台本概要
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タイトル | 『茶話会にティフィン・タイガーを』/BAR「猫町」“お一人様篇”シーズン1 #4 |
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作者名 | sazanka (@sazankasarasara) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 50 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
とある街、とあるBAR。 とある、人間関係の話。 ―2021年11月某日― “お一人様篇”は、とあるBARの、1名様来客時の比較的静かな時間を切り取った単発エピソード群です。話数の順も時系列通りではなく、進んだり戻ったり。 (“出奔者篇”と併せて、BAR「猫町」1stシーズンを構成しています。) 自由に、楽しんで演じて頂けますと幸いです。 128 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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タニマチ | 男 | 288 | 店員。読み切れない男。 |
マナコ | 女 | 277 | 常連客。獰猛で繊細な女。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
タニマチ:或る、心象のうた。
マナコ:虎なり!
マナコ:広茫(こうぼう)として巨像の如く
マナコ:百貨店 上屋階(じょうおくかい)の檻に眠れど
マナコ:汝はもと機械に非(あら)ず
マナコ:牙歯(げし)もて肉を食い裂くとも
マナコ:いかんぞ人間の物理を知らん!
マナコ:見よ 穹窿(きゅうりゅう)に煤煙(ばいえん)ながれ
マナコ:工場区街の屋根屋根より
マナコ:悲しき汽笛は響き渡る。
マナコ:虎なり 虎なり!
マナコ:午後なり
マナコ:広告風船(バルーン)は高く揚(あが)りて
マナコ:薄暮(はくぼ)に迫る都会の空
マナコ:高層建築の上に遠く座りて
マナコ:汝は旗の如くに飢えたるかな!
マナコ:杳(よう)として眺望(ちょうぼう)すれば
マナコ:街路を這い行く蛆蟲(うじむし)ども
マナコ:生きたる食餌(しょくじ)を暗鬱(あんうつ)にせり!
マナコ:虎なり
マナコ:昇降機械(エレベーター)の往復する
マナコ:東京市中 繁華(はんか)の屋根に
マナコ:琥珀の斑(まだら)なる毛皮をきて
マナコ:荒野(あらの)の如くに寂しむもの。
マナコ:虎なり!
マナコ:ああすべて汝の残像
マナコ:虚空のむなしき全景たり!
0:タイトルコール。
タニマチ:『茶話会(さわかい)にティフィン・タイガーを』
0:【間】
マナコ:うげ、お前かよ。
0:某月某日、某時刻。
0:とあるバーの店内。カウンターには男性店員。常連客の女性はドアをくぐるなり、放言。
タニマチ:あ、ギャルだギャル。
タニマチ:っしゃァせーェ。
マナコ:殺すぞテメー。
マナコ:え、今日土曜日チガう? シイナさんは?
タニマチ:遅入り。八時半ぐらい。
マナコ:はァー。だっるぅー。せめてカスミンであれや。
タニマチ:最近土曜はタイガイ俺じゃん。
マナコ:影ウスいから。
タニマチ:うるせー。
0:常連客は勝手知ったる動作で着席。スマートフォンとポーチを卓上に残し、ヘルメットとトートバッグを壁際の椅子に放る。
マナコ:(LINEの通知を確認しながら)
マナコ:バイク飛ばしてソンしたわー。シイナさんに話聞いてもらおーと思ってたのに。
タニマチ:言ってもーじき来るから。
タニマチ:今日出勤?
マナコ:二時までだったけどさー、最ィ悪。待機の子の、願書整理ゼンゼン終わんねーの。
タニマチ:手伝わされてるヤツか。まー、時期的に……、
マナコ:マジでさー、片っ端から入れりゃいーんだよ。困り度なんか、比べらんないんだから。
タニマチ:詳しくナイけど、1つの園で見れる数が、とかの……、
マナコ:だァから、園も保育士ももっと増やせって。
タニマチ:俺に言われても困るっス……。
マナコ:現場の声! 言っとけお前、国によォ。
タニマチ:俺はダレだよ。
0:常連客のLINEに通知。
マナコ:お、スザキ先生……。
マナコ:(文面を確認し)
マナコ:ぐおー、マジか……、
タニマチ:同僚?
マナコ:(返信を打ち込みながら)
マナコ:んー。
マナコ:担任一緒の、ゆるふわ系の。パパ共に人気あんの。
タニマチ:ふーん。
マナコ:絶対何人か喰ってるべ。
タニマチ:知らんけど。
マナコ:あーーー、メンドいメンドい。勤務時間外だっつの。
0:常連客は片方の足を小刻みに動かす。
マナコ:(自分で気づき)
マナコ:あっ! タニマチてめー、貧乏揺すり見たらスグ止めろっつったろ!
タニマチ:字ィ打ってるから邪魔かと思って……、
タニマチ:それ職場でも頼んでんの?
マナコ:馬鹿オツムか? 言わネーだろフツー。
マナコ:ムチャクチャ気ィ付けてんだよ。
タニマチ:マナちゃん先生、貧乏揺すりハシタなくってよ。
マナコ:シバいて埋める。
タニマチ:こーわ。
0:返信を打ち終わり、スマートフォンを卓上に投げ出す。
マナコ:だっ!
マナコ:……はあー。もー、ヤダこの女……。
タニマチ:何かトラブル?
マナコ:言ったらしょーもナイ事だけどさ……。
マナコ:てかお前、何か出せや。シイナさん居なくても客だぞォ。
タニマチ:へーへー。どんなんがイイんだよ。
マナコ:テキトーで。甘くて酔えたら何でも。
マナコ:あ。だからバイク今日も、
タニマチ:ん。裏に置いといて良いよ。
タニマチ:アレ、いつも何時ぐらいに取りに来てんの?
マナコ:朝、朝。家から1駅だけ電車乗って、こっからバイクで出勤すんの。
タニマチ:ふーん。
0:店員はリキュールの棚を物色する。
タニマチ:テキトー、ね……。
0:ちら、と常連客を観察する。
タニマチ:……そのスカジャン、
マナコ:んあ?
タニマチ:エグいな、よく見たら。
マナコ:お!
0:常連客は威勢よく立ち上がる。
マナコ:これイっしょ? 「ボギーズ」で一目惚れ。
タニマチ:虎のカオ、正面向きで付いてんのヤバい……。
タニマチ:てかコレ、虎の眼のトコ石ハマってんの?
マナコ:そーなんよ。片っぽ取れてるけどな。
タニマチ:石これアレじゃん、タイガーアイ。
マナコ:そーゆーのもユルくてイーっしょ?
マナコ:でェ、後ろがもっとヤベーの。
0:くるりと背面を見せる。
タニマチ:うおっ、背中は虎の後ろ姿……、
タニマチ:コレ肛門見えてね?
マナコ:尻尾で隠れてるわ! 買わねーだろ見えてたら。
タニマチ:そーゆートガり方かなって。
タニマチ:や、コレ普通にアツいわ……。
マナコ:一点物だからもうナイよ。割としたし。
タニマチ:ボギーズ最近行けてないなァ……。
タニマチ:店長、ボギさん元気?
マナコ:相変わらず古着バカ。鼻毛出てた。
タニマチ:今度カオ出そ……。
タニマチ:てか、虎いま流行ってんの?
タニマチ:イリヤもたまに、虎柄のシャツ着てたけど。
マナコ:イリヤ……??
マナコ:あ、カスミンか。苗字呼びキモっ。
タニマチ:何でだよ。距離感的にそーだろ。
マナコ:今度カスミンて呼んでみろや。
タニマチ:イキナリ? それこそキモいわ……。
マナコ:虎な。流行ってはネーだろ。ウチは昔から好きだけど。
タニマチ:虎??
マナコ:そーだよ。文句あんの?
タニマチ:無いっス。
タニマチ:うス。
マナコ:昔さー、ルーチェになる前のトコ、屋上に虎居たじゃん?
タニマチ:屋上に虎……?
タニマチ:あーーーー。森谷(もりや)デパートだった時か。100円入れたら吠えて動くやつ。
マナコ:ソレソレ。
タニマチ:めっちゃ昔くないか。
マナコ:5歳ぐらい?
マナコ:あっこの屋上好きでさ。ジイちゃんに、よく連れてってもらって。
マナコ:上乗って、ガオォーーーって、一緒に吠えてた。
タニマチ:園長先生だったジイちゃん?
マナコ:そー。そっからずっと好き。
マナコ:女子サッカーやってた時も、似てるからっつってプーマのジャージ着てたし。
マナコ:プーマってホントは豹?
タニマチ:プーマはピューマだろ?
マナコ:ピューマって豹?
タニマチ:ピューマはピューマじゃね?
マナコ:……あ、カクテル決めた。
マナコ:あ、そーだよ。早くしろや。
0:店員は棚から目当ての瓶類を選び出し、カウンターに並べる。
タニマチ:(冷蔵庫からオレンジジュースを取り出しながら)
タニマチ:んで、同僚からのLINEは何だったん?
マナコ:あーー。
マナコ:……ウチが入ってるクラスにさ、
0:前髪を手櫛で整えながら、常連客は話し出す。
マナコ:あんま来れない子がいんのね。
タニマチ:(シェーカーを取り出しながら)
タニマチ:登校拒否的な?
マナコ:登園、な。
マナコ:その子はまあ、そーゆー感じってより、園は好きだけど家で過ごしたい日もある、っていう。
タニマチ:(シェーカーに氷を入れながら)
タニマチ:あー。
タニマチ:親御さんは家では、
マナコ:今のトコ見れてて、むしろそーいう日は一緒にどっか行ったり、家でパン焼いたりとか、
タニマチ:全然イイじゃん。
マナコ:ウチもそー思う。子どもにもペースってあるし。
マナコ:なんだけど、よ。
0:店員はシェーカーにリキュール、シロップ、オレンジジュースの順に注ぐ。
タニマチ:(キャップを嵌めながら)
タニマチ:その、同僚の人が?
マナコ:考え方がさァ、チガウんだコレ。毎日ちゃんと来れた方がイイっていう。
タニマチ:小学校の、予行演習的な。
マナコ:その子の意思で来れたら越したコトないし、別に、どっちが正しいとか言わネーけどさー。
マナコ:やり方がなー……、
タニマチ:あ、ちょい振るわシェーカー。
0:鋭いシェーク音。液体が一気に冷やされ、混ざり合う。
マナコ:うわ……、氷の振動感じてる顔キモ……。
タニマチ:ちょ、黙れやっ。
0:シェークを切り上げ、グラスに注ぐ。
0:グラスに新たな氷を沈め、完成。
タニマチ:(サーブしつつ)
タニマチ:あい、お待ち。
マナコ:おー。美味そーじゃん。
タニマチ:「ティフィン」って紅茶のリキュールを、オレンジで割ったヤツ。
マナコ:へェー。
タニマチ:一般的なレシピではシェークしないんだけどさ、今日はさ、
マナコ:(店員の顔をジロと見)
マナコ:ドヤ顔ヤメろや。
タニマチ:してねーわ!?
