台本概要

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タイトル God Smack Down:Ep1【Sk8er Boi】
作者名 やいねん  (@oqrbr5gaaul8wf8)
ジャンル その他
演者人数 6人用台本(男3、女3)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 ゴッドスマックダウン:Ep1【スケーターボーイ】


一世紀くらい未来のお話。

男の子はとある『モノ』が入ったケースを運びました。
しかし、ケースの中身は空っぽでした。
これに怒った悪いおじさん一味は血眼で男の子を探しました。
果たして男の子は無事逃げ切ることができるのでしょうか。 


欲望渦巻くこの街で、ひとつの噂をきっかけに人々が奔走するSFクライム活劇。

用語説明
バニッツァ→パイ
アイリャン→ヨーグルトのドリンク
귀찮아(キィチャナ)面倒くさい、怠い
개새끼(ケセキ)犬野郎
죽어라 (チュゴラ)死ね
perra(ペラア)売女

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ナット 33 北米系、十代半ば。『スケーターボーイ』と呼ばれる運び屋。迅速かつ正確に配達を行う。様々な業界で活躍し信頼も厚い。おませな小僧。一人称がオイラ
ジャニス 37 スパニッシュ系、20代半ば。ストリートギャング『エル・クリオーロ』のメンバー。ナットとは旧友、よく仕事を依頼している。カラテが得意。若干自己肯定感低めで奥手。へそ出しがち露出多め。目つき悪め美人。一人称がアタイ
ベロニカ 25 東欧系、20代後半。喫茶『TAT』のウェイトレス。ですます口調。かわいさを振る舞ってチップをせがむ。ガメツイ。
ランス 21 アフリカ系、50代前半。『ムハリブ・ナビル』のボス。幼少期に貧困や虐待に苦しみながらもギャングのボスに登り詰めた。街を支配し貧困をなくす野望がある。時どき威厳に欠ける。召し物がド派手。アルコール依存患者。
イディ 39 アラブ系、40代前半。『ムハリブ・ナビル』のメンバー。ボスのお気に入り。2m超の巨漢。元プロボクサーのヘビー級王者。カニバリズムの癖がある。キレやすい。パンチドランカー。髭がスゴい。
ジミン 48 コリア系、20代半ば。『ムハリブ・ナビル』のメンバー。ボスのお気に入り。テコンドーが得意。ボーイッシュ系な女性。仕事のミスが目に余る。かわいい糸目。一人称が自分
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0: ベロニカ:ウェイトレスの朝は早い。まず目を覚ましたらカーテンを開けて、日の光を浴びながらヨガを行い、心身を整える。そうすると、今日という日をとても気持ち良く過ごす事が出来るのだ。朝シャンを終え、歯を磨いたら朝食。 ベロニカ:「いただきます。」 ベロニカ:一汁三菜、この街の文化は面白い。最初は驚いたが慣れれば意外と悪くない。最近は赤だしの味噌汁と玄米にハマってたりして。 ベロニカ:時々、故郷の景色を思い出したりする。草原に放牧されたヤギやヒツジ、春先に現れるコウノトリ、朝食のバニッツァやアイリャンが懐かしくなるけど、今はこの朝食が好きかもしれない。 ベロニカ:そしてテレビニュースを眺めながらメイクをして出勤。なんだかとんでもない物が盗まれたとかテレビで言ってたけど、私には関係ないかな。それより、今日も忙しいといいなぁ。 ベロニカ:この街に越して来て数年が経つけど、この街はとっても良いところだ。治安こそ良くはないけど、住めば都って感じかな?今でも色んな出来事が目まぐるしく起きて、いつでも新鮮な気持ちになれる。 ベロニカ:私は、この街が好きだ。 0: 0: 0:ウェストサイドエリアを牛耳るマフィア『ムハリブ・ナビル』アジトにて。ボスの間でランスがスコッチウイスキーを煽っている。そこにイディが来る。扉をノックする。 0: イディ:「ボス、話があります。」 ランス:「おぉ、イディかな?苦しゅうない苦しゅうない、入れ入れ。」 イディ:「失礼しま……えっ酒臭!ボス、飲んでませんか?なんかスコッチ臭いですよ。」 ランス:「んー……ちょっとだけ。」 イディ:「ダメですよ!医者から、しばらくはお酒は飲むなって言われてたでしょうが!なぜ守れない!」 ランス:「イディ…お前みたいなゲコにはわからんだろうがな…酒に呪われた人間は一生、酒に逆らう事が出来ないんだ!酒だけにな!酒らえない!」 イディ:「身体壊してんのによく飲めるなアンタ!勘弁してくれよぉ、ボスが死んだら俺達どうすりゃあいいってんだ!」 ランス:「大丈夫!俺はまだ死なない!」 イディ:「ほどほどにしてくださいよ、マジで!」 ランス:「わかったって、もうぉ厳しいなぁイディ。てか、俺が死んでもお前がなんとかするでしょ?」 イディ:「いやいやいや、簡単に言ってくれますけど、ボスが積み上げてきた人脈や功績、人望なんて引き継げるわけないですよ、俺は。ボスが居なくなったらファミリーはきっと方々に散り散りです。だから死んでもらっちゃあ困るんですよ。」 ランス:「そんな熱く語るなよぉ、どこぞの任侠じゃあるまいしぃ。まあお前のそーゆー所が好きなんだがな。てか最近太った?」 イディ:「それがですねぇ、歳を取るにつれ筋トレが怠くなって……って、俺の話しじゃなくて!」 0:ジュラルミンケースを携えてボスの間へ走って向かうジミン。勢いよく扉を開ける。 0: ジミン:「ボス!ようやく手に入りました!例の、例のブツです!」 イディ:「おいジミン……ボスの間に入る時はノックをしろと言ったろ!ボスの間なんだから!それに、こっちがまだお話し中でしょうが!」 ジミン:「あ…すみません、勢い余ってぇついつい。一応ボスの間ですもんねぇ。」 ランス:「構わんかまわん。どれどれ、拝見しようじゃないか。はよ、そのケースをはよ寄越しなさい。」 ジミン:「よいっしょ!ふー疲れたー!」 