台本概要

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タイトル ANGST#X
作者名 やいねん  (@oqrbr5gaaul8wf8)
ジャンル その他
演者人数 6人用台本(男3、女3)
時間 50 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 アングスト(不安)#X

極秘組織『メタファイヴ』
日常の裏側で蠢く災厄を取り除く汚れ仕事を担う組織。
そこに抜擢されたマオは、戸惑いながらも日常と非日常を両立する事となる。
死と隣り合わせな異能系戦闘活劇。

※叫びあり、詠唱的なセリフあり

ご自由にお使いください

用語説明
ドミニオン⇒極秘に造られた兵器
デュースター⇒真っ黒いスライム状の化け物。
スキズム⇒人間に寄生したデュースター。真っ黒い人形の化け物。顔はなく、のっぺらぼう。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
マオ 155 20代後半。カウルーンセキュリティのお巡りさん。急遽、適正してメタファイヴに召集された。
ベンジー 87 20代半ば。メタファイヴ所属メンバー。在籍歴が一番長い。元薬物中毒者
オルガ 82 30代後半。メタファイヴ主任。メタファイヴの頭脳。
ハオン 74 30代後半。メタファイヴ所属メンバー。在籍歴は二番目に長い。マフィア。
キサラギ 71 40代後半。メタファイヴ所属メンバー。大道芸人。ミランダと同期。
ミランダ 58 30代半ば。メタファイヴ所属メンバー。ピアニスト。キサラギと同期。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:(SE)カウルーン州カウルーンシティセントラルエリア、カウルーンセキュリティ本庁。庁舎内の巡回警備担当部署。退勤時、受付員から手紙を受け取る。 マオ:「お疲れ様です。……はい、今日も平和でつまらないパトロールでしたよ。……え、俺宛に手紙?ああ、そうですか。えーっと、なになに……差出人不明、重要書類在中『召集のお知らせ』……なんすかこれ。」 0:(SE)翌日、本庁の地下二階の、『特務課』と書かれた札のある部屋に向かうマオ。 マオ:(M)……この廊下を左に曲がってと。庁舎の地下なんて初めて来るな。こんなカビ臭い所に『特務課』なんて本当にあるのかよ。誰かのイタズラじゃないのか?……あ、マジであった、『特務課』。 マオ:「(深呼吸)……お邪魔します。」 0:(SE)扉を開けると、中には四人。皆話すわけでもなくそこにいる。 マオ:(M)なんだ、この重たい空気は。ひとり、ふたり、さんにん……よにん。この人達全然喋らないけど、仲悪いのかな。 0: マオ:「……あのー、手紙が届いたんで来たんですけど。」 キサラギ:「……あー、新しい人か。あれだよね、きっと説明無しに来た感じでしょ?私の時もそうだったんだよ。」 マオ:「え?」 キサラギ:「本当に不親切だよねぇ、あの手紙。代わりと言ってはなんだけど、解らないことがあったら私に何でも聞いてね。……って、何を聞いたらいいかわからないか。」 マオ:「まぁ……そうですね。」 キサラギ:「そうだなぁ……まずは自己紹介からしておこうか。私の名前はキサラギ。大道芸人をやっているんだ。火吹きとか知ってる?」 マオ:「いや、ちょっとわからないっすね。」 キサラギ:「文字通り、口から火を吹いたりするやつ。あれが得意なんだよねぇ。おっと、そんな話はさておき……次に紹介するのは、えー……じゃあ、そこに座っている女の子。名前はミランダくん。彼女、新進気鋭のピアニストなんだってさ。私と同期だ。」 ミランダ:「おー、わりとイケメンじゃん、よろしくねー。」 マオ:「ああ……どうも。」 キサラギ:「……まぁああいう感じの子なんだ。んで、あのずっとケータイを弄くっているアンちゃんがハオンくん。ここだけの話、どうやらマフィアらしいんだ。彼は私とミランダくんより先輩。」 ハオン:「クソ!また負けちまったぜ!」 キサラギ:「ははは、ゲームで忙しいみたいだね。そして最後に……あの隅っこで煙草を吸ってるのがベンジーくん。あの子は……あんまり話してくれないからなんともだけど、少し前まではおクスリで大変だったらしい。今はちゃんと更正してるみたい。この中では一番在籍歴が長い。大先輩だ。」 ベンジー:「(喫煙)……ふぅー。」 キサラギ:「とりあえず簡単にだけど、みんなの紹介はこんな感じだね。じゃあ、今度は君の番かな。」 マオ:「ああ、はい。……皆さんお疲れ様です。カウルーンセキュリティ本庁、巡回警備担当部署に所属してます、マオと言います。主に街のパトロールとか、時には要人の警備なども担当してます。よろしくお願いします。」 ハオン:「ケっ、公僕かよ。シラケるぜ。」 ミランダ:「なんかお堅い人が来たーって感じ?ウケるー!」 マオ:「自己紹介なんで、まぁある程度は。……というか皆さん、職業バラバラなんですけど……なんの集まりなんすか、ここ。」 ベンジー:「『適正』。」 マオ:「……適正?」 キサラギ:「そう、みんな適正を持ってるからここにいるんだ。詳しくは……」 0:(SE)部屋に誰か入ってくる。 オルガ:「待たせて悪い。会合が長引いた。」 キサラギ:「オルガ主任、お疲れ様です。」 マオ:「オルガ……主任?」 ミランダ:「オルガ姉さーん、早く帰りたいんだけど。この後デートあるんだよねぇ。」 オルガ:「今回はそう時間を取らないつもりだ。しかし、新人も居ることだ。ざっと説明させてくれ。」 ハオン:「おっしゃー、やりぃ!俺の勝ち!」 オルガ:「おいハオン、静かにしろ。……待たせて悪いな新人。えーと、君は確か……」 マオ:「マオです。」 オルガ:「そうだ、マオ。マオだった。まずは特務課へようこそ。主任をやってるオルガだ、よろしく。面通しは終わっているな?よしよし、では説明するぞ。まずこの『特務課』と言うのは名ばかりで、実際はカウルーン州直轄の機密組織なんだ。この組織にはコードネームが設定されている。その名も『メタファイヴ』。ここにはカウルーン州の住民情報から選定された適正保持者が集められている。訳あって公には出来ない組織でな。手紙で詳細を省いたのは情報漏洩の観点からだ。ここでの事はくれぐれも口外することのないように。前置きはこの辺にしておいて、とりあえず物は試しだ。これを使ってみろ。」 0:白く四角い幾何学模様の物体を渡される。 マオ:「ん……何ですか、この幾何学模様の白い箱。」 ベンジー:「『ドミニオン』。」 マオ:「……はい?」 オルガ:「資料によれば君は適正保持者だ。それが本当ならば、君にも使えるはずなんだ。さあ、念じてみろ。」 マオ:「念じる?何を。」 オルガ:「もし、君が相手を……敵を殺すとしたら、どんな手段を用いる?イメージしてみろ。」 マオ:「ええ?あー、うーん……。」 ハオン:「ケっ、こいつ適正じゃないんじゃね?」 ミランダ:「そうやってすぐ虐めようとするー。ハオンって子供だよねー。」 ハオン:「うるせぇ、黙ってろ。」 キサラギ:「マオくん、落ち着いて……自分のイメージを具体的に……」 マオ:「攻撃する……えーと、そりゃ……な、なんだこれ、白く光って……。」 0:(SE)その白い箱は発光しながら形状を変え、マオが想像した通りの銃に形成される。 オルガ:「……適正で間違いないようだな。」 マオ:「さっきの箱が、変形して……」 キサラギ:「おー!君も銃火器のタイプなんだね!」 ミランダ:「あー……銃なんだね。うん、いいじゃん。カッチョいいー!」 ハオン:「ケっ、よりにもよって同じかよ……。」 ベンジー:「……。」 オルガ:「うん、上々だ。その銃は君が想像した通りの出来ばえか?」 マオ:「はい……完璧です。この『シカゴタイプライター』は、もう現存していないモノなんです。こんな形で対面出来るなんて……すごい。」 オルガ:「その『ドミニオン』は使用者であるお前の体力を消費して形を変えるんだ。あまり使い込み過ぎると身体が動かなくなるから気を付けろ。」 キサラギ:「実は私、このあいだ倒れかけたんだ。ほどほどにね。」 オルガ:「よし、では早速本題に入る。ノースタウンの下水管から『デュースター』の細胞が検出された。粘度から推測するに、活動のピークは明日の晩。そこを叩く。それまでに支度を済ませておけよ。以上、解散。」 マオ:「……え、終わり?」 ミランダ:「やったー!早く帰って、デートデート!」 ハオン:「明日の夜かよー。せっかく会食があんのになー。はぁ、またボスに説明しねぇと……あー言いづれぇ!」 0:(SE)部屋を後にするハオンとミランダ。 オルガ:「行くぞ、ベンジー。」 ベンジー:「……うん。」 マオ:「あのー……まだ全然飲み込めてないんですけど。」 オルガ:「明日になればわかるさ。」 キサラギ:「実践あるのみってね。」 マオ:「……明日は夜勤があるんだけどなぁ。」 0: 0:(SE)翌晩、一行は現地に向かっている。トラックを運転するオルガ。荷台は向い合わせの座席になっている。 0: キサラギ:「……いや~この時期は冷えるなぁ。寒ぅ~。」 マオ:「キサラギさん、質問いいっすか。」 キサラギ:「もちろんだとも。」 マオ:「その……どうしてみんな引き受けたんすか、この任務。」 キサラギ:「うーん……。」 ハオン:「ケっ、つまんねぇ事聞きやがって、公僕野郎が。現にお前だって来てるじゃねぇか。」 マオ:「だって職場の地下にあるんすよ、この組織。オルガ主任とは庁舎内ですれ違うし。言い訳出来ないから仕方なくです。」 キサラギ:「そっちはそっちで大変そうだねぇ。」 ミランダ:「私はお小遣い稼ぎって感じ?報酬めっちゃ貰えるし!……ってのは二の次なんだけど、ね?」 キサラギ:「うん。なんと言うか、法的な拘束力があるのもそうなんだけど、そもそも致し方ないと言うか……」 ベンジー:「私たちがやらなければ、人が死ぬ。沢山の人達が。」 マオ:「……そうなんすよね。」 ハオン:「俺達は適正があるから選ばれた。戦えるのは俺達だけなんだ。だからやるしかねぇんだよ。」 マオ:「やるって……」 ベンジー「『デュースター』を殲滅する……それが私達の役目なのだ。」 ミランダ:「ほら、資料に書いてあるでしょ?この真っ黒いスライムみたいなやつ。コイツが『デュースター』って言うの。めっちゃキモくない?マジヤバーい。」 オルガ:「奴等には気を付けろ。本能で人間を捕食する。ひとたび触れたら最後……細胞を犯され、侵食が加速する。」 キサラギ:「そうなったら……もう助からない。」 オルガ:「幸いな事に、奴等には知性がない。見つけ次第、躊躇わず殺せ。」 マオ:「わかりました。……あ、もう一つ質問。どうして五人だけなんですか?もっと人手を増やしたほうが……」 ベンジー:「『ドミニオン』は五つしか存在しない。」 ミランダ:「だから、『メタファイヴ』ってね。」 キサラギ:「ドミニオンは貴重な素材や高度な技術を必要とするから量産は出来ないらしい。それにあのデュースター達、普通の武器が通用しないんだ。」 マオ:「なるほど。ちなみに、自分が入る前の人ってやっぱり……」 ハオン:「おい、公僕野郎。それ以上言ったらケジメ取らせるぞ?」 ミランダ:「ハオン、落ち着いて。」 マオ:「……なんか、すみません。」 ベンジー:「どうして。」 マオ:「……はい?」 ベンジー:「どうしてそんなにも冷静なのだ。」 マオ:「それは……なんだろう。現実味ないって言うか、よく解ってないっていうか。」 ベンジー:「死ぬかも知れないのだぞ。」 マオ:「それは嫌ですが、人間死ぬ時は死ぬんで。」 ハオン:「よく飼い慣らされた公僕は、感情まで骨抜きにされるんだな。」 マオ:「元々こういう人間なんです、自分は。」 ハオン:「ケっ、すかしやがって。」 オルガ:「そろそろ到着する。皆、心しておけ。」 ミランダ:「オルガ姉さん、運転荒い!