台本概要

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タイトル 胸熱くする劇しい愛。
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 ある仲睦まじい夫妻の、愛と夕食を巡る劇しいお話。
※本作品はフィクションです。実在の人物、団体とは関係ありません。また、毒物やそれに類するものを取り扱うシーンがありますが、危険ですので絶対に真似しないで下さい。
……という但し書きをつけておりますがコメディです。

◆あらすじ◇
妻の小百合子は夕食の献立を考えながら、ふと、夫の薔薇次郎の殺し方を考えていた。折り重なる二人の愛と回想シーン。果たして夕食はどうなってしまうのか。

◇注意◆
アドリブ等ご自由にどうぞ。性別も……逆転とかしちゃっても良いんじゃ無いかな。
ルビ等は振っておりませんのであしからず。調べるか、ノリで乗り切ってくれると幸いです。
ちなみにタイトルは「むねあつくするはげしいあい。」と読みます。
これより難しいのは出ないと思いますが気を抜かないで……!!
長さは5000文字程度なので、20~25分程度でしょうか。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ユリ 50 劇 小百合子。(げき さゆりこ)ロマンチストで純真無垢な妻。 食事に愛を込めて毒を盛る。知的好奇心と愛が深い。 ※回想とモノローグと呟きがありますが、特に区別はしてませんのであしからず。
バラ 38 劇 薔薇次郎。(げき ばらじろう)情熱的でロマンチストな夫。 愛(毒)の込められた食事を平らげる。心が広く、喩えが大雑把。 ※回想でのみ登場。シーン全体の回想と(回想)表記があります。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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ある仲睦まじい夫妻の、愛と夕食を巡る劇しいお話。 ※本作品はフィクションです。実在の人物、団体とは関係ありません。また、毒物やそれに類するものを取り扱うシーンがありますが、危険ですので絶対に真似しないで下さい。 ……という但し書きをつけておりますがコメディです。 ◆あらすじ◇ 妻の小百合子は夕食の献立を考えながら、ふと、夫の薔薇次郎の殺し方を考えていた。折り重なる二人の愛と回想シーン。果たして夕食はどうなってしまうのか。 ◇注意◆ アドリブ等ご自由にどうぞ。性別も……逆転とかしちゃっても良いんじゃ無いかな。 ルビ等は振っておりませんのであしからず。調べるか、ノリで乗り切ってくれると幸いです。 ちなみにタイトルは「むねあつくするはげしいあい。」と読みます。 これより難しいのは出ないと思いますが気を抜かないで……!! 長さは5000文字程度なので、20~25分程度でしょうか。 0:胸熱くする劇しい愛。 : 0:◇あらすじ◇ 0:妻の小百合子は夕食の献立を考えながら、ふと、夫の薔薇次郎の殺し方を考えていた。折り重なる二人の愛と回想シーン。果たして夕食はどうなってしまうのか。 0:※本作品はフィクションです。毒物やそれに類するものを取り扱うシーンがありますが、危険ですので絶対に真似しないで下さい。 : 0:◆登場人物◆ ユリ:劇 小百合子。(げき さゆりこ)ロマンチストで純真無垢な妻。 ユリ:食事に愛を込めて毒を盛る。知的好奇心と愛が深い。 ユリ:※回想とモノローグと呟きがありますが、特に区別はしてませんのであしからず。 バラ:劇 薔薇次郎。(げき ばらじろう)情熱的でロマンチストな夫。 バラ:愛(毒)の込められた食事を平らげる。心が広く、喩えが大雑把。 