台本概要

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タイトル 声変わり。
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 自分を定義する声は自分か他者か。

◆あらすじ
朝起きたら声がおっさんに変わってしまっていた妹と、妹の声に変っていた兄妹の話。

◆ちゅうい
アドリブや性別変更等のルールは公式準拠でお願いします。
最後、配役が「みゆ(かずき)」のように分かりにくくなっているところがありますが、元の声に戻るという演出です。差し当たっては、チェックして色を付けた通りにやっていただければ幸いです。
文字数は4847文字です。ので長さは15分程度かと思います。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
みゆ 104 篠原実優。幼女。声がおっさんに。
かずき 104 篠原和樹。兄。声が幼女に。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:声変わり。 : 0:自分を定義する声は自分か他者か。 : 0:◆あらすじ 0:朝起きたら声が変わってしまっていた話。 : 0:◆登場人物 みゆ:篠原実優。幼女。声がおっさんに。 かずき:篠原和樹。兄。声が幼女に。 : 0:◆◆ : 0:ベッドで眠るかずきをみゆが起こそうとしている。 : みゆ:起きて! かずき:…………。 みゆ:ねぇ起きて! お兄ちゃん! かずき:ん……。 みゆ:起きてってばお兄ちゃん! かずき:……んだよぉ。今日日曜だろ……。 みゆ:ねぇ聞いて! 大変なんだよ! かずき:あぁ……? 誰だよ……? みゆ:誰って、あたしだよ! かずき:ふあぁ。……誰だよ、知らねぇよ……おっさん。 みゆ:おっさんじゃないよ! かずき:おっさんはみんなそう言うんだよ……。 みゆ:もういい加減寝ぼけてないでよく見て! かずき:あぁ……? あれぇ……? みゆ:お兄ちゃんの妹のみゆだよ! かずき:……みゆ、かぁ? みゆ:ほら! ね!? かずき:あぁ、確かに? 見た目は。いや、でも……。みゆ? みゆ:お兄ちゃん! かずき:……いや、おっさんだな。 みゆ:違うよ! この声以外はちゃんとみゆでしょ! かずき:うわぁ。……きっしょ。 みゆ:もうお兄ちゃん! きっしょ言うな! かずき:その声でお兄ちゃん言うなよ……。 みゆ:じゃあななんて呼べば良いの? かずき? かずき:やめろ、なんかそれも、変だ。てかなにそれ。変声期? みゆ:みゆに聞かれても分かんないよ! かずき:バリトン効き過ぎじゃね? 風邪? みゆ:風邪なわけないでしょ! 今朝起きたらみゆの声こんなんなっちゃってたんだよ! かずき:起きたら、か。どうせお前腹出して寝てたんだろ? みゆ:だ、出してないよ! ……ちょっとしか。 かずき:出してたのかよ。 みゆ:うみゅう……。 かずき:……。 みゆ:な、なに? かずき:いや。それで? 起きたら腹とおっさん声を出してたって訳だな? みゆ:もうお兄ちゃん! うまいこと言わなくて良いから! かずき:ははは。もう一回寝よ……。 みゆ:いや、寝ないでよ! かずき:寝て起きたら直ってるって、へーきへーき。 みゆ:そんなのわからないでしょ! ねぇ起きてお兄ちゃん! かずき:うるせぇなぁ、俺にどうしろってんだよ……。 みゆ:分からないよお兄ちゃん、ねぇどうしよう?! かずき:あぁ? どうするって? みゆ:こんなリアルバ美肉みたいになっちゃったら学校行けないよ! かずき:はは。