台本概要

 579 views 

タイトル 叶わぬ願いとからくり箱
作者名 栞星-Kanra-
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 夏。
終戦記念日に向けて書いたお話です。
もしも、また戦争をすることになってしまったならばーー
性別変更:不可
※朗読劇等、一人読みでの使用の場合は、性別不問

誤字、脱字等ありましたら、アメブロ『星空想ノ森』までご連絡をお願いいたします。
読んでみて、演じてみての感想もいただけると嬉しいです。

 579 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
19 煌(こう)
一華 19 一華(いちか)
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:キャラクター名の変更、および、一人称、語尾等の変更は、演者様間でお話の上、ご自由に楽しんでいただければと思います。 0:なお、世界観、内容が変わるほどの変更やアドリブは、ご遠慮ください。 0:  0:(役紹介) 0:【煌】煌(こう) 0:【一華】一華(いちか) 0:  :  :――(上演開始)―― :  :  一華:「ねぇ、やっぱり戦争になっちゃうのかな?」 煌:「どうだろうな。 でも、このままだと、そうなるだろうな」 煌:「何万人と死傷者が出てる。 国として正式に抗議はしたけど、その返事が今回の二回目だ」 煌:「それでも、抗議を続けるか? また同じことが繰り返されるだけだ。 それなら……って、そう思う人が多いだろな」 一華:「でも、そんなことしたら、本当に戦争になっちゃう!」 一華:「戦争になったら、煌(こう)とも一緒にいられなくなるし……」 一華:「良いことなんて一つもないのに、なんでこんなことするんだろう……。 日本はもう、戦争はしません! って、言ってるのに……」 煌:「……。 俺らはたまたま、遠かった。 親しい人に被害がなかった」 煌:「でももし、大切な人が巻き込まれていたら、どうする?」 一華:「それは……」 煌:「それに、今度は俺らの近くが狙われるかもしれない」 煌:「母さんたちが巻き込まれて、今度は一華(いちか)が……なんてことになったら、俺だって、『冷静に抗議を続けましょう』なんて言っていられないと思う」 :  :  :(少し間を置く) :  :  一華:「……なんか、いじめと一緒だね」 煌:「んっ?」 一華:「どうするのが最善なのか、正解がない。 あーぁ、教科書に載ってたらいいのに! こういうときは、こうしましょう、って」 煌:「まぁ、ないだろうな」 一華:「だよね、わかってる……。 でも本当、どうしたらいいのかな……」 :  :  :(少し間を置く) :  :  一華:来なければいいのに。 そう願っていたことが、現実になった 煌:戦争。 国家主催の命懸けのゲーム 一華:いつも傍(そば)にいてくれた家族。 友達。 好きな人 煌:参加意志の確認などなく、強制的に国民全員が参加させられるそのゲームは 一華:そんな人たちと過ごす予定だった未来も、歩んできたこの道も 煌:自由も、大切なものも、何もかもを奪っていく 一華:笑い声ではなく、逃げ惑う叫び声で溢れさせる 煌:勝っても、負けても…… 一華:残る世界は、破壊された絶望の海 :  :  :(少し間を置く) :  :  煌:「あの頃とは違って、どこに行ってもスマホで連絡が取れる時代なんだから」 一華:煌は、そう言って、優しく私の頭に手を置く。 どれだけ時代が変わっても、男の人が先に召集される。 