台本概要
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タイトル | 魔王と勇者一行の無限牢獄。 |
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作者名 | 音佐りんご。 (@ringo_otosa) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 5人用台本(男3、女2) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
魔王と勇者の仲間達が繰り広げる最終決戦系ハイテンション茶番劇。 笑いあり、詠唱あり、一応ダークなオチもある作品となっております。 なお、戦闘描写はほぼありません。 別で二人芝居バージョンもあり、こちらは仲間ありのバージョンです。 前者より茶番強め、オチ暗め、少々下ネタありですので、クセが強くなっております。 また、台詞の分量に結構偏りがあります。目安として勇者≧魔王>>仲間達くらいです。 多くの方に楽しんで貰えるよう振り仮名(ふりがな)を多めに配置しています。逆に読みにくいかも知れませんが。ふりがなの箇所は感覚ですので、痒(かゆ)いところに手が届かないなんて事態も儘ありますがご了承くださいませ。 文字数は7,000字強ですので30分程度。 〈あらすじ〉 強いけどやべぇ勇者一行と、追い詰められた瀕死のツッコミ魔王。残された力を振り絞り戦おうとする魔王に、勇者は「こいつ自爆するつもりじゃね?」という疑いをかかける。否定する魔王、しかしついに勇者が、それを完封するため詠唱を始め、封印の奥義『無限牢獄』を発動する。開かれた次元の穴に吸い込まれ始める魔王。しかし勇者は魔王が未だ自爆しようとしている疑惑を抱いたまま、こうなれば道連れにするしか無いと、諸共に穴に飛び込み伝説となる覚悟をするのだった。そしてその後の仲間達のお話。 ※注意 読み方とかアドリブはお任せします。楽しく演じていただければ幸いです。 性別・キャラの名前も変えて良しです。魔王とか勇者っていう表記なので、好きに名前つけてくれても良いかもですね。 詠唱は要練習のことお願いいたします。めっちゃ詰まると思うので。 242 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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魔王 | 男 | 64 | 比較的マトモな魔王。 |
勇者 | 男 | 51 | 比較的ヤバイ勇者。 |
戦士 | 男 | 56 | 比較的バカな戦士。 |
巫女 | 女 | 54 | 比較的イカレた巫女 |
賢者 | 女 | 45 | 比較的サイコな賢者 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
魔王と勇者の仲間達が繰り広げる最終決戦系ハイテンション茶番劇。
笑いあり、詠唱あり、一応ダークなオチもある作品となっております。
なお、戦闘描写はほぼありません。
別で二人芝居バージョンもあり、こちらは仲間ありのバージョンです。
前者より茶番強め、オチ暗め、少々下ネタありですので、クセが強くなっております。
また、台詞の分量に結構偏りがあります。目安として勇者≧魔王>>仲間達くらいです。
多くの方に楽しんで貰えるよう振り仮名(ふりがな)を多めに配置しています。逆に読みにくいかも知れませんが。ふりがなの箇所は感覚ですので、痒(かゆ)いところに手が届かないなんて事態も儘ありますがご了承くださいませ。
〈あらすじ〉
強いけどやべぇ勇者一行と、追い詰められた瀕死のツッコミ魔王。残された力を振り絞り戦おうとする魔王に、勇者は「こいつ自爆するつもりじゃね?」という疑いをかかける。否定する魔王、しかしついに勇者が、それを完封するため詠唱を始め、封印の奥義『無限牢獄』を発動する。開かれた次元の穴に吸い込まれ始める魔王。しかし勇者は魔王が未だ自爆しようとしている疑惑を抱いたまま、こうなれば道連れにするしか無いと、諸共に穴に飛び込み伝説となる覚悟をするのだった。そしてその後の仲間達のお話。
※注意
読み方とかアドリブはお任せします。楽しく演じていただければ幸いです。
性別・キャラの名前も変えて良しです。魔王とか勇者っていう表記なので、好きに名前つけてくれても良いかもですね。
詠唱は要練習のことお願いいたします。めっちゃ詰まると思うので。
0:※台詞中にト書きを〈 〉で示しているヶ所があります。
0:また( )のヶ所はふりがなです。わりと多めになっております。
0:
0:満身創痍(まんしんそうい)の魔王に剣を向ける勇者一行。
勇者:お前の野望もこれで終わりだ! 観念しろ、魔王!
戦士:流石勇者だ!
魔王:くはは、もはやこれまでか。流石は彼の勇者の末裔と言ったところか。だが、我は魔王。絶望をその身で体現せし恐怖と破壊の根源にして、世界を力で統べる者。この程度で、屈しはしない。貴様とてそうであろう? 勇者よ。貴様の力、しかと見定めた。残る力の全てを使い尽くし我が身果てるまで踊り明かそうではないか! くははははは! もう小細工は必要な――
勇者:――巫女、戦士、賢者! 下がれ! 魔王が何かする気だ!
巫女:え?
戦士:なんだって!
賢者:分かった、逃げる。
魔王:いや、小細工は――
勇者:ダメだ! きっと自爆するつもりだ!
魔王:いや、しないが!
勇者:おのれ卑怯な魔王め! 何があっても僕達を帰さないつもりだな?
戦士:往生際の悪いやつだ! 潔く負けを認めろ!
魔王:え? いやいや、違うぞ? 負けは認めんが、正々堂々真っ向からこの身が果てるまで闘い尽くすと……え、そう言ったよな?
巫女:え? そうなんですか。
賢者:お前、もしかして、良いやつ?
魔王:まぁ、いいやつとは一概に言えないが、そんな非道な真似はしないと誓う。我に女子供を虐殺する趣味は無い。
巫女:そうなんだ~!
賢者:紳士なのね。
勇者:耳を貸すなみんな! きっと時間稼ぎだ!
戦士:なんだって! よくも俺の純粋な心を弄びやがったな!
魔王:それは知らんけど、そんな姑息なことはせん!
勇者:感じるぞ、その魔力の高まり、空間が震えている。
巫女:じゃあやっぱり……?
勇者:きっと全ての魔力を吐き出してこの城諸共吹っ飛ばすつもりなんだ。戦士:なんだって! そうなったら俺達一巻の終わりだぜ!
賢者:怖い。
巫女:そんな……!
勇者:もしそうなったら、多分勇者である僕はなんとか生き残るが、みんなは……。
賢者:がっでむ。
巫女:嘘だよ、そんな!
