台本概要
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タイトル | 勿忘草を君に |
---|---|
作者名 | 伊露葉 (@irodorusekai12) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男2) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
初投稿の再投稿です。 BL要素あります。過激なものはないです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 時は元禄時代。 赤穂浪士討ち入りの半年ほど前。 最年少浪士のあったかもしれない恋の物語。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 軽く背景説明すると 14歳で討ち入りに行く!と決めた良金がかわいそうだったお父さんが知り合い(奥平さん)使って息子用に相手を用意しましたって話です。 色子のシステムがいまいちわからなかったので仕様は妄想です。 良金は腐ってもいいとこのぼんぼんなので家に来てもらってます。 時代背景的におかしいですが良金の一人称はキャラのイメージ的に「ぼく」です。 史実で大石良金と相山幸之助の恋仲説がありますが資料少なすぎて自分で妄想しました。 気になった方はぜひ調べてみてください! キャラクターは男ですが年齢が低いので女性が演じても問題ございません。 台本はお好きにつかってください! 上演時、アーカイブがある時はぜひ教えてください!聞きに行きます! 読み方 浅野内匠頭(あさのたくみのかみ) 位牌(いはい) 葉隠(はがくれ) 諱(いみな) 赤穂藩(あこうはん) 大石内蔵助(おおいしくらのすけ) 良雄(よしたか)※よしお説もありますが私はよしたか推しです。 泉岳寺(せんがくじ) 2220 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
幸之助 | 男 | 93 | 四条河原の色子(男色を売っている少年)。 17歳。 女装時は大和撫子、素はサバサバ。 |
良金 | 男 | 85 | 通称は主税(ちから) 元赤穂藩筆頭家老大石内蔵助の嫡男。 15歳。 ききわけのいい子に育ちすぎてしまったため甘えられるのが幸之助しかいない。 身体が大きいのも相まって年齢に合わず達観している雰囲気がでている。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
幸之助N:出会いは馴染みの客の紹介だった
0:エピソード1出会い
良金:え?奥平(おくひら)さんどういうこと?この部屋にいいものがあるって?
0:戸が開く
0:部屋の中には小柄で綺麗な人物がいる
幸之助:幸(こう)と申します。よろしくお願いします。
良金:…は?ちょっと奥平(おくひら)さん!?もういないし…
幸之助:…
良金:…
幸之助:あの…何もなさらないんですか?
良金:すみません。女性とあまり喋ったことがなくて、何を話したらいいかわからなくて
幸之助:それならご安心ください。わたくしは男ですので。お気になさらず
良金:男!?なんでそんな格好を?
幸之助:それは…まぁ…お仕事ですから
良金:本当は女の格好なんてしたくないということ?
幸之助:いえ、そのようなことは…
良金:ということはその喋り方も「仕事だから」?
幸之助:…
良金:ぼくの前では無理しなくていいよ。なんなら仕事だと思わなくていいよ
幸之助:何をおっしゃって…
良金:ぼくが一人じゃさびしいだろうからって君に来てもらったんだろうけど、ぼくは一人でも大丈夫だから。なんなら帰る?
幸之助:黙って聞いてれば…!なにふざけたこと言ってんだあああああああああ!!!
良金:うわ、びっくりした
幸之助:俺呼ぶのにどんだけ金かかってると思ってんだ!少しは感謝しやがれ!くされ坊ちゃん!
良金:そっちが本当の君?
幸之助:あ、やべ
良金:ははっなんだ。そっちの方がいいよ。おもしろい。君が話し相手になってよ
幸之助:大体の男は女の格好の方が喜ぶのによ、変な奴
幸之助N:それから何回かあいつの家に呼ばれた
0:エピソード2葉隠
幸之助:呼びつけておいて読書かよ
良金:読み出したら止まんなくなっちゃって
幸之助:何読んでんだよ
良金:『葉隠(はがくれ)』。読む?
幸之助:読まない。それ何巻あるんだよ、いつおわんだよ!
良金:なかなか興味深いこと書いてあるから
幸之助:いいかげんにしろ(本を取り上げる)
良金:うわっ
幸之助:えーと何々…「互いに想う相手は一生にひとりだけ」「相手を何度も取り替えるなどは言語道断」
幸之助:「そのためには5年は付き合ってみて、よく相手の人間性を見極めるべき」?
