台本概要

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タイトル 天使と悪魔と捨て猫と。◆Part 2◆
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル ファンタジー
演者人数 5人用台本(男2、女2、不問1)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 敵対する天使と悪魔が拾った猫を切っ掛けに仲良くなる話。自らの宿命と、心の狭間で揺れる天使と悪魔の物語。
本作は三部作のPart2になります。序盤僅かな戦闘描写、中盤ラブコメ、終盤シリアスという構成になっております。
メイン二人とその他への偏りが強いです。
また、本作は5役+1役(声)になっております。ベル役の方の兼任推奨ですが上手く差配していただけると幸いです。

《あらすじ》
敵対している天使と悪魔。七十六回目の出会いの後、しばらくの時が経ち、変わらず戦い続ける間柄ではありつつも互いを意識するようになった二人。ある日、飼っているケルベロスを天使に見せるため家に向かう悪魔。平穏な日々はしかし、『声』によって終わりを告げる。

《注意》
アドリブや演出、配役については特に言及しません。ご自由に。
一応難しそうな単語については振り仮名(ふりがな)を配置しておりますが、万全では無いかも知れませんのでご注意を。
必殺技や叫び声、鳴き声等はフィーリングで演じていただければ幸いです。
また、このPart2では特に終盤に同時読みや変則的な演出を進める箇所がありますのでご注意ください。

《各Partの特徴》
Part1:コメディ色強め、物語の切っ掛け。序 文字数15,000字(50分)
Part2:恋愛色強め、物語の進行と転換。破。 文字数13,000字(40分)
Part3:シリアス強め。物語の結び。急。 文字数18,000字(60分)

※全Part通す際の登場人物の配役表です。以下の通りであれば5人で回せます。
ドライアン+悪魔C
グレモリア+悪魔A+天使D
カルミア+天使C
レリア+天使B+悪魔D
ウル+ベル+「声」+悪魔B+天使A

・「ドライアン」と「グレモリア」と「カルミア」と「レリア」は全Part出ます。
・「ウル」は(Part1)と(Part3)の役名です。
・「ベル」と「声」は(Part2)の役名です。
・「天使A~D」と「悪魔A~D」は(Part3)の役名です。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ドライアン 216 名前=ドライアン・ダラス 種族=悪魔 性別=男 備考=鈍感系。
グレモリア 29 名前=グレモリア・グリモニー 種族=悪魔 性別=女 備考=一途な後輩。
カルミア 219 名前=カルミア・ラティフォリア 種族=天使 性別=女 備考=ややツンデレ。
レリア 28 名前=レリア・アンセプス 種族=天使 性別=男 備考=姉を溺愛。
ベル 不問 38 名前=ベル 種族=ケルベロス 性別=オス 備考=普通に喋る。 『声』役との兼ね役推奨。 声:備考=神の声。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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敵対する天使と悪魔が拾った猫を切っ掛けに仲良くなる話。自らの宿命と、心の狭間で揺れる天使と悪魔の物語。 本作は三部作のPart2になります。序盤僅かな戦闘描写、中盤ラブコメ、終盤シリアスという構成になっております。 メイン二人とその他への偏りが強いです。 また、本作は5役+1役(声)になっております。ベル役の方の兼任推奨ですが上手く差配していただけると幸いです。 《各Partの特徴》 Part1:コメディ色強め、物語の切っ掛け。序 文字数15,000字(50分) Part2:恋愛色強め、物語の進行と転換。破。 文字数13,000字(40分) Part3:シリアス強め。物語の結び。急。 文字数18,000字(60分) 《あらすじ》 敵対している天使と悪魔。七十六回目の出会いの後、しばらくの時が経ち、変わらず戦い続ける間柄ではありつつも互いを意識するようになった二人。ある日、飼っているケルベロスを天使に見せるため家に向かう悪魔。平穏な日々はしかし、『声』によって終わりを告げる。 《注意》 アドリブや演出、配役については特に言及しません。ご自由に。 一応難しそうな単語については振り仮名(ふりがな)を配置しておりますが、万全では無いかも知れませんのでご注意を。 必殺技や叫び声、鳴き声等はフィーリングで演じていただければ幸いです。 また、このPart2では特に終盤に同時読みや変則的な演出を進める箇所がありますのでご注意ください。 0:天使と悪魔と捨て猫と。◆Part 2◆ : 0:◇Phase 6◇ 0:《戦場》 0: 0:響く雷鳴と剣戟の音。 0:ドライアンとカルミアが戦いながら話している。 ドライアン:せやぁぁぁぁ! カルミア:良い太刀筋だ、だが狙いが見え見えだ! ドライアン:っくぁ! おおおぉぉ! まだまだぁっ! ふんッ! カルミア:何?! ドライアン:もらったぁっ! な、手応えが――!? カルミア:千変万化(せんぺんばんか)《ヴァリアブル・ダンス》。貴様が今斬ったのは私の残像だ。 ドライアン:はぁ? そんなことまでできんのかよお前? カルミア:当然だ。貴様、私を誰だと思っておる。天使カルミア・ラティフォリアを侮ると――死ぬぞ! ドライアン:俺だって伊達にお前と剣を重ねちゃいねぇよ。見せてやるぜ、悪魔ドライアン・ダラスの最新を――なぁっ!! ドライアン:陽炎舞踏術(かげろうぶとうじゅつ)《ヒート・ステップ・ヘイズ》! カルミア:消えた? ドライアン:どうだ、熱で光を屈折させて姿を隠す技だ。 カルミア:……私と同系統の技を使うな。 ドライアン:ずっと練習してたんだから仕方ねぇだろ! カルミア:ネーミングも若干似ておるし。 ドライアン:それは俺も思ったけど言うなよ。 カルミア:興(きょう)が削(そ)がれたわ。今日はここまでにしようか。 ドライアン:きょうだけに? カルミア:違うわ馬鹿者! ドライアン:冗談だよ。 0:二人、剣を収める。 ドライアン:また、決着がつかなかったな。 カルミア:お望みならば今度こそつけても良いのだぞ? ドライアン:いや、やめとこう。戦いは一日一回だ。 カルミア:それだと毎日戦うことになるが。 ドライアン:俺は毎日だって構わないぜ? カルミア:私は勘弁願いたいところだ。貴様の相手は疲れるからな。 ドライアン:同感だ。しかし腕を上げたな、カルミア。 カルミア:ドライアン、貴様こそ成長したのではないか? まぁ、私にはまだ遠く及ばぬが。 ドライアン:っへ! まだ俺は本気を見せちゃいないけどな! カルミア:貴様さっき「見せてやるぜ、悪魔ドライアン・ダラスの最新をなぁ!」とか言っておったではないか。 ドライアン:いや、あれはブラフだ。それにあくまで最新であって最強じゃねぇから。本気の俺はもっと強ぇ。 カルミア:怪しいものだが、そういうことにしておいてやる。 ドライアン:――なぁ、カルミア。 カルミア:なんだ、ドライアン。 ドライアン:俺達、強くなったんだよな。 カルミア:どうした、突然? ドライアン:俺もお前も強くなった。それは剣技を見ても、身のこなしを見ても、魔術や戦闘技能を見ても分かるんだ。お前の動きは、これまで出会ったどんな敵より鋭く、冷ややかに俺の命を掠めていく。 ドライアン:俺はそれをギリギリのところで躱(かわ)して、受けて、捌(さば)いて、時に切り返す。俺もまた、お前の命を奪う必殺を繰り出す。 ドライアン:けれど、互いに一歩届かない。寄せては返す波のように拮抗した剣技。果てない殺し合い。それが延々と続く。いつかお前が言ったように、俺達はそういう定めなんだろうか。 カルミア:それは違う、ドライアン。 ドライアン:え? カルミア:それを言ったのは貴様だろう? ドライアン:そう、だったか? カルミア:ああ。貴様は私に言ったのだ。我々は生きている限り殺し合う。しかし――私達はきっと、また出会うために殺し合うのだ。 ドライアン:カルミア……。 カルミア:しかし、今日の貴様は既に負けておるな。 ドライアン:あ? どういうことだ? 引き分けだろ? カルミア:何があったか知らんが、貴様は今何かに縛られておる。ドライアン・ダラス。自由と勝利を愛する悪魔よ。貴様の剣に纏わり付くものが、その動きを鈍らせておるのは明白だぞ。 ドライアン:……気のせいだろ。 カルミア:ならば私の勝ちだ。自由に生きている限り勝ち、なのだろう? ドライアン:変わったな、カルミア。 カルミア:かも知れぬな。……さて、近頃のドライアンはピロートークとやらに気乗りでは無いらしいな。 ドライアン:んなっ?! 変なこと言うんじゃねぇよ! カルミア:なんだ、照れておるのか? ドライアン:んな訳ねぇだろ! カルミア:ふふ、冗談だよ。 ドライアン:ったくよぉ! カルミア:――今日も寄っていくか? ドライアン:……ああ。 カルミア:そうか、ウルが喜ぶ。 