台本概要
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タイトル | 喰らいアイ |
---|---|
作者名 | 白玉あずき (@srtm_azk01) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 2人用台本(不問2) |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
昔々、とある領主と小さな妖狐の物語…。 性別不問。 領主の口調は男性として書いてありますが、女性とする場合、読みやすく変えてもらって大丈夫です。 126 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
領主 | 不問 | 1 | 闇のものが住まう森の近くの土地の領主。 |
子狐 | 不問 | 1 | まだ小さな妖狐の子供。人間の姿にも変化出来るが、耳と尻尾が出てしまう。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:喰らいアイ
0:
子狐:彼が死んだ。
子狐:
子狐:そう聞かされた時、ぼくはまだ幼い狐のままで。
子狐:一人で人の里…ましてや天守まで近付く事など出来はしなくて。
子狐:ただただ、遠く離れた山の上から、彼が安置されているであろう場所を見下ろす事しか出来なかった。
子狐:
子狐:九尾の長(おさ)は言っていた。
子狐:あの領主は殺されたのだと。
子狐:人間の、深い欲という名の毒にて内臓を焼かれ、宝玉(ほうぎょく)を嵌めた容れ物だけを残し、命を落としたのだと…。
子狐:
子狐:彼は言っていた。
子狐:自分は人間にとっても、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の類いにとっても、極上の御馳走になるのだと。
子狐:中でもこの深紅の目が旨いらしいと、目を細めて笑っていた。
子狐:その瞳(ひとみ)があまりにも綺麗だから、貴方を喰ろうてみたいと言ったら、一つ間を置いて、大きく笑われた。
子狐:子狐、お前は喰らうという事の意味が解っているのか。
子狐:…ふ、まァそうだな。
子狐:お前が立派な妖狐になった暁(あかつき)には、一度だけ喰らわせてやる。
子狐:だが、きっと、今のままでは俺は先に死ぬだろう。
子狐:だから。
子狐:死に物狂いで精進するがいい。
子狐:そう言って、優しく笑い、髪を梳かれたのは、ついこの間の事。
子狐:彼はその後、二度と山には入って来なかった。
子狐:
子狐:再び長に訊ねた。
子狐:殺された領主はどうなったのかと。
子狐:長は九本の尾を揺らめかせながら笑う。
子狐:あれは人に在って人に在らず。
子狐:強い霊力を秘めた身体は、毒を喰らっても腐食する事はなく、命だけを奪われた。
子狐:遺された身体の使い道は二つ。
子狐:目玉をくり抜き、その身を人柱として二百年安置し、都の繁栄に役立てる事。
子狐:そしてくり抜いた目玉はその身体を離れると、白目までが透き通るような深紅に染まり、強い霊力の塊となり、領地一つ買える程の額の宝玉となり売られるのだ。
子狐:人間とは馬鹿な生き物だ。
子狐:ぎりぎりまで生かしておけば、まだ何年も使い道はあったろうて。
子狐:そう言って九尾の狐は眠りについた。
子狐:
子狐:ぼくは生きている。
子狐:だが彼はいない。
子狐:たった一度会っただけの人間だ。
子狐:それなのに、ぼくの世界は墨で黒く塗り潰されたように真っ暗で…。
子狐:
子狐:会いたい。
子狐:もう一度。
子狐:
子狐:亡骸でもいい。
子狐:
子狐:貴方を、喰らいたい…。
0:
領主:俺はきっと死ぬのだろう。
領主:焼け付く身体の内部を見ずとも、それくらいは解る。
領主:ああ、何処かで人の笑う声がする。
領主:その、あまりにも愚かな行為に、俺自身も失笑してしまう。
領主:俺を人柱にした所で何が変わる?
