台本概要
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タイトル | 天使と悪魔と捨て猫と。◆Part 3◆ |
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作者名 | 音佐りんご。 (@ringo_otosa) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 5人用台本(男2、女2、不問1) |
時間 | 60 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
敵対する天使と悪魔が拾った猫を切っ掛けに仲良くなる話。自らの宿命と、心の狭間で揺れる天使と悪魔の物語。 本作は三部作のPart3、完結編になります。Part1・2に比べると結構重たい話になっておりますので注意。 《あらすじ》 神の命を受けた天使と悪魔の間で本格的な戦争が起こる。カルミアとドライアンは各々戦い、数多の戦場で功績を上げるも、戦場で巡り会うことはなかった。しかし確実に、二人が相対する未来が迫り、その前触れとして夢を見る。夢の中で互いに言葉を交わし、目覚めた各陣営の野営地で両者の事情を知られてしまう。 カルミアとの関係を知ったグレモリアはドライアンに理解を示し、応援しようとするが、レリアは許せずドライアンを強襲。結果、グレモリアが命を落とし、レリアもドライアンに討たれる。グレモリアを喪った絶望と憎悪によりドライアンは心を壊す。弟の悲報を知ったカルミアもまた自身の甘さを後悔し、心を捨てて、神の意志に従う剣となる。 闘いは最終局面を迎え、悪魔陣営は壊滅状態、対する天使も同様に戦える状態では無い。しかし、二人は闘いを始める。その最中、カルミアがある術を使い、二人は幻想の中で再び相対することに。そこで、喪われたはずのグレモリアと再会し、ドライアンは正気を取り戻す。現実に帰還したドライアンは未だ心を閉ざしたカルミアと向き合い、闘いの果てにその心を取り戻し、そして――。 《注意》 アドリブや演出、配役については特に言及しませんが、本作は少々モブが増えてしまいましたので上手く差配していただけると幸いです。 例によって台詞の分量に偏りがあります。特にウルはほとんど喋りません(そもそも『みゃあ。』ですが)のでほぼタイトル詐欺です。加えてモブが8役ほどあります。ご了承ください。 必殺技や叫び声、鳴き声等はフィーリングで演じていただければ幸いです。 また、今回は振り仮名を振っておりませんのであしからず。 《各Partの特徴》 Part1:コメディ色強め、物語の切っ掛け。序 文字数15,000字(50分) Part2:恋愛色強め、物語の進行と転換。破。 文字数13,000字(40分) Part3:シリアス強め。物語の結び。急。 文字数18,000字(60分) ※全Part通す際の登場人物の配役表です。以下の通りであれば5人で回せます。 ドライアン+悪魔C グレモリア+悪魔A+天使D カルミア+天使C レリア+天使B+悪魔D ウル+ベル+「声」+悪魔B+天使A ・「ドライアン」と「グレモリア」と「カルミア」と「レリア」は全Part出ます。 ・「ウル」は(Part1)と(Part3)の役名です。 ・「ベル」と「声」は(Part2)の役名です。 ・「天使A~D」と「悪魔A~D」は(Part3)の役名です。 31 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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ドライアン | 男 | 218 | 名前=ドライアン・ダラス 種族=悪魔 性別=男 備考=鈍感系。 ※兼ね役モブ=悪魔C |
グレモリア | 女 | 129 | 名前=グレモリア・グリモニー 種族=悪魔 性別=女 備考=一途な後輩。 ※兼ね役モブ=悪魔A、天使D |
カルミア | 女 | 162 | 名前=カルミア・ラティフォリア 種族=天使 性別=女 備考=ややツンデレ。 ※兼ね役モブ=天使C |
レリア | 男 | 79 | 名前=レリア・アンセプス 種族=天使 性別=男 備考=姉を溺愛。 ※兼ね役モブ=天使B、悪魔D |
ウル | 不問 | 25 | 名前=ウル 種族=猫 性別=メス 備考=「みゃあ」しか台詞がありません。 ※兼ね役モブ=悪魔B、天使A |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
敵対する天使と悪魔が拾った猫を切っ掛けに仲良くなる話。自らの宿命と、心の狭間で揺れる天使と悪魔の物語。
本作は三部作のPart3、完結編になります。Part1・2に比べると結構重たい話になっておりますので注意。
《各Partの特徴》
Part1:コメディ色強め、物語の切っ掛け。序 文字数15,000字(50分)
Part2:恋愛色強め、物語の進行と転換。破。 文字数13,000字(40分)
Part3:シリアス強め。物語の結び。急。 文字数18,000字(60分)
《あらすじ》
神の命を受けた天使と悪魔の間で本格的な戦争が起こる。カルミアとドライアンは各々戦い、数多の戦場で功績を上げるも、戦場で巡り会うことはなかった。しかし確実に、二人が相対する未来が迫り、その前触れとして夢を見る。夢の中で互いに言葉を交わし、目覚めた各陣営の野営地で両者の事情を知られてしまう。
カルミアとの関係を知ったグレモリアはドライアンに理解を示し、応援しようとするが、レリアは許せずドライアンを強襲。結果、グレモリアが命を落とし、レリアもドライアンに討たれる。グレモリアを喪った絶望と憎悪によりドライアンは心を壊す。弟の悲報を知ったカルミアもまた自身の甘さを後悔し、心を捨てて、神の意志に従う剣となる。
闘いは最終局面を迎え、悪魔陣営は壊滅状態、対する天使も同様に戦える状態では無い。しかし、二人は闘いを始める。その最中、カルミアがある術を使い、二人は幻想の中で再び相対することに。そこで、喪われたはずのグレモリアと再会し、ドライアンは正気を取り戻す。現実に帰還したドライアンは未だ心を閉ざしたカルミアと向き合い、闘いの果てにその心を取り戻し、そして――。
《注意》
アドリブや演出、配役については特に言及しませんが、本作は少々モブが増えてしまいましたので上手く差配していただけると幸いです。
例によって台詞の分量に偏りがあります。特にウルはほとんど喋りません(そもそも『みゃあ。』ですが)のでほぼタイトル詐欺です。加えてモブが8役ほどあります。ご了承ください。
必殺技や叫び声、鳴き声等はフィーリングで演じていただければ幸いです。
また、今回は振り仮名を振っておりませんのであしからず。
0:天使と悪魔と捨て猫と。◆Part 3◆
0:
0:◇Phase 11◇
0:《戦場》
0:
0:響く雷鳴と剣戟の音。
0:カルミアが剣を手に立ち尽くしている。
0:
カルミア:ここにも、ドライアン。……貴様はいないのだな。
グレモリア:(悪魔A)冷酷の天使! この悪魔リュカデン・ドラミーが貴様のその首もらい受けるぅぅぅぅ!!!!
カルミア:……つまらん。
0:
0:カルミアが悪魔Aの攻撃を躱す。
0:
グレモリア:(悪魔A)何だと!
カルミア:遅い!
0:
0:カルミア、剣を振る。
0:
グレモリア:(悪魔A)ぐああああっ!
ウル:(悪魔B)よくもリュカをぉぉぉぉ!
カルミア:散れ。
ウル:(悪魔B)あぁぁぁ! 嘘だ! こんな筈じゃぁ!
カルミア:ふ。ふふふ。ふふふふふふ。ふふふふふふふふふふ。
ウル:(悪魔B)これが……天使カルミ、ア。
ドライアン:(悪魔C)ひ、ひけぇ! 俺達じゃ無理だ!
0:
レリア:逃がさないよ。
ドライアン:(悪魔C)ぎゃあああ!
レリア:とんだ腰抜けだね。
ドライアン:(悪魔C)う、あああ、許してくれ、命だけは!
レリア:許す? おかしなことを。君は悪魔だろ? 天使に許しを請うな。君達は生きてるだけで罪なんだ。そして僕らは生きている限り殺すだけだ。
ドライアン:(悪魔C)ひぎゃぁぁ!
レリア:……そんなに叫ばれると幾ら僕でも気が滅入る。
レリア:姉さん! こっちは片付きましたよ!
カルミア:……レリア。
レリア:流石姉さん。見事な技です。
カルミア:私はただ剣を振っただけだ。ここの悪魔は弱い。
レリア:そうですね。前線も練度の低い雑魚ばかりになってきました。ひどいものです。しかしこの戦いもそろそろ終わりが見えてきたということでしょうか。
カルミア:それはどうだろうな。我々が雑魚ばかりを相手させられておるということは、手強い悪魔が温存されておる可能性もある。
レリア:悪魔にそんな智恵が?
カルミア:非力だが計略に特化した悪魔もおるようだ。侮ると足下を掬われるぞ。
レリア:ならば、僕達はその温存されているという強敵や司令塔を叩くべきでは?
カルミア:上からの命令はこの場の死守だ。幾らこの戦場が雑魚ばかりとはいえ、我々が抜ければ、すぐに崩壊することも確かだ。
レリア:しかし……。
カルミア:レリア。我々は矛では無く、盾としての役割を求められている。分かるな?
レリア:はい、姉さん。
カルミア:とはいえ、こうも刈り残しておったのではどんな小言を言われるか分からん。半分ほど刈り取ろう。いけるか、レリア。
レリア:もちろんです、姉さん! ……でも、
カルミア:何だ?
レリア:姉さんは大丈夫なのですか?
カルミア:この通り私は無傷だ。問題ない。
レリア:いえ、そうでは無くて、……ここのところ、姉さんはずっと辛そうなお顔をされております。少し休まれては……。
カルミア:そんなことか、レリア。私は強い、心配するな。お前こそ私のために随分無理をしているだろう? いつもありがとう。
レリア:そんな、姉さんの為なら僕は何でもします……!
カルミア:ならば生きろ、レリア。私のために生きてくれ。
レリア:カルミア姉さん……。
カルミア:……さぁ、行くぞ。敵は待ってくれない。
レリア:はい!
0:
0:カルミア、懐の『爪』をそっと撫でる。
0:
カルミア:……幾多の戦場を巡った。この手に握る白き剣を悪魔の血肉に埋める度、私の剣は研ぎ澄まされていくのに、この腕はどうしようもなく鈍くなる。私は誰に負けること無く、傷一つ負っていないというのに、貴様と引き分けた時のように何かを感じることが無い。
カルミア:なぁ、ドライアン。貴様は今、どこに居る? 私を守ってくれるのだろう?
カルミア:私は貴様にまた――
0:
0:◇Phase 12◇
0:《渓谷》
0:
0:ドライアンとグレモリアが背中を合わせて立っている。
0:天使に囲まれている。
ドライアン:くそったれ! 罠だったか!
ウル:(天使A)ふふふふふ。憐れな悪魔が鳥籠に迷い込んだようですねぇ。
グレモリア:どうするっすか先輩? これ結構やばめの状況っすけど。
ドライアン:どうするもこうするもねぇ、決まってんだろ。
グレモリア:智恵と勇気で乗り越えよう、的な?
ドライアン:力と筋肉でぶっ倒す!
グレモリア:うへぇ脳筋っすね。
ウル:(天使A)たった二匹の小鳥風情がこの私メグサ・ハーケルの包囲を抜けられるわけ無いでしょう! お前達、行きなさい!
レリア:(天使B)はぁぁぁぁぁ!
カルミア:(天使C)とぁぁぁぁぁ!
ドライアン:……ふん!
レリア:(天使B)な!
カルミア:(天使C)馬鹿な!
ウル:(天使A)剣を素手で?!
ドライアン:動きが、止まってんぞ! おらぁぁぁっ!
0:
0:ドライアン、拳を振るう。はじけ飛ぶ天使。
0:
カルミア:(天使C)うべら!
レリア:(天使B)ぐべべ!
ウル:(天使A)……ひ、ひぃ!
ドライアン:所詮は雑魚、どれだけ束になろうと同じだ。……こんなモノを鳥籠とは言わん。
グレモリア:いやいや。いつからそんなゴリラになったんすか。剣使いましょうよ。
ドライアン:こんな奴らに剣を抜く気はねぇよ。
ウル:(天使A)っく! 悪魔ごときが調子に乗って! この私を舐めるなよ! 囲んで叩き潰せ! 数で圧倒しろ! あっはははははは! この私に楯突いたことを地獄で懺悔するんだな!
レリア:(天使B)うわああああああああ!
カルミア:(天使C)おおおおおおおおおお!
0:
0:天使達の突撃。
0:それを打ち倒すドライアン。
0:
ドライアン:ふん! っはぁ! 遅い遅い遅い遅い遅い! るぁああああっ! はぁああっ! ……後ろだグレモリア!
グレモリア:大丈夫、見えてるっす! てやぁ! ……不意打ちたぁ卑怯っすね、天使の旦那。
ウル:(天使A)黙れ、勝てば良いのさ!
グレモリア:ふぅん。確か、天使は勝てなきゃ生きる意味が無いとか、そういう感じの野蛮な奴らでしたよね。納得っす。
ウル:(天使A)野蛮だと? 貴様らの方が遙かに野蛮じゃないか! あの悪魔の姿を見ろ、アレを野蛮と言わずして何という!
グレモリア:そんなの決まってるっすよ。
ウル:(天使A)何?
グレモリア:強く気高い悪魔の中の悪魔――魔王っす。
ウル:(天使A)ほざけ。仮にそのようなモノだとして、この戦力差をどう乗り切る? どんな手があるというのだ?
グレモリア:手? 何をさっきから分かりきったこと言ってるんすかねぇ、この天使――はぁっ!!