タニマチ:……え? ちょ、してねーよね??
マナコ:(無視して一口含み)
マナコ:……甘っ。ウマっ。
マナコ:なんか、バニラ的なん入ってる?
タニマチ:あー。うん、シロップ入れた。
マナコ:(更に一口含み、味わい)
マナコ:んー。バニラ良いよなー。
マナコ:最近ハマってるわ。こないだ若いママさんから石鹸もらったし。
タニマチ:あー。石鹸、「Passh(パッシュ)」とかの?
マナコ:(吹き出しかけ)
マナコ:ぶっ、けほっっ!
タニマチ:えっ、
マナコ:……っ、お前が「Passh(パッシュ)」とか言うなや気持ちワリーなァー!
タニマチ:何でだよ! ルーチェにも入ってるしドコでもあるじゃんか、
マナコ:パーマ野郎は3階アパレル雑貨フロアに足を踏み入れるんじゃネー。
タニマチ:いーーっぱい居るわパーマの人! 3階アパレル&アウトドア雑貨フロアに!
マナコ:ったく、鼻から吹くかと思った。
タニマチ:(シェーカーを分解しつつ)
タニマチ:……で。
タニマチ:その考え違う同僚の事、相談に?
マナコ:ああ?
マナコ:あーー、チガウチガウ。たまたまLINE来ただけ。
0:常連客の表情が、辟易したものに変わる。
マナコ:まったコノ女がさー。場外乱闘ばっかすんのね。
タニマチ:じょーがい……? プロレス?
マナコ:や、だから。園で勝負せずに、家庭訪問ダイスキ野郎ってコト。
タニマチ:そんな言い方すんの? 保育業界で。
マナコ:するワケねーだろ。脳内で言ってるダケ。
マナコ:……本人はなー。
マナコ:1人ひとりに、個別で向き合ってるつもりなワケよ。
タニマチ:その、さっき言ってた、家で過ごしたい子のトコにも?
マナコ:今日、行ったって。
マナコ:事後報告だし……。2人のペアで担任だぞっつって。
タニマチ:んー、事後はな……。
タニマチ:そういうのって、行ってどんな話すんの?
マナコ:イロイロ。敢えて本人とは会わずに、親と喋ったり。
マナコ:一緒に遊びながら、園であった事、それとなーく話したり。
タニマチ:ふんふん。
マナコ:どーあれさァ。逆効果だったら意味ネーと思うワケ。
タニマチ:あー。かえって来にくくなるような。
マナコ:大人は大人ってダケで、子どもにはプレッシャーなモンじゃん。たとえ保育士でもさ。
タニマチ:まァ、そーなんだろな。
マナコ:都合よくコントロールしようとしても、子どもにはバレるから。直接子どもと喋るならナオサラ。
タニマチ:その先生は結構、圧(あつ)強い感じなん?
マナコ:てか、ピュア過ぎ。本人が子どもみたいだから。
タニマチ:あー……。いた気ィするわ、そーゆー先生……。
マナコ:親とか、問題ナイ感じの子には人気出るケドさ。
タニマチ:馴染まない子の気持ちわかんないとか?
マナコ:本人はわかりたい理解したいって、ガンガン行ってるケド。ソレで子どもヒイてんのがワカンナイ、みたいな。
タニマチ:やる気ナイより厄介って感じか。
マナコ:マジでソレ。チカゴロ暴走気味だし……、
マナコ:こっちはこっちで、色々バランス見て、ウマいコトやろうとしてんのにさァ。
マナコ:はあーっ……。
0:溜息をつき、常連客は一口含む。
タニマチ:……なんか、
マナコ:あ?
タニマチ:仕事の話で溜息ついて酒飲んで。
タニマチ:社会人って感じよな。
マナコ:お前もだろが。自覚持てや。
タニマチ:いや……、そーいう意味でもナイけど。
タニマチ:高校から、そんな経ってナイ気もすんのに、って。
マナコ:ウチらは働き出したん早かったし。つってもまだ2年目だけど。
タニマチ:保育の短大って2年?
マナコ:3年制のトコも多いケド。
マナコ:2年はマジでゲロ吐くスケジュール。プラスでバイトもしてたしさ、金無いのイヤだったし。
マナコ:実習の時とか、ブル吉(キチ)キメてパッキパキで行ってたから。
タニマチ:レッドブルその略し方してんの聞いたコトないんだけど……。
0:常連客は一口、含む。
マナコ:でもなーーー、それでも今より遊んでたんよな。
マナコ:マジであん時アタマおかしかったわ。ソレかウチ2人居た??
タニマチ:2人はヤベぇって。周り処理できねーわ。
タニマチ:その時期に、初めて来たんだっけ?
マナコ:そーだよ。あん時なんか、何かの帰りだっけ。リサと二人で……、
マナコ:なんか誰かをめっちゃディスってたんは覚えてる。
タニマチ:アレだろ、OBの、
マナコ:あーーーー、そーだそーだ。
マナコ:あの糞ヤリチン。実習生喰いまくった。
タニマチ:飛ばされたんだっけ?
マナコ:今もどっかで保育士やってるよ。マジで闇だべ、人手不足だけど、あーゆーんはクビでイーわ。
0:常連客はグイ、とグラスを呷る。
タニマチ:んで、その時俺は先に気付いてたんだけど、
マナコ:なんかチラチラ見てくるキモい眼鏡いんなーって見たら、お前だった。
タニマチ:キモくはなかったわ!
マナコ:アレ伊達? マジでやめて良かったわ。二度とすんじゃねーぞ。
タニマチ:今はしねーケドさ。ケッコー別に、ソレはソレで、トレードマーク的に……、
マナコ:周りは気ィ使ってキモくても言わねーモンなの。そーやってイタいのはどんどんイタくなってくんだから。
マナコ:パーマも何だソレ? イカスミ焼きそばか?
タニマチ:(吹き出し)
タニマチ:ぶふっ。
マナコ:(同じく吹き出し)
マナコ:ぶ、はっっ!
0:二人、見合い、ひとしきり大笑。
タニマチ:い、い、イカスミ焼きそばっ……。パスタじゃねーのかよっ。
マナコ:ぶふっ……、ち、縮れてっから。
マナコ:ヒワイなんだよ真っ黒で。色入れてアッシュとかにしろや。
タニマチ:博士みたいになるだろ。
マナコ:んでダテ眼鏡よ。
マナコ:ぎゃはははははっ! キャラ強っ。むしろ来るわーー。
タニマチ:ケゲンな眼で見られるわ。ツイにおかしくなったかー、つって。
マナコ:そーゆーの狙ってんでしょ? お前らイタイタ君はさァー。
マナコ:オレは一味チガウ、みたいな。ひゅうううーーーうう(寒風の効果音)。
タニマチ:ヤメロやっ! 狙ってねーし。
タニマチ:伊達眼鏡はだって、流行ってたじゃんそん時。
マナコ:今のダジャレ? 殺すぞ。
タニマチ:違うわっ。
0:楽しげにニヤける常連客。
マナコ:高校の時もさー、ポニテにしてさァ、くくってたじゃん。何なんアレ?
タニマチ:(居心地悪気に)
タニマチ:や、その、若気の至りっつーか……、
マナコ:うーわ、マジでイッタいヤツいるわって。
マナコ:思わず生徒会誘ったよね。
タニマチ:ギャルに拉致されてマジでビビったって。
タニマチ:イキナリ執行部室連れてかれるし。会長も俺も困ってたじゃん。
マナコ:真面目チャン真面目クンばっかだったからさァ。
マナコ:コレで1年はキツいわァって思って。珍味ほしかったんだよ、チンミ。めんたいこ的な。
タニマチ:白米の方だったって俺は、ドッチかと言えば。
タニマチ:書記は頑張ったケドも。
マナコ:結果な。全員ナンか変だったし……。
マナコ:何か一瞬さァ、付き合うか、どーする? みたいなハナシになったコトあったべ。
タニマチ:冷静に考えてみたら、お互いソレはナイっスね、てなった時な。
マナコ:あん時イチバン意見合ったな。
タニマチ:文化祭のイキオイでくっつかなくて良かったと思う、マジで。
マナコ:絶対スグ終わってギクシャクしてたわ。元カレ居る店とか絶対来ねーし。
0:くい、と一口。
マナコ:ぷは。
マナコ:(カウンターを叩きつつ)シイナさんまだーーー??
タニマチ:(時計を見やり)
タニマチ:まだだろ。時間そんな経ってナイし。
マナコ:接客ダルいと時が進まねーなァ!
タニマチ:ダルくねーし。程よい湯加減だし。
マナコ:喩えキモっ。2度とすんなよ。
タニマチ:キモキモ言い過ぎだろ保育士が……。
0:ブ、と通知音。常連客はスマートフォンを確認。
マナコ:げ。スザキ……。
マナコ:何なんマジで……。
タニマチ:マジでイヤそーだな。嫌いなん?
マナコ:(パスコードを打ち込みながら)
マナコ:んーーーー。
マナコ:そーゆーワケでも無い。ちゃんと勉強してると思うし、ヒトが悪いんでもナイけど……。
0:常連客は文面を確認。
マナコ:う、クソ長文っ! ヤなんだけどマジで……。
タニマチ:長文てダケで構えるよな。
マナコ:(小刻みにスワイプ。)
マナコ:…………。
マナコ:んンーー?
マナコ:また何かダルい感じに……。何て答えてほしいんコレ……。
タニマチ:どんなん来てんの?
マナコ:(突っ伏し、スマートフォンを差出す)
マナコ:ん。
タニマチ:見てイーのかよ?
タニマチ:(受け取り、スワイプ)
タニマチ:えーと。
タニマチ:「お家訪問おつかれさま! 一緒に行けなくてごめんね、次はかならず。」
タニマチ:「タクトくんは多分、今日はそういう気分だったんだと思う。こちらはペースを乱さずどっしり構えて、長期戦で頑張って行きましょう!」
マナコ:ウチのトコは読まなくてイイから!
タニマチ:職場ではこーゆう感じなんだァ……。
マナコ:殺すぞ。
タニマチ:という、マナちゃん先生の温かい言葉に対して、スザキ先生は……、
マナコ:シバく。
タニマチ:(文をあらため)
タニマチ:……長っが。
タニマチ:「そう言ってもらえて嬉しい。ありがとう。正直、考えれば考えるほど袋小路だったけど、そうだよね、子どもでも、日によって気分ってあるよね。後は、タクトくんに登園したい気分になってもらう為に、私達が取るべきアプローチが何か、だよね。」
マナコ:はァーっ。ソコが違うんだっつの。
タニマチ:区切らず書くタイプのヒトだ。
タニマチ:「もっとしっかり2人で意見を出し合って、作戦を練っていけば、今よりも幅の広い対応が取れると思う。ミミカちゃんの件にも、通じる事として。」
マナコ:1人で突っ走ってんのオメーだろ。
タニマチ:ミミカちゃんてのは?