バラ:※回想でのみ登場。シーン全体の回想と(回想)表記があります。 : 0:◇◆◆◇ : 0:ユリが包丁を持って台所に立っている。 : ユリ:私、劇 小百合子は夕食の献立を考えながら、ふとあの人の、愛する夫、劇 薔薇次郎さんの殺し方を考えていました。 : ユリ:でも勘違いしないで欲しいのです。 ユリ:別段、あの人に怨みがあるとか、耐え難い不満があるとか、殺された親の仇討ち……なんて、そんなロマンチックな何かがあるわけではありません。 ユリ:いえ、ロマンチックではあるのかも知れません。 : ユリ:そうです。私はただ純粋に、あの人がどうしたら死ぬのか知りたいのです。 ユリ:だって、万が一にも何かの弾みであの人が死んでしまったら、私の生活は立ちいかなくなりますし、何よりとても悲しい。 ユリ:私はあの人をとってもとっても愛している、心から。 ユリ:ですから、予期せぬ突然の別れに出会うことがありませんように、あの人はどうすれば殺せるのでしょう? と考えるのは、あの人が満足する美味しい夕食を作るのと同じように、当然のことではないでしょうか? ユリ:そのように、私は思うのです。 : ユリ:でも私は血を見るのが苦手ですから、殴ったり切りつけたりするのはちっとも向いていない。 ユリ:それにあの人は意外に筋肉質ですから、刃の通りが悪くって、必要以上に傷つけてしまうかも知れないし、そんなのかわいそうですし、何より包丁の刃が傷んでしまう。 ユリ:そうなってしまったら、私はあの人に美味しい料理を振る舞うことが出来なくなってしまう。 : ユリ:それはいけません。 : ユリ:そしてある日の夕食、私は思いついたのです。 : ユリ:毒ですわ。 : 0:回想。ある日の夕食。 : バラ:明日の夕食? ユリ:そうですわ、薔薇次郎さんは明日何が食べたいですか? バラ:むう。……ご飯を食べながらご飯のことを考えるのは難しいね。はっはっは。今、僕の胃袋と頭とこの胸は、小百合子さんの作ってくれたインド人もビックリするような芳しさのスペシャルカレーで満たされているからね。思いつかないね。いや、いつもありがとう、小百合子さん。 ユリ:まぁ、薔薇次郎さんったら、そんなに褒められると照れてしまいますわ。 バラ:照れてる君の姿に僕は照れてしまうね! ああでもそうだね。君のカレーは日本一、いやアジア一だよ! ユリ:このカレー、祖父から教わった英国式なのですが、細かいことですわ。ええ、薔薇次郎さんにそう言ってもらえてうれしいです。私、もっと精進しますわ。 バラ:おや、それは楽しみだ。楽しみでまたお腹が空いてきてしまうね。はっはっは。 ユリ:おかわりもたくさんご用意してありますから、どんどん食べて下さいね、薔薇次郎さん。 バラ:それは嬉しい。やぁ、僕は幸せ者だよ、小百合子さん。世界一、いや、地球一、太陽系一、銀河一、銀河団一、宇宙一、森羅万象一の幸せ者さぁ! ユリ:それは私の方ですわ。 バラ:じゃあ僕らはきっと、森羅万象一幸せなのさ! ユリ:そうですわね! バラ:ああそうさ! おっとと、僕らの愛はビッグバンのように熱くって、この宇宙が消えてしまうほどの時が過ぎたって冷めることは無いけれど、君が作ってくれたカレーはほんのちょっぴり冷めてしまうかも知れない。いや、冷めても美味しいのだけれど、それは作ってくれた君に、とっても忍びないから、しっかり食べてしまわないとね。うむ、でもとびっきりの芸術品だから食べてしまうのも惜しいような気はしてしまう。これは宇宙の神秘よりも難しい問題さ! ユリ:そんなの簡単ですわ。このカレーはあなたの為を思ってお作りしましたの、ですからあなたに食べられることが存在意義なのですわ。 バラ:レゾンデートルだね。 ユリ:ええ、レゾンデートルですわ。 バラ:ああ、僕は本当に幸せさ。