台本概要

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タイトル cheap talks:夢見る瞳に恋してる
作者名 やいねん  (@oqrbr5gaaul8wf8)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 3人用台本(男1、女2)
時間 20 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 もしも、幼い頃から夢見ていた事が1日でも実現したら。

いいよね

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ジャニス 91 こっそり非日常に憧れる女の子。かといって今の生活に不満はない。ジミンと仲が悪い。
ティボ 86 街で死に損なってるどこぞの国の王子様。ジャニスに一目惚れ。
ジミン 33 悪い子。悪いお仕事してる。ジャニスと仲が悪い。語り部を兼役。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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ジミン:(語り部)これは今よりとっても、とーっても未来のお話。ある街に、ジャニスという女がいました。この女は退屈な日常に飽き飽きしていました。 ジャニス:「(あくび)ふわぁ……退屈なだねぇ、全く。」 ジミン:(語り部)女は買い物をする為に、近道である路地裏を歩いていました。するとそこに、若い男が倒れていました。 ティボ:「う~……ひもじぃ~。」 ジャニス:「……」 ティボ:「死んでしまうよ~……。」 ジャニス:「……こんな所で、なに野垂れてるんだい。」 ティボ:「……え?」 ジャニス:「アンタ、見ない顔だね。」 ティボ:「あぁ……僕としたことが、聞いてくれよ。ちょっとした用事でこの街に来たんだけど、間違えて一週間早く来てしまって。どうしようって途方に暮れてたら、荷物が無くなってて……」 ジャニス:「盗まれたのかい?間抜けだねぇ。」 ティボ:「着替えも財布もケータイも無いまま、とりあえず予約したホテルに向かっても、身分証がないとダメだって……。」 ジャニス:「無用心だからだよ。この街では自分で身を守らないとね。」 ティボ:「ああ、どうしよう……。」 ジャニス:「男なんだからメソメソしてるんじゃないよ。シャキッとしな。」 ティボ:「ああ、ひもじぃ……」 0: ジミン:(語り部)そう言うと、女は立ち去って行きました。取り残された男は相も変わらず、途方に暮れていました。すると……。 0: ジャニス:「……いつまで野垂れてるつもりだい。気味が悪いよ。」 ティボ:「……君は、さっきの。」 ジャニス:「ほら、食べな。」 ティボ:「これは……ハンバーガー。」 ジャニス:「嫌なら食わなくたっていいんだよ。」 ティボ:「いや大好きさ、いただきます。……んんん!旨すぎる!」 ジャニス:「……ホントに何も食べてなかったんだね。」 ティボ:「うん!この二日間、現金も無かったからどうしようもなくて。ここには頼れる知り合いはいないから。いやぁ~本当に助かった!」 ジャニス:「フンッ、せいぜい頑張んな。」 ティボ:「ねぇ、待って!」 ジャニス:「な、なんだい?」 ティボ:「図々しいのは百も承知でお願いしたいんだけど……お金貸してくれないかな?」 ジャニス:「金?」 ティボ:「説明した通り、今の僕は一文無しだ。それに数日後にはとあるパーティーが控えている。でもホテルへチェックイン出来るのは最低でも三日後。それまでなんとか耐え凌がないと。だから、食費とホテル代を……どうか、お恵み下さい!」 ジャニス:「はぁ……とんだ厄介者だね。」 ティボ:「お願いします!この通り!」 ジャニス:「……全く、わかったよ。今これしかないけど、三日ぐらいならなんとかなるだろう。」 ティボ:「はぁ……!ありがとう!君は命の恩人だ!」 ジャニス:「大袈裟だねぇ。」 ティボ:「僕の名前はティボー・ド・セギュール。君は?」 ジャニス:「そんな、名乗るほどのじゃあ……」 ティボ:「君の名前を知りたいんだ。いいかな。」 ジャニス:「……ジャニス。ジャニス・ペドラザ。」 ティボ:「あぁ、ジャニス。素敵な名前だ……。」 ジミン:(語り部)すると男は女の手を取り…… 0: ジャニス:「ンヒィッ!」 ティボ:「心より感謝の意を込めて……。」 ジミン:(語り部)手の甲にキスをしました。 0: ジャニス:「わ……わわわ、アンタ!何やってるんだい、気色悪い!」 0:振りほどくジャニス ティボ:「そんなに嫌がらなくても、これは敬愛の印なんだから。」 ジャニス:「な、なんでもいいけど、アタイはもう行くからね!」 ティボ:「あ、ジャニスー!必ず、必ず迎えに行くからー!」 0: ジミン:(語り部)数日後のお昼過ぎ。女は用事を済ませにある所へ向かっている道中、誰かと電話をしていました。 0: ジャニス:「……そう、ホントに変な奴でねぇ。アタイだってそんなにお金持ってる訳じゃないんだよ?でもなんか不憫でさぁ。そしたら『敬愛の印』とか言って、手の甲にキスしてきやがったんだよ!……でも、そのせいでここんとこなんか変なんだ。頭から離れないっていうか。