台本概要

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タイトル タトエ、魂になっても【バルバッティン完結編】女性
作者名 荒木アキラ  (@masakasoreha)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(女2)
時間 20 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 バルバッティンとレイの出会いを描くほっこりファンタジーを書いてきましたが、
バルバッティンとはなにか、完結編では雪が溶けるように謎も解けていきます。
タトエ、女性バージョンです。
優しく仕上げていただけるとうれしいです。

上演時には、任意ではありますが、作者TwitterDM(@masakasoreha)までご連絡いただけると、
喜んで拝聴しに行きます。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
タトエ 110 夢の中でレイだった女の子
111 夢の中でバルバッティンだった母
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:タトエ、魂になっても 0:【バルバッティン完結編】 0: 0: 0:(タトエの声、静かに呼ぶ) タトエ:「お母さん、お母さん…?」 タトエ: 母:「うーん…。だあれ?」 母: タトエ:「例(レイ)だよ。レイ。…タトエだよ。」 タトエ: 母:「レイ…? 母:…ああ、タトエ。おはよう。」 母: タトエ:「お母さん、起きてたの?まだ寝てるかと思ったよ。」 タトエ: 母:「…今日は、何月何日?何曜日?」 母: タトエ:「えっとね、今日は4月27日、火曜日だよ。」 タトエ: 母:「…昨日は、よく眠れた?」 母: タトエ:「うん。よく眠れた。お母さんは?」 タトエ: 母:「よく眠れた、よく眠れたよ。 母:…ねえ、タトエ、もう少し、ゆっくりしてもいい?」 母: タトエ:「もちろんだよ。好きなだけ、ゆっくりしていいよ。」 タトエ: 母:「あのね、お母さん、…不思議な夢を見たわ。」 母: タトエ:「え?…どんな夢?」 タトエ: 母:「タトエが、雪の中、泣いている夢。」 母: タトエ:「ふふふ…雪なんか、もう降ってないよ?」 タトエ: 母:「それが、とてもきれいなの。美しい子だわ。あなたは。」 母: タトエ:「それで、お母さん、泣いてるわたしを見て、どうしたの?」 タトエ: 母:「泣いてるあなたを見て、傘を差しだしたわ。」 母: タトエ:「それで、わたしはどうしたの?」 タトエ: 母:「あなたは、少し警戒してたわね。」 母: タトエ:「え…?だって、お母さんなんでしょう?」 タトエ: 母:「そうだけど、そうじゃないの。」 母: タトエ:「お母さんだけど、わたしには、 タトエ:お母さんが見えないってこと?」 タトエ: 母:「お母さんじゃなくて、違う人に見えるみたい。」 母: タトエ:「そう。でも、なんでわたしは泣いてたの?」 タトエ: 母:「恋人にね、裏切られたんだって。」 母: タトエ:「ええー笑 タトエ:いやな夢だなあ。それで、お母さん、 タトエ:ちゃんとその恋人を叱ってくれた?」 タトエ: 母:「だって、お母さんは、夢の中で、 母:温かいコーヒーをおごってあげるくらいしか、 母:できなかったんだもの。」 母: タトエ:「そっかあ。お母さん、知らない人なのに、 タトエ:コーヒーおごってくれたんだ?」 タトエ: 母:「それから…靴下も。靴下も買ってあげたわ。」 母: タトエ:「お母さんは優しいね。ありがとう。」 タトエ: 母:「タトエ。 母:タトエは、お母さんのこと、好き?」 母: タトエ:「どうしたの、急に。」 タトエ: 母:「お母さんはね、タトエがいくつになっても、 母:タトエと一緒にいたい。」 母: タトエ:「ふふふ…そっか。その言葉、忘れないよ。」 0: 0: 0: 0: 母:「…おはよう、タトエ。」 母: タトエ:「おはよう、お母さん。よく眠れた?」 タトエ: 母:「ええ、よく眠ったわ。今日は、何月、何日?」 母: タトエ:「今日は、4月28日、水曜日だよ。」 タトエ: 母:「眠いわ。とっても眠い。春だからかしら?」 母: タトエ:「そうだね。わたしも眠い。 タトエ:でも、いまはまだ眠ったらいけないよ?」 タトエ: 母:「わかってる。今日も、ゆっくりできる?」 母: タトエ:「当たり前でしょ?」 タトエ: 母:「タトエ。お母さんがこんなこと言ったら、どうする?」 母: タトエ:「どんなこと?」 タトエ: 母:「タトエは、実は男の子だったのよ。」 母: タトエ:「ええ?笑」 タトエ: 母:「うふふ…おかしな夢見ちゃった。」 母: タトエ:「どんな夢?」 タトエ: 母:「タトエが男の子でね、学校の先生なの。」 母: タトエ:「お母さんも?