領主:そんなに俺の政治が気に入らなかったのか。
領主:隠れてこそこそするよりも、堂々と真正面から意見すれば良かったのだ。
領主:俺はお前達が思っている程無能ではなかったぞ、自惚れではなく、な。
領主:特殊な血は浄化の役目を果たす。
領主:要所要所に自分の血を撒いては歩き回っていた。
領主:都の外にも結界が届くように。
領主:旅人が少しでも闇のものに襲われぬように、念入りに血の結界を形作っていた。
領主:後少し、後少しだったのに…。
領主:今俺を人柱にしても都は栄えぬ。
領主:次に真の領主を授かるのが、いつになるのかなど誰にも解らぬのに…。
領主:
領主:霞んでいく意識の中、ふと、先日の事を思い出した。
領主:山に出た時、臣下の者が小さな妖狐を捕まえて得意げに言っていた。
領主:これを飼って、髪を伸ばさせ、その金糸を売るのだと。
領主:金の髪を持った子供はとても美しく、ひどく幼かった。
領主:この国では金の色を持つものは、全てにおいて価値があったから、あの髪は確かに金になっただろう。
領主:だが。
領主:俺は気付いた時には臣下の腕を、持っていた刀で浅く斬っていた。
領主:これは九尾の一族ぞ。
領主:お前は数千年の呪いを受けたいのか。
領主:この狐に触れてはならぬ。
領主:それとも…金が欲しくば、俺のこの目を持っていくか?
領主:そう問えば、臣下は血相を変えて山を下りて行った。
領主:
領主:悪かったな、狐。
領主:俺は闇のもの達と敵対したい訳ではないのだ。
領主:共存出来たら…と思っている。
領主:領主としてはどうかと思うが、でも、みんな守りたいのだ。
領主:底無しに欲深く、我が儘な男だからな。
領主:ん?この目が珍しいか?この目はな…。
領主:
領主:意識が途切れていく。
領主:…あァ、死ぬんだな…俺。
領主:すまない幼き妖狐よ。
領主:喰わせてやると約束したのに…。
領主:亡骸で良ければ喰ってくれないか。
領主:きっと毒は抜けているだろうから。
領主:おれは人柱の恩恵でしか栄えぬ都も、金の為に目玉をくり抜かれるのも…ごめんだ。
領主:
領主:お前になら許そう。
領主:
領主:俺を、喰ってくれ。
領主:
領主:骨すらも、遺らぬように…。
0:喰らいアイ
0:
子狐:彼が死んだ。
子狐:
子狐:そう聞かされた時、ぼくはまだ幼い狐のままで。
子狐:一人で人の里…ましてや天守まで近付く事など出来はしなくて。
子狐:ただただ、遠く離れた山の上から、彼が安置されているであろう場所を見下ろす事しか出来なかった。
子狐:
子狐:九尾の長(おさ)は言っていた。
子狐:あの領主は殺されたのだと。
子狐:人間の、深い欲という名の毒にて内臓を焼かれ、宝玉(ほうぎょく)を嵌めた容れ物だけを残し、命を落としたのだと…。
子狐:
子狐:彼は言っていた。
子狐:自分は人間にとっても、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の類いにとっても、極上の御馳走になるのだと。
子狐:中でもこの深紅の目が旨いらしいと、目を細めて笑っていた。
子狐:その瞳(ひとみ)があまりにも綺麗だから、貴方を喰ろうてみたいと言ったら、一つ間を置いて、大きく笑われた。
子狐:子狐、お前は喰らうという事の意味が解っているのか。
子狐:…ふ、まァそうだな。
子狐:お前が立派な妖狐になった暁(あかつき)には、一度だけ喰らわせてやる。
子狐:だが、きっと、今のままでは俺は先に死ぬだろう。
子狐:だから。
子狐:死に物狂いで精進するがいい。
子狐:そう言って、優しく笑い、髪を梳かれたのは、ついこの間の事。