あんなの、初めてされたし……。なんか悪いね、こんな話出来るのアンタしかいないからさ。うん、ありがとうベロニカ。また邪魔しにいくよ。」 ジャニス:「はぁ……どうしちまったんだアタイ。らしくないよ、ホント。」 ジミン:(語り部)すると後ろの方から、それはそれは超高級なリムジンが近付いて来るではありませんか。 0: ティボ:「おーい!ジャニスー!やっと見つけたよー!」 ジャニス:「え、この声は……アンタまさか、この間の!」 ティボ:「いやー良かったよ間に合って。さっき君の会社の方にお邪魔してね。今さっき出ていったばっかりだって言うから急いで来たよ。」 ジャニス:「その前に、なんなんだいこの超高級リムジンは!運転手まで付けて、アンタ一体……」 ティボ:「細かい話は後で沢山するから。ほら、乗って!」 ジャニス:「え、今から?アタイこれからちょっと用事あるんだけど……。」 ティボ:「いいから乗ってよ!僕には今日しか無いんだ!」 0:手を取られ車に入るジャニス ジャニス:「ンヒィッ!」 ティボ:「さあ、行こうか。運転手さん、よろしく。」 0:車が出発する。 0: ジミン:(語り部)こうして女はカボチャの馬車ならぬ、超高級リムジンに引きずり込まれ、連れ去られてしまいました。 0: ジャニス:「……。」 ティボ:「ごめんね、強引だったかな。でもちょっと急いでて。」 ジャニス:「……。」 ティボ:「あ、忘れないうちに。……お金、ありがとうね。ジャニスのお陰で命拾いしたよ。」 ジャニス:「……。」 ティボ:「もしかして、怒ってる。」 ジャニス:「……いや、何て言うか。なんなの、この状況。アンタ、本当に何者?」 ティボ:「うーん、説明すると長くなるんだけど、簡単に言えばちょっとしたお金持ちってところかな。」 ジャニス:「この間まで路地裏で野垂れ死にそうになってた奴が?全く飲み込めないんだけど。」 ティボ:「あはは、確かにそうだよね。……ああ運転手さん、そこのジュエリーショップ寄って。」 ジャニス:「な、なんでジュエリーショップになんか……」 ティボ:「決まってるだろ?君のお似合いのジュエリーを選ぶんだよ!」 ジャニス:「え、どういう事!?」 ティボ:「早くしないとパーティーが始まっちゃう!さ、一緒においで。」 ジャニス:「ンヒィッ!」 0: 0: ジミン:(語り部)店内は超高級なネックレスやピアス、ブローチなど様々なジュエリーが並んでいました。このようなお店に入ったことのない貧乏で子悪党な女にとって、その光景はまるで夢のようでした。 ジャニス:「すごい……こんな店、入ったことないよ。」 ティボ:「ほら、選んで選んで!僕も選んであげるからさぁ!」 ジャニス:「選ぶってそんな……やだこのブローチ、綺麗ね。」 ティボ:「いいね!君にお似合いだよ、ジャニス。」 ジャニス:「……って、え!なんだいこの値段は!」 ティボ:「気にしないで!店員さん、これちょうだい!あと、これもこれも!あ、あとこれなんかも似合うんじゃない!」 ジャニス:「夢でも見ているのかい、アタイは……。」 0: ジミン:(語り部)買い物を終えて向かった先は超高級ホテル。外はパーティーの参列者で賑わっていました。 0: ティボ:「ふぅー良かったよ、予定より早く着いた。」 ジャニス:「信じられないよ……こんなにジュエリー買って、バカんならない金額しただろう?」 ティボ:「君がより輝く為に必要なものだからね、金額なんて関係ないよ。それに、時間はお金では買えないからね。さあ、これからドレスアップの時間だ!ほら行くよ。」 ジャニス:「ドレスアップって……ンヒィッ!」 0: ジミン:(語り部)手を引かれて辿り着いた先には使用人らしき女性たちと、それはそれは大きなドレッサー。所狭しと並ぶドレスの数々。まるでそこはお姫様が支度をする部屋にそっくりでした。 0: ジャニス:「なに、この部屋……」 ティボ:「僕が用意したのさ。君の為にね。その美貌に見合った沢山のドレスを用意したのさ。ほら、みんな!彼女を輝かせておくれ!」 ジャニス:「え、ちょっと何するのアンタたち……ンヒィッ!」 0: ジミン:(語り部)みるみる内に綺麗に仕上がって行く自分の姿に驚きながらも、心が躍っている事に女は気付いていました。 ジャニス:「アタイでも、こんなに綺麗になれるのかい……。」 0: ジミン:(語り部)しばらくすると、男が戻って来ました。男は変貌を遂げた女の姿に、より一層惚れ込みました。 0: ティボ:「さぁジャニス、準備は出来て……これはこれは失礼いたしました、ミス・ペドラザ。」 ジャニス:「スゴい……アタイじゃないみたいだよ。ドレスなんて着たことなかったし、こんな宝石の付いたジュエリーだって……」 ティボ:「今の君は、世界で一番美しいよ。」 ジャニス:「ア、アタイが美しいだなんて……」 ティボ:「さあ時間だ!一緒に来ておくれ、僕の愛しのプリンセス。」 ジャニス:「プププ、プリンセス!?ンンン、ンヒィッ!」 0: ジミン:(語り部)二人が向かった先は、大きなシャンデリアが吊るされた、バロック風の豪華な会場でした。着飾った参加者が行き交う間を縫うように、二人は進んで行きました。一際目立つ美しさの女に参加者らは釘付けになりました。 0: ティボ:「アハハ、君は注目の的のようだね。ほら、みんなの目を引いているよ?」 ジャニス:「アアア、アタイは何もしてないよ。