声劇台本置き場

山菱：ァがさっしたァー。 小走：あっ、ありがとうございましたぁーっ。 0：客の退店。自動ドアの明るい電子音。 0：店内、客はゼロ。 山菱：……はァ。ダル。 小走：……、あ、あの……、 小走：や、山菱(やまびし)さん、さ、 山菱：は、ナニ？ 小走：えーと、その、 小走：あ、挨拶……、さ、 山菱：アイサツ？ 小走：お客さんへの。 小走：その……、もう少し、さ、丁寧に、言葉を、分かるように綺麗に……、 山菱：わかンねェの？？ ナニ言ってるか。耳鼻科行くか？ ン？ 小走：いや、そりゃ……、「いらっしゃいませ」とか「ありがとうございました」って言ってるのは、分かるけど、 山菱：わかってんじゃん。ナニ？ 小走：でもそれは、その言葉を知ってて、そこがコンビニのレジだって分かってるからな訳で、 山菱：へェ……。 山菱：「イラッシャイマセ」とか「アリガトーゴザイマシタ」って言葉知らなくて、ココがコンビニだって認識も出来ない状態の客が来んだ、この店。 山菱：大変じゃん。あたしが居ない時間帯？ 小走：いっ、いや、 山菱：大丈夫？ ちゃんと安全に買いモンして店出るトコまでコーディネート出来てンのソレ？ 小走：いやソレは、 山菱：ソイツ１人でコンビニ来さしてんだとしたら家族とか保護者とか介助者とかはナニしてんのってハナシじゃね？ 普通(フツー)に考えて。 小走：……っ、い、色んなお客さんが来るし……っ、 小走：た、例えば外国っ、外国の人とかで、日本語完全に分かんない人とかも普通に来る訳でっ、 山菱：じゃ綺麗に言っても言わなくても同じじゃん。完全にわかんないんだったら。 小走：うぐっ……、 小走：い、や、でも、 山菱：墓穴ダっサ。 山菱：あとクっサ。 小走：あっ、朝シャンしたし臭くは無い、ハズ、っていうか、 山菱：あと外人っぽかったら普通に英語で案内するしな？ 山菱：店員として当たり前よな？ ア？ 小走：……っ、えっと……、 小走：山菱さん英語、 山菱：ガッコーで習ったんだから接客ぐらいは喋れるだろ。 山菱：寧ろ何で喋れねェのかワカンねェ。 小走：すご……、 山菱：いやダル。 山菱：もーイイ？ コレ。 小走：あ、えっと……、 小走：……、 0：スマホを取り出し、通知を確認する山菱。 0：店内BGMのみの沈黙。 小走：…………。 山菱：(憮然と)店長？ 小走：えっ？ 山菱：アイサツの事。 山菱：……店長が言ってた？ 小走：いや……、 小走：とか、ではないんだけど……、 小走：その、個人的に……、 山菱：お前が思ってるダケ？ 小走：おっ、「お前」って……、一応俺の方が、 山菱：年上だからナニ？？ アタシの方がココ長いし。何ならオープニングスタッフだし。 小走：……っ、そう、だけど、 山菱：後輩じゃん、お前。 山菱：ベツに敬語とかはダルいからイイけどさ。 小走：……、……、 山菱：３個違いぐらいで歳がどーとか。中学生かよ。 小走：……うう……、 0：パタリ、とスマホが閉じられ。山菱は背面の煙草類の補充にかかる。 山菱：……あーーーー。 山菱：吸いたァ煙草……。コレ補充終ったら一瞬抜けるわァ。 小走：み、未成年……、 山菱：ア？ 小走：前から気になってたけど、 山菱：19よ？？ しかももう後２ヶ月も無いし。来年からは既に成人の歳だし。 小走：まだ２ヶ月も……。それに、来年度からも煙草は20歳で据え置き……、 山菱：てか中学から吸ってっから。 小走：ダメでしょっ、だから、 山菱：ナニが？？ ドレがドコから？？ 0：眼光が尖り。 小走：……っ、え、と、 山菱：お前が許せネぇの？ 決まりだからトリマでダメっつってんの？ 小走：いや……、あ、の、 山菱：ソコの区別ネェの？？ 注意する側としてよォ？ 小走：「許せない」、っていうかその、えと、 山菱：(遮り)今までの人生(ジンセー)未成年で煙草吸ってるヤツには漏れ無く全員注意して来たんだろォなァ！？ 小走：ガーっって言わないでっ！ 小走：こ、怖いから……っ、 山菱：じゃ言わないでやるよ。 山菱：で？？ 小走：(句を継げず) 小走：……、…………、 山菱：黙ンのかよ。 0：溜息を吐き捨て。 山菱：……心配しなくても。 山菱：ココでは買わねェし。 0：暫し、無言。空虚なBGM。 小走：…………でも挨拶はちゃんとした方がイイと思う……。 山菱：食い下がンのかーい。 山菱：……そーゆートコあるわァ、お前。 小走：ク、クレームとかあっても、だし、 山菱：お前が処理すんの？ ン？ 小走：違うけど、さ……、 山菱：……あーー。ダル。ダル。 山菱：ダルダルダルっ。 0：作業を終え、向き直る。 山菱：普段こんなん言うのヤなんだけどさァ、ダルいしダサいから。 小走：う、うん、 山菱：テーネーに、カックカクでさァ。 山菱：馬鹿丁寧に、緊張してんの丸分かりで挨拶されてさァ。 山菱：喜ぶ奴ばっかじゃねーだろ、ヨノナカ。 小走：……、……、 山菱：聞こえてらっしゃいますかァ？ 山菱：年下の手前、きちんと敬語でお話しさせて頂いた方がよろしいでしょうかァーー？ 小走：いっ、いやっ、大丈夫……、 山菱：ダル目が丁度イイ客だって居るし。そーじゃなきゃソレナリに。相手見て変えてくモンじゃね。 小走：……、 山菱：「こーじゃなきゃダメ」ぇ、「トリマこーしとけば全部OK」ぇ、って方がヤベーだろ。コンビニには色んなお客が来るからさァ？ 小走：……、よく……、悪い癖だって言われる、けど……。 小走：で、でも、 山菱：ベツにお前の事は言ってネぇケド。 山菱：よく言われンなら直せば？ 小走：……、は、はい……、 山菱：……シンド。 山菱：イイよなもう。 山菱：ワタクシぃ、お煙草休憩、行かせて頂きまァーーす。 0：スタスタとレジを出、ドアへと。 小走：あっ、あ、あのっ……、 山菱：ナニ？ ちゃんと裏で吸うし、 小走：あ、挨拶の事、は……、 山菱：ナニ？？ 0：山菱の眉間には皺。 0：小走は怯みつつ、意気込み、 小走：挨拶の事は、まだ、お互い、納得行っては無い、と、思うから、さ……、 山菱：……納得っつーか。 山菱：平行線だろ。もうこれ以上話題に出さねェなら水に流してやるから、 小走：でっ、で、でも……っ、 山菱：アあ？ 小走：お、俺から吹っかけといて……、 小走：旗色が悪くなったからって諦めたら、 小走：その……、 小走：む、無責任極まるというか……、 小走：だ、だから……、 0：意気を振り絞り。 小走：また、暇な時、喋ろう……っっ！！ 山菱：……、……。 0：怪訝に睨めつけ。 山菱：……ヘぇンな奴……。 山菱：小走(こばしり)「さん」、って。 小走：どうも……。 0：溜息を吐き捨て、山菱は休憩へと。 0：店内、１人。 0：【終】