マナコ:ソッチはわかりやすい登園拒否。ウチが見たトコ、ヤバいのは親。
タニマチ:ふんふん。
タニマチ:えー、と、まだあるわ……、
タニマチ:「マナコ先生の発想力や柔軟さには、いつも驚かされ、助けられています。自分には欠けていると感じる部分なので、是非もっとお話をして、勉強させてもらいたいと思っています。」
タニマチ:「私が得意な部分に付いても、問題の種類によっては役立ててもらえると思う。至らない部分に関しては、遠慮なく指摘をしてもらいたいです。」
マナコ:くあーーー。何かなァーーーー。
マナコ:LINEだとこーゆーカンジ。
マナコ:カタいっつーか。雰囲気はゆるふわなのに。
タニマチ:文章だとキャラ変わるヒトいるよな。
タニマチ:てか、続き来たケド。
マナコ:うぇ!? まだ書くコトあんの……、
マナコ:読んでよ。
タニマチ:んー。えー、
タニマチ:「現場ではその時々の対応に追われて、なかなかゆっくり相談も出来無いよね。そこで、提案なのですが、仕事帰りや、お休みの日に、懇親を兼ねた意見交換の機会を設けるのはどうでしょう。目先の問題だけに留まらず、お互いの、保育・養育関係者としての、成長の為にも。」
タニマチ:……、ほおーー。
マナコ:あァーーーー。
マナコ:もーーーー、勘弁しろてマジーーー。
タニマチ:「追伸。」、
マナコ:あんのかい!
タニマチ:「ピアノや歌に付いては、アドバイスや、練習にお付き合いも出来ます。」
マナコ:上からっ。
マナコ:はァーー? え、はァーーーっっ??
タニマチ:最後に。
タニマチ:「マナコ先生の事を知りたいし、私を知ってほしい。もっと仲良くなりたいです。」
タニマチ:……だって。
マナコ:…………。
マナコ:(奇妙なものを飲み下したように)
マナコ:何なん。
タニマチ:歌とピアノ、苦手なんだっけ。マナコ先生。
マナコ:うるせー。ちょっと弾き終わるまでスリル満点なだけだし。子どもらにも良いスパイスだし。
タニマチ:そういうスザキ先生は、ピアノや歌、得意なん?
マナコ:……上手いよ。
マナコ:テクり方ヤバい。ソコは認める。
タニマチ:ふーん。
タニマチ:保育の人ってさー、絶対やんなきゃなんだっけ、あの、ピアノのアレ、バイなんとかのヤツ、
マナコ:バイエルなー。糞バイエルっ。
マナコ:もーーー、マジで思い出すんもヤだわ。ピアノ触ったコトもネーっつの、コッチは。
タニマチ:でも受かったんだ?
マナコ:死ぬ気でやんだよ皆。てか死ぬ。
マナコ:お嬢で習ってたとかのヤツ以外は。
タニマチ:この人は、感じ的に……、
マナコ:ゴリゴリお嬢だよ。ピアノ教室(きょーしつ)通ってたんだとよォー。
マナコ:……いやウチも行かされかけたけど。もーサッカー始めてたから……。
タニマチ:ま、でも、教えてくれるってんなら教えてもらえば?
タニマチ:上手いヒトって、コツとかも言ってくれそーだし。
マナコ:バリ無理。絶対ヤダ。空気に耐えらんネーよマジで。
タニマチ:テンポはダイブ違いそーだけど。
タニマチ:このヒト文章見る限り、空回りしがちだけど結構マジメに……、
マナコ:言ったべ、ソコはそーなんだって。
マナコ:だから別に嫌いとかではねーケド、とにかくズレてんの。
マナコ:大人が子どもみたいのは、苦手だし。
タニマチ:何でだろな。
マナコ:……。チョーシ狂うから。
マナコ:ガキでもナイのに、真っ直ぐ見てくんなって。
タニマチ:照れちゃう的な?
マナコ:ナンでそーなんだよ殺すぞっ!
マナコ:好き勝手に突っ走られたら、子どもなら捕まえられっけど、大人は無理じゃん。手に負えネーから不安になんの。
タニマチ:それって、ほっとけない、ってのとはチガウんかね。
マナコ:……、知らね。
マナコ:苦手な理由はどーでもイイべ。職場で好き嫌い言ってもしょーがナイし。
タニマチ:ま、そーだけど。
マナコ:スマホ返して。
タニマチ:あ、ん。
0:店員は常連客にスマートフォンを手渡す。
タニマチ:どーでもいーけど画面バキバキじゃん。
マナコ:ほっとけや。落とすトキに限って地面硬てーんだよ。
0:二、三、通知を確認し、卓上にスマートフォンを置く。
マナコ:はぁーーー。
マナコ:例えばさー、「私が気付いた」、「イイ思いつき」、みたいな感じで言ってっけどさ。
マナコ:意見交換すんのも、一緒に作戦練んのもアタリマエじゃん。何のための2人体制なんだってハナシよ。
タニマチ:そりゃ、ま、ごもっとも。
タニマチ:……あ、貧乏揺すり。
マナコ:おっと。(足の揺さぶりを止め)
ん、ありがと。
マナコ:……だからさ、ワザワザ時間外にするコトとチガウだろって。普段から現場でやれっつって。
タニマチ:んー。
タニマチ:単純にさ、このヒト、仲良くなりたいんじゃナイの?
タニマチ:て、書いてあるし。
マナコ:…………、
マナコ:何ソレ?? 意味不明。好きとかそーゆーコト??
タニマチ:知らんけど、志ある感じの人なんだったら、同僚として興味あるのかもしんないし。
タニマチ:ケッコー文面のまま、裏とかはナイんじゃねーの?
マナコ:ソコは勘繰ってはネーけど。むしろ大人相手にはもーちょい裏表付けろやって思うぐらいだし。
マナコ:親とかと喋る時もさー、ヒヤヒヤすんだってマジ。ママ連中はパパ共みたく大目に見てくんねーから。
タニマチ:よく見てんな。
マナコ:ペア担なんだからあたりめーだろっ。
マナコ:てか、同僚として仲良くしたいなら、自分からそーすりゃイイじゃん。
マナコ:コッチはムチャクチャ歩みよってんだって、キャラ作ってさァ!
タニマチ:ソレ、最初にキャラで行ったら引っ込み付かなくて素ゥ出せない感じ?
マナコ:てか出せるワケねーだろ。子どもに悪影響だろが。
タニマチ:その辺は常識人かよ。
マナコ:つっても別に……、口調ダケだし。
マナコ:猫被ってるワケでもナイし、言った方がイイって、思ったコトは言う。
マナコ:管理職は何だかんだアタマ硬てーから。バトルよバトル。
タニマチ:その辺は変わんないスね、副会長。
マナコ:うっせ、書記。
0:氷がカラン、と鳴る。
マナコ:……自分が大人になってもさ。
マナコ:子どもナメてる大人は、やっぱキライだから。
0:常連客はグイ、とグラスを呷る。
マナコ:(グラスを揺すり中身を撹拌しながら)
マナコ:てか何でお前とこんな話してんの?? キモいんだけどマジで。
タニマチ:LINE来たから、偶々そーゆー流れだろ?
マナコ:……はァ。ほんとマジさァ。
マナコ:プライベートに持ち込みたくナイんだって、ウチは。
タニマチ:あー。仕事のコト?
マナコ:じゃなきゃ半端になるから。
マナコ:動く時は動いて、休む時は休まなきゃ、1試合持たないって。コーチの口癖。
タニマチ:サッカーの話くないかソレ。
マナコ:バカ、コレ何でもイケんだって。ジイちゃんも死ぬ前、似たよーなコト言ってたし。
タニマチ:んー……。
0:店員はカウンター内の木椅子を引き寄せ、カタンと座る。
タニマチ:何か案外、この人も、職場ではどーやったらイイのかわかんないのかもな。
マナコ:ナニが??
タニマチ:打ち解けたり、距離詰めたりさ。
マナコ:……飲みニケーション的な事がしたい、ってコト?
タニマチ:書き方はカタいケド、要はそういう事じゃね?
タニマチ:自分がしたいコトとか思ってるコトとか、相手に伝えるの下手なヒトって居るじゃん。
マナコ:コミュ障的な? そーゆー感じでもナイけど……。
タニマチ:一見そう見えなくても、ゆるふわなのは鎧で、堅くて融通利かないのが、そのヒトの素なのかもよ。
マナコ:…………。
タニマチ:マナコだってさ、職場でのキャラと素は違うワケじゃん。
タニマチ:そのヒトもそうで、ホントは困ってんのかも。
マナコ:……んー。
マナコ:そーゆー、子どもは、確かに居るけど。
マナコ:…………「大人だって子どもの、成れの果て」、だしな。
タニマチ:それも誰かが言ってたヤツ?
マナコ:短大の婆ちゃん先生。
マナコ:イケてる大人の言うコトはさ、
マナコ:覚えとく事にしてんの。ヒントになるから。
タニマチ:ほぉー。
0:常連客は一口含む。
マナコ:でも、よ?
マナコ:とりまそーゆー感じだったとして……。
マナコ:ウチは何、サシ飲みでもすればいいんコレ?
タニマチ:ルーチェの地下とか行けば。
マナコ:園でのキャラのまま? カルアミルクとか飲めばいいワケ?
タニマチ:ティフィンもポジション変わんねーケドね。
タニマチ:ただ、ま、今の、素で行きゃイイんじゃね? 逆に。
マナコ:バレるじゃん色々。
タニマチ:秘密で、ソコは。
タニマチ:切り替えにもなるかもだし。
マナコ:友達じゃん、タダの。
タニマチ:いっそのこと、もう。
タニマチ:てかぶっちゃけ友達になりたいんじゃねーの。
マナコ:…………。
マナコ:ぅえええええーーーーっ。
マナコ:スザキとぉーーー??
タニマチ:わからんけど。
タニマチ:ナイか?
マナコ:ナっ……、イかどうかも、よくわかんねーぐらいだけど。
マナコ:……ええーーーー。何食うん、あーゆー女子て……。
マナコ:主食マカロンとか?
タニマチ:糖尿なるわ。
タニマチ:見かけによらんかもだし。日本酒とカラスミとか。
マナコ:ウチが無理だわソレ。
マナコ:何だろ、なんか肉とか食わなさそーだけど。野菜とか食えるトコ……、
タニマチ:ルーチェの4階なら結構、色んなニーズにも、
マナコ:ルーチェ大好きだなお前!
マナコ:覚えたてか!
マナコ:てか、何で飲み食べ行く流れになってんの。
タニマチ:意外と、まんざらでもナイとか?