見ないでおくれぇ、恥ずかしいぃ。」 ティボ:「君が綺麗で美しいからさ。もっと胸を張っていいんだよ。」 ジャニス:「そそそ、そんなこと言われても……」 ジミン:「あらぁ、ティボ王子!もういらしてたんですね。」 ティボ:「これはこれは、ジミンさん!」 ジャニス:「ジミン……?」 ジミン:「そちらの方は……って、へぇ?」 ティボ:「ああ、紹介しないとね。こちらの方は僕のフィアンセとなる、ミス・ペドラザだよ。」 ジャニス:「フィ、フィアンセ!?」 ジミン:「あ、えっ……あーあ、へぇー、なるほどねぇ。」 ティボ:「あれ、ひょっとしてお二人はお知り合いか何か?」 ジミン:「えぇ、まぁそれなりに……ねぇ?」 ジャニス:「薄ら笑いするんじゃないよ。その鼻につく言葉遣いも気持ち悪い。なんでアンタがここにいるんだい。」 ジミン:「まぁなんて口が悪いんでしょう。見た目ばっかり小綺麗にても、中身は変わらないものよねぇ。その豪華なドレスだって、着せられてるようじゃない。プププ!」 ジャニス:「今すぐ、この場で決着つけたっていいんだよ、アタイは。」 ジミン:「あーあ、本当に野蛮ね。どんなに着飾っても所詮は개새끼(ケセキ)。場違いにもほどかあるわよ。」 ジャニス:「ムカつくねぇ、アンタ……。」 ティボ:「(咳払い)……ジミンさん、僕のフィアンセを悪く言うの、止めてくれないかな?」 ジミン:「あらあら、ごめん遊ばせ。その方には腹に一物ありまして。これで失礼するわ。また後程ね、お・う・じ・さ・ま。」 0:立ち去るジミン。 ティボ:「なんかごめんね、全然知らなくて。」 ジャニス:「アタイも悪かったよ、勝手に熱くなって。……で、ジミンとどういう関係なの。」 ティボ:「そんな大した仲じゃないよ。」 ジャニス:「ならいいけど。ところで、王子って……」 ティボ:「お、この音楽は!」 ジャニス:「何、なんなの?」 ティボ:「踊ろう、ジャニス!」 ジャニス:「えぇ、踊る!?そんな、やったことないよ、アタイ……」 ティボ:「大丈夫、僕がエスコートするから!さあ、行くよ!」 ジャニス:「無理無理、出来るわけない…ンヒィッ!」 0: ジミン:(語り部)女は思いました。幼い頃に絵本で見た世界が目の前に。思い描き、憧れていた世界に自分がいるのだと。まるでお姫様と王子様のようだと。夢を見ていた少女の自分が今、蘇っているのだと。 ジャニス:この時間がずっと続いて、終わらなければいいのに…… 0: ジミン:(語り部)しばらくすると音楽は止み、夢のような時間は終わりを迎えてしまいました。すると男がお立ち台に登り、話し始めました。 0: ティボ:「みなさーん!今夜はお集まりいただきありがとう!これは僕からの感謝の気持ちです!呑んで食べて好きにやっちゃって下さい!……あ、あとそれから!」 ジャニス:「え?……ンヒィッ!」 ティボ:「今日からこの子が僕のフィアンセとなるとミス・ペドラザだ!この人が居なかったら僕は死んでいたかもしれない。僕の出自なんて関係なしに助けてくれた、優しい心の持ち主なんだ。だから僕は気付いた。君は命の恩人であり、運命の人なんだって。」 ジャニス:「ティボ、アンタ……」 ティボ:「だから……僕と結婚してくれないか、ジャニス。」 ジャニス:「……。」 ティボ:「一緒に、僕の国に来てくれ。」 ジャニス:「……っ!」 0:逃げ出すジャニス ティボ:「あ、ジャニス!待って!」 ジミン:「あーらら。うっふふ……。」 0:会場の外。廊下を走るジャニス。それを追うティボ。 ティボ:「はぁ、はぁ、ジャニス!待ってって!」 ジャニス:「待たない!だって聞いてないよ!王子?!フィアンセ!?何も聞いてないのに勝手に話進め……ウギャっ!」 0:ヒールでドレスの裾を踏んで転ぶジャニス。 ティボ:「あ、ジャニス!大丈夫かい!」 ジャニス:「あいたたたぁ……」 ティボ:「ごめん、俺の所為で……」 ジャニス:「……アタイだって、悪い気はしてないよ。むしろ嬉しい。こんな夢みたいな時間を過ごせたのは初めてだ。」 ティボ:「ジャニス……。」 ジャニス:「アタイはストリートチルドレンだったんだ。絵本やおとぎ話の世界に憧れてたからね。こんなドレスやジュエリーなんて一生かかっても身に付ける事なんて出来ないと思ってたからさ。」 ティボ:「……。」 ジャニス:「アンタが悪い人とは思ってない。なんならハンサムだしいい男だよ。だけど、住む世界が違いすぎる。アンタが愛情を注ぐべき女はアタイじゃない。アタイにはそんな器ないよ。それに、この街からは出ていけない。」 ティボ:「それは、どうして?」 ジャニス:「好きだからだよ、この街が。アタイはいつもの仲間達とこの街でバカやってた方が幸せなんだよ。お金なんていらないし、こんなジュエリーなんて身に余る。」 ティボ:「ジャニス、待ってくれ。」 ジャニス:「1日だけでも、夢を見させてくれてありがとう。さよなら、ティボ。」 ティボ:「ジャニス!ジャニスー!」 0: ジミン:(語り部)そして翌日の夕方。女は荷物を携えて男の泊まるホテルの前に来ていました。 0: ジャニス:「とか言って、流石に悪いことしちゃったとは思ってるんだよ?最初から断るべきだったのはわかってる。ただ……アタイは押しが強いのに超弱いみたいなんだ。ドレスもジュエリーも身に付けたまんま帰ったお陰で、コリィ達に指差されて笑われたよ。