台本概要

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タイトル 『流石の、馬鹿』
作者名 sazanka  (@sazankasarasara)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 1人用台本(女1) ※兼役あり
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 『流石の、馬鹿』シリーズ第1作。
頭脳明晰な早川さんと、いつも眠たげな鹿田くんは同級生。
馬でも、鹿でも、川の水に石は流され、こどもたちはおとなになっていく。

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或いはとある少女の、虚言性サピオセクシャル。
こどもから、こどもと大人の間の時期までの、季節と会話の断片たち。
全編、語り手の少女の台詞のみで構成されています。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
語り手 12 少女。「早川さん」。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
語り手:「君よ 君よ 語り手:あやうきには近寄らず 語り手:馬の如くに歩を進め 語り手:鹿の如くに飛び跳ねよ。」 0:【間】 0:タイトルコール。 語り手:『流石(さすが)の、馬鹿(ばか)』 0:―或(ある)いは虚言性サピオセクシャル― 0:【間】 【モノローグ】:こどもの、記憶。 【モノローグ】:秋の初め。 語り手:ねえ。そこの君。 語り手:ねえ。 語り手:ちょっと。 語り手:……起きた? 語り手:ねえ君。どうして授業中、いつも寝ているの? 語り手:私? 4年2組の早川(はやかわ)。 語り手:聞いたの。授業の間、よく寝てる子がいるって。 語り手:ねえどうして? 語り手:……、……、 語り手:そんなの駄目、眠いからって皆、寝ちゃったりしないわ。 語り手:だって、授業中なんだから。 語り手:え……? 語り手:誰、が、って……? そんなの、考えるまでもないわ。 語り手:校長先生が決めたのよ、きっと。 語り手:あと、お父さんとお母さん。お祖父様とお祖母様と、もっと前までさかのぼったって良いわ。 語り手:先生が、皆の前で一生懸命話してるんだから。 語り手:わたしたちは先生のお話を聞くのが仕事なのよ。 語り手:……、 語り手:何て言ったの? 語り手:ボソボソ喋る子きらい。 語り手:……、……、 語り手:テスト、は……、 語り手:だって、もっと前に済ませてるもの、塾で。 語り手:だから聞いてなくても解けるけど、でも、鹿田(しかた)くんは塾に来てないじゃない。 語り手:……、……、 語り手:教科書……、わたしだって読むだけでわかるわ。 語り手:でもどっちにしたって、寝るのは駄目よ。 語り手:え……? 語り手:……、理由、なんて。 語り手:だって……、他の子はしていないこと、だもの。 語り手:皆がしていない事や、正解とちがう事をする人は、 語り手:馬鹿、なのよ。 語り手:鹿田(しかた)くんって馬鹿なの? 0:【間】 【モノローグ】:2年、経過。 【モノローグ】:春と夏の間。 語り手:おはよう。鹿田くん。 語り手:今日も良い熟睡っぷりだったわね。 語り手:流石は……、 語り手:万年居眠り魔の、鹿田くん。 語り手:…………、何? 語り手:駄洒落じゃ、無いし。 語り手:私ソレ言われるのすっごく嫌。 語り手:…………。 語り手:窓際の席で眠るのって気持ち良いの? 語り手:先生は呆れて何も言わないわよ。もう最後の年だもんね。 語り手:え……? 語り手:……、……、 語り手:無い、わ。授業中に眠った事なんて。 語り手:見た事ある? 私が居眠りしてるところ。 語り手:……寝てるから知らないか。 語り手:あのね、中学からの勉強は、今よりもっと、ずっと難しくなるのよ。 語り手:油断してたらすぐ落ちこぼれてしまいますよ、って塾の先生も言ってたわ。 語り手:塾にも行ってない、学年で1番でも無い鹿田くんなんて、 語り手:…………、 語り手:馬鹿じゃないの? 語り手:1番と2番は何もかも違うのよ。 語り手:私の1番は頑張って勝ち取った1番だけど、鹿田くんの2番はたまたまなっただけの2番だもの。 語り手:私ね……、自分より賢くない人って興味無いのよね。 語り手:……、 語り手:そうよ、2番なんて。 語り手:3番でも4番でも、最下位の127番でも、変わりないから。 語り手:それも、居眠りしてる人でも取れる2番なんて。 語り手:中学では、それだって同じようには行かないわよ、きっと。 語り手:え? 語り手:……、……、 語り手:落ちこぼれて、困る事、なんて……、 語り手:幾らでもあるじゃない。 語り手:例えば、…………、 語り手:例えば、そりゃ、 語り手:中学で良い成績を出せなかったら、 語り手:……良い高校に、行けないわ。 語り手:良い高校に行けないと……? 語り手:知らないの? 鹿田くん。 語り手:子供が、良い高校や大学に、行けないとね……、 語り手:お父さんが悲しんで、 語り手:……お母さんが、ひどく怒られるのよ。 0:【間】 【モノローグ】:1年、経過。 【モノローグ】:春の終わり。 語り手:帰りのホームルームくらい起きてなさいよ、鹿田くん。 語り手:1年の癖に生意気だ、って目を付けられるわよ。勉強の他にも実害が出るんだから。 語り手:部活にも入らずに……。 語り手:……、 語り手:私? バドミントン部? 語り手:……、楽しい、そう……、楽しいわよ? 体を動かすのって意外と。 語り手:覚えが早いって、先輩も言ってくださるし。 語り手:この話って一昨日(おととい)もしなかった? 語り手:寝すぎて脳みそ、溶けてるんじゃないの。 語り手:…………、ねえ、 語り手:どうしてそんなに眠たいの? 語り手:春眠暁を、って言うけど。鹿田くんは一年中。 語り手:家で眠れてないの? 語り手:……、……。 語り手:……、眠れない、のは、どうして? 