台本概要
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タイトル | 理系メイドさんの苦悩 |
---|---|
作者名 | ヒデじい (@taltal3014s) |
ジャンル | コメディ |
演者人数 | 2人用台本(女1、不問1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
メイドさんと後輩の茶番
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キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
佐藤 | 女 | 54 | 理系女子。先輩。メイドさん。 |
田中 | 不問 | 49 | 後輩。シスコン。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:大学の研究室にて
佐藤:それじゃあこのレポートを来週末までにクラウドにアップして頂戴。
佐藤:私がまとめて学会に提出するわ。
田中:分かりました。
田中:しかし、そうするとウェルテル効果が働くわけで……。
田中:コンセンサスを取りながら位相(いそう)合わせをしていきましょう。
0:
佐藤M:私は某大学の研究室で働く理系女子。
佐藤M:そんな私には……誰にも言えない裏の顔がある。
0:
0:とあるメイド喫茶にて
佐藤:おかえりなさいませ~♪
佐藤:ご注文は何になさいますか? 御主人様。
0:
佐藤M:そう。私は休日、メイド喫茶で働いているメイドさんなのだ。
佐藤M:何故なら、ここは私の実家であり、万年人手不足なので手伝わないと店が回らないのだ……。
佐藤M:こんな姿、大学の皆には絶対にバレるわけにはいかない……。
佐藤M:しかし私はメイド喫茶の娘。プロとして、今日も立派にメイドを努めてみせる!
0:
0:路上にて
田中:昨日の先輩の論文、凄かったなー。俺も早くあの域までたどり着きたいぜ……。
0:
田中M:俺は、某大学の研究生。周りからはインテリ眼鏡と呼ばれている。
田中M:同じ研究室の佐藤先輩が密かな目標だ。
田中M:そんな俺は、わけがあってメイド喫茶に向かっている。
0:
0:数分後、店の前にて
田中:ふう、緊張するな……。
田中:ああ、ここの店だ。
佐藤:おかえりなさいませ~。
佐藤:(……って、ええっ? 今入ってきたの、同じ研究室の田中君じゃない!)
佐藤:(何で? どうして? ここが私の実家ってこと、バレてる?)
佐藤:(いや、そんなわけ無いよね……)
佐藤:(うう、気まずい……。こんな時に限ってホールには私しかいないし……)
佐藤:(とりあえず私だってバレないように顔を隠して……声も少し変えなきゃ……)
0:
0:田中、店内を見回しながら
田中:おお、綺麗な店だなあ。
田中:アンティーク調の雰囲気だ。
田中:しかし、誰もいないな……。
田中:あのー、すいませーん。
0:
0:佐藤、高めの声でこたえる
佐藤:は、はーい、ただいま伺いまーす。
佐藤:お待たせいたしました。ご主人様。
田中:えっ……。
佐藤:……?
佐藤:ど、どうかなさいましたか?
田中:あなた……。
佐藤:は、はい。
佐藤:(バ、バレた……?)
田中:すっごくかわいいお声ですね!
佐藤:そ、そうですかー……?
田中:ぜひ、お名前を。
佐藤:エ、エリザベスって言いますう~。
田中:おお、可愛らしいお名前ですね。
田中:ちなみに、そのお顔に着けているものは?
佐藤:今週はコスプレデーとなっておりまして、たぬきの被り物をしております。
佐藤:(良かった! バレてない! さすが私!)
田中:前、見えますか?
佐藤:全く問題ありません。
佐藤:このお店は私の庭みたいなものですから。
田中:凄いなあ。
佐藤:それで、御主人様。
佐藤:本日はお一人でしょうか?
田中:ええ、実は、アルバイトの面接にお伺いしたんですが、三十分ほど早く来てしまったようで……。
田中:申し訳ありませんが、面接のお時間まで店内で過ごしても構わないでしょうか?
佐藤:かしこまりました。
佐藤:それではお席にご案内いたします。
佐藤:(ええええ、アルバイトおお? ここで働くの? 田中君が?)