気持ち悪くなってきたぁ…」 0: 0:(SE)湯畑から立ち上る湯気と硫黄の香りが鼻をつく温泉街の中心部。既に規制線が張られていて住人や旅行客は退去している。 0: ハオン:「……へっクション!うー、風邪引いちまうよ。」 ミランダ:「みんな見てー、綺麗な湯畑!雪も積もってるー!あげポヨ~」 キサラギ:「片田舎の温泉地だからね。この硫黄の香り、懐かしいなぁ。昔は旅行でここによく……あ痛ぁっ!冷たぁっ!ミランダくん、やめてくれないか!」 ミランダ:「えへへー、雪合戦だー!」 ハオン:「ケっ、ガキかよ。」 マオ:「……緊張感ゼロじゃないっすか、みんな。」 オルガ:「気を紛らわしているのさ。新しく君が来たって事は……わかるよな?前回の作戦からは日が浅い。みな気丈に振る舞っているが、心中穏やかではないはずだ。」 マオ:「そうですか。……オルガ主任、地元のカウルーンセキュリティが規制線を張っているようですが、住民の避難はもう終わってるんですか?」 オルガ:「ああ、『不発弾が発見された』って事にしてある。事実は伝えられないから体の良い嘘を吐くしかない。」 マオ:「なるほど。ところで、肝心の『デュースター』は何処に……。」 ベンジー:「来るぞ。」 マオ:「え?」 オルガ:「総員、臨戦態勢に入れ!」 キサラギ:「了解ですよ!はぁい、イリュ~ジョ~ン!」 ミランダ:「よーし、今日もたくさん奏でちゃうよー!」 ハオン:「来いこの野郎!まとめて切り刻んでやる!」 0:(SE)各々が『ドミニオン』を発現させる。前衛でハオン、キサラギ、ミランダが戦い、その後方をマオとベンジー、そしてオルガがナビゲーションを行う。 マオ:「みんな一斉にドミニオンを……やっぱすげぇ光景っすね。」 オルガ:「三人とも、前衛は任せたぞ。レーダーが感知したのは五十体弱だ。油断するな。」 マオ:「オルガ主任も戦うんですか?」 オルガ:「いいや、私は戦力外だ。だが後方からインカムにて戦況をサポートすることは出来る。私の指示を信じろ。」 ベンジー:「何をボサッとしているのだ。行くぞ。」 マオ:「あ、はい。わかりました。」 オルガ:「ベンジー、マオを任せたぞ。」 ベンジー:「……うん。」 0: 0:先行してデュースターを殲滅して行く前衛の三人。インカムにて指示を送るオルガ。 キサラギ:「聞いて驚け、見て笑え!『WannaFlash(ワナフラッシュ)』!」 0:(SE)マジックグローブと化したキサラギのドミニオン。二本指が指す方に炎が放たれ消し炭になるデュースター。 ハオン:「今日もよく燃えてるな、オッサン!」 オルガ:「ハオン、後ろから来るぞ!」 ハオン:「わかってるよ!細切れにしてやらぁ!『干将莫耶(ギャンジャンモーイェ)』!」 0:(SE)双剣と化したハオンのドミニオン。刀身に絡み付いた細かい鎖が駆動し、デュースターを切り刻む。 オルガ:「流石だハオン。……おいミランダ、出すぎだ!自重しろ!」 ミランダ:「大丈夫!わたしー、良いこと思い付いたんだ!」 キサラギ:「ミランダくんは私がカバーしよう!」 ミランダ:「ありがとう、キサラギー!」 ハオン:「ケっ、いい格好つけてんじゃねぇよオッサン。」 オルガ:「バカ!囲まれるぞ、お前ら!」 ミランダ:「そろそろかなぁ……いくよ、キサラギ!響け旋律、『D-282(ディーツーエイティーツー)』!」 キサラギ:「はいよ!舞えや踊れや、『SPIT FIRE(スピットファイヤー)』!」 0:(SE)ショルダーキーボードと化したミランダのドミニオンから張り巡らせたピアノ線をキサラギが放つ業火が伝ってゆき、デュースターを焼き払うる。 オルガ:「ピアノの弦で複数のデュースターを絡め上げ、キサラギの炎で一網打尽に……やるじゃないか。」 ハオン:「おいおい、コンビ技なんてあったのかよ。」 ミランダ:「さっき考えたんだ!ね、キサラギ!」 キサラギ:「中々いい作戦だったよ、ミランダくん!」 オルガ:「しかし、無茶はするな。以後、私の指示には忠実に従え。いいな、ミランダ。」 ミランダ:「はーい。……オルガ姉さん、もっと褒めてくれると思ったのにー。下げポヨー。」 0:(SE)マオの発砲音。後方、着実にデュースターを狩って行くマオとベンジー マオ:「なかなかしぶといなぁ。一撃じゃ倒せないんですけど。」 ベンジー:「核を狙え。」 マオ:「それしか教えてくれないんすね。」 ベンジー:「後は経験だ。」 マオ:「教え下手っすねぇ……。ねぇ、ベンジーさん。」 ベンジー:「なんだ。」 マオ:「デュースターってなんなんすか。このベチョベチョして気持ち悪い物体。」 ベンジー:「生物兵器。突然変異体。負の遺産。人類の汚点……」 マオ:「待ってまって、その言葉の羅列なんか怖い。」 ベンジー:「っ!伏せろ。」 マオ:「え、うわぁ!」 ベンジー:「フンッ!」 0:(SE)マオの後ろに迫ったデュースターめがけ短剣を投げるベンジー。 マオ:「あっぶねぇ……」 ベンジー:「集中しろ。死ぬぞ。」 マオ:「はい、すみません。……ベンジーさんのドミニオン、かっこ良いっすね。その宙に浮いてる神々しい短剣、綺麗っす。」 ベンジー:「……それほどでも。」 マオ:「なんて言うんですか?」 ベンジー:「……『ミセリコルデ』。」 マオ:「へー、ミセリコ……ルデ……うーん。なんか覚えヅラいし、言いヅラいっすね。」 ベンジー:「んなっ…!うるさいぞ、この馬鹿者!」 マオ:「いや、率直な感想なので気にしないで下さい。」 ベンジー:「なんなんだお前!褒めてくれると思ったら、名前にダメ出ししおって!失礼だぞ!」 マオ:「そんなに気に入ってた名前なんすね。なんかごめんなさい。」 ベンジー:「なんかってなんだ!!心から謝れ!」 マオ:「あ、後ろ!『ピースメーカー』!」 ベンジー:「っ!」 0:(SE)リボルバーと化したドミニオンで三体のデュースターを殲滅するマオ。 マオ:「……ふぅ、やっと一撃で仕留められた。」 ベンジー:「三体のデュースターを、一瞬で……」 マオ:「やってみたかったんすよ、ガンマンみたく腰撃ちで。ファニングショットってやつっす。カッコいいっすよね?コイツ、シングルアクションアーミーって言ってね、もう現存してない……」 ベンジー:「ウザい、調子に乗るな。」 マオ:「あ、すみません。レトロガン好きなんすよね、俺。」 ベンジー:「知るか、そんなこと。……だが、悪くない。」 0: 0:(SE)しばらくして前衛と合流するベンジーとマオ。 キサラギ:「おや、ようやく来たね。」 ベンジー:「すまない。新人の教育に手こずっていた。」 マオ:「あれ、なんか教えてくれましたっけ?」 ベンジー:「ぐぬぬ、口が減らんなぁ貴様……!」 ミランダ:「あれぇ、もうそんなに仲良くなったんだ二人とも!ヒューヒュー!」 ベンジー:「そんなことは断じて、ない!」 マオ:「はい、普通っすよ。普通。」 ベンジー:「なんだ普通って!曖昧な返事をするな!腹が立つ!」 キサラギ:「ハッハッハッ、いいねいいねぇ。」 ハオン:「ケっ、騒がしい奴らだ。」 オルガ:「今回は大健闘だった。礼を言うぞ。これで殲滅は完了し……いや待て、待機だ。なにか来る。」 0:(SE)道の先、暗がりからゆっくり近付いてくる人影。 マオ:「あれ?人影が近付いてきますよ。確か住人は全員避難しているはずですが。……いいや、人間じゃないっぽいすね。」 ベンジー:「デュースターに全身を覆われた、黒く仄暗い人間の成の果て……。」 ハオン:「あののっぺらぼうは……おいおい、嘘だろ!」 キサラギ:「いやぁ、これはツイてないね……。」 オルガ:「ミランダ、ピアノの弦を張り巡らせろ!先手を打つんだ!」 ミランダ:「うん、任せて!『AmadeusSyndrome(アマデウスシンドローム)』!」 0:(SE)ミランダはショルダーキーボードを地面に突き刺し、そこから伸びるピアノ線が地面や壁に根を張るように巡ってゆく。 オルガ:「キサラギ、ハオン!なるべく時間を稼いでくれ!」 ハオン:「……それ、死を覚悟しろってことだよな?」 キサラギ:「大丈夫だハオンくん。自分を、みんなを信じるんだ。」 ハオン:「ケっ、後輩の癖に……。行くぞ、オッサン!」 キサラギ:「はいよ!亀の甲より年の功、みせてくれる!」 オルガ:「ベンジーはミセリコルデの複製に集中しろ。マオは後方から支援だ。」 マオ:「ちょっと、みんな急にどうしたんすか?」 オルガ:「あれはデュースターが人間の身体に寄生した状態、『スキズム』だ。人間の身体を利用し、細胞分裂のサイクルを爆発的に飛躍させ、桁外れの身体能力を得る。それでいて奴らは……」 ベンジー:「まずい、オルガ!」 オルガ:「増殖を繰り返す……!」 ハオン:「分裂させるかよ、この野郎!『方天畫戟(ファンティエンファージィ)』!」 0:(SE)双剣から戟に変わるドミニオン。分裂するスキズムに攻撃を加えるハオン。 キサラギ:「やったか!」 オルガ:「いいや、間に合わなかった!これ以上奴を増やしてはいけない!ここで仕留めるぞ!」 0:ハオンの仕留め損ねた片割れがミランダを標的にする キサラギ:「ミランダくん、片割れのスキズムがそっちに向かってる!」 ミランダ:「待って無理、避けきれない……」 マオ:「『チャーリーキラー』!」 0:(SE)マオの放った弾がスキズムに着弾し爆発する。 ミランダ:「キャッ!な、なに、いまの爆発!」 マオ:「擲弾筒です。間に合ってよかった。」 オルガ:「油断するな!まだ削りきれていない!」 0:(SE)もう一方のスキズムに突き返されるハオン。 ハオン:「ぐわっ!」 キサラギ:「ハオンくん、大丈夫か!」 ハオン:「ケっ、全く歯が立たねぇよ。こんなのが二体もいるなんて、絶望的だぜ。」 キサラギ:「いやぁ、こりゃまいったねぇ……。」 ベンジー:「二人とも下がって。」 ハオン:「ベンジー……やれんのか。」 ベンジー:「当たり前だ。ミランダの方を頼む。」 ハオン:「ああ、わかった。行くぞオッサン!」 キサラギ:「そうだね。いくらスキズムでも、あの数のミセリコルデに突き刺されたら、ひとたまりもないだろね。」 0:(SE)退く二人。ベンジーがドミニオンで創造したミセリコルデは千本。宙を浮遊している。 ベンジー:「千の慈悲によって、浄化したまえ。『ミセリコルデ』。」 0:(SE)浮遊していたミセリコルデの切っ先は一斉にスキズムへ向き、放たれる。 ベンジー:「光と共に、無に帰する。」 0:(SE)千本のミセリコルデが突き刺さったスキズムは発光し、破裂する。辺りを光の粒が包み、スキズムは跡形もなく消え去る。 オルガ:「よくやったベンジー。引き続き、みなの支援を頼んだぞ。」 ベンジー:「……うん。」 0:(SE)ハオンとキサラギが近接でスキズムと戦闘。ミランダの準備が整う。 キサラギ:「ぐわっ!……いくら燃やしてもすぐに再生してしまう!」 マオ:「被弾しまくってるのに、治癒能力が上回って屁でもないって感じだ。それに核がどこにも見当たらない……アイツ、ヤバイな。」 ハオン:「おい、ミランダ!まだかよ!」 ミランダ:「……お待たせ、もう行ける!」 ハオン:「じゃあ斬り上げっから、お前のドミニオンで縛り上げろ!喰らえ、『方天畫戟(ファンティエンファージィ)』!!」 0:(SE)ハオンの斬り上げで宙に浮くスキズム ミランダ:「これがアナタに送るレクイエム、『VARIO DUET(ヴァリオデュエット)』!キサラギ、燃やしつくしちゃえ!」 0:(SE)スキズムの身体を通りに張り巡らした無数のピアノ線が縛り上げ、身動きが取れないまま吊るされる。 キサラギ:「よっしゃ!クライマックスに最高のエンターテイメントを!『Feuer frei(ファイヤーフライ)!』」 0:(SE)キサラギの両手から業火を放ちスキズムを焼き尽くす。 マオ:「……どうやら決着はついたみたいですね。」 オルガ:「まだだ。銃を構えろ、マオ。」 マオ:「そうなんすか?わかりました……ん、なんか頭が真っ二つになってきましたよ。」 オルガ:「中に球体のような物が見えるだろ。