台本概要

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タイトル 死神の鎮魂歌~requiem of grim reaper~第一番 炎嗟
作者名 神風雷神  (@populight)
ジャンル その他
演者人数 5人用台本(男3、女2)
時間 50 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 どこにでもある街の、どこにでもある寂れた空き地。その中でも、何年も空き地になっている場所が少なからず存在する。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。
「死神事務所」。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。
しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。近づいたからといって、からかったからといって何もしない。
死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。
今日も今日とて、死神の一日が始まる。


皆様に楽しんで読んでもらえますように・・・。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
冥助 126 天川冥助(あまかわめいすけ)。とある町にある「天川死神事務所」の死神。この話の主人公。見た目は軽い感じで死神の仕事をめんどくさがる一方で、困っている人を放っておけない性格の男。普段は事務所兼空き地でのんびりしているが、人の悲しみや憎しみに反応し、面倒くさがるものの、願いを聴き届けて大鎌を振るう。
矢吹 29 矢吹迅(やぶきじん)。事件や事故の情報をすぐに収集する情報屋。どこからともなく現れたり、人間技とは思えない速さで仕事をこなし、幽霊や死神が見えるが、間違いなく人間。天川がこの町に来た時からの知り合いで、何故かいつも天川に協力する人物。町にいる幽霊を天川のところに案内している。
響子 59 高嶺響子(たかねきょうこ)。天川の隣町で執行している死神。成績優秀、容姿端麗で霊からも死神からも人気があるそうだが、怒っても喜んでもすぐに手が出るところがあり、周りを叩いて黄泉病院送りにすることも。天川のしていることに興味があり、いつも小言を言いながらも協力してくれる。
亜子 47 北條亜子(ほうじょうあこ)。今回の話の被害者。母親と二人暮らしの15歳の少女。病弱で気が弱く、家にいることが多い。火事で焼死したと言われていたが実は攫われ、気を失っている。
時哉 48 北條時哉(ほうじょうときや)。今回の話の犯人。北條亜子の叔父にあたる。亜子を焼死したと見せかけて攫い、密かに母親から身代金を要求しようとしている。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:死神の鎮魂歌~requiem of grim reaper~第一番 炎嗟 0: 冥助:天川冥助 冥助:とある町にある「天川死神事務所」の死神。この話の主人公。見た目は軽い感じで死神の仕事をめんどくさがる一方で、困っている人を放っておけない性格の男。普段は事務所兼空き地でのんびりしているが、人の悲しみや憎しみに反応し、面倒くさがるものの、願いを聴き届けて大鎌を振るう。 0:  矢吹:矢吹迅 矢吹:事件や事故の情報をすぐに収集する情報屋。どこからともなく現れたり、人間技とは思えない速さで仕事をこなし、幽霊や死神が見えるが、間違いなく人間。天川がこの町に来た時からの知り合いで、何故かいつも天川に協力する人物。町にいる幽霊を天川のところに案内している。 0:  響子:高嶺響子 響子:天川の隣町で執行している死神。成績優秀、容姿端麗で霊からも死神からも人気があるそうだが、怒っても喜んでもすぐに手が出るところがあり、周りを叩いて黄泉病院送りにすることも。天川のしていることに興味があり、いつも小言を言いながらも協力してくれる。 0:  亜子:北條亜子 亜子:今回の話の被害者。母親と二人暮らしの15歳の少女。病弱で気が弱く、家にいることが多い。火事で焼死したと言われていたが実は攫われ、気を失っている。 0:  時哉:北條時哉 時哉:今回の話の犯人。北條亜子の叔父にあたる。亜子を焼死したと見せかけて攫い、密かに母親から身代金を要求しようとしている。   0:某所 未明 火事現場にて   亜子:どう、なってるの?どうして、こんな、ことに・・・? 時哉:お前等が悪いんだぁ。お前も、あいつも、俺の邪魔ばっかりするからぁ。 亜子:く・・・苦しい・・・。熱い・・・。お母さん・・・。誰か・・・誰か、助けて・・・。 時哉:大丈夫さぁ。助けてあげるよぉ。でもぉ、お前の命は俺が預かるよぉ。まぁ、いずれはぁ・・・くっくっくっ・・・。 0:  0:  0:  矢吹:どこにでもある街の、どこにでもある寂れた空き地。その中でも、何年も空き地になっている場所が少なからず存在する。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。 矢吹:「死神事務所」。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。 矢吹:しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。近づいたからといって、からかったからといって何もしない。 矢吹:死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。 矢吹:今日も今日とて、死神の一日が始まる。   0:某日 午後七時三十分 事務所兼空き地  冥助: (あくびをしながら)ふあぁぁぁ~~~・・・。あ~~~暇だ~~~。  響子: いいじゃないの。私達の仕事は、人の命を扱う仕事!暇だっていうことは、この街が平和だってことじゃない!いいなぁ、そんな街に当たってて。  冥助: そういうお前はどうなんだよ。お前、隣街の管轄だろ?  響子: 私の街は結構高齢者が多いの。毎日のように仕事が来るわよ?  冥助: だったらこんなところで油売ってる時間ねぇだろ?とっとと帰れよ。  響子: だったら!私がさっきから聞いてることに答えなさいよ!この街で起こった、火事で女の子が亡くなった事件!うちの亡くなってる人の中に血縁者がいて、聞いてきてくれってうるさいのよ!  冥助: お前は何なんだ?市役所に時々いるお人良しか何かか?うちの管轄外だから無理って一蹴すればいいじゃねぇか。  響子: そこは私とあんたとの仲じゃない。誰とでもこんなことしてるわけじゃないんだから!  冥助: あ~~~、分かった分かった。ちょっと確認するから待ってろ。え~~っと・・・・・・たしかあの事件って昨日だったよな?  響子: ええ、そうよ?  冥助: おかしいな・・・。そんな事件で亡くなったっていう子、一人も来てねぇぞ?  響子: そ、そんなはずないわ!たしかにこの街で起こった火事だもの!間違いないわ!  冥助: ・・・ああ。たしかにウチの街の火災だ。  響子: でしょ?で、既に死亡者が出たってニュースになってたわよ?  冥助: ・・・おかしいな・・・。まさか、アイツ・・・仕事すっぽかしやがったか・・・?  響子: え?何の事?  冥助: あ、いや、こっちの話だ。でも、ん~・・・  0:  0:  亜子: あ、あの~・・・。  冥助: ん?  亜子: こ、ここが、天川相談事務所ですか?  響子: ・・・ん?お客さん?  冥助: ああそうだ!困ったことがあれば相談に乗る優しい人、天川冥助の相談事務所へようこそ!  響子: ・・・(笑いをこらえながら)・・・自分で言ってて恥ずかしくないの?優しい人って?  冥助: うるせえんだよ!  亜子: ・・・・・・何もない広場ですけど、本当に合ってますか?  冥助: ああ。不要なものは置かない主義なんでね。机もなければ建物もないよ。・・・俺達、死神にはね。  亜子: あ・・・やっぱり、死神さんなんですね。  響子: あら?怖がらないのね?珍しい。  亜子: 気が付いたら街中を歩いてて、人をすり抜けれたし、誰に声をかけても反応しないし、私、死んじゃったんだって・・・。  響子: ああ、時々いるケースの子ね。気づかないうちに死んじゃってて何とかここまで来るケース。  冥助: ・・・・・・・・・・  響子: でも、よくここが分かったわね。  亜子: えっと、ヤブキって人に言われたんです。ここに来たら、いろいろ教えてくれるって。  響子: ん?ねぇ、矢吹って誰―――  冥助: あーーー!アイツね!分かった!じゃあお兄さんは、ちょうど今から仕事だから!その間、この!お姉さんに自分のこと、いろいろ伝えておいて!  