佐藤:(いやいやいや困る困る困る。私の裏の顔は誰にも知られるわけにはいかないのに……)
佐藤:(と、とにかく何とかして穏便にやり過ごすのよ……)
佐藤:(大丈夫。私はプロ。メイドさん歴二十年、これくらい簡単に乗り切れるわ)
0:
0:座席にて
佐藤:こちらがメニュー表でございます。
田中:おお、メニューもオシャレだな。
佐藤:御主人様は、こういったお店は初めてでございますか?
田中:ええ、まあ。
田中:とても格式があって素敵なお店ですね。
田中:その衣装も、とても可愛らしいです。
佐藤:ふふ、ありがとうございます。
佐藤:ご注文はいかがなさいますか?
田中:では、この、『ひよこさんオムライス』と……、『ふわふわ☆萌え萌えケーキ』というのを一つ。
佐藤:『ひよこさんオムライス』と……『ふわふわ☆萌え萌えケーキ』でございますね。
佐藤:かしこまりました、御主人様。
田中:あ、オムライスにはケチャップで絵を描いてくれるサービスがありますよね。
田中:是非お願いします。
佐藤:(初めてなのに詳しい……)
佐藤:かしこまりました。何をお描きしましょうか?
田中:うさぎさんでお願いします。
田中:横に書く文字は『お兄ちゃんラブ♪ いつもお勉強お疲れ様、ひまり』でお願いします。
田中:ひまりの字は太陽の陽に蹴鞠の鞠です。
佐藤:(細かい……ひまりって誰よ……)
佐藤:かしこまりました。
0:
0:数分後
佐藤:御主人様、お待たせいたしました。
佐藤:ご注文のひよこさんオムライスでございます。
佐藤:『ぴよぴよぴよぴよ♪ 美味しくなーれ☆』
田中:……?
佐藤:お、おほん。では、ケチャップでお絵かきの方を……。
佐藤:さっさっさっと。
0:田中、思わず立ち上がる
田中:おお……凄い! なんて可愛いウサギさんだ! これは食べるのがもったいない……!
田中:そしてこの文字、見事な明朝体だ!
田中:これがプロの仕事か……!
田中:俺の勘は間違ってなかった。是非このお店で働かなくては……!
佐藤:御主人様……?
田中:ああ、失礼しました。
田中:素晴らしい仕事です。
田中:ぜひともこのお店で働かせていただきたいと思ったところです。
佐藤:(いけない、余計なスイッチ入れちゃったかしら……)
佐藤:え、えーと、その件ですが……
佐藤:実は当店、現在アルバイトは募集していないのでございます。
田中:えっ。
佐藤:そういうわけですので、大変申し訳ありませんがお引取りを……。
田中:しかし、店の前には『キッチンスタッフ急募』と張り紙がありましたが……。
佐藤:あ~……。
佐藤:え~と、あれは、ゆる募の間違いでございます。
佐藤:プロ級の人材がいれば雇っても良いかなー……みたいな。
佐藤:ほら、メイドさんといえばドジっ子属性も完備しておりますから、きっと、当店のスタッフが間違えてしまったのでしょう。
田中:しかし、電話では面接の予約をしていただけましたが……。
佐藤:おそらく、当店のスタッフが聞き間違えたのかと思われます……。
佐藤:何しろ、コスプレをしておりますから、私のように被り物でもしていたのでしょう。
田中:そんな……。
田中:しかし、できれば何とか面接だけでもしていただけないでしょうか。
田中:私の熱意を知っていただければきっとお気も変わるかと!
田中:お願いします!
田中:この通り!
佐藤:(何でこんな熱心なのかしら……)
田中:お願いします!