マナコ:……、や、連携取りやすくなったら、ウチも楽だけどさ……。
タニマチ:だし、ヤな言い方だけど、暴走しないようにコントロール出来るかもよ、仲良くなった方が。
マナコ:んんーーーー……。
マナコ:…………。
タニマチ:ま、同僚と休日会うとか、キツいはキツいだろーケドさ。
マナコ:ベッタベタの職場とかあるじゃん。皆で旅行行ってー、みたいな。あーゆーんがヤなワケ。
タニマチ:なあなあなヤツな。
マナコ:ケジメ付けろや、ていう。
マナコ:……、仕事しやすくする為に、ってゆーんなら、別に……、
タニマチ:そんなに変な話でも、
マナコ:いやいやいやいや。オカシいオカシい。
マナコ:行く流れじゃんコレ。ネーって。
タニマチ:とはいえ、物は試し、
マナコ:マジでキツいんだって! 大人で保育士で天然チャンは許されねーから!
タニマチ:んじゃ、2人で会う前にどんなカンジか、1回ココ連れて来たら?
マナコ:その時点で懇親会しちゃってんだろーがソレ!
マナコ:……イイってもー、スザキせんせーの話は……。どーせ園で顔合わすんだし。
タニマチ:ま、そーな。
タニマチ:でも何か、意外っつーか。
タニマチ:高校の時はケッコー、どんなキャラのヤツにでも、グイグイ行くタイプだったけど。
マナコ:社会出て慎重になったトカ言いてェの? キモ、殺すわ。
タニマチ:少なくとも丸くはなってねーな……。
タニマチ:じゃなくて、ピンポイントで苦手なタイプなんかなー、とか。
マナコ:……言ったべ。別に嫌いとかとチガウし、真面目なのは、イイと思うケド。
タニマチ:うん、うん。
マナコ:たださァ、空回りして暴走して、結果子どもにシワ寄せ行ってたら、ソレは普通にダメだろ。こっちは大人なんだから。
タニマチ:ソコはそーね。ピュアで子供みたいって言っても、ホントの子供から見たら、
マナコ:どーしよーもなく大人だから。
マナコ:てか、どーしよーもネー大人。コドモに子どもの世話は務まんねーし。
タニマチ:手厳し。
マナコ:辞めてったヤツとか見ててもそーだよ。
マナコ:対等な目線で、とか言って、責任から逃げんじゃねーっつって。ソレが1番子どもナメてるから。
タニマチ:このヒトもそんな感じ?
マナコ:……ソコはそーでもナイけど。
マナコ:周りも自分も見えて無い。
タニマチ:て、言ってあげたら? 言われて初めて気付く、とかかも。
マナコ:…………。
マナコ:そりゃ、ウチらペーペーだからヤラカすしさ。
マナコ:ベテランのおばはん先生たちだって、カンペキとかじゃ全然ナイから。
タニマチ:うん。
マナコ:子どもの反応なんか、コッチの予想全く通じねーし。
マナコ:てか、通じねーのが普通。だから勉強して、観察して、ちょっとでもわかろうとすんのね。
タニマチ:大人に気ィ使って、期待通りに振る舞ってくれる子供ばっかだったら、保育士イラナイ、と。
マナコ:そーゆー子は病むから。むしろ要注意。
タニマチ:(ほんの一瞬、思案し)
タニマチ:うん……、
タニマチ:そう、な。
マナコ:だからさ、コッチがどーしてほしいか、じゃなくて。
マナコ:その子がどうしたいか、の方が大事なんだって。園来たくなきゃ、来なきゃいーんだよ、取り敢えずは。
タニマチ:休みたい子が休めてるのは、イイ状態ってコトね、ひとまず。
マナコ:まーな。まずそっからじゃなきゃ、行きたい気にもなって貰えねーから。
タニマチ:ふむ。そこはそりゃ、そーなんだ、ろうと思う。
マナコ:「どーして来ないの?」「どーやったら来てくれるの?」
マナコ:「知りたい、教えて?」って、グイグイ来られたらさ、
タニマチ:大人でもヤだもんな。
マナコ:逆らえねーデカいヤツにそんなんされてみろよ。
マナコ:最悪、病むだろ。
タニマチ:そーね。
マナコ:もちろん、だからって何もしねーワケにはいかないケドさ。
マナコ:ただ、気ィ遣うのはコッチ。ウマいコトやんなきゃ、いつでも。
タニマチ:真正面からぶつかってくだけじゃ駄目なワケだ。
マナコ:ぶつかったらブッ飛ぶじゃん、大人と子どもなんだから。
タニマチ:……、ナルホド、なァー……。
タニマチ:……でもアレだな、ソレ、
マナコ:あ?
タニマチ:ムチャクチャ難しいな。当たり前だけど。
マナコ:…………。
マナコ:そーだよ?
マナコ:だから、毎日ブッツケ本番なんだって。
マナコ:……そりゃ、さァ、意見交換して、わかってくれんならイーよ? でもなんか……、
タニマチ:ワカンナさそう?
マナコ:……どーだか。喋ってみねーとワカんねー。
マナコ:てかまず、ウチがこのヒトの言ってるコトわかんのか微妙。
タニマチ:そーなん? そーいう系?
マナコ:何考えてんのかワカンネーし。
マナコ:基本ふわふわ笑ってて愛想イーんだけど、ヨク考えたらソレ以外の表情見たコトねー。
タニマチ:ほォ。ふむ……。
マナコ:シャレと本気の区別もムズいし。ビックリするよーなコト急に言ってさァ、後から聞いたら本気だったり。逆もある。
タニマチ:あー。あーー……。
タニマチ:そういう、感じ。
マナコ:周りはそりゃ困るじゃん。子どもでそーゆーんはあるけど、そんまま保育士なられても。
タニマチ:んー。
マナコ:自覚あるんなら、本人だって困ってんだろーけど、
タニマチ:ぶっちゃけさ、
マナコ:ん?
タニマチ:向いてない、と思う?
マナコ:…………。
マナコ:んあーーーーー。
0:常連客は首を反らし、思案。
マナコ:……ソレは、言いたくネーな。
タニマチ:何で?
マナコ:ウチがサンザン言われて来たから。
マナコ:気合いで黙らすもんじゃん、ソレって。
タニマチ:マナコは向いてそーだケドな、意外と。
マナコ:意外とてナンだよ? 殺すぞ。
タニマチ:あヒっ。スイマセンっ。
マナコ:ウチの場合は偏見だけど。言われる理由はカンケー無いし。
マナコ:サッカーに向いてるヤツがサッカーやるんじゃネーの。
マナコ:サッカーやってるヤツが、サッカー向いてるヤツなの。
タニマチ:わかるケド意味わからん。
マナコ:向いてねーなテメー。やめちまえや。
タニマチ:えぇ……。
マナコ:向いてよーが無かろーが、気合いさえありゃ、何か見つけてどーにかすんの。
マナコ:大人なんだから。
タニマチ:……かっけェっス。
マナコ:(猛く笑み)
マナコ:アタリマエじゃん。ウチだし。
タニマチ:虎に憧れてるダケあるわァ。
マナコ:(吹き出し)
マナコ:ぶっ。憧れてネーし。好きなダケだし。
タニマチ:(スカジャンの刺繍を見やり)
タニマチ:またまたァ、そんな真っ正面の虎付けて、
マナコ:イジんなや殺すぞ。
マナコ:……ま、真っ直ぐガーって行ってる感じがキたのは確かだけど。プーマもそうだし。
タニマチ:プーマは横向きじゃね?
マナコ:どー見ても真っ直ぐ進んでんのを横から映してんだろーが! 目ェ銀紙(ぎんがみ)か。
タニマチ:ていうか豹だし。
マナコ:ピューマだろ。
タニマチ:あそっか。
タニマチ:……まあ、まあ……、さ、
タニマチ:……そのヒトの、そういう感じさ。
マナコ:んあ?
タニマチ:付き合い長くなって馴れたら、
タニマチ:判るようになるカモよ。
マナコ:……、ナンそれ。
タニマチ:悪意は多分ナイし。どーにかする方法、本人も見つけたいんカモだし。
マナコ:……、そんなんさァ、ウチが付き合う筋合い、
マナコ:……あ、ペア担か。
マナコ:んんーーーー……、
0:常連客が眉間に指を当て思案しかけた所へ、
0:ブ、
0:と、LINE通知。
マナコ:(ビクリとし)
マナコ:うっ。
マナコ:…………。
マナコ:ナンでウチがビビんなきゃなんないん……。
タニマチ:まだ追伸あんのかね。
マナコ:もーマジでさァ……。
マナコ:おげ、スザキだし。
0:うんざりしながら文面を確認。暫し、硬直する常連客。
マナコ:……あァ??
タニマチ:おわ、眉毛キレーにハの字だ。
タニマチ:ヤバい?
マナコ:……マジかコイツ。
タニマチ:読んでイイ?
0:常連客は無言でスマートフォンを差し出す。店員は立ち上がり、受け取る。
タニマチ:なになに……。
タニマチ:「突然のお誘いで困らせてしまうかもしれませんが、ダメ元で。今夜、今からの時間、お暇ではありませんか?」
タニマチ:……ほォーん。
マナコ:…………。
タニマチ:「思い立って作ったシチューが、想像以上にたくさんになってしまって。カッコ、タンシチューです、お嫌いですか? カッコ閉じる。」
マナコ:うああーーーっ。
タニマチ:「マナコ先生のお家は、確かうちと1駅ぐらいの距離でしたよね?」
タニマチ:そーなの?
マナコ:そーなの……。役所通りのハイツ……。
タニマチ:あのデッカいトコか。
タニマチ:ケッコー近くじゃん、こっからも徒歩圏だし。
マナコ:くおおおーーーー。
タニマチ:えっと。
タニマチ:「何なら、車でお迎えにあがれます。この時間ですし、明日早くにご予定無いなら、泊まって行っても貰えます。カッコ、お泊りセット一式あります、カッコ閉じる。」
マナコ:何でじゃぁあーーーー。
タニマチ:「自分で提案しておいてなんですが、懇親会と言うと堅いし、カジュアルに、ご飯を食べて、お茶を飲みながら寛(くつろ)ぎつつ、お話しませんか。」
マナコ:……っ、
タニマチ:「美味しい所のバゲットがあります。お茶菓子もあります。お酒を飲まれるなら、頂き物の貴腐ワイン等も。カッコ、白です。」
タニマチ:おー、イイなー、貴腐ワイン。
マナコ:ワイン苦手だしっ。
タニマチ:そーなん?
マナコ:パンみたいな匂いすんじゃん。
タニマチ:あー。ちょっとわかるけど。醸造酒(じょうぞうしゅ)独特の……。
マナコ:特に白。甘くネー。
タニマチ:基本甘党なのな。お茶に砂糖入れてもらえば。
マナコ:何でこの時間に変な女とお茶会だよっ。不思議の国のアリスか!