レリア:(天使B)ぐぁぁ!
グレモリア:おいこら。ひとが話してる途中に何攻撃差し向けてんだてめぇ。
ウル:(天使A)戦いの最中にべらべら喋ってる方が悪い。
グレモリア:それもまぁ然りっすね。けどそれ、ブーメランっすよ!
ウル:(天使A)は。貴様の相手なぞ喋りながらでも出来る。傲るなよ悪魔。
グレモリア:どっちが傲ってるんだか。先輩の言ったこと忘れたんすか?
ウル:(天使A)何を言っている? あいつが何を言った?
グレモリア:剣を抜く気はねぇ。そして力と筋肉でぶっ倒す!
ウル:(天使A)何を世迷(よま)いごと――。
ドライアン:うおおおおおおおおっっ!!!!
0:
0:無数の天使が空を舞う。
0:
ウル:(天使A)なっ……?!
グレモリア:片付いたみたいっすね。
ウル:(天使A)……なんだと? こちらの手勢が何人いたと思ってるんだ、十や二十じゃない、二百五十五だぞ!? たった、たった二体……いや一体の悪魔に……! そんな、冗談だ、悪い夢だ、そんな、そんな馬鹿なぁ!
ウル:(天使A)そうか、アレが悪魔ドライアン・ダラス! くそ……いや、しかしここでやつを仕留めればこの失態も……!
グレモリア:残りはあんた一匹っすけど、どうします? 投降……とか、してみます?
ウル:(天使A)……ふざけるなぁ! 天使は決して退かない! 天使は決して負けないんだ! うぁぁぁぁぁぁ! ……ふ、ふふ、ふふふふふふ! 見せてやるよ! 第十七師団団長、天空のメグサ・ハーケル様の――!
グレモリア:っは! ……長いっす。
ウル:(天使A)な、馬鹿な、くそ、この私がこんな……! っく、貴様、卑怯……だ、ぞ。
0:
0:天使A倒れる。
0:
グレモリア:……憐れなやつ。
グレモリア:先輩。こっちも片付きましたよ。
ドライアン:おお。大将首任せてすまなかったな、グレモリア。
グレモリア:いえいえ、見た目通りの雑魚でしたから。
ドライアン:でも、名乗ってただろ? 天空の……目くそ?
グレモリア:何でも良いっすよそんなの。私達の愛の前では所詮目くそ鼻くそってことで。
ドライアン:ひでぇな。
グレモリア:ひでぇのはあいつらと先輩の実力差っすよ。というかいつの間にそんなに強くなったんすか? 戦い方もなんか違うし。
ドライアン:俺は変わってねぇよ。敵が、変わっただけだ。
グレモリア:ふぅん? まぁ、確かにあいつら今まで以上に死にものぐるいで、その分冷静さが足りないって言うか、ぶっちゃけ前より弱くなってますよね。
ドライアン:そうかもな。
グレモリア:……。なんか悩み事っすか?
ドライアン:いや、何でも無い。
グレモリア:なんかあったら、話して下さいね。
ドライアン:ああ。
グレモリア:このグレモリア・グリモニー。先輩の為なら、脱ぎます。
ドライアン:ああ。
グレモリア:……いやツッコんで下さいよ! ほんとに脱ぐっすよ!
ドライアン:先を急ぐぞ。
グレモリア:あ、先輩! もう、つれないなぁ。
0:
0:ドライアン、懐の『羽根』を握りしめる。
0:
ドライアン:カルミア。俺はこの剣を抜くのが怖い。
ドライアン:いつかお前を斬るのが怖い。
0:
0:◇Phase 13◇
0:《夢》
0:
0:夢の中。
0:ドライアンとカルミアが向かい合っている。
0:
ドライアン:天使を殺す。
カルミア:悪魔を殺す。
ドライアン:それが悪魔の常識で。
カルミア:それが天使の必然で。
ドライアン:そこに俺の意志はあるのだろうか。
カルミア:そこに私の正義はあるのだろうか。
ドライアン:カルミア、俺はお前を殺せるだろうか。
カルミア:ドライアン、貴様は私を殺せるだろうか。
ドライアン:カルミア、お前は俺を殺せるだろうか。
カルミア:ドライアン、私は貴様を殺せるだろうか。
ドライアン:お前を守ると言ったこの俺が。
カルミア:私を守ると言ったあの貴様が。
ドライアン:お前を本当に殺すのだろうか。
カルミア:私を結局どうするのだろうか。
ドライアン:なぁカルミア。
カルミア:なぁドライアン。
ドライアン:ウルが鳴いてるぞ。
カルミア:ウルが呼んでるぞ。
ドライアン:今日は天使をたくさん殺した。
カルミア:今日は悪魔を大勢殺した。
ドライアン:骨を砕き、
カルミア:肉を切り、
ドライアン:頭を潰し、
カルミア:首を落とし、
ドライアン:内臓を弾き、
カルミア:心臓を貫き、
ドライアン:翼をもぎ、
カルミア:手足を落とし、
ドライアン:天使を殺した。
カルミア:悪魔を殺した。
ドライアン:無抵抗の幼い天使を。
カルミア:逃走する老いた悪魔を。
ドライアン:残虐に。
カルミア:冷酷に。
ドライアン:殺した。
カルミア:殺した。
ドライアン:こんな筈じゃ無い。
カルミア:こんな筈じゃ無い。
ドライアン:こんな筈じゃ無い。
カルミア:こんな筈じゃ無い。
ドライアン:だったら、
カルミア:だったら、
ドライアン:お前はどんなつもりだった?
カルミア:貴様はどんな予定だった?
ドライアン:ここは戦場で、
カルミア:これは戦争で、
ドライアン:俺は悪魔で、
カルミア:私は天使で、
ドライアン:敵同士で、
カルミア:仇同士で、
ドライアン:友人でも、
カルミア:同胞でも、
ドライアン:姉でも、
カルミア:兄でも、
ドライアン:妹でも、
カルミア:弟でも、
ドライアン:家族でも、
カルミア:肉親でも、
0:
0:(可能なら同時に)
0:
ドライアン:恋人でも無い。
カルミア:恋人でも無い。
0:
0:間。
0:
ドライアン:なのに、
カルミア:なのに、
ドライアン:なのに、
カルミア:なのに、
ドライアン:どうして、
カルミア:どうして、
ドライアン:こんなにもお前のことが
カルミア:こんなにも貴様のことを
ドライアン:どうしようもなく、
カルミア:どうしようもなく、
ドライアン:■■なのだろう。
カルミア:□□なのだろう。
ドライアン:ドライアン・ダラス。
カルミア:カルミア・ラティフォリア。
ドライアン:頼む。
カルミア:頼む。
ドライアン:お前のために。
カルミア:貴様のために。
0:
0:間。
0:(可能なら同時に)
0:
ドライアン:死んでくれ。
カルミア:死んでくれ。
0:
0:間。
0:
ドライアン:カルミア!
カルミア:ドライアン!
0:
0:◇Phase 14◇
0:《野営地》
0:
0:二人、夢から覚める。
0:悪魔と天使、それぞれの野営地。
0:ドライアンのそばにはグレモリアが。
0:カルミアのそばにはレリアがいる。
0:
ドライアン:夢、か。
グレモリア:随分うなされてたっすよ?
レリア:姉さん、大丈夫ですか?
カルミア:ああ、夢を悪い夢を見ていたようだ。
レリア:きっと戦いの疲れが出たんですよ。
グレモリア:先輩、すごい活躍でしたもんね。
レリア:僕も姉さんを見習わないと。
グレモリア:でも、あんまり心配かけないで欲しいっす。
レリア:姉さんには僕がついてますから。
グレモリア:先輩にはあたしがついてるっす。
0:
ドライアン:ありがとうグレモリア。
カルミア:ありがとうレリア。
0:
レリア:いえ。気にしないで下さい。
グレモリア:いいんすよ。
レリア:ところで姉さん。
グレモリア:ところで先輩。
カルミア:何だ?
ドライアン:何だ?
0:
レリア:ドライアンって、
グレモリア:カルミアって、
0:
0:(可能なら同時に)
0:
レリア:誰ですか?
グレモリア:誰っすか?
0:
0:
ドライアン:…………。
カルミア:…………。
レリア:言いたくないんですか?
グレモリア:先輩は何も言ってくれないんすね。
レリア:言いたくなければ言わなくても良いんです。姉さん。
グレモリア:そうすか、分かりました。なら別に良いっすよ。
レリア:姉さんには姉さんのお考えがあるのでしょう?
グレモリア:先輩が何も言ってくれないなら、あたしは。
レリア:僕はこれ以上聞きません。
グレモリア:だから勝手に喋るだけっす。
レリア:姉さんは、僕のたった一人の家族ですから。
0:
レリア:謝る必要はありません。
グレモリア:先輩、顔を上げて下さい。
レリア:姉さんは誰に恥じることの無い、立派な功績を上げられているじゃないですか。
グレモリア:先輩、今から超大切なこと言うので耳を刮目してよく聞くっすよ!
レリア:僕は姉さんを責めたりしません。
グレモリア:あたしは先輩のこと尊敬してます。
レリア:何故なら、
グレモリア:だって、
レリア:天使レリア・アンセプスは。
グレモリア:悪魔グレモリア・グリモニーは!
レリア:僕の味方になってくれたあの日から。
グレモリア:あたしの仲間になってくれたあの日から。
レリア:僕を弟と呼んでくれたあの日から。
グレモリア:あたしを家族みたいなものと呼んでくれたあの日から。
レリア:僕を拾ってくれたあの日から。
グレモリア:あたしを救ってくれたあの日から。
レリア:カルミア姉さんのことを。
グレモリア:ドライ先輩のことを!!
0:
0:間。
0:
レリア:心より愛しております。
グレモリア:ぶっちゃけ愛してます!!
0:
0:間。
0:
カルミア:……レリア。
レリア:大丈夫です。
レリア:姉さんが言わなくても、僕は分かっていますから。
レリア:ふふふ。愛してます、僕の姉さん。
カルミア:レリア……?
0:
0:
ドライアン:……グレモリア。
グレモリア:おいおいおいおい。そこは俺も愛してるぜグレモリア! だろうがよ、おいごらぁ! ドライアン!
0:
0:グレモリア、ドライアンを殴る。
0:
ドライアン:痛ぇ! 何故殴った!
グレモリア:これが殴らずにいられるますか? 大大大大大好きな先輩に大大大大大好きなどこぞの女がいて、……そんな状況、私の拳と恋心が黙っていられますか? いや、無理。絶対無理。これはもうぶん殴るしかないっす! 大大大大大好きだからぶん殴る。殴りたいほど愛してるっす。ドライ先輩! さぁ、行きますよ、あたしの愛を顔面で受け止めろっす!
ドライアン:グレモリア……。
0:
0:
レリア:姉さんは、
グレモリア:先輩は!
レリア:強くて、
グレモリア:弱くて!
レリア:美しくて、
グレモリア:醜くて!
レリア:儚くて、
グレモリア:虚しくて!
レリア:可愛くて、
グレモリア:憎たらしくて!
レリア:賢くて、
グレモリア:愚かしくて!
レリア:晴々しくて、
グレモリア:穢らわしくて!
レリア:繊細で、
グレモリア:粗忽で!
レリア:素敵で、
グレモリア:野卑で!
レリア:神にも勝る。
グレモリア:どうしようもない!
レリア:世界の誰よりも敬愛すべき、
グレモリア:そんな!
レリア:この世で唯一僕だけの姉さんです。
グレモリア:私を救ってくれたたった一人の愛する先輩です。
レリア:だから。
グレモリア:だから!
レリア:僕は、
グレモリア:あたしは、
レリア:その瞳の輝きを曇らせるやつが、
グレモリア:その目ん玉で追いかけるやつが、
レリア:もしもいたなら、
グレモリア:もしもいたなら!
0:
0:レリア、カルミアから『爪』を奪う。
0:グレモリア、ドライアンの『羽根』を撫でる。
0:
カルミア:あ……!
ドライアン:あ……!
0:
レリア:全て殺す。
0:
0:間。
0:
カルミア:レリア! 待ってくれ!
ドライアン:グレモリア! 待て!
0:
レリア:僕は愛しています。カルミア姉さん。
カルミア:レリア!!
0:
0:レリア、去る。
0:
グレモリア:もしいたとしても、関係ない!
ドライアン:え……?
グレモリア:あたしは愛していますよ、ドライアン先輩。
ドライアン:グレモリ――
0:
0:グレモリア、ドライアンに口づけをする。
0:
グレモリア:…………。
ドライアン:…………。
グレモリア:……ん。
ドライアン:……グレモリア。
グレモリア:……なんすか?
ドライアン:こんなことして、お前は何がしたいんだ。
グレモリア:そんなの、決まってるじゃないすか。
ドライアン:何がだよ。
グレモリア:分からないっすか?
