台本概要

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タイトル 七夕の流星雨。
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 七夕と宇宙を題材としたソフトSF会話劇です。
宇宙と地球、離れ離れになった恋人たちのお話。
テイストはなんか洋画風のような、セカイ系のような、ああ「ほしのこえ」に影響受けてんだなぁって感じのそんな作品です。

☆あらすじ★
宇宙開発が進んだ世界。亜光速航行宇宙探査船『ゼウス』の乗組員フェリックスと、彼を見送り地球に残った恋人レベッカ。光の早さで繋がる二人の想いは、広大な宇宙の中では次第にずれていく。
亜光速航行宇宙探査船『ゼウス』……あこうそくこうこう・うちゅう・たんさせん・ぜうす。
です。前に「噛みますが?」と言われたので読み方書いておきます。

★ちゅうい☆
難読漢字は「たなばた」くらいしか無いと思いますが、微妙に造語があるのでノリと勢いで適当に読んでください。
性別は変えたければどうぞ。アドリブもお好きに。
本編に続きは今のところありませんのであしからず。
文字数7,000字弱ですので、30分程度かと。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
レベッカ 105 レベッカ・星見・フォークナー 恋人フェリックスの帰りを待つ。
フェリックス 102 フェリックス・ウェーバー 宇宙飛行士。火星近傍から小惑星帯へ向かう。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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七夕と宇宙を題材としたソフトSF会話劇です。 宇宙と地球、離れ離れになった恋人たちのお話。 テイストはなんか洋画風のような、セカイ系のような、ああ「ほしのこえ」に影響受けてんだなぁって感じのそんな作品です。 ☆あらすじ★ 宇宙開発が進んだ世界。亜光速航行宇宙探査船『ゼウス』の乗組員フェリックスと、彼を見送り地球に残った恋人レベッカ。光の早さで繋がる二人の想いは、広大な宇宙の中では次第にずれていく。 ★ちゅうい☆ 難読漢字は「たなばた」くらいしか無いと思いますが、微妙に造語があるのでノリと勢いで適当に読んでください。 性別は変えたければどうぞ。アドリブもお好きに。 本編に続きがあるとすれば、書きたくなったら別作品としてまたリライトするかもです。どうしても七夕に上げたくて……。 0:七夕の流星雨。 : 0:☆あらすじ★ 0:宇宙開発が進んだ世界。亜光速航行宇宙探査船『ゼウス』の乗組員フェリックスと、彼を見送り地球に残った恋人レベッカ。光の早さで繋がる二人の想いは、広大な宇宙の中では次第にずれていく。 : 0:★登場人物☆ レベッカ:レベッカ・星見・フォークナー レベッカ:恋人フェリックスの帰りを待つ。 フェリックス:フェリックス・ウェーバー フェリックス:宇宙飛行士。火星近傍から小惑星帯へ向かう。 : 0:☆★☆★☆ : 0:着信音。 0:レベッカ、端末に表示された通話をタップする。 0:ポップアップされたホログラムにフェリックスの顔が映る。 : フェリックス:ハロー、地球人。こちら火星人のフェリックスだ。元気してるかな? レベッカ:ハロー、火星人さん。こちら地球のレベッカ。どうぞ。 : 0:ホログラムの向こうのフェリックス、固まっている。 : レベッカ:なんて、どうせ返事が返ってくるのは26分後でしょう? 最初からビデオで良いんじゃ無い? フェリックス:それも良いけど レベッカ:きゃあっ! もう! フェリックス:フレッシュさが欲しいだろレベッカ? レベッカ:もう、おどかさないでよ! なに、どういう手品? いつもは宇宙規模の遅延に悩まされてるところじゃない? フェリックス:知らないのかい? レベッカ。 レベッカ:あんたがベッドに靴下かけてることなら知ってるけど? フェリックス:ほう? それには何が入ってるんだい? レベッカ:指輪、じゃ無いことだけは確かでしょうね。 フェリックス:あー、そうだね、残念ながら。 レベッカ:あっそ。 フェリックス:何だと思う? レベッカ:さぁ、ジークの、 フェリックス:ジークのお気に入りのポルノ雑誌でも無いからな? レベッカ:ねぇ、それほんとどうやってんの? 魔法使いにでもなった? フェリックス:そうだね、魔法かも。 レベッカ:宇宙飛行士が魔法? NASAはオカルトにまで手を出したの? フェリックス:NASAは昔からオカルトに手を出してるよ。じゃなきゃ火星まで行こうなんて思わないよ。 レベッカ:言えてる。それで、宇宙人改め火星の魔法使いさん。 フェリックス:なんだい、地球のお姫様。 レベッカ:それって、ほんと……何なの? フェリックス:さぁ? 