台本概要

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タイトル 『47.6mの旅情』
作者名 sazanka  (@sazankasarasara)
ジャンル その他
演者人数 1人用台本(不問1)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 黎和4年、6月のある日に起きたこと。
人びとはすぐに忘れた。
―2022年6月某日―

短い1人読みシナリオです。
男女不問、一人称も自由に設定して頂けます。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
語り手 不問 12 語り手。踏み出した人。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:『47.6mの旅情』 : 0:(「□」には、お好きな一人称を入れてお読みください。) : 語り手:悔いなんてあるものか。 語り手:「□」は一歩を踏み出した。 語り手:もう戻れない。もう戻れない。 語り手:地上まで後、45メートル。 : 語り手:ビル風が「□」を受け止めて、時間が緩やかに流れる。 語り手:逆転した天地へと游(およ)ぎ出し、宇宙の真ん中から遠ざかる。 語り手:スローモーションの街の雑踏に向かって飛び込んで行く。 : 語り手:この旅の始まりはいつだったか? 語り手:産まれ、落ちて、初めて泣き声を上げた時か? 語り手:それとも一昨日(おとつい)雨が降って、折角干した洗濯物がダメになった時か? 語り手:母親の暗い産道から落ちて来て、明るい空を逆さまに昇って死んで行くのは良く出来た皮肉か? 語り手:落ちて行く、落ちて行く、 語り手:地上まであと、30メートル。 : 語り手:白昼の空は白々と嫌らしく、遠い外国の街まで澄み通っているように感じる。 語り手:6歳の頃に引っ越した、仲の良かったあの娘(こ)が行ったのはスペインだったか。 語り手:賢くて、可愛かったあの娘(こ)。 語り手:あの娘(こ)は本当に綺麗だったか? 語り手:あの娘(こ)は本当に「□」と仲が良かったか? 語り手:「□」の大事なカエルの置き時計を、隠して、壊したのはやっぱりあの娘(こ)ではなかったか? 語り手:みんなに言って「□」を囲んで叩かせたのはやっぱりあの娘(こ)ではなかったか? 語り手:それでも良い。それでも良い。 語り手:あの娘(こ)は綺麗であったからだ。 : 語り手:落ちて行く。落ちて行く。 語り手:空気と擦れ合うことで、縮こまっていた「□」の人生が逆方向に引き伸ばされていく! 語り手:遠い昔の記憶を明日の予感のように感じる、 語り手:良い心地だ、 語り手:地上まであと18メートル! : 語り手:隣のビルの窓に光が走った。 語り手:都会の鳥はどこか窮屈そうに飛び、 語り手:今の「□」にはその羽毛の細かな筋の一本まで見える筈だ。 語り手:鳥を殺すのは楽しい、小鳥を捕まえて虐めて殺すのは楽しい。 語り手:金もかからない、子供にも出来る良い趣味だ。 語り手:付け根の細い筋からピンクの汁が飛ぶのが綺麗だ、 語り手:あの娘(こ)のほっぺたみたいだから綺麗だ! : 語り手:血が逆流しているみたいで変な気分だ、 語り手:熱くも冷たくもない風が「□」の肌を舐めて行く、 語り手:強張りや怖じける心を舐め取って行ってくれて良い心地だ! : 語り手:風はいつだって「□」の味方だった、 語り手:誰に叩かれた夜にだって風だけはその柔らかい手で「□」を撫でてくれた。 