グレモリア:あたしの願いは変わらないっす。
0:
0:間。
0:
グレモリア:ずっと先輩を愛していたい。ただそれだけっす。
ドライアン:…………。
グレモリア:ずっとずっと同じっす。
ドライアン:グレモリア……。
グレモリア:出会ったときから、変わらない。先輩を愛してる。たとえ好きな相手が出来たとしても、それをあたしに教えてくれなくても、たとえ先輩があたしのことを憎んでも、たとえ先輩が変わってしまっても、たとえ先輩があたしを置いて遠く離れてしまっても、あたしの愛は変わらない。ずっとずっと愛してる。これまでみたいに愛してる。これからもずっと愛してる。変わらないっす。この愛だけは変わらない。世界の何が変わろうと、この愛だけは、先輩への愛だけは変わらない――
グレモリア:
グレモリア:だから、愛してるっす。
グレモリア:
グレモリア:届かなくても愛してるっす。
グレモリア:振り向かなくても愛してるっす。
グレモリア:愛しい顔を殴りたいほど愛してるっす。
グレモリア:愛しい顔に口づけしたいほど愛してるっす。
グレモリア:まさか天使に恋しちゃう先輩のことも愛してるっす。
グレモリア:そんな阿呆みたいな先輩のことマジで馬鹿って心の底から呆れながらもやっぱり心の底から愛してるっす。
グレモリア:先輩のこと愛してるっす。
グレモリア:先輩のこと、愛してるっす。
ドライアン:グレモリア。
グレモリア:先輩。
ドライアン:ありがとう。
グレモリア:先輩……!
0:
0:間。
0:
グレモリア:って、いや、おいおいおいおい。そこは俺も愛してるぜグレモリア! だろうがよ、おいごらぁ! ドライアン! それかもう一回チューしろやこら! もう一回殴られてぇっすかこら!
0:
ドライアン:いや、
グレモリア:そんなに嫌っすか?!
ドライアン:いや、そうじゃなくて、
グレモリア:なんすか? 言いたいことがあるならはっきり言うっすよ。いや、待って! はっきり言われたらマジで凹むかもしんないっす。言わないで欲しいっす。
ドライアン:グレモリア、その、なんて言うか、その…………照れる。
0:
0:間。
0:
グレモリア:いや、照れんな。なんすか、その反応。
ドライアン:こういうの、初めてなんだよ。
グレモリア:あー……。いや、マジすか? その見た目で? 女何人侍らせられるかグランプリとかやってそうなのに?
ドライアン:やるかそんなもん! 阿呆か! 別に見た目は関係ないだろ。
グレモリア:ほんとに、一切……無いんすか?
ドライアン:そうだよ! 俺は生まれてこの方戦いばっかで、そういうのは一切知らん。……悪いかよ。
グレモリア:いや、悪くは無いっすよ。でもたまに下ネタとか振ってきてたじゃないですか。
ドライアン:お前の影響だよ。
グレモリア:ははは。
ドライアン:笑ってんじゃねぇよ。
グレモリア:……もしかしてあたしがどれだけ誘惑してもなびかなかったのは、先輩がただヘタレだったからっすか?
ドライアン:それは……!
グレモリア:あれ? 意外といける感じっすか? え? カルミアとかいう女に負けること前提で打ってたあたしの大博打、ただの空回りだったんすか?!
ドライアン:今、カルミアのことは関係ねぇだろ!
グレモリア:あるっすよ!
ドライアン:何が!
グレモリア:好きなんでしょ。
ドライアン:いや、好きとかじゃ……。
グレモリア:何言ってんすか、今更。天使だから遠慮してんすか? そんなのいらねぇっすよ。よく考えて下さい、相手は天使なんすよ。寧ろ遠慮はいらねぇっす。容赦無く堕天させてやれば良いだけっす。
ドライアン:お前が何言ってんだ。グレモリア。お前、悪魔かよ。
グレモリア:そうっす悪魔っす。先輩も悪魔っすよ。目の前に可愛い後輩の悪魔がいるのに何考えてんすか。相手は天使っす、何考えてんだってのはこっちの台詞っすよ。どうせ考えるなら、あたしのエロいこと考えろよ!
ドライアン:考えられねぇよ、そんなもん! もういいだろ、お前、何なんだよ、俺を愛してるんじゃ無いのかよ、なんでそんなにカルミアのこと……。
グレモリア:愛してるっすよ! じゃあさ、先輩! どうすれば良いんすかねぇ先輩? たとえば恋敵を殺せばいいんすか? そしたら、先輩はあたしのことだけ見てくれるっすか? あたしのことを愛してくれるっすか?
ドライアン:それは……!
グレモリア:違うでしょそんな訳ない。天使を何匹殺したところで、愛する天使を殺したところで、先輩はあたしを愛してくれる訳ない。分かりきってるっすよ。愛のために殺すなんて間違ってるっす。
ドライアン:間違ってる? でも俺達は、悪魔と天使だ! 出会ったときから殺し合う定めで、たとえ好きになったとしても殺し合うことでしか交われない。俺はあいつを斬らなきゃならない。遠慮はいらない、容赦なくあいつを殺す。だって、天使なんだから仕方ねぇだろ! 守りてぇとか言ったって、戦場で出会っちまったら殺すしかねぇ。あいつだって俺を殺すだろ? 殺さないと生きていけない。生きている限りは殺す! 俺達は殺す為に生きてて、俺が殺さないならあいつに殺されるしかねぇ! 二人が生きるには殺されないように強くなくちゃいけねぇ! は、ははは! そうだ! あいつを愛すには強くなくちゃいけねぇんだ! そして俺はあいつを殺すために強くなってきた! あいつを愛すにはだから殺すしかねぇんだ! そうだろう!?
グレモリア:先輩、歯ぁ食いしばるっす。
ドライアン:あ?
0:
グレモリア:この大馬鹿野郎!
0:
0:グレモリア、ドライアンを殴る。
0:
ドライアン:ぐがはっ……!?
0:
グレモリア:本気で言ってんのかてめぇ!
ドライアン:グレモリア……!
グレモリア:もし本気で言ってんなら! てめぇは悪魔でも天使でもねぇ! ひん曲がった欲望でできたドブ臭ぇ鬼畜野郎だ!! うだうだ自己弁護してる暇があったらとっとと腹掻っ捌いて腑からクソ垂れ流して死ね! そんなもんは愛じゃねぇ! あたしの愛を穢すんじゃねぇ! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
0:
0:グレモリア、涙を流す。
0:
ドライアン:お前……。
グレモリア:痛いんだよ! 拳が! 心が! 先輩を殴ったら! こんなにも痛い! 全然幸せになんてなれない! キスしたい! あたしは先輩を抱きしめて、キスしたい! 殴りたくなんて無い! なのにさ、殴るしかないんだよ! 愛してるから! あたしは殴る! 何回でも! 何百回でも! あたしの骨が折れても! 心が砕けても! 愛してる! だから殴る! 先輩の歪んだ愛をあたしの愛でぶん殴る! だって! だって! 先輩にこんな思いして欲しくないから! 愛で殺してしまおうだなんて、そんな残酷なことをさせるくらいなら! あたしが!
0:
0:間。
0:
グレモリア:先輩を殺す!!
0:
0:間。
0:
グレモリア:……だから!
グレモリア:殺さないで欲しいっす。あなたの天使を。あなたの心を。
ドライアン:グレモリア、
0:
0:ドライアン、グレモリアを抱きしめる。
0:
ドライアン:ごめん。
グレモリア:……もう。仕方の無い悪魔っすね。そこは「グレモリア、愛してる」だって何回言ったら――あ。
0:
0:風を切るような音。
0:グレモリアが倒れる。
0:
ドライアン:グレモリア? どうした、グレモリア?! グレモリア!
グレモリア:ドライ……先輩、愛して――。
ドライアン:おいおいおいおいおい、なぁ、グレモリア! 嘘だよな! 嘘だよな! おい! あ、ぁぁぁぁああああああああああああああ……!
レリア:うるさいぞ、悪魔。不愉快だ。
0:
0:影の中にレリアが立っている。
0:
ドライアン:お前……?
レリア:っは! どんなやつが姉さんを曇らせたかと思ったら、醜い悪魔が、これまた醜い悪魔と抱き合っているなど、反吐が出る! あああああああああ! 貴様、姉さんに何をした? 姉さんの御心を歪めるなど万死に値する。いや、ぬるい。この世の悪徳全てを秤にかけても尚余りある罪業! 引き千切り切り裂き押し潰し磨り潰し焼き尽くし燃やし尽くし消し去ってくれる! 無論、その汚い悪魔の死骸諸共だ。姉さんを姉さんを姉さんを姉さんを姉さんを!
レリア:……穢したその罪深さを、痛苦恥辱絶望虚無後悔焦燥喪失憤怒恐怖と共に寸刻みに飲み下し、消滅するが良い!!《ザ・ヴォイド》
ドライアン:ぁ、ぁ、ああああああああああああああああああああ!
0:
0:静寂。
0:
レリア:あ、あは、あはは、あははははははは! やったよ! 姉さん、姉さんを穢そうとする悪魔は消し去ってやったから、ああ、でもつい、一瞬で消し去ってしまった。一秒でも早く、姉さんを助けたくて。ふふ、安心して! 僕は――。
ドライアン:……ア。
レリア:は?
ドライアン:グレモリア。
レリア:そんな、馬鹿な……! どうして生きてる! この! 化け物が!
ドライアン:静かにしろ。
レリア:っ!
ドライアン:グレモリアの声が聞こえないだろ。
レリア:ふ、ふふふ、何だ! こいつ、満身創痍じゃないか。っは! さっさととどめを刺して、姉さんのところに、カルミア姉さんのところに僕は帰るんだ!
ドライアン:カルミア? カルミア。そうだ、俺はカルミアに愛を伝えないと。
レリア:何だと?
ドライアン:愛を伝えて――そして、殺すんだ。
レリア:殺すだと? 姉さんには指一本触れさせは――!
ドライアン:静かにしろって言ったよな。
0:
0:ドライアン、剣を振り抜く。
0:
ドライアン:死ね。
レリア:な、そんな……姉さ――!
ドライアン:死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。
0:
0:レリア、動かなくなる。
0:その懐から『爪』が落ちる。
0:
ドライアン:俺の爪? ああ、カルミアにやったやつだ。それを何でこの天使が持ってる? グレモリアを殺したこいつ――違う! 生きてるんだ! グレモリアは生きてる! 愛してる! 愛してるグレモリア! だから、こいつはグレモリアを、……あれ? おかしいな。何かが違う。何だ。間違ってる。ああ。あああ。あああああ。……そうか。殺さないと。約束だから、俺は殺さないと、行こう一緒に。ずっと一緒だ。一緒。聞こえるからな。声が、愛してるって言ってくれたあの声が。カルミアを殺そう。そういう定めなんだ。ああ。全てをこの手で終わらせよう。ああ。…………ウルが鳴いてる。
0:
0:ドライアン、去る。
0:響く電話のような着信音。
0:
カルミア:「澄みわたる深い夜、わたしを呼ぶ声がする。振り返る思い出を、あなたが呼ぶ声がする。星空に繋いで、《スター・コネクト》」どうして、どうして、レリアに繋がらない……? そうか、もう、既に。
0:
0:間。
0:
カルミア:ふふふ。ふふふふふ。ああ。私はきっと甘い夢を見ていたのだ。殺すべき悪魔と愛すべき弟。その二つを天秤に乗せた。結果。両方を失うのだ。もう、何も残っておらぬのなら――
カルミア:こんな、苦しいだけの心はいらぬ。
カルミア:我が神の意志のままに。天使カルミア・ラティフォリア、悪魔を。ドライアン・ダラスを伐つ為だけの剣となろう。
カルミア:百度目の邂逅。それが、全ての終わり。
カルミア:天使に命ずるは死を以ての清算。悪魔に命ずるは凄惨なる死。天使よ、悪魔を蹂躙し殲滅せよ――
カルミア:愛していたよ。ドライアン。永遠にさようなら。
0:
0:◇Phase 15◇
0:《本陣》
0:
0:混沌とした戦場。
0:呻き声ばかりが聞こえる。
0:天幕の下で一人佇むドライアン。
0:
レリア:(悪魔D)ご報告申し上げます。ドライアン様。
ドライアン:何だ。
レリア:(悪魔D)αからμまでの各隊が先程壊滅致しました。残るは我らν……いえ、私とドライアン様のみです。
ドライアン:そうか。ご苦労。
レリア:(悪魔D)いかがされるおつもりですか? もう勝ち目などありません。あの天使がここに来るのも時間の問題です。……ドライアン様。この戦線はもう駄目です! あなた様だけでもお逃げに――
ドライアン:逃げる? どこへ? 何のために? どうして?
レリア:(悪魔D)しかし、ドライアン様さえ生きていればまだ我々は!
ドライアン:静かに。グレモリアの声が聞こえないだろ?
レリア:(悪魔D)グレモリア様は……。
ドライアン:俺はあいつのためにも殺さないと。天使を。カルミア・ラティフォリアを!
ドライアン:……もういいぞ。お前もよくやってくれた。
レリア:(悪魔D)――お先に参ります。総督。ご武運を。
0:
0:悪魔D、自害する。
0:
ドライアン:さて。行こうか。グレモリア。
0:
0:
0:カルミアと従者の天使Dが立っている。
0:
グレモリア:(天使D)カルミア様、ご報告申し上げします。
カルミア:…………。
グレモリア:(天使D)先刻、敵陣営の大部分を殲滅したと各隊より報告がありました。
カルミア:ご苦労。
グレモリア:(天使D)しかし我が陣営の損耗も激しく、とても動ける状態ではありません。やはり増援を待ち、万全の状態で敵本陣を……いえ、例の悪魔を――
カルミア:不要。
グレモリア:(天使D)は、いえ、しかし!