当ててみてよ。 レベッカ:ヒントは? フェリックス:ヒント。これは光通信。 レベッカ:通りで眩しいと思ったわ。 フェリックス:ああ、まるで君は女神だよ。 レベッカ:そうよ、知らなかったの? フェリックス:気付かなかったなぁ。 レベッカ:火星までは13分だっけ? フェリックス:そう、僕を乗せた亜光速航行宇宙探査船『ゼウス』までは13分。 レベッカ:つまり、今私が見てるあなたは13分前のフェリックス・ウェーバー。 フェリックス:そう、今僕が見てる君は13分前のレベッカ・星見・フォークナー。 レベッカ:見た後に返事が返ってくるのは更に13分後。 フェリックス:うーん、不思議だね。 レベッカ:不思議というか、不気味って感じね。ゴーストとテニスしてる方が幾らかマシ。 フェリックス:ウィンブルドンでも目指すのかい? レベッカ:火星よりは良いでしょ? 宇宙人の古代遺跡でも見つかった? フェリックス:いいや、ここにはジークのお宝くらいしか無いね。 レベッカ:呆れた。 フェリックス:仕方ないだろ? 閉鎖空間ってのはストレスが溜まるもんさ。 レベッカ:あたし、あんたがジークとデキてても驚かないけど? フェリックス:いや、これだと僕がジークとデキてるみたいじゃ無いか。……あ。 レベッカ:ん? フェリックス:いや。 レベッカ:何? そういうこと? フェリックス:あー、たぶん気付いたよね? レベッカ:ばっちり。 フェリックス:だろうね。 レベッカ:要するに、エスパーの真似事をしてるわけだ。 フェリックス:もしくは昔のスパイ映画。ま、平たく言えばそうなるね。 レベッカ:あんた、相当気持ち悪いことになってんのね。 フェリックス:僕も今、自分が宇宙人なんじゃないかって思い始めてるよ。 レベッカ:あたしが何を喋るか想像して、 フェリックス:その答えを今呟いてる。 レベッカ:頭の中にあたしのイマジナリーフレンドでもいるの? フェリックス:もちろんさ。 レベッカ:その子といかがわしいことしてないでしょうね? フェリックス:もちろんさ。 レベッカ:してる? フェリックス:してない。 レベッカ:してるわね。 フェリックス:ごめん、してる。 レベッカ:もうあたし必要ないんじゃない? フェリックス:そんなこと無いよ! レベッカ:ほんとに? フェリックス:ほんとほんと。だって、考えてもみてくれよ、今こうして僕は君に向かって、さっきは13分前って言ったけれど、ほんとは13分後の君に向かって話してるんだぜ? それで反応が無かったら観客のいないピエロも良いところさ。 レベッカ:ああ、そっか。この映像が来るのに13分かかるから、喋ってるのは13分前で、今この瞬間のあんたはまた別のことしてるのか。 フェリックス:何してると思う? レベッカ:想像したくないけど。 フェリックス:想像してみて欲しいね。今……この映像の中の僕の13分後が正真正銘絶対的な時間を生きる今の僕なんだから。そうしたら僕らを阻む距離も時間も全部なくなって、どんなに離れていても同じ時間を生きられるんだ。それって素敵じゃ無いかな? レベッカ:ええ、素敵ね。うん。……そうしたいのは山々だけど、あんたのことをそこまで考えるのは無理。 フェリックス:どうしてさ? レベッカ:どうして? なんて、フェリックス。あんたの中のあたしがよく分かってるでしょ。今、どうしてさ? って返したあなたなら。 フェリックス:あ。違うんだ! レベッカ:あ、って顔したもの。違わないわ。 フェリックス:僕はそんなつもりじゃ……。 レベッカ:だってあなたはあたしにそれができないと折り込み済みで話を進めてるじゃない? 今のあなたはピエロじゃ無くて劇作家。あたしを思い通りに動かせると思ってる。 フェリックス:劇作家、君はそう言うだろうね。僕のことを。同じ舞台に立ってないって意味で。 レベッカ:ええ、そしてこの会話も、だったら喜劇でしかない。それはあたしじゃなくてあなたを喜ばせるだけの喜劇。 フェリックス:ごめん。 レベッカ:自分のご機嫌取りの為にあたしを使わないで。 フェリックス:……本当にごめん、僕は君の気持ちを全然考えられて無かった。 レベッカ:なんて、冗談よ。本気で怒るわけ無いでしょ? あたしのことよく分かってないとできないことだもの、それはあなたがあたしのことを愛してる証拠。それを咎めたりなんてしないわ。そりゃ全部あんたの筋書き通りだなんて癪だし、やっぱりキモい。なんていうか、そう、まるでストーカーね。 フェリックス:そうさ、僕は所詮君のストーカーさ。 レベッカ:ちょっと、フェリックス? フェリックス:頭の中に君がいるなんて言ったけど、それは僕にとって都合の良いダッチワイフなんだ。 レベッカ:フェリックス、なんてこと言うの! フェリックス:ああ、僕は最低だ……。 レベッカ:最低なのはそうだけど、そこまで思い詰めなくてもいいって! ……って、ああ、もう! これ伝わるの13分後じゃない! フェリックス:いいんだ、僕はもう、しばらく君との距離を取ることにするよ。