ドライアン:つっても、最近は俺が来てもあいつ気にしなくなったよな。 カルミア:慣れたのであろう? 私にもすっかり懐いてしまって、やんちゃな頃が少し懐かしいくらいだ。そうだ、また今度貴様の家にも行ってみたい。時々話題に出てくる犬のベルというのが気になってな。 ドライアン:ああ、そうだな。今度連れてってやるよ。 カルミア:やったー! ドライアン:……ところで、この出会いが何度目になるのか分かるか? カルミア。 カルミア:八十九回目だな。 ドライアン:お前、数えてたのか? カルミア:貴様の数えたところから、ではあるがな。 ドライアン:そうか。 カルミア:おい、ドライアン! 早く行くぞ、ウルが腹を空かせて待っておる。 0:カルミア、去る。 ドライアン:――俺達は、あと何度出会えるんだろう。 0: 0:◇Phase 7◇ 0:《高山》 0: 0:ドライアンとカルミアが山道を歩いている。 カルミア:まだ着かんのか……? ドライアン:もう少しだ、我慢しろ。 カルミア:貴様、なんという面倒なところに住んどるんだ。 ドライアン:ベルを地上で飼おうと思ったらこんなところに住むしか無いんだよ。 カルミア:それならいっそ地獄で暮らせば良いものを、わざわざ。 ドライアン:ベルは体が弱くてあっちじゃ生きていけないんだよ。とはいえ、普通の生き物なんかよりよっぽど強いから人里離れたこんな山奥になるんだよ。 カルミア:なるほど、そういうことか。 ドライアン:というかお前だって似たようなところ住んでるだろ。 カルミア:まぁ、そうだな。 ドライアン:おかげでウルのことは助かったが。 カルミア:気にするな。 カルミア:……それにしてもこれ、飛んでいくわけにはいかんのか? ドライアン:まぁ、飛んでいっても良いけどよ。 カルミア:じゃあ、飛ぼう。 ドライアン:いや、この辺意外と悪魔いんだよ。 カルミア:何? ドライアン:一応中立というか、どっちの領土でも無いけど見つかったらヤバいだろ? 特に一緒にいるところなんて見られたら……。 カルミア:それは、マズいな。 ドライアン:な。だから……、よっと! 0:ドライアン、崖を乗り越える。 ドライアン:こうして足で登るしかねぇ。 カルミア:そういうことならやむをえまいが。 ドライアン:それに似合ってるぜ、その登山服。 カルミア:ほ、ほんとか? いや、あ、悪魔の感覚で褒められても嬉しくないわ。だって貴様らのセンス基本クソださいし。 ドライアン:そんなことねぇよ。まぁ、ぶっちゃけセンスは否定しねぇけど、少なくともお前に似合うものくらい分かるぜ。 カルミア:な、なんだ急に! ドライアン:いや、前に見たあの部屋着も良い感じだったなって。 カルミア:な! わ、忘れろ! ドライアン:初めて見たときは、こいつにピンク色なんてって思ったけど、なんか結構似合うんだよな。これが。 カルミア:思い出すな! こ、この! ドライアン:痛い痛い! 叩くなよ。 カルミア:うるさい! というかどういう意味だ! この悪魔め! ドライアン:いやお前ってさ、結構可愛いよなって話―― 0:間。 ドライアン:あ。いや、い、今の無し! 一般論一般論! カルミア:は、はは、そうだな! 私天使だし? 天使は一般的に美しいと言われておるからな! ははは! ドライアン:そうそう、天使ってそうだよな、さらっさらのプラチナブロンドとか透き通るようにつややかな肌とか、俺は深い空のような瞳がいいなって思うけど……、いやそうじゃなくて! そういう意味じゃ無くて! 可愛いのはそうなんだけど、それは内面的にも……う、ああああああああ! もういい。 カルミア:ドライアン? ドライアン:ぶっちゃけ、カルミアは可愛いと思う。 カルミア:……え? それって―― ドライアン:もう終わり! この話終わり! 先急ぐぞ! カルミア:ちょっと、待ってくれ! ドライアン! ドライアン:待たねぇ、俺は、行くぞ。 カルミア:いや、それもなんだけど、実はもう疲れて。普段こんなに歩かないから、ちょっと休みたいのだ。 ドライアン:え、あ、ああ! そうだったか! すまねぇ、天使はどちらかというと飛ぶ種族だったもんな。悪かった。 カルミア:いや、良いんだ。少し休んだら、 ドライアン:おら。乗れよ。 カルミア:乗れよ、とは? ドライアン:おぶってやる。 カルミア:……いや、え? 本気で言っておるのか? ドライアン:こんなとこで休むより、うちに早く着いた方が良いだろ? 俺はこういうの慣れてるからよ、平気だ。 カルミア:いや、そういうことでは無くて、悪魔が天使を背負うなど……。 ドライアン:あ、ああ、そうだよな。悪ぃ、変なこと言って。俺みたいな悪魔に背負われたく、ねぇよな。 カルミア:そ、そんなつもりじゃ…… ドライアン:悪かった。 カルミア:……ええい、ドライアン! ドライアン:なんだ、カルミア。 カルミア:背中を出せ。 ドライアン:え? カルミア:背中を出せと言っておる。 ドライアン:な、何だよ。 カルミア:乗ってやる。 ドライアン:いや、無理しなくて良いぞ。 カルミア:私が乗りたいから貴様に乗せられてやると言ってるんだ、早く背中を出せ馬鹿者! ドライアン:カルミア……。 カルミア:早くしろ。 ドライアン:……ははは、オーケー、天使さま! この悪魔ドライアン・ダラスめにお乗り下さい。 カルミア:うむ。 0:ドライアン、カルミアを背負う。 ドライアン:おう、意外と軽いのな。 カルミア:貴様ぶっ殺すぞ。 ドライアン:冗談冗談! さぁ行くぜ、しっかり捕まってろよ! カルミア:ああ、行くが良い。 ドライアン:うおおおおおおおおおおおおおおーーーー!! カルミア:うぁ! ははははははは! はやいはやい! ははははは! ドライアン:乗り心地はどうだ。カルミア! カルミア:うむ、悪くない! ドライアン:そいつぁよかった! カルミア:たのしいな! ドライアン:俺も楽しいぜ! カルミア:私達は一体何をやっているのだろうな! ドライアン:しらん! でも、生きてるって感じだろ! カルミア:うむ! そうかも知れぬな! 貴様とならどこへでも行ける気がする! ドライアン:おう! どこへなりともお連れ致しますよ天使さま! さぁ、しっかり掴まってろよ! 0:間。 カルミア:なぁ、ドライアン。これが、自由なのだな――。 0: 0:◇Phase 8◇ 0:《ドライアンの家、玄関》 0: 0:ドライアンがカルミアを背負っている。 ドライアン:着いたぜ! これが俺の家だ。 カルミア:ほぅ。……案外普通だな。 ドライアン:お? どういう意味だ? カルミア:なんか、こんな山奥にあるというから、昔話的な藁葺(わらぶ)き屋根を想像したのだが、普通に現代建築なのだな。或いはもっとおどろおどろしい感じの洞窟とかでも良かったのだが。 ドライアン:それはお互い様だろ。悪魔がみんな古城やらでかい洋館に住んでるわけじゃねぇし、これくらいが普通だ。 カルミア:そういうものか。しかし、整備された道路どころか、おおよそ人の出入りも無い山奥に小綺麗な一軒家があるのも逆に不気味だがな。駐車場までついとるし。車も無いのに。 ドライアン:それは……そうかもな。建築が得意な知り合いの悪魔に建ててもらったんだが、景観に合わないのはそうだよな。 カルミア:随分便利な悪魔がいるものだな。 ドライアン:ほんとそれな。住宅カタログから選んで……これになった。 カルミア:そういう感じか。 ドライアン:そういう感じだ。なかなか住み心地良いぞ。 カルミア:ふむ。 ドライアン:ところでよ、カルミア。 カルミア:うん、なんだ? ドライアン:そろそろ……降りねぇ? カルミア:あ。あぁ! そうだな! 助かった、ドライアン。礼を言うぞ。 ドライアン:ありがたき幸せ。 カルミア:うむ、くるしゅうないぞ。ところで、ベルというのはどこにおるのだ? ドライアン:おお、そうだな。この時間帯だと勝手に散歩してるんじゃないかな。そろそろ帰ってくるとは思うけど。 カルミア:……そんな自由なのか? ドライアン:賢いからな。普段は留守番してるけど、外出るときは鍵かけて出て行くし。 カルミア:どんな犬だ。 ドライアン:まぁ、とりあえず上がっていけよ。 カルミア:うむ。 ドライアン:悪魔の家に上がり込むのに躊躇(ちゅうちょ)しねぇのな。 カルミア:見た目がこんな普通の家では、躊躇(ためら)う理由を探す方が難しい。 ドライアン:あー確かにな。 カルミア:それに貴様とて、うちに来ることに随分慣れたではないか。 ドライアン:まぁ、そうなんだけどな。 カルミア:お互い様だ。 ドライアン:さて。かぎ、かぎ~。 0:ドライアン、玄関の植木鉢の下から鍵を取り出す。 カルミア:おいセキュリティ意識。 ドライアン:え? そんなこと気にすんなよ。どうせこんな山奥誰も来やしねぇよ。 カルミア:じゃあ、何の為に鍵閉めとるんだ? ドライアン:ん? 悪魔ってほら封印とかそういうの好きじゃん? カルミア:いや、知らんが。 ドライアン:それに折角ついてるんだから使わないのも勿体ないでしょ。こんなのぶっちゃけおもちゃみたいなもんだけどさ、遊び心って大事じゃん。 0:鍵を開ける音。 カルミア:遊び心かよ。 0:ドライアン、扉を開けると入っていく。 ドライアン:あ、靴は脱いでくれよ。スリッパはそれな。 カルミア:あ、ああ。お邪魔します。 