台本概要

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タイトル 【前編】ミリオール冒険者ギルドの受付嬢。~ギルドのあいさつ!~
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル コメディ
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 ◆あらすじ◆
片田舎にあるミリオールの町の冒険者ギルドの看板娘、可愛いけれど奇想天外な『お嬢』と強面冒険者の『戦士』さんが送るドタバタコメディ。前編は「ギルドのあいさつ!」後編は「ギルドのうた♪」

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
お嬢 162 ミリオール冒険者ギルドの受付嬢で愛称は『お嬢』。 「明るくてかわいいみんなの人気者」を、自称している。実際のところは「かわいいけど……」と誰もが言葉を詰まらせることで有名な看板娘。なお、本人はそれを誰もが言葉を失う美貌と肯定的に捉えている。
戦士 157 ミリオール冒険者ギルドに所属する真面目だがあまり愛想のよくない戦士。実年齢以上に老けて見える。 以前は名のある冒険者だったとか、実は邪竜退治の英雄だとか、とある王家の血を引いているとか、裏でこの地方一帯の盗賊を纏め上げる盗賊王だとかいろいろ噂されている実力のある戦士。しかし、辺境であるミリオールの町にはそぐわない実力を持つため『お嬢』に一目惚れして住み着いたんじゃないかと噂されている。
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台本本編

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0:◆あらすじ◆ 0:片田舎にあるミリオールの町の冒険者ギルドの看板娘、可愛いけれど奇想天外な『お嬢』と強面冒険者の『戦士』さんが送るドタバタコメディ。前編は「ギルドのあいさつ!」後編は「ギルドのうた♪」 : 0:◆登場人物◆ お嬢:ミリオール冒険者ギルドの受付嬢で愛称は『お嬢』。 お嬢:「明るくてかわいいみんなの人気者」を、自称している。実際のところは「かわいいけど……」と誰もが言葉を詰まらせることで有名な看板娘。なお、本人はそれを誰もが言葉を失う美貌と肯定的に捉えている。 戦士:ミリオール冒険者ギルドに所属する真面目だがあまり愛想のよくない戦士。実年齢以上に老けて見える。 戦士:以前は名のある冒険者だったとか、実は邪竜退治の英雄だとか、とある王家の血を引いているとか、裏でこの地方一帯の盗賊を纏め上げる盗賊王だとかいろいろ噂されている実力のある戦士。しかし、辺境であるミリオールの町にはそぐわない実力を持つため『お嬢』に一目惚れして住み着いたんじゃないかと噂されている。 0:その他モブの冒険者『鬼鹿弓(おにしかゆみ)』『黒包丁(くろほうちょう)』『長々槍(ながながやり)』※なお、台詞はない。 : 0:◆◆◆ : 0:【前編】ミリオール冒険者ギルドの受付嬢。~ギルドのあいさつ!~ : 0:アルデンドルフ大陸北西『ミリオールの町』 0:安い酒場のような外観の冒険者ギルド。 0:実際、酒場と宿屋も兼ねており、昼間から酒を飲む男が三人。 0:賑わっている、とはいえず静か。 0:開け放たれた扉を潜り、戦士が入ってくる。 0:と、一歩踏み入れた瞬間、ギルドのカウンターからひょっこりと顔を出すお嬢。 : お嬢:今日も一日世界を救って心と懐ぽっかぽか♪ あなたのミリオール冒険者ギルドです! : 0:戦士、一瞬大声にびくりとするが、そのままカウンターまで歩いていく。 : 戦士:……相変わらず元気だな、お嬢。 お嬢:いつでも元気百万パーセント! が私のモットーですからね! 戦士:なるほどうるさい訳だ。で、今日のクエストは? お嬢:クエストも良いですけど、先に言うことがあるでしょう? 私に! 戦士:あぁ? ……お嬢、真面目に働けよ? お嬢:うるさいですよ戦士さん! こういう時は「っふ、君はいつも綺麗だね」とか言うのが紳士の嗜みなんですよ! そして淑女たる私が「あら、お上手ですこと」って返すんです! そんなことも知らないんですか⁉ 戦士:知らねぇよ、俺は紳士じゃなくて戦士だからな。 お嬢:あらお上手ですこと⁉ 戦士:そんなことより早くクエストを。 お嬢:もー。せっかちな男は嫌われますよ? 戦士:仕事が遅いとマスターに怒られるぜ? お嬢:っく、正論を……! って訳で。ほいほーい! 今日は——どどん。 : 0:お嬢、カウンター下から紙を三枚出す。 : お嬢:難易度☆1の「芋掘り手伝い」☆2の「腹黒領主様ご機嫌取り」から、☆5万の「裏山に棲む休眠中の血塗られし混沌の竜(ブラッディカオスドラゴン)討伐」まで選り取りみどり~! まぁ、今この三つしか無いんですけど。 戦士:相変わらずシケてんなぁ、このギルド。冒険者が芋掘りって。 お嬢:ま、所詮辺境の弱小ギルドですからねぇ。さぁさぁどうします戦士さん? やっぱここは男らしくブラッディ。いっときます? ちなみに報酬は一億キラル! 戦士:誰が行くかよ。死ぬわ。 お嬢:ご安心を! 死んでも骨くらい拾いますよ! 灰の一粒でも残ってたらですけど! あはははは! 戦士:笑い事じゃねぇんだよ。 お嬢:笑わないと仕事なんてやってられませんからね! 戦士:嫌なこと言ってんなぁ。 お嬢:嫌なことでも笑顔でやるのが仕事なんですよ、戦士さん。 戦士:っは。世知辛いねぇ。 お嬢:というわけで、当ギルドぶっちぎり不人気クエスト。「腹黒領主様ご機嫌取り」はいかが? 報酬はなんと百キラル! 戦士:だからゴミだろ。芋掘りですら一万キラルだぞ。 お嬢:この辺りのお芋は美味しいですからね。当冒険者ギルド人気の手堅く稼げるクエストです。 戦士:冒険してねぇんだよ。まぁでもこの三択だと結局芋掘りだな。たまに害獣駆除とか街までの護衛があるくらいか? なんか他にねぇの? お嬢:他ですか? ふっふっふ~よくぞ聞いてくれました! 戦士:な、なんだよ? お嬢:断然、受付嬢の気まぐれ裏クエストですね! 戦士:裏クエスト? 何だそれ? お嬢:そんなの……決まってるじゃないですか、戦士さん? 戦士:仕事でやらかしたからマスターに謝るとき一緒にきてほしいとかか? お嬢:……アリですね。 戦士:ありなのかよ。 お嬢:えへへ。そうじゃなくて今回は、私と一緒に……! 戦士:一緒に? お嬢:挨拶を考えるのです! 戦士:挨拶? ああ、さっきの珍妙なやつか。お前が考えたのか? お嬢:そうです! この素敵で素晴らしい挨拶! あっちでお酒飲んでる『長々槍(ながながやり)』さんの一言にインスピレーションを得て思いついたんですよ。 戦士:一言? お嬢:「お嬢、ビール一杯! あ、いっけね。懐がすっからかんだ。今日もツケで頼むよ。へへっ、大丈夫、世界救ったらちゃんと払うから! ……かぁぁぁ! 仕事もしねぇで昼間っから飲むビールは格別だなぁ! こりゃあ心も熱くなるってもんさぁ!」って。 戦士:長ぇんだよ。しかしこのギルドほんと碌なのいねぇな……。 お嬢:ねー。でも自分より下がいると安心しますよね。 戦士:ほんと碌なのいねぇわ。 お嬢:せ、戦士さん? そんな熱い瞳で私のことを見つめてどうしたんですか……? 戦士:寧ろ冷たい視線を送ってるんだがな。 お嬢:そんなことより私が考えたんですからね? 戦士:あー。はいはい。 お嬢:えへへ~かわいいでしょ~?  戦士:さっきのエピソードのせいで少しも可愛くなくなったがな。 お嬢:でもすごいでしょ! さぁ褒め称えよ! 戦士:へー、……でも、なんで急にそんなの始めたんだ? お嬢:よくぞ聞いてくれました! 実はですね! 