気持ち悪いだろ。僕なんて。少し頭が良いくらいで、君のことを自由に出来ると思ってるんだ。 レベッカ:あんたそんなこと思ってたの? 別に今更あんたの歪んだ支配欲なんて見慣れてるけどさ、もう、面倒くさいな。 フェリックス:そうさ、僕は面倒くさい男なんだよ。 レベッカ:ええ、よく知ってるわ。 フェリックス:でも君は本当の僕を知らない。 レベッカ:知らないけど大体分かってるっての。宇宙なんて大体分かってりゃ良さそうな世界にわざわざ飛び出して行った知りたがりの坊ちゃんの考えることなんてさ。 フェリックス:ふふ、やっぱり君は分かってくれないだろうね。 レベッカ:……もういい、無視よ無視。 フェリックス:そうさ僕は虫けらだ。 レベッカ:あんたが何言ってもしばらく聞かずに喋り続けるから、また13分経ったらチャットでもビデオでも送ってくれば良いんじゃない? フェリックス:僕はこの宇宙で一人なのさ。 レベッカ:しばらく彷徨ってろ。 フェリックス:宇宙を流離う星屑の一つで…… : 0:☆★☆★☆ : レベッカ:フェリックス、メッセージありがとね。正直イラッとするところもあったけど、あたしのためにそんな手品を披露してくれたのは嬉しかった。久しぶりにリアルタイムで話せたみたいで楽しかったしさ。ねぇ、フェリックス。次は、いつ会える? あんたの顔、直接見たいな。返事待ってる。 : フェリックス:あー……その、さっきはごめんよ、レベッカ。見苦しいところを見せてしまったこともだし、君の思考を、その、軽んじるようなことしてしまってたのも。でも、少しでも喜んで貰えたのなら良かった。僕の主観では、まだ君と繋がってすらいないところで独り言を言ってるだけだから、不安だったんだけれどね。まぁ、僕は宇宙飛行士だからさ、そういうのには慣れてるよ。おっと、僕だけが辛いみたいなニュアンスになってしまったね。寧ろ、君には本当に辛い思いをさせてしまっている。ごめんね。僕も早く、君に会えたらなって思うよ。そういえば、さっきはクリスマスの話だったけど、地球はそろそろ夏じゃないかな? もう半年か、ほんと迷惑かけるね。レベッカ。……ああ、そうだ、肝心なこときけてなかった。最近はどう過ごしてる? レベッカ。 : レベッカ:ハロー、フェリックス。最近ちょっと忙しくてメッセージ送れなかった。もうあなたとの付き合いも結構長くなるし、そういうの慣れたって。あなたは自分のことを「人の考えがよく分かるくせに、心が分かってない」って思ってるのかも知れないけどさ、あなたが分かってないのは、良い女の扱い方と、何よりフェリックス、あんた自身の扱い方だから。よく覚えておきなさい? 折角そこそこ賢くて、ついでに馬鹿みたいに優しいんだから、もっと自信持ったら? それと、ええ、こっちはもう夏に入るところ。今は祖父の故郷に来てるわ。七夕ってお祭りを地元の子供達と準備してる。ミルキーウェイを挟んで離ればなれになった恋人、織姫と彦星が一年に一度だけ会えるお祭りなんだって。短冊って紙に願い事を書くと叶うそうよ。フェリックス、あなたは何を書く? : フェリックス:はは、相変わらずレベッカは手厳しいね。うん、君が変わって無くて安心した。僕だけ安心するのは公平じゃ無いな。君が安心できるようにもっとタフな男にならないとね。そういえばジークがオデットに会いたいっていつもぶつくさ言ってるよ。僕も彼みたいに君の名前を呟こうかな? お祖父さんは日本人だったかな? 君の星見……スターゲイザーって名前、素敵だよね。そこから僕は見えるかい? なんて、今僕のいる火星は残念ながら太陽の向こうだから明け方に見えるかも、ってくらいだろうね。だから、通信もいくつか中継することになるね。しばらくはこの前の魔法もお預け。 : レベッカ:別に期待してないわ。 : フェリックス:それは残念。ああ。そうそう、七夕は知っているよ。織り姫はこと座のベガ、彦星はわし座のアルタイルだね。二人があまりに愛し合って仕事をしなくなったから、天帝……ゼウスみたいなものかな? 彼の怒りを買って、天の川を隔てて離ればなれになってしまう。二人は二度と会えない悲しみに暮れていましたが、ゼウスはそれをかわいそうに思い、一年に一度だけ会っても良い日を作りました。それが七夕。ちなみに僕が願うのは……何だと思う? : レベッカ:そういえば、あなたの乗る船もゼウスね。さながらゼウスに引き裂かれたあたし達は織姫と彦星。ああ、なんてロマンチックなの。悲しくて天の川が溢れてしまうわ。……ふふふ。なんでしょうね? あたしのは分かる? : フェリックス:もちろん分かるさ。 : レベッカ:じゃあなんて願った? せーので言ってみましょ? : フェリックス:せーのって、君も魔法を使えるようになったのかな? レベッカ。じゃあ、僕もまた例の魔法を使おうかな。準備してからまた掛け直すよ。と言ってもビデオレターだけどね。