良金:素敵だと思わない?
幸之助:理想論だな
良金:でも、生涯一人の相手と契りが結べたら幸せだよね。というか文字読めたんだ
幸之助:バカにしてるのか?普段は舞台の稽古をしてるんだ。普通に読める
良金:舞台?
幸之助:本業は歌舞伎役者だぞ。これでも
良金:そうなんだ。見に行きたいな
幸之助:絶対来るな。素を知ってる人間には極力見られたくない
0:エピソード3身の上話
幸之助:お前名前は?
良金:教えられない。君は?
幸之助:だから幸だって
良金:本当に?
幸之助:名乗らない奴に教える名前はねーよ
良金:そっか。じゃあ君のこと教えて
幸之助:唐突だな。俺のこととか聞いても楽しくないだろ
良金:知りたいんだ。ダメ?
幸之助:わーったよ。途中で寝るなよ?
良金:うん。楽しみ
幸之助:俺の先祖は元々越中に住んでたらしいんだ。
幸之助:どういういう経緯で京に来たかは知らないが両親は越中に戻りたがってた。
幸之助:でも簡単には戻れないらしくて。小さな商家だったけどいつか越中に帰るんだって頑張ってた。
幸之助:結構大家族だったんだぜ?兄が3人と姉と弟が2人、妹が1人。
幸之助:兄貴たちはみんな頼りになったし、姉貴たちはしっかりしてて、弟たちと妹は可愛かった。
幸之助:何があったか知らないが経営不振になっちまってなぁ。
幸之助:働き手になる兄貴たちと姉貴たち、まだ親の手がいる弟たちと妹よりはってんで
幸之助:当時7つだった俺が身売りされたんだ。1番最初に。
幸之助:俺を売った金で何日かは持ったかもしれないけど弟たちと妹も売られたかもな。
幸之助:そっからは歌舞伎の稽古と客の相手かな。線が細いからって女形の稽古をみっちりされた。
幸之助:今の俺を作ったのはこの時だな。で、今に至るって感じ。
良金:両親のこと恨んでないの?
幸之助:別に?そうしなきゃみんな死んでたしな。
幸之助:兄貴たちと姉貴たちが残ったっていったって1番上の兄貴以外はみんな婿や嫁にもらわれていっただろうし
幸之助:俺だけ辛かったわけじゃねーよ。稽古が辛かったことはたくさんあるけどな
良金:君は強いね
幸之助:何もかも悲観してたら人生やっていけないからな。ま、温室育ちの坊ちゃんにはわからねーだろーけど
良金:そうだね。でも大切な人と離れる辛さは多少はわかる、かな
幸之助:なんだぁ?思い人に不幸でもあったか?
良金:1年くらい前に父親みたいに慕ってた人が亡くなったんだ
幸之助:へぇー。それは秘密じゃないんだな
良金:君が話してくれたから話したくなったんだ。これ以上は言わない
幸之助:はいはい、こっちは金さえもらえれば何も言いませんよー
0:エピソード4告白?
良金:この前歌舞伎を見に行ったよ
幸之助:やっぱりあれお前だったのか!来るなって言ったのに!
良金:だって気になったし。父上に頼んで連れて行ってもらった
幸之助:そうかよ。もう来んなよ
良金:幸が一番きれいだった
幸之助:はあ!?そりゃむさい兄さんたちに囲まれてれば綺麗に見えるだろうよ
良金:でも普段話してる君が一番好きかな
幸之助:なんだ?告白か?俺を抱く気になったか?
良金:心もないのにそんなことしても虚しいだけでしょ
幸之助:ほんと夢想家だよな!はいはい、俺はいつも虚しいことしてますよー
良金:ぼくのこと好きになればいいのに
幸之助:黙れ。大体俺とお前はそういうんじゃないだろ
良金:こっちは見てくれないんだね
幸之助:言ってろ
0:エピソード5子ども
幸之助:おーい。来てやったぞー
良金:(寝息)
幸之助:なんだよ今度は寝てんのかよ
幸之助:寝顔はかわいいんだよなー
幸之助:はぁ。早く起きろよ
良金:…ん。あ、ごめん。寝てた。
幸之助:やっと起きたか。ま、許してやるよ。普段見れないもの見れたしな。
良金:普段見れないもの?