ドライアン:いらっしゃいませ天使さま、ようこそ我が城へ。 カルミア:随分小ぶりな城だな、悪魔よ。 ドライアン:謙虚なもんで。 カルミア:……なんか、結構綺麗だな。 ドライアン:ん? 何が? カルミア:いや、貴様のずぼらな性格だと、絶対散らかってるか、埃(ほこり)が溜まってるものだとばかり思っておったのだが……。 ドライアン:失礼な。まぁでも半分当たりだな。掃除してんの俺じゃねぇし。 カルミア:まさかメイドでも雇っておるのか? ドライアン:メイド? いやいや。ベルが掃除してるんだよ。あいつ綺麗好きだから。 カルミア:どんな犬だ。 ドライアン:というか、俺のことずぼらとか言うけど、お前の家、結構汚かったじゃん。 カルミア:な! あれはウルが暴れるからで! ドライアン:いやいや。そもそも物が多いし、片付けられてない気がするぞ。 カルミア:それはその……。 ドライアン:あとな、羽根。 カルミア:羽根? ドライアン:ウルの毛もだけど抜け落ちた髪とか羽根めっちゃ散らばってた。 カルミア:な! ああああああ! そんなところ見るなこの変態悪魔! ドライアン:見るなって言ったって……、体に付くらい落ちてるんだから仕方ないだろ? この前、お前んちから帰ってきたときにも結構付いてたし。俺の体ってさ、黒いからお前の白い羽根が結構目立つんだよな。 カルミア:そ、そんな訳ないもん! 抜けてないもん! ドライアン:ええ~? でもさ、言ってるそばから、その、落ちてるし。ほら? ドライアン:天使の羽根を拾う。 カルミア:え? ああああああああああ! やめてぇ! 見ないでぇ! 拾わないでぇぇ! ドライアン:あ、何? 天使的にこれって恥ずかしいの? それはその……すまねぇ。 カルミア:駄目、ゆるさん。 ドライアン:ええ……? どうしろと? もう、泣くなよ。 カルミア:泣いとらん……。 ドライアン:嘘つけ。 カルミア:……じゃあ、代わりに。 ドライアン:代わりに? 0:間。 カルミア:命を寄越せ。 ドライアン:ざけんな。 カルミア:……くれないのか? ドライアン:やるわけねぇだろ。 カルミア:じゃあ、許さない。 ドライアン:めんどくせぇな。 カルミア:どうせ私は面倒くさいし。 ドライアン:拗(す)ねんなよ……。……仕方ないな。はぁ。――おりゃ! 0:ドライアン、自分の爪を剥がす。 カルミア:ドライアン?! ドライアン:くぁっは! いってぇー! カルミア:な、何をしておるのだ貴様! ドライアン:何って爪を剥がしただけだが カルミア:見れば分かる! 何でそんなことを! ドライアン:ほらよ、カルミア。 カルミア:な、何だ? ドライアン:やる。 カルミア:え? ドライアン:俺の爪をやるって言ってんだ。 カルミア:ドライアン……。 ドライアン:へへへ。 カルミア:…………いや、すまん。ほんとに理解できんのだが、……貴様何がしたいんだ? ドライアン:あれぇ? カルミア:ぶっちゃけ引くわ。 ドライアン:いや、お前の羽根の代わりに俺の爪をだな……。 カルミア:は? いや、そんなもんいらんが。いきなり何をしだすんだこの悪魔は。貴様狂ったのか? 正直ちょっと―― 0:間。 カルミア:キモいぞ。 ドライアン:……あああああああああああああ! カルミア:ドライアン?! ドライアン:もういい! カルミア:どうした!? ドライアン:お守りなんだよ! カルミア:お守り? ドライアン:そうだ! この爪を渡した相手は何があっても守るっていう――悪魔のまじないの一つなんだよ! カルミア:…………つまり? ドライアン:俺がお前のことを守ってやるって! …………その。言ったんだよ。 カルミア:は? え? 貴様……え? ドライアン:……もういい返せ! カルミア:え、いやいや! だめだ! 返さぬ! ドライアン:何でだよいらねぇだろ! カルミア:必要だ! ドライアン:いらねぇって言っただろ、キモいって! 返せ! 山に捨ててくる! カルミア:駄目だ! 捨てるならよこせ! ドライアン:何でだよ! カルミア:私には必要なのだ! 私には! ……私には貴様が必要なのだ! 0:間。 ドライアン:え? カルミア:ドライアン。 ドライアン:……カルミア。 カルミア:ドライアン、貴様は私のことを―― 0:ドアの開く音。 0:振り返る二人。 0:そこにはケルベロスの『ベル』がいる。 ベル:失礼。ご主人、それに可憐(かれん)な天使のお客人。まさかこのような重大な場面に水を差してしまうとは、馬に蹴られて地獄に落ちるのもやむなしと言った次第でござりますれば、この不徳(ふとく)の駄犬(だけん)ベル。何卒(なにとぞ)謹(つつし)んでお詫び申し上げます。 ベル:ところで私は犬畜生(いぬちくしょう)。その、差し出がましいご提案とは存じますが、差し支えなければお二方におかれましては、是非先程までの逢い引き(あいびき)を続けて頂いても問題は無いかと存じます。私はその間、三つ先の山間(やまあい)にある滝にでも打たれて参ります。そして日が昇ってしばらくした頃に帰ってきます。もちろん、可憐な天使のお客人におかれましては、その際に初めてお目にかかったということにして、改めてご挨拶させていただきます所存ですのでご安心おば。 ベル:その、この度は大変申し訳ございませんでした。今後このようなことが無いように粉骨砕身(ふんこつさいしん)努めて参りますので、何卒ご容赦(ようしゃ)の程よろしくお願い申し上げます。 ベル:それでは、ごゆっくり。 0:ベル、去る。 0:二人、顔を見合わせる。 カルミア:ちょっと待って! ドライアン:違うんだベル! 0: 0:◇Phase 9◇ 0:《ドライアンの家》 0: 0:リビングにドライアンとカルミア、ベルが向かい合っている。 ベル:……なるほど。そういった経緯でございましたか。随分な早とちりをしてしまいまして申し訳ございません。 カルミア:いや、私達の方こそ、その、紛らわしいことをしていて申し訳なかった。戸惑わせてしまっただろう。 ドライアン:せめて、こいつを連れてくるって予め連絡しとけば良かったよな、すまん。 ベル:いえ、わたくしめがノックもせずにドアを開けてしまったのが悪かったのです。ご主人の家畜の身でありながら礼を欠いた行動、深く反省しております。今後はドアの向こうでラブロマンスが繰り広げられていることも想定致します。 カルミア:ラブロマンス!? ドライアン:いや、そういうんじゃないからな! ベル:はぁ。そうですか? カルミア:それはさておき、そなたがベル、で良いのだな? 私はカルミア・ラティフォリア。ご覧の通り、天使だ。 ベル:はい。申し遅れました。改めてわたくし、ケルベロスのベルと申します。よろしくお願い申し上げます。天使の君。 カルミア:天使の君はよしてくれ。カルミアで良い。 ベル:ではカルミア様。 カルミア:うむ。 ベル:カルミア様。不躾(ぶしつけ)な質問で申し訳ないのですが、天使であらせられる、カルミア様がどうしてこのような悪魔のご主人と一緒におられるのでしょう?  ドライアン:おいベル。このようなっつったか? ベル:いえ。……私は畜生でございますが、天使と悪魔の関係性が良好なものでないことは存じております。 カルミア:それは……。 ドライアン:ベルに会いたかったからだよ。 ベル:わたくしにですか? ドライアン:俺がベルの話をしたら、ぜひ会いたいって。なぁカルミア。 カルミア:ああ。 ベル:それは光栄でございます。 カルミア:可愛い犬だと聞いていたからな。まさか、ケルベロスだとは思わなかったが。 ドライアン:かわいいだろ? カルミアはケルベロス見るの初めてか? カルミア:まぁ否定はしない。ケルベロスは初めてだな、天界にも地上にもおらんからな。 ドライアン:そりゃそうか。 ベル:私も天使の御方とお会いするのは初めてでございます。何と言いますか、話に聞いていた印象よりも優しく心地よい雰囲気を纏われているのですね。 カルミア:そうか。ドライアン、貴様天使のことをなんと教えた? ドライアン:え? いや、それは……。 ベル:闘争をこよなく愛し、野原を血の海に変える、戦闘狂とうかがっております。あまりに恐ろしくて、子犬の頃はまだ見ぬその怪物を夢にも見たほどでした。 ドライアン:おい、ベル! カルミア:ほぅ。詳しく。 ベル:特に恐ろしかったのは、ご主人が戦場で何度も相対(あいたい)してきたというゴリラ天使の話でございますね。 ドライアン:こら! ベ―― 0:ドライアン、カルミアに口を塞がれる。 カルミア:ゴリラ天使……? 興味深いな。教えてくれないか? ベル。同族として気になる。 ベル:はい。その姿は一見ほっそりとしているのですが、一度闘争本能に火が付くと、筋肉が肥大化して手のつけられない凶暴なゴリラのようになるとか。どのような攻撃も効果は無く、振り下ろされた豪腕(ごうわん)は大地を裂き山を震わすそうです。それだけでなく執念(しゅうねん)深く、逃げようとすると地の果てまで追いかけて、臓物(ぞうもつ)を引きずり出そうとするとか。いやはや。世界には恐ろしい存在がいるものですね。……どうされました? ドライアン:あ、ああ。そうだな。怖いな。 カルミア:ふぅん。 ドライアン:カルミア、怒ってる? カルミア:何故私が怒ると思った? 理由を言ってみよ。ドライアン。 ドライアン:いや。何でも無いぞ。 