良かったじゃん、 みゆ:何が? かずき:よく聞いてみたら意外と良い声だしきっとみんなの人気者になれるぜ。じゃおやすみ。 みゆ:寝るなぁ! かずき:医者じゃないんだから俺に言うなよ! みゆ:お医者さん……。 かずき:はぁ? みゆ:ねぇお兄ちゃん、昨日お腹出して寝ちゃったからかなぁ!! かずき:えぇ? みゆ:風邪なのかなぁ!? 風邪じゃないよね!? え、てことはもしかして病気!? かずき:お、おい、みゆ? みゆ:ふぇぇ! やっぱりみゆこのまま死んじゃうのかなぁ! かずき:お、落ち着けって! みゆ:お兄ちゃん! みゆ死にたくないよぉ! かずき:だ、大丈夫だって! おっさんになったくらいで死なないって、みゆ、世の中を見ろ、おっさんなんていっぱいいるぞ? 死なない死なない、へーきへーき! みゆ:おっさんになったのは声だけだよ! かずき:ほら? な? 声だけだって。おっさんになったのは声だけ。みゆはおっさんじゃない。だから死なないって。これで血圧とか血糖値とかコレステロール値とかBMIとかまでおっさんに仕上がってたら、病院行った方が良いけど、へーきへーき。 みゆ:もう! さっきから適当だよお兄ちゃん! かずき:気にしすぎだって。ほら、よく言うじゃん? 人間中身が大事だから。……あれ? この場合、ガワがみゆで中身はおっさんだから……あれれぇ? みゆ:別に中身おっさんじゃないよ! かずき:ははは。 みゆ:……ていうか、お兄ちゃん? かずき:あぁ? なんだよみゆ。 みゆ:声おかしくない? かずき:へーきへーき、おかしくないって案外似合ってるぜ? みゆ:みゆのことじゃなくて! お兄ちゃんの声! かずき:はぁ? 俺? みゆ:ちょっと「もしもし、篠原です」って言ってみて? かずき:あぁ? なんで電話なんだよ。てか、ほんと声渋いな。課長かよ。 みゆ:いいから! ちょっと高めの声で! かずき:……はぁ、高め? んっん……「もしもし、篠原です」 : 0:二人顔を見合わせる。 : かずき:なぁ、この声。 みゆ:お兄ちゃん、その声。 : 二人:みゆじゃん! : かずき:え、どういうこと!? みゆ:みゆに聞かないでよ! ていうか、なんで自分の声変わってるのに気付かないの!? かずき:いや、寝起きなんてこんなもんかなって。 みゆ:適当すぎるよお兄ちゃん……。 かずき:ええ? でもなんでだろ? もしかして昨日お腹出して寝てたからかなぁ!? みゆ:それはみゆだよ! いや、みゆもちょっとだけだよ!? じゃなくてお兄ちゃんは頭まで布団被ってたよ! かずき:そっか、よかった~。 みゆ:何もよくないよお兄ちゃん……。 かずき:うーん。 みゆ:ねぇ、どうするの……? かずき:どうって……。俺は取り敢えず電話でもしてみようかと思う。 みゆ:そうだよね、大丈夫だとは思うけど一応病院とか行っといた方がいいもんね。 かずき:え? 病院? みゆ:え? 違うの? かずき:俺はあいつにかけようと思ってるんだけど。 みゆ:あいつって? かずき:ほら、この前家に来た、お前のクラスのイケメンの。 みゆ:もしかして、さ、笹川くん……? な、なんで? かずき:いや、お前の代わりに告ろうかなって。 みゆ:はぁ!? かずき:ほら、スマホ出せ。 みゆ:出すかぁ! 何しようとしてんのお兄ちゃん!? かずき:なに? フラれるかもって心配してんの? へーきへーき、俺絶対上手くやるぜ? みゆ:なにその自信!? いらないよ! かずき:折角の機会だし、ひと肌脱いでやるって。お兄ちゃんに任せろ? みゆ:いや任せちゃ駄目だよね?! まだ鉛筆転がして決めた方がマシだよ! かずき:でも、好きなんだろ? 笹川くん。 