響子: え、え、えええ?ちょちょちょっと!  冥助: 悪い!頼んだ!  響子: ま、待ちなさいよぉ!  亜子: ・・・お、お姉さん・・・?  響子: ・・・ハァ、仕方ないなぁ。ちょっとだけ相手してあげる。名前は?  亜子: あ、北條亜子って言います。  響子: ・・・え・・・?  0:  0:午後八時 路地裏   冥助: おい、矢吹。  矢吹: ん?おお、これはこれは。この街の何でも相談事務所所長、天川冥助じゃないか。  冥助: しらばっくれてんじゃねぇ。どういうことだ?  矢吹: ん?何がだい?  冥助: とぼけるな。あの女の子、昨日の火事の被害者だろ?  矢吹: ああ、そうだとも。  冥助: ああ、そうだともって・・・、何で昨日の時点で俺に報告がないんだ?  矢吹: ・・・ハァ。おいおい、本気で言ってるのか?あんたなら分かると思ってたんだけどなぁ。  冥助: ・・・やっぱり、そういうことか。  矢吹: そういうこと。あの子は、まだ死んでいない。まだ、生死の境を彷徨ってる。  冥助: で、俺たちが見えているということは・・・。  矢吹: そういうことだ。だが彼女は、まだそれに気づいていない。  冥助: だろうな。でもあの感じだと、このままじゃじきに逝っちまうぞ?  矢吹: そうなんだよ。だからこそ、あの子のことを頼みたい。  冥助: それじゃぁ本当に何でも屋になるじゃねぇかよ。死神ってのは、死んじまった魂を黄泉の扉に送ることがメインなんだぞ?生殺与奪は後で始末書もあるんだぞ?まったく、めんどくせぇなぁ・・・。  矢吹: それでもしっかり対応する。困っている人がいたら見逃さない。人道に反することは許せない。そうなれば生殺与奪も辞さない。それが、天川冥助だろ?  冥助: ・・・・・・ただし、そいつの素性は調べてくれよ?何もない状況じゃあ、俺は何もできない。このままだとあのお嬢ちゃんをそのまま見送ることになるぞ?  矢吹: もちろん、昨日から調査中さ。あともう少しだから、後で落ち合おう。  冥助: 分かった。頼んだぞ?相棒。   0:午後八時三十分 事務所兼空き地 亜子: それで、お母さんは、テレビ局のアナウンサーなんです。  響子: へー!そうなんだー!すごーい!・・・ああ、もう!空気保つのしんどいし、早く帰ってきなさいよぉぉぉ・・・!  冥助: おお、さすがは隣町の女神様!どんな相手でもよく対応できぶふわぁっ!!! (盛大に殴られる) 響子: お・そ・い・ん・だ・け・ど?次は首ごと刈り取られる?ん?  冥助: 悪い!謝る!お前、力めちゃくちゃ強いんだから!それを振り下ろすなよ?その右拳を振り下ろすなよ?!  響子: まったく・・・。  冥助: あ、お嬢ちゃん、この人に自分のこと、いろいろ話したかい?  亜子: え?あ、は、はい、一応・・・。  冥助: そうかそうか!じゃあちょっと打ち合わせがあるから、向こうで待っててくれるかな?本当にちょっとだけ!このお姉さんと話があるんだ。  亜子: あ、はい、分かりました・・・。  0:  0:  冥助: ・・・・・・で、どんなこと言ってた?  響子: ・・・北條亜子、十五歳。お父さんは五年前に交通事故で他界。お母さんはアナウンサーだけど、北條なんて聞いたことないから、地方局かもね。お母さんと二人暮らしで、やっぱりあの火事現場のアパートに住んでたわ。お母さんも仕事で家を空けて、あの子が家に一人でいることも多かったみたい。  冥助: でも、何か変だったんだろ?  響子: あんた・・・気づいてたの?  冥助: 違和感を教えてくれ。答え合わせがしたい。  響子: ・・・問題は彼女の記憶。火事の起こった時間、何か甘い匂いを嗅いで、そこから気を失った。しかもその時、あの子は母親以外の人間と一緒にいた。  冥助: やっぱりそうか。  響子: 知ってたなら教えなさいよ。  冥助: いや、確証もなかったから、知り合いの矢吹って奴に話を聞いてきたんだ。  響子: 矢吹って誰?  冥助: まあ、おいおい話すさ。で?その一緒にいた相手は誰だ?  響子: ・・・あの子の叔父さんだって。時々、お母さんからお金を借りに来るそうよ?  冥助: なるほど。やっぱりそういう類か。  響子: 多分だけど、その叔父が放火をしたのね。火事のニュースで、その叔父についてのコメントはなかったはずだもの。お母さんがいなくて腹を立てた叔父が、あの子が寝た後に放火をした。そうして北条亜子を殺した後、姿をくらませて逃走―――。  冥助: いや、北條亜子は死んでいない。  響子: は?何言ってるの?現に今、私達の目の前にいるじゃない。  冥助: 響子。幽霊になって現れる奴らの中に、死んだ奴以外に特例がいるって、覚えてないか?  響子: ・・・まさか。  冥助: まだ憶測だ。だが、あの子は死んでいない。死んでいなくて幽霊になって現れるのは、気を失っていて尚且つ、誰かから殺意を向けられている時だ。  響子: ということは、殺意を向けているのは・・・叔父?  冥助: 可能性は高い。だが、すぐに矢吹が調べてくれるはずだ。  響子: ・・・ねえ、その矢吹って誰なのよ?  冥助: だから言っただろ?後で話すってよ?  0:  0:同刻 大通り 0:  時哉: まったくよぉ・・・今日もはずれかぁ・・・。今日の台はいけると思ったんだけどなぁ・・・。  矢吹: ・・・・・・姉の家が燃えたにもかかわらず、朝からスロットとは・・・、確定だな。  時哉: ・・・さてぇ、そろそろ戻らねぇとなぁ。あの嬢ちゃんの様子も見ておかないとなぁ。ポックリ逝かれちまったら身代金要求できねぇしなぁ、くっくっくっ・・・。  矢吹: ・・・やっぱりそうか・・・。後をつけるしかないな。  時哉: (ふと電子掲示板の文面に目が留まる)・・・ん?ニュース・・・?・・・おいおいぃ、もうバレたのかよぉ。まぁ、仕方ねぇかぁ。道端に落ちてたゴミみてぇなもんだったからなぁ。急いで次の支度をしなきゃなぁ。そのためには買い出し買い出しっと・・・。  矢吹: ・・・これはまずいな。でも、ようやく尻尾を出したな、ゴミ屑さん。  0:  0:午後八時四十分 事務所兼空き地 0:  冥助: お待たせ、お嬢ちゃん。  亜子: あ、はい。  冥助: 早速だけど、お嬢ちゃんの今の状態、分かってる?  亜子: えっと・・・やっぱり、私、幽霊なんですか・・・?  冥助: まあ、そういうことになる。  亜子: ということは・・・やっぱり死んじゃったんですね、私・・・。  冥助: いや、お嬢ちゃんはまだ死んでない。  亜子: え?  響子: 実はね、あなたはまだ、意識を失っている状態。時々、そんな人が幽霊になって現れてしまうことがあるの。  冥助: しかも!こっちの世界には、幽霊を地獄に連れて行っちゃうこわ~~~~いやつもいたりするんどぐえっ!!!  響子: こ・わ・が・ら・せ・な・い・の・!!!  亜子: あ、あの、私、どうすれば・・・。  冥助: あー大丈夫だ。この事務所・・・っていうかこの空き地の中にいる限り、他のやつらは悪さできなくなってる。意識が戻るまでここにいたらいいさ。  亜子: よ、よかった・・・。  冥助: ただし、条件がある。  亜子: 条件、ですか?  冥助: 簡単なことさ。・・・・・・このお姉さんに、自分の気持ちを正直に伝えること!  響子: ちょっと!あんたまた私に―――  冥助: すまんな。まだ大切な仕事が残ってんだ。  響子: まったく・・・で?いつまでかかりそう?  冥助: 長くても3,4時間ってところだな。  響子: 長いわよ!次はうちの仕事、手伝ってもらうんだからね!  冥助: 大歓迎!じゃあ、行ってくる!  響子: ・・・・・でね、亜子ちゃん。もし死んでないとしたらどうなってるか、想像できる?  亜子: ・・・きっと、あの人は、私を・・・  0:  0:午後十時十分 裏路地  冥助: やっと来たか矢吹。遅いぞ。情報は集まったか?  矢吹: あぁ、なんとかね。今回は参ったよ。素性が全く読めなくてね。まったく・・・仕事をしてるやつを探すよりも、フリーターのやつの情報を探す方が難しい。  冥助: 手短に話せ。時間がない。  矢吹: 分かったよ。相手は被害者の叔父、北條時哉。被害者の母親の弟で、仕事もせず遊び惚けのパチンコスロット三昧。寝床としてあの親子の家に入り浸ってたみたいだね。  冥助: 身寄りもないのか?  矢吹: 2年前に死別。今回の北條の素性は、そこから裏が取れた。  冥助: どういうことだ?  矢吹: 2年前、亡くなったのは隣町の民家。当時北條時哉と両親の三人暮らし。キッチンからの出火が原因で両親が死亡。時哉は軽傷で難を逃れた。という話になっているが、どうやらこの話がデマのようで、いつまでもニート生活をしていることをたしなめられたことに怒った時哉が両親を殺害。それも睡眠薬を飲ませた後、キッチンにわざと火をつけたそうだ。  冥助: とことん性根が腐ってやがる・・・。