タニマチ:ハートの女王シメれそーなアリスだな。
マナコ:あー、アノおばはんそっくりの先生居るわ……。
マナコ:……ヤベーな。茶ァ出されてお菓子食って。
マナコ:帰って来たらゆるふわパーマになってんじゃネーの。
タニマチ:それメチャメチャおもろいじゃん。
マナコ:ちょい前のキャバ嬢みたくなるだろが。
タニマチ:(ややウケ)
タニマチ:うははっ。
タニマチ:……え、っと。
タニマチ:「お忙しければ、遠慮なく断わってください。失礼を承知で、素敵な思い付きを捨て切れませんでした。御一考くだされば、嬉しいです。土下座マーク、の横にキラキラ」
タニマチ:……との、事デスが。
マナコ:お前お辞儀の絵文字ドゲザだと思って打ってたんかよ。
マナコ:……。はァーーーー。
マナコ:暴走してるわァーーー。こーゆートコよ、コレ。
タニマチ:(スマートフォンを客前に返しつつ)
タニマチ:確かにグイグイだな。
マナコ:メーワクとか考えネーのかよ。
タニマチ:遠慮なく断わってイイらしいけど。
マナコ:て言われたら断わりニクイじゃん、ワカルだろ。
タニマチ:んーーー。
タニマチ:ソコは多分……、あんまそーゆーチャンネルで会話してないと思うけど。
マナコ:マジで思い付いたまま誘ってるってコト!?
タニマチ:来てくれたら嬉しいな、ぐらいの感じじゃね?
マナコ:(思案が募り)
マナコ:…………っ、んがァーーーーーーっ!
0:吠え、後、パタリとカウンターに突っ伏す常連客。
タニマチ:虎が死んだ。
マナコ:…………。
0:グラスの氷がカランと鳴る。
タニマチ:(カウンター内の時計を確認しつつ)
タニマチ:もーちょいかなー、シイナさん。
0:静寂。
マナコ:(伏したまま)
マナコ:……断わったら傷付くと思う?
タニマチ:先生?
マナコ:…………。
タニマチ:んんー。
タニマチ:……やー、
0:古びた木椅子に店員は座り、カタンと鳴る。
タニマチ:傷付きはしないんじゃナイかね。
タニマチ:残念、とは思うカモしんないケド。
マナコ:それウチが悪い?
タニマチ:悪いとかではないだろ。実際今、ココ来てんだし。
マナコ:そーだけど、さ。
タニマチ:「今日うちで遊ぼ」って、眼ぇキラキラさして言われてる気ィする?
マナコ:…………。
マナコ:小学生のトキのコト思い出す。
タニマチ:あるある、よな。もう先約あったりー、とかどーとか。
マナコ:ウチは女子からも男子からも人気あったからな。お前と違って。
タニマチ:俺のナニ知ってんだっつの。
マナコ:…………。
マナコ:断わんのってイイ気しない。
タニマチ:そりゃ、よ。
マナコ:子どもの時ってそーゆーのあんマナコ:じゃん。遊ぶとか、遊ばねーとか。
タニマチ:あるな。大人でもあるくないか?
マナコ:ウチはしょーもねーからキライだけどな。
マナコ:…………4年生の時さ。
タニマチ:おー。
マナコ:クラスで、イジメられてる感じでもナイけど、ちょい浮いてるかなー、ぐらいの子が居て、
タニマチ:女子?
マナコ:うん……。
マナコ:あんま学校来てなくて。
マナコ:みんな居たら黙ってるケド、イチイチで喋ったら割りと楽しくて、みたいな。
タニマチ:うん、うん。
マナコ:ウチはケッコー、嫌いじゃなかったケド。
マナコ:……ある日さ。
マナコ:誘って来たの。そいつから。
タニマチ:家来て、って?
マナコ:うん。かなり勇気出してる感じで。
タニマチ:うんうん。
マナコ:その日の為に掃除して、お菓子もジュースも買ったって。
マナコ:遊ぶ為に色々、用意したって。
タニマチ:うん……、うん。
マナコ:でもウチは、仲イイ子らと出かける約束してたから。
マナコ:ごめんだけど、無理だわ、って、
タニマチ:断わった。
マナコ:うん。
マナコ:そしたら、
タニマチ:うん。
マナコ:……関係あるかはワカンナイけど。
マナコ:学校、来なくなった。
タニマチ:あ……。
タニマチ:そ、っか。
マナコ:別にさ。ウチのせいとか、思ったワケじゃナイし、今も思わない。
マナコ:でも。でも……、
タニマチ:その子はずっと来なかったん?
マナコ:……クラス別れてからは知らないけど。
マナコ:フリースクール行って、高校には行ったらしい。後から聞いた。
タニマチ:ふーん。んじゃあ、
マナコ:「良かった」、とかどーとか、外野が言うコトじゃネーって、今なら思うよ。
マナコ:でも後のコトじゃ無くて。
マナコ:覚えてんのは、断わったトキの、その子の眼。
タニマチ:焼き付いてんの。
マナコ:……なんとも言えねー。雨降る前の空みたいな眼。
マナコ:保育士なってからは、よく見るヤツだけどさ。
タニマチ:遊べる気でいたんだろな、その子。
マナコ:だからさ。
マナコ:ウチ忙しーから。期待すんのヤメテって。その後しばらくイライラしたり。
マナコ:マジでサッカーやり出してからは、逆にその辺ラクになったケドさ。
タニマチ:ふーん……。
0:常連客は一口飲み下し、乾きを癒やす。
タニマチ:何でヤメたんだっけ? そういや。
マナコ:サッカー?
マナコ:言ってなかったっけ。靭帯切った。
タニマチ:あ、そーなん……。
マナコ:中学の時な。副キャプテンだったから引退まではピッチ立ってたケド。
マナコ:シュート出来ねーしスパっとヤメた。
タニマチ:ふーん。生活には、
マナコ:全然問題ネーよ。バイク乗ってるし、子ども追っかけ回してるし。ガッツリ試合とかは無理だけど。
タニマチ:んで、高校からギャルになったん? それかサッカーやるギャルだったん?
マナコ:テメー殺すぞ。ウチのコトはそろそろどーでもイーんだよ。
タニマチ:あ、そう。
タニマチ:で、どーすんの?
マナコ:…………。
0:再び沈黙。
0:ぼんやりと画面をスワイプし、文章を確認。
マナコ:……大人的にはナシじゃん。当日だし。夜だし。
タニマチ:そーね。よっぽど友達とかならイイけど。
タニマチ:てか、シイナさんに話あったんじゃないの?
マナコ:ソレはまー。そんなシンコクなヤツじゃネーけど。
タニマチ:あ、そ。
マナコ:…………。
タニマチ:別に、気ィ乗んないなら、適当に理由つけてさ、
マナコ:そーゆーの含めてダリぃの。ウソ考えんのもメンドいし。
タニマチ:わかるけど。
マナコ:こーゆーんが1番ヤなワケ。グニグニした気分。
タニマチ:ぐにぐに?
マナコ:スパッとしねー。
マナコ:自分がヤになる。
0:店員は何気なく、刺繍の虎と目が合う。
タニマチ:何か……、
タニマチ:受け売り、ナイの。
マナコ:受け売り?
タニマチ:誰かが言ってたヤツ。
タニマチ:イカす大人のさ。
0:常連客は店員を見、次いで、首を反らす。
0:視線は、虚空。
マナコ:…………。
マナコ:「考えるのは、大事。
マナコ:でも考えても、考えてもわかんない時は……、
0:虎の眼(まなこ)が光った気がした。
マナコ:直感に従え」。
マナコ:行くわ。
0:グラスの残りをグイと干し、常連客は颯爽と立ち上がる。トートバッグを引き寄せ、スマートフォンその他を放り込む。
タニマチ:(薄く笑み)
タニマチ:……何となくそんな気ィしてたわ。
マナコ:(財布を取り出しつつ)
マナコ:んだソノ顔? 今日1キモいな。
タニマチ:や、別に……。
タニマチ:あ、シイナさん居なかったしドリンク代だけでイーよ。
マナコ:そんなサービスねーだろ。仕事した分は取れや。
0:言いつつ、紙幣2枚を差出す。
タニマチ:あ、そっスか? ありがとーゴザイマァス……。
0:受け取り、店員は貨幣を返す。
マナコ:(釣り銭を財布に戻しつつ)
マナコ:はァーっ。変な気分。謎メンツで謎のお茶会。
タニマチ:タンシチュー食えるんだしイイじゃん。どんなんだったかまた聞かして。
マナコ:地獄スギて黙るカモだけどな。
マナコ:あ、バイクさァ、
タニマチ:裏置いてってイイけど。迎え来てもらうん?
マナコ:ありがと。
マナコ:歩いていくわ。駅ビルで何か買ってく。
タニマチ:お、手土産忘れないヒトだ。
マナコ:アタリマエだろ、家行くんだから。そーゆーの出来ねーとかナイわ。
タニマチ:俺だって買ってくし。
マナコ:チョイス キモイんだろ絶対。
マナコ:……は。スイーツ食って、好きくネーけどワイン飲んで。
マナコ:OLかよ。保育士だけど。
タニマチ:酒も何か買ってけば?
マナコ:チューハイとか? 雰囲気チガくナイか。
マナコ:ま、イイけど別に……。
タニマチ:…………。
0:店員は思い立ち、カウンター奥の棚を開ける。
タニマチ:んじゃ、コレは店としてじゃなくて……、
マナコ:ああ?
0:棚の下段、奥から茶色い小瓶を取り出す。
0:紅茶のリキュール。200ml入りミニチュアボトル。
タニマチ:(小瓶を卓上にトン、と置き)
タニマチ:俺から餞別(せんべつ)。
マナコ:ナンこれ。カワイーじゃん。
タニマチ:飲んでたヤツに入ってた酒。甘いし、炭酸で割ってもイケるし、牛乳でも割れる。
マナコ:へー。まー美味かったケド。
マナコ:買えって? いくらよ。
タニマチ:違う違う。
タニマチ:やるから。持ってって飲めば。
マナコ:はあ……?
マナコ:なんで??
タニマチ:何となく。別にワイン無理して飲まんくてもイイと思って。
マナコ:店のじゃネーの。
タニマチ:俺の個人的なヤツ。コレは新品だから。
0:常連客は暫し怪訝な顔。
0:後、薄っすらと納得。
マナコ:……くれるってんなら貰うけど。
マナコ:そーいや、お前昔から……、
マナコ:たまーに、ワケわかんねーコトするヤツだったわ。
タニマチ:キモくて悪かったな。
マナコ:コレは別に、キモくはネーよ。
0:は、と笑み。
マナコ:ありがと。
0:小瓶をポケットに入れ、ヘルメットを抱える常連客。
タニマチ:ま……、楽しんできんさいや。
マナコ:他人事かよ。
マナコ:他人事か。
マナコ:……イイよ。こーゆーのは期待したらダメだから。テキトーにカマしてくるわ。
タニマチ:シイナさんには言っとく。
マナコ:んー。また来るってヨロシク。
マナコ:んじゃ。
タニマチ:おー。気ィ付けて。
0:常連客はドアに手を掛け、押し開く。ドアベルが果敢に鳴り響く。
マナコ:あ、そーだ。
マナコ:この酒さ、オレンジで割ればさっきのっぽくなんの?
タニマチ:あー、うん、なる。そもそもバニラは入れないのが基本レシピなんだけど、
マナコ:細かいのはイーわ。
マナコ:ん。オレンジジュース買ってく。
タニマチ:十分美味いから。
マナコ:名前とかあんの?