イディ:「ふん、大袈裟な奴め…。それで、例のブツって?」 ジミン:「先輩、もう忘れたんですか?だからー、例のブツなんですよ!」 イディ:「回りくどいな!ハッキリ言え、ハッキリ!」 ランス:「イディ、落ち着きたまえて。いいかい、この品は例の博士が最後に遺したと言う発明品でな。」 イディ:「んなっ!?まさか、本当に実在したとは…。その力を手に入れたなら、この街はおろか、世界を治める事だって出来ると言う……。」 ジミン:「ワクワクしますね!パーッと開けちゃってください!」 ランス:「かの独裁者達の最後は虚しいものだった。部下の裏切りを恐れ粛清を繰り返し、それでもなお、人を信用することが出来ず、孤独に最期を迎えたと言う。しかし!これさえ手に入れば全てが、我が『ムハリブ・ナビル』の思うがままになるのだ!待ちに待ったこの瞬間、我々の時代の幕開けだ!いざ、御開帳~!」 0: 0:ジュラルミンケースを開けるランス。 0: 0:中は空っぽ。 0: ジミン:「わー!開けちゃいましたね~!どうですか!中身のほどは!」 ランス:「……ジミン?」 ジミン:「はい?」 ランス:「……ん~、ない。」 ジミン:「え?」 ランス:「中身が無い。」 ジミン:「うそっ。」 ランス:「いや、真面目に。」 ジミン:「いやいや待って下さいよ~そんな、ハハ、ご冗談を~」 ランス:「いや見てみて、ほら」 ジミン:「んなわけあるわけ……ワギャァァァァ!ねぇー!中身がねぇー!」 イディ:「ジミン……テメェ、またトチったのかこの野郎!」 ジミン:「こんなはずじゃ、こんなはずじゃあないのに!」 ランス:「なんで、なんで、なんで……」 イディ:「ほら見ろ!ボスが放心状態じゃねぇか!テメェ、今度と言う今度は許さんからな!」 ジミン:「ひぃ!待って先輩!話を!どうか話を聞いてぇ!……あー、奴ですよ!やーつー!」 イディ:「奴ってなんだ!」 ジミン:「運び屋です!スケーターボーイです!絶対あいつが怪しいです!ええ!はい!」 イディ:「スケーターボーイが?そんなわけ無いだろ!奴は今まで一度たりともミスった事がないんだ!安心安全のスケーターボーイなんだよ!お前と違ってな!」 ジミン:「じゃあ確かめに行きましょう!スケーターボーイをとっちめましょう!」 イディ:「ああ!とりあえず奴から話を聞く他にねぇ!ボス、スケーターボーイを取っ捕まえて来ます!」 ジミン:「先に捕まえた方が勝ちですからね!」 イディ:「当たり前だ!俺が勝ったらテメェの片耳いただくからなぁ!決まりだ!」 ジミン:「ひぃ!出たカニバリズム!ぜ、絶対に負けませんからぁ!」 ランス:「私の…我が『ムハリブ・ナビル』の時代は……いずこへ……」 0: 0: 0:喫茶『TAT』にて。 0: ベロニカ:私が働いている喫茶『タイム・アフター・タイム』。またお客さんが来てくれますように、という意味合いで付けられたらしい。みんな略して(ティエーティ)と呼んでいるけど。 ベロニカ:「看板ヨシ!お掃除ヨシ!笑顔ヨシ!叔父さん、今日もよろしくです!」 ベロニカ:このお店の店主は父上の御兄様にあたる方だ。半ば家出娘だった私を心配してくれてか、雇い入れてくれた。いわば恩人である。でも、無口で何を考えているのか全くわからない…。 0:ジャニスが来店する。 ジャニス:「邪魔するよ。」 ベロニカ:「ジャニス!いらっしゃいませでぇす!」 ジャニス:「テラス席、いいかい?待ち合わせてるんだ。」 ベロニカ:「珍しいですね!いつもは端っこの席に座るのに…さてはフィアンセが出来たですか?」 ジャニス:「な、なに言ってんだい!そんなんじゃないよ!ちょいと仕事の話をするだけだよ!」 ベロニカ:このジャニスという人は『エル・クリオーロ』という組織に所属する、所謂『裏の住人』だ。でも『エル・クリオーロ』は街のみんなからとても慕われている。『弱きを助け、強きを挫く』という言葉がぴったりな人達なのだ。 0:テラス席に着席するジャニス。注文を取ろうとするベロニカ。 ジャニス:「はぁ……」 ベロニカ:「あー、またタメ息。幸せ逃げまくりですね。」 ジャニス:「そりゃタメ息だって吐きたくなるよ。ここんとこ、うまくいかない事ばかりでさぁ。」 ベロニカ:「まだ引きずってるんです?そういうのは切り替えが大事なんですよ!男なんて星の数ほどいるんですから!」 ジャニス:「やめておくれ~慰めないでおくれ~あたしゃ弱いんだぁそうゆうの……」 ベロニカ:「早く次を見つければいいんです!ほら、いつも一緒に働いてるあの人とか!えっと名前は……」 ジャニス:「コリィの事?ありゃ駄目だね。」 ベロニカ:「なんでです?」 ジャニス:「馬鹿だから。」 ベロニカ:「そうなんです?意外と知的で賢いような印象ですよ?」 ジャニス:「そう言う意味の馬鹿じゃなくてさぁ、鈍感というか、なんと言うか……」 ナット:「なんの話してるのー?」 0:いきなり話をかけてくるナット。 ジャニス:「うわぁ!いきなり後ろから話し掛けるんじゃないよ!びっくりするじゃないか!」 ナット:「あはは、つい遊び心でね。」 ベロニカ:この子の名前はナットくん。詳しくは知らないけど、いつもここを贔屓にしてくれる、とっても良い子。 ジャニス:「本当に子供だねアンタは。」 ナット:「また子供扱い?ひどいなぁ、そもそも呼び出したのはそっちじゃないか。」 ベロニカ:「ジャニスって……ショタもいけるんです?」 ジャニス:「だから違うって言ってるでしょ!仕事のはなしだっての!」 ナット:「ちょっとその前に、お腹減ったなぁ。お姉さん、注文いい?」 ベロニカ:「もちろんでぇす!」 ナット:「それじゃあ、えっとぉ……」 0: 0: 0:車を走らせるイディ、ジミンが話し掛ける。 0: ジミン:「……先輩?」 イディ:「なんだ。」 ジミン:「大見得を切って出てきたはいいものの、どこに居るんですかねぇスケーターボーイ。」 イディ:「知るかぁ!とりあえず奴がよく現れるっていうサウスエリア辺りに向かうしかねぇだろ!」 ジミン:「家とかわかってたら楽なんですがね。」 