台本概要

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タイトル 【後編】ミリオール冒険者ギルドの受付嬢。~ギルドのうた♪~
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル コメディ
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 60 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 ◆あらすじ◆
片田舎にあるミリオールの町の冒険者ギルドの看板娘、可愛いけれど奇想天外な『お嬢』と強面冒険者の『戦士』さんが送るドタバタコメディ。前編は「ギルドのあいさつ!」後編は「ギルドのうた♪」

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
お嬢 242 ミリオール冒険者ギルドの受付嬢で愛称は『お嬢』。 「明るくてかわいいみんなの人気者」を、自称している。実際のところは「かわいいけど……」と誰もが言葉を詰まらせることで有名な看板娘。なお、本人はそれを誰もが言葉を失う美貌と肯定的に捉えている。
戦士 243 ミリオール冒険者ギルドに所属する真面目だがあまり愛想のよくない戦士。実年齢以上に老けて見える。 以前は名のある冒険者だったとか、実は邪竜退治の英雄だとか、とある王家の血を引いているとか、裏でこの地方一帯の盗賊を纏め上げる盗賊王だとかいろいろ噂されている実力のある戦士。しかし、辺境であるミリオールの町にはそぐわない実力を持つため『お嬢』に一目惚れして住み着いたんじゃないかと噂されている。
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台本本編

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0:◆あらすじ◆ 0:片田舎にあるミリオールの町の冒険者ギルドの看板娘、可愛いけれど奇想天外な『お嬢』と強面冒険者の『戦士』さんが送るドタバタコメディ。前編は「ギルドのあいさつ!」後編は「ギルドのうた♪」 : 0:◆登場人物◆ お嬢:ミリオール冒険者ギルドの受付嬢で愛称は『お嬢』。 お嬢:「明るくてかわいいみんなの人気者」を、自称している。実際のところは「かわいいけど……」と誰もが言葉を詰まらせることで有名な看板娘。なお、本人はそれを誰もが言葉を失う美貌と肯定的に捉えている。 戦士:ミリオール冒険者ギルドに所属する真面目だがあまり愛想のよくない戦士。実年齢以上に老けて見える。 戦士:以前は名のある冒険者だったとか、実は邪竜退治の英雄だとか、とある王家の血を引いているとか、裏でこの地方一帯の盗賊を纏め上げる盗賊王だとかいろいろ噂されている実力のある戦士。しかし、辺境であるミリオールの町にはそぐわない実力を持つため『お嬢』に一目惚れして住み着いたんじゃないかと噂されている。 0:その他モブの冒険者『鬼鹿弓(おにしかゆみ)』『黒包丁(くろほうちょう)』『長々槍(ながながやり)』※なお、台詞はない。 : 0:◇◇◇ : 0:【後編】ミリオール冒険者ギルドの受付嬢。~ギルドのうた♪~ : 0:後日、冒険者ギルド。 0:昼間から酒を飲む男が三人。 0:開け放たれた扉を潜り、戦士が入ってくる。 0:と、一歩踏み入れた瞬間、ギルドのカウンターからひょっこりと顔を出し、その勢いでカウンターに飛び乗る。 0:と、酒を飲んでいた三人がおもむろに武器を手に立ち上がる。 0:戦士、身構えるが三人は音楽を奏で始める。 0:そしてお嬢が歌い始める。 : お嬢:剣を振り 期待を胸に大冒険 今日も 明日も 明後日も 来る日も来る日も 夢はやっぱりドラゴン退治 だけどやっぱり命も大事 剣を振らずに芋を掘る 何でも断てる聖剣よりも 何が何でも生計立てる お嬢:たとえ世界は 救えなくても 心と懐ぽっかぽか♪ あなたのそばに ミリオール冒険者ギルド~♪ お嬢:働く喜び 額を拭い農作業 昨日 一昨日 遠いあの日 去り行く日々よ青春よ ドラゴンよりもイノシシ退治 どんなことでも安全第一 剣を振らずに芋を掘れ 勇者や英雄なれなくたって 今日を生き抜く仕事があるよ お嬢:仕事終わりは 金が無くても 心は酒でぽっかぽか♪ そんなあなたの ミリオール冒険者ギルド~♪ お嬢:センキューっ! : 0:戦士、突然のことにぽかんとしているが、そのままカウンターまで歩いていく。 : 戦士:……相変わらず元気だな、お嬢。 お嬢:いつでも元気一億パーセント! が私のモットーですからね! 戦士:なるほどうるさい訳だ。で、今日のクエストは? というかそろそろ降りろよ、カウンターから。 お嬢:ごめんあそばせ? あらよっと! : 0:お嬢、カウンターから飛び降りる。 : 戦士:いい身のこなしだな。 お嬢:私これでも受付嬢ですから! 戦士:普通の受付嬢はそんなことしないと思うが。まぁいい、クエストは? 芋あるな? よし芋行くぞ。 お嬢:いや芋ありますけど……。というか先に言うことがあるでしょう? 戦士:はぁ? ……お嬢はいつも可愛いな。 お嬢:はぁ⁉ な、な、戦士さんったら何を急に! やめてくださいよ! 戦士:いや、前にお嬢が言えって言ったんだろうが。 お嬢:あれ? そうでしたっけ……? 戦士:忘れたのかよ……。 お嬢:あー、なんかそんなこと言ったような気がしますね。 戦士:あと、……褒めてくれないって、泣かせちまったし。 お嬢:うん? なんか言いました戦士さん? 戦士:な、何でもねぇよ! お嬢:そうですか? うーん。でも、昨日まで特に何もなかったですよね? 戦士:まぁ、俺もさっきまで忘れてたしな。でも、いらねぇなら、もうやらねぇわ。 お嬢:い、いらないなんて言ってないですよね! 戦士:嫌がってたじゃねぇかよ。 お嬢:いや、嫌というわけでは……あれはただびっくりしてといいますか……。と、とにかく戦士さんは私のことをもっと日常的に褒めるべきです! 戦士:はぁ? やだよめんどくせぇ。それより仕事……。 お嬢:めんどくさいとは何ですか! 主人に敬意を払うのは戦士さんの勤めでしょう! 戦士:主人って。いつ俺がお前のものになった? お嬢:はぁ? ミリオール冒険者ギルドは私のものですよ? そして戦士さんはそこに登録する冒険者。ということはつまり戦士さんの所有権を私が主張することはごく自然な流れ。何を今さら。 戦士:所有権とかいうな。そもそもお前もギルドの使いっ走りみたいなもんだろうが。飼われる側じゃねぇか。 お嬢:私は何ものにも縛られないのです! 戦士:手がかかりすぎて放し飼いになってるの間違いだろ。 お嬢:ふふ、特権階級と呼ぶのが正しいですねぇ? 私はなんせ看板娘ですから、いわば当ギルドの顔ですよ? 枝葉末節、手足や指でしかない戦士さんとは違いますね。格が! 顎で使ってやりますよ。 戦士:ほう、俺を顎で? あんまりいい気になってるようならこのギルドの頭であるところのマスターに言いつけるぞお嬢? お嬢:や、そ、そんな脅しには屈しません! それに誰が戦士さんの言うことなど信じますかねぇ? 誰からも愛されるかわいい受付嬢と、馬車馬の骨の戦士さん! 戦士:酷使され過ぎてやっぱ骨になってんじゃねぇかよ俺。その上まだ顎で使う気かこのネクロマンサー。いい加減パワハラで訴えてもいいんだぜ? お嬢:訴える? っは! いいことを教えてあげますよ戦士さん。 戦士:いいことだぁ? お嬢:証拠がなければ罪にはならないのですよ! 戦士:極悪じゃねぇか。 お嬢:戦士さんの顔よりはマシですが。 戦士:俺の顔の方がまだマシ……何言わせんだよ! お嬢:今のは戦士さんの自爆でしょうよ。 戦士:うっせぇ……しかし、証拠ねぇ。 お嬢:ええ。戦士さぁん? 私が言ったって証拠はあるんですか? ないですよねぇ! 残念でしたねあっはっは! 戦士:おーい『鬼鹿弓(おにしかゆみ)』『黒包丁(くろほうちょう)』『長々槍(ながながやり)』! おめぇら一杯奢ってやるぞー。 : 0:三人の酔っ払いが何も言わずに、ジョッキを掲げる。 : お嬢:あ! 買収する気ですね⁉ ず、狡いですよ戦士さん! こんな可愛いくて健気な受付嬢の私を大の男四人で団結していじめようだなんて! この人でなし! 戦士:職権乱用してギルド会員をいじめる受付嬢は健気でもないだろうがよ。 お嬢:ほほぅ。つまり可愛いことは認めるんですね? 戦士:……否定しそびれただけだし。……そんなことはどうでもいいんだよ。 お嬢:むしろここが一番大事なところですよ! さっきもそう言ってくれましたし? 戦士さんが私のことを実際どう思っているのか。私はいまそれが知りたい! 戦士:それはさておき。 お嬢:さておかず、もっと持ち上げてください! 戦士:あー。……気が向いたらな。 お嬢:それはいつ向き合ってくれるんですか戦士さん! 戦士:……向き合うと言えばよぉ? そういえばさっき歌ってたのは何なんだ、お嬢? 酔っ払いどもに演奏までやらせてたが。まぁ、装備カンカンやってるだけだが。いや、『鬼鹿弓(おにしかゆみ)』は弦楽器のつもりなのか? 意外に器用なんだなお前。 お嬢:お! ようやく話題を振ってくれましたね! このまま無視されるんじゃないかとハラハラしてました! 戦士:はぁ? どこもハラハラしてる気配なんてなかっただろ。 お嬢:まぁ最終的には受付嬢の強権で無理やりこの話に引き込むつもりでしたから余裕があるのは事実です。 戦士:強権? お嬢:お話聞いてくれなきゃクエスト斡旋しないんだからね? って。 戦士:ハラハラじゃなくてパワハラじゃねぇかよ。 お嬢:お上手ですこと! 戦士:それで? これは何の騒ぎなんだ? お嬢:ふっふっふーよくぞ聞いてくれました! これはですね―― 戦士:あぁ、前の挨拶のやつと同じ感じだな。今度はテーマソングを作れ。とか、そんなあたりだろ。 お嬢:私が言おうと思ったのに! ひ、酷いです戦士さん! 戦士:な、なんだよ、別に良いじゃねぇか……。 お嬢:聞いておいて自分で答えるなんてとっても意地悪です! 私傷付きました! 戦士:そ、それは……悪かった。 お嬢:反省してます? 戦士:まぁ、そうだな、反省してるよ。 お嬢:そうですか、じゃあ悪いと思ってるなら、手伝ってくださいますよね、もちろん! 戦士:……なんでそうなる? 前回の挨拶のやつダメだっただろ? 確か最優秀賞は、城郭都市リヴェルトスだったかの冒険者ギルドの—— お嬢:『先人たちが繋いだ勇気のバトン! 次に手にするのは誰だ……? 冒険者ギルドは君を待っている!』 戦士:あーそれそれ。なんか、ピンとこねぇんだよな。 お嬢:ですよね! 絶対ウチの挨拶の方がイケてます! 戦士:それは……全面的に同意だが。 お嬢:戦士さん、なんかめっちゃくちゃ気合入ってましたもんね。最初嫌々感出してたのに、全然、率先して考えててぶっちゃけ私ドン引きしました。 