佐藤:おほん、かしこまりました。
佐藤:ご主人様、お顔をお上げください。
佐藤:当店の不手際でもありますし……面接させていただきましょう……。
0:
0:佐藤、店内の事務所へ移動
佐藤:パパー。
佐藤:アルバイトの面接希望の方が来てるよ~……。
佐藤:ん、何この書き置き。
佐藤:えーと……『ぎっくり腰で病院に行く……面接はお前が適当に済ませといてくれ……』
佐藤:そ、そんなあ……。
0:
0:佐藤と田中、事務所にて
佐藤:お待たせいたしました……。
佐藤:引き続き、私が面接させていただきます。
佐藤:(うう……もう、さっさと終わらせて不採用にしてしまおう……)
佐藤:えーと、では、ご主人様、もとい田中様。
佐藤:キッチンスタッフをご志望とのことですが、料理のご経験はおありでしょうか?
田中:はい、子供の頃から、和洋中、一通りたしなんでおります。
0:田中、スマホを取り出して画面を見せる
田中:このようにSNSにも自作のメニューを定期的に投稿しております。
佐藤:何これ、綺麗なお料理……! プロ並じゃない……!
佐藤:え、フォロワー数……十万……!?
田中:料理は化学ですからね。
田中:先人の知恵を借りて、時間と配分を間違えなければさほど難しくはありません。
田中:それにSNSというのは、大衆心理を考えて最適な時間に最適なメッセージを投稿すれば、バズらせる事は難しくありません。
佐藤:(なるほど、さすが田中君。使える人材ね……)
佐藤:(で、でもダメダメダメ! なんとか難癖つけて断らないと)
0:
佐藤:お、おほん。
佐藤:しかし当店はメイド喫茶です。
佐藤:そこのキッチンスタッフとして働くその意味、田中様はお分かりでしょうか。
田中:……と言いますと?
佐藤:当然、キッチンスタッフの方にもメイド姿になっていただきます。
田中:女装ですか……。
佐藤:ご存知ないかもしれませんが、最近の喫茶店では……
田中:女装は二、三回しか経験がありませんが……大丈夫です。全く問題ありません!
佐藤:おほん、……では残念ながら……
佐藤:って、ええっ? 大丈夫なの!?
田中:実は、高校の時の文化祭で無理やりメイド服を着せられた経験がありまして……。
0:田中、再びスマホを見せる
田中:恥ずかしながら……これがその時載せた写真ですね……。
佐藤:くっ、私より可愛い……。
佐藤:なにこれ、いいねが二万も付いてるじゃない……。
佐藤:料理が上手くてさらに可愛い……それに、ネットにも強い……!
佐藤:新しい客層にアピールできるかも……。
佐藤:うちとしては喉から手が出るほど欲しい人材……。
佐藤:うう、でも採用するわけには……。
佐藤:うーん……うーん……。
田中:あの、大丈夫ですか……?
佐藤:……し、失礼。
佐藤:ちょっと人生について苦悩してまして……。
佐藤:お、おほん、えーと、では、志望動機は?
田中:はい、ぜひともこちらのキッチンで修行をさせていただきたく。
田中:私の目的にぜひとも必要なのです。
佐藤:何だか深い事情がお有りのようですね……。
佐藤:その辺り、差し支えなければ教えていただけますか?
田中:はい、実はうちは兄妹二人だけで暮らしておりまして、私は五歳の妹に毎日お弁当を作っています。
佐藤:まあ……お若いのに苦労されてるのですね。
田中:はい。
佐藤:うんうん……それで?
田中:しかし、先日うっかり妹のひまりのプリンを食べてしまいまして……。
田中:それ以来、ひまりが口を利いてくれないのです。
田中:ひまりに嫌われたら私は生きていけない…!
佐藤:(急に軽い話になったわね……)
田中:そんなひまりが、先日、ぽろっと口に出したのです。
田中:今度の運動会でキャラ弁を作って欲しい、と。
田中:なんでも、ひまりの幼稚園では可愛らしいキャラクターの入ったお弁当が大流行していると。
佐藤:な、なるほど……。
佐藤:しかし、あなたの器用さならキャラ弁くらい簡単なのでは?