当ギルドの本部から「冒険者だけでなく町の人にも親しみやすいオリジナル挨拶を考えるように」というお達しがありましてね? 戦士:本部のギルド職員の連中は色々考えてんだな。 お嬢:そしてこれは、愛想笑いをさせたら右に出るものが居ないと言われた千年に一人の受付嬢ことミリオール冒険者ギルド看板娘私への宣戦布告に違いないのです! 戦士:挨拶なんじゃなかったのかよ。 お嬢:このミリオールの町じゃあ、喧嘩売るのなんて挨拶みたいなもんだってこと教えてやりますよ! 戦士:いや、そこまでの治安ではねぇよ……。 お嬢:うん、細かいことはさておき、さっそく今日から始めてみました! 戦士:ふぅん。 お嬢:ほらそれに、うちのギルドって、ちょっと暗いというか、なんかそこはかとない場末感が漂ってるじゃないですか? 治安がよろしくないというか。 戦士:さっき喧嘩が挨拶とか言ってたくせによく言うなぁ。 お嬢:あと、子供の教育によくないです。 戦士:まぁ、同意だが。挨拶でどうにかなるもんか、それ? お嬢:さぁ? 戦士:さぁ? って。それよか、あいつら出禁にしたらどうだ? 昼間っから酒飲んでるやつらがずーっと居座ってたらそりゃ、空気も悪くなるだろ。 お嬢:何言ってるんですか戦士さん! 彼らを追い出すなんてとんでもない! 戦士:冗談だよ。ま、人相や雰囲気はアレだが、気のいい連中だしな。 お嬢:そうですよ! 彼らがいなくなったら私が昼間っから仕事中にお酒を飲む口実が無くなってしまいます! それはいけません! 戦士:まず追い出すべきはお前だったな。 お嬢:何言ってるんですか戦士さん! 私を追い出すだなんてとんでもない! 彼らのことはこの際諦めましょう! なので私は! お願い戦士さん! 捨てないで! 私のことを捨てないで! 戦士:……既に酒入ってんだろ、お嬢。 お嬢:失礼な! こんなの呑んだうちに入りませんよ! 私を酔わせようと思ったら、樽一杯は覚悟しておくことです! 私、期待してますからね戦士さん! 戦士:酒豪が。奢らねぇよ。 お嬢:そうそう、ちなみになんですけど。 戦士:あぁ? お嬢:戦士さんが挨拶の標的冒険者第一号ということになりますね! いぇーい! 戦士:話を聞く限りあそこの酔いどれ三兄弟には絶対言ってんだろ? お嬢:いえいえ、彼らはこの世界の背景みたいなものなので、人としてカウントされないんです。ほぉら、耳を澄ましてみてください? 彼らが何を言ってても、何にも聴こえないでしょう? うふふ。 戦士:いや、何言ってんだお前……? お嬢:そもそも、仕事もせずにだらだらと昼間っから酒飲んでる奴なんて人か否かといわれるとかなり微妙なラインでしょう? つまりそう言うことですよ。 戦士:お前自分も、仕事せずだらだらと昼間っから酒飲んでるやつのくせによくもそこまで言えたもんだな。 お嬢:はぁ? 私は、昼間っから酒飲みながらだらだら仕事してるんです。一緒にしないでくださいよ! 失敬な! 戦士:いや、一緒だろ。真面目に働け。 お嬢:真面目に働けば必ず結果が出るとでも? っは! 甘いですね戦士さん! こういうのは楽しく働いた方が効率的なんですよ! 戦士:効率的にサボることに命かけてるやつは言うことが違う。 お嬢:っは! 甘いですね戦士さん! かけてるのが命だけだとでも? お酒もかけてますよ! 私の究極のサボりがマスターにバレないってね! 戦士:おーし、お前らお嬢の奢りだってよぉ! : 0:酔っ払い三人が歓声を上げる。 : お嬢:ちょちょちょ! 告げ口は無効ですよ戦士さん⁉ そこ盛り上がらない! 戦士:えぇ? 俺、この件に関しては部外者だしいいんじゃね? お嬢:私は良くないんですよぉ! 戦士:なんだよ、ビビってんのかお嬢? お嬢:そりゃビビりますよ! あぁぁぁぁマスター怒ったら怖いんですよめちゃくちゃ! 戦士:なら、普段から真面目に働けっての。 お嬢:何言ってるんですか! ギリギリを攻めるのが楽しいんじゃないですか! 戦士:おめぇが何言ってんだ。いっぺんシメられろ。 お嬢:シメるだなんて! マスターがその昔なんて呼ばれていたのか、まさか知らないんですか戦士さん……? 戦士:あー。昔はバリバリ武闘派の冒険者だったんだろ確か、異名は……。 お嬢:ドラゴン縊り。 戦士:……ほんとに縊ったのか? お嬢:らしいですよ! あのはち切れんばかりの剛腕で。ふにっと! 戦士:絶対そんな擬音じゃねぇだろ。 お嬢:じゃあ、もきゅっと? 戦士:可愛らしい感じだけど、それ取れてんじゃねぇか。 お嬢:実際ほんとに取れたらしいですからね。 戦士:人は見かけによらないというか、見かけ通りというか。確かに、あの意味深な笑顔はサクッと何人かヤってるやつのそれだけどな。 お嬢:それについては全面的に同意しますが、 戦士:全面的って。 お嬢:戦士さんが他人の顔について言います? 戦士:あぁ? どういう意味だよ。 お嬢:まさか御自分がアルデンドルフ北西一帯を取り仕切る『影の盗賊王』という裏の顔を持っていることを忘れたんですか? 戦士:身に覚えがねぇよ! なんだその設定初耳だわ。というか、顔ってそういう意味かよ。 お嬢:いえ、普通にそれくらい恐ろしい顔って意味もありますけど? 戦士:はぁ? お嬢:戦士さんは顔だけで裏社会の頂点に立てるって言われてますからね。 戦士:誰にだよ。 お嬢:あの三人。 戦士:おっしゃ、シメるか。 お嬢:そ、それ! その顔ですよ戦士さん! 戦士:え? お嬢:あの、今、めちゃめちゃすごい顔してますからね? 戦士:大げさな。 お嬢:自覚無いんですか? じゃあ、試しにその表情のままあの三人見てください。 戦士:ああ? 分かった。 お嬢:はい! ちゅーもーく! : 0:お嬢の声に振り向いた三人が悲鳴を上げてひっくり返りながら酒を零す。 : お嬢:ね? 戦士:……俺、そんな顔怖い? お嬢:戦士さんの顔はすごく怖いですね。素面だったらヤバかったです。 戦士:そうやって酒飲んでることをここぞとばかりに正当化しようとしてないか? お嬢:なに言ってるんですか。マジですよ。夜中に見たら体中の穴という穴からマンドラゴラがおもむろに生えてくるぐらい怖いです。 戦士:その状況の方がこえーよ。なんだそれ。 お嬢:おや、知らないんですか? 戦士:いや、何を? お嬢:あー。これは王都で今流行りのお芝居の一幕なのですが、 : 0:お嬢、咳ばらいをして語り始める。 : お嬢:嫁いできたばかりの侯爵夫人が、ある満月の夜に物音で目を覚まします。すると、隣で寝ていた筈の侯爵の姿がなくなっていたので、探しにいくことにしました。月明かりの差し込む廊下を壁に手を突いて物音が聴こえる方に進んでいくと、厨房の扉が開いていることに気がつきます。侯爵が夜中に盗み食いでもしていて、見られたと知ったらきっと恥ずかしいだろうと、夫人は気がつかなかったふりをしてそのまま寝室に戻ろうと、踵を返し……すると、背後でぱたんと扉が閉まります。秘密の夜食が終わったのかもしれない。こっそり戻るつもりだったのにうまくいかなかったなと思いながら、夫人は「私は何も見てませんよ」と呟きます。しかし、返事はありません。よほど恥ずかしかったのかもしれないと「夜中にお腹が空いてしまうことくらい誰だってありますわ、二人だけの秘密にしましょう」と、少し楽しそうに続けます。けれどやはり返事はありません。夫人は返事がなくて少し不満だったのか月明かりの下で艶やかに「ですが、どうせ夜中に起き出すなら、私をお召し上がりになってくれたらいいのに」と、冗談めかした様子でそう零します。すると「わかった」と返事がありました。けれどその声は妙にくぐもっていて、夫人は違和感を抱きます。すぐ背後に気配が。夫人が「あなた?」と振り返ると「おまえ、たべる」と呟く侯爵の——いいえ、侯爵の服を纏った恐ろしく巨大なスライムの姿がありました。夫人は「きゃぁぁぁぁぁ」と叫びながら体中の穴という穴から、マンドラゴラをおもむろに生やしました。