台本概要

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タイトル TANABATA。
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(不問2)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 少しクレイジーな織姫&彦星が送る7月7日のお話。

★あらすじ☆
年に一度、離れ離れになった恋人達が出会うことのできる特別な一日「TANABATA」。二人は7月7日の出来事に思いを馳せる。

☆ちゅうい★
台詞的に織姫が男っぽい喋りなので性別変更は容易だと思います。
或いは彦星が男じゃないといけないと誰が決めた?
織姫がイケメンで彦星が乙女のTANABATA。そんなのもいいと思います。
BLも百合も結構。それでも性別がどうとかこまかいことを気にするお父様(天帝)はぶっ飛ばしてよし。
アドリブもどうぞご自由に。
頑張ったらミュージカル風でできるかも。そう、あなたならね。
3500文字くらいなのでだいたい10~15分程度を想定。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
彦星 不問 107 ひこぼし
織姫 不問 105 おりひめ
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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少しクレイジーな織姫&彦星が送る7月7日のお話。 ★あらすじ☆ 年に一度、離れ離れになった恋人達が出会うことのできる特別な一日「TANABATA」。二人は7月7日の出来事に思いを馳せる。 ☆ちゅうい★ 織姫が男っぽい喋りなので性別変更は可能だと思います。BLになりますが。 アドリブはご自由に。頑張ったらミュージカル風でできるかも。そう、あなたならね。 3500文字くらいなのでだいたい10~15分程度を想定。 0:TANABATA。 : 0:★あらすじ☆ 0:年に一度、離れ離れになった恋人達が出会うことのできる特別な一日「TANABATA」。二人は7月7日の出来事に思いを馳せる。 : 0:☆登場人物★ 彦星:ひこぼし 織姫:おりひめ : 0:☆★☆ : :天の川を挟んで対岸で見つめ合う彦星と織姫。 : 彦星:あぁ、ついにあの日がやってくる。 織姫:待ちに待ったあの日が。 彦星:長かった。 織姫:永劫のような時間が過ぎて 彦星:ついに、 織姫:ついにやってくる。 彦星:年に一度、 織姫:一日だけ、 彦星:彼女と、 織姫:彼と、 彦星:過ごせる、 織姫:特別で、 彦星:幸せな、 織姫:最高の、 彦星:ひととき。 織姫:そう、 彦星:その名も、 : 織姫:(同時に)TANABATA。 彦星:(同時に)TANABATA。 : 彦星:離れ離れになった僕らが、KASASAGIブリッジを渡り、 織姫:AMANOGAWAリバーを超えて出会うことのできる禁断の逢瀬。 彦星:この日のために僕は生きてきた。 織姫:この日のために私は耐えてきた。 彦星:働きたくない! 織姫:怠けていたい! 彦星:そんな僕らが辛うじて、 織姫:曲がりなりにも生きられるのは、 彦星:7月7日この日があるから。 織姫:それ以外の理由があるだろうか? 彦星:いいや無い。 織姫:あるはずが無い。 彦星:そして僕は、 織姫:私はあの人に会うためならば、 彦星:364連勤だって耐えられる。 織姫:奴隷にだってなりましょう。 