台本概要
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タイトル | おてんきあめ |
---|---|
作者名 | パサコ |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 7人用台本(男3、女4) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
狐の嫁入りをモチーフにした和風ファンタジーです 登場人物は7人ですが台詞バランスを考慮するなら兼役で4人劇推進です ※共演者に迷惑かからなければ何をやってくれても大丈夫です! 703 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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王様 | 男 | 7 | 王様(オウサマ) 台詞がかなり少ないので弥彦(ヤヒコ)と兼役推奨 小姫の父。狐の頂点に君臨する。小姫の将来を想い権力者である暁を薦める。 |
暁 | 男 | 20 | 暁(アカツキ) お春(オハル)ないしはお喜美(オキミ)と兼役推奨。 小姫の将来の旦那。(女性が演じる場合も男として演じてください。年齢指定はありません。) 狐の中でも有力な生まれの権力者。家柄も良く才能に溢れるが故にかなり傲慢な性格になった。小姫を娶り、狐の王となる野望を持つ。 |
小雪 | 女 | 32 | 小雪(コユキ) お春(オハル)ないしはお喜美(オキミ)と兼役推奨。 元暁の護衛の1人だったが現在は小姫の侍女兼護衛。一見冷酷そうに振る舞うが小姫を大切に思う。 作中は女性をイメージしていますが多分男でもとおるので性別はご自由に! |
お春 | 女 | 35 | お春 (オハル) 小雪(コユキ)ないしは暁(アカツキ)と兼ね役推奨。 お春、弥彦の妹。(男性の場合はオカマで演じる事も可能ですがあくまでも妹として演じてください。) 最近夫と別れ兄夫妻の家に転がり込む。 気の良い一直線な性格。 |
お喜美 | 女 | 36 | お喜美 (オキミ) 小雪 (コユキ)ないしは暁(アカツキ)と兼役推奨。 弥彦の妻。京都にある羊羮の名店の娘。弥彦とは恋愛婚だが子が成せず、跡取りの座は妹夫婦に譲る。 気が強いが根はあたたかい良妻。 |
弥彦 | 男 | 125 | 弥彦(ヤヒコ) 王様と兼役推奨。 弥彦、既婚者。子無しの男。 優しくのんびりとしたおおらかな性格。 |
小姫 | 女 | 117 | 小姫 (アズキ) 狐のお姫様。 幼い子供の見た目だが結婚を控えている。 結婚が嫌で人里へと逃げてきた。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
弥彦:(M)それは、ある薄暗い昼での出来事だった。
弥彦:(M)陽は厚い雲に隠れ、地には天(ソラ)から大粒の涙が降り注いでいた。
弥彦:(M)私はその日の仕事を早々に切上げ、急ぎ足でその小路をかけていった。
弥彦:(M)…が、次第に強くなるその粒は、風に乗り勢いを増して身体に突き刺さる。
弥彦:(M)私はたまらずに路の脇にたてられたお地蔵様のお蔵(おくら)に、少し雨宿りをさせてもらうことにした。
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弥彦:ふぅ、参ったなぁ…。少しして、神さんも落ち着いて下さると良いんだが…。
小姫:神さん?
弥彦:ン?
弥彦:あぁ、お天(ソラ)のお方も何かお辛い事でもあったのだろう、涙を流すのは自然なことだと…
弥彦:私もわかってはいるのだがなぁ。
小姫:ふぅん…
弥彦:……して、童子(わらし)よ。
弥彦:お前さんはいつからそこに?
小姫:ずっと。
弥彦:ずっと?
小姫:お兄さんが来る前から、ずっと。
弥彦:そうか、ずっとか。
小姫:……。
弥彦:お前さんも、雨宿りで?
小姫:ううん。わたしは、隠れているの。
弥彦:隠れている?何故?
小姫:見つかりたくないから。
弥彦:誰かに追われて居るのか?
小姫:………。
弥彦:………。…そうか。
小姫:…ねぇ。
弥彦:何だ?
小姫:お兄さん、雨、嫌い?
弥彦:嫌い、ではないなぁ。
弥彦:雨も降って貰わねば私も飢えてしまうからな。
弥彦:まぁ、こうも力強く降られては少しばかり難ではあるが。
小姫:そっか。
弥彦:……なぁ、童子よ。
小姫:何?
弥彦:お前、行くあてが無いのならば私の家に来るか?
小姫:え?
弥彦:私はな、生憎子宝に恵まれなくてなぁ。お前さんなら、家内もきっと歓迎してくれるだろう。
弥彦:どうだ?
小姫:いいの?
弥彦:良いも何も、私の方が誘っているのだ。
小姫:行くっ。行きたい!
弥彦:よし。
弥彦:そうと決まれば早くかみさんに伝えんとな…走るぞ!
小姫:あ、待って!
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小姫:(N)弥彦亭居間にて
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弥彦:ふぃー、ただいまー
お春:あー!帰ってきなすった!お喜美さん!お兄帰ってきなすったよ!
お喜美:ほんまにや。
お春:お兄、お帰んなさ~い!
弥彦:おぉ、春、きとったのか。
お喜美:もぅ、何呑気な声出してはるんですか。まぁまぁ、こんにびしょ濡れんならはってぇ…。せやからウチ言いましたでしょう?
弥彦:いやぁ、すまんすまん。
お喜美:お風邪拗らせますよって。お風呂沸いとりますさかい、早う温まって下さい………って、弥彦さん。そんお子はどうしはったんで?
弥彦:いやぁ、そこの路で偶然になぁ。可愛いだろう。今日から私達の子になった。
お喜美:ハァ?!まったアンタは、勝手な事ばかり…!
小姫:…クシュンッ
お喜美:…~まぁ、話は後でたんまりとさせていただきますよって。今は早よ温まって下さいな。
弥彦:分かった。童子、こっち来い。風邪ひく前に温まらせてもらおう。
小姫:……。
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小姫:(N)弥彦亭風呂場にて
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弥彦:(何かしら風呂に浸かりながら上機嫌な鼻歌)
小姫:………。
弥彦:どうした、童子?そんな所突っ立ってないで早う湯船浸かろう。
小姫:…ねぇ、お兄さん。
弥彦:ン?どうした?
小姫:奥さん、わたしの事、良く思ってないんじゃ…。
弥彦:アイツはあれでお前さんを喜んでいたよ。目がそう言っていたわ。
小姫:でも、怒ってたよ…。
弥彦:そういう性分なんだ。初対面では分かりづらかろうて、…まぁ、慣れればこれ以上に分かりやすい奴はおらんのだがなぁ。
小姫:…。
弥彦:それより、お前さんも早う湯に浸かれ。お前さんが身体を壊してはそれこそアイツの雷がおちる。
小姫:…うん。わかった。
弥彦:……………!?
小姫:どうしたの?
弥彦:お前さん…、まさか、女子(おなご)であったのか…!?
小姫:…?うん。そうだよ。
弥彦:!!!!
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小姫:(N)弥彦亭居間にて、夕餉の支度をしながら楽しそうに談笑する女達
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お春:くくくっ
お春:まさか、お子を拾(ひら)って来なさるとはねぇ。
お喜美:笑い事やおまへん!