めでたしめでたし。 戦士:いや、めでたくねぇよ! どんなお芝居だよ! お嬢:えーっと、侯爵は実は錬金術師だったんですが、実験の失敗で全身がスライムになってしまい、夜な夜な起き出しては公爵夫人を粘液でべたべたにするという筋のお話ですね。 戦士:どんな筋の話だよ! B級ホラーかと思ったら侯爵夫人限定なのかよ! ピンク系じゃねぇか! というかなんでマンドラゴラが生えるんだよ! お嬢:演出の都合? メタファー? ほら、あまりに露骨な表現だと教会から指導が入るので……。 戦士:そんな作品絶対流行ってないしそもそもアウトだろ! お嬢:失礼な! 流行ってますよ? 王都の『地下サロン』と呼ばれる一部の貴婦人の集まりで。 戦士:それめちゃくちゃアングラなんじゃねぇか……? なんでそんな微妙な話をお前は知ってるんだよ。 お嬢:知り合いの貴婦人から仕入れました。 戦士:どんだけ顔が広いんだよ、お嬢。 お嬢:ははっ顔がメインヒロインだなんて、……何を当たり前のことを。センターは譲りません。 戦士:自己中心的だもんな。 お嬢:私は朝の顔ですからね。情報通です。 戦士:ネタは夜の話なんだが。というか、朝起きれなくて高確率で寝坊してるくせに、お前どの面で朝の顔とか言ってんだ。ちなみに寝ぐせがハネてんぞ? お嬢:ぐぬ。でもギャップがあってかわいいって評判なんですよ? ちなみに当ギルドはフレックス制を導入している先進的なギルドなので多少朝寝坊しても問題ありません! 戦士:だからって当たり前のように昼から来るな。朝来たら閉まってて、ついにギルド潰れたかと思ったわ。 お嬢:はっはー。そんなこともありましたね。あ。ちなみに、夜じゃなくて昼の話もありますけど聞きたいです? 戦士:はぁ? 昼? お嬢:王妃様と、王様の歳の離れた王弟殿下の庭園でのひそやかな午後の……。 戦士:聞きたくねぇよ。 お嬢:えぇ? ドロドロしててこれはこれでいいものですよ。ドロドロ具合で言えば「スライム侯爵夫人」には負けると思いますが。あと 戦士:物理的にな? お嬢:うーんじゃあ他には……。 戦士:いや、もういいって。 お嬢:あ、戦士さんならこういうのがお好きではないでしょうか? 戦士:うん? お嬢:それぞれ文官、武官としての最高位である、宰相のロベリオ閣下と騎士団長のルディス卿。立場や家の身分の違いから衝突することも多く、顔を合わせる度に嫌味を言い合う二人は王城でも有名だった。けれど二人は幼馴染で、幼少期は一緒によく遊んでいました。しかし、ロベリオ閣下は公爵の、ルディス卿は男爵の出である為、大きくなるにつれて疎遠に。そして、順当に出世して宰相となったロベリオ閣下は、剣の力量と王家への忠義によって王国の中枢に上り詰めてきたルディス卿に対して劣等感を抱いていた。対するルディス卿もまた、下級貴族であり武人であるが故に、教養や品格、派閥闘争といった目に見えない力の中で藻掻き苦しみ、その中で誰より優雅に振る舞うロベリオに同様の感情を抱く。ただしそれは、互いに憧れの裏返しでもあるわけです。そして、数々の事件を乗り越えることで、二人の絆が再び結ばれるという筋のお話……なんですが。 戦士:おー。なるほど。王城を舞台にした二人の熱い友情が描かれるわけだ。悪くないな。 お嬢:ええ、おすすめの純愛ものですよ。 戦士:……うん? お嬢:まぁでも、やっぱ憧れちゃいますよねぇ、王都。 戦士:そうなのか? お嬢:そりゃそうですよ、命懸けで一攫千金狙ってるか、切実にお金が必要でやってる方が大多数の冒険者稼業的には旨味の無い町ですし、その辺りは受付嬢的にもおんなじですね。戦士さんみたいな変人はごく稀ですし。 戦士:誰が変人だ。 お嬢:いえいえ、それが悪いって言ってるわけじゃないんですよ? このミリオールの町も、パッとしねぇ戦士さんも。 戦士:パッとしなくて悪かったな。 お嬢:ほら、窓の外をご覧ください戦士さん。どこまでも続く畑と草原。とーってものどかで、良い町なんですよ。見ていると心が洗わるようなのどかさですよね。あー。のどかでいいところだなぁ。……はぁ。 戦士:溜息出てんじゃねぇかよ。のどかなところしか良いところが思いついてねぇし。 お嬢:仕方ないじゃないですか! 時々思うこともあるんです。あー! 出世してぇ! こんなクソド田舎にある限界ギルド抜け出して王都の中央ギルドの華やかなシティガールになりてぇって! 戦士:本音漏れてんぞ田舎娘。相変わらず口悪すぎだろ、お嬢。 お嬢:あぁ? つっても仕方ねぇだろうがよ、クソが。 戦士:なにが仕方ねぇんだよ、クソが。 お嬢:なにが……? そんくらい自分で考えろよ! : 0:間。 : 戦士:お、お嬢? お嬢:あのさ、テメェらが芋掘りから帰ってきてよぉ、ドロッドロの靴のまんまでウチの酒場に上がり込んできて仕事終わりの一杯だぁ! とかやってんの見ながら、必死で床掃除してるときとかマジでそう思うかんな? 戦士:そ、それは……。でもよぉ、俺らだって仕事頑張って……。 お嬢:はぁ? でもじゃんぇんだよ! あぁ⁉ 仕事頑張って、って何だ? 私は頑張ってねぇとでも? さっき確かに、効率的にサボるとか言ったけどよ、私だって! 私だってなぁ! 最初からこんなんじゃなかったんだもん! 戦士:お、おいおい、落ち着けよ、わ、悪かったって。お嬢。ここは俺の顔に免じて、許してくれよ。な? お嬢:戦士さんの顔面が悪いからなんだっていうんですか! 戦士:言ってねぇけどそんなこと⁉ お嬢:だから、こんなもん飲まねぇとやってらんねぇんすよ! それにてめぇらみてぇな荒くれの畜生どもとツラ合わせてっと、嫌でも口が悪くなっていくに決まってんだろうがよ! それくらい分かれよ! 分かんだろうがよぉ! ボケぇぇ! 私のボケぇぇぇ! : 0:お嬢、泣き崩れる。 : 戦士:お、おい、お嬢……? お嬢:うぇぇーん……。うぇぇぇ。 : 0:酔っ払い三人組、ヤジを飛ばす。 : 戦士:「なーかしたー」じゃねんだよ酔っ払いどもが! ガキか! だぁぁぁ! 泣くんじゃねぇよ! 情緒不安定だなお前……。 お嬢:その日暮らしの冒険者の風情が何安定とか言ってんすかぁ! 安定なんて……安定なんてくそくらえなんっすよぉ……! 戦士:いや、どうしたんだよ、マジで……何言ってるか分かんねぇしそれに、いつでも元気百万パーセントなんじゃなかったのか? お嬢:今の私の元気は五パーセントくらいですよ! 戦士:結構元気そうだが……、にしても、らしくねぇぜお嬢?  お嬢:……は? らしくってなんすか? 戦士さんが私の何を知ってるんすか!  戦士:え、いや、何をって聞かれると……。 お嬢:なんなんすか? 戦士:そりゃ仕事毎日頑張って……はないんだよな。 お嬢:頑張ってますよぉ! 私なりに! 戦士:まぁ、うん。お嬢は、頑張って……がん……。 お嬢:…………。 戦士:がん……ば…………うん。 お嬢:どんだけ認めたくないんすか⁉ 戦士:いや、決してそういうわけでは……。 お嬢:もう、戦士さんなんて嫌いです! だだだだだだだだ大っ嫌いです! 戦士:なんかすごい勢いで嫌いって言うじゃねぇかよ……はぁ。悪かったって……。 お嬢:それ、何に対して謝ってるやつですか? 戦士:え? 不用意な、その、発言が……あー……。お嬢を傷つけた……。みたいな。わる、かった。 お嬢:不用意な発言って、具体的に何ですか? 傷つけたってどれくらいですか? それを戦士さんはなんで悪いと思ったんですか? なんか、誤ってとりあえず済まそうとか思ってませんか? というか、それ、誤ってないですよね? 小娘に頭を下げるのはプライドが許しませんか? そうですよね、戦士さんはいい大人ですもんね。譲ってやってる。そういう認識があるんじゃないんですか? 戦士:…………。 お嬢:何黙ってるんですか? 黙ってた許されるって思ってます? 今度は被害者面ですか? 