学校の先生なの?」 タトエ: 母:「お母さんは、女子高生なのよ、うふふ」 母: タトエ:「ええーずるいなあ。」 タトエ: 母:「タトエが新任教師で、お母さんが、転校生…」 母: タトエ:「転校生かあ。お母さんが、学校にいるなんて、変なの。」 タトエ: 母:「だって、女子高生の姿をしてるんだもの。いいじゃない。」 母: タトエ:「それで、ふたりは、どうなるの?」 タトエ: 母:「タトエはね、男の子なんだけど、男の先生が好きなんだよね。」 母: タトエ:「へえ~。もしかして、ダンディなひげのある先生?」 タトエ: 母:「そうよ、片桐先生…だったかしら。」 母: タトエ:「それなら、たぶん、お医者さんの片桐先生だよ。」 タトエ: 母:「タトエは、その先生のこと、好きなの?」 母: タトエ:「ふふふ…それは教えない。」 タトエ: 母:「いいわよ。じゃあ、お母さんの初恋の相手も教えないわ笑」 母: タトエ:「夢の中で、お母さん、恋してたの?」 タトエ: 母:「そうよ。あんなに胸がドキドキすることって、 母:もうないって思ってた。」 母: タトエ:「へえ~。どんな子だったの?初恋の相手は?」 タトエ: 母:「うふふ…ミヤモトヒビキちゃん。」 母: タトエ:「ヒビキちゃん? タトエ:って、わたしの従姉妹(いとこ)のヒビキちゃんのこと?」 タトエ: 母:「そうよ、あなたと大の仲良しになるはずのね。」 母: タトエ:「女の子が好きだったの?お母さん。」 タトエ: 母:「そうみたい。おかしいわよね笑」 母: タトエ:「でも、わたしが、片桐先生を好きで、 タトエ:お母さんが、ヒビキちゃんを好きだったなんて、 タトエ:なんとなくわかるなあ。」 タトエ: 母:「わたしたち、気が合うわね。」 母: タトエ:「ほんと、親子だね、わたしたち。」 タトエ: 母:「ほんとね。本当の親子って感じがするわ。」 母: タトエ:「それで、どうなるの?」 タトエ: 母:「どうなるって?」 母: タトエ:「わたしたち二人の、恋の行方。」 タトエ: 母:「それは…なんとも言えないなあ。」 母: タトエ:「いいじゃない、教えてよ。」 タトエ: 母:「そこは、夢の中ではうまくいかないのよ。」 母: タトエ:「なんだあ。わたし、 タトエ:もしかして片桐先生と結ばれるのかと思ったのに。」 タトエ: 母:「タトエは、お母さんが守ってあげる。」 母: タトエ:「…ありがとう。わたしも、お母さんを守るよ。」 タトエ: 母:「うん、タトエは、優しいもんね。」 0: 0: 0: 0: 母:「…タトエ。」 母: タトエ:「お母さん?起きてたの?」 タトエ: 母:「お母さんね、あなたに謝らなくちゃいけないことがあるの。」 母: タトエ:「なあに、まだ目が覚めたばかりじゃない。」 タトエ: 母:「今日は何月、何日?」 母: タトエ:「今日は、4月29日。どうしたの?」 タトエ: 母:「あのね。お母さんね、 母:あなたを授かる前、一度妊娠したことがあるの。」 母: タトエ:「…え?」 タトエ: 母:「今日は、そんな夢を見ちゃった。」 母: タトエ:「夢の中ででしょ?びっくりした。 タトエ:そんなの謝ることじゃないよ。」 タトエ: 母:「いいえ。夢だけど、夢じゃないの。」 母: タトエ:「お母さん…泣いてるの?」 タトエ: 母:「ふふ…泣いているみたい。」 母: タトエ:「泣きながら、笑ってるわよ、お母さん?」 タトエ: 母:「お母さんには、もう一人、子供がいたんだった。 母:それは、流れてしまったけれど、男の子だったみたい。」 母: タトエ:「どうして、そんなこと、わかるの?」 タトエ: 母:「あなたが教えてくれたのよ。 母:お兄ちゃんのこと。」 母: タトエ:「そっか…。 タトエ:わたし、お兄ちゃんのこと、好きだったかな。」 タトエ: 母:「それはもう、お兄ちゃん子だったみたいよ。 母:だって、あなた、お兄ちゃんのお墓参り、 母:毎日行ってたみたいだから。」 母: タトエ:「お兄ちゃんのお墓って、本当にあるの?」 タトエ: 母:「…ないわ。ごめんなさい。 母:水子供養に、お寺さんに通ったくらいよ。」 母: タトエ:「夢の中で、お兄ちゃんと会えた?」 タトエ: 母:「お母さんはね、夢の中で、お兄ちゃんの恋人だった。」 母: タトエ:「へえ…素敵だね。」 タトエ: 母:「お兄ちゃんと、文通していたの。 母:長いこと、文通していたわ。」 母: タトエ:「それで、わたしたち、会ったの?」 タトエ: 母:「そうよ、わたしたち、お兄ちゃんのお墓で、ばったり会ったの。」 母: タトエ:「運命だね。きっと。」 タトエ: 母:「お母さん、びっくりしたわ。」 母: タトエ:「どうして?」 タトエ: 母:「だって、あなたったら、ろくに食べもしないで、 母:お兄ちゃんに取り憑かれてたから。」 母: タトエ:「大丈夫、わたしはここにいるよ。」 タトエ: 母:「どこ?どこにいるの?」 