台本概要

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タイトル 情熱の残像
作者名 荒木アキラ  (@masakasoreha)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 4人用台本(男2、女2)
時間 50 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 時代は1980年代、ニューヨーク。
ジョンとジーナのカップルと、親友のリリーは、3人で新しい暮らしに乗り出そうとしていた。
ある夜、パーティーで新進気鋭の画家ユーシンに出会うことで、3人のバランスは崩れていく。
(Bon jovi様のPV『ALWAYS』を元に執筆しました笑)

上演時には、任意ではありますが、作者Twitter(@masakasoreha)までご連絡いただけると、
喜んで拝聴しに行きます。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ジョン 67 若く売れないカメラマン。情熱的で、すぐカッとするところがある。
ジーナ 87 ジョンの恋人。売れないモデル。セクシーで魅惑的な見た目と違い、中身は意外に冷めている。
リリー 74 ジーナの親友。売れない小説家。ジーナとジョンのカップルと同居を始めたばかり。
ユーシン 49 新進気鋭の画家。社交界の注目の的。余裕のある大人の男性。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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ジョン語り:「俺は貧しさと混沌の渦巻く世界で、 ジョン語り:孤独に打ちひしがれていた。 ジョン語り:粗末なベッドに腰掛け、 ジョン語り:眺めているのはいつも同じひとつの写真。 ジョン語り:写真の中の彼女は溌剌(はつらつ)と笑っていた。 ジョン語り:それは俺の瞳を一瞬かすめた、 ジョン語り:彼女の幻影だったのだろうか。」 0: 0: 0:時代は1980年代、ニューヨーク。 0:場面、荷物が積み上がる狭いリビング。 0:ジョン、ジーナ、リリーは荷ほどきしている。 0: 0: ジーナ:「ジョン!ジョンったら!ウフフ、くすぐったーい! ジーナ:やめて、もう!やめてったらー! ジーナ:こらあ!ウフフフフ」 ジョン:「やめてくれ?それって、こうかい?」 ジーナ:「あはははは!もーう!ちがうでしょー!ウフフフフ・・・」 0: 0: 0:くすぐりあい、笑い合う二人(アドリブあり)。 0: リリー:「まったくもう、見てらんないわね、あんたたち。 リリー:じゃれ合うのはいいけど、いい加減、 リリー:このダンボールの山、目に入らない?」 ジーナ:「はあ・・・だって、ジョンがちょっかいかけてくるんだもの。 ジーナ:あはははは!あーあ、待った!待ったー! ジーナ:リリー。さっきから、あんたばっかに働かせちゃって、ごめんね。 ジーナ:ほら、あなたも謝るのよ、ジョン?」 0: ジョン:「なになに?こいつは、キッチン用品だ! ジョン:(ジーナの髪にキスしながら)んー! ジョン:おれは早くきみを料理したい!ひひひ」 ジーナ:「やめて、ジョン!ほんっとうに、今度という今度は、 ジーナ:リリーに叱られるんだから!彼女、怒ると怖いのよー?」 リリー:「(荷物を抱えながら)仲がいいのは、 リリー:いいんだけど、ね?よいしょっと! リリー:3人で暮らすメリット、その1、 リリー:男手があると、こういうとき、使える! リリー:はあ・・・全然使えてないけど!」 0: 0:笑い合う3人。 0: ジョン:「なあ、リリー、本当にあの部屋、 ジョン:俺たちで使っていいのかい?」 リリー:「構わないわよ? リリー:わたしはあんたのファンだもの。 リリー:いい写真撮ってもらうには、暗室も必要だしね? リリー:それにはあのクローゼット、なかなかでしょ?」 ジーナ:「それで広い部屋、譲ってくれたの?なんだか悪いわね、 ジーナ:こんな三流写真家さんのために。泣ける!あはは」 ジョン:「だーれーがー、三流だ、だれが!こいつめ!」 ジーナ:「やーだ!あはははは!離して!離してったらー!」 0: リリー:「また始まっちゃった! リリー:あんたたちは、トムとジェリーか!まったくもう・・・」 0: 0: ジョン:「なあ、おふたりさん、引っ越し祝いに、 ジョン:今日は派手にパーっといこうぜ? ジョン:例のクラブ、今日がオープンじゃなかった?」 ジーナ:「あんたは、いつだってパーティ、パーティ! ジーナ:ちょっとは、リリーを見習って、 ジーナ:禁欲生活でもすればいいのよ?」 リリー:「あたしの場合、禁欲っていうか、 リリー:酒癖悪いから、ただ飲まないだけ!あはは・・ リリー:知ってるでしょう?わたしの仕出かした数々の失敗を!」 0: ジーナ:「よーく、知ってますとも。 ジーナ:突然かかってくる夜明けの電話! ジーナ:何度起こされたことか!」 ジョン:「しかも、泣きながら!」 リリー:「言ーわーなーいーでー! リリー:もう、反省はじゅうぶんにしております。」 0: ジーナ:「それにしても、酒もタバコもやらないなんて物書きにしちゃ、 ジーナ:上出来だわ。 ジーナ:あたしだったら、3日ももたない! ジーナ:だって、モデル仲間って、そりゃ残酷なのよー? ジーナ:嘘でも悪女を気取ってないと、すぐ甘く見られちゃう。」 ジョン:「おまえの気の強いとこ、おれは好きだぜ? ジョン:飢えた女豹ってかんじ、たまんねえ。」 ジーナ:「この手はなあに、この手は? ジーナ:もう、早く片付けて、出かけましょうよ!」 0: リリー:「クラブ・ファニーのオープンなら1カ月先にのびたはずよ? リリー:なんでも、新進気鋭の画家を発掘したとかで、 リリー:彼の最新作をオーナーは待ってるみたい。」 ジョン:「なんだよー!不公平だぜ! ジョン:おれの新作はそんな大々的に取り上げられなかったぜ?」 ジーナ:「才能の問題ね、おつかれさま!」 0: 0:ジーナ、リリー、笑い合う。 0: ジョン:「モデルが売れてくれれば、 ジョン:俺の名を世に知らしめてくれるはずなんだが・・ ジョン:(リリーに殴られる)痛って!今全力で殴ったろ?」 0: リリー:「あはははは!あんたたちって、最高!」 0: 0:場面、夜。リビングにて。 0: 0: ジーナ:「やーーっと、寝た。ごめんね、待たせて。」 リリー:「いいのいいの。 リリー:彼、ちょっと昼間、ハイだったでしょ?」 ジーナ:「いま、荷物の山の上で、やっと寝ついてくれた。」 リリー:「それで?まあ、ゆっくり聞こうじゃないの。」 ジーナ:「じつはね、今やってるジョンのプロジェクト、 ジーナ:けっこう酷評が耳に入ってきててさ。 ジーナ:あたしはいいの。 ジーナ:モデルのせいと言われれば、そうかもしれないし。」 リリー:「落ち込んでるとは思ってたけど、 リリー:わたしの前ではあのひと、強がっちゃうでしょ? リリー:・・・ジョン、何か言ってた?」 ジーナ:「俺は愛のイメージを追うだけだー!って、そればっかり! ジーナ:見かけによらず、頑固なんだから。」 リリー:「イメージ?あなたのこと?」 ジーナ:「わたし・・といえば、わたしなんだけど、 ジーナ:なんてゆうかな、女の象徴、みたいな?あはは」 0: リリー:「そうね、彼の写真にわたしが惹かれたのは、 リリー:そのイメージの持つ、荒削りな若々しさ、かな。 リリー:あの年頃の男の子しか見れない、純粋な憧れ、 リリー:みたいなものってあるでしょう?」 ジーナ:「憧れ、ね。あいつがわたしに憧れてる、 ジーナ:なんていったら、あんたたち何年の付き合いよ、って言われそうだけど、 ジーナ:それってけっこう、当たってるんだなあ。」 リリー:「まあ、伊達に物書きしてるわけじゃないのよ。 リリー:わたしの目はごまかせない!ふふふ」 ジーナ:「あたしたちね、くっついたり、離れたりしてきたけど、 ジーナ:今やっと先が見えてきたって思うの。 ジーナ:まあ、3人だけど、彼と一緒に住むって覚悟決めたとき、 ジーナ:あたしたち少し歩み寄ったのよ、お互いに。」 リリー:「どう言うこと?」 ジーナ:「あたしと、ジョンね、 ジーナ:しばらく愛し合うことをしてなかったの。」 0: リリー:「つまり・・・その、ずばり?」 ジーナ:「そうよ。恥ずかしいけど、わたし、 ジーナ:なんだかあまり好きじゃないのよ。 ジーナ:行為自体、興味ないっていうか、冷めてるっいうか。」 リリー:「ジーナ、あなたが?・・・いや、まさか! リリー:あなたって、まさに女の権化(ごんげ)みたいなとこ、あるから。」 ジーナ:「でしょう? ジーナ:このくびれた腰、張りのある胸、セクシーでしょう?笑」 リリー:「意外だった。なんていうのかな、 リリー:あなたって、わたしに似てると思ってたから。」 ジーナ:「え?リリー、あなた、セックス好きなの?」 リリー:「そんな、あけすけに言わないでよ。 リリー:わたしだって、木でできてるわけじゃなし。 リリー:そうね、わたしが落ち着いて見えるなら、 リリー:それはたった一度でも、心地いい朝を迎えた思い出が リリー:あるからかしら?」 ジーナ:「そういうもんなの? ジーナ:わたしは、けっこう打算だったりするわよ?」 リリー:「わ、まさに女豹だ!」 ジーナ:「例えば、買い物に行く約束をしてて、どうしても次の日、 ジーナ:買ってもらいたいモノがあるとするじゃない? ジーナ:そういう何かおねだりする時に、自分で火をつけはするけど、 ジーナ:してる最中は上の空。 ジーナ:早く終わらないかなあって。」 