台本概要

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タイトル MEZA
作者名 天道司
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 ご自由に。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
アリス 58 声優を目指し、上京した少女。
帽子屋 58 少女の前に突如として現れた謎の人物。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
帽子屋:(N)真夜中、ビルの屋上のフェンスを越えた先。 帽子屋:彼女は、ひとり。両足を外に投げ出した状態で腰掛け、風に吹かれていた。 帽子屋:僕は、そっと、彼女の隣に座った。 0: アリス:(M)ノイズ、グレン、チャペル……。 アリス:僕が繰り返し、何度も聴いた大好きな歌。 アリス:シンガーソングライター、メザが世界に生み出した歌。 アリス:僕は、彼女の歌に、声に、世界に、心を奪われた。 アリス:だけど、彼女は、もう、この世界にはいない。 アリス:死因は、オーバードーズ。 アリス:二十歳を迎える前日、彼女は、自殺した。 アリス:遺書には、こう記されていた。 アリス:『大人になりたくないよ』と…。 0: 帽子屋:「君も大人になりたくないのかい?」 アリス:「えっ?」 アリス:(M)気配を全く感じなかった。 アリス:僕の隣には、知らない男が座っていた。 帽子屋:「大人になるのは、嫌?」 アリス:「あなた、誰?」 帽子屋:「最初に質問したのは、僕のほうなんだけどな…。まぁ、いいか…。僕は、帽子屋」 アリス:「帽子屋?」 帽子屋:「そう、今この瞬間において、僕は、帽子屋と名乗ることにした」 アリス:「なにそれ?」 帽子屋:「ただの気まぐれであり、思いつきさ。君の名前は?」 アリス:「僕の名前?」 帽子屋:「そう、君の名前」 アリス:「うーん…。あなたが帽子屋なら、アリスってことにしておこうかな」 帽子屋:「アリスか…。うん。とても、いい名前だ」 アリス:「もちろん、本名じゃないよ?」 帽子屋:「わかってるさ。わかってる…。ねぇ、アリス。君は、大人になりたくないのかい?」 アリス:「どうして、そんな質問をするの?」 帽子屋:「君が、シンガーソングライター、メザのことを考えていたからさ」 アリス:「帽子屋は、人の心が読めるの?」 帽子屋:「少しだけね」 アリス:「心理学?」 帽子屋:「心理学では、ないかな」 アリス:「じゃあ、超能力?」 帽子屋:「あぁ…。そっちのほうが近い」 アリス:「すごいね。人の心が読めるなんて」 帽子屋:「少しだけだよ。そして、不便な能力だ」 アリス:「不便?」 帽子屋:「知りたくないことまで、知ってしまうことになるからね」 アリス:「知りたくないこと?」 帽子屋:「人は、嘘つきだ。口では、調子の良いことを言って、心の中は、悪口ばかり」 アリス:「そうだね。嘘つきばっかり。だから、人を信じるのが怖い。どうせ裏切られるから」 帽子屋:「裏切られる?」 アリス:「信じても、好きになっても、みんな、僕の前からいなくなる」 帽子屋:「いなくなるか…」 アリス:「もう、傷つきたくない。ウンザリなの」 帽子屋:「だから、終わらせるの?」 アリス:「そうだよ。ここから飛び降りたなら、僕もメザと同じになれる。永遠に子どものままでいられる」 帽子屋:「子どものままか…。ねぇ、どうして子どものままでいたいの?」 アリス:「えっ?」 帽子屋:「大人になるって、どういうことなのかな?」 アリス:「大人になる?そんなの、二十歳を超えたら、みんな、大人でしょ?」 帽子屋:「本当にそうかな?」 アリス:「どういうこと?」 