で?その後、どうしてあの家に?母親は断れなかったのか?  矢吹: 最初はもちろん断ったようだよ。だけどどうやら、今回の被害者、亜子ちゃんを使って揺さぶりをかけていたらしい。金のことを話す時には、事前に盗撮した亜子ちゃんの写真や動画をばら撒くと言って脅していたようだよ。  冥助: おい。本当にそいつは人間なのか?聞いてて反吐が出るぞ?  矢吹: 人間っていうのは、そういう生き物だと思った方がいいさ。でも、この話には続きがある。ある日母親が、時哉のそのデータを削除したんだ。娘を守るためにね。これに時哉が激怒。亜子ちゃんしかいない夜中を見計らってアパートに放火をした。アパートからは死体が発見され、亜子ちゃんだと認定された。でも、その死体はどうやらホームレスを引っ張ってきたもので、別の人間だったらしい。  冥助: ああ、数日前に餓死しちまって、俺に会いに来た後に死体が無くなったって泣きついてきたあのホームレスか?・・・なるほど。そりゃあ見つからないわけだな。ということは、やっぱり亜子ちゃんは。  矢吹: ああ。時哉に誘拐された状態だ。ただ、あの状態ということは、確実に生きている。人間は死んだ時に必ず自分の死体を見る。だけど、亜子ちゃんはそれを見ていない。それであの状態ということは・・・  冥助: どこかで気を失っている、ということか。で?その監禁場所はどこなんだ?  矢吹: ・・・おそらく・・・ここだよ。漁港近くの第6倉庫。北條時哉もおそらくここにいる。急いだほうがいい。  冥助: ・・・いつもありがとうな。まったく・・・俺が言うのもなんだけど、どうやってこんな情報を集めてくるのやら・・・。  矢吹: ふふっ・・・それは企業秘密ってやつさ、死神さん。   0:午後十時五十分 事務所兼空き地  亜子: はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・  響子: だ、大丈夫?!ど、どうしたの?!  亜子: く・・・苦しい・・・。息が、しにくい・・・。  響子: 霊体なのに、息ができないってまさか・・・。  冥助: チッ!始まっちまったか!  響子: ちょっと冥助!まさかこれって!  冥助: ああ!気を失っている間に命の危機に瀕したときに、こういうことが起こるってことあっただろ!  響子: じゃあ、まさか今!  冥助: そういうことだ。この子は今、意識不明の中で死にかけている!息がしにくいってことは、首か空気か。いや、首なら痛みが生じるはずだ。だとすると空気か。水か、密閉か、あるいは・・・。  亜子: お、お兄、さん・・・。  冥助: ・・・お嬢ちゃん。一つ聞いておくことがある。・・・お前は今、本当に死にそうになっている。もしかしたら殺されかかってるのかもしれない。その相手が誰か、分かるな?  亜子: ・・・はい・・・  冥助: お前は、どうなることを望む?  亜子: ・・・お願い・・・あの人を・・・消して・・・。これ以上・・・お母さんを、苦しま、せないで・・・  冥助: ・・・・・・優しいな、お嬢ちゃんは。大丈夫だ。俺たちが必ず嬢ちゃんを探し出す。だから、ちょっと待っててくれ。  亜子: ・・・はい・・・ (消えてしまう) 響子: (しばらくして)・・・説明してくれる、冥助?  冥助: 犯人はあの子の叔父だ。理由はあの子の母親が金をくれなくなったことへの逆恨み。  響子: そんなことは分かってる。あの子から話は聞いてるわ。で?目星はついてるの?  冥助: 間違いじゃなければ、この町の港の第6倉庫。ここは冷房が効く保冷倉庫だ。さっさと探さねぇと間に合わねぇ。  響子: 手伝うわ。行きましょう!時間がない!  冥助: サンキュー!でも響子!お前にはすぐに確認してもらわないといけねぇことがある!  響子: 何よ!亜子ちゃんより大事なわけ?  冥助: 超大事だ!俺たちが今から会いに行くやつに鉄槌を下すには、承認が必要だ!誰に承認してもらうか、分かるだろ?  響子: ・・・・・なるほどね!了解!すぐ承認を取ってくる!だから、絶対に間に合わせなさいよ!  冥助: ああ、分かってる!頼んだぜ!  0:  0:午後十一時二十分 第6倉庫   時哉: こいつぅ・・・。これぐらいの温度で死にかけやがってぇ・・・。  亜子: ・・・ぅ・・・ぁぁ・・・  時哉: まだくたばってもらうわけにはいかねぇんだよぉ・・・。姉貴に身代金を要求するための動画を撮らねぇといけねぇしよぉ・・・。まぁ、それが終わったらどっちでもいいから、な?  亜子: ・・・ぁ・・・っ・・・  時哉: ・・・なんだよぉ。これぐらいで人って死にそうになるんだなぁ。喋れないのか?そんなにつらいのか?え?  亜子: ・・・もぅ・・・・・・ゃめて・・・っ・・・ぉかぁさん、に・・・ひどぃこと・・・しなぃで・・・  時哉: ・・・あ?誰に指図してんだよぉ!!! (亜子を叩く) 亜子: ぅっ!・・・ぁぁ・・・っ・・・!  時哉: どいつもこいつもぉ!俺のことをぉ!馬鹿にしやがってぇぇっ!もういい!動画はあとでどうにでもなる!まずはお前をぉ!辱めてぇ!切り刻んでぇ!見た目が分からねぇようにしてからぁ、殺してやるよぉ!  亜子: ・・・っ!  時哉: でもってぇ!金をふんだくったらぁ!姉貴も同じようにあの世へ送ってやるよぉ・・・!さぁ、先に行ってぇ・・・姉貴が来るのを待ってるんだなぁ・・・!  亜子: ・・・がぃ・・・た・・けて・・・。  時哉: くっくっくっ・・・。ここにきて命乞いかぁ?しろよしろよぉ。泣きわめきながらぁ。最期まで命乞いしろよぉ!ははははははは!!!  亜子: (笑い声に被せるように)・・・助けて・・・この人を・・・消して・・・お願い・・・死神さん・・・っ!  0:  0:  冥助: おやおやぁ?こんなところに人を殺そうとしてるやつがいるなぁ?  時哉: ・・・あぁ?  冥助: あれぇ?おかしいな?お前の顔、知り合いに一人もヒットしねぇんだけど。  時哉: 何だぁ?おい!どこにいる!  冥助: こんな人の来ないところで、こんな人がいなさそうな時間に、そんなかわいい子とたった二人!しかもそれがまずは凌辱目的とはねぇ。  時哉: どこにいるって聞いてんだよぉ!早く姿を見せろよぉ!じゃないと!この女を今すぐ殺すぞぉ!  冥助: 最後に聴く。お前は、死神か?  時哉: ・・・はぁ?  冥助: どうなんだよ。お前は死神か?  時哉: な、何を訳のわからねぇことぉ!でも面白れぇなぁ!たしかに、人を殺した俺ならぁ、死神かもしれねぇなぁ!へっへっへ・・・  冥助: ・・・・・・てめぇが死神を語るな。 (空中でふっと突然現れる) 時哉: ・・・はぁ?・・・え?  冥助: 死神っていうのは、本来生殺与奪はしない。死んじまった魂を黄泉の扉へ送り届けるのが仕事だ。だが稀に、生殺与奪に関係する仕事が入ってくる。  時哉: え?・・・何で、体が浮いて・・・??  冥助: 生きている魂を刈り取ること。だがこれは簡単じゃない。これには生きている者と死んでいる者の強い思いが必要なんだよ。難しいからなかなか起こることじゃない。だが、受理されたんだよなぁ、これが。  時哉: は?さっきから何言って・・・  冥助: (被せるように)死んでいる者からは、北條博文と北條千恵、生きている者は、北條亜子から。合計三人。受理されるには生きている者と死んでいる者からそれぞれ一人は申請が必要だが、申し分無し。何でこの三人から恨まれてるか、お前ならよ~~~く分かるよなぁ?  時哉: ・・・何で・・・死んだ二人の名前を知ってんだ・・・?まさか、刑事か?!  冥助: 空中プカプカ浮かぶ刑事を見たことがあるか?しっかり隣町の死神相談所で受理されてんだよ。焼死体としてな。  時哉: ・・・・・・・・・・。  冥助: でも、その二人が言ってんだよ。息子に睡眠薬を飲まされた。その後家に火をつけられて、気づいた時には体は燃えていたってな。息子って・・・誰だか分かるよなぁ?  時哉: ・・・・・・・・・・。  冥助: で、生きてる二人はその子とその母親。まぁ分かり切ってることだよなぁ、お・じ・さ・ん?  時哉: 何なんだよぉ・・・何なんだよぉ!!お前ぇ!!!  冥助: 俺は、天川冥助。職業は、死神。お前の魂を刈りに来た。  時哉: な・・・っ!  冥助: 罪状。北條博文と千恵の二人を放火殺人、北條亜子とその母親の北條香奈の家を放火、路上のホームレスを死体遺棄、そして・・・そこにいる北條亜子の監禁致傷。叩けば出るわ出るわの埃だらけだな。  時哉: ・・・・・・・・・・っ!  冥助: もちろん、認めるよな?やってねぇとは言わせねえぜ?こっちは全部、調べ上げてるんだからな。  時哉: く、来るな!  冥助: おっと。  時哉: へっへっへっ!それ以上近づくとぉ・・・コイツの命がどうなっても知らねぇぞぉ?(ナイフを亜子の首筋に当てる)  亜子: ひ・・・っ!  