お喜美:全く…どないしよて…。あの人は何でああも破天荒なんよ。
お春:でも、お喜美さんまんざらでもありませんでしたでしょう?お顔が揺るんどりますよ。
お喜美:そら嬉し無いはずもありませんよ。まさかウチ等ァに子ができるなんて…、しかもあないな綺麗な子どすぇ?
お春:くすっ
お春:良かったですねぇ。
弥彦:オキミー…!オキミヨー…!!(遠くの方から)
お喜美:なんですのん、騒々しい!
弥彦:お喜美ィ!!大変だ!!あいつ、女子(おなご)であった!!!(素っ裸で走ってきて)
お春:お、お兄…っ!!?
お喜美:服を着ィ!!
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小姫:(N)弥彦亭居間にて食卓を囲む一同
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弥彦:いやぁ、ははっ、すまなんだ…。まさか女子であるとは…。
お喜美:それよりも他に謝る事があるんじゃぁおまへんか?
弥彦:それよりも春。お前、何故に此処へ来よった?
お喜美:すぐ話をそらしなはる!
お春:あぁー…。
お春:アタシ、離婚したから。
弥彦:離婚!?(ほぼ同時に)
お喜美:離婚!?(ほぼ同時に)
弥彦:…じゃあ、何かっ!?お前、あの男に捨てられてしまったんか?!
お春:阿呆ぬかせ!アタシがあの男を捨ててやったんだ!
お春:あのぐうたら男…働きもせんで賭博や遊郭ばっかり行きよって!いっそ金無ぅなって腐ってしまえば良いんだ!
弥彦:だから私は反対だと言ったのだ。
お春:だぁって!あの頃はあの人、格好良かったんだよぅ!
お喜美:お春…。男は成功を実に強ぅなるが、
お喜美:女はな、失敗を繰り返して強ぅなるんや…。
お喜美:覚えとき!
お春:お喜美さぁああん!
弥彦:なぁ、それよりも、飯はまだか?腹ァ減ったんだがー…。
お喜美:アンタは黙っときぃ!今、ええ場面やっちゅうに、何していつも邪魔しはるん!?
小姫:…グゥ~…。(腹の虫の音)
小姫:…あ、ごめんなさい。
お喜美:…………。
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小姫:(N)一同ぽかん、しばし間。
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お喜美:あっはっはっはっ!
弥彦:まさかこいつにおまんま要求されるとは思わなんだろう。
お春:アンタ、なかなか良い器してんじゃん!
小姫:~っ。
お喜美:アンタらそんな苛めなさんな。
お喜美:なぁ~……ー?…えっと、こんお子ん名前は?
弥彦:ん?
弥彦:おぉ、そうだったそうだった。そういえばまだ名前をきいとらなんだったなぁ。
お喜美:ほんに、お前さんはぁ…。
お春:えっーと、アタシはお春。
お春:でこっちはお喜美さんで、コイツは弥彦!
弥彦:コイツて…、酷いなぁ。
小姫:オハルさん、オキミさん、ヤヒコさん…。
お春:そ!で、アンタ、名前はなんていうの?
小姫:あ…。
小姫:わたし、小姫…。小さい姫と書いて、アズキと読むんだけど…。
弥彦:アズキか!良い名前じゃないか!
弥彦:遅くなったが、ようこそ、我が家へ。私が家長の弥彦だ。
お春:なぁにが家長よぉ。万年お喜美さんの尻に敷かれとる座布団の癖に。
弥彦:それは言わない約束だろうて!
お喜美:小姫ちゃん、ウチの事はお母はん呼んでくれても構わんよぉ。
小姫:え、あの…っ。
弥彦:おぉ。ならば私の事はお父っつぁんと呼んでくれないか?
小姫:え、えっ?
お春:ちょっとぉ、みんなそんな詰めよったら駄目だってば。
お春:小姫ちゃん、無理しなくて良いから、好きなように呼んであげて?
小姫:あの…。
お春:しばらくして、この家に慣れて、もし呼びたくなったら呼んであげてよ。
小姫:うん、わかった。
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小姫:(N)弥彦亭、縁側にて雨空を見上げる少女。
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小姫:……。(縁側で雨空を見上げている)
弥彦:寝れんか?
小姫:お兄さん…。
弥彦:厠(かわや)から帰ったら寝床におらなんだから探してしまったよ。
小姫:ごめんなさい…。
弥彦:謝ることは無いだろう。
弥彦:…して、何を見ておった?
小姫:お空を…。
弥彦:…。
弥彦:まだ、降っておるなぁ。
小姫:多分、当分止まないんじゃないかな…。
弥彦:?
弥彦:何故そう思う?
小姫:…ねぇ、お兄さんは、狐の嫁入りって知ってる?
弥彦:あぁ、空が晴れているのに雨が止まないという。
小姫:あれはね、あの雨は狐の涙なんだって。
弥彦:………。
小姫:晴れているのに雨が降るのは、嬉しいときの涙だからなんだって。
弥彦:じゃあ、今は悲しい涙なのかもしれないなぁ。
小姫:疑わないの?
弥彦:何をだ?
小姫:だって、お兄さん初めて会ったとき雨は神様の涙だって。
小姫:だからわたしの話とお兄さんの信じていることが違うから。
弥彦:狐も神さんの遣いだったり神さんそのものだったりするし、私からしたらどちらも変わらんよ。
小姫:お兄さんってさ、なんか子供っぽいよね。
弥彦:子供のお前さんに言われるとはなぁ。
小姫:………。
小姫:…わたしね、結婚しなくちゃならないんだ。
弥彦:嫌なのか?
小姫:………。
弥彦:だから逃げてきたのか…。
小姫:多分、この雨はね、わたしのせいなんだ…。
弥彦:それは、困ったなぁ…。
小姫:ごめんなさい…。
弥彦:うむ、そうに謝られてもなぁ…。
弥彦:私は雨は嫌いでは無いのだが、しばらく御天道様が見えんのは気が滅入ってしまう。
小姫:……。
弥彦:考えても仕方ない。
弥彦:せめて私にできるのは、お前さんが嬉しい気持ちになれるように一緒に笑ってやれるくらいか。
小姫:追い出したり、しないの…?気味悪くないの?
弥彦:いやぁ?お喜美もお春も、勿論私もお前さんを気に入ってしまってねぇ。むしろ私は今どうやってお前さんに好かれようと頭を巡らせとるとこだったわ。
弥彦:またどこぞでひっそり泣くより、この騒がしい家できを紛らわせたほうがましだと思わんか?そうだろう?
小姫:………うん。
小姫:ありがとう、お兄さん…。
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小姫:(N)ところ変わり、狐の里にて、豪奢な見た目の狐が苛立っている
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暁:小姫はまだ見付からんのか!?
小雪:申し訳ありません…っ。手を尽くしてはいるのですが…。
暁:尽くす尽くさないではない。余は見つけ出し連れて来いと命じたのだ。それができぬのならば手を抜いていようがいまいが変わらぬわ!
小雪:申し訳ありませんっ!早急に、早急にお姫(オヒイ)様をお連れ致します故っ!
暁:ならばさっさと行動に移さんか。いつまで地べたに這いつくばっているつもりだ?
小雪:は、はい!(去る)
暁:クソが…!どいつもこいつも使えん豚共が!