今度は中継点をいくつか挟んでるから27分後だ。それじゃあね、レベッカ。 : 0:☆★☆★☆ : フェリックス:ハロー、織姫さん。こちら彦星。 レベッカ:ハロー、彦星さん。こちら織姫。 フェリックス:僕の魔法は届いてる? レベッカ:もう、フェリックス。魔法なんて使えなくても想いくらいは伝わるわ。 フェリックス:そうだね。でも、楽しいでしょ? レベッカ:ええ。とっても。27分前のフェリックス。 フェリックス:よし、じゃあ言うよ。僕が本物の君の声を聞くのはしばらく後だけど、せーので言うよ? レベッカ:余計なこと言わないの。 フェリックス:ごめんごめん。 レベッカ:じゃあ、いくわよ。 フェリックス:ちょ、ちょ、ちょ、待ってよ! レベッカ:どうしたの? フェリックス:君がカウントしても僕は合わせられないって。 レベッカ:あら、そうだったわ。あなたがあまりに自然に喋るからうっかりしていたわ。 フェリックス:もう、しっかりしてくれよ? レベッカ:善処するわ。ふふ、茶番ね。 フェリックス:好きだろ? レベッカ:嫌いじゃないわ。 フェリックス:だと思ったよ。それじゃ、いくよ……3、2、1 レベッカ:ロケットみたいね。 フェリックス:ロケットじゃないって。もう、真面目にやってよ? レベッカ:じゃあ、一緒に数えましょ。 フェリックス:正気かい? さっきも言ったけどこれは録画だからね? レベッカ:正気よ。27分後のあたしと喋ってるあんたに比べたら。 フェリックス:おっと、一本とられたな。 レベッカ:やれるの? フェリックス:僕を誰だと思ってるんだい? レベッカ:さぁ? 宇宙人? フェリックス:火星人じゃないって。 レベッカ:ふふ、外したわね。 フェリックス:宇宙人でも無いよ? レベッカ:あら。神様みたい。 フェリックス:予言者だね。 レベッカ:ふうん、素敵。 フェリックス:でも、僕は君の彦星さ。 レベッカ:織姫の間違いでしょ。ゼウスの箱入り娘さん。 フェリックス:はは、違いないね。 レベッカ:じゃあ、いくわよ。3 フェリックス:2 レベッカ:1 : フェリックス:君に会いたい。 レベッカ:あなたに会いたい。 : 0:間。 : フェリックス:きっと叶うさ。 レベッカ:そうでないと困るわ。 フェリックス:そうだね。 レベッカ:いつ帰ってくるの? フェリックス:一年後。 レベッカ:一年後? まるで七夕ね。 フェリックス:でも僕らは一年に一度しか会えないわけじゃない。 レベッカ:どうだか。 フェリックス:この出張が終わったら、月に転勤だから。 レベッカ:それで? 月に一度会えるわけ? まぁすごい。織姫と彦星の12倍も会えるなんて。会話もさぞ弾むことでしょうね。なんせ重力は6分の1だもの。 フェリックス:そう言わないでよ。 レベッカ:そう言わせたいんでしょ? フェリックス:いいや、本当は君にそんなこと言わせたくない。 レベッカ:だったらオデットみたいに地球で働けば良いじゃ無い。 フェリックス:オデットは木星に行きたいんだろ? レベッカ:ええ、でもジークと一緒に。 フェリックス:僕も君と一緒にいたいよ。 レベッカ:だったら。 フェリックス:だから、 フェリックス:レベッカ。月に行こう。 レベッカ:月? フェリックス:月で一緒に暮らさないか? レベッカ:あなたかぐや姫みたいね。 フェリックス:蟹じゃ無いよ。もちろん兎でも無い。 レベッカ:あたしとあんたじゃ住む世界が違うのよ。 フェリックス:でも、僕らの心は繋がってる。 レベッカ:そう思ってるのはあなただけ。 フェリックス:だから僕らは一緒になれる。 レベッカ:なら、一緒に居てよ。あなたはいつだって遠くに居る。27分だか4億8千万キロだか知らない遠くから、望遠鏡でも見えないようなところからあたしのことを覗いてるばかり。 フェリックス:レベッカ。愛してる。 レベッカ:あたしが愛してるのは人間のあなた? それとも手の届かないお星様? ねぇフェリックス。あなたが愛してるのは手の届かないあたし? それとも宇宙を漂う星? フェリックス:一緒になろう。 レベッカ:……無理ね。 : フェリックス:そうか、レベッカ。君がそう言ってくれると信じていたよ。 : レベッカ:ほら。あんたとあたしはこんなにもずれてるんだ。 フェリックス:レベッカ。僕は一年後が待ち遠しいよ。 レベッカ:知ってる? フェリックス。星座ってのは夜空では近くに見えても実際、星同士の距離は途方も無く遠いの。あんたとあたしはそれだけ離れてる。 フェリックス:心配しないでよ、レベッカ。これから小惑星帯にタッチダウンして帰ってくるだけだからさ。それが君に送る婚約指輪さ。 レベッカ:星屑に紛れたあんたをあたしは見つけられないわ。もらってもいない指輪なんて尚更。 フェリックス:レベッカ、愛してる。 レベッカ:フェリックス。愛していたわ。けどもう終わり。 フェリックス:これから始まるんだ。僕達の物語が。 