0:田中、再びスマホを取り出す
田中:そしてこれが……先日私が実際に作ってみた、キャラ弁の写真です。
佐藤:これは……ゾンビ……でしょうか。
田中:猫です。
佐藤:えーっと、横にあるこの顔は……これもゾンビかしら……。
田中:お花です。
佐藤:このゾンビがお弁当に入ってたらひまりちゃんも気の毒ね……。
田中:そうなのです……。私は悩みました。
田中:可愛い妹にキャラ弁を作ってあげたい。
田中:しかし、私には絵心が絶望的に無い!
田中:そこで知ったのがこのお店!
田中:オムライスの上にケチャップで見事な装飾を描くと。
田中:ぜひこの店で働いて、立派なキャラ弁を作る術を勉強させていただけないでしょうか……!
佐藤:なるほど……。熱意は分かりました。
田中:ぜひ、この通り。
佐藤:(どうしよう……。熱意は歪んでるけど、使える人材だし……)
佐藤:(うう、でも! だめよ! だめ! 私の心の平穏のほうが大事……! やっぱりお断りしよう……)
0:
0:数分後、店の前にて
佐藤:田中様。
田中:はい。
佐藤:本日はご足労いただき、誠に有難うございました。
佐藤:熟考の上、お返事させていただきますが……、おそらく、ご期待には添えかねるかと思われます。
田中:そうですか……。
佐藤:(ふう……これで一件落着かしら……)
佐藤:ええ、申し訳ございません。
田中:すみません、無理を言ってしまって。
田中:佐藤先輩。では、本日は失礼致します。
佐藤:……とんでもございません……。
佐藤:えっ?
佐藤:……今、なんと……?
田中:佐藤先輩?
佐藤:……。
佐藤:いつから……気づいてたの?
田中:まあ……最初からですね。
田中:というかその格好可愛いですね。
田中:特に尻尾が。萌えます。
田中:その高めの声もたまりませんね。
田中:ぜひ、今度から研究室でもその格好でお願いできますか?
田中:私はエリザベス先輩とお呼びしますので。
田中:あと、記念にツーショットチェキというのをぜひ。
佐藤:うううう、雇う!
佐藤:雇います!
佐藤:即決です!
佐藤:雇うのでこの件は何とか内密にお願いしますううう……。
0:大学の研究室にて
佐藤:それじゃあこのレポートを来週末までにクラウドにアップして頂戴。
佐藤:私がまとめて学会に提出するわ。
田中:分かりました。
田中:しかし、そうするとウェルテル効果が働くわけで……。
田中:コンセンサスを取りながら位相(いそう)合わせをしていきましょう。
0:
佐藤M:私は某大学の研究室で働く理系女子。
佐藤M:そんな私には……誰にも言えない裏の顔がある。
0:
0:とあるメイド喫茶にて
佐藤:おかえりなさいませ~♪
佐藤:ご注文は何になさいますか? 御主人様。
0:
佐藤M:そう。私は休日、メイド喫茶で働いているメイドさんなのだ。
佐藤M:何故なら、ここは私の実家であり、万年人手不足なので手伝わないと店が回らないのだ……。
佐藤M:こんな姿、大学の皆には絶対にバレるわけにはいかない……。
佐藤M:しかし私はメイド喫茶の娘。プロとして、今日も立派にメイドを努めてみせる!
0:
0:路上にて
田中:昨日の先輩の論文、凄かったなー。俺も早くあの域までたどり着きたいぜ……。
0:
田中M:俺は、某大学の研究生。周りからはインテリ眼鏡と呼ばれている。
田中M:同じ研究室の佐藤先輩が密かな目標だ。
田中M:そんな俺は、わけがあってメイド喫茶に向かっている。
0:
0:数分後、店の前にて
田中:ふう、緊張するな……。
田中:ああ、ここの店だ。
佐藤:おかえりなさいませ~。
佐藤:(……って、ええっ? 今入ってきたの、同じ研究室の田中君じゃない!)
佐藤:(何で? どうして? ここが私の実家ってこと、バレてる?)