戦士:え、なぁおい勇者、俺達どうなっちまうんだよ、教えてくれよ。
勇者:木っ端微塵(こっぱみじん)の肉片だ。
巫女:そんなの嫌!
戦士:この、めっちゃ強い不死身の俺でもか?
勇者:戦士、君は、多分真っ先に死ぬ。というか君は全く不死身では無い。
戦士:え、でもトロールにぶん殴られて煎餅になったときも……。
賢者:私の回復のおかげ。
勇者:その非じゃ無い。誰が誰とも分からない姿に成り果てて、生き残った僕がそれを故郷に待たせている大切な人たちに持ち帰る頃には、きっと……ぐずぐずに腐って蛆が湧いて、少し溶けていて、それから……。
巫女:っひぃ!
戦士:もうやめてくれ! 晩飯が食べれなくなる!
賢者:ちょっと美味しそう。
勇者:え?
魔王:え?
戦士:え?
巫女:え?
賢者:きゃぁこわい。
勇者:……そして僕らの名誉や尊厳さえも奪い去ろうと言うんだお前は!
戦士:見損なったぜ魔王!
巫女:そうよ、酷すぎるよ!
賢者:戦士、ぐずぐずに、腐る。えへへ。
0:間。
賢者:きゃぁこわい。
勇者:くっ! 勝てないと見るや僕達に最期まで傷跡を残そうとする! くっそぉ! この卑劣漢! 鬼畜! 外道! トロールのクソ!
戦士:ドラゴンのゲロ!
巫女:スケベ大魔王!
賢者:調子に乗ってるときの戦士。
勇者:だからお前は魔王なんて呼ばれるんだ! このゴキブリ野郎!
魔王:えーめっちゃ罵(ののし)られてる……。今日で一番ダメージでかいんだけど。あとゴキブリとか、トロールのクソ呼ばわりは結構真面目に傷つくぞ。あと別にスケベでは無い。あのさ、散々な言われようだが、そこまでする魔力は流石に残ってないぞ。というか、出来るんならもうやってる。なんで罵られてから自爆するんだ。言われる前にやるわ。
勇者:嘘だ! お前は第七形態まであるとさっき倒した側近が言ってたぞ! あいつが嘘を言っていたというのか!
戦士:俺も聞いたぞ! なぁ二人とも!
巫女:言ってたよ! ぬあはははは! わたくしごときを倒せたくらいでいい気になるんじゃありません! 魔王様はもっと強く、気高く、美しいのです。私の変身は二回でしたが、魔王様は素でも強いけどなんと七回も変身できるのです。魔族は不滅です。アイルビーバックする! 一度変身する度にその強さは倍。二回で更に倍、更に倍。更に更に倍。魔王様の恐ろしさ、とくと味わうが良い! ぬはははははは! げほっ! げっほ! って!
戦士:間違いねぇ!
賢者:嘘。その時、死んでた。戦士。ぐちゃぐちゃ。
戦士:え? 俺はぴんぴんしてるぞ?
賢者:そうだね。
魔王:それ、あいつが言ってるだけだから。あと我、マジで変身とかできないタイプの魔王だし。プロパガンダってやつ? 魔族的に変身って燃える要素の一つだから、……今でもそれちょっとコンプレックスなんだよ。
賢者:わかる。
勇者:騙されちゃいけない! 変身されるぞ!
魔王:だからしねーって。なんで隙を見て変身するんだ。するにしても堂々とするわ。……出来ないけど。貴様ら、なんであいつのことは信用するのに我のことは頑(かたく)なに信じないの? ちなみに第七形態どころか変身一つも見せてないのに自爆する必要ある? 最大で百二十八倍強くなれるんだよ? それで闘えるじゃん☆
戦士:あ、確かに!
勇者:そんな言葉に惑わされるか! みんなは絶対僕が守る!
戦士:は! 流石だぜ勇者!
巫女:勇者様……!
賢者:ゆうしゃ。
魔王:だめだ此奴(こやつ)、話通じねぇ……。まず疑うべきは此奴なんじゃだろうか。
勇者:っく、こうなったら切り札を使うしか無い!
賢者:アレを使うの?
巫女:ダメだよ勇者、あの技は……!
勇者:でもそれしか無いんだ!
巫女:勇者……!
賢者:わかった。
戦士:勇者、アレって何……?
魔王:え、お前まだなんか使えるの? もう正直嫌なのだが貴様の相手するの。魔王だけど逃げちゃおっかな……。あーでも絶対追いかけてくるよなこいつ。瞬間移動とかしてたし。魔王の我が言うのもなんだが人間やめてるわマジ。
賢者:同意。
魔王:貴様、ちょくちょく共感してくるな。
賢者:気のせい。
勇者:みんな! 僕はこいつを次元の牢獄に封印する!
魔王:おま……そんなことできんの? 引くわ。
戦士:流石勇者だぜ!
勇者:僕諸共にこいつを封印する!
戦士:なんだって! おいほんとなのか勇者!
魔王:そのリスク負う必要ある? 腰の聖剣飾りか?
賢者:飾り。
魔王:肯定された。
巫女:でも、勇者の腰のアレは、すごい。
魔王:お前、突然何言うとるんだ。
戦士:ああ、勇者のアレはすげー! 俺が保証する!
魔王:すんな。さっきまで貴様察し悪い阿呆だったくせに下ネタは敏感に拾うの何?
勇者:ある!
魔王:おわ、びっくりした。……初めてちゃんと問いに答えたな貴様。いやでも、剣振った方が絶た―
勇者:我は緑青(ろくしょう)、寄辺(よるべ)なき彼岸揺蕩(ひがんたゆた)う安寧(あんねい)なる時の神クロニアに誓願(せいがん)す――
魔王:あ、なんか詠唱(えいしょう)始まった。しかも千年近く生きてきて全く聞いたことねぇやつ。なんだと! その技は! すら言わして貰えないやつ。こいつどこまでも魔王殺しだわ。勇者だけに。あ、今の上手くね?
戦士:なぁ、賢者。勇者何ぶつぶつ言ってんの?
賢者:…………。
戦士:無視?
巫女:っし! お経は静かに聞くの!
