ってる
:
タクマ:そしたら…助けてって言えただろ?
:
ナオ:なんで…?(嗚咽を漏らす)
:
タクマ:気付くの、遅くなって悪かった
ナオ:(泣きながら首を振っている)
タクマ:保護者にはなれないけど、お前一人くらいなら世話できる。だから、全部投げ出すなよ…
タクマ:一緒に居るから。俺の事まで、諦めるなよ…
ナオ:タクマさん…!
:
ナオ:ずっと…寂しかったんだ…誰かに、傍にいて欲しかった…!
タクマ:うん…
ナオ:誰かに…愛してるって、言って欲しかった…!言葉だけで良かった…嘘でも良かったんだ…!
タクマ:うん…
ナオ:ここに居ていいって、認めて欲しかった…!
タクマ:ここに居ればいい。俺の傍に居ればいい…
ナオ:タクマさ…!!
タクマ:居なくなって、欲しくない…!
ナオ:ほんとうに、居ていい…?俺、一緒にいていい…?
タクマ:誰にも、祝福なんてされないけど…それでいいか…?
ナオ:祝福なんて…そんなもの、要らない…タクマさんが居てくれたら、もうそれでいいよ…
タクマ:傍に居てくれ
:
タクマ:お前が、好きだ…!
:
:間
:
タクマ:落ち着いたか?
ナオ:(鼻をすする)うん…
タクマ:ナオ
:ナオに口付けるタクマ
ナオ:…じゃりじゃりするね
タクマ:(小さく吹き出す)そうだな
:ナオから離れて立ち上がるタクマ
タクマ:ほら、立てるか?
ナオ:うん…
:
ナオ:タクマさん
タクマ:ん?
ナオ:…本当に、一緒に居ていい?
タクマ:…平日は帰りが遅いぞ
ナオ:…うん
タクマ:日付変わって帰るなんてザラだし、休日出勤とかもある
ナオ:うん…
タクマ:忙しくて機嫌悪い時もある
ナオ:うん…
タクマ:お前は、それでもいいか?
ナオ:…良い。ちゃんと帰ってきて、ただいまって言ってくれたら…それでいい…!
タクマ:そうか
:
タクマ:ほら、体払って。砂まみれだ
ナオ:はは…ほんとだ
タクマ:髪も、砂だらけだな(ナオを撫でる)
:
ナオ:怒ってくれてありがとう…
タクマ:俺が腹立っただけだ
ナオ:嬉しかった
タクマ:そうか。…帰ろ
ナオ:うん…
:
:
:数日後
タクマ:荷物って…本当にこれで全部か?
ナオ:うん
タクマ:ダンボールふたつとか…どうなってんだ、全く
ナオ:でも引き払うのも早く出来たし…ちょうど良かったよ
タクマ:まあ、前向きに考えたらそうなるか
ナオ:…清掃のお金とか、ちゃんと返すから
タクマ:ばーか、俺が勝手に出しただけだ。気にすんな
ナオ:じゃあ…出世払いで
タクマ:おー、出世する気か?
ナオ:頑張るし
タクマ:期待しないで待ってるよ
ナオ:そこは期待してよ!
タクマ:はいはい
ナオ:本気なのに〜
タクマ:…学校も、本当に良かったのか?
ナオ:あー…うん。楽しくなかったし未練ない。バイトしながら通信通えば良いし
タクマ:そうか。…よし、じゃ帰るぞ
ナオ:改めて、よろしくお願いします
タクマ:……
ナオ:タクマさん…?
タクマ:…お前は、甘えるところからスタートな
ナオ:えぇ?!
タクマ:俺はもうちょい、可愛げある方が好き
ナオ:えぇ…
タクマ:あー、違うか。俺が甘やかせばいいのか
ナオ:ええぇ…
タクマ:行くぞ
ナオ:訳わかんない!
:箱をひとつ持って歩き出すタクマと、同じく箱を抱えて追うナオ
:
タクマ:いーぃ天気だなぁ…
ナオ:そうだね
タクマ:転職でもすっかなぁ…
:
ナオ:『泡沫斜陽、終幕』(うたかたしゃよう。しゅうまく)
:
:
:終