それが奴の『核』だ。絶対に逃がすな、確実に仕留めろ。」 マオ:「了解。……一撃必中。頼むぜ、『YELLOW BOY(イエローボーイ)。』」 0:(SE)マオの放つ弾丸が核に命中。スキズムは形を失い粉々に崩れ去る。 ミランダ:「やった……やったー!倒したー!」 キサラギ:「ふぅ、一時はどうなるかと思ったよ……」 ハオン:「ケっ、少しは役に立ったようだな。公僕野郎。」 オルガ:「皆よくやってくれた。改めて礼を言わせてくれ。」 ミランダ:「ノンノン、お礼だなんて堅いこと抜きだよ。オルガ姉さんがいたからこそ、作戦は成功したんだから。ねぇみんな?」 ハオン:「アンタが主任じゃなかったら俺なんて、何回死んでたかわからねぇぜ。」 キサラギ:「そうそう、我々は六人合わせて『メタファイヴ』なんだからね!」 オルガ:「なんだお前ら……嬉しいこと言ってくれるじゃないか。仕方ないな、新人の歓迎会と作戦成功の打ち上げを兼ねて飲みにでも行こうか!勿論割り勘でなぁ!」 マオ:「……本当は仲良かったんすね、みんな。」 ベンジー:「当たり前だ。身命を賭して戦っている仲間なのだから。」 マオ:「……ベンジーさんって、みんなと一線引いてますよね。」 ベンジー:「……どういう意味だ。」 マオ:「なんとなくです。それにベンジーさん、なんか一番悲しそうだし。しかもずっと。会った時からずっと。」 ベンジー:「お前に何がわかる。」 マオ:「なにも解りませんよ。ただ『メタファイヴ』歴がダントツで長いって聞いたから。それだけです。」 ベンジー:「……。」 マオ:「もっとみんなに甘えて良いんじゃないっすか?独りでいるより、みんなと仲良くした方が気が楽でしょ。まぁ新参者の意見なんで。気にしないでもらっていいんすけど。」 ベンジー:「……うるさいな、お前は。」 0: 0: 0:(SE)数日後の夜。居酒屋、ベンジーを除いた四人が卓を囲んでいる。遅れてマオがやってくる。 マオ:(M)やべー、仕事で遅れちまったなぁ。まぁ飲み会で一時間の遅刻は普段の5分遅れぐらいのレベルだし、大丈夫大丈夫……。 0:(SE)戸を開け合流するマオ オルガ:「おおおおおおおい!遅いぞコノヤロー!お前新人なんだからなぁ!」 マオ:「大丈夫じゃなかった……。」 ミランダ:「オルガ姉さん、ちょっとはだけすぎ!それもうセクハラだからね!ほらマオくん超ドン引きしてるよー!マジウケるー!」 キサラギ:「まあまあ、主役は遅れてやって来るっていうじゃない。マオくん、こっち空いてるから座って。」 マオ:「ああ、ありがとうございます。よいしょっと……あれ、ハオンさんとベンジーさんは?」 キサラギ:「ハオンくんならそこで潰れちゃってるよ。」 ハオン:「むにゃ……小籠包が溶けるよ~……」 マオ:「……なんか変な夢見てますね。」 キサラギ:「彼、お酒弱いみたいで。女子二人に煽られてこの有り様なんだ。」 マオ:「女子って……そんな歳じゃないでしょ、あの二人。」 オルガ:「ん?なんか聞こえたぞ。殺すか、殺そうかアイツ。」 ミランダ:「待って姉さん!私に任せて、私が殺す!」 キサラギ:「か、彼なりの冗談だから!というか空耳!気のせい気のせい!落ち着いて!」 オルガ:「はぁ?まあいいけどー。てかさー、ハオンって威勢だけは良いんだけどさー、お酒はからっきし駄目なんだよなー!」 ミランダ:「本当そう!情けないよねー!あれで二児のパパだなんて信じらんない!」 マオ:「え、ハオンさん所帯持ちなんすか?」 ハオン:「そうだ。なんか文句あるか?」 マオ:「うわっ!急に起きないで下さいよ。」 ハオン:「おお、なんだ公僕野郎か。初任務お疲れ様。おやすみ。」 マオ:「寝るの早っ。」 キサラギ:「賑やかでいいねぇ、ハッハッハッ。」 マオ:「キサラギさん、全然酔ってないですね。」 キサラギ:「あー、まあ歳も歳だからね。医者に止められてるんだ。少しぐらいなら大丈夫なんだけど、カミさんがうるさくてね。」 マオ:「へー、キサラギさんも大変そうすね。」 ミランダ:「二人はいいねー幸せな家庭築けてさー!私たちを貰ってくれる男なんているのかなー!ねーオルガ姉さん!」 オルガ:「ミランダ……アンタ彼氏いるだろ。一緒にするな、この裏切り者め!」 ミランダ:「そんなこと言わないでよー!そうだ、聞いてよ姉さん!この間のデートが最悪でさー……」 マオ:「かなり出来上がってますね、あの二人。これじゃあ酔いたくても酔えませんね。それでキサラギさん、ベンジーさんは?」 キサラギ:「あの子ね……。なんだかね、こういう場所はあんまり好きじゃないみたいでさ。いつも参加しないんだ。」 マオ:「あー……そうですか。」 キサラギ:「どうかしたのかい?」 マオ:「昨日、ちょっと余計なこと言っちゃって、気にしてるのかなって。まあ思ったこと言っただけなんですけど。」 キサラギ:「そうなの?でもきっと、それとは関係無しに来てないと思うな。」 マオ:「そうっすか。」 ハオン:「静粛に!」 マオ:「うわっ、また起きた。」 ハオン:「みんなが揃ったところで……ダニーを弔いたい。いいよな、みんな。」 ミランダ:「やだ、このタイミングで?」 キサラギ:「うん、勿論だとも。」 ミランダ:「キサラギ……でも、そうだよね。」 マオ:「ダニー?ひょっとして……」 オルガ:「お前の前任だ。ダニーも銃火器の使い手だった。仲間思いの良い奴でな。死と隣り合わせの作戦の中で、各々が慣れ親しむ事を避けていた。だがアイツは皆と積極的にコミュニケーションを取り、チームワークを保ってくれた。大した男だったよ。」 ミランダ:「ダニーが居なかったら、みんなとこんなに仲良くなれなかったよ。何度も助けられたしね。」 キサラギ:「そうだとも。今の我々がこうしていられるのも、ダニーくんのお陰だよ。そうそう、最初にマオくんに話しかけたのも彼を思い出しての事だった。私も彼には沢山の事を教えてもらったからね。」 ハオン:「本当に惜しい奴を失った。俺があんなヘマなんてしなければ、今頃……」 オルガ:「ハオン、その辺にしておけ。過去を振り返るな。現実と向き合え。」 ハオン:「……ケっ、染みっ垂れてちゃあアイツも浮かばれねえよな!もう欠員なんか出せねぇ。このメンバーで、終わらせてやる!おい、公僕野郎!コップを持って。酌してやるから。」 マオ:「あ、はい。こうですか?」 0:(SE)酌をするハオン ハオン:「……これでお前も盃を交わした仲間になる。」 マオ:「なるほど……。」 ハオン:「よし、じゃあ新しく入った公僕野郎……ゴホン、えー、マオに。そして、俺達の最高の仲間である、ダニーに。」 キサラギ:「ダニーくん、安らかにな。」 ミランダ:「元気でね、ダニー。」 オルガ:「ダニーに、乾杯。」 マオ:「……お疲れ様、ダニー。」 0: 0:(SE)居酒屋を後にした一行 0: オルガ:「あー飲み足りない!もう一件いくぞ!」 ミランダ:「カラオケ!カラオケ!」 キサラギ:「んじゃあ、私はこれで……」 オルガ:「キサラギー、頼むよぉ!もう一件だけ!ねぇ?お願いお願いお願ーい!」 キサラギ:「いやはや、カミさんに叱られてしまうよぅ……」 ハオン:「俺は充分寝たから元気だぞ!」 ミランダ:「アンタこそ奥さんに叱られそうなんだけど、、大丈夫なの?」 ハオン:「大丈夫だ!今日は遅くなるってちゃんと……ってヤバっ!鬼電きてる!」 ミランダ:「なにそれめっちゃウケるんですけどー!」 オルガ:「あと一件だけだから、みんな!付き合って……うっぷ、ヤバイ。吐きそう。」 ミランダ:「きゃー!姉さん!ちょっと、マオちゃん!水、水を買ってきて!」 マオ:「あ、はーい。」 0: 0:(SE)物陰から一行を覗き込むベンジー。 0: ベンジー:「……。」 0:(SE)近づいてくるマオ マオ:「何やってんすか、こんなところで。」 ベンジー:「フヒャアッ!……え、なんで後ろから。」 マオ:「水を買いに行ったら道に迷っちゃって、うろうろしてたら見付けてしまいました。なんかすみません。」 ベンジー:「いや……別に……」 マオ:「二次会あるみたいっすよ。一緒に行きましょうよ。」 ベンジー:「……。」 0:少しの沈黙が流れる マオ:「……ベンジーさん。」 ベンジー:「……なんだ。」 マオ:「ちょっと待ってて下さいよ。ここで。」 ベンジー:「……え?」 0: 0:(SE)少し見晴らしの良い公園。ベンチに腰かけるマオ。 0: マオ:「よいしょっと。ここなら人気が無くて丁度いいっしょ。」 ベンジー:「……なにも私の為に、二次会を断らんでも。」 マオ:「別にいいんですよ。……座らないんすか?冷たくて気持ちいいっすよ、ベンチ。」 ベンジー:「言われなくても……つ、冷たっ!」 マオ:「いや、大袈裟すぎますって。少し座れば慣れますよ。」 ベンジー:「ああ、確かに……これはこれで、悪くない。」 0:(SE)ビールを渡すマオ マオ:「はい、ビール。」 ベンジー:「え、ビールか。あんまり好きじゃないのだ。」 マオ:「俺も最初は苦手でしたよ。でも、こうやって…(飲酒音)ぷはー。ほら、美味しい。」 ベンジー:「ほらって……そうなのか?」 マオ:「真似してみて下さいよ。味合わないで、喉に流し込むイメージです。」 0:(SE)ビールをあけるベンジー ベンジー:「こ、こうか?…(飲酒音)ぷはー。これは確かに、うん。悪くないな。」 マオ:「……飲み会、参加したことないんすね。」 ベンジー:「まぁ……な。それよりお前、飲み会の後なのにまだ飲むのか。」 マオ:「だって、着いた頃にはオルガ主任とミランダさんが出来上がってたから。気を遣ってると酔えなくなる、あのやつですよ。」 ベンジー:「あの二人なら、さもありなんだな。」 マオ:「だから多分、一杯しか飲んでなかったすよ。献盃の一杯だけ。」 ベンジー:「献盃って……」 マオ:「そう、ダニーさん。色々聞きましたよ。」 ベンジー:「……ダニーは、私と同期だった。」 マオ:「そうだったんすね。」 ベンジー:「アイツは優しすぎるのだ。私とは正反対の奴だった。メタファイヴに入り立ての当時、まだ辞めきれてなかったのだ。その……」 マオ:「わかりますよ、言わなくても。」 ベンジー:「……なんというか、いわゆる禁断症状が酷くてな。他のメンバーにも迷惑をかけていた。そんな私をダニーは面倒がらずに助けてくれたのだ。……悪い、煙草吸っても平気か?」 マオ:「ああ、全然いいっすよ。」 0:(SE)煙草に火をつけるベンジー ベンジー:「(喫煙)……ふぅー。今はこれに依存しているがな。」 マオ:「でも立ち直ったんすね。すごいっすよ。」 ベンジー:「それもダニーが居たからだ。だが、そのダニーはもう……」 0:思い詰めながらも、思いを打ち明けるベンジー ベンジー:「欠員が出ればまた新しい者が入ってくる。そして、また欠員が出る。作戦に参加してすぐ死んだ新人もいた。慣れ親しめばその分、後が辛くなる。ならばいっそのこと距離を置いていた方がいいのだと、そう思うようになったのだ。」 マオ:「……。」 ベンジー:「もう嫌なのだ。誰も居なくならないで欲しい……ただそれだけなのだ。」 マオ:「……ベンジーさん。煙草、貰ってもいいっすか?」 ベンジー:「……お前、吸えるのか?」 マオ:「前は吸ってたんですけどね。なんか、今でもたまに吸いたくなるんすよ。」 ベンジー:「私の煙草は……キツいぞ?」 マオ:「そのぐらいが丁度いいんで。」 0:(SE)煙草を貰うマオ。 マオ:「……あれ、ライター壊れてますね。これ。」 ベンジー:「え、さっきまで使えてたのだが……。」 マオ:「ちょっといいっすか?」 ベンジー:「え、なにがだ?」 マオ:「火種。」 ベンジー:「……煙草のか?」 マオ:「そうです。咥えて、こっち向けて。目、瞑って。」 ベンジー:「あ…うん。」 マオ:「ゆっくり吸って……。」 0:ベンジーの咥えた煙草の火種にマオの煙草の先が当たる。淡く光る熱ががゆっくりとマオ煙草に移ってゆく。 ベンジー:「……。」 マオ:「(喫煙)……ふぅー。