冥助: お前・・・本当にクズ中のクズだな。  時哉: うるせぇ!!!黙って聞いてりゃあ好き放題言いやがって!ああそうだよぉ!俺が殺したんだ!親のすねかじりだとか働けだとか毎日毎日煩かったからなぁ!だから燃やしてやったんだ!それに姉貴もぉ!黙って俺の言うことを聞いてりゃいいのに!反抗してくるからこんなことになるんだよぉ!皆あいつ等が悪いんだ!そんでコイツもぉ!いちいちいちいち俺のことをクズを見るような目で見てきやがって!こんなやつ!死んじまえばいいんだ!二人やってんだ!一人増えたって同じなんだよぉ!!!(突き立てる力が強くなる)  亜子: っ・・・あ・・・助けて・・・お願い・・・  冥助: ―――おい。  時哉: あ?なんだ・・・よ・・・?  冥助: (ナイフを突き立てていた腕を斬りおとす)とりあえず、これ、いらねぇよな?  時哉: ぁ・・・あ・・・あああああああああああ!!!!!いてええええええ!!!!!俺のぉ!!俺の腕がああああ!!!!!  冥助: ああ、うるせえんだよ!ここまで自分勝手しておいて腕一本持っていかれたところで、何をそんなに喚いてんだよ。  時哉: お、お前・・・何だよその鎌はよぉ!!!俺を殺す気なのか?!  冥助: だから言ってんじゃねぇか。魂を刈りに来たって。  時哉: ・・・・・。  冥助: 俺がいただくのはお前の魂。どうせ地獄に行くんだから、腕を取られようが足を取られようが関係ねぇんだよ。どうせお前に訪れるのは、 死 なんだからよ。  時哉: ひ、ひいいいいいいいいい!!!!!(逃げ出す)  冥助: ・・・・・お嬢ちゃん。覚悟は、出来てるか?  亜子: ・・・・・・・っ。  冥助: これが死神の裏の仕事。お嬢ちゃんが願った未来だ。執行したら、お嬢ちゃんもあいつの業を担うことになる。怖気づくなら、今だぜ?  亜子: ・・・・・・・構いません。  冥助: ・・・・・いいんだな。  亜子: はい。覚悟は・・・出来ました。  冥助: ・・・受け取った。あとは、任せろ。  亜子: ・・・・・よろしく、お願いします・・・!  0:  0:  0:  時哉: ハァ・・・ハァ・・・ここまで来れば・・・・・・何なんだよ、あいつよぉ・・・!警察に電話・・・圏外だぁ?  冥助: おいおい、自称死神さーん?ここまで来れば、何だって?  時哉: な・・・!どうやって―――  冥助: どうやってここに、ってか?まったく、俺を誰だと思ってやがる。お前みたいなただの人間が、俺から逃げられるとでも思ったか?  時哉: く、来るなよ・・・!それ以上近づいたら、こいつで撃つぞ・・・!  冥助: お・・・へぇ?拳銃?そんなもん持ってんだ。で?そんな拳銃でどうすんの?俺に撃つのかぁ?また人を殺すのかぁ?  時哉: く!来るなぁっ!! (発砲音) 冥助: ・・・!ぐ・・っ!ぁ・・・!  時哉: ・・・あ、はは・・・やった・・・!やったぞ!やってやったぁ!何が死神だよぉ!ははは!  冥助: ・・・っていうのが、お前の最後の夢だな?  時哉: ・・・は?え?何で?確実に!貫いたのに!  冥助: ははは!残念!お前に俺は殺せない!なぜなら俺は・・・・・本当の、死神だから。  時哉: ひ、ひぃっ・・・!お、お前に何が分かる!俺のことなんて、何も知らないくせにぃ!  冥助: (大きく息を吸ってから)何で金をくれねぇんだよぉ!俺はお前らの言ったこと守ってきたじゃないか!守ってきたんだから対価をもらって当たり前だろう?それをくれないなんておかしいじゃないかよぉ!金寄越せよぉ!金がねぇなら、俺の敵だぁっ!  時哉: な、何で、その言葉・・・  冥助: だ~から~、俺は死神だって言ったろ?視えるんだよ。聴こえるんだよ。死んだ奴の場所、時間、心の声、何があったのか、全てがな。そんでもって、今回の依頼は両親だけじゃない。俺達は死んだ奴のためだけに動く事はできない。俺達は、死んだ奴と生きている奴、二つの命が合わさって初めて依頼を遂行する。  時哉: お、俺は、悪くない!  冥助: 悪いだろうがよぉ!事故に見せかけて人二人殺しておいて!さらにアリバイ工作までしっかりやってよぉ!挙句の果てにお嬢ちゃんを装ってホームレスの人を使って死体に見せかけたりしておいて、悪くない奴がそこまで考えてやるかよ!  時哉: い、嫌だ・・・!助けて・・・助けて・・・!  冥助: さぁて、冥途へのカウントダウンだ。あ、そうそう!俺を通して、恨みを持って死んだ人たちはお前のことを見てるんだ。で、両親が心変わりしたら、俺にされる処刑も無くなるらしいぜ?今ならお前の言葉、両親に届くかもしれねぇぜ?  時哉: へ?お、おお、俺が!俺が悪かった!罪は償う!すぐに警察に行く!全部正直に話す!だから!だから命だけはぁっ!  冥助: ・・・だってよ?どうする?・・・・・・ふぅん?あっそ。それでいいんだな? (誰かと会話するかのように) 時哉: ど、どうだよ?これで、俺は、助かるんだよな?な?   冥助: ・・・ふぅ。おい。ご両親から返ってきた答えだ。・・・どっかで聞いたことのある台詞だぜ?・・・守ってきたんだから対価をもらって当たり前だろう?それをくれないなんておかしいじゃないか。その命をさっさと寄越せ。だってさ? (大鎌を構えながら) 時哉: ひ、ひいいぃぃぃ!!!  冥助: 罪のない人間の声も聴かずに思うがままに行動するような、人の皮をかぶった獣がよぉ!あの世で、しっかりと反省してこい! (大鎌を振り下ろす) 0:  0: 後日 事務所兼空き地  響子: ・・・ねえ、あんた、馬鹿なの?  冥助: ・・・何がだよ。  響子: ・・・『謎の変死体 火事現場で発見 片腕のない状態 他殺か』・・・ねえ、馬鹿なの?  冥助: うるせえよ。何だよ、冷やかしか?だったら帰れ。  響子: そうじゃなくて!あんた死神なんだよ!?他殺に見せかけてどうすんのよ!本来は死神が人間の生命に関係してはいけないから、こういうことをする時はしっかり心臓だけをって―――!  冥助: だああああああ!!!うるせえよ!分かってんだよ、そんなこと!だからこうして何も言わずに大量に山積みにされた始末書を書いてんだろうが!何文字書いたらいいか見当がつかねえぜ。  響子: 始末書で済んだことが奇跡って思いなさいよ!普通あり得ないのよ?普通なら即刻クビ!クビクビクビ!地獄逝き!死神とか関係なし!分かってんの?!  冥助: うるせぇって言ってんだよ!何書いたらいいか分かんなくなるからギャーギャー言うんじゃねえ!  響子: あんたねぇ・・・人に散々いろんなことを頼んでおいて、何なのよ、その言い草は!  冥助: おいやめろ!その振り上げた拳を下ろすなよ!どこが凹むか分からね・・・って・・・へっ、お客さんだ。 0:冥助はお客さんの方を見て、笑った。つられて見た響子も、笑顔になった。  響子: え?あ・・・。  0:  亜子: あの、本当に、ここにいらっしゃいますか?  矢吹: ああ。君が探している二人は、確かに目の前にいるよ。君の言ったとおり、また仲良く喧嘩してる。  亜子: 本当に?ふふっ、相変わらずなんですね。私の言葉、伝わりますか?  矢吹: もちろん。ああ、冥助の言葉も、しっかり伝えてあげるよ。無料サービスでね。  亜子: ありがとうございます。えっと・・・死神さん、聞こえてますか?本当に、家族を救ってくれて、私を助けてくれて・・・。本当に、ありがとうございました。家は、無くなっちゃったんですけど、お母さんの仕事の関係でちょっと遠いですけど、アパートを借りられることになりました。離れてしまうから、ここにはもう来られなくなるかもしれないって思って・・・。だから、どうしてもお礼が言いたくて、来ました。  冥助: ・・・・・そうか。元気そうでよかった。  矢吹: ―――元気そうでよかったってさ。  亜子: ・・・私、強くなります。あの人が死んで、後ろめたいところはありますけど・・・、それも乗り越えて、生きていきます。  冥助: ・・・人を恨んで、人を堕として、それでも人として生きていく。それは簡単なことじゃねえ。きっと、いくつも乗り越えなきゃならねえ壁がある。・・・でも、お嬢ちゃんなら、絶対に乗り越えられる。死神様の保証付きだ。お母さんと、幸せにな―――。  矢吹: ―――・・・だってさ。良かったね。死神様からお墨付きをもらえて。  亜子: ・・・はい。  矢吹: じゃあ、行こうか。  亜子: ・・・はい!  0:  冥助: いやぁ~~~わざわざお礼を言いに来てくれるなんて律儀な女の子だねぇ!感心するぜ!  響子: 本当よねぇ。ああいう子は、きっと長生きしてくれるわ。  冥助: ああ、本当に良かった。すっきりしたぜ~~~。  響子: ・・・ねえ、そろそろ答えなさいよ。  冥助: 何が?  響子: あの男は誰なのよ?ねえ!普通に私たちが見えてたんでしょ?!誰なの?!  冥助: さあな。また話すからとりあえずこの始末書を書かせてくれ。やっとのことで半分ぐらいまで来たんだから。  