残された私たちは、ただ祈ることしかできない 一華:私は、煌の顔を見ることも、『気を付けて』や、『絶対に帰ってきてね』という言葉も口にできず、下を向いていた 一華:泣いていることを隠すため、ただただ下を向いていた…… :  :  :(少し間を置く) :  :  一華:数日はやり取りができていたけれど、その後、煌から返事が来ない 一華:首都圏では、スマホの電波でどこに人がいるかがわかってしまうから、と、スマホの使用が禁止されたらしい 一華:ほどなくして、私のいる街でも、同じように通達が出た :  :  :(少し間を置く) :  :  一華:それから二ヶ月が経った 一華:今日は、彼の誕生日 一華:見送りの日。 顔を上げられずにいた私に、 煌:「一華、これだけ受け取って。 溶けない飴なんだ」 煌:「俺が十八歳になる誕生日に食べてよ。 俺も、こっちに帰ってこれてるかわかんないけど、その日に食べるからさ」 一華:と、言って、渡された飴 一華:「って、ビー玉じゃない! ……どうせなら、指輪とかにしてよ」 一華:そうしたら、ずっと一緒にいられるのに…… 一華:どんなに離れていても、煌がいたことを思い出せるのに、感じられるのに…… :  一華:「あっ!」 一華:ビー玉を包んでいた紙が、風に乗って、遠くへ姿を消していく :  煌:その紙の内側には、こう書いていた 煌:『このビー玉をからくり箱にはめて』 :  :  :(少し間を置く) :  :  煌:俺の部屋に置いてある、からくり箱 煌:それは、祖父の形見分けで貰ったものだ 煌:『大切なものは、ここに隠しておくんだ。 ばぁさんに贈った指輪も、当日まで、ここに隠しとったんだ』 :  煌:そんな、からくり箱の中に、指輪と婚姻届を入れた :  煌:貯めていたお年玉で、初めて買ったペアリング 煌:サイズもわからず、緊張しながら入った店内は、多くの人でごった返していた 煌:ほとんどが、男性の一人客 煌:これからどうなってしまうのかわからない。 それでも……。 いや、だからこそーー 煌:そんな不安と、覚悟が、店内に充満していた :  煌:こんなことになっていなければ、きっと、彼女と二人で来ていたであろう場所 煌:どんなデザインにするか、真剣に悩む彼女を『可愛いな』と、眺めていることができたのだろう 煌:その時間すら、愛おしく思えていたのだろう 煌:けれども、今は―― :  :  :(少し間を置く) :  :  煌:婚姻届に自分の名前を書くときも、色んなことを考えてしまった 煌:何事もなかったかのように終わり、彼女の名前が隣に並ぶそのときを、見守ることができているのだろうか 煌:彼女に一人で書かせて、持って行かせることになってしまうのだろうか 煌:そのとき、役所はまだあるのだろうか 煌:そして、彼女は……俺は、生きているのだろうか :  :  :(少し間を置く) :  :  煌:こっそり自分の分の指輪をはめて、出発した 煌:どんな神社のお守りよりも、効果がある気がして 煌:……いや、絶対に生きて帰ってくるという意地として :  :  :(少し間を置く) :  :  一華:「バカ、バカ、バカ―っ!」 一華:立ち上がり、ビー玉を、遠く、遠く、海に向かって投げようと、目いっぱい腕を振り上げる 一華:「……っ! ……うっ。 捨てられるわけないじゃん、バカ……」 一華:だってこれは、煌から最後にもらったものなのだから 一華:「なんで……どうして、これが最後なの……」 :  :  :(少し間を置く) :  :  一華:手の中で涙に濡れたビー玉から、ぼんやりと視線をあげる 一華:空で何かが光った……気がした 一華:あぁ、そうか 一華:今日は、彼の誕生日 一華:生きているなら、今日くらいは連絡をくれるはず 一華:そう思って、スマホの電源を入れたんだった 一華:スマホに目をやる 一華:通知は……一つもない :  :  :(少し間を置く) :  :  煌:大切なものを隠し、託された、からくり箱 煌:指輪(小さな願い)すら、守り抜くこと叶わずに、砕け散り 一華:無へと、溶けゆく―― :  :  :――(上演終了)――