売ればいい金になるだろうけど、流石に忍びないからさぁ。うん、返してくるよ。はぁ……ねぇ、ベロニカ。アタイ、生きるの本当にクソ下手だよねぇ……。」 0: ジャニス:「……とは言ったものの、なんて言って会えばいいんだい!?もうかれこれ一時間くらいホテルの前で足踏みしてさぁ。自分が情けないよぉ……んん?あれ、まさかティボ!調度良かったよ、このタイミングで渡して謝ろう。それが一番……え、どうして。どうしてジミンが一緒に出てくるの?」 0:ティボとジミンがキスをする。 ジャニス:「いま…キスしたよ。二人、キスした。なんで……よりにも寄って、ジミンなわけ!許さない!」 0: ティボ:「んな、なにするだ!」 ジミン:「フランス人は挨拶代わりにキスするでしょ?自分……あぁいや、私もやってみたかったんですよぉ。」 ティボ:「だからって、唇でのキスはしない!」 ジミン:「へぇー!それは知らなかったぁ!」 ジャニス:「くらえぇっ!」 ジミン:「え?あれジャニス氏……ウギャっ!」 ティボ:「ジャニス!どうしてここに……!」 ジャニス:「……フンッ!」 0:ドレスなどが入った紙袋をティボに投げ付けるジャニス。 ティボ:「痛っ!……こ、このドレスにジュエリーは。」 ジャニス:「ホンっトに、昨日は帰って正解だったようだね。イタズラに乙女心を踏みにじって、楽しかったかい?悪趣味が過ぎるんだよ、このお坊ちゃんめ!」 ティボ:「そんなつもりじゃ……」 ジャニス:「もう無理!何も信じられない!ジミンが居るのが何よりもの証拠だよ!」 ジミン:「いたたぁ~。いきなり跳び蹴りは酷いよぁジャニス氏~。あれ、ひょっとして……キスしてるところ見られちゃったぁ?アッハハァ!傑作ケッサク!」 ティボ:「違う!あれは彼女が勝手に……」 ジミン:「もういいじゃん!言っちゃった方がいいって!いやぁ最高だったよぉ?王子のたくましい身体に抱かれるの。見せてあげたかったなぁ。ベッドの上で浮かべた、あの恍惚そうな王子の表情を……アッハハァ!」 ジャニス:「ぐぐぅ……っ!」 0:走り去るジャニス ティボ:「待ってくれジャニス!全部嘘だ!誤解なんだ!」 ジミン:「あーあ、行っちゃった。……ねぇ王子?仕事の話は終わったんだからさぁ、これから『本当』にぃ、た・の・し・い・こ・と、沢山しようよー。こう見えて、結構テクニックあるよー?満足させてあげるからさぁ……ねぇ?」 ティボ:「適当なことばっか言って……!ジャニスー!待ってくれー!」 0:ジャニスを追うティボ ジミン:「あ、王子ー?タダでヤってやっても良いって言ってんだけどー?……なーんだ、つまんないのー。」 ジミン:「……アッハハ!でも、あの女に一泡ふかせてやったぞぉ……ざまあみろ!アッハハ、アッハハァ!」 0: 0: 0: ティボ:「ジャニス!止まってくれ!誤解なんだって!」 ジャニス:「……もういいんだよ。夢は見させてもらったから。」 ティボ:「……本当にごめん!確かに隠し事はしていた!僕は貴族の生まれで、いま王位継承で揉めているんだ。兄を失脚させるにはスキャンダルが必要だった。だから、あのジミンって女をあてがって不倫の証拠を作り上げた。その証拠と報酬のやり取りのためにこの街に来た。急いでいたのはこの街を発つまでに時間がなかったから、僕なりの表現で君に気持ちを伝えようとしたんだ。」 ジャニス:「……。」 ティボ:「だから信じて欲しい。本当に君が好きなんだ。さっきの話は全部デタラメだ。僕が欲しいのはジャニス、君だけなんだ。」 ジャニス:「……信じられないよ」 ティボ:「お願いだ!信じて!」 ジャニス:「信じられないよ!」 0:振り返るジャニス。大粒の涙を流している。 ティボ:「ジャニス…」 ジャニス:「アンタの伝えてくれる言葉や気持ち、全部ちゃんと嬉しかった!そんな生き方も悪くないと思った!でも……時間が足りないんだよ。」 ティボ:「……」 ジャニス:「だって、まだ手だってまともに繋いでないし、ましてやキスだってしてない。アンタの事なんて、まだなにも知らない。アンタの好きな物も、アンタの好きな服も、アンタの好きな音楽も、アンタの故郷の話、家族の話…何を見て感動するとか、何を大切にしているとか……。」 ティボ:「……その通りだね。」 ジャニス:「アンタの世界ではそれが当たり前なのかもしれない。ただ、アタイの事が好きならアタイをもっと知ってよ!……信じさせてよ。」 ティボ:「……ごめん。」 ジャニス:「……だから、自分の力で掴みとって。貴族のゴタゴタも、アタイの事も。」 ティボ:「……それって。」 ジャニス:「そんなゴシップなんかに頼らないで、自分で成し遂げなさいよ!それが出来たら……考えてやらなくもないから。」 ティボ:「……うん、やってみせる。そして必ず、君を迎えにくるよ。」 ジャニス:「ぐすんっ……今は何も信じられないから。証明してみせて、出来るものならね。」 ティボ:「ああ……約束する。」 ジャニス:「……フンッ、せいぜい頑張んな。」 0: 0: 0: ジャニス:「ベロニカぁ、何回も電話してごめんねぇ。ぐすん。……いや、泣いてないし!そんなわけないし!あーあ、やっぱ男なんて自分勝手でろくなもんじゃないね!アタイは嫌いだね!大っ嫌いだよ!男なんて、男なんてぇ!」 0: ジミン:こうして女はまた一つ、大人の階段を登るのでした。……ざまあみろ!アッハハァ!