母: タトエ:「ここよ、わたしはここに、ちゃんといるわ。」 タトエ: 母:「あなたは、食べてるわよね?ちゃんと、食べてるわよね?」 母: タトエ:「食べてる。ちょっと食べ過ぎなくらい、食べてるよ。」 タトエ: 母:「よかった…。 母:お兄ちゃんが、あなたを連れて行かないか、 母:心配になってしまって。」 母: タトエ:「わたしは、ここにいるよ。お母さんのそばに、ずっとね。」 0: 0: 0: 0: 母:「おはよう…。タトエ?」 母: タトエ:「うん…?もう起きたの?お母さん。」 タトエ: 母:「そうなの。今日は、早く目が覚めちゃって。 母:ごめんなさい。起こしたかしら。」 母: タトエ:「ううん。わたしも、もう起きなきゃって思ってたところ。」 タトエ: 母:「今日は、何月何日?」 母: タトエ:「今日は、えーっと、4月30日。 タトエ:…もうすぐだよ。」 タトエ: 母:「ねえ、お母さん、寝言言ってなかったかしら?」 母: タトエ:「寝言?…またなにか夢を見たの?」 タトエ: 母:「タトエがね、お父さんそっくりになってた夢を見たの。」 母: タトエ:「ええ?笑  タトエ:またわたし、男の人になってたの?」 タトエ: 母:「どこからどう見ても、お父さんだったわ。 母:スーツ着て、ぴしっとして、 母:格好良かったわ。」 母: タトエ:「それで、お父さんとお母さんはついに出会うの?」 タトエ: 母:「出会うんだけどねえ。 母:わたしもスーツを着た、お父さんの同僚なの。」 母: タトエ:「へええ笑 なにそれ。変なの。」 タトエ: 母:「タトエはね、イヌが怖いんだって。」 母: タトエ:「そうなの? タトエ:ああそっか。一度、びっくりしたことあったもんね。」 タトエ: 母:「そうよ。あのとき、あなた危なかったのよ?」 母: タトエ:「それで、わたしとお母さんは、なにしてたの?」 タトエ: 母:「オオカミに出会うの。」 母: タトエ:「オオカミ?童話とかに、よく出てくる?」 タトエ: 母:「そんな、怖いオオカミじゃなくてね。本物のオオカミ。」 母: タトエ:「そっちのほうが、怖いじゃない笑」 タトエ: 母:「そうかしら? 母:なんだか、モフモフしてて、可愛かったわよ。」 母: タトエ:「わたしも、オオカミをモフモフしてた?」 タトエ: 母:「いいえ。あなたは、オオカミを見たら、気絶しちゃったわよ。」 母: タトエ:「やっぱりね!夢にも、遺伝ってあるのかな?」 タトエ: 母:「あるのかもね笑  母:あなたは、わたしの夢の中で、夢を見ていたわ。 母:やっぱりわたしの子ね。」 母: タトエ:「お母さんが、助けてくれたの?」 タトエ: 母:「そうよ笑あなたが、助けて~って叫ぶものだから。」 母: タトエ:「ふふ笑 それで、お母さん、 タトエ:どうして『寝言が』、なんて、言い出したの?」 タトエ: 母:「ああ、寝言ね。なんだか、 母:あなたに申し訳ないことしちゃったみたいだから。」 母: タトエ:「どうして?」 タトエ: 母:「タトエがね、言ってたの。わたしの愚痴を。」 母: タトエ:「どんな愚痴?」 タトエ: 母:「『奥さんも、母みたいになったらいやだなあ』って。」 母: タトエ:「ええ~?わたしに奥さん?笑 タトエ:あ、そっか、わたしはお父さんの姿なんだった。」 タトエ: 母:「ああ~。そうよね。…てことは? 母:あなたの言ってた「母」って、おばあちゃんのことかしら。 母:…よく出来てるわよね、夢って。」 母: タトエ:「お父さんも、イヌが嫌いだった?」 タトエ: 母:「わかんない。 母:だってそんなことを聞く暇もなく、突然別れちゃったから。」 母: タトエ:「そうだよね。普通、「イヌは嫌いですか」なんて、 タトエ:聞かないよね。」 タトエ: 母:「うふふ。よほどのイヌ好きじゃなければね。笑」 母: タトエ:「それで、結局、わたしとお母さんは、どうなったの?」 タトエ: 母:「一緒に、逃げ出した…んじゃなかったかしら?」 母: タトエ:「もう。肝心なところ、覚えてないの?」 タトエ: 母:「だって、夢って、そういうものでしょう?」 0: 0: 0: 0: タトエ:「お母さん。お母さん?」 タトエ: 母:「うーん…。 母:タトエ?」 母: タトエ:「ごめん、寝坊しちゃった。」 タトエ: 母:「え、ああ、そうだ、今日は何月何日?」 母: タトエ:「今日はね、5月1日。」 タトエ: 母:「5月1日って…?」 母: タトエ:「そうよ。わたしの誕生日。」 タトエ: 母:「ああ…。」 母: タトエ:「わたしはね、もうすぐ産まれるよ。」 タトエ: 母:「そっか…。じゃあ、もう、わたしたち、会えないのね。」 母: タトエ:「わたし、お母さんの夢、全部知ってるよ。」 タトエ: 母:「そりゃそうよ。だって、あなたはお母さんの子だもの。」 母: タトエ:「タトエって名前、つけてくれてありがとう。」 タトエ: 母:「だって、まだ、決まってないんだもの。 