戦士:ドン引きしてんじゃねぇよ! まぁ、でもリヴェルトスの挨拶から思うに、ギルドの求めてるもんは町の人からの信頼とかじゃなくて、切実に人材なんだろうなって思うが。 お嬢:どこも人手不足ですからね。 戦士:まぁ、お嬢みたいなのを雇用してるくらいだしな。 お嬢:何か。言いました? 戦士さん? 戦士:いや。まぁ、でも前回挨拶駄目だったんだから、今回も厳しいんじゃねぇの? お嬢:戦士さんがそんな後ろ向きでどうするんですか! 戦士:なにムキになってんだよ、お嬢。 お嬢:一度ダメだったくらいで諦めるなんて、そんなの私の戦士さんじゃありません! 戦士:俺はお前のじゃねぇぞ、お嬢。 お嬢:私の戦士さんはもっと粘り強い、喩えるなら『濃縮したスライムを人の形に固めたように粘り強い戦士』の筈です! 戦士:誰がスライム侯爵だ。恐怖で全身の穴という穴からマンドラゴラでも生やしてろ。 お嬢:今はそんなふざけてる時ではないんです! 戦士:お嬢だけにはそんなこと言われたくねぇんだがよ。 お嬢:ねぇ戦士さん! どうせ今日も芋掘りくらいしかやることないですし、いいでしょ! 戦士:いい加減他のクエストもとって来いよな腐ってもギルド職員。 お嬢:でもそれはマスターの仕事ですし! 私のせいじゃないですし! あと私は腐ってません! 勤続五年目ですが、みんなからは新人みたいだよねって言われるフレッシュ百万パーセントの受付嬢なんですからね! 戦士:……それはもう敢えて突っ込まないが。じゃあ、お前の仕事は何なんだよ? お嬢:冒険者及び近隣住民に精一杯の愛想を振りまくこと! 戦士:言い方よ。そういえばマスター最近見かけないけど何してんの? お嬢:中央ギルドに出張ですよ。 戦士:いつ帰ってくるの? お嬢:来月です。 戦士:あー。だからいつもにもまして仕事が雑なのか。 お嬢:そんなことどうでもいいでしょう! ちなみにそんな頑張り屋さんな私を褒めるのが戦士さんの仕事です! 戦士:どこの誰が頑張り屋さんだよ。それに仕事だってんなら、報酬はいくらだ。 お嬢:報酬は……私の笑顔です! : 0:間。 : お嬢:私の笑顔です! 戦士:……いらね。 お嬢:ちょっとぉ! 聞き捨てなりませんねぇ! 戦士:知らねぇよ、こちとら遊びでやってんじゃねぇんだよ。お嬢の気まぐれに無償で付き合ってやってるだけでもありがたく思えよ。 お嬢:はぁ⁉ 無償! 寧ろ戦士さんがお金を払うべきですよ! こんな可愛い受付嬢と毎日楽しくおしゃべりできるなんて、とっても素晴らしいことなんですからね! もっと気合入れて貢いでください! 戦士:……なんだと? はぁ。仕方ねぇな。気が変わった。 お嬢:おや? 私を褒め称える気になりました? それとも私を養う決心がつきましたか? 戦士:いや。楽しくおしゃべりしてんのはお嬢の主観の話であって、おれは黙って働けよお前って思ってることは黙っておいてやろうと思ってたが、やめただけだ。 お嬢:な! 戦士:そんなことより、早く仕事出せ。芋だ芋! お嬢:芋掘り好きすぎるでしょ! というか仕事仕事って、戦士さんはいつも仕事ばっかり! 仕事と私どっちが大事—— 戦士:仕事。 お嬢:っく! そんなに言うなら、戦士さんも一緒に考えてくださいよ! 戦士:はぁ? お嬢:チャーミングとビューティフォーを具現化した受付嬢であるところの私と一緒に素敵な挨拶を考える! これこそ戦士さんの仕事です! この世にこれほど有意義な仕事はありませんよ! 寧ろこれ以外は仕事じゃないと言っても過言ではない! 戦士:……そっか、そんなに素晴らしい仕事なのか。 お嬢:ええ! もちろん! 私の美貌に誓って! 戦士:あー。なるほどな? じゃぁ遠慮しとく。 お嬢:遠慮しないでくださいよ戦士さん! 戦士:だってよ? そんなすげぇ仕事なら、俺にはとてもとても。 お嬢:しょ、初心者歓迎! アットホームな職場です! 戦士さんでも大丈夫! 戦士:……くっそ舐められてるな。 お嬢:い、一緒にやらないと心と懐だけじゃなくて、戦士さんのこともぽっかぽかにしちゃいますよ! 戦士:そのフレーズ気に入ってんのか? 具体的に何するつもりなんだよ? お嬢:拳でぽっかぽかに! 戦士:武力行使かよ。意味変わってんじゃねーか。 お嬢:ええ世界を救うには心と金と、暴力が不可欠ですから。綺麗ごとだけではやはり……。 戦士:いらねぇよそんな裏設定、もはや全然可愛くなくなったわ。 お嬢:可愛さを維持するのは大変ということですね、戦士さん。 戦士:何の話なんだよ。 お嬢:戦士さんの癖にうるさいですね! このすっとこどっこい! 黙って私に協力すればいいんです! 戦士:すっとこどっこいってなんだよ。それが人に物を頼む態度かよ? お嬢:もっと下手に出ろとでも? 戦士:最低限の丁寧な態度とかあるだろ。 お嬢:当冒険者ギルドの荒くれ者どもに丁寧な態度? っは。そんなの舐められるだけです! 戦士:まぁ、一理あるか。 お嬢:でしょ? 実際私がここに着任した五年前は、ほぼ手のかかる可愛い子ども扱いでしたからね? 戦士:自分を可愛いというのはさておき、手がかかること自覚してんのかよ。 お嬢:当り前です! 戦士:なんでそれで胸張れるんだよ。 お嬢:千年に一人の受付嬢としての誇りを胸に抱いているからに決まっているでしょう? 何を今さら。 戦士:そりゃ、こんなのが二、三年に一人とかの割合でポコポコ出てきたら終わりだけどな。というか結局、五年経っても手のかかる大人になっただけじゃねぇかよ。 お嬢:おっと「可愛い」が抜けてますが? 戦士:うるせぇよ。そういうとこに可愛げがねぇんだよ。 お嬢:んな! 私に可愛げがないなんて、恐ろしげしかない戦士さんにだけは言われたくないですね! 極悪山賊首領顔! 顔だけで子供千人泣かした男! 戦士:こんにゃろぉ……! お嬢:ひぃ! 調子乗りましたさーせん! 戦士:ふん、失礼なやつだ。まだ百人くらいしか泣かしてねぇわ。 お嬢:それでも三桁行くんですね……。 戦士:悪いかよ? お嬢:安心してください! 私、戦士さんは人相以外良い人だと思ってますから! 戦士:こんにゃろ。 お嬢:ひぇ……。 戦士:ふん。お嬢も大概口の悪い奴だと思うぜ俺は。 お嬢:えー? でもしゃーないじゃないっすか、みんな、喋り方基本雑なんすもん。話してたら自然と口も悪くなるってもんすよ。寧ろ順応性が高いと言ってください? 戦士:はぁ? 口の悪さを人のせいにすんなよ、お嬢。まぁ、だとしても俺は普通に話してるけどな。 お嬢:いや、それシラフで言ってんすか? 戦士:はぁ? お嬢じゃあるめぇし、普通は酒飲んで仕事しねぇんだよ。 お嬢:うるさいですよ戦士さん。というか、だから戦士さんの普通は、私のような良識ある受付嬢にとってはドブみたいなもんなんですよ。というか、他のやつとは違うみたいな言い方姑息っすよ。 戦士:姑息……⁉ まぁ、たしかにそういう考えが一切なかったわけじゃねぇが……。それで言うならお前のどこに良識があるのか皆目見当もつかないな。大体お嬢も元から同類だろ。それこそシラフで言ってんのか? お嬢:いや、飲んでるに決まってるでしょ? 戦士:これだよ。ってなると、俺らの周りで言葉遣いまともなのマスターくらいになるが、ギルド職員なら見習おうとか思わないのか? お嬢:えぇ? あのマスターをですか? 戦士:嫌なのかよ? あれこそ正に良識ある紳士の話し方だろうが。 お嬢:そりゃぁ、ヤですよ。あんな話し方。丁寧と言えば丁寧なんでしょうけど、それに普段の担当も違うじゃないですかマスターは。 戦士:はぁ? お嬢:だって、マスターはクライアントの担当でしょ? お金と仕事を貰いに行ってるわけで、片やがクエストの仲介して逆に金を払ってやってる荒くれ者で礼儀知らずの冒険者の皆さんの担当なら、私みたいな感じになるのも自然の摂理でしょ? 適材適所ですよ。 戦士:嫌な考え方だなぁ。だがまぁ言われて見れば一理あるか。 お嬢:ふふん、でしょう? 戦士:あぁ、クライアントの前にお嬢を出せるわけないよな。 お嬢:……戦士さん、私のこと舐めてますよね? 戦士:お嬢も俺のことなめてんだろう。 お嬢:ったりめぇよ。 戦士:……これでもお嬢とはパートナーのつもりなんだがな。 お嬢:ぱっ、パートナー⁉ な、何を藪から棒に! 戦士:いや、だってそうだろ? 金払ってやってるとかお嬢は言ったが、こっちも命懸けて働いてんだ。なら、背中預けるパ相棒みてーなもんだろ? ……つっても、ここの依頼は芋掘りばっかだが。 お嬢:…………まぁ、それは、確かに。 戦士:だからよ、少しはマスターみたいに対等に接してくれたらって思うわけよ、お嬢。顎で使うとかじゃなくってさ? お嬢:……それは、分かりましたよ。でも、私、絶対ヤですからねあんな胡散臭い喋り方! 戦士:確かに胡散臭いけど、聖職者並みに丁寧な言葉遣いなんだからな? お嬢:いや、だからこそ胡散臭さが滲み出てるんですよ、戦士さんとはまた違った方向ですけど、あの外見ですし。 戦士:まぁ、にこやかな紳士だけど、筋肉と古傷と刺青がな……。 お嬢:それに、場にそぐいませんからね。 戦士:どういう意味だ? お嬢:こんな掃き溜めにツルがいたらサギを疑えって話ですよ。 戦士:あぁ? なんだその言い回し。 お嬢:要は油断して近付いたやつはカモ。そうでなければケツの羽毛までむしられるカネヅルってことですね。お先は、袋に詰められて売られるふかふかの真っ暗。 戦士:なんか鳥に喩えてうまいこと言ってるけど下品だぞ、お嬢。 お嬢:うっさいですよ、ネギしょってくる戦士さん。 戦士:誰がカモだ。あれみたいになれとは言わねぇけど、もっと畏まれよ。 お嬢:っは。固っ苦しくて死にますね。それとも戦士さんは籠の中のカナリヤを弄んで喜ぶ束縛の強い盗賊王なんですか? 戦士:っは。籠だぁ? お嬢みたいな血の気の多いドラゴンを閉じ込めるんなら、でっけぇ檻が必要だと思うがね。 お嬢:で、そのドラゴンに紐で繫がれてとってこいを繰り返して、血反吐と金貨を吐き出し続ける黒い鳥であるところの戦士さんが何を言いますか。 戦士:勤勉な戦士さんになんという暴言だよ。 お嬢:当ギルドは、冒険に飛び出すより暴言が飛び出すことの方が多いんです。 戦士:なんてところだ。俺もさっさと王都に行っちまおうかね? お嬢:ちなみに私は金貨を守るドラゴンですよ? 鵜なのか金を生むガチョウなのかは知りませんが、みすみす逃がすわけないじゃないですか。手綱を握り続けてやりますからね。きびきび働いて金貨を吐き出してください? 戦士さん。 戦士:何が心と懐ぽっかぽかだよ。胆も懐も寒々しいよ全く。 お嬢:そういうときは、お酒を飲むといいですよ? ツケにしといてあげます。 戦士:それで、逃げられなくするわけだ。財布のひもも握るつもりかよ。っへ嫌だねぇ。せめて「私が温めてあげますよ」とか言えねぇのかよ。 お嬢:言ってほしいならいつでも言いますけど。 戦士:え? お嬢:あ。 : 0:間。 : 戦士:……さ、懐具合も心許ないし、仕事すっかな! 芋クエはあるか! お嬢:い、芋はこの時期いつでもあります! 寧ろそれか「腹黒領主」しかありません! 