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小姫:(N)場面は再び弥彦邸にもどり、昼、廊下にて
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弥彦:第36回床掃除リレー大会ー!ワーーー。
お喜美:フフ。今日もウチが圧勝させて頂きますよって。後の厠掃除はお前んらで頑張ってくださいな!
お春:ふん!いつまでも女王気取りだと足元すくわれますよ、お義姉様ァ?
小姫:(わけもわからずハラハラしながら見守っている)
弥彦:じゃあ、位置についてぇ、ィヨーイ、ドン!!
お喜美:オホホホホ!!お先ぃ、失礼いたしますぅ~!
お春:ちょ!!お兄!今のフライングじゃ無いの!?
弥彦:いや?
お春:くっそぉお!!絶対負けーーーん!!
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小姫:(N)決着。お喜美勝利し、場所弥彦邸厠。
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お春:これで36敗…。
お春:いや、今回は分が悪かった…!此処はお喜美さんのホーム!!
弥彦:いや、お春は実家でも負けてるじゃないか。
お春:ウルサイ!戦わずに何や言われたくないよ!
お喜美:おやおや?負け犬さんと戦わずさんじゃないやおまへんかぁ?よう喋ってはるようやけど厠掃除は終わりましてぇ?
お春:まだよ!
お喜美:そうどすかぁ。
お喜美:でしたら早う終わらせて下さいねぇ。負・け・い・ぬ・さん?
お春:ムキィイイ!!
お喜美:小姫ちゃん、終わったら一緒に羊羮食べましょねぇ?
小姫:羊羮!
お春:扱い、違いすぎません?
お喜美:ホッホッホッ!勘違いやおまへんかぁ~?
お春:ムカツク!!!
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小姫:(N)弥彦邸居間にて羊羹を頬張る小姫とそれを見て目を細めるお喜美
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小姫:はむっ、はむっ!(羊羮を頬張る)
お喜美:どやぁ?ウチのお父はんが作らはった羊羮どすえ?
小姫:とっても美味しい!
お喜美:せやろ?ウチのお父はんはなぁ、羊羮作らせたら天下一や!沢山あるさかい、どんどんたべや。
小姫:うん!
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お春:もう、お喜美さんスッゴイ溺愛っぷりだねぇ。
弥彦:そうだなぁ。あいつは元々子供好きだからなぁ。
お春:…ねぇお兄。
弥彦:何だ?
お春:あのさ…、何でお喜美さん子供もうからんのか、きいてもいい?
弥彦:まぁ、なんだ。体質、かなぁ。
お春:体質?
弥彦:初めの子が、事故で流れてしまったんだよ。
弥彦:あいつ、それは自分を責めてな。
弥彦:……。ようやっと気を落ち着けて、二人目を授かったんだが、一人目の流産が癖になってしまったらしくてなぁ…それも流れてしまったんだ。
お春:そうだったんだ…。
弥彦:お喜美はあれ以来子を作ろうとはしなくなってしまった。もう、我が子を失いたくないと。
弥彦:だから、今あいつが子と笑っていられるのはあいつにとって奇跡なんだよ。勿論、私にとっても。
お春:小姫ちゃんさ、この家に来て良かったね!
弥彦:あぁ、そうだなぁ…。ほんとうに…。
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小姫:(N)弥彦邸縁側にて、少女1人空を見上げている
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小姫:……………。(縁側で夜の雨空を見上げている。雨はだい緩やかに、雲も薄く、うっすら月の光が透けて見える)
弥彦:また此処に居ったか。
小姫:ごめんなさい。
弥彦:私はお前さんをいつか責めたかな?
小姫:ううん!
弥彦:だったらもう謝るのは無しだ。
小姫:……。
弥彦:私はさ、お前さんに感謝をしているんだよ。
小姫:ーえ?
弥彦:お前さんが我が家にきてから、お喜美が怒らなくなった。
小姫:…ぷっ!(小さく吹き出す)
弥彦:コラ、何故笑う?
小姫:だぁって…っ、お兄さん、子供っぽ…ックスクス!
弥彦:私が言っているのはそういう意味では無くてだな~…!
弥彦:……まぁいいか。相変わらず雨は降っちゃいるが、久しぶりに、綺麗なお月さんが見れた。
小姫:…(微笑み)
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小雪:見付けましたわ。
弥彦:え?誰だ?
小姫:あなたは…!
小雪:お久しゅうございます。お姫(オヒイ)様。
小姫:小雪…。
弥彦:知り合いか?
小姫:うん…。あのこは、狐の…。
小雪:さぁ、暁(アカツキ)様がお待ちかねですよ。小雪と一緒にかえりましょう、お姫様。
小姫:い…や…っ。(月が再び雲に覆われる)
弥彦:雲が…!…小姫、心配するな。私がお前さんを辛い目にあわせたりしない。
小姫:お兄さん…。
小雪:退きなさい人間。これは狐の問題、貴方には関係の無いことです。
弥彦:関係無くなぞない!小姫と出会って、すごして、…私達は関わりを持ったんだ!
小雪:戯れ言を!(一撃を放つ)
弥彦:ぐぁッ!?
小姫:お兄さん!!
小雪:退け、人間!今なら見逃してさしあげます!
弥彦:絶対に、ひかない…ガフッ!?
小雪:ならば力ずくで払ってやりましょう。(容赦なく攻撃)
弥彦:ガハッ!?…ウガッ!!グッ!!ゲホッゲホッ…。
弥彦:……どうした…もう…終いか…?
小雪:その減らず口、叩けなくしてやる…!!
弥彦:ガハッ!?ウガッ!!…ウッグエッ!!
小姫:やめて……。
小雪:ほらほらほら!!さっきまでの威勢はどうしたんですか!!?
弥彦:ゲホッゲホッ……ハァハァ…。アズ…に、げろ……!
小雪:これで、終いです!!!
小姫:やめてーーーー!!!
弥彦:ァ……ズき………?
小姫:…私、ちゃんと帰るから…っ、もう逃げたりしないからっ!だから!…もう、やめてっ!やめて、下さい…っ。
小雪:……。
小雪:そういって下さると、此方としても助かりますわ、お姫様。
弥彦:マ…てよ……っ!
小姫:……!?
弥彦:お前…何…勝手に…決めてるんだよォ……!!
弥彦:……っお前が居なくなったら、悲しむ奴が居るだろうが!!
小姫:お兄さん…っ
弥彦:お喜美や…、お春………そして、私も!!
弥彦:お前さんが居なくなったら悲しい…!!
弥彦:…だから、行くなアズキィ!!!
小雪:人間風情が…っ!
小姫:待ってください!
小姫:…わたしの心は、もう決まってますからっ。
小雪:お姫様…。
小姫:お兄さん…。わたし、お兄さん達と居るとき、とっても楽しかった…。お喜美さんも、お春さんも、お兄さんさんも…みんな、大好き…。わたし、この家が大好きなの…!
弥彦:なら…っ!
小姫:でも!
小姫:大好きだからこそ、大好きな人が傷つけられたら、悲しいよ…っ!わたしがいたら、また、みんなが傷つけられてしまう!
小姫:わたしの為に大切な皆が傷ついていくのは、イヤだ!イヤだよっ!!
弥彦:小姫…。
小姫:だから、わたし、かえるね!