幸之助:こっちの話。まだ寝るなら寝ていいぞ。俺帰るし
良金:そんなもったいないことしない。そばにいて
幸之助:疲れてんじゃないのかよ。わがまま
良金:疲れてないよ。本読んでただけ。まわり大人ばっかりでつまんないんだよ。君が一番楽しい
幸之助:おい、俺も年上だぞ。お前15歳だろ。俺17歳
良金:そうだっけ?なんでもいいから甘えさせて
幸之助:そういうとこは年相応っていうか幼いっていうか…
良金:いつまでも子どもじゃいられないけどね
幸之助:15歳なんてまだ子どもだろ。ま、俺の前では子どもになっとけ
0:エピソード6文字
幸之助:よう。今日は何やってんだ?
良金:勉強。学ぶのって楽しいよね
幸之助:そうだな。知らないことが知れるってのはそれだけで生きてるって感じがする
良金:…。意外。自分で言ったけど君は勉強が嫌いだと思ってた。
幸之助:そんなわけないだろ。学ぶのが嫌いだったらとっくに自殺してるわ。歌舞伎でも客相手でも勉強の連続だわ
良金:そっか。そうだね
幸之助:何書いてるんだ?ちょっと見せろ(帳面をとりあげる)
良金:また!?ちょっと
幸之助:いろは歌か?
良金:はぁ…。うん。文字の練習に便利なんだ
幸之助:へぇー。お前、字きれいだな
良金:褒められるなんて思ってなかった
幸之助:なんだよ。素直な感想だよ
良金:ふふ。嬉しい。君の字も見せて
幸之助:汚くても文句言うなよ?
0:エピソード7身長
良金:君ってさ、ちょうどいい大きさだよね
幸之助:はぁ!?身体でかいからって調子のんなアホ
良金:大きくてもいいことないよ。よく頭ぶつける
幸之助:自然と見下ろされてる感じがムカつく
良金:そのままの君が1番だよ
幸之助:長身滅びろ。でもまた?俺はこの身体のおかげで仕事あるしぃ?身体が小さい方が受けがいいのは確かだな
良金:受けがいいんだ
幸之助:小さい方が可愛いだろ。元々俺は可愛いけど
良金:…なんか想像して腹立った
幸之助:なんでだよ
良金:君がしてるのは虚しいことだってわかってるけど面白くはないよね
幸之助:生意気に。じゃあお前も抱くか?
良金:抱かない。でも面白くないものは面白くない
幸之助:お前俺のことほんと好きな
良金:君もぼくのこと好きでしょ?
幸之助:お前は客だ
良金:…。認めてくれてもいいのに
幸之助:そういうのは女に言ってやれよ
良金:君以外いないし知らない
幸之助:残念なやつ
0:エピソード8最期の逢瀬
幸之助:お前、大石主税(おおいしちから)だろ?
良金:急にどうしたの?違うけど
幸之助:部屋がきれいになってる
良金:掃除したからね
幸之助:出ていく気だろ
良金:…
幸之助:前に言ってた亡くなった父みたいな人って浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)か?
良金:…
幸之助:父親は元赤穂藩筆頭家老大石内蔵助(もとあこうはんひっとうかろうおおいしくらのすけ)。そうだろ?
良金:…
幸之助:主君の仇討(あだうち)に江戸へ、か。泣けるね
良金:違う。ぼくは大石主税(おおいしちから)じゃない
幸之助:どんな仕事してると思ってんだ。俺が可愛い声で鳴けば秘密なんてあってないようなもんだぜ
良金:聞いただけだろ。証拠はないじゃないか
幸之助:…はぁ。坊ちゃん。片付けはしっかりしろよな。「大石主税(おおいしちから)」ってお前の字で書かれた位牌(いはい)が見えてるぜ
良金:!? え、あ、これは…
幸之助:俺とお前の仲だろ。隠し事はなしにしようぜ
良金:ぼくと君の仲?君はぼくのこと客としてしか見てないんじゃないの?
幸之助:あ
良金:特別な仲だと思っていいの?