イディ:「奴は職業柄、特定の住居を構えていない。そんでもって神出鬼没ときた。どうやって見つけりゃいいんだマジで。」 ジミン:「いやぁなんかちょっと……めんどくさいですね。」 イディ:「どの口が言ってんだ!お前の所為だろ!そもそもなんで受け渡しの時に中身を確認しなかった!」 ジミン:「まぁそれはですね、かの有名なスケーターボーイだし、信じて疑わなかったって言うか……開けるのはボスが最初の方がいいかなって思って。なんかそんなふうな事をボスが言ってたじゃないですかー。」 イディ:「……なんのことだ?」 ジミン:「例のブツ、最初に使う人が重要だとか。先輩、なんも覚えてないんすね。」 イディ:「うるせぇ馬鹿。」 ジミン:「パンチドランカー過ぎますよ!」 イディ:「仕方ねえだろぅが!覚えてないんだからぁ!次に生意気言ったらその瞬間、問答無用でお前の耳を喰い千切ってやるからな!」 ジミン:「ヒィ!怖ぇ!……あ、そういえば。」 イディ:「今度はなんだ!」 ジミン:「サウスエリアって『エル・クリオーロ』のシマですよね。」 イディ:「そうだ。それがどうした。」 ジミン:「あそこの構成員の女と一悶着あった話、聞きます?」 イディ:「どうせ犬も食わん話だろ。興味ない。てか降りろ。」 ジミン:「えぇ、自分だけ?」 イディ:「もうサウスエリア着いたし、お前の所為なのにって思ったらだんだん腹立ってきた。」 ジミン:「先輩だけ車で探すのズルくないっすか!?自分、この勝負に耳が無くなるかどうか掛ってるのに!?」 イディ:「うるせぇ!自分の足で見つけてこい!」 ジミン:「うぎゃっ!」 0:車から蹴り落とされるジミン。走り去るイディ。 ジミン:「いたたた~……マジで行っちゃったよ先輩。しっかし見つけようがないんじゃ、どうしようもないじゃん。まあせっかくサウスエリア来たし、なんか食べたりするのもありだな。よぉし、とりあえず近くのコーヒーが美味しいお店でも調べたろかー!」 0: 0: 0:テラス席にジャニスとナットが座っている。注文の品を運ぶベロニカ 0: ベロニカ:「お待たせしました!TAT特製豆乳キャラメルモカフラペチーノ、愛情多めでぇす!」 ナット:「……え?」 ベロニカ:「多めでぇす!」 ナット:「あ、チップね!あはは、ごめんごめん!」 ベロニカ:「毎度アリでぇす!」 0:立ち去るベロニカ。 ナット:「……あのお姉さん、オイラに興味あるのかな?」 ジャニス:「勘違いすんじゃないよ。ベロニカはね、自分が可愛いのをわかってて、わざと男共からああやってぐいぐいチップをかっぱらってんだよ。もはや清々しいねぇ。アタイもあんな振る舞いしてみたいもんさね。」 ナット:「ジャニスだっていい女じゃん!」 ジャニス:「んなっ!?……こ、小僧のくせして、マセたこと言ってんじゃないよ!」 ナット:「本当だよ!パッと見、目付きとか怖いけど、よ~く見たらとっても綺麗なブラウンの瞳しててさ、スタイルだって抜群じゃん!それにこの小麦色の肌なんてさぁ……」 0:何気なくテーブルに置いていたジャニスの手を触るナット。固まるジャニス。 ジャニス:「ひゃっ!?」 ナット:「はっはっはっはっ!昔から変わらないね!男の人に手を触られると固まる癖!」 ジャニス:「シレっとセクハラするんじゃないよ!」 ベロニカ:「お待たせしました!マルゲリータでぇす!」 ナット:「うっまそー!いただきまーす!」 ベロニカ:「なんか楽しそうな事してましたね。」 ジャニス:「アンタにゃ関係ないよ!仕事してな!シッシッ!」 ベロニカ:「ちぇー、ツレないですねぇ。あ、ナットくん!愛情多めでぇす!」 ナット:「もうその手には乗らないよ!」 ジャニス:「アタイが教えといたからねぇ。」 ベロニカ:「まぁー、2人して仲良しこよしですね!羨ましいですこと!あ、お客さんだ。いらっしゃいませでぇーす!」 ジャニス:「全く、忙しい娘だよ。」 ナット:「でも、あのお姉さんになら何回でもチップ払っちゃうかもなぁ。」 ジャニス:「ふん、色気づいちゃって。アンタも昔は可愛かったのね。これだから男は嫌いだよ。」 ナット:「うっそだぁジャニス!ホントは付き合ってみたいくせにぃ~。」 ジャニス:「そんなことより仕事の話だよ!仕事の!」 ナット:「どうせいつものヤツでしょ?『エル・クリオーロ』にはメチャお世話になってるけど、いかんせん安いんだよね~。こっちもリスク負ってるんだからね?」 ジャニス:「まーたナマ言ってこの小僧!憎たらしいったらありゃしないね!今回は別件なんだ!」 ナット:「別件ねぇ。弾んでくれるんなら聞いてあげてもいいよ。」 ジャニス:「今日は随分と足元見るじゃないか。そんなに金が必要なのかい?」 ナット:「まぁね。オイラもバカじゃないからさ。ちゃんと考えてるんだよ、先の事をね。」 ジャニス:「それはわかってるさ。アンタはそんじゃそこらの運び屋とは違うからね。依頼は確実にこなす。時間を正確に守り、ブツを届ける……何があっても。なんせこの街の地理を隅々まで知ってるのはナット、アンタしかいないからね。信頼はしてるよ。」 ナット:「やけにおだててくれるね!オイラに気があるのかい?」 ジャニス:「このスケベ小僧、バカ言うんじゃないよ!」 ナット:「へへ、冗談じょーだん!んで、その別件てなんなの?」 ジャニス:「はぁ、そのことなんだけどねぁ……」 0: 0: 0:ランスと電話をしながら運転するイディ。 0: イディ:「だからボス、今運転中なんです。寂しいからって酔った勢いで電話してこないで下さい。」 ランス:「だって、だってやっと手に入ったと思ったら中身カラなんて事あるぅ?おかしくない?!グビグビグビグビ(酒飲む)」 イディ:「あー!その音!また酒飲みましたね!言ったよね?オジサン言ったよねぇ!?お酒飲むなって!アナタねぇ、それが駄目なんだって!もうお酒買ってあげませんよ!」 ランス:「んな!?しまった!私としたことが!これは違うんだ!手が勝手動いたんじゃ!後生じゃ~、許してたもれ~!」 イディ:「わーかった、わかったから!