彦星:でもこの一日だけは絶対不可侵。 織姫:お父様にだって立ち入らせない君と、 彦星:僕との、 織姫:サンクチュアリ。 彦星:でも、それは果たして悪いことなのか? 織姫:愛し合うのはいけないことかな? 彦星:人目も憚らず、 織姫:仕事もバックレ、 彦星:織姫と、 織姫:彦星は、 彦星:時間の限り愛し合い、 織姫:心の限り求め合った。 彦星:それを誰が責められよう。 織姫:責められる謂われは無い。 彦星:けれど僕らの愛は眩しくて、 織姫:言っては悪いが見苦しく、 彦星:仲睦まじき僕達に、 織姫:嫉妬に狂ったお父様、 彦星:僕らの愛を引き裂いた。 織姫:二人を分かつ天の川。 彦星:ごうごう流れるその大河、 織姫:どれだけ強く思おうと、 彦星:どれだけ愛が深くとも、 織姫:ひとたびこの身を投げ出せば、 彦星:ソラの藻屑と消え果てる。 織姫:消えるひとときその輝きが、 彦星:もしもあなたに届いたならば、 織姫:それも良いかと思うほどには、 彦星:強く激しく、 織姫:そして冷たい流れだった。 彦星:ああ愛してるよ織姫! 織姫:大好きさ彦星! 彦星:あなたと居られない人生なんて生きる価値がない。 織姫:君と離れるくらいなら死んだ方がマシさ。 彦星:愛の深さに比例して、 織姫:絶望深まる眼前の川。 彦星:けれど僕らが、 織姫:私達が思うことは同じだった。 彦星:川の流れなんて関係ない。 織姫:私達は流れに棹さす思い人。 彦星:世界がそれを拒もうと。 織姫:父の怒りに障ろうと。 彦星:僕ら再び、 織姫:互いを抱き合う為にまた、 彦星:愛奪い去る激流に、 織姫:全てを飲み込む大渦に、 彦星:投げるその身は愛の為、 織姫:いざ行かん、 彦星:いざ行かん、 織姫:と、勢いよく飛び込んでみたは良いものの、 彦星:想像の倍、 織姫:いや、十倍ぐらいにその川は、 彦星:深く、冷たく、 織姫:やはり流れも速かった。 彦星:そして悟った。 織姫:あ。 彦星:あ。 織姫:これ、死んだ。 彦星:あばばばばばばばばばば! 織姫:あばばばばばばばばばば! 彦星:荒れ狂う墨汁のような川の中で溺れながら僕は見た。 織姫:刺繍の入ったハンカチがコインランドリーの業務用洗濯機の中を躍るように、 彦星:彼女、織姫が対岸でバシャバシャとやっているのを。 織姫:飛び込むことを示し合わせたわけでも無いのに、 彦星:同じ時間、同じ場所で飛び込む僕らこそ、 織姫:真の恋人。 彦星:今行くぞ織姫! 織姫:こっちだ彦星! 彦星:けれど川流れというものは、中央に近付くにつれ岸より遙かに速くなる。腕をかき、足を振り乱しても、川の流れは凄まじく、対岸に程近い彼女には少しも近付くことが叶わない。いやそれどころか確実にその距離は開いていく。 織姫:手を伸ばし織姫と叫ぶ彦星は、次第に小さくなっていく。天の川でバラバラにされた私達。けれど、このままじゃ、本当に比喩じゃ無くバラバラにされてしまう。 彦星:そう物理的に。 織姫:そして猟奇的に。 彦星:冗談を言っている余裕がなくなる。 織姫:冗談じゃ無い、こんなところで彦星を失ってたまるか! 彦星:溺れていたはずの織姫は無数の大蛇の如き川を割りながら、人魚もかくや、凄まじい程の勢いのバタフライ。ああそうか。これが、 織姫:これが愛の力だ! 彦星ぃぃぃぃ! 彦星:ナイアガラに飛び込んだ笹舟の僕を織姫は抱き留めた。 織姫:こんな冷たい水の中でもしっかりと感じる。彦星の体温。ああ、生きている。私の心は安らいだ。けれど、その安心がいけなかった。 彦星:僕にしがみつくとそれで力尽きたと見えて、彼女は僕を抱いたまま、すっかり動かなくなってしまった。