台本概要

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タイトル 僕と心臓
作者名 あかおう  (@akaouwaikasuki)
ジャンル その他
演者人数 1人用台本(不問1)
時間 10 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 |°ω°ᔨ一人読み。めちゃくちゃシリアスで読んだ後しんどくなります。
愛する人が命を断った。病院へ駆け付けるまでのタクシーの中でのお話。

【声劇・配信での使用/連絡不要】
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【禁止事項】
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★盗作・自分が書きましたと言う行為。
★無断で一部分を切り取っての使用や投稿。
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【YouTube・舞台・朗読等入場料を取る場合】
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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
不問 不問 -
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:僕は自分で言うのもなんだが仕事ができる。 0:自分の専門的な知識と技術で人の役に立つ事が嬉しい。 0:その為に努力を惜しまず、誰よりも頑張ってきた。 0: 0:去年の春付き合い始めた彼女にだってそうだ。 0: 0:控え目で落ち着いた物腰の君は、営業職で誰にでも物怖じしない僕を尊敬していた。 0:一回りも僕の方が年上だっていうのもあるのかな。 0:なんでも受け入れてくれて、否定しない君の優しさに、いつの間にか僕は依存していたのかもしれない。 0: 0: 0:君が自ら命を断ったと連絡がきたのは、8月の蒸し暑い夜だった。 0: 0:こんな時代にネクタイを締めて仕事をして、クタクタに疲れてしまった僕は、憂さ晴らしに近所のコンビニに酒を買いに行った。 0:「ああ、そういえば。彼女に今日一度も連絡取っていないな。というかここ一週間ぐらい、ろくに返信もしてなかった。」 0:申し訳ないという気持ちと、連日の猛暑でボーっとしている頭を引きずりながらコンビニに行く。 0:家に着くのも待たずに缶ビールを開ける。 0:あまりに久しぶりの連絡。しかも直接電話なんていうのは、考えてみたら二週間以上ぶりだ。 0:きっと怒るだろうな。いや、でも怒った彼女も可愛いんだ。 0:上司や取引先に怒られるのは嫌いだが、なぜだか彼女に本気で怒られるのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。 0: 0:愛情たっぷり込めていつも僕を怒ってくれる。 0:一回り年上のオッサンを本気で怒ってくれる。 0: 0:君の愛情が痛いほど伝わってくる瞬間だ。 0: 0:彼女のスマホにコールする。三回、四回、五回。 0:あれ?おかしいな。出ない。・・・これはほったらかしにしたから、相当怒っているのか?いや落ち着け。そもそも、もうこんな時間だ。 0: 0:立ち仕事をしている彼女の事だ。実は今日も残業でクタクタなのかもしれない。 0:起こしてしまっても申し訳ないな。出来ればゆっくり休んでほしい。 0:本心ではそう思っていても、電話に出ないとなると、余計に彼女の声が聴きたくなった。 0: 0:ふいに昼間あった仕事での嫌な出来事も思い出して、僕はもう一度だけ。彼女に電話してみることにした。 0:それでも出なかったら諦めよう。 0: 0:意を決して、もう一度彼女のスマホにコールする。 0:一回。