母:『例えば』、って意味で、あなたをそう呼んでたわね。」 母: タトエ:「お母さん、お母さんのお腹の中は、 タトエ:すごく居心地よかったよ。」 タトエ: 母:「ずっと、わたしったら、夢の話ばかりして、ごめんね。」 母: タトエ:「だって、お母さんは、事故に遭って、 タトエ:ずっと眠っているんだもの。仕方ないわよ。」 タトエ: 母:「だけど、あなたを産んであげることが出来て、 母:お母さん、うれしい。」 母: タトエ:「わたしがお腹にいなかったら、 タトエ:お母さん、どうしてた?」 タトエ: 母:「たぶん、とっくにいなくなってた。 母:さよなら~って。」 母: タトエ:「お母さんと話が出来た、5日間を、 タトエ:わたし、覚えていたい。」 タトエ: 母:「あなたは、きっと、美しく産まれて、 母:恋をして、挫折もちょっと経験するわね。」 母: タトエ:「それで?わたし、どうなるの?友達出来るかな?」 タトエ: 母:「きっと、素敵な友達ができるわ。 母:ヒビキちゃんみたいな、友達が。」 母: タトエ:「それから?それから?」 タトエ: 母:「片桐先生と、恋に落ちるわね。」 母: タトエ:「片桐先生は、赤ちゃんのわたしを取り上げてくれる、 タトエ:病院の先生だよ?」 タトエ: 母:「そっかそっか。 母:だったら、困ったときは、その先生を頼りなさい。」 母: タトエ:「はーい。 タトエ:…お母さん、それから? タトエ:最後の夢の話はしないの?」 タトエ: 母:「お母さんね、わがままだから。 母:最後にあなたを独り占めしたいって思っちゃったの。」 母: タトエ:「うんうん。わかるよ。」 タトエ: 母:「あなたを、旦那さんに渡すのなんか、嫌だーって、 母:思っちゃったのよ。」 母: タトエ:「だからって、社内不倫はないんじゃない?笑」 タトエ: 母:「あはは…笑  母:そこは、お母さんの心配してることでもある笑」 母: タトエ:「なるほどね。3軒隣のきれいな奥さんには、 タトエ:お父さんを近づけないようにする。」 タトエ: 母:「いいのよ、それは。 母:お父さんにいい人が出来たら、応援してあげてね。」 母: タトエ:「家の中に、鏡は置いちゃいけないの?」 タトエ: 母:「そうじゃないの。 母:あなたを、あなた自身からも、守ってあげたかったの。」 母: タトエ:「わたし自身から?」 タトエ: 母:「人間ってね。自分で自分を苦しめたり、 母:傷つけたりすることもあるのよ。」 母: タトエ:「だから、お母さんはわたしの分身を消しちゃったのね。」 タトエ: 母:「そうね。ごめんなさい。あなたを独り占めしたいって。 母:お母さんの、最後の最高のわがままだったのかもしれない。」 母: タトエ:「いいよ。わたし、お母さんの子供だもの。 タトエ:いつでも、お母さんのわがままに付き合うよ。」 タトエ: 母:「タトエ。あなたはいい子だわ。 母:いつも、小さな小さなわたしを 母:一緒に連れてってくれたわよね。」 母: タトエ:「そうよ。だって、お母さんは、バルバッティンだもの。」 タトエ: 母:「バルバッティン…。」 母: タトエ:「わたし、ずっと記憶の奧底で、わかってたの。 タトエ:お母さんはバルバッティンなんだって。」 タトエ: 母:「お母さん、バルバッティンになって、 母:タトエの夢にでてきてもいいかな?」 母: タトエ:「もちろんだよ。いままでもそうだし、これからも、そう。」 タトエ: 母:「さようならは言わないよ。 母:たとえば、魂になっても、 母:お母さん、ずっとあなたのぞばにいる。」 母: タトエ:「ありがとう、お母さん、わたしはいま、産まれてくるね。」 タトエ: 母:「(遠くに向かって)ありがとう。例(レイ)くん。例(レイ)ちゃん。 母:また、夢で逢いましょうね。」 母: 0: 0: 0: 0:(タトエ、成長している) タトエM:わたしには、ふたつ、名前がある。 タトエM: タトエM:ひとつは、お父さんがつけてくれた大切な名前。 タトエM: タトエM:そして、もう一つは、夢の中で母がつけてくれた、 タトエM: タトエM:「タトエ」という秘密の名前。 0: タトエM:年々、忘れそうになるのだけど、 タトエM:そうすると、ふと夢にバルバッティンが現れて、 タトエM:言うのだ。 タトエM:「あなたは、レイだよね?」って。 タトエM:「そう、にんべんに列(れつ)と書いて、レイよ。」 タトエM:わたしは夢の中で答えるのだ。 タトエM:たくさんのいのちの列に並んでいる自分がいる。 0: タトエM:そうして、目覚めると、あ、そっか。 タトエM: タトエM:わたしは、「タトエ」だったんだって思い出す。 タトエM: タトエM:ありがとう、お母さん。わたしを産んでくれて。 タトエM: タトエM:ありがとう、お母さん、5日間も、 タトエM:一緒に夢を見てくれて。 タトエM: 0: タトエM:母は、わたしを妊娠中、事故に遭い、昏睡状態に陥った。 タトエM:そして、そのまま、5日間眠り続け、 タトエM:わたしを産むと、記憶喪失になっていた。 タトエM:助かったことが、どのくらい奇跡的なことか、 タトエM:わたしは後々知ることになるのだけれど。 0: タトエM:いまでも、お母さんは、バルバッティンになって、 タトエM:わたしを夢の中まで、追いかけてくる。 0: タトエM:夢の中で、涙を流すし、すぐに人を好きになるし、 タトエM:ロマンチストで、お節介で、ちょっとわがままも言う。 タトエM:だから、わたしの中に、バルバッティンは生き続けるのだ。 0: タトエM:バルバッティンは脈々と続く、いのちの象徴だから。 0: 0: 0: 0:END