リリー:「それって、おかしいわよ。 リリー:ぜーったい、男にこんな話しちゃダメよ?」 ジーナ:「だからね、彼がわたしに妖艶な魅力を感じているなら、 ジーナ:それは恐ろしい勘違いなのよ!」 リリー:「なるほど、彼の抱くイメージ像と、 リリー:自分自身が一致しないってわけか。 リリー:そのへんのこと、モデルと写真家なら、話し合うべきよ。」 ジーナ:「プロなら見抜いてほしいって言う、 ジーナ:わたしの身勝手な願望もあるのよ。 ジーナ:意地でも、わたしを脱がせてみせろっての!」 リリー:「なるほど。彼氏に、それを期待したい気持ちはよくわかるわ。 リリー:だけどあなたたちはもう、 リリー:ひとつの作品を作り上げているのよ? リリー:それがどう言うことか、もう理解してもいい頃なんじゃないかしら?」 ジーナ:「そうね、ある意味わたしたち、 ジーナ:アマチュア気分からまだ一歩踏み出せてないのかもしれないわ。 ジーナ:彼の幻想を壊したら、それこそ2人の仲は終わりな気がして。」 リリー:「恋人をとるか、芸術をとるか、女としては難しいところね。」 0: ジーナ:「とりあえず、まあ、乾杯といきましょうよ。」 リリー:「夜更けのコーヒーで?」 ジーナ:「わたしたちの前途に!」 リリー:「若き3人のアーティスト、清貧なる門出に!」 0: 0:ふたり、笑い合う。 0: 0: 0:場面、クラブ・ファニーのパーティ。 0: 0: ジョン:「(口笛を吹いたり、または声高に叫びながら) ジョン:なかなか、盛況じゃないか! ジョン:もう、みんなすっかり出来上がっちまってるぜ!」 0: リリー:「あら、やっときたやっときた! リリー:おふたりさん、こっちよ!」 ジーナ:「リリー!見違えたわ! ジーナ:その際どい服、よく似合ってる。」 リリー:「うふふ、まあ、たまにはね。 リリー:退屈したくはないでしょう?」 ジーナ:「てゆうか、それ、わたしの勝負用ドレス!」 0: リリー:「まあまあ、そう怒らないの! リリー:そんなことより、もうすぐ花火よ! リリー:わたし、いい場所見つけちゃったの、こっちよ!」 0: ジーナ:「待ってよ、リリー! ジーナ:ああ、もう、なんだってこんなにイカれた連中で ジーナ:溢れかえってるのよ?」 ジョン:「そんな高いヒール、履いてくるなって、言ったろう? ジョン:先に行ってるぜ、ジーナ!」 ジーナ:「ああん、もう!待ってよ、ジョン! ジーナ:・・・ジョン?あ!」 0: ユーシン:「失礼、おじょうさん?」 ジーナ:「あ、ああ!ごめんなさい、人違い・・ ジーナ:っていうか、どれが誰の手か、わかりゃしないわね。 ジーナ:わたし、彼の手だと思って、思い切り引っ張っちゃったけど ジーナ:、大丈夫かしら?」 ユーシン:「このような細腕でよければ、いつでもお貸ししますよ?」 ジーナ:「あら、あなた、見かけない顔ね! ジーナ:これだけ人がいちゃ、知り合いのほうが少ないか、あはは。 ジーナ:あなた、誰に誘われてこのパーティへ?」 ユーシン:「こういう場はどうにも性に合わないんだが。 ユーシン:ぼくは、オーナーに頼まれて、 ユーシン:ちょっと顔を出しに来ただけなんだ。」 ジーナ:「オーナーに呼ばれたですって? ジーナ:もしかしてあなた、 ジーナ:このパーティを7月まで引き延ばした張本人??」 ユーシン:「ああ、ここニューヨークは、毎日どこかでパーティ三昧。 ユーシン:ひとつくらい、遅れてやってきても、 ユーシン:誰の迷惑にもならないだろ?」 ジーナ:「あら、それは違うわ。 ジーナ:何百、何千という画家のたまごたちが、この1ヶ月、 ジーナ:嫉妬と期待に身を焼いてきたのよ? ジーナ:あなたはこのパーティがどんな大きな意味をもつか、 ジーナ:わからないみたいね。」 ユーシン:「わからないな。きみは知ってるの?」 ジーナ:「うふふ、実をいうと、今のはね、友達の受け売り。」 ユーシン:「じゃあ、きみは、このパーティの意味をどうみる?」 0: ジーナ:「うーん、そうね、まれにみる楽観主義者たちの、 ジーナ:諦念の宴(ていねんのうたげ)かしら?」 ユーシン:「あはははは!きみって、なかなかの皮肉屋だな!」 ジーナ:「わたしは、ジーナ、モデルよ。よろしく。」 ユーシン:「ぼくは・・・」 ジーナ:「ユーシン、でしょ?ユーシン・リー。」 0: ユーシン:「どうやら、きみの目には、 ユーシン:何もかもお見通しみたいだ。」 0: 0: 0:遠くからリリーの叫び声。 0: リリー:「きゃあああ!」 0: ジーナ:「なにかしら?ちょっと、今の・・・! ジーナ:リリー?リリーなの!?」 ユーシン:「友達かい?」 ジーナ:「そうかもしれない!ちょっと、そこ通して!」 0: 0:階段の踊り場、暗がりの中に倒れているリリー。 0: 0: リリー:「ジーナ!ジーナ!どうしよう、 リリー:わたし・・・わたし、怖かった!」 ジーナ:「リリー!あなた、大丈夫?なにがあったのよ?」 0: 0:血だらけのジョンが立ち上がりながら。 0: ジョン:「は!なんの、これしき! ジョン:まだ俺にかかってくるやつは・・・いるかい?」 ジーナ:「ちょっと!ジョン!そんな怪我して、無茶よ!」 リリー:「わたしが悪いの、 リリー:こんな暗がりにひとりで来ちゃうなんて、 リリー:どうかしてたんだわ・・・!」 ジョン:「だからといって、女性を無理矢理襲っていいわけあるか! ジョン:あの野郎!どこ行った!」 リリー:「もうやめて、やめて、ジョン! リリー:ジーナ、彼を止めて! リリー:パーティがめちゃくちゃになるわ!」 0: 0:ユーシン、遅れて登場。 0: ユーシン:「めちゃくちゃになって、何が悪いんです? ユーシン:女性に力づくとは、許せませんね。」 ジョン:「・・・だれだ?」 ジーナ:「このパーティの、主役よ。」 ユーシン:「ちょうどいい。 ユーシン:ぼくもおひらきにしたいと思っていたんです。 ユーシン:警察を呼びましょうか。」 0: ジーナ:「ちょっと待って! ジーナ:ジョン、あなた、その手のナイフはなに? ジーナ:まさか・・・!」 ジョン:「おれは・・・おれはただ夢中で・・・!」 リリー:「どうしよう、アイツ、逃げてったけど、 リリー:ジョンがナイフを奪って・・・ リリー:怪我させちゃったかもしれない!」 ジーナ:「シー!落ち着いて、リリー。もう大丈夫。 ジーナ:もう、大丈夫・・・。 ジーナ:そうでしょ?ユーシン。」 0: ユーシン:「ああ、とりあえず、ここを出た方がいい。 ユーシン:正義がこっちにあったとしても、 ユーシン:手負いの虎はお互いさまだ。 ユーシン:何があるかわからい。 ユーシン:ぼくのアトリエがこの近くにある。 ユーシン:そこで様子をみよう。」 0: 0: 0:場面、ユーシンのアトリエ。 0: ジーナ:「わあ!すごい鮮やかさ・・・! ジーナ:色彩の洪水ね・・・!」 0: ユーシン:「ひとまず、みんな、落ち着いたかい。」 0: ジョン:「まだ、礼を言ってなかったな。 ジョン:手当てまでしてもらって、悪かった。」 ユーシン:「いいんだ。 ユーシン:ジーナがきみとぼくの手を間違えたのがきっかけさ。 ユーシン:何だか、縁を感じるね。」 ジョン:「ふーん、あんたが、あの、ユーシン・リーか。 ジョン:ずいぶんとリアルな絵を描くじゃないか。 ジョン:しかも、みんな、同じ方向を見つめてるときた! ジョン:これって、けっこう不気味だぜ?」 ユーシン:「よく気づいたね。 ユーシン:そう、過去を見つめる女。まだ目下製作中さ。 ユーシン:ぼくの絵の特徴は、人物の瞳の微妙な動きだ。 ユーシン:これが一連の作品の一部さ。」 ジョン:「なかなか、たいしたもんだぜ! ジョン:おれも、ハイスクールまで油絵をやってたんだ。」 ユーシン:「匂いが気になるヤツもいるが、慣れてしまえば、 ユーシン:大胆な筆致と質感が出せる点、ぼくは今こいつに夢中さ。 ユーシン:ジョン、きみは、写真家なんだって?」 ジョン:「そう、おれはカメラマン。 ジョン:そして、ジーナ!彼女が我が女神、 ジョン:テーマは、まさに女さ!」 ジーナ:「まあ、売れないモデルと、売れない写真家、 ジーナ:いいカップルでしょ?あはは」 ユーシン:「そうか、彼女がテーマか! ユーシン:ふむ、・・・それは面白そうだ。 ユーシン:きみの作品も、見てみたいね。 ユーシン:と言っても、写真に関しては、ぼくは素人なんだが。」 ジョン:「まあ、今は写真の他に、映像も手がけ始めてるんだがね。 ジョン:リリー、彼女が脚本を書いて、ジーナがそれを演じる、 ジョン:そしてそれをおれが撮るってわけさ! ジョン:この夏にでも、始めようかと思っていたんだが、 ジョン:この手じゃね・・・!」 0: リリー:「ジョン、何度頼まれようと、わたし脚本なんて、書かないわよ?」 ジョン:「いいじゃないか、きみなら書ける! ジョン:演技のできるやつなら、何人か用意してるんだ。 ジョン:もちろん、主役は・・」 ジーナ:「あたしやんないわよ?」 ジョン:「ジーナ!」 ジーナ:「だいたい、写真がダメなら、映像、なんて安直過ぎるのよ。 ジーナ:わたしは、無名でもプライド持ってモデルをやってるわ! ジーナ:あなたはどうなの、ジョン?」 0: ジョン:「・・おれにだって、プライドはあるさ! ジョン:時代は移り変わる! ジョン:新しいことにチャレンジして、何が悪い!」 ジーナ:「あなたの絵も、わたし好きだったわ。 ジーナ:だけど、絵筆がいつの間にか、カメラに取って変わって。 ジーナ:日の目をみないまま、今度は映像を撮るから女優になれですって? ジーナ:あんまりよ! ジーナ:わたしは、あなたの所有物じゃない!」 リリー:「ジーナ!言い過ぎよ。」 0: ユーシン:「ハハハ・・・若いって、羨ましいな。 