カルミア:そうか。そういうことにしておこう。 ベル:お二人とも、顔色が悪いようですが……。 ドライアン:気にするな。 カルミア:そう、問題ない。 ベル:ああ、ですが最近聞いた話の天使は素敵な御方のようです。 カルミア:ん? ベル:なんでも、身寄りの無かったわたくしの妹にあたる捨て猫を、それはもう大事に育てて下さる、心優しく美しい花のような天使がいるとか。 カルミア:それって……。 ベル:それに、その方にお会いして以来、ご主人はなにやら楽しげにされているようですし、私もいつかお会いしてみたいと思っておりました。 カルミア:ドライアン……。 ベル:カルミア様。その天使とは、あなたのことでございますね? ドライアン:言うんじゃねぇよ、ベル。 ベル:ご主人共々、末永くよろしくお願い申し上げます。 カルミア:……ああ。よろしく頼むよ。ベル。 ドライアン:ふん。 ベル:いや、それにしましても、天使には色々な方がおられるのですね。片やゴリラ、片や花。いつかそのゴリラ天使ともお会いしてみたいところです。 ドライアン:……ベル。それ以上言うとまじで筋肉盛り上がるからやめろ。 ベル:何のことでしょうか? ドライアン:お前、賢いのか馬鹿なのか分かんねぇよ。 ベル:何を仰いますご主人。わたくしは愚かな犬でございます。ご主人の幸せを願い、尻尾を振るしか出来無い犬でございますから、ただ、この幸せなひとときが続けば良いと、心より願うだけでございます。 0: 0:◇Phase 10◇ 0:《天界・地獄》 0: 0:(このPhase 10では二つの場面が平行している、可能ならば同時に喋る演出もあり) 0:カルミアとレリアが並んで歩いている。 0:ドライアンとグレモリアが並んで歩いている。 レリア:姉さん、何か良いことありましたか? グレモリア:先輩、何か良いことあったっすか? 0: カルミア:ん? どうしてだ? ドライアン:何故そう思う? レリア:いえ、少しお会いしないうちに―― グレモリア:雰囲気随分変わってるから何かあったんだろうなって。 カルミア:私は変わってなどおらんが……。 ドライアン:ああ、でも強いて言えば前より力がついたかも知れんな。あと筋肉も。 レリア:ええ。存じております。姉さんが、あの片角の悪魔《ハーフ・ムーン》と―― グレモリア:四つ眼の天使《エレメンタル・アイズ》を仕留めたって話は有名っすからね。 レリア:――姉さんの活躍で南方の戦線が持ち直したとか。 グレモリア:天使の中でも相当な強敵だって噂だったっすけどね。 ドライアン:見せかけだけで カルミア:骨の無い連中だったよ。 0:間。 ドライアン:……あいつに比べれば。 カルミア:……あいつに比べれば。 レリア:カルミア姉さん? グレモリア:ドライ先輩? カルミア:いや。それよりレリアこそ ドライアン:そうとう功績を積んでいると聞くが。 グレモリア:そうっすよ。先輩のために頑張ってるっす。聞きたいっすか? あたしの武勇伝。まぁでも―― レリア:僕はただ上に言われたことを忠実にやっているだけですよ。結果が実績になる。それだけです。ただ、僕の勲功(くんこう)が余程目障りなのか、過酷な現場にばかり送られますがね。 グレモリア:大人しく後ろにやれば戦果なんてろくに上げられず、出世することもないってのに。馬鹿な奴らっすよ。正直、あんな奴らに従うの嫌っすけどね。 カルミア:お前も苦労しておるのだな。 グレモリア:ほんとっすよ。 ドライアン:ははは。お前は戦いが嫌いか? レリア:好きでも嫌いでもありませんね。ただ与えられた命令に従うまでです。戦う以上――僕ら天使に敗北は許されない。 グレモリア:だからあたしは意地でも生き残ってみせる。生きて帰って先輩と―― レリア:姉さんと、 グレモリア:お喋りするために。 レリア:お話しするために。 カルミア:レリアは強いな。 レリア:いえ、僕など グレモリア:先輩に比べればまだまだですよ。 カルミア:私もまだまだだ。 グレモリア:先輩、謙遜(けんそん)も過ぎれば嫌味っすよ? カルミア:かも知れぬな。だが、 ドライアン:グレモリアも過小評価してるだろ? カルミア:並の天使にあれだけの戦果は上げられまい。 ドライアン:殺戮者(さつりくしゃ)。 カルミア:死神。 ドライアン:黒き風。 カルミア:執行人。 カルミア:随分物騒(ぶっそう)な名前で呼ばれているそうじゃないか。 レリア:恥ずかしいですよ、姉さん。 グレモリア:恥ずかしいっすよ、先輩。 レリア:僕は姉さんの前では一人の弟レリアでしかありません。 グレモリア:肩書きや名誉なんてあたしにとっては服についた値札みたいなものっす。 レリア:いつからか付いていて、ただ目障りなだけ。 グレモリア:あたしはただ、先輩といられるならそれで良いのに。 カルミア:レリア……。 レリア:その為には、悪魔を。 グレモリア:天使を根絶やしにしなければならないっす。 レリア:僕はだから強くなったのです。姉さんとの―― グレモリア:先輩との―― 0:間。 レリア:未来の為に。 グレモリア:未来の為に。 0:間。 ドライアン:未来の為、か。 レリア:……いえ、少し違いますね。 カルミア:うん? グレモリア:先輩の、未来の為っす。 カルミア:ふ、ふふ。レリアは優しいな。ありがとう。 レリア:笑わないで下さいよ! グレモリア:その、本気……なんすから。 ドライアン:ありがとう、グレモリア。 レリア:いえ、この天使レリア・アンセプス、 グレモリア:悪魔グレモリア・グリモニー。 レリア:命に代えても、 グレモリア:先輩の未来を、 レリア:守らせていただきます。 ドライアン:グレモリア、それは俺も同じだ。 カルミア:お前がいなくなったら私とて悲しい。 ドライアン:死んでくれるなよ? カルミア:レリアの未来を私も守りたいのだ。 グレモリア:先輩……! レリア:姉さん……! 0:キーンという音。 0:以下『声』はベル或いは複数人の担当を推奨。 0: ベル:(声)『全ての天使、並びに悪魔に告げる』 0: レリア:何だ? この声……! グレモリア:頭に響く、っす! 0: ベル:(声)『決戦の刻だ』 0: ドライアン:決戦だと? カルミア:何を、言っている? 0: ベル:(声)『悠久の古より続く争いに幕を下ろす』 0: カルミア:この声って、 レリア:姉さん……! 0: ベル:(声)『我が配下、天使に命ずるは死を以ての清算』 0: グレモリア:何が、起こるんすか? ドライアン:決まってる、良くないこと、だよ。 0: ベル:(声)『我が怨敵、悪魔に命ずるは凄惨なる死』 0: グレモリア:これ、ヤバくないっ、すか? レリア:ついに、きてしまった。 0: ベル:(声)『天使よ、悪魔を蹂躙し殲滅せよ。 ベル:(声) 悪魔よ、天使を陵辱し殺戮せよ。』 0: ドライアン:無茶苦茶じゃねぇか! カルミア:始まってしまった……。 0: ベル:(声)『決戦の刻だ』 0: レリア:終わりだ。 0: ベル:(声)『我は神。世の理を統べる者』 0: ドライアン:神だと? グレモリア:そんな……! 0: ベル:(声)『そして全てを導く者』 0: レリア:平穏な日々は終わったんだ。 0: ベル:(声)『神の名の下に全てを殺せ』 0: グレモリア:明日から、地獄が始まるっすね。 0: ベル:(声)『神の名の下に全てを殺せ』 0: ドライアン:いいや。 カルミア:今からだ。 0: ベル:(声)『神の名の下に全てを殺せ』 0: レリア:姉さん……。 グレモリア:先輩……。 0: ベル:(声)『神の名の下に全てを殺せ』 0: ドライアン:心配するな、お前は俺が、 カルミア:心配するでない、レリアは私が、 0: ベル:(声)『全ての者は神の名の下に――』 0: ドライアン:殺させない。 カルミア:殺させない。 0: 0:間。 0: ドライアン:カルミア。 カルミア:ドライアン。 ドライアン:これからお前はどうするんだ? カルミア:命令に背くことは出来ない。 ドライアン:あんな命令従う必要あるのか? カルミア:所詮これが私の―― ドライアン:俺達の定めだっていうのか? カルミア:そう、定めには逆らえない。 ドライアン:そんなのは、認めない。 カルミア:私だって、こんなのは嫌だ。 ドライアン:だったら、どうして、 カルミア:どうして私達は、 0: 0:間。 0: ドライアン:出会ってしまったんだ? カルミア:出会ってしまったのだ? 0: カルミア:何のために出会った? ドライアン:殺すために出会った。 カルミア:何のために生きてきた? ドライアン:殺すために生きてきた。 カルミア:だったら何のために―― ドライアン:だったら殺すために―― カルミア:愛したのか? ドライアン:愛したのか。 0: 0:間。 0: カルミア:何度も出会った。 ドライアン:何度も殺し合った。 カルミア:だがまだ、 ドライアン:だけどまだ、 カルミア:愛し合っては、 ドライアン:憎しみ合っては、 カルミア:いなかった。 ドライアン:いなかった。 カルミア:嘘だ。 ドライアン:本当だ。 カルミア:嘘なんだ。 ドライアン:本当なんだろ? カルミア:嘘ではない。 ドライアン:本当なんだろうか? カルミア:私は、 ドライアン:俺は、 カルミア:ドライアンを、 ドライアン:カルミアを、 カルミア:愛していたんだろうか? ドライアン:憎んでいたんだろうか? 