カルミア:不要。私が――殺す。
グレモリア:(天使D)お一人で行かれるなど、無茶です! 失礼ながら、いくらカルミア様といえど、あの悪魔を相手にご無事で済むとは!
カルミア:去ね。
グレモリア:(天使D)カ、ルミア様?
0:
0:天使D、倒れる。
0:
カルミア:悪魔を――殺す。
0:
0:◇Phase 16◇
0:《戦場》
0:
0:戦場の真ん中にドライアンが立っている。
0:
ドライアン:ようやくお出ましか。カルミア。
0:
0:カルミアが舞い降りてくる。
0:
カルミア:ドライアン・ダラス。
ドライアン:これ、返すぜ。
0:
0:ドライアン、レリアの亡骸をカルミアに投げ渡す。
0:
ドライアン:大事なもんなんだろ。
カルミア:――――。
ドライアン:ああ、それとこれも。
0:
0:ドライアン、『羽根』を投げ捨てる。
0:
ドライアン:俺にはもう必要ない。
カルミア:――――。
ドライアン:さぁ、始めるか。殺し愛を。
カルミア:――――殺す。
0:
0:二人剣を抜く。
0:
ドライアン:ぐぐおおっっ!!
カルミア:――っは!
ドライアン:てりゃぁっ!!
カルミア:――とぁ!
ドライアン:っく! ふははは! ……だらあぁぁーーッ!!!
カルミア:――流星籠《ケイジ・オブ・シューティング・スター》
ドライアン:っく! はぁぁああああ! 陽炎舞踏術《ヒート・ステップ・ヘイズ》!
カルミア:――星光欠落《ミッシング・オブ・スター・シャイン》
ドライアン:っくぐああああ! ぬおおおおおあああぁっ! 血焔刃《ブラッド・フレイム・エッジ》!
0:
0:響く雷鳴と剣戟。
0:
ドライアン:うおぉぉぉぉ! 天使ぃぃっ!
カルミア:はぁぁぁぁっ! 悪魔!
0:
0:ドライアンの剣がカルミアの剣と腕を切り飛ばす。
0:
カルミア:――!
ドライアン:終わりだ。カルミア!
0:
0:ドライアンが剣を振り下ろす。
0:斬られたカルミアが消える。
0:
ドライアン:何?
カルミア:千変万化《ヴァリアブル・ダンス》。
ドライアン:くそ、そんなモノで――!
カルミア:『夜の深きに誘われて、わたしは紡ぐ。星の巡りに抱かれて、幾年月も、降り積もる雪は草原を渡るつむじ風。やがて繋がる世界から、一つの柱とこの私を結んでくれる《クリスタル・コメット》』
0:
0:世界が光に包まれる。
0:
0:◇Phase 17◇
0:《夢と現実の狭間》
0:
0:カルミアの家の前。
0:ドライアンが袋を提げて立っている。
0:引き戸が開く。
0:中からウルを抱いたカルミアが現れる。
0:
カルミア:また来たのか、ドライアン。
ドライアン:来たら悪いか?
ウル:みゃあ。
カルミア:それは、悪いに決まっているだろう。
ドライアン:どうしてだ?
カルミア:どうして? 貴様は悪魔だろう? そして私は、
ドライアン:お前は天使だ。カルミア。
カルミア:分かっているならもう来るな。
ドライアン:何も分からない。それだけで俺はこうしてここに来ることも出来ないのか? キャットフードを片手にこの扉の前に立つことが!
カルミア:それだけで十分なのだ。
ドライアン:天使と悪魔というだけで?
カルミア:天使と悪魔というだけが、
0:
0:間。
0:
カルミア:この世界の全ての理を分断する剣だ。
ドライアン:分かってるよ。俺は分かってる。けど!
カルミア:分かっておる。私も分かっておるさ。けれど、どうすることも出来ぬだろう? お前と手それを握っているのだ。
ドライアン:俺はそんなもの……!
カルミア:貴様の手に握られておるのは本当にウルの餌か?
0:
0:ドライアンの手の中の袋が剣になる。
0:
ドライアン:え? これは、違う。こんなモノじゃ無い。剣なんて握りたくない。お前に向けるつもりなんて。
カルミア:しかし私も同じだ。今、私は何を抱いておる?
ウル:みゃあ。
ドライアン:あ? そんなの決まってる。
カルミア:ウルか?
ドライアン:違うのか?
カルミア:違うな。
0:
0:カルミアの抱くウルが剣になる。
0:
カルミア:これは、貴様を斬るための剣だ。
ドライアン:でも、そいつはウルだ。俺が雨の日に拾った一匹の猫だ。うちにはベルがいるから飼えなくて、グレモリアにも断られて。それで……グレモリア? グレモリアは俺を愛してて、でも、俺はあいつを守れなくて……。俺はお前を殺さないといけない。天使だから? 違う、守るって決めたから。守るって決めたから殺す。そうだ、俺はお前を殺す。なぁ、カルミア、俺は何か間違っているか?
カルミア:いいや、何も間違っておらん。さぁ、私を殺してくれ。
ドライアン:そうだよな。ウルを受け入れてくれたお前は優しいから。俺が間違っててもきっと許してくれるんだ。ありがとうカルミア、安心して殺せる。
カルミア:……泣くでないドライアン。貴様のそんな顔見たくはない。魔王などと呼ばれておる大の悪魔が、情けない。笑って殺せ。天使の一人や二人くらい。いや、全ての天使を殺せ。神も。何もかも。それが貴様だろ? ドライアン・ダラス。
ドライアン:カルミア。俺は……、
カルミア:何をしておる? こうしなければ殺せぬか?
0:
0:カルミアのそばにグレモリアが現れる。
0:
グレモリア:先輩。
ドライアン:グレモリア!? おまえ、やっぱり生きていたんだな!
グレモリア:もちろん、死んでるっす。
ドライアン:お前何を言ってるんだよ、だってここに、
グレモリア:だって私は――
0:
0:カルミア、グレモリアを斬る。
0:
カルミア:私が殺したから。
ドライアン:グレモリアーーっ! ……カルミアぁぁ!!
カルミア:貴様は悪くない。グレモリアとかいうお前の愛する者を失ったのも、その仇である私の弟を殺したのも。貴様は悪くない。全て私の責任だ。だから、貴様が殺せ。この私を。
ドライアン:ああ。望み通り殺してやる。約束だからな!
カルミア:それでいい。そして、お前は幸せに生きてくれ。この世界でな。
ドライアン:永遠にさようならだ。カルミア。
グレモリア:待つっすよ先輩。
カルミア:……何故。
ドライアン:グレモリア? どうして止める! 俺は天使を、カルミアを! お前の仇を殺すところなんだ!
グレモリア:いや、頼んでないですし。なに勝手に壊れてんすか、先輩。
カルミア:貴様、本物なのか……?
グレモリア:本物が何を指すかは知りませんが、それで言うとあたしは偽物っすよ。
ドライアン:何を言ってるんだ、グレモリア、お前は生きてて、でも死んでて、あれ、おかしいな。
グレモリア:いや、おかしいの先輩っすから。……はぁ、またやらないとっすね。おら! おら! おら!
0:
0:グレモリア、ドライアンを殴る。
0:
カルミア:何を!?
グレモリア:黙ってみてるっすよ、あたしの恋敵! 連れ戻してみせるっすから。おら、目ぇ醒ませ!
ドライアン:っぐ! グレ、モリア?
グレモリア:先輩、ご機嫌いかがっすか? あたしのこと愛してるっすか?
ドライアン:ほんとに、グレモリアなのか?
グレモリア:……もう。仕方の無い悪魔っすね。そこは「グレモリア、愛してる」だって前にも言ったでしょ。でも、残念、あたしはあなたの愛する、グレモリア・グリモニーではありません。グレモリア・ダラスっす。
ドライアン:……でも、お前は!
グレモリア:あー、無視すんなよ。滑ったみたいじゃ無いっすか。死んだっすよ。疑いようもなく。だからあたしは先輩の妄想。一緒に行こうって先輩が無理矢理引っ張ってきた魂の残滓っす。それがあんたの技で具現化した、故にグレモリア・ダラス。言うなればそう、妖精っすね。
カルミア:そんなことが。
グレモリア:あんたがこんな土壇場でイメージ共有術を使わなければ、芽生えることも無かった、そういう存在っす。その時、不思議なことが起こった、みたいな。
ドライアン:お前は、じゃあ、本当に死んだのか?
グレモリア:しつこいっすね。死にましたよ。後ろからすぱっと斬られて、別れを告げる間もなくね。でも後悔はしてませんよ、先輩。あんたの胸の中で死ねたんすから。
ドライアン:グレモリア。
グレモリア:って、言われたかったんすよね、先輩は。
ドライアン:グレモリア……。
グレモリア:でも残念。あたしは本人じゃ無いので。……それでも言えて良かったっす。それで傷が少しでも癒えてくれるなら。
ドライアン:……ああ。ありがとう。救われた。
グレモリア:それは何よりっす。じゃあ、あたしは行くっすね。
ドライアン:どこへ?
グレモリア:さぁ? それは分かりません。でもきっと、大好きな先輩の居るところっすよ。さぁさぁ、ぼさっとしてないで、好きな女待たせてるっすよ? 守るって約束したんでしょ? なら、男を見せて下さい、ドライ先輩。いつか、また。
0:
0:グレモリア、消える。
0:
ドライアン:……カルミア。
カルミア:私を、殺してくれないのか?
ドライアン:ああ。殺さない。約束だからな。
カルミア:約束? そんな物はしていない。
ドライアン:したんだよ、忘れたか?
カルミア:知らない。
ドライアン:なら、またやってやる。
カルミア:何を?
ドライアン:外で会おう。……ウル!
0:
0:ドライアンの剣がウルに変わる。
0:
ウル:みゃあ。
ドライアン:俺を出してくれ。
カルミア:待て、ドライアン! 外に出たら私は貴様を殺さないといけなくなる、だからお前はここで私を。
ドライアン:殺せって? やなこった。俺はお前を守るって約束したんだ。散々傷つけちまって手遅れかも知れないが、グレモリアとも約束したしな。
ウル:みゃあ。
ドライアン:もちろんウル。お前ともな。
カルミア:ドライアン……。
ドライアン:待ってろ、カルミア。
カルミア:分かった。私は信じよう、貴様を。
ドライアン:ああ。お前のことは俺に任せろ。
ウル:みゃあ。
0:
0:◇Phase 18◇
0:《戦場》
0:
0:片腕で剣を握るカルミアと剣を捨てたドライアンが向かい合っている。
0:
ドライアン:カルミア。
カルミア:――私は悪魔を、殺す。
ドライアン:今のお前は、心を閉ざしてるってことか。
カルミア:――――。
ドライアン:まぁ、ひとのことは言えねぇか。グレモリアに、感謝しないとな。
カルミア:――殺す。
0:
0:カルミア、斬りかかる。
0:
ドライアン:……っと!
カルミア:ふっ! はぁっ!
ドライアン:遅いな。ほんとのお前はそんなもんじゃないだろ。なぁカルミア。俺と何十回もした戦いは何だったんだよ?
カルミア:――悪魔を、殺す。
ドライアン:神のためにか? そんな理由で戦うのかお前は?
カルミア:悪魔に凄惨なる死を。
ドライアン:俺は、お前と戦いたい。好きなんだよ。お前と戦うのが。
カルミア:私は悪魔を蹂躙し殲滅する。
ドライアン:違うな。
カルミア:殺す。
ドライアン:俺はお前のことを、
カルミア:――死ねッ!
ドライアン:愛しているんだよ!
0:
0:ドライアン、カルミアの剣を受ける。
0:
ドライアン:ぐ、があぁ……! すっごい痛ぇが、掴まえた。
カルミア:は、なせ……!
ドライアン:嫌だ。放さない。正気に戻れ。
カルミア:なに、を――
ドライアン:カルミア、愛してる。
0:
0:ドライアン、カルミアに口づけをする。
0:
カルミア:――っ!
ドライアン:カルミア、帰ろう。
カルミア:――あ、ぁ――。
ドライアン:一緒に帰ろう。
カルミア:――ド――アン。
ドライアン:ウルが泣いてるぜ。
カルミア:ウ、ル――?
ドライアン:ああ、俺達の飼い猫だ。
カルミア:猫――。
ドライアン:カルミア、俺達は大事なものを失った。
カルミア:――――。
ドライアン:多くの同胞を、グレモリアを。そして俺も手にかけた。天使を、そしてお前の弟を。
カルミア:――レ、リア。
ドライアン:その事実は消えねぇ。過去は、消えない。
カルミア:殺、した――。
ドライアン:俺達の過去は消えてない。目を背けちゃいけない。投げ出しちゃいけねぇんだ。ましてや未来を。定めをただ受け入れて、後悔なんてしちゃいけねぇ。辛いからやけになって殺し合って傷付けて。それで相手より自分の方が傷ついてるなんて、馬鹿野郎にも程がある。ごめんな、カルミア。
カルミア:どうして――?
ドライアン:お前をこんなに傷付けて。
カルミア:どうして――?
ドライアン:向き合うことから逃げて。
カルミア:どうして――?
ドライアン:戦うことから逃げていた。
カルミア:どうして貴様が謝る――?
ドライアン:カルミア。
カルミア:悪いのは私だ。レリアが悪魔に強い恨みを抱いていたのも、私のために暴走したのも、全て私が悪い。貴様はだから、私を殺してもいいんだ。なのに、どうして。
ドライアン:……あのな、カルミア。
カルミア:ドライアン……?