語り手:大好きな人に怖い顔で叩かれるのは悲しい、 語り手:自分に値打ちが失くなったみたいで悲しい。 語り手:風はどこにでも吹いていて値打ちも何も無いから気が楽だ、 語り手:生きている事にも死んでいる事にも値打ちがないような気がして気が楽だ! 語り手:母さんを吊り下げて軋む木の梁(はり)や、伸び切ってぶらぶらと揺れる縄にだって、吹き付ける風はやっぱり優しかった。 語り手:優しかった母さん、 語り手:「□」を痛く叩いた母さん、 語り手:死んでいた母さん、母さん、 語り手:白いお面の鬼の顔、 語り手:青くて白い死体の顔、 語り手:地上まであと11メートル。 : 語り手:落ちて行く、落ちて行く、 語り手:心臓が握り潰されそうで腰がムズムズする、 語り手:服の隙間から滑り込んでくる空気が肌を冷やしてくれる。 : 語り手:血が沸騰して勇気が湧いて来た、 語り手:今なら高校へも行ける、もうとっくに辞めて何年も経った高校へだって行ける! 語り手:「□」を庇わなかったレジ係の島崎にも、きっと金を抜いた犯人だった田宮にも、はっきりと真実を突き付けて胸ぐらを掴んでやれる筈だ! 語り手:どいつも、こいつも、 語り手:炭谷(すみたに)って女は気の毒がる振りをして休憩室で笑ってた、 語り手:あの女の顔はどことなくあの娘(こ)に似ていて綺麗だった、母さんとも似ていて綺麗だった。 語り手:「□」の人生の綺麗だった女はきっとみんな母さんと似ていた。 語り手:ぶら下がって青くなっていた母さん、綺麗な母さん、炭谷も青白くなって死んでいてくれ、 語り手:「□」の人生の綺麗だった人はみんな今日という日の為に死んでいてくれ! 語り手:あの娘(こ)も、あの娘(こ)も! 語り手:遠い外国の空の下で、眩しい緑の木の下でぶら下がって死んでいる君こそが綺麗だ、潰れた鳥のはみ出した静脈と同じぐらい青いから綺麗だ! : 語り手:「□」はそこへ、そこへ落ちて行く! 語り手:濁った身体を脱ぎ捨てて、綺麗なところへ落ちて行く。 語り手:地上まであと3メートル! : 語り手:大気が歪む、カラフルなものばかりが目に入る、嬉しいのと寂しいのと、寒さと煩(うるさ)さばっかり感じる。 語り手:街路樹の葉っぱの筋、道行く学生の黄色いリュック、丸く見開いた茶色い目、アイツ若い癖に指輪なんかして、髪も茶色くしやがって、となりの娘(こ)は彼女か? 語り手:返せよ、お前! 語り手:地上まであと2メートル、 語り手:青色のポストって珍しい、あそこで散歩してる犬は昔近所に居た犬種だ、畜生、悔しい、女、今、通った車、中学の時プラモで作ったヤツだ、確かニッパーで指を切った、それで血が出て、その、血と、同じ色のバッグを持った女と眼が合って、女、その女、より、あの娘(こ)の方が、母さんの方が綺麗で、地上まであと1.3メートル、 語り手:この場所には何だか「□」の人生の全てがある、あの娘(こ)はきっと、本当に綺麗で、本当に綺麗だった母さんを鬼みたいにした「□」は汚くて、綺麗な、綺麗な飲み物が飲みたい、綺麗な女、喉乾いたな、レモンソーダって美味いからまた飲みたいな、でも寝る前とかに飲んだら意外と喉乾いて起きちゃうよな、な、だから、寝る前は、水とかお茶が良くて、地上、地面まで、糞、糞っ、あと70センチ、 語り手:茶色いタイルの歩道って小学校のとき何か好きだった、落ちてくるとき電線とかに引っ掛からなくて良かった、本当に良かった、 語り手:きっと、みんな、死んでくれてる気がして良かった! 語り手:地面まであと20センチ、 語り手:人、見るかな、叫んで、寄って来てうるせェかな、 語り手:人が叫ぶ声って昔から嫌いだ、 語り手:嫌いだ、「□」じゃなくてお前らが死ね糞! 語り手:あと5センチ、 語り手:今日凄い晴れてるな、 語り手:怖い、嫌いだ、怖い、 語り手:怖い、 語り手:畜生、怖い、 語り手:怖い、怖い! 語り手:やめるか、 語り手:どう、する、 語り手:今ならまだ、 語り手:あと、 語り手:もう、 語り手:1センチ、 語り手:無いのか? 語り手:えっと 0:暗転。 0:【終】