やっぱおいしいっすね、煙草。」 ベンジー:「……いつまで瞑っていればいいのだ。」 マオ:「え?ああ、もういいですよ。」 ベンジー:「お、終わったのなら早く言え!全くなんなんだ……」 マオ:「俺、死ぬ時は死ぬって思ってますけど、死ぬつもりは一切ないんで。」 ベンジー:「マオ……。」 マオ:「だから、一緒にみんなで頑張りましょ。」 ベンジー:「……ああ、そうだな。」 0: 0:(SE)数日後、新たな作戦に向かう一行。 0: ハオン:「……クソっ、また負けちまった!」 ミランダ:「うるさいなー。ゲームばっかりやって、本当に二児のパパには思えないんだけど。」 ハオン:「いいじゃねぇかゲームくらい。家では立派なパパやってんだぞ。証拠にほら、我が家の幸せをお裾分けしてやるよ。」 0:自慢げに子供の写真を見せるハオン。 ミランダ:「……いや~なにこの写真!かわいいー!いくつなの?」 ハオン:「この子が四歳で、こっちの娘が二歳。どうだ~かわいいだろー?」 ミランダ:「へー、羨ましいなぁ。私も今の彼氏と結婚しちゃおうかなー。なんだかんだで大切にしてくれるしー。」 ハオン:「結婚は勢いだぜ?式上げるんなら呼んでくれよなぁ!」 ミランダ:「えー、絶対家族で来てねー?悪いお友達連れてきたらダメだよ?こう見えても私、名の通ったピアニストなんだから、反社との繋がりはNGなの。」 ハオン:「急に冷めること言うなよぉ。」 キサラギ:「ハッハッハッ、じゃあ私も夫婦でお邪魔しようかなー!」 ミランダ:「いいねいいねぇ!みんなで来てくれたら泣いて喜んじゃうかも。」 オルガ:「水を差すようで悪いが、今回の作戦は一筋縄では行かないんだ。集中してほしい。」 ミランダ:「はーい、ごめんなさーい。」 ハオン:「ケっ、シラけるぜ。」 キサラギ:「まあまあ。この作戦さえ乗り切れば、しばらくは安心出来るんだから。頑張ろうよ。」 ハオン:「はぁ、気乗りしねぇぜ。よりによって、あの場所に行くなんてよ。」 マオ:「あの場所ってのは?」 ベンジー:「ダニーが死んだ場所……正確には『喰われた』のだ、大型のスキズムに。」 マオ:「喰われた……前回の分裂したスキズムもミランダさんを食べようとしてましたね。」 ベンジー:「奴等の進化はいまなお続いているのだ。デュースターは本能で人間に寄生し、スキズムと化して人間を捕食する。デュースターは半液状なのに対し、スキズムは人体の細胞を利用する為、例え触れたとしても感染のリスクは限りなく低い。だがあの自然治癒能力、身体能力の高さを見ただろ。大型のスキズムはそれ以上なのだ。唯一の救いは、知性がない事だけ。」 マオ:「知性がない、ですか。」 オルガ:「今回の作戦は前々回と同じ北西に位置するフォーチュンタワー周辺の地域だ。その時に取り逃がした大型のスキズムが力を蓄えながら潜んでいる。いよいよ野放しには出来ない。日が暮れる前に決着をつける。奴等を叩けばカウルーン州全体からデュースター、及びスキズムを一時的に殲滅したこととなる。しばらくは安泰だろう。……もうそろそろで到着だ。みな、心しておけ。」 0: 0:(SE)日暮れ前、到着した一行。そこは旧市街地、戦禍の爪痕が残っている。 0: マオ:「……まだ瓦礫だらけなんだ、この町。いつ復興するんすかね。」 オルガ:「オーウェン州知事の政治決断でセントラルエリアとその周辺のインフラ整備が最優先されたからな、まだまだ先の事だろう。戦時中、この辺りは激戦区だったようだ。今は見ての通りゴーストタウンさ。」 マオ:「確かに。人っ子一人居ないし、なんの音もしない……。」 ハオン:「ホントにやれんのか……俺達で。」 キサラギ:「大丈夫だよ。みんなで力を合わせてダニーの仇を打とう!」 ハオン:「……そうだな。」 ベンジー:「オルガ……。」 オルガ:「ベンジー、どうした。」 ベンジー:「おかしい。あまりにも静かすぎる。」 オルガ:「確かに、レーダーの反応も……なんだ、機械の調子が……」 0:(SE)突然、風に吹かれて銀色の紙吹雪が空から舞い落ちてくる。 ミランダ:「あれ?なにこのキラキラした紙……なんかキレイー!」 ハオン:「ケッ、鬱陶しい。風で飛ばされてきたゴミかなんかだろ。」 キサラギ:「みんな、スキズムだ!向かって来る!」 0:(SE)通りの向こうから3メートル近くもある大型スキズムが向かってくる。 ハオン:「なんだアイツ、前よりでかくなってるじゃねぇか!」 オルガ:「総員、臨戦態勢だ!手筈通り行え!」 ミランダ:「仕掛けは私に任せて!『AmadeusSyndrome(アマデウスシンドローム)』!」 0:(SE)ミランダのドミニオンが張り巡ってゆく ハオン:「オッサン、足引っ張んなよ!」 キサラギ:「ハオンくんこそ!」 オルガ:「ベンジーはミセリコルデを。マオは周辺の警戒を怠るな。」 マオ:「了解です。でも、デュースターが出てくる気配がないっすよ。レーダーだとどんな感じっすか?」 オルガ:「それが、全く使い物にならん。」 マオ:「どうしてっすか?……いや待って下さい。この銀紙……オルガ主任、これ恐らく『電波欺瞞紙』です。レーダーが妨害されてるんだとしたら、これが原因かもしれません。」 オルガ:「なんだと?」 0:(SE)走って向かって来るスキズム。 ハオン:「かかってこい!『方天畫戟(ファンティエンファージィ)』!」 0:(SE)走った勢いのまま地面を蹴り、ハオンやキサラギを軽々と飛び越える。 ハオン:「……んな!?ジャンプしやがった!」 キサラギ:「我々を飛び越えた……!ミランダくん、危ない!そっちに向かっている!」 ハオン:「いや違う!奴の狙いは……」 ミランダ:「オルガ、逃げて!」 オルガ:「なぜ、真っ先に私を……」 マオ:「『ウッドペッカー』!」 0:(SE)咄嗟にスキズムの前に立ちはだかり重機関銃を形成、応戦するマオ。 キサラギ:「なんて事だ、マオくんの機関銃をもってしても全く怯まないなんて!」 マオ:「マジかよアイツ……ぐぁっ!」 0:(SE)一振りで押し退けられるマオ。オルガに飛びかかるスキズム。 ミランダ:「マオちゃん!」 ハオン:「あの野郎、オルガに飛びかかりやがった!」 オルガ:「攻撃対象を選んでいる……!」 ベンジー:「『ミセリコルデ』!」 0:(SE)未完成のミセリコルデをスキズムにぶつけるベンジー。若干怯むも、傷は修復される。 ハオン:「倒したか!」 キサラギ:「いいや、怯んだだけだ!ベンジーくんのミセリコルデはまだ未完成だった!」 ミランダ:「アイツ、ミセリコルデの傷が……もう治ってる。」 0:ターゲットをベンジーに変えたスキズム。 オルガ:「まずい、ベンジー!逃げろ!」 ベンジー:「キャアッ!」 0:(SE)弾き飛ばされるベンジー。気を失う。 ハオン:「ベンジー!クッソ、あの野郎!」 キサラギ:「アイツ、ベンジーくんを食べる気だ……!」 オルガ:「ミランダ!やれるか!」 ミランダ:「ええ、間に合った!お前の好きにはさせない!『VARIO DUET(ヴァリオデュエット)』!」 0:(SE)無数のピアノ線がスキズムに絡みつき動きを拘束する。 キサラギ:「観念しなさい!『Feuer frei(ファイヤーフライ)』!」 0:(SE)キサラギの業火がピアノ線を伝いスキズムを燃やし尽くす。 オルガ:「ハオン、頭部に亀裂が入った!」 ハオン:「ああ……これで、ダニーの仇を!」 0:(SE)スキズムののっぺらぼうな顔がダニーの顔に変化する。手を止めるハオン。 オルガ:「……おい、どうした。早くとどめを刺せ、ハオン!」 ハオン:「なぁ……なんでダニーの顔をしてるんだ、コイツ。」 オルガ:「なにを言って……。」 ハオン:「ごめんな、ダニー。お前は俺の事をかばった所為で、こいつに喰われちまったんだよな。俺が死んでればよかったのに……」 オルガ:「スキズムと会話してるだと……。」 ハオン:「だが、お前はもう元には戻れない……ありがとう。そして、さよならだ、ダニー!」 オルガ:「レーダーの妨害、攻撃対象の選択、人間とのコミュニケーション……奴らに知性が芽生え始めているとしたら、これは!」 ハオン:「……どうして笑ってるんだ、ダニー。」 オルガ:「これは罠だ!皆、逃げろ!撤退だ!」 0:(SE)スキズムが唸り声をあげた瞬間、壁や地面に擬態していたデュースターが一斉に姿を表した。前衛のキサラギ、ハオン、ミランダを囲っていた キサラギ:「な、なんだ!この夥しい数のデュースターは!すでに囲まれて……ぐはぁっ!」 オルガ:「キサラギ、どうした!」 ハオン:「オッサン!……おえっ!う、嘘だろ……口から……。」 キサラギ:「口からデュースターが……いつの間にか、身体の中に……」 ミランダ:「ゲホっゲホ……まさか、デュースターが擬態していたなんて……。」 オルガ:「前衛が擬態したデュースターに囲まれていただと!?これは……騙し討ちだったのか……全部、仕組まれていて……」 マオ:「『シカゴタイプライター』!」 0:(SE)動けるようになったマオがデュースターを蹴散らそうとする。 オルガ:「なんということだ……。」 マオ:「オルガ主任!ベンジーさんを運んで下さい!俺がみんなを助けます!」 オルガ:「ダメだ……もう助からない……」 マオ:「いいから!早くベンジーさんと逃げて!」 オルガ:「ハオン、キサラギ、ミランダ……すまない!」 0:(SE)ベンジーを担いでトラックへ向かうオルガ。 マオ:「『チャーリーキラー』!」 0:(SE)擲弾の爆発でデュースターをなぎ払って進む。しかしデュースターは無尽蔵に増え続ける。 ハオン:「マオ!止まれ!お前まで死ぬぞ!」 マオ:「嫌です!」 キサラギ:「マオくん、我々はもう助からないんだ!」 マオ:「嫌です!」 ミランダ:「マオちゃん、駄目だってこっち来ちゃあ!」 マオ:「嫌です!一緒に帰りますよ!」 ハオン:「……ケっ、呆れた奴だぜ。」 キサラギ:「意外と熱い男だったんだね、マオくんは……。」 ミランダ:「めっちゃいい男じゃん……私、マオちゃんと付き合ってみたかったな……。」 マオ:「なに呑気な事言ってるんですか!諦めないで下さい!」 ハオン:「……ほら、受け取れ。」 0:(SE)マオの足元にドミニオンを投げる三人 マオ:「これは……『ドミニオン』。」 ハオン:「それ持って逃げろ。コイツの相手はお前一人じゃ無理だ……ゲホっ。」 ミランダ:「早くしないと…ゲホっゲホ…」 キサラギ:「スキズムが暴れだす前に…ゲホっ…行きなさい。」 0:(SE)三人分のドミニオンを拾い上げるマオ。トラックが近付いてくる。 オルガ:「マオ!撤退するぞ!」 マオ:「……。」 キサラギ:「はぁ、はぁ、お迎えが来たな……マオくん。あぁ、カミさんに、よろしく言っといて、くれ……」 ミランダ:「ゲホ……ズルいよ、キサラギ。私も…彼氏に、他の女探せって、言っといて……あと、大好きだった、て……」 ハオン:「俺も…家族に……伝えてくれ……愛してる……てな……」 マオ:「……マジ…かよ。」 キサラギ:「マオくん……死なないでな……」 ミランダ:「頑張ってね……マオちゃん……」 マオ:「……。」 ハオン:「さっさと行け!マオっ!」 マオ:「……っ!」 0:(SE)背を向け走り去るマオ。そのままトラックに乗り込んで行く。 0: ハオン:「……ケっ。死ぬとこなんて、見せれるわけねぇだろ。」 0: 0:(SE)一人ずつ、スキズムに喰われてゆく。 0: 0:(SE)作戦失敗。帰路に就く三人。トラックを運転するオルガ。助手席にマオ、バックシートにベンジーが横になっている。 0: マオ:「……すみません。」 オルガ:「……謝るな。」 マオ:「でも、みんなを助けられずに……見捨ててしまった。」 オルガ:「皆、覚悟は出来ていた。ハオンも、キサラギも、ミランダも……過去を振り返るな。現実と向き合え……現実と……」 0:(SE)車を停めるオルガ。 オルガ:「……いいや、向き合っていないのは私の方だ。詰めの甘い作戦を立てた私の責任だ。私が……私が殺したんだ……見捨てたのも……皆を助けられなかったのも……全部、私の所為だ。」 マオ:「オルガ主任だけの責任じゃ……」 オルガ:「私だって!みんなの一緒に死ねたらどれだけ楽だったか!」 ベンジー:「そんなこと……言ったら、ダメ。」 マオ:「ベンジーさん……」 ベンジー:「オルガがいないと、アイツらには勝てない。」 0:感情を押し殺しながら沈黙する三人。 オルガ:「……すまん、取り乱した。」 ベンジー:「……でも、無理しないでね。」 オルガ:「ありがとう、ベンジー。……なあ、マオ。」 マオ:「はい。」 オルガ:「運転、変わってくれないか。」 マオ:「もちろんです。」 オルガ:「今だけ、今だけでいい……泣かせてくれないか。」 マオ:「……ええ、存分に。」 0: 0:(SE)残された三人を乗せて走り去るトラック マオ:(M)平和な日常はつまらない。でも、非日常は残酷で……もっとつまらなかった。