0:
0:ドライアン、カルミアに口づけをする。
0:
カルミア:……ん!? な! 何を!
ドライアン:この死にたがりの天使め。
カルミア:何だと?
ドライアン:今思い出したよ。
カルミア:何がだ?
ドライアン:初めて会ったときもお前は死にたがってた。死に場所を探してるって顔してた。だから、俺はお前を見逃したんだ。
カルミア:……いや、そんなことは無い。よく憶えておるが、貴様は私に命乞いしただろ。
ドライアン:……し、してねぇよ! そういう演技だ。だってその後――
カルミア:逃げたものな。あの背中、まだしっかりと思い出せる。
ドライアン:逃げちゃ悪いかよ。
カルミア:別に。しかしさっき、逃げてすまなかったと言ったばかりであろう?
ドライアン:それはそれ、これはこれだ。
カルミア:好き勝手言いおる。……貴様らしいな。
ドライアン:だろ。前に言ったろ、自由に生きている限り俺の勝ちだ。
カルミア:では、さっきまでは負けておったのか?
ドライアン:……っそうだよ!
カルミア:そうかそうか。ふふふふふふふ。
ドライアン:笑うなよ……。は、はははははは。
0:
0:二人笑い合う。
0:
カルミア:こうして出会うために生きておったのだろうな。
ドライアン:何だって?
カルミア:生きていたから出会えた、死んでおったら出会えないからな?
ドライアン:当たり前だろ?
カルミア:そう、私達は当たり前のように生きて出会い、そして――
0:
0:(可能なら同時に)
0:
ドライアン:――愛してる。
カルミア:――愛してる。
0:
ドライアン:一緒に帰ろう。ウルが待ってる。
カルミア:ああ。良いだろう。貴様とならどこへでも。
ドライアン:カルミア。お帰り。
カルミア:ただいま。ドライアン。
0:
0:雨が上がる。
0:
0: 《天使と悪魔と捨て猫と。 幕》
敵対する天使と悪魔が拾った猫を切っ掛けに仲良くなる話。自らの宿命と、心の狭間で揺れる天使と悪魔の物語。
本作は三部作のPart3、完結編になります。Part1・2に比べると結構重たい話になっておりますので注意。
《各Partの特徴》
Part1:コメディ色強め、物語の切っ掛け。序 文字数15,000字(50分)
Part2:恋愛色強め、物語の進行と転換。破。 文字数13,000字(40分)
Part3:シリアス強め。物語の結び。急。 文字数18,000字(60分)
《あらすじ》
神の命を受けた天使と悪魔の間で本格的な戦争が起こる。カルミアとドライアンは各々戦い、数多の戦場で功績を上げるも、戦場で巡り会うことはなかった。しかし確実に、二人が相対する未来が迫り、その前触れとして夢を見る。夢の中で互いに言葉を交わし、目覚めた各陣営の野営地で両者の事情を知られてしまう。
カルミアとの関係を知ったグレモリアはドライアンに理解を示し、応援しようとするが、レリアは許せずドライアンを強襲。結果、グレモリアが命を落とし、レリアもドライアンに討たれる。グレモリアを喪った絶望と憎悪によりドライアンは心を壊す。弟の悲報を知ったカルミアもまた自身の甘さを後悔し、心を捨てて、神の意志に従う剣となる。
闘いは最終局面を迎え、悪魔陣営は壊滅状態、対する天使も同様に戦える状態では無い。しかし、二人は闘いを始める。その最中、カルミアがある術を使い、二人は幻想の中で再び相対することに。そこで、喪われたはずのグレモリアと再会し、ドライアンは正気を取り戻す。現実に帰還したドライアンは未だ心を閉ざしたカルミアと向き合い、闘いの果てにその心を取り戻し、そして――。
《注意》
アドリブや演出、配役については特に言及しませんが、本作は少々モブが増えてしまいましたので上手く差配していただけると幸いです。
例によって台詞の分量に偏りがあります。特にウルはほとんど喋りません(そもそも『みゃあ。』ですが)のでほぼタイトル詐欺です。加えてモブが8役ほどあります。ご了承ください。
必殺技や叫び声、鳴き声等はフィーリングで演じていただければ幸いです。
また、今回は振り仮名を振っておりませんのであしからず。
0:天使と悪魔と捨て猫と。◆Part 3◆
0:
0:◇Phase 11◇
0:《戦場》
0:
0:響く雷鳴と剣戟の音。
0:カルミアが剣を手に立ち尽くしている。
0:
カルミア:ここにも、ドライアン。……貴様はいないのだな。
グレモリア:(悪魔A)冷酷の天使! この悪魔リュカデン・ドラミーが貴様のその首もらい受けるぅぅぅぅ!!!!
カルミア:……つまらん。
0:
0:カルミアが悪魔Aの攻撃を躱す。
0:
グレモリア:(悪魔A)何だと!
カルミア:遅い!
0:
0:カルミア、剣を振る。
0:
グレモリア:(悪魔A)ぐああああっ!
ウル:(悪魔B)よくもリュカをぉぉぉぉ!
カルミア:散れ。
ウル:(悪魔B)あぁぁぁ! 嘘だ! こんな筈じゃぁ!
カルミア:ふ。ふふふ。ふふふふふふ。ふふふふふふふふふふ。
ウル:(悪魔B)これが……天使カルミ、ア。
ドライアン:(悪魔C)ひ、ひけぇ! 俺達じゃ無理だ!
0:
レリア:逃がさないよ。
ドライアン:(悪魔C)ぎゃあああ!
レリア:とんだ腰抜けだね。
ドライアン:(悪魔C)う、あああ、許してくれ、命だけは!
レリア:許す? おかしなことを。君は悪魔だろ? 天使に許しを請うな。君達は生きてるだけで罪なんだ。そして僕らは生きている限り殺すだけだ。
ドライアン:(悪魔C)ひぎゃぁぁ!
レリア:……そんなに叫ばれると幾ら僕でも気が滅入る。
レリア:姉さん! こっちは片付きましたよ!
カルミア:……レリア。
レリア:流石姉さん。見事な技です。
カルミア:私はただ剣を振っただけだ。ここの悪魔は弱い。
レリア:そうですね。前線も練度の低い雑魚ばかりになってきました。ひどいものです。しかしこの戦いもそろそろ終わりが見えてきたということでしょうか。
カルミア:それはどうだろうな。我々が雑魚ばかりを相手させられておるということは、手強い悪魔が温存されておる可能性もある。
レリア:悪魔にそんな智恵が?
カルミア:非力だが計略に特化した悪魔もおるようだ。侮ると足下を掬われるぞ。
レリア:ならば、僕達はその温存されているという強敵や司令塔を叩くべきでは?
カルミア:上からの命令はこの場の死守だ。幾らこの戦場が雑魚ばかりとはいえ、我々が抜ければ、すぐに崩壊することも確かだ。
レリア:しかし……。
カルミア:レリア。我々は矛では無く、盾としての役割を求められている。分かるな?
レリア:はい、姉さん。
カルミア:とはいえ、こうも刈り残しておったのではどんな小言を言われるか分からん。半分ほど刈り取ろう。いけるか、レリア。
レリア:もちろんです、姉さん! ……でも、
カルミア:何だ?
レリア:姉さんは大丈夫なのですか?
カルミア:この通り私は無傷だ。問題ない。
レリア:いえ、そうでは無くて、……ここのところ、姉さんはずっと辛そうなお顔をされております。少し休まれては……。
カルミア:そんなことか、レリア。私は強い、心配するな。お前こそ私のために随分無理をしているだろう? いつもありがとう。
レリア:そんな、姉さんの為なら僕は何でもします……!
カルミア:ならば生きろ、レリア。私のために生きてくれ。
レリア:カルミア姉さん……。
カルミア:……さぁ、行くぞ。敵は待ってくれない。
レリア:はい!
0:
0:カルミア、懐の『爪』をそっと撫でる。
0:
カルミア:……幾多の戦場を巡った。この手に握る白き剣を悪魔の血肉に埋める度、私の剣は研ぎ澄まされていくのに、この腕はどうしようもなく鈍くなる。私は誰に負けること無く、傷一つ負っていないというのに、貴様と引き分けた時のように何かを感じることが無い。
カルミア:なぁ、ドライアン。貴様は今、どこに居る? 私を守ってくれるのだろう?
カルミア:私は貴様にまた――
0:
0:◇Phase 12◇
0:《渓谷》
0:
0:ドライアンとグレモリアが背中を合わせて立っている。
0:天使に囲まれている。
ドライアン:くそったれ! 罠だったか!
ウル:(天使A)ふふふふふ。憐れな悪魔が鳥籠に迷い込んだようですねぇ。
グレモリア:どうするっすか先輩? これ結構やばめの状況っすけど。
ドライアン:どうするもこうするもねぇ、決まってんだろ。
グレモリア:智恵と勇気で乗り越えよう、的な?
ドライアン:力と筋肉でぶっ倒す!
グレモリア:うへぇ脳筋っすね。
ウル:(天使A)たった二匹の小鳥風情がこの私メグサ・ハーケルの包囲を抜けられるわけ無いでしょう! お前達、行きなさい!
レリア:(天使B)はぁぁぁぁぁ!
カルミア:(天使C)とぁぁぁぁぁ!
ドライアン:……ふん!
レリア:(天使B)な!
カルミア:(天使C)馬鹿な!
ウル:(天使A)剣を素手で?!
ドライアン:動きが、止まってんぞ! おらぁぁぁっ!
0:
0:ドライアン、拳を振るう。はじけ飛ぶ天使。
0:
カルミア:(天使C)うべら!
レリア:(天使B)ぐべべ!
ウル:(天使A)……ひ、ひぃ!
ドライアン:所詮は雑魚、どれだけ束になろうと同じだ。……こんなモノを鳥籠とは言わん。
グレモリア:いやいや。いつからそんなゴリラになったんすか。剣使いましょうよ。
ドライアン:こんな奴らに剣を抜く気はねぇよ。
ウル:(天使A)っく! 悪魔ごときが調子に乗って! この私を舐めるなよ! 囲んで叩き潰せ! 数で圧倒しろ! あっはははははは! この私に楯突いたことを地獄で懺悔するんだな!
レリア:(天使B)うわああああああああ!
カルミア:(天使C)おおおおおおおおおお!
0:
0:天使達の突撃。
0:それを打ち倒すドライアン。
0:
ドライアン:ふん! っはぁ! 遅い遅い遅い遅い遅い! るぁああああっ! はぁああっ! ……後ろだグレモリア!
グレモリア:大丈夫、見えてるっす! てやぁ! ……不意打ちたぁ卑怯っすね、天使の旦那。
ウル:(天使A)黙れ、勝てば良いのさ!
グレモリア:ふぅん。確か、天使は勝てなきゃ生きる意味が無いとか、そういう感じの野蛮な奴らでしたよね。納得っす。
ウル:(天使A)野蛮だと? 貴様らの方が遙かに野蛮じゃないか! あの悪魔の姿を見ろ、アレを野蛮と言わずして何という!
グレモリア:そんなの決まってるっすよ。
ウル:(天使A)何?
グレモリア:強く気高い悪魔の中の悪魔――魔王っす。
ウル:(天使A)ほざけ。仮にそのようなモノだとして、この戦力差をどう乗り切る? どんな手があるというのだ?
グレモリア:手? 何をさっきから分かりきったこと言ってるんすかねぇ、この天使――はぁっ!!
レリア:(天使B)ぐぁぁ!
グレモリア:おいこら。ひとが話してる途中に何攻撃差し向けてんだてめぇ。
ウル:(天使A)戦いの最中にべらべら喋ってる方が悪い。
グレモリア:それもまぁ然りっすね。けどそれ、ブーメランっすよ!
ウル:(天使A)は。貴様の相手なぞ喋りながらでも出来る。傲るなよ悪魔。
グレモリア:どっちが傲ってるんだか。先輩の言ったこと忘れたんすか?
ウル:(天使A)何を言っている? あいつが何を言った?
グレモリア:剣を抜く気はねぇ。そして力と筋肉でぶっ倒す!
ウル:(天使A)何を世迷(よま)いごと――。
ドライアン:うおおおおおおおおっっ!!!!
0:
0:無数の天使が空を舞う。
0:
ウル:(天使A)なっ……?!
グレモリア:片付いたみたいっすね。
ウル:(天使A)……なんだと? こちらの手勢が何人いたと思ってるんだ、十や二十じゃない、二百五十五だぞ!? たった、たった二体……いや一体の悪魔に……! そんな、冗談だ、悪い夢だ、そんな、そんな馬鹿なぁ!
ウル:(天使A)そうか、アレが悪魔ドライアン・ダラス! くそ……いや、しかしここでやつを仕留めればこの失態も……!
グレモリア:残りはあんた一匹っすけど、どうします? 投降……とか、してみます?
ウル:(天使A)……ふざけるなぁ! 天使は決して退かない! 天使は決して負けないんだ! うぁぁぁぁぁぁ! ……ふ、ふふ、ふふふふふふ! 見せてやるよ! 第十七師団団長、天空のメグサ・ハーケル様の――!