ジミン:(語り部)これは今よりとっても、とーっても未来のお話。ある街に、ジャニスという女がいました。この女は退屈な日常に飽き飽きしていました。 ジャニス:「(あくび)ふわぁ……退屈なだねぇ、全く。」 ジミン:(語り部)女は買い物をする為に、近道である路地裏を歩いていました。するとそこに、若い男が倒れていました。 ティボ:「う~……ひもじぃ~。」 ジャニス:「……」 ティボ:「死んでしまうよ~……。」 ジャニス:「……こんな所で、なに野垂れてるんだい。」 ティボ:「……え?」 ジャニス:「アンタ、見ない顔だね。」 ティボ:「あぁ……僕としたことが、聞いてくれよ。ちょっとした用事でこの街に来たんだけど、間違えて一週間早く来てしまって。どうしようって途方に暮れてたら、荷物が無くなってて……」 ジャニス:「盗まれたのかい?間抜けだねぇ。」 ティボ:「着替えも財布もケータイも無いまま、とりあえず予約したホテルに向かっても、身分証がないとダメだって……。」 ジャニス:「無用心だからだよ。この街では自分で身を守らないとね。」 ティボ:「ああ、どうしよう……。」 ジャニス:「男なんだからメソメソしてるんじゃないよ。シャキッとしな。」 ティボ:「ああ、ひもじぃ……」 0: ジミン:(語り部)そう言うと、女は立ち去って行きました。取り残された男は相も変わらず、途方に暮れていました。すると……。 0: ジャニス:「……いつまで野垂れてるつもりだい。気味が悪いよ。」 ティボ:「……君は、さっきの。」 ジャニス:「ほら、食べな。」 ティボ:「これは……ハンバーガー。」 ジャニス:「嫌なら食わなくたっていいんだよ。」 ティボ:「いや大好きさ、いただきます。……んんん!旨すぎる!」 ジャニス:「……ホントに何も食べてなかったんだね。」 ティボ:「うん!この二日間、現金も無かったからどうしようもなくて。ここには頼れる知り合いはいないから。いやぁ~本当に助かった!」 ジャニス:「フンッ、せいぜい頑張んな。」 ティボ:「ねぇ、待って!」 ジャニス:「な、なんだい?」 ティボ:「図々しいのは百も承知でお願いしたいんだけど……お金貸してくれないかな?」 ジャニス:「金?」 ティボ:「説明した通り、今の僕は一文無しだ。それに数日後にはとあるパーティーが控えている。でもホテルへチェックイン出来るのは最低でも三日後。それまでなんとか耐え凌がないと。だから、食費とホテル代を……どうか、お恵み下さい!」 ジャニス:「はぁ……とんだ厄介者だね。」 ティボ:「お願いします!この通り!」 ジャニス:「……全く、わかったよ。今これしかないけど、三日ぐらいならなんとかなるだろう。」 ティボ:「はぁ……!ありがとう!君は命の恩人だ!」 ジャニス:「大袈裟だねぇ。」 ティボ:「僕の名前はティボー・ド・セギュール。君は?」 ジャニス:「そんな、名乗るほどのじゃあ……」 ティボ:「君の名前を知りたいんだ。いいかな。」 ジャニス:「……ジャニス。ジャニス・ペドラザ。」 ティボ:「あぁ、ジャニス。素敵な名前だ……。」 ジミン:(語り部)すると男は女の手を取り…… 0: ジャニス:「ンヒィッ!」 ティボ:「心より感謝の意を込めて……。」 ジミン:(語り部)手の甲にキスをしました。 0: ジャニス:「わ……わわわ、アンタ!何やってるんだい、気色悪い!」 0:振りほどくジャニス ティボ:「そんなに嫌がらなくても、これは敬愛の印なんだから。」 ジャニス:「な、なんでもいいけど、アタイはもう行くからね!」 ティボ:「あ、ジャニスー!必ず、必ず迎えに行くからー!」 0: ジミン:(語り部)数日後のお昼過ぎ。女は用事を済ませにある所へ向かっている道中、誰かと電話をしていました。 0: ジャニス:「……そう、ホントに変な奴でねぇ。アタイだってそんなにお金持ってる訳じゃないんだよ?でもなんか不憫でさぁ。そしたら『敬愛の印』とか言って、手の甲にキスしてきやがったんだよ!……でも、そのせいでここんとこなんか変なんだ。頭から離れないっていうか。あんなの、初めてされたし……。なんか悪いね、こんな話出来るのアンタしかいないからさ。うん、ありがとうベロニカ。また邪魔しにいくよ。」 ジャニス:「はぁ……どうしちまったんだアタイ。らしくないよ、ホント。」 ジミン:(語り部)すると後ろの方から、それはそれは超高級なリムジンが近付いて来るではありませんか。 0: ティボ:「おーい!ジャニスー!やっと見つけたよー!」 ジャニス:「え、この声は……アンタまさか、この間の!」 ティボ:「いやー良かったよ間に合って。さっき君の会社の方にお邪魔してね。今さっき出ていったばっかりだって言うから急いで来たよ。」 ジャニス:「その前に、なんなんだいこの超高級リムジンは!運転手まで付けて、アンタ一体……」 ティボ:「細かい話は後で沢山するから。ほら、乗って!」 ジャニス:「え、今から?アタイこれからちょっと用事あるんだけど……。」 ティボ:「いいから乗ってよ!僕には今日しか無いんだ!」 