織姫! 僕は彼女を抱き返す。大丈夫まだ生きている。そう、彼女は生きているんだ。もう放さない、放してなるものか。 織姫:薄れゆく意識の中、私は揺り籠の中にいた。いや、違う。この温かさは彦星だ。彦星が私のそばに居る。ここはもしかしたら天国かも知れない。 彦星:あなたと居たなら、こんな地獄の流れの中でさえ天国だ。逆にあなたがいなけりゃどんな安寧も地獄だ。 織姫:悪夢は終わった。愛はいつだって勝利する。 彦星:織姫。あなたと死ねたら本望だ。そんなわけがあるものか。 織姫:君と居てどうして死ぬなんてことができるだろう。 彦星:僕は生きる。 織姫:私は生きる。 彦星:あなたと、 織姫:君と、 : 彦星:(同時に)一緒に生きる。 織姫:(同時に)一緒に生きる。 : 彦星:僕は海神だって目を剥くような勢いで川面を蹴りつけると、荒れ狂う天の川を黙らせた。 織姫:私は君の腕の中で、黙ってその真剣な顔を眺めていた。 彦星:程なくして僕らはどちらとも知れぬ岸に着く。 織姫:いや、或いは海に出ていたのかも知れないが。 彦星:何だって良い。 織姫:何故なら今の私達の居場所は、 彦星:あなたの、 織姫:君の、 : 彦星:(同時に)居るところだから。 織姫:(同時に)居るところだから。 : 彦星:そして僕らは、 織姫:冷えた身体を、 彦星:もう離れまいと寄せ合って、 織姫:互いの熱で温めた。 彦星:そして二人で語り合ううちにすぐ夜が明ける。 織姫:一緒に見た日の出は、 彦星:僕らの門出を祝福しているみたいで、 織姫:私と君の輝きに、 彦星:負けじとばかりキラキラと、 織姫:煌めいているのが印象的だった。 彦星:それらが7月7日の夜のこと。 織姫:全てが終わり、遅れてやってきたお父様。 彦星:僕らを見るなり、全てを察したように青くなった。 織姫:きっと自分のやったことの愚かしさに耐えられなくなったのだろう。 彦星:義父さんは反省して、僕らに泣いて謝った。 織姫:「わしが間違っていた。お前達があまりにも仕事をしないから懲らしめてやろうとしたのだが、よもや心中しようなどとは」 彦星:何を言っているのだろう。 織姫:私達は首を傾げた。 彦星:心中なんてしていないし、たった今、一緒に生きていくことを強く誓い合ったばかり。 織姫:それに私達の仕事は愛し合うことだ。それを考えると、仕事しかしていない。 彦星:働き者だなぁ僕ら。 織姫:お父様は何も分かっていないらしい。だから分からず屋と咎めることはしない。 彦星:僕達は互いに分かり合っていればそれで良いのだから。 織姫:それからお父様は一年に一度だけ会っても良いと言って、7月7日のAMANOGAWAリバーに、 彦星:KASASAGIブリッジを架けた。 織姫:けれど、そんなものは必要ない。 彦星:僕達の愛は、川の流れ如きで止められない。 織姫:たとえ、これからどんな困難が待ち受けていようと、 彦星:二人なら何度だって、 織姫:乗り越えられる。 彦星:そう信じている。 織姫:それでも、折角この日だけは架かっているのだから、 彦星:使わないというのも勿体ない。 織姫:お父様の祝福を受踏みしめて、 彦星:僕らは互いに橋を渡り始める。 織姫:少しずつ、 彦星:少しずつ、 織姫:彦星の姿が、 彦星:織姫の姿が、 織姫:大きくなっていく。 彦星:その度に、 織姫:胸の鼓動も、 彦星:大きくなっていく。 織姫:10 彦星:9 織姫:8 彦星:7 織姫:6 彦星:5 織姫:4 彦星:3 織姫:2 彦星:1 : 織姫:彦星。 彦星:織姫。 : 織姫:久しぶり。 彦星:うん、久しぶり。 織姫:会えなくて寂しかった。 