ユーシン:ぼくの年までくるとね、 ユーシン:時代はただ気まぐれに移ろうわけじゃない。 ユーシン:巡り来る季節のように感じられるものさ。」 ジョン:「ふん!ジジイの回顧録なんて、知ったこっちゃないね!」 ジーナ:「ジョン!彼に当たるなんて、最低よ!」 ジョン:「ああ!おれは最低のクソ野郎さ! ジョン:もう構わないでくれ!」 0: リリー:「ジョン!ジョンったら。 リリー:ジーナ、あなたも悪いわ。 リリー:わたし、追いかけてくる!」 0: 0:ジョン、リリー、出て行く。 0: 0: ジーナ:「ごめんなさい、ユーシン。 ジーナ:あなたの厚意が、これじゃ、台無しね。」 ユーシン:「きみが謝る必要はないよ。 ユーシン:男はいっとき、儚い夢をみるものだよ。 ユーシン:それくらい、きみにもわかるだろう?」 ジーナ:「ええ、わかってるわ。 ジーナ:だけどその期待を、わたしは裏切ってばかり。 ジーナ:自分で自分が、いやになるわ!」 ユーシン:「そんな風に自分を責めるものじゃない。 ユーシン:男が求めるままに与えてしまっていては、 ユーシン:女性の持つ豊かな感受性は死んでしまうだろう。 ユーシン:きみは、きみに正直に生きていいと思うよ。」 ジーナ:「・・でも、わたしとジョンは、 ジーナ:もう引き返せないくらい遠くまで来てしまっているのよ。 ジーナ:いまさら、どんな未来があるというの。」 ユーシン:「きみは、きみたちの関係性の中だけで生きているわけじゃない。 ユーシン:ひとりの人間として、自分を自分で支えていかなければ、 ユーシン:何も生まれないよ。 ユーシン:たまには、残酷なくらい、他人を揺り動かして ユーシン:いいんじゃないかい?」 ジーナ:「ユーシン、あなたって、不思議な人ね。」 ユーシン:「なぜだい?」 ジーナ:「わたし、ジョンに求めるばかりで、 ジーナ:自分から何かを与えることがきるなんて、思ってもみなかった。」 ユーシン:「女性は皆、無自覚に男を引き寄せる磁石を持ってるのさ。 ユーシン:男はいつだってそれに振り回されるばかり。 ユーシン:ぼくだって、例外じゃないよ。」 ジーナ:「あら、それって、どういう意味?」 ユーシン:「さあね。きみは、天性のモデルだねっ言ったまでさ。」 0: 0:場面、アパート。 0: リリー:「ああ、ジョン。よかった! リリー:帰ってたのね、あちこち探したのよ!」 ジョン:「・・逃げ出すなんて、 ジョン:みっともないとこ見られちまったな。」 リリー:「あなたが自分でそう思うなら、わたしは否定しないわ。 リリー:ただ、わかっておいてほしいの。 リリー:あなたがあの場にいたくなかった気持ち、わたしにはわかるわ。」 ジョン:「なにがわかるって? ジョン:おれはね、とんだ恥をさらしたわけだ! ジョン:あいつにしてみたら、おれは相手にする価値もない、 ジョン:鼻垂らしたガキんちょだったってことさ!」 リリー:「落ち着いて、ジョン。 リリー:わたしも芸術家のはしくれなら、 リリー:あなたの気持ち、わかるつもりよ。」 ジョン:「同情なら、よしてくれ!余計みじめになる。」 リリー:「そんなんじゃない、わかるでしょう? リリー:わたしたちは、同じ人種だわ。 リリー:何かを生み出すには、その内に嵐を抱えていなければ。 リリー:あなたの激しさは、それだけで価値があるわ。」 ジョン:「・・・やつに気圧(けお)されて、何も返せなかった。 ジョン:情けないよ。」 0: リリー:「そりゃあ、相手はまさに鮮烈なデビューを飾った リリー:本物のアーティストだもの。 リリー:あのアトリエの秘めてるパワーはすごかった! リリー:わたしだって、何も言えなかったわ。」 ジョン:「そうさ、その通りだ。 ジョン:こっちは3人ルームシェアしても、 ジョン:食いぶち稼ぐのがやっとだってのに、 ジョン:向こうは優雅にアトリエまでお持ちときた!」 リリー:「そんな、生活やお金の話をしているんじゃないわ。 リリー:あの人の絵が放つ物語が見えなかった?」 ジョン:「物語?」 リリー:「何ヶ月、いえ何年もかけて、 リリー:一筆一筆入念に色を重ねて、 リリー:微妙な印影を描く精密さに驚かされなかった? リリー:あの人はただ集中してひとつのことを成し遂げたんじゃない。 リリー:あの人の中のただひとつ見えている何かが、 リリー:彼を熱狂させているのよ。 リリー:そんな情熱が、わたしたちの中にあったかしら。」 ジョン:「熱狂か・・・。たしかに、あいつの絵には、 ジョン:目を釘付けにして離さない何かがあった!」 リリー:「そうでしょう? リリー:だからわたし、言葉が見つからなかった。」 ジョン:「だけど、それに対する愛着のようなものが ジョン:おれには見えなかったね。 ジョン:まるでパッケージされた商品を見せるように、 ジョン:彼は堂々としていたじゃないか。 ジョン:自分の作品というものに対する羞恥の感情ってものが ジョン:まるでない。 ジョン:そいつが気にくわないんだ。」 リリー:「作品は人に見せる決心をした瞬間から、 リリー:自分だけのものではなくなるのかもしれないわ。」 ジョン:「どっちにしろ、おれにはひどく傲慢に見えたね!」 0: リリー:「ジョン・・あなたたち、今煮詰まってるんじゃない? リリー:一緒に暮らしてひと月、 リリー:何度あなたとジーナが怒鳴りあう声を聞いたかわからないわ。」 ジョン:「おれと、あいつの作品と、何が関係あるってんだい?」 リリー:「ううん、・・・そうね。ごめんなさい。なんでもないわ。」 ジョン:「いいや、聞き捨てならないね。 ジョン:ハッキリ言ったらどうだい?」 リリー:「じゃあ、言わせてもらうけど、 リリー:あなたとジーナはお互い近づきすぎて、 リリー:才能を摩耗させてるところがあるわ。」 ジョン:「おれには、ジーナを撮れないって言うのか?」 リリー:「そうは言ってないじゃない。 リリー:ただ、恋に恋してる状態から抜け出さなければ、 リリー:あなたの作品は永遠に美しいダイアリーの域を出ないのよ。」 ジョン:「おれには・・・ジーナは、 ジョン:ジーナはたったひとつの愛だ。 ジョン:それを失った自分なんて考えられない。」 リリー:「そうかしら。 リリー:・・・そろそろ考えてみても、ばちはあたらないわよ?」 ジョン:「・・!何を言ってるか、きみはわかってるのかい?」 リリー:「わたしたちは、友達よ、今も、過去も。 リリー:でもこれからどうなるかはだれにもわからないわ。」 ジョン:「なんだい。 ジョン:きみの言葉はなんだか謎かけに誘ってるみたいだ。」 リリー:「あら、それって駄目なこと? リリー:わたしたち、お互いにお互いを見ずにすんできたことに、 リリー:感謝するべきよ。 リリー:わたしとあなたの間には、常にジーナがいた。 リリー:彼女を介さない関係は、今までなかったわ。」 ジョン:「その通りだ。 ジョン:それでことはうまく運んできたはずさ。」 リリー:「うまく運んでるですって? リリー:あなたとジーナの惨状を見る限り、 リリー:わたしたちは何か間違えてるのよ。」 ジョン:「なんだか、居心地いいとは言えない会話だな。」 リリー:「そう、わたしはあなたに安心なんかされたくないの。 リリー:あなたにとって、害をなす、危険な存在でいたいのよ。」 ジョン:「きみは正気とは思えない。 ジョン:自分でしでかしてる過ちに、気づくべきだ。」 リリー:「過ち?これを過ちと呼びたいなら、わたしも賛成だわ。 リリー:わたしたち、今過ちを犯してる。」 0: 0:少しずつ近づいていく二人。 0: ジョン:「きみの言葉は、危険すぎるよ。 ジョン:やめよう、こんなこと、よくない。」 リリー:「そう言うわりには、 リリー:あなたはいつもみたいにジョークにしてしまわないのね。」 ジョン:「なんだい、これ。 ジョン:おれはどう考えりゃいいのかな。まるきりわからない。」 リリー:「わたしは、あなたが間違った『女性』を愛していること、 リリー:それが言いたいだけよ。」 ジョン:「それは愛の告白ととっていいのかな? ジョン:おれには、下心がないと思ってるのかい? ジョン:男をかいかぶりすぎだよ、リリー。」 リリー:「こわがらないで、ジョン。」 ジョン:「きみは今日の一件で懲りたはずだ。 ジョン:ぼくをこれ以上、誘惑しないでくれ。」 リリー:「あなたが責任を感じることじゃないわ。 リリー:わたしたち、お互いにもっと知り合う必要を感じない?」 ジョン:「こういうやり方がまずいってことくらい、 ジョン:わかってるだろう?」 リリー:「愛はね、たったひとつの形をしてるわけじゃないの。 リリー:それを今見せてあげる・・・」 0: ジョン:「リリー・・」 0: 0:抱き合い、激しくキスを交わす二人。 0: ジーナ:「ジョン?リリー?いるの? ジーナ:ジョン?…ジョン!?」 0: 0:ジーナ、突然にドアを開ける。 0: ジョン:「ジーナ!・・これは、違うんだ。 ジョン:そういうんじゃないんだ!」 リリー:「いいえ、そういうふうにしか、なりようがなかった。 リリー:男と女なんて、そんなものよ。」 0: ジーナ:「信じられない! ジーナ:あなたたち、いつからこんな関係なのよ! ジーナ:これはひどい裏切りだわ!」 リリー:「ええ、そうね。 リリー:わたしは、気まぐれでこんなことしたわけじゃないわ。 リリー:いつかは、こうなるしかなかったのよ。」 ジョン:「リリー!」 ジーナ:「信じられない・・・ ジーナ:もう、なにもかも信じられないわ!」 0: 0:飛び出していくリリー。 0: リリー:「ジョン! リリー:今は放っておきなさい。 リリー:それとも、なにもかもなかったことにして、 リリー:彼女のあとを追う? リリー:わたしは、どちらでも構わないわ。」 ジョン:「リリー、きみは、どういうつもりだ! ジョン:きみという人間が、わからなくなってきたよ。 