もう飲まないって約束できる?ねぇ、約束。オジサンとの約束、出きる?」 ランス:「オジサンと約束、する。」 イディ:「よし、偉いね。それじゃあ切るからね。例のブツは俺達に任して。大人しくしててね。じゃあね。バイバイ。」 ランス:「バイバイ。」 0:電話を切るイディ イディ:「ふぅ、世話が焼けるぜ。ウチのボスは。」 イディ:「ん、メッセージか。ボスったらまた… いや違う、ジミンからか。」 イディ:「……なぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃ!?見付けただとぉぉおお!」 0: 0: 0:ムハリブ・ナビルのアジト、気力を失い項垂れながらランスがぼやく 0: ランス:私は安らぎを求めていた。今でも夢に見る幼い頃の記憶。思い出すたびに震えるほどの虐待の記憶。組織のトップに登り詰めたとしても安らぎなどには到底辿り着くことは出来ない。いつ来るかわからない他の組織との抗争や部下の裏切り、内部分裂に行政からの一斉摘発……ストレスが多すぎる。 ランス:ならばと、少しでも私のような人間を救えるならばと……不幸にも劣悪な環境下に生まれ堕ちてしまった子供達の救済に全力を尽くしてきた。 ランス:その私が報われないとは、なんと言う仕打ちなんだ。人々はみな平等に、各々が役割をもって生まれてくるのだ。私の役割とは、一体なんなのか。 ランス:……そう、あのブツさえあれば、私はきっと何者にでもなれる。あのブツさえあれば、争いも不幸も無い、素晴らしい世界が創れるのだ! ランス:そうだ!諦めてはならん!諦めてはならんのだぁ!ジミン、イディ!頼むぞぉ!あのブツさえ、あのブツさえあれば全てが思うがままになるのだから! 0: 0:TATを訪れるジミン 0: ベロニカ:「いらっしゃいませでぇす!お一人様ですか?」 ジミン:「……けた」 ベロニカ:「お客様?」 ジミン:「……見付けた。」 ベロニカ:「え?」 ジミン:「見ーつけたぁ!」 0:2人の前に歩み寄るジミン。 ナット:「あれ?『ムハリブ・ナビル』の…」 ジャニス:「……」 ジミン:「すげぇー!流石自分!持ってますねぇ自分!」 ジャニス:「アンタ……」 ジミン:「それにまーさか、ジャニス氏がご一緒だなんて……」 ジャニス:「どの面下げて……」 ジミン:「ハッハーン!なるほどそーゆー事かぁ!」 ナット:「な、なんの話をしてるの?」 ジャニス:「どの面下げてアタイの前に立ってるんだい!ジミンっ!」 ナット:「ジャニス、急にどうしたの!?」 ジミン:「『ムハリブ・ナビル』と『エル・クリオーロ』……全面戦争待ったなしって感じぃ?」 0: 0: 0:猛スピードでTATに向かうイディ 0: イディ:あのスケーターボーイ、そう簡単に見つけ出すことは出来ないはず。なのにどうしてジミンは見付け出せたんだ。いや、もうそんなことはどうでもいい。見付けたとして逃げられたら最後、ゴキブリの様に街を這い回り身を隠すだろう。だが、諦めこそが人間をダメにする。諦めた者は最早死んだも同然。俺が必ず捕まえてやる。そして、ジミンの片耳を貪ってやる! 0: 0: 0:再び喫茶TATのテラス。ジミンは得意のテコンドーでテーブルを蹴りあげる 0: ジミン:「ハイィィイ!」 ナット:「うぎゃっ!テ、テーブルが真っ二つになってる!」 ベロニカ:「なーにするんです!やめるです!」 ジャニス:「ぐっ!アンタ、いきなりなんのつもりだい!」 ジミン:「それはこっちのセリフなんだよねぇ~。やいスケーターボーイ!『エル・クリオーロ』と組んでウチらを出し抜こうだなんて随分と粋な事してくれるねぇ。ブツは何処にやったのー?」 ナット:「な、なに言ってるんだ!ちゃんと正確に、決まった時間に届けたじゃないか!それに出し抜くだなんて……」 ジミン:「キャー必殺すっとぼけぇ~?じゃあこの靴底を君の血で染めてあげないとねぇ~!どのくらいで話てくれる気になるのかなぁ~!全身ミンチにならきゃいいけどねぇ?」 ナット:「そんな……オイラは仕事をこなしたよ!確実に!」 ジミン:「あーそういう演技もう大丈夫。さぁ、先ずは『ネリチャギ』だぁ!頭蓋から割ッちゃうよぉ!」 ナット:「ま、待って!」 ジミン:「ハイィィイ!」 ジャニス:「ハァッ!」 0:ナットの頭を目掛け振り落としたジミンのネリチャギ(踵落とし)を上段蹴りで受け止めるジャニス。 ナット:「……ジャニス!」 ジミン:「ねぇ~邪魔しないでよぉ……相変わらずムカつくなぁ、その足癖の悪さ。」 ジャニス:「アンタに言われたかないね。こっちはお話中なんだ。それに……フンっ!」 ジミン:「ガハァっ!」 0:ジャニスの三日月蹴りがジミンの鳩尾を捉え、その場に踞るジミン ジャニス:「アンタとは清算が終わっちゃないからねぇ!この泥棒猫!」 ジミン:「ゲホッ…ひゃ~あ、귀찮아…(キィチャナ…)。ジャニス氏、まだ根に持ってるんだぁw」 ジャニス:「ナット!なんかよくわかんないけどねぇ、とにかく逃げときな。話はまた今度だよ!」 ナット:「ジャニス……ありがとう!」 0:ナット、スケボーで逃走 ジミン:「んなっ!?待てぇい!」 ジャニス:「行かせないよっ!フンっ!」 0:ジャニスの蹴りを防ぐジミン。 ジミン:「クゥっ!……あ~逃したぁあああ!くそ、エル・クリオーロごときが!개새끼(ケセキ)!죽어라 (チュゴラ)!」 ジャニス:「ほら、懺悔の時間だよ。神に祈りでも済ませときな、……LaPerra(ラ ペーラ) ペーラ)!」 0: 0: 0:イディ、TATに到着する。 0: イディ:よし、着いた。……え?ジミンの奴、なんでエル・クリオーロの構成員と喧嘩してんだ?さっき言いかけてた話の事で?…あー駄目だ。ジミン、理性失っちゃってるよ。目がイッちゃってるもん。しばらく使い物にならんな。……いやちげぇよ!なにやってんのアイツ!スケーターボーイがいねぇじゃあねぇか!逃げられてる事に気付けジミン!馬鹿!マヌケ! イディ:……クソ、とりあえず付近の路地裏を手当たり次第あたるしかねぇ!