佐藤:(いや、そんなわけ無いよね……)
佐藤:(うう、気まずい……。こんな時に限ってホールには私しかいないし……)
佐藤:(とりあえず私だってバレないように顔を隠して……声も少し変えなきゃ……)
0:
0:田中、店内を見回しながら
田中:おお、綺麗な店だなあ。
田中:アンティーク調の雰囲気だ。
田中:しかし、誰もいないな……。
田中:あのー、すいませーん。
0:
0:佐藤、高めの声でこたえる
佐藤:は、はーい、ただいま伺いまーす。
佐藤:お待たせいたしました。ご主人様。
田中:えっ……。
佐藤:……?
佐藤:ど、どうかなさいましたか?
田中:あなた……。
佐藤:は、はい。
佐藤:(バ、バレた……?)
田中:すっごくかわいいお声ですね!
佐藤:そ、そうですかー……?
田中:ぜひ、お名前を。
佐藤:エ、エリザベスって言いますう~。
田中:おお、可愛らしいお名前ですね。
田中:ちなみに、そのお顔に着けているものは?
佐藤:今週はコスプレデーとなっておりまして、たぬきの被り物をしております。
佐藤:(良かった! バレてない! さすが私!)
田中:前、見えますか?
佐藤:全く問題ありません。
佐藤:このお店は私の庭みたいなものですから。
田中:凄いなあ。
佐藤:それで、御主人様。
佐藤:本日はお一人でしょうか?
田中:ええ、実は、アルバイトの面接にお伺いしたんですが、三十分ほど早く来てしまったようで……。
田中:申し訳ありませんが、面接のお時間まで店内で過ごしても構わないでしょうか?
佐藤:かしこまりました。
佐藤:それではお席にご案内いたします。
佐藤:(ええええ、アルバイトおお? ここで働くの? 田中君が?)
佐藤:(いやいやいや困る困る困る。私の裏の顔は誰にも知られるわけにはいかないのに……)
佐藤:(と、とにかく何とかして穏便にやり過ごすのよ……)
佐藤:(大丈夫。私はプロ。メイドさん歴二十年、これくらい簡単に乗り切れるわ)
0:
0:座席にて
佐藤:こちらがメニュー表でございます。
田中:おお、メニューもオシャレだな。
佐藤:御主人様は、こういったお店は初めてでございますか?
田中:ええ、まあ。
田中:とても格式があって素敵なお店ですね。
田中:その衣装も、とても可愛らしいです。
佐藤:ふふ、ありがとうございます。
佐藤:ご注文はいかがなさいますか?
田中:では、この、『ひよこさんオムライス』と……、『ふわふわ☆萌え萌えケーキ』というのを一つ。
佐藤:『ひよこさんオムライス』と……『ふわふわ☆萌え萌えケーキ』でございますね。
佐藤:かしこまりました、御主人様。
田中:あ、オムライスにはケチャップで絵を描いてくれるサービスがありますよね。
田中:是非お願いします。
佐藤:(初めてなのに詳しい……)
佐藤:かしこまりました。何をお描きしましょうか?
田中:うさぎさんでお願いします。
田中:横に書く文字は『お兄ちゃんラブ♪ いつもお勉強お疲れ様、ひまり』でお願いします。
田中:ひまりの字は太陽の陽に蹴鞠の鞠です。
佐藤:(細かい……ひまりって誰よ……)
佐藤:かしこまりました。
0:
0:数分後
佐藤:御主人様、お待たせいたしました。
佐藤:ご注文のひよこさんオムライスでございます。
佐藤:『ぴよぴよぴよぴよ♪ 美味しくなーれ☆』
田中:……?
佐藤:お、おほん。では、ケチャップでお絵かきの方を……。
佐藤:さっさっさっと。
0:田中、思わず立ち上がる
田中:おお……凄い! なんて可愛いウサギさんだ! これは食べるのがもったいない……!
田中:そしてこの文字、見事な明朝体だ!
田中:これがプロの仕事か……!