彦星:僕もだよ。 織姫:三日も会えないなんて死んじゃうね。 彦星:ほんと。僕も何度川に飛び込もうかと思ったよ。 織姫:えー、来てくれても良かったのにな。 彦星:僕が邪魔する訳にはいかないでしょ。折角の親子水入らずなんだからさ。どうだった? 実家は。お義父さん元気にしてる? 織姫:さぁ、彦星のことしか考えてなかったからよく知らない。 彦星:おいおい。 織姫:ね、彦星。 彦星:なんだい、織姫。 織姫:泳がない? 天の川。 彦星:うーん。泳ごうか! 折角の七夕だしね。 織姫:やった。じゃあ、手つなご。 彦星:おっけー。 : 0:織姫と彦星、欄干に登る。 : 織姫:せーのでいくよ? 彦星:うん。 : 織姫:(同時に)せーの! 彦星:(同時に)せーの! : 0:水に飛び込む音。 : 0:★幕★

少しクレイジーな織姫&彦星が送る7月7日のお話。 ★あらすじ☆ 年に一度、離れ離れになった恋人達が出会うことのできる特別な一日「TANABATA」。二人は7月7日の出来事に思いを馳せる。 ☆ちゅうい★ 織姫が男っぽい喋りなので性別変更は可能だと思います。BLになりますが。 アドリブはご自由に。頑張ったらミュージカル風でできるかも。そう、あなたならね。 3500文字くらいなのでだいたい10~15分程度を想定。 0:TANABATA。 : 0:★あらすじ☆ 0:年に一度、離れ離れになった恋人達が出会うことのできる特別な一日「TANABATA」。二人は7月7日の出来事に思いを馳せる。 : 0:☆登場人物★ 彦星:ひこぼし 織姫:おりひめ : 0:☆★☆ : :天の川を挟んで対岸で見つめ合う彦星と織姫。 : 彦星:あぁ、ついにあの日がやってくる。 織姫:待ちに待ったあの日が。 彦星:長かった。 織姫:永劫のような時間が過ぎて 彦星:ついに、 織姫:ついにやってくる。 彦星:年に一度、 織姫:一日だけ、 彦星:彼女と、 織姫:彼と、 彦星:過ごせる、 織姫:特別で、 彦星:幸せな、 織姫:最高の、 彦星:ひととき。 織姫:そう、 彦星:その名も、 : 織姫:(同時に)TANABATA。 彦星:(同時に)TANABATA。 : 彦星:離れ離れになった僕らが、KASASAGIブリッジを渡り、 織姫:AMANOGAWAリバーを超えて出会うことのできる禁断の逢瀬。 彦星:この日のために僕は生きてきた。 織姫:この日のために私は耐えてきた。 彦星:働きたくない! 織姫:怠けていたい! 彦星:そんな僕らが辛うじて、 織姫:曲がりなりにも生きられるのは、 彦星:7月7日この日があるから。 織姫:それ以外の理由があるだろうか? 彦星:いいや無い。 織姫:あるはずが無い。 彦星:そして僕は、 織姫:私はあの人に会うためならば、 彦星:364連勤だって耐えられる。 織姫:奴隷にだってなりましょう。 彦星:でもこの一日だけは絶対不可侵。 織姫:お父様にだって立ち入らせない君と、 彦星:僕との、 織姫:サンクチュアリ。 彦星:でも、それは果たして悪いことなのか? 織姫:愛し合うのはいけないことかな? 彦星:人目も憚らず、 織姫:仕事もバックレ、 彦星:織姫と、 織姫:彦星は、 彦星:時間の限り愛し合い、 織姫:心の限り求め合った。 彦星:それを誰が責められよう。 織姫:責められる謂われは無い。 彦星:けれど僕らの愛は眩しくて、 織姫:言っては悪いが見苦しく、 彦星:仲睦まじき僕達に、 織姫:嫉妬に狂ったお父様、 彦星:僕らの愛を引き裂いた。 織姫:二人を分かつ天の川。 彦星:ごうごう流れるその大河、 織姫:どれだけ強く思おうと、 彦星:どれだけ愛が深くとも、 織姫:ひとたびこの身を投げ出せば、 彦星:ソラの藻屑と消え果てる。 