小姫:大丈夫、安心して…。お兄さん達が悲しくないように…ちゃんと……ーーー(妖術で弥彦の傷を癒し、弥彦達の自分に関する記憶を封じる)
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小姫:(N)弥彦邸にて、脱け殻のような弥彦が縁側にて空をみあげている
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弥彦:………。(縁側でぼーっと雨空を見上げている)
お喜美:嫌ですよぉ…。あの人、毎日ずーっとあの調子で…。いつまでああして空見てはるおつもりなんでしょうねぇ。
お春:仕方ないですよ。こうも雨が続いてはお仕事が捗りませんもの。
お喜美:せやかて、やることあらんなら家事を手伝うなりなんなりしてほしいもんや。
弥彦:………。
お喜美:あの人がああしとるせいで……、何や、日がえらいつまらんように感じますわ。
お春:そうですね…。何か、足りないような…。
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小姫:(N)狐の里にて、暗い顔をした小姫、暁の歓迎をうける
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暁:よくぞ戻って参った、我が妻よ!余はどれだけお前の事を待っておったか!
小姫:暁様には、大変ご心配ご迷惑をおかけして、申し訳なく…何とお詫び申したら良いか…
暁:良い良い(ヨイヨイ)!今お前が此処にこうして居ることでその事は水にながそうじゃないか!
小姫:寛大なお心持ち誠にありがとうございます…。
暁:では、余は式の準備をして参る故、しばし席を外させてもらおう。
小姫:…はい。行ってらっしゃいませ…。
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小雪:(M)あれ以来、お姫様の笑顔を見ることは無くなった…。
小雪:(M)いや、あの人間と居たときの笑顔…、あれはお姫様の婚約が決定してから一度も見たことはなかった…。
小雪:(M)今までも、私(わたくし)達に見せるのは、曇った悲しい表情…。
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小雪:私は…、私の行動は、本当に正しかったのでしょうか…。
王様:悩んでおるな。
小雪:王!も、申し訳ありません!
王様:いやいや良い(ヨイ)よ。
王様:して、小雪よ。ワシは思うに…世の中はなるようにしかならんて。お主の行動もそれは世の定めだったのじゃろうて。
小雪:それはどういう…。
王様:そして、世の中はなるようにはなるのじゃよ。これからのお主の行動もな。
小雪:…?
王様:ホッホッホッ。解らずともよい。後も先も運命じゃ、ワシらは大人しくそれを見届けようじゃないか。
小雪:………。……はい。
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弥彦:(M)雨が降る。強く…強く…。厚く、真っ暗な雲の中からポタポタと、止めどなく。
弥彦:(M)私は、それを眺めていると、なぜか、胸が、苦しくて…。
お喜美:嫌ですよって!アナタ何を泣いていらっしゃるんです!?何かおありになりましたので!?
弥彦:泣いて……?
お喜美:ほらもう、手拭い!お顔拭いてくださいなぁ。
弥彦:泣いて…。
弥彦:……!そうか…、ずっと、泣いていたんだ…!
お喜美:はぁ?今気付かはったんですか?
弥彦:あぁ!今気付いた!
お喜美:ちょっと!アンタぁ!何処行かはるんですか!?
弥彦:迎えに行ってくる!
お喜美:迎えに!?…ちょっと、アンタァ!!傘もささずに!!
お喜美:…もうっ!!
お春:お兄、どうしちまったんだろう?
0:
小姫:(N)狐の里きらびやかな衣装を身に纏い寄り添う小姫と暁、大勢の狐達に祝福される
0:
暁:いよいよであるな。
小姫:はい…。
0:
弥彦:通せ…!コノ…ッ!!(遠くで)
0:
暁:随分騒がしいようだが…。
暁:何事か!!
弥彦:小姫ーーー!!!小姫は居らんかーーー!!?
小雪:あやつ!!
小姫:お兄…さん…!?
弥彦:小姫!!探したぞ!!
暁:何者だ貴様!!
弥彦:退け!!私は小姫に用がある!!
暁:何ぃ…?小姫よ!!どういう事だ!?
小姫:お兄さん…何故…っ。
弥彦:そんなものは決まっているだろう!お前さんが、泣いているからだ!
小雪:!
弥彦:お前さんが笑ってくれんと、私達は一生御天道様が拝めないだろうて。泣いていても、笑ってくれんと困る。
小姫:ごめんなさい……。
弥彦:きかせてくれ、お前さんは、此処に居たいのか?
小姫:わた、わたしは…っ。
弥彦:小姫。
小姫:……りたい。(涙を溢しながら)
小雪:お姫様……っ。
小姫:帰りたい……!!
小姫:皆がいる、あの家に帰りたい!!(泣きながら)
弥彦:じゃあ、ごめんなさいは無しだ!
弥彦:私が今、お前を連れて帰ってやるから、だから、笑顔で、ありがとうだ。
小姫:でもっ、でも!
弥彦:二人のウルサイのも待ってる。だから、早う帰らんとな!
小姫:…ゔんっ!
暁:待たれよ人間!!貴様、自分の犯した罪の重大さを解っておろうな?!
暁:決して生きて帰しはせんぞ!!
弥彦:くッ…!
小雪:ハァアアア!!(狐達を足止めするように割り入る)
暁:何ィ!!?
小姫:小…雪……!?
小雪:お行き下さい…!
弥彦:アンタ、何で…?
小雪:どうやら…
小雪:私も、御天道様がみたくなってしまったようなのです。
小雪:だから、お姫様には笑っていただかないと。
小姫:小雪……っ。
小雪:…お姫様を、頼みましたよ!
弥彦:心得た!
暁:待てェ!!
小雪:行かせません!!
暁:貴様ァ、未来の王たる余に楯突くとは…!この先どうなるか解っておろうな!!
小雪:それが運命だというのであれば、私は従うまでです……!!
暁:者共ォ!!こやつを早急に捕らえよ!!!そして姫を、我が妻を、小姫を我が前に連れもどせぇ!!!
暁:あやつがいなければ余は王にはなれん……!!
暁:歯向かうならば多少手荒でも構わん!!必ず早急に連れもどすのだぁああ!!
小雪:もはやこれまで…。
小雪:お姫様…どうかご無事で…ッ!
小雪:……………?(覚悟を決めるが狐達が襲って来ない)
暁:…………??どうした、何故動かぬ!?
暁:余の命令が聞こえぬのか!?!?
王様:ホッホッホッ。ワシの命令は絶対じゃて、いくらお主の命(メイ)とてこやつらも逆らえんよ。
暁:こ、これは何のお戯れですか!?
王様:貴様こそ、何の戯れじゃ!!
暁:なっ…何を…!?
王様:娘の将来の為にと有力なお主をえらび、婿の事だと今まで目を瞑ってきたが…。どうやらそれは間違いだったようじゃ!
王様:娘を悲しみの中泣かせた罪、その身を持って償えぃ!!!!!
暁:ひっ、ヒィイイイイイイイ!!!!!」
0:
0:
弥彦:ハァハァ……。
弥彦:此処まで来ればしばらくは大丈夫だろう。お前さん、意外と重たいんだなぁ…。
小姫:あ、あの!
弥彦:なんだぁ?