レベッカ:あなただけの物語が。 フェリックス:一緒になろう。一年後の7月7日に。 レベッカ:別れましょう。一年後の7月7日。 フェリックス:それじゃあね、レベッカ。地球で。いいや、月で僕の帰り、待っててね。 : : レベッカ:7月7日。それが私達の最後の別れになる。 : : レベッカ:あたしはそう考えていた。けれど、フェリックスを乗せた亜光速航行宇宙探査船『ゼウス』は、この会話とも呼べない会話を最後に事故を起こして消息を絶った。 : 0:☆★☆★☆ : レベッカ:ねぇ。あんたはいつ帰ってくるの? レベッカ:それからあたしは短冊を握りしめ、何度目の空を見上げた。 レベッカ:7月7日は今年も雨。 レベッカ:氾濫した川は恋人達を渡してくれず、あたしはいつも待っている。 : レベッカ:ハロー、銀河で溺れた織姫さん。こちら地球の彦星。 レベッカ:天の川は冷たいですか? : 0:★★幕★★

七夕と宇宙を題材としたソフトSF会話劇です。 宇宙と地球、離れ離れになった恋人たちのお話。 テイストはなんか洋画風のような、セカイ系のような、ああ「ほしのこえ」に影響受けてんだなぁって感じのそんな作品です。 ☆あらすじ★ 宇宙開発が進んだ世界。亜光速航行宇宙探査船『ゼウス』の乗組員フェリックスと、彼を見送り地球に残った恋人レベッカ。光の早さで繋がる二人の想いは、広大な宇宙の中では次第にずれていく。 ★ちゅうい☆ 難読漢字は「たなばた」くらいしか無いと思いますが、微妙に造語があるのでノリと勢いで適当に読んでください。 性別は変えたければどうぞ。アドリブもお好きに。 本編に続きがあるとすれば、書きたくなったら別作品としてまたリライトするかもです。どうしても七夕に上げたくて……。 0:七夕の流星雨。 : 0:☆あらすじ★ 0:宇宙開発が進んだ世界。亜光速航行宇宙探査船『ゼウス』の乗組員フェリックスと、彼を見送り地球に残った恋人レベッカ。光の早さで繋がる二人の想いは、広大な宇宙の中では次第にずれていく。 : 0:★登場人物☆ レベッカ:レベッカ・星見・フォークナー レベッカ:恋人フェリックスの帰りを待つ。 フェリックス:フェリックス・ウェーバー フェリックス:宇宙飛行士。火星近傍から小惑星帯へ向かう。 : 0:☆★☆★☆ : 0:着信音。 0:レベッカ、端末に表示された通話をタップする。 0:ポップアップされたホログラムにフェリックスの顔が映る。 : フェリックス:ハロー、地球人。こちら火星人のフェリックスだ。元気してるかな? レベッカ:ハロー、火星人さん。こちら地球のレベッカ。どうぞ。 : 0:ホログラムの向こうのフェリックス、固まっている。 : レベッカ:なんて、どうせ返事が返ってくるのは26分後でしょう? 最初からビデオで良いんじゃ無い? フェリックス:それも良いけど レベッカ:きゃあっ! もう! フェリックス:フレッシュさが欲しいだろレベッカ? レベッカ:もう、おどかさないでよ! なに、どういう手品? いつもは宇宙規模の遅延に悩まされてるところじゃない? フェリックス:知らないのかい? レベッカ。 レベッカ:あんたがベッドに靴下かけてることなら知ってるけど? フェリックス:ほう? それには何が入ってるんだい? レベッカ:指輪、じゃ無いことだけは確かでしょうね。 フェリックス:あー、そうだね、残念ながら。 レベッカ:あっそ。 フェリックス:何だと思う? レベッカ:さぁ、ジークの、 フェリックス:ジークのお気に入りのポルノ雑誌でも無いからな? レベッカ:ねぇ、それほんとどうやってんの? 魔法使いにでもなった? フェリックス:そうだね、魔法かも。 レベッカ:宇宙飛行士が魔法? NASAはオカルトにまで手を出したの? フェリックス:NASAは昔からオカルトに手を出してるよ。じゃなきゃ火星まで行こうなんて思わないよ。 レベッカ:言えてる。それで、宇宙人改め火星の魔法使いさん。 フェリックス:なんだい、地球のお姫様。 レベッカ:それって、ほんと……何なの? フェリックス:さぁ? 当ててみてよ。 レベッカ:ヒントは? フェリックス:ヒント。これは光通信。 レベッカ:通りで眩しいと思ったわ。 フェリックス:ああ、まるで君は女神だよ。 レベッカ:そうよ、知らなかったの? フェリックス:気付かなかったなぁ。 レベッカ:火星までは13分だっけ? フェリックス:そう、僕を乗せた亜光速航行宇宙探査船『ゼウス』までは13分。 レベッカ:つまり、今私が見てるあなたは13分前のフェリックス・ウェーバー。 フェリックス:そう、今僕が見てる君は13分前のレベッカ・星見・フォークナー。 レベッカ:見た後に返事が返ってくるのは更に13分後。 フェリックス:うーん、不思議だね。 レベッカ:不思議というか、不気味って感じね。ゴーストとテニスしてる方が幾らかマシ。 フェリックス:ウィンブルドンでも目指すのかい? レベッカ:火星よりは良いでしょ? 