戦士:芋一択! お嬢:はい! 芋! 戦士:サンキュー! じゃ、行ってくる! : 0:戦士、去ろうとするが、お嬢が呼び止める。 : お嬢:あ、戦士さん! 私の為にいーっぱい働いてくださいね、戦士さん? 戦士:いや、お嬢の為じゃねぇよ。 お嬢:えー? もっと私を真剣に喜ばせてくださいよ戦士さん! 戦士:やだよ。お嬢を喜ばせても一銭の得にもならねぇどころか、寧ろ金がかかって仕方ねぇだろ。 お嬢:良くお分かりで。はぁ。戦士さんがもっと私に媚びればいいのにな。 戦士:願望だだ洩れじゃねぇか。もっとそういうの隠せよ千年に一人の受付嬢。 お嬢:照れますね。もっと言いましょう。 戦士:全然照れてねぇだろ。 お嬢:ええ、照れるくらい、人々からたくさんの称賛と金貨を集めたいものですね。 戦士:なら、せめて人を集められるくらいの魅力か、溢れ出さんばかりの欲望に対する恥じらいを身に着けて欲しいもんだな。 お嬢:はは、御冗談を。これ以上私が何かを身に着けたら着ぶくれしちゃいますよぉ。 戦士:そんなこと言って、着服した金貨を入れ過ぎてるからなんじゃねぇのか? お嬢:……………………ははっ、何のことやら。さぁ、お仕事行ってらっしゃいませ、戦士さん! あー! お仕事楽しいなぁ! ふぅ! 戦士:……あのさお嬢。 お嬢:なんですかね、戦士さん。 戦士:ちょっとジャンプしてみ? お嬢:断固拒否します。 戦士:おい。 お嬢:っと、それはさておき、いや~、愛すべきミリオールの町は今日も、と~っても平和ですねぇ~うんうん。こんな日はぱーっとお酒でも飲みたいところですよねぇ、戦士さん? 今日お仕事終わったら特別に奢って差し上げますよぉ? えへへ~。というわけでさっさといってらっしゃいませ! 戦士:なんか圧強いな……。それにお嬢の口から奢り……? 適当に冗談言ってカマかけただけなんだけど……マジでこれなんかやらかしてるんじゃないか? お嬢:ぐっ。そ、そんなことありませんよ……? 私がそんなヘマするわけないじゃないですか、やだなぁ、戦士さんったら。 戦士:ヘマばれない程度に普段からやってそうな口ぶりだが……。 お嬢:言葉のあやですよ~。 戦士:ほんとか? お嬢:千年に一人の私が言うんですから間違いないじゃないですか! 戦士:それ、作り笑いをさせたら右に出るものが居ないと言われてるやつじゃなかった? お嬢:作り笑いじゃなくって愛想笑いです! 戦士:似たようなもんだろ。 お嬢:ま、細かいことはいいんです。そういえば戦士さんに私の素晴らしい歌声の感想聞いてなかったですね! 戦士:話逸らそうとしてるよな? お嬢:してません。 戦士:俺の目を見て言えるか? お嬢:だ、だから、そんな怖い顔で私を見つめないでくださいよ! そんなに熱い視線を向けられても……全身の穴という穴からマンドラゴラが生えてくるだけです! 戦士:スライム侯爵はもういいんだよ! : 0:間。 : 戦士:いい加減教えろよ、お嬢。 お嬢:えっと、その……。 戦士:マスターに言うしかなくなるからな? お嬢:マスターにばれたらクビられちゃいます! 戦士:それはどっちの意味なんだよ……。 お嬢:み、未知数ですね……。 戦士:そんなヤバいことしたのかよ……。 お嬢:えっと、大きな声では言えないので、ちょっと耳を貸してください……。 戦士:……なんかやだな。 お嬢:なんでですか! 戦士:だってお嬢耳元でいきなりでかい声とか出しそうだし。 お嬢:しませんよ! 私のこともしかしてすごい小さな子供とかだと思ってます⁉ 戦士:子供だったら可愛げがあるんだが、それをいい大人がやるからなぁ。 お嬢:やりませんよ! 素面では! 戦士:お前、さっき飲んでるって……。 お嬢:もういいから! 耳をよこせ! 戦士:お、おい! : 0:お嬢、戦士の頭を掴む。 : お嬢:じ、実は……。 戦士:なんだよ? というか、マジで酒くせぇなお嬢。 お嬢:息を嗅がないでください! じゃなくて……酒場の方に置くお酒のことなんですけど。 戦士:あー、勝手に飲んだとかか? お嬢:いや、それもあるんですけど。 戦士:あるのかよ。 お嬢:安酒の『平民ごろし』と間違えてちょっとお高目なお酒であるところの『魔王ごろし』を発注してしまって……。 戦士:何やってんだよ、マジで。間違えることとかあるか? お嬢:いや普段なら絶対にそんなヘマはしないんですけど。その時は酔っていて……。 戦士:だから何自然に仕事しながら飲んでんだよ。 お嬢:反省してます。 戦士:反省してるくせに今日も飲んだのかよ。 お嬢:ええ、反省して酔わない程度に。 戦士:いつも酔っぱらいながら仕事してたのかよ。 お嬢:ほ、ほら、ここ酒場が併設されてて、酔っ払いも常駐してるので、ちょっとくらい酔っててもばれないかなーって。 戦士:常駐してる酔っ払いの一人が正にお前なんだわ。確かに、元々頭おかしいんだろうなって思ってたから全然気付かなかったけどよ。 お嬢:ちょっと戦士さん! 私の頭のどこがおかしいって言うんですか⁉ 戦士:ぐぁぁ! 耳が! やっぱりでかい声出してんじゃねぇか! お嬢:あら、ごめんあそばせ。つい。 戦士:絶対わざとだろ……。 お嬢:つい、戦士さんのお耳を破壊したくなりまして。 戦士:こんにゃろう、マジ……! お嬢:冗談ですよ、もうやらないから許して? 戦士:……はぁ。まぁ。でもそれくらいならマスターも半クビりくらいで許してくれるんじゃねぇの? 俺じゃなくてマスターに言えよ。 お嬢:半クビりで済みますかね? 戦士:はぁ? いくら高級酒って言っても、まぁ、最悪働いて返すくらいでどうにかなるだろ? どんくらい発注したんだよ? お嬢:それが、千本発注しちゃって……。ははっ。 戦士:正気か⁉ お嬢:酔った勢いですし? 戦士:こんの……! はぁ……。それでも、借金して真面目に働けばなんとか返せるだろ? なんなら俺が立て替えてやってもいい。そこそこ貯蓄はある方だしな。 お嬢:戦士さん……! じゃあ、一億キラルほど用立ててもらうことって……。 : 0:戦士去ろうとする。 : 戦士:半クビりで済むことを祈ってるよ、お嬢! お嬢:あ! み、見捨てないでくださいよ! : 0:お嬢、戦士を止める。 : 戦士:仕方ねぇだろ! 今の俺の貯蓄八万キラルなんだよ! お嬢:しょぼ! それでよく俺が立て替えるとか、そこそこあるとかドヤ顔で言えましたね! 戦士:なんだと! 慎ましく暮らせば一か月はわりと持つ貯蓄だぞ⁉ あと先月鎧の傷凹み修理と税金で結構持ってかれたんだよ! そういうお前はどうなんだよ! お嬢:っは! 舐めないでいただきたい戦士さん! 私は宵越しのお金は持たない主義なのです! 戦士:何威張ってんだ! というかお前、腐ってもギルド職員だろ、そこそこもらってんじゃねぇのか! そこの求人のビラには「基本給二十七万キラル 賞与年二回 昇給アリ」ってあったぞ。 お嬢:ははっ! お給金は全部酒に消えます! 戦士:断酒しろ! お嬢:そ、そんな! 私から酒を奪ったら何を楽しみに生きていけばいいんですか! 戦士:その酒で未来とクビが断たれようとしてるやつが良く言えたもんだな! お嬢:私の人生をそんな面白い感じで纏めないでくださいよ! 膝が笑っちゃいます! 禁断症状で! 戦士:いや、ほんと酒やめろ! お嬢:もう私はお酒が無いとダメなんです! 戦士:安心しろ酒が無くてもお前はダメだ! お嬢:ひ、ひどい! そこまで言いますか戦士さん……! 戦士:あぁ? ひどいっつっても、お嬢の酒癖よりはマシだろうが。 お嬢:く、それは……。でも、じゃあ、どうすればいいんですか! 戦士:んなもん、真面目に働くしかないだろ。 お嬢:そ、そんな! 私が真面目に働けるとでも思ってるんですか戦士さん! もっと真面目に楽できる方法を考えてください! 戦士:こんにゃろう……! お嬢:やっぱり、もうどうにもならないんですかね……? このまま、マスターにクビられて私は……う、うぅ……。 戦士:…………はぁ。 お嬢:うぅ……せ、せめて、最期は『魔王ごろし』の在庫を飲み干してアル中で……! 戦士:いや、まだ飲むつもりかよ! お嬢:ヤケ酒です! いけませんか⁉ 戦士:いけませんわ! そんなもんただ酒に逃げてるだけなんだよ! いいか、俺たち戦士のコマンドに「にげる」の三文字はねぇんだよ! お嬢:いや、私戦士じゃなくて受付嬢ですし……。 戦士:まだ在庫は残ってんのか? お嬢:ええ? そうですね……五百本ほどでしょうか? 戦士:何半分も飲んでんだよ。 お嬢:し、仕方ないじゃないですか! 私はお酒を一日一本飲むって決めてるんです! 戦士:このド阿保! にしたって減るペース早すぎるだろ? 高級酒をバカみたいな飲み方すんじゃねぇよ! そもそもいつの話なんだよ? お嬢:先月です。 戦士:せっ……? 一か月で五百も飲んだのかお前……よく生きてんな。逆に尊敬するわ。 お嬢:へへっ、あざまーす。 戦士:何誇らしげにしてんだよ……。というか、今まで何食わぬ顔でそれ隠して働いてたのかよ。 お嬢:ええ、まぁ愛想笑いをさせたら、 戦士:右に出る者はいないんだろ。大した面の皮だなぁ。 お嬢:あ、でも私一人だけの戦果じゃないんです。 戦士:戦果とか言ってんじゃねぇよ。まぁ、店で出してたりもするもんな。売り上げは? お嬢:えっと……。五百万キラル……。 戦士:結構いったな。五十本分は売れたのか? お嬢:いえ、五本。 戦士:……強気の価格設定だな。 お嬢:どこの店もこんなもんですよ。 戦士:にしても四百九十五本を一か月でか……。どうなってんだお前の身体。 お嬢:そ、そんなにじろじろと、私の自慢のボディを見ないでください……!  戦士:寧ろ内臓の方が気になるが。 お嬢:猟奇的ぃ! というか、誤解ですよ。 戦士:誤解? お嬢:えっと、だから、その……いくら私でも五百近くは無理ですから……。 戦士:はぁ? まだなんか隠してんのか? お嬢:隠してるというか、隠してもらってるというか……。 戦士:煮え切らねぇな。 お嬢:その……。口止め料として……。 戦士:口止め……? あいつらか? お嬢:えっと、その……。はい。 戦士:ほぅ。 : 0:戦士が微笑を浮かべる。 : お嬢:あ、顔ヤバいです戦士さん。 戦士:テメェら! 人を脅して飲む酒はうめぇか! あぁ⁉ テメェらのことは気のいいクズだと思ってたがまさかそこまでのクズだとはな! それでさっきの演奏とか手伝って機嫌でも取ったつもりか? 見損なったぜ! 魔王じゃなくてまずはおめぇらを始末してやってもいいんだぞ俺ぁ! お嬢:ひ、ひぃ! やめてくださいお頭! 戦士:誰がお頭だ! お嬢:そ、その、元はといえば私の失敗ですし……その、彼らも悪気が……なかったかと言えば、ありありだったと思うのですが、あれでも一応飲み友達で……。 戦士:あぁ? 友達が困ってたら助けるもんだろうが! それを弱みにつけ込むみたいなこと、悔しくねぇのかよ! お嬢:……それもそうですね! じゃあ、彼らには私の代わりにマスターにクビられてもらうということで手を打ちましょう! 私が彼らに脅されて発注した、と。