0:(SE)カウルーン州カウルーンシティセントラルエリア、カウルーンセキュリティ本庁。庁舎内の巡回警備担当部署。退勤時、受付員から手紙を受け取る。 マオ:「お疲れ様です。……はい、今日も平和でつまらないパトロールでしたよ。……え、俺宛に手紙?ああ、そうですか。えーっと、なになに……差出人不明、重要書類在中『召集のお知らせ』……なんすかこれ。」 0:(SE)翌日、本庁の地下二階の、『特務課』と書かれた札のある部屋に向かうマオ。 マオ:(M)……この廊下を左に曲がってと。庁舎の地下なんて初めて来るな。こんなカビ臭い所に『特務課』なんて本当にあるのかよ。誰かのイタズラじゃないのか?……あ、マジであった、『特務課』。 マオ:「(深呼吸)……お邪魔します。」 0:(SE)扉を開けると、中には四人。皆話すわけでもなくそこにいる。 マオ:(M)なんだ、この重たい空気は。ひとり、ふたり、さんにん……よにん。この人達全然喋らないけど、仲悪いのかな。 0: マオ:「……あのー、手紙が届いたんで来たんですけど。」 キサラギ:「……あー、新しい人か。あれだよね、きっと説明無しに来た感じでしょ?私の時もそうだったんだよ。」 マオ:「え?」 キサラギ:「本当に不親切だよねぇ、あの手紙。代わりと言ってはなんだけど、解らないことがあったら私に何でも聞いてね。……って、何を聞いたらいいかわからないか。」 マオ:「まぁ……そうですね。」 キサラギ:「そうだなぁ……まずは自己紹介からしておこうか。私の名前はキサラギ。大道芸人をやっているんだ。火吹きとか知ってる?」 マオ:「いや、ちょっとわからないっすね。」 キサラギ:「文字通り、口から火を吹いたりするやつ。あれが得意なんだよねぇ。おっと、そんな話はさておき……次に紹介するのは、えー……じゃあ、そこに座っている女の子。名前はミランダくん。彼女、新進気鋭のピアニストなんだってさ。私と同期だ。」 ミランダ:「おー、わりとイケメンじゃん、よろしくねー。」 マオ:「ああ……どうも。」 キサラギ:「……まぁああいう感じの子なんだ。んで、あのずっとケータイを弄くっているアンちゃんがハオンくん。ここだけの話、どうやらマフィアらしいんだ。彼は私とミランダくんより先輩。」 ハオン:「クソ!また負けちまったぜ!」 キサラギ:「ははは、ゲームで忙しいみたいだね。そして最後に……あの隅っこで煙草を吸ってるのがベンジーくん。あの子は……あんまり話してくれないからなんともだけど、少し前まではおクスリで大変だったらしい。今はちゃんと更正してるみたい。この中では一番在籍歴が長い。大先輩だ。」 ベンジー:「(喫煙)……ふぅー。」 キサラギ:「とりあえず簡単にだけど、みんなの紹介はこんな感じだね。じゃあ、今度は君の番かな。」 マオ:「ああ、はい。……皆さんお疲れ様です。カウルーンセキュリティ本庁、巡回警備担当部署に所属してます、マオと言います。主に街のパトロールとか、時には要人の警備なども担当してます。よろしくお願いします。」 ハオン:「ケっ、公僕かよ。シラケるぜ。」 ミランダ:「なんかお堅い人が来たーって感じ?ウケるー!」 マオ:「自己紹介なんで、まぁある程度は。……というか皆さん、職業バラバラなんですけど……なんの集まりなんすか、ここ。」 ベンジー:「『適正』。」 マオ:「……適正?」 キサラギ:「そう、みんな適正を持ってるからここにいるんだ。詳しくは……」 0:(SE)部屋に誰か入ってくる。 オルガ:「待たせて悪い。会合が長引いた。」 キサラギ:「オルガ主任、お疲れ様です。」 マオ:「オルガ……主任?」 ミランダ:「オルガ姉さーん、早く帰りたいんだけど。この後デートあるんだよねぇ。」 オルガ:「今回はそう時間を取らないつもりだ。しかし、新人も居ることだ。ざっと説明させてくれ。」 ハオン:「おっしゃー、やりぃ!俺の勝ち!」 オルガ:「おいハオン、静かにしろ。……待たせて悪いな新人。えーと、君は確か……」 マオ:「マオです。」 オルガ:「そうだ、マオ。マオだった。まずは特務課へようこそ。主任をやってるオルガだ、よろしく。面通しは終わっているな?よしよし、では説明するぞ。まずこの『特務課』と言うのは名ばかりで、実際はカウルーン州直轄の機密組織なんだ。この組織にはコードネームが設定されている。その名も『メタファイヴ』。ここにはカウルーン州の住民情報から選定された適正保持者が集められている。訳あって公には出来ない組織でな。手紙で詳細を省いたのは情報漏洩の観点からだ。ここでの事はくれぐれも口外することのないように。前置きはこの辺にしておいて、とりあえず物は試しだ。これを使ってみろ。」 0:白く四角い幾何学模様の物体を渡される。 マオ:「ん……何ですか、この幾何学模様の白い箱。」 ベンジー:「『ドミニオン』。」 マオ:「……はい?」 オルガ:「資料によれば君は適正保持者だ。それが本当ならば、君にも使えるはずなんだ。さあ、念じてみろ。」 マオ:「念じる?何を。」 オルガ:「もし、君が相手を……敵を殺すとしたら、どんな手段を用いる?イメージしてみろ。」 マオ:「ええ?あー、うーん……。」 ハオン:「ケっ、こいつ適正じゃないんじゃね?」 ミランダ:「そうやってすぐ虐めようとするー。ハオンって子供だよねー。」 ハオン:「うるせぇ、黙ってろ。」 キサラギ:「マオくん、落ち着いて……自分のイメージを具体的に……」 マオ:「攻撃する……えーと、そりゃ……な、なんだこれ、白く光って……。」 0:(SE)その白い箱は発光しながら形状を変え、マオが想像した通りの銃に形成される。 オルガ:「……適正で間違いないようだな。」 マオ:「さっきの箱が、変形して……」 キサラギ:「おー!君も銃火器のタイプなんだね!」 ミランダ:「あー……銃なんだね。うん、いいじゃん。カッチョいいー!」 ハオン:「ケっ、よりにもよって同じかよ……。」 ベンジー:「……。」 オルガ:「うん、上々だ。その銃は君が想像した通りの出来ばえか?」 マオ:「はい……完璧です。この『シカゴタイプライター』は、もう現存していないモノなんです。こんな形で対面出来るなんて……すごい。」 オルガ:「その『ドミニオン』は使用者であるお前の体力を消費して形を変えるんだ。あまり使い込み過ぎると身体が動かなくなるから気を付けろ。」 キサラギ:「実は私、このあいだ倒れかけたんだ。ほどほどにね。」 オルガ:「よし、では早速本題に入る。ノースタウンの下水管から『デュースター』の細胞が検出された。粘度から推測するに、活動のピークは明日の晩。そこを叩く。それまでに支度を済ませておけよ。以上、解散。」 マオ:「……え、終わり?」 ミランダ:「やったー!早く帰って、デートデート!」 ハオン:「明日の夜かよー。せっかく会食があんのになー。はぁ、またボスに説明しねぇと……あー言いづれぇ!」 0:(SE)部屋を後にするハオンとミランダ。 オルガ:「行くぞ、ベンジー。」 ベンジー:「……うん。」 マオ:「あのー……まだ全然飲み込めてないんですけど。」 オルガ:「明日になればわかるさ。」 キサラギ:「実践あるのみってね。」 マオ:「……明日は夜勤があるんだけどなぁ。」 0: 0:(SE)翌晩、一行は現地に向かっている。トラックを運転するオルガ。荷台は向い合わせの座席になっている。 0: キサラギ:「……いや~この時期は冷えるなぁ。寒ぅ~。」 マオ:「キサラギさん、質問いいっすか。」 キサラギ:「もちろんだとも。」 マオ:「その……どうしてみんな引き受けたんすか、この任務。」 キサラギ:「うーん……。」 ハオン:「ケっ、つまんねぇ事聞きやがって、公僕野郎が。現にお前だって来てるじゃねぇか。」 マオ:「だって職場の地下にあるんすよ、この組織。オルガ主任とは庁舎内ですれ違うし。言い訳出来ないから仕方なくです。」 キサラギ:「そっちはそっちで大変そうだねぇ。」 ミランダ:「私はお小遣い稼ぎって感じ?報酬めっちゃ貰えるし!……ってのは二の次なんだけど、ね?」 キサラギ:「うん。なんと言うか、法的な拘束力があるのもそうなんだけど、そもそも致し方ないと言うか……」 ベンジー:「私たちがやらなければ、人が死ぬ。沢山の人達が。」 マオ:「……そうなんすよね。」 ハオン:「俺達は適正があるから選ばれた。戦えるのは俺達だけなんだ。だからやるしかねぇんだよ。」 マオ:「やるって……」 ベンジー「『デュースター』を殲滅する……それが私達の役目なのだ。」 ミランダ:「ほら、資料に書いてあるでしょ?この真っ黒いスライムみたいなやつ。コイツが『デュースター』って言うの。めっちゃキモくない?マジヤバーい。」 オルガ:「奴等には気を付けろ。本能で人間を捕食する。ひとたび触れたら最後……細胞を犯され、侵食が加速する。」 キサラギ:「そうなったら……もう助からない。」 オルガ:「幸いな事に、奴等には知性がない。見つけ次第、躊躇わず殺せ。」 マオ:「わかりました。……あ、もう一つ質問。どうして五人だけなんですか?もっと人手を増やしたほうが……」 ベンジー:「『ドミニオン』は五つしか存在しない。」 ミランダ:「だから、『メタファイヴ』ってね。」 キサラギ:「ドミニオンは貴重な素材や高度な技術を必要とするから量産は出来ないらしい。それにあのデュースター達、普通の武器が通用しないんだ。」 マオ:「なるほど。ちなみに、自分が入る前の人ってやっぱり……」 ハオン:「おい、公僕野郎。それ以上言ったらケジメ取らせるぞ?」 ミランダ:「ハオン、落ち着いて。」 マオ:「……なんか、すみません。」 ベンジー:「どうして。」 マオ:「……はい?」 ベンジー:「どうしてそんなにも冷静なのだ。」 マオ:「それは……なんだろう。現実味ないって言うか、よく解ってないっていうか。」 ベンジー:「死ぬかも知れないのだぞ。」 マオ:「それは嫌ですが、人間死ぬ時は死ぬんで。」 ハオン:「よく飼い慣らされた公僕は、感情まで骨抜きにされるんだな。」 マオ:「元々こういう人間なんです、自分は。」 ハオン:「ケっ、すかしやがって。」 オルガ:「そろそろ到着する。皆、心しておけ。」 ミランダ:「オルガ姉さん、運転荒い!気持ち悪くなってきたぁ…」 0: 0:(SE)湯畑から立ち上る湯気と硫黄の香りが鼻をつく温泉街の中心部。既に規制線が張られていて住人や旅行客は退去している。 0: ハオン:「……へっクション!うー、風邪引いちまうよ。」 ミランダ:「みんな見てー、綺麗な湯畑!雪も積もってるー!あげポヨ~」 キサラギ:「片田舎の温泉地だからね。この硫黄の香り、懐かしいなぁ。昔は旅行でここによく……あ痛ぁっ!冷たぁっ!ミランダくん、やめてくれないか!」 ミランダ:「えへへー、雪合戦だー!」 ハオン:「ケっ、ガキかよ。」 マオ:「……緊張感ゼロじゃないっすか、みんな。」 オルガ:「気を紛らわしているのさ。新しく君が来たって事は……わかるよな?前回の作戦からは日が浅い。みな気丈に振る舞っているが、心中穏やかではないはずだ。」 マオ:「そうですか。