魔王:お経じゃねぇよ呪文詠唱。緊張感どうした。
勇者:絶え間なく流るる砂海の一握(いちあく)、無垢(むく)の連星墜つるは宵(よい)の調べ、眺むるは月の色を知らぬ魚、今生を謳歌(おうか)せし座して待つ死人、煌(きら)めき、囁(ささや)き、屯(たむろ)する、無為の骸に願わぬ白日(はくじつ)を瞳に宿らす農夫、移ろわぬ黄金(こがね)の饗宴(うたげ)に尽きぬ真紅の神酒(みき)を注(つ)ぎ、杯(さかずき)持って願い奉(たてまつ)る漆黒の乙女の白き指を携える深遠なる紺碧(こんぺき)の獅子(しし)、番(つが)い求むる隻腕(せきわん)の影法師(かげぼうし)に抱かれ、染め上げられし終焉(しゅうえん)を彩る松明(たいまつ)の産声に涙を湛(たた)えず、白銀(しろがね)の鼓(つづみ)を打つ鋼の蛇の尾を締め上げて――
魔王:なっが。まだ?
勇者:鳴り止まぬ鼻唄こだまする石庭(せきてい)に浮かぶ無情の蜉蝣(かげろう)、無償の愛を知らぬ毛糸玉、無常の歓喜を語り継ぐ連綿(れんめん)たる木枯(こが)らし、流転(るてん)、前足を欠いた犬に見初(みそ)められ、片端を不実と契(ちぎ)る紫煙(しえん)の蔓(つた)、前人未踏を掲げるは愚者の塔、誘う半身木陰の土に根を下ろし、困窮(こんきゅう)する黒猫、置配(おきはい)を薦(すす)める密林、赤き乳に浮かぶデンプン質の蛙(かわず)の卵、長蛇の列を作りて悩ましめる人々を救う――
魔王:ん?
勇者:無限牢獄《タピオ・カミル・クーテ》!
魔王:そんな必殺技があるか!
0:魔王の背後に穴が出現。
0:「ずぞぞぞ」というような音が響く。
魔王:っく、ぬおぉ! 吸い込まれる……?
巫女:出た! 勇者の《タピオ・カミル・クーテ》!
戦士:すげえ……。アレが《タピオ・カミル・クーテ》!
賢者:《タピオカ・ミルクテー》
魔王:連呼、すんなぁ!
勇者:それは次元の穴だ、吸い込まれると二度と出てくることは出来ない。どんな魔法を使おうが無駄だ! 魔王、お前の悪あがきもこれで終わりだ!
魔王:なんだかすごく疑わしいが、成る程、嫌な気配がしおる! 流石勇者の秘奥(ひおう)と言ったところか。
戦士:流石だぜ勇者!
魔王:まぁ、その腰の聖剣振り抜いた方が百倍速く片付いたと思うが。
巫女:腰の……聖剣。
魔王:お前それでよく我にスケベ大魔王とか言ったな。
巫女:――そうよ、私こそ真のスケベ大魔王。
戦士:……ゴクリ。
賢者:こっちは、スケベ魔人。
魔王:お前らさぁ、空気読も? 我を見習えよ。
勇者:何を訳の分からないことを言っている魔王め! この期に及んでまだみんなを惑わせる気か! 腐っても魔王、悪徳の王め!
魔王:訳分からんのも惑わせてるのも腐ってるのも貴様らの方では……? その言葉そっくりそのまま返してやるわ。っく、だが、ああ、体が、引き寄せられていく……! 悔しいが、心底悔しいが、実力だけは、本物だ。もはや、本当にここまでだな。ああ、魔王たる者、もっと、ちゃんとした形で、例えば激闘の果てにあえなくも勇者に打ち倒されるとかそういう感じで、やられ、たかっ……た。ぐふ。しかし、まぁ、こうやって吸い込まれたり消滅してられるのも、魔王っぽい、のか? っふ。
勇者:みんなさがれ!
魔王:え?
勇者:魔王がどうしても自爆したいらしい。
戦士:なんだって!
巫女:なんてしぶといの!
賢者:……飽きた。帰って良い?
魔王:お前自由か。
賢者:うん。
魔王:お前。……いや、え? なわけないだろ?
勇者:僕がこの身を犠牲にしてでも食い止める!
戦士:流石だぜ勇者!
魔王:いや、いらんいらん。ほっといてもこのまま普通に「ずぞっ!」って吸い込まれるよ、我。というか多分爆風ごと吸い込まれるから、無駄に爆散するだけだし。そういうのは、せん。
賢者:わかりみ。
魔王:もはや我と普通に会話しとるな……。
勇者:みんな! 惑わされちゃいけない! 僕らを油断させてから、纏めて葬り去るつもりなんだ。
戦士:なんて汚いやつなんだ!
巫女:そんなの酷い!
魔王:お前らの中の我、ちょっと姑息(こそく)すぎない? しないよ?
勇者:やはり、ここは僕が抑えるしかない! 僕があいつと一緒に飛び込んで永遠に封印するしか無いんだ。
魔王:いらん、来んな。
巫女:こんなやつのためにあなたがそこまですること無いよ勇者!
魔王:こんな奴らのためにそこまでする必要も無いが。
戦士:全く以てその通りだぜ!
魔王:ぶっちゃけお前、自分の意思殆ど無いよな。
賢者:私、自分の身、守れる。グッド・ラック。
魔王:……だろうな。
勇者:戦士! 賢者! 巫女! みんな、今までありがとう。
戦士:勇者!
賢者:勇者さま!
巫女:ゆうしゃ。
魔王:あ、なんか始まったわ。だり。
勇者:戦士、君は誰よりも明るくてすごく良いやつだ。君というやつが居てくれる旅は本当に心強かった。みんなが挫けそうな時も絶対最期まで諦めない、バフはかからないけどみんなを励まして、奮(ふる)い立たせてくれたから賢者の回復魔法のおかげでまた立ち上がれた。君は本当に誰よりも心だけは強い男だ。この旅でそれを僕は感じた、ありがとう。
戦士:へへ、照れるじゃねぇか……!
魔王:いや、さりげにディスってない?