帽子屋:「二十歳を超えても、平気で約束を破るし、他人を傷つける。働かずに親のスネをかじって、ネトゲばかりして過ごしている。そんな人たちも、大人と言えるのかな?」 アリス:「そんなの、ただの子どもだよ!」 帽子屋:「君は、そんな子どものままでいたいんだろ?」 アリス:「違う!僕は、メザのような生き方がしたいだけ!」 帽子屋:「それは、どんな生き方?」 アリス:「うーん…。人の心を激しく動かすような生き方かな」 帽子屋:「仮に君が、ここで命を終わらせたとしても、誰かの心を動かすことは、できるのかな?」 アリス:「そんなの、できるわけないよ」 帽子屋:「だったら、君は、メザと同じにはなれない。君は、君だ。ただ、メザという偶像に憧れるだけの、ちっぽけな存在。そんな君が今、命を終わらせても、何も変わらない!何も生まれない!」 アリス:「わかってるよ。そんなことくらい、あなたに言われなくてもわかってる!」 帽子屋:「だったら、生きてくれよ!君は、現実に目を背けて、逃げようとしているだけじゃないのかい?」 アリス:「逃げちゃダメなの?本当に辛いんだよ。あなたには、僕の苦しみがわからないでしょ?」 帽子屋:「わからないよ。でも、わかりたいから、聴かせてほしい」 アリス:「……何を?」 帽子屋:「何でもいいさ。君のことなら、何でも知りたい」 アリス:「心を読めば、いいでしょ?」 帽子屋:「言ったろ?僕の能力は、不便な能力だと…」 アリス:「……」 0: アリス:「僕には、妹がいるの。妹は、可愛くて、要領が良くて、親からも、みんなからも大切にされて」 帽子屋:「……」 アリス:「親が離婚した時も、妹はお母さんに引き取られたけど、僕は引き取ってもらえなかった。そして、仕方なく、お父さんと暮らすことになったけど、いつも暴力ばかり振るわれて、酷い扱いを受けていた」 帽子屋:「……」 アリス:「僕が『声優になりたい』って夢を語った時も、『お前には絶対に無理だからやめろ』って、お父さんに言われて…」 帽子屋:「……」 アリス:「だから、僕は、絶対に声優にならないとダメなの!そのために、上京したの!」 帽子屋:「それなら、声優になればいいだろ?」 アリス:「簡単に言わないで!声優の世界は、そんなに甘くない!今の自分じゃ、全然ダメなの!凄い人がたくさんいるの!知ってるの!知ってしまったの!」 帽子屋:「僕も、君が凄い奴だって知ってるよ」 アリス:「凄くない!何も凄くない!」 帽子屋:「自分が自分を信じてやらないで、どうする?自分の力を信じていたからこそ、上京してきたんだろ?」 アリス:「上京したから分かったんだよ。自分がどれだけ無謀な夢を見ていたのかを!目が覚めたんだよ!だけど、もう、引き返せないし、何をやっても上手く行かないし、これから先のことが不安で、怖くて、苦しいの!」 帽子屋:「苦しいなら、お父さんの待つ家に帰ればいいじゃないか」 アリス:「帰ればいい?簡単に言わないで!『やっぱり声優は無理でした』って、どんな顔して帰ればいいっていうの?そんな惨めな真似、できないよ」 帽子屋:「僕は、惨めだとは思わない。挑戦したことに意味はある。結果よりも、その過程に意味はある」 アリス:「そんなの綺麗事だよ!結果を出さなきゃ意味ないの!僕は、お父さんに認められたい!褒められたいの!」 帽子屋:「そのために、君は今、こんなに痛い想いをしているんだね」 アリス:「そうだよ…。痛いよ…。死にたい…。死にたい!」 帽子屋:「お父さんは、きっと…。僕よりも、ずっと君のことを見てきて、君のことがわかっていたから、こうなることを予想していたんじゃないのかな?」 アリス:「……」 帽子屋:「君に痛い想いをしてほしくないから、生きていてほしいから、愛しているから、声優になる夢を諦めてほしかったんじゃないのかな?」 アリス:「そんなことない!僕は、愛されてなんかない!