0:タトエ、魂になっても 0:【バルバッティン完結編】 0: 0: 0:(タトエの声、静かに呼ぶ) タトエ:「お母さん、お母さん…?」 タトエ: 母:「うーん…。だあれ?」 母: タトエ:「例(レイ)だよ。レイ。…タトエだよ。」 タトエ: 母:「レイ…? 母:…ああ、タトエ。おはよう。」 母: タトエ:「お母さん、起きてたの?まだ寝てるかと思ったよ。」 タトエ: 母:「…今日は、何月何日?何曜日?」 母: タトエ:「えっとね、今日は4月27日、火曜日だよ。」 タトエ: 母:「…昨日は、よく眠れた?」 母: タトエ:「うん。よく眠れた。お母さんは?」 タトエ: 母:「よく眠れた、よく眠れたよ。 母:…ねえ、タトエ、もう少し、ゆっくりしてもいい?」 母: タトエ:「もちろんだよ。好きなだけ、ゆっくりしていいよ。」 タトエ: 母:「あのね、お母さん、…不思議な夢を見たわ。」 母: タトエ:「え?…どんな夢?」 タトエ: 母:「タトエが、雪の中、泣いている夢。」 母: タトエ:「ふふふ…雪なんか、もう降ってないよ?」 タトエ: 母:「それが、とてもきれいなの。美しい子だわ。あなたは。」 母: タトエ:「それで、お母さん、泣いてるわたしを見て、どうしたの?」 タトエ: 母:「泣いてるあなたを見て、傘を差しだしたわ。」 母: タトエ:「それで、わたしはどうしたの?」 タトエ: 母:「あなたは、少し警戒してたわね。」 母: タトエ:「え…?だって、お母さんなんでしょう?」 タトエ: 母:「そうだけど、そうじゃないの。」 母: タトエ:「お母さんだけど、わたしには、 タトエ:お母さんが見えないってこと?」 タトエ: 母:「お母さんじゃなくて、違う人に見えるみたい。」 母: タトエ:「そう。でも、なんでわたしは泣いてたの?」 タトエ: 母:「恋人にね、裏切られたんだって。」 母: タトエ:「ええー笑 タトエ:いやな夢だなあ。それで、お母さん、 タトエ:ちゃんとその恋人を叱ってくれた?」 タトエ: 母:「だって、お母さんは、夢の中で、 母:温かいコーヒーをおごってあげるくらいしか、 母:できなかったんだもの。」 母: タトエ:「そっかあ。お母さん、知らない人なのに、 タトエ:コーヒーおごってくれたんだ?」 タトエ: 母:「それから…靴下も。靴下も買ってあげたわ。」 母: タトエ:「お母さんは優しいね。ありがとう。」 タトエ: 母:「タトエ。 母:タトエは、お母さんのこと、好き?」 母: タトエ:「どうしたの、急に。」 タトエ: 母:「お母さんはね、タトエがいくつになっても、 母:タトエと一緒にいたい。」 母: タトエ:「ふふふ…そっか。その言葉、忘れないよ。」 0: 0: 0: 0: 母:「…おはよう、タトエ。」 母: タトエ:「おはよう、お母さん。よく眠れた?」 タトエ: 母:「ええ、よく眠ったわ。今日は、何月、何日?」 母: タトエ:「今日は、4月28日、水曜日だよ。」 タトエ: 母:「眠いわ。とっても眠い。春だからかしら?」 母: タトエ:「そうだね。わたしも眠い。 タトエ:でも、いまはまだ眠ったらいけないよ?」 タトエ: 母:「わかってる。今日も、ゆっくりできる?」 母: タトエ:「当たり前でしょ?」 タトエ: 母:「タトエ。お母さんがこんなこと言ったら、どうする?」 母: タトエ:「どんなこと?」 タトエ: 母:「タトエは、実は男の子だったのよ。」 母: タトエ:「ええ?笑」 タトエ: 母:「うふふ…おかしな夢見ちゃった。」 母: タトエ:「どんな夢?」 タトエ: 母:「タトエが男の子でね、学校の先生なの。」 母: タトエ:「お母さんも?学校の先生なの?」 タトエ: 母:「お母さんは、女子高生なのよ、うふふ」 母: タトエ:「ええーずるいなあ。」 タトエ: 母:「タトエが新任教師で、お母さんが、転校生…」 母: タトエ:「転校生かあ。お母さんが、学校にいるなんて、変なの。」 タトエ: 母:「だって、女子高生の姿をしてるんだもの。いいじゃない。」 母: タトエ:「それで、ふたりは、どうなるの?」 タトエ: 母:「タトエはね、男の子なんだけど、男の先生が好きなんだよね。」 母: タトエ:「へえ~。もしかして、ダンディなひげのある先生?」 タトエ: 母:「そうよ、片桐先生…だったかしら。」 