0:キャラクター名の変更、および、一人称、語尾等の変更は、演者様間でお話の上、ご自由に楽しんでいただければと思います。 0:なお、世界観、内容が変わるほどの変更やアドリブは、ご遠慮ください。 0:  0:(役紹介) 0:【煌】煌(こう) 0:【一華】一華(いちか) 0:  :  :――(上演開始)―― :  :  一華:「ねぇ、やっぱり戦争になっちゃうのかな?」 煌:「どうだろうな。 でも、このままだと、そうなるだろうな」 煌:「何万人と死傷者が出てる。 国として正式に抗議はしたけど、その返事が今回の二回目だ」 煌:「それでも、抗議を続けるか? また同じことが繰り返されるだけだ。 それなら……って、そう思う人が多いだろな」 一華:「でも、そんなことしたら、本当に戦争になっちゃう!」 一華:「戦争になったら、煌(こう)とも一緒にいられなくなるし……」 一華:「良いことなんて一つもないのに、なんでこんなことするんだろう……。 日本はもう、戦争はしません! って、言ってるのに……」 煌:「……。 俺らはたまたま、遠かった。 親しい人に被害がなかった」 煌:「でももし、大切な人が巻き込まれていたら、どうする?」 一華:「それは……」 煌:「それに、今度は俺らの近くが狙われるかもしれない」 煌:「母さんたちが巻き込まれて、今度は一華(いちか)が……なんてことになったら、俺だって、『冷静に抗議を続けましょう』なんて言っていられないと思う」 :  :  :(少し間を置く) :  :  一華:「……なんか、いじめと一緒だね」 煌:「んっ?」 一華:「どうするのが最善なのか、正解がない。 あーぁ、教科書に載ってたらいいのに! こういうときは、こうしましょう、って」 煌:「まぁ、ないだろうな」 一華:「だよね、わかってる……。 でも本当、どうしたらいいのかな……」 :  :  :(少し間を置く) :  :  一華:来なければいいのに。 そう願っていたことが、現実になった 煌:戦争。 国家主催の命懸けのゲーム 一華:いつも傍(そば)にいてくれた家族。 友達。 好きな人 煌:参加意志の確認などなく、強制的に国民全員が参加させられるそのゲームは 一華:そんな人たちと過ごす予定だった未来も、歩んできたこの道も 煌:自由も、大切なものも、何もかもを奪っていく 一華:笑い声ではなく、逃げ惑う叫び声で溢れさせる 煌:勝っても、負けても…… 一華:残る世界は、破壊された絶望の海 :  :  :(少し間を置く) :  :  煌:「あの頃とは違って、どこに行ってもスマホで連絡が取れる時代なんだから」 一華:煌は、そう言って、優しく私の頭に手を置く。 どれだけ時代が変わっても、男の人が先に召集される。 残された私たちは、ただ祈ることしかできない 一華:私は、煌の顔を見ることも、『気を付けて』や、『絶対に帰ってきてね』という言葉も口にできず、下を向いていた 一華:泣いていることを隠すため、ただただ下を向いていた…… :  :  :(少し間を置く) :  :  一華:数日はやり取りができていたけれど、その後、煌から返事が来ない 一華:首都圏では、スマホの電波でどこに人がいるかがわかってしまうから、と、スマホの使用が禁止されたらしい 一華:ほどなくして、私のいる街でも、同じように通達が出た :  :  :(少し間を置く) :  :  一華:それから二ヶ月が経った 一華:今日は、彼の誕生日 一華:見送りの日。 顔を上げられずにいた私に、 煌:「一華、これだけ受け取って。 溶けない飴なんだ」 煌:「俺が十八歳になる誕生日に食べてよ。 俺も、こっちに帰ってこれてるかわかんないけど、その日に食べるからさ」 一華:と、言って、渡された飴 一華:「って、ビー玉じゃない! ……どうせなら、指輪とかにしてよ」 一華:そうしたら、ずっと一緒にいられるのに…… 一華:どんなに離れていても、煌がいたことを思い出せるのに、感じられるのに…… :  一華:「あっ!」 一華:ビー玉を包んでいた紙が、風に乗って、遠くへ姿を消していく :  煌:その紙の内側には、こう書いていた 煌:『このビー玉をからくり箱にはめて』 :  :  :(少し間を置く) :  :  煌:俺の部屋に置いてある、からくり箱 煌:それは、祖父の形見分けで貰ったものだ 煌:『大切なものは、ここに隠しておくんだ。 ばぁさんに贈った指輪も、当日まで、ここに隠しとったんだ』 :  煌:そんな、からくり箱の中に、指輪と婚姻届を入れた :  煌:貯めていたお年玉で、初めて買ったペアリング 煌:サイズもわからず、緊張しながら入った店内は、多くの人でごった返していた 煌:ほとんどが、男性の一人客 煌:これからどうなってしまうのかわからない。 それでも……。 いや、だからこそーー 煌:そんな不安と、覚悟が、店内に充満していた :  煌:こんなことになっていなければ、きっと、彼女と二人で来ていたであろう場所 煌:どんなデザインにするか、真剣に悩む彼女を『可愛いな』と、眺めていることができたのだろう 煌:その時間すら、愛おしく思えていたのだろう 煌:けれども、今は―― :  :  :(少し間を置く) :  :  煌:婚姻届に自分の名前を書くときも、色んなことを考えてしまった 煌:何事もなかったかのように終わり、彼女の名前が隣に並ぶそのときを、見守ることができているのだろうか 煌:彼女に一人で書かせて、持って行かせることになってしまうのだろうか 煌:そのとき、役所はまだあるのだろうか 煌:そして、彼女は……俺は、生きているのだろうか :  :  :(少し間を置く) :  :  煌:こっそり自分の分の指輪をはめて、出発した 煌:どんな神社のお守りよりも、効果がある気がして 煌:……いや、絶対に生きて帰ってくるという意地として :  :  :(少し間を置く) :  :  一華:「バカ、バカ、バカ―っ!」 一華:立ち上がり、ビー玉を、遠く、遠く、海に向かって投げようと、目いっぱい腕を振り上げる 一華:「……っ! ……うっ。 捨てられるわけないじゃん、バカ……」 一華:だってこれは、煌から最後にもらったものなのだから 一華:「なんで……どうして、これが最後なの……」 :  :  :(少し間を置く) :  :  一華:手の中で涙に濡れたビー玉から、ぼんやりと視線をあげる 一華:空で何かが光った……気がした 一華:あぁ、そうか 一華:今日は、彼の誕生日 一華:生きているなら、今日くらいは連絡をくれるはず 一華:そう思って、スマホの電源を入れたんだった 一華:スマホに目をやる 一華:通知は……一つもない :  :  :(少し間を置く) :  :  煌:大切なものを隠し、託された、からくり箱 煌:指輪(小さな願い)すら、守り抜くこと叶わずに、砕け散り 一華:無へと、溶けゆく―― :  :  :――(上演終了)――