愛してるなら、あんな酷いことは言わない!」 帽子屋:「酷いこと?」 アリス:「……」 帽子屋:「思い出したくないんだね。なら、無理に話さなくていい」 アリス:「本当に、育てて貰えたとか、親が大事だとか、綺麗事には反吐が出る!こっちは、これ以上ないくらいに屈辱を感じて、たくさん傷ついて、もう、顔も見たくない!」 帽子屋:「……」 アリス:「……」 帽子屋:「どうして、君は今、泣いているの?」 アリス:「……」 帽子屋:「愛にはね。色んな形があるんだよ。君のお父さんは、君に似て、とても不器用なんだと思う」 アリス:「不器用……」 帽子屋:「うん。だから、無理はしなくてもいい。君が今まで頑張ってきたことは、誰よりも、君のお父さんが知っているはずだ」 アリス:「……」 帽子屋:「お父さんが本当に望んでいることは、君が声優になることでも、有名になることでもないんだよ。君が、幸せでいることなんだよ」 アリス:「僕が、幸せに?そんなはず…」 帽子屋:「記憶に蓋をしているだけで、本当は、その中に確かにあるはずなんだ。愛されていた思い出が…」 アリス:「僕は…。僕は!」 帽子屋:「絶対に声優にならなければいけないなんて、自分を追い詰めて、自分の首を絞めなくてもいいんだよ」 アリス:「でも、やっぱり無理だったって、笑われたくないよ!」 帽子屋:「笑われてもいいじゃないか!お父さんの笑顔が見れるならさ!好きなんだろ?お父さんが!」 アリス:「……好きだよ。お父さんが大好きだよ!」 帽子屋:「やっと言えたね……」 アリス:「……」 帽子屋:「もう、大丈夫かな?」 アリス:「えっ?どこにいくの?」 帽子屋:「どこにもいかないよ。姿が見えなくなるだけで、ずっと、そばにいる。アリスのそばにね」 アリス:「姿が見えないなら、いないのと変わらないよ!」 帽子屋:「姿が見えない時のほうが、よく見えるものさ」 アリス:「見えないよ。何も見えない。真っ暗だよ」 帽子屋:「真夜中だからね……」 アリス:「真夜中…。あっ!」 アリス:(M)帽子屋は、光の粒になって、消えていった。 アリス:彼が何者なのか、その正体を僕は知っている。 アリス:だけど、今は……。 0: 帽子屋:「君が生きていてくれるなら」 0: 0:―了―

帽子屋:(N)真夜中、ビルの屋上のフェンスを越えた先。 帽子屋:彼女は、ひとり。両足を外に投げ出した状態で腰掛け、風に吹かれていた。 帽子屋:僕は、そっと、彼女の隣に座った。 0: アリス:(M)ノイズ、グレン、チャペル……。 アリス:僕が繰り返し、何度も聴いた大好きな歌。 アリス:シンガーソングライター、メザが世界に生み出した歌。 アリス:僕は、彼女の歌に、声に、世界に、心を奪われた。 アリス:だけど、彼女は、もう、この世界にはいない。 アリス:死因は、オーバードーズ。 アリス:二十歳を迎える前日、彼女は、自殺した。 アリス:遺書には、こう記されていた。 アリス:『大人になりたくないよ』と…。 0: 帽子屋:「君も大人になりたくないのかい?」 アリス:「えっ?」 アリス:(M)気配を全く感じなかった。 アリス:僕の隣には、知らない男が座っていた。 帽子屋:「大人になるのは、嫌?」 アリス:「あなた、誰?」 帽子屋:「最初に質問したのは、僕のほうなんだけどな…。まぁ、いいか…。僕は、帽子屋」 アリス:「帽子屋?」 帽子屋:「そう、今この瞬間において、僕は、帽子屋と名乗ることにした」 アリス:「なにそれ?」 帽子屋:「ただの気まぐれであり、思いつきさ。君の名前は?」 アリス:「僕の名前?」 帽子屋:「そう、君の名前」 アリス:「うーん…。あなたが帽子屋なら、アリスってことにしておこうかな」 帽子屋:「アリスか…。うん。とても、いい名前だ」 アリス:「もちろん、本名じゃないよ?」 帽子屋:「わかってるさ。わかってる…。