戦士:え……。そんな言われるくらい、俺って悪いことしたか……? お嬢:極悪です。 戦士:え? お嬢:顔が。 戦士:は? お嬢:やーいやーい。戦士さんの極悪盗賊面~。 戦士:…………こんにゃろ! 俺のこと揶揄ってやがったな! お嬢:っひ⁉ ちょっと調子に乗っただけじゃないですか! そんな鬼がショック死しそうな顔やめてください⁉ 戦士:お嬢てめぇ、さては今までのも全部嘘泣きだなぁ? お嬢:う、嘘じゃないです、悲しかったのも本当なんですよ! だって何やっても基本、私が皆さんを褒めることはあっても、皆さんが私を褒めることってないんですよ⁉ 戦士:はぁ? 何言ってんだ? お嬢:つまり、私の心は酒と褒めに渇きを覚えてるんです!  酒と称賛の言葉を浴びる程飲みたいって思うのはいけないことですか⁉ 戦士:知らねぇよ……。誉め言葉はさておき、酒を勤務中に浴びる程飲もうとすんのはいけねぇことだと思うが? ていうか、お嬢に褒められた記憶なんか俺はねぇよ。 お嬢:え? ありますよ? さっきもすごいって褒めてたじゃないですか? 戦士:さっき……? いつだよ。 お嬢:ほら、私言いましたよね、戦士さんの顔は『すごく』怖いですね。って。 戦士:すごいの意味が違うんだよなぁ! お嬢:あっはっは! 戦士:それで言ったらお嬢の面の皮もすごく厚いだろうが! お嬢:ええ、その上人望も篤いなんて、私ったら罪な受付嬢。 戦士:いっぺんちゃんと罰を与えられた方が良いんじゃねぇか? お嬢:罰よりも、だから褒賞が欲しいんですよ。私の話聞いてましたか、戦士さん? 戦士:お嬢にだけは言われたくねぇ台詞だな。 お嬢:褒賞と言えばですね。 戦士:こいつ舌の根も乾かねぇうちに……。 お嬢:出るんですよ。 戦士:出るって、何が。 お嬢:十万キラル。 戦士:十万? お嬢:そう、冒険者ギルド挨拶定型文コンテスト最優秀賞を受賞したら賞金十万キラルが贈呈されるんですよ! 戦士:定型文って……。 お嬢:どうです⁉ 戦士:それで珍しく、仕事熱心? だったのか。 お嬢:ええ、私は模範的受付嬢なので! 戦士:こんなの模範にしたらギルド滅ぶわ。 お嬢:でも、世界は救われると思いますよ? 戦士:どこから来るんだその妙な自信……。 お嬢:どこからともなく? 戦士:もうお嬢が勇者名乗ったらいいんじゃねぇか? お嬢:いえいえ、私は陰ながら祈っていますよ。戦士さんたちに花を供えるのも受付嬢の嗜みですから。 戦士:花を添える、だろ。供えて祈ったらもうそれ墓参りなんだわ。 お嬢:平和に犠牲はつきものですからね。そして、今日も一日世界を救って心と懐ぽっかぽか♪ あなたの活躍は決して忘れない! ミリオール冒険者ギルドです! 戦士:……なんか付け足されてねぇか? お嬢:かわいいでしょ? 戦士:いや、可愛くねぇしなんかちょっと不穏なんだよ……。当初の達成目標である「町の人にも親しみやすい挨拶」ってところ忘れてないか? お嬢:うーん、でも、私考えたんですよ。冒険者稼業って、常に死と隣り合わせと言いますか、あっさりと命の火が吹き消されることも珍しくない訳じゃないですか。そういうちょっとハードなところも見せてった方が良いと思うんですよね? 労災とかもないですし。 戦士:それは……一理あるな。キャッチーなフレーズに踊らされてギルドに入ってみたはいいが、いざ討伐クエストなんか受けてみると、ガチで命の取り合いなんだよな。鶏絞めれるかどうか、くらいの少年が、いきなり人間よりは少しちいせぇが言葉っぽいの喋りながら襲い掛かってくるゴブリンとかを躊躇無く仕留められるかと言えば……。まぁな。 お嬢:ギルドや冒険に夢を抱くのも大事ですけど、ね。本職の冒険者さんはやっぱり過酷ですからね。 戦士:まぁ、そういうこったな……。 お嬢:ええ……と、いうことを加味したうえで、神ってるかわいい挨拶を! 女神ってるかわいい私と一緒に! どうですか戦士さん⁉ 戦士:俺、手伝う流れなのか……? お嬢:だって、戦士さんって、このギルドの冒険者で一番ランク高いし、クエストもかなり丁寧ですし、名が知れてるすごい……あ。顔がすごい怖いことで他のギルドでも名が知れてるんですからね! 戦士:えぇ……⁉ そ、そんなに俺の顔の悪評が……? えー……もう他所のギルド行けねぇじゃねぇかよ! お嬢:あ、あったりまえじゃないですか! 戦士さんはこのミリオール冒険者ギルド以外に居場所なんてないんですよ! 諦めて馬の骨をうずめてください! 戦士:名が知られてるのに、馬の骨扱いなのかよ。 お嬢:(小声)戦士さんのすごさは私だけが、知っていればいいんです。 戦士:なんか言ったか? お嬢:……戦士さんの顔はやっぱすげぇやって言ったんですよ。誉め言葉です。 戦士:あっそ。どうせ悪人面だよ。……あ、そういえばよ。 お嬢:なんですか戦士さん? 前科でも思い出しました? 戦士:思い出すか! じゃなくて……報酬は? お嬢:何のことですか? 戦士:いや、それ賞金出るんだろ? 挨拶考えるだけで十万ならやるけどよ。 お嬢:お! さっすが戦士さん! ノリ良いですねぇ! 大好き! 戦士:だ……⁉ お嬢:ではでは~クエスト受注ということで‼ よろしいですね? 戦士:いいけど、分け前は幾らかって聞いてんだよ。 お嬢:あー。報酬はですね……。 戦士:報酬は? お嬢:私の笑顔! にこっ! 戦士:芋掘りいってきまーす。 お嬢:あ、あ、待ってください戦士さん!  戦士:何だ? お嬢:取り分は私が九、戦士さんが一! 戦士:は? ざけんな!  お嬢:八対二。 戦士:…………七対三。 お嬢:…………八対一対一! 戦士:いやなんでだよ、何の一なんだよ! お嬢:いえ、功労者である『長々槍(ながながやり)』さんのこと忘れてましたので。 戦士:功労者扱いなのかよ『長々槍(ながながやり)』。というか適当な理由付けて八割は絶対に持っていこうとしてるだけだろお嬢。 お嬢:ぎ、ぎくぅ⁉ 戦士:取り消しだ取り消し! お嬢:え、え~? い、嫌なんですかぁ? 戦士:嫌に決まってんだろ! 不平等すぎるわ! お嬢:でもでもぉ、クエストをやめるならキャンセル料発生しちゃいますし~? キャンセル料は十万キラル! 戦士:なんで俺に渡す賞金の額より高くなるんだよ! 相場は報酬の百分の一だろ! 明らかにぼったくりじゃねぇか! お嬢:まぁ、それは冗談なんですけど。 戦士:嘘つけ。 お嬢:でも戦士さん、本当にいいんですかぁ? 戦士:はぁ? 何がだよ。 お嬢:戦士が一度やるって決めたこと覆すってかっこ悪くないですかぁ~? 戦士:……なに? お嬢:あっ、戦士さぁん? もしかしてイモ引いてんですか? 芋掘りやりすぎて、頭の中までおイモさんなんですかぁ? やーい、イモ戦士ぃ! 戦士:こんにゃろう……っ! あぁ! わかったよ、やってやるよ! お嬢:ふっふっふ~! 戦士さんならそう言うと思ってましたよ! ふぅ~! かっこいい~! 戦士:ふんっ。……あぁ。それと、取り分はあそこの三人組巻き込んで六対一対一対一対一だ。これは譲らねぇ。 お嬢:戦士さん、三人と報酬一緒でいいんですか? というか、私六でも? 戦士:もとはお嬢がやろうって言ったんだしな。あと、あいつらと俺に上下関係なんてねぇんだし妥当だろ? お嬢:そういうとこ、ほんといいですよね。戦士さん。 戦士:何がだ? お嬢:えへへ、なんでも。じゃあそんなわけで! 皆さん一緒に頑張りましょうね♪ : 0:三人、歓声を上げながら、戦士とお嬢の席を用意する。 0:戦士とお嬢、用意された席に移動する。 : 戦士:……まぁ、俺はパッと考えたら今度こそ芋掘り行ってくるけどな? お嬢:……どんだけ芋掘り行きたいんですか戦士さん。もう農家になればいいのでは? 戦士:うるせぇ。 お嬢:ふふっ。 : 0:以下お好みでオリジナル挨拶を考えてみてください。 : お嬢:ようこそ! あなたのミリオール冒険者ギルド!