グレモリア:っは! ……長いっす。
ウル:(天使A)な、馬鹿な、くそ、この私がこんな……! っく、貴様、卑怯……だ、ぞ。
0:
0:天使A倒れる。
0:
グレモリア:……憐れなやつ。
グレモリア:先輩。こっちも片付きましたよ。
ドライアン:おお。大将首任せてすまなかったな、グレモリア。
グレモリア:いえいえ、見た目通りの雑魚でしたから。
ドライアン:でも、名乗ってただろ? 天空の……目くそ?
グレモリア:何でも良いっすよそんなの。私達の愛の前では所詮目くそ鼻くそってことで。
ドライアン:ひでぇな。
グレモリア:ひでぇのはあいつらと先輩の実力差っすよ。というかいつの間にそんなに強くなったんすか? 戦い方もなんか違うし。
ドライアン:俺は変わってねぇよ。敵が、変わっただけだ。
グレモリア:ふぅん? まぁ、確かにあいつら今まで以上に死にものぐるいで、その分冷静さが足りないって言うか、ぶっちゃけ前より弱くなってますよね。
ドライアン:そうかもな。
グレモリア:……。なんか悩み事っすか?
ドライアン:いや、何でも無い。
グレモリア:なんかあったら、話して下さいね。
ドライアン:ああ。
グレモリア:このグレモリア・グリモニー。先輩の為なら、脱ぎます。
ドライアン:ああ。
グレモリア:……いやツッコんで下さいよ! ほんとに脱ぐっすよ!
ドライアン:先を急ぐぞ。
グレモリア:あ、先輩! もう、つれないなぁ。
0:
0:ドライアン、懐の『羽根』を握りしめる。
0:
ドライアン:カルミア。俺はこの剣を抜くのが怖い。
ドライアン:いつかお前を斬るのが怖い。
0:
0:◇Phase 13◇
0:《夢》
0:
0:夢の中。
0:ドライアンとカルミアが向かい合っている。
0:
ドライアン:天使を殺す。
カルミア:悪魔を殺す。
ドライアン:それが悪魔の常識で。
カルミア:それが天使の必然で。
ドライアン:そこに俺の意志はあるのだろうか。
カルミア:そこに私の正義はあるのだろうか。
ドライアン:カルミア、俺はお前を殺せるだろうか。
カルミア:ドライアン、貴様は私を殺せるだろうか。
ドライアン:カルミア、お前は俺を殺せるだろうか。
カルミア:ドライアン、私は貴様を殺せるだろうか。
ドライアン:お前を守ると言ったこの俺が。
カルミア:私を守ると言ったあの貴様が。
ドライアン:お前を本当に殺すのだろうか。
カルミア:私を結局どうするのだろうか。
ドライアン:なぁカルミア。
カルミア:なぁドライアン。
ドライアン:ウルが鳴いてるぞ。
カルミア:ウルが呼んでるぞ。
ドライアン:今日は天使をたくさん殺した。
カルミア:今日は悪魔を大勢殺した。
ドライアン:骨を砕き、
カルミア:肉を切り、
ドライアン:頭を潰し、
カルミア:首を落とし、
ドライアン:内臓を弾き、
カルミア:心臓を貫き、
ドライアン:翼をもぎ、
カルミア:手足を落とし、
ドライアン:天使を殺した。
カルミア:悪魔を殺した。
ドライアン:無抵抗の幼い天使を。
カルミア:逃走する老いた悪魔を。
ドライアン:残虐に。
カルミア:冷酷に。
ドライアン:殺した。
カルミア:殺した。
ドライアン:こんな筈じゃ無い。
カルミア:こんな筈じゃ無い。
ドライアン:こんな筈じゃ無い。
カルミア:こんな筈じゃ無い。
ドライアン:だったら、
カルミア:だったら、
ドライアン:お前はどんなつもりだった?
カルミア:貴様はどんな予定だった?
ドライアン:ここは戦場で、
カルミア:これは戦争で、
ドライアン:俺は悪魔で、
カルミア:私は天使で、
ドライアン:敵同士で、
カルミア:仇同士で、
ドライアン:友人でも、
カルミア:同胞でも、
ドライアン:姉でも、
カルミア:兄でも、
ドライアン:妹でも、
カルミア:弟でも、
ドライアン:家族でも、
カルミア:肉親でも、
0:
0:(可能なら同時に)
0:
ドライアン:恋人でも無い。
カルミア:恋人でも無い。
0:
0:間。
0:
ドライアン:なのに、
カルミア:なのに、
ドライアン:なのに、
カルミア:なのに、
ドライアン:どうして、
カルミア:どうして、
ドライアン:こんなにもお前のことが
カルミア:こんなにも貴様のことを
ドライアン:どうしようもなく、
カルミア:どうしようもなく、
ドライアン:■■なのだろう。
カルミア:□□なのだろう。
ドライアン:ドライアン・ダラス。
カルミア:カルミア・ラティフォリア。
ドライアン:頼む。
カルミア:頼む。
ドライアン:お前のために。
カルミア:貴様のために。
0:
0:間。
0:(可能なら同時に)
0:
ドライアン:死んでくれ。
カルミア:死んでくれ。
0:
0:間。
0:
ドライアン:カルミア!
カルミア:ドライアン!
0:
0:◇Phase 14◇
0:《野営地》
0:
0:二人、夢から覚める。
0:悪魔と天使、それぞれの野営地。
0:ドライアンのそばにはグレモリアが。
0:カルミアのそばにはレリアがいる。
0:
ドライアン:夢、か。
グレモリア:随分うなされてたっすよ?
レリア:姉さん、大丈夫ですか?
カルミア:ああ、夢を悪い夢を見ていたようだ。
レリア:きっと戦いの疲れが出たんですよ。
グレモリア:先輩、すごい活躍でしたもんね。
レリア:僕も姉さんを見習わないと。
グレモリア:でも、あんまり心配かけないで欲しいっす。
レリア:姉さんには僕がついてますから。
グレモリア:先輩にはあたしがついてるっす。
0:
ドライアン:ありがとうグレモリア。
カルミア:ありがとうレリア。
0:
レリア:いえ。気にしないで下さい。
グレモリア:いいんすよ。
レリア:ところで姉さん。
グレモリア:ところで先輩。
カルミア:何だ?
ドライアン:何だ?
0:
レリア:ドライアンって、
グレモリア:カルミアって、
0:
0:(可能なら同時に)
0:
レリア:誰ですか?
グレモリア:誰っすか?
0:
0:
ドライアン:…………。
カルミア:…………。
レリア:言いたくないんですか?
グレモリア:先輩は何も言ってくれないんすね。
レリア:言いたくなければ言わなくても良いんです。姉さん。
グレモリア:そうすか、分かりました。なら別に良いっすよ。
レリア:姉さんには姉さんのお考えがあるのでしょう?
グレモリア:先輩が何も言ってくれないなら、あたしは。
レリア:僕はこれ以上聞きません。
グレモリア:だから勝手に喋るだけっす。
レリア:姉さんは、僕のたった一人の家族ですから。
0:
レリア:謝る必要はありません。
グレモリア:先輩、顔を上げて下さい。
レリア:姉さんは誰に恥じることの無い、立派な功績を上げられているじゃないですか。
グレモリア:先輩、今から超大切なこと言うので耳を刮目してよく聞くっすよ!
レリア:僕は姉さんを責めたりしません。
グレモリア:あたしは先輩のこと尊敬してます。
レリア:何故なら、
グレモリア:だって、
レリア:天使レリア・アンセプスは。
グレモリア:悪魔グレモリア・グリモニーは!
レリア:僕の味方になってくれたあの日から。
グレモリア:あたしの仲間になってくれたあの日から。
レリア:僕を弟と呼んでくれたあの日から。
グレモリア:あたしを家族みたいなものと呼んでくれたあの日から。
レリア:僕を拾ってくれたあの日から。
グレモリア:あたしを救ってくれたあの日から。
レリア:カルミア姉さんのことを。
グレモリア:ドライ先輩のことを!!
0:
0:間。
0:
レリア:心より愛しております。
グレモリア:ぶっちゃけ愛してます!!
0:
0:間。
0:
カルミア:……レリア。
レリア:大丈夫です。
レリア:姉さんが言わなくても、僕は分かっていますから。
レリア:ふふふ。愛してます、僕の姉さん。
カルミア:レリア……?
0:
0:
ドライアン:……グレモリア。
グレモリア:おいおいおいおい。そこは俺も愛してるぜグレモリア! だろうがよ、おいごらぁ! ドライアン!
0:
0:グレモリア、ドライアンを殴る。
0:
ドライアン:痛ぇ! 何故殴った!
グレモリア:これが殴らずにいられるますか? 大大大大大好きな先輩に大大大大大好きなどこぞの女がいて、……そんな状況、私の拳と恋心が黙っていられますか? いや、無理。絶対無理。これはもうぶん殴るしかないっす! 大大大大大好きだからぶん殴る。殴りたいほど愛してるっす。ドライ先輩! さぁ、行きますよ、あたしの愛を顔面で受け止めろっす!
ドライアン:グレモリア……。
0:
0:
レリア:姉さんは、
グレモリア:先輩は!
レリア:強くて、
グレモリア:弱くて!
レリア:美しくて、
グレモリア:醜くて!
レリア:儚くて、
グレモリア:虚しくて!
レリア:可愛くて、
グレモリア:憎たらしくて!
レリア:賢くて、
グレモリア:愚かしくて!
レリア:晴々しくて、
グレモリア:穢らわしくて!
レリア:繊細で、
グレモリア:粗忽で!
レリア:素敵で、
グレモリア:野卑で!
レリア:神にも勝る。
グレモリア:どうしようもない!
レリア:世界の誰よりも敬愛すべき、
グレモリア:そんな!
レリア:この世で唯一僕だけの姉さんです。
グレモリア:私を救ってくれたたった一人の愛する先輩です。
レリア:だから。
グレモリア:だから!
レリア:僕は、
グレモリア:あたしは、
レリア:その瞳の輝きを曇らせるやつが、
グレモリア:その目ん玉で追いかけるやつが、
レリア:もしもいたなら、
グレモリア:もしもいたなら!
0:
0:レリア、カルミアから『爪』を奪う。
0:グレモリア、ドライアンの『羽根』を撫でる。
0:
カルミア:あ……!
ドライアン:あ……!
0:
レリア:全て殺す。
0:
0:間。
0:
カルミア:レリア! 待ってくれ!
ドライアン:グレモリア! 待て!
0:
レリア:僕は愛しています。カルミア姉さん。
カルミア:レリア!!
0:
0:レリア、去る。
0:
グレモリア:もしいたとしても、関係ない!
ドライアン:え……?
グレモリア:あたしは愛していますよ、ドライアン先輩。
ドライアン:グレモリ――
0:
0:グレモリア、ドライアンに口づけをする。
0:
グレモリア:…………。
ドライアン:…………。
グレモリア:……ん。
ドライアン:……グレモリア。
グレモリア:……なんすか?
ドライアン:こんなことして、お前は何がしたいんだ。
グレモリア:そんなの、決まってるじゃないすか。
ドライアン:何がだよ。
グレモリア:分からないっすか?
グレモリア:あたしの願いは変わらないっす。
0:
0:間。
0:
グレモリア:ずっと先輩を愛していたい。ただそれだけっす。
ドライアン:…………。
グレモリア:ずっとずっと同じっす。
ドライアン:グレモリア……。
グレモリア:出会ったときから、変わらない。先輩を愛してる。たとえ好きな相手が出来たとしても、それをあたしに教えてくれなくても、たとえ先輩があたしのことを憎んでも、たとえ先輩が変わってしまっても、たとえ先輩があたしを置いて遠く離れてしまっても、あたしの愛は変わらない。ずっとずっと愛してる。これまでみたいに愛してる。これからもずっと愛してる。変わらないっす。この愛だけは変わらない。世界の何が変わろうと、この愛だけは、先輩への愛だけは変わらない――
グレモリア:
グレモリア:だから、愛してるっす。
グレモリア:
グレモリア:届かなくても愛してるっす。
グレモリア:振り向かなくても愛してるっす。
グレモリア:愛しい顔を殴りたいほど愛してるっす。
グレモリア:愛しい顔に口づけしたいほど愛してるっす。
グレモリア:まさか天使に恋しちゃう先輩のことも愛してるっす。
グレモリア:そんな阿呆みたいな先輩のことマジで馬鹿って心の底から呆れながらもやっぱり心の底から愛してるっす。
グレモリア:先輩のこと愛してるっす。
グレモリア:先輩のこと、愛してるっす。
ドライアン:グレモリア。
グレモリア:先輩。
ドライアン:ありがとう。
グレモリア:先輩……!
0:
0:間。
0:
グレモリア:って、いや、おいおいおいおい。そこは俺も愛してるぜグレモリア! だろうがよ、おいごらぁ! ドライアン! それかもう一回チューしろやこら! もう一回殴られてぇっすかこら!
0:
ドライアン:いや、
グレモリア:そんなに嫌っすか?!
ドライアン:いや、そうじゃなくて、
グレモリア:なんすか? 言いたいことがあるならはっきり言うっすよ。いや、待って! はっきり言われたらマジで凹むかもしんないっす。言わないで欲しいっす。
ドライアン:グレモリア、その、なんて言うか、その…………照れる。
0:
0:間。
0:
グレモリア:いや、照れんな。なんすか、その反応。
ドライアン:こういうの、初めてなんだよ。
グレモリア:あー……。いや、マジすか? その見た目で? 女何人侍らせられるかグランプリとかやってそうなのに?