小姫:何で、わたしのことを覚えていたの…?わたし、あの時、お兄さんの中のわたしを封じたのに…。
弥彦:ずっと、泣いていたからな。
小姫:え…?
弥彦:出会ったときと同じ涙で、ずーっと泣いていたから。
弥彦:こっちが悲しくなるような涙で。……あの涙で気付かない人間なんていないさ。
小姫:………。
弥彦:下向いても真っ暗、天(ソラ)見上げても真っ暗ってのは、気が滅入る…そろそろ、私も光がみたかったんだよ。
小姫:お兄さん……。
弥彦:そら、我が家が見えてきたぞ。
お喜美:あんたーーー!!!
お春:小姫ちゃーーーん!!!
弥彦:お、ウルサイのがお出迎えだ。
弥彦:…ははっ、帰って来たんだ私達は。
小姫:……っ!
弥彦:どうだ?数日ぶりに帰ってきた我が家は?
小姫:……嬉しいっ!
弥彦:そうか。
小姫:お兄さんっ。
弥彦:ん?
小姫:ありがとう…!(ありったけの笑顔で)
弥彦:こちらこそ、ありがとう。
0:
0:
0:~了~
弥彦:(M)それは、ある薄暗い昼での出来事だった。
弥彦:(M)陽は厚い雲に隠れ、地には天(ソラ)から大粒の涙が降り注いでいた。
弥彦:(M)私はその日の仕事を早々に切上げ、急ぎ足でその小路をかけていった。
弥彦:(M)…が、次第に強くなるその粒は、風に乗り勢いを増して身体に突き刺さる。
弥彦:(M)私はたまらずに路の脇にたてられたお地蔵様のお蔵(おくら)に、少し雨宿りをさせてもらうことにした。
0:
0:
弥彦:ふぅ、参ったなぁ…。少しして、神さんも落ち着いて下さると良いんだが…。
小姫:神さん?
弥彦:ン?
弥彦:あぁ、お天(ソラ)のお方も何かお辛い事でもあったのだろう、涙を流すのは自然なことだと…
弥彦:私もわかってはいるのだがなぁ。
小姫:ふぅん…
弥彦:……して、童子(わらし)よ。
弥彦:お前さんはいつからそこに?
小姫:ずっと。
弥彦:ずっと?
小姫:お兄さんが来る前から、ずっと。
弥彦:そうか、ずっとか。
小姫:……。
弥彦:お前さんも、雨宿りで?
小姫:ううん。わたしは、隠れているの。
弥彦:隠れている?何故?
小姫:見つかりたくないから。
弥彦:誰かに追われて居るのか?
小姫:………。
弥彦:………。…そうか。
小姫:…ねぇ。
弥彦:何だ?
小姫:お兄さん、雨、嫌い?
弥彦:嫌い、ではないなぁ。
弥彦:雨も降って貰わねば私も飢えてしまうからな。
弥彦:まぁ、こうも力強く降られては少しばかり難ではあるが。
小姫:そっか。
弥彦:……なぁ、童子よ。
小姫:何?
弥彦:お前、行くあてが無いのならば私の家に来るか?
小姫:え?
弥彦:私はな、生憎子宝に恵まれなくてなぁ。お前さんなら、家内もきっと歓迎してくれるだろう。
弥彦:どうだ?
小姫:いいの?
弥彦:良いも何も、私の方が誘っているのだ。
小姫:行くっ。行きたい!
弥彦:よし。
弥彦:そうと決まれば早くかみさんに伝えんとな…走るぞ!
小姫:あ、待って!
0:
小姫:(N)弥彦亭居間にて
0:
弥彦:ふぃー、ただいまー
お春:あー!帰ってきなすった!お喜美さん!お兄帰ってきなすったよ!
お喜美:ほんまにや。
お春:お兄、お帰んなさ~い!
弥彦:おぉ、春、きとったのか。
お喜美:もぅ、何呑気な声出してはるんですか。まぁまぁ、こんにびしょ濡れんならはってぇ…。せやからウチ言いましたでしょう?
弥彦:いやぁ、すまんすまん。
お喜美:お風邪拗らせますよって。お風呂沸いとりますさかい、早う温まって下さい………って、弥彦さん。そんお子はどうしはったんで?
弥彦:いやぁ、そこの路で偶然になぁ。可愛いだろう。今日から私達の子になった。
お喜美:ハァ?!まったアンタは、勝手な事ばかり…!
小姫:…クシュンッ
お喜美:…~まぁ、話は後でたんまりとさせていただきますよって。今は早よ温まって下さいな。
弥彦:分かった。童子、こっち来い。風邪ひく前に温まらせてもらおう。
小姫:……。
0:
小姫:(N)弥彦亭風呂場にて
0:
弥彦:(何かしら風呂に浸かりながら上機嫌な鼻歌)
小姫:………。
弥彦:どうした、童子?そんな所突っ立ってないで早う湯船浸かろう。
小姫:…ねぇ、お兄さん。
弥彦:ン?どうした?
小姫:奥さん、わたしの事、良く思ってないんじゃ…。
弥彦:アイツはあれでお前さんを喜んでいたよ。目がそう言っていたわ。
小姫:でも、怒ってたよ…。
弥彦:そういう性分なんだ。初対面では分かりづらかろうて、…まぁ、慣れればこれ以上に分かりやすい奴はおらんのだがなぁ。
小姫:…。
弥彦:それより、お前さんも早う湯に浸かれ。お前さんが身体を壊してはそれこそアイツの雷がおちる。
小姫:…うん。わかった。
弥彦:……………!?
小姫:どうしたの?
弥彦:お前さん…、まさか、女子(おなご)であったのか…!?
小姫:…?うん。そうだよ。
弥彦:!!!!
0:
小姫:(N)弥彦亭居間にて、夕餉の支度をしながら楽しそうに談笑する女達
0:
お春:くくくっ
お春:まさか、お子を拾(ひら)って来なさるとはねぇ。
お喜美:笑い事やおまへん!
お喜美:全く…どないしよて…。あの人は何でああも破天荒なんよ。
お春:でも、お喜美さんまんざらでもありませんでしたでしょう?お顔が揺るんどりますよ。
お喜美:そら嬉し無いはずもありませんよ。まさかウチ等ァに子ができるなんて…、しかもあないな綺麗な子どすぇ?
お春:くすっ
お春:良かったですねぇ。
弥彦:オキミー…!オキミヨー…!!(遠くの方から)
お喜美:なんですのん、騒々しい!
弥彦:お喜美ィ!!大変だ!!あいつ、女子(おなご)であった!!!(素っ裸で走ってきて)
お春:お、お兄…っ!!?
お喜美:服を着ィ!!
0:
小姫:(N)弥彦亭居間にて食卓を囲む一同
0:
弥彦:いやぁ、ははっ、すまなんだ…。まさか女子であるとは…。
お喜美:それよりも他に謝る事があるんじゃぁおまへんか?
弥彦:それよりも春。お前、何故に此処へ来よった?
お喜美:すぐ話をそらしなはる!
お春:あぁー…。
お春:アタシ、離婚したから。
弥彦:離婚!?(ほぼ同時に)
お喜美:離婚!?(ほぼ同時に)
弥彦:…じゃあ、何かっ!?お前、あの男に捨てられてしまったんか?!