勇者:賢者、君はなんかよく分からないけどたぶん良いやつだ。あんまり喋らないし、一切戦闘には参加せず、常時防御魔法張りながらいつでもにこにこしてるからマスコット担当なんだと思う。実際何度も君の回復魔法には助けられてきた。戦士が。君がいなかったら戦士は死んでたと思うし、蘇生されすぎて顔とか人格とかちょっと別人になってる気がするけど。とにかく、君がいないと僕らはここに立つことが出来なかった。ありがとう。
賢者:ん。どういたしまして。
勇者:あと、ちょっとエロい。ありがとう。
魔王:最低か、貴様。というか我はいつまでこうして吸われていれば良いんだ。なんか慣れてきたわ。
勇者:巫女、きみはマジで可愛いくてすげーエロいから良いやつだ。他に言うことはない。
魔王:おい。
勇者:あ、でも――愛してる。
巫女:勇者さま!
魔王:小娘よ、貴様のポジションそれで良いのか……?
巫女:勇者さまの貞操とメインヒロインは私のモノ。
魔王:……ほんと、貴様と貴様のパーティクソだな。
勇者:みんな、ごめんよ。一緒に帰るって約束したのに、僕はここまでみたいだ。でもどうか忘れないで欲しい僕という『勇者』がいたことを。僕がこの身を挺(てい)して、魔王を次元の狭間(はざま)に閉じ込め、この世界を守ったということを。
戦士:俺は忘れねぇ流石だぜ……、勇者!
勇者:ああ、忘れないでくれ、戦士。そして何より、身命を賭して君達の命を守ったということを、みんなに伝えて欲しい。この聖剣を持ち帰り、その証としてくれ。僕がいかに素晴らしく勇敢で格好良くて良いやつだったかということを……、頼む。これは僕の最期の願いだ。伝説を語り継ぐのは君達とその子々孫々(ししそんそん)だ。
0:勇者、聖剣を仲間達に渡す。
0:戦士、受け取ろうとする。
戦士:相棒の頼みは、断れねぇよな。任せろ俺が――、
巫女:――どけ。
0:巫女、戦士を殴る。戦士死亡。
0:巫女、聖剣を受け取る。
巫女:必ずや。勇者さま。
勇者:頼んだよ、巫女。
賢者:えへへ。……蘇生《リ・ライズ》。
0:戦士が蘇る音。
魔王:お前ら頭湧(わ)いてんのか? あ『ゆうしゃ』ってそういう? 頭、湧いてる者で『湧者』なの? お前、要(よう)は伝説になりたいだけかよ。
勇者:待たせたな魔王。
魔王:それな。
賢者:それな。
勇者:決着をつけよう。
魔王:おまいう。
勇者:僕はみんなの期待を背負ってここに立っているんだ。
魔王:あくしろよ。
賢者:それな。
勇者:世界と仲間のために僕はここでお前と一緒に散る!
魔王:嘘吐けてめぇのためだろ。
勇者:みんな、僕に勇気と名声を。
魔王:本音もれてんぞ。
戦士:当たり前だ!
賢者:だが断る。
巫女:どうか勇者さまに、私の愛と力を!
魔王:やっと祈ったぜ、この巫女。
0:勇者、魔王に向かって走り出す。
勇者:うおおおおおおおおおおおおお!
戦士:いけぇ! 勇者!
巫女:勇者さまぁ! 愛してる!
賢者:いってら。
勇者:そして僕は伝説になる。うおおおおおおおおおおおおお!
魔王:……はぁ。絶対回避《ファントム・オー》。
0:魔王、勇者の突進をひらりと躱す。
勇者:え?
戦士:は?
巫女:あ。
賢者:草。
魔王:あばよ。
0:魔王、勇者の背中を蹴飛ばし、次元の穴に落とす。
0:勇者を吸い込む「ずぞっ!」っという音。
魔王:ああ、清々したわ。
0:間。
魔王:何見てんだよ。
巫女:っひ!
戦士:そんな……。
賢者:絶対防御《アルテマ》
魔王:……安心しろ、行くよ。くっそ腹立つけどな。〈次元の穴に入ろうとして〉ああ、待て。一つだけ言っておく。
戦士:な、なんだ?
魔王:貴様らは歴史の生き証人(しょうにん)だ。今ここで起きたことをどう語り継ぐかは貴様達次第。死人に口無し。あいつはもういない、俺ももうすぐここを去る。ならば、この顛末(てんまつ)を何とする?
戦士:つまり、どういうことだ?
魔王:賢明(けんめい)にして懸命(けんめい)なる人間共よ!
戦士:俺今褒められた?
巫女:黙れ。
魔王:我は魔王! 彼の者の絶望をその身で体現せし恐怖と破壊の根源にして、世界を言葉で統べる者。にっくき勇者に一矢(いっし)報(むく)いる一世一代最期の嫌がらせを賜(たまわ)るぞ。心して聞くがよい――。
0:間。
魔王:「なぁ、お前達。『英雄』に、なりたくはないか?」
0:間
魔王:あとは……分かるな? ふはははははははははははははは。さらばだ。
0:仲間達と聖剣を残して「ずぞっ!」という音が響く。
戦士:――どうする?
巫女:どうするって、そりゃあ……。
賢者:なる? 英雄。
0:間。
賢者:なる? 英雄。
戦士:英、雄。
巫女:……いなかった。
戦士:え?
巫女:最初から『勇者』なんて男は、居なかった。
戦士:巫女……?
巫女:ねぇ? 賢者。
賢者:……古来から、勇者『一行』は、三人パーティー。
巫女:素敵な響きね、あなたも乗るってことで良いのね?
賢者:おもしろければ。
巫女:約束するわ、きっと、ね。
戦士:お、おいおい。ははは、待てよ、冗談だよな、いや、だってよ……? 勇者だぜ、あいつとの約束……。良いやつだったんだぜ?
巫女:勇者? 誰? それ、そんな人知らないけど。
戦士:おいおいおいおい……。
巫女:賢者、知ってる?
賢者:のー。
戦士:なぁ、冗談だろ……? 冗談だよな。ははは。
巫女:ねぇ、戦士。それって、どこの誰で、何したやつで、今、どこに居るの?
戦士:それは……。
巫女:賢者、知ってる?
賢者:ん、知らない。
巫女:何でも知ってる賢者がそう言うんだから、誰も知らないのよ。
戦士:いや、いやいやいや、いやいやいやいや、おかしいだろ! そんなの!
巫女:ああ、あんた、さっき一回死んだもんね?
戦士:え? そうなのか?