宇宙人の古代遺跡でも見つかった? フェリックス:いいや、ここにはジークのお宝くらいしか無いね。 レベッカ:呆れた。 フェリックス:仕方ないだろ? 閉鎖空間ってのはストレスが溜まるもんさ。 レベッカ:あたし、あんたがジークとデキてても驚かないけど? フェリックス:いや、これだと僕がジークとデキてるみたいじゃ無いか。……あ。 レベッカ:ん? フェリックス:いや。 レベッカ:何? そういうこと? フェリックス:あー、たぶん気付いたよね? レベッカ:ばっちり。 フェリックス:だろうね。 レベッカ:要するに、エスパーの真似事をしてるわけだ。 フェリックス:もしくは昔のスパイ映画。ま、平たく言えばそうなるね。 レベッカ:あんた、相当気持ち悪いことになってんのね。 フェリックス:僕も今、自分が宇宙人なんじゃないかって思い始めてるよ。 レベッカ:あたしが何を喋るか想像して、 フェリックス:その答えを今呟いてる。 レベッカ:頭の中にあたしのイマジナリーフレンドでもいるの? フェリックス:もちろんさ。 レベッカ:その子といかがわしいことしてないでしょうね? フェリックス:もちろんさ。 レベッカ:してる? フェリックス:してない。 レベッカ:してるわね。 フェリックス:ごめん、してる。 レベッカ:もうあたし必要ないんじゃない? フェリックス:そんなこと無いよ! レベッカ:ほんとに? フェリックス:ほんとほんと。だって、考えてもみてくれよ、今こうして僕は君に向かって、さっきは13分前って言ったけれど、ほんとは13分後の君に向かって話してるんだぜ? それで反応が無かったら観客のいないピエロも良いところさ。 レベッカ:ああ、そっか。この映像が来るのに13分かかるから、喋ってるのは13分前で、今この瞬間のあんたはまた別のことしてるのか。 フェリックス:何してると思う? レベッカ:想像したくないけど。 フェリックス:想像してみて欲しいね。今……この映像の中の僕の13分後が正真正銘絶対的な時間を生きる今の僕なんだから。そうしたら僕らを阻む距離も時間も全部なくなって、どんなに離れていても同じ時間を生きられるんだ。それって素敵じゃ無いかな? レベッカ:ええ、素敵ね。うん。……そうしたいのは山々だけど、あんたのことをそこまで考えるのは無理。 フェリックス:どうしてさ? レベッカ:どうして? なんて、フェリックス。あんたの中のあたしがよく分かってるでしょ。今、どうしてさ? って返したあなたなら。 フェリックス:あ。違うんだ! レベッカ:あ、って顔したもの。違わないわ。 フェリックス:僕はそんなつもりじゃ……。 レベッカ:だってあなたはあたしにそれができないと折り込み済みで話を進めてるじゃない? 今のあなたはピエロじゃ無くて劇作家。あたしを思い通りに動かせると思ってる。 フェリックス:劇作家、君はそう言うだろうね。僕のことを。同じ舞台に立ってないって意味で。 レベッカ:ええ、そしてこの会話も、だったら喜劇でしかない。それはあたしじゃなくてあなたを喜ばせるだけの喜劇。 フェリックス:ごめん。 レベッカ:自分のご機嫌取りの為にあたしを使わないで。 フェリックス:……本当にごめん、僕は君の気持ちを全然考えられて無かった。 レベッカ:なんて、冗談よ。本気で怒るわけ無いでしょ? あたしのことよく分かってないとできないことだもの、それはあなたがあたしのことを愛してる証拠。それを咎めたりなんてしないわ。そりゃ全部あんたの筋書き通りだなんて癪だし、やっぱりキモい。なんていうか、そう、まるでストーカーね。 フェリックス:そうさ、僕は所詮君のストーカーさ。 レベッカ:ちょっと、フェリックス? フェリックス:頭の中に君がいるなんて言ったけど、それは僕にとって都合の良いダッチワイフなんだ。 レベッカ:フェリックス、なんてこと言うの! フェリックス:ああ、僕は最低だ……。 レベッカ:最低なのはそうだけど、そこまで思い詰めなくてもいいって! ……って、ああ、もう! これ伝わるの13分後じゃない! フェリックス:いいんだ、僕はもう、しばらく君との距離を取ることにするよ。気持ち悪いだろ。僕なんて。少し頭が良いくらいで、君のことを自由に出来ると思ってるんだ。 レベッカ:あんたそんなこと思ってたの? 別に今更あんたの歪んだ支配欲なんて見慣れてるけどさ、もう、面倒くさいな。 フェリックス:そうさ、僕は面倒くさい男なんだよ。 レベッカ:ええ、よく知ってるわ。 フェリックス:でも君は本当の僕を知らない。 レベッカ:知らないけど大体分かってるっての。宇宙なんて大体分かってりゃ良さそうな世界にわざわざ飛び出して行った知りたがりの坊ちゃんの考えることなんてさ。 フェリックス:ふふ、やっぱり君は分かってくれないだろうね。 レベッカ:……もういい、無視よ無視。 フェリックス:そうさ僕は虫けらだ。 