響子: ・・・・・ふんっ! 0:怒りが頂点に達した響子は、冥助の始末書をぐしゃぐしゃに丸めて、空高く放り投げた。  冥助: あああああああああああ!!!!!お前っ!!!俺の汗と涙の結晶をおおおおお!!!!!  響子: 私の話を蔑ろにした罰よ!また一から頑張りなさい?あと、私の仕事も手伝ってもらうんだからね。じゃあね、お・ひ・と・よ・し・さ・ん。  冥助: おい!逃げるな!待て!許さねえぞこの野郎おおおおお!!!  0:  矢吹:どこにでもある街の、どこにでもある寂れた空き地。その中でも、何年も空き地になっている場所が少なからず存在する。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。 矢吹:「死神事務所」。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。 矢吹:しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。近づいたからといって、からかったからといって何もしない。 矢吹:死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。 矢吹:貴方は、死神に伝えたい本当の思い、ありますか?あるのならば、近くの寂れた空き地を探してみてください。もしかすると死神が、貴方のために力を貸してくれるかもしれませんよ。 0:  0:了

0:死神の鎮魂歌~requiem of grim reaper~第一番 炎嗟 0: 冥助:天川冥助 冥助:とある町にある「天川死神事務所」の死神。この話の主人公。見た目は軽い感じで死神の仕事をめんどくさがる一方で、困っている人を放っておけない性格の男。普段は事務所兼空き地でのんびりしているが、人の悲しみや憎しみに反応し、面倒くさがるものの、願いを聴き届けて大鎌を振るう。 0:  矢吹:矢吹迅 矢吹:事件や事故の情報をすぐに収集する情報屋。どこからともなく現れたり、人間技とは思えない速さで仕事をこなし、幽霊や死神が見えるが、間違いなく人間。天川がこの町に来た時からの知り合いで、何故かいつも天川に協力する人物。町にいる幽霊を天川のところに案内している。 0:  響子:高嶺響子 響子:天川の隣町で執行している死神。成績優秀、容姿端麗で霊からも死神からも人気があるそうだが、怒っても喜んでもすぐに手が出るところがあり、周りを叩いて黄泉病院送りにすることも。天川のしていることに興味があり、いつも小言を言いながらも協力してくれる。 0:  亜子:北條亜子 亜子:今回の話の被害者。母親と二人暮らしの15歳の少女。病弱で気が弱く、家にいることが多い。火事で焼死したと言われていたが実は攫われ、気を失っている。 0:  時哉:北條時哉 時哉:今回の話の犯人。北條亜子の叔父にあたる。亜子を焼死したと見せかけて攫い、密かに母親から身代金を要求しようとしている。   0:某所 未明 火事現場にて   亜子:どう、なってるの?どうして、こんな、ことに・・・? 時哉:お前等が悪いんだぁ。お前も、あいつも、俺の邪魔ばっかりするからぁ。 亜子:く・・・苦しい・・・。熱い・・・。お母さん・・・。誰か・・・誰か、助けて・・・。 時哉:大丈夫さぁ。助けてあげるよぉ。でもぉ、お前の命は俺が預かるよぉ。まぁ、いずれはぁ・・・くっくっくっ・・・。 0:  0:  0:  矢吹:どこにでもある街の、どこにでもある寂れた空き地。その中でも、何年も空き地になっている場所が少なからず存在する。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。 矢吹:「死神事務所」。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。 矢吹:しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。近づいたからといって、からかったからといって何もしない。 矢吹:死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。 矢吹:今日も今日とて、死神の一日が始まる。   0:某日 午後七時三十分 事務所兼空き地  冥助: (あくびをしながら)ふあぁぁぁ~~~・・・。あ~~~暇だ~~~。  響子: いいじゃないの。私達の仕事は、人の命を扱う仕事!暇だっていうことは、この街が平和だってことじゃない!いいなぁ、そんな街に当たってて。  冥助: そういうお前はどうなんだよ。お前、隣街の管轄だろ?  響子: 私の街は結構高齢者が多いの。毎日のように仕事が来るわよ?  冥助: だったらこんなところで油売ってる時間ねぇだろ?とっとと帰れよ。  響子: だったら!私がさっきから聞いてることに答えなさいよ!この街で起こった、火事で女の子が亡くなった事件!うちの亡くなってる人の中に血縁者がいて、聞いてきてくれってうるさいのよ!  冥助: お前は何なんだ?市役所に時々いるお人良しか何かか?うちの管轄外だから無理って一蹴すればいいじゃねぇか。  響子: そこは私とあんたとの仲じゃない。誰とでもこんなことしてるわけじゃないんだから!  冥助: あ~~~、分かった分かった。ちょっと確認するから待ってろ。え~~っと・・・・・・たしかあの事件って昨日だったよな?  響子: ええ、そうよ?  冥助: おかしいな・・・。そんな事件で亡くなったっていう子、一人も来てねぇぞ?  響子: そ、そんなはずないわ!たしかにこの街で起こった火事だもの!間違いないわ!  冥助: ・・・ああ。たしかにウチの街の火災だ。  響子: でしょ?で、既に死亡者が出たってニュースになってたわよ?  冥助: ・・・おかしいな・・・。まさか、アイツ・・・仕事すっぽかしやがったか・・・?  響子: え?何の事?  冥助: あ、いや、こっちの話だ。でも、ん~・・・  0:  0:  亜子: あ、あの~・・・。  冥助: ん?  亜子: こ、ここが、天川相談事務所ですか?  響子: ・・・ん?お客さん?  冥助: ああそうだ!困ったことがあれば相談に乗る優しい人、天川冥助の相談事務所へようこそ!  響子: ・・・(笑いをこらえながら)・・・自分で言ってて恥ずかしくないの?優しい人って?  冥助: うるせえんだよ!  亜子: ・・・・・・何もない広場ですけど、本当に合ってますか?  冥助: ああ。不要なものは置かない主義なんでね。机もなければ建物もないよ。・・・俺達、死神にはね。  亜子: あ・・・やっぱり、死神さんなんですね。  響子: あら?怖がらないのね?珍しい。  亜子: 気が付いたら街中を歩いてて、人をすり抜けれたし、誰に声をかけても反応しないし、私、死んじゃったんだって・・・。  響子: ああ、時々いるケースの子ね。気づかないうちに死んじゃってて何とかここまで来るケース。  冥助: ・・・・・・・・・・  響子: でも、よくここが分かったわね。  亜子: えっと、ヤブキって人に言われたんです。ここに来たら、いろいろ教えてくれるって。  響子: ん?ねぇ、矢吹って誰―――  冥助: あーーー!アイツね!分かった!じゃあお兄さんは、ちょうど今から仕事だから!その間、この!お姉さんに自分のこと、いろいろ伝えておいて!  響子: え、え、えええ?ちょちょちょっと!  冥助: 悪い!頼んだ!  響子: ま、待ちなさいよぉ!  亜子: ・・・お、お姉さん・・・?  響子: ・・・ハァ、仕方ないなぁ。ちょっとだけ相手してあげる。名前は?  亜子: あ、北條亜子って言います。  響子: ・・・え・・・?  0:  0:午後八時 路地裏   冥助: おい、矢吹。  矢吹: ん?おお、これはこれは。この街の何でも相談事務所所長、天川冥助じゃないか。  冥助: しらばっくれてんじゃねぇ。どういうことだ?  矢吹: ん?何がだい?  冥助: とぼけるな。あの女の子、昨日の火事の被害者だろ?  矢吹: ああ、そうだとも。  冥助: ああ、そうだともって・・・、何で昨日の時点で俺に報告がないんだ?  矢吹: ・・・ハァ。おいおい、本気で言ってるのか?あんたなら分かると思ってたんだけどなぁ。  冥助: ・・・やっぱり、そういうことか。  矢吹: そういうこと。あの子は、まだ死んでいない。まだ、生死の境を彷徨ってる。  冥助: で、俺たちが見えているということは・・・。  矢吹: そういうことだ。だが彼女は、まだそれに気づいていない。  冥助: だろうな。でもあの感じだと、このままじゃじきに逝っちまうぞ?  矢吹: そうなんだよ。だからこそ、あの子のことを頼みたい。  冥助: それじゃぁ本当に何でも屋になるじゃねぇかよ。死神ってのは、死んじまった魂を黄泉の扉に送ることがメインなんだぞ?