……オルガ主任、地元のカウルーンセキュリティが規制線を張っているようですが、住民の避難はもう終わってるんですか?」 オルガ:「ああ、『不発弾が発見された』って事にしてある。事実は伝えられないから体の良い嘘を吐くしかない。」 マオ:「なるほど。ところで、肝心の『デュースター』は何処に……。」 ベンジー:「来るぞ。」 マオ:「え?」 オルガ:「総員、臨戦態勢に入れ!」 キサラギ:「了解ですよ!はぁい、イリュ~ジョ~ン!」 ミランダ:「よーし、今日もたくさん奏でちゃうよー!」 ハオン:「来いこの野郎!まとめて切り刻んでやる!」 0:(SE)各々が『ドミニオン』を発現させる。前衛でハオン、キサラギ、ミランダが戦い、その後方をマオとベンジー、そしてオルガがナビゲーションを行う。 マオ:「みんな一斉にドミニオンを……やっぱすげぇ光景っすね。」 オルガ:「三人とも、前衛は任せたぞ。レーダーが感知したのは五十体弱だ。油断するな。」 マオ:「オルガ主任も戦うんですか?」 オルガ:「いいや、私は戦力外だ。だが後方からインカムにて戦況をサポートすることは出来る。私の指示を信じろ。」 ベンジー:「何をボサッとしているのだ。行くぞ。」 マオ:「あ、はい。わかりました。」 オルガ:「ベンジー、マオを任せたぞ。」 ベンジー:「……うん。」 0: 0:先行してデュースターを殲滅して行く前衛の三人。インカムにて指示を送るオルガ。 キサラギ:「聞いて驚け、見て笑え!『WannaFlash(ワナフラッシュ)』!」 0:(SE)マジックグローブと化したキサラギのドミニオン。二本指が指す方に炎が放たれ消し炭になるデュースター。 ハオン:「今日もよく燃えてるな、オッサン!」 オルガ:「ハオン、後ろから来るぞ!」 ハオン:「わかってるよ!細切れにしてやらぁ!『干将莫耶(ギャンジャンモーイェ)』!」 0:(SE)双剣と化したハオンのドミニオン。刀身に絡み付いた細かい鎖が駆動し、デュースターを切り刻む。 オルガ:「流石だハオン。……おいミランダ、出すぎだ!自重しろ!」 ミランダ:「大丈夫!わたしー、良いこと思い付いたんだ!」 キサラギ:「ミランダくんは私がカバーしよう!」 ミランダ:「ありがとう、キサラギー!」 ハオン:「ケっ、いい格好つけてんじゃねぇよオッサン。」 オルガ:「バカ!囲まれるぞ、お前ら!」 ミランダ:「そろそろかなぁ……いくよ、キサラギ!響け旋律、『D-282(ディーツーエイティーツー)』!」 キサラギ:「はいよ!舞えや踊れや、『SPIT FIRE(スピットファイヤー)』!」 0:(SE)ショルダーキーボードと化したミランダのドミニオンから張り巡らせたピアノ線をキサラギが放つ業火が伝ってゆき、デュースターを焼き払うる。 オルガ:「ピアノの弦で複数のデュースターを絡め上げ、キサラギの炎で一網打尽に……やるじゃないか。」 ハオン:「おいおい、コンビ技なんてあったのかよ。」 ミランダ:「さっき考えたんだ!ね、キサラギ!」 キサラギ:「中々いい作戦だったよ、ミランダくん!」 オルガ:「しかし、無茶はするな。以後、私の指示には忠実に従え。いいな、ミランダ。」 ミランダ:「はーい。……オルガ姉さん、もっと褒めてくれると思ったのにー。下げポヨー。」 0:(SE)マオの発砲音。後方、着実にデュースターを狩って行くマオとベンジー マオ:「なかなかしぶといなぁ。一撃じゃ倒せないんですけど。」 ベンジー:「核を狙え。」 マオ:「それしか教えてくれないんすね。」 ベンジー:「後は経験だ。」 マオ:「教え下手っすねぇ……。ねぇ、ベンジーさん。」 ベンジー:「なんだ。」 マオ:「デュースターってなんなんすか。このベチョベチョして気持ち悪い物体。」 ベンジー:「生物兵器。突然変異体。負の遺産。人類の汚点……」 マオ:「待ってまって、その言葉の羅列なんか怖い。」 ベンジー:「っ!伏せろ。」 マオ:「え、うわぁ!」 ベンジー:「フンッ!」 0:(SE)マオの後ろに迫ったデュースターめがけ短剣を投げるベンジー。 マオ:「あっぶねぇ……」 ベンジー:「集中しろ。死ぬぞ。」 マオ:「はい、すみません。……ベンジーさんのドミニオン、かっこ良いっすね。その宙に浮いてる神々しい短剣、綺麗っす。」 ベンジー:「……それほどでも。」 マオ:「なんて言うんですか?」 ベンジー:「……『ミセリコルデ』。」 マオ:「へー、ミセリコ……ルデ……うーん。なんか覚えヅラいし、言いヅラいっすね。」 ベンジー:「んなっ…!うるさいぞ、この馬鹿者!」 マオ:「いや、率直な感想なので気にしないで下さい。」 ベンジー:「なんなんだお前!褒めてくれると思ったら、名前にダメ出ししおって!失礼だぞ!」 マオ:「そんなに気に入ってた名前なんすね。なんかごめんなさい。」 ベンジー:「なんかってなんだ!!心から謝れ!」 マオ:「あ、後ろ!『ピースメーカー』!」 ベンジー:「っ!」 0:(SE)リボルバーと化したドミニオンで三体のデュースターを殲滅するマオ。 マオ:「……ふぅ、やっと一撃で仕留められた。」 ベンジー:「三体のデュースターを、一瞬で……」 マオ:「やってみたかったんすよ、ガンマンみたく腰撃ちで。ファニングショットってやつっす。カッコいいっすよね?コイツ、シングルアクションアーミーって言ってね、もう現存してない……」 ベンジー:「ウザい、調子に乗るな。」 マオ:「あ、すみません。レトロガン好きなんすよね、俺。」 ベンジー:「知るか、そんなこと。……だが、悪くない。」 0: 0:(SE)しばらくして前衛と合流するベンジーとマオ。 キサラギ:「おや、ようやく来たね。」 ベンジー:「すまない。新人の教育に手こずっていた。」 マオ:「あれ、なんか教えてくれましたっけ?」 ベンジー:「ぐぬぬ、口が減らんなぁ貴様……!」 ミランダ:「あれぇ、もうそんなに仲良くなったんだ二人とも!ヒューヒュー!」 ベンジー:「そんなことは断じて、ない!」 マオ:「はい、普通っすよ。普通。」 ベンジー:「なんだ普通って!曖昧な返事をするな!腹が立つ!」 キサラギ:「ハッハッハッ、いいねいいねぇ。」 ハオン:「ケっ、騒がしい奴らだ。」 オルガ:「今回は大健闘だった。礼を言うぞ。これで殲滅は完了し……いや待て、待機だ。なにか来る。」 0:(SE)道の先、暗がりからゆっくり近付いてくる人影。 マオ:「あれ?人影が近付いてきますよ。確か住人は全員避難しているはずですが。……いいや、人間じゃないっぽいすね。」 ベンジー:「デュースターに全身を覆われた、黒く仄暗い人間の成の果て……。」 ハオン:「あののっぺらぼうは……おいおい、嘘だろ!」 キサラギ:「いやぁ、これはツイてないね……。」 オルガ:「ミランダ、ピアノの弦を張り巡らせろ!先手を打つんだ!」 ミランダ:「うん、任せて!『AmadeusSyndrome(アマデウスシンドローム)』!」 0:(SE)ミランダはショルダーキーボードを地面に突き刺し、そこから伸びるピアノ線が地面や壁に根を張るように巡ってゆく。 オルガ:「キサラギ、ハオン!なるべく時間を稼いでくれ!」 ハオン:「……それ、死を覚悟しろってことだよな?」 キサラギ:「大丈夫だハオンくん。自分を、みんなを信じるんだ。」 ハオン:「ケっ、後輩の癖に……。行くぞ、オッサン!」 キサラギ:「はいよ!亀の甲より年の功、みせてくれる!」 オルガ:「ベンジーはミセリコルデの複製に集中しろ。マオは後方から支援だ。」 マオ:「ちょっと、みんな急にどうしたんすか?」 オルガ:「あれはデュースターが人間の身体に寄生した状態、『スキズム』だ。人間の身体を利用し、細胞分裂のサイクルを爆発的に飛躍させ、桁外れの身体能力を得る。それでいて奴らは……」 ベンジー:「まずい、オルガ!」 オルガ:「増殖を繰り返す……!」 ハオン:「分裂させるかよ、この野郎!『方天畫戟(ファンティエンファージィ)』!」 0:(SE)双剣から戟に変わるドミニオン。分裂するスキズムに攻撃を加えるハオン。 キサラギ:「やったか!」 オルガ:「いいや、間に合わなかった!これ以上奴を増やしてはいけない!ここで仕留めるぞ!」 0:ハオンの仕留め損ねた片割れがミランダを標的にする キサラギ:「ミランダくん、片割れのスキズムがそっちに向かってる!」 ミランダ:「待って無理、避けきれない……」 マオ:「『チャーリーキラー』!」 0:(SE)マオの放った弾がスキズムに着弾し爆発する。 ミランダ:「キャッ!な、なに、いまの爆発!」 マオ:「擲弾筒です。間に合ってよかった。」 オルガ:「油断するな!まだ削りきれていない!」 0:(SE)もう一方のスキズムに突き返されるハオン。 ハオン:「ぐわっ!」 キサラギ:「ハオンくん、大丈夫か!」 ハオン:「ケっ、全く歯が立たねぇよ。こんなのが二体もいるなんて、絶望的だぜ。」 キサラギ:「いやぁ、こりゃまいったねぇ……。」 ベンジー:「二人とも下がって。」 ハオン:「ベンジー……やれんのか。」 ベンジー:「当たり前だ。ミランダの方を頼む。」 ハオン:「ああ、わかった。行くぞオッサン!」 キサラギ:「そうだね。いくらスキズムでも、あの数のミセリコルデに突き刺されたら、ひとたまりもないだろね。」 0:(SE)退く二人。ベンジーがドミニオンで創造したミセリコルデは千本。宙を浮遊している。 ベンジー:「千の慈悲によって、浄化したまえ。『ミセリコルデ』。」 0:(SE)浮遊していたミセリコルデの切っ先は一斉にスキズムへ向き、放たれる。 ベンジー:「光と共に、無に帰する。」 0:(SE)千本のミセリコルデが突き刺さったスキズムは発光し、破裂する。辺りを光の粒が包み、スキズムは跡形もなく消え去る。 オルガ:「よくやったベンジー。引き続き、みなの支援を頼んだぞ。」 ベンジー:「……うん。」 0:(SE)ハオンとキサラギが近接でスキズムと戦闘。ミランダの準備が整う。 キサラギ:「ぐわっ!……いくら燃やしてもすぐに再生してしまう!」 マオ:「被弾しまくってるのに、治癒能力が上回って屁でもないって感じだ。それに核がどこにも見当たらない……アイツ、ヤバイな。」 ハオン:「おい、ミランダ!まだかよ!」 ミランダ:「……お待たせ、もう行ける!」 ハオン:「じゃあ斬り上げっから、お前のドミニオンで縛り上げろ!喰らえ、『方天畫戟(ファンティエンファージィ)』!!」 0:(SE)ハオンの斬り上げで宙に浮くスキズム ミランダ:「これがアナタに送るレクイエム、『VARIO DUET(ヴァリオデュエット)』!キサラギ、燃やしつくしちゃえ!」 0:(SE)スキズムの身体を通りに張り巡らした無数のピアノ線が縛り上げ、身動きが取れないまま吊るされる。 キサラギ:「よっしゃ!クライマックスに最高のエンターテイメントを!『Feuer frei(ファイヤーフライ)!』」 0:(SE)キサラギの両手から業火を放ちスキズムを焼き尽くす。 マオ:「……どうやら決着はついたみたいですね。」 オルガ:「まだだ。銃を構えろ、マオ。」 マオ:「そうなんすか?わかりました……ん、なんか頭が真っ二つになってきましたよ。」 オルガ:「中に球体のような物が見えるだろ。それが奴の『核』だ。絶対に逃がすな、確実に仕留めろ。」 マオ:「了解。……一撃必中。頼むぜ、『YELLOW BOY(イエローボーイ)。』」 0:(SE)マオの放つ弾丸が核に命中。スキズムは形を失い粉々に崩れ去る。 ミランダ:「やった……やったー!倒したー!」 キサラギ:「ふぅ、一時はどうなるかと思ったよ……」 ハオン:「ケっ、少しは役に立ったようだな。公僕野郎。」 オルガ:「皆よくやってくれた。改めて礼を言わせてくれ。」 ミランダ:「ノンノン、お礼だなんて堅いこと抜きだよ。オルガ姉さんがいたからこそ、作戦は成功したんだから。ねぇみんな?」 ハオン:「アンタが主任じゃなかったら俺なんて、何回死んでたかわからねぇぜ。」 キサラギ:「そうそう、我々は六人合わせて『メタファイヴ』なんだからね!」 オルガ:「なんだお前ら……嬉しいこと言ってくれるじゃないか。