賢者:戦士、直した。
巫女:だから、きっと、夢でも見てたのよ。
0:間。
巫女:ねぇ、ほんとにいらないの? あんた?
戦士:な、何が?
巫女:地位、名誉、財産、英雄の称号。
戦士:そんなの、あいつとの友情に比べたら……!
巫女:ああ、そうね。それに、……女。とか。
戦士:…………!
巫女:どうするの? 戦士――いえ。
0:間。
巫女:英雄、不死身の戦士さん?
戦士:は、はは、ははは、はははは、ははははは! ははははははははははははははははははははは! ああ、そうだ! 漸く目が醒めた。おれは、魔王を倒した三英雄が一人、不死身の戦士だ!
巫女:だ、そうよ賢者?
賢者:ん。私は、魔王を倒した三英雄が一人、奇跡の大賢者。
巫女:私は、そうね――魔王を倒した三英雄が一人、聖剣に選ばれし稀代の神子。そしてその身には、次なる英雄を宿す。
0:三人、顔を見合わせる。
戦士:はははははははははははは――!
巫女:ふふふふふふふふふふふふ――。
賢者:えへへ――。
0:三人の笑い声と共に、 《幕》
魔王と勇者の仲間達が繰り広げる最終決戦系ハイテンション茶番劇。
笑いあり、詠唱あり、一応ダークなオチもある作品となっております。
なお、戦闘描写はほぼありません。
別で二人芝居バージョンもあり、こちらは仲間ありのバージョンです。
前者より茶番強め、オチ暗め、少々下ネタありですので、クセが強くなっております。
また、台詞の分量に結構偏りがあります。目安として勇者≧魔王>>仲間達くらいです。
多くの方に楽しんで貰えるよう振り仮名(ふりがな)を多めに配置しています。逆に読みにくいかも知れませんが。ふりがなの箇所は感覚ですので、痒(かゆ)いところに手が届かないなんて事態も儘ありますがご了承くださいませ。
〈あらすじ〉
強いけどやべぇ勇者一行と、追い詰められた瀕死のツッコミ魔王。残された力を振り絞り戦おうとする魔王に、勇者は「こいつ自爆するつもりじゃね?」という疑いをかかける。否定する魔王、しかしついに勇者が、それを完封するため詠唱を始め、封印の奥義『無限牢獄』を発動する。開かれた次元の穴に吸い込まれ始める魔王。しかし勇者は魔王が未だ自爆しようとしている疑惑を抱いたまま、こうなれば道連れにするしか無いと、諸共に穴に飛び込み伝説となる覚悟をするのだった。そしてその後の仲間達のお話。
※注意
読み方とかアドリブはお任せします。楽しく演じていただければ幸いです。
性別・キャラの名前も変えて良しです。魔王とか勇者っていう表記なので、好きに名前つけてくれても良いかもですね。
詠唱は要練習のことお願いいたします。めっちゃ詰まると思うので。
0:※台詞中にト書きを〈 〉で示しているヶ所があります。
0:また( )のヶ所はふりがなです。わりと多めになっております。
0:
0:満身創痍(まんしんそうい)の魔王に剣を向ける勇者一行。
勇者:お前の野望もこれで終わりだ! 観念しろ、魔王!
戦士:流石勇者だ!
魔王:くはは、もはやこれまでか。流石は彼の勇者の末裔と言ったところか。だが、我は魔王。絶望をその身で体現せし恐怖と破壊の根源にして、世界を力で統べる者。この程度で、屈しはしない。貴様とてそうであろう? 勇者よ。貴様の力、しかと見定めた。残る力の全てを使い尽くし我が身果てるまで踊り明かそうではないか! くははははは! もう小細工は必要な――
勇者:――巫女、戦士、賢者! 下がれ! 魔王が何かする気だ!
巫女:え?
戦士:なんだって!
賢者:分かった、逃げる。
魔王:いや、小細工は――
勇者:ダメだ! きっと自爆するつもりだ!
魔王:いや、しないが!
勇者:おのれ卑怯な魔王め! 何があっても僕達を帰さないつもりだな?
戦士:往生際の悪いやつだ! 潔く負けを認めろ!
魔王:え? いやいや、違うぞ? 負けは認めんが、正々堂々真っ向からこの身が果てるまで闘い尽くすと……え、そう言ったよな?
巫女:え? そうなんですか。
賢者:お前、もしかして、良いやつ?
魔王:まぁ、いいやつとは一概に言えないが、そんな非道な真似はしないと誓う。我に女子供を虐殺する趣味は無い。
巫女:そうなんだ~!
賢者:紳士なのね。
勇者:耳を貸すなみんな! きっと時間稼ぎだ!
戦士:なんだって! よくも俺の純粋な心を弄びやがったな!
魔王:それは知らんけど、そんな姑息なことはせん!
勇者:感じるぞ、その魔力の高まり、空間が震えている。
巫女:じゃあやっぱり……?
勇者:きっと全ての魔力を吐き出してこの城諸共吹っ飛ばすつもりなんだ。戦士:なんだって! そうなったら俺達一巻の終わりだぜ!
賢者:怖い。
巫女:そんな……!
勇者:もしそうなったら、多分勇者である僕はなんとか生き残るが、みんなは……。
賢者:がっでむ。
巫女:嘘だよ、そんな!
戦士:え、なぁおい勇者、俺達どうなっちまうんだよ、教えてくれよ。
勇者:木っ端微塵(こっぱみじん)の肉片だ。
巫女:そんなの嫌!
戦士:この、めっちゃ強い不死身の俺でもか?
勇者:戦士、君は、多分真っ先に死ぬ。というか君は全く不死身では無い。
戦士:え、でもトロールにぶん殴られて煎餅になったときも……。
賢者:私の回復のおかげ。
勇者:その非じゃ無い。誰が誰とも分からない姿に成り果てて、生き残った僕がそれを故郷に待たせている大切な人たちに持ち帰る頃には、きっと……ぐずぐずに腐って蛆が湧いて、少し溶けていて、それから……。
巫女:っひぃ!
戦士:もうやめてくれ! 晩飯が食べれなくなる!
賢者:ちょっと美味しそう。
勇者:え?
魔王:え?
戦士:え?
巫女:え?
賢者:きゃぁこわい。
勇者:……そして僕らの名誉や尊厳さえも奪い去ろうと言うんだお前は!