ねぇ、アリス。君は、大人になりたくないのかい?」 アリス:「どうして、そんな質問をするの?」 帽子屋:「君が、シンガーソングライター、メザのことを考えていたからさ」 アリス:「帽子屋は、人の心が読めるの?」 帽子屋:「少しだけね」 アリス:「心理学?」 帽子屋:「心理学では、ないかな」 アリス:「じゃあ、超能力?」 帽子屋:「あぁ…。そっちのほうが近い」 アリス:「すごいね。人の心が読めるなんて」 帽子屋:「少しだけだよ。そして、不便な能力だ」 アリス:「不便?」 帽子屋:「知りたくないことまで、知ってしまうことになるからね」 アリス:「知りたくないこと?」 帽子屋:「人は、嘘つきだ。口では、調子の良いことを言って、心の中は、悪口ばかり」 アリス:「そうだね。嘘つきばっかり。だから、人を信じるのが怖い。どうせ裏切られるから」 帽子屋:「裏切られる?」 アリス:「信じても、好きになっても、みんな、僕の前からいなくなる」 帽子屋:「いなくなるか…」 アリス:「もう、傷つきたくない。ウンザリなの」 帽子屋:「だから、終わらせるの?」 アリス:「そうだよ。ここから飛び降りたなら、僕もメザと同じになれる。永遠に子どものままでいられる」 帽子屋:「子どものままか…。ねぇ、どうして子どものままでいたいの?」 アリス:「えっ?」 帽子屋:「大人になるって、どういうことなのかな?」 アリス:「大人になる?そんなの、二十歳を超えたら、みんな、大人でしょ?」 帽子屋:「本当にそうかな?」 アリス:「どういうこと?」 帽子屋:「二十歳を超えても、平気で約束を破るし、他人を傷つける。働かずに親のスネをかじって、ネトゲばかりして過ごしている。そんな人たちも、大人と言えるのかな?」 アリス:「そんなの、ただの子どもだよ!」 帽子屋:「君は、そんな子どものままでいたいんだろ?」 アリス:「違う!僕は、メザのような生き方がしたいだけ!」 帽子屋:「それは、どんな生き方?」 アリス:「うーん…。人の心を激しく動かすような生き方かな」 帽子屋:「仮に君が、ここで命を終わらせたとしても、誰かの心を動かすことは、できるのかな?」 アリス:「そんなの、できるわけないよ」 帽子屋:「だったら、君は、メザと同じにはなれない。君は、君だ。ただ、メザという偶像に憧れるだけの、ちっぽけな存在。そんな君が今、命を終わらせても、何も変わらない!何も生まれない!」 アリス:「わかってるよ。そんなことくらい、あなたに言われなくてもわかってる!」 帽子屋:「だったら、生きてくれよ!君は、現実に目を背けて、逃げようとしているだけじゃないのかい?」 アリス:「逃げちゃダメなの?本当に辛いんだよ。あなたには、僕の苦しみがわからないでしょ?」 帽子屋:「わからないよ。でも、わかりたいから、聴かせてほしい」 アリス:「……何を?」 帽子屋:「何でもいいさ。君のことなら、何でも知りたい」 アリス:「心を読めば、いいでしょ?」 帽子屋:「言ったろ?僕の能力は、不便な能力だと…」 アリス:「……」 0: アリス:「僕には、妹がいるの。妹は、可愛くて、要領が良くて、親からも、みんなからも大切にされて」 帽子屋:「……」 アリス:「親が離婚した時も、妹はお母さんに引き取られたけど、僕は引き取ってもらえなかった。そして、仕方なく、お父さんと暮らすことになったけど、いつも暴力ばかり振るわれて、酷い扱いを受けていた」 帽子屋:「……」 アリス:「僕が『声優になりたい』って夢を語った時も、『お前には絶対に無理だからやめろ』って、お父さんに言われて…」 帽子屋:「……」 アリス:「だから、僕は、絶対に声優にならないとダメなの!そのために、上京したの!」 帽子屋:「それなら、声優になればいいだろ?」 アリス:「簡単に言わないで!声優の世界は、そんなに甘くない!今の自分じゃ、全然ダメなの!