みゆ:す、好き……じゃない、し……。 かずき:……なんかこのおっさんかわいいな。 みゆ:おっさん言うなぁ! 余計なことしないでお兄ちゃん! かずき:えー? ほんとに良いの? みゆ:い、いいの! ていうかそんなことしたらお兄ちゃんの友達全員に「もしもし、アンタ、篠原和樹の友達か? 篠原なぁ、あいつウチで随分たくさん借り作りましてなぁ。アンタ友達やろ? 代わりに返してくれますか? 逃げたあいつの代わりに、払わんかったら、分かってますなぁ……?」って電話掛けるからね。 かずき:いや、怖い怖い! いたずらのベクトルがが俺と全然違うって! みゆ:本気だからね! かずき:いや、冗談だよ冗談! お兄ちゃんがそんなことするはず無いでしょ! みゆ:……しそうなんだよね。 かずき:しないって! ……しない。 みゆ:信用できないわ。 かずき:というか、お前完璧に声使いこなしてるな。 みゆ:もう慣れたもん。 かずき:慣れたのかよ。俺は妹から零れる渋めのおっさん声には全然慣れないんだけど。脳がバグる。 みゆ:みゆだってお兄ちゃんからみゆの声聞こえてくるとか頭おかしくなるよ。 かずき:それな。てか既におかしくなってるまである。 みゆ:どういうこと? かずき:実はさ。 みゆ:実は? かずき:俺がみゆなんじゃね? みゆ:はぁ? かずき:いや、俺の声って今みゆな訳じゃん? みゆ:だからなに? かずき:今、俺がみゆっぽいこと言ったら、実質みゆじゃね? みゆ:そ、そんなわけないでしょ! みゆがみゆだよ! かずき:いや、だって今のみゆの声聞いててもみゆって認識できないもん。みゆっぽいおっさんでもおっさんっぽいみゆでもなく、おっさん。 みゆ:おっさんじゃないよ! みゆはみゆだもん! かずき:じゃあ、強いて言うならみゆの真似してるおっさん。 みゆ:そ、そうかも知れないけど……。でもほら、声以外はみゆだから! かずき:そうだな。黙ってたらみゆだわ。 みゆ:でしょ? かずき:でも、お前、喋るじゃん? みゆ:そりゃ、しゃべるよ? かずき:じゃあ、おっさんだわ。 みゆ:どうして! かずき:じゃあさ、みゆ。友達に電話してみろよ? 笹川くんでも良いけど。 みゆ:ほぇ? かずき:……「ほぇ?」禁止な。じゃなくて、できる? 電話。 みゆ:もちろんできるよ! かずき:それはみゆとして? おっさんとして? みゆ:もちろんみゆとしてだよ! かずき:いいや、無理だね。 みゆ:どうして!? かずき:電話に出た友達は、笹川くんはなんて思う? みゆ:「やったぁ! みゆちゃんから電話だ~」かな? かずき:……いいや、違うな。 みゆ:え? かずき:答えは「ぎゃぁぁぁぁぁ! みゆちゃんの真似してるヤバいおっさんから電話だぁぁぁ!? っは! そうだ! 通報しなきゃ!」 みゆ:がーん! そ、そんな!? どうしてお兄ちゃん! かずき:……「がーん!」はなんかしっくりくるな。 みゆ:どうしてみゆはみゆなのにみゆじゃないの?! かずき:それはな、みゆ。 みゆ:うん、 かずき:お前の声がおっさんだからだ。 みゆ:……! かずき:電話越しとか姿の見えない人間からすれば、おっさんだ。 みゆ:でも、体はみゆだよ! かずき:じゃあ、こうしたら? みゆ:……わっ! な、何するのお兄ちゃん! 布団かけないでよ! かずき:今俺の視点から得られる情報を端的に説明するぞ。 みゆ:え? かずき:「布団の中におっさんがいる」 みゆ:っは! かずき:そして、耳を澄ませ? 布団の中のお前からはこう感じるはずだ。 みゆ:や、やめてお兄ちゃん……! かずき:「布団の外にみゆがいる」 みゆ:あ、あ、あ……! かずき:布団の外にみゆがいるなら、布団の中のお前は何だ? 