よし。いやぁ、よかったよかった。 戦士:こんにゃろう。 : 0:戦士、お嬢にデコピンする。 : お嬢:いたっ。じょ、冗談ですよ。やだなぁ、戦士さんったら。 戦士:お前、わりと本気だったくせによく言うな。で、あいつらは何本くらい飲んで、いくら払ったんだ? お嬢:えーっと、『鬼鹿弓(おにしかゆみ)』が九十九、『黒包丁(くろほうちょう)』が七十一本、『長々槍(ながながやり)』さんが……五ですね。 戦士:いやそれでも三百二十本はお前が飲んでてダントツじゃねぇかよ! 何が一日一本だ! 十本じゃねぇか! お嬢:あ。ちなみに『長々槍』さんだけはツケですがお支払いも……。 戦士:な、なんか悪かったな『長々槍(ながながやり)』! 他二人は後でシメるとして……。飲んだ分は払わせて、千七百五十。売り上げが五百で二千二百五十。返品できれば五千、駄目なら転売でその半分二千五百は取り戻したいところだが……。四千七百五十……。ざっと五千とちょっとは何とかして稼がないとな。マスターは具体的にいつ頃帰ってくるんだ? お嬢:えっと、……来週くらいですね。 戦士:……ふむ。なら一日一千万キラルは稼ぐつもりでいった方が良いな。 お嬢:あ、あの戦士さん? 戦士:あぁ? お嬢:計算とかできたんですね。 戦士:てめぇ馬鹿にしてんのか! お嬢:あ、じゃなくて、えっと、その、なんでそこまでしてくれるんですか……? 戦士:何が? お嬢:いや、だってこれ全部私の失敗で、依頼というわけでもないですし戦士さんが助けなきゃいけない理由なんてないですよね? 戦士:…………。 お嬢:そもそも、戦士さんの実力なら、ミリオールの町にいる理由だってないはずですし。噂で聞いただけですけど、実は邪竜退治の英雄だとか、とある戦王の血を引いているとか……・。 戦士:さぁな。 お嬢:だから脳筋で計算できない人なのかなって思ってて。 戦士:こんにゃろう……! お嬢:……あ。じゃなくて。今のナシです。 戦士:ナシになるか。 お嬢:その、何でですか? 戦士:…………。 お嬢:なんでそんなに良くして、助けてくれるんですか? : 0:間。 : 戦士:……救われたから。 お嬢:え? 戦士:今日も一日世界を救って心と懐ぽっかぽか! お嬢:な、なんですか? 戦士:お嬢が言ったんだろ? いつでも元気百万パーセントだっけか? 今何パーセントくらいだ? お嬢:え? 五十パーセントくらいでしょうか……。 戦士:そりゃほぼ瀕死だな。いつでも元気でいろよ、お嬢。ギルドの顔が死んでると、誰も寄り付かなくなるぜ? そしたら、マスターに何クビりされるか分かったもんじゃねぇ。 お嬢:戦士さん……。 戦士:おい、愛想笑いはどこいった? 二日酔いか、仕事のミスか知らねぇが、なにしょぼくれた顔してんだよ、千年に一人の看板娘? それとも笑顔の下は籠の中で囀るだけで、空を飛ぶこともできないビビりの小鳥ちゃんか? お嬢:それは……! でも、戦士さんに迷惑をかけるのが、申し訳なくて……。 戦士:……おめぇ、ほんとにあのお嬢か? お嬢:え? 戦士:迷惑をかけるのが申し訳ない? おー怖い怖い。これは全身の穴という穴からマンドラゴラが生えてくるやつだわ。 お嬢:な! なんですかさっきから! 戦士:盗み食いがバレたくらいでしょんぼりしてるお嬢なんて、俺は知らねえってんだよ。寧ろ見られたら骨も残さず食っちまうのが、ミリオールの冒険者ギルドが唯一誇る看板娘であるところのお嬢なんじゃねぇの? そうじゃねえなら、お前はきっとお嬢に化けたスライムだな。 お嬢:そんなこと言っても、私、五千万キラルなんてやっぱり一人じゃとても……。 戦士:なんで一人でやろうとすんだよ。 お嬢:え? 戦士:この馬車馬が身を粉にして骨になるまで走ってやるって言ってんだぜ? その依頼引き受けた。 お嬢:い、依頼って……。 戦士:ふっ。 お嬢:……戦士さん! まさか……! 戦士:ああ。決まってんだろ? お嬢:領主様の屋敷を襲撃するんですね! さっすがお頭! 戦士:しねぇよ! お前は俺に何させようとしてんだよ? お嬢:そりゃもちろん略奪行為ですよ! 戦士:もちろんじゃねぇんだよ……。 お嬢:え~? でもでも~あの腹黒領主様ならお金たぁくさん溜めこんでると思うんですよ!  ほら! 一攫千金のチャンスですよ! 戦士:やらねぇよ。 お嬢:あぁん? なんすか? まさか戦士さんイモ引いてるんですか? 泣く子も黙る『影の盗賊王』の名が泣きますよ? 戦士:こんにゃろう。おめぇを泣かせてやろうか。言っとくがあんなクソ領主でも貴族なんだ。手を出したら打ち首だぞ? お嬢:で、でも真っ当に働いてどうにかなる額じゃないんです! マスターと領主、どっちにクビを獲られるかみたいな段階なんですよ! なら私は領主から金と未来を勝ち取ってやる! 戦士:それで領主を襲うのは舐めすぎだろ……。言っとくが田舎領主の癖に私兵が結構強いんだぜ、あそこ。 お嬢:なんでそんなの知ってるんですか戦士さん? 戦士:え。……いや。そんなことよりお嬢。 お嬢:なんか今誤魔化しませんでした? 戦士:うっせぇ。お嬢、俺の仕事はなんだ? お嬢:盗賊王ですが? 戦士:ですがじゃねぇよ。 お嬢:私の中で疑いが深くなったんですが……。なにしたんですか? 戦士:うっせぇな、昔色々あったんだよ……。じゃなくて、これでも戦士で冒険者なんだぜ? クエストこなせばいい。 お嬢:あー。そんな設定もありましたね。顔が怖くて忘れておりました。 戦士:こんにゃろう。俺がクビってやろうか。 お嬢:ひぃ! 勘弁してくれお頭! 戦士:手伝うのやめても大丈夫な気がしてきたな。 お嬢:え、戦士さん手伝ってくれるんですか……? 戦士:さっきからそう言ってんだろ? お嬢:でも……。 戦士:あぁ、でも領主のとこに行くのはありかもな? お嬢:え? まさかほんとに襲撃するんですか? 戦士:違う。クエスト☆2だ、お前がやれ。 お嬢:報酬百キラルのゴミクエストなんですが……。 戦士:ギルドの人間がそれ言うなよ……。じゃなくて、可能な限り在庫売りつけてこい。 お嬢:無茶言わないで下さいよ⁉ あの領主様ドケチなことでも有名なんですからね? 戦士:あのなぁ。お前は何をさせたら右に出る者がいないんだっけか? お嬢:愛想笑いですが……本気で言ってます? 戦士:歌でも踊りでも何でもいいから「腹黒領主様ご機嫌取り」して来いよ。 お嬢:む、無理ですよ、私にそんな! 戦士:もっと自信持てよ、お嬢。この片田舎の酒場で五本五百万キラルも稼いだお嬢ならいけるって。 お嬢:確かに、それができれば多少は楽になるかもしれませんけど……それでも一日百万は無理ですよ! 戦士:自信ないとか言ってたくせに一体いくらで売りつけるつもりだよお嬢……。まぁ、精々頑張ってくれや、お嬢。あぁ。あとさっきの芋クエはキャンセルだ。 お嬢:え? な、何でですか? ひとまず、キャンセル料は百キラルですが……。 戦士:じゃあ、それは「腹黒領主様ご機嫌取り」の報酬から、お嬢が払っといてくれ。 お嬢:まぁ、良いですけど……どうするつもりなんですか? 戦士:どうする? 決まってんだろ? : 0:戦士、黙って様子を見守りながら酒を飲んでいた三人組のテーブルまで歩いていく。 : 戦士:おいお前ら。俺とパーティー組もうぜ? なぁ『鬼鹿弓(おにしかゆみ)』! お前だけで一千万キラル稼げるか? 同じく銭勘定ができるか『黒包丁(くろほうちょう)』! 『長々槍(ながながやり)』は……お友達やお嬢を見捨てたりしねぇよな? 成功報酬は……そうだな、前の挨拶の時と同じ、六対一対一対一対一の山分けになるが……言ってる意味わかるな? まぁ、なんせガチの命懸けだ無理強いはしねぇ。だから、テメェらさえよければ、なんだが。 お嬢:戦士さん、パーティ……って。 : 0:三人、頷きあい、それぞれの武器を手にして席を立つ。 : 戦士:おし。決まりだな。 : 0:戦士と三人、カウンターへ。 : 戦士:決まってんだろ。アレだ。 お嬢:……まさか! ☆5万の……。 戦士:そういうことだ。俺たちはちょいと裏山にピクニックに行ってくるが……まぁ、帰ってこれるかは運と実力次第だからよ、お嬢は安心せずにちゃんと領主には酒売りつけて来いよ? んで、その売り上げで俺らに酒を奢れ。もちろん『魔王ごろし』よりも上の酒だ『血塗られし混沌の竜(ブラッディカオスドラゴン)ごろし』なんてのがあったら最高だな。 お嬢:正気ですか……⁉ 戦士:まぁ、ちょっと酔ってんのかもな。でもよ、俺たちは冒険者だぜ? ここで酔わずにいつ酔うんだよ? それに俺は全く身に覚えがねぇが、邪竜とやらを倒したことがあるんだろ? 一匹二匹大層な名前のドラゴンが増えたところで、誰もかまやしねぇよ。 お嬢:そ、それでも無茶ですよ……。 戦士:一度行くって決めたんだ。行かせろよ。それに、キャンセル料百万キラルなんてとてもじゃねぇが払えないしな? お嬢:どうしても、行くんですね戦士さん、『鬼鹿弓(おにしかゆみ)』さん、『黒包丁(くろほうちょう)』さん、『長々槍(ながながやり)』さん。 戦士:あぁ。お嬢も頑張れよ。 お嬢:はい! 気を付けて行ってらっしゃいませ! それと皆さん、ありが—— 戦士:っと。礼を言うのはまだ早いぜ? 全部終わってから聞かせてくれよ? お嬢:……かっこつけですね。 戦士:はは。良いだろ? あぁ、そう言えば聞きそびれてたんだがよ。お嬢。 お嬢:なんですか? 戦士:例のテーマソング募集のやつ、報酬はいくらだ? お嬢:え? たしか、百万キラルですね。 戦士:そっかなかなか気前良いじゃねぇか。じゃあ、一曲考えたから、お嬢の歌ってた三番にでも加えておいてくれ。お前ら、音楽っ! : 0:三人、音楽を奏で始め、戦士が歌う。 : 戦士:芋を掘り 借金抱えて大冒険 今日も 明日も 明後日も 去り行く友よ戦友よ 命もそうだがロマンも大事 夢はやっぱりドラゴン退治 芋を引かずに剣を振る 勇者や英雄じゃなくたってぇ 女の涙は見たくねぇ 戦士:たとえ世界は 救えなくても 心と懐ぽっかぽか♪ お嬢の為に ミリオール冒険者ギルド~♪ : 0:戦士たち、歌を残して去っていく。 : お嬢:……しかしその後、彼らの姿を見た者はいなかった。うぅ……戦士さん。 戦士:いや殺すな! : 0:戦士、戸口から顔を出す。 : お嬢:あ、戦士さん。……やっぱり怖気づいたんですか? 戦士:いや、そうじゃなくて、言い忘れてたことがあったからよ。 お嬢:え? なんですか? 戦士:いや。でもやっぱ帰ってきてから言うことにしたよ。 お嬢:え、そ、それ死亡フラグってやつですよ……? 戦士:かもな。だけど、まぁ待っててくれよ。そんだけだ。じゃあな、お嬢。 お嬢:戦士さん! 必ず帰ってきてくださいね! 戦士:…………。 お嬢:頑張って! : 0:戦士、去る。 : お嬢:……行っちゃった。言い忘れてたことってもしかして……告白とか。なんて、あの戦士さんがそんなわけないか。 お嬢:さーて! こっちも頑張って、腹黒領主様に売りつけないと! ミリオール冒険者ギルドの受付嬢の本気見せてやりますよ!