ジョン:ジーナを傷つけて、きみは平気なのかい?」 リリー:「だったら、さっきのキスはなんだったというの? リリー:彼女に秘密にしたところで、その胸をよぎった激情からは、 リリー:逃れられないはずよ?」 ジョン:「あれは・・・。 ジョン:きみはこんな残酷な人じゃなかったはずだ!」 リリー:「わたしを恨む?ええ、それもいいでしょう。 リリー:でもひとつ、これだけは忘れないで。 リリー:あなたの中には、こんな女を愛する衝動が確かに息づいてるわ!」 ジョン:「今、ぼくの手はだれも抱きしめる資格はない! ジョン:頼む、行ってくれ、リリー。出て行ってくれ!」 0: 0: 0:場面、夜明けのアトリエ。 0: 0: ジーナ:「(泣きながら)なにもかも・・もう、いや・・! ジーナ:消えて・・・なくなりたい!」 0: ユーシン:「ジーナ?・・・ジーナ! ユーシン:どうした!何があった?」 ジーナ:「ユーシン!・・・ユーシン! ジーナ:わああああ!」 ユーシン:「こいつは、ただごとじゃないみたいだ。 ユーシン:可哀想に。 ユーシン:今は泣けばいい。思い切り、泣くんだ。」 ジーナ:「(泣きながら)ねえ、ユーシン、おしえて。 ジーナ:愛も友情も失くしたときは、どうすればいいの?」 ユーシン:「そうだな。たとえば、新しい友人の腕の中で ユーシン:赤んぼみたいに甘えてみるっていうのは?」 ジーナ:「今だけ・・・今だけ、そばにいて。」 ユーシン:「今だけなんて寂しいこと言うな。 ユーシン:いつまでも・・きみが望むならね。」 ジーナ:「ユーシン、あなただけ。あなただけよ、今のわたしには!」 0: ユーシン:「シー!もうこれ以上、言わなくていい。 ユーシン:さあ、眠るんだ。きみはひどく疲れてる。」 0: ジーナ:「ちょっとだけ・・・ちょっとだけ横になるわ。 ジーナ:どこにもいかないで。そばにいてね?」 ユーシン:「安心していい。約束するよ。 ユーシン:ぼくはどこにもいかないよ。」 0: 0: 0:眠りにつく、ジーナ。 0: 0:アトリエにかかってくる電話。 0: 0: リリー:「もしもし、ユーシンさん? リリー:わたし、リリー。 リリー:ジーナがそっちに行ったんじゃないかしら?」 ユーシン:「ああ・・来てる。驚いたよ。 ユーシン:今、ここで眠ってるが、ひどく憔悴してた。 ユーシン:何があったというんだい?」 リリー:「見たのよ。 リリー:わたしとジョンとのお熱いラブシーンをね。」 ユーシン:「わからないな。 ユーシン:それで、きみが彼女を心配して電話をくれるなんて。 ユーシン:まさか、きみは・・・?」 リリー:「何かを変えるには、激痛が必要だって、 リリー:そうは思わない? リリー:そういう経験、あなたならわからないかしら。」 ユーシン:「ジョンとジーナ。 ユーシン:確かに彼らには、新しい嵐が必要だったのかもしれない。」 リリー:「いずれ、そうなっていたことを、 リリー:わたしが訪れさせたまでのことよ。 リリー:ジョンの中の女性像は、イコール、ジーナだった。 リリー:でもそんな幻想、青春が過ぎ去ればいずれ壊れてしまっていたわ。 リリー:そう、それが壊れないままでは、いつまでたっても、 リリー:いい作品は生まれないだろうって、わたし思ってた。」 ユーシン:「きみの説が正しいとして、 ユーシン:きみの役回りは?あまりに危険じゃないかい? ユーシン:なにも、ジョンのお相手は、 ユーシン:きみでなくてはならないわけじゃなかっただろう。 ユーシン:これでは、きみたち3人は終わりを迎えるしかない。」 リリー:「終わらせてもいいと思った! リリー:わたし、芸術のためなら、殉教者になってもいいと思った! リリー:あなたの絵を見たとき、この人は関係性の死なんてものじゃない、 リリー:本物の死の深淵を覗いたことがある人だってわかったわ!」 ユーシン:「かいかぶりすぎだよ。ぼくなんか、ただのつまらない男だ。 ユーシン:必ずしもミューズに愛されているわけじゃない。」 リリー:「じゃあ、ジーナを見つめるあなたの視線は? リリー:描きたい、描きたい!って死にものぐるいで叫んでたわよ?」 ユーシン:「まいったな。そこまでお見通しだとは。 ユーシン:女性の千里眼には、いつも驚かされる。」 リリー:「描けばいいのよ。描いて、見せつけてやればいいのよ、 リリー:こんな愛し方もあるんだって、ジーナに!」 ユーシン:「きみの立場はわかった。 ユーシン:だが、それを言うなら素面のときにするんだな。 ユーシン:きみは一杯やってるね? ユーシン:タフを気取るなら、傷口に塩を塗るような真似、 ユーシン:するもんじゃない。」 0: リリー:「あたしはね! リリー:・・・いいえ、あなたの言う通りかもしれないわ。 リリー:ジーナのことは、あなたに任せたわよ。 リリー:巻き込んで悪いとは思うけど、くれぐれも、お願いよ?」 0: 0: 0:ジーナ、目覚める。 0: ジーナ:「ん・・・ここは? ジーナ:ユーシン、ユーシン、どこ?」 0: ユーシン:「ジーナ、目が覚めたかい? ユーシン:コーヒーでも、どう?」 ジーナ:「ごめんなさい。ベッドを独り占めしちゃったわね。」 ユーシン:「いいんだよ、そんなこと。 ユーシン:・・・で?少しは落ち着いたかい?」 ジーナ:「夢をみたわ。 ジーナ:幼い少女のわたしと、男を誘惑する悪女のわたし、 ジーナ:ふたりが一つの舟に乗ってる。 ジーナ:激しい川の渦の中で、どこにも進むことができないの。」 ユーシン:「どうか、心を静めて聞いてくれ。」 ジーナ:「どうしたの? ジーナ:わたし、まだ何も受け入れられそうにないわ。」 ユーシン:「ぼくはね、きみに出会った瞬間から、 ユーシン:ある構想に取り憑かれてきた。 ユーシン:ぼくは、きみの素顔が描きたい。 ユーシン:それは無防備な少女のきみだ。 ユーシン:男に媚びることを知らない、性的磁石を持たない、 ユーシン:不可能が可能であった場所まで退行したきみだ。」 ジーナ:「過去を見つめる女・・・?」 ユーシン:「そうさ!でも、瞳はまっすぐぼくを見据えててほしい。」 ジーナ:「そんな・・・でもわたしにできるかしら?」 ユーシン:「ただ、きみの視線がほしい。 ユーシン:その眼が語り出す悲しみを、 ユーシン:残さずカンバスに映し取ってみせる!」 ジーナ:「わたし・・・今のわたしには何もないわ。 ジーナ:そうよ、わたしにはもう ジーナ:、自分ひとりで歩く道しか残っていないんだわ・・・。」 ユーシン:「独り立ちした初めてのきみを、 ユーシン:ぼくに描かせてもらえないだろうか。」 0: ジーナ:「・・・いいわ。わたし、やるわ。 ジーナ:ただし、わたしを描くなら、一糸纏わぬ姿を!」 0: ユーシン:「いいのかい、後悔しないね?」 0: ジーナ:「ええ・・・。」 0: 0: 0:場面、アトリエで全裸のジーナを描くユーシン。 0: 0: ジョン:「ジーナ!どこだ!ジーナ! ジョン:・・・ジーナ!?」 0: 0: 0:ジョン、突然にドアを開ける。 0: ジーナ:「ジョン!」 ジョン:「なにをしている・・・?」 0: 0:ジーナ、シーツにくるまりながら。 0: ジーナ:「あなたにわたしを責める資格はないわ。」 0: ジョン:「なんだ、これは・・・!悪い夢だと言ってくれ!」 ジーナ:「いいえ、わたしは今しがた、その夢から目覚めたところよ。 ジーナ:悪いけど、あなたにはもう何も求めてないの。」 ジョン:「そうか・・・はは・・・ ジョン:おれとリリーへの当てつけにこんなことをしているんだろ? ジョン:そんなこと、しなくていい、しなくていいんだ!」 ジーナ:「そんないっときの気の迷いでこんなこと、 ジーナ:できると思って?」 ジョン:「なんだよ・・・?ユーシン、てめえ! ジョン:これを見せるために、わざわざおれを呼んだのか!?」 ユーシン:「そうだと言ったら? ユーシン:彼女はモデルだ。 ユーシン:そこらの男の前で脱ぐのはこれが初めてってわけじゃあるまい。」 ジョン:「このやろう!こんな絵・・・こんなもの!」 ジーナ:「なにをするの、やめて!乱暴しないでジョン! ジーナ:お願いよ!」 ジョン:「いいや、許されないね! ジョン:(絵の全体を見渡して)・・・! ジョン:だれだ・・・これは?この女は・・・! ジョン:こいつには、こんな顔を見せるのか? ジョン:おれにはどうだった! ジョン:こんなの、おれのよく知るジーナじゃない!」 ジーナ:「あなたがわたしのなにを知っていたというの! ジーナ:ただ、享楽にあけくれたあの時間は終わったのよ!」 0: ジョン:「もう、本当になにもかも、おしまいだ! ジョン:(絵を切り刻みながら) ジョン:こんな絵、こうして・・・!こうして・・・! ジョン:こうしてやる!」 0: ユーシン:「好きにするがいい。 ユーシン:ぼくの中に息づいた情熱は、 ユーシン:カンバスを切り裂いたくらいで消え去りはしない。 ユーシン:ぼくは、何度でも描くだろう。 ユーシン:彼女の瞳の火が消えないかぎり。」 ジョン:「なんだと・・・!彼女はおれのものだ! ジョン:芸術なんて、糞食らえだね!」 ジーナ:「わたしはわたしの道を、自分を支えにして生きて行くわ。 ジーナ:あなたもあなただけの人生を歩むべきよ。」 ジョン:「ジーナ!おれを置いていかないでくれ! ジョン:おれには・・おれには・・・」 ジーナ:「あなたはきっと、いまにまた他の女性を愛するようになるわ。 ジーナ:わたしを愛することができたようにね。 ジーナ:・・・今やっと、リリーがあなたにしたことの意味が ジーナ:わかる気がするわ。」 ジョン:「じゃあ、これならどうだい?」 0: ユーシン:「ライター?」 0: ジョン:「愛を前にして、芸術を気取るからさ! ジョン:永遠(とわ)の愛が確かに存在することを、 ジョン:おれが教えてやる! ジョン:その眼の奥の火も、情熱の炎も、 ジョン:何もかもこの聖域ごと焼き尽くしてやる!」 0: ジーナ:「ジョン!なんてことを!」 0: ジョン:「あはははは!ざまあみろだ! ジョン:あはははは!」 0: ジョン語り:「俺は男の部屋に火を放った。 ジョン語り:激しく、すべてが燃えてしまえばいいと思った。 ジョン語り:やがてやってくる夕闇の中を俺は ジョン語り:俺の知らない世界へと歩き出した。 ジョン語り:ジーナのいない世界へと。 0: ジーナの幻:「ジョン!うふふふふ・・・」 0: ジョン語り:今でも俺は簡素な部屋でひとり、 ジョン語り:彼女の幻に手をさしのべてしまう。 ジョン語り:ジーナを忘れることができずに、 ジョン語り:ずっとひとりきりの部屋で、佇んでいる。」 0: 0:END