戦士:見損なったぜ魔王!
巫女:そうよ、酷すぎるよ!
賢者:戦士、ぐずぐずに、腐る。えへへ。
0:間。
賢者:きゃぁこわい。
勇者:くっ! 勝てないと見るや僕達に最期まで傷跡を残そうとする! くっそぉ! この卑劣漢! 鬼畜! 外道! トロールのクソ!
戦士:ドラゴンのゲロ!
巫女:スケベ大魔王!
賢者:調子に乗ってるときの戦士。
勇者:だからお前は魔王なんて呼ばれるんだ! このゴキブリ野郎!
魔王:えーめっちゃ罵(ののし)られてる……。今日で一番ダメージでかいんだけど。あとゴキブリとか、トロールのクソ呼ばわりは結構真面目に傷つくぞ。あと別にスケベでは無い。あのさ、散々な言われようだが、そこまでする魔力は流石に残ってないぞ。というか、出来るんならもうやってる。なんで罵られてから自爆するんだ。言われる前にやるわ。
勇者:嘘だ! お前は第七形態まであるとさっき倒した側近が言ってたぞ! あいつが嘘を言っていたというのか!
戦士:俺も聞いたぞ! なぁ二人とも!
巫女:言ってたよ! ぬあはははは! わたくしごときを倒せたくらいでいい気になるんじゃありません! 魔王様はもっと強く、気高く、美しいのです。私の変身は二回でしたが、魔王様は素でも強いけどなんと七回も変身できるのです。魔族は不滅です。アイルビーバックする! 一度変身する度にその強さは倍。二回で更に倍、更に倍。更に更に倍。魔王様の恐ろしさ、とくと味わうが良い! ぬはははははは! げほっ! げっほ! って!
戦士:間違いねぇ!
賢者:嘘。その時、死んでた。戦士。ぐちゃぐちゃ。
戦士:え? 俺はぴんぴんしてるぞ?
賢者:そうだね。
魔王:それ、あいつが言ってるだけだから。あと我、マジで変身とかできないタイプの魔王だし。プロパガンダってやつ? 魔族的に変身って燃える要素の一つだから、……今でもそれちょっとコンプレックスなんだよ。
賢者:わかる。
勇者:騙されちゃいけない! 変身されるぞ!
魔王:だからしねーって。なんで隙を見て変身するんだ。するにしても堂々とするわ。……出来ないけど。貴様ら、なんであいつのことは信用するのに我のことは頑(かたく)なに信じないの? ちなみに第七形態どころか変身一つも見せてないのに自爆する必要ある? 最大で百二十八倍強くなれるんだよ? それで闘えるじゃん☆
戦士:あ、確かに!
勇者:そんな言葉に惑わされるか! みんなは絶対僕が守る!
戦士:は! 流石だぜ勇者!
巫女:勇者様……!
賢者:ゆうしゃ。
魔王:だめだ此奴(こやつ)、話通じねぇ……。まず疑うべきは此奴なんじゃだろうか。
勇者:っく、こうなったら切り札を使うしか無い!
賢者:アレを使うの?
巫女:ダメだよ勇者、あの技は……!
勇者:でもそれしか無いんだ!
巫女:勇者……!
賢者:わかった。
戦士:勇者、アレって何……?
魔王:え、お前まだなんか使えるの? もう正直嫌なのだが貴様の相手するの。魔王だけど逃げちゃおっかな……。あーでも絶対追いかけてくるよなこいつ。瞬間移動とかしてたし。魔王の我が言うのもなんだが人間やめてるわマジ。
賢者:同意。
魔王:貴様、ちょくちょく共感してくるな。
賢者:気のせい。
勇者:みんな! 僕はこいつを次元の牢獄に封印する!
魔王:おま……そんなことできんの? 引くわ。
戦士:流石勇者だぜ!
勇者:僕諸共にこいつを封印する!
戦士:なんだって! おいほんとなのか勇者!
魔王:そのリスク負う必要ある? 腰の聖剣飾りか?
賢者:飾り。
魔王:肯定された。
巫女:でも、勇者の腰のアレは、すごい。
魔王:お前、突然何言うとるんだ。
戦士:ああ、勇者のアレはすげー! 俺が保証する!
魔王:すんな。さっきまで貴様察し悪い阿呆だったくせに下ネタは敏感に拾うの何?
勇者:ある!
魔王:おわ、びっくりした。……初めてちゃんと問いに答えたな貴様。いやでも、剣振った方が絶た―
勇者:我は緑青(ろくしょう)、寄辺(よるべ)なき彼岸揺蕩(ひがんたゆた)う安寧(あんねい)なる時の神クロニアに誓願(せいがん)す――
魔王:あ、なんか詠唱(えいしょう)始まった。しかも千年近く生きてきて全く聞いたことねぇやつ。なんだと! その技は! すら言わして貰えないやつ。こいつどこまでも魔王殺しだわ。勇者だけに。あ、今の上手くね?
戦士:なぁ、賢者。勇者何ぶつぶつ言ってんの?
賢者:…………。
戦士:無視?
巫女:っし! お経は静かに聞くの!
魔王:お経じゃねぇよ呪文詠唱。緊張感どうした。
勇者:絶え間なく流るる砂海の一握(いちあく)、無垢(むく)の連星墜つるは宵(よい)の調べ、眺むるは月の色を知らぬ魚、今生を謳歌(おうか)せし座して待つ死人、煌(きら)めき、囁(ささや)き、屯(たむろ)する、無為の骸に願わぬ白日(はくじつ)を瞳に宿らす農夫、移ろわぬ黄金(こがね)の饗宴(うたげ)に尽きぬ真紅の神酒(みき)を注(つ)ぎ、杯(さかずき)持って願い奉(たてまつ)る漆黒の乙女の白き指を携える深遠なる紺碧(こんぺき)の獅子(しし)、番(つが)い求むる隻腕(せきわん)の影法師(かげぼうし)に抱かれ、染め上げられし終焉(しゅうえん)を彩る松明(たいまつ)の産声に涙を湛(たた)えず、白銀(しろがね)の鼓(つづみ)を打つ鋼の蛇の尾を締め上げて――
魔王:なっが。まだ?