お春:阿呆ぬかせ!アタシがあの男を捨ててやったんだ!
お春:あのぐうたら男…働きもせんで賭博や遊郭ばっかり行きよって!いっそ金無ぅなって腐ってしまえば良いんだ!
弥彦:だから私は反対だと言ったのだ。
お春:だぁって!あの頃はあの人、格好良かったんだよぅ!
お喜美:お春…。男は成功を実に強ぅなるが、
お喜美:女はな、失敗を繰り返して強ぅなるんや…。
お喜美:覚えとき!
お春:お喜美さぁああん!
弥彦:なぁ、それよりも、飯はまだか?腹ァ減ったんだがー…。
お喜美:アンタは黙っときぃ!今、ええ場面やっちゅうに、何していつも邪魔しはるん!?
小姫:…グゥ~…。(腹の虫の音)
小姫:…あ、ごめんなさい。
お喜美:…………。
0:
小姫:(N)一同ぽかん、しばし間。
0:
お喜美:あっはっはっはっ!
弥彦:まさかこいつにおまんま要求されるとは思わなんだろう。
お春:アンタ、なかなか良い器してんじゃん!
小姫:~っ。
お喜美:アンタらそんな苛めなさんな。
お喜美:なぁ~……ー?…えっと、こんお子ん名前は?
弥彦:ん?
弥彦:おぉ、そうだったそうだった。そういえばまだ名前をきいとらなんだったなぁ。
お喜美:ほんに、お前さんはぁ…。
お春:えっーと、アタシはお春。
お春:でこっちはお喜美さんで、コイツは弥彦!
弥彦:コイツて…、酷いなぁ。
小姫:オハルさん、オキミさん、ヤヒコさん…。
お春:そ!で、アンタ、名前はなんていうの?
小姫:あ…。
小姫:わたし、小姫…。小さい姫と書いて、アズキと読むんだけど…。
弥彦:アズキか!良い名前じゃないか!
弥彦:遅くなったが、ようこそ、我が家へ。私が家長の弥彦だ。
お春:なぁにが家長よぉ。万年お喜美さんの尻に敷かれとる座布団の癖に。
弥彦:それは言わない約束だろうて!
お喜美:小姫ちゃん、ウチの事はお母はん呼んでくれても構わんよぉ。
小姫:え、あの…っ。
弥彦:おぉ。ならば私の事はお父っつぁんと呼んでくれないか?
小姫:え、えっ?
お春:ちょっとぉ、みんなそんな詰めよったら駄目だってば。
お春:小姫ちゃん、無理しなくて良いから、好きなように呼んであげて?
小姫:あの…。
お春:しばらくして、この家に慣れて、もし呼びたくなったら呼んであげてよ。
小姫:うん、わかった。
0:
小姫:(N)弥彦亭、縁側にて雨空を見上げる少女。
0:
小姫:……。(縁側で雨空を見上げている)
弥彦:寝れんか?
小姫:お兄さん…。
弥彦:厠(かわや)から帰ったら寝床におらなんだから探してしまったよ。
小姫:ごめんなさい…。
弥彦:謝ることは無いだろう。
弥彦:…して、何を見ておった?
小姫:お空を…。
弥彦:…。
弥彦:まだ、降っておるなぁ。
小姫:多分、当分止まないんじゃないかな…。
弥彦:?
弥彦:何故そう思う?
小姫:…ねぇ、お兄さんは、狐の嫁入りって知ってる?
弥彦:あぁ、空が晴れているのに雨が止まないという。
小姫:あれはね、あの雨は狐の涙なんだって。
弥彦:………。
小姫:晴れているのに雨が降るのは、嬉しいときの涙だからなんだって。
弥彦:じゃあ、今は悲しい涙なのかもしれないなぁ。
小姫:疑わないの?
弥彦:何をだ?
小姫:だって、お兄さん初めて会ったとき雨は神様の涙だって。
小姫:だからわたしの話とお兄さんの信じていることが違うから。
弥彦:狐も神さんの遣いだったり神さんそのものだったりするし、私からしたらどちらも変わらんよ。
小姫:お兄さんってさ、なんか子供っぽいよね。
弥彦:子供のお前さんに言われるとはなぁ。
小姫:………。
小姫:…わたしね、結婚しなくちゃならないんだ。
弥彦:嫌なのか?
小姫:………。
弥彦:だから逃げてきたのか…。
小姫:多分、この雨はね、わたしのせいなんだ…。
弥彦:それは、困ったなぁ…。
小姫:ごめんなさい…。
弥彦:うむ、そうに謝られてもなぁ…。
弥彦:私は雨は嫌いでは無いのだが、しばらく御天道様が見えんのは気が滅入ってしまう。
小姫:……。
弥彦:考えても仕方ない。
弥彦:せめて私にできるのは、お前さんが嬉しい気持ちになれるように一緒に笑ってやれるくらいか。
小姫:追い出したり、しないの…?気味悪くないの?
弥彦:いやぁ?お喜美もお春も、勿論私もお前さんを気に入ってしまってねぇ。むしろ私は今どうやってお前さんに好かれようと頭を巡らせとるとこだったわ。
弥彦:またどこぞでひっそり泣くより、この騒がしい家できを紛らわせたほうがましだと思わんか?そうだろう?
小姫:………うん。
小姫:ありがとう、お兄さん…。
0:
小姫:(N)ところ変わり、狐の里にて、豪奢な見た目の狐が苛立っている
0:
暁:小姫はまだ見付からんのか!?
小雪:申し訳ありません…っ。手を尽くしてはいるのですが…。
暁:尽くす尽くさないではない。余は見つけ出し連れて来いと命じたのだ。それができぬのならば手を抜いていようがいまいが変わらぬわ!
小雪:申し訳ありませんっ!早急に、早急にお姫(オヒイ)様をお連れ致します故っ!
暁:ならばさっさと行動に移さんか。いつまで地べたに這いつくばっているつもりだ?
小雪:は、はい!(去る)
暁:クソが…!どいつもこいつも使えん豚共が!
0:
小姫:(N)場面は再び弥彦邸にもどり、昼、廊下にて
0:
弥彦:第36回床掃除リレー大会ー!ワーーー。
お喜美:フフ。今日もウチが圧勝させて頂きますよって。後の厠掃除はお前んらで頑張ってくださいな!
お春:ふん!いつまでも女王気取りだと足元すくわれますよ、お義姉様ァ?
小姫:(わけもわからずハラハラしながら見守っている)
弥彦:じゃあ、位置についてぇ、ィヨーイ、ドン!!
お喜美:オホホホホ!!お先ぃ、失礼いたしますぅ~!
お春:ちょ!!お兄!今のフライングじゃ無いの!?
弥彦:いや?
お春:くっそぉお!!絶対負けーーーん!!
0:
小姫:(N)決着。お喜美勝利し、場所弥彦邸厠。
0:
お春:これで36敗…。
お春:いや、今回は分が悪かった…!此処はお喜美さんのホーム!!
弥彦:いや、お春は実家でも負けてるじゃないか。
お春:ウルサイ!戦わずに何や言われたくないよ!
お喜美:おやおや?負け犬さんと戦わずさんじゃないやおまへんかぁ?よう喋ってはるようやけど厠掃除は終わりましてぇ?