0:◆あらすじ◆ 0:片田舎にあるミリオールの町の冒険者ギルドの看板娘、可愛いけれど奇想天外な『お嬢』と強面冒険者の『戦士』さんが送るドタバタコメディ。前編は「ギルドのあいさつ!」後編は「ギルドのうた♪」 : 0:◆登場人物◆ お嬢:ミリオール冒険者ギルドの受付嬢で愛称は『お嬢』。 お嬢:「明るくてかわいいみんなの人気者」を、自称している。実際のところは「かわいいけど……」と誰もが言葉を詰まらせることで有名な看板娘。なお、本人はそれを誰もが言葉を失う美貌と肯定的に捉えている。 戦士:ミリオール冒険者ギルドに所属する真面目だがあまり愛想のよくない戦士。実年齢以上に老けて見える。 戦士:以前は名のある冒険者だったとか、実は邪竜退治の英雄だとか、とある王家の血を引いているとか、裏でこの地方一帯の盗賊を纏め上げる盗賊王だとかいろいろ噂されている実力のある戦士。しかし、辺境であるミリオールの町にはそぐわない実力を持つため『お嬢』に一目惚れして住み着いたんじゃないかと噂されている。 0:その他モブの冒険者『鬼鹿弓(おにしかゆみ)』『黒包丁(くろほうちょう)』『長々槍(ながながやり)』※なお、台詞はない。 : 0:◆◆◆ : 0:【前編】ミリオール冒険者ギルドの受付嬢。~ギルドのあいさつ!~ : 0:アルデンドルフ大陸北西『ミリオールの町』 0:安い酒場のような外観の冒険者ギルド。 0:実際、酒場と宿屋も兼ねており、昼間から酒を飲む男が三人。 0:賑わっている、とはいえず静か。 0:開け放たれた扉を潜り、戦士が入ってくる。 0:と、一歩踏み入れた瞬間、ギルドのカウンターからひょっこりと顔を出すお嬢。 : お嬢:今日も一日世界を救って心と懐ぽっかぽか♪ あなたのミリオール冒険者ギルドです! : 0:戦士、一瞬大声にびくりとするが、そのままカウンターまで歩いていく。 : 戦士:……相変わらず元気だな、お嬢。 お嬢:いつでも元気百万パーセント! が私のモットーですからね! 戦士:なるほどうるさい訳だ。で、今日のクエストは? お嬢:クエストも良いですけど、先に言うことがあるでしょう? 私に! 戦士:あぁ? ……お嬢、真面目に働けよ? お嬢:うるさいですよ戦士さん! こういう時は「っふ、君はいつも綺麗だね」とか言うのが紳士の嗜みなんですよ! そして淑女たる私が「あら、お上手ですこと」って返すんです! そんなことも知らないんですか⁉ 戦士:知らねぇよ、俺は紳士じゃなくて戦士だからな。 お嬢:あらお上手ですこと⁉ 戦士:そんなことより早くクエストを。 お嬢:もー。せっかちな男は嫌われますよ? 戦士:仕事が遅いとマスターに怒られるぜ? お嬢:っく、正論を……! って訳で。ほいほーい! 今日は——どどん。 : 0:お嬢、カウンター下から紙を三枚出す。 : お嬢:難易度☆1の「芋掘り手伝い」☆2の「腹黒領主様ご機嫌取り」から、☆5万の「裏山に棲む休眠中の血塗られし混沌の竜(ブラッディカオスドラゴン)討伐」まで選り取りみどり~! まぁ、今この三つしか無いんですけど。 戦士:相変わらずシケてんなぁ、このギルド。冒険者が芋掘りって。 お嬢:ま、所詮辺境の弱小ギルドですからねぇ。さぁさぁどうします戦士さん? やっぱここは男らしくブラッディ。いっときます? ちなみに報酬は一億キラル! 戦士:誰が行くかよ。死ぬわ。 お嬢:ご安心を! 死んでも骨くらい拾いますよ! 灰の一粒でも残ってたらですけど! あはははは! 戦士:笑い事じゃねぇんだよ。 お嬢:笑わないと仕事なんてやってられませんからね! 戦士:嫌なこと言ってんなぁ。 お嬢:嫌なことでも笑顔でやるのが仕事なんですよ、戦士さん。 戦士:っは。世知辛いねぇ。 お嬢:というわけで、当ギルドぶっちぎり不人気クエスト。「腹黒領主様ご機嫌取り」はいかが? 報酬はなんと百キラル! 戦士:だからゴミだろ。芋掘りですら一万キラルだぞ。 お嬢:この辺りのお芋は美味しいですからね。当冒険者ギルド人気の手堅く稼げるクエストです。 戦士:冒険してねぇんだよ。まぁでもこの三択だと結局芋掘りだな。たまに害獣駆除とか街までの護衛があるくらいか? なんか他にねぇの? お嬢:他ですか? ふっふっふ~よくぞ聞いてくれました! 戦士:な、なんだよ? お嬢:断然、受付嬢の気まぐれ裏クエストですね! 戦士:裏クエスト? 何だそれ? お嬢:そんなの……決まってるじゃないですか、戦士さん? 戦士:仕事でやらかしたからマスターに謝るとき一緒にきてほしいとかか? お嬢:……アリですね。 戦士:ありなのかよ。 お嬢:えへへ。そうじゃなくて今回は、私と一緒に……! 戦士:一緒に? お嬢:挨拶を考えるのです! 戦士:挨拶? ああ、さっきの珍妙なやつか。お前が考えたのか? お嬢:そうです! この素敵で素晴らしい挨拶! あっちでお酒飲んでる『長々槍(ながながやり)』さんの一言にインスピレーションを得て思いついたんですよ。 戦士:一言? お嬢:「お嬢、ビール一杯! あ、いっけね。懐がすっからかんだ。今日もツケで頼むよ。へへっ、大丈夫、世界救ったらちゃんと払うから! ……かぁぁぁ! 仕事もしねぇで昼間っから飲むビールは格別だなぁ! こりゃあ心も熱くなるってもんさぁ!」って。 戦士:長ぇんだよ。しかしこのギルドほんと碌なのいねぇな……。 お嬢:ねー。でも自分より下がいると安心しますよね。 戦士:ほんと碌なのいねぇわ。 お嬢:せ、戦士さん? そんな熱い瞳で私のことを見つめてどうしたんですか……? 戦士:寧ろ冷たい視線を送ってるんだがな。 お嬢:そんなことより私が考えたんですからね? 戦士:あー。はいはい。 お嬢:えへへ~かわいいでしょ~?  戦士:さっきのエピソードのせいで少しも可愛くなくなったがな。 お嬢:でもすごいでしょ! さぁ褒め称えよ! 戦士:へー、……でも、なんで急にそんなの始めたんだ? お嬢:よくぞ聞いてくれました! 実はですね! 当ギルドの本部から「冒険者だけでなく町の人にも親しみやすいオリジナル挨拶を考えるように」というお達しがありましてね? 戦士:本部のギルド職員の連中は色々考えてんだな。 お嬢:そしてこれは、愛想笑いをさせたら右に出るものが居ないと言われた千年に一人の受付嬢ことミリオール冒険者ギルド看板娘私への宣戦布告に違いないのです! 戦士:挨拶なんじゃなかったのかよ。 お嬢:このミリオールの町じゃあ、喧嘩売るのなんて挨拶みたいなもんだってこと教えてやりますよ! 戦士:いや、そこまでの治安ではねぇよ……。 お嬢:うん、細かいことはさておき、さっそく今日から始めてみました! 戦士:ふぅん。 お嬢:ほらそれに、うちのギルドって、ちょっと暗いというか、なんかそこはかとない場末感が漂ってるじゃないですか? 治安がよろしくないというか。 戦士:さっき喧嘩が挨拶とか言ってたくせによく言うなぁ。 お嬢:あと、子供の教育によくないです。 戦士:まぁ、同意だが。挨拶でどうにかなるもんか、それ? お嬢:さぁ? 戦士:さぁ? って。それよか、あいつら出禁にしたらどうだ? 昼間っから酒飲んでるやつらがずーっと居座ってたらそりゃ、空気も悪くなるだろ。 お嬢:何言ってるんですか戦士さん! 彼らを追い出すなんてとんでもない! 戦士:冗談だよ。ま、人相や雰囲気はアレだが、気のいい連中だしな。 お嬢:そうですよ! 