ジョン語り:「俺は貧しさと混沌の渦巻く世界で、 ジョン語り:孤独に打ちひしがれていた。 ジョン語り:粗末なベッドに腰掛け、 ジョン語り:眺めているのはいつも同じひとつの写真。 ジョン語り:写真の中の彼女は溌剌(はつらつ)と笑っていた。 ジョン語り:それは俺の瞳を一瞬かすめた、 ジョン語り:彼女の幻影だったのだろうか。」 0: 0: 0:時代は1980年代、ニューヨーク。 0:場面、荷物が積み上がる狭いリビング。 0:ジョン、ジーナ、リリーは荷ほどきしている。 0: 0: ジーナ:「ジョン!ジョンったら!ウフフ、くすぐったーい! ジーナ:やめて、もう!やめてったらー! ジーナ:こらあ!ウフフフフ」 ジョン:「やめてくれ?それって、こうかい?」 ジーナ:「あはははは!もーう!ちがうでしょー!ウフフフフ・・・」 0: 0: 0:くすぐりあい、笑い合う二人(アドリブあり)。 0: リリー:「まったくもう、見てらんないわね、あんたたち。 リリー:じゃれ合うのはいいけど、いい加減、 リリー:このダンボールの山、目に入らない?」 ジーナ:「はあ・・・だって、ジョンがちょっかいかけてくるんだもの。 ジーナ:あはははは!あーあ、待った!待ったー! ジーナ:リリー。さっきから、あんたばっかに働かせちゃって、ごめんね。 ジーナ:ほら、あなたも謝るのよ、ジョン?」 0: ジョン:「なになに?こいつは、キッチン用品だ! ジョン:(ジーナの髪にキスしながら)んー! ジョン:おれは早くきみを料理したい!ひひひ」 ジーナ:「やめて、ジョン!ほんっとうに、今度という今度は、 ジーナ:リリーに叱られるんだから!彼女、怒ると怖いのよー?」 リリー:「(荷物を抱えながら)仲がいいのは、 リリー:いいんだけど、ね?よいしょっと! リリー:3人で暮らすメリット、その1、 リリー:男手があると、こういうとき、使える! リリー:はあ・・・全然使えてないけど!」 0: 0:笑い合う3人。 0: ジョン:「なあ、リリー、本当にあの部屋、 ジョン:俺たちで使っていいのかい?」 リリー:「構わないわよ? リリー:わたしはあんたのファンだもの。 リリー:いい写真撮ってもらうには、暗室も必要だしね? リリー:それにはあのクローゼット、なかなかでしょ?」 ジーナ:「それで広い部屋、譲ってくれたの?なんだか悪いわね、 ジーナ:こんな三流写真家さんのために。泣ける!あはは」 ジョン:「だーれーがー、三流だ、だれが!こいつめ!」 ジーナ:「やーだ!あはははは!離して!離してったらー!」 0: リリー:「また始まっちゃった! リリー:あんたたちは、トムとジェリーか!まったくもう・・・」 0: 0: ジョン:「なあ、おふたりさん、引っ越し祝いに、 ジョン:今日は派手にパーっといこうぜ? ジョン:例のクラブ、今日がオープンじゃなかった?」 ジーナ:「あんたは、いつだってパーティ、パーティ! ジーナ:ちょっとは、リリーを見習って、 ジーナ:禁欲生活でもすればいいのよ?」 リリー:「あたしの場合、禁欲っていうか、 リリー:酒癖悪いから、ただ飲まないだけ!あはは・・ リリー:知ってるでしょう?わたしの仕出かした数々の失敗を!」 0: ジーナ:「よーく、知ってますとも。 ジーナ:突然かかってくる夜明けの電話! ジーナ:何度起こされたことか!」 ジョン:「しかも、泣きながら!」 リリー:「言ーわーなーいーでー! リリー:もう、反省はじゅうぶんにしております。」 0: ジーナ:「それにしても、酒もタバコもやらないなんて物書きにしちゃ、 ジーナ:上出来だわ。 ジーナ:あたしだったら、3日ももたない! ジーナ:だって、モデル仲間って、そりゃ残酷なのよー? ジーナ:嘘でも悪女を気取ってないと、すぐ甘く見られちゃう。」 ジョン:「おまえの気の強いとこ、おれは好きだぜ? ジョン:飢えた女豹ってかんじ、たまんねえ。」 ジーナ:「この手はなあに、この手は? ジーナ:もう、早く片付けて、出かけましょうよ!」 0: リリー:「クラブ・ファニーのオープンなら1カ月先にのびたはずよ? リリー:なんでも、新進気鋭の画家を発掘したとかで、 リリー:彼の最新作をオーナーは待ってるみたい。」 ジョン:「なんだよー!不公平だぜ! ジョン:おれの新作はそんな大々的に取り上げられなかったぜ?」 ジーナ:「才能の問題ね、おつかれさま!」 0: 0:ジーナ、リリー、笑い合う。 0: ジョン:「モデルが売れてくれれば、 ジョン:俺の名を世に知らしめてくれるはずなんだが・・ ジョン:(リリーに殴られる)痛って!今全力で殴ったろ?」 0: リリー:「あはははは!あんたたちって、最高!」 0: 0:場面、夜。リビングにて。 0: 0: ジーナ:「やーーっと、寝た。ごめんね、待たせて。」 リリー:「いいのいいの。 リリー:彼、ちょっと昼間、ハイだったでしょ?」 ジーナ:「いま、荷物の山の上で、やっと寝ついてくれた。」 リリー:「それで?まあ、ゆっくり聞こうじゃないの。」 ジーナ:「じつはね、今やってるジョンのプロジェクト、 ジーナ:けっこう酷評が耳に入ってきててさ。 ジーナ:あたしはいいの。 ジーナ:モデルのせいと言われれば、そうかもしれないし。」 リリー:「落ち込んでるとは思ってたけど、 リリー:わたしの前ではあのひと、強がっちゃうでしょ? リリー:・・・ジョン、何か言ってた?」 ジーナ:「俺は愛のイメージを追うだけだー!って、そればっかり! ジーナ:見かけによらず、頑固なんだから。」 リリー:「イメージ?あなたのこと?」 ジーナ:「わたし・・といえば、わたしなんだけど、 ジーナ:なんてゆうかな、女の象徴、みたいな?あはは」 0: リリー:「そうね、彼の写真にわたしが惹かれたのは、 リリー:そのイメージの持つ、荒削りな若々しさ、かな。 リリー:あの年頃の男の子しか見れない、純粋な憧れ、 リリー:みたいなものってあるでしょう?」 ジーナ:「憧れ、ね。あいつがわたしに憧れてる、 ジーナ:なんていったら、あんたたち何年の付き合いよ、って言われそうだけど、 ジーナ:それってけっこう、当たってるんだなあ。」 リリー:「まあ、伊達に物書きしてるわけじゃないのよ。 リリー:わたしの目はごまかせない!ふふふ」 ジーナ:「あたしたちね、くっついたり、離れたりしてきたけど、 ジーナ:今やっと先が見えてきたって思うの。 ジーナ:まあ、3人だけど、彼と一緒に住むって覚悟決めたとき、 ジーナ:あたしたち少し歩み寄ったのよ、お互いに。」 リリー:「どう言うこと?」 ジーナ:「あたしと、ジョンね、 ジーナ:しばらく愛し合うことをしてなかったの。」 0: リリー:「つまり・・・その、ずばり?」 ジーナ:「そうよ。恥ずかしいけど、わたし、 ジーナ:なんだかあまり好きじゃないのよ。 ジーナ:行為自体、興味ないっていうか、冷めてるっいうか。」 リリー:「ジーナ、あなたが?・・・いや、まさか! リリー:あなたって、まさに女の権化(ごんげ)みたいなとこ、あるから。」 ジーナ:「でしょう? ジーナ:このくびれた腰、張りのある胸、セクシーでしょう?笑」 リリー:「意外だった。なんていうのかな、 リリー:あなたって、わたしに似てると思ってたから。」 ジーナ:「え?リリー、あなた、セックス好きなの?」 リリー:「そんな、あけすけに言わないでよ。 リリー:わたしだって、木でできてるわけじゃなし。 リリー:そうね、わたしが落ち着いて見えるなら、 リリー:それはたった一度でも、心地いい朝を迎えた思い出が リリー:あるからかしら?」 ジーナ:「そういうもんなの? ジーナ:わたしは、けっこう打算だったりするわよ?」 リリー:「わ、まさに女豹だ!」 ジーナ:「例えば、買い物に行く約束をしてて、どうしても次の日、 ジーナ:買ってもらいたいモノがあるとするじゃない? ジーナ:そういう何かおねだりする時に、自分で火をつけはするけど、 ジーナ:してる最中は上の空。 ジーナ:早く終わらないかなあって。」 リリー:「それって、おかしいわよ。 リリー:ぜーったい、男にこんな話しちゃダメよ?」 ジーナ:「だからね、彼がわたしに妖艶な魅力を感じているなら、 ジーナ:それは恐ろしい勘違いなのよ!」 リリー:「なるほど、彼の抱くイメージ像と、 リリー:自分自身が一致しないってわけか。 リリー:そのへんのこと、モデルと写真家なら、話し合うべきよ。」 ジーナ:「プロなら見抜いてほしいって言う、 ジーナ:わたしの身勝手な願望もあるのよ。 ジーナ:意地でも、わたしを脱がせてみせろっての!」 リリー:「なるほど。彼氏に、それを期待したい気持ちはよくわかるわ。 リリー:だけどあなたたちはもう、 リリー:ひとつの作品を作り上げているのよ? リリー:それがどう言うことか、もう理解してもいい頃なんじゃないかしら?」 ジーナ:「そうね、ある意味わたしたち、 ジーナ:アマチュア気分からまだ一歩踏み出せてないのかもしれないわ。 