君のそばに居られることが僕のレゾンデートル。 ユリ:ええ、私もとっても幸せですわ。あなたのそばに居られることが私のレゾンデートル。ところで、もっと難しい問題の方はいかがなさいます? 薔薇次郎さん。 バラ:うん? 難しい問題? ユリ:薔薇次郎さんは明日の夕食、何が食べたいですか? バラ:おっと、失念していた! そうだったね、これはとても悩ましい問題だ。何故なら小百合子さん。君の作るお料理はどれも宇宙創成よりも素敵だからね。でも、僕の答えは決まっているよ。 ユリ:あら、何ですか? : バラ:ハンバーグ! : ユリ:ハンバーグ? バラ:そう、ハンバーグ! この世の全てが詰まった魔法の料理! 僕は肉汁たっぷりのお肉とナツメグの風味が大好きなんだ! ユリ:ふむ。ハンバーグ……分かりましたわ。 バラ:楽しみだよ、ああ、楽しみで夜も眠れないね! きっと僕は明日の仕事中もハンバーグと君のことで心がいっぱいだろうね、何故なら―― : 0:台所。 : ユリ:そういえば、ハンバーグに入れるナツメグなどの香辛料は、多量に摂取すると中毒症状を引き起こして死に至ることがある、と聞いたことがありましたの。 ユリ:ですから私はさっそく、翌日の夕食にとりあえず物は試しと五瓶ほど、つなぎの代わりに入れてみました。 ユリ:するとなんということでしょう、ハンバーグのタネからは妙に甘いナツメグの匂いが香り立ちましたわ。 ユリ:タネを捏ねる私の食欲はこれ以上無いほど削がれてしまいましたけれど、あの人はナツメグの風味が大好きだと言っていましたから、きっと喜んでくれるはず。 ユリ:実際、その夕食のハンバーグをあの人は、 : 0:回想。ある日の夕食。 : バラ:ああ! なんということだろう! 小百合子さん! このハンバーグに僕は大地を感じる。力強い牛のエネルギーと吹き抜けるようなナツメグの風味! オウ! エクセレンッ! なんて美味しいんだ! こんな素晴らしいハンバーグ、僕はこれまでの生涯で出会ったことが無い! この出会いはそう、まるで君と出会ったあの日の衝撃に似ている。それは恰も大地の誕生だ、お肉とお肉のジャイアントインパクト。お肉のうま味とそこから弾き出される、スパイシーな風味! これはそう、原始惑星同士の衝突で生まれるハンバーグという地球なのさ! そんな素晴らしいハンバーグを生み出せるなんて、っは!? 小百合子さん! 君はやっぱり女神な―― : 0:台所。 : ユリ:と、そんな感じのことを言って、もりもり食べていました。 : 0:回想。夕食の続き。 : バラ:おやおや、どうしたんだい? お箸が動いていないね、小百合子さん。ほんとにどうしたんだい? っは!? もしやどこか具合でも悪いのかい?! ユリ:いえ、ちょっと食欲が……。 バラ:食欲が?! 病気なのかい!? ああ……! それは大変だ! ドクターヘリ……! いや、お客様ぁ! お客様の中にブラックジャック先生はいらっしゃいませんかぁ!? お願いです小百合子さんを助けて下さい! 五億までなら用意してみせます! 小百合子さんの命を救ってくれるならこの命だって投げ出しましょう! お願いです、小百合子さんを、小百合子さんを! ユリ:ば、薔薇次郎さん、そ、そんなに心配しなくても大丈夫です! バラ:で、でででででももも、しょしょ食欲がががが! ユリ:大丈夫です! あの、えっと、その、えっと、……だいえっと……。 バラ:へぁ?! ユリ:お恥ずかしいのですけれど、私、今、ダイエットをしていて……。 バラ:ダイエット! そうなのかい!? ユリ:そうなのです。 バラ:な、なんだ。そうなのかい安心した! ユリ:安心して下さい。 バラ:はっはっは、僕の早とちりかぁ、なぁんだ、よかったー。 ユリ:心配させてしまってごめんなさい、薔薇次郎さん……。 