織姫:消えるひとときその輝きが、 彦星:もしもあなたに届いたならば、 織姫:それも良いかと思うほどには、 彦星:強く激しく、 織姫:そして冷たい流れだった。 彦星:ああ愛してるよ織姫! 織姫:大好きさ彦星! 彦星:あなたと居られない人生なんて生きる価値がない。 織姫:君と離れるくらいなら死んだ方がマシさ。 彦星:愛の深さに比例して、 織姫:絶望深まる眼前の川。 彦星:けれど僕らが、 織姫:私達が思うことは同じだった。 彦星:川の流れなんて関係ない。 織姫:私達は流れに棹さす思い人。 彦星:世界がそれを拒もうと。 織姫:父の怒りに障ろうと。 彦星:僕ら再び、 織姫:互いを抱き合う為にまた、 彦星:愛奪い去る激流に、 織姫:全てを飲み込む大渦に、 彦星:投げるその身は愛の為、 織姫:いざ行かん、 彦星:いざ行かん、 織姫:と、勢いよく飛び込んでみたは良いものの、 彦星:想像の倍、 織姫:いや、十倍ぐらいにその川は、 彦星:深く、冷たく、 織姫:やはり流れも速かった。 彦星:そして悟った。 織姫:あ。 彦星:あ。 織姫:これ、死んだ。 彦星:あばばばばばばばばばば! 織姫:あばばばばばばばばばば! 彦星:荒れ狂う墨汁のような川の中で溺れながら僕は見た。 織姫:刺繍の入ったハンカチがコインランドリーの業務用洗濯機の中を躍るように、 彦星:彼女、織姫が対岸でバシャバシャとやっているのを。 織姫:飛び込むことを示し合わせたわけでも無いのに、 彦星:同じ時間、同じ場所で飛び込む僕らこそ、 織姫:真の恋人。 彦星:今行くぞ織姫! 織姫:こっちだ彦星! 彦星:けれど川流れというものは、中央に近付くにつれ岸より遙かに速くなる。腕をかき、足を振り乱しても、川の流れは凄まじく、対岸に程近い彼女には少しも近付くことが叶わない。いやそれどころか確実にその距離は開いていく。 織姫:手を伸ばし織姫と叫ぶ彦星は、次第に小さくなっていく。天の川でバラバラにされた私達。けれど、このままじゃ、本当に比喩じゃ無くバラバラにされてしまう。 彦星:そう物理的に。 織姫:そして猟奇的に。 彦星:冗談を言っている余裕がなくなる。 織姫:冗談じゃ無い、こんなところで彦星を失ってたまるか! 彦星:溺れていたはずの織姫は無数の大蛇の如き川を割りながら、人魚もかくや、凄まじい程の勢いのバタフライ。ああそうか。これが、 織姫:これが愛の力だ! 彦星ぃぃぃぃ! 彦星:ナイアガラに飛び込んだ笹舟の僕を織姫は抱き留めた。 織姫:こんな冷たい水の中でもしっかりと感じる。彦星の体温。ああ、生きている。私の心は安らいだ。けれど、その安心がいけなかった。 彦星:僕にしがみつくとそれで力尽きたと見えて、彼女は僕を抱いたまま、すっかり動かなくなってしまった。織姫! 僕は彼女を抱き返す。大丈夫まだ生きている。そう、彼女は生きているんだ。もう放さない、放してなるものか。 織姫:薄れゆく意識の中、私は揺り籠の中にいた。いや、違う。この温かさは彦星だ。彦星が私のそばに居る。ここはもしかしたら天国かも知れない。 彦星:あなたと居たなら、こんな地獄の流れの中でさえ天国だ。逆にあなたがいなけりゃどんな安寧も地獄だ。 織姫:悪夢は終わった。愛はいつだって勝利する。 彦星:織姫。あなたと死ねたら本望だ。そんなわけがあるものか。 織姫:君と居てどうして死ぬなんてことができるだろう。 彦星:僕は生きる。 織姫:私は生きる。 彦星:あなたと、 織姫:君と、 : 彦星:(同時に)一緒に生きる。 織姫:(同時に)一緒に生きる。 : 彦星:僕は海神だって目を剥くような勢いで川面を蹴りつけると、荒れ狂う天の川を黙らせた。 織姫:私は君の腕の中で、黙ってその真剣な顔を眺めていた。 彦星:程なくして僕らはどちらとも知れぬ岸に着く。 織姫:いや、或いは海に出ていたのかも知れないが。 彦星:何だって良い。 織姫:何故なら今の私達の居場所は、 彦星:あなたの、 織姫:君の、 : 彦星:(同時に)居るところだから。 織姫:(同時に)居るところだから。 : 彦星:そして僕らは、 織姫:冷えた身体を、 彦星:もう離れまいと寄せ合って、 織姫:互いの熱で温めた。 彦星:そして二人で語り合ううちにすぐ夜が明ける。 織姫:一緒に見た日の出は、 彦星:僕らの門出を祝福しているみたいで、 織姫:私と君の輝きに、 彦星:負けじとばかりキラキラと、 織姫:煌めいているのが印象的だった。 彦星:それらが7月7日の夜のこと。 織姫:全てが終わり、遅れてやってきたお父様。 彦星:僕らを見るなり、全てを察したように青くなった。 織姫:きっと自分のやったことの愚かしさに耐えられなくなったのだろう。 彦星:義父さんは反省して、僕らに泣いて謝った。 織姫:「わしが間違っていた。お前達があまりにも仕事をしないから懲らしめてやろうとしたのだが、よもや心中しようなどとは」 彦星:何を言っているのだろう。 織姫:私達は首を傾げた。 彦星:心中なんてしていないし、たった今、一緒に生きていくことを強く誓い合ったばかり。 織姫:それに私達の仕事は愛し合うことだ。それを考えると、仕事しかしていない。 彦星:働き者だなぁ僕ら。 織姫:お父様は何も分かっていないらしい。だから分からず屋と咎めることはしない。 彦星:僕達は互いに分かり合っていればそれで良いのだから。 織姫:それからお父様は一年に一度だけ会っても良いと言って、7月7日のAMANOGAWAリバーに、 彦星:KASASAGIブリッジを架けた。 織姫:けれど、そんなものは必要ない。 彦星:僕達の愛は、川の流れ如きで止められない。 織姫:たとえ、これからどんな困難が待ち受けていようと、 彦星:二人なら何度だって、 織姫:乗り越えられる。 彦星:そう信じている。 織姫:それでも、折角この日だけは架かっているのだから、 彦星:使わないというのも勿体ない。 織姫:お父様の祝福を受踏みしめて、 彦星:僕らは互いに橋を渡り始める。 織姫:少しずつ、 彦星:少しずつ、 織姫:彦星の姿が、 彦星:織姫の姿が、 織姫:大きくなっていく。 彦星:その度に、 織姫:胸の鼓動も、 彦星:大きくなっていく。 織姫:10 彦星:9 織姫:8 彦星:7 織姫:6 彦星:5 織姫:4 彦星:3 織姫:2 彦星:1 : 織姫:彦星。 彦星:織姫。 : 織姫:久しぶり。 彦星:うん、久しぶり。 織姫:会えなくて寂しかった。 彦星:僕もだよ。 織姫:三日も会えないなんて死んじゃうね。 彦星:ほんと。僕も何度川に飛び込もうかと思ったよ。 織姫:えー、来てくれても良かったのにな。 彦星:僕が邪魔する訳にはいかないでしょ。折角の親子水入らずなんだからさ。どうだった? 実家は。お義父さん元気にしてる? 織姫:さぁ、彦星のことしか考えてなかったからよく知らない。 彦星:おいおい。 織姫:ね、彦星。 彦星:なんだい、織姫。 織姫:泳がない? 天の川。 彦星:うーん。泳ごうか! 折角の七夕だしね。 織姫:やった。じゃあ、手つなご。 彦星:おっけー。 : 0:織姫と彦星、欄干に登る。 : 織姫:せーのでいくよ? 彦星:うん。 : 織姫:(同時に)せーの! 彦星:(同時に)せーの! : 0:水に飛び込む音。 : 0:★幕★