お春:まだよ!
お喜美:そうどすかぁ。
お喜美:でしたら早う終わらせて下さいねぇ。負・け・い・ぬ・さん?
お春:ムキィイイ!!
お喜美:小姫ちゃん、終わったら一緒に羊羮食べましょねぇ?
小姫:羊羮!
お春:扱い、違いすぎません?
お喜美:ホッホッホッ!勘違いやおまへんかぁ~?
お春:ムカツク!!!
0:
小姫:(N)弥彦邸居間にて羊羹を頬張る小姫とそれを見て目を細めるお喜美
0:
小姫:はむっ、はむっ!(羊羮を頬張る)
お喜美:どやぁ?ウチのお父はんが作らはった羊羮どすえ?
小姫:とっても美味しい!
お喜美:せやろ?ウチのお父はんはなぁ、羊羮作らせたら天下一や!沢山あるさかい、どんどんたべや。
小姫:うん!
0:
お春:もう、お喜美さんスッゴイ溺愛っぷりだねぇ。
弥彦:そうだなぁ。あいつは元々子供好きだからなぁ。
お春:…ねぇお兄。
弥彦:何だ?
お春:あのさ…、何でお喜美さん子供もうからんのか、きいてもいい?
弥彦:まぁ、なんだ。体質、かなぁ。
お春:体質?
弥彦:初めの子が、事故で流れてしまったんだよ。
弥彦:あいつ、それは自分を責めてな。
弥彦:……。ようやっと気を落ち着けて、二人目を授かったんだが、一人目の流産が癖になってしまったらしくてなぁ…それも流れてしまったんだ。
お春:そうだったんだ…。
弥彦:お喜美はあれ以来子を作ろうとはしなくなってしまった。もう、我が子を失いたくないと。
弥彦:だから、今あいつが子と笑っていられるのはあいつにとって奇跡なんだよ。勿論、私にとっても。
お春:小姫ちゃんさ、この家に来て良かったね!
弥彦:あぁ、そうだなぁ…。ほんとうに…。
0:
小姫:(N)弥彦邸縁側にて、少女1人空を見上げている
0:
小姫:……………。(縁側で夜の雨空を見上げている。雨はだい緩やかに、雲も薄く、うっすら月の光が透けて見える)
弥彦:また此処に居ったか。
小姫:ごめんなさい。
弥彦:私はお前さんをいつか責めたかな?
小姫:ううん!
弥彦:だったらもう謝るのは無しだ。
小姫:……。
弥彦:私はさ、お前さんに感謝をしているんだよ。
小姫:ーえ?
弥彦:お前さんが我が家にきてから、お喜美が怒らなくなった。
小姫:…ぷっ!(小さく吹き出す)
弥彦:コラ、何故笑う?
小姫:だぁって…っ、お兄さん、子供っぽ…ックスクス!
弥彦:私が言っているのはそういう意味では無くてだな~…!
弥彦:……まぁいいか。相変わらず雨は降っちゃいるが、久しぶりに、綺麗なお月さんが見れた。
小姫:…(微笑み)
0:
小雪:見付けましたわ。
弥彦:え?誰だ?
小姫:あなたは…!
小雪:お久しゅうございます。お姫(オヒイ)様。
小姫:小雪…。
弥彦:知り合いか?
小姫:うん…。あのこは、狐の…。
小雪:さぁ、暁(アカツキ)様がお待ちかねですよ。小雪と一緒にかえりましょう、お姫様。
小姫:い…や…っ。(月が再び雲に覆われる)
弥彦:雲が…!…小姫、心配するな。私がお前さんを辛い目にあわせたりしない。
小姫:お兄さん…。
小雪:退きなさい人間。これは狐の問題、貴方には関係の無いことです。
弥彦:関係無くなぞない!小姫と出会って、すごして、…私達は関わりを持ったんだ!
小雪:戯れ言を!(一撃を放つ)
弥彦:ぐぁッ!?
小姫:お兄さん!!
小雪:退け、人間!今なら見逃してさしあげます!
弥彦:絶対に、ひかない…ガフッ!?
小雪:ならば力ずくで払ってやりましょう。(容赦なく攻撃)
弥彦:ガハッ!?…ウガッ!!グッ!!ゲホッゲホッ…。
弥彦:……どうした…もう…終いか…?
小雪:その減らず口、叩けなくしてやる…!!
弥彦:ガハッ!?ウガッ!!…ウッグエッ!!
小姫:やめて……。
小雪:ほらほらほら!!さっきまでの威勢はどうしたんですか!!?
弥彦:ゲホッゲホッ……ハァハァ…。アズ…に、げろ……!
小雪:これで、終いです!!!
小姫:やめてーーーー!!!
弥彦:ァ……ズき………?
小姫:…私、ちゃんと帰るから…っ、もう逃げたりしないからっ!だから!…もう、やめてっ!やめて、下さい…っ。
小雪:……。
小雪:そういって下さると、此方としても助かりますわ、お姫様。
弥彦:マ…てよ……っ!
小姫:……!?
弥彦:お前…何…勝手に…決めてるんだよォ……!!
弥彦:……っお前が居なくなったら、悲しむ奴が居るだろうが!!
小姫:お兄さん…っ
弥彦:お喜美や…、お春………そして、私も!!
弥彦:お前さんが居なくなったら悲しい…!!
弥彦:…だから、行くなアズキィ!!!
小雪:人間風情が…っ!
小姫:待ってください!
小姫:…わたしの心は、もう決まってますからっ。
小雪:お姫様…。
小姫:お兄さん…。わたし、お兄さん達と居るとき、とっても楽しかった…。お喜美さんも、お春さんも、お兄さんさんも…みんな、大好き…。わたし、この家が大好きなの…!
弥彦:なら…っ!
小姫:でも!
小姫:大好きだからこそ、大好きな人が傷つけられたら、悲しいよ…っ!わたしがいたら、また、みんなが傷つけられてしまう!
小姫:わたしの為に大切な皆が傷ついていくのは、イヤだ!イヤだよっ!!
弥彦:小姫…。
小姫:だから、わたし、かえるね!
小姫:大丈夫、安心して…。お兄さん達が悲しくないように…ちゃんと……ーーー(妖術で弥彦の傷を癒し、弥彦達の自分に関する記憶を封じる)
0:
小姫:(N)弥彦邸にて、脱け殻のような弥彦が縁側にて空をみあげている
0:
弥彦:………。(縁側でぼーっと雨空を見上げている)
お喜美:嫌ですよぉ…。あの人、毎日ずーっとあの調子で…。いつまでああして空見てはるおつもりなんでしょうねぇ。
お春:仕方ないですよ。こうも雨が続いてはお仕事が捗りませんもの。
お喜美:せやかて、やることあらんなら家事を手伝うなりなんなりしてほしいもんや。
弥彦:………。
お喜美:あの人がああしとるせいで……、何や、日がえらいつまらんように感じますわ。
お春:そうですね…。何か、足りないような…。
0:
小姫:(N)狐の里にて、暗い顔をした小姫、暁の歓迎をうける
0:
暁:よくぞ戻って参った、我が妻よ!余はどれだけお前の事を待っておったか!