幸之助:…あの『葉隠(はがくれ)』に載ってたやつ、みたいにさ。なりたいって思っちまったんだよ
良金:けど、あれは…
幸之助:5年後はもう、いないんだろ
良金:…わかった。隠し事はなしにしよう。ぼくは大石主税。でも主税(ちから)は通称(つうしょう)で諱(いみな)は良金(よしかね)。
良金:元赤穂藩筆頭家老(もとあこうはんひっとうかろう)、大石内蔵助(おおいしくらのすけ)…良雄(よしたか)の長子(ちょうし)だよ
幸之助:やっと名乗ってくれたな。俺は相山幸之助(そうやまこうのすけ)。これが俺の本名だ。
良金:でも、本当にいいの?ぼくはこれから…。それに君のことを縛ることになる
幸之助:いいんだよ。俺がしたいんだから。俺のこと好きなんだから嬉しいだろ?
良金:わかった。ありがとう。でも一つ約束して。絶対に命を絶たないって
幸之助:お前がそれを言うのかよ。残酷だな
良金:聞いてくれないなら契(ちぎ)りは結ばない
幸之助:わがままな奴
良金:そんなぼくが好きなんじゃないの?
幸之助:残念ながらそうなんだよなー。俺どうしちゃったんだろ
良金:じゃあ約束
幸之助:わーったよ。良金、ほら、盃(さかづき)と小指だせ
良金:斬りおとさないでね?
幸之助:それもいいかもな。よっと(良金の小指を切る)
良金:まさか君がこんな風になるなんて思いもしなかったな。君も小指だして。痛くないようにするから
幸之助:気色悪い言い方すんな。…ほら(小指を出す)
良金:ごめんね。つい嬉しくて(幸之助の小指を切る)
幸之助:ほら、口つけろ
良金:うん。(飲む) 君も
幸之助:おう(飲む)これで俺たちは死んでも一緒だ
良金:幸之助(こうのすけ)は生きてね?
幸之助:ひでーなぁ。さて、じゃあお楽しみといくか。俺を覚えててくれよ?
良金:幸之助はぼくのこと忘れてもいいよ?忘れられるものならね
幸之助:わかってて言ってんだろお前
良金:愛してる。幸之助(こうのすけ)。ぼくのものになってくれてありがとう
幸之助:仕方ねーから良金(よしかね)のもんになってやるよ
0:間。朝になっている
幸之助:あいつ、何も言わず出ていきやがった。最後までわがままな奴。
幸之助:さて、俺も出ていくかな。もうここに来ることもないだろうし
0:エピローグ
幸之助N:半年後くらいに赤穂浪士(あこうろうし)の討ち入りが成功したことを風の噂で聞いた。
幸之助N:俺は俗世(ぞくせ)を離れるために出家した。そして今は良金が眠る泉岳寺(せんがくじ)に来ている
0:良金の墓に向かって
幸之助:久しぶりだな。立派な最期だったそーで? お前を追いかけることはしないからさ。お前の一番近くで生きることは許してくれよ
幸之助:愛してる。良金(よしかね)
幸之助N:出会いは馴染みの客の紹介だった
0:エピソード1出会い
良金:え?奥平(おくひら)さんどういうこと?この部屋にいいものがあるって?
0:戸が開く
0:部屋の中には小柄で綺麗な人物がいる
幸之助:幸(こう)と申します。よろしくお願いします。
良金:…は?ちょっと奥平(おくひら)さん!?もういないし…
幸之助:…
良金:…
幸之助:あの…何もなさらないんですか?
良金:すみません。女性とあまり喋ったことがなくて、何を話したらいいかわからなくて
幸之助:それならご安心ください。わたくしは男ですので。お気になさらず
良金:男!?なんでそんな格好を?
幸之助:それは…まぁ…お仕事ですから
良金:本当は女の格好なんてしたくないということ?
幸之助:いえ、そのようなことは…
良金:ということはその喋り方も「仕事だから」?
幸之助:…
良金:ぼくの前では無理しなくていいよ。なんなら仕事だと思わなくていいよ
幸之助:何をおっしゃって…
良金:ぼくが一人じゃさびしいだろうからって君に来てもらったんだろうけど、ぼくは一人でも大丈夫だから。なんなら帰る?