二回。三回。・・・ふぅ。出ないか。諦めて自分のスマホを耳から離し、スワイプしようとしたその瞬間。 0:彼女のスマホから聞きなれない年配の女性の声が聞こえてきた。 0:そこからの事は、今思い出しても現実味がない。 0:当然彼女の可愛い声が聞こえて、怒っているのを僕がなだめるんだと思っていた。 0: 0:「ごめんごめん」と言いながら、ビールの缶をまたあけて、耳のいい彼女に「今ビールあけたでしょ」って、更にいつものように怒られるつもりだった。 0: 0:彼女の母親から伝えられる、信じられない現実。 0:目の前に広がる、小高い丘の上の公園からの、まばゆい夜景。 0:もう夜だというのに、鳴きやまないセミ。 0:なまぬるい風が、丘の下から吹いて、僕の頬をなでていく。 0:自分の体がどこにあるのか。自分の心がどこにあるのか。 0:今どうしたらいいのか。これは現実なのか。 0: 0:仕事のトラブルならば、どんな事でも冷静に対処してきた。 0:しかし今は、体が一ミリも動かない。 0: 0:「疲れてしまったみたいでね」 0:彼女の母親の言葉に、僕はやっと我に返る。 0:そして彼女の母親は続ける。 0:「心臓が、止まっていたのよ」 0: 0: 0:妙に冷静な声。泣きわめく訳でもなく、怒るわけでもない淡々とした声。 0:「そうか、心臓が止まっている”だけ”なのか」 0: 0:僕はなぜそう思ったのか、未だにわからない。 0: 0: 0: 0:大通りに出て、タクシーを捕まえて行き先を告げる。 0:きっと大丈夫だ。彼女は心臓が止まっただけ。 0:心臓が止まった。 0:彼女の心臓は、止まった。 0:止まっている?動いていない? 0: 0:動いていないということは、止まっているという事。 0:止まるとどうなる?止まる。止まる。止まる。 0:心臓。心臓?心臓?だよな? 0:そう、心臓だ。体中に血液を送る心臓。 0: 0:なーに、人間の体はうまくできてるんだ。心臓が止まったくらいで死ぬわけがな・・・ 0:死ぬ・・・死ぬ? 0:死ぬってなんだ?死ぬ?生きてるの反対。死ぬ。 0:生きていないから死んでいる。死んでいるから、つまり生きていない。 0: 0:・・・生きていない?なにが?彼女が。なぜ?心臓が止まったから。 0:止まったなら動かせばいい。病院にいるんだ。医者がいる。そのための医者だ。 0:彼女は?生きている?死んでいる?心臓が止まっている? 0: 0:彼女が心臓、止まる、生きていない、僕、母親、電話、コンビニ、公園。綺麗な夜景。 0:連絡。彼女の声。二週間前。笑っていた。楽しそうだった。元気だった。心臓。 0:止まる。生きていた。息をしていた。彼女。電話。仕事。疲れた。パソコン。仕事。家に帰っても仕事。 0: 0: 0:仕事仕事仕事仕事。・・・心臓。 0: 0: 0:僕を心配する彼女の連絡。返信。後でする。大丈夫。彼女なら。 0: 0:「相談がある」「このごろ食欲がなくて」「夏バテかな」「時々心臓が痛くて」 0: 0:「夏だからね」「クーラーが」「自律神経」「甲状腺(こうじょうせん)」「痩せない」「アイス、おいしい」心臓。 0: 0:「疲れた」「眠い」「明日も出張」「ごめん」「ううん、平気だよ」「彼女が嘘をつくときの笑い方」 0: 0:「明日もプレゼン」「資料できてない」「死にたい」「顔も見たくない上司」心臓。動いていない。 0: 0:「ちゃんと水分とってね」「わかってる」心臓。 0: 0:心臓。動いていない。止まる。止まる。止まる止まる!!! 0: 男:止まらないでくれ!!! 0: 0: 0: 0:急ブレーキをかけたタクシーの運転手は驚いて僕の方を見た。 男:いえ、なんでもありません。申し訳ありません、病院に向かってください。 0: 0:顔面蒼白になっているのが自分でもわかる。 0:車のひじ掛けに上半身の体重をかけ、流れる景色を見つめていた。 0: 0: 0: 0: 0: 0:今日のプレゼンも成功させる。これが終わったら彼女に電話しよう。 