小姫:暁様には、大変ご心配ご迷惑をおかけして、申し訳なく…何とお詫び申したら良いか…
暁:良い良い(ヨイヨイ)!今お前が此処にこうして居ることでその事は水にながそうじゃないか!
小姫:寛大なお心持ち誠にありがとうございます…。
暁:では、余は式の準備をして参る故、しばし席を外させてもらおう。
小姫:…はい。行ってらっしゃいませ…。
0:
小雪:(M)あれ以来、お姫様の笑顔を見ることは無くなった…。
小雪:(M)いや、あの人間と居たときの笑顔…、あれはお姫様の婚約が決定してから一度も見たことはなかった…。
小雪:(M)今までも、私(わたくし)達に見せるのは、曇った悲しい表情…。
0:
小雪:私は…、私の行動は、本当に正しかったのでしょうか…。
王様:悩んでおるな。
小雪:王!も、申し訳ありません!
王様:いやいや良い(ヨイ)よ。
王様:して、小雪よ。ワシは思うに…世の中はなるようにしかならんて。お主の行動もそれは世の定めだったのじゃろうて。
小雪:それはどういう…。
王様:そして、世の中はなるようにはなるのじゃよ。これからのお主の行動もな。
小雪:…?
王様:ホッホッホッ。解らずともよい。後も先も運命じゃ、ワシらは大人しくそれを見届けようじゃないか。
小雪:………。……はい。
0:
弥彦:(M)雨が降る。強く…強く…。厚く、真っ暗な雲の中からポタポタと、止めどなく。
弥彦:(M)私は、それを眺めていると、なぜか、胸が、苦しくて…。
お喜美:嫌ですよって!アナタ何を泣いていらっしゃるんです!?何かおありになりましたので!?
弥彦:泣いて……?
お喜美:ほらもう、手拭い!お顔拭いてくださいなぁ。
弥彦:泣いて…。
弥彦:……!そうか…、ずっと、泣いていたんだ…!
お喜美:はぁ?今気付かはったんですか?
弥彦:あぁ!今気付いた!
お喜美:ちょっと!アンタぁ!何処行かはるんですか!?
弥彦:迎えに行ってくる!
お喜美:迎えに!?…ちょっと、アンタァ!!傘もささずに!!
お喜美:…もうっ!!
お春:お兄、どうしちまったんだろう?
0:
小姫:(N)狐の里きらびやかな衣装を身に纏い寄り添う小姫と暁、大勢の狐達に祝福される
0:
暁:いよいよであるな。
小姫:はい…。
0:
弥彦:通せ…!コノ…ッ!!(遠くで)
0:
暁:随分騒がしいようだが…。
暁:何事か!!
弥彦:小姫ーーー!!!小姫は居らんかーーー!!?
小雪:あやつ!!
小姫:お兄…さん…!?
弥彦:小姫!!探したぞ!!
暁:何者だ貴様!!
弥彦:退け!!私は小姫に用がある!!
暁:何ぃ…?小姫よ!!どういう事だ!?
小姫:お兄さん…何故…っ。
弥彦:そんなものは決まっているだろう!お前さんが、泣いているからだ!
小雪:!
弥彦:お前さんが笑ってくれんと、私達は一生御天道様が拝めないだろうて。泣いていても、笑ってくれんと困る。
小姫:ごめんなさい……。
弥彦:きかせてくれ、お前さんは、此処に居たいのか?
小姫:わた、わたしは…っ。
弥彦:小姫。
小姫:……りたい。(涙を溢しながら)
小雪:お姫様……っ。
小姫:帰りたい……!!
小姫:皆がいる、あの家に帰りたい!!(泣きながら)
弥彦:じゃあ、ごめんなさいは無しだ!
弥彦:私が今、お前を連れて帰ってやるから、だから、笑顔で、ありがとうだ。
小姫:でもっ、でも!
弥彦:二人のウルサイのも待ってる。だから、早う帰らんとな!
小姫:…ゔんっ!
暁:待たれよ人間!!貴様、自分の犯した罪の重大さを解っておろうな?!
暁:決して生きて帰しはせんぞ!!
弥彦:くッ…!
小雪:ハァアアア!!(狐達を足止めするように割り入る)
暁:何ィ!!?
小姫:小…雪……!?
小雪:お行き下さい…!
弥彦:アンタ、何で…?
小雪:どうやら…
小雪:私も、御天道様がみたくなってしまったようなのです。
小雪:だから、お姫様には笑っていただかないと。
小姫:小雪……っ。
小雪:…お姫様を、頼みましたよ!
弥彦:心得た!
暁:待てェ!!
小雪:行かせません!!
暁:貴様ァ、未来の王たる余に楯突くとは…!この先どうなるか解っておろうな!!
小雪:それが運命だというのであれば、私は従うまでです……!!
暁:者共ォ!!こやつを早急に捕らえよ!!!そして姫を、我が妻を、小姫を我が前に連れもどせぇ!!!
暁:あやつがいなければ余は王にはなれん……!!
暁:歯向かうならば多少手荒でも構わん!!必ず早急に連れもどすのだぁああ!!
小雪:もはやこれまで…。
小雪:お姫様…どうかご無事で…ッ!
小雪:……………?(覚悟を決めるが狐達が襲って来ない)
暁:…………??どうした、何故動かぬ!?
暁:余の命令が聞こえぬのか!?!?
王様:ホッホッホッ。ワシの命令は絶対じゃて、いくらお主の命(メイ)とてこやつらも逆らえんよ。
暁:こ、これは何のお戯れですか!?
王様:貴様こそ、何の戯れじゃ!!
暁:なっ…何を…!?
王様:娘の将来の為にと有力なお主をえらび、婿の事だと今まで目を瞑ってきたが…。どうやらそれは間違いだったようじゃ!
王様:娘を悲しみの中泣かせた罪、その身を持って償えぃ!!!!!
暁:ひっ、ヒィイイイイイイイ!!!!!」
0:
0:
弥彦:ハァハァ……。
弥彦:此処まで来ればしばらくは大丈夫だろう。お前さん、意外と重たいんだなぁ…。
小姫:あ、あの!
弥彦:なんだぁ?
小姫:何で、わたしのことを覚えていたの…?わたし、あの時、お兄さんの中のわたしを封じたのに…。
弥彦:ずっと、泣いていたからな。
小姫:え…?
弥彦:出会ったときと同じ涙で、ずーっと泣いていたから。
弥彦:こっちが悲しくなるような涙で。……あの涙で気付かない人間なんていないさ。
小姫:………。
弥彦:下向いても真っ暗、天(ソラ)見上げても真っ暗ってのは、気が滅入る…そろそろ、私も光がみたかったんだよ。
小姫:お兄さん……。
弥彦:そら、我が家が見えてきたぞ。
お喜美:あんたーーー!!!
お春:小姫ちゃーーーん!!!
弥彦:お、ウルサイのがお出迎えだ。
弥彦:…ははっ、帰って来たんだ私達は。
小姫:……っ!
弥彦:どうだ?数日ぶりに帰ってきた我が家は?
小姫:……嬉しいっ!
弥彦:そうか。
小姫:お兄さんっ。
弥彦:ん?
小姫:ありがとう…!(ありったけの笑顔で)
弥彦:こちらこそ、ありがとう。
0:
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0:~了~