台本概要
230 views
タイトル | 僕と心臓 |
---|---|
作者名 | あかおう (@akaouwaikasuki) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 1人用台本(不問1) |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
|°ω°ᔨ一人読み。めちゃくちゃシリアスで読んだ後しんどくなります。 愛する人が命を断った。病院へ駆け付けるまでのタクシーの中でのお話。 【声劇・配信での使用/連絡不要】 ★配信での投げ銭が発生する場合でも連絡不要です。 ★あなたの気が向いたら・・・(励みになるのでいずれかしてくれたら嬉しいな♪しなくてもOK) →シナリオタイトル横の「つぶやく」を押してご自身のTwitterでツイートする。 →赤王(@akaouwaikasuki)メンションでご自身のTwitterでツイートする。 →赤王のツイッターの該当するシナリオのツイートにいいねする。 →赤王のツイッターの該当するシナリオのツイートをRT。 →その他思いやりある行動で大切にしてくださったら嬉しいです。 【禁止事項】 ★ライターの呼び捨て表記。 ★盗作・自分が書きましたと言う行為。 ★無断で一部分を切り取っての使用や投稿。 ★上記以外で赤王が非常識と判断した行動・表記。 以上をされた方は即ブロックさせて頂き、以降赤王のシナリオ使用を禁止とさせて頂きます。 【YouTube・舞台・朗読等入場料を取る場合】 連絡必須:許可が下りるまで使用しないでください。 230 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
不問 | 不問 | - |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:僕は自分で言うのもなんだが仕事ができる。
0:自分の専門的な知識と技術で人の役に立つ事が嬉しい。
0:その為に努力を惜しまず、誰よりも頑張ってきた。
0:
0:去年の春付き合い始めた彼女にだってそうだ。
0:
0:控え目で落ち着いた物腰の君は、営業職で誰にでも物怖じしない僕を尊敬していた。
0:一回りも僕の方が年上だっていうのもあるのかな。
0:なんでも受け入れてくれて、否定しない君の優しさに、いつの間にか僕は依存していたのかもしれない。
0:
0:
0:君が自ら命を断ったと連絡がきたのは、8月の蒸し暑い夜だった。
0:
0:こんな時代にネクタイを締めて仕事をして、クタクタに疲れてしまった僕は、憂さ晴らしに近所のコンビニに酒を買いに行った。
0:「ああ、そういえば。彼女に今日一度も連絡取っていないな。というかここ一週間ぐらい、ろくに返信もしてなかった。」
0:申し訳ないという気持ちと、連日の猛暑でボーっとしている頭を引きずりながらコンビニに行く。
0:家に着くのも待たずに缶ビールを開ける。
0:あまりに久しぶりの連絡。しかも直接電話なんていうのは、考えてみたら二週間以上ぶりだ。
0:きっと怒るだろうな。いや、でも怒った彼女も可愛いんだ。
0:上司や取引先に怒られるのは嫌いだが、なぜだか彼女に本気で怒られるのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。
0:
0:愛情たっぷり込めていつも僕を怒ってくれる。
0:一回り年上のオッサンを本気で怒ってくれる。
0:
0:君の愛情が痛いほど伝わってくる瞬間だ。
0:
0:彼女のスマホにコールする。三回、四回、五回。
0:あれ?おかしいな。出ない。・・・これはほったらかしにしたから、相当怒っているのか?いや落ち着け。そもそも、もうこんな時間だ。
0:
0:立ち仕事をしている彼女の事だ。実は今日も残業でクタクタなのかもしれない。