母: タトエ:「それなら、たぶん、お医者さんの片桐先生だよ。」 タトエ: 母:「タトエは、その先生のこと、好きなの?」 母: タトエ:「ふふふ…それは教えない。」 タトエ: 母:「いいわよ。じゃあ、お母さんの初恋の相手も教えないわ笑」 母: タトエ:「夢の中で、お母さん、恋してたの?」 タトエ: 母:「そうよ。あんなに胸がドキドキすることって、 母:もうないって思ってた。」 母: タトエ:「へえ~。どんな子だったの?初恋の相手は?」 タトエ: 母:「うふふ…ミヤモトヒビキちゃん。」 母: タトエ:「ヒビキちゃん? タトエ:って、わたしの従姉妹(いとこ)のヒビキちゃんのこと?」 タトエ: 母:「そうよ、あなたと大の仲良しになるはずのね。」 母: タトエ:「女の子が好きだったの?お母さん。」 タトエ: 母:「そうみたい。おかしいわよね笑」 母: タトエ:「でも、わたしが、片桐先生を好きで、 タトエ:お母さんが、ヒビキちゃんを好きだったなんて、 タトエ:なんとなくわかるなあ。」 タトエ: 母:「わたしたち、気が合うわね。」 母: タトエ:「ほんと、親子だね、わたしたち。」 タトエ: 母:「ほんとね。本当の親子って感じがするわ。」 母: タトエ:「それで、どうなるの?」 タトエ: 母:「どうなるって?」 母: タトエ:「わたしたち二人の、恋の行方。」 タトエ: 母:「それは…なんとも言えないなあ。」 母: タトエ:「いいじゃない、教えてよ。」 タトエ: 母:「そこは、夢の中ではうまくいかないのよ。」 母: タトエ:「なんだあ。わたし、 タトエ:もしかして片桐先生と結ばれるのかと思ったのに。」 タトエ: 母:「タトエは、お母さんが守ってあげる。」 母: タトエ:「…ありがとう。わたしも、お母さんを守るよ。」 タトエ: 母:「うん、タトエは、優しいもんね。」 0: 0: 0: 0: 母:「…タトエ。」 母: タトエ:「お母さん?起きてたの?」 タトエ: 母:「お母さんね、あなたに謝らなくちゃいけないことがあるの。」 母: タトエ:「なあに、まだ目が覚めたばかりじゃない。」 タトエ: 母:「今日は何月、何日?」 母: タトエ:「今日は、4月29日。どうしたの?」 タトエ: 母:「あのね。お母さんね、 母:あなたを授かる前、一度妊娠したことがあるの。」 母: タトエ:「…え?」 タトエ: 母:「今日は、そんな夢を見ちゃった。」 母: タトエ:「夢の中ででしょ?びっくりした。 タトエ:そんなの謝ることじゃないよ。」 タトエ: 母:「いいえ。夢だけど、夢じゃないの。」 母: タトエ:「お母さん…泣いてるの?」 タトエ: 母:「ふふ…泣いているみたい。」 母: タトエ:「泣きながら、笑ってるわよ、お母さん?」 タトエ: 母:「お母さんには、もう一人、子供がいたんだった。 母:それは、流れてしまったけれど、男の子だったみたい。」 母: タトエ:「どうして、そんなこと、わかるの?」 タトエ: 母:「あなたが教えてくれたのよ。 母:お兄ちゃんのこと。」 母: タトエ:「そっか…。 タトエ:わたし、お兄ちゃんのこと、好きだったかな。」 タトエ: 母:「それはもう、お兄ちゃん子だったみたいよ。 母:だって、あなた、お兄ちゃんのお墓参り、 母:毎日行ってたみたいだから。」 母: タトエ:「お兄ちゃんのお墓って、本当にあるの?」 タトエ: 母:「…ないわ。ごめんなさい。 母:水子供養に、お寺さんに通ったくらいよ。」 母: タトエ:「夢の中で、お兄ちゃんと会えた?」 タトエ: 母:「お母さんはね、夢の中で、お兄ちゃんの恋人だった。」 母: タトエ:「へえ…素敵だね。」 タトエ: 母:「お兄ちゃんと、文通していたの。 母:長いこと、文通していたわ。」 母: タトエ:「それで、わたしたち、会ったの?」 タトエ: 母:「そうよ、わたしたち、お兄ちゃんのお墓で、ばったり会ったの。」 母: タトエ:「運命だね。きっと。」 タトエ: 母:「お母さん、びっくりしたわ。」 母: タトエ:「どうして?」 タトエ: 母:「だって、あなたったら、ろくに食べもしないで、 母:お兄ちゃんに取り憑かれてたから。」 母: タトエ:「大丈夫、わたしはここにいるよ。」 タトエ: 母:「どこ?どこにいるの?」 母: タトエ:「ここよ、わたしはここに、ちゃんといるわ。」 タトエ: 母:「あなたは、食べてるわよね?ちゃんと、食べてるわよね?」 母: タトエ:「食べてる。ちょっと食べ過ぎなくらい、食べてるよ。」 タトエ: 母:「よかった…。 母:お兄ちゃんが、あなたを連れて行かないか、 母:心配になってしまって。」 母: タトエ:「わたしは、ここにいるよ。お母さんのそばに、ずっとね。」 0: 0: 0: 0: 母:「おはよう…。タトエ?」 母: タトエ:「うん…?もう起きたの?お母さん。」 タトエ: 母:「そうなの。今日は、早く目が覚めちゃって。 母:ごめんなさい。起こしたかしら。」 