0: 0:間。 0: カルミア:私は天使だ。 ドライアン:俺は悪魔だ。 カルミア:愛し合ったりして良いのだろうか? ドライアン:憎しみ合ったりしないとならないのだろうか? カルミア:何のために ドライアン:誰のために カルミア:私は数を数えた。 ドライアン:俺は数を数えた? カルミア:好きになるため。 ドライアン:嫌いになるため? カルミア:弱くなるため。 ドライアン:強くなるため? カルミア:数えた分だけ近くなる。 ドライアン:数えた分だけ遠くなる。 カルミア:今は何回目だろう。 ドライアン:確か九十九回目。そして次の、 カルミア:あと一回で、 0: ドライアン:百回目。 カルミア:百回目。 0: ドライアン:なんとなく分かってる。 カルミア:そんな気がするのだ。 ドライアン:予感というか、 カルミア:予言というか、 ドライアン:やっぱり、 カルミア:そういう、 ドライアン:定めなんだろう。 カルミア:定めなのだろう。 0: 0:間。 0: ドライアン:次で最後だ。 カルミア:これで終わり。 ドライアン:かつて無いほど思うんだ。 カルミア:思いたくはない、けれど思う。 ドライアン:会いたくない。 カルミア:会いたくない。 0: ドライアン:だって、 カルミア:だって、 ドライアン:会ったら多分、今度こそ本当に カルミア:会ったらきっと、今度こそ本当に 0: ベル:(声)『――殺し合う』 0: ドライアン:カルミア。 カルミア:ドライアン。 ドライアン:俺はお前を、 カルミア:私は貴様を、 ドライアン:殺したくない。 カルミア:殺したくない。 0: 0:    《Part2 幕》

敵対する天使と悪魔が拾った猫を切っ掛けに仲良くなる話。自らの宿命と、心の狭間で揺れる天使と悪魔の物語。 本作は三部作のPart2になります。序盤僅かな戦闘描写、中盤ラブコメ、終盤シリアスという構成になっております。 メイン二人とその他への偏りが強いです。 また、本作は5役+1役(声)になっております。ベル役の方の兼任推奨ですが上手く差配していただけると幸いです。 《各Partの特徴》 Part1:コメディ色強め、物語の切っ掛け。序 文字数15,000字(50分) Part2:恋愛色強め、物語の進行と転換。破。 文字数13,000字(40分) Part3:シリアス強め。物語の結び。急。 文字数18,000字(60分) 《あらすじ》 敵対している天使と悪魔。七十六回目の出会いの後、しばらくの時が経ち、変わらず戦い続ける間柄ではありつつも互いを意識するようになった二人。ある日、飼っているケルベロスを天使に見せるため家に向かう悪魔。平穏な日々はしかし、『声』によって終わりを告げる。 《注意》 アドリブや演出、配役については特に言及しません。ご自由に。 一応難しそうな単語については振り仮名(ふりがな)を配置しておりますが、万全では無いかも知れませんのでご注意を。 必殺技や叫び声、鳴き声等はフィーリングで演じていただければ幸いです。 また、このPart2では特に終盤に同時読みや変則的な演出を進める箇所がありますのでご注意ください。 0:天使と悪魔と捨て猫と。◆Part 2◆ : 0:◇Phase 6◇ 0:《戦場》 0: 0:響く雷鳴と剣戟の音。 0:ドライアンとカルミアが戦いながら話している。 ドライアン:せやぁぁぁぁ! カルミア:良い太刀筋だ、だが狙いが見え見えだ! ドライアン:っくぁ! おおおぉぉ! まだまだぁっ! ふんッ! カルミア:何?! ドライアン:もらったぁっ! な、手応えが――!? カルミア:千変万化(せんぺんばんか)《ヴァリアブル・ダンス》。貴様が今斬ったのは私の残像だ。 ドライアン:はぁ? そんなことまでできんのかよお前? カルミア:当然だ。貴様、私を誰だと思っておる。天使カルミア・ラティフォリアを侮ると――死ぬぞ! ドライアン:俺だって伊達にお前と剣を重ねちゃいねぇよ。見せてやるぜ、悪魔ドライアン・ダラスの最新を――なぁっ!! ドライアン:陽炎舞踏術(かげろうぶとうじゅつ)《ヒート・ステップ・ヘイズ》! カルミア:消えた? ドライアン:どうだ、熱で光を屈折させて姿を隠す技だ。 カルミア:……私と同系統の技を使うな。 ドライアン:ずっと練習してたんだから仕方ねぇだろ! カルミア:ネーミングも若干似ておるし。 ドライアン:それは俺も思ったけど言うなよ。 カルミア:興(きょう)が削(そ)がれたわ。今日はここまでにしようか。 ドライアン:きょうだけに? カルミア:違うわ馬鹿者! ドライアン:冗談だよ。 0:二人、剣を収める。 ドライアン:また、決着がつかなかったな。 カルミア:お望みならば今度こそつけても良いのだぞ? ドライアン:いや、やめとこう。戦いは一日一回だ。 カルミア:それだと毎日戦うことになるが。 ドライアン:俺は毎日だって構わないぜ? カルミア:私は勘弁願いたいところだ。貴様の相手は疲れるからな。 ドライアン:同感だ。しかし腕を上げたな、カルミア。 カルミア:ドライアン、貴様こそ成長したのではないか? まぁ、私にはまだ遠く及ばぬが。 ドライアン:っへ! まだ俺は本気を見せちゃいないけどな! カルミア:貴様さっき「見せてやるぜ、悪魔ドライアン・ダラスの最新をなぁ!」とか言っておったではないか。 ドライアン:いや、あれはブラフだ。それにあくまで最新であって最強じゃねぇから。本気の俺はもっと強ぇ。 カルミア:怪しいものだが、そういうことにしておいてやる。 ドライアン:――なぁ、カルミア。 カルミア:なんだ、ドライアン。 ドライアン:俺達、強くなったんだよな。 カルミア:どうした、突然? ドライアン:俺もお前も強くなった。それは剣技を見ても、身のこなしを見ても、魔術や戦闘技能を見ても分かるんだ。お前の動きは、これまで出会ったどんな敵より鋭く、冷ややかに俺の命を掠めていく。 ドライアン:俺はそれをギリギリのところで躱(かわ)して、受けて、捌(さば)いて、時に切り返す。俺もまた、お前の命を奪う必殺を繰り出す。 ドライアン:けれど、互いに一歩届かない。寄せては返す波のように拮抗した剣技。果てない殺し合い。それが延々と続く。いつかお前が言ったように、俺達はそういう定めなんだろうか。 カルミア:それは違う、ドライアン。 ドライアン:え? カルミア:それを言ったのは貴様だろう? ドライアン:そう、だったか? カルミア:ああ。貴様は私に言ったのだ。我々は生きている限り殺し合う。しかし――私達はきっと、また出会うために殺し合うのだ。 ドライアン:カルミア……。 カルミア:しかし、今日の貴様は既に負けておるな。 ドライアン:あ? どういうことだ? 引き分けだろ? カルミア:何があったか知らんが、貴様は今何かに縛られておる。ドライアン・ダラス。自由と勝利を愛する悪魔よ。貴様の剣に纏わり付くものが、その動きを鈍らせておるのは明白だぞ。 ドライアン:……気のせいだろ。 カルミア:ならば私の勝ちだ。自由に生きている限り勝ち、なのだろう? ドライアン:変わったな、カルミア。 カルミア:かも知れぬな。……さて、近頃のドライアンはピロートークとやらに気乗りでは無いらしいな。 ドライアン:んなっ?! 変なこと言うんじゃねぇよ! カルミア:なんだ、照れておるのか? ドライアン:んな訳ねぇだろ! カルミア:ふふ、冗談だよ。 ドライアン:ったくよぉ! カルミア:――今日も寄っていくか? ドライアン:……ああ。 カルミア:そうか、ウルが喜ぶ。 ドライアン:つっても、最近は俺が来てもあいつ気にしなくなったよな。 カルミア:慣れたのであろう? 私にもすっかり懐いてしまって、やんちゃな頃が少し懐かしいくらいだ。そうだ、また今度貴様の家にも行ってみたい。時々話題に出てくる犬のベルというのが気になってな。 ドライアン:ああ、そうだな。今度連れてってやるよ。 カルミア:やったー! ドライアン:……ところで、この出会いが何度目になるのか分かるか? カルミア。 カルミア:八十九回目だな。 ドライアン:お前、数えてたのか? カルミア:貴様の数えたところから、ではあるがな。 ドライアン:そうか。 カルミア:おい、ドライアン! 早く行くぞ、ウルが腹を空かせて待っておる。 0:カルミア、去る。 ドライアン:――俺達は、あと何度出会えるんだろう。 0: 0:◇Phase 7◇ 0:《高山》 0: 0:ドライアンとカルミアが山道を歩いている。 カルミア:まだ着かんのか……? ドライアン:もう少しだ、我慢しろ。 カルミア:貴様、なんという面倒なところに住んどるんだ。 ドライアン:ベルを地上で飼おうと思ったらこんなところに住むしか無いんだよ。 カルミア:それならいっそ地獄で暮らせば良いものを、わざわざ。 ドライアン:ベルは体が弱くてあっちじゃ生きていけないんだよ。とはいえ、普通の生き物なんかよりよっぽど強いから人里離れたこんな山奥になるんだよ。 カルミア:なるほど、そういうことか。 ドライアン:というかお前だって似たようなところ住んでるだろ。 カルミア:まぁ、そうだな。 ドライアン:おかげでウルのことは助かったが。 カルミア:気にするな。 カルミア:……それにしてもこれ、飛んでいくわけにはいかんのか? ドライアン:まぁ、飛んでいっても良いけどよ。 