0:手を取られ車に入るジャニス ジャニス:「ンヒィッ!」 ティボ:「さあ、行こうか。運転手さん、よろしく。」 0:車が出発する。 0: ジミン:(語り部)こうして女はカボチャの馬車ならぬ、超高級リムジンに引きずり込まれ、連れ去られてしまいました。 0: ジャニス:「……。」 ティボ:「ごめんね、強引だったかな。でもちょっと急いでて。」 ジャニス:「……。」 ティボ:「あ、忘れないうちに。……お金、ありがとうね。ジャニスのお陰で命拾いしたよ。」 ジャニス:「……。」 ティボ:「もしかして、怒ってる。」 ジャニス:「……いや、何て言うか。なんなの、この状況。アンタ、本当に何者?」 ティボ:「うーん、説明すると長くなるんだけど、簡単に言えばちょっとしたお金持ちってところかな。」 ジャニス:「この間まで路地裏で野垂れ死にそうになってた奴が?全く飲み込めないんだけど。」 ティボ:「あはは、確かにそうだよね。……ああ運転手さん、そこのジュエリーショップ寄って。」 ジャニス:「な、なんでジュエリーショップになんか……」 ティボ:「決まってるだろ?君のお似合いのジュエリーを選ぶんだよ!」 ジャニス:「え、どういう事!?」 ティボ:「早くしないとパーティーが始まっちゃう!さ、一緒においで。」 ジャニス:「ンヒィッ!」 0: 0: ジミン:(語り部)店内は超高級なネックレスやピアス、ブローチなど様々なジュエリーが並んでいました。このようなお店に入ったことのない貧乏で子悪党な女にとって、その光景はまるで夢のようでした。 ジャニス:「すごい……こんな店、入ったことないよ。」 ティボ:「ほら、選んで選んで!僕も選んであげるからさぁ!」 ジャニス:「選ぶってそんな……やだこのブローチ、綺麗ね。」 ティボ:「いいね!君にお似合いだよ、ジャニス。」 ジャニス:「……って、え!なんだいこの値段は!」 ティボ:「気にしないで!店員さん、これちょうだい!あと、これもこれも!あ、あとこれなんかも似合うんじゃない!」 ジャニス:「夢でも見ているのかい、アタイは……。」 0: ジミン:(語り部)買い物を終えて向かった先は超高級ホテル。外はパーティーの参列者で賑わっていました。 0: ティボ:「ふぅー良かったよ、予定より早く着いた。」 ジャニス:「信じられないよ……こんなにジュエリー買って、バカんならない金額しただろう?」 ティボ:「君がより輝く為に必要なものだからね、金額なんて関係ないよ。それに、時間はお金では買えないからね。さあ、これからドレスアップの時間だ!ほら行くよ。」 ジャニス:「ドレスアップって……ンヒィッ!」 0: ジミン:(語り部)手を引かれて辿り着いた先には使用人らしき女性たちと、それはそれは大きなドレッサー。所狭しと並ぶドレスの数々。まるでそこはお姫様が支度をする部屋にそっくりでした。 0: ジャニス:「なに、この部屋……」 ティボ:「僕が用意したのさ。君の為にね。その美貌に見合った沢山のドレスを用意したのさ。ほら、みんな!彼女を輝かせておくれ!」 ジャニス:「え、ちょっと何するのアンタたち……ンヒィッ!」 0: ジミン:(語り部)みるみる内に綺麗に仕上がって行く自分の姿に驚きながらも、心が躍っている事に女は気付いていました。 ジャニス:「アタイでも、こんなに綺麗になれるのかい……。」 0: ジミン:(語り部)しばらくすると、男が戻って来ました。男は変貌を遂げた女の姿に、より一層惚れ込みました。 0: ティボ:「さぁジャニス、準備は出来て……これはこれは失礼いたしました、ミス・ペドラザ。」 ジャニス:「スゴい……アタイじゃないみたいだよ。ドレスなんて着たことなかったし、こんな宝石の付いたジュエリーだって……」 ティボ:「今の君は、世界で一番美しいよ。」 ジャニス:「ア、アタイが美しいだなんて……」 ティボ:「さあ時間だ!一緒に来ておくれ、僕の愛しのプリンセス。」 ジャニス:「プププ、プリンセス!?ンンン、ンヒィッ!」 0: ジミン:(語り部)二人が向かった先は、大きなシャンデリアが吊るされた、バロック風の豪華な会場でした。着飾った参加者が行き交う間を縫うように、二人は進んで行きました。一際目立つ美しさの女に参加者らは釘付けになりました。 0: ティボ:「アハハ、君は注目の的のようだね。ほら、みんなの目を引いているよ?」 ジャニス:「アアア、アタイは何もしてないよ。見ないでおくれぇ、恥ずかしいぃ。」 ティボ:「君が綺麗で美しいからさ。もっと胸を張っていいんだよ。」 ジャニス:「そそそ、そんなこと言われても……」 ジミン:「あらぁ、ティボ王子!もういらしてたんですね。」 ティボ:「これはこれは、ジミンさん!」 ジャニス:「ジミン……?」 ジミン:「そちらの方は……って、へぇ?」 ティボ:「ああ、紹介しないとね。こちらの方は僕のフィアンセとなる、ミス・ペドラザだよ。」 ジャニス:「フィ、フィアンセ!?」 ジミン:「あ、えっ……あーあ、へぇー、なるほどねぇ。」 ティボ:「あれ、ひょっとしてお二人はお知り合いか何か?」 