母: タトエ:「ううん。わたしも、もう起きなきゃって思ってたところ。」 タトエ: 母:「今日は、何月何日?」 母: タトエ:「今日は、えーっと、4月30日。 タトエ:…もうすぐだよ。」 タトエ: 母:「ねえ、お母さん、寝言言ってなかったかしら?」 母: タトエ:「寝言?…またなにか夢を見たの?」 タトエ: 母:「タトエがね、お父さんそっくりになってた夢を見たの。」 母: タトエ:「ええ?笑  タトエ:またわたし、男の人になってたの?」 タトエ: 母:「どこからどう見ても、お父さんだったわ。 母:スーツ着て、ぴしっとして、 母:格好良かったわ。」 母: タトエ:「それで、お父さんとお母さんはついに出会うの?」 タトエ: 母:「出会うんだけどねえ。 母:わたしもスーツを着た、お父さんの同僚なの。」 母: タトエ:「へええ笑 なにそれ。変なの。」 タトエ: 母:「タトエはね、イヌが怖いんだって。」 母: タトエ:「そうなの? タトエ:ああそっか。一度、びっくりしたことあったもんね。」 タトエ: 母:「そうよ。あのとき、あなた危なかったのよ?」 母: タトエ:「それで、わたしとお母さんは、なにしてたの?」 タトエ: 母:「オオカミに出会うの。」 母: タトエ:「オオカミ?童話とかに、よく出てくる?」 タトエ: 母:「そんな、怖いオオカミじゃなくてね。本物のオオカミ。」 母: タトエ:「そっちのほうが、怖いじゃない笑」 タトエ: 母:「そうかしら? 母:なんだか、モフモフしてて、可愛かったわよ。」 母: タトエ:「わたしも、オオカミをモフモフしてた?」 タトエ: 母:「いいえ。あなたは、オオカミを見たら、気絶しちゃったわよ。」 母: タトエ:「やっぱりね!夢にも、遺伝ってあるのかな?」 タトエ: 母:「あるのかもね笑  母:あなたは、わたしの夢の中で、夢を見ていたわ。 母:やっぱりわたしの子ね。」 母: タトエ:「お母さんが、助けてくれたの?」 タトエ: 母:「そうよ笑あなたが、助けて~って叫ぶものだから。」 母: タトエ:「ふふ笑 それで、お母さん、 タトエ:どうして『寝言が』、なんて、言い出したの?」 タトエ: 母:「ああ、寝言ね。なんだか、 母:あなたに申し訳ないことしちゃったみたいだから。」 母: タトエ:「どうして?」 タトエ: 母:「タトエがね、言ってたの。わたしの愚痴を。」 母: タトエ:「どんな愚痴?」 タトエ: 母:「『奥さんも、母みたいになったらいやだなあ』って。」 母: タトエ:「ええ~?わたしに奥さん?笑 タトエ:あ、そっか、わたしはお父さんの姿なんだった。」 タトエ: 母:「ああ~。そうよね。…てことは? 母:あなたの言ってた「母」って、おばあちゃんのことかしら。 母:…よく出来てるわよね、夢って。」 母: タトエ:「お父さんも、イヌが嫌いだった?」 タトエ: 母:「わかんない。 母:だってそんなことを聞く暇もなく、突然別れちゃったから。」 母: タトエ:「そうだよね。普通、「イヌは嫌いですか」なんて、 タトエ:聞かないよね。」 タトエ: 母:「うふふ。よほどのイヌ好きじゃなければね。笑」 母: タトエ:「それで、結局、わたしとお母さんは、どうなったの?」 タトエ: 母:「一緒に、逃げ出した…んじゃなかったかしら?」 母: タトエ:「もう。肝心なところ、覚えてないの?」 タトエ: 母:「だって、夢って、そういうものでしょう?」 0: 0: 0: 0: タトエ:「お母さん。お母さん?」 タトエ: 母:「うーん…。 母:タトエ?」 母: タトエ:「ごめん、寝坊しちゃった。」 タトエ: 母:「え、ああ、そうだ、今日は何月何日?」 母: タトエ:「今日はね、5月1日。」 タトエ: 母:「5月1日って…?」 母: タトエ:「そうよ。わたしの誕生日。」 タトエ: 母:「ああ…。」 母: タトエ:「わたしはね、もうすぐ産まれるよ。」 タトエ: 母:「そっか…。じゃあ、もう、わたしたち、会えないのね。」 母: タトエ:「わたし、お母さんの夢、全部知ってるよ。」 タトエ: 母:「そりゃそうよ。だって、あなたはお母さんの子だもの。」 母: タトエ:「タトエって名前、つけてくれてありがとう。」 タトエ: 母:「だって、まだ、決まってないんだもの。 母:『例えば』、って意味で、あなたをそう呼んでたわね。」 母: タトエ:「お母さん、お母さんのお腹の中は、 タトエ:すごく居心地よかったよ。」 タトエ: 母:「ずっと、わたしったら、夢の話ばかりして、ごめんね。」 母: タトエ:「だって、お母さんは、事故に遭って、 タトエ:ずっと眠っているんだもの。仕方ないわよ。」 タトエ: 母:「だけど、あなたを産んであげることが出来て、 母:お母さん、うれしい。」 母: タトエ:「わたしがお腹にいなかったら、 タトエ:お母さん、どうしてた?」 タトエ: 母:「たぶん、とっくにいなくなってた。 母:さよなら~って。」 