カルミア:じゃあ、飛ぼう。 ドライアン:いや、この辺意外と悪魔いんだよ。 カルミア:何? ドライアン:一応中立というか、どっちの領土でも無いけど見つかったらヤバいだろ? 特に一緒にいるところなんて見られたら……。 カルミア:それは、マズいな。 ドライアン:な。だから……、よっと! 0:ドライアン、崖を乗り越える。 ドライアン:こうして足で登るしかねぇ。 カルミア:そういうことならやむをえまいが。 ドライアン:それに似合ってるぜ、その登山服。 カルミア:ほ、ほんとか? いや、あ、悪魔の感覚で褒められても嬉しくないわ。だって貴様らのセンス基本クソださいし。 ドライアン:そんなことねぇよ。まぁ、ぶっちゃけセンスは否定しねぇけど、少なくともお前に似合うものくらい分かるぜ。 カルミア:な、なんだ急に! ドライアン:いや、前に見たあの部屋着も良い感じだったなって。 カルミア:な! わ、忘れろ! ドライアン:初めて見たときは、こいつにピンク色なんてって思ったけど、なんか結構似合うんだよな。これが。 カルミア:思い出すな! こ、この! ドライアン:痛い痛い! 叩くなよ。 カルミア:うるさい! というかどういう意味だ! この悪魔め! ドライアン:いやお前ってさ、結構可愛いよなって話―― 0:間。 ドライアン:あ。いや、い、今の無し! 一般論一般論! カルミア:は、はは、そうだな! 私天使だし? 天使は一般的に美しいと言われておるからな! ははは! ドライアン:そうそう、天使ってそうだよな、さらっさらのプラチナブロンドとか透き通るようにつややかな肌とか、俺は深い空のような瞳がいいなって思うけど……、いやそうじゃなくて! そういう意味じゃ無くて! 可愛いのはそうなんだけど、それは内面的にも……う、ああああああああ! もういい。 カルミア:ドライアン? ドライアン:ぶっちゃけ、カルミアは可愛いと思う。 カルミア:……え? それって―― ドライアン:もう終わり! この話終わり! 先急ぐぞ! カルミア:ちょっと、待ってくれ! ドライアン! ドライアン:待たねぇ、俺は、行くぞ。 カルミア:いや、それもなんだけど、実はもう疲れて。普段こんなに歩かないから、ちょっと休みたいのだ。 ドライアン:え、あ、ああ! そうだったか! すまねぇ、天使はどちらかというと飛ぶ種族だったもんな。悪かった。 カルミア:いや、良いんだ。少し休んだら、 ドライアン:おら。乗れよ。 カルミア:乗れよ、とは? ドライアン:おぶってやる。 カルミア:……いや、え? 本気で言っておるのか? ドライアン:こんなとこで休むより、うちに早く着いた方が良いだろ? 俺はこういうの慣れてるからよ、平気だ。 カルミア:いや、そういうことでは無くて、悪魔が天使を背負うなど……。 ドライアン:あ、ああ、そうだよな。悪ぃ、変なこと言って。俺みたいな悪魔に背負われたく、ねぇよな。 カルミア:そ、そんなつもりじゃ…… ドライアン:悪かった。 カルミア:……ええい、ドライアン! ドライアン:なんだ、カルミア。 カルミア:背中を出せ。 ドライアン:え? カルミア:背中を出せと言っておる。 ドライアン:な、何だよ。 カルミア:乗ってやる。 ドライアン:いや、無理しなくて良いぞ。 カルミア:私が乗りたいから貴様に乗せられてやると言ってるんだ、早く背中を出せ馬鹿者! ドライアン:カルミア……。 カルミア:早くしろ。 ドライアン:……ははは、オーケー、天使さま! この悪魔ドライアン・ダラスめにお乗り下さい。 カルミア:うむ。 0:ドライアン、カルミアを背負う。 ドライアン:おう、意外と軽いのな。 カルミア:貴様ぶっ殺すぞ。 ドライアン:冗談冗談! さぁ行くぜ、しっかり捕まってろよ! カルミア:ああ、行くが良い。 ドライアン:うおおおおおおおおおおおおおおーーーー!! カルミア:うぁ! ははははははは! はやいはやい! ははははは! ドライアン:乗り心地はどうだ。カルミア! カルミア:うむ、悪くない! ドライアン:そいつぁよかった! カルミア:たのしいな! ドライアン:俺も楽しいぜ! カルミア:私達は一体何をやっているのだろうな! ドライアン:しらん! でも、生きてるって感じだろ! カルミア:うむ! そうかも知れぬな! 貴様とならどこへでも行ける気がする! ドライアン:おう! どこへなりともお連れ致しますよ天使さま! さぁ、しっかり掴まってろよ! 0:間。 カルミア:なぁ、ドライアン。これが、自由なのだな――。 0: 0:◇Phase 8◇ 0:《ドライアンの家、玄関》 0: 0:ドライアンがカルミアを背負っている。 ドライアン:着いたぜ! これが俺の家だ。 カルミア:ほぅ。……案外普通だな。 ドライアン:お? どういう意味だ? カルミア:なんか、こんな山奥にあるというから、昔話的な藁葺(わらぶ)き屋根を想像したのだが、普通に現代建築なのだな。或いはもっとおどろおどろしい感じの洞窟とかでも良かったのだが。 ドライアン:それはお互い様だろ。悪魔がみんな古城やらでかい洋館に住んでるわけじゃねぇし、これくらいが普通だ。 カルミア:そういうものか。しかし、整備された道路どころか、おおよそ人の出入りも無い山奥に小綺麗な一軒家があるのも逆に不気味だがな。駐車場までついとるし。車も無いのに。 ドライアン:それは……そうかもな。建築が得意な知り合いの悪魔に建ててもらったんだが、景観に合わないのはそうだよな。 カルミア:随分便利な悪魔がいるものだな。 ドライアン:ほんとそれな。住宅カタログから選んで……これになった。 カルミア:そういう感じか。 ドライアン:そういう感じだ。なかなか住み心地良いぞ。 カルミア:ふむ。 ドライアン:ところでよ、カルミア。 カルミア:うん、なんだ? ドライアン:そろそろ……降りねぇ? カルミア:あ。あぁ! そうだな! 助かった、ドライアン。礼を言うぞ。 ドライアン:ありがたき幸せ。 カルミア:うむ、くるしゅうないぞ。ところで、ベルというのはどこにおるのだ? ドライアン:おお、そうだな。この時間帯だと勝手に散歩してるんじゃないかな。そろそろ帰ってくるとは思うけど。 カルミア:……そんな自由なのか? ドライアン:賢いからな。普段は留守番してるけど、外出るときは鍵かけて出て行くし。 カルミア:どんな犬だ。 ドライアン:まぁ、とりあえず上がっていけよ。 カルミア:うむ。 ドライアン:悪魔の家に上がり込むのに躊躇(ちゅうちょ)しねぇのな。 カルミア:見た目がこんな普通の家では、躊躇(ためら)う理由を探す方が難しい。 ドライアン:あー確かにな。 カルミア:それに貴様とて、うちに来ることに随分慣れたではないか。 ドライアン:まぁ、そうなんだけどな。 カルミア:お互い様だ。 ドライアン:さて。かぎ、かぎ~。 0:ドライアン、玄関の植木鉢の下から鍵を取り出す。 カルミア:おいセキュリティ意識。 ドライアン:え? そんなこと気にすんなよ。どうせこんな山奥誰も来やしねぇよ。 カルミア:じゃあ、何の為に鍵閉めとるんだ? ドライアン:ん? 悪魔ってほら封印とかそういうの好きじゃん? カルミア:いや、知らんが。 ドライアン:それに折角ついてるんだから使わないのも勿体ないでしょ。こんなのぶっちゃけおもちゃみたいなもんだけどさ、遊び心って大事じゃん。 0:鍵を開ける音。 カルミア:遊び心かよ。 0:ドライアン、扉を開けると入っていく。 ドライアン:あ、靴は脱いでくれよ。スリッパはそれな。 カルミア:あ、ああ。お邪魔します。 ドライアン:いらっしゃいませ天使さま、ようこそ我が城へ。 カルミア:随分小ぶりな城だな、悪魔よ。 ドライアン:謙虚なもんで。 カルミア:……なんか、結構綺麗だな。 ドライアン:ん? 何が? カルミア:いや、貴様のずぼらな性格だと、絶対散らかってるか、埃(ほこり)が溜まってるものだとばかり思っておったのだが……。 ドライアン:失礼な。まぁでも半分当たりだな。掃除してんの俺じゃねぇし。 カルミア:まさかメイドでも雇っておるのか? ドライアン:メイド? いやいや。ベルが掃除してるんだよ。あいつ綺麗好きだから。 カルミア:どんな犬だ。 ドライアン:というか、俺のことずぼらとか言うけど、お前の家、結構汚かったじゃん。 カルミア:な! あれはウルが暴れるからで! ドライアン:いやいや。そもそも物が多いし、片付けられてない気がするぞ。 カルミア:それはその……。 ドライアン:あとな、羽根。 カルミア:羽根? ドライアン:ウルの毛もだけど抜け落ちた髪とか羽根めっちゃ散らばってた。 カルミア:な! ああああああ! そんなところ見るなこの変態悪魔! ドライアン:見るなって言ったって……、体に付くらい落ちてるんだから仕方ないだろ? この前、お前んちから帰ってきたときにも結構付いてたし。俺の体ってさ、黒いからお前の白い羽根が結構目立つんだよな。 カルミア:そ、そんな訳ないもん! 抜けてないもん! ドライアン:ええ~? でもさ、言ってるそばから、その、落ちてるし。ほら? ドライアン:天使の羽根を拾う。 カルミア:え? ああああああああああ! やめてぇ! 見ないでぇ! 拾わないでぇぇ! ドライアン:あ、何? 天使的にこれって恥ずかしいの? それはその……すまねぇ。 