田中:俺の勘は間違ってなかった。是非このお店で働かなくては……!
佐藤:御主人様……?
田中:ああ、失礼しました。
田中:素晴らしい仕事です。
田中:ぜひともこのお店で働かせていただきたいと思ったところです。
佐藤:(いけない、余計なスイッチ入れちゃったかしら……)
佐藤:え、えーと、その件ですが……
佐藤:実は当店、現在アルバイトは募集していないのでございます。
田中:えっ。
佐藤:そういうわけですので、大変申し訳ありませんがお引取りを……。
田中:しかし、店の前には『キッチンスタッフ急募』と張り紙がありましたが……。
佐藤:あ~……。
佐藤:え~と、あれは、ゆる募の間違いでございます。
佐藤:プロ級の人材がいれば雇っても良いかなー……みたいな。
佐藤:ほら、メイドさんといえばドジっ子属性も完備しておりますから、きっと、当店のスタッフが間違えてしまったのでしょう。
田中:しかし、電話では面接の予約をしていただけましたが……。
佐藤:おそらく、当店のスタッフが聞き間違えたのかと思われます……。
佐藤:何しろ、コスプレをしておりますから、私のように被り物でもしていたのでしょう。
田中:そんな……。
田中:しかし、できれば何とか面接だけでもしていただけないでしょうか。
田中:私の熱意を知っていただければきっとお気も変わるかと!
田中:お願いします!
田中:この通り!
佐藤:(何でこんな熱心なのかしら……)
田中:お願いします!
佐藤:おほん、かしこまりました。
佐藤:ご主人様、お顔をお上げください。
佐藤:当店の不手際でもありますし……面接させていただきましょう……。
0:
0:佐藤、店内の事務所へ移動
佐藤:パパー。
佐藤:アルバイトの面接希望の方が来てるよ~……。
佐藤:ん、何この書き置き。
佐藤:えーと……『ぎっくり腰で病院に行く……面接はお前が適当に済ませといてくれ……』
佐藤:そ、そんなあ……。
0:
0:佐藤と田中、事務所にて
佐藤:お待たせいたしました……。
佐藤:引き続き、私が面接させていただきます。
佐藤:(うう……もう、さっさと終わらせて不採用にしてしまおう……)
佐藤:えーと、では、ご主人様、もとい田中様。
佐藤:キッチンスタッフをご志望とのことですが、料理のご経験はおありでしょうか?
田中:はい、子供の頃から、和洋中、一通りたしなんでおります。
0:田中、スマホを取り出して画面を見せる
田中:このようにSNSにも自作のメニューを定期的に投稿しております。
佐藤:何これ、綺麗なお料理……! プロ並じゃない……!
佐藤:え、フォロワー数……十万……!?
田中:料理は化学ですからね。
田中:先人の知恵を借りて、時間と配分を間違えなければさほど難しくはありません。
田中:それにSNSというのは、大衆心理を考えて最適な時間に最適なメッセージを投稿すれば、バズらせる事は難しくありません。
佐藤:(なるほど、さすが田中君。使える人材ね……)
佐藤:(で、でもダメダメダメ! なんとか難癖つけて断らないと)
0:
佐藤:お、おほん。
佐藤:しかし当店はメイド喫茶です。
佐藤:そこのキッチンスタッフとして働くその意味、田中様はお分かりでしょうか。
田中:……と言いますと?
佐藤:当然、キッチンスタッフの方にもメイド姿になっていただきます。
田中:女装ですか……。
佐藤:ご存知ないかもしれませんが、最近の喫茶店では……
田中:女装は二、三回しか経験がありませんが……大丈夫です。全く問題ありません!
佐藤:おほん、……では残念ながら……
佐藤:って、ええっ? 大丈夫なの!?
田中:実は、高校の時の文化祭で無理やりメイド服を着せられた経験がありまして……。
0:田中、再びスマホを見せる
田中:恥ずかしながら……これがその時載せた写真ですね……。
佐藤:くっ、私より可愛い……。
佐藤:なにこれ、いいねが二万も付いてるじゃない……。
佐藤:料理が上手くてさらに可愛い……それに、ネットにも強い……!