ジーナ:彼の幻想を壊したら、それこそ2人の仲は終わりな気がして。」 リリー:「恋人をとるか、芸術をとるか、女としては難しいところね。」 0: ジーナ:「とりあえず、まあ、乾杯といきましょうよ。」 リリー:「夜更けのコーヒーで?」 ジーナ:「わたしたちの前途に!」 リリー:「若き3人のアーティスト、清貧なる門出に!」 0: 0:ふたり、笑い合う。 0: 0: 0:場面、クラブ・ファニーのパーティ。 0: 0: ジョン:「(口笛を吹いたり、または声高に叫びながら) ジョン:なかなか、盛況じゃないか! ジョン:もう、みんなすっかり出来上がっちまってるぜ!」 0: リリー:「あら、やっときたやっときた! リリー:おふたりさん、こっちよ!」 ジーナ:「リリー!見違えたわ! ジーナ:その際どい服、よく似合ってる。」 リリー:「うふふ、まあ、たまにはね。 リリー:退屈したくはないでしょう?」 ジーナ:「てゆうか、それ、わたしの勝負用ドレス!」 0: リリー:「まあまあ、そう怒らないの! リリー:そんなことより、もうすぐ花火よ! リリー:わたし、いい場所見つけちゃったの、こっちよ!」 0: ジーナ:「待ってよ、リリー! ジーナ:ああ、もう、なんだってこんなにイカれた連中で ジーナ:溢れかえってるのよ?」 ジョン:「そんな高いヒール、履いてくるなって、言ったろう? ジョン:先に行ってるぜ、ジーナ!」 ジーナ:「ああん、もう!待ってよ、ジョン! ジーナ:・・・ジョン?あ!」 0: ユーシン:「失礼、おじょうさん?」 ジーナ:「あ、ああ!ごめんなさい、人違い・・ ジーナ:っていうか、どれが誰の手か、わかりゃしないわね。 ジーナ:わたし、彼の手だと思って、思い切り引っ張っちゃったけど ジーナ:、大丈夫かしら?」 ユーシン:「このような細腕でよければ、いつでもお貸ししますよ?」 ジーナ:「あら、あなた、見かけない顔ね! ジーナ:これだけ人がいちゃ、知り合いのほうが少ないか、あはは。 ジーナ:あなた、誰に誘われてこのパーティへ?」 ユーシン:「こういう場はどうにも性に合わないんだが。 ユーシン:ぼくは、オーナーに頼まれて、 ユーシン:ちょっと顔を出しに来ただけなんだ。」 ジーナ:「オーナーに呼ばれたですって? ジーナ:もしかしてあなた、 ジーナ:このパーティを7月まで引き延ばした張本人??」 ユーシン:「ああ、ここニューヨークは、毎日どこかでパーティ三昧。 ユーシン:ひとつくらい、遅れてやってきても、 ユーシン:誰の迷惑にもならないだろ?」 ジーナ:「あら、それは違うわ。 ジーナ:何百、何千という画家のたまごたちが、この1ヶ月、 ジーナ:嫉妬と期待に身を焼いてきたのよ? ジーナ:あなたはこのパーティがどんな大きな意味をもつか、 ジーナ:わからないみたいね。」 ユーシン:「わからないな。きみは知ってるの?」 ジーナ:「うふふ、実をいうと、今のはね、友達の受け売り。」 ユーシン:「じゃあ、きみは、このパーティの意味をどうみる?」 0: ジーナ:「うーん、そうね、まれにみる楽観主義者たちの、 ジーナ:諦念の宴(ていねんのうたげ)かしら?」 ユーシン:「あはははは!きみって、なかなかの皮肉屋だな!」 ジーナ:「わたしは、ジーナ、モデルよ。よろしく。」 ユーシン:「ぼくは・・・」 ジーナ:「ユーシン、でしょ?ユーシン・リー。」 0: ユーシン:「どうやら、きみの目には、 ユーシン:何もかもお見通しみたいだ。」 0: 0: 0:遠くからリリーの叫び声。 0: リリー:「きゃあああ!」 0: ジーナ:「なにかしら?ちょっと、今の・・・! ジーナ:リリー?リリーなの!?」 ユーシン:「友達かい?」 ジーナ:「そうかもしれない!ちょっと、そこ通して!」 0: 0:階段の踊り場、暗がりの中に倒れているリリー。 0: 0: リリー:「ジーナ!ジーナ!どうしよう、 リリー:わたし・・・わたし、怖かった!」 ジーナ:「リリー!あなた、大丈夫?なにがあったのよ?」 0: 0:血だらけのジョンが立ち上がりながら。 0: ジョン:「は!なんの、これしき! ジョン:まだ俺にかかってくるやつは・・・いるかい?」 ジーナ:「ちょっと!ジョン!そんな怪我して、無茶よ!」 リリー:「わたしが悪いの、 リリー:こんな暗がりにひとりで来ちゃうなんて、 リリー:どうかしてたんだわ・・・!」 ジョン:「だからといって、女性を無理矢理襲っていいわけあるか! ジョン:あの野郎!どこ行った!」 リリー:「もうやめて、やめて、ジョン! リリー:ジーナ、彼を止めて! リリー:パーティがめちゃくちゃになるわ!」 0: 0:ユーシン、遅れて登場。 0: ユーシン:「めちゃくちゃになって、何が悪いんです? ユーシン:女性に力づくとは、許せませんね。」 ジョン:「・・・だれだ?」 ジーナ:「このパーティの、主役よ。」 ユーシン:「ちょうどいい。 ユーシン:ぼくもおひらきにしたいと思っていたんです。 ユーシン:警察を呼びましょうか。」 0: ジーナ:「ちょっと待って! ジーナ:ジョン、あなた、その手のナイフはなに? ジーナ:まさか・・・!」 ジョン:「おれは・・・おれはただ夢中で・・・!」 リリー:「どうしよう、アイツ、逃げてったけど、 リリー:ジョンがナイフを奪って・・・ リリー:怪我させちゃったかもしれない!」 ジーナ:「シー!落ち着いて、リリー。もう大丈夫。 ジーナ:もう、大丈夫・・・。 ジーナ:そうでしょ?ユーシン。」 0: ユーシン:「ああ、とりあえず、ここを出た方がいい。 ユーシン:正義がこっちにあったとしても、 ユーシン:手負いの虎はお互いさまだ。 ユーシン:何があるかわからい。 ユーシン:ぼくのアトリエがこの近くにある。 ユーシン:そこで様子をみよう。」 0: 0: 0:場面、ユーシンのアトリエ。 0: ジーナ:「わあ!すごい鮮やかさ・・・! ジーナ:色彩の洪水ね・・・!」 0: ユーシン:「ひとまず、みんな、落ち着いたかい。」 0: ジョン:「まだ、礼を言ってなかったな。 ジョン:手当てまでしてもらって、悪かった。」 ユーシン:「いいんだ。 ユーシン:ジーナがきみとぼくの手を間違えたのがきっかけさ。 ユーシン:何だか、縁を感じるね。」 ジョン:「ふーん、あんたが、あの、ユーシン・リーか。 ジョン:ずいぶんとリアルな絵を描くじゃないか。 ジョン:しかも、みんな、同じ方向を見つめてるときた! ジョン:これって、けっこう不気味だぜ?」 ユーシン:「よく気づいたね。 ユーシン:そう、過去を見つめる女。まだ目下製作中さ。 ユーシン:ぼくの絵の特徴は、人物の瞳の微妙な動きだ。 ユーシン:これが一連の作品の一部さ。」 ジョン:「なかなか、たいしたもんだぜ! ジョン:おれも、ハイスクールまで油絵をやってたんだ。」 ユーシン:「匂いが気になるヤツもいるが、慣れてしまえば、 ユーシン:大胆な筆致と質感が出せる点、ぼくは今こいつに夢中さ。 ユーシン:ジョン、きみは、写真家なんだって?」 ジョン:「そう、おれはカメラマン。 ジョン:そして、ジーナ!彼女が我が女神、 ジョン:テーマは、まさに女さ!」 ジーナ:「まあ、売れないモデルと、売れない写真家、 ジーナ:いいカップルでしょ?あはは」 ユーシン:「そうか、彼女がテーマか! ユーシン:ふむ、・・・それは面白そうだ。 ユーシン:きみの作品も、見てみたいね。 ユーシン:と言っても、写真に関しては、ぼくは素人なんだが。」 ジョン:「まあ、今は写真の他に、映像も手がけ始めてるんだがね。 ジョン:リリー、彼女が脚本を書いて、ジーナがそれを演じる、 ジョン:そしてそれをおれが撮るってわけさ! ジョン:この夏にでも、始めようかと思っていたんだが、 ジョン:この手じゃね・・・!」 0: リリー:「ジョン、何度頼まれようと、わたし脚本なんて、書かないわよ?」 ジョン:「いいじゃないか、きみなら書ける! ジョン:演技のできるやつなら、何人か用意してるんだ。 ジョン:もちろん、主役は・・」 ジーナ:「あたしやんないわよ?」 ジョン:「ジーナ!」 ジーナ:「だいたい、写真がダメなら、映像、なんて安直過ぎるのよ。 ジーナ:わたしは、無名でもプライド持ってモデルをやってるわ! ジーナ:あなたはどうなの、ジョン?」 0: ジョン:「・・おれにだって、プライドはあるさ! ジョン:時代は移り変わる! ジョン:新しいことにチャレンジして、何が悪い!」 ジーナ:「あなたの絵も、わたし好きだったわ。 ジーナ:だけど、絵筆がいつの間にか、カメラに取って変わって。 ジーナ:日の目をみないまま、今度は映像を撮るから女優になれですって? ジーナ:あんまりよ! ジーナ:わたしは、あなたの所有物じゃない!」 リリー:「ジーナ!言い過ぎよ。」 0: ユーシン:「ハハハ・・・若いって、羨ましいな。 ユーシン:ぼくの年までくるとね、 ユーシン:時代はただ気まぐれに移ろうわけじゃない。 ユーシン:巡り来る季節のように感じられるものさ。」 ジョン:「ふん!ジジイの回顧録なんて、知ったこっちゃないね!」 ジーナ:「ジョン!彼に当たるなんて、最低よ!」 ジョン:「ああ!おれは最低のクソ野郎さ! ジョン:もう構わないでくれ!」 0: リリー:「ジョン!ジョンったら。 リリー:ジーナ、あなたも悪いわ。 リリー:わたし、追いかけてくる!」 0: 0:ジョン、リリー、出て行く。 0: 0: ジーナ:「ごめんなさい、ユーシン。 ジーナ:あなたの厚意が、これじゃ、台無しね。」 ユーシン:「きみが謝る必要はないよ。 ユーシン:男はいっとき、儚い夢をみるものだよ。 ユーシン:それくらい、きみにもわかるだろう?」 ジーナ:「ええ、わかってるわ。 ジーナ:だけどその期待を、わたしは裏切ってばかり。 