カルミア:駄目、ゆるさん。 ドライアン:ええ……? どうしろと? もう、泣くなよ。 カルミア:泣いとらん……。 ドライアン:嘘つけ。 カルミア:……じゃあ、代わりに。 ドライアン:代わりに? 0:間。 カルミア:命を寄越せ。 ドライアン:ざけんな。 カルミア:……くれないのか? ドライアン:やるわけねぇだろ。 カルミア:じゃあ、許さない。 ドライアン:めんどくせぇな。 カルミア:どうせ私は面倒くさいし。 ドライアン:拗(す)ねんなよ……。……仕方ないな。はぁ。――おりゃ! 0:ドライアン、自分の爪を剥がす。 カルミア:ドライアン?! ドライアン:くぁっは! いってぇー! カルミア:な、何をしておるのだ貴様! ドライアン:何って爪を剥がしただけだが カルミア:見れば分かる! 何でそんなことを! ドライアン:ほらよ、カルミア。 カルミア:な、何だ? ドライアン:やる。 カルミア:え? ドライアン:俺の爪をやるって言ってんだ。 カルミア:ドライアン……。 ドライアン:へへへ。 カルミア:…………いや、すまん。ほんとに理解できんのだが、……貴様何がしたいんだ? ドライアン:あれぇ? カルミア:ぶっちゃけ引くわ。 ドライアン:いや、お前の羽根の代わりに俺の爪をだな……。 カルミア:は? いや、そんなもんいらんが。いきなり何をしだすんだこの悪魔は。貴様狂ったのか? 正直ちょっと―― 0:間。 カルミア:キモいぞ。 ドライアン:……あああああああああああああ! カルミア:ドライアン?! ドライアン:もういい! カルミア:どうした!? ドライアン:お守りなんだよ! カルミア:お守り? ドライアン:そうだ! この爪を渡した相手は何があっても守るっていう――悪魔のまじないの一つなんだよ! カルミア:…………つまり? ドライアン:俺がお前のことを守ってやるって! …………その。言ったんだよ。 カルミア:は? え? 貴様……え? ドライアン:……もういい返せ! カルミア:え、いやいや! だめだ! 返さぬ! ドライアン:何でだよいらねぇだろ! カルミア:必要だ! ドライアン:いらねぇって言っただろ、キモいって! 返せ! 山に捨ててくる! カルミア:駄目だ! 捨てるならよこせ! ドライアン:何でだよ! カルミア:私には必要なのだ! 私には! ……私には貴様が必要なのだ! 0:間。 ドライアン:え? カルミア:ドライアン。 ドライアン:……カルミア。 カルミア:ドライアン、貴様は私のことを―― 0:ドアの開く音。 0:振り返る二人。 0:そこにはケルベロスの『ベル』がいる。 ベル:失礼。ご主人、それに可憐(かれん)な天使のお客人。まさかこのような重大な場面に水を差してしまうとは、馬に蹴られて地獄に落ちるのもやむなしと言った次第でござりますれば、この不徳(ふとく)の駄犬(だけん)ベル。何卒(なにとぞ)謹(つつし)んでお詫び申し上げます。 ベル:ところで私は犬畜生(いぬちくしょう)。その、差し出がましいご提案とは存じますが、差し支えなければお二方におかれましては、是非先程までの逢い引き(あいびき)を続けて頂いても問題は無いかと存じます。私はその間、三つ先の山間(やまあい)にある滝にでも打たれて参ります。そして日が昇ってしばらくした頃に帰ってきます。もちろん、可憐な天使のお客人におかれましては、その際に初めてお目にかかったということにして、改めてご挨拶させていただきます所存ですのでご安心おば。 ベル:その、この度は大変申し訳ございませんでした。今後このようなことが無いように粉骨砕身(ふんこつさいしん)努めて参りますので、何卒ご容赦(ようしゃ)の程よろしくお願い申し上げます。 ベル:それでは、ごゆっくり。 0:ベル、去る。 0:二人、顔を見合わせる。 カルミア:ちょっと待って! ドライアン:違うんだベル! 0: 0:◇Phase 9◇ 0:《ドライアンの家》 0: 0:リビングにドライアンとカルミア、ベルが向かい合っている。 ベル:……なるほど。そういった経緯でございましたか。随分な早とちりをしてしまいまして申し訳ございません。 カルミア:いや、私達の方こそ、その、紛らわしいことをしていて申し訳なかった。戸惑わせてしまっただろう。 ドライアン:せめて、こいつを連れてくるって予め連絡しとけば良かったよな、すまん。 ベル:いえ、わたくしめがノックもせずにドアを開けてしまったのが悪かったのです。ご主人の家畜の身でありながら礼を欠いた行動、深く反省しております。今後はドアの向こうでラブロマンスが繰り広げられていることも想定致します。 カルミア:ラブロマンス!? ドライアン:いや、そういうんじゃないからな! ベル:はぁ。そうですか? カルミア:それはさておき、そなたがベル、で良いのだな? 私はカルミア・ラティフォリア。ご覧の通り、天使だ。 ベル:はい。申し遅れました。改めてわたくし、ケルベロスのベルと申します。よろしくお願い申し上げます。天使の君。 カルミア:天使の君はよしてくれ。カルミアで良い。 ベル:ではカルミア様。 カルミア:うむ。 ベル:カルミア様。不躾(ぶしつけ)な質問で申し訳ないのですが、天使であらせられる、カルミア様がどうしてこのような悪魔のご主人と一緒におられるのでしょう?  ドライアン:おいベル。このようなっつったか? ベル:いえ。……私は畜生でございますが、天使と悪魔の関係性が良好なものでないことは存じております。 カルミア:それは……。 ドライアン:ベルに会いたかったからだよ。 ベル:わたくしにですか? ドライアン:俺がベルの話をしたら、ぜひ会いたいって。なぁカルミア。 カルミア:ああ。 ベル:それは光栄でございます。 カルミア:可愛い犬だと聞いていたからな。まさか、ケルベロスだとは思わなかったが。 ドライアン:かわいいだろ? カルミアはケルベロス見るの初めてか? カルミア:まぁ否定はしない。ケルベロスは初めてだな、天界にも地上にもおらんからな。 ドライアン:そりゃそうか。 ベル:私も天使の御方とお会いするのは初めてでございます。何と言いますか、話に聞いていた印象よりも優しく心地よい雰囲気を纏われているのですね。 カルミア:そうか。ドライアン、貴様天使のことをなんと教えた? ドライアン:え? いや、それは……。 ベル:闘争をこよなく愛し、野原を血の海に変える、戦闘狂とうかがっております。あまりに恐ろしくて、子犬の頃はまだ見ぬその怪物を夢にも見たほどでした。 ドライアン:おい、ベル! カルミア:ほぅ。詳しく。 ベル:特に恐ろしかったのは、ご主人が戦場で何度も相対(あいたい)してきたというゴリラ天使の話でございますね。 ドライアン:こら! ベ―― 0:ドライアン、カルミアに口を塞がれる。 カルミア:ゴリラ天使……? 興味深いな。教えてくれないか? ベル。同族として気になる。 ベル:はい。その姿は一見ほっそりとしているのですが、一度闘争本能に火が付くと、筋肉が肥大化して手のつけられない凶暴なゴリラのようになるとか。どのような攻撃も効果は無く、振り下ろされた豪腕(ごうわん)は大地を裂き山を震わすそうです。それだけでなく執念(しゅうねん)深く、逃げようとすると地の果てまで追いかけて、臓物(ぞうもつ)を引きずり出そうとするとか。いやはや。世界には恐ろしい存在がいるものですね。……どうされました? ドライアン:あ、ああ。そうだな。怖いな。 カルミア:ふぅん。 ドライアン:カルミア、怒ってる? カルミア:何故私が怒ると思った? 理由を言ってみよ。ドライアン。 ドライアン:いや。何でも無いぞ。 カルミア:そうか。そういうことにしておこう。 ベル:お二人とも、顔色が悪いようですが……。 ドライアン:気にするな。 カルミア:そう、問題ない。 ベル:ああ、ですが最近聞いた話の天使は素敵な御方のようです。 カルミア:ん? ベル:なんでも、身寄りの無かったわたくしの妹にあたる捨て猫を、それはもう大事に育てて下さる、心優しく美しい花のような天使がいるとか。 カルミア:それって……。 ベル:それに、その方にお会いして以来、ご主人はなにやら楽しげにされているようですし、私もいつかお会いしてみたいと思っておりました。 カルミア:ドライアン……。 ベル:カルミア様。その天使とは、あなたのことでございますね? ドライアン:言うんじゃねぇよ、ベル。 ベル:ご主人共々、末永くよろしくお願い申し上げます。 カルミア:……ああ。よろしく頼むよ。ベル。 ドライアン:ふん。 ベル:いや、それにしましても、天使には色々な方がおられるのですね。片やゴリラ、片や花。いつかそのゴリラ天使ともお会いしてみたいところです。 ドライアン:……ベル。それ以上言うとまじで筋肉盛り上がるからやめろ。 ベル:何のことでしょうか? ドライアン:お前、賢いのか馬鹿なのか分かんねぇよ。 ベル:何を仰いますご主人。わたくしは愚かな犬でございます。ご主人の幸せを願い、尻尾を振るしか出来無い犬でございますから、ただ、この幸せなひとときが続けば良いと、心より願うだけでございます。 0: 0:◇Phase 10◇ 0:《天界・地獄》 0: 0:(このPhase 10では二つの場面が平行している、可能ならば同時に喋る演出もあり) 0:カルミアとレリアが並んで歩いている。 0:ドライアンとグレモリアが並んで歩いている。 