0:いつものレストランの夜景が見える席なんかを予約して。 0:「待たせてごめんね」って言いながら、指輪を差し出すんだ。 0:彼女はきっと、泣きながら喜んでくれる。 0: 0:そうだな、子供は多い方がいい。苦労をかけないように沢山稼ごう。 0:共働きでもいいな。子供が出来なくてもいい。 0:二人でゆっくりと人生を歩めればいい。 0: 0:おっと、そろそろWeb会議が始まる。 0: 0:僕は黒いスーツに黒いネクタイでプレゼンを始めた。 0:午前中に出かけていて、着替える時間がなかったんだから仕方がない。 0: 0:しかし・・・画面に写った同僚や上司たちの顔は歪んでいた。 0:また彼女に、この不思議な出来事を話すとしよう。 0: 0: 0: 0:おわり。

0:僕は自分で言うのもなんだが仕事ができる。 0:自分の専門的な知識と技術で人の役に立つ事が嬉しい。 0:その為に努力を惜しまず、誰よりも頑張ってきた。 0: 0:去年の春付き合い始めた彼女にだってそうだ。 0: 0:控え目で落ち着いた物腰の君は、営業職で誰にでも物怖じしない僕を尊敬していた。 0:一回りも僕の方が年上だっていうのもあるのかな。 0:なんでも受け入れてくれて、否定しない君の優しさに、いつの間にか僕は依存していたのかもしれない。 0: 0: 0:君が自ら命を断ったと連絡がきたのは、8月の蒸し暑い夜だった。 0: 0:こんな時代にネクタイを締めて仕事をして、クタクタに疲れてしまった僕は、憂さ晴らしに近所のコンビニに酒を買いに行った。 0:「ああ、そういえば。彼女に今日一度も連絡取っていないな。というかここ一週間ぐらい、ろくに返信もしてなかった。」 0:申し訳ないという気持ちと、連日の猛暑でボーっとしている頭を引きずりながらコンビニに行く。 0:家に着くのも待たずに缶ビールを開ける。 0:あまりに久しぶりの連絡。しかも直接電話なんていうのは、考えてみたら二週間以上ぶりだ。 0:きっと怒るだろうな。いや、でも怒った彼女も可愛いんだ。 0:上司や取引先に怒られるのは嫌いだが、なぜだか彼女に本気で怒られるのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。 0: 0:愛情たっぷり込めていつも僕を怒ってくれる。 0:一回り年上のオッサンを本気で怒ってくれる。 0: 0:君の愛情が痛いほど伝わってくる瞬間だ。 0: 0:彼女のスマホにコールする。三回、四回、五回。 0:あれ?おかしいな。出ない。・・・これはほったらかしにしたから、相当怒っているのか?いや落ち着け。そもそも、もうこんな時間だ。 0: 0:立ち仕事をしている彼女の事だ。実は今日も残業でクタクタなのかもしれない。 0:起こしてしまっても申し訳ないな。出来ればゆっくり休んでほしい。 0:本心ではそう思っていても、電話に出ないとなると、余計に彼女の声が聴きたくなった。 0: 0:ふいに昼間あった仕事での嫌な出来事も思い出して、僕はもう一度だけ。彼女に電話してみることにした。 0:それでも出なかったら諦めよう。 0: 0:意を決して、もう一度彼女のスマホにコールする。 0:一回。二回。三回。・・・ふぅ。出ないか。諦めて自分のスマホを耳から離し、スワイプしようとしたその瞬間。 0:彼女のスマホから聞きなれない年配の女性の声が聞こえてきた。 0:そこからの事は、今思い出しても現実味がない。 0:当然彼女の可愛い声が聞こえて、怒っているのを僕がなだめるんだと思っていた。 0: 0:「ごめんごめん」と言いながら、ビールの缶をまたあけて、耳のいい彼女に「今ビールあけたでしょ」って、更にいつものように怒られるつもりだった。 0: 0:彼女の母親から伝えられる、信じられない現実。 0:目の前に広がる、小高い丘の上の公園からの、まばゆい夜景。 0:もう夜だというのに、鳴きやまないセミ。 0:なまぬるい風が、丘の下から吹いて、僕の頬をなでていく。 