ぜってぇ捕まえてやる! 0: 0: 0:裏道を駆使してスケボーで滑走するナット。状況を把握できていないまま、思考を巡らせる。 0: ナット:オイラがミスった?そんなはず無い。指定の受け取り場所、指定の受け取り時間。絶対に間違いはなかった。それにいつも通り、誰にも気付かれず配達を終えた。何かがおかしい。きっと、とてつもなく良くない事に巻き込まれている。こんな時はあの人達に頼るしかない。そう、あの人達に…… 0:瞬間、上空から何者かが目の前に勢い良く着地する。堪らず急停止するナット。 ナット:「うわぁ、危ねぇ!空から人が降ってくるなんて!今度は一体なんだよ!」 0:その謎の人物は無言のまま近付いてくる ナット:「……誰なんだい、アンタ……うわ、来るな、何をする!やめろ!放せ!誰かぁ!助けてぇ!」 0:腕を掴み掛かられるナット。そこにイディが割り込んで引き離す。 イディ:「ウオラァッ!」 ナット:「うぎゃっ!……イ、イディ!」 イディ:「よう、スケーターボーイ。お前には聞かなきゃならない事がある。だがしかぁし!お前よりも、もっと話を聞かなくてはならない奴がここにいる。」 イディ:「テメェは何者だ、この眼帯野郎。」 0: 0: ベロニカ:私は、この街が好きだ。 ベロニカ:……でも、この街にはトラブルが多すぎる。あまりにも……。

0: ベロニカ:ウェイトレスの朝は早い。まず目を覚ましたらカーテンを開けて、日の光を浴びながらヨガを行い、心身を整える。そうすると、今日という日をとても気持ち良く過ごす事が出来るのだ。朝シャンを終え、歯を磨いたら朝食。 ベロニカ:「いただきます。」 ベロニカ:一汁三菜、この街の文化は面白い。最初は驚いたが慣れれば意外と悪くない。最近は赤だしの味噌汁と玄米にハマってたりして。 ベロニカ:時々、故郷の景色を思い出したりする。草原に放牧されたヤギやヒツジ、春先に現れるコウノトリ、朝食のバニッツァやアイリャンが懐かしくなるけど、今はこの朝食が好きかもしれない。 ベロニカ:そしてテレビニュースを眺めながらメイクをして出勤。なんだかとんでもない物が盗まれたとかテレビで言ってたけど、私には関係ないかな。それより、今日も忙しいといいなぁ。 ベロニカ:この街に越して来て数年が経つけど、この街はとっても良いところだ。治安こそ良くはないけど、住めば都って感じかな?今でも色んな出来事が目まぐるしく起きて、いつでも新鮮な気持ちになれる。 ベロニカ:私は、この街が好きだ。 0: 0: 0:ウェストサイドエリアを牛耳るマフィア『ムハリブ・ナビル』アジトにて。ボスの間でランスがスコッチウイスキーを煽っている。そこにイディが来る。扉をノックする。 0: イディ:「ボス、話があります。」 ランス:「おぉ、イディかな?苦しゅうない苦しゅうない、入れ入れ。」 イディ:「失礼しま……えっ酒臭!ボス、飲んでませんか?なんかスコッチ臭いですよ。」 ランス:「んー……ちょっとだけ。」 イディ:「ダメですよ!医者から、しばらくはお酒は飲むなって言われてたでしょうが!なぜ守れない!」 ランス:「イディ…お前みたいなゲコにはわからんだろうがな…酒に呪われた人間は一生、酒に逆らう事が出来ないんだ!酒だけにな!酒らえない!」 イディ:「身体壊してんのによく飲めるなアンタ!勘弁してくれよぉ、ボスが死んだら俺達どうすりゃあいいってんだ!」 ランス:「大丈夫!俺はまだ死なない!」 イディ:「ほどほどにしてくださいよ、マジで!」 ランス:「わかったって、もうぉ厳しいなぁイディ。てか、俺が死んでもお前がなんとかするでしょ?」 イディ:「いやいやいや、簡単に言ってくれますけど、ボスが積み上げてきた人脈や功績、人望なんて引き継げるわけないですよ、俺は。ボスが居なくなったらファミリーはきっと方々に散り散りです。だから死んでもらっちゃあ困るんですよ。」 ランス:「そんな熱く語るなよぉ、どこぞの任侠じゃあるまいしぃ。まあお前のそーゆー所が好きなんだがな。てか最近太った?」 イディ:「それがですねぇ、歳を取るにつれ筋トレが怠くなって……って、俺の話しじゃなくて!」 0:ジュラルミンケースを携えてボスの間へ走って向かうジミン。勢いよく扉を開ける。 0: ジミン:「ボス!ようやく手に入りました!例の、例のブツです!」 イディ:「おいジミン……ボスの間に入る時はノックをしろと言ったろ!ボスの間なんだから!それに、こっちがまだお話し中でしょうが!」 ジミン:「あ…すみません、勢い余ってぇついつい。一応ボスの間ですもんねぇ。」 ランス:「構わんかまわん。どれどれ、拝見しようじゃないか。はよ、そのケースをはよ寄越しなさい。」 ジミン:「よいっしょ!ふー疲れたー!」 イディ:「ふん、大袈裟な奴め…。それで、例のブツって?」 ジミン:「先輩、もう忘れたんですか?だからー、例のブツなんですよ!」 イディ:「回りくどいな!ハッキリ言え、ハッキリ!」 ランス:「イディ、落ち着きたまえて。いいかい、この品は例の博士が最後に遺したと言う発明品でな。」 イディ:「んなっ!?まさか、本当に実在したとは…。その力を手に入れたなら、この街はおろか、世界を治める事だって出来ると言う……。」 ジミン:「ワクワクしますね!パーッと開けちゃってください!」 ランス:「かの独裁者達の最後は虚しいものだった。部下の裏切りを恐れ粛清を繰り返し、それでもなお、人を信用することが出来ず、孤独に最期を迎えたと言う。しかし!これさえ手に入れば全てが、我が『ムハリブ・ナビル』の思うがままになるのだ!待ちに待ったこの瞬間、我々の時代の幕開けだ!いざ、御開帳~!」 0: 0:ジュラルミンケースを開けるランス。 0: 0:中は空っぽ。 0: ジミン:「わー!開けちゃいましたね~!どうですか!中身のほどは!」 ランス:「……ジミン?」 ジミン:「はい?」 ランス:「……ん~、ない。」 ジミン:「え?」 ランス:「中身が無い。」 ジミン:「うそっ。」 ランス:「いや、真面目に。」 