ドライアン:やるかそんなもん! 阿呆か! 別に見た目は関係ないだろ。
グレモリア:ほんとに、一切……無いんすか?
ドライアン:そうだよ! 俺は生まれてこの方戦いばっかで、そういうのは一切知らん。……悪いかよ。
グレモリア:いや、悪くは無いっすよ。でもたまに下ネタとか振ってきてたじゃないですか。
ドライアン:お前の影響だよ。
グレモリア:ははは。
ドライアン:笑ってんじゃねぇよ。
グレモリア:……もしかしてあたしがどれだけ誘惑してもなびかなかったのは、先輩がただヘタレだったからっすか?
ドライアン:それは……!
グレモリア:あれ? 意外といける感じっすか? え? カルミアとかいう女に負けること前提で打ってたあたしの大博打、ただの空回りだったんすか?!
ドライアン:今、カルミアのことは関係ねぇだろ!
グレモリア:あるっすよ!
ドライアン:何が!
グレモリア:好きなんでしょ。
ドライアン:いや、好きとかじゃ……。
グレモリア:何言ってんすか、今更。天使だから遠慮してんすか? そんなのいらねぇっすよ。よく考えて下さい、相手は天使なんすよ。寧ろ遠慮はいらねぇっす。容赦無く堕天させてやれば良いだけっす。
ドライアン:お前が何言ってんだ。グレモリア。お前、悪魔かよ。
グレモリア:そうっす悪魔っす。先輩も悪魔っすよ。目の前に可愛い後輩の悪魔がいるのに何考えてんすか。相手は天使っす、何考えてんだってのはこっちの台詞っすよ。どうせ考えるなら、あたしのエロいこと考えろよ!
ドライアン:考えられねぇよ、そんなもん! もういいだろ、お前、何なんだよ、俺を愛してるんじゃ無いのかよ、なんでそんなにカルミアのこと……。
グレモリア:愛してるっすよ! じゃあさ、先輩! どうすれば良いんすかねぇ先輩? たとえば恋敵を殺せばいいんすか? そしたら、先輩はあたしのことだけ見てくれるっすか? あたしのことを愛してくれるっすか?
ドライアン:それは……!
グレモリア:違うでしょそんな訳ない。天使を何匹殺したところで、愛する天使を殺したところで、先輩はあたしを愛してくれる訳ない。分かりきってるっすよ。愛のために殺すなんて間違ってるっす。
ドライアン:間違ってる? でも俺達は、悪魔と天使だ! 出会ったときから殺し合う定めで、たとえ好きになったとしても殺し合うことでしか交われない。俺はあいつを斬らなきゃならない。遠慮はいらない、容赦なくあいつを殺す。だって、天使なんだから仕方ねぇだろ! 守りてぇとか言ったって、戦場で出会っちまったら殺すしかねぇ。あいつだって俺を殺すだろ? 殺さないと生きていけない。生きている限りは殺す! 俺達は殺す為に生きてて、俺が殺さないならあいつに殺されるしかねぇ! 二人が生きるには殺されないように強くなくちゃいけねぇ! は、ははは! そうだ! あいつを愛すには強くなくちゃいけねぇんだ! そして俺はあいつを殺すために強くなってきた! あいつを愛すにはだから殺すしかねぇんだ! そうだろう!?
グレモリア:先輩、歯ぁ食いしばるっす。
ドライアン:あ?
0:
グレモリア:この大馬鹿野郎!
0:
0:グレモリア、ドライアンを殴る。
0:
ドライアン:ぐがはっ……!?
0:
グレモリア:本気で言ってんのかてめぇ!
ドライアン:グレモリア……!
グレモリア:もし本気で言ってんなら! てめぇは悪魔でも天使でもねぇ! ひん曲がった欲望でできたドブ臭ぇ鬼畜野郎だ!! うだうだ自己弁護してる暇があったらとっとと腹掻っ捌いて腑からクソ垂れ流して死ね! そんなもんは愛じゃねぇ! あたしの愛を穢すんじゃねぇ! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
0:
0:グレモリア、涙を流す。
0:
ドライアン:お前……。
グレモリア:痛いんだよ! 拳が! 心が! 先輩を殴ったら! こんなにも痛い! 全然幸せになんてなれない! キスしたい! あたしは先輩を抱きしめて、キスしたい! 殴りたくなんて無い! なのにさ、殴るしかないんだよ! 愛してるから! あたしは殴る! 何回でも! 何百回でも! あたしの骨が折れても! 心が砕けても! 愛してる! だから殴る! 先輩の歪んだ愛をあたしの愛でぶん殴る! だって! だって! 先輩にこんな思いして欲しくないから! 愛で殺してしまおうだなんて、そんな残酷なことをさせるくらいなら! あたしが!
0:
0:間。
0:
グレモリア:先輩を殺す!!
0:
0:間。
0:
グレモリア:……だから!
グレモリア:殺さないで欲しいっす。あなたの天使を。あなたの心を。
ドライアン:グレモリア、
0:
0:ドライアン、グレモリアを抱きしめる。
0:
ドライアン:ごめん。
グレモリア:……もう。仕方の無い悪魔っすね。そこは「グレモリア、愛してる」だって何回言ったら――あ。
0:
0:風を切るような音。
0:グレモリアが倒れる。
0:
ドライアン:グレモリア? どうした、グレモリア?! グレモリア!
グレモリア:ドライ……先輩、愛して――。
ドライアン:おいおいおいおいおい、なぁ、グレモリア! 嘘だよな! 嘘だよな! おい! あ、ぁぁぁぁああああああああああああああ……!
レリア:うるさいぞ、悪魔。不愉快だ。
0:
0:影の中にレリアが立っている。
0:
ドライアン:お前……?
レリア:っは! どんなやつが姉さんを曇らせたかと思ったら、醜い悪魔が、これまた醜い悪魔と抱き合っているなど、反吐が出る! あああああああああ! 貴様、姉さんに何をした? 姉さんの御心を歪めるなど万死に値する。いや、ぬるい。この世の悪徳全てを秤にかけても尚余りある罪業! 引き千切り切り裂き押し潰し磨り潰し焼き尽くし燃やし尽くし消し去ってくれる! 無論、その汚い悪魔の死骸諸共だ。姉さんを姉さんを姉さんを姉さんを姉さんを!
レリア:……穢したその罪深さを、痛苦恥辱絶望虚無後悔焦燥喪失憤怒恐怖と共に寸刻みに飲み下し、消滅するが良い!!《ザ・ヴォイド》
ドライアン:ぁ、ぁ、ああああああああああああああああああああ!
0:
0:静寂。
0:
レリア:あ、あは、あはは、あははははははは! やったよ! 姉さん、姉さんを穢そうとする悪魔は消し去ってやったから、ああ、でもつい、一瞬で消し去ってしまった。一秒でも早く、姉さんを助けたくて。ふふ、安心して! 僕は――。
ドライアン:……ア。
レリア:は?
ドライアン:グレモリア。
レリア:そんな、馬鹿な……! どうして生きてる! この! 化け物が!
ドライアン:静かにしろ。
レリア:っ!
ドライアン:グレモリアの声が聞こえないだろ。
レリア:ふ、ふふふ、何だ! こいつ、満身創痍じゃないか。っは! さっさととどめを刺して、姉さんのところに、カルミア姉さんのところに僕は帰るんだ!
ドライアン:カルミア? カルミア。そうだ、俺はカルミアに愛を伝えないと。
レリア:何だと?
ドライアン:愛を伝えて――そして、殺すんだ。
レリア:殺すだと? 姉さんには指一本触れさせは――!
ドライアン:静かにしろって言ったよな。
0:
0:ドライアン、剣を振り抜く。
0:
ドライアン:死ね。
レリア:な、そんな……姉さ――!
ドライアン:死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。
0:
0:レリア、動かなくなる。
0:その懐から『爪』が落ちる。
0:
ドライアン:俺の爪? ああ、カルミアにやったやつだ。それを何でこの天使が持ってる? グレモリアを殺したこいつ――違う! 生きてるんだ! グレモリアは生きてる! 愛してる! 愛してるグレモリア! だから、こいつはグレモリアを、……あれ? おかしいな。何かが違う。何だ。間違ってる。ああ。あああ。あああああ。……そうか。殺さないと。約束だから、俺は殺さないと、行こう一緒に。ずっと一緒だ。一緒。聞こえるからな。声が、愛してるって言ってくれたあの声が。カルミアを殺そう。そういう定めなんだ。ああ。全てをこの手で終わらせよう。ああ。…………ウルが鳴いてる。
0:
0:ドライアン、去る。
0:響く電話のような着信音。
0:
カルミア:「澄みわたる深い夜、わたしを呼ぶ声がする。振り返る思い出を、あなたが呼ぶ声がする。星空に繋いで、《スター・コネクト》」どうして、どうして、レリアに繋がらない……? そうか、もう、既に。
0:
0:間。
0:
カルミア:ふふふ。ふふふふふ。ああ。私はきっと甘い夢を見ていたのだ。殺すべき悪魔と愛すべき弟。その二つを天秤に乗せた。結果。両方を失うのだ。もう、何も残っておらぬのなら――
カルミア:こんな、苦しいだけの心はいらぬ。
カルミア:我が神の意志のままに。天使カルミア・ラティフォリア、悪魔を。ドライアン・ダラスを伐つ為だけの剣となろう。
カルミア:百度目の邂逅。それが、全ての終わり。
カルミア:天使に命ずるは死を以ての清算。悪魔に命ずるは凄惨なる死。天使よ、悪魔を蹂躙し殲滅せよ――
カルミア:愛していたよ。ドライアン。永遠にさようなら。
0:
0:◇Phase 15◇
0:《本陣》
0:
0:混沌とした戦場。
0:呻き声ばかりが聞こえる。
0:天幕の下で一人佇むドライアン。
0:
レリア:(悪魔D)ご報告申し上げます。ドライアン様。
ドライアン:何だ。
レリア:(悪魔D)αからμまでの各隊が先程壊滅致しました。残るは我らν……いえ、私とドライアン様のみです。
ドライアン:そうか。ご苦労。
レリア:(悪魔D)いかがされるおつもりですか? もう勝ち目などありません。あの天使がここに来るのも時間の問題です。……ドライアン様。この戦線はもう駄目です! あなた様だけでもお逃げに――
ドライアン:逃げる? どこへ? 何のために? どうして?
レリア:(悪魔D)しかし、ドライアン様さえ生きていればまだ我々は!
ドライアン:静かに。グレモリアの声が聞こえないだろ?
レリア:(悪魔D)グレモリア様は……。
ドライアン:俺はあいつのためにも殺さないと。天使を。カルミア・ラティフォリアを!
ドライアン:……もういいぞ。お前もよくやってくれた。
レリア:(悪魔D)――お先に参ります。総督。ご武運を。
0:
0:悪魔D、自害する。
0:
ドライアン:さて。行こうか。グレモリア。
0:
0:
0:カルミアと従者の天使Dが立っている。
0:
グレモリア:(天使D)カルミア様、ご報告申し上げします。
カルミア:…………。
グレモリア:(天使D)先刻、敵陣営の大部分を殲滅したと各隊より報告がありました。
カルミア:ご苦労。
グレモリア:(天使D)しかし我が陣営の損耗も激しく、とても動ける状態ではありません。やはり増援を待ち、万全の状態で敵本陣を……いえ、例の悪魔を――
カルミア:不要。
グレモリア:(天使D)は、いえ、しかし!
カルミア:不要。私が――殺す。
グレモリア:(天使D)お一人で行かれるなど、無茶です! 失礼ながら、いくらカルミア様といえど、あの悪魔を相手にご無事で済むとは!
カルミア:去ね。
グレモリア:(天使D)カ、ルミア様?
0:
0:天使D、倒れる。
0:
カルミア:悪魔を――殺す。
0:
0:◇Phase 16◇
0:《戦場》
0:
0:戦場の真ん中にドライアンが立っている。
0:
ドライアン:ようやくお出ましか。カルミア。
0:
0:カルミアが舞い降りてくる。
0:
カルミア:ドライアン・ダラス。
ドライアン:これ、返すぜ。
0:
0:ドライアン、レリアの亡骸をカルミアに投げ渡す。
0:
ドライアン:大事なもんなんだろ。
カルミア:――――。
ドライアン:ああ、それとこれも。
0:
0:ドライアン、『羽根』を投げ捨てる。
0:
ドライアン:俺にはもう必要ない。
カルミア:――――。
ドライアン:さぁ、始めるか。殺し愛を。
カルミア:――――殺す。
0:
0:二人剣を抜く。
0:
ドライアン:ぐぐおおっっ!!
カルミア:――っは!
ドライアン:てりゃぁっ!!
カルミア:――とぁ!
ドライアン:っく! ふははは! ……だらあぁぁーーッ!!!
カルミア:――流星籠《ケイジ・オブ・シューティング・スター》
ドライアン:っく! はぁぁああああ! 陽炎舞踏術《ヒート・ステップ・ヘイズ》!
カルミア:――星光欠落《ミッシング・オブ・スター・シャイン》
ドライアン:っくぐああああ! ぬおおおおおあああぁっ! 血焔刃《ブラッド・フレイム・エッジ》!
0:
0:響く雷鳴と剣戟。
0:
ドライアン:うおぉぉぉぉ! 天使ぃぃっ!
カルミア:はぁぁぁぁっ! 悪魔!
0:
0:ドライアンの剣がカルミアの剣と腕を切り飛ばす。
0:
カルミア:――!