レリア:姉さん、何か良いことありましたか? グレモリア:先輩、何か良いことあったっすか? 0: カルミア:ん? どうしてだ? ドライアン:何故そう思う? レリア:いえ、少しお会いしないうちに―― グレモリア:雰囲気随分変わってるから何かあったんだろうなって。 カルミア:私は変わってなどおらんが……。 ドライアン:ああ、でも強いて言えば前より力がついたかも知れんな。あと筋肉も。 レリア:ええ。存じております。姉さんが、あの片角の悪魔《ハーフ・ムーン》と―― グレモリア:四つ眼の天使《エレメンタル・アイズ》を仕留めたって話は有名っすからね。 レリア:――姉さんの活躍で南方の戦線が持ち直したとか。 グレモリア:天使の中でも相当な強敵だって噂だったっすけどね。 ドライアン:見せかけだけで カルミア:骨の無い連中だったよ。 0:間。 ドライアン:……あいつに比べれば。 カルミア:……あいつに比べれば。 レリア:カルミア姉さん? グレモリア:ドライ先輩? カルミア:いや。それよりレリアこそ ドライアン:そうとう功績を積んでいると聞くが。 グレモリア:そうっすよ。先輩のために頑張ってるっす。聞きたいっすか? あたしの武勇伝。まぁでも―― レリア:僕はただ上に言われたことを忠実にやっているだけですよ。結果が実績になる。それだけです。ただ、僕の勲功(くんこう)が余程目障りなのか、過酷な現場にばかり送られますがね。 グレモリア:大人しく後ろにやれば戦果なんてろくに上げられず、出世することもないってのに。馬鹿な奴らっすよ。正直、あんな奴らに従うの嫌っすけどね。 カルミア:お前も苦労しておるのだな。 グレモリア:ほんとっすよ。 ドライアン:ははは。お前は戦いが嫌いか? レリア:好きでも嫌いでもありませんね。ただ与えられた命令に従うまでです。戦う以上――僕ら天使に敗北は許されない。 グレモリア:だからあたしは意地でも生き残ってみせる。生きて帰って先輩と―― レリア:姉さんと、 グレモリア:お喋りするために。 レリア:お話しするために。 カルミア:レリアは強いな。 レリア:いえ、僕など グレモリア:先輩に比べればまだまだですよ。 カルミア:私もまだまだだ。 グレモリア:先輩、謙遜(けんそん)も過ぎれば嫌味っすよ? カルミア:かも知れぬな。だが、 ドライアン:グレモリアも過小評価してるだろ? カルミア:並の天使にあれだけの戦果は上げられまい。 ドライアン:殺戮者(さつりくしゃ)。 カルミア:死神。 ドライアン:黒き風。 カルミア:執行人。 カルミア:随分物騒(ぶっそう)な名前で呼ばれているそうじゃないか。 レリア:恥ずかしいですよ、姉さん。 グレモリア:恥ずかしいっすよ、先輩。 レリア:僕は姉さんの前では一人の弟レリアでしかありません。 グレモリア:肩書きや名誉なんてあたしにとっては服についた値札みたいなものっす。 レリア:いつからか付いていて、ただ目障りなだけ。 グレモリア:あたしはただ、先輩といられるならそれで良いのに。 カルミア:レリア……。 レリア:その為には、悪魔を。 グレモリア:天使を根絶やしにしなければならないっす。 レリア:僕はだから強くなったのです。姉さんとの―― グレモリア:先輩との―― 0:間。 レリア:未来の為に。 グレモリア:未来の為に。 0:間。 ドライアン:未来の為、か。 レリア:……いえ、少し違いますね。 カルミア:うん? グレモリア:先輩の、未来の為っす。 カルミア:ふ、ふふ。レリアは優しいな。ありがとう。 レリア:笑わないで下さいよ! グレモリア:その、本気……なんすから。 ドライアン:ありがとう、グレモリア。 レリア:いえ、この天使レリア・アンセプス、 グレモリア:悪魔グレモリア・グリモニー。 レリア:命に代えても、 グレモリア:先輩の未来を、 レリア:守らせていただきます。 ドライアン:グレモリア、それは俺も同じだ。 カルミア:お前がいなくなったら私とて悲しい。 ドライアン:死んでくれるなよ? カルミア:レリアの未来を私も守りたいのだ。 グレモリア:先輩……! レリア:姉さん……! 0:キーンという音。 0:以下『声』はベル或いは複数人の担当を推奨。 0: ベル:(声)『全ての天使、並びに悪魔に告げる』 0: レリア:何だ? この声……! グレモリア:頭に響く、っす! 0: ベル:(声)『決戦の刻だ』 0: ドライアン:決戦だと? カルミア:何を、言っている? 0: ベル:(声)『悠久の古より続く争いに幕を下ろす』 0: カルミア:この声って、 レリア:姉さん……! 0: ベル:(声)『我が配下、天使に命ずるは死を以ての清算』 0: グレモリア:何が、起こるんすか? ドライアン:決まってる、良くないこと、だよ。 0: ベル:(声)『我が怨敵、悪魔に命ずるは凄惨なる死』 0: グレモリア:これ、ヤバくないっ、すか? レリア:ついに、きてしまった。 0: ベル:(声)『天使よ、悪魔を蹂躙し殲滅せよ。 ベル:(声) 悪魔よ、天使を陵辱し殺戮せよ。』 0: ドライアン:無茶苦茶じゃねぇか! カルミア:始まってしまった……。 0: ベル:(声)『決戦の刻だ』 0: レリア:終わりだ。 0: ベル:(声)『我は神。世の理を統べる者』 0: ドライアン:神だと? グレモリア:そんな……! 0: ベル:(声)『そして全てを導く者』 0: レリア:平穏な日々は終わったんだ。 0: ベル:(声)『神の名の下に全てを殺せ』 0: グレモリア:明日から、地獄が始まるっすね。 0: ベル:(声)『神の名の下に全てを殺せ』 0: ドライアン:いいや。 カルミア:今からだ。 0: ベル:(声)『神の名の下に全てを殺せ』 0: レリア:姉さん……。 グレモリア:先輩……。 0: ベル:(声)『神の名の下に全てを殺せ』 0: ドライアン:心配するな、お前は俺が、 カルミア:心配するでない、レリアは私が、 0: ベル:(声)『全ての者は神の名の下に――』 0: ドライアン:殺させない。 カルミア:殺させない。 0: 0:間。 0: ドライアン:カルミア。 カルミア:ドライアン。 ドライアン:これからお前はどうするんだ? カルミア:命令に背くことは出来ない。 ドライアン:あんな命令従う必要あるのか? カルミア:所詮これが私の―― ドライアン:俺達の定めだっていうのか? カルミア:そう、定めには逆らえない。 ドライアン:そんなのは、認めない。 カルミア:私だって、こんなのは嫌だ。 ドライアン:だったら、どうして、 カルミア:どうして私達は、 0: 0:間。 0: ドライアン:出会ってしまったんだ? カルミア:出会ってしまったのだ? 0: カルミア:何のために出会った? ドライアン:殺すために出会った。 カルミア:何のために生きてきた? ドライアン:殺すために生きてきた。 カルミア:だったら何のために―― ドライアン:だったら殺すために―― カルミア:愛したのか? ドライアン:愛したのか。 0: 0:間。 0: カルミア:何度も出会った。 ドライアン:何度も殺し合った。 カルミア:だがまだ、 ドライアン:だけどまだ、 カルミア:愛し合っては、 ドライアン:憎しみ合っては、 カルミア:いなかった。 ドライアン:いなかった。 カルミア:嘘だ。 ドライアン:本当だ。 カルミア:嘘なんだ。 ドライアン:本当なんだろ? カルミア:嘘ではない。 ドライアン:本当なんだろうか? カルミア:私は、 ドライアン:俺は、 カルミア:ドライアンを、 ドライアン:カルミアを、 カルミア:愛していたんだろうか? ドライアン:憎んでいたんだろうか? 0: 0:間。 0: カルミア:私は天使だ。 ドライアン:俺は悪魔だ。 カルミア:愛し合ったりして良いのだろうか? ドライアン:憎しみ合ったりしないとならないのだろうか? カルミア:何のために ドライアン:誰のために カルミア:私は数を数えた。 ドライアン:俺は数を数えた? カルミア:好きになるため。 ドライアン:嫌いになるため? カルミア:弱くなるため。 ドライアン:強くなるため? カルミア:数えた分だけ近くなる。 ドライアン:数えた分だけ遠くなる。 カルミア:今は何回目だろう。 ドライアン:確か九十九回目。そして次の、 カルミア:あと一回で、 0: ドライアン:百回目。 カルミア:百回目。 0: ドライアン:なんとなく分かってる。 カルミア:そんな気がするのだ。 ドライアン:予感というか、 カルミア:予言というか、 ドライアン:やっぱり、 カルミア:そういう、 ドライアン:定めなんだろう。 カルミア:定めなのだろう。 0: 0:間。 0: ドライアン:次で最後だ。 カルミア:これで終わり。 ドライアン:かつて無いほど思うんだ。 カルミア:思いたくはない、けれど思う。 ドライアン:会いたくない。 カルミア:会いたくない。 0: ドライアン:だって、 カルミア:だって、 ドライアン:会ったら多分、今度こそ本当に カルミア:会ったらきっと、今度こそ本当に 0: ベル:(声)『――殺し合う』 0: ドライアン:カルミア。 カルミア:ドライアン。 ドライアン:俺はお前を、 カルミア:私は貴様を、 ドライアン:殺したくない。 カルミア:殺したくない。 0: 0:    《Part2 幕》