ジミン:「いやいや待って下さいよ~そんな、ハハ、ご冗談を~」 ランス:「いや見てみて、ほら」 ジミン:「んなわけあるわけ……ワギャァァァァ!ねぇー!中身がねぇー!」 イディ:「ジミン……テメェ、またトチったのかこの野郎!」 ジミン:「こんなはずじゃ、こんなはずじゃあないのに!」 ランス:「なんで、なんで、なんで……」 イディ:「ほら見ろ!ボスが放心状態じゃねぇか!テメェ、今度と言う今度は許さんからな!」 ジミン:「ひぃ!待って先輩!話を!どうか話を聞いてぇ!……あー、奴ですよ!やーつー!」 イディ:「奴ってなんだ!」 ジミン:「運び屋です!スケーターボーイです!絶対あいつが怪しいです!ええ!はい!」 イディ:「スケーターボーイが?そんなわけ無いだろ!奴は今まで一度たりともミスった事がないんだ!安心安全のスケーターボーイなんだよ!お前と違ってな!」 ジミン:「じゃあ確かめに行きましょう!スケーターボーイをとっちめましょう!」 イディ:「ああ!とりあえず奴から話を聞く他にねぇ!ボス、スケーターボーイを取っ捕まえて来ます!」 ジミン:「先に捕まえた方が勝ちですからね!」 イディ:「当たり前だ!俺が勝ったらテメェの片耳いただくからなぁ!決まりだ!」 ジミン:「ひぃ!出たカニバリズム!ぜ、絶対に負けませんからぁ!」 ランス:「私の…我が『ムハリブ・ナビル』の時代は……いずこへ……」 0: 0: 0:喫茶『TAT』にて。 0: ベロニカ:私が働いている喫茶『タイム・アフター・タイム』。またお客さんが来てくれますように、という意味合いで付けられたらしい。みんな略して(ティエーティ)と呼んでいるけど。 ベロニカ:「看板ヨシ!お掃除ヨシ!笑顔ヨシ!叔父さん、今日もよろしくです!」 ベロニカ:このお店の店主は父上の御兄様にあたる方だ。半ば家出娘だった私を心配してくれてか、雇い入れてくれた。いわば恩人である。でも、無口で何を考えているのか全くわからない…。 0:ジャニスが来店する。 ジャニス:「邪魔するよ。」 ベロニカ:「ジャニス!いらっしゃいませでぇす!」 ジャニス:「テラス席、いいかい?待ち合わせてるんだ。」 ベロニカ:「珍しいですね!いつもは端っこの席に座るのに…さてはフィアンセが出来たですか?」 ジャニス:「な、なに言ってんだい!そんなんじゃないよ!ちょいと仕事の話をするだけだよ!」 ベロニカ:このジャニスという人は『エル・クリオーロ』という組織に所属する、所謂『裏の住人』だ。でも『エル・クリオーロ』は街のみんなからとても慕われている。『弱きを助け、強きを挫く』という言葉がぴったりな人達なのだ。 0:テラス席に着席するジャニス。注文を取ろうとするベロニカ。 ジャニス:「はぁ……」 ベロニカ:「あー、またタメ息。幸せ逃げまくりですね。」 ジャニス:「そりゃタメ息だって吐きたくなるよ。ここんとこ、うまくいかない事ばかりでさぁ。」 ベロニカ:「まだ引きずってるんです?そういうのは切り替えが大事なんですよ!男なんて星の数ほどいるんですから!」 ジャニス:「やめておくれ~慰めないでおくれ~あたしゃ弱いんだぁそうゆうの……」 ベロニカ:「早く次を見つければいいんです!ほら、いつも一緒に働いてるあの人とか!えっと名前は……」 ジャニス:「コリィの事?ありゃ駄目だね。」 ベロニカ:「なんでです?」 ジャニス:「馬鹿だから。」 ベロニカ:「そうなんです?意外と知的で賢いような印象ですよ?」 ジャニス:「そう言う意味の馬鹿じゃなくてさぁ、鈍感というか、なんと言うか……」 ナット:「なんの話してるのー?」 0:いきなり話をかけてくるナット。 ジャニス:「うわぁ!いきなり後ろから話し掛けるんじゃないよ!びっくりするじゃないか!」 ナット:「あはは、つい遊び心でね。」 ベロニカ:この子の名前はナットくん。詳しくは知らないけど、いつもここを贔屓にしてくれる、とっても良い子。 ジャニス:「本当に子供だねアンタは。」 ナット:「また子供扱い?ひどいなぁ、そもそも呼び出したのはそっちじゃないか。」 ベロニカ:「ジャニスって……ショタもいけるんです?」 ジャニス:「だから違うって言ってるでしょ!仕事のはなしだっての!」 ナット:「ちょっとその前に、お腹減ったなぁ。お姉さん、注文いい?」 ベロニカ:「もちろんでぇす!」 ナット:「それじゃあ、えっとぉ……」 0: 0: 0:車を走らせるイディ、ジミンが話し掛ける。 0: ジミン:「……先輩?」 イディ:「なんだ。」 ジミン:「大見得を切って出てきたはいいものの、どこに居るんですかねぇスケーターボーイ。」 イディ:「知るかぁ!とりあえず奴がよく現れるっていうサウスエリア辺りに向かうしかねぇだろ!」 ジミン:「家とかわかってたら楽なんですがね。」 イディ:「奴は職業柄、特定の住居を構えていない。そんでもって神出鬼没ときた。どうやって見つけりゃいいんだマジで。」 ジミン:「いやぁなんかちょっと……めんどくさいですね。」 イディ:「どの口が言ってんだ!お前の所為だろ!そもそもなんで受け渡しの時に中身を確認しなかった!」 ジミン:「まぁそれはですね、かの有名なスケーターボーイだし、信じて疑わなかったって言うか……開けるのはボスが最初の方がいいかなって思って。なんかそんなふうな事をボスが言ってたじゃないですかー。」 イディ:「……なんのことだ?」 ジミン:「例のブツ、最初に使う人が重要だとか。先輩、なんも覚えてないんすね。」 イディ:「うるせぇ馬鹿。」 ジミン:「パンチドランカー過ぎますよ!」 イディ:「仕方ねえだろぅが!覚えてないんだからぁ!次に生意気言ったらその瞬間、問答無用でお前の耳を喰い千切ってやるからな!」 ジミン:「ヒィ!怖ぇ!……あ、そういえば。」 イディ:「今度はなんだ!」 ジミン:「サウスエリアって『エル・クリオーロ』のシマですよね。」 イディ:「そうだ。それがどうした。」 ジミン:「あそこの構成員の女と一悶着あった話、聞きます?」 イディ:「どうせ犬も食わん話だろ。興味ない。てか降りろ。」 ジミン:「えぇ、自分だけ?」 