母: タトエ:「お母さんと話が出来た、5日間を、 タトエ:わたし、覚えていたい。」 タトエ: 母:「あなたは、きっと、美しく産まれて、 母:恋をして、挫折もちょっと経験するわね。」 母: タトエ:「それで?わたし、どうなるの?友達出来るかな?」 タトエ: 母:「きっと、素敵な友達ができるわ。 母:ヒビキちゃんみたいな、友達が。」 母: タトエ:「それから?それから?」 タトエ: 母:「片桐先生と、恋に落ちるわね。」 母: タトエ:「片桐先生は、赤ちゃんのわたしを取り上げてくれる、 タトエ:病院の先生だよ?」 タトエ: 母:「そっかそっか。 母:だったら、困ったときは、その先生を頼りなさい。」 母: タトエ:「はーい。 タトエ:…お母さん、それから? タトエ:最後の夢の話はしないの?」 タトエ: 母:「お母さんね、わがままだから。 母:最後にあなたを独り占めしたいって思っちゃったの。」 母: タトエ:「うんうん。わかるよ。」 タトエ: 母:「あなたを、旦那さんに渡すのなんか、嫌だーって、 母:思っちゃったのよ。」 母: タトエ:「だからって、社内不倫はないんじゃない?笑」 タトエ: 母:「あはは…笑  母:そこは、お母さんの心配してることでもある笑」 母: タトエ:「なるほどね。3軒隣のきれいな奥さんには、 タトエ:お父さんを近づけないようにする。」 タトエ: 母:「いいのよ、それは。 母:お父さんにいい人が出来たら、応援してあげてね。」 母: タトエ:「家の中に、鏡は置いちゃいけないの?」 タトエ: 母:「そうじゃないの。 母:あなたを、あなた自身からも、守ってあげたかったの。」 母: タトエ:「わたし自身から?」 タトエ: 母:「人間ってね。自分で自分を苦しめたり、 母:傷つけたりすることもあるのよ。」 母: タトエ:「だから、お母さんはわたしの分身を消しちゃったのね。」 タトエ: 母:「そうね。ごめんなさい。あなたを独り占めしたいって。 母:お母さんの、最後の最高のわがままだったのかもしれない。」 母: タトエ:「いいよ。わたし、お母さんの子供だもの。 タトエ:いつでも、お母さんのわがままに付き合うよ。」 タトエ: 母:「タトエ。あなたはいい子だわ。 母:いつも、小さな小さなわたしを 母:一緒に連れてってくれたわよね。」 母: タトエ:「そうよ。だって、お母さんは、バルバッティンだもの。」 タトエ: 母:「バルバッティン…。」 母: タトエ:「わたし、ずっと記憶の奧底で、わかってたの。 タトエ:お母さんはバルバッティンなんだって。」 タトエ: 母:「お母さん、バルバッティンになって、 母:タトエの夢にでてきてもいいかな?」 母: タトエ:「もちろんだよ。いままでもそうだし、これからも、そう。」 タトエ: 母:「さようならは言わないよ。 母:たとえば、魂になっても、 母:お母さん、ずっとあなたのぞばにいる。」 母: タトエ:「ありがとう、お母さん、わたしはいま、産まれてくるね。」 タトエ: 母:「(遠くに向かって)ありがとう。例(レイ)くん。例(レイ)ちゃん。 母:また、夢で逢いましょうね。」 母: 0: 0: 0: 0:(タトエ、成長している) タトエM:わたしには、ふたつ、名前がある。 タトエM: タトエM:ひとつは、お父さんがつけてくれた大切な名前。 タトエM: タトエM:そして、もう一つは、夢の中で母がつけてくれた、 タトエM: タトエM:「タトエ」という秘密の名前。 0: タトエM:年々、忘れそうになるのだけど、 タトエM:そうすると、ふと夢にバルバッティンが現れて、 タトエM:言うのだ。 タトエM:「あなたは、レイだよね?」って。 タトエM:「そう、にんべんに列(れつ)と書いて、レイよ。」 タトエM:わたしは夢の中で答えるのだ。 タトエM:たくさんのいのちの列に並んでいる自分がいる。 0: タトエM:そうして、目覚めると、あ、そっか。 タトエM: タトエM:わたしは、「タトエ」だったんだって思い出す。 タトエM: タトエM:ありがとう、お母さん。わたしを産んでくれて。 タトエM: タトエM:ありがとう、お母さん、5日間も、 タトエM:一緒に夢を見てくれて。 タトエM: 0: タトエM:母は、わたしを妊娠中、事故に遭い、昏睡状態に陥った。 タトエM:そして、そのまま、5日間眠り続け、 タトエM:わたしを産むと、記憶喪失になっていた。 タトエM:助かったことが、どのくらい奇跡的なことか、 タトエM:わたしは後々知ることになるのだけれど。 0: タトエM:いまでも、お母さんは、バルバッティンになって、 タトエM:わたしを夢の中まで、追いかけてくる。 0: タトエM:夢の中で、涙を流すし、すぐに人を好きになるし、 タトエM:ロマンチストで、お節介で、ちょっとわがままも言う。 タトエM:だから、わたしの中に、バルバッティンは生き続けるのだ。 0: タトエM:バルバッティンは脈々と続く、いのちの象徴だから。 0: 0: 0: 0:END