台本概要

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タイトル 『コンビニエント・コミュニケーション』#3
作者名 sazanka  (@sazankasarasara)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(女2)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 とあるコンビニチェーン。オレンジの看板、「ManyDAY(メニーデイ)」。国道沿い某店舗。
胡乱な店員や客たちの、取るに足らない会話の断片。
―2021年12月8日12時6分―

或いは、『午後の死と白詰草』【ボーナス・トラック3】

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
賢木 32 「賢木 千種(さかき ちぐさ)」。25歳。人生初バイト。社会の訓練中。シフト:週2〜3
33 「岬 伴子(みさき ともこ)」。45歳。バツ1。奇跡の40代。離婚前の姓は「早川(はやかわ)」。シフト:週2
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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岬:……はぁ……。 岬:中に居ても、油断すると冷えるわねぇ。 賢木:本当に……。 0:昼下がりの店内。 0:ガラス壁の向こうから、冬の風が吹き抜ける音。 0:客は、まばら。 賢木:でもつい癖で、下に厚着をしすぎちゃって。 岬:くせ? 賢木:あ、ええと……、 賢木:家の、事で……。一年中、冬でも、外に出て草花や土なんかを、 岬:触る生活? 岬:……農業をされてた、とか? ご実家が、 賢木:あ……、似たような。殆ど、そんな感じの……。 岬:寒さに強いのねっ、じゃあ。 賢木:慣れさせられ、ました。 賢木:岬(みさき)さんは、寒さ……、 岬:苦手になったわねぇ、めっきり。昔から得意じゃないけど。 岬:歳だから。何せ。 賢木:……、あ、いいえ……、えと、 岬:あっ、コレって反応に困るのよねぇ、こないだ娘にも注意されちゃったぁ。ごめんね、 賢木:いえ……、私がまだ、お喋り全般に慣れてなくて、 岬:そんな事ないわよ? そう、賢木(さかき)さん、アルバイト初めてって、 賢木:そうなんです……。ご迷惑たくさんおかけして、 岬:全然っ。覚えも早いし、もう一通りの事は……、 岬:って、偉そうね、私なんかが。 岬:初めてバイトしたのも40越えてからだし……、 賢木:えっ?? 賢木:……? 岬:無駄に歳だけ取っちゃって。こう寒くなると、手も肌も保湿が大変……、 岬:賢木さん? 0:呆ける賢木。 岬:どうしたの? 大きな目がまん丸、 賢木:いえ……、あの……、 賢木:……もっと、お若いと思ってました……。 0:暫し、静寂。店内にはBGM。 岬:えっ、あーーっ、えー……っ、 岬:そんなぁ、本当ぉっ? 賢木:10個も、違わないと、勝手に……、 岬:やだぁっ、おばさん喜んじゃうっ。あっ、気を遣わせてる?? よしてねホントに、 賢木:違います、そんな器用じゃ……、 岬:賢木さん、幾つ? 前に聞いたっけ、 賢木:25、です。恥ずかしいですけど……、 岬:きゃっ、若ぁい。 岬:あのね……、ちょうど、20個違い。産んでても全然おかしくないわぁ。 賢木:信じられない……、 岬:でも賢木さんも、もうちょっと若く見えるわね。幼くはないんだけど、 0:ふ、と賢木の表情が薄らみ。 賢木:それ……、 賢木:姉にもよく、言われます。 賢木:「まともな社会経験を積んでいないから、年齢相応の顔付きにならないのよ」、って、 岬:言うの? お姉さんが? 賢木:あ……、はい、ちょっと、 賢木:……そういう、姉で。 岬:そっかぁ。 賢木:アルバイトを始めたのも……、実を言うと姉に、勧められたのがきっかけで。 賢木:学生の歳から、本当についこの間まで、働くという事に全く、触れた事が無くて。 賢木:かと言って何かを学んだり、極めたりしていた訳でもなくて。 