電話越しに友達が思ったように、俺が今、いいや“みゆ”が今、感じているように、 みゆ:や、やめ……! かずき:つまり今、布団の中にいるお前は純然たる、 みゆ:お兄ちゃ―― かずき:おっさんだ。 みゆ:違うよ! みゆはみゆだもん! かずき:えぇ? 違うよぉ、自分の姿よく見てよ? みゆ:え? かずき:ほら、みゆのスマホで写してあげるから、よく見て? みゆ:え、そ、そんな……! かずき:ねぇ? お・じ・さ・ん。 みゆ:あ、あ、あ、 かずき:ふふふふふふふふふ……! みゆ:あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! : 0:◇◇ : 0:みゆ、布団から跳ね起きる。 0:以下のかずきはみゆで、みゆはかずき(役のマーカー通りでOK)。 : かずき:(みゆ)はぁ、はぁ。み、みゆは、みゆは、みゆは! お、お、お、おっさんじゃない……! おっさんじゃなくてみゆだもん! みゆはみゆでみゆだもん! みゆだもん! みゆ、だもん……! かずき:(みゆ)……っ!? み、みゆの声、戻って……! ……は、はは、あははははは! ゆ、夢かぁ、そっか。夢だよね! 夢、うん、夢、良かった! 声も体も、あはは、みゆだ……! : 0:ノックの音。 0:扉越しにかずき。 : みゆ:(かずき)おーい、みゆ? 大丈夫か? すごい声したけど。 かずき:(みゆ)へ、へーき! ちょっと怖い夢見ちゃっただけだから。 みゆ:(かずき)そうかぁ? ところで、なぁみゆ。 かずき:(みゆ)なにお兄ちゃん? みゆ:(かずき)あのさ、ちょっと入っていい? かずき:(みゆ)良いけど、どうしたの? : 0:かずき、部屋に入る。 : みゆ:(かずき)それがさぁみゆ、大変なんだ、聞いてくれよ。 かずき:(みゆ)ていうか、あれ? お兄……ちゃん? みゆ:(かずき)あ、気付いた? かずき:(みゆ)こ、声が……? みゆ:(かずき)そうなんだよ、今朝起きたら俺の声こんなんなっててさ。 かずき:(みゆ)お、お兄……いや、 みゆ:(かずき)うーん、昨日お腹出して寝ちゃったからかなぁ? 俺の声、 かずき:(みゆ)おっさ…… : みゆ:(かずき)おっさん。 : みゆ:(かずき)みたいだろ? かずき:(みゆ)や、いや、ぁぁ…… みゆ:(かずき)おい、みゆ? どうした? かずき:(みゆ)い、いやぁぁぁぁぁぁぁっ!

0:声変わり。 : 0:自分を定義する声は自分か他者か。 : 0:◆あらすじ 0:朝起きたら声が変わってしまっていた話。 : 0:◆登場人物 みゆ:篠原実優。幼女。声がおっさんに。 かずき:篠原和樹。兄。声が幼女に。 : 0:◆◆ : 0:ベッドで眠るかずきをみゆが起こそうとしている。 : みゆ:起きて! かずき:…………。 みゆ:ねぇ起きて! お兄ちゃん! かずき:ん……。 みゆ:起きてってばお兄ちゃん! かずき:……んだよぉ。今日日曜だろ……。 みゆ:ねぇ聞いて! 大変なんだよ! かずき:あぁ……? 誰だよ……? みゆ:誰って、あたしだよ! かずき:ふあぁ。……誰だよ、知らねぇよ……おっさん。 みゆ:おっさんじゃないよ! かずき:おっさんはみんなそう言うんだよ……。 みゆ:もういい加減寝ぼけてないでよく見て! かずき:あぁ……? あれぇ……? みゆ:お兄ちゃんの妹のみゆだよ! かずき:……みゆ、かぁ? みゆ:ほら! ね!? かずき:あぁ、確かに? 見た目は。いや、でも……。みゆ? みゆ:お兄ちゃん! かずき:……いや、おっさんだな。 みゆ:違うよ! この声以外はちゃんとみゆでしょ! かずき:うわぁ。……きっしょ。 