語り手:…………、 語り手:どうして黙るの。 語り手:お家の事、何か、 語り手:……、……。……、……。 語り手:……うん。それは知ってる、けど。 語り手:離婚、なさったのは、前でしょ、ずっと。 語り手:今はお母さんと2人暮らしで、 語り手:……、 語り手:え、…………、 語り手:どう、して……、 語り手:お父さんじゃない人が、家に、いるの? 語り手:……、 語り手:…………。 語り手:今日は黙(だんま)り。 語り手:いつも……、ボソボソでも、何か答えるのに。 語り手:…………。 語り手:……でも。 語り手:お家に、何があったって。 語り手:居眠りなんてしないわ。私は。 語り手:だって勿体ないじゃない。時間が。 語り手:勉強して、賢くなって……、 語り手:結果を出して、良い高校に行かなくちゃ、 語り手:だって、それしか、無いもの。 語り手:お母さんが、悲しそうな顔を、しなくて済む……、 語り手:正解の、方法。 0:【間】 【モノローグ】:1年、経過。 【モノローグ】:冬入り。 語り手:……起きて、鹿田くん。 語り手:帰るわよ。ちょっと。 語り手:……、 語り手:間抜けな顔。ふふ。 語り手:……寒くないの? 語り手:マフラー着けてよ、折角あげたのに。 語り手:ん? 語り手:……、……、 語り手:馬鹿。 語り手:使わずに置いてる方がよっぽど勿体ないじゃない。 語り手:そんな簡単に破けたり傷んだりしないわよ。手を抜かずに編んであるから。 語り手:……、 語り手:……え、 語り手:……お母、さん、 語り手:……、……、 語り手:……うん。 語り手:……、ええ。そう、よ。 語り手:昨日……、私もお父さんも帰る前に、最後の荷物を纏めて。 語り手:多分、きっと、無事に。 語り手:……この話、もう別に、 語り手:……、 語り手:行き先? ……ううん、聞いてない、よ。 語り手:知りたくない。 語り手:…………。 語り手:…………。 語り手:前の晩に。 語り手:「こんな母親でごめんなさい」、だって。 語り手:謝られ、ちゃった。 語り手:……、……、 語り手:何も。 語り手:思わないわよ。勿体無いもの。 語り手:……、時間が、よ。 語り手:だって。 語り手:子供の事で、ずっと、ずっと言い合いをしてるのも、 語り手:その事で、酷い言葉をぶつけられるのも、 語り手:嫌で、当然だもの。 語り手:逃げ出したくなって当たり前だから。 語り手:…………、 語り手:私は、私だし。 語り手:塚淵第一(つかぶちだいいち)に通うなら、 語り手:ここから、今の家から、じゃないと。 語り手:寮なんてないのよ、あそこ。 語り手:……、……、 語り手:何が? 語り手:……行く理由、なんて、 語り手:……何も変わらないわよ。 語り手:お母さんが居なくなったって。 語り手:…………、 語り手:学歴があるに、越した事、無いじゃない。 語り手:普通、皆、そう思う、から。 語り手:鹿田くんには判らないでしょうけど。 語り手:……、もう、良いから。 語り手:行くわよ。 語り手:今日も、馬鹿の1つ覚えみたいに、 語り手:ほうじ茶ラテ、頼むんでしょ。 語り手:鹿田くん。 0:【間】 【モノローグ】:1年、経過。 【モノローグ】:夏と秋の間。 語り手:玄関のお花、水、換えといたから。 語り手:……、ううん、ついで。 語り手:お呼ばれしてる身だし? 語り手:…………、今日も帰って来ないんだね。鹿田くんのお母さん。 語り手:どこへ行ってるか知ってるの? 語り手:……、……、 語り手:そっか。 語り手:今の、相手の人は……、 語り手:鹿田くんの事、あまり好きじゃ無いのかも、ね。 語り手:…………、でも。 語り手:もう気にして、無いんでしょ。 語り手:慣れる、もんね。 語り手:……そうでしょ。ね? 語り手:気楽だし。色々。 語り手:…………。 語り手:勉強。……ね。しなくちゃ。 語り手:勉強会、だもんね。 語り手:…………。……、……、 語り手:え、 語り手:……、いや、…………別に。 語り手:手に付かないとかじゃ無いから。 語り手:期末は特に不安も無いし、 語り手:……、…………。 語り手:……そう見えるんだ。 語り手:……馬鹿の癖に。 語り手:変な所だけ、鋭いんだから。 語り手:…………、 語り手:あの、ね。 語り手:昨日……、叔母さんから、連絡が、あって。 語り手:お母さんの居所が、わかった、って。 語り手:え? 語り手:あ、ううん、連絡が着いた、って事。 語り手:ずっと、誰も、知らなかったんだけど……、 語り手:今、東京に居るんだって。 語り手:そう。東京で、一人暮らし。 語り手:……、……、 語り手:いや、いやいや。 語り手:思ってないよ。 語り手:だから何、ってほど冷たくも、無いけど。 語り手:普通に、無事に、生きて生活、してるんだったら……。 語り手:……え? 語り手:……、……、 語り手:……馬鹿みたい。 語り手:今更、私と会って、 語り手:それでどうなるの? お母さんも私も。 語り手:……、……、 語り手:それは、知らない、っていうか、聞いて無い、けど、 語り手:とにかく東京で、住んでる場所しか聞いてないんだってば。 語り手:それだって別に、知らせてくれなくても、 語り手:……、……、 語り手:……中3なのよ、私。鹿田くんもだけど。 語り手:受験に集中、したいじゃない。 語り手:未だに居眠りしてる鹿田くんの気が知れないし。 語り手:内申とか気にした事ある? 語り手:……、 語り手:逸(そ)らしてないわよ、別に。 語り手:……、……、 語り手:でも、じゃあ、どうしたら良いのよ? 語り手:…………、最後まで、お母さんの味方になって、あげられなかったのに。 語り手:一緒に、って、思ってても言えなかった私が、……、 語り手:私の、せいで、 語り手:私の……、 語り手:……っ、……、 語り手:……嬉しいと、思う? 語り手:今更になって、私がどうこう……、 語り手:そんなの、正解な訳、無いもん。 語り手:もう何もかも、 語り手:……、……、 語り手:……っ、 語り手:…そりゃっ、そうでしょ判らないのはそりゃ、どんな事でもそうでしょ。 語り手:無責任な事、言わないでよっ!! 