0:起こしてしまっても申し訳ないな。出来ればゆっくり休んでほしい。
0:本心ではそう思っていても、電話に出ないとなると、余計に彼女の声が聴きたくなった。
0:
0:ふいに昼間あった仕事での嫌な出来事も思い出して、僕はもう一度だけ。彼女に電話してみることにした。
0:それでも出なかったら諦めよう。
0:
0:意を決して、もう一度彼女のスマホにコールする。
0:一回。二回。三回。・・・ふぅ。出ないか。諦めて自分のスマホを耳から離し、スワイプしようとしたその瞬間。
0:彼女のスマホから聞きなれない年配の女性の声が聞こえてきた。
0:そこからの事は、今思い出しても現実味がない。
0:当然彼女の可愛い声が聞こえて、怒っているのを僕がなだめるんだと思っていた。
0:
0:「ごめんごめん」と言いながら、ビールの缶をまたあけて、耳のいい彼女に「今ビールあけたでしょ」って、更にいつものように怒られるつもりだった。
0:
0:彼女の母親から伝えられる、信じられない現実。
0:目の前に広がる、小高い丘の上の公園からの、まばゆい夜景。
0:もう夜だというのに、鳴きやまないセミ。
0:なまぬるい風が、丘の下から吹いて、僕の頬をなでていく。
0:自分の体がどこにあるのか。自分の心がどこにあるのか。
0:今どうしたらいいのか。これは現実なのか。
0:
0:仕事のトラブルならば、どんな事でも冷静に対処してきた。
0:しかし今は、体が一ミリも動かない。
0:
0:「疲れてしまったみたいでね」
0:彼女の母親の言葉に、僕はやっと我に返る。
0:そして彼女の母親は続ける。
0:「心臓が、止まっていたのよ」
0:
0:
0:妙に冷静な声。泣きわめく訳でもなく、怒るわけでもない淡々とした声。
0:「そうか、心臓が止まっている”だけ”なのか」
0:
0:僕はなぜそう思ったのか、未だにわからない。
0:
0:
0:
0:大通りに出て、タクシーを捕まえて行き先を告げる。
0:きっと大丈夫だ。彼女は心臓が止まっただけ。
0:心臓が止まった。
0:彼女の心臓は、止まった。
0:止まっている?動いていない?
0:
0:動いていないということは、止まっているという事。
0:止まるとどうなる?止まる。止まる。止まる。
0:心臓。心臓?心臓?だよな?
0:そう、心臓だ。体中に血液を送る心臓。
0:
0:なーに、人間の体はうまくできてるんだ。心臓が止まったくらいで死ぬわけがな・・・
0:死ぬ・・・死ぬ?
0:死ぬってなんだ?死ぬ?生きてるの反対。死ぬ。
0:生きていないから死んでいる。死んでいるから、つまり生きていない。
0:
0:・・・生きていない?なにが?彼女が。なぜ?心臓が止まったから。
0:止まったなら動かせばいい。病院にいるんだ。医者がいる。そのための医者だ。
0:彼女は?生きている?死んでいる?心臓が止まっている?
0:
0:彼女が心臓、止まる、生きていない、僕、母親、電話、コンビニ、公園。綺麗な夜景。
0:連絡。彼女の声。二週間前。笑っていた。楽しそうだった。元気だった。心臓。
0:止まる。生きていた。息をしていた。彼女。電話。仕事。疲れた。パソコン。仕事。家に帰っても仕事。
0:
0:
0:仕事仕事仕事仕事。・・・心臓。
0:
0:
0:僕を心配する彼女の連絡。返信。後でする。大丈夫。彼女なら。
0:
0:「相談がある」「このごろ食欲がなくて」「夏バテかな」「時々心臓が痛くて」
0:
0:「夏だからね」「クーラーが」「自律神経」「甲状腺(こうじょうせん)」「痩せない」「アイス、おいしい」心臓。
0:
0:「疲れた」「眠い」「明日も出張」「ごめん」「ううん、平気だよ」「彼女が嘘をつくときの笑い方」
0:
0:「明日もプレゼン」「資料できてない」「死にたい」「顔も見たくない上司」心臓。動いていない。
0:
0:「ちゃんと水分とってね」「わかってる」心臓。
0:
0:心臓。動いていない。止まる。止まる。止まる止まる!!!
0:
男:止まらないでくれ!!!