彼らがいなくなったら私が昼間っから仕事中にお酒を飲む口実が無くなってしまいます! それはいけません! 戦士:まず追い出すべきはお前だったな。 お嬢:何言ってるんですか戦士さん! 私を追い出すだなんてとんでもない! 彼らのことはこの際諦めましょう! なので私は! お願い戦士さん! 捨てないで! 私のことを捨てないで! 戦士:……既に酒入ってんだろ、お嬢。 お嬢:失礼な! こんなの呑んだうちに入りませんよ! 私を酔わせようと思ったら、樽一杯は覚悟しておくことです! 私、期待してますからね戦士さん! 戦士:酒豪が。奢らねぇよ。 お嬢:そうそう、ちなみになんですけど。 戦士:あぁ? お嬢:戦士さんが挨拶の標的冒険者第一号ということになりますね! いぇーい! 戦士:話を聞く限りあそこの酔いどれ三兄弟には絶対言ってんだろ? お嬢:いえいえ、彼らはこの世界の背景みたいなものなので、人としてカウントされないんです。ほぉら、耳を澄ましてみてください? 彼らが何を言ってても、何にも聴こえないでしょう? うふふ。 戦士:いや、何言ってんだお前……? お嬢:そもそも、仕事もせずにだらだらと昼間っから酒飲んでる奴なんて人か否かといわれるとかなり微妙なラインでしょう? つまりそう言うことですよ。 戦士:お前自分も、仕事せずだらだらと昼間っから酒飲んでるやつのくせによくもそこまで言えたもんだな。 お嬢:はぁ? 私は、昼間っから酒飲みながらだらだら仕事してるんです。一緒にしないでくださいよ! 失敬な! 戦士:いや、一緒だろ。真面目に働け。 お嬢:真面目に働けば必ず結果が出るとでも? っは! 甘いですね戦士さん! こういうのは楽しく働いた方が効率的なんですよ! 戦士:効率的にサボることに命かけてるやつは言うことが違う。 お嬢:っは! 甘いですね戦士さん! かけてるのが命だけだとでも? お酒もかけてますよ! 私の究極のサボりがマスターにバレないってね! 戦士:おーし、お前らお嬢の奢りだってよぉ! : 0:酔っ払い三人が歓声を上げる。 : お嬢:ちょちょちょ! 告げ口は無効ですよ戦士さん⁉ そこ盛り上がらない! 戦士:えぇ? 俺、この件に関しては部外者だしいいんじゃね? お嬢:私は良くないんですよぉ! 戦士:なんだよ、ビビってんのかお嬢? お嬢:そりゃビビりますよ! あぁぁぁぁマスター怒ったら怖いんですよめちゃくちゃ! 戦士:なら、普段から真面目に働けっての。 お嬢:何言ってるんですか! ギリギリを攻めるのが楽しいんじゃないですか! 戦士:おめぇが何言ってんだ。いっぺんシメられろ。 お嬢:シメるだなんて! マスターがその昔なんて呼ばれていたのか、まさか知らないんですか戦士さん……? 戦士:あー。昔はバリバリ武闘派の冒険者だったんだろ確か、異名は……。 お嬢:ドラゴン縊り。 戦士:……ほんとに縊ったのか? お嬢:らしいですよ! あのはち切れんばかりの剛腕で。ふにっと! 戦士:絶対そんな擬音じゃねぇだろ。 お嬢:じゃあ、もきゅっと? 戦士:可愛らしい感じだけど、それ取れてんじゃねぇか。 お嬢:実際ほんとに取れたらしいですからね。 戦士:人は見かけによらないというか、見かけ通りというか。確かに、あの意味深な笑顔はサクッと何人かヤってるやつのそれだけどな。 お嬢:それについては全面的に同意しますが、 戦士:全面的って。 お嬢:戦士さんが他人の顔について言います? 戦士:あぁ? どういう意味だよ。 お嬢:まさか御自分がアルデンドルフ北西一帯を取り仕切る『影の盗賊王』という裏の顔を持っていることを忘れたんですか? 戦士:身に覚えがねぇよ! なんだその設定初耳だわ。というか、顔ってそういう意味かよ。 お嬢:いえ、普通にそれくらい恐ろしい顔って意味もありますけど? 戦士:はぁ? お嬢:戦士さんは顔だけで裏社会の頂点に立てるって言われてますからね。 戦士:誰にだよ。 お嬢:あの三人。 戦士:おっしゃ、シメるか。 お嬢:そ、それ! その顔ですよ戦士さん! 戦士:え? お嬢:あの、今、めちゃめちゃすごい顔してますからね? 戦士:大げさな。 お嬢:自覚無いんですか? じゃあ、試しにその表情のままあの三人見てください。 戦士:ああ? 分かった。 お嬢:はい! ちゅーもーく! : 0:お嬢の声に振り向いた三人が悲鳴を上げてひっくり返りながら酒を零す。 : お嬢:ね? 戦士:……俺、そんな顔怖い? お嬢:戦士さんの顔はすごく怖いですね。素面だったらヤバかったです。 戦士:そうやって酒飲んでることをここぞとばかりに正当化しようとしてないか? お嬢:なに言ってるんですか。マジですよ。夜中に見たら体中の穴という穴からマンドラゴラがおもむろに生えてくるぐらい怖いです。 戦士:その状況の方がこえーよ。なんだそれ。 お嬢:おや、知らないんですか? 戦士:いや、何を? お嬢:あー。これは王都で今流行りのお芝居の一幕なのですが、 : 0:お嬢、咳ばらいをして語り始める。 : お嬢:嫁いできたばかりの侯爵夫人が、ある満月の夜に物音で目を覚まします。すると、隣で寝ていた筈の侯爵の姿がなくなっていたので、探しにいくことにしました。月明かりの差し込む廊下を壁に手を突いて物音が聴こえる方に進んでいくと、厨房の扉が開いていることに気がつきます。侯爵が夜中に盗み食いでもしていて、見られたと知ったらきっと恥ずかしいだろうと、夫人は気がつかなかったふりをしてそのまま寝室に戻ろうと、踵を返し……すると、背後でぱたんと扉が閉まります。秘密の夜食が終わったのかもしれない。こっそり戻るつもりだったのにうまくいかなかったなと思いながら、夫人は「私は何も見てませんよ」と呟きます。しかし、返事はありません。よほど恥ずかしかったのかもしれないと「夜中にお腹が空いてしまうことくらい誰だってありますわ、二人だけの秘密にしましょう」と、少し楽しそうに続けます。けれどやはり返事はありません。夫人は返事がなくて少し不満だったのか月明かりの下で艶やかに「ですが、どうせ夜中に起き出すなら、私をお召し上がりになってくれたらいいのに」と、冗談めかした様子でそう零します。すると「わかった」と返事がありました。けれどその声は妙にくぐもっていて、夫人は違和感を抱きます。すぐ背後に気配が。夫人が「あなた?」と振り返ると「おまえ、たべる」と呟く侯爵の——いいえ、侯爵の服を纏った恐ろしく巨大なスライムの姿がありました。夫人は「きゃぁぁぁぁぁ」と叫びながら体中の穴という穴から、マンドラゴラをおもむろに生やしました。めでたしめでたし。 戦士:いや、めでたくねぇよ! どんなお芝居だよ! お嬢:えーっと、侯爵は実は錬金術師だったんですが、実験の失敗で全身がスライムになってしまい、夜な夜な起き出しては公爵夫人を粘液でべたべたにするという筋のお話ですね。 戦士:どんな筋の話だよ! B級ホラーかと思ったら侯爵夫人限定なのかよ! ピンク系じゃねぇか! というかなんでマンドラゴラが生えるんだよ! お嬢:演出の都合? メタファー? ほら、あまりに露骨な表現だと教会から指導が入るので……。 戦士:そんな作品絶対流行ってないしそもそもアウトだろ! お嬢:失礼な! 流行ってますよ? 王都の『地下サロン』と呼ばれる一部の貴婦人の集まりで。 戦士:それめちゃくちゃアングラなんじゃねぇか……? なんでそんな微妙な話をお前は知ってるんだよ。 お嬢:知り合いの貴婦人から仕入れました。 