イディ:「もうサウスエリア着いたし、お前の所為なのにって思ったらだんだん腹立ってきた。」 ジミン:「先輩だけ車で探すのズルくないっすか!?自分、この勝負に耳が無くなるかどうか掛ってるのに!?」 イディ:「うるせぇ!自分の足で見つけてこい!」 ジミン:「うぎゃっ!」 0:車から蹴り落とされるジミン。走り去るイディ。 ジミン:「いたたた~……マジで行っちゃったよ先輩。しっかし見つけようがないんじゃ、どうしようもないじゃん。まあせっかくサウスエリア来たし、なんか食べたりするのもありだな。よぉし、とりあえず近くのコーヒーが美味しいお店でも調べたろかー!」 0: 0: 0:テラス席にジャニスとナットが座っている。注文の品を運ぶベロニカ 0: ベロニカ:「お待たせしました!TAT特製豆乳キャラメルモカフラペチーノ、愛情多めでぇす!」 ナット:「……え?」 ベロニカ:「多めでぇす!」 ナット:「あ、チップね!あはは、ごめんごめん!」 ベロニカ:「毎度アリでぇす!」 0:立ち去るベロニカ。 ナット:「……あのお姉さん、オイラに興味あるのかな?」 ジャニス:「勘違いすんじゃないよ。ベロニカはね、自分が可愛いのをわかってて、わざと男共からああやってぐいぐいチップをかっぱらってんだよ。もはや清々しいねぇ。アタイもあんな振る舞いしてみたいもんさね。」 ナット:「ジャニスだっていい女じゃん!」 ジャニス:「んなっ!?……こ、小僧のくせして、マセたこと言ってんじゃないよ!」 ナット:「本当だよ!パッと見、目付きとか怖いけど、よ~く見たらとっても綺麗なブラウンの瞳しててさ、スタイルだって抜群じゃん!それにこの小麦色の肌なんてさぁ……」 0:何気なくテーブルに置いていたジャニスの手を触るナット。固まるジャニス。 ジャニス:「ひゃっ!?」 ナット:「はっはっはっはっ!昔から変わらないね!男の人に手を触られると固まる癖!」 ジャニス:「シレっとセクハラするんじゃないよ!」 ベロニカ:「お待たせしました!マルゲリータでぇす!」 ナット:「うっまそー!いただきまーす!」 ベロニカ:「なんか楽しそうな事してましたね。」 ジャニス:「アンタにゃ関係ないよ!仕事してな!シッシッ!」 ベロニカ:「ちぇー、ツレないですねぇ。あ、ナットくん!愛情多めでぇす!」 ナット:「もうその手には乗らないよ!」 ジャニス:「アタイが教えといたからねぇ。」 ベロニカ:「まぁー、2人して仲良しこよしですね!羨ましいですこと!あ、お客さんだ。いらっしゃいませでぇーす!」 ジャニス:「全く、忙しい娘だよ。」 ナット:「でも、あのお姉さんになら何回でもチップ払っちゃうかもなぁ。」 ジャニス:「ふん、色気づいちゃって。アンタも昔は可愛かったのね。これだから男は嫌いだよ。」 ナット:「うっそだぁジャニス!ホントは付き合ってみたいくせにぃ~。」 ジャニス:「そんなことより仕事の話だよ!仕事の!」 ナット:「どうせいつものヤツでしょ?『エル・クリオーロ』にはメチャお世話になってるけど、いかんせん安いんだよね~。こっちもリスク負ってるんだからね?」 ジャニス:「まーたナマ言ってこの小僧!憎たらしいったらありゃしないね!今回は別件なんだ!」 ナット:「別件ねぇ。弾んでくれるんなら聞いてあげてもいいよ。」 ジャニス:「今日は随分と足元見るじゃないか。そんなに金が必要なのかい?」 ナット:「まぁね。オイラもバカじゃないからさ。ちゃんと考えてるんだよ、先の事をね。」 ジャニス:「それはわかってるさ。アンタはそんじゃそこらの運び屋とは違うからね。依頼は確実にこなす。時間を正確に守り、ブツを届ける……何があっても。なんせこの街の地理を隅々まで知ってるのはナット、アンタしかいないからね。信頼はしてるよ。」 ナット:「やけにおだててくれるね!オイラに気があるのかい?」 ジャニス:「このスケベ小僧、バカ言うんじゃないよ!」 ナット:「へへ、冗談じょーだん!んで、その別件てなんなの?」 ジャニス:「はぁ、そのことなんだけどねぁ……」 0: 0: 0:ランスと電話をしながら運転するイディ。 0: イディ:「だからボス、今運転中なんです。寂しいからって酔った勢いで電話してこないで下さい。」 ランス:「だって、だってやっと手に入ったと思ったら中身カラなんて事あるぅ?おかしくない?!グビグビグビグビ(酒飲む)」 イディ:「あー!その音!また酒飲みましたね!言ったよね?オジサン言ったよねぇ!?お酒飲むなって!アナタねぇ、それが駄目なんだって!もうお酒買ってあげませんよ!」 ランス:「んな!?しまった!私としたことが!これは違うんだ!手が勝手動いたんじゃ!後生じゃ~、許してたもれ~!」 イディ:「わーかった、わかったから!もう飲まないって約束できる?ねぇ、約束。オジサンとの約束、出きる?」 ランス:「オジサンと約束、する。」 イディ:「よし、偉いね。それじゃあ切るからね。例のブツは俺達に任して。大人しくしててね。じゃあね。バイバイ。」 ランス:「バイバイ。」 0:電話を切るイディ イディ:「ふぅ、世話が焼けるぜ。ウチのボスは。」 イディ:「ん、メッセージか。ボスったらまた… いや違う、ジミンからか。」 イディ:「……なぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃ!?見付けただとぉぉおお!」 0: 0: 0:ムハリブ・ナビルのアジト、気力を失い項垂れながらランスがぼやく 0: ランス:私は安らぎを求めていた。今でも夢に見る幼い頃の記憶。思い出すたびに震えるほどの虐待の記憶。組織のトップに登り詰めたとしても安らぎなどには到底辿り着くことは出来ない。いつ来るかわからない他の組織との抗争や部下の裏切り、内部分裂に行政からの一斉摘発……ストレスが多すぎる。 ランス:ならばと、少しでも私のような人間を救えるならばと……不幸にも劣悪な環境下に生まれ堕ちてしまった子供達の救済に全力を尽くしてきた。 ランス:その私が報われないとは、なんと言う仕打ちなんだ。