0:◆あらすじ◆ 0:片田舎にあるミリオールの町の冒険者ギルドの看板娘、可愛いけれど奇想天外な『お嬢』と強面冒険者の『戦士』さんが送るドタバタコメディ。前編は「ギルドのあいさつ!」後編は「ギルドのうた♪」 : 0:◆登場人物◆ お嬢:ミリオール冒険者ギルドの受付嬢で愛称は『お嬢』。 お嬢:「明るくてかわいいみんなの人気者」を、自称している。実際のところは「かわいいけど……」と誰もが言葉を詰まらせることで有名な看板娘。なお、本人はそれを誰もが言葉を失う美貌と肯定的に捉えている。 戦士:ミリオール冒険者ギルドに所属する真面目だがあまり愛想のよくない戦士。実年齢以上に老けて見える。 戦士:以前は名のある冒険者だったとか、実は邪竜退治の英雄だとか、とある王家の血を引いているとか、裏でこの地方一帯の盗賊を纏め上げる盗賊王だとかいろいろ噂されている実力のある戦士。しかし、辺境であるミリオールの町にはそぐわない実力を持つため『お嬢』に一目惚れして住み着いたんじゃないかと噂されている。 0:その他モブの冒険者『鬼鹿弓(おにしかゆみ)』『黒包丁(くろほうちょう)』『長々槍(ながながやり)』※なお、台詞はない。 : 0:◇◇◇ : 0:【後編】ミリオール冒険者ギルドの受付嬢。~ギルドのうた♪~ : 0:後日、冒険者ギルド。 0:昼間から酒を飲む男が三人。 0:開け放たれた扉を潜り、戦士が入ってくる。 0:と、一歩踏み入れた瞬間、ギルドのカウンターからひょっこりと顔を出し、その勢いでカウンターに飛び乗る。 0:と、酒を飲んでいた三人がおもむろに武器を手に立ち上がる。 0:戦士、身構えるが三人は音楽を奏で始める。 0:そしてお嬢が歌い始める。 : お嬢:剣を振り 期待を胸に大冒険 今日も 明日も 明後日も 来る日も来る日も 夢はやっぱりドラゴン退治 だけどやっぱり命も大事 剣を振らずに芋を掘る 何でも断てる聖剣よりも 何が何でも生計立てる お嬢:たとえ世界は 救えなくても 心と懐ぽっかぽか♪ あなたのそばに ミリオール冒険者ギルド~♪ お嬢:働く喜び 額を拭い農作業 昨日 一昨日 遠いあの日 去り行く日々よ青春よ ドラゴンよりもイノシシ退治 どんなことでも安全第一 剣を振らずに芋を掘れ 勇者や英雄なれなくたって 今日を生き抜く仕事があるよ お嬢:仕事終わりは 金が無くても 心は酒でぽっかぽか♪ そんなあなたの ミリオール冒険者ギルド~♪ お嬢:センキューっ! : 0:戦士、突然のことにぽかんとしているが、そのままカウンターまで歩いていく。 : 戦士:……相変わらず元気だな、お嬢。 お嬢:いつでも元気一億パーセント! が私のモットーですからね! 戦士:なるほどうるさい訳だ。で、今日のクエストは? というかそろそろ降りろよ、カウンターから。 お嬢:ごめんあそばせ? あらよっと! : 0:お嬢、カウンターから飛び降りる。 : 戦士:いい身のこなしだな。 お嬢:私これでも受付嬢ですから! 戦士:普通の受付嬢はそんなことしないと思うが。まぁいい、クエストは? 芋あるな? よし芋行くぞ。 お嬢:いや芋ありますけど……。というか先に言うことがあるでしょう? 戦士:はぁ? ……お嬢はいつも可愛いな。 お嬢:はぁ⁉ な、な、戦士さんったら何を急に! やめてくださいよ! 戦士:いや、前にお嬢が言えって言ったんだろうが。 お嬢:あれ? そうでしたっけ……? 戦士:忘れたのかよ……。 お嬢:あー、なんかそんなこと言ったような気がしますね。 戦士:あと、……褒めてくれないって、泣かせちまったし。 お嬢:うん? なんか言いました戦士さん? 戦士:な、何でもねぇよ! お嬢:そうですか? うーん。でも、昨日まで特に何もなかったですよね? 戦士:まぁ、俺もさっきまで忘れてたしな。でも、いらねぇなら、もうやらねぇわ。 お嬢:い、いらないなんて言ってないですよね! 戦士:嫌がってたじゃねぇかよ。 お嬢:いや、嫌というわけでは……あれはただびっくりしてといいますか……。と、とにかく戦士さんは私のことをもっと日常的に褒めるべきです! 戦士:はぁ? やだよめんどくせぇ。それより仕事……。 お嬢:めんどくさいとは何ですか! 主人に敬意を払うのは戦士さんの勤めでしょう! 戦士:主人って。いつ俺がお前のものになった? お嬢:はぁ? ミリオール冒険者ギルドは私のものですよ? そして戦士さんはそこに登録する冒険者。ということはつまり戦士さんの所有権を私が主張することはごく自然な流れ。何を今さら。 戦士:所有権とかいうな。そもそもお前もギルドの使いっ走りみたいなもんだろうが。飼われる側じゃねぇか。 お嬢:私は何ものにも縛られないのです! 戦士:手がかかりすぎて放し飼いになってるの間違いだろ。 お嬢:ふふ、特権階級と呼ぶのが正しいですねぇ? 私はなんせ看板娘ですから、いわば当ギルドの顔ですよ? 枝葉末節、手足や指でしかない戦士さんとは違いますね。格が! 顎で使ってやりますよ。 戦士:ほう、俺を顎で? あんまりいい気になってるようならこのギルドの頭であるところのマスターに言いつけるぞお嬢? お嬢:や、そ、そんな脅しには屈しません! それに誰が戦士さんの言うことなど信じますかねぇ? 誰からも愛されるかわいい受付嬢と、馬車馬の骨の戦士さん! 戦士:酷使され過ぎてやっぱ骨になってんじゃねぇかよ俺。その上まだ顎で使う気かこのネクロマンサー。いい加減パワハラで訴えてもいいんだぜ? お嬢:訴える? っは! いいことを教えてあげますよ戦士さん。 戦士:いいことだぁ? お嬢:証拠がなければ罪にはならないのですよ! 戦士:極悪じゃねぇか。 お嬢:戦士さんの顔よりはマシですが。 戦士:俺の顔の方がまだマシ……何言わせんだよ! お嬢:今のは戦士さんの自爆でしょうよ。 戦士:うっせぇ……しかし、証拠ねぇ。 お嬢:ええ。戦士さぁん? 私が言ったって証拠はあるんですか? ないですよねぇ! 残念でしたねあっはっは! 戦士:おーい『鬼鹿弓(おにしかゆみ)』『黒包丁(くろほうちょう)』『長々槍(ながながやり)』! おめぇら一杯奢ってやるぞー。 : 0:三人の酔っ払いが何も言わずに、ジョッキを掲げる。 : お嬢:あ! 買収する気ですね⁉ ず、狡いですよ戦士さん! こんな可愛いくて健気な受付嬢の私を大の男四人で団結していじめようだなんて! この人でなし! 戦士:職権乱用してギルド会員をいじめる受付嬢は健気でもないだろうがよ。 お嬢:ほほぅ。つまり可愛いことは認めるんですね? 戦士:……否定しそびれただけだし。……そんなことはどうでもいいんだよ。 お嬢:むしろここが一番大事なところですよ! さっきもそう言ってくれましたし? 戦士さんが私のことを実際どう思っているのか。私はいまそれが知りたい! 戦士:それはさておき。 お嬢:さておかず、もっと持ち上げてください! 戦士:あー。……気が向いたらな。 お嬢:それはいつ向き合ってくれるんですか戦士さん! 戦士:……向き合うと言えばよぉ? そういえばさっき歌ってたのは何なんだ、お嬢? 酔っ払いどもに演奏までやらせてたが。まぁ、装備カンカンやってるだけだが。いや、『鬼鹿弓(おにしかゆみ)』は弦楽器のつもりなのか? 意外に器用なんだなお前。 お嬢:お! ようやく話題を振ってくれましたね! このまま無視されるんじゃないかとハラハラしてました! 戦士:はぁ? どこもハラハラしてる気配なんてなかっただろ。 お嬢:まぁ最終的には受付嬢の強権で無理やりこの話に引き込むつもりでしたから余裕があるのは事実です。 戦士:強権? お嬢:お話聞いてくれなきゃクエスト斡旋しないんだからね? って。 戦士:ハラハラじゃなくてパワハラじゃねぇかよ。 お嬢:お上手ですこと! 戦士:それで? これは何の騒ぎなんだ? お嬢:ふっふっふーよくぞ聞いてくれました! これはですね―― 戦士:あぁ、前の挨拶のやつと同じ感じだな。今度はテーマソングを作れ。とか、そんなあたりだろ。 お嬢:私が言おうと思ったのに! ひ、酷いです戦士さん! 戦士:な、なんだよ、別に良いじゃねぇか……。 お嬢:聞いておいて自分で答えるなんてとっても意地悪です! 私傷付きました! 戦士:そ、それは……悪かった。 お嬢:反省してます? 戦士:まぁ、そうだな、反省してるよ。 お嬢:そうですか、じゃあ悪いと思ってるなら、手伝ってくださいますよね、もちろん! 戦士:……なんでそうなる? 前回の挨拶のやつダメだっただろ? 確か最優秀賞は、城郭都市リヴェルトスだったかの冒険者ギルドの—— お嬢:『先人たちが繋いだ勇気のバトン! 次に手にするのは誰だ……? 冒険者ギルドは君を待っている!』 戦士:あーそれそれ。なんか、ピンとこねぇんだよな。 お嬢:ですよね! 絶対ウチの挨拶の方がイケてます! 戦士:それは……全面的に同意だが。 お嬢:戦士さん、なんかめっちゃくちゃ気合入ってましたもんね。最初嫌々感出してたのに、全然、率先して考えててぶっちゃけ私ドン引きしました。 戦士:ドン引きしてんじゃねぇよ! まぁ、でもリヴェルトスの挨拶から思うに、ギルドの求めてるもんは町の人からの信頼とかじゃなくて、切実に人材なんだろうなって思うが。 お嬢:どこも人手不足ですからね。 戦士:まぁ、お嬢みたいなのを雇用してるくらいだしな。 お嬢:何か。言いました? 戦士さん? 戦士:いや。まぁ、でも前回挨拶駄目だったんだから、今回も厳しいんじゃねぇの? お嬢:戦士さんがそんな後ろ向きでどうするんですか! 戦士:なにムキになってんだよ、お嬢。 お嬢:一度ダメだったくらいで諦めるなんて、そんなの私の戦士さんじゃありません! 戦士:俺はお前のじゃねぇぞ、お嬢。 お嬢:私の戦士さんはもっと粘り強い、喩えるなら『濃縮したスライムを人の形に固めたように粘り強い戦士』の筈です! 戦士:誰がスライム侯爵だ。恐怖で全身の穴という穴からマンドラゴラでも生やしてろ。 お嬢:今はそんなふざけてる時ではないんです! 戦士:お嬢だけにはそんなこと言われたくねぇんだがよ。 お嬢:ねぇ戦士さん! どうせ今日も芋掘りくらいしかやることないですし、いいでしょ! 戦士:いい加減他のクエストもとって来いよな腐ってもギルド職員。 お嬢:でもそれはマスターの仕事ですし! 私のせいじゃないですし! あと私は腐ってません! 勤続五年目ですが、みんなからは新人みたいだよねって言われるフレッシュ百万パーセントの受付嬢なんですからね! 戦士:……それはもう敢えて突っ込まないが。じゃあ、お前の仕事は何なんだよ? お嬢:冒険者及び近隣住民に精一杯の愛想を振りまくこと! 