仕方ないな、新人の歓迎会と作戦成功の打ち上げを兼ねて飲みにでも行こうか!勿論割り勘でなぁ!」 マオ:「……本当は仲良かったんすね、みんな。」 ベンジー:「当たり前だ。身命を賭して戦っている仲間なのだから。」 マオ:「……ベンジーさんって、みんなと一線引いてますよね。」 ベンジー:「……どういう意味だ。」 マオ:「なんとなくです。それにベンジーさん、なんか一番悲しそうだし。しかもずっと。会った時からずっと。」 ベンジー:「お前に何がわかる。」 マオ:「なにも解りませんよ。ただ『メタファイヴ』歴がダントツで長いって聞いたから。それだけです。」 ベンジー:「……。」 マオ:「もっとみんなに甘えて良いんじゃないっすか?独りでいるより、みんなと仲良くした方が気が楽でしょ。まぁ新参者の意見なんで。気にしないでもらっていいんすけど。」 ベンジー:「……うるさいな、お前は。」 0: 0: 0:(SE)数日後の夜。居酒屋、ベンジーを除いた四人が卓を囲んでいる。遅れてマオがやってくる。 マオ:(M)やべー、仕事で遅れちまったなぁ。まぁ飲み会で一時間の遅刻は普段の5分遅れぐらいのレベルだし、大丈夫大丈夫……。 0:(SE)戸を開け合流するマオ オルガ:「おおおおおおおい!遅いぞコノヤロー!お前新人なんだからなぁ!」 マオ:「大丈夫じゃなかった……。」 ミランダ:「オルガ姉さん、ちょっとはだけすぎ!それもうセクハラだからね!ほらマオくん超ドン引きしてるよー!マジウケるー!」 キサラギ:「まあまあ、主役は遅れてやって来るっていうじゃない。マオくん、こっち空いてるから座って。」 マオ:「ああ、ありがとうございます。よいしょっと……あれ、ハオンさんとベンジーさんは?」 キサラギ:「ハオンくんならそこで潰れちゃってるよ。」 ハオン:「むにゃ……小籠包が溶けるよ~……」 マオ:「……なんか変な夢見てますね。」 キサラギ:「彼、お酒弱いみたいで。女子二人に煽られてこの有り様なんだ。」 マオ:「女子って……そんな歳じゃないでしょ、あの二人。」 オルガ:「ん?なんか聞こえたぞ。殺すか、殺そうかアイツ。」 ミランダ:「待って姉さん!私に任せて、私が殺す!」 キサラギ:「か、彼なりの冗談だから!というか空耳!気のせい気のせい!落ち着いて!」 オルガ:「はぁ?まあいいけどー。てかさー、ハオンって威勢だけは良いんだけどさー、お酒はからっきし駄目なんだよなー!」 ミランダ:「本当そう!情けないよねー!あれで二児のパパだなんて信じらんない!」 マオ:「え、ハオンさん所帯持ちなんすか?」 ハオン:「そうだ。なんか文句あるか?」 マオ:「うわっ!急に起きないで下さいよ。」 ハオン:「おお、なんだ公僕野郎か。初任務お疲れ様。おやすみ。」 マオ:「寝るの早っ。」 キサラギ:「賑やかでいいねぇ、ハッハッハッ。」 マオ:「キサラギさん、全然酔ってないですね。」 キサラギ:「あー、まあ歳も歳だからね。医者に止められてるんだ。少しぐらいなら大丈夫なんだけど、カミさんがうるさくてね。」 マオ:「へー、キサラギさんも大変そうすね。」 ミランダ:「二人はいいねー幸せな家庭築けてさー!私たちを貰ってくれる男なんているのかなー!ねーオルガ姉さん!」 オルガ:「ミランダ……アンタ彼氏いるだろ。一緒にするな、この裏切り者め!」 ミランダ:「そんなこと言わないでよー!そうだ、聞いてよ姉さん!この間のデートが最悪でさー……」 マオ:「かなり出来上がってますね、あの二人。これじゃあ酔いたくても酔えませんね。それでキサラギさん、ベンジーさんは?」 キサラギ:「あの子ね……。なんだかね、こういう場所はあんまり好きじゃないみたいでさ。いつも参加しないんだ。」 マオ:「あー……そうですか。」 キサラギ:「どうかしたのかい?」 マオ:「昨日、ちょっと余計なこと言っちゃって、気にしてるのかなって。まあ思ったこと言っただけなんですけど。」 キサラギ:「そうなの?でもきっと、それとは関係無しに来てないと思うな。」 マオ:「そうっすか。」 ハオン:「静粛に!」 マオ:「うわっ、また起きた。」 ハオン:「みんなが揃ったところで……ダニーを弔いたい。いいよな、みんな。」 ミランダ:「やだ、このタイミングで?」 キサラギ:「うん、勿論だとも。」 ミランダ:「キサラギ……でも、そうだよね。」 マオ:「ダニー?ひょっとして……」 オルガ:「お前の前任だ。ダニーも銃火器の使い手だった。仲間思いの良い奴でな。死と隣り合わせの作戦の中で、各々が慣れ親しむ事を避けていた。だがアイツは皆と積極的にコミュニケーションを取り、チームワークを保ってくれた。大した男だったよ。」 ミランダ:「ダニーが居なかったら、みんなとこんなに仲良くなれなかったよ。何度も助けられたしね。」 キサラギ:「そうだとも。今の我々がこうしていられるのも、ダニーくんのお陰だよ。そうそう、最初にマオくんに話しかけたのも彼を思い出しての事だった。私も彼には沢山の事を教えてもらったからね。」 ハオン:「本当に惜しい奴を失った。俺があんなヘマなんてしなければ、今頃……」 オルガ:「ハオン、その辺にしておけ。過去を振り返るな。現実と向き合え。」 ハオン:「……ケっ、染みっ垂れてちゃあアイツも浮かばれねえよな!もう欠員なんか出せねぇ。このメンバーで、終わらせてやる!おい、公僕野郎!コップを持って。酌してやるから。」 マオ:「あ、はい。こうですか?」 0:(SE)酌をするハオン ハオン:「……これでお前も盃を交わした仲間になる。」 マオ:「なるほど……。」 ハオン:「よし、じゃあ新しく入った公僕野郎……ゴホン、えー、マオに。そして、俺達の最高の仲間である、ダニーに。」 キサラギ:「ダニーくん、安らかにな。」 ミランダ:「元気でね、ダニー。」 オルガ:「ダニーに、乾杯。」 マオ:「……お疲れ様、ダニー。」 0: 0:(SE)居酒屋を後にした一行 0: オルガ:「あー飲み足りない!もう一件いくぞ!」 ミランダ:「カラオケ!カラオケ!」 キサラギ:「んじゃあ、私はこれで……」 オルガ:「キサラギー、頼むよぉ!もう一件だけ!ねぇ?お願いお願いお願ーい!」 キサラギ:「いやはや、カミさんに叱られてしまうよぅ……」 ハオン:「俺は充分寝たから元気だぞ!」 ミランダ:「アンタこそ奥さんに叱られそうなんだけど、、大丈夫なの?」 ハオン:「大丈夫だ!今日は遅くなるってちゃんと……ってヤバっ!鬼電きてる!」 ミランダ:「なにそれめっちゃウケるんですけどー!」 オルガ:「あと一件だけだから、みんな!付き合って……うっぷ、ヤバイ。吐きそう。」 ミランダ:「きゃー!姉さん!ちょっと、マオちゃん!水、水を買ってきて!」 マオ:「あ、はーい。」 0: 0:(SE)物陰から一行を覗き込むベンジー。 0: ベンジー:「……。」 0:(SE)近づいてくるマオ マオ:「何やってんすか、こんなところで。」 ベンジー:「フヒャアッ!……え、なんで後ろから。」 マオ:「水を買いに行ったら道に迷っちゃって、うろうろしてたら見付けてしまいました。なんかすみません。」 ベンジー:「いや……別に……」 マオ:「二次会あるみたいっすよ。一緒に行きましょうよ。」 ベンジー:「……。」 0:少しの沈黙が流れる マオ:「……ベンジーさん。」 ベンジー:「……なんだ。」 マオ:「ちょっと待ってて下さいよ。ここで。」 ベンジー:「……え?」 0: 0:(SE)少し見晴らしの良い公園。ベンチに腰かけるマオ。 0: マオ:「よいしょっと。ここなら人気が無くて丁度いいっしょ。」 ベンジー:「……なにも私の為に、二次会を断らんでも。」 マオ:「別にいいんですよ。……座らないんすか?冷たくて気持ちいいっすよ、ベンチ。」 ベンジー:「言われなくても……つ、冷たっ!」 マオ:「いや、大袈裟すぎますって。少し座れば慣れますよ。」 ベンジー:「ああ、確かに……これはこれで、悪くない。」 0:(SE)ビールを渡すマオ マオ:「はい、ビール。」 ベンジー:「え、ビールか。あんまり好きじゃないのだ。」 マオ:「俺も最初は苦手でしたよ。でも、こうやって…(飲酒音)ぷはー。ほら、美味しい。」 ベンジー:「ほらって……そうなのか?」 マオ:「真似してみて下さいよ。味合わないで、喉に流し込むイメージです。」 0:(SE)ビールをあけるベンジー ベンジー:「こ、こうか?…(飲酒音)ぷはー。これは確かに、うん。悪くないな。」 マオ:「……飲み会、参加したことないんすね。」 ベンジー:「まぁ……な。それよりお前、飲み会の後なのにまだ飲むのか。」 マオ:「だって、着いた頃にはオルガ主任とミランダさんが出来上がってたから。気を遣ってると酔えなくなる、あのやつですよ。」 ベンジー:「あの二人なら、さもありなんだな。」 マオ:「だから多分、一杯しか飲んでなかったすよ。献盃の一杯だけ。」 ベンジー:「献盃って……」 マオ:「そう、ダニーさん。色々聞きましたよ。」 ベンジー:「……ダニーは、私と同期だった。」 マオ:「そうだったんすね。」 ベンジー:「アイツは優しすぎるのだ。私とは正反対の奴だった。メタファイヴに入り立ての当時、まだ辞めきれてなかったのだ。その……」 マオ:「わかりますよ、言わなくても。」 ベンジー:「……なんというか、いわゆる禁断症状が酷くてな。他のメンバーにも迷惑をかけていた。そんな私をダニーは面倒がらずに助けてくれたのだ。……悪い、煙草吸っても平気か?」 マオ:「ああ、全然いいっすよ。」 0:(SE)煙草に火をつけるベンジー ベンジー:「(喫煙)……ふぅー。今はこれに依存しているがな。」 マオ:「でも立ち直ったんすね。すごいっすよ。」 ベンジー:「それもダニーが居たからだ。だが、そのダニーはもう……」 0:思い詰めながらも、思いを打ち明けるベンジー ベンジー:「欠員が出ればまた新しい者が入ってくる。そして、また欠員が出る。作戦に参加してすぐ死んだ新人もいた。慣れ親しめばその分、後が辛くなる。ならばいっそのこと距離を置いていた方がいいのだと、そう思うようになったのだ。」 マオ:「……。」 ベンジー:「もう嫌なのだ。誰も居なくならないで欲しい……ただそれだけなのだ。」 マオ:「……ベンジーさん。煙草、貰ってもいいっすか?」 ベンジー:「……お前、吸えるのか?」 マオ:「前は吸ってたんですけどね。なんか、今でもたまに吸いたくなるんすよ。」 ベンジー:「私の煙草は……キツいぞ?」 マオ:「そのぐらいが丁度いいんで。」 0:(SE)煙草を貰うマオ。 マオ:「……あれ、ライター壊れてますね。これ。」 ベンジー:「え、さっきまで使えてたのだが……。」 マオ:「ちょっといいっすか?」 ベンジー:「え、なにがだ?」 マオ:「火種。」 ベンジー:「……煙草のか?」 マオ:「そうです。咥えて、こっち向けて。目、瞑って。」 ベンジー:「あ…うん。」 マオ:「ゆっくり吸って……。」 0:ベンジーの咥えた煙草の火種にマオの煙草の先が当たる。淡く光る熱ががゆっくりとマオ煙草に移ってゆく。 ベンジー:「……。」 マオ:「(喫煙)……ふぅー。やっぱおいしいっすね、煙草。」 ベンジー:「……いつまで瞑っていればいいのだ。」 マオ:「え?ああ、もういいですよ。」 ベンジー:「お、終わったのなら早く言え!全くなんなんだ……」 マオ:「俺、死ぬ時は死ぬって思ってますけど、死ぬつもりは一切ないんで。」 ベンジー:「マオ……。」 マオ:「だから、一緒にみんなで頑張りましょ。」 ベンジー:「……ああ、そうだな。」 0: 0:(SE)数日後、新たな作戦に向かう一行。 0: ハオン:「……クソっ、また負けちまった!」 ミランダ:「うるさいなー。ゲームばっかりやって、本当に二児のパパには思えないんだけど。」 ハオン:「いいじゃねぇかゲームくらい。家では立派なパパやってんだぞ。証拠にほら、我が家の幸せをお裾分けしてやるよ。」 0:自慢げに子供の写真を見せるハオン。 ミランダ:「……いや~なにこの写真!かわいいー!いくつなの?」 