タニマチ:名前? 「ティフィン」?
マナコ:割った状態の。話題尽きたトキの為に聞いとくわァ。
タニマチ:あー。ソレな。
タニマチ:何でかは知らんけど……、
0:看板灯の反射を受け、
0:虎の刺繍の眼が光る。
タニマチ:『ティフィン・タイガー』、っつーの。
0:暗転。
0:タニマチにスポット。
タニマチ:【本日のカクテルレシピ】
タニマチ:『ティフィン・タイガー』タニマチアレンジ。
タニマチ:■ブラックティーリキュール「ティフィン」30ml
タニマチ:■バニラシロップ 2tsp(ティースプーン)
タニマチ:■オレンジジュース 60ml
タニマチ:以上を大型のシェーカーで強めにシェーク、氷を満たしたゴブレットグラスに注いでサーブ。
0:【終】
:
0:【空白】/【空白】/【空白】
:
0:【ボーナス・トラック】
0:二十数分後、店内。長身秀麗の女性店員は到着している。
シイナ:ふーん。
シイナ:じゃ、また次でイイって?
タニマチ:っスね、相談はナンか、そんな緊急のヤツじゃナイ的な……、
シイナ:ま……、どうであれそー言うよね、マナコちゃんの場合。
シイナ:他は?
タニマチ:無い、スね。マナコ来て、帰った、てか行っただけ。
シイナ:OK。
シイナ:遅目からかな、最近の土曜のパターンからいくと。
0:アウターを脱ぎ、奥のクロークへと放り込み。
シイナ:……高校一緒なんだっけか、そーいや。
タニマチ:あ、マナコと?
シイナ:お前が下の名前で呼び捨てにするコトって基本無いじゃん。
タニマチ:あー、
シイナ:「弁天山(べんてんやま)」、だったな確か。
タニマチ:そー、そっスね、アホ高……。
シイナ:そー?
タニマチ:多かったっスよ、色んな意味で、アホ。
タニマチ:てか、賢いヤツとテキトーなヤツの落差がエグい。
シイナ:都会の自由目な高校ってそんな感じだよなー。
シイナ:……あ、ジャスミンティー作ろ。
0:女性店員は自前用のカウンタードリンクを作るべく、ティーパックを煮出す作業にかかる。
タニマチ:まー山ん中、って感じでしたケドね。
タニマチ:半端な田舎の……、
シイナ:(手を動かしつつ)
シイナ:って言ったって都会だよ、あんなトコ。マジの田舎と比べたら。
タニマチ:地元みたいな?
シイナ:私の? 言ったコト……、あったかそーいや。
シイナ:ま、そーね……。
シイナ:ロクな思い出ナイけども。
タニマチ:大体どっちかスよね、地元。
シイナ:あん?
タニマチ:好きか、嫌いか。
シイナ:…………。まー。
シイナ:好きなら居るんじゃないの、ずっと。
シイナ:……どんなだったワケ? 高校の時。
タニマチ:マナコっスか?
タニマチ:今とあんまり……、まァ髪とかは派手にしてたっスけど、
シイナ:お前、は。
タニマチ:……、……、
タニマチ:俺、は……、……。
0:何とも言えぬ、読み切れぬ表情。
タニマチ:……それこそ一緒っスけどね。
タニマチ:生徒会(セートカイ)でしたケド。柄にもなく。
シイナ:らしーね。
シイナ:扱いも似たよーな?
タニマチ:あつかい?
タニマチ:どー、えェ……、
タニマチ:……てかまあ、変な面子ばっかだったんでね、マナコ含め……、
シイナ:ふーん。
シイナ:…………、
0:束の間、何事かを考えた後、ドリンクポットをカウンター下の小型冷蔵庫へ。
シイナ:ちょい、ティーパック煮出してる間タバコ吸って来る。
シイナ:ヤニ切れ気味……。
タニマチ:吸えなかったんスか、今日。
シイナ:おお……。あんまり。
シイナ:喫煙所無かった。今日の、稽古場。
タニマチ:へー。
タニマチ:いつもは、
シイナ:ある、トコにはある。
シイナ:ま、吸うヤツ自体少ないらしーけど。
シイナ:ミュージシャンとかと違って、真面目ってか……、
シイナ:どっちかってーと、
0:煙草一式を収めたポーチを取り、含みなく言う。
シイナ:暗い子、多いっぽい。
シイナ:今の、演劇の界隈って。
0:暗転。
0:【終】
タニマチ:或る、心象のうた。
マナコ:虎なり!
マナコ:広茫(こうぼう)として巨像の如く
マナコ:百貨店 上屋階(じょうおくかい)の檻に眠れど
マナコ:汝はもと機械に非(あら)ず
マナコ:牙歯(げし)もて肉を食い裂くとも
マナコ:いかんぞ人間の物理を知らん!
マナコ:見よ 穹窿(きゅうりゅう)に煤煙(ばいえん)ながれ
マナコ:工場区街の屋根屋根より
マナコ:悲しき汽笛は響き渡る。
マナコ:虎なり 虎なり!
マナコ:午後なり
マナコ:広告風船(バルーン)は高く揚(あが)りて
マナコ:薄暮(はくぼ)に迫る都会の空
マナコ:高層建築の上に遠く座りて
マナコ:汝は旗の如くに飢えたるかな!
マナコ:杳(よう)として眺望(ちょうぼう)すれば
マナコ:街路を這い行く蛆蟲(うじむし)ども
マナコ:生きたる食餌(しょくじ)を暗鬱(あんうつ)にせり!
マナコ:虎なり
マナコ:昇降機械(エレベーター)の往復する
マナコ:東京市中 繁華(はんか)の屋根に
マナコ:琥珀の斑(まだら)なる毛皮をきて
マナコ:荒野(あらの)の如くに寂しむもの。
マナコ:虎なり!
マナコ:ああすべて汝の残像
マナコ:虚空のむなしき全景たり!
0:タイトルコール。
タニマチ:『茶話会(さわかい)にティフィン・タイガーを』
0:【間】
マナコ:うげ、お前かよ。
0:某月某日、某時刻。
0:とあるバーの店内。カウンターには男性店員。常連客の女性はドアをくぐるなり、放言。
タニマチ:あ、ギャルだギャル。
タニマチ:っしゃァせーェ。
マナコ:殺すぞテメー。
マナコ:え、今日土曜日チガう? シイナさんは?
タニマチ:遅入り。八時半ぐらい。
マナコ:はァー。だっるぅー。せめてカスミンであれや。
タニマチ:最近土曜はタイガイ俺じゃん。
マナコ:影ウスいから。
タニマチ:うるせー。
0:常連客は勝手知ったる動作で着席。スマートフォンとポーチを卓上に残し、ヘルメットとトートバッグを壁際の椅子に放る。
マナコ:(LINEの通知を確認しながら)
マナコ:バイク飛ばしてソンしたわー。シイナさんに話聞いてもらおーと思ってたのに。
タニマチ:言ってもーじき来るから。
タニマチ:今日出勤?
マナコ:二時までだったけどさー、最ィ悪。待機の子の、願書整理ゼンゼン終わんねーの。
タニマチ:手伝わされてるヤツか。まー、時期的に……、
マナコ:マジでさー、片っ端から入れりゃいーんだよ。困り度なんか、比べらんないんだから。
タニマチ:詳しくナイけど、1つの園で見れる数が、とかの……、
マナコ:だァから、園も保育士ももっと増やせって。
タニマチ:俺に言われても困るっス……。
マナコ:現場の声! 言っとけお前、国によォ。
タニマチ:俺はダレだよ。
0:常連客のLINEに通知。
マナコ:お、スザキ先生……。
マナコ:(文面を確認し)
マナコ:ぐおー、マジか……、
タニマチ:同僚?
マナコ:(返信を打ち込みながら)
マナコ:んー。
マナコ:担任一緒の、ゆるふわ系の。パパ共に人気あんの。
タニマチ:ふーん。
マナコ:絶対何人か喰ってるべ。
タニマチ:知らんけど。
マナコ:あーーー、メンドいメンドい。勤務時間外だっつの。
0:常連客は片方の足を小刻みに動かす。
マナコ:(自分で気づき)
マナコ:あっ! タニマチてめー、貧乏揺すり見たらスグ止めろっつったろ!
タニマチ:字ィ打ってるから邪魔かと思って……、
タニマチ:それ職場でも頼んでんの?
マナコ:馬鹿オツムか? 言わネーだろフツー。
マナコ:ムチャクチャ気ィ付けてんだよ。
タニマチ:マナちゃん先生、貧乏揺すりハシタなくってよ。
マナコ:シバいて埋める。
タニマチ:こーわ。
0:返信を打ち終わり、スマートフォンを卓上に投げ出す。
マナコ:だっ!
マナコ:……はあー。もー、ヤダこの女……。
タニマチ:何かトラブル?
マナコ:言ったらしょーもナイ事だけどさ……。
マナコ:てかお前、何か出せや。シイナさん居なくても客だぞォ。
タニマチ:へーへー。どんなんがイイんだよ。
マナコ:テキトーで。甘くて酔えたら何でも。
マナコ:あ。だからバイク今日も、
タニマチ:ん。裏に置いといて良いよ。
タニマチ:アレ、いつも何時ぐらいに取りに来てんの?
マナコ:朝、朝。家から1駅だけ電車乗って、こっからバイクで出勤すんの。
タニマチ:ふーん。
0:店員はリキュールの棚を物色する。
タニマチ:テキトー、ね……。
0:ちら、と常連客を観察する。
タニマチ:……そのスカジャン、
マナコ:んあ?
タニマチ:エグいな、よく見たら。
マナコ:お!
0:常連客は威勢よく立ち上がる。
マナコ:これイっしょ? 「ボギーズ」で一目惚れ。
タニマチ:虎のカオ、正面向きで付いてんのヤバい……。
タニマチ:てかコレ、虎の眼のトコ石ハマってんの?
マナコ:そーなんよ。片っぽ取れてるけどな。
タニマチ:石これアレじゃん、タイガーアイ。
マナコ:そーゆーのもユルくてイーっしょ?
マナコ:でェ、後ろがもっとヤベーの。
0:くるりと背面を見せる。
タニマチ:うおっ、背中は虎の後ろ姿……、
タニマチ:コレ肛門見えてね?
マナコ:尻尾で隠れてるわ! 買わねーだろ見えてたら。
タニマチ:そーゆートガり方かなって。
タニマチ:や、コレ普通にアツいわ……。
マナコ:一点物だからもうナイよ。割としたし。
タニマチ:ボギーズ最近行けてないなァ……。
タニマチ:店長、ボギさん元気?
マナコ:相変わらず古着バカ。鼻毛出てた。
タニマチ:今度カオ出そ……。
タニマチ:てか、虎いま流行ってんの?
タニマチ:イリヤもたまに、虎柄のシャツ着てたけど。
マナコ:イリヤ……??