戦士:言い方よ。そういえばマスター最近見かけないけど何してんの? お嬢:中央ギルドに出張ですよ。 戦士:いつ帰ってくるの? お嬢:来月です。 戦士:あー。だからいつもにもまして仕事が雑なのか。 お嬢:そんなことどうでもいいでしょう! ちなみにそんな頑張り屋さんな私を褒めるのが戦士さんの仕事です! 戦士:どこの誰が頑張り屋さんだよ。それに仕事だってんなら、報酬はいくらだ。 お嬢:報酬は……私の笑顔です! : 0:間。 : お嬢:私の笑顔です! 戦士:……いらね。 お嬢:ちょっとぉ! 聞き捨てなりませんねぇ! 戦士:知らねぇよ、こちとら遊びでやってんじゃねぇんだよ。お嬢の気まぐれに無償で付き合ってやってるだけでもありがたく思えよ。 お嬢:はぁ⁉ 無償! 寧ろ戦士さんがお金を払うべきですよ! こんな可愛い受付嬢と毎日楽しくおしゃべりできるなんて、とっても素晴らしいことなんですからね! もっと気合入れて貢いでください! 戦士:……なんだと? はぁ。仕方ねぇな。気が変わった。 お嬢:おや? 私を褒め称える気になりました? それとも私を養う決心がつきましたか? 戦士:いや。楽しくおしゃべりしてんのはお嬢の主観の話であって、おれは黙って働けよお前って思ってることは黙っておいてやろうと思ってたが、やめただけだ。 お嬢:な! 戦士:そんなことより、早く仕事出せ。芋だ芋! お嬢:芋掘り好きすぎるでしょ! というか仕事仕事って、戦士さんはいつも仕事ばっかり! 仕事と私どっちが大事—— 戦士:仕事。 お嬢:っく! そんなに言うなら、戦士さんも一緒に考えてくださいよ! 戦士:はぁ? お嬢:チャーミングとビューティフォーを具現化した受付嬢であるところの私と一緒に素敵な挨拶を考える! これこそ戦士さんの仕事です! この世にこれほど有意義な仕事はありませんよ! 寧ろこれ以外は仕事じゃないと言っても過言ではない! 戦士:……そっか、そんなに素晴らしい仕事なのか。 お嬢:ええ! もちろん! 私の美貌に誓って! 戦士:あー。なるほどな? じゃぁ遠慮しとく。 お嬢:遠慮しないでくださいよ戦士さん! 戦士:だってよ? そんなすげぇ仕事なら、俺にはとてもとても。 お嬢:しょ、初心者歓迎! アットホームな職場です! 戦士さんでも大丈夫! 戦士:……くっそ舐められてるな。 お嬢:い、一緒にやらないと心と懐だけじゃなくて、戦士さんのこともぽっかぽかにしちゃいますよ! 戦士:そのフレーズ気に入ってんのか? 具体的に何するつもりなんだよ? お嬢:拳でぽっかぽかに! 戦士:武力行使かよ。意味変わってんじゃねーか。 お嬢:ええ世界を救うには心と金と、暴力が不可欠ですから。綺麗ごとだけではやはり……。 戦士:いらねぇよそんな裏設定、もはや全然可愛くなくなったわ。 お嬢:可愛さを維持するのは大変ということですね、戦士さん。 戦士:何の話なんだよ。 お嬢:戦士さんの癖にうるさいですね! このすっとこどっこい! 黙って私に協力すればいいんです! 戦士:すっとこどっこいってなんだよ。それが人に物を頼む態度かよ? お嬢:もっと下手に出ろとでも? 戦士:最低限の丁寧な態度とかあるだろ。 お嬢:当冒険者ギルドの荒くれ者どもに丁寧な態度? っは。そんなの舐められるだけです! 戦士:まぁ、一理あるか。 お嬢:でしょ? 実際私がここに着任した五年前は、ほぼ手のかかる可愛い子ども扱いでしたからね? 戦士:自分を可愛いというのはさておき、手がかかること自覚してんのかよ。 お嬢:当り前です! 戦士:なんでそれで胸張れるんだよ。 お嬢:千年に一人の受付嬢としての誇りを胸に抱いているからに決まっているでしょう? 何を今さら。 戦士:そりゃ、こんなのが二、三年に一人とかの割合でポコポコ出てきたら終わりだけどな。というか結局、五年経っても手のかかる大人になっただけじゃねぇかよ。 お嬢:おっと「可愛い」が抜けてますが? 戦士:うるせぇよ。そういうとこに可愛げがねぇんだよ。 お嬢:んな! 私に可愛げがないなんて、恐ろしげしかない戦士さんにだけは言われたくないですね! 極悪山賊首領顔! 顔だけで子供千人泣かした男! 戦士:こんにゃろぉ……! お嬢:ひぃ! 調子乗りましたさーせん! 戦士:ふん、失礼なやつだ。まだ百人くらいしか泣かしてねぇわ。 お嬢:それでも三桁行くんですね……。 戦士:悪いかよ? お嬢:安心してください! 私、戦士さんは人相以外良い人だと思ってますから! 戦士:こんにゃろ。 お嬢:ひぇ……。 戦士:ふん。お嬢も大概口の悪い奴だと思うぜ俺は。 お嬢:えー? でもしゃーないじゃないっすか、みんな、喋り方基本雑なんすもん。話してたら自然と口も悪くなるってもんすよ。寧ろ順応性が高いと言ってください? 戦士:はぁ? 口の悪さを人のせいにすんなよ、お嬢。まぁ、だとしても俺は普通に話してるけどな。 お嬢:いや、それシラフで言ってんすか? 戦士:はぁ? お嬢じゃあるめぇし、普通は酒飲んで仕事しねぇんだよ。 お嬢:うるさいですよ戦士さん。というか、だから戦士さんの普通は、私のような良識ある受付嬢にとってはドブみたいなもんなんですよ。というか、他のやつとは違うみたいな言い方姑息っすよ。 戦士:姑息……⁉ まぁ、たしかにそういう考えが一切なかったわけじゃねぇが……。それで言うならお前のどこに良識があるのか皆目見当もつかないな。大体お嬢も元から同類だろ。それこそシラフで言ってんのか? お嬢:いや、飲んでるに決まってるでしょ? 戦士:これだよ。ってなると、俺らの周りで言葉遣いまともなのマスターくらいになるが、ギルド職員なら見習おうとか思わないのか? お嬢:えぇ? あのマスターをですか? 戦士:嫌なのかよ? あれこそ正に良識ある紳士の話し方だろうが。 お嬢:そりゃぁ、ヤですよ。あんな話し方。丁寧と言えば丁寧なんでしょうけど、それに普段の担当も違うじゃないですかマスターは。 戦士:はぁ? お嬢:だって、マスターはクライアントの担当でしょ? お金と仕事を貰いに行ってるわけで、片やがクエストの仲介して逆に金を払ってやってる荒くれ者で礼儀知らずの冒険者の皆さんの担当なら、私みたいな感じになるのも自然の摂理でしょ? 適材適所ですよ。 戦士:嫌な考え方だなぁ。だがまぁ言われて見れば一理あるか。 お嬢:ふふん、でしょう? 戦士:あぁ、クライアントの前にお嬢を出せるわけないよな。 お嬢:……戦士さん、私のこと舐めてますよね? 戦士:お嬢も俺のことなめてんだろう。 お嬢:ったりめぇよ。 戦士:……これでもお嬢とはパートナーのつもりなんだがな。 お嬢:ぱっ、パートナー⁉ な、何を藪から棒に! 戦士:いや、だってそうだろ? 金払ってやってるとかお嬢は言ったが、こっちも命懸けて働いてんだ。なら、背中預けるパ相棒みてーなもんだろ? ……つっても、ここの依頼は芋掘りばっかだが。 お嬢:…………まぁ、それは、確かに。 戦士:だからよ、少しはマスターみたいに対等に接してくれたらって思うわけよ、お嬢。顎で使うとかじゃなくってさ? お嬢:……それは、分かりましたよ。でも、私、絶対ヤですからねあんな胡散臭い喋り方! 戦士:確かに胡散臭いけど、聖職者並みに丁寧な言葉遣いなんだからな? お嬢:いや、だからこそ胡散臭さが滲み出てるんですよ、戦士さんとはまた違った方向ですけど、あの外見ですし。 戦士:まぁ、にこやかな紳士だけど、筋肉と古傷と刺青がな……。 お嬢:それに、場にそぐいませんからね。 戦士:どういう意味だ? お嬢:こんな掃き溜めにツルがいたらサギを疑えって話ですよ。 戦士:あぁ? なんだその言い回し。 お嬢:要は油断して近付いたやつはカモ。そうでなければケツの羽毛までむしられるカネヅルってことですね。お先は、袋に詰められて売られるふかふかの真っ暗。 戦士:なんか鳥に喩えてうまいこと言ってるけど下品だぞ、お嬢。 お嬢:うっさいですよ、ネギしょってくる戦士さん。 戦士:誰がカモだ。あれみたいになれとは言わねぇけど、もっと畏まれよ。 お嬢:っは。固っ苦しくて死にますね。それとも戦士さんは籠の中のカナリヤを弄んで喜ぶ束縛の強い盗賊王なんですか? 戦士:っは。籠だぁ? お嬢みたいな血の気の多いドラゴンを閉じ込めるんなら、でっけぇ檻が必要だと思うがね。 お嬢:で、そのドラゴンに紐で繫がれてとってこいを繰り返して、血反吐と金貨を吐き出し続ける黒い鳥であるところの戦士さんが何を言いますか。 戦士:勤勉な戦士さんになんという暴言だよ。 お嬢:当ギルドは、冒険に飛び出すより暴言が飛び出すことの方が多いんです。 戦士:なんてところだ。俺もさっさと王都に行っちまおうかね? お嬢:ちなみに私は金貨を守るドラゴンですよ? 鵜なのか金を生むガチョウなのかは知りませんが、みすみす逃がすわけないじゃないですか。手綱を握り続けてやりますからね。きびきび働いて金貨を吐き出してください? 戦士さん。 戦士:何が心と懐ぽっかぽかだよ。胆も懐も寒々しいよ全く。 お嬢:そういうときは、お酒を飲むといいですよ? ツケにしといてあげます。 戦士:それで、逃げられなくするわけだ。財布のひもも握るつもりかよ。っへ嫌だねぇ。せめて「私が温めてあげますよ」とか言えねぇのかよ。 お嬢:言ってほしいならいつでも言いますけど。 戦士:え? お嬢:あ。 : 0:間。 : 戦士:……さ、懐具合も心許ないし、仕事すっかな! 芋クエはあるか! お嬢:い、芋はこの時期いつでもあります! 寧ろそれか「腹黒領主」しかありません! 戦士:芋一択! お嬢:はい! 芋! 戦士:サンキュー! じゃ、行ってくる! : 0:戦士、去ろうとするが、お嬢が呼び止める。 : お嬢:あ、戦士さん! 私の為にいーっぱい働いてくださいね、戦士さん? 戦士:いや、お嬢の為じゃねぇよ。 お嬢:えー? もっと私を真剣に喜ばせてくださいよ戦士さん! 戦士:やだよ。お嬢を喜ばせても一銭の得にもならねぇどころか、寧ろ金がかかって仕方ねぇだろ。 お嬢:良くお分かりで。はぁ。戦士さんがもっと私に媚びればいいのにな。 戦士:願望だだ洩れじゃねぇか。もっとそういうの隠せよ千年に一人の受付嬢。 お嬢:照れますね。もっと言いましょう。 戦士:全然照れてねぇだろ。 お嬢:ええ、照れるくらい、人々からたくさんの称賛と金貨を集めたいものですね。 戦士:なら、せめて人を集められるくらいの魅力か、溢れ出さんばかりの欲望に対する恥じらいを身に着けて欲しいもんだな。 お嬢:はは、御冗談を。これ以上私が何かを身に着けたら着ぶくれしちゃいますよぉ。 