0:
0:
0:
0:急ブレーキをかけたタクシーの運転手は驚いて僕の方を見た。
男:いえ、なんでもありません。申し訳ありません、病院に向かってください。
0:
0:顔面蒼白になっているのが自分でもわかる。
0:車のひじ掛けに上半身の体重をかけ、流れる景色を見つめていた。
0:
0:
0:
0:
0:
0:今日のプレゼンも成功させる。これが終わったら彼女に電話しよう。
0:いつものレストランの夜景が見える席なんかを予約して。
0:「待たせてごめんね」って言いながら、指輪を差し出すんだ。
0:彼女はきっと、泣きながら喜んでくれる。
0:
0:そうだな、子供は多い方がいい。苦労をかけないように沢山稼ごう。
0:共働きでもいいな。子供が出来なくてもいい。
0:二人でゆっくりと人生を歩めればいい。
0:
0:おっと、そろそろWeb会議が始まる。
0:
0:僕は黒いスーツに黒いネクタイでプレゼンを始めた。
0:午前中に出かけていて、着替える時間がなかったんだから仕方がない。
0:
0:しかし・・・画面に写った同僚や上司たちの顔は歪んでいた。
0:また彼女に、この不思議な出来事を話すとしよう。
0:
0:
0:
0:おわり。
0:僕は自分で言うのもなんだが仕事ができる。
0:自分の専門的な知識と技術で人の役に立つ事が嬉しい。
0:その為に努力を惜しまず、誰よりも頑張ってきた。
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0:去年の春付き合い始めた彼女にだってそうだ。
0:
0:控え目で落ち着いた物腰の君は、営業職で誰にでも物怖じしない僕を尊敬していた。
0:一回りも僕の方が年上だっていうのもあるのかな。
0:なんでも受け入れてくれて、否定しない君の優しさに、いつの間にか僕は依存していたのかもしれない。
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0:君が自ら命を断ったと連絡がきたのは、8月の蒸し暑い夜だった。
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0:こんな時代にネクタイを締めて仕事をして、クタクタに疲れてしまった僕は、憂さ晴らしに近所のコンビニに酒を買いに行った。
0:「ああ、そういえば。彼女に今日一度も連絡取っていないな。というかここ一週間ぐらい、ろくに返信もしてなかった。」
0:申し訳ないという気持ちと、連日の猛暑でボーっとしている頭を引きずりながらコンビニに行く。
0:家に着くのも待たずに缶ビールを開ける。
0:あまりに久しぶりの連絡。しかも直接電話なんていうのは、考えてみたら二週間以上ぶりだ。
0:きっと怒るだろうな。いや、でも怒った彼女も可愛いんだ。
0:上司や取引先に怒られるのは嫌いだが、なぜだか彼女に本気で怒られるのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。
0:
0:愛情たっぷり込めていつも僕を怒ってくれる。
0:一回り年上のオッサンを本気で怒ってくれる。
0:
0:君の愛情が痛いほど伝わってくる瞬間だ。
0:
0:彼女のスマホにコールする。三回、四回、五回。
0:あれ?おかしいな。出ない。・・・これはほったらかしにしたから、相当怒っているのか?いや落ち着け。そもそも、もうこんな時間だ。
0:
0:立ち仕事をしている彼女の事だ。実は今日も残業でクタクタなのかもしれない。
0:起こしてしまっても申し訳ないな。出来ればゆっくり休んでほしい。
0:本心ではそう思っていても、電話に出ないとなると、余計に彼女の声が聴きたくなった。
0:
0:ふいに昼間あった仕事での嫌な出来事も思い出して、僕はもう一度だけ。彼女に電話してみることにした。
0:それでも出なかったら諦めよう。
0:
0:意を決して、もう一度彼女のスマホにコールする。
0:一回。二回。三回。・・・ふぅ。出ないか。諦めて自分のスマホを耳から離し、スワイプしようとしたその瞬間。
0:彼女のスマホから聞きなれない年配の女性の声が聞こえてきた。
0:そこからの事は、今思い出しても現実味がない。
0:当然彼女の可愛い声が聞こえて、怒っているのを僕がなだめるんだと思っていた。
0:
0:「ごめんごめん」と言いながら、ビールの缶をまたあけて、耳のいい彼女に「今ビールあけたでしょ」って、更にいつものように怒られるつもりだった。
0:
0:彼女の母親から伝えられる、信じられない現実。
0:目の前に広がる、小高い丘の上の公園からの、まばゆい夜景。
0:もう夜だというのに、鳴きやまないセミ。
0:なまぬるい風が、丘の下から吹いて、僕の頬をなでていく。
0:自分の体がどこにあるのか。自分の心がどこにあるのか。
0:今どうしたらいいのか。これは現実なのか。
0:
0:仕事のトラブルならば、どんな事でも冷静に対処してきた。
0:しかし今は、体が一ミリも動かない。
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0:「疲れてしまったみたいでね」
0:彼女の母親の言葉に、僕はやっと我に返る。
0:そして彼女の母親は続ける。
0:「心臓が、止まっていたのよ」
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0:妙に冷静な声。泣きわめく訳でもなく、怒るわけでもない淡々とした声。
0:「そうか、心臓が止まっている”だけ”なのか」
0:
0:僕はなぜそう思ったのか、未だにわからない。
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0:大通りに出て、タクシーを捕まえて行き先を告げる。
0:きっと大丈夫だ。彼女は心臓が止まっただけ。
0:心臓が止まった。
0:彼女の心臓は、止まった。
0:止まっている?動いていない?