マナコ:あ、カスミンか。苗字呼びキモっ。
タニマチ:何でだよ。距離感的にそーだろ。
マナコ:今度カスミンて呼んでみろや。
タニマチ:イキナリ? それこそキモいわ……。
マナコ:虎な。流行ってはネーだろ。ウチは昔から好きだけど。
タニマチ:虎??
マナコ:そーだよ。文句あんの?
タニマチ:無いっス。
タニマチ:うス。
マナコ:昔さー、ルーチェになる前のトコ、屋上に虎居たじゃん?
タニマチ:屋上に虎……?
タニマチ:あーーーー。森谷(もりや)デパートだった時か。100円入れたら吠えて動くやつ。
マナコ:ソレソレ。
タニマチ:めっちゃ昔くないか。
マナコ:5歳ぐらい?
マナコ:あっこの屋上好きでさ。ジイちゃんに、よく連れてってもらって。
マナコ:上乗って、ガオォーーーって、一緒に吠えてた。
タニマチ:園長先生だったジイちゃん?
マナコ:そー。そっからずっと好き。
マナコ:女子サッカーやってた時も、似てるからっつってプーマのジャージ着てたし。
マナコ:プーマってホントは豹?
タニマチ:プーマはピューマだろ?
マナコ:ピューマって豹?
タニマチ:ピューマはピューマじゃね?
マナコ:……あ、カクテル決めた。
マナコ:あ、そーだよ。早くしろや。
0:店員は棚から目当ての瓶類を選び出し、カウンターに並べる。
タニマチ:(冷蔵庫からオレンジジュースを取り出しながら)
タニマチ:んで、同僚からのLINEは何だったん?
マナコ:あーー。
マナコ:……ウチが入ってるクラスにさ、
0:前髪を手櫛で整えながら、常連客は話し出す。
マナコ:あんま来れない子がいんのね。
タニマチ:(シェーカーを取り出しながら)
タニマチ:登校拒否的な?
マナコ:登園、な。
マナコ:その子はまあ、そーゆー感じってより、園は好きだけど家で過ごしたい日もある、っていう。
タニマチ:(シェーカーに氷を入れながら)
タニマチ:あー。
タニマチ:親御さんは家では、
マナコ:今のトコ見れてて、むしろそーいう日は一緒にどっか行ったり、家でパン焼いたりとか、
タニマチ:全然イイじゃん。
マナコ:ウチもそー思う。子どもにもペースってあるし。
マナコ:なんだけど、よ。
0:店員はシェーカーにリキュール、シロップ、オレンジジュースの順に注ぐ。
タニマチ:(キャップを嵌めながら)
タニマチ:その、同僚の人が?
マナコ:考え方がさァ、チガウんだコレ。毎日ちゃんと来れた方がイイっていう。
タニマチ:小学校の、予行演習的な。
マナコ:その子の意思で来れたら越したコトないし、別に、どっちが正しいとか言わネーけどさー。
マナコ:やり方がなー……、
タニマチ:あ、ちょい振るわシェーカー。
0:鋭いシェーク音。液体が一気に冷やされ、混ざり合う。
マナコ:うわ……、氷の振動感じてる顔キモ……。
タニマチ:ちょ、黙れやっ。
0:シェークを切り上げ、グラスに注ぐ。
0:グラスに新たな氷を沈め、完成。
タニマチ:(サーブしつつ)
タニマチ:あい、お待ち。
マナコ:おー。美味そーじゃん。
タニマチ:「ティフィン」って紅茶のリキュールを、オレンジで割ったヤツ。
マナコ:へェー。
タニマチ:一般的なレシピではシェークしないんだけどさ、今日はさ、
マナコ:(店員の顔をジロと見)
マナコ:ドヤ顔ヤメろや。
タニマチ:してねーわ!?
タニマチ:……え? ちょ、してねーよね??
マナコ:(無視して一口含み)
マナコ:……甘っ。ウマっ。
マナコ:なんか、バニラ的なん入ってる?
タニマチ:あー。うん、シロップ入れた。
マナコ:(更に一口含み、味わい)
マナコ:んー。バニラ良いよなー。
マナコ:最近ハマってるわ。こないだ若いママさんから石鹸もらったし。
タニマチ:あー。石鹸、「Passh(パッシュ)」とかの?
マナコ:(吹き出しかけ)
マナコ:ぶっ、けほっっ!
タニマチ:えっ、
マナコ:……っ、お前が「Passh(パッシュ)」とか言うなや気持ちワリーなァー!
タニマチ:何でだよ! ルーチェにも入ってるしドコでもあるじゃんか、
マナコ:パーマ野郎は3階アパレル雑貨フロアに足を踏み入れるんじゃネー。
タニマチ:いーーっぱい居るわパーマの人! 3階アパレル&アウトドア雑貨フロアに!
マナコ:ったく、鼻から吹くかと思った。
タニマチ:(シェーカーを分解しつつ)
タニマチ:……で。
タニマチ:その考え違う同僚の事、相談に?
マナコ:ああ?
マナコ:あーー、チガウチガウ。たまたまLINE来ただけ。
0:常連客の表情が、辟易したものに変わる。
マナコ:まったコノ女がさー。場外乱闘ばっかすんのね。
タニマチ:じょーがい……? プロレス?
マナコ:や、だから。園で勝負せずに、家庭訪問ダイスキ野郎ってコト。
タニマチ:そんな言い方すんの? 保育業界で。
マナコ:するワケねーだろ。脳内で言ってるダケ。
マナコ:……本人はなー。
マナコ:1人ひとりに、個別で向き合ってるつもりなワケよ。
タニマチ:その、さっき言ってた、家で過ごしたい子のトコにも?
マナコ:今日、行ったって。
マナコ:事後報告だし……。2人のペアで担任だぞっつって。
タニマチ:んー、事後はな……。
タニマチ:そういうのって、行ってどんな話すんの?
マナコ:イロイロ。敢えて本人とは会わずに、親と喋ったり。
マナコ:一緒に遊びながら、園であった事、それとなーく話したり。
タニマチ:ふんふん。
マナコ:どーあれさァ。逆効果だったら意味ネーと思うワケ。
タニマチ:あー。かえって来にくくなるような。
マナコ:大人は大人ってダケで、子どもにはプレッシャーなモンじゃん。たとえ保育士でもさ。
タニマチ:まァ、そーなんだろな。
マナコ:都合よくコントロールしようとしても、子どもにはバレるから。直接子どもと喋るならナオサラ。
タニマチ:その先生は結構、圧(あつ)強い感じなん?
マナコ:てか、ピュア過ぎ。本人が子どもみたいだから。
タニマチ:あー……。いた気ィするわ、そーゆー先生……。
マナコ:親とか、問題ナイ感じの子には人気出るケドさ。
タニマチ:馴染まない子の気持ちわかんないとか?
マナコ:本人はわかりたい理解したいって、ガンガン行ってるケド。ソレで子どもヒイてんのがワカンナイ、みたいな。
タニマチ:やる気ナイより厄介って感じか。
マナコ:マジでソレ。チカゴロ暴走気味だし……、
マナコ:こっちはこっちで、色々バランス見て、ウマいコトやろうとしてんのにさァ。
マナコ:はあーっ……。
0:溜息をつき、常連客は一口含む。
タニマチ:……なんか、
マナコ:あ?
タニマチ:仕事の話で溜息ついて酒飲んで。
タニマチ:社会人って感じよな。
マナコ:お前もだろが。自覚持てや。
タニマチ:いや……、そーいう意味でもナイけど。
タニマチ:高校から、そんな経ってナイ気もすんのに、って。
マナコ:ウチらは働き出したん早かったし。つってもまだ2年目だけど。
タニマチ:保育の短大って2年?
マナコ:3年制のトコも多いケド。
マナコ:2年はマジでゲロ吐くスケジュール。プラスでバイトもしてたしさ、金無いのイヤだったし。
マナコ:実習の時とか、ブル吉(キチ)キメてパッキパキで行ってたから。
タニマチ:レッドブルその略し方してんの聞いたコトないんだけど……。
0:常連客は一口、含む。
マナコ:でもなーーー、それでも今より遊んでたんよな。
マナコ:マジであん時アタマおかしかったわ。ソレかウチ2人居た??
タニマチ:2人はヤベぇって。周り処理できねーわ。
タニマチ:その時期に、初めて来たんだっけ?
マナコ:そーだよ。あん時なんか、何かの帰りだっけ。リサと二人で……、
マナコ:なんか誰かをめっちゃディスってたんは覚えてる。
タニマチ:アレだろ、OBの、
マナコ:あーーーー、そーだそーだ。
マナコ:あの糞ヤリチン。実習生喰いまくった。
タニマチ:飛ばされたんだっけ?
マナコ:今もどっかで保育士やってるよ。マジで闇だべ、人手不足だけど、あーゆーんはクビでイーわ。
0:常連客はグイ、とグラスを呷る。
タニマチ:んで、その時俺は先に気付いてたんだけど、
マナコ:なんかチラチラ見てくるキモい眼鏡いんなーって見たら、お前だった。
タニマチ:キモくはなかったわ!
マナコ:アレ伊達? マジでやめて良かったわ。二度とすんじゃねーぞ。
タニマチ:今はしねーケドさ。ケッコー別に、ソレはソレで、トレードマーク的に……、
マナコ:周りは気ィ使ってキモくても言わねーモンなの。そーやってイタいのはどんどんイタくなってくんだから。
マナコ:パーマも何だソレ? イカスミ焼きそばか?
タニマチ:(吹き出し)
タニマチ:ぶふっ。
マナコ:(同じく吹き出し)
マナコ:ぶ、はっっ!
0:二人、見合い、ひとしきり大笑。
タニマチ:い、い、イカスミ焼きそばっ……。パスタじゃねーのかよっ。
マナコ:ぶふっ……、ち、縮れてっから。
マナコ:ヒワイなんだよ真っ黒で。色入れてアッシュとかにしろや。
タニマチ:博士みたいになるだろ。
マナコ:んでダテ眼鏡よ。
マナコ:ぎゃはははははっ! キャラ強っ。むしろ来るわーー。
タニマチ:ケゲンな眼で見られるわ。ツイにおかしくなったかー、つって。
マナコ:そーゆーの狙ってんでしょ? お前らイタイタ君はさァー。
マナコ:オレは一味チガウ、みたいな。ひゅうううーーーうう(寒風の効果音)。
タニマチ:ヤメロやっ! 狙ってねーし。
タニマチ:伊達眼鏡はだって、流行ってたじゃんそん時。
マナコ:今のダジャレ? 殺すぞ。
タニマチ:違うわっ。
0:楽しげにニヤける常連客。
マナコ:高校の時もさー、ポニテにしてさァ、くくってたじゃん。何なんアレ?