ドライアン:終わりだ。カルミア!
0:
0:ドライアンが剣を振り下ろす。
0:斬られたカルミアが消える。
0:
ドライアン:何?
カルミア:千変万化《ヴァリアブル・ダンス》。
ドライアン:くそ、そんなモノで――!
カルミア:『夜の深きに誘われて、わたしは紡ぐ。星の巡りに抱かれて、幾年月も、降り積もる雪は草原を渡るつむじ風。やがて繋がる世界から、一つの柱とこの私を結んでくれる《クリスタル・コメット》』
0:
0:世界が光に包まれる。
0:
0:◇Phase 17◇
0:《夢と現実の狭間》
0:
0:カルミアの家の前。
0:ドライアンが袋を提げて立っている。
0:引き戸が開く。
0:中からウルを抱いたカルミアが現れる。
0:
カルミア:また来たのか、ドライアン。
ドライアン:来たら悪いか?
ウル:みゃあ。
カルミア:それは、悪いに決まっているだろう。
ドライアン:どうしてだ?
カルミア:どうして? 貴様は悪魔だろう? そして私は、
ドライアン:お前は天使だ。カルミア。
カルミア:分かっているならもう来るな。
ドライアン:何も分からない。それだけで俺はこうしてここに来ることも出来ないのか? キャットフードを片手にこの扉の前に立つことが!
カルミア:それだけで十分なのだ。
ドライアン:天使と悪魔というだけで?
カルミア:天使と悪魔というだけが、
0:
0:間。
0:
カルミア:この世界の全ての理を分断する剣だ。
ドライアン:分かってるよ。俺は分かってる。けど!
カルミア:分かっておる。私も分かっておるさ。けれど、どうすることも出来ぬだろう? お前と手それを握っているのだ。
ドライアン:俺はそんなもの……!
カルミア:貴様の手に握られておるのは本当にウルの餌か?
0:
0:ドライアンの手の中の袋が剣になる。
0:
ドライアン:え? これは、違う。こんなモノじゃ無い。剣なんて握りたくない。お前に向けるつもりなんて。
カルミア:しかし私も同じだ。今、私は何を抱いておる?
ウル:みゃあ。
ドライアン:あ? そんなの決まってる。
カルミア:ウルか?
ドライアン:違うのか?
カルミア:違うな。
0:
0:カルミアの抱くウルが剣になる。
0:
カルミア:これは、貴様を斬るための剣だ。
ドライアン:でも、そいつはウルだ。俺が雨の日に拾った一匹の猫だ。うちにはベルがいるから飼えなくて、グレモリアにも断られて。それで……グレモリア? グレモリアは俺を愛してて、でも、俺はあいつを守れなくて……。俺はお前を殺さないといけない。天使だから? 違う、守るって決めたから。守るって決めたから殺す。そうだ、俺はお前を殺す。なぁ、カルミア、俺は何か間違っているか?
カルミア:いいや、何も間違っておらん。さぁ、私を殺してくれ。
ドライアン:そうだよな。ウルを受け入れてくれたお前は優しいから。俺が間違っててもきっと許してくれるんだ。ありがとうカルミア、安心して殺せる。
カルミア:……泣くでないドライアン。貴様のそんな顔見たくはない。魔王などと呼ばれておる大の悪魔が、情けない。笑って殺せ。天使の一人や二人くらい。いや、全ての天使を殺せ。神も。何もかも。それが貴様だろ? ドライアン・ダラス。
ドライアン:カルミア。俺は……、
カルミア:何をしておる? こうしなければ殺せぬか?
0:
0:カルミアのそばにグレモリアが現れる。
0:
グレモリア:先輩。
ドライアン:グレモリア!? おまえ、やっぱり生きていたんだな!
グレモリア:もちろん、死んでるっす。
ドライアン:お前何を言ってるんだよ、だってここに、
グレモリア:だって私は――
0:
0:カルミア、グレモリアを斬る。
0:
カルミア:私が殺したから。
ドライアン:グレモリアーーっ! ……カルミアぁぁ!!
カルミア:貴様は悪くない。グレモリアとかいうお前の愛する者を失ったのも、その仇である私の弟を殺したのも。貴様は悪くない。全て私の責任だ。だから、貴様が殺せ。この私を。
ドライアン:ああ。望み通り殺してやる。約束だからな!
カルミア:それでいい。そして、お前は幸せに生きてくれ。この世界でな。
ドライアン:永遠にさようならだ。カルミア。
グレモリア:待つっすよ先輩。
カルミア:……何故。
ドライアン:グレモリア? どうして止める! 俺は天使を、カルミアを! お前の仇を殺すところなんだ!
グレモリア:いや、頼んでないですし。なに勝手に壊れてんすか、先輩。
カルミア:貴様、本物なのか……?
グレモリア:本物が何を指すかは知りませんが、それで言うとあたしは偽物っすよ。
ドライアン:何を言ってるんだ、グレモリア、お前は生きてて、でも死んでて、あれ、おかしいな。
グレモリア:いや、おかしいの先輩っすから。……はぁ、またやらないとっすね。おら! おら! おら!
0:
0:グレモリア、ドライアンを殴る。
0:
カルミア:何を!?
グレモリア:黙ってみてるっすよ、あたしの恋敵! 連れ戻してみせるっすから。おら、目ぇ醒ませ!
ドライアン:っぐ! グレ、モリア?
グレモリア:先輩、ご機嫌いかがっすか? あたしのこと愛してるっすか?
ドライアン:ほんとに、グレモリアなのか?
グレモリア:……もう。仕方の無い悪魔っすね。そこは「グレモリア、愛してる」だって前にも言ったでしょ。でも、残念、あたしはあなたの愛する、グレモリア・グリモニーではありません。グレモリア・ダラスっす。
ドライアン:……でも、お前は!
グレモリア:あー、無視すんなよ。滑ったみたいじゃ無いっすか。死んだっすよ。疑いようもなく。だからあたしは先輩の妄想。一緒に行こうって先輩が無理矢理引っ張ってきた魂の残滓っす。それがあんたの技で具現化した、故にグレモリア・ダラス。言うなればそう、妖精っすね。
カルミア:そんなことが。
グレモリア:あんたがこんな土壇場でイメージ共有術を使わなければ、芽生えることも無かった、そういう存在っす。その時、不思議なことが起こった、みたいな。
ドライアン:お前は、じゃあ、本当に死んだのか?
グレモリア:しつこいっすね。死にましたよ。後ろからすぱっと斬られて、別れを告げる間もなくね。でも後悔はしてませんよ、先輩。あんたの胸の中で死ねたんすから。
ドライアン:グレモリア。
グレモリア:って、言われたかったんすよね、先輩は。
ドライアン:グレモリア……。
グレモリア:でも残念。あたしは本人じゃ無いので。……それでも言えて良かったっす。それで傷が少しでも癒えてくれるなら。
ドライアン:……ああ。ありがとう。救われた。
グレモリア:それは何よりっす。じゃあ、あたしは行くっすね。
ドライアン:どこへ?
グレモリア:さぁ? それは分かりません。でもきっと、大好きな先輩の居るところっすよ。さぁさぁ、ぼさっとしてないで、好きな女待たせてるっすよ? 守るって約束したんでしょ? なら、男を見せて下さい、ドライ先輩。いつか、また。
0:
0:グレモリア、消える。
0:
ドライアン:……カルミア。
カルミア:私を、殺してくれないのか?
ドライアン:ああ。殺さない。約束だからな。
カルミア:約束? そんな物はしていない。
ドライアン:したんだよ、忘れたか?
カルミア:知らない。
ドライアン:なら、またやってやる。
カルミア:何を?
ドライアン:外で会おう。……ウル!
0:
0:ドライアンの剣がウルに変わる。
0:
ウル:みゃあ。
ドライアン:俺を出してくれ。
カルミア:待て、ドライアン! 外に出たら私は貴様を殺さないといけなくなる、だからお前はここで私を。
ドライアン:殺せって? やなこった。俺はお前を守るって約束したんだ。散々傷つけちまって手遅れかも知れないが、グレモリアとも約束したしな。
ウル:みゃあ。
ドライアン:もちろんウル。お前ともな。
カルミア:ドライアン……。
ドライアン:待ってろ、カルミア。
カルミア:分かった。私は信じよう、貴様を。
ドライアン:ああ。お前のことは俺に任せろ。
ウル:みゃあ。
0:
0:◇Phase 18◇
0:《戦場》
0:
0:片腕で剣を握るカルミアと剣を捨てたドライアンが向かい合っている。
0:
ドライアン:カルミア。
カルミア:――私は悪魔を、殺す。
ドライアン:今のお前は、心を閉ざしてるってことか。
カルミア:――――。
ドライアン:まぁ、ひとのことは言えねぇか。グレモリアに、感謝しないとな。
カルミア:――殺す。
0:
0:カルミア、斬りかかる。
0:
ドライアン:……っと!
カルミア:ふっ! はぁっ!
ドライアン:遅いな。ほんとのお前はそんなもんじゃないだろ。なぁカルミア。俺と何十回もした戦いは何だったんだよ?
カルミア:――悪魔を、殺す。
ドライアン:神のためにか? そんな理由で戦うのかお前は?
カルミア:悪魔に凄惨なる死を。
ドライアン:俺は、お前と戦いたい。好きなんだよ。お前と戦うのが。
カルミア:私は悪魔を蹂躙し殲滅する。
ドライアン:違うな。
カルミア:殺す。
ドライアン:俺はお前のことを、
カルミア:――死ねッ!
ドライアン:愛しているんだよ!
0:
0:ドライアン、カルミアの剣を受ける。
0:
ドライアン:ぐ、があぁ……! すっごい痛ぇが、掴まえた。
カルミア:は、なせ……!
ドライアン:嫌だ。放さない。正気に戻れ。
カルミア:なに、を――
ドライアン:カルミア、愛してる。
0:
0:ドライアン、カルミアに口づけをする。
0:
カルミア:――っ!
ドライアン:カルミア、帰ろう。
カルミア:――あ、ぁ――。
ドライアン:一緒に帰ろう。
カルミア:――ド――アン。
ドライアン:ウルが泣いてるぜ。
カルミア:ウ、ル――?
ドライアン:ああ、俺達の飼い猫だ。
カルミア:猫――。
ドライアン:カルミア、俺達は大事なものを失った。
カルミア:――――。
ドライアン:多くの同胞を、グレモリアを。そして俺も手にかけた。天使を、そしてお前の弟を。
カルミア:――レ、リア。
ドライアン:その事実は消えねぇ。過去は、消えない。
カルミア:殺、した――。
ドライアン:俺達の過去は消えてない。目を背けちゃいけない。投げ出しちゃいけねぇんだ。ましてや未来を。定めをただ受け入れて、後悔なんてしちゃいけねぇ。辛いからやけになって殺し合って傷付けて。それで相手より自分の方が傷ついてるなんて、馬鹿野郎にも程がある。ごめんな、カルミア。
カルミア:どうして――?
ドライアン:お前をこんなに傷付けて。
カルミア:どうして――?
ドライアン:向き合うことから逃げて。
カルミア:どうして――?
ドライアン:戦うことから逃げていた。
カルミア:どうして貴様が謝る――?
ドライアン:カルミア。
カルミア:悪いのは私だ。レリアが悪魔に強い恨みを抱いていたのも、私のために暴走したのも、全て私が悪い。貴様はだから、私を殺してもいいんだ。なのに、どうして。
ドライアン:……あのな、カルミア。
カルミア:ドライアン……?
0:
0:ドライアン、カルミアに口づけをする。
0:
カルミア:……ん!? な! 何を!
ドライアン:この死にたがりの天使め。
カルミア:何だと?
ドライアン:今思い出したよ。
カルミア:何がだ?
ドライアン:初めて会ったときもお前は死にたがってた。死に場所を探してるって顔してた。だから、俺はお前を見逃したんだ。
カルミア:……いや、そんなことは無い。よく憶えておるが、貴様は私に命乞いしただろ。
ドライアン:……し、してねぇよ! そういう演技だ。だってその後――
カルミア:逃げたものな。あの背中、まだしっかりと思い出せる。
ドライアン:逃げちゃ悪いかよ。
カルミア:別に。しかしさっき、逃げてすまなかったと言ったばかりであろう?
ドライアン:それはそれ、これはこれだ。
カルミア:好き勝手言いおる。……貴様らしいな。
ドライアン:だろ。前に言ったろ、自由に生きている限り俺の勝ちだ。
カルミア:では、さっきまでは負けておったのか?
ドライアン:……っそうだよ!
カルミア:そうかそうか。ふふふふふふふ。
ドライアン:笑うなよ……。は、はははははは。
0:
0:二人笑い合う。
0:
カルミア:こうして出会うために生きておったのだろうな。
ドライアン:何だって?
カルミア:生きていたから出会えた、死んでおったら出会えないからな?
ドライアン:当たり前だろ?
カルミア:そう、私達は当たり前のように生きて出会い、そして――
0:
0:(可能なら同時に)
0:
ドライアン:――愛してる。
カルミア:――愛してる。
0:
ドライアン:一緒に帰ろう。ウルが待ってる。
カルミア:ああ。良いだろう。貴様とならどこへでも。
ドライアン:カルミア。お帰り。
カルミア:ただいま。ドライアン。
0:
0:雨が上がる。
0:
0: 《天使と悪魔と捨て猫と。 幕》