勇者:鳴り止まぬ鼻唄こだまする石庭(せきてい)に浮かぶ無情の蜉蝣(かげろう)、無償の愛を知らぬ毛糸玉、無常の歓喜を語り継ぐ連綿(れんめん)たる木枯(こが)らし、流転(るてん)、前足を欠いた犬に見初(みそ)められ、片端を不実と契(ちぎ)る紫煙(しえん)の蔓(つた)、前人未踏を掲げるは愚者の塔、誘う半身木陰の土に根を下ろし、困窮(こんきゅう)する黒猫、置配(おきはい)を薦(すす)める密林、赤き乳に浮かぶデンプン質の蛙(かわず)の卵、長蛇の列を作りて悩ましめる人々を救う――
魔王:ん?
勇者:無限牢獄《タピオ・カミル・クーテ》!
魔王:そんな必殺技があるか!
0:魔王の背後に穴が出現。
0:「ずぞぞぞ」というような音が響く。
魔王:っく、ぬおぉ! 吸い込まれる……?
巫女:出た! 勇者の《タピオ・カミル・クーテ》!
戦士:すげえ……。アレが《タピオ・カミル・クーテ》!
賢者:《タピオカ・ミルクテー》
魔王:連呼、すんなぁ!
勇者:それは次元の穴だ、吸い込まれると二度と出てくることは出来ない。どんな魔法を使おうが無駄だ! 魔王、お前の悪あがきもこれで終わりだ!
魔王:なんだかすごく疑わしいが、成る程、嫌な気配がしおる! 流石勇者の秘奥(ひおう)と言ったところか。
戦士:流石だぜ勇者!
魔王:まぁ、その腰の聖剣振り抜いた方が百倍速く片付いたと思うが。
巫女:腰の……聖剣。
魔王:お前それでよく我にスケベ大魔王とか言ったな。
巫女:――そうよ、私こそ真のスケベ大魔王。
戦士:……ゴクリ。
賢者:こっちは、スケベ魔人。
魔王:お前らさぁ、空気読も? 我を見習えよ。
勇者:何を訳の分からないことを言っている魔王め! この期に及んでまだみんなを惑わせる気か! 腐っても魔王、悪徳の王め!
魔王:訳分からんのも惑わせてるのも腐ってるのも貴様らの方では……? その言葉そっくりそのまま返してやるわ。っく、だが、ああ、体が、引き寄せられていく……! 悔しいが、心底悔しいが、実力だけは、本物だ。もはや、本当にここまでだな。ああ、魔王たる者、もっと、ちゃんとした形で、例えば激闘の果てにあえなくも勇者に打ち倒されるとかそういう感じで、やられ、たかっ……た。ぐふ。しかし、まぁ、こうやって吸い込まれたり消滅してられるのも、魔王っぽい、のか? っふ。
勇者:みんなさがれ!
魔王:え?
勇者:魔王がどうしても自爆したいらしい。
戦士:なんだって!
巫女:なんてしぶといの!
賢者:……飽きた。帰って良い?
魔王:お前自由か。
賢者:うん。
魔王:お前。……いや、え? なわけないだろ?
勇者:僕がこの身を犠牲にしてでも食い止める!
戦士:流石だぜ勇者!
魔王:いや、いらんいらん。ほっといてもこのまま普通に「ずぞっ!」って吸い込まれるよ、我。というか多分爆風ごと吸い込まれるから、無駄に爆散するだけだし。そういうのは、せん。
賢者:わかりみ。
魔王:もはや我と普通に会話しとるな……。
勇者:みんな! 惑わされちゃいけない! 僕らを油断させてから、纏めて葬り去るつもりなんだ。
戦士:なんて汚いやつなんだ!
巫女:そんなの酷い!
魔王:お前らの中の我、ちょっと姑息(こそく)すぎない? しないよ?
勇者:やはり、ここは僕が抑えるしかない! 僕があいつと一緒に飛び込んで永遠に封印するしか無いんだ。
魔王:いらん、来んな。
巫女:こんなやつのためにあなたがそこまですること無いよ勇者!
魔王:こんな奴らのためにそこまでする必要も無いが。
戦士:全く以てその通りだぜ!
魔王:ぶっちゃけお前、自分の意思殆ど無いよな。
賢者:私、自分の身、守れる。グッド・ラック。
魔王:……だろうな。
勇者:戦士! 賢者! 巫女! みんな、今までありがとう。
戦士:勇者!
賢者:勇者さま!
巫女:ゆうしゃ。
魔王:あ、なんか始まったわ。だり。
勇者:戦士、君は誰よりも明るくてすごく良いやつだ。君というやつが居てくれる旅は本当に心強かった。みんなが挫けそうな時も絶対最期まで諦めない、バフはかからないけどみんなを励まして、奮(ふる)い立たせてくれたから賢者の回復魔法のおかげでまた立ち上がれた。君は本当に誰よりも心だけは強い男だ。この旅でそれを僕は感じた、ありがとう。
戦士:へへ、照れるじゃねぇか……!
魔王:いや、さりげにディスってない?
勇者:賢者、君はなんかよく分からないけどたぶん良いやつだ。あんまり喋らないし、一切戦闘には参加せず、常時防御魔法張りながらいつでもにこにこしてるからマスコット担当なんだと思う。実際何度も君の回復魔法には助けられてきた。戦士が。君がいなかったら戦士は死んでたと思うし、蘇生されすぎて顔とか人格とかちょっと別人になってる気がするけど。とにかく、君がいないと僕らはここに立つことが出来なかった。ありがとう。
賢者:ん。どういたしまして。
勇者:あと、ちょっとエロい。ありがとう。
魔王:最低か、貴様。というか我はいつまでこうして吸われていれば良いんだ。なんか慣れてきたわ。
勇者:巫女、きみはマジで可愛いくてすげーエロいから良いやつだ。他に言うことはない。
魔王:おい。
勇者:あ、でも――愛してる。
巫女:勇者さま!
魔王:小娘よ、貴様のポジションそれで良いのか……?
巫女:勇者さまの貞操とメインヒロインは私のモノ。
魔王:……ほんと、貴様と貴様のパーティクソだな。
勇者:みんな、ごめんよ。一緒に帰るって約束したのに、僕はここまでみたいだ。でもどうか忘れないで欲しい僕という『勇者』がいたことを。僕がこの身を挺(てい)して、魔王を次元の狭間(はざま)に閉じ込め、この世界を守ったということを。
戦士:俺は忘れねぇ流石だぜ……、勇者!