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0:動いていないということは、止まっているという事。
0:止まるとどうなる?止まる。止まる。止まる。
0:心臓。心臓?心臓?だよな?
0:そう、心臓だ。体中に血液を送る心臓。
0:
0:なーに、人間の体はうまくできてるんだ。心臓が止まったくらいで死ぬわけがな・・・
0:死ぬ・・・死ぬ?
0:死ぬってなんだ?死ぬ?生きてるの反対。死ぬ。
0:生きていないから死んでいる。死んでいるから、つまり生きていない。
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0:・・・生きていない?なにが?彼女が。なぜ?心臓が止まったから。
0:止まったなら動かせばいい。病院にいるんだ。医者がいる。そのための医者だ。
0:彼女は?生きている?死んでいる?心臓が止まっている?
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0:彼女が心臓、止まる、生きていない、僕、母親、電話、コンビニ、公園。綺麗な夜景。
0:連絡。彼女の声。二週間前。笑っていた。楽しそうだった。元気だった。心臓。
0:止まる。生きていた。息をしていた。彼女。電話。仕事。疲れた。パソコン。仕事。家に帰っても仕事。
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0:仕事仕事仕事仕事。・・・心臓。
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0:僕を心配する彼女の連絡。返信。後でする。大丈夫。彼女なら。
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0:「相談がある」「このごろ食欲がなくて」「夏バテかな」「時々心臓が痛くて」
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0:「夏だからね」「クーラーが」「自律神経」「甲状腺(こうじょうせん)」「痩せない」「アイス、おいしい」心臓。
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0:「疲れた」「眠い」「明日も出張」「ごめん」「ううん、平気だよ」「彼女が嘘をつくときの笑い方」
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0:「明日もプレゼン」「資料できてない」「死にたい」「顔も見たくない上司」心臓。動いていない。
0:
0:「ちゃんと水分とってね」「わかってる」心臓。
0:
0:心臓。動いていない。止まる。止まる。止まる止まる!!!
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男:止まらないでくれ!!!
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0:急ブレーキをかけたタクシーの運転手は驚いて僕の方を見た。
男:いえ、なんでもありません。申し訳ありません、病院に向かってください。
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0:顔面蒼白になっているのが自分でもわかる。
0:車のひじ掛けに上半身の体重をかけ、流れる景色を見つめていた。
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0:今日のプレゼンも成功させる。これが終わったら彼女に電話しよう。
0:いつものレストランの夜景が見える席なんかを予約して。
0:「待たせてごめんね」って言いながら、指輪を差し出すんだ。
0:彼女はきっと、泣きながら喜んでくれる。
0:
0:そうだな、子供は多い方がいい。苦労をかけないように沢山稼ごう。
0:共働きでもいいな。子供が出来なくてもいい。
0:二人でゆっくりと人生を歩めればいい。
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0:おっと、そろそろWeb会議が始まる。
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0:僕は黒いスーツに黒いネクタイでプレゼンを始めた。
0:午前中に出かけていて、着替える時間がなかったんだから仕方がない。
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0:しかし・・・画面に写った同僚や上司たちの顔は歪んでいた。
0:また彼女に、この不思議な出来事を話すとしよう。
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0:おわり。