0:『47.6mの旅情』 : 0:(「□」には、お好きな一人称を入れてお読みください。) : 語り手:悔いなんてあるものか。 語り手:「□」は一歩を踏み出した。 語り手:もう戻れない。もう戻れない。 語り手:地上まで後、45メートル。 : 語り手:ビル風が「□」を受け止めて、時間が緩やかに流れる。 語り手:逆転した天地へと游(およ)ぎ出し、宇宙の真ん中から遠ざかる。 語り手:スローモーションの街の雑踏に向かって飛び込んで行く。 : 語り手:この旅の始まりはいつだったか? 語り手:産まれ、落ちて、初めて泣き声を上げた時か? 語り手:それとも一昨日(おとつい)雨が降って、折角干した洗濯物がダメになった時か? 語り手:母親の暗い産道から落ちて来て、明るい空を逆さまに昇って死んで行くのは良く出来た皮肉か? 語り手:落ちて行く、落ちて行く、 語り手:地上まであと、30メートル。 : 語り手:白昼の空は白々と嫌らしく、遠い外国の街まで澄み通っているように感じる。 語り手:6歳の頃に引っ越した、仲の良かったあの娘(こ)が行ったのはスペインだったか。 語り手:賢くて、可愛かったあの娘(こ)。 語り手:あの娘(こ)は本当に綺麗だったか? 語り手:あの娘(こ)は本当に「□」と仲が良かったか? 語り手:「□」の大事なカエルの置き時計を、隠して、壊したのはやっぱりあの娘(こ)ではなかったか? 語り手:みんなに言って「□」を囲んで叩かせたのはやっぱりあの娘(こ)ではなかったか? 語り手:それでも良い。それでも良い。 語り手:あの娘(こ)は綺麗であったからだ。 : 語り手:落ちて行く。落ちて行く。 語り手:空気と擦れ合うことで、縮こまっていた「□」の人生が逆方向に引き伸ばされていく! 語り手:遠い昔の記憶を明日の予感のように感じる、 語り手:良い心地だ、 語り手:地上まであと18メートル! : 語り手:隣のビルの窓に光が走った。 語り手:都会の鳥はどこか窮屈そうに飛び、 語り手:今の「□」にはその羽毛の細かな筋の一本まで見える筈だ。 語り手:鳥を殺すのは楽しい、小鳥を捕まえて虐めて殺すのは楽しい。 語り手:金もかからない、子供にも出来る良い趣味だ。 語り手:付け根の細い筋からピンクの汁が飛ぶのが綺麗だ、 語り手:あの娘(こ)のほっぺたみたいだから綺麗だ! : 語り手:血が逆流しているみたいで変な気分だ、 語り手:熱くも冷たくもない風が「□」の肌を舐めて行く、 語り手:強張りや怖じける心を舐め取って行ってくれて良い心地だ! : 語り手:風はいつだって「□」の味方だった、 語り手:誰に叩かれた夜にだって風だけはその柔らかい手で「□」を撫でてくれた。 語り手:大好きな人に怖い顔で叩かれるのは悲しい、 語り手:自分に値打ちが失くなったみたいで悲しい。 語り手:風はどこにでも吹いていて値打ちも何も無いから気が楽だ、 語り手:生きている事にも死んでいる事にも値打ちがないような気がして気が楽だ! 語り手:母さんを吊り下げて軋む木の梁(はり)や、伸び切ってぶらぶらと揺れる縄にだって、吹き付ける風はやっぱり優しかった。 