語り手:……っ、……。…………、 語り手:……ごめん。 語り手:…………だから、やっぱり、……言わないでおこうと、思ってたのに。 語り手:え? 語り手:……、……。…………。 語り手:…………馬鹿じゃ、無いの。 語り手:正解か、どうかじゃ無くて、 語り手:私が、……わたしが、どうしたいか、なんて、 語り手:そんなの、聞かなくても、判るじゃない。 語り手:…………。…………。 語り手:…………、…………っ。 語り手:……着いて、来てよ。 語り手:そんなに言うなら。 0:【間】 【モノローグ】:2年、経過。 【モノローグ】:嵐が過ぎて、冬。 語り手:……起きた? 語り手:皆帰っちゃったけど。 語り手:……、 語り手:もう、教室に決まってるじゃない。 語り手:……それより。 語り手:はぁい、鹿田くん。今年の義理チョコ。 語り手:うふ、ふふ。 語り手:ん? 語り手:……、……、 語り手:あははっ、……そうね。 語り手:義理でも羨ましがられるのは、多分そうなんじゃない? 語り手:だってチョコなんて、鹿田くんにしかあげてないもんね。 語り手:ふふ。 語り手:でも鹿田くんだって、毎年貰うのは私からの1個でしょ。 語り手:あ……、でも去年は違うか。 語り手:私のお母さんからも1個、貰ったもんね? 語り手:美味しかったでしょ、お母さんの手作り。 語り手:うん。……ふふ。 語り手:今年も食べたい? 語り手:今度の土日、また、泊まりに行くから……、 語り手:預かって来てあげようか。 語り手:……それとも。 語り手:一緒に、行く? 久しぶりに。 語り手:……、……、 語り手:うん、また大きくなってるよ、ジャスミン。 語り手:猫って2歳でね、人間でいう成人だから。 語り手:鹿田くんもう引っ掻き殺されちゃうね。ふ、ふ。 語り手:……、……、 語り手:もう帰る? 語り手:今日も『パルマ』でお茶する? 語り手:……、……、 語り手:勉強? 語り手:私は今日は、良いかな……。 語り手:そこまで切羽詰まって無いし。 語り手:……あ、 語り手:いや……、ううん、マフラー、ね。 語り手:流石にだいぶ、ほつれて毛玉が出て来たかな、って。 語り手:今、高2だから……、3年前か、あげたの。 語り手:鹿田くんにしてはよく持たせてると思うけど。 語り手:また、編んであげようか。 語り手:……、……コレが、良いの? 語り手:もう、みすぼらしいから、別にまた、 語り手:……、……、ふ、ふ。 語り手:破れないって。余程使い込まないと。 語り手:本当に……、 語り手:馬鹿、なんだから。 0:【間】 【モノローグ】:半年、経過。 【モノローグ】:梅雨明け間近。 語り手:……雨、凄いねぇ、鹿田くん。 語り手:私傘、持って来てないから。 語り手:止んでから帰るね? 語り手:ん? 語り手:……雨音で聞こえないよ、そんなボソボソじゃ。 語り手:もっと近くで話してよ。 語り手:……、あ……、 語り手:う、ふふ。近すぎ……。 語り手:鹿田くん……、ミントのアイス食べたでしょ。 語り手:私の分はぁ? ふ、ふふ。 語り手:え? 語り手:……、……、 語り手:いいよ、傘借りたって、どうせ濡れちゃうし。 語り手:高3の受験生は風邪引けないんだから。 語り手:それとも帰ってほしいの? 語り手:……、……、 語り手:ふ、ふ。冗談だってば。いつも馬鹿正直に、本気にして……。 語り手:…………、ねえ、 語り手:……、鹿田くんのお母さんって、今はどれぐらい、家に帰って来るの? 語り手:……、……、 語り手:へぇ、ふうん。 語り手:じゃあ、私がお母さんの所へ会いに行くのと、同じぐらい。 語り手:殆ど一人暮らしみたいなものね。 語り手:寂しい? 語り手:……、……、 語り手:そう、だよね。 語り手:平気そうに見えるしね。実際。 語り手:…………。 語り手:本当に一人暮らしとか、したいと思った事、無いの? 語り手:……、……、 語り手:……違うよ、皆ね、 語り手:鹿田くんが寝てばっかりいるような時間にね、 語り手:考えてるんだよ。 語り手:どう、なりたいかとか。 語り手:……どんな人と、どんな風に、生きて行きたいか、とか。 語り手:正解に近付く為に、ね。 語り手:…………。 語り手:また黙る。考えてないんだ。 語り手:私は……、いつも、考えた事、1番に話してるのに、ね。 語り手:…………。 語り手:…………。 語り手:今の暮らしが気楽かな。 語り手:ある意味願ってもないよね、自由で、家賃も無いし。 語り手:こんな風に、女の子連れ込んだりも、やりたい放題だし、ね? 語り手:ん? 語り手:……、……、 語り手:……、あのね。 語り手:そこ、案外そうでも無いのよ。 語り手:鹿田くんは馬鹿で鈍いから、自分じゃ気付いて無いだろうけど。 語り手:この、茶色い地毛と、ソコソコの成績に、騙されてる子は多いんだから。 語り手:…………、 語り手:……私は……、関係無いけど、ね? 語り手:……、そうよ? 語り手:昔、ほんとに昔……、 語り手:小学校の頃、言ったでしょ。 語り手:覚えてない? 語り手:1番と2番は全然違う、って。 語り手:……そうよ。 語り手:……正直……、ね、 語り手:いつまでも2番や3番をウロウロしてる鹿田くんには、本当はだいぶ、興味が薄れて来てるし。 語り手:今、こうしてるのだって……、 語り手:……惰性、だから。 語り手:…………。 語り手:鹿田くん「サピオセクシャル」って知ってる? 語り手:世の中にはね、自分より優れた知性の持ち主にしか……、 語り手:あらゆる意味で、相手としての魅力を、感じない人がいるんだって。 語り手:……、そう、「サピエンス」の「サピオ」。 語り手:意味は「賢明」、とか。 語り手:……私、きっと、そうなの。 語り手:だから……、ええ、そうよ。 語り手:私はずっと1番で、多分、順当に……、推薦で恩行(おんぎょう)大学へ進むし。 語り手:東京へ、行くの。 語り手:お母さんの家とも近いのよ。 語り手:ソコは祝福してね? 元はと言えば、鹿田くんに焚き付けられて、会いに行ったんだから。 語り手:中学生の、男女二人で東京旅行、なんて。 語り手:悪いコトに手を染めさせられて。 