賢木:……姉の言う通り確かに、まともな路(みち)からはもう、随分……、 岬:(半ば遮り)それ、ねぇ! 賢木:……、はい、 岬:わかんないわよねぇ、ほんとっ。 賢木:ええ、と……、 岬:「まとも」、って。 岬:ぼんやりしてると思わない? でもなんとなくだけど、皆が共有してるようでもあって……。 岬:歳取るほどに難しいわぁ。うっふふ。 0:目を細め、柔らかに、可憐に笑み。 賢木:……、難しい、ですね。 賢木:まとも、っていう輪の中に、入れてもらうのが。 岬:そう、感じる? 働いてみて。 賢木:いえ、ここは……、店長さんも、皆さんも凄く、良くしてくださるので。 岬:適度に緩くて良いわよねぇ? 岬:あっ、こんな事言っちゃダメだけど。ふふっ。 賢木:人よりも……、種や、苗や、猫、とかの時間に合わせて生きるような暮らし方だったので。 賢木:きっと、全部が、ゆっくりなんだと思います。 岬:素敵だと思うけどなぁ。 岬:落ち着いた人って好き。動くのも、考えるのも。 賢木:……。 0:店内BGMが切り替わる。 0:気の早い、クリスマスソング。 岬:私もねぇ……。 岬:色々あって離婚して、ね。 賢木:あ……、 岬:子供も、置いて来ちゃって。 岬:それこそ「まとも」な、お嫁さんにも、お母さんにも、なれなくて。 岬:こどもの頃、思ってたのと違うなぁ、って。 岬:こんな酷い、どうしようもない大人になる予定、無かったんだけどなぁ、って。落ち込んだりもしたんだけど。 賢木:……、 岬:でもね? 賢木:あ、はい、 岬:ある時、本当に思いがけず、その、娘がね? 岬:会いに来てくれたのっ。わざわざ私を探して、遠くから。 賢木:へえ……っ、 岬:夢かと思ったわ、住んでる所なんて私、妹にしか知らせてなかったし……。 岬:何より、恨んでるとばかり思ってたし、それで当然だ、って、思ってたから……。 岬:素敵なボーイフレンドまで連れて、そう、あの日はすっごい大雨の日で……、 岬:雨の中、傘が無い2人を見かねてね、売店のお婆ちゃんが、合羽をくれたんですって。 岬:ピンクと水色の合羽をかぶって、2人並んで……。 岬:てるてる坊主の妖精さんがやって来たのかと思っちゃったっ。 賢木:素敵……、 岬:本当に……、生きてれば、 0:ふ、と目線を合わせ。 岬:そう……、事情は、それぞれだけど、 岬:ゆっくりでも、お花の種みたいにじっとでも、枯れずに、生きてれば、ね、 賢木:……、はい、 岬:たまには予定に無いような、良いコトだって起こるのよ、きっと。 岬:20歳年上のお姉さんからの、アドバイスっ。 賢木:……、……、 岬:あっ、痛々しい……? 岬:言ってね、ホントに、 賢木:……、 0:仄かに、笑みが咲き。 賢木:大丈夫……、 賢木:可愛い、です。 岬:きゃっ。 岬:……お世辞でも、嬉しい。 0:レジ内、店員二人、微笑みを交わし。 0:店外、吹く風の色は銀。 0:【終】

岬:……はぁ……。 岬:中に居ても、油断すると冷えるわねぇ。 賢木:本当に……。 0:昼下がりの店内。 0:ガラス壁の向こうから、冬の風が吹き抜ける音。 0:客は、まばら。 賢木:でもつい癖で、下に厚着をしすぎちゃって。 岬:くせ? 賢木:あ、ええと……、 賢木:家の、事で……。一年中、冬でも、外に出て草花や土なんかを、 岬:触る生活? 岬:……農業をされてた、とか? ご実家が、 賢木:あ……、似たような。殆ど、そんな感じの……。 岬:寒さに強いのねっ、じゃあ。 賢木:慣れさせられ、ました。 賢木:岬(みさき)さんは、寒さ……、 岬:苦手になったわねぇ、めっきり。昔から得意じゃないけど。 岬:歳だから。何せ。 賢木:……、あ、いいえ……、えと、 岬:あっ、コレって反応に困るのよねぇ、こないだ娘にも注意されちゃったぁ。ごめんね、 賢木:いえ……、私がまだ、お喋り全般に慣れてなくて、 岬:そんな事ないわよ? そう、賢木(さかき)さん、アルバイト初めてって、 賢木:そうなんです……。ご迷惑たくさんおかけして、 岬:全然っ。覚えも早いし、もう一通りの事は……、 岬:って、偉そうね、私なんかが。 岬:初めてバイトしたのも40越えてからだし……、 賢木:えっ?? 賢木:……? 岬:無駄に歳だけ取っちゃって。こう寒くなると、手も肌も保湿が大変……、 岬:賢木さん? 0:呆ける賢木。 