みゆ:もうお兄ちゃん! きっしょ言うな! かずき:その声でお兄ちゃん言うなよ……。 みゆ:じゃあななんて呼べば良いの? かずき? かずき:やめろ、なんかそれも、変だ。てかなにそれ。変声期? みゆ:みゆに聞かれても分かんないよ! かずき:バリトン効き過ぎじゃね? 風邪? みゆ:風邪なわけないでしょ! 今朝起きたらみゆの声こんなんなっちゃってたんだよ! かずき:起きたら、か。どうせお前腹出して寝てたんだろ? みゆ:だ、出してないよ! ……ちょっとしか。 かずき:出してたのかよ。 みゆ:うみゅう……。 かずき:……。 みゆ:な、なに? かずき:いや。それで? 起きたら腹とおっさん声を出してたって訳だな? みゆ:もうお兄ちゃん! うまいこと言わなくて良いから! かずき:ははは。もう一回寝よ……。 みゆ:いや、寝ないでよ! かずき:寝て起きたら直ってるって、へーきへーき。 みゆ:そんなのわからないでしょ! ねぇ起きてお兄ちゃん! かずき:うるせぇなぁ、俺にどうしろってんだよ……。 みゆ:分からないよお兄ちゃん、ねぇどうしよう?! かずき:あぁ? どうするって? みゆ:こんなリアルバ美肉みたいになっちゃったら学校行けないよ! かずき:はは。良かったじゃん、 みゆ:何が? かずき:よく聞いてみたら意外と良い声だしきっとみんなの人気者になれるぜ。じゃおやすみ。 みゆ:寝るなぁ! かずき:医者じゃないんだから俺に言うなよ! みゆ:お医者さん……。 かずき:はぁ? みゆ:ねぇお兄ちゃん、昨日お腹出して寝ちゃったからかなぁ!! かずき:えぇ? みゆ:風邪なのかなぁ!? 風邪じゃないよね!? え、てことはもしかして病気!? かずき:お、おい、みゆ? みゆ:ふぇぇ! やっぱりみゆこのまま死んじゃうのかなぁ! かずき:お、落ち着けって! みゆ:お兄ちゃん! みゆ死にたくないよぉ! かずき:だ、大丈夫だって! おっさんになったくらいで死なないって、みゆ、世の中を見ろ、おっさんなんていっぱいいるぞ? 死なない死なない、へーきへーき! みゆ:おっさんになったのは声だけだよ! かずき:ほら? な? 声だけだって。おっさんになったのは声だけ。みゆはおっさんじゃない。だから死なないって。これで血圧とか血糖値とかコレステロール値とかBMIとかまでおっさんに仕上がってたら、病院行った方が良いけど、へーきへーき。 みゆ:もう! さっきから適当だよお兄ちゃん! かずき:気にしすぎだって。ほら、よく言うじゃん? 人間中身が大事だから。……あれ? この場合、ガワがみゆで中身はおっさんだから……あれれぇ? みゆ:別に中身おっさんじゃないよ! かずき:ははは。 みゆ:……ていうか、お兄ちゃん? かずき:あぁ? なんだよみゆ。 みゆ:声おかしくない? かずき:へーきへーき、おかしくないって案外似合ってるぜ? みゆ:みゆのことじゃなくて! お兄ちゃんの声! かずき:はぁ? 俺? みゆ:ちょっと「もしもし、篠原です」って言ってみて? かずき:あぁ? なんで電話なんだよ。てか、ほんと声渋いな。課長かよ。 みゆ:いいから! ちょっと高めの声で! かずき:……はぁ、高め? んっん……「もしもし、篠原です」 : 0:二人顔を見合わせる。 : かずき:なぁ、この声。 みゆ:お兄ちゃん、その声。 : 二人:みゆじゃん! : かずき:え、どういうこと!? みゆ:みゆに聞かないでよ! ていうか、なんで自分の声変わってるのに気付かないの!? かずき:いや、寝起きなんてこんなもんかなって。 みゆ:適当すぎるよお兄ちゃん……。 