語り手:あの時もこんな感じの雨で……、 語り手:そう、雨宿り、したよね。 語り手:…………。 語り手:懐かしい、ね。 語り手:……、……、 語り手:…………。 語り手:鹿田くんは……、ずっと勉強会、続けて来たけど、 語り手:私が教えるばっかりで、結局私に教えてくれられるようには、ならなかったし。 語り手:……馬鹿の、まんま。 語り手:自分の将来の進路すら、私に言えないんだもんね? 語り手:…………。 語り手:どう、したの? 語り手:困ったら黙ってばっかり。 語り手:……少しは、いつもみたいにボソボソ、言い返したら良いじゃない。 語り手:…………。…………。 語り手:……無い、のね。言う事。 語り手:…………、…………。 語り手:……誰とでも。好きな相手と。 語り手:自由に、やりなよ。 語り手:春からは。 語り手:…………。 語り手:…………。 語り手:……雨、あがった。 語り手:帰るね。 0:【間】 【モノローグ】:殆ど口をきかないまま、数ヶ月、経過。 【モノローグ】:身も凍る真冬。 語り手:……もしもし? 語り手:あ、うん……、うん、 語り手:……、ありがとう。 語り手:でも疲れてない、よ。 語り手:受験会場も暖かかった。 語り手:……そこは、ね。 語り手:恩行(おんぎょう)の推薦は時期だけがネックだから。 語り手:うん。いつも通り……、目の前の問題を解いてたら終わった、感じ。 語り手:多分……、大丈夫だと思う。 語り手:春からは、ご近所さん、だね。きっと。 語り手:ジャスミンにも顔、覚えてもらえそう。 語り手:うん、……うん、ふふ。 語り手:……、え……、…………、 語り手:そう、かな……。声? 語り手:別に、落ち込んで、ないけど。 語り手:……自信、あるよ。きっと受かると、思う……。うん。 語り手:うん。そう。 語り手:今度、行った時、新居の事とか色々、相談、すると思う。 語り手:……あはは、そんな贅沢言わないし。ふふ、ふ。 語り手:うん、うん。 語り手:え、……、……、 語り手:…………。 語り手:……ううん。きっと寂しくは、ならないと思う、よ。 語り手:こっちには……、離れたくないと思えるような人、 語り手:出来なかった、から。 語り手:…………。 語り手:……そう、だよ? 語り手:うん。 語り手:…………。 語り手:ねえ……、お母さん、 語り手:……寒い、よね。 語り手:冬って。 0:【間】 【モノローグ】:虚ろに、あるいは矢のように、数ヶ月、経過。 【モノローグ】:高校生活がするりと終わり、 【モノローグ】:桜のつぼみが、膨らみを待つ頃。 語り手:…………、 語り手:ご、う、かく…………? 語り手:…………っ、 語り手:合格っっ!!?? 語り手:は……? え……っ!? 語り手:誰、が……、何処、に…………? 語り手:……、……、 語り手:……っっ! 語り手:な、なん、何、なの、ソレ……、 語り手:鹿田くん、が、 語り手:恩行(おんぎょう)大生に、なる、の…………? 語り手:……、っ、 語り手:ちょっと! 私が落ちてる訳無いでしょっ! 正直結構余裕だったんだから! 語り手:…………、 語り手:な、え……、 語り手:ていう、か、え、通学、どうするの……? 語り手:この家からだと片道2時間半くらい、 語り手:……、 語り手:……引っ越す……? 語り手:東京に??? 鹿田くんが??? 語り手:……大学の近くに……? 語り手:……、あの、駅の近くの……? 語り手:アパート、固まってるトコ、 語り手:……嘘。 語り手:近所、なんだけど。 語り手:…………。…………、 語り手:な……、 語り手:何それ。何それ、 語り手:何それ、何それ、何それっっ!! 語り手:…………、何ヶ月も、 語り手:我慢、して、そっけなくして、 語り手:私、わたし……、 語り手:……馬鹿、みたいじゃない。 語り手:…………、 語り手:新年度から、また、ホントに、また、一緒な訳……? 語り手:小中高と同じなのよ? 語り手:いないでしょ、そんな人、 語り手:いや「よろしく」じゃなくてっ! 語り手:だいたい、何で、どうして黙って、 語り手:……、……、……、 語り手:……、……、…………、 語り手:要するに……、 語り手:受かるかどうか、不安だったから、って事……? 語り手:……っ、「うん」じゃ無いからっ! 語り手:……わ、わた、し……っ、 語り手:恩行(おんぎょう)、受ける、って、言った時に……、 語り手:鹿田くん、頑張れば射程圏内なのに、一緒に、って、言ってくれなかったから……っ、 語り手:かといって進路も、志望校も教えてくれないし、 語り手:……、もう、もう離れるからと思って、私……っ、 語り手:あんな、馬鹿、みたいな事、 語り手:……っ、 語り手:うるさいわね! 語り手:わかってるわよ私が馬鹿じゃない事ぐらい! 語り手:推薦で恩行(おんぎょう)行くのよ私! 語り手:…………、 語り手:馬鹿、なのは……、 語り手:鹿田くん、じゃない……。 語り手:本当に、昔から……。 語り手:いつも寝てる、癖に。 語り手:どうしてそういう事するの……? 語り手:誰にも内緒で、受験、なんて。 語り手:…………本当、本当の本当に、 語り手:…………、 語り手:流石の、馬鹿、 語り手:としか、言いようが……、 語り手:……、……、 語り手:……違うし。 語り手:駄洒落じゃないから。 語り手:ソレ言われるのマジで嫌い。 語り手:鹿田くんぐらいなんだから、未だにソレ言うの。 語り手:……大体、イントネーションも違うし。 語り手:私の名前は平仮名で、「枕」とかと同じ音で「さすが」だから。 語り手:「流石」の方じゃ無いの。 語り手:「アスカ」とかの名前の方だから。 語り手:……、何よ。 語り手:「早川(はやかわ)さすが」。 語り手:いい名前でしょ、あらためて。 語り手:お母さんが考えたのよ。 語り手:…………。 語り手:(大きく溜め息) 語り手:…………、もう。 語り手:ややこしいし、イジられるのも嫌だから。 語り手:大学からは、名前で呼んでいいわよ。 語り手:……、ええ、そうよ? 語り手:鹿田くんも、折角だから下の名前で読んであげるわ。 語り手:「統一」の「統(とう)」に「馬(うま)」で、「鹿田統馬(しかたとうま)」。 語り手:名前に、馬と鹿、両方入ってるなんて……、 語り手:何よ? ふふ、お返し。 語り手:本当に……、 語り手:名前まで、馬鹿なんだから。 語り手:ね……? 語り手:統馬、くん。 0:【間】 【モノローグ】:これから先、何年、何ヶ月が経過するのか、誰にもわからない。 【モノローグ】:でも暖かい日に桜が咲いたら、 【モノローグ】:……観に行くのが、正解だと、思った。 0:暗転。 0:【間】 語り手:「馬よ 鹿よ 語り手:春の眠りの暁を識(し)り 語り手:花に 嵐に 語り手:歓(よろこ)び 語り手:歌え。」 0:【終】