凄い人がたくさんいるの!知ってるの!知ってしまったの!」 帽子屋:「僕も、君が凄い奴だって知ってるよ」 アリス:「凄くない!何も凄くない!」 帽子屋:「自分が自分を信じてやらないで、どうする?自分の力を信じていたからこそ、上京してきたんだろ?」 アリス:「上京したから分かったんだよ。自分がどれだけ無謀な夢を見ていたのかを!目が覚めたんだよ!だけど、もう、引き返せないし、何をやっても上手く行かないし、これから先のことが不安で、怖くて、苦しいの!」 帽子屋:「苦しいなら、お父さんの待つ家に帰ればいいじゃないか」 アリス:「帰ればいい?簡単に言わないで!『やっぱり声優は無理でした』って、どんな顔して帰ればいいっていうの?そんな惨めな真似、できないよ」 帽子屋:「僕は、惨めだとは思わない。挑戦したことに意味はある。結果よりも、その過程に意味はある」 アリス:「そんなの綺麗事だよ!結果を出さなきゃ意味ないの!僕は、お父さんに認められたい!褒められたいの!」 帽子屋:「そのために、君は今、こんなに痛い想いをしているんだね」 アリス:「そうだよ…。痛いよ…。死にたい…。死にたい!」 帽子屋:「お父さんは、きっと…。僕よりも、ずっと君のことを見てきて、君のことがわかっていたから、こうなることを予想していたんじゃないのかな?」 アリス:「……」 帽子屋:「君に痛い想いをしてほしくないから、生きていてほしいから、愛しているから、声優になる夢を諦めてほしかったんじゃないのかな?」 アリス:「そんなことない!僕は、愛されてなんかない!愛してるなら、あんな酷いことは言わない!」 帽子屋:「酷いこと?」 アリス:「……」 帽子屋:「思い出したくないんだね。なら、無理に話さなくていい」 アリス:「本当に、育てて貰えたとか、親が大事だとか、綺麗事には反吐が出る!こっちは、これ以上ないくらいに屈辱を感じて、たくさん傷ついて、もう、顔も見たくない!」 帽子屋:「……」 アリス:「……」 帽子屋:「どうして、君は今、泣いているの?」 アリス:「……」 帽子屋:「愛にはね。色んな形があるんだよ。君のお父さんは、君に似て、とても不器用なんだと思う」 アリス:「不器用……」 帽子屋:「うん。だから、無理はしなくてもいい。君が今まで頑張ってきたことは、誰よりも、君のお父さんが知っているはずだ」 アリス:「……」 帽子屋:「お父さんが本当に望んでいることは、君が声優になることでも、有名になることでもないんだよ。君が、幸せでいることなんだよ」 アリス:「僕が、幸せに?そんなはず…」 帽子屋:「記憶に蓋をしているだけで、本当は、その中に確かにあるはずなんだ。愛されていた思い出が…」 アリス:「僕は…。僕は!」 帽子屋:「絶対に声優にならなければいけないなんて、自分を追い詰めて、自分の首を絞めなくてもいいんだよ」 アリス:「でも、やっぱり無理だったって、笑われたくないよ!」 帽子屋:「笑われてもいいじゃないか!お父さんの笑顔が見れるならさ!好きなんだろ?お父さんが!」 アリス:「……好きだよ。お父さんが大好きだよ!」 帽子屋:「やっと言えたね……」 アリス:「……」 帽子屋:「もう、大丈夫かな?」 アリス:「えっ?どこにいくの?」 帽子屋:「どこにもいかないよ。姿が見えなくなるだけで、ずっと、そばにいる。アリスのそばにね」 アリス:「姿が見えないなら、いないのと変わらないよ!」 帽子屋:「姿が見えない時のほうが、よく見えるものさ」 アリス:「見えないよ。何も見えない。真っ暗だよ」 帽子屋:「真夜中だからね……」 アリス:「真夜中…。あっ!」 アリス:(M)帽子屋は、光の粒になって、消えていった。 アリス:彼が何者なのか、その正体を僕は知っている。 アリス:だけど、今は……。 0: 帽子屋:「君が生きていてくれるなら」 0: 0:―了―