戦士:どんだけ顔が広いんだよ、お嬢。 お嬢:ははっ顔がメインヒロインだなんて、……何を当たり前のことを。センターは譲りません。 戦士:自己中心的だもんな。 お嬢:私は朝の顔ですからね。情報通です。 戦士:ネタは夜の話なんだが。というか、朝起きれなくて高確率で寝坊してるくせに、お前どの面で朝の顔とか言ってんだ。ちなみに寝ぐせがハネてんぞ? お嬢:ぐぬ。でもギャップがあってかわいいって評判なんですよ? ちなみに当ギルドはフレックス制を導入している先進的なギルドなので多少朝寝坊しても問題ありません! 戦士:だからって当たり前のように昼から来るな。朝来たら閉まってて、ついにギルド潰れたかと思ったわ。 お嬢:はっはー。そんなこともありましたね。あ。ちなみに、夜じゃなくて昼の話もありますけど聞きたいです? 戦士:はぁ? 昼? お嬢:王妃様と、王様の歳の離れた王弟殿下の庭園でのひそやかな午後の……。 戦士:聞きたくねぇよ。 お嬢:えぇ? ドロドロしててこれはこれでいいものですよ。ドロドロ具合で言えば「スライム侯爵夫人」には負けると思いますが。あと 戦士:物理的にな? お嬢:うーんじゃあ他には……。 戦士:いや、もういいって。 お嬢:あ、戦士さんならこういうのがお好きではないでしょうか? 戦士:うん? お嬢:それぞれ文官、武官としての最高位である、宰相のロベリオ閣下と騎士団長のルディス卿。立場や家の身分の違いから衝突することも多く、顔を合わせる度に嫌味を言い合う二人は王城でも有名だった。けれど二人は幼馴染で、幼少期は一緒によく遊んでいました。しかし、ロベリオ閣下は公爵の、ルディス卿は男爵の出である為、大きくなるにつれて疎遠に。そして、順当に出世して宰相となったロベリオ閣下は、剣の力量と王家への忠義によって王国の中枢に上り詰めてきたルディス卿に対して劣等感を抱いていた。対するルディス卿もまた、下級貴族であり武人であるが故に、教養や品格、派閥闘争といった目に見えない力の中で藻掻き苦しみ、その中で誰より優雅に振る舞うロベリオに同様の感情を抱く。ただしそれは、互いに憧れの裏返しでもあるわけです。そして、数々の事件を乗り越えることで、二人の絆が再び結ばれるという筋のお話……なんですが。 戦士:おー。なるほど。王城を舞台にした二人の熱い友情が描かれるわけだ。悪くないな。 お嬢:ええ、おすすめの純愛ものですよ。 戦士:……うん? お嬢:まぁでも、やっぱ憧れちゃいますよねぇ、王都。 戦士:そうなのか? お嬢:そりゃそうですよ、命懸けで一攫千金狙ってるか、切実にお金が必要でやってる方が大多数の冒険者稼業的には旨味の無い町ですし、その辺りは受付嬢的にもおんなじですね。戦士さんみたいな変人はごく稀ですし。 戦士:誰が変人だ。 お嬢:いえいえ、それが悪いって言ってるわけじゃないんですよ? このミリオールの町も、パッとしねぇ戦士さんも。 戦士:パッとしなくて悪かったな。 お嬢:ほら、窓の外をご覧ください戦士さん。どこまでも続く畑と草原。とーってものどかで、良い町なんですよ。見ていると心が洗わるようなのどかさですよね。あー。のどかでいいところだなぁ。……はぁ。 戦士:溜息出てんじゃねぇかよ。のどかなところしか良いところが思いついてねぇし。 お嬢:仕方ないじゃないですか! 時々思うこともあるんです。あー! 出世してぇ! こんなクソド田舎にある限界ギルド抜け出して王都の中央ギルドの華やかなシティガールになりてぇって! 戦士:本音漏れてんぞ田舎娘。相変わらず口悪すぎだろ、お嬢。 お嬢:あぁ? つっても仕方ねぇだろうがよ、クソが。 戦士:なにが仕方ねぇんだよ、クソが。 お嬢:なにが……? そんくらい自分で考えろよ! : 0:間。 : 戦士:お、お嬢? お嬢:あのさ、テメェらが芋掘りから帰ってきてよぉ、ドロッドロの靴のまんまでウチの酒場に上がり込んできて仕事終わりの一杯だぁ! とかやってんの見ながら、必死で床掃除してるときとかマジでそう思うかんな? 戦士:そ、それは……。でもよぉ、俺らだって仕事頑張って……。 お嬢:はぁ? でもじゃんぇんだよ! あぁ⁉ 仕事頑張って、って何だ? 私は頑張ってねぇとでも? さっき確かに、効率的にサボるとか言ったけどよ、私だって! 私だってなぁ! 最初からこんなんじゃなかったんだもん! 戦士:お、おいおい、落ち着けよ、わ、悪かったって。お嬢。ここは俺の顔に免じて、許してくれよ。な? お嬢:戦士さんの顔面が悪いからなんだっていうんですか! 戦士:言ってねぇけどそんなこと⁉ お嬢:だから、こんなもん飲まねぇとやってらんねぇんすよ! それにてめぇらみてぇな荒くれの畜生どもとツラ合わせてっと、嫌でも口が悪くなっていくに決まってんだろうがよ! それくらい分かれよ! 分かんだろうがよぉ! ボケぇぇ! 私のボケぇぇぇ! : 0:お嬢、泣き崩れる。 : 戦士:お、おい、お嬢……? お嬢:うぇぇーん……。うぇぇぇ。 : 0:酔っ払い三人組、ヤジを飛ばす。 : 戦士:「なーかしたー」じゃねんだよ酔っ払いどもが! ガキか! だぁぁぁ! 泣くんじゃねぇよ! 情緒不安定だなお前……。 お嬢:その日暮らしの冒険者の風情が何安定とか言ってんすかぁ! 安定なんて……安定なんてくそくらえなんっすよぉ……! 戦士:いや、どうしたんだよ、マジで……何言ってるか分かんねぇしそれに、いつでも元気百万パーセントなんじゃなかったのか? お嬢:今の私の元気は五パーセントくらいですよ! 戦士:結構元気そうだが……、にしても、らしくねぇぜお嬢?  お嬢:……は? らしくってなんすか? 戦士さんが私の何を知ってるんすか!  戦士:え、いや、何をって聞かれると……。 お嬢:なんなんすか? 戦士:そりゃ仕事毎日頑張って……はないんだよな。 お嬢:頑張ってますよぉ! 私なりに! 戦士:まぁ、うん。お嬢は、頑張って……がん……。 お嬢:…………。 戦士:がん……ば…………うん。 お嬢:どんだけ認めたくないんすか⁉ 戦士:いや、決してそういうわけでは……。 お嬢:もう、戦士さんなんて嫌いです! だだだだだだだだ大っ嫌いです! 戦士:なんかすごい勢いで嫌いって言うじゃねぇかよ……はぁ。悪かったって……。 お嬢:それ、何に対して謝ってるやつですか? 戦士:え? 不用意な、その、発言が……あー……。お嬢を傷つけた……。みたいな。わる、かった。 お嬢:不用意な発言って、具体的に何ですか? 傷つけたってどれくらいですか? それを戦士さんはなんで悪いと思ったんですか? なんか、誤ってとりあえず済まそうとか思ってませんか? というか、それ、誤ってないですよね? 小娘に頭を下げるのはプライドが許しませんか? そうですよね、戦士さんはいい大人ですもんね。譲ってやってる。そういう認識があるんじゃないんですか? 戦士:…………。 お嬢:何黙ってるんですか? 黙ってた許されるって思ってます? 今度は被害者面ですか? 戦士:え……。そんな言われるくらい、俺って悪いことしたか……? お嬢:極悪です。 戦士:え? お嬢:顔が。 戦士:は? お嬢:やーいやーい。戦士さんの極悪盗賊面~。 戦士:…………こんにゃろ! 俺のこと揶揄ってやがったな! お嬢:っひ⁉ ちょっと調子に乗っただけじゃないですか! そんな鬼がショック死しそうな顔やめてください⁉ 戦士:お嬢てめぇ、さては今までのも全部嘘泣きだなぁ? お嬢:う、嘘じゃないです、悲しかったのも本当なんですよ! だって何やっても基本、私が皆さんを褒めることはあっても、皆さんが私を褒めることってないんですよ⁉ 戦士:はぁ? 