語り手:「君よ 君よ 語り手:あやうきには近寄らず 語り手:馬の如くに歩を進め 語り手:鹿の如くに飛び跳ねよ。」 0:【間】 0:タイトルコール。 語り手:『流石(さすが)の、馬鹿(ばか)』 0:―或(ある)いは虚言性サピオセクシャル― 0:【間】 【モノローグ】:こどもの、記憶。 【モノローグ】:秋の初め。 語り手:ねえ。そこの君。 語り手:ねえ。 語り手:ちょっと。 語り手:……起きた? 語り手:ねえ君。どうして授業中、いつも寝ているの? 語り手:私? 4年2組の早川(はやかわ)。 語り手:聞いたの。授業の間、よく寝てる子がいるって。 語り手:ねえどうして? 語り手:……、……、 語り手:そんなの駄目、眠いからって皆、寝ちゃったりしないわ。 語り手:だって、授業中なんだから。 語り手:え……? 語り手:誰、が、って……? そんなの、考えるまでもないわ。 語り手:校長先生が決めたのよ、きっと。 語り手:あと、お父さんとお母さん。お祖父様とお祖母様と、もっと前までさかのぼったって良いわ。 語り手:先生が、皆の前で一生懸命話してるんだから。 語り手:わたしたちは先生のお話を聞くのが仕事なのよ。 語り手:……、 語り手:何て言ったの? 語り手:ボソボソ喋る子きらい。 語り手:……、……、 語り手:テスト、は……、 語り手:だって、もっと前に済ませてるもの、塾で。 語り手:だから聞いてなくても解けるけど、でも、鹿田(しかた)くんは塾に来てないじゃない。 語り手:……、……、 語り手:教科書……、わたしだって読むだけでわかるわ。 語り手:でもどっちにしたって、寝るのは駄目よ。 語り手:え……? 語り手:……、理由、なんて。 語り手:だって……、他の子はしていないこと、だもの。 語り手:皆がしていない事や、正解とちがう事をする人は、 語り手:馬鹿、なのよ。 語り手:鹿田(しかた)くんって馬鹿なの? 0:【間】 【モノローグ】:2年、経過。 【モノローグ】:春と夏の間。 語り手:おはよう。鹿田くん。 語り手:今日も良い熟睡っぷりだったわね。 語り手:流石は……、 語り手:万年居眠り魔の、鹿田くん。 語り手:…………、何? 語り手:駄洒落じゃ、無いし。 語り手:私ソレ言われるのすっごく嫌。 語り手:…………。 語り手:窓際の席で眠るのって気持ち良いの? 語り手:先生は呆れて何も言わないわよ。もう最後の年だもんね。 語り手:え……? 語り手:……、……、 語り手:無い、わ。授業中に眠った事なんて。 語り手:見た事ある? 私が居眠りしてるところ。 語り手:……寝てるから知らないか。 語り手:あのね、中学からの勉強は、今よりもっと、ずっと難しくなるのよ。 語り手:油断してたらすぐ落ちこぼれてしまいますよ、って塾の先生も言ってたわ。 語り手:塾にも行ってない、学年で1番でも無い鹿田くんなんて、 語り手:…………、 語り手:馬鹿じゃないの? 語り手:1番と2番は何もかも違うのよ。 語り手:私の1番は頑張って勝ち取った1番だけど、鹿田くんの2番はたまたまなっただけの2番だもの。 語り手:私ね……、自分より賢くない人って興味無いのよね。 語り手:……、 語り手:そうよ、2番なんて。 語り手:3番でも4番でも、最下位の127番でも、変わりないから。 語り手:それも、居眠りしてる人でも取れる2番なんて。 語り手:中学では、それだって同じようには行かないわよ、きっと。 語り手:え? 語り手:……、……、 語り手:落ちこぼれて、困る事、なんて……、 語り手:幾らでもあるじゃない。 語り手:例えば、…………、 語り手:例えば、そりゃ、 語り手:中学で良い成績を出せなかったら、 語り手:……良い高校に、行けないわ。 語り手:良い高校に行けないと……? 語り手:知らないの? 鹿田くん。 語り手:子供が、良い高校や大学に、行けないとね……、 語り手:お父さんが悲しんで、 語り手:……お母さんが、ひどく怒られるのよ。 0:【間】 【モノローグ】:1年、経過。 【モノローグ】:春の終わり。 語り手:帰りのホームルームくらい起きてなさいよ、鹿田くん。 語り手:1年の癖に生意気だ、って目を付けられるわよ。勉強の他にも実害が出るんだから。 語り手:部活にも入らずに……。 語り手:……、 語り手:私? バドミントン部? 語り手:……、楽しい、そう……、楽しいわよ? 体を動かすのって意外と。 語り手:覚えが早いって、先輩も言ってくださるし。 語り手:この話って一昨日(おととい)もしなかった? 語り手:寝すぎて脳みそ、溶けてるんじゃないの。 語り手:…………、ねえ、 語り手:どうしてそんなに眠たいの? 語り手:春眠暁を、って言うけど。鹿田くんは一年中。 語り手:家で眠れてないの? 語り手:……、……。 語り手:……、眠れない、のは、どうして? 語り手:…………、 語り手:どうして黙るの。 語り手:お家の事、何か、 語り手:……、……。……、……。 語り手:……うん。それは知ってる、けど。 語り手:離婚、なさったのは、前でしょ、ずっと。 語り手:今はお母さんと2人暮らしで、 語り手:……、 語り手:え、…………、 語り手:どう、して……、 語り手:お父さんじゃない人が、家に、いるの? 語り手:……、 語り手:…………。 語り手:今日は黙(だんま)り。 語り手:いつも……、ボソボソでも、何か答えるのに。 語り手:…………。 語り手:……でも。 語り手:お家に、何があったって。 語り手:居眠りなんてしないわ。