幸之助:黙って聞いてれば…!なにふざけたこと言ってんだあああああああああ!!!
良金:うわ、びっくりした
幸之助:俺呼ぶのにどんだけ金かかってると思ってんだ!少しは感謝しやがれ!くされ坊ちゃん!
良金:そっちが本当の君?
幸之助:あ、やべ
良金:ははっなんだ。そっちの方がいいよ。おもしろい。君が話し相手になってよ
幸之助:大体の男は女の格好の方が喜ぶのによ、変な奴
幸之助N:それから何回かあいつの家に呼ばれた
0:エピソード2葉隠
幸之助:呼びつけておいて読書かよ
良金:読み出したら止まんなくなっちゃって
幸之助:何読んでんだよ
良金:『葉隠(はがくれ)』。読む?
幸之助:読まない。それ何巻あるんだよ、いつおわんだよ!
良金:なかなか興味深いこと書いてあるから
幸之助:いいかげんにしろ(本を取り上げる)
良金:うわっ
幸之助:えーと何々…「互いに想う相手は一生にひとりだけ」「相手を何度も取り替えるなどは言語道断」
幸之助:「そのためには5年は付き合ってみて、よく相手の人間性を見極めるべき」?
良金:素敵だと思わない?
幸之助:理想論だな
良金:でも、生涯一人の相手と契りが結べたら幸せだよね。というか文字読めたんだ
幸之助:バカにしてるのか?普段は舞台の稽古をしてるんだ。普通に読める
良金:舞台?
幸之助:本業は歌舞伎役者だぞ。これでも
良金:そうなんだ。見に行きたいな
幸之助:絶対来るな。素を知ってる人間には極力見られたくない
0:エピソード3身の上話
幸之助:お前名前は?
良金:教えられない。君は?
幸之助:だから幸だって
良金:本当に?
幸之助:名乗らない奴に教える名前はねーよ
良金:そっか。じゃあ君のこと教えて
幸之助:唐突だな。俺のこととか聞いても楽しくないだろ
良金:知りたいんだ。ダメ?
幸之助:わーったよ。途中で寝るなよ?
良金:うん。楽しみ
幸之助:俺の先祖は元々越中に住んでたらしいんだ。
幸之助:どういういう経緯で京に来たかは知らないが両親は越中に戻りたがってた。
幸之助:でも簡単には戻れないらしくて。小さな商家だったけどいつか越中に帰るんだって頑張ってた。
幸之助:結構大家族だったんだぜ?兄が3人と姉と弟が2人、妹が1人。
幸之助:兄貴たちはみんな頼りになったし、姉貴たちはしっかりしてて、弟たちと妹は可愛かった。
幸之助:何があったか知らないが経営不振になっちまってなぁ。
幸之助:働き手になる兄貴たちと姉貴たち、まだ親の手がいる弟たちと妹よりはってんで
幸之助:当時7つだった俺が身売りされたんだ。1番最初に。
幸之助:俺を売った金で何日かは持ったかもしれないけど弟たちと妹も売られたかもな。
幸之助:そっからは歌舞伎の稽古と客の相手かな。線が細いからって女形の稽古をみっちりされた。
幸之助:今の俺を作ったのはこの時だな。で、今に至るって感じ。
良金:両親のこと恨んでないの?
幸之助:別に?そうしなきゃみんな死んでたしな。
幸之助:兄貴たちと姉貴たちが残ったっていったって1番上の兄貴以外はみんな婿や嫁にもらわれていっただろうし
幸之助:俺だけ辛かったわけじゃねーよ。稽古が辛かったことはたくさんあるけどな
良金:君は強いね
幸之助:何もかも悲観してたら人生やっていけないからな。ま、温室育ちの坊ちゃんにはわからねーだろーけど
良金:そうだね。でも大切な人と離れる辛さは多少はわかる、かな
幸之助:なんだぁ?思い人に不幸でもあったか?
良金:1年くらい前に父親みたいに慕ってた人が亡くなったんだ
幸之助:へぇー。それは秘密じゃないんだな
良金:君が話してくれたから話したくなったんだ。これ以上は言わない
幸之助:はいはい、こっちは金さえもらえれば何も言いませんよー
0:エピソード4告白?