ジーナ:自分で自分が、いやになるわ!」 ユーシン:「そんな風に自分を責めるものじゃない。 ユーシン:男が求めるままに与えてしまっていては、 ユーシン:女性の持つ豊かな感受性は死んでしまうだろう。 ユーシン:きみは、きみに正直に生きていいと思うよ。」 ジーナ:「・・でも、わたしとジョンは、 ジーナ:もう引き返せないくらい遠くまで来てしまっているのよ。 ジーナ:いまさら、どんな未来があるというの。」 ユーシン:「きみは、きみたちの関係性の中だけで生きているわけじゃない。 ユーシン:ひとりの人間として、自分を自分で支えていかなければ、 ユーシン:何も生まれないよ。 ユーシン:たまには、残酷なくらい、他人を揺り動かして ユーシン:いいんじゃないかい?」 ジーナ:「ユーシン、あなたって、不思議な人ね。」 ユーシン:「なぜだい?」 ジーナ:「わたし、ジョンに求めるばかりで、 ジーナ:自分から何かを与えることがきるなんて、思ってもみなかった。」 ユーシン:「女性は皆、無自覚に男を引き寄せる磁石を持ってるのさ。 ユーシン:男はいつだってそれに振り回されるばかり。 ユーシン:ぼくだって、例外じゃないよ。」 ジーナ:「あら、それって、どういう意味?」 ユーシン:「さあね。きみは、天性のモデルだねっ言ったまでさ。」 0: 0:場面、アパート。 0: リリー:「ああ、ジョン。よかった! リリー:帰ってたのね、あちこち探したのよ!」 ジョン:「・・逃げ出すなんて、 ジョン:みっともないとこ見られちまったな。」 リリー:「あなたが自分でそう思うなら、わたしは否定しないわ。 リリー:ただ、わかっておいてほしいの。 リリー:あなたがあの場にいたくなかった気持ち、わたしにはわかるわ。」 ジョン:「なにがわかるって? ジョン:おれはね、とんだ恥をさらしたわけだ! ジョン:あいつにしてみたら、おれは相手にする価値もない、 ジョン:鼻垂らしたガキんちょだったってことさ!」 リリー:「落ち着いて、ジョン。 リリー:わたしも芸術家のはしくれなら、 リリー:あなたの気持ち、わかるつもりよ。」 ジョン:「同情なら、よしてくれ!余計みじめになる。」 リリー:「そんなんじゃない、わかるでしょう? リリー:わたしたちは、同じ人種だわ。 リリー:何かを生み出すには、その内に嵐を抱えていなければ。 リリー:あなたの激しさは、それだけで価値があるわ。」 ジョン:「・・・やつに気圧(けお)されて、何も返せなかった。 ジョン:情けないよ。」 0: リリー:「そりゃあ、相手はまさに鮮烈なデビューを飾った リリー:本物のアーティストだもの。 リリー:あのアトリエの秘めてるパワーはすごかった! リリー:わたしだって、何も言えなかったわ。」 ジョン:「そうさ、その通りだ。 ジョン:こっちは3人ルームシェアしても、 ジョン:食いぶち稼ぐのがやっとだってのに、 ジョン:向こうは優雅にアトリエまでお持ちときた!」 リリー:「そんな、生活やお金の話をしているんじゃないわ。 リリー:あの人の絵が放つ物語が見えなかった?」 ジョン:「物語?」 リリー:「何ヶ月、いえ何年もかけて、 リリー:一筆一筆入念に色を重ねて、 リリー:微妙な印影を描く精密さに驚かされなかった? リリー:あの人はただ集中してひとつのことを成し遂げたんじゃない。 リリー:あの人の中のただひとつ見えている何かが、 リリー:彼を熱狂させているのよ。 リリー:そんな情熱が、わたしたちの中にあったかしら。」 ジョン:「熱狂か・・・。たしかに、あいつの絵には、 ジョン:目を釘付けにして離さない何かがあった!」 リリー:「そうでしょう? リリー:だからわたし、言葉が見つからなかった。」 ジョン:「だけど、それに対する愛着のようなものが ジョン:おれには見えなかったね。 ジョン:まるでパッケージされた商品を見せるように、 ジョン:彼は堂々としていたじゃないか。 ジョン:自分の作品というものに対する羞恥の感情ってものが ジョン:まるでない。 ジョン:そいつが気にくわないんだ。」 リリー:「作品は人に見せる決心をした瞬間から、 リリー:自分だけのものではなくなるのかもしれないわ。」 ジョン:「どっちにしろ、おれにはひどく傲慢に見えたね!」 0: リリー:「ジョン・・あなたたち、今煮詰まってるんじゃない? リリー:一緒に暮らしてひと月、 リリー:何度あなたとジーナが怒鳴りあう声を聞いたかわからないわ。」 ジョン:「おれと、あいつの作品と、何が関係あるってんだい?」 リリー:「ううん、・・・そうね。ごめんなさい。なんでもないわ。」 ジョン:「いいや、聞き捨てならないね。 ジョン:ハッキリ言ったらどうだい?」 リリー:「じゃあ、言わせてもらうけど、 リリー:あなたとジーナはお互い近づきすぎて、 リリー:才能を摩耗させてるところがあるわ。」 ジョン:「おれには、ジーナを撮れないって言うのか?」 リリー:「そうは言ってないじゃない。 リリー:ただ、恋に恋してる状態から抜け出さなければ、 リリー:あなたの作品は永遠に美しいダイアリーの域を出ないのよ。」 ジョン:「おれには・・・ジーナは、 ジョン:ジーナはたったひとつの愛だ。 ジョン:それを失った自分なんて考えられない。」 リリー:「そうかしら。 リリー:・・・そろそろ考えてみても、ばちはあたらないわよ?」 ジョン:「・・!何を言ってるか、きみはわかってるのかい?」 リリー:「わたしたちは、友達よ、今も、過去も。 リリー:でもこれからどうなるかはだれにもわからないわ。」 ジョン:「なんだい。 ジョン:きみの言葉はなんだか謎かけに誘ってるみたいだ。」 リリー:「あら、それって駄目なこと? リリー:わたしたち、お互いにお互いを見ずにすんできたことに、 リリー:感謝するべきよ。 リリー:わたしとあなたの間には、常にジーナがいた。 リリー:彼女を介さない関係は、今までなかったわ。」 ジョン:「その通りだ。 ジョン:それでことはうまく運んできたはずさ。」 リリー:「うまく運んでるですって? リリー:あなたとジーナの惨状を見る限り、 リリー:わたしたちは何か間違えてるのよ。」 ジョン:「なんだか、居心地いいとは言えない会話だな。」 リリー:「そう、わたしはあなたに安心なんかされたくないの。 リリー:あなたにとって、害をなす、危険な存在でいたいのよ。」 ジョン:「きみは正気とは思えない。 ジョン:自分でしでかしてる過ちに、気づくべきだ。」 リリー:「過ち?これを過ちと呼びたいなら、わたしも賛成だわ。 リリー:わたしたち、今過ちを犯してる。」 0: 0:少しずつ近づいていく二人。 0: ジョン:「きみの言葉は、危険すぎるよ。 ジョン:やめよう、こんなこと、よくない。」 リリー:「そう言うわりには、 リリー:あなたはいつもみたいにジョークにしてしまわないのね。」 ジョン:「なんだい、これ。 ジョン:おれはどう考えりゃいいのかな。まるきりわからない。」 リリー:「わたしは、あなたが間違った『女性』を愛していること、 リリー:それが言いたいだけよ。」 ジョン:「それは愛の告白ととっていいのかな? ジョン:おれには、下心がないと思ってるのかい? ジョン:男をかいかぶりすぎだよ、リリー。」 リリー:「こわがらないで、ジョン。」 ジョン:「きみは今日の一件で懲りたはずだ。 ジョン:ぼくをこれ以上、誘惑しないでくれ。」 リリー:「あなたが責任を感じることじゃないわ。 リリー:わたしたち、お互いにもっと知り合う必要を感じない?」 ジョン:「こういうやり方がまずいってことくらい、 ジョン:わかってるだろう?」 リリー:「愛はね、たったひとつの形をしてるわけじゃないの。 リリー:それを今見せてあげる・・・」 0: ジョン:「リリー・・」 0: 0:抱き合い、激しくキスを交わす二人。 0: ジーナ:「ジョン?リリー?いるの? ジーナ:ジョン?…ジョン!?」 0: 0:ジーナ、突然にドアを開ける。 0: ジョン:「ジーナ!・・これは、違うんだ。 ジョン:そういうんじゃないんだ!」 リリー:「いいえ、そういうふうにしか、なりようがなかった。 リリー:男と女なんて、そんなものよ。」 0: ジーナ:「信じられない! ジーナ:あなたたち、いつからこんな関係なのよ! ジーナ:これはひどい裏切りだわ!」 リリー:「ええ、そうね。 リリー:わたしは、気まぐれでこんなことしたわけじゃないわ。 リリー:いつかは、こうなるしかなかったのよ。」 ジョン:「リリー!」 ジーナ:「信じられない・・・ ジーナ:もう、なにもかも信じられないわ!」 0: 0:飛び出していくリリー。 0: リリー:「ジョン! リリー:今は放っておきなさい。 リリー:それとも、なにもかもなかったことにして、 リリー:彼女のあとを追う? リリー:わたしは、どちらでも構わないわ。」 ジョン:「リリー、きみは、どういうつもりだ! ジョン:きみという人間が、わからなくなってきたよ。 ジョン:ジーナを傷つけて、きみは平気なのかい?」 リリー:「だったら、さっきのキスはなんだったというの? リリー:彼女に秘密にしたところで、その胸をよぎった激情からは、 リリー:逃れられないはずよ?」 ジョン:「あれは・・・。 ジョン:きみはこんな残酷な人じゃなかったはずだ!」 リリー:「わたしを恨む?ええ、それもいいでしょう。 リリー:でもひとつ、これだけは忘れないで。 リリー:あなたの中には、こんな女を愛する衝動が確かに息づいてるわ!」 ジョン:「今、ぼくの手はだれも抱きしめる資格はない! ジョン:頼む、行ってくれ、リリー。出て行ってくれ!」 0: 0: 0:場面、夜明けのアトリエ。 0: 0: ジーナ:「(泣きながら)なにもかも・・もう、いや・・! ジーナ:消えて・・・なくなりたい!」 0: ユーシン:「ジーナ?