戦士:そんなこと言って、着服した金貨を入れ過ぎてるからなんじゃねぇのか? お嬢:……………………ははっ、何のことやら。さぁ、お仕事行ってらっしゃいませ、戦士さん! あー! お仕事楽しいなぁ! ふぅ! 戦士:……あのさお嬢。 お嬢:なんですかね、戦士さん。 戦士:ちょっとジャンプしてみ? お嬢:断固拒否します。 戦士:おい。 お嬢:っと、それはさておき、いや~、愛すべきミリオールの町は今日も、と~っても平和ですねぇ~うんうん。こんな日はぱーっとお酒でも飲みたいところですよねぇ、戦士さん? 今日お仕事終わったら特別に奢って差し上げますよぉ? えへへ~。というわけでさっさといってらっしゃいませ! 戦士:なんか圧強いな……。それにお嬢の口から奢り……? 適当に冗談言ってカマかけただけなんだけど……マジでこれなんかやらかしてるんじゃないか? お嬢:ぐっ。そ、そんなことありませんよ……? 私がそんなヘマするわけないじゃないですか、やだなぁ、戦士さんったら。 戦士:ヘマばれない程度に普段からやってそうな口ぶりだが……。 お嬢:言葉のあやですよ~。 戦士:ほんとか? お嬢:千年に一人の私が言うんですから間違いないじゃないですか! 戦士:それ、作り笑いをさせたら右に出るものが居ないと言われてるやつじゃなかった? お嬢:作り笑いじゃなくって愛想笑いです! 戦士:似たようなもんだろ。 お嬢:ま、細かいことはいいんです。そういえば戦士さんに私の素晴らしい歌声の感想聞いてなかったですね! 戦士:話逸らそうとしてるよな? お嬢:してません。 戦士:俺の目を見て言えるか? お嬢:だ、だから、そんな怖い顔で私を見つめないでくださいよ! そんなに熱い視線を向けられても……全身の穴という穴からマンドラゴラが生えてくるだけです! 戦士:スライム侯爵はもういいんだよ! : 0:間。 : 戦士:いい加減教えろよ、お嬢。 お嬢:えっと、その……。 戦士:マスターに言うしかなくなるからな? お嬢:マスターにばれたらクビられちゃいます! 戦士:それはどっちの意味なんだよ……。 お嬢:み、未知数ですね……。 戦士:そんなヤバいことしたのかよ……。 お嬢:えっと、大きな声では言えないので、ちょっと耳を貸してください……。 戦士:……なんかやだな。 お嬢:なんでですか! 戦士:だってお嬢耳元でいきなりでかい声とか出しそうだし。 お嬢:しませんよ! 私のこともしかしてすごい小さな子供とかだと思ってます⁉ 戦士:子供だったら可愛げがあるんだが、それをいい大人がやるからなぁ。 お嬢:やりませんよ! 素面では! 戦士:お前、さっき飲んでるって……。 お嬢:もういいから! 耳をよこせ! 戦士:お、おい! : 0:お嬢、戦士の頭を掴む。 : お嬢:じ、実は……。 戦士:なんだよ? というか、マジで酒くせぇなお嬢。 お嬢:息を嗅がないでください! じゃなくて……酒場の方に置くお酒のことなんですけど。 戦士:あー、勝手に飲んだとかか? お嬢:いや、それもあるんですけど。 戦士:あるのかよ。 お嬢:安酒の『平民ごろし』と間違えてちょっとお高目なお酒であるところの『魔王ごろし』を発注してしまって……。 戦士:何やってんだよ、マジで。間違えることとかあるか? お嬢:いや普段なら絶対にそんなヘマはしないんですけど。その時は酔っていて……。 戦士:だから何自然に仕事しながら飲んでんだよ。 お嬢:反省してます。 戦士:反省してるくせに今日も飲んだのかよ。 お嬢:ええ、反省して酔わない程度に。 戦士:いつも酔っぱらいながら仕事してたのかよ。 お嬢:ほ、ほら、ここ酒場が併設されてて、酔っ払いも常駐してるので、ちょっとくらい酔っててもばれないかなーって。 戦士:常駐してる酔っ払いの一人が正にお前なんだわ。確かに、元々頭おかしいんだろうなって思ってたから全然気付かなかったけどよ。 お嬢:ちょっと戦士さん! 私の頭のどこがおかしいって言うんですか⁉ 戦士:ぐぁぁ! 耳が! やっぱりでかい声出してんじゃねぇか! お嬢:あら、ごめんあそばせ。つい。 戦士:絶対わざとだろ……。 お嬢:つい、戦士さんのお耳を破壊したくなりまして。 戦士:こんにゃろう、マジ……! お嬢:冗談ですよ、もうやらないから許して? 戦士:……はぁ。まぁ。でもそれくらいならマスターも半クビりくらいで許してくれるんじゃねぇの? 俺じゃなくてマスターに言えよ。 お嬢:半クビりで済みますかね? 戦士:はぁ? いくら高級酒って言っても、まぁ、最悪働いて返すくらいでどうにかなるだろ? どんくらい発注したんだよ? お嬢:それが、千本発注しちゃって……。ははっ。 戦士:正気か⁉ お嬢:酔った勢いですし? 戦士:こんの……! はぁ……。それでも、借金して真面目に働けばなんとか返せるだろ? なんなら俺が立て替えてやってもいい。そこそこ貯蓄はある方だしな。 お嬢:戦士さん……! じゃあ、一億キラルほど用立ててもらうことって……。 : 0:戦士去ろうとする。 : 戦士:半クビりで済むことを祈ってるよ、お嬢! お嬢:あ! み、見捨てないでくださいよ! : 0:お嬢、戦士を止める。 : 戦士:仕方ねぇだろ! 今の俺の貯蓄八万キラルなんだよ! お嬢:しょぼ! それでよく俺が立て替えるとか、そこそこあるとかドヤ顔で言えましたね! 戦士:なんだと! 慎ましく暮らせば一か月はわりと持つ貯蓄だぞ⁉ あと先月鎧の傷凹み修理と税金で結構持ってかれたんだよ! そういうお前はどうなんだよ! お嬢:っは! 舐めないでいただきたい戦士さん! 私は宵越しのお金は持たない主義なのです! 戦士:何威張ってんだ! というかお前、腐ってもギルド職員だろ、そこそこもらってんじゃねぇのか! そこの求人のビラには「基本給二十七万キラル 賞与年二回 昇給アリ」ってあったぞ。 お嬢:ははっ! お給金は全部酒に消えます! 戦士:断酒しろ! お嬢:そ、そんな! 私から酒を奪ったら何を楽しみに生きていけばいいんですか! 戦士:その酒で未来とクビが断たれようとしてるやつが良く言えたもんだな! お嬢:私の人生をそんな面白い感じで纏めないでくださいよ! 膝が笑っちゃいます! 禁断症状で! 戦士:いや、ほんと酒やめろ! お嬢:もう私はお酒が無いとダメなんです! 戦士:安心しろ酒が無くてもお前はダメだ! お嬢:ひ、ひどい! そこまで言いますか戦士さん……! 戦士:あぁ? ひどいっつっても、お嬢の酒癖よりはマシだろうが。 お嬢:く、それは……。でも、じゃあ、どうすればいいんですか! 戦士:んなもん、真面目に働くしかないだろ。 お嬢:そ、そんな! 私が真面目に働けるとでも思ってるんですか戦士さん! もっと真面目に楽できる方法を考えてください! 戦士:こんにゃろう……! お嬢:やっぱり、もうどうにもならないんですかね……? このまま、マスターにクビられて私は……う、うぅ……。 戦士:…………はぁ。 お嬢:うぅ……せ、せめて、最期は『魔王ごろし』の在庫を飲み干してアル中で……! 戦士:いや、まだ飲むつもりかよ! お嬢:ヤケ酒です! いけませんか⁉ 戦士:いけませんわ! そんなもんただ酒に逃げてるだけなんだよ! いいか、俺たち戦士のコマンドに「にげる」の三文字はねぇんだよ! お嬢:いや、私戦士じゃなくて受付嬢ですし……。 戦士:まだ在庫は残ってんのか? お嬢:ええ? そうですね……五百本ほどでしょうか? 戦士:何半分も飲んでんだよ。 お嬢:し、仕方ないじゃないですか! 私はお酒を一日一本飲むって決めてるんです! 戦士:このド阿保! にしたって減るペース早すぎるだろ? 高級酒をバカみたいな飲み方すんじゃねぇよ! そもそもいつの話なんだよ? お嬢:先月です。 戦士:せっ……? 一か月で五百も飲んだのかお前……よく生きてんな。逆に尊敬するわ。 お嬢:へへっ、あざまーす。 戦士:何誇らしげにしてんだよ……。というか、今まで何食わぬ顔でそれ隠して働いてたのかよ。 お嬢:ええ、まぁ愛想笑いをさせたら、 戦士:右に出る者はいないんだろ。大した面の皮だなぁ。 お嬢:あ、でも私一人だけの戦果じゃないんです。 戦士:戦果とか言ってんじゃねぇよ。まぁ、店で出してたりもするもんな。売り上げは? お嬢:えっと……。五百万キラル……。 戦士:結構いったな。五十本分は売れたのか? お嬢:いえ、五本。 戦士:……強気の価格設定だな。 お嬢:どこの店もこんなもんですよ。 戦士:にしても四百九十五本を一か月でか……。どうなってんだお前の身体。 お嬢:そ、そんなにじろじろと、私の自慢のボディを見ないでください……!  戦士:寧ろ内臓の方が気になるが。 お嬢:猟奇的ぃ! というか、誤解ですよ。 戦士:誤解? お嬢:えっと、だから、その……いくら私でも五百近くは無理ですから……。 戦士:はぁ? まだなんか隠してんのか? お嬢:隠してるというか、隠してもらってるというか……。 戦士:煮え切らねぇな。 お嬢:その……。口止め料として……。 戦士:口止め……? あいつらか? お嬢:えっと、その……。はい。 戦士:ほぅ。 : 0:戦士が微笑を浮かべる。 : お嬢:あ、顔ヤバいです戦士さん。 戦士:テメェら! 人を脅して飲む酒はうめぇか! あぁ⁉ テメェらのことは気のいいクズだと思ってたがまさかそこまでのクズだとはな! それでさっきの演奏とか手伝って機嫌でも取ったつもりか? 見損なったぜ! 魔王じゃなくてまずはおめぇらを始末してやってもいいんだぞ俺ぁ! お嬢:ひ、ひぃ! やめてくださいお頭! 戦士:誰がお頭だ! お嬢:そ、その、元はといえば私の失敗ですし……その、彼らも悪気が……なかったかと言えば、ありありだったと思うのですが、あれでも一応飲み友達で……。 戦士:あぁ? 友達が困ってたら助けるもんだろうが! それを弱みにつけ込むみたいなこと、悔しくねぇのかよ! お嬢:……それもそうですね! じゃあ、彼らには私の代わりにマスターにクビられてもらうということで手を打ちましょう! 私が彼らに脅されて発注した、と。よし。いやぁ、よかったよかった。 戦士:こんにゃろう。 : 0:戦士、お嬢にデコピンする。 : お嬢:いたっ。じょ、冗談ですよ。やだなぁ、戦士さんったら。 戦士:お前、わりと本気だったくせによく言うな。で、あいつらは何本くらい飲んで、いくら払ったんだ? お嬢:えーっと、『鬼鹿弓(おにしかゆみ)』が九十九、『黒包丁(くろほうちょう)』が七十一本、『長々槍(ながながやり)』さんが……五ですね。 