ジミン:「えぇ、まぁそれなりに……ねぇ?」 ジャニス:「薄ら笑いするんじゃないよ。その鼻につく言葉遣いも気持ち悪い。なんでアンタがここにいるんだい。」 ジミン:「まぁなんて口が悪いんでしょう。見た目ばっかり小綺麗にても、中身は変わらないものよねぇ。その豪華なドレスだって、着せられてるようじゃない。プププ!」 ジャニス:「今すぐ、この場で決着つけたっていいんだよ、アタイは。」 ジミン:「あーあ、本当に野蛮ね。どんなに着飾っても所詮は개새끼(ケセキ)。場違いにもほどかあるわよ。」 ジャニス:「ムカつくねぇ、アンタ……。」 ティボ:「(咳払い)……ジミンさん、僕のフィアンセを悪く言うの、止めてくれないかな?」 ジミン:「あらあら、ごめん遊ばせ。その方には腹に一物ありまして。これで失礼するわ。また後程ね、お・う・じ・さ・ま。」 0:立ち去るジミン。 ティボ:「なんかごめんね、全然知らなくて。」 ジャニス:「アタイも悪かったよ、勝手に熱くなって。……で、ジミンとどういう関係なの。」 ティボ:「そんな大した仲じゃないよ。」 ジャニス:「ならいいけど。ところで、王子って……」 ティボ:「お、この音楽は!」 ジャニス:「何、なんなの?」 ティボ:「踊ろう、ジャニス!」 ジャニス:「えぇ、踊る!?そんな、やったことないよ、アタイ……」 ティボ:「大丈夫、僕がエスコートするから!さあ、行くよ!」 ジャニス:「無理無理、出来るわけない…ンヒィッ!」 0: ジミン:(語り部)女は思いました。幼い頃に絵本で見た世界が目の前に。思い描き、憧れていた世界に自分がいるのだと。まるでお姫様と王子様のようだと。夢を見ていた少女の自分が今、蘇っているのだと。 ジャニス:この時間がずっと続いて、終わらなければいいのに…… 0: ジミン:(語り部)しばらくすると音楽は止み、夢のような時間は終わりを迎えてしまいました。すると男がお立ち台に登り、話し始めました。 0: ティボ:「みなさーん!今夜はお集まりいただきありがとう!これは僕からの感謝の気持ちです!呑んで食べて好きにやっちゃって下さい!……あ、あとそれから!」 ジャニス:「え?……ンヒィッ!」 ティボ:「今日からこの子が僕のフィアンセとなるとミス・ペドラザだ!この人が居なかったら僕は死んでいたかもしれない。僕の出自なんて関係なしに助けてくれた、優しい心の持ち主なんだ。だから僕は気付いた。君は命の恩人であり、運命の人なんだって。」 ジャニス:「ティボ、アンタ……」 ティボ:「だから……僕と結婚してくれないか、ジャニス。」 ジャニス:「……。」 ティボ:「一緒に、僕の国に来てくれ。」 ジャニス:「……っ!」 0:逃げ出すジャニス ティボ:「あ、ジャニス!待って!」 ジミン:「あーらら。うっふふ……。」 0:会場の外。廊下を走るジャニス。それを追うティボ。 ティボ:「はぁ、はぁ、ジャニス!待ってって!」 ジャニス:「待たない!だって聞いてないよ!王子?!フィアンセ!?何も聞いてないのに勝手に話進め……ウギャっ!」 0:ヒールでドレスの裾を踏んで転ぶジャニス。 ティボ:「あ、ジャニス!大丈夫かい!」 ジャニス:「あいたたたぁ……」 ティボ:「ごめん、俺の所為で……」 ジャニス:「……アタイだって、悪い気はしてないよ。むしろ嬉しい。こんな夢みたいな時間を過ごせたのは初めてだ。」 ティボ:「ジャニス……。」 ジャニス:「アタイはストリートチルドレンだったんだ。絵本やおとぎ話の世界に憧れてたからね。こんなドレスやジュエリーなんて一生かかっても身に付ける事なんて出来ないと思ってたからさ。」 ティボ:「……。」 ジャニス:「アンタが悪い人とは思ってない。なんならハンサムだしいい男だよ。だけど、住む世界が違いすぎる。アンタが愛情を注ぐべき女はアタイじゃない。アタイにはそんな器ないよ。それに、この街からは出ていけない。」 ティボ:「それは、どうして?」 ジャニス:「好きだからだよ、この街が。アタイはいつもの仲間達とこの街でバカやってた方が幸せなんだよ。お金なんていらないし、こんなジュエリーなんて身に余る。」 ティボ:「ジャニス、待ってくれ。」 ジャニス:「1日だけでも、夢を見させてくれてありがとう。さよなら、ティボ。」 ティボ:「ジャニス!ジャニスー!」 0: ジミン:(語り部)そして翌日の夕方。女は荷物を携えて男の泊まるホテルの前に来ていました。 0: ジャニス:「とか言って、流石に悪いことしちゃったとは思ってるんだよ?最初から断るべきだったのはわかってる。ただ……アタイは押しが強いのに超弱いみたいなんだ。ドレスもジュエリーも身に付けたまんま帰ったお陰で、コリィ達に指差されて笑われたよ。売ればいい金になるだろうけど、流石に忍びないからさぁ。うん、返してくるよ。はぁ……ねぇ、ベロニカ。アタイ、生きるの本当にクソ下手だよねぇ……。」 0: ジャニス:「……とは言ったものの、なんて言って会えばいいんだい!?もうかれこれ一時間くらいホテルの前で足踏みしてさぁ。