良金:この前歌舞伎を見に行ったよ
幸之助:やっぱりあれお前だったのか!来るなって言ったのに!
良金:だって気になったし。父上に頼んで連れて行ってもらった
幸之助:そうかよ。もう来んなよ
良金:幸が一番きれいだった
幸之助:はあ!?そりゃむさい兄さんたちに囲まれてれば綺麗に見えるだろうよ
良金:でも普段話してる君が一番好きかな
幸之助:なんだ?告白か?俺を抱く気になったか?
良金:心もないのにそんなことしても虚しいだけでしょ
幸之助:ほんと夢想家だよな!はいはい、俺はいつも虚しいことしてますよー
良金:ぼくのこと好きになればいいのに
幸之助:黙れ。大体俺とお前はそういうんじゃないだろ
良金:こっちは見てくれないんだね
幸之助:言ってろ
0:エピソード5子ども
幸之助:おーい。来てやったぞー
良金:(寝息)
幸之助:なんだよ今度は寝てんのかよ
幸之助:寝顔はかわいいんだよなー
幸之助:はぁ。早く起きろよ
良金:…ん。あ、ごめん。寝てた。
幸之助:やっと起きたか。ま、許してやるよ。普段見れないもの見れたしな。
良金:普段見れないもの?
幸之助:こっちの話。まだ寝るなら寝ていいぞ。俺帰るし
良金:そんなもったいないことしない。そばにいて
幸之助:疲れてんじゃないのかよ。わがまま
良金:疲れてないよ。本読んでただけ。まわり大人ばっかりでつまんないんだよ。君が一番楽しい
幸之助:おい、俺も年上だぞ。お前15歳だろ。俺17歳
良金:そうだっけ?なんでもいいから甘えさせて
幸之助:そういうとこは年相応っていうか幼いっていうか…
良金:いつまでも子どもじゃいられないけどね
幸之助:15歳なんてまだ子どもだろ。ま、俺の前では子どもになっとけ
0:エピソード6文字
幸之助:よう。今日は何やってんだ?
良金:勉強。学ぶのって楽しいよね
幸之助:そうだな。知らないことが知れるってのはそれだけで生きてるって感じがする
良金:…。意外。自分で言ったけど君は勉強が嫌いだと思ってた。
幸之助:そんなわけないだろ。学ぶのが嫌いだったらとっくに自殺してるわ。歌舞伎でも客相手でも勉強の連続だわ
良金:そっか。そうだね
幸之助:何書いてるんだ?ちょっと見せろ(帳面をとりあげる)
良金:また!?ちょっと
幸之助:いろは歌か?
良金:はぁ…。うん。文字の練習に便利なんだ
幸之助:へぇー。お前、字きれいだな
良金:褒められるなんて思ってなかった
幸之助:なんだよ。素直な感想だよ
良金:ふふ。嬉しい。君の字も見せて
幸之助:汚くても文句言うなよ?
0:エピソード7身長
良金:君ってさ、ちょうどいい大きさだよね
幸之助:はぁ!?身体でかいからって調子のんなアホ
良金:大きくてもいいことないよ。よく頭ぶつける
幸之助:自然と見下ろされてる感じがムカつく
良金:そのままの君が1番だよ
幸之助:長身滅びろ。でもまた?俺はこの身体のおかげで仕事あるしぃ?身体が小さい方が受けがいいのは確かだな
良金:受けがいいんだ
幸之助:小さい方が可愛いだろ。元々俺は可愛いけど
良金:…なんか想像して腹立った
幸之助:なんでだよ
良金:君がしてるのは虚しいことだってわかってるけど面白くはないよね
幸之助:生意気に。じゃあお前も抱くか?
良金:抱かない。でも面白くないものは面白くない
幸之助:お前俺のことほんと好きな
良金:君もぼくのこと好きでしょ?
幸之助:お前は客だ
良金:…。認めてくれてもいいのに
幸之助:そういうのは女に言ってやれよ
良金:君以外いないし知らない
幸之助:残念なやつ
0:エピソード8最期の逢瀬
幸之助:お前、大石主税(おおいしちから)だろ?