レベッカ:あんたが何言ってもしばらく聞かずに喋り続けるから、また13分経ったらチャットでもビデオでも送ってくれば良いんじゃない? フェリックス:僕はこの宇宙で一人なのさ。 レベッカ:しばらく彷徨ってろ。 フェリックス:宇宙を流離う星屑の一つで…… : 0:☆★☆★☆ : レベッカ:フェリックス、メッセージありがとね。正直イラッとするところもあったけど、あたしのためにそんな手品を披露してくれたのは嬉しかった。久しぶりにリアルタイムで話せたみたいで楽しかったしさ。ねぇ、フェリックス。次は、いつ会える? あんたの顔、直接見たいな。返事待ってる。 : フェリックス:あー……その、さっきはごめんよ、レベッカ。見苦しいところを見せてしまったこともだし、君の思考を、その、軽んじるようなことしてしまってたのも。でも、少しでも喜んで貰えたのなら良かった。僕の主観では、まだ君と繋がってすらいないところで独り言を言ってるだけだから、不安だったんだけれどね。まぁ、僕は宇宙飛行士だからさ、そういうのには慣れてるよ。おっと、僕だけが辛いみたいなニュアンスになってしまったね。寧ろ、君には本当に辛い思いをさせてしまっている。ごめんね。僕も早く、君に会えたらなって思うよ。そういえば、さっきはクリスマスの話だったけど、地球はそろそろ夏じゃないかな? もう半年か、ほんと迷惑かけるね。レベッカ。……ああ、そうだ、肝心なこときけてなかった。最近はどう過ごしてる? レベッカ。 : レベッカ:ハロー、フェリックス。最近ちょっと忙しくてメッセージ送れなかった。もうあなたとの付き合いも結構長くなるし、そういうの慣れたって。あなたは自分のことを「人の考えがよく分かるくせに、心が分かってない」って思ってるのかも知れないけどさ、あなたが分かってないのは、良い女の扱い方と、何よりフェリックス、あんた自身の扱い方だから。よく覚えておきなさい? 折角そこそこ賢くて、ついでに馬鹿みたいに優しいんだから、もっと自信持ったら? それと、ええ、こっちはもう夏に入るところ。今は祖父の故郷に来てるわ。七夕ってお祭りを地元の子供達と準備してる。ミルキーウェイを挟んで離ればなれになった恋人、織姫と彦星が一年に一度だけ会えるお祭りなんだって。短冊って紙に願い事を書くと叶うそうよ。フェリックス、あなたは何を書く? : フェリックス:はは、相変わらずレベッカは手厳しいね。うん、君が変わって無くて安心した。僕だけ安心するのは公平じゃ無いな。君が安心できるようにもっとタフな男にならないとね。そういえばジークがオデットに会いたいっていつもぶつくさ言ってるよ。僕も彼みたいに君の名前を呟こうかな? お祖父さんは日本人だったかな? 君の星見……スターゲイザーって名前、素敵だよね。そこから僕は見えるかい? なんて、今僕のいる火星は残念ながら太陽の向こうだから明け方に見えるかも、ってくらいだろうね。だから、通信もいくつか中継することになるね。しばらくはこの前の魔法もお預け。 : レベッカ:別に期待してないわ。 : フェリックス:それは残念。ああ。そうそう、七夕は知っているよ。織り姫はこと座のベガ、彦星はわし座のアルタイルだね。二人があまりに愛し合って仕事をしなくなったから、天帝……ゼウスみたいなものかな? 彼の怒りを買って、天の川を隔てて離ればなれになってしまう。二人は二度と会えない悲しみに暮れていましたが、ゼウスはそれをかわいそうに思い、一年に一度だけ会っても良い日を作りました。それが七夕。ちなみに僕が願うのは……何だと思う? : レベッカ:そういえば、あなたの乗る船もゼウスね。さながらゼウスに引き裂かれたあたし達は織姫と彦星。ああ、なんてロマンチックなの。悲しくて天の川が溢れてしまうわ。……ふふふ。なんでしょうね? あたしのは分かる? : フェリックス:もちろん分かるさ。 : レベッカ:じゃあなんて願った? せーので言ってみましょ? : フェリックス:せーのって、君も魔法を使えるようになったのかな? レベッカ。じゃあ、僕もまた例の魔法を使おうかな。準備してからまた掛け直すよ。と言ってもビデオレターだけどね。今度は中継点をいくつか挟んでるから27分後だ。それじゃあね、レベッカ。 : 0:☆★☆★☆ : フェリックス:ハロー、織姫さん。こちら彦星。 レベッカ:ハロー、彦星さん。こちら織姫。 フェリックス:僕の魔法は届いてる? レベッカ:もう、フェリックス。魔法なんて使えなくても想いくらいは伝わるわ。 フェリックス:そうだね。でも、楽しいでしょ? レベッカ:ええ。とっても。27分前のフェリックス。 フェリックス:よし、じゃあ言うよ。僕が本物の君の声を聞くのはしばらく後だけど、せーので言うよ? レベッカ:余計なこと言わないの。 フェリックス:ごめんごめん。 レベッカ:じゃあ、いくわよ。 フェリックス:ちょ、ちょ、ちょ、待ってよ! レベッカ:どうしたの? フェリックス:君がカウントしても僕は合わせられないって。 レベッカ:あら、そうだったわ。