生殺与奪は後で始末書もあるんだぞ?まったく、めんどくせぇなぁ・・・。  矢吹: それでもしっかり対応する。困っている人がいたら見逃さない。人道に反することは許せない。そうなれば生殺与奪も辞さない。それが、天川冥助だろ?  冥助: ・・・・・・ただし、そいつの素性は調べてくれよ?何もない状況じゃあ、俺は何もできない。このままだとあのお嬢ちゃんをそのまま見送ることになるぞ?  矢吹: もちろん、昨日から調査中さ。あともう少しだから、後で落ち合おう。  冥助: 分かった。頼んだぞ?相棒。   0:午後八時三十分 事務所兼空き地 亜子: それで、お母さんは、テレビ局のアナウンサーなんです。  響子: へー!そうなんだー!すごーい!・・・ああ、もう!空気保つのしんどいし、早く帰ってきなさいよぉぉぉ・・・!  冥助: おお、さすがは隣町の女神様!どんな相手でもよく対応できぶふわぁっ!!! (盛大に殴られる) 響子: お・そ・い・ん・だ・け・ど?次は首ごと刈り取られる?ん?  冥助: 悪い!謝る!お前、力めちゃくちゃ強いんだから!それを振り下ろすなよ?その右拳を振り下ろすなよ?!  響子: まったく・・・。  冥助: あ、お嬢ちゃん、この人に自分のこと、いろいろ話したかい?  亜子: え?あ、は、はい、一応・・・。  冥助: そうかそうか!じゃあちょっと打ち合わせがあるから、向こうで待っててくれるかな?本当にちょっとだけ!このお姉さんと話があるんだ。  亜子: あ、はい、分かりました・・・。  0:  0:  冥助: ・・・・・・で、どんなこと言ってた?  響子: ・・・北條亜子、十五歳。お父さんは五年前に交通事故で他界。お母さんはアナウンサーだけど、北條なんて聞いたことないから、地方局かもね。お母さんと二人暮らしで、やっぱりあの火事現場のアパートに住んでたわ。お母さんも仕事で家を空けて、あの子が家に一人でいることも多かったみたい。  冥助: でも、何か変だったんだろ?  響子: あんた・・・気づいてたの?  冥助: 違和感を教えてくれ。答え合わせがしたい。  響子: ・・・問題は彼女の記憶。火事の起こった時間、何か甘い匂いを嗅いで、そこから気を失った。しかもその時、あの子は母親以外の人間と一緒にいた。  冥助: やっぱりそうか。  響子: 知ってたなら教えなさいよ。  冥助: いや、確証もなかったから、知り合いの矢吹って奴に話を聞いてきたんだ。  響子: 矢吹って誰?  冥助: まあ、おいおい話すさ。で?その一緒にいた相手は誰だ?  響子: ・・・あの子の叔父さんだって。時々、お母さんからお金を借りに来るそうよ?  冥助: なるほど。やっぱりそういう類か。  響子: 多分だけど、その叔父が放火をしたのね。火事のニュースで、その叔父についてのコメントはなかったはずだもの。お母さんがいなくて腹を立てた叔父が、あの子が寝た後に放火をした。そうして北条亜子を殺した後、姿をくらませて逃走―――。  冥助: いや、北條亜子は死んでいない。  響子: は?何言ってるの?現に今、私達の目の前にいるじゃない。  冥助: 響子。幽霊になって現れる奴らの中に、死んだ奴以外に特例がいるって、覚えてないか?  響子: ・・・まさか。  冥助: まだ憶測だ。だが、あの子は死んでいない。死んでいなくて幽霊になって現れるのは、気を失っていて尚且つ、誰かから殺意を向けられている時だ。  響子: ということは、殺意を向けているのは・・・叔父?  冥助: 可能性は高い。だが、すぐに矢吹が調べてくれるはずだ。  響子: ・・・ねえ、その矢吹って誰なのよ?  冥助: だから言っただろ?後で話すってよ?  0:  0:同刻 大通り 0:  時哉: まったくよぉ・・・今日もはずれかぁ・・・。今日の台はいけると思ったんだけどなぁ・・・。  矢吹: ・・・・・・姉の家が燃えたにもかかわらず、朝からスロットとは・・・、確定だな。  時哉: ・・・さてぇ、そろそろ戻らねぇとなぁ。あの嬢ちゃんの様子も見ておかないとなぁ。ポックリ逝かれちまったら身代金要求できねぇしなぁ、くっくっくっ・・・。  矢吹: ・・・やっぱりそうか・・・。後をつけるしかないな。  時哉: (ふと電子掲示板の文面に目が留まる)・・・ん?ニュース・・・?・・・おいおいぃ、もうバレたのかよぉ。まぁ、仕方ねぇかぁ。道端に落ちてたゴミみてぇなもんだったからなぁ。急いで次の支度をしなきゃなぁ。そのためには買い出し買い出しっと・・・。  矢吹: ・・・これはまずいな。でも、ようやく尻尾を出したな、ゴミ屑さん。  0:  0:午後八時四十分 事務所兼空き地 0:  冥助: お待たせ、お嬢ちゃん。  亜子: あ、はい。  冥助: 早速だけど、お嬢ちゃんの今の状態、分かってる?  亜子: えっと・・・やっぱり、私、幽霊なんですか・・・?  冥助: まあ、そういうことになる。  亜子: ということは・・・やっぱり死んじゃったんですね、私・・・。  冥助: いや、お嬢ちゃんはまだ死んでない。  亜子: え?  響子: 実はね、あなたはまだ、意識を失っている状態。時々、そんな人が幽霊になって現れてしまうことがあるの。  冥助: しかも!こっちの世界には、幽霊を地獄に連れて行っちゃうこわ~~~~いやつもいたりするんどぐえっ!!!  響子: こ・わ・が・ら・せ・な・い・の・!!!  亜子: あ、あの、私、どうすれば・・・。  冥助: あー大丈夫だ。この事務所・・・っていうかこの空き地の中にいる限り、他のやつらは悪さできなくなってる。意識が戻るまでここにいたらいいさ。  亜子: よ、よかった・・・。  冥助: ただし、条件がある。  亜子: 条件、ですか?  冥助: 簡単なことさ。・・・・・・このお姉さんに、自分の気持ちを正直に伝えること!  響子: ちょっと!あんたまた私に―――  冥助: すまんな。まだ大切な仕事が残ってんだ。  響子: まったく・・・で?いつまでかかりそう?  冥助: 長くても3,4時間ってところだな。  響子: 長いわよ!次はうちの仕事、手伝ってもらうんだからね!  冥助: 大歓迎!じゃあ、行ってくる!  響子: ・・・・・でね、亜子ちゃん。もし死んでないとしたらどうなってるか、想像できる?  亜子: ・・・きっと、あの人は、私を・・・  0:  0:午後十時十分 裏路地  冥助: やっと来たか矢吹。遅いぞ。情報は集まったか?  矢吹: あぁ、なんとかね。今回は参ったよ。素性が全く読めなくてね。まったく・・・仕事をしてるやつを探すよりも、フリーターのやつの情報を探す方が難しい。  冥助: 手短に話せ。時間がない。  矢吹: 分かったよ。相手は被害者の叔父、北條時哉。被害者の母親の弟で、仕事もせず遊び惚けのパチンコスロット三昧。寝床としてあの親子の家に入り浸ってたみたいだね。  冥助: 身寄りもないのか?  矢吹: 2年前に死別。今回の北條の素性は、そこから裏が取れた。  冥助: どういうことだ?  矢吹: 2年前、亡くなったのは隣町の民家。当時北條時哉と両親の三人暮らし。キッチンからの出火が原因で両親が死亡。時哉は軽傷で難を逃れた。という話になっているが、どうやらこの話がデマのようで、いつまでもニート生活をしていることをたしなめられたことに怒った時哉が両親を殺害。それも睡眠薬を飲ませた後、キッチンにわざと火をつけたそうだ。  冥助: とことん性根が腐ってやがる・・・。で?その後、どうしてあの家に?母親は断れなかったのか?  矢吹: 最初はもちろん断ったようだよ。だけどどうやら、今回の被害者、亜子ちゃんを使って揺さぶりをかけていたらしい。金のことを話す時には、事前に盗撮した亜子ちゃんの写真や動画をばら撒くと言って脅していたようだよ。  冥助: おい。本当にそいつは人間なのか?聞いてて反吐が出るぞ?  矢吹: 人間っていうのは、そういう生き物だと思った方がいいさ。でも、この話には続きがある。ある日母親が、時哉のそのデータを削除したんだ。娘を守るためにね。これに時哉が激怒。亜子ちゃんしかいない夜中を見計らってアパートに放火をした。アパートからは死体が発見され、亜子ちゃんだと認定された。でも、その死体はどうやらホームレスを引っ張ってきたもので、別の人間だったらしい。  冥助: ああ、数日前に餓死しちまって、俺に会いに来た後に死体が無くなったって泣きついてきたあのホームレスか?・・・なるほど。そりゃあ見つからないわけだな。ということは、やっぱり亜子ちゃんは。  矢吹: ああ。時哉に誘拐された状態だ。ただ、あの状態ということは、確実に生きている。人間は死んだ時に必ず自分の死体を見る。だけど、亜子ちゃんはそれを見ていない。それであの状態ということは・・・  冥助: どこかで気を失っている、ということか。で?その監禁場所はどこなんだ?  矢吹: ・・・おそらく・・・ここだよ。漁港近くの第6倉庫。北條時哉もおそらくここにいる。