良金:急にどうしたの?違うけど
幸之助:部屋がきれいになってる
良金:掃除したからね
幸之助:出ていく気だろ
良金:…
幸之助:前に言ってた亡くなった父みたいな人って浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)か?
良金:…
幸之助:父親は元赤穂藩筆頭家老大石内蔵助(もとあこうはんひっとうかろうおおいしくらのすけ)。そうだろ?
良金:…
幸之助:主君の仇討(あだうち)に江戸へ、か。泣けるね
良金:違う。ぼくは大石主税(おおいしちから)じゃない
幸之助:どんな仕事してると思ってんだ。俺が可愛い声で鳴けば秘密なんてあってないようなもんだぜ
良金:聞いただけだろ。証拠はないじゃないか
幸之助:…はぁ。坊ちゃん。片付けはしっかりしろよな。「大石主税(おおいしちから)」ってお前の字で書かれた位牌(いはい)が見えてるぜ
良金:!? え、あ、これは…
幸之助:俺とお前の仲だろ。隠し事はなしにしようぜ
良金:ぼくと君の仲?君はぼくのこと客としてしか見てないんじゃないの?
幸之助:あ
良金:特別な仲だと思っていいの?
幸之助:…あの『葉隠(はがくれ)』に載ってたやつ、みたいにさ。なりたいって思っちまったんだよ
良金:けど、あれは…
幸之助:5年後はもう、いないんだろ
良金:…わかった。隠し事はなしにしよう。ぼくは大石主税。でも主税(ちから)は通称(つうしょう)で諱(いみな)は良金(よしかね)。
良金:元赤穂藩筆頭家老(もとあこうはんひっとうかろう)、大石内蔵助(おおいしくらのすけ)…良雄(よしたか)の長子(ちょうし)だよ
幸之助:やっと名乗ってくれたな。俺は相山幸之助(そうやまこうのすけ)。これが俺の本名だ。
良金:でも、本当にいいの?ぼくはこれから…。それに君のことを縛ることになる
幸之助:いいんだよ。俺がしたいんだから。俺のこと好きなんだから嬉しいだろ?
良金:わかった。ありがとう。でも一つ約束して。絶対に命を絶たないって
幸之助:お前がそれを言うのかよ。残酷だな
良金:聞いてくれないなら契(ちぎ)りは結ばない
幸之助:わがままな奴
良金:そんなぼくが好きなんじゃないの?
幸之助:残念ながらそうなんだよなー。俺どうしちゃったんだろ
良金:じゃあ約束
幸之助:わーったよ。良金、ほら、盃(さかづき)と小指だせ
良金:斬りおとさないでね?
幸之助:それもいいかもな。よっと(良金の小指を切る)
良金:まさか君がこんな風になるなんて思いもしなかったな。君も小指だして。痛くないようにするから
幸之助:気色悪い言い方すんな。…ほら(小指を出す)
良金:ごめんね。つい嬉しくて(幸之助の小指を切る)
幸之助:ほら、口つけろ
良金:うん。(飲む) 君も
幸之助:おう(飲む)これで俺たちは死んでも一緒だ
良金:幸之助(こうのすけ)は生きてね?
幸之助:ひでーなぁ。さて、じゃあお楽しみといくか。俺を覚えててくれよ?
良金:幸之助はぼくのこと忘れてもいいよ?忘れられるものならね
幸之助:わかってて言ってんだろお前
良金:愛してる。幸之助(こうのすけ)。ぼくのものになってくれてありがとう
幸之助:仕方ねーから良金(よしかね)のもんになってやるよ
0:間。朝になっている
幸之助:あいつ、何も言わず出ていきやがった。最後までわがままな奴。
幸之助:さて、俺も出ていくかな。もうここに来ることもないだろうし
0:エピローグ
幸之助N:半年後くらいに赤穂浪士(あこうろうし)の討ち入りが成功したことを風の噂で聞いた。
幸之助N:俺は俗世(ぞくせ)を離れるために出家した。そして今は良金が眠る泉岳寺(せんがくじ)に来ている
0:良金の墓に向かって
幸之助:久しぶりだな。立派な最期だったそーで? お前を追いかけることはしないからさ。お前の一番近くで生きることは許してくれよ
幸之助:愛してる。良金(よしかね)