私は。 語り手:だって勿体ないじゃない。時間が。 語り手:勉強して、賢くなって……、 語り手:結果を出して、良い高校に行かなくちゃ、 語り手:だって、それしか、無いもの。 語り手:お母さんが、悲しそうな顔を、しなくて済む……、 語り手:正解の、方法。 0:【間】 【モノローグ】:1年、経過。 【モノローグ】:冬入り。 語り手:……起きて、鹿田くん。 語り手:帰るわよ。ちょっと。 語り手:……、 語り手:間抜けな顔。ふふ。 語り手:……寒くないの? 語り手:マフラー着けてよ、折角あげたのに。 語り手:ん? 語り手:……、……、 語り手:馬鹿。 語り手:使わずに置いてる方がよっぽど勿体ないじゃない。 語り手:そんな簡単に破けたり傷んだりしないわよ。手を抜かずに編んであるから。 語り手:……、 語り手:……え、 語り手:……お母、さん、 語り手:……、……、 語り手:……うん。 語り手:……、ええ。そう、よ。 語り手:昨日……、私もお父さんも帰る前に、最後の荷物を纏めて。 語り手:多分、きっと、無事に。 語り手:……この話、もう別に、 語り手:……、 語り手:行き先? ……ううん、聞いてない、よ。 語り手:知りたくない。 語り手:…………。 語り手:…………。 語り手:前の晩に。 語り手:「こんな母親でごめんなさい」、だって。 語り手:謝られ、ちゃった。 語り手:……、……、 語り手:何も。 語り手:思わないわよ。勿体無いもの。 語り手:……、時間が、よ。 語り手:だって。 語り手:子供の事で、ずっと、ずっと言い合いをしてるのも、 語り手:その事で、酷い言葉をぶつけられるのも、 語り手:嫌で、当然だもの。 語り手:逃げ出したくなって当たり前だから。 語り手:…………、 語り手:私は、私だし。 語り手:塚淵第一(つかぶちだいいち)に通うなら、 語り手:ここから、今の家から、じゃないと。 語り手:寮なんてないのよ、あそこ。 語り手:……、……、 語り手:何が? 語り手:……行く理由、なんて、 語り手:……何も変わらないわよ。 語り手:お母さんが居なくなったって。 語り手:…………、 語り手:学歴があるに、越した事、無いじゃない。 語り手:普通、皆、そう思う、から。 語り手:鹿田くんには判らないでしょうけど。 語り手:……、もう、良いから。 語り手:行くわよ。 語り手:今日も、馬鹿の1つ覚えみたいに、 語り手:ほうじ茶ラテ、頼むんでしょ。 語り手:鹿田くん。 0:【間】 【モノローグ】:1年、経過。 【モノローグ】:夏と秋の間。 語り手:玄関のお花、水、換えといたから。 語り手:……、ううん、ついで。 語り手:お呼ばれしてる身だし? 語り手:…………、今日も帰って来ないんだね。鹿田くんのお母さん。 語り手:どこへ行ってるか知ってるの? 語り手:……、……、 語り手:そっか。 語り手:今の、相手の人は……、 語り手:鹿田くんの事、あまり好きじゃ無いのかも、ね。 語り手:…………、でも。 語り手:もう気にして、無いんでしょ。 語り手:慣れる、もんね。 語り手:……そうでしょ。ね? 語り手:気楽だし。色々。 語り手:…………。 語り手:勉強。……ね。しなくちゃ。 語り手:勉強会、だもんね。 語り手:…………。……、……、 語り手:え、 語り手:……、いや、…………別に。 語り手:手に付かないとかじゃ無いから。 語り手:期末は特に不安も無いし、 語り手:……、…………。 語り手:……そう見えるんだ。 語り手:……馬鹿の癖に。 語り手:変な所だけ、鋭いんだから。 語り手:…………、 語り手:あの、ね。 語り手:昨日……、叔母さんから、連絡が、あって。 語り手:お母さんの居所が、わかった、って。 語り手:え? 語り手:あ、ううん、連絡が着いた、って事。 語り手:ずっと、誰も、知らなかったんだけど……、 語り手:今、東京に居るんだって。 語り手:そう。東京で、一人暮らし。 語り手:……、……、 語り手:いや、いやいや。 語り手:思ってないよ。 語り手:だから何、ってほど冷たくも、無いけど。 語り手:普通に、無事に、生きて生活、してるんだったら……。 語り手:……え? 語り手:……、……、 語り手:……馬鹿みたい。 語り手:今更、私と会って、 語り手:それでどうなるの? お母さんも私も。 語り手:……、……、 語り手:それは、知らない、っていうか、聞いて無い、けど、 語り手:とにかく東京で、住んでる場所しか聞いてないんだってば。 語り手:それだって別に、知らせてくれなくても、 語り手:……、……、 語り手:……中3なのよ、私。鹿田くんもだけど。 語り手:受験に集中、したいじゃない。 語り手:未だに居眠りしてる鹿田くんの気が知れないし。 語り手:内申とか気にした事ある? 語り手:……、 語り手:逸(そ)らしてないわよ、別に。 語り手:……、……、 語り手:でも、じゃあ、どうしたら良いのよ? 語り手:…………、最後まで、お母さんの味方になって、あげられなかったのに。 語り手:一緒に、って、思ってても言えなかった私が、……、 語り手:私の、せいで、 語り手:私の……、 語り手:……っ、……、 語り手:……嬉しいと、思う? 語り手:今更になって、私がどうこう……、 語り手:そんなの、正解な訳、無いもん。 語り手:もう何もかも、 語り手:……、……、 語り手:……っ、 語り手:…そりゃっ、そうでしょ判らないのはそりゃ、どんな事でもそうでしょ。 語り手:無責任な事、言わないでよっ!! 語り手:……っ、……。…………、 語り手:……ごめん。 語り手:…………だから、やっぱり、……言わないでおこうと、思ってたのに。 語り手:え? 語り手:……、……。…………。 語り手:…………馬鹿じゃ、無いの。 語り手:正解か、どうかじゃ無くて、 語り手:私が、……わたしが、どうしたいか、なんて、 語り手:そんなの、聞かなくても、判るじゃない。 語り手:…………。…………。 語り手:…………、…………っ。 語り手:……着いて、来てよ。 語り手:そんなに言うなら。 0:【間】 【モノローグ】:2年、経過。 【モノローグ】:嵐が過ぎて、冬。 語り手:……起きた? 