あなたがあまりに自然に喋るからうっかりしていたわ。 フェリックス:もう、しっかりしてくれよ? レベッカ:善処するわ。ふふ、茶番ね。 フェリックス:好きだろ? レベッカ:嫌いじゃないわ。 フェリックス:だと思ったよ。それじゃ、いくよ……3、2、1 レベッカ:ロケットみたいね。 フェリックス:ロケットじゃないって。もう、真面目にやってよ? レベッカ:じゃあ、一緒に数えましょ。 フェリックス:正気かい? さっきも言ったけどこれは録画だからね? レベッカ:正気よ。27分後のあたしと喋ってるあんたに比べたら。 フェリックス:おっと、一本とられたな。 レベッカ:やれるの? フェリックス:僕を誰だと思ってるんだい? レベッカ:さぁ? 宇宙人? フェリックス:火星人じゃないって。 レベッカ:ふふ、外したわね。 フェリックス:宇宙人でも無いよ? レベッカ:あら。神様みたい。 フェリックス:予言者だね。 レベッカ:ふうん、素敵。 フェリックス:でも、僕は君の彦星さ。 レベッカ:織姫の間違いでしょ。ゼウスの箱入り娘さん。 フェリックス:はは、違いないね。 レベッカ:じゃあ、いくわよ。3 フェリックス:2 レベッカ:1 : フェリックス:君に会いたい。 レベッカ:あなたに会いたい。 : 0:間。 : フェリックス:きっと叶うさ。 レベッカ:そうでないと困るわ。 フェリックス:そうだね。 レベッカ:いつ帰ってくるの? フェリックス:一年後。 レベッカ:一年後? まるで七夕ね。 フェリックス:でも僕らは一年に一度しか会えないわけじゃない。 レベッカ:どうだか。 フェリックス:この出張が終わったら、月に転勤だから。 レベッカ:それで? 月に一度会えるわけ? まぁすごい。織姫と彦星の12倍も会えるなんて。会話もさぞ弾むことでしょうね。なんせ重力は6分の1だもの。 フェリックス:そう言わないでよ。 レベッカ:そう言わせたいんでしょ? フェリックス:いいや、本当は君にそんなこと言わせたくない。 レベッカ:だったらオデットみたいに地球で働けば良いじゃ無い。 フェリックス:オデットは木星に行きたいんだろ? レベッカ:ええ、でもジークと一緒に。 フェリックス:僕も君と一緒にいたいよ。 レベッカ:だったら。 フェリックス:だから、 フェリックス:レベッカ。月に行こう。 レベッカ:月? フェリックス:月で一緒に暮らさないか? レベッカ:あなたかぐや姫みたいね。 フェリックス:蟹じゃ無いよ。もちろん兎でも無い。 レベッカ:あたしとあんたじゃ住む世界が違うのよ。 フェリックス:でも、僕らの心は繋がってる。 レベッカ:そう思ってるのはあなただけ。 フェリックス:だから僕らは一緒になれる。 レベッカ:なら、一緒に居てよ。あなたはいつだって遠くに居る。27分だか4億8千万キロだか知らない遠くから、望遠鏡でも見えないようなところからあたしのことを覗いてるばかり。 フェリックス:レベッカ。愛してる。 レベッカ:あたしが愛してるのは人間のあなた? それとも手の届かないお星様? ねぇフェリックス。あなたが愛してるのは手の届かないあたし? それとも宇宙を漂う星? フェリックス:一緒になろう。 レベッカ:……無理ね。 : フェリックス:そうか、レベッカ。君がそう言ってくれると信じていたよ。 : レベッカ:ほら。あんたとあたしはこんなにもずれてるんだ。 フェリックス:レベッカ。僕は一年後が待ち遠しいよ。 レベッカ:知ってる? フェリックス。星座ってのは夜空では近くに見えても実際、星同士の距離は途方も無く遠いの。あんたとあたしはそれだけ離れてる。 フェリックス:心配しないでよ、レベッカ。これから小惑星帯にタッチダウンして帰ってくるだけだからさ。それが君に送る婚約指輪さ。 レベッカ:星屑に紛れたあんたをあたしは見つけられないわ。もらってもいない指輪なんて尚更。 フェリックス:レベッカ、愛してる。 レベッカ:フェリックス。愛していたわ。けどもう終わり。 フェリックス:これから始まるんだ。僕達の物語が。 レベッカ:あなただけの物語が。 フェリックス:一緒になろう。一年後の7月7日に。 レベッカ:別れましょう。一年後の7月7日。 フェリックス:それじゃあね、レベッカ。地球で。いいや、月で僕の帰り、待っててね。 : : レベッカ:7月7日。それが私達の最後の別れになる。 : : レベッカ:あたしはそう考えていた。けれど、フェリックスを乗せた亜光速航行宇宙探査船『ゼウス』は、この会話とも呼べない会話を最後に事故を起こして消息を絶った。 : 0:☆★☆★☆ : レベッカ:ねぇ。あんたはいつ帰ってくるの? レベッカ:それからあたしは短冊を握りしめ、何度目の空を見上げた。 レベッカ:7月7日は今年も雨。 レベッカ:氾濫した川は恋人達を渡してくれず、あたしはいつも待っている。 : レベッカ:ハロー、銀河で溺れた織姫さん。こちら地球の彦星。 レベッカ:天の川は冷たいですか? : 0:★★幕★★