タニマチ:(居心地悪気に)
タニマチ:や、その、若気の至りっつーか……、
マナコ:うーわ、マジでイッタいヤツいるわって。
マナコ:思わず生徒会誘ったよね。
タニマチ:ギャルに拉致されてマジでビビったって。
タニマチ:イキナリ執行部室連れてかれるし。会長も俺も困ってたじゃん。
マナコ:真面目チャン真面目クンばっかだったからさァ。
マナコ:コレで1年はキツいわァって思って。珍味ほしかったんだよ、チンミ。めんたいこ的な。
タニマチ:白米の方だったって俺は、ドッチかと言えば。
タニマチ:書記は頑張ったケドも。
マナコ:結果な。全員ナンか変だったし……。
マナコ:何か一瞬さァ、付き合うか、どーする? みたいなハナシになったコトあったべ。
タニマチ:冷静に考えてみたら、お互いソレはナイっスね、てなった時な。
マナコ:あん時イチバン意見合ったな。
タニマチ:文化祭のイキオイでくっつかなくて良かったと思う、マジで。
マナコ:絶対スグ終わってギクシャクしてたわ。元カレ居る店とか絶対来ねーし。
0:くい、と一口。
マナコ:ぷは。
マナコ:(カウンターを叩きつつ)シイナさんまだーーー??
タニマチ:(時計を見やり)
タニマチ:まだだろ。時間そんな経ってナイし。
マナコ:接客ダルいと時が進まねーなァ!
タニマチ:ダルくねーし。程よい湯加減だし。
マナコ:喩えキモっ。2度とすんなよ。
タニマチ:キモキモ言い過ぎだろ保育士が……。
0:ブ、と通知音。常連客はスマートフォンを確認。
マナコ:げ。スザキ……。
マナコ:何なんマジで……。
タニマチ:マジでイヤそーだな。嫌いなん?
マナコ:(パスコードを打ち込みながら)
マナコ:んーーーー。
マナコ:そーゆーワケでも無い。ちゃんと勉強してると思うし、ヒトが悪いんでもナイけど……。
0:常連客は文面を確認。
マナコ:う、クソ長文っ! ヤなんだけどマジで……。
タニマチ:長文てダケで構えるよな。
マナコ:(小刻みにスワイプ。)
マナコ:…………。
マナコ:んンーー?
マナコ:また何かダルい感じに……。何て答えてほしいんコレ……。
タニマチ:どんなん来てんの?
マナコ:(突っ伏し、スマートフォンを差出す)
マナコ:ん。
タニマチ:見てイーのかよ?
タニマチ:(受け取り、スワイプ)
タニマチ:えーと。
タニマチ:「お家訪問おつかれさま! 一緒に行けなくてごめんね、次はかならず。」
タニマチ:「タクトくんは多分、今日はそういう気分だったんだと思う。こちらはペースを乱さずどっしり構えて、長期戦で頑張って行きましょう!」
マナコ:ウチのトコは読まなくてイイから!
タニマチ:職場ではこーゆう感じなんだァ……。
マナコ:殺すぞ。
タニマチ:という、マナちゃん先生の温かい言葉に対して、スザキ先生は……、
マナコ:シバく。
タニマチ:(文をあらため)
タニマチ:……長っが。
タニマチ:「そう言ってもらえて嬉しい。ありがとう。正直、考えれば考えるほど袋小路だったけど、そうだよね、子どもでも、日によって気分ってあるよね。後は、タクトくんに登園したい気分になってもらう為に、私達が取るべきアプローチが何か、だよね。」
マナコ:はァーっ。ソコが違うんだっつの。
タニマチ:区切らず書くタイプのヒトだ。
タニマチ:「もっとしっかり2人で意見を出し合って、作戦を練っていけば、今よりも幅の広い対応が取れると思う。ミミカちゃんの件にも、通じる事として。」
マナコ:1人で突っ走ってんのオメーだろ。
タニマチ:ミミカちゃんてのは?
マナコ:ソッチはわかりやすい登園拒否。ウチが見たトコ、ヤバいのは親。
タニマチ:ふんふん。
タニマチ:えー、と、まだあるわ……、
タニマチ:「マナコ先生の発想力や柔軟さには、いつも驚かされ、助けられています。自分には欠けていると感じる部分なので、是非もっとお話をして、勉強させてもらいたいと思っています。」
タニマチ:「私が得意な部分に付いても、問題の種類によっては役立ててもらえると思う。至らない部分に関しては、遠慮なく指摘をしてもらいたいです。」
マナコ:くあーーー。何かなァーーーー。
マナコ:LINEだとこーゆーカンジ。
マナコ:カタいっつーか。雰囲気はゆるふわなのに。
タニマチ:文章だとキャラ変わるヒトいるよな。
タニマチ:てか、続き来たケド。
マナコ:うぇ!? まだ書くコトあんの……、
マナコ:読んでよ。
タニマチ:んー。えー、
タニマチ:「現場ではその時々の対応に追われて、なかなかゆっくり相談も出来無いよね。そこで、提案なのですが、仕事帰りや、お休みの日に、懇親を兼ねた意見交換の機会を設けるのはどうでしょう。目先の問題だけに留まらず、お互いの、保育・養育関係者としての、成長の為にも。」
タニマチ:……、ほおーー。
マナコ:あァーーーー。
マナコ:もーーーー、勘弁しろてマジーーー。
タニマチ:「追伸。」、
マナコ:あんのかい!
タニマチ:「ピアノや歌に付いては、アドバイスや、練習にお付き合いも出来ます。」
マナコ:上からっ。
マナコ:はァーー? え、はァーーーっっ??
タニマチ:最後に。
タニマチ:「マナコ先生の事を知りたいし、私を知ってほしい。もっと仲良くなりたいです。」
タニマチ:……だって。
マナコ:…………。
マナコ:(奇妙なものを飲み下したように)
マナコ:何なん。
タニマチ:歌とピアノ、苦手なんだっけ。マナコ先生。
マナコ:うるせー。ちょっと弾き終わるまでスリル満点なだけだし。子どもらにも良いスパイスだし。
タニマチ:そういうスザキ先生は、ピアノや歌、得意なん?
マナコ:……上手いよ。
マナコ:テクり方ヤバい。ソコは認める。
タニマチ:ふーん。
タニマチ:保育の人ってさー、絶対やんなきゃなんだっけ、あの、ピアノのアレ、バイなんとかのヤツ、
マナコ:バイエルなー。糞バイエルっ。
マナコ:もーーー、マジで思い出すんもヤだわ。ピアノ触ったコトもネーっつの、コッチは。
タニマチ:でも受かったんだ?
マナコ:死ぬ気でやんだよ皆。てか死ぬ。
マナコ:お嬢で習ってたとかのヤツ以外は。
タニマチ:この人は、感じ的に……、
マナコ:ゴリゴリお嬢だよ。ピアノ教室(きょーしつ)通ってたんだとよォー。
マナコ:……いやウチも行かされかけたけど。もーサッカー始めてたから……。
タニマチ:ま、でも、教えてくれるってんなら教えてもらえば?
タニマチ:上手いヒトって、コツとかも言ってくれそーだし。
マナコ:バリ無理。絶対ヤダ。空気に耐えらんネーよマジで。
タニマチ:テンポはダイブ違いそーだけど。
タニマチ:このヒト文章見る限り、空回りしがちだけど結構マジメに……、
マナコ:言ったべ、ソコはそーなんだって。
マナコ:だから別に嫌いとかではねーケド、とにかくズレてんの。
マナコ:大人が子どもみたいのは、苦手だし。
タニマチ:何でだろな。
マナコ:……。チョーシ狂うから。
マナコ:ガキでもナイのに、真っ直ぐ見てくんなって。
タニマチ:照れちゃう的な?
マナコ:ナンでそーなんだよ殺すぞっ!
マナコ:好き勝手に突っ走られたら、子どもなら捕まえられっけど、大人は無理じゃん。手に負えネーから不安になんの。
タニマチ:それって、ほっとけない、ってのとはチガウんかね。
マナコ:……、知らね。
マナコ:苦手な理由はどーでもイイべ。職場で好き嫌い言ってもしょーがナイし。
タニマチ:ま、そーだけど。
マナコ:スマホ返して。
タニマチ:あ、ん。
0:店員は常連客にスマートフォンを手渡す。
タニマチ:どーでもいーけど画面バキバキじゃん。
マナコ:ほっとけや。落とすトキに限って地面硬てーんだよ。
0:二、三、通知を確認し、卓上にスマートフォンを置く。
マナコ:はぁーーー。
マナコ:例えばさー、「私が気付いた」、「イイ思いつき」、みたいな感じで言ってっけどさ。
マナコ:意見交換すんのも、一緒に作戦練んのもアタリマエじゃん。何のための2人体制なんだってハナシよ。
タニマチ:そりゃ、ま、ごもっとも。
タニマチ:……あ、貧乏揺すり。
マナコ:おっと。(足の揺さぶりを止め)
ん、ありがと。
マナコ:……だからさ、ワザワザ時間外にするコトとチガウだろって。普段から現場でやれっつって。
タニマチ:んー。
タニマチ:単純にさ、このヒト、仲良くなりたいんじゃナイの?
タニマチ:て、書いてあるし。
マナコ:…………、
マナコ:何ソレ?? 意味不明。好きとかそーゆーコト??
タニマチ:知らんけど、志ある感じの人なんだったら、同僚として興味あるのかもしんないし。
タニマチ:ケッコー文面のまま、裏とかはナイんじゃねーの?
マナコ:ソコは勘繰ってはネーけど。むしろ大人相手にはもーちょい裏表付けろやって思うぐらいだし。
マナコ:親とかと喋る時もさー、ヒヤヒヤすんだってマジ。ママ連中はパパ共みたく大目に見てくんねーから。
タニマチ:よく見てんな。
マナコ:ペア担なんだからあたりめーだろっ。
マナコ:てか、同僚として仲良くしたいなら、自分からそーすりゃイイじゃん。
マナコ:コッチはムチャクチャ歩みよってんだって、キャラ作ってさァ!
タニマチ:ソレ、最初にキャラで行ったら引っ込み付かなくて素ゥ出せない感じ?
マナコ:てか出せるワケねーだろ。子どもに悪影響だろが。
タニマチ:その辺は常識人かよ。
マナコ:つっても別に……、口調ダケだし。
マナコ:猫被ってるワケでもナイし、言った方がイイって、思ったコトは言う。
マナコ:管理職は何だかんだアタマ硬てーから。バトルよバトル。
タニマチ:その辺は変わんないスね、副会長。
マナコ:うっせ、書記。
0:氷がカラン、と鳴る。
マナコ:……自分が大人になってもさ。
マナコ:子どもナメてる大人は、やっぱキライだから。
0:常連客はグイ、とグラスを呷る。
マナコ:(グラスを揺すり中身を撹拌しながら)
マナコ:てか何でお前とこんな話してんの?? キモいんだけどマジで。
タニマチ:LINE来たから、偶々そーゆー流れだろ?
マナコ:……はァ。ほんとマジさァ。
マナコ:プライベートに持ち込みたくナイんだって、ウチは。
タニマチ:あー。仕事のコト?
マナコ:じゃなきゃ半端になるから。
マナコ:