語り手:優しかった母さん、 語り手:「□」を痛く叩いた母さん、 語り手:死んでいた母さん、母さん、 語り手:白いお面の鬼の顔、 語り手:青くて白い死体の顔、 語り手:地上まであと11メートル。 : 語り手:落ちて行く、落ちて行く、 語り手:心臓が握り潰されそうで腰がムズムズする、 語り手:服の隙間から滑り込んでくる空気が肌を冷やしてくれる。 : 語り手:血が沸騰して勇気が湧いて来た、 語り手:今なら高校へも行ける、もうとっくに辞めて何年も経った高校へだって行ける! 語り手:「□」を庇わなかったレジ係の島崎にも、きっと金を抜いた犯人だった田宮にも、はっきりと真実を突き付けて胸ぐらを掴んでやれる筈だ! 語り手:どいつも、こいつも、 語り手:炭谷(すみたに)って女は気の毒がる振りをして休憩室で笑ってた、 語り手:あの女の顔はどことなくあの娘(こ)に似ていて綺麗だった、母さんとも似ていて綺麗だった。 語り手:「□」の人生の綺麗だった女はきっとみんな母さんと似ていた。 語り手:ぶら下がって青くなっていた母さん、綺麗な母さん、炭谷も青白くなって死んでいてくれ、 語り手:「□」の人生の綺麗だった人はみんな今日という日の為に死んでいてくれ! 語り手:あの娘(こ)も、あの娘(こ)も! 語り手:遠い外国の空の下で、眩しい緑の木の下でぶら下がって死んでいる君こそが綺麗だ、潰れた鳥のはみ出した静脈と同じぐらい青いから綺麗だ! : 語り手:「□」はそこへ、そこへ落ちて行く! 語り手:濁った身体を脱ぎ捨てて、綺麗なところへ落ちて行く。 語り手:地上まであと3メートル! : 語り手:大気が歪む、カラフルなものばかりが目に入る、嬉しいのと寂しいのと、寒さと煩(うるさ)さばっかり感じる。 語り手:街路樹の葉っぱの筋、道行く学生の黄色いリュック、丸く見開いた茶色い目、アイツ若い癖に指輪なんかして、髪も茶色くしやがって、となりの娘(こ)は彼女か? 語り手:返せよ、お前! 語り手:地上まであと2メートル、 語り手:青色のポストって珍しい、あそこで散歩してる犬は昔近所に居た犬種だ、畜生、悔しい、女、今、通った車、中学の時プラモで作ったヤツだ、確かニッパーで指を切った、それで血が出て、その、血と、同じ色のバッグを持った女と眼が合って、女、その女、より、あの娘(こ)の方が、母さんの方が綺麗で、地上まであと1.3メートル、 語り手:この場所には何だか「□」の人生の全てがある、あの娘(こ)はきっと、本当に綺麗で、本当に綺麗だった母さんを鬼みたいにした「□」は汚くて、綺麗な、綺麗な飲み物が飲みたい、綺麗な女、喉乾いたな、レモンソーダって美味いからまた飲みたいな、でも寝る前とかに飲んだら意外と喉乾いて起きちゃうよな、な、だから、寝る前は、水とかお茶が良くて、地上、地面まで、糞、糞っ、あと70センチ、 語り手:茶色いタイルの歩道って小学校のとき何か好きだった、落ちてくるとき電線とかに引っ掛からなくて良かった、本当に良かった、 語り手:きっと、みんな、死んでくれてる気がして良かった! 語り手:地面まであと20センチ、 語り手:人、見るかな、叫んで、寄って来てうるせェかな、 語り手:人が叫ぶ声って昔から嫌いだ、 語り手:嫌いだ、「□」じゃなくてお前らが死ね糞! 語り手:あと5センチ、 語り手:今日凄い晴れてるな、 語り手:怖い、嫌いだ、怖い、 語り手:怖い、 語り手:畜生、怖い、 語り手:怖い、怖い! 語り手:やめるか、 語り手:どう、する、 語り手:今ならまだ、 語り手:あと、 語り手:もう、 語り手:1センチ、 語り手:無いのか? 語り手:えっと 0:暗転。 0:【終】