佐藤:新しい客層にアピールできるかも……。
佐藤:うちとしては喉から手が出るほど欲しい人材……。
佐藤:うう、でも採用するわけには……。
佐藤:うーん……うーん……。
田中:あの、大丈夫ですか……?
佐藤:……し、失礼。
佐藤:ちょっと人生について苦悩してまして……。
佐藤:お、おほん、えーと、では、志望動機は?
田中:はい、ぜひともこちらのキッチンで修行をさせていただきたく。
田中:私の目的にぜひとも必要なのです。
佐藤:何だか深い事情がお有りのようですね……。
佐藤:その辺り、差し支えなければ教えていただけますか?
田中:はい、実はうちは兄妹二人だけで暮らしておりまして、私は五歳の妹に毎日お弁当を作っています。
佐藤:まあ……お若いのに苦労されてるのですね。
田中:はい。
佐藤:うんうん……それで?
田中:しかし、先日うっかり妹のひまりのプリンを食べてしまいまして……。
田中:それ以来、ひまりが口を利いてくれないのです。
田中:ひまりに嫌われたら私は生きていけない…!
佐藤:(急に軽い話になったわね……)
田中:そんなひまりが、先日、ぽろっと口に出したのです。
田中:今度の運動会でキャラ弁を作って欲しい、と。
田中:なんでも、ひまりの幼稚園では可愛らしいキャラクターの入ったお弁当が大流行していると。
佐藤:な、なるほど……。
佐藤:しかし、あなたの器用さならキャラ弁くらい簡単なのでは?
0:田中、再びスマホを取り出す
田中:そしてこれが……先日私が実際に作ってみた、キャラ弁の写真です。
佐藤:これは……ゾンビ……でしょうか。
田中:猫です。
佐藤:えーっと、横にあるこの顔は……これもゾンビかしら……。
田中:お花です。
佐藤:このゾンビがお弁当に入ってたらひまりちゃんも気の毒ね……。
田中:そうなのです……。私は悩みました。
田中:可愛い妹にキャラ弁を作ってあげたい。
田中:しかし、私には絵心が絶望的に無い!
田中:そこで知ったのがこのお店!
田中:オムライスの上にケチャップで見事な装飾を描くと。
田中:ぜひこの店で働いて、立派なキャラ弁を作る術を勉強させていただけないでしょうか……!
佐藤:なるほど……。熱意は分かりました。
田中:ぜひ、この通り。
佐藤:(どうしよう……。熱意は歪んでるけど、使える人材だし……)
佐藤:(うう、でも! だめよ! だめ! 私の心の平穏のほうが大事……! やっぱりお断りしよう……)
0:
0:数分後、店の前にて
佐藤:田中様。
田中:はい。
佐藤:本日はご足労いただき、誠に有難うございました。
佐藤:熟考の上、お返事させていただきますが……、おそらく、ご期待には添えかねるかと思われます。
田中:そうですか……。
佐藤:(ふう……これで一件落着かしら……)
佐藤:ええ、申し訳ございません。
田中:すみません、無理を言ってしまって。
田中:佐藤先輩。では、本日は失礼致します。
佐藤:……とんでもございません……。
佐藤:えっ?
佐藤:……今、なんと……?
田中:佐藤先輩?
佐藤:……。
佐藤:いつから……気づいてたの?
田中:まあ……最初からですね。
田中:というかその格好可愛いですね。
田中:特に尻尾が。萌えます。
田中:その高めの声もたまりませんね。
田中:ぜひ、今度から研究室でもその格好でお願いできますか?
田中:私はエリザベス先輩とお呼びしますので。
田中:あと、記念にツーショットチェキというのをぜひ。
佐藤:うううう、雇う!
佐藤:雇います!
佐藤:即決です!
佐藤:雇うのでこの件は何とか内密にお願いしますううう……。