急いだほうがいい。  冥助: ・・・いつもありがとうな。まったく・・・俺が言うのもなんだけど、どうやってこんな情報を集めてくるのやら・・・。  矢吹: ふふっ・・・それは企業秘密ってやつさ、死神さん。   0:午後十時五十分 事務所兼空き地  亜子: はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・  響子: だ、大丈夫?!ど、どうしたの?!  亜子: く・・・苦しい・・・。息が、しにくい・・・。  響子: 霊体なのに、息ができないってまさか・・・。  冥助: チッ!始まっちまったか!  響子: ちょっと冥助!まさかこれって!  冥助: ああ!気を失っている間に命の危機に瀕したときに、こういうことが起こるってことあっただろ!  響子: じゃあ、まさか今!  冥助: そういうことだ。この子は今、意識不明の中で死にかけている!息がしにくいってことは、首か空気か。いや、首なら痛みが生じるはずだ。だとすると空気か。水か、密閉か、あるいは・・・。  亜子: お、お兄、さん・・・。  冥助: ・・・お嬢ちゃん。一つ聞いておくことがある。・・・お前は今、本当に死にそうになっている。もしかしたら殺されかかってるのかもしれない。その相手が誰か、分かるな?  亜子: ・・・はい・・・  冥助: お前は、どうなることを望む?  亜子: ・・・お願い・・・あの人を・・・消して・・・。これ以上・・・お母さんを、苦しま、せないで・・・  冥助: ・・・・・・優しいな、お嬢ちゃんは。大丈夫だ。俺たちが必ず嬢ちゃんを探し出す。だから、ちょっと待っててくれ。  亜子: ・・・はい・・・ (消えてしまう) 響子: (しばらくして)・・・説明してくれる、冥助?  冥助: 犯人はあの子の叔父だ。理由はあの子の母親が金をくれなくなったことへの逆恨み。  響子: そんなことは分かってる。あの子から話は聞いてるわ。で?目星はついてるの?  冥助: 間違いじゃなければ、この町の港の第6倉庫。ここは冷房が効く保冷倉庫だ。さっさと探さねぇと間に合わねぇ。  響子: 手伝うわ。行きましょう!時間がない!  冥助: サンキュー!でも響子!お前にはすぐに確認してもらわないといけねぇことがある!  響子: 何よ!亜子ちゃんより大事なわけ?  冥助: 超大事だ!俺たちが今から会いに行くやつに鉄槌を下すには、承認が必要だ!誰に承認してもらうか、分かるだろ?  響子: ・・・・・なるほどね!了解!すぐ承認を取ってくる!だから、絶対に間に合わせなさいよ!  冥助: ああ、分かってる!頼んだぜ!  0:  0:午後十一時二十分 第6倉庫   時哉: こいつぅ・・・。これぐらいの温度で死にかけやがってぇ・・・。  亜子: ・・・ぅ・・・ぁぁ・・・  時哉: まだくたばってもらうわけにはいかねぇんだよぉ・・・。姉貴に身代金を要求するための動画を撮らねぇといけねぇしよぉ・・・。まぁ、それが終わったらどっちでもいいから、な?  亜子: ・・・ぁ・・・っ・・・  時哉: ・・・なんだよぉ。これぐらいで人って死にそうになるんだなぁ。喋れないのか?そんなにつらいのか?え?  亜子: ・・・もぅ・・・・・・ゃめて・・・っ・・・ぉかぁさん、に・・・ひどぃこと・・・しなぃで・・・  時哉: ・・・あ?誰に指図してんだよぉ!!! (亜子を叩く) 亜子: ぅっ!・・・ぁぁ・・・っ・・・!  時哉: どいつもこいつもぉ!俺のことをぉ!馬鹿にしやがってぇぇっ!もういい!動画はあとでどうにでもなる!まずはお前をぉ!辱めてぇ!切り刻んでぇ!見た目が分からねぇようにしてからぁ、殺してやるよぉ!  亜子: ・・・っ!  時哉: でもってぇ!金をふんだくったらぁ!姉貴も同じようにあの世へ送ってやるよぉ・・・!さぁ、先に行ってぇ・・・姉貴が来るのを待ってるんだなぁ・・・!  亜子: ・・・がぃ・・・た・・けて・・・。  時哉: くっくっくっ・・・。ここにきて命乞いかぁ?しろよしろよぉ。泣きわめきながらぁ。最期まで命乞いしろよぉ!ははははははは!!!  亜子: (笑い声に被せるように)・・・助けて・・・この人を・・・消して・・・お願い・・・死神さん・・・っ!  0:  0:  冥助: おやおやぁ?こんなところに人を殺そうとしてるやつがいるなぁ?  時哉: ・・・あぁ?  冥助: あれぇ?おかしいな?お前の顔、知り合いに一人もヒットしねぇんだけど。  時哉: 何だぁ?おい!どこにいる!  冥助: こんな人の来ないところで、こんな人がいなさそうな時間に、そんなかわいい子とたった二人!しかもそれがまずは凌辱目的とはねぇ。  時哉: どこにいるって聞いてんだよぉ!早く姿を見せろよぉ!じゃないと!この女を今すぐ殺すぞぉ!  冥助: 最後に聴く。お前は、死神か?  時哉: ・・・はぁ?  冥助: どうなんだよ。お前は死神か?  時哉: な、何を訳のわからねぇことぉ!でも面白れぇなぁ!たしかに、人を殺した俺ならぁ、死神かもしれねぇなぁ!へっへっへ・・・  冥助: ・・・・・・てめぇが死神を語るな。 (空中でふっと突然現れる) 時哉: ・・・はぁ?・・・え?  冥助: 死神っていうのは、本来生殺与奪はしない。死んじまった魂を黄泉の扉へ送り届けるのが仕事だ。だが稀に、生殺与奪に関係する仕事が入ってくる。  時哉: え?・・・何で、体が浮いて・・・??  冥助: 生きている魂を刈り取ること。だがこれは簡単じゃない。これには生きている者と死んでいる者の強い思いが必要なんだよ。難しいからなかなか起こることじゃない。だが、受理されたんだよなぁ、これが。  時哉: は?さっきから何言って・・・  冥助: (被せるように)死んでいる者からは、北條博文と北條千恵、生きている者は、北條亜子から。合計三人。受理されるには生きている者と死んでいる者からそれぞれ一人は申請が必要だが、申し分無し。何でこの三人から恨まれてるか、お前ならよ~~~く分かるよなぁ?  時哉: ・・・何で・・・死んだ二人の名前を知ってんだ・・・?まさか、刑事か?!  冥助: 空中プカプカ浮かぶ刑事を見たことがあるか?しっかり隣町の死神相談所で受理されてんだよ。焼死体としてな。  時哉: ・・・・・・・・・・。  冥助: でも、その二人が言ってんだよ。息子に睡眠薬を飲まされた。その後家に火をつけられて、気づいた時には体は燃えていたってな。息子って・・・誰だか分かるよなぁ?  時哉: ・・・・・・・・・・。  冥助: で、生きてる二人はその子とその母親。まぁ分かり切ってることだよなぁ、お・じ・さ・ん?  時哉: 何なんだよぉ・・・何なんだよぉ!!お前ぇ!!!  冥助: 俺は、天川冥助。職業は、死神。お前の魂を刈りに来た。  時哉: な・・・っ!  冥助: 罪状。北條博文と千恵の二人を放火殺人、北條亜子とその母親の北條香奈の家を放火、路上のホームレスを死体遺棄、そして・・・そこにいる北條亜子の監禁致傷。叩けば出るわ出るわの埃だらけだな。  時哉: ・・・・・・・・・・っ!  冥助: もちろん、認めるよな?やってねぇとは言わせねえぜ?こっちは全部、調べ上げてるんだからな。  時哉: く、来るな!  冥助: おっと。  時哉: へっへっへっ!それ以上近づくとぉ・・・コイツの命がどうなっても知らねぇぞぉ?(ナイフを亜子の首筋に当てる)  亜子: ひ・・・っ!  冥助: お前・・・本当にクズ中のクズだな。  時哉: うるせぇ!!!黙って聞いてりゃあ好き放題言いやがって!ああそうだよぉ!俺が殺したんだ!親のすねかじりだとか働けだとか毎日毎日煩かったからなぁ!だから燃やしてやったんだ!それに姉貴もぉ!黙って俺の言うことを聞いてりゃいいのに!反抗してくるからこんなことになるんだよぉ!皆あいつ等が悪いんだ!そんでコイツもぉ!いちいちいちいち俺のことをクズを見るような目で見てきやがって!こんなやつ!死んじまえばいいんだ!二人やってんだ!一人増えたって同じなんだよぉ!!!(突き立てる力が強くなる)  亜子: っ・・・あ・・・助けて・・・お願い・・・  冥助: ―――おい。  時哉: あ?なんだ・・・よ・・・?  冥助: (ナイフを突き立てていた腕を斬りおとす)とりあえず、これ、いらねぇよな?  時哉: ぁ・・・あ・・・あああああああああああ!!!!!いてええええええ!!!!!俺のぉ!!俺の腕がああああ!!!!!  冥助: ああ、うるせえんだよ!ここまで自分勝手しておいて腕一本持っていかれたところで、何をそんなに喚いてんだよ。  時哉: お、お前・・・何だよその鎌はよぉ!!!俺を殺す気なのか?!  冥助: だから言ってんじゃねぇか。魂を刈りに来たって。  時哉: ・・・・・。  冥助: 俺がいただくのはお前の魂。どうせ地獄に行くんだから、腕を取られようが足を取られようが関係ねぇんだよ。どうせお前に訪れるのは、 死 なんだからよ。  時哉: ひ、ひいいいいいいいいい!!!!!