かずき:ええ? でもなんでだろ? もしかして昨日お腹出して寝てたからかなぁ!? みゆ:それはみゆだよ! いや、みゆもちょっとだけだよ!? じゃなくてお兄ちゃんは頭まで布団被ってたよ! かずき:そっか、よかった~。 みゆ:何もよくないよお兄ちゃん……。 かずき:うーん。 みゆ:ねぇ、どうするの……? かずき:どうって……。俺は取り敢えず電話でもしてみようかと思う。 みゆ:そうだよね、大丈夫だとは思うけど一応病院とか行っといた方がいいもんね。 かずき:え? 病院? みゆ:え? 違うの? かずき:俺はあいつにかけようと思ってるんだけど。 みゆ:あいつって? かずき:ほら、この前家に来た、お前のクラスのイケメンの。 みゆ:もしかして、さ、笹川くん……? な、なんで? かずき:いや、お前の代わりに告ろうかなって。 みゆ:はぁ!? かずき:ほら、スマホ出せ。 みゆ:出すかぁ! 何しようとしてんのお兄ちゃん!? かずき:なに? フラれるかもって心配してんの? へーきへーき、俺絶対上手くやるぜ? みゆ:なにその自信!? いらないよ! かずき:折角の機会だし、ひと肌脱いでやるって。お兄ちゃんに任せろ? みゆ:いや任せちゃ駄目だよね?! まだ鉛筆転がして決めた方がマシだよ! かずき:でも、好きなんだろ? 笹川くん。 みゆ:す、好き……じゃない、し……。 かずき:……なんかこのおっさんかわいいな。 みゆ:おっさん言うなぁ! 余計なことしないでお兄ちゃん! かずき:えー? ほんとに良いの? みゆ:い、いいの! ていうかそんなことしたらお兄ちゃんの友達全員に「もしもし、アンタ、篠原和樹の友達か? 篠原なぁ、あいつウチで随分たくさん借り作りましてなぁ。アンタ友達やろ? 代わりに返してくれますか? 逃げたあいつの代わりに、払わんかったら、分かってますなぁ……?」って電話掛けるからね。 かずき:いや、怖い怖い! いたずらのベクトルがが俺と全然違うって! みゆ:本気だからね! かずき:いや、冗談だよ冗談! お兄ちゃんがそんなことするはず無いでしょ! みゆ:……しそうなんだよね。 かずき:しないって! ……しない。 みゆ:信用できないわ。 かずき:というか、お前完璧に声使いこなしてるな。 みゆ:もう慣れたもん。 かずき:慣れたのかよ。俺は妹から零れる渋めのおっさん声には全然慣れないんだけど。脳がバグる。 みゆ:みゆだってお兄ちゃんからみゆの声聞こえてくるとか頭おかしくなるよ。 かずき:それな。てか既におかしくなってるまである。 みゆ:どういうこと? かずき:実はさ。 みゆ:実は? かずき:俺がみゆなんじゃね? みゆ:はぁ? かずき:いや、俺の声って今みゆな訳じゃん? みゆ:だからなに? かずき:今、俺がみゆっぽいこと言ったら、実質みゆじゃね? みゆ:そ、そんなわけないでしょ! みゆがみゆだよ! かずき:いや、だって今のみゆの声聞いててもみゆって認識できないもん。みゆっぽいおっさんでもおっさんっぽいみゆでもなく、おっさん。 みゆ:おっさんじゃないよ! みゆはみゆだもん! かずき:じゃあ、強いて言うならみゆの真似してるおっさん。 みゆ:そ、そうかも知れないけど……。でもほら、声以外はみゆだから! かずき:そうだな。黙ってたらみゆだわ。 みゆ:でしょ? かずき:でも、お前、喋るじゃん? みゆ:そりゃ、しゃべるよ? かずき:じゃあ、おっさんだわ。 みゆ:どうして! かずき:じゃあさ、みゆ。友達に電話してみろよ? 笹川くんでも良いけど。 みゆ:ほぇ? かずき:……「ほぇ?」禁止な。じゃなくて、できる? 電話。 みゆ:もちろんできるよ! かずき:それはみゆとして? おっさんとして? みゆ:もちろんみゆとしてだよ! かずき:いいや、無理だね。 