人々はみな平等に、各々が役割をもって生まれてくるのだ。私の役割とは、一体なんなのか。 ランス:……そう、あのブツさえあれば、私はきっと何者にでもなれる。あのブツさえあれば、争いも不幸も無い、素晴らしい世界が創れるのだ! ランス:そうだ!諦めてはならん!諦めてはならんのだぁ!ジミン、イディ!頼むぞぉ!あのブツさえ、あのブツさえあれば全てが思うがままになるのだから! 0: 0:TATを訪れるジミン 0: ベロニカ:「いらっしゃいませでぇす!お一人様ですか?」 ジミン:「……けた」 ベロニカ:「お客様?」 ジミン:「……見付けた。」 ベロニカ:「え?」 ジミン:「見ーつけたぁ!」 0:2人の前に歩み寄るジミン。 ナット:「あれ?『ムハリブ・ナビル』の…」 ジャニス:「……」 ジミン:「すげぇー!流石自分!持ってますねぇ自分!」 ジャニス:「アンタ……」 ジミン:「それにまーさか、ジャニス氏がご一緒だなんて……」 ジャニス:「どの面下げて……」 ジミン:「ハッハーン!なるほどそーゆー事かぁ!」 ナット:「な、なんの話をしてるの?」 ジャニス:「どの面下げてアタイの前に立ってるんだい!ジミンっ!」 ナット:「ジャニス、急にどうしたの!?」 ジミン:「『ムハリブ・ナビル』と『エル・クリオーロ』……全面戦争待ったなしって感じぃ?」 0: 0: 0:猛スピードでTATに向かうイディ 0: イディ:あのスケーターボーイ、そう簡単に見つけ出すことは出来ないはず。なのにどうしてジミンは見付け出せたんだ。いや、もうそんなことはどうでもいい。見付けたとして逃げられたら最後、ゴキブリの様に街を這い回り身を隠すだろう。だが、諦めこそが人間をダメにする。諦めた者は最早死んだも同然。俺が必ず捕まえてやる。そして、ジミンの片耳を貪ってやる! 0: 0: 0:再び喫茶TATのテラス。ジミンは得意のテコンドーでテーブルを蹴りあげる 0: ジミン:「ハイィィイ!」 ナット:「うぎゃっ!テ、テーブルが真っ二つになってる!」 ベロニカ:「なーにするんです!やめるです!」 ジャニス:「ぐっ!アンタ、いきなりなんのつもりだい!」 ジミン:「それはこっちのセリフなんだよねぇ~。やいスケーターボーイ!『エル・クリオーロ』と組んでウチらを出し抜こうだなんて随分と粋な事してくれるねぇ。ブツは何処にやったのー?」 ナット:「な、なに言ってるんだ!ちゃんと正確に、決まった時間に届けたじゃないか!それに出し抜くだなんて……」 ジミン:「キャー必殺すっとぼけぇ~?じゃあこの靴底を君の血で染めてあげないとねぇ~!どのくらいで話てくれる気になるのかなぁ~!全身ミンチにならきゃいいけどねぇ?」 ナット:「そんな……オイラは仕事をこなしたよ!確実に!」 ジミン:「あーそういう演技もう大丈夫。さぁ、先ずは『ネリチャギ』だぁ!頭蓋から割ッちゃうよぉ!」 ナット:「ま、待って!」 ジミン:「ハイィィイ!」 ジャニス:「ハァッ!」 0:ナットの頭を目掛け振り落としたジミンのネリチャギ(踵落とし)を上段蹴りで受け止めるジャニス。 ナット:「……ジャニス!」 ジミン:「ねぇ~邪魔しないでよぉ……相変わらずムカつくなぁ、その足癖の悪さ。」 ジャニス:「アンタに言われたかないね。こっちはお話中なんだ。それに……フンっ!」 ジミン:「ガハァっ!」 0:ジャニスの三日月蹴りがジミンの鳩尾を捉え、その場に踞るジミン ジャニス:「アンタとは清算が終わっちゃないからねぇ!この泥棒猫!」 ジミン:「ゲホッ…ひゃ~あ、귀찮아…(キィチャナ…)。ジャニス氏、まだ根に持ってるんだぁw」 ジャニス:「ナット!なんかよくわかんないけどねぇ、とにかく逃げときな。話はまた今度だよ!」 ナット:「ジャニス……ありがとう!」 0:ナット、スケボーで逃走 ジミン:「んなっ!?待てぇい!」 ジャニス:「行かせないよっ!フンっ!」 0:ジャニスの蹴りを防ぐジミン。 ジミン:「クゥっ!……あ~逃したぁあああ!くそ、エル・クリオーロごときが!개새끼(ケセキ)!죽어라 (チュゴラ)!」 ジャニス:「ほら、懺悔の時間だよ。神に祈りでも済ませときな、……LaPerra(ラ ペーラ) ペーラ)!」 0: 0: 0:イディ、TATに到着する。 0: イディ:よし、着いた。……え?ジミンの奴、なんでエル・クリオーロの構成員と喧嘩してんだ?さっき言いかけてた話の事で?…あー駄目だ。ジミン、理性失っちゃってるよ。目がイッちゃってるもん。しばらく使い物にならんな。……いやちげぇよ!なにやってんのアイツ!スケーターボーイがいねぇじゃあねぇか!逃げられてる事に気付けジミン!馬鹿!マヌケ! イディ:……クソ、とりあえず付近の路地裏を手当たり次第あたるしかねぇ!ぜってぇ捕まえてやる! 0: 0: 0:裏道を駆使してスケボーで滑走するナット。状況を把握できていないまま、思考を巡らせる。 0: ナット:オイラがミスった?そんなはず無い。指定の受け取り場所、指定の受け取り時間。絶対に間違いはなかった。それにいつも通り、誰にも気付かれず配達を終えた。何かがおかしい。きっと、とてつもなく良くない事に巻き込まれている。こんな時はあの人達に頼るしかない。そう、あの人達に…… 0:瞬間、上空から何者かが目の前に勢い良く着地する。堪らず急停止するナット。 ナット:「うわぁ、危ねぇ!空から人が降ってくるなんて!今度は一体なんだよ!」 0:その謎の人物は無言のまま近付いてくる ナット:「……誰なんだい、アンタ……うわ、来るな、何をする!やめろ!放せ!誰かぁ!助けてぇ!」 0:腕を掴み掛かられるナット。そこにイディが割り込んで引き離す。 イディ:「ウオラァッ!」 ナット:「うぎゃっ!……イ、イディ!」 イディ:「よう、スケーターボーイ。お前には聞かなきゃならない事がある。だがしかぁし!お前よりも、もっと話を聞かなくてはならない奴がここにいる。」 イディ:「テメェは何者だ、この眼帯野郎。」 0: 0: ベロニカ:私は、この街が好きだ。 ベロニカ:……でも、この街にはトラブルが多すぎる。あまりにも……。