・・・ジーナ! ユーシン:どうした!何があった?」 ジーナ:「ユーシン!・・・ユーシン! ジーナ:わああああ!」 ユーシン:「こいつは、ただごとじゃないみたいだ。 ユーシン:可哀想に。 ユーシン:今は泣けばいい。思い切り、泣くんだ。」 ジーナ:「(泣きながら)ねえ、ユーシン、おしえて。 ジーナ:愛も友情も失くしたときは、どうすればいいの?」 ユーシン:「そうだな。たとえば、新しい友人の腕の中で ユーシン:赤んぼみたいに甘えてみるっていうのは?」 ジーナ:「今だけ・・・今だけ、そばにいて。」 ユーシン:「今だけなんて寂しいこと言うな。 ユーシン:いつまでも・・きみが望むならね。」 ジーナ:「ユーシン、あなただけ。あなただけよ、今のわたしには!」 0: ユーシン:「シー!もうこれ以上、言わなくていい。 ユーシン:さあ、眠るんだ。きみはひどく疲れてる。」 0: ジーナ:「ちょっとだけ・・・ちょっとだけ横になるわ。 ジーナ:どこにもいかないで。そばにいてね?」 ユーシン:「安心していい。約束するよ。 ユーシン:ぼくはどこにもいかないよ。」 0: 0: 0:眠りにつく、ジーナ。 0: 0:アトリエにかかってくる電話。 0: 0: リリー:「もしもし、ユーシンさん? リリー:わたし、リリー。 リリー:ジーナがそっちに行ったんじゃないかしら?」 ユーシン:「ああ・・来てる。驚いたよ。 ユーシン:今、ここで眠ってるが、ひどく憔悴してた。 ユーシン:何があったというんだい?」 リリー:「見たのよ。 リリー:わたしとジョンとのお熱いラブシーンをね。」 ユーシン:「わからないな。 ユーシン:それで、きみが彼女を心配して電話をくれるなんて。 ユーシン:まさか、きみは・・・?」 リリー:「何かを変えるには、激痛が必要だって、 リリー:そうは思わない? リリー:そういう経験、あなたならわからないかしら。」 ユーシン:「ジョンとジーナ。 ユーシン:確かに彼らには、新しい嵐が必要だったのかもしれない。」 リリー:「いずれ、そうなっていたことを、 リリー:わたしが訪れさせたまでのことよ。 リリー:ジョンの中の女性像は、イコール、ジーナだった。 リリー:でもそんな幻想、青春が過ぎ去ればいずれ壊れてしまっていたわ。 リリー:そう、それが壊れないままでは、いつまでたっても、 リリー:いい作品は生まれないだろうって、わたし思ってた。」 ユーシン:「きみの説が正しいとして、 ユーシン:きみの役回りは?あまりに危険じゃないかい? ユーシン:なにも、ジョンのお相手は、 ユーシン:きみでなくてはならないわけじゃなかっただろう。 ユーシン:これでは、きみたち3人は終わりを迎えるしかない。」 リリー:「終わらせてもいいと思った! リリー:わたし、芸術のためなら、殉教者になってもいいと思った! リリー:あなたの絵を見たとき、この人は関係性の死なんてものじゃない、 リリー:本物の死の深淵を覗いたことがある人だってわかったわ!」 ユーシン:「かいかぶりすぎだよ。ぼくなんか、ただのつまらない男だ。 ユーシン:必ずしもミューズに愛されているわけじゃない。」 リリー:「じゃあ、ジーナを見つめるあなたの視線は? リリー:描きたい、描きたい!って死にものぐるいで叫んでたわよ?」 ユーシン:「まいったな。そこまでお見通しだとは。 ユーシン:女性の千里眼には、いつも驚かされる。」 リリー:「描けばいいのよ。描いて、見せつけてやればいいのよ、 リリー:こんな愛し方もあるんだって、ジーナに!」 ユーシン:「きみの立場はわかった。 ユーシン:だが、それを言うなら素面のときにするんだな。 ユーシン:きみは一杯やってるね? ユーシン:タフを気取るなら、傷口に塩を塗るような真似、 ユーシン:するもんじゃない。」 0: リリー:「あたしはね! リリー:・・・いいえ、あなたの言う通りかもしれないわ。 リリー:ジーナのことは、あなたに任せたわよ。 リリー:巻き込んで悪いとは思うけど、くれぐれも、お願いよ?」 0: 0: 0:ジーナ、目覚める。 0: ジーナ:「ん・・・ここは? ジーナ:ユーシン、ユーシン、どこ?」 0: ユーシン:「ジーナ、目が覚めたかい? ユーシン:コーヒーでも、どう?」 ジーナ:「ごめんなさい。ベッドを独り占めしちゃったわね。」 ユーシン:「いいんだよ、そんなこと。 ユーシン:・・・で?少しは落ち着いたかい?」 ジーナ:「夢をみたわ。 ジーナ:幼い少女のわたしと、男を誘惑する悪女のわたし、 ジーナ:ふたりが一つの舟に乗ってる。 ジーナ:激しい川の渦の中で、どこにも進むことができないの。」 ユーシン:「どうか、心を静めて聞いてくれ。」 ジーナ:「どうしたの? ジーナ:わたし、まだ何も受け入れられそうにないわ。」 ユーシン:「ぼくはね、きみに出会った瞬間から、 ユーシン:ある構想に取り憑かれてきた。 ユーシン:ぼくは、きみの素顔が描きたい。 ユーシン:それは無防備な少女のきみだ。 ユーシン:男に媚びることを知らない、性的磁石を持たない、 ユーシン:不可能が可能であった場所まで退行したきみだ。」 ジーナ:「過去を見つめる女・・・?」 ユーシン:「そうさ!でも、瞳はまっすぐぼくを見据えててほしい。」 ジーナ:「そんな・・・でもわたしにできるかしら?」 ユーシン:「ただ、きみの視線がほしい。 ユーシン:その眼が語り出す悲しみを、 ユーシン:残さずカンバスに映し取ってみせる!」 ジーナ:「わたし・・・今のわたしには何もないわ。 ジーナ:そうよ、わたしにはもう ジーナ:、自分ひとりで歩く道しか残っていないんだわ・・・。」 ユーシン:「独り立ちした初めてのきみを、 ユーシン:ぼくに描かせてもらえないだろうか。」 0: ジーナ:「・・・いいわ。わたし、やるわ。 ジーナ:ただし、わたしを描くなら、一糸纏わぬ姿を!」 0: ユーシン:「いいのかい、後悔しないね?」 0: ジーナ:「ええ・・・。」 0: 0: 0:場面、アトリエで全裸のジーナを描くユーシン。 0: 0: ジョン:「ジーナ!どこだ!ジーナ! ジョン:・・・ジーナ!?」 0: 0: 0:ジョン、突然にドアを開ける。 0: ジーナ:「ジョン!」 ジョン:「なにをしている・・・?」 0: 0:ジーナ、シーツにくるまりながら。 0: ジーナ:「あなたにわたしを責める資格はないわ。」 0: ジョン:「なんだ、これは・・・!悪い夢だと言ってくれ!」 ジーナ:「いいえ、わたしは今しがた、その夢から目覚めたところよ。 ジーナ:悪いけど、あなたにはもう何も求めてないの。」 ジョン:「そうか・・・はは・・・ ジョン:おれとリリーへの当てつけにこんなことをしているんだろ? ジョン:そんなこと、しなくていい、しなくていいんだ!」 ジーナ:「そんないっときの気の迷いでこんなこと、 ジーナ:できると思って?」 ジョン:「なんだよ・・・?ユーシン、てめえ! ジョン:これを見せるために、わざわざおれを呼んだのか!?」 ユーシン:「そうだと言ったら? ユーシン:彼女はモデルだ。 ユーシン:そこらの男の前で脱ぐのはこれが初めてってわけじゃあるまい。」 ジョン:「このやろう!こんな絵・・・こんなもの!」 ジーナ:「なにをするの、やめて!乱暴しないでジョン! ジーナ:お願いよ!」 ジョン:「いいや、許されないね! ジョン:(絵の全体を見渡して)・・・! ジョン:だれだ・・・これは?この女は・・・! ジョン:こいつには、こんな顔を見せるのか? ジョン:おれにはどうだった! ジョン:こんなの、おれのよく知るジーナじゃない!」 ジーナ:「あなたがわたしのなにを知っていたというの! ジーナ:ただ、享楽にあけくれたあの時間は終わったのよ!」 0: ジョン:「もう、本当になにもかも、おしまいだ! ジョン:(絵を切り刻みながら) ジョン:こんな絵、こうして・・・!こうして・・・! ジョン:こうしてやる!」 0: ユーシン:「好きにするがいい。 ユーシン:ぼくの中に息づいた情熱は、 ユーシン:カンバスを切り裂いたくらいで消え去りはしない。 ユーシン:ぼくは、何度でも描くだろう。 ユーシン:彼女の瞳の火が消えないかぎり。」 ジョン:「なんだと・・・!彼女はおれのものだ! ジョン:芸術なんて、糞食らえだね!」 ジーナ:「わたしはわたしの道を、自分を支えにして生きて行くわ。 ジーナ:あなたもあなただけの人生を歩むべきよ。」 ジョン:「ジーナ!おれを置いていかないでくれ! ジョン:おれには・・おれには・・・」 ジーナ:「あなたはきっと、いまにまた他の女性を愛するようになるわ。 ジーナ:わたしを愛することができたようにね。 ジーナ:・・・今やっと、リリーがあなたにしたことの意味が ジーナ:わかる気がするわ。」 ジョン:「じゃあ、これならどうだい?」 0: ユーシン:「ライター?」 0: ジョン:「愛を前にして、芸術を気取るからさ! ジョン:永遠(とわ)の愛が確かに存在することを、 ジョン:おれが教えてやる! ジョン:その眼の奥の火も、情熱の炎も、 ジョン:何もかもこの聖域ごと焼き尽くしてやる!」 0: ジーナ:「ジョン!なんてことを!」 0: ジョン:「あはははは!ざまあみろだ! ジョン:あはははは!」 0: ジョン語り:「俺は男の部屋に火を放った。 ジョン語り:激しく、すべてが燃えてしまえばいいと思った。 ジョン語り:やがてやってくる夕闇の中を俺は ジョン語り:俺の知らない世界へと歩き出した。 ジョン語り:ジーナのいない世界へと。 0: ジーナの幻:「ジョン!うふふふふ・・・」 0: ジョン語り:今でも俺は簡素な部屋でひとり、 ジョン語り:彼女の幻に手をさしのべてしまう。 ジョン語り:ジーナを忘れることができずに、 ジョン語り:ずっとひとりきりの部屋で、佇んでいる。」 0: 0:END