みゆ:どうして!? かずき:電話に出た友達は、笹川くんはなんて思う? みゆ:「やったぁ! みゆちゃんから電話だ~」かな? かずき:……いいや、違うな。 みゆ:え? かずき:答えは「ぎゃぁぁぁぁぁ! みゆちゃんの真似してるヤバいおっさんから電話だぁぁぁ!? っは! そうだ! 通報しなきゃ!」 みゆ:がーん! そ、そんな!? どうしてお兄ちゃん! かずき:……「がーん!」はなんかしっくりくるな。 みゆ:どうしてみゆはみゆなのにみゆじゃないの?! かずき:それはな、みゆ。 みゆ:うん、 かずき:お前の声がおっさんだからだ。 みゆ:……! かずき:電話越しとか姿の見えない人間からすれば、おっさんだ。 みゆ:でも、体はみゆだよ! かずき:じゃあ、こうしたら? みゆ:……わっ! な、何するのお兄ちゃん! 布団かけないでよ! かずき:今俺の視点から得られる情報を端的に説明するぞ。 みゆ:え? かずき:「布団の中におっさんがいる」 みゆ:っは! かずき:そして、耳を澄ませ? 布団の中のお前からはこう感じるはずだ。 みゆ:や、やめてお兄ちゃん……! かずき:「布団の外にみゆがいる」 みゆ:あ、あ、あ……! かずき:布団の外にみゆがいるなら、布団の中のお前は何だ? 電話越しに友達が思ったように、俺が今、いいや“みゆ”が今、感じているように、 みゆ:や、やめ……! かずき:つまり今、布団の中にいるお前は純然たる、 みゆ:お兄ちゃ―― かずき:おっさんだ。 みゆ:違うよ! みゆはみゆだもん! かずき:えぇ? 違うよぉ、自分の姿よく見てよ? みゆ:え? かずき:ほら、みゆのスマホで写してあげるから、よく見て? みゆ:え、そ、そんな……! かずき:ねぇ? お・じ・さ・ん。 みゆ:あ、あ、あ、 かずき:ふふふふふふふふふ……! みゆ:あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! : 0:◇◇ : 0:みゆ、布団から跳ね起きる。 0:以下のかずきはみゆで、みゆはかずき(役のマーカー通りでOK)。 : かずき:(みゆ)はぁ、はぁ。み、みゆは、みゆは、みゆは! お、お、お、おっさんじゃない……! おっさんじゃなくてみゆだもん! みゆはみゆでみゆだもん! みゆだもん! みゆ、だもん……! かずき:(みゆ)……っ!? み、みゆの声、戻って……! ……は、はは、あははははは! ゆ、夢かぁ、そっか。夢だよね! 夢、うん、夢、良かった! 声も体も、あはは、みゆだ……! : 0:ノックの音。 0:扉越しにかずき。 : みゆ:(かずき)おーい、みゆ? 大丈夫か? すごい声したけど。 かずき:(みゆ)へ、へーき! ちょっと怖い夢見ちゃっただけだから。 みゆ:(かずき)そうかぁ? ところで、なぁみゆ。 かずき:(みゆ)なにお兄ちゃん? みゆ:(かずき)あのさ、ちょっと入っていい? かずき:(みゆ)良いけど、どうしたの? : 0:かずき、部屋に入る。 : みゆ:(かずき)それがさぁみゆ、大変なんだ、聞いてくれよ。 かずき:(みゆ)ていうか、あれ? お兄……ちゃん? みゆ:(かずき)あ、気付いた? かずき:(みゆ)こ、声が……? みゆ:(かずき)そうなんだよ、今朝起きたら俺の声こんなんなっててさ。 かずき:(みゆ)お、お兄……いや、 みゆ:(かずき)うーん、昨日お腹出して寝ちゃったからかなぁ? 俺の声、 かずき:(みゆ)おっさ…… : みゆ:(かずき)おっさん。 : みゆ:(かずき)みたいだろ? かずき:(みゆ)や、いや、ぁぁ…… みゆ:(かずき)おい、みゆ? どうした? かずき:(みゆ)い、いやぁぁぁぁぁぁぁっ!