戦士:いやそれでも三百二十本はお前が飲んでてダントツじゃねぇかよ! 何が一日一本だ! 十本じゃねぇか! お嬢:あ。ちなみに『長々槍』さんだけはツケですがお支払いも……。 戦士:な、なんか悪かったな『長々槍(ながながやり)』! 他二人は後でシメるとして……。飲んだ分は払わせて、千七百五十。売り上げが五百で二千二百五十。返品できれば五千、駄目なら転売でその半分二千五百は取り戻したいところだが……。四千七百五十……。ざっと五千とちょっとは何とかして稼がないとな。マスターは具体的にいつ頃帰ってくるんだ? お嬢:えっと、……来週くらいですね。 戦士:……ふむ。なら一日一千万キラルは稼ぐつもりでいった方が良いな。 お嬢:あ、あの戦士さん? 戦士:あぁ? お嬢:計算とかできたんですね。 戦士:てめぇ馬鹿にしてんのか! お嬢:あ、じゃなくて、えっと、その、なんでそこまでしてくれるんですか……? 戦士:何が? お嬢:いや、だってこれ全部私の失敗で、依頼というわけでもないですし戦士さんが助けなきゃいけない理由なんてないですよね? 戦士:…………。 お嬢:そもそも、戦士さんの実力なら、ミリオールの町にいる理由だってないはずですし。噂で聞いただけですけど、実は邪竜退治の英雄だとか、とある戦王の血を引いているとか……・。 戦士:さぁな。 お嬢:だから脳筋で計算できない人なのかなって思ってて。 戦士:こんにゃろう……! お嬢:……あ。じゃなくて。今のナシです。 戦士:ナシになるか。 お嬢:その、何でですか? 戦士:…………。 お嬢:なんでそんなに良くして、助けてくれるんですか? : 0:間。 : 戦士:……救われたから。 お嬢:え? 戦士:今日も一日世界を救って心と懐ぽっかぽか! お嬢:な、なんですか? 戦士:お嬢が言ったんだろ? いつでも元気百万パーセントだっけか? 今何パーセントくらいだ? お嬢:え? 五十パーセントくらいでしょうか……。 戦士:そりゃほぼ瀕死だな。いつでも元気でいろよ、お嬢。ギルドの顔が死んでると、誰も寄り付かなくなるぜ? そしたら、マスターに何クビりされるか分かったもんじゃねぇ。 お嬢:戦士さん……。 戦士:おい、愛想笑いはどこいった? 二日酔いか、仕事のミスか知らねぇが、なにしょぼくれた顔してんだよ、千年に一人の看板娘? それとも笑顔の下は籠の中で囀るだけで、空を飛ぶこともできないビビりの小鳥ちゃんか? お嬢:それは……! でも、戦士さんに迷惑をかけるのが、申し訳なくて……。 戦士:……おめぇ、ほんとにあのお嬢か? お嬢:え? 戦士:迷惑をかけるのが申し訳ない? おー怖い怖い。これは全身の穴という穴からマンドラゴラが生えてくるやつだわ。 お嬢:な! なんですかさっきから! 戦士:盗み食いがバレたくらいでしょんぼりしてるお嬢なんて、俺は知らねえってんだよ。寧ろ見られたら骨も残さず食っちまうのが、ミリオールの冒険者ギルドが唯一誇る看板娘であるところのお嬢なんじゃねぇの? そうじゃねえなら、お前はきっとお嬢に化けたスライムだな。 お嬢:そんなこと言っても、私、五千万キラルなんてやっぱり一人じゃとても……。 戦士:なんで一人でやろうとすんだよ。 お嬢:え? 戦士:この馬車馬が身を粉にして骨になるまで走ってやるって言ってんだぜ? その依頼引き受けた。 お嬢:い、依頼って……。 戦士:ふっ。 お嬢:……戦士さん! まさか……! 戦士:ああ。決まってんだろ? お嬢:領主様の屋敷を襲撃するんですね! さっすがお頭! 戦士:しねぇよ! お前は俺に何させようとしてんだよ? お嬢:そりゃもちろん略奪行為ですよ! 戦士:もちろんじゃねぇんだよ……。 お嬢:え~? でもでも~あの腹黒領主様ならお金たぁくさん溜めこんでると思うんですよ!  ほら! 一攫千金のチャンスですよ! 戦士:やらねぇよ。 お嬢:あぁん? なんすか? まさか戦士さんイモ引いてるんですか? 泣く子も黙る『影の盗賊王』の名が泣きますよ? 戦士:こんにゃろう。おめぇを泣かせてやろうか。言っとくがあんなクソ領主でも貴族なんだ。手を出したら打ち首だぞ? お嬢:で、でも真っ当に働いてどうにかなる額じゃないんです! マスターと領主、どっちにクビを獲られるかみたいな段階なんですよ! なら私は領主から金と未来を勝ち取ってやる! 戦士:それで領主を襲うのは舐めすぎだろ……。言っとくが田舎領主の癖に私兵が結構強いんだぜ、あそこ。 お嬢:なんでそんなの知ってるんですか戦士さん? 戦士:え。……いや。そんなことよりお嬢。 お嬢:なんか今誤魔化しませんでした? 戦士:うっせぇ。お嬢、俺の仕事はなんだ? お嬢:盗賊王ですが? 戦士:ですがじゃねぇよ。 お嬢:私の中で疑いが深くなったんですが……。なにしたんですか? 戦士:うっせぇな、昔色々あったんだよ……。じゃなくて、これでも戦士で冒険者なんだぜ? クエストこなせばいい。 お嬢:あー。そんな設定もありましたね。顔が怖くて忘れておりました。 戦士:こんにゃろう。俺がクビってやろうか。 お嬢:ひぃ! 勘弁してくれお頭! 戦士:手伝うのやめても大丈夫な気がしてきたな。 お嬢:え、戦士さん手伝ってくれるんですか……? 戦士:さっきからそう言ってんだろ? お嬢:でも……。 戦士:あぁ、でも領主のとこに行くのはありかもな? お嬢:え? まさかほんとに襲撃するんですか? 戦士:違う。クエスト☆2だ、お前がやれ。 お嬢:報酬百キラルのゴミクエストなんですが……。 戦士:ギルドの人間がそれ言うなよ……。じゃなくて、可能な限り在庫売りつけてこい。 お嬢:無茶言わないで下さいよ⁉ あの領主様ドケチなことでも有名なんですからね? 戦士:あのなぁ。お前は何をさせたら右に出る者がいないんだっけか? お嬢:愛想笑いですが……本気で言ってます? 戦士:歌でも踊りでも何でもいいから「腹黒領主様ご機嫌取り」して来いよ。 お嬢:む、無理ですよ、私にそんな! 戦士:もっと自信持てよ、お嬢。この片田舎の酒場で五本五百万キラルも稼いだお嬢ならいけるって。 お嬢:確かに、それができれば多少は楽になるかもしれませんけど……それでも一日百万は無理ですよ! 戦士:自信ないとか言ってたくせに一体いくらで売りつけるつもりだよお嬢……。まぁ、精々頑張ってくれや、お嬢。あぁ。あとさっきの芋クエはキャンセルだ。 お嬢:え? な、何でですか? ひとまず、キャンセル料は百キラルですが……。 戦士:じゃあ、それは「腹黒領主様ご機嫌取り」の報酬から、お嬢が払っといてくれ。 お嬢:まぁ、良いですけど……どうするつもりなんですか? 戦士:どうする? 決まってんだろ? : 0:戦士、黙って様子を見守りながら酒を飲んでいた三人組のテーブルまで歩いていく。 : 戦士:おいお前ら。俺とパーティー組もうぜ? なぁ『鬼鹿弓(おにしかゆみ)』! お前だけで一千万キラル稼げるか? 同じく銭勘定ができるか『黒包丁(くろほうちょう)』! 『長々槍(ながながやり)』は……お友達やお嬢を見捨てたりしねぇよな? 成功報酬は……そうだな、前の挨拶の時と同じ、六対一対一対一対一の山分けになるが……言ってる意味わかるな? まぁ、なんせガチの命懸けだ無理強いはしねぇ。だから、テメェらさえよければ、なんだが。 お嬢:戦士さん、パーティ……って。 : 0:三人、頷きあい、それぞれの武器を手にして席を立つ。 : 戦士:おし。決まりだな。 : 0:戦士と三人、カウンターへ。 : 戦士:決まってんだろ。アレだ。 お嬢:……まさか! ☆5万の……。 戦士:そういうことだ。俺たちはちょいと裏山にピクニックに行ってくるが……まぁ、帰ってこれるかは運と実力次第だからよ、お嬢は安心せずにちゃんと領主には酒売りつけて来いよ? んで、その売り上げで俺らに酒を奢れ。もちろん『魔王ごろし』よりも上の酒だ『血塗られし混沌の竜(ブラッディカオスドラゴン)ごろし』なんてのがあったら最高だな。 お嬢:正気ですか……⁉ 戦士:まぁ、ちょっと酔ってんのかもな。でもよ、俺たちは冒険者だぜ? ここで酔わずにいつ酔うんだよ? それに俺は全く身に覚えがねぇが、邪竜とやらを倒したことがあるんだろ? 一匹二匹大層な名前のドラゴンが増えたところで、誰もかまやしねぇよ。 お嬢:そ、それでも無茶ですよ……。 戦士:一度行くって決めたんだ。行かせろよ。それに、キャンセル料百万キラルなんてとてもじゃねぇが払えないしな? お嬢:どうしても、行くんですね戦士さん、『鬼鹿弓(おにしかゆみ)』さん、『黒包丁(くろほうちょう)』さん、『長々槍(ながながやり)』さん。 戦士:あぁ。お嬢も頑張れよ。 お嬢:はい! 気を付けて行ってらっしゃいませ! それと皆さん、ありが—— 戦士:っと。礼を言うのはまだ早いぜ? 全部終わってから聞かせてくれよ? お嬢:……かっこつけですね。 戦士:はは。良いだろ? あぁ、そう言えば聞きそびれてたんだがよ。お嬢。 お嬢:なんですか? 戦士:例のテーマソング募集のやつ、報酬はいくらだ? お嬢:え? たしか、百万キラルですね。 戦士:そっかなかなか気前良いじゃねぇか。じゃあ、一曲考えたから、お嬢の歌ってた三番にでも加えておいてくれ。お前ら、音楽っ! : 0:三人、音楽を奏で始め、戦士が歌う。 : 戦士:芋を掘り 借金抱えて大冒険 今日も 明日も 明後日も 去り行く友よ戦友よ 命もそうだがロマンも大事 夢はやっぱりドラゴン退治 芋を引かずに剣を振る 勇者や英雄じゃなくたってぇ 女の涙は見たくねぇ 戦士:たとえ世界は 救えなくても 心と懐ぽっかぽか♪ お嬢の為に ミリオール冒険者ギルド~♪ : 0:戦士たち、歌を残して去っていく。 : お嬢:……しかしその後、彼らの姿を見た者はいなかった。うぅ……戦士さん。 戦士:いや殺すな! : 0:戦士、戸口から顔を出す。 : お嬢:あ、戦士さん。……やっぱり怖気づいたんですか? 戦士:いや、そうじゃなくて、言い忘れてたことがあったからよ。 お嬢:え? なんですか? 戦士:いや。でもやっぱ帰ってきてから言うことにしたよ。 お嬢:え、そ、それ死亡フラグってやつですよ……? 戦士:かもな。だけど、まぁ待っててくれよ。そんだけだ。じゃあな、お嬢。 お嬢:戦士さん! 必ず帰ってきてくださいね! 戦士:…………。 お嬢:頑張って! : 0:戦士、去る。 : お嬢:……行っちゃった。言い忘れてたことってもしかして……告白とか。なんて、あの戦士さんがそんなわけないか。 お嬢:さーて! こっちも頑張って、腹黒領主様に売りつけないと! ミリオール冒険者ギルドの受付嬢の本気見せてやりますよ!