語り手:皆帰っちゃったけど。 語り手:……、 語り手:もう、教室に決まってるじゃない。 語り手:……それより。 語り手:はぁい、鹿田くん。今年の義理チョコ。 語り手:うふ、ふふ。 語り手:ん? 語り手:……、……、 語り手:あははっ、……そうね。 語り手:義理でも羨ましがられるのは、多分そうなんじゃない? 語り手:だってチョコなんて、鹿田くんにしかあげてないもんね。 語り手:ふふ。 語り手:でも鹿田くんだって、毎年貰うのは私からの1個でしょ。 語り手:あ……、でも去年は違うか。 語り手:私のお母さんからも1個、貰ったもんね? 語り手:美味しかったでしょ、お母さんの手作り。 語り手:うん。……ふふ。 語り手:今年も食べたい? 語り手:今度の土日、また、泊まりに行くから……、 語り手:預かって来てあげようか。 語り手:……それとも。 語り手:一緒に、行く? 久しぶりに。 語り手:……、……、 語り手:うん、また大きくなってるよ、ジャスミン。 語り手:猫って2歳でね、人間でいう成人だから。 語り手:鹿田くんもう引っ掻き殺されちゃうね。ふ、ふ。 語り手:……、……、 語り手:もう帰る? 語り手:今日も『パルマ』でお茶する? 語り手:……、……、 語り手:勉強? 語り手:私は今日は、良いかな……。 語り手:そこまで切羽詰まって無いし。 語り手:……あ、 語り手:いや……、ううん、マフラー、ね。 語り手:流石にだいぶ、ほつれて毛玉が出て来たかな、って。 語り手:今、高2だから……、3年前か、あげたの。 語り手:鹿田くんにしてはよく持たせてると思うけど。 語り手:また、編んであげようか。 語り手:……、……コレが、良いの? 語り手:もう、みすぼらしいから、別にまた、 語り手:……、……、ふ、ふ。 語り手:破れないって。余程使い込まないと。 語り手:本当に……、 語り手:馬鹿、なんだから。 0:【間】 【モノローグ】:半年、経過。 【モノローグ】:梅雨明け間近。 語り手:……雨、凄いねぇ、鹿田くん。 語り手:私傘、持って来てないから。 語り手:止んでから帰るね? 語り手:ん? 語り手:……雨音で聞こえないよ、そんなボソボソじゃ。 語り手:もっと近くで話してよ。 語り手:……、あ……、 語り手:う、ふふ。近すぎ……。 語り手:鹿田くん……、ミントのアイス食べたでしょ。 語り手:私の分はぁ? ふ、ふふ。 語り手:え? 語り手:……、……、 語り手:いいよ、傘借りたって、どうせ濡れちゃうし。 語り手:高3の受験生は風邪引けないんだから。 語り手:それとも帰ってほしいの? 語り手:……、……、 語り手:ふ、ふ。冗談だってば。いつも馬鹿正直に、本気にして……。 語り手:…………、ねえ、 語り手:……、鹿田くんのお母さんって、今はどれぐらい、家に帰って来るの? 語り手:……、……、 語り手:へぇ、ふうん。 語り手:じゃあ、私がお母さんの所へ会いに行くのと、同じぐらい。 語り手:殆ど一人暮らしみたいなものね。 語り手:寂しい? 語り手:……、……、 語り手:そう、だよね。 語り手:平気そうに見えるしね。実際。 語り手:…………。 語り手:本当に一人暮らしとか、したいと思った事、無いの? 語り手:……、……、 語り手:……違うよ、皆ね、 語り手:鹿田くんが寝てばっかりいるような時間にね、 語り手:考えてるんだよ。 語り手:どう、なりたいかとか。 語り手:……どんな人と、どんな風に、生きて行きたいか、とか。 語り手:正解に近付く為に、ね。 語り手:…………。 語り手:また黙る。考えてないんだ。 語り手:私は……、いつも、考えた事、1番に話してるのに、ね。 語り手:…………。 語り手:…………。 語り手:今の暮らしが気楽かな。 語り手:ある意味願ってもないよね、自由で、家賃も無いし。 語り手:こんな風に、女の子連れ込んだりも、やりたい放題だし、ね? 語り手:ん? 語り手:……、……、 語り手:……、あのね。 語り手:そこ、案外そうでも無いのよ。 語り手:鹿田くんは馬鹿で鈍いから、自分じゃ気付いて無いだろうけど。 語り手:この、茶色い地毛と、ソコソコの成績に、騙されてる子は多いんだから。 語り手:…………、 語り手:……私は……、関係無いけど、ね? 語り手:……、そうよ? 語り手:昔、ほんとに昔……、 語り手:小学校の頃、言ったでしょ。 語り手:覚えてない? 語り手:1番と2番は全然違う、って。 語り手:……そうよ。 語り手:……正直……、ね、 語り手:いつまでも2番や3番をウロウロしてる鹿田くんには、本当はだいぶ、興味が薄れて来てるし。 語り手:今、こうしてるのだって……、 語り手:……惰性、だから。 語り手:…………。 語り手:鹿田くん「サピオセクシャル」って知ってる? 語り手:世の中にはね、自分より優れた知性の持ち主にしか……、 語り手:あらゆる意味で、相手としての魅力を、感じない人がいるんだって。 語り手:……、そう、「サピエンス」の「サピオ」。 語り手:意味は「賢明」、とか。 語り手:……私、きっと、そうなの。 語り手:だから……、ええ、そうよ。 語り手:私はずっと1番で、多分、順当に……、推薦で恩行(おんぎょう)大学へ進むし。 語り手:東京へ、行くの。 語り手:お母さんの家とも近いのよ。 語り手:ソコは祝福してね? 元はと言えば、鹿田くんに焚き付けられて、会いに行ったんだから。 語り手:中学生の、男女二人で東京旅行、なんて。 語り手:悪いコトに手を染めさせられて。 語り手:あの時もこんな感じの雨で……、 語り手:そう、雨宿り、したよね。 語り手:…………。 語り手:懐かしい、ね。 語り手:……、……、 語り手:…………。 語り手:鹿田くんは……、ずっと勉強会、続けて来たけど、 語り手:私が教えるばっかりで、結局私に教えてくれられるようには、ならなかったし。 語り手:……馬鹿の、まんま。 語り手:自分の将来の進路すら、私に言えないんだもんね? 語り手:…………。 語り手:どう、したの? 語り手:困ったら黙ってばっかり。 語り手:……少しは、いつもみたいにボソボソ、言い返したら良いじゃない。 語り手:…………。…………。 語り手:……無い、のね。