何言ってんだ? お嬢:つまり、私の心は酒と褒めに渇きを覚えてるんです!  酒と称賛の言葉を浴びる程飲みたいって思うのはいけないことですか⁉ 戦士:知らねぇよ……。誉め言葉はさておき、酒を勤務中に浴びる程飲もうとすんのはいけねぇことだと思うが? ていうか、お嬢に褒められた記憶なんか俺はねぇよ。 お嬢:え? ありますよ? さっきもすごいって褒めてたじゃないですか? 戦士:さっき……? いつだよ。 お嬢:ほら、私言いましたよね、戦士さんの顔は『すごく』怖いですね。って。 戦士:すごいの意味が違うんだよなぁ! お嬢:あっはっは! 戦士:それで言ったらお嬢の面の皮もすごく厚いだろうが! お嬢:ええ、その上人望も篤いなんて、私ったら罪な受付嬢。 戦士:いっぺんちゃんと罰を与えられた方が良いんじゃねぇか? お嬢:罰よりも、だから褒賞が欲しいんですよ。私の話聞いてましたか、戦士さん? 戦士:お嬢にだけは言われたくねぇ台詞だな。 お嬢:褒賞と言えばですね。 戦士:こいつ舌の根も乾かねぇうちに……。 お嬢:出るんですよ。 戦士:出るって、何が。 お嬢:十万キラル。 戦士:十万? お嬢:そう、冒険者ギルド挨拶定型文コンテスト最優秀賞を受賞したら賞金十万キラルが贈呈されるんですよ! 戦士:定型文って……。 お嬢:どうです⁉ 戦士:それで珍しく、仕事熱心? だったのか。 お嬢:ええ、私は模範的受付嬢なので! 戦士:こんなの模範にしたらギルド滅ぶわ。 お嬢:でも、世界は救われると思いますよ? 戦士:どこから来るんだその妙な自信……。 お嬢:どこからともなく? 戦士:もうお嬢が勇者名乗ったらいいんじゃねぇか? お嬢:いえいえ、私は陰ながら祈っていますよ。戦士さんたちに花を供えるのも受付嬢の嗜みですから。 戦士:花を添える、だろ。供えて祈ったらもうそれ墓参りなんだわ。 お嬢:平和に犠牲はつきものですからね。そして、今日も一日世界を救って心と懐ぽっかぽか♪ あなたの活躍は決して忘れない! ミリオール冒険者ギルドです! 戦士:……なんか付け足されてねぇか? お嬢:かわいいでしょ? 戦士:いや、可愛くねぇしなんかちょっと不穏なんだよ……。当初の達成目標である「町の人にも親しみやすい挨拶」ってところ忘れてないか? お嬢:うーん、でも、私考えたんですよ。冒険者稼業って、常に死と隣り合わせと言いますか、あっさりと命の火が吹き消されることも珍しくない訳じゃないですか。そういうちょっとハードなところも見せてった方が良いと思うんですよね? 労災とかもないですし。 戦士:それは……一理あるな。キャッチーなフレーズに踊らされてギルドに入ってみたはいいが、いざ討伐クエストなんか受けてみると、ガチで命の取り合いなんだよな。鶏絞めれるかどうか、くらいの少年が、いきなり人間よりは少しちいせぇが言葉っぽいの喋りながら襲い掛かってくるゴブリンとかを躊躇無く仕留められるかと言えば……。まぁな。 お嬢:ギルドや冒険に夢を抱くのも大事ですけど、ね。本職の冒険者さんはやっぱり過酷ですからね。 戦士:まぁ、そういうこったな……。 お嬢:ええ……と、いうことを加味したうえで、神ってるかわいい挨拶を! 女神ってるかわいい私と一緒に! どうですか戦士さん⁉ 戦士:俺、手伝う流れなのか……? お嬢:だって、戦士さんって、このギルドの冒険者で一番ランク高いし、クエストもかなり丁寧ですし、名が知れてるすごい……あ。顔がすごい怖いことで他のギルドでも名が知れてるんですからね! 戦士:えぇ……⁉ そ、そんなに俺の顔の悪評が……? えー……もう他所のギルド行けねぇじゃねぇかよ! お嬢:あ、あったりまえじゃないですか! 戦士さんはこのミリオール冒険者ギルド以外に居場所なんてないんですよ! 諦めて馬の骨をうずめてください! 戦士:名が知られてるのに、馬の骨扱いなのかよ。 お嬢:(小声)戦士さんのすごさは私だけが、知っていればいいんです。 戦士:なんか言ったか? お嬢:……戦士さんの顔はやっぱすげぇやって言ったんですよ。誉め言葉です。 戦士:あっそ。どうせ悪人面だよ。……あ、そういえばよ。 お嬢:なんですか戦士さん? 前科でも思い出しました? 戦士:思い出すか! じゃなくて……報酬は? お嬢:何のことですか? 戦士:いや、それ賞金出るんだろ? 挨拶考えるだけで十万ならやるけどよ。 お嬢:お! さっすが戦士さん! ノリ良いですねぇ! 大好き! 戦士:だ……⁉ お嬢:ではでは~クエスト受注ということで‼ よろしいですね? 戦士:いいけど、分け前は幾らかって聞いてんだよ。 お嬢:あー。報酬はですね……。 戦士:報酬は? お嬢:私の笑顔! にこっ! 戦士:芋掘りいってきまーす。 お嬢:あ、あ、待ってください戦士さん!  戦士:何だ? お嬢:取り分は私が九、戦士さんが一! 戦士:は? ざけんな!  お嬢:八対二。 戦士:…………七対三。 お嬢:…………八対一対一! 戦士:いやなんでだよ、何の一なんだよ! お嬢:いえ、功労者である『長々槍(ながながやり)』さんのこと忘れてましたので。 戦士:功労者扱いなのかよ『長々槍(ながながやり)』。というか適当な理由付けて八割は絶対に持っていこうとしてるだけだろお嬢。 お嬢:ぎ、ぎくぅ⁉ 戦士:取り消しだ取り消し! お嬢:え、え~? い、嫌なんですかぁ? 戦士:嫌に決まってんだろ! 不平等すぎるわ! お嬢:でもでもぉ、クエストをやめるならキャンセル料発生しちゃいますし~? キャンセル料は十万キラル! 戦士:なんで俺に渡す賞金の額より高くなるんだよ! 相場は報酬の百分の一だろ! 明らかにぼったくりじゃねぇか! お嬢:まぁ、それは冗談なんですけど。 戦士:嘘つけ。 お嬢:でも戦士さん、本当にいいんですかぁ? 戦士:はぁ? 何がだよ。 お嬢:戦士が一度やるって決めたこと覆すってかっこ悪くないですかぁ~? 戦士:……なに? お嬢:あっ、戦士さぁん? もしかしてイモ引いてんですか? 芋掘りやりすぎて、頭の中までおイモさんなんですかぁ? やーい、イモ戦士ぃ! 戦士:こんにゃろう……っ! あぁ! わかったよ、やってやるよ! お嬢:ふっふっふ~! 戦士さんならそう言うと思ってましたよ! ふぅ~! かっこいい~! 戦士:ふんっ。……あぁ。それと、取り分はあそこの三人組巻き込んで六対一対一対一対一だ。これは譲らねぇ。 お嬢:戦士さん、三人と報酬一緒でいいんですか? というか、私六でも? 戦士:もとはお嬢がやろうって言ったんだしな。あと、あいつらと俺に上下関係なんてねぇんだし妥当だろ? お嬢:そういうとこ、ほんといいですよね。戦士さん。 戦士:何がだ? お嬢:えへへ、なんでも。じゃあそんなわけで! 皆さん一緒に頑張りましょうね♪ : 0:三人、歓声を上げながら、戦士とお嬢の席を用意する。 0:戦士とお嬢、用意された席に移動する。 : 戦士:……まぁ、俺はパッと考えたら今度こそ芋掘り行ってくるけどな? お嬢:……どんだけ芋掘り行きたいんですか戦士さん。もう農家になればいいのでは? 戦士:うるせぇ。 お嬢:ふふっ。 : 0:以下お好みでオリジナル挨拶を考えてみてください。 : お嬢:ようこそ! あなたのミリオール冒険者ギルド!