ハオン:「この子が四歳で、こっちの娘が二歳。どうだ~かわいいだろー?」 ミランダ:「へー、羨ましいなぁ。私も今の彼氏と結婚しちゃおうかなー。なんだかんだで大切にしてくれるしー。」 ハオン:「結婚は勢いだぜ?式上げるんなら呼んでくれよなぁ!」 ミランダ:「えー、絶対家族で来てねー?悪いお友達連れてきたらダメだよ?こう見えても私、名の通ったピアニストなんだから、反社との繋がりはNGなの。」 ハオン:「急に冷めること言うなよぉ。」 キサラギ:「ハッハッハッ、じゃあ私も夫婦でお邪魔しようかなー!」 ミランダ:「いいねいいねぇ!みんなで来てくれたら泣いて喜んじゃうかも。」 オルガ:「水を差すようで悪いが、今回の作戦は一筋縄では行かないんだ。集中してほしい。」 ミランダ:「はーい、ごめんなさーい。」 ハオン:「ケっ、シラけるぜ。」 キサラギ:「まあまあ。この作戦さえ乗り切れば、しばらくは安心出来るんだから。頑張ろうよ。」 ハオン:「はぁ、気乗りしねぇぜ。よりによって、あの場所に行くなんてよ。」 マオ:「あの場所ってのは?」 ベンジー:「ダニーが死んだ場所……正確には『喰われた』のだ、大型のスキズムに。」 マオ:「喰われた……前回の分裂したスキズムもミランダさんを食べようとしてましたね。」 ベンジー:「奴等の進化はいまなお続いているのだ。デュースターは本能で人間に寄生し、スキズムと化して人間を捕食する。デュースターは半液状なのに対し、スキズムは人体の細胞を利用する為、例え触れたとしても感染のリスクは限りなく低い。だがあの自然治癒能力、身体能力の高さを見ただろ。大型のスキズムはそれ以上なのだ。唯一の救いは、知性がない事だけ。」 マオ:「知性がない、ですか。」 オルガ:「今回の作戦は前々回と同じ北西に位置するフォーチュンタワー周辺の地域だ。その時に取り逃がした大型のスキズムが力を蓄えながら潜んでいる。いよいよ野放しには出来ない。日が暮れる前に決着をつける。奴等を叩けばカウルーン州全体からデュースター、及びスキズムを一時的に殲滅したこととなる。しばらくは安泰だろう。……もうそろそろで到着だ。みな、心しておけ。」 0: 0:(SE)日暮れ前、到着した一行。そこは旧市街地、戦禍の爪痕が残っている。 0: マオ:「……まだ瓦礫だらけなんだ、この町。いつ復興するんすかね。」 オルガ:「オーウェン州知事の政治決断でセントラルエリアとその周辺のインフラ整備が最優先されたからな、まだまだ先の事だろう。戦時中、この辺りは激戦区だったようだ。今は見ての通りゴーストタウンさ。」 マオ:「確かに。人っ子一人居ないし、なんの音もしない……。」 ハオン:「ホントにやれんのか……俺達で。」 キサラギ:「大丈夫だよ。みんなで力を合わせてダニーの仇を打とう!」 ハオン:「……そうだな。」 ベンジー:「オルガ……。」 オルガ:「ベンジー、どうした。」 ベンジー:「おかしい。あまりにも静かすぎる。」 オルガ:「確かに、レーダーの反応も……なんだ、機械の調子が……」 0:(SE)突然、風に吹かれて銀色の紙吹雪が空から舞い落ちてくる。 ミランダ:「あれ?なにこのキラキラした紙……なんかキレイー!」 ハオン:「ケッ、鬱陶しい。風で飛ばされてきたゴミかなんかだろ。」 キサラギ:「みんな、スキズムだ!向かって来る!」 0:(SE)通りの向こうから3メートル近くもある大型スキズムが向かってくる。 ハオン:「なんだアイツ、前よりでかくなってるじゃねぇか!」 オルガ:「総員、臨戦態勢だ!手筈通り行え!」 ミランダ:「仕掛けは私に任せて!『AmadeusSyndrome(アマデウスシンドローム)』!」 0:(SE)ミランダのドミニオンが張り巡ってゆく ハオン:「オッサン、足引っ張んなよ!」 キサラギ:「ハオンくんこそ!」 オルガ:「ベンジーはミセリコルデを。マオは周辺の警戒を怠るな。」 マオ:「了解です。でも、デュースターが出てくる気配がないっすよ。レーダーだとどんな感じっすか?」 オルガ:「それが、全く使い物にならん。」 マオ:「どうしてっすか?……いや待って下さい。この銀紙……オルガ主任、これ恐らく『電波欺瞞紙』です。レーダーが妨害されてるんだとしたら、これが原因かもしれません。」 オルガ:「なんだと?」 0:(SE)走って向かって来るスキズム。 ハオン:「かかってこい!『方天畫戟(ファンティエンファージィ)』!」 0:(SE)走った勢いのまま地面を蹴り、ハオンやキサラギを軽々と飛び越える。 ハオン:「……んな!?ジャンプしやがった!」 キサラギ:「我々を飛び越えた……!ミランダくん、危ない!そっちに向かっている!」 ハオン:「いや違う!奴の狙いは……」 ミランダ:「オルガ、逃げて!」 オルガ:「なぜ、真っ先に私を……」 マオ:「『ウッドペッカー』!」 0:(SE)咄嗟にスキズムの前に立ちはだかり重機関銃を形成、応戦するマオ。 キサラギ:「なんて事だ、マオくんの機関銃をもってしても全く怯まないなんて!」 マオ:「マジかよアイツ……ぐぁっ!」 0:(SE)一振りで押し退けられるマオ。オルガに飛びかかるスキズム。 ミランダ:「マオちゃん!」 ハオン:「あの野郎、オルガに飛びかかりやがった!」 オルガ:「攻撃対象を選んでいる……!」 ベンジー:「『ミセリコルデ』!」 0:(SE)未完成のミセリコルデをスキズムにぶつけるベンジー。若干怯むも、傷は修復される。 ハオン:「倒したか!」 キサラギ:「いいや、怯んだだけだ!ベンジーくんのミセリコルデはまだ未完成だった!」 ミランダ:「アイツ、ミセリコルデの傷が……もう治ってる。」 0:ターゲットをベンジーに変えたスキズム。 オルガ:「まずい、ベンジー!逃げろ!」 ベンジー:「キャアッ!」 0:(SE)弾き飛ばされるベンジー。気を失う。 ハオン:「ベンジー!クッソ、あの野郎!」 キサラギ:「アイツ、ベンジーくんを食べる気だ……!」 オルガ:「ミランダ!やれるか!」 ミランダ:「ええ、間に合った!お前の好きにはさせない!『VARIO DUET(ヴァリオデュエット)』!」 0:(SE)無数のピアノ線がスキズムに絡みつき動きを拘束する。 キサラギ:「観念しなさい!『Feuer frei(ファイヤーフライ)』!」 0:(SE)キサラギの業火がピアノ線を伝いスキズムを燃やし尽くす。 オルガ:「ハオン、頭部に亀裂が入った!」 ハオン:「ああ……これで、ダニーの仇を!」 0:(SE)スキズムののっぺらぼうな顔がダニーの顔に変化する。手を止めるハオン。 オルガ:「……おい、どうした。早くとどめを刺せ、ハオン!」 ハオン:「なぁ……なんでダニーの顔をしてるんだ、コイツ。」 オルガ:「なにを言って……。」 ハオン:「ごめんな、ダニー。お前は俺の事をかばった所為で、こいつに喰われちまったんだよな。俺が死んでればよかったのに……」 オルガ:「スキズムと会話してるだと……。」 ハオン:「だが、お前はもう元には戻れない……ありがとう。そして、さよならだ、ダニー!」 オルガ:「レーダーの妨害、攻撃対象の選択、人間とのコミュニケーション……奴らに知性が芽生え始めているとしたら、これは!」 ハオン:「……どうして笑ってるんだ、ダニー。」 オルガ:「これは罠だ!皆、逃げろ!撤退だ!」 0:(SE)スキズムが唸り声をあげた瞬間、壁や地面に擬態していたデュースターが一斉に姿を表した。前衛のキサラギ、ハオン、ミランダを囲っていた キサラギ:「な、なんだ!この夥しい数のデュースターは!すでに囲まれて……ぐはぁっ!」 オルガ:「キサラギ、どうした!」 ハオン:「オッサン!……おえっ!う、嘘だろ……口から……。」 キサラギ:「口からデュースターが……いつの間にか、身体の中に……」 ミランダ:「ゲホっゲホ……まさか、デュースターが擬態していたなんて……。」 オルガ:「前衛が擬態したデュースターに囲まれていただと!?これは……騙し討ちだったのか……全部、仕組まれていて……」 マオ:「『シカゴタイプライター』!」 0:(SE)動けるようになったマオがデュースターを蹴散らそうとする。 オルガ:「なんということだ……。」 マオ:「オルガ主任!ベンジーさんを運んで下さい!俺がみんなを助けます!」 オルガ:「ダメだ……もう助からない……」 マオ:「いいから!早くベンジーさんと逃げて!」 オルガ:「ハオン、キサラギ、ミランダ……すまない!」 0:(SE)ベンジーを担いでトラックへ向かうオルガ。 マオ:「『チャーリーキラー』!」 0:(SE)擲弾の爆発でデュースターをなぎ払って進む。しかしデュースターは無尽蔵に増え続ける。 ハオン:「マオ!止まれ!お前まで死ぬぞ!」 マオ:「嫌です!」 キサラギ:「マオくん、我々はもう助からないんだ!」 マオ:「嫌です!」 ミランダ:「マオちゃん、駄目だってこっち来ちゃあ!」 マオ:「嫌です!一緒に帰りますよ!」 ハオン:「……ケっ、呆れた奴だぜ。」 キサラギ:「意外と熱い男だったんだね、マオくんは……。」 ミランダ:「めっちゃいい男じゃん……私、マオちゃんと付き合ってみたかったな……。」 マオ:「なに呑気な事言ってるんですか!諦めないで下さい!」 ハオン:「……ほら、受け取れ。」 0:(SE)マオの足元にドミニオンを投げる三人 マオ:「これは……『ドミニオン』。」 ハオン:「それ持って逃げろ。コイツの相手はお前一人じゃ無理だ……ゲホっ。」 ミランダ:「早くしないと…ゲホっゲホ…」 キサラギ:「スキズムが暴れだす前に…ゲホっ…行きなさい。」 0:(SE)三人分のドミニオンを拾い上げるマオ。トラックが近付いてくる。 オルガ:「マオ!撤退するぞ!」 マオ:「……。」 キサラギ:「はぁ、はぁ、お迎えが来たな……マオくん。あぁ、カミさんに、よろしく言っといて、くれ……」 ミランダ:「ゲホ……ズルいよ、キサラギ。私も…彼氏に、他の女探せって、言っといて……あと、大好きだった、て……」 ハオン:「俺も…家族に……伝えてくれ……愛してる……てな……」 マオ:「……マジ…かよ。」 キサラギ:「マオくん……死なないでな……」 ミランダ:「頑張ってね……マオちゃん……」 マオ:「……。」 ハオン:「さっさと行け!マオっ!」 マオ:「……っ!」 0:(SE)背を向け走り去るマオ。そのままトラックに乗り込んで行く。 0: ハオン:「……ケっ。死ぬとこなんて、見せれるわけねぇだろ。」 0: 0:(SE)一人ずつ、スキズムに喰われてゆく。 0: 0:(SE)作戦失敗。帰路に就く三人。トラックを運転するオルガ。助手席にマオ、バックシートにベンジーが横になっている。 0: マオ:「……すみません。」 オルガ:「……謝るな。」 マオ:「でも、みんなを助けられずに……見捨ててしまった。」 オルガ:「皆、覚悟は出来ていた。ハオンも、キサラギも、ミランダも……過去を振り返るな。現実と向き合え……現実と……」 0:(SE)車を停めるオルガ。 オルガ:「……いいや、向き合っていないのは私の方だ。詰めの甘い作戦を立てた私の責任だ。私が……私が殺したんだ……見捨てたのも……皆を助けられなかったのも……全部、私の所為だ。」 マオ:「オルガ主任だけの責任じゃ……」 オルガ:「私だって!みんなの一緒に死ねたらどれだけ楽だったか!」 ベンジー:「そんなこと……言ったら、ダメ。」 マオ:「ベンジーさん……」 ベンジー:「オルガがいないと、アイツらには勝てない。」 0:感情を押し殺しながら沈黙する三人。 オルガ:「……すまん、取り乱した。」 ベンジー:「……でも、無理しないでね。」 オルガ:「ありがとう、ベンジー。……なあ、マオ。」 マオ:「はい。」 オルガ:「運転、変わってくれないか。」 マオ:「もちろんです。」 オルガ:「今だけ、今だけでいい……泣かせてくれないか。」 マオ:「……ええ、存分に。」 0: 0:(SE)残された三人を乗せて走り去るトラック マオ:(M)平和な日常はつまらない。でも、非日常は残酷で……もっとつまらなかった。