(逃げ出す)  冥助: ・・・・・お嬢ちゃん。覚悟は、出来てるか?  亜子: ・・・・・・・っ。  冥助: これが死神の裏の仕事。お嬢ちゃんが願った未来だ。執行したら、お嬢ちゃんもあいつの業を担うことになる。怖気づくなら、今だぜ?  亜子: ・・・・・・・構いません。  冥助: ・・・・・いいんだな。  亜子: はい。覚悟は・・・出来ました。  冥助: ・・・受け取った。あとは、任せろ。  亜子: ・・・・・よろしく、お願いします・・・!  0:  0:  0:  時哉: ハァ・・・ハァ・・・ここまで来れば・・・・・・何なんだよ、あいつよぉ・・・!警察に電話・・・圏外だぁ?  冥助: おいおい、自称死神さーん?ここまで来れば、何だって?  時哉: な・・・!どうやって―――  冥助: どうやってここに、ってか?まったく、俺を誰だと思ってやがる。お前みたいなただの人間が、俺から逃げられるとでも思ったか?  時哉: く、来るなよ・・・!それ以上近づいたら、こいつで撃つぞ・・・!  冥助: お・・・へぇ?拳銃?そんなもん持ってんだ。で?そんな拳銃でどうすんの?俺に撃つのかぁ?また人を殺すのかぁ?  時哉: く!来るなぁっ!! (発砲音) 冥助: ・・・!ぐ・・っ!ぁ・・・!  時哉: ・・・あ、はは・・・やった・・・!やったぞ!やってやったぁ!何が死神だよぉ!ははは!  冥助: ・・・っていうのが、お前の最後の夢だな?  時哉: ・・・は?え?何で?確実に!貫いたのに!  冥助: ははは!残念!お前に俺は殺せない!なぜなら俺は・・・・・本当の、死神だから。  時哉: ひ、ひぃっ・・・!お、お前に何が分かる!俺のことなんて、何も知らないくせにぃ!  冥助: (大きく息を吸ってから)何で金をくれねぇんだよぉ!俺はお前らの言ったこと守ってきたじゃないか!守ってきたんだから対価をもらって当たり前だろう?それをくれないなんておかしいじゃないかよぉ!金寄越せよぉ!金がねぇなら、俺の敵だぁっ!  時哉: な、何で、その言葉・・・  冥助: だ~から~、俺は死神だって言ったろ?視えるんだよ。聴こえるんだよ。死んだ奴の場所、時間、心の声、何があったのか、全てがな。そんでもって、今回の依頼は両親だけじゃない。俺達は死んだ奴のためだけに動く事はできない。俺達は、死んだ奴と生きている奴、二つの命が合わさって初めて依頼を遂行する。  時哉: お、俺は、悪くない!  冥助: 悪いだろうがよぉ!事故に見せかけて人二人殺しておいて!さらにアリバイ工作までしっかりやってよぉ!挙句の果てにお嬢ちゃんを装ってホームレスの人を使って死体に見せかけたりしておいて、悪くない奴がそこまで考えてやるかよ!  時哉: い、嫌だ・・・!助けて・・・助けて・・・!  冥助: さぁて、冥途へのカウントダウンだ。あ、そうそう!俺を通して、恨みを持って死んだ人たちはお前のことを見てるんだ。で、両親が心変わりしたら、俺にされる処刑も無くなるらしいぜ?今ならお前の言葉、両親に届くかもしれねぇぜ?  時哉: へ?お、おお、俺が!俺が悪かった!罪は償う!すぐに警察に行く!全部正直に話す!だから!だから命だけはぁっ!  冥助: ・・・だってよ?どうする?・・・・・・ふぅん?あっそ。それでいいんだな? (誰かと会話するかのように) 時哉: ど、どうだよ?これで、俺は、助かるんだよな?な?   冥助: ・・・ふぅ。おい。ご両親から返ってきた答えだ。・・・どっかで聞いたことのある台詞だぜ?・・・守ってきたんだから対価をもらって当たり前だろう?それをくれないなんておかしいじゃないか。その命をさっさと寄越せ。だってさ? (大鎌を構えながら) 時哉: ひ、ひいいぃぃぃ!!!  冥助: 罪のない人間の声も聴かずに思うがままに行動するような、人の皮をかぶった獣がよぉ!あの世で、しっかりと反省してこい! (大鎌を振り下ろす) 0:  0: 後日 事務所兼空き地  響子: ・・・ねえ、あんた、馬鹿なの?  冥助: ・・・何がだよ。  響子: ・・・『謎の変死体 火事現場で発見 片腕のない状態 他殺か』・・・ねえ、馬鹿なの?  冥助: うるせえよ。何だよ、冷やかしか?だったら帰れ。  響子: そうじゃなくて!あんた死神なんだよ!?他殺に見せかけてどうすんのよ!本来は死神が人間の生命に関係してはいけないから、こういうことをする時はしっかり心臓だけをって―――!  冥助: だああああああ!!!うるせえよ!分かってんだよ、そんなこと!だからこうして何も言わずに大量に山積みにされた始末書を書いてんだろうが!何文字書いたらいいか見当がつかねえぜ。  響子: 始末書で済んだことが奇跡って思いなさいよ!普通あり得ないのよ?普通なら即刻クビ!クビクビクビ!地獄逝き!死神とか関係なし!分かってんの?!  冥助: うるせぇって言ってんだよ!何書いたらいいか分かんなくなるからギャーギャー言うんじゃねえ!  響子: あんたねぇ・・・人に散々いろんなことを頼んでおいて、何なのよ、その言い草は!  冥助: おいやめろ!その振り上げた拳を下ろすなよ!どこが凹むか分からね・・・って・・・へっ、お客さんだ。 0:冥助はお客さんの方を見て、笑った。つられて見た響子も、笑顔になった。  響子: え?あ・・・。  0:  亜子: あの、本当に、ここにいらっしゃいますか?  矢吹: ああ。君が探している二人は、確かに目の前にいるよ。君の言ったとおり、また仲良く喧嘩してる。  亜子: 本当に?ふふっ、相変わらずなんですね。私の言葉、伝わりますか?  矢吹: もちろん。ああ、冥助の言葉も、しっかり伝えてあげるよ。無料サービスでね。  亜子: ありがとうございます。えっと・・・死神さん、聞こえてますか?本当に、家族を救ってくれて、私を助けてくれて・・・。本当に、ありがとうございました。家は、無くなっちゃったんですけど、お母さんの仕事の関係でちょっと遠いですけど、アパートを借りられることになりました。離れてしまうから、ここにはもう来られなくなるかもしれないって思って・・・。だから、どうしてもお礼が言いたくて、来ました。  冥助: ・・・・・そうか。元気そうでよかった。  矢吹: ―――元気そうでよかったってさ。  亜子: ・・・私、強くなります。あの人が死んで、後ろめたいところはありますけど・・・、それも乗り越えて、生きていきます。  冥助: ・・・人を恨んで、人を堕として、それでも人として生きていく。それは簡単なことじゃねえ。きっと、いくつも乗り越えなきゃならねえ壁がある。・・・でも、お嬢ちゃんなら、絶対に乗り越えられる。死神様の保証付きだ。お母さんと、幸せにな―――。  矢吹: ―――・・・だってさ。良かったね。死神様からお墨付きをもらえて。  亜子: ・・・はい。  矢吹: じゃあ、行こうか。  亜子: ・・・はい!  0:  冥助: いやぁ~~~わざわざお礼を言いに来てくれるなんて律儀な女の子だねぇ!感心するぜ!  響子: 本当よねぇ。ああいう子は、きっと長生きしてくれるわ。  冥助: ああ、本当に良かった。すっきりしたぜ~~~。  響子: ・・・ねえ、そろそろ答えなさいよ。  冥助: 何が?  響子: あの男は誰なのよ?ねえ!普通に私たちが見えてたんでしょ?!誰なの?!  冥助: さあな。また話すからとりあえずこの始末書を書かせてくれ。やっとのことで半分ぐらいまで来たんだから。  響子: ・・・・・ふんっ! 0:怒りが頂点に達した響子は、冥助の始末書をぐしゃぐしゃに丸めて、空高く放り投げた。  冥助: あああああああああああ!!!!!お前っ!!!俺の汗と涙の結晶をおおおおお!!!!!  響子: 私の話を蔑ろにした罰よ!また一から頑張りなさい?あと、私の仕事も手伝ってもらうんだからね。じゃあね、お・ひ・と・よ・し・さ・ん。  冥助: おい!逃げるな!待て!許さねえぞこの野郎おおおおお!!!  0:  矢吹:どこにでもある街の、どこにでもある寂れた空き地。その中でも、何年も空き地になっている場所が少なからず存在する。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。 矢吹:「死神事務所」。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。 矢吹:しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。近づいたからといって、からかったからといって何もしない。 矢吹:死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。 矢吹:貴方は、死神に伝えたい本当の思い、ありますか?あるのならば、近くの寂れた空き地を探してみてください。もしかすると死神が、貴方のために力を貸してくれるかもしれませんよ。 0:  0:了