言う事。 語り手:…………、…………。 語り手:……誰とでも。好きな相手と。 語り手:自由に、やりなよ。 語り手:春からは。 語り手:…………。 語り手:…………。 語り手:……雨、あがった。 語り手:帰るね。 0:【間】 【モノローグ】:殆ど口をきかないまま、数ヶ月、経過。 【モノローグ】:身も凍る真冬。 語り手:……もしもし? 語り手:あ、うん……、うん、 語り手:……、ありがとう。 語り手:でも疲れてない、よ。 語り手:受験会場も暖かかった。 語り手:……そこは、ね。 語り手:恩行(おんぎょう)の推薦は時期だけがネックだから。 語り手:うん。いつも通り……、目の前の問題を解いてたら終わった、感じ。 語り手:多分……、大丈夫だと思う。 語り手:春からは、ご近所さん、だね。きっと。 語り手:ジャスミンにも顔、覚えてもらえそう。 語り手:うん、……うん、ふふ。 語り手:……、え……、…………、 語り手:そう、かな……。声? 語り手:別に、落ち込んで、ないけど。 語り手:……自信、あるよ。きっと受かると、思う……。うん。 語り手:うん。そう。 語り手:今度、行った時、新居の事とか色々、相談、すると思う。 語り手:……あはは、そんな贅沢言わないし。ふふ、ふ。 語り手:うん、うん。 語り手:え、……、……、 語り手:…………。 語り手:……ううん。きっと寂しくは、ならないと思う、よ。 語り手:こっちには……、離れたくないと思えるような人、 語り手:出来なかった、から。 語り手:…………。 語り手:……そう、だよ? 語り手:うん。 語り手:…………。 語り手:ねえ……、お母さん、 語り手:……寒い、よね。 語り手:冬って。 0:【間】 【モノローグ】:虚ろに、あるいは矢のように、数ヶ月、経過。 【モノローグ】:高校生活がするりと終わり、 【モノローグ】:桜のつぼみが、膨らみを待つ頃。 語り手:…………、 語り手:ご、う、かく…………? 語り手:…………っ、 語り手:合格っっ!!?? 語り手:は……? え……っ!? 語り手:誰、が……、何処、に…………? 語り手:……、……、 語り手:……っっ! 語り手:な、なん、何、なの、ソレ……、 語り手:鹿田くん、が、 語り手:恩行(おんぎょう)大生に、なる、の…………? 語り手:……、っ、 語り手:ちょっと! 私が落ちてる訳無いでしょっ! 正直結構余裕だったんだから! 語り手:…………、 語り手:な、え……、 語り手:ていう、か、え、通学、どうするの……? 語り手:この家からだと片道2時間半くらい、 語り手:……、 語り手:……引っ越す……? 語り手:東京に??? 鹿田くんが??? 語り手:……大学の近くに……? 語り手:……、あの、駅の近くの……? 語り手:アパート、固まってるトコ、 語り手:……嘘。 語り手:近所、なんだけど。 語り手:…………。…………、 語り手:な……、 語り手:何それ。何それ、 語り手:何それ、何それ、何それっっ!! 語り手:…………、何ヶ月も、 語り手:我慢、して、そっけなくして、 語り手:私、わたし……、 語り手:……馬鹿、みたいじゃない。 語り手:…………、 語り手:新年度から、また、ホントに、また、一緒な訳……? 語り手:小中高と同じなのよ? 語り手:いないでしょ、そんな人、 語り手:いや「よろしく」じゃなくてっ! 語り手:だいたい、何で、どうして黙って、 語り手:……、……、……、 語り手:……、……、…………、 語り手:要するに……、 語り手:受かるかどうか、不安だったから、って事……? 語り手:……っ、「うん」じゃ無いからっ! 語り手:……わ、わた、し……っ、 語り手:恩行(おんぎょう)、受ける、って、言った時に……、 語り手:鹿田くん、頑張れば射程圏内なのに、一緒に、って、言ってくれなかったから……っ、 語り手:かといって進路も、志望校も教えてくれないし、 語り手:……、もう、もう離れるからと思って、私……っ、 語り手:あんな、馬鹿、みたいな事、 語り手:……っ、 語り手:うるさいわね! 語り手:わかってるわよ私が馬鹿じゃない事ぐらい! 語り手:推薦で恩行(おんぎょう)行くのよ私! 語り手:…………、 語り手:馬鹿、なのは……、 語り手:鹿田くん、じゃない……。 語り手:本当に、昔から……。 語り手:いつも寝てる、癖に。 語り手:どうしてそういう事するの……? 語り手:誰にも内緒で、受験、なんて。 語り手:…………本当、本当の本当に、 語り手:…………、 語り手:流石の、馬鹿、 語り手:としか、言いようが……、 語り手:……、……、 語り手:……違うし。 語り手:駄洒落じゃないから。 語り手:ソレ言われるのマジで嫌い。 語り手:鹿田くんぐらいなんだから、未だにソレ言うの。 語り手:……大体、イントネーションも違うし。 語り手:私の名前は平仮名で、「枕」とかと同じ音で「さすが」だから。 語り手:「流石」の方じゃ無いの。 語り手:「アスカ」とかの名前の方だから。 語り手:……、何よ。 語り手:「早川(はやかわ)さすが」。 語り手:いい名前でしょ、あらためて。 語り手:お母さんが考えたのよ。 語り手:…………。 語り手:(大きく溜め息) 語り手:…………、もう。 語り手:ややこしいし、イジられるのも嫌だから。 語り手:大学からは、名前で呼んでいいわよ。 語り手:……、ええ、そうよ? 語り手:鹿田くんも、折角だから下の名前で読んであげるわ。 語り手:「統一」の「統(とう)」に「馬(うま)」で、「鹿田統馬(しかたとうま)」。 語り手:名前に、馬と鹿、両方入ってるなんて……、 語り手:何よ? ふふ、お返し。 語り手:本当に……、 語り手:名前まで、馬鹿なんだから。 語り手:ね……? 語り手:統馬、くん。 0:【間】 【モノローグ】:これから先、何年、何ヶ月が経過するのか、誰にもわからない。 【モノローグ】:でも暖かい日に桜が咲いたら、 【モノローグ】:……観に行くのが、正解だと、思った。 0:暗転。 0:【間】 語り手:「馬よ 鹿よ 語り手:春の眠りの暁を識(し)り 語り手:花に 嵐に 語り手:歓(よろこ)び 語り手:歌え。」 0:【終】