バラ:良いんだよ、こちらこそ御免ね、デリカシーの無い発言をした挙げ句、とんでもない大騒ぎしちゃって……。でも小百合子さんはすごいなぁ! ユリ:え? どうしてですか? バラ:その美に対してのストイックさ! まるでプロアスリートのようじゃあ無いか! 僕にはとっても真似できない! ほら、見ておくれよ、このぽよんぽよんのお腹を。 ユリ:いえ、とっても割れていると思うのですが。 バラ:そんなことは無いよ。君の作ってくれるご飯を熊のように食べる僕は、冬ごもりの熊のようだろう? ユリ:ええ、がっしりしていて素敵ですわ。 バラ:ああ、小百合子さんは優しいんだね。 ユリ:薔薇次郎さんだって。先程は心配してくれてありがとうございます。 バラ:こちらこそ、君が元気で居てくれてありがとう、さ。……おっと、安心したらお腹が空いてきてしまったよ。もし良かったら、その、少し意地汚いかもだけれどね、君の分のハンバーグ、その、分けてもらってもいいかな? ユリ:ふふふ。ええ、全部どうぞ。このハンバーグはあなただけのために作ったハンバーグですもの。 バラ:愛情がたっぷり入ってるんだね。 ユリ:ええ、それにナツメグもです。 バラ:そうなのかい? 嬉し過ぎて死んじゃうね! ユリ:……まぁほんと? バラ:君の料理を食べて死ねるなら、僕はもう思い残すことは無いさ! ユリ:そう言ってくれて嬉しいですわ、薔薇次郎さん。私、もっともっと腕を上げて、必ず薔薇次郎さんを天国に送ってみせます! バラ:はっはっは。君の料理を食べたから天国に行くのか、天国に行くから君の料理を食べるのか悩むところだね、でも君さえいれば僕は何も食べられなくって天ご―― : 0:台所。 : ユリ:その後、あの人は私の分もぺろりと効果音が聞こえてきそうなくらいあっさりと完食しました。 ユリ:けれど食後は特段変わった様子はなく、なんともありませんかと訊くと、 : 0:回想。夕食の続き。 : バラ:とっても美味しかったよ、それに何だか体調が良いんだ、今の僕は君のためならオリンピックで優勝することだって容易だろうね! やっぱりこれは愛の為せる技だね! いや、もしオリンピックに小百合子さんを愛するという種目があったなら、他の追随を許すことなくぶっちぎりの永世金メダリス―― : 0:台所。 : ユリ:と言っていました。私は思います。 ユリ:ナツメグの毒は、嘘かもしれません。 ユリ:それから私はこの前のカレーにインスピレーションを得て、ジャガイモの芽をふんだんにあしらったソラニンカレーを振る舞いましたが、 : バラ:(回想)ピリッとしていけるね、これはそう、喩えるならば君が初めて僕に声を掛けてくれたあのときのような刺激的な感ど―― : ユリ:とコメント。 ユリ:中華料理が食べてみたいとあの人が言ったので、レバニラならぬレバ水仙を作って、ついでに球根のピクルスもおつまみとして添えて出してみたのですが、 : バラ:(回想)これは……いける! : ユリ:の一言。 ユリ:その他、缶から手作りして任意にボツリヌス菌を繁殖させた自家製サバ缶も出してみましたが、 : バラ:(回想)この臭みにさえも愛情を感じる。良い! 良いよ! 小百合子さん! この臭みに僕はコスモを感じる! : ユリ:と汁まで啜り、 ユリ:ドラマとドラマの間のコマーシャルを見ていて思いつきました、ヒ素ふりかけは。 : バラ:(回想)…………ふむ。 : ユリ:無味無臭のはずなのに首を傾げながらも、あの人は無言でリピート。 : ユリ:残念ながら、どれもこれもあの人を満足させる威力は無かった様子なのですが。 : ユリ:それにしても、あの人は好き嫌いがちっとも無くって、どんなものをお出ししても、いつもこの上なく美味しそうに食べて下さるので、私としても大変作り甲斐があるなと思うのです。 : ユリ:ところで、そんな今日の夕食は色々考えましたけれど、お刺身なのです。 