自分が情けないよぉ……んん?あれ、まさかティボ!調度良かったよ、このタイミングで渡して謝ろう。それが一番……え、どうして。どうしてジミンが一緒に出てくるの?」 0:ティボとジミンがキスをする。 ジャニス:「いま…キスしたよ。二人、キスした。なんで……よりにも寄って、ジミンなわけ!許さない!」 0: ティボ:「んな、なにするだ!」 ジミン:「フランス人は挨拶代わりにキスするでしょ?自分……あぁいや、私もやってみたかったんですよぉ。」 ティボ:「だからって、唇でのキスはしない!」 ジミン:「へぇー!それは知らなかったぁ!」 ジャニス:「くらえぇっ!」 ジミン:「え?あれジャニス氏……ウギャっ!」 ティボ:「ジャニス!どうしてここに……!」 ジャニス:「……フンッ!」 0:ドレスなどが入った紙袋をティボに投げ付けるジャニス。 ティボ:「痛っ!……こ、このドレスにジュエリーは。」 ジャニス:「ホンっトに、昨日は帰って正解だったようだね。イタズラに乙女心を踏みにじって、楽しかったかい?悪趣味が過ぎるんだよ、このお坊ちゃんめ!」 ティボ:「そんなつもりじゃ……」 ジャニス:「もう無理!何も信じられない!ジミンが居るのが何よりもの証拠だよ!」 ジミン:「いたたぁ~。いきなり跳び蹴りは酷いよぁジャニス氏~。あれ、ひょっとして……キスしてるところ見られちゃったぁ?アッハハァ!傑作ケッサク!」 ティボ:「違う!あれは彼女が勝手に……」 ジミン:「もういいじゃん!言っちゃった方がいいって!いやぁ最高だったよぉ?王子のたくましい身体に抱かれるの。見せてあげたかったなぁ。ベッドの上で浮かべた、あの恍惚そうな王子の表情を……アッハハァ!」 ジャニス:「ぐぐぅ……っ!」 0:走り去るジャニス ティボ:「待ってくれジャニス!全部嘘だ!誤解なんだ!」 ジミン:「あーあ、行っちゃった。……ねぇ王子?仕事の話は終わったんだからさぁ、これから『本当』にぃ、た・の・し・い・こ・と、沢山しようよー。こう見えて、結構テクニックあるよー?満足させてあげるからさぁ……ねぇ?」 ティボ:「適当なことばっか言って……!ジャニスー!待ってくれー!」 0:ジャニスを追うティボ ジミン:「あ、王子ー?タダでヤってやっても良いって言ってんだけどー?……なーんだ、つまんないのー。」 ジミン:「……アッハハ!でも、あの女に一泡ふかせてやったぞぉ……ざまあみろ!アッハハ、アッハハァ!」 0: 0: 0: ティボ:「ジャニス!止まってくれ!誤解なんだって!」 ジャニス:「……もういいんだよ。夢は見させてもらったから。」 ティボ:「……本当にごめん!確かに隠し事はしていた!僕は貴族の生まれで、いま王位継承で揉めているんだ。兄を失脚させるにはスキャンダルが必要だった。だから、あのジミンって女をあてがって不倫の証拠を作り上げた。その証拠と報酬のやり取りのためにこの街に来た。急いでいたのはこの街を発つまでに時間がなかったから、僕なりの表現で君に気持ちを伝えようとしたんだ。」 ジャニス:「……。」 ティボ:「だから信じて欲しい。本当に君が好きなんだ。さっきの話は全部デタラメだ。僕が欲しいのはジャニス、君だけなんだ。」 ジャニス:「……信じられないよ」 ティボ:「お願いだ!信じて!」 ジャニス:「信じられないよ!」 0:振り返るジャニス。大粒の涙を流している。 ティボ:「ジャニス…」 ジャニス:「アンタの伝えてくれる言葉や気持ち、全部ちゃんと嬉しかった!そんな生き方も悪くないと思った!でも……時間が足りないんだよ。」 ティボ:「……」 ジャニス:「だって、まだ手だってまともに繋いでないし、ましてやキスだってしてない。アンタの事なんて、まだなにも知らない。アンタの好きな物も、アンタの好きな服も、アンタの好きな音楽も、アンタの故郷の話、家族の話…何を見て感動するとか、何を大切にしているとか……。」 ティボ:「……その通りだね。」 ジャニス:「アンタの世界ではそれが当たり前なのかもしれない。ただ、アタイの事が好きならアタイをもっと知ってよ!……信じさせてよ。」 ティボ:「……ごめん。」 ジャニス:「……だから、自分の力で掴みとって。貴族のゴタゴタも、アタイの事も。」 ティボ:「……それって。」 ジャニス:「そんなゴシップなんかに頼らないで、自分で成し遂げなさいよ!それが出来たら……考えてやらなくもないから。」 ティボ:「……うん、やってみせる。そして必ず、君を迎えにくるよ。」 ジャニス:「ぐすんっ……今は何も信じられないから。証明してみせて、出来るものならね。」 ティボ:「ああ……約束する。」 ジャニス:「……フンッ、せいぜい頑張んな。」 0: 0: 0: ジャニス:「ベロニカぁ、何回も電話してごめんねぇ。ぐすん。……いや、泣いてないし!そんなわけないし!あーあ、やっぱ男なんて自分勝手でろくなもんじゃないね!アタイは嫌いだね!大っ嫌いだよ!男なんて、男なんてぇ!」 0: ジミン:こうして女はまた一つ、大人の階段を登るのでした。……ざまあみろ!アッハハァ!