勇者:ああ、忘れないでくれ、戦士。そして何より、身命を賭して君達の命を守ったということを、みんなに伝えて欲しい。この聖剣を持ち帰り、その証としてくれ。僕がいかに素晴らしく勇敢で格好良くて良いやつだったかということを……、頼む。これは僕の最期の願いだ。伝説を語り継ぐのは君達とその子々孫々(ししそんそん)だ。
0:勇者、聖剣を仲間達に渡す。
0:戦士、受け取ろうとする。
戦士:相棒の頼みは、断れねぇよな。任せろ俺が――、
巫女:――どけ。
0:巫女、戦士を殴る。戦士死亡。
0:巫女、聖剣を受け取る。
巫女:必ずや。勇者さま。
勇者:頼んだよ、巫女。
賢者:えへへ。……蘇生《リ・ライズ》。
0:戦士が蘇る音。
魔王:お前ら頭湧(わ)いてんのか? あ『ゆうしゃ』ってそういう? 頭、湧いてる者で『湧者』なの? お前、要(よう)は伝説になりたいだけかよ。
勇者:待たせたな魔王。
魔王:それな。
賢者:それな。
勇者:決着をつけよう。
魔王:おまいう。
勇者:僕はみんなの期待を背負ってここに立っているんだ。
魔王:あくしろよ。
賢者:それな。
勇者:世界と仲間のために僕はここでお前と一緒に散る!
魔王:嘘吐けてめぇのためだろ。
勇者:みんな、僕に勇気と名声を。
魔王:本音もれてんぞ。
戦士:当たり前だ!
賢者:だが断る。
巫女:どうか勇者さまに、私の愛と力を!
魔王:やっと祈ったぜ、この巫女。
0:勇者、魔王に向かって走り出す。
勇者:うおおおおおおおおおおおおお!
戦士:いけぇ! 勇者!
巫女:勇者さまぁ! 愛してる!
賢者:いってら。
勇者:そして僕は伝説になる。うおおおおおおおおおおおおお!
魔王:……はぁ。絶対回避《ファントム・オー》。
0:魔王、勇者の突進をひらりと躱す。
勇者:え?
戦士:は?
巫女:あ。
賢者:草。
魔王:あばよ。
0:魔王、勇者の背中を蹴飛ばし、次元の穴に落とす。
0:勇者を吸い込む「ずぞっ!」っという音。
魔王:ああ、清々したわ。
0:間。
魔王:何見てんだよ。
巫女:っひ!
戦士:そんな……。
賢者:絶対防御《アルテマ》
魔王:……安心しろ、行くよ。くっそ腹立つけどな。〈次元の穴に入ろうとして〉ああ、待て。一つだけ言っておく。
戦士:な、なんだ?
魔王:貴様らは歴史の生き証人(しょうにん)だ。今ここで起きたことをどう語り継ぐかは貴様達次第。死人に口無し。あいつはもういない、俺ももうすぐここを去る。ならば、この顛末(てんまつ)を何とする?
戦士:つまり、どういうことだ?
魔王:賢明(けんめい)にして懸命(けんめい)なる人間共よ!
戦士:俺今褒められた?
巫女:黙れ。
魔王:我は魔王! 彼の者の絶望をその身で体現せし恐怖と破壊の根源にして、世界を言葉で統べる者。にっくき勇者に一矢(いっし)報(むく)いる一世一代最期の嫌がらせを賜(たまわ)るぞ。心して聞くがよい――。
0:間。
魔王:「なぁ、お前達。『英雄』に、なりたくはないか?」
0:間
魔王:あとは……分かるな? ふはははははははははははははは。さらばだ。
0:仲間達と聖剣を残して「ずぞっ!」という音が響く。
戦士:――どうする?
巫女:どうするって、そりゃあ……。
賢者:なる? 英雄。
0:間。
賢者:なる? 英雄。
戦士:英、雄。
巫女:……いなかった。
戦士:え?
巫女:最初から『勇者』なんて男は、居なかった。
戦士:巫女……?
巫女:ねぇ? 賢者。
賢者:……古来から、勇者『一行』は、三人パーティー。
巫女:素敵な響きね、あなたも乗るってことで良いのね?
賢者:おもしろければ。
巫女:約束するわ、きっと、ね。
戦士:お、おいおい。ははは、待てよ、冗談だよな、いや、だってよ……? 勇者だぜ、あいつとの約束……。良いやつだったんだぜ?
巫女:勇者? 誰? それ、そんな人知らないけど。
戦士:おいおいおいおい……。
巫女:賢者、知ってる?
賢者:のー。
戦士:なぁ、冗談だろ……? 冗談だよな。ははは。
巫女:ねぇ、戦士。それって、どこの誰で、何したやつで、今、どこに居るの?
戦士:それは……。
巫女:賢者、知ってる?
賢者:ん、知らない。
巫女:何でも知ってる賢者がそう言うんだから、誰も知らないのよ。
戦士:いや、いやいやいや、いやいやいやいや、おかしいだろ! そんなの!
巫女:ああ、あんた、さっき一回死んだもんね?
戦士:え? そうなのか?
賢者:戦士、直した。
巫女:だから、きっと、夢でも見てたのよ。
0:間。
巫女:ねぇ、ほんとにいらないの? あんた?
戦士:な、何が?
巫女:地位、名誉、財産、英雄の称号。
戦士:そんなの、あいつとの友情に比べたら……!
巫女:ああ、そうね。それに、……女。とか。
戦士:…………!
巫女:どうするの? 戦士――いえ。
0:間。
巫女:英雄、不死身の戦士さん?
戦士:は、はは、ははは、はははは、ははははは! ははははははははははははははははははははは! ああ、そうだ! 漸く目が醒めた。おれは、魔王を倒した三英雄が一人、不死身の戦士だ!
巫女:だ、そうよ賢者?
賢者:ん。私は、魔王を倒した三英雄が一人、奇跡の大賢者。
巫女:私は、そうね――魔王を倒した三英雄が一人、聖剣に選ばれし稀代の神子。そしてその身には、次なる英雄を宿す。
0:三人、顔を見合わせる。
戦士:はははははははははははは――!
巫女:ふふふふふふふふふふふふ――。
賢者:えへへ――。
0:三人の笑い声と共に、 《幕》