ユリ:あの人近頃は : バラ:(回想)近頃、小百合子さんが僕に作ってくれるお料理のレベルが指数関数的にめきめきと上がってきている気がしてね、体調もそうだし、何だか仕事を頑張ろうって気持ちも大きくなっていくんだ。おっと、もちろん君への愛も―― : ユリ:という風に、お仕事とっても頑張っている様子ですから、私もそんなあの人を影ながら応援するために精がつくような、お魚の内臓なんかも工夫して盛り合わせてみようかなと、挑戦してみるのです。 : ユリ:ちなみにお刺身だけでは少し寂しいので、つけあわせには珍しいキノコの煮物と、綺麗な百合科のお花の根っこを煎じたお茶、少しワイルドに野生のキャッサバポテトサラダを作ることにしました。 : ユリ:どの食材も仕入れるのに結構苦労したので、美味しそうにお料理を頬張るあの人の顔がとっても楽しみですの。 ユリ:ああ、薔薇次郎さん、早く帰ってきてくださいね。 ユリ:今度こそ、連れてってあげますから。 ユリ:ふふふふふふふ。 : 0:  《幕》

ある仲睦まじい夫妻の、愛と夕食を巡る劇しいお話。 ※本作品はフィクションです。実在の人物、団体とは関係ありません。また、毒物やそれに類するものを取り扱うシーンがありますが、危険ですので絶対に真似しないで下さい。 ……という但し書きをつけておりますがコメディです。 ◆あらすじ◇ 妻の小百合子は夕食の献立を考えながら、ふと、夫の薔薇次郎の殺し方を考えていた。折り重なる二人の愛と回想シーン。果たして夕食はどうなってしまうのか。 ◇注意◆ アドリブ等ご自由にどうぞ。性別も……逆転とかしちゃっても良いんじゃ無いかな。 ルビ等は振っておりませんのであしからず。調べるか、ノリで乗り切ってくれると幸いです。 ちなみにタイトルは「むねあつくするはげしいあい。」と読みます。 これより難しいのは出ないと思いますが気を抜かないで……!! 長さは5000文字程度なので、20~25分程度でしょうか。 0:胸熱くする劇しい愛。 : 0:◇あらすじ◇ 0:妻の小百合子は夕食の献立を考えながら、ふと、夫の薔薇次郎の殺し方を考えていた。折り重なる二人の愛と回想シーン。果たして夕食はどうなってしまうのか。 0:※本作品はフィクションです。毒物やそれに類するものを取り扱うシーンがありますが、危険ですので絶対に真似しないで下さい。 : 0:◆登場人物◆ ユリ:劇 小百合子。(げき さゆりこ)ロマンチストで純真無垢な妻。 ユリ:食事に愛を込めて毒を盛る。知的好奇心と愛が深い。 ユリ:※回想とモノローグと呟きがありますが、特に区別はしてませんのであしからず。 バラ:劇 薔薇次郎。(げき ばらじろう)情熱的でロマンチストな夫。 バラ:愛(毒)の込められた食事を平らげる。心が広く、喩えが大雑把。 バラ:※回想でのみ登場。シーン全体の回想と(回想)表記があります。 : 0:◇◆◆◇ : 0:ユリが包丁を持って台所に立っている。 : ユリ:私、劇 小百合子は夕食の献立を考えながら、ふとあの人の、愛する夫、劇 薔薇次郎さんの殺し方を考えていました。 : ユリ:でも勘違いしないで欲しいのです。 ユリ:別段、あの人に怨みがあるとか、耐え難い不満があるとか、殺された親の仇討ち……なんて、そんなロマンチックな何かがあるわけではありません。 ユリ:いえ、ロマンチックではあるのかも知れません。 : ユリ:そうです。私はただ純粋に、あの人がどうしたら死ぬのか知りたいのです。 ユリ:だって、万が一にも何かの弾みであの人が死んでしまったら、私の生活は立ちいかなくなりますし、何よりとても悲しい。 ユリ:私はあの人をとってもとっても愛している、心から。 ユリ:ですから、予期せぬ突然の別れに出会うことがありませんように、あの人はどうすれば殺せるのでしょう? と考えるのは、あの人が満足する美味しい夕食を作るのと同じように、当然のことではないでしょうか? ユリ:そのように、私は思うのです。 : ユリ:でも私は血を見るのが苦手ですから、殴ったり切りつけたりするのはちっとも向いていない。 ユリ:それにあの人は意外に筋肉質ですから、刃の通りが悪くって、必要以上に傷つけてしまうかも知れないし、そんなのかわいそうですし、何より包丁の刃が傷んでしまう。 ユリ:そうなってしまったら、私はあの人に美味しい料理を振る舞うことが出来なくなってしまう。 : ユリ:それはいけません。 : ユリ:そしてある日の夕食、私は思いついたのです。 : ユリ:毒ですわ。 : 0:回想。ある日の夕食。 : バラ:明日の夕食? ユリ:そうですわ、薔薇次郎さんは明日何が食べたいですか? バラ:むう。……ご飯を食べながらご飯のことを考えるのは難しいね。はっはっは。今、僕の胃袋と頭とこの胸は、小百合子さんの作ってくれたインド人もビックリするような芳しさのスペシャルカレーで満たされているからね。思いつかないね。いや、いつもありがとう、小百合子さん。 ユリ:まぁ、薔薇次郎さんったら、そんなに褒められると照れてしまいますわ。 バラ:照れてる君の姿に僕は照れてしまうね! ああでもそうだね。君のカレーは日本一、いやアジア一だよ! ユリ:このカレー、祖父から教わった英国式なのですが、細かいことですわ。ええ、薔薇次郎さんにそう言ってもらえてうれしいです。私、もっと精進しますわ。 バラ:おや、それは楽しみだ。楽しみでまたお腹が空いてきてしまうね。はっはっは。 ユリ:おかわりもたくさんご用意してありますから、どんどん食べて下さいね、薔薇次郎さん。 バラ:それは嬉しい。やぁ、僕は幸せ者だよ、小百合子さん。世界一、いや、地球一、太陽系一、銀河一、銀河団一、宇宙一、森羅万象一の幸せ者さぁ! ユリ:それは私の方ですわ。 バラ:じゃあ僕らはきっと、森羅万象一幸せなのさ! ユリ:そうですわね! バラ:ああそうさ! おっとと、僕らの愛はビッグバンのように熱くって、この宇宙が消えてしまうほどの時が過ぎたって冷めることは無いけれど、君が作ってくれたカレーはほんのちょっぴり冷めてしまうかも知れない。いや、冷めても美味しいのだけれど、それは作ってくれた君に、とっても忍びないから、しっかり食べてしまわないとね。うむ、でもとびっきりの芸術品だから食べてしまうのも惜しいような気はしてしまう。これは宇宙の神秘よりも難しい問題さ! ユリ:そんなの簡単ですわ。このカレーはあなたの為を思ってお作りしましたの、ですからあなたに食べられることが存在意義なのですわ。 バラ:レゾンデートルだね。 ユリ:ええ、レゾンデートルですわ。 バラ:ああ、僕は本当に幸せさ。君のそばに居られることが僕のレゾンデートル。 ユリ:ええ、私もとっても幸せですわ。あなたのそばに居られることが私のレゾンデートル。ところで、もっと難しい問題の方はいかがなさいます? 薔薇次郎さん。 バラ:うん? 難しい問題? ユリ:薔薇次郎さんは明日の夕食、何が食べたいですか? バラ:おっと、失念していた! そうだったね、これはとても悩ましい問題だ。何故なら小百合子さん。君の作るお料理はどれも宇宙創成よりも素敵だからね。でも、僕の答えは決まっているよ。 ユリ:あら、何ですか? : バラ:ハンバーグ! : ユリ:ハンバーグ? バラ:そう、ハンバーグ! この世の全てが詰まった魔法の料理! 僕は肉汁たっぷりのお肉とナツメグの風味が大好きなんだ! ユリ:ふむ。ハンバーグ……分かりましたわ。 バラ:楽しみだよ、ああ、楽しみで夜も眠れないね! きっと僕は明日の仕事中もハンバーグと君のことで心がいっぱいだろうね、何故なら―― : 0:台所。 : ユリ:そういえば、ハンバーグに入れるナツメグなどの香辛料は、多量に摂取すると中毒症状を引き起こして死に至ることがある、と聞いたことがありましたの。 ユリ:ですから私はさっそく、翌日の夕食にとりあえず物は試しと五瓶ほど、つなぎの代わりに入れてみました。 ユリ:するとなんということでしょう、ハンバーグのタネからは妙に甘いナツメグの匂いが香り立ちましたわ。 ユリ:タネを捏ねる私の食欲はこれ以上無いほど削がれてしまいましたけれど、あの人はナツメグの風味が大好きだと言っていましたから、きっと喜んでくれるはず。 ユリ:実際、その夕食のハンバーグをあの人は、 : 0:回想。ある日の夕食。 : バラ:ああ! なんということだろう! 小百合子さん! このハンバーグに僕は大地を感じる。力強い牛のエネルギーと吹き抜けるようなナツメグの風味! オウ! エクセレンッ! なんて美味しいんだ! こんな素晴らしいハンバーグ、僕はこれまでの生涯で出会ったことが無い! この出会いはそう、まるで君と出会ったあの日の衝撃に似ている。それは恰も大地の誕生だ、お肉とお肉のジャイアントインパクト。お肉のうま味とそこから弾き出される、スパイシーな風味! これはそう、原始惑星同士の衝突で生まれるハンバーグという地球なのさ! そんな素晴らしいハンバーグを生み出せるなんて、っは!? 小百合子さん! 君はやっぱり女神な―― : 0:台所。 : ユリ:と、そんな感じのことを言って、もりもり食べていました。 : 0:回想。夕食の続き。 : バラ:おやおや、どうしたんだい? お箸が動いていないね、小百合子さん。ほんとにどうしたんだい? っは!? もしやどこか具合でも悪いのかい?! ユリ:いえ、ちょっと食欲が……。 バラ:食欲が?! 病気なのかい!? ああ……! それは大変だ! ドクターヘリ……! いや、お客様ぁ! お客様の中にブラックジャック先生はいらっしゃいませんかぁ!? お願いです小百合子さんを助けて下さい! 五億までなら用意してみせます! 小百合子さんの命を救ってくれるならこの命だって投げ出しましょう! お願いです、小百合子さんを、小百合子さんを! ユリ:ば、薔薇次郎さん、そ、そんなに心配しなくても大丈夫です! バラ:で、でででででももも、しょしょ食欲がががが! ユリ:大丈夫です! あの、えっと、その、えっと、……だいえっと……。 バラ:へぁ?! ユリ:お恥ずかしいのですけれど、私、今、ダイエットをしていて……。 バラ:ダイエット! そうなのかい!? ユリ:そうなのです。 バラ:な、なんだ。そうなのかい安心した! ユリ:安心して下さい。 バラ:はっはっは、僕の早とちりかぁ、なぁんだ、よかったー。 ユリ:心配させてしまってごめんなさい、薔薇次郎さん……。 バラ:良いんだよ、こちらこそ御免ね、デリカシーの無い発言をした挙げ句、とんでもない大騒ぎしちゃって……。でも小百合子さんはすごいなぁ! ユリ:え? どうしてですか? バラ:その美に対してのストイックさ! まるでプロアスリートのようじゃあ無いか! 僕にはとっても真似できない! ほら、見ておくれよ、このぽよんぽよんのお腹を。 ユリ:いえ、とっても割れていると思うのですが。 バラ:そんなことは無いよ。君の作ってくれるご飯を熊のように食べる僕は、冬ごもりの熊のようだろう? ユリ:ええ、がっしりしていて素敵ですわ。 バラ:ああ、小百合子さんは優しいんだね。 ユリ:薔薇次郎さんだって。先程は心配してくれてありがとうございます。 バラ:こちらこそ、君が元気で居てくれてありがとう、さ。……おっと、安心したらお腹が空いてきてしまったよ。もし良かったら、その、少し意地汚いかもだけれどね、君の分のハンバーグ、その、分けてもらってもいいかな? ユリ:ふふふ。ええ、全部どうぞ。このハンバーグはあなただけのために作ったハンバーグですもの。 