0:自分の体がどこにあるのか。自分の心がどこにあるのか。 0:今どうしたらいいのか。これは現実なのか。 0: 0:仕事のトラブルならば、どんな事でも冷静に対処してきた。 0:しかし今は、体が一ミリも動かない。 0: 0:「疲れてしまったみたいでね」 0:彼女の母親の言葉に、僕はやっと我に返る。 0:そして彼女の母親は続ける。 0:「心臓が、止まっていたのよ」 0: 0: 0:妙に冷静な声。泣きわめく訳でもなく、怒るわけでもない淡々とした声。 0:「そうか、心臓が止まっている”だけ”なのか」 0: 0:僕はなぜそう思ったのか、未だにわからない。 0: 0: 0: 0:大通りに出て、タクシーを捕まえて行き先を告げる。 0:きっと大丈夫だ。彼女は心臓が止まっただけ。 0:心臓が止まった。 0:彼女の心臓は、止まった。 0:止まっている?動いていない? 0: 0:動いていないということは、止まっているという事。 0:止まるとどうなる?止まる。止まる。止まる。 0:心臓。心臓?心臓?だよな? 0:そう、心臓だ。体中に血液を送る心臓。 0: 0:なーに、人間の体はうまくできてるんだ。心臓が止まったくらいで死ぬわけがな・・・ 0:死ぬ・・・死ぬ? 0:死ぬってなんだ?死ぬ?生きてるの反対。死ぬ。 0:生きていないから死んでいる。死んでいるから、つまり生きていない。 0: 0:・・・生きていない?なにが?彼女が。なぜ?心臓が止まったから。 0:止まったなら動かせばいい。病院にいるんだ。医者がいる。そのための医者だ。 0:彼女は?生きている?死んでいる?心臓が止まっている? 0: 0:彼女が心臓、止まる、生きていない、僕、母親、電話、コンビニ、公園。綺麗な夜景。 0:連絡。彼女の声。二週間前。笑っていた。楽しそうだった。元気だった。心臓。 0:止まる。生きていた。息をしていた。彼女。電話。仕事。疲れた。パソコン。仕事。家に帰っても仕事。 0: 0: 0:仕事仕事仕事仕事。・・・心臓。 0: 0: 0:僕を心配する彼女の連絡。返信。後でする。大丈夫。彼女なら。 0: 0:「相談がある」「このごろ食欲がなくて」「夏バテかな」「時々心臓が痛くて」 0: 0:「夏だからね」「クーラーが」「自律神経」「甲状腺(こうじょうせん)」「痩せない」「アイス、おいしい」心臓。 0: 0:「疲れた」「眠い」「明日も出張」「ごめん」「ううん、平気だよ」「彼女が嘘をつくときの笑い方」 0: 0:「明日もプレゼン」「資料できてない」「死にたい」「顔も見たくない上司」心臓。動いていない。 0: 0:「ちゃんと水分とってね」「わかってる」心臓。 0: 0:心臓。動いていない。止まる。止まる。止まる止まる!!! 0: 男:止まらないでくれ!!! 0: 0: 0: 0:急ブレーキをかけたタクシーの運転手は驚いて僕の方を見た。 男:いえ、なんでもありません。申し訳ありません、病院に向かってください。 0: 0:顔面蒼白になっているのが自分でもわかる。 0:車のひじ掛けに上半身の体重をかけ、流れる景色を見つめていた。 0: 0: 0: 0: 0: 0:今日のプレゼンも成功させる。これが終わったら彼女に電話しよう。 0:いつものレストランの夜景が見える席なんかを予約して。 0:「待たせてごめんね」って言いながら、指輪を差し出すんだ。 0:彼女はきっと、泣きながら喜んでくれる。 0: 0:そうだな、子供は多い方がいい。苦労をかけないように沢山稼ごう。 0:共働きでもいいな。子供が出来なくてもいい。 0:二人でゆっくりと人生を歩めればいい。 0: 0:おっと、そろそろWeb会議が始まる。 0: 0:僕は黒いスーツに黒いネクタイでプレゼンを始めた。 0:午前中に出かけていて、着替える時間がなかったんだから仕方がない。 0: 0:しかし・・・画面に写った同僚や上司たちの顔は歪んでいた。 0:また彼女に、この不思議な出来事を話すとしよう。 0: 0: 0: 0:おわり。