子狐:彼はその後、二度と山には入って来なかった。
子狐:
子狐:再び長に訊ねた。
子狐:殺された領主はどうなったのかと。
子狐:長は九本の尾を揺らめかせながら笑う。
子狐:あれは人に在って人に在らず。
子狐:強い霊力を秘めた身体は、毒を喰らっても腐食する事はなく、命だけを奪われた。
子狐:遺された身体の使い道は二つ。
子狐:目玉をくり抜き、その身を人柱として二百年安置し、都の繁栄に役立てる事。
子狐:そしてくり抜いた目玉はその身体を離れると、白目までが透き通るような深紅に染まり、強い霊力の塊となり、領地一つ買える程の額の宝玉となり売られるのだ。
子狐:人間とは馬鹿な生き物だ。
子狐:ぎりぎりまで生かしておけば、まだ何年も使い道はあったろうて。
子狐:そう言って九尾の狐は眠りについた。
子狐:
子狐:ぼくは生きている。
子狐:だが彼はいない。
子狐:たった一度会っただけの人間だ。
子狐:それなのに、ぼくの世界は墨で黒く塗り潰されたように真っ暗で…。
子狐:
子狐:会いたい。
子狐:もう一度。
子狐:
子狐:亡骸でもいい。
子狐:
子狐:貴方を、喰らいたい…。
0:
領主:俺はきっと死ぬのだろう。
領主:焼け付く身体の内部を見ずとも、それくらいは解る。
領主:ああ、何処かで人の笑う声がする。
領主:その、あまりにも愚かな行為に、俺自身も失笑してしまう。
領主:俺を人柱にした所で何が変わる?
領主:そんなに俺の政治が気に入らなかったのか。
領主:隠れてこそこそするよりも、堂々と真正面から意見すれば良かったのだ。
領主:俺はお前達が思っている程無能ではなかったぞ、自惚れではなく、な。
領主:特殊な血は浄化の役目を果たす。
領主:要所要所に自分の血を撒いては歩き回っていた。
領主:都の外にも結界が届くように。
領主:旅人が少しでも闇のものに襲われぬように、念入りに血の結界を形作っていた。
領主:後少し、後少しだったのに…。
領主:今俺を人柱にしても都は栄えぬ。
領主:次に真の領主を授かるのが、いつになるのかなど誰にも解らぬのに…。
領主:
領主:霞んでいく意識の中、ふと、先日の事を思い出した。
領主:山に出た時、臣下の者が小さな妖狐を捕まえて得意げに言っていた。
領主:これを飼って、髪を伸ばさせ、その金糸を売るのだと。
領主:金の髪を持った子供はとても美しく、ひどく幼かった。
領主:この国では金の色を持つものは、全てにおいて価値があったから、あの髪は確かに金になっただろう。
領主:だが。
領主:俺は気付いた時には臣下の腕を、持っていた刀で浅く斬っていた。
領主:これは九尾の一族ぞ。
領主:お前は数千年の呪いを受けたいのか。
領主:この狐に触れてはならぬ。
領主:それとも…金が欲しくば、俺のこの目を持っていくか?
領主:そう問えば、臣下は血相を変えて山を下りて行った。
領主:
領主:悪かったな、狐。
領主:俺は闇のもの達と敵対したい訳ではないのだ。
領主:共存出来たら…と思っている。
領主:領主としてはどうかと思うが、でも、みんな守りたいのだ。
領主:底無しに欲深く、我が儘な男だからな。
領主:ん?この目が珍しいか?この目はな…。
領主:
領主:意識が途切れていく。
領主:…あァ、死ぬんだな…俺。
領主:すまない幼き妖狐よ。
領主:喰わせてやると約束したのに…。
領主:亡骸で良ければ喰ってくれないか。
領主:きっと毒は抜けているだろうから。
領主:おれは人柱の恩恵でしか栄えぬ都も、金の為に目玉をくり抜かれるのも…ごめんだ。
領主:
領主:お前になら許そう。
領主:
領主:俺を、喰ってくれ。
領主:
領主:骨すらも、遺らぬように…。