岬:どうしたの? 大きな目がまん丸、 賢木:いえ……、あの……、 賢木:……もっと、お若いと思ってました……。 0:暫し、静寂。店内にはBGM。 岬:えっ、あーーっ、えー……っ、 岬:そんなぁ、本当ぉっ? 賢木:10個も、違わないと、勝手に……、 岬:やだぁっ、おばさん喜んじゃうっ。あっ、気を遣わせてる?? よしてねホントに、 賢木:違います、そんな器用じゃ……、 岬:賢木さん、幾つ? 前に聞いたっけ、 賢木:25、です。恥ずかしいですけど……、 岬:きゃっ、若ぁい。 岬:あのね……、ちょうど、20個違い。産んでても全然おかしくないわぁ。 賢木:信じられない……、 岬:でも賢木さんも、もうちょっと若く見えるわね。幼くはないんだけど、 0:ふ、と賢木の表情が薄らみ。 賢木:それ……、 賢木:姉にもよく、言われます。 賢木:「まともな社会経験を積んでいないから、年齢相応の顔付きにならないのよ」、って、 岬:言うの? お姉さんが? 賢木:あ……、はい、ちょっと、 賢木:……そういう、姉で。 岬:そっかぁ。 賢木:アルバイトを始めたのも……、実を言うと姉に、勧められたのがきっかけで。 賢木:学生の歳から、本当についこの間まで、働くという事に全く、触れた事が無くて。 賢木:かと言って何かを学んだり、極めたりしていた訳でもなくて。 賢木:……姉の言う通り確かに、まともな路(みち)からはもう、随分……、 岬:(半ば遮り)それ、ねぇ! 賢木:……、はい、 岬:わかんないわよねぇ、ほんとっ。 賢木:ええ、と……、 岬:「まとも」、って。 岬:ぼんやりしてると思わない? でもなんとなくだけど、皆が共有してるようでもあって……。 岬:歳取るほどに難しいわぁ。うっふふ。 0:目を細め、柔らかに、可憐に笑み。 賢木:……、難しい、ですね。 賢木:まとも、っていう輪の中に、入れてもらうのが。 岬:そう、感じる? 働いてみて。 賢木:いえ、ここは……、店長さんも、皆さんも凄く、良くしてくださるので。 岬:適度に緩くて良いわよねぇ? 岬:あっ、こんな事言っちゃダメだけど。ふふっ。 賢木:人よりも……、種や、苗や、猫、とかの時間に合わせて生きるような暮らし方だったので。 賢木:きっと、全部が、ゆっくりなんだと思います。 岬:素敵だと思うけどなぁ。 岬:落ち着いた人って好き。動くのも、考えるのも。 賢木:……。 0:店内BGMが切り替わる。 0:気の早い、クリスマスソング。 岬:私もねぇ……。 岬:色々あって離婚して、ね。 賢木:あ……、 岬:子供も、置いて来ちゃって。 岬:それこそ「まとも」な、お嫁さんにも、お母さんにも、なれなくて。 岬:こどもの頃、思ってたのと違うなぁ、って。 岬:こんな酷い、どうしようもない大人になる予定、無かったんだけどなぁ、って。落ち込んだりもしたんだけど。 賢木:……、 岬:でもね? 賢木:あ、はい、 岬:ある時、本当に思いがけず、その、娘がね? 岬:会いに来てくれたのっ。わざわざ私を探して、遠くから。 賢木:へえ……っ、 岬:夢かと思ったわ、住んでる所なんて私、妹にしか知らせてなかったし……。 岬:何より、恨んでるとばかり思ってたし、それで当然だ、って、思ってたから……。 岬:素敵なボーイフレンドまで連れて、そう、あの日はすっごい大雨の日で……、 岬:雨の中、傘が無い2人を見かねてね、売店のお婆ちゃんが、合羽をくれたんですって。 岬:ピンクと水色の合羽をかぶって、2人並んで……。 岬:てるてる坊主の妖精さんがやって来たのかと思っちゃったっ。 賢木:素敵……、 岬:本当に……、生きてれば、 0:ふ、と目線を合わせ。 岬:そう……、事情は、それぞれだけど、 岬:ゆっくりでも、お花の種みたいにじっとでも、枯れずに、生きてれば、ね、 賢木:……、はい、 岬:たまには予定に無いような、良いコトだって起こるのよ、きっと。 岬:20歳年上のお姉さんからの、アドバイスっ。 賢木:……、……、 岬:あっ、痛々しい……? 岬:言ってね、ホントに、 賢木:……、 0:仄かに、笑みが咲き。 賢木:大丈夫……、 賢木:可愛い、です。 岬:きゃっ。 岬:……お世辞でも、嬉しい。 0:レジ内、店員二人、微笑みを交わし。 0:店外、吹く風の色は銀。 0:【終】