バラ:愛情がたっぷり入ってるんだね。 ユリ:ええ、それにナツメグもです。 バラ:そうなのかい? 嬉し過ぎて死んじゃうね! ユリ:……まぁほんと? バラ:君の料理を食べて死ねるなら、僕はもう思い残すことは無いさ! ユリ:そう言ってくれて嬉しいですわ、薔薇次郎さん。私、もっともっと腕を上げて、必ず薔薇次郎さんを天国に送ってみせます! バラ:はっはっは。君の料理を食べたから天国に行くのか、天国に行くから君の料理を食べるのか悩むところだね、でも君さえいれば僕は何も食べられなくって天ご―― : 0:台所。 : ユリ:その後、あの人は私の分もぺろりと効果音が聞こえてきそうなくらいあっさりと完食しました。 ユリ:けれど食後は特段変わった様子はなく、なんともありませんかと訊くと、 : 0:回想。夕食の続き。 : バラ:とっても美味しかったよ、それに何だか体調が良いんだ、今の僕は君のためならオリンピックで優勝することだって容易だろうね! やっぱりこれは愛の為せる技だね! いや、もしオリンピックに小百合子さんを愛するという種目があったなら、他の追随を許すことなくぶっちぎりの永世金メダリス―― : 0:台所。 : ユリ:と言っていました。私は思います。 ユリ:ナツメグの毒は、嘘かもしれません。 ユリ:それから私はこの前のカレーにインスピレーションを得て、ジャガイモの芽をふんだんにあしらったソラニンカレーを振る舞いましたが、 : バラ:(回想)ピリッとしていけるね、これはそう、喩えるならば君が初めて僕に声を掛けてくれたあのときのような刺激的な感ど―― : ユリ:とコメント。 ユリ:中華料理が食べてみたいとあの人が言ったので、レバニラならぬレバ水仙を作って、ついでに球根のピクルスもおつまみとして添えて出してみたのですが、 : バラ:(回想)これは……いける! : ユリ:の一言。 ユリ:その他、缶から手作りして任意にボツリヌス菌を繁殖させた自家製サバ缶も出してみましたが、 : バラ:(回想)この臭みにさえも愛情を感じる。良い! 良いよ! 小百合子さん! この臭みに僕はコスモを感じる! : ユリ:と汁まで啜り、 ユリ:ドラマとドラマの間のコマーシャルを見ていて思いつきました、ヒ素ふりかけは。 : バラ:(回想)…………ふむ。 : ユリ:無味無臭のはずなのに首を傾げながらも、あの人は無言でリピート。 : ユリ:残念ながら、どれもこれもあの人を満足させる威力は無かった様子なのですが。 : ユリ:それにしても、あの人は好き嫌いがちっとも無くって、どんなものをお出ししても、いつもこの上なく美味しそうに食べて下さるので、私としても大変作り甲斐があるなと思うのです。 : ユリ:ところで、そんな今日の夕食は色々考えましたけれど、お刺身なのです。 ユリ:あの人近頃は : バラ:(回想)近頃、小百合子さんが僕に作ってくれるお料理のレベルが指数関数的にめきめきと上がってきている気がしてね、体調もそうだし、何だか仕事を頑張ろうって気持ちも大きくなっていくんだ。おっと、もちろん君への愛も―― : ユリ:という風に、お仕事とっても頑張っている様子ですから、私もそんなあの人を影ながら応援するために精がつくような、お魚の内臓なんかも工夫して盛り合わせてみようかなと、挑戦してみるのです。 : ユリ:ちなみにお刺身だけでは少し寂しいので、つけあわせには珍しいキノコの煮物と、綺麗な百合科のお花の根っこを煎じたお茶、少しワイルドに野生のキャッサバポテトサラダを作ることにしました。 : ユリ:どの食材も仕入れるのに結構苦労したので、美味しそうにお料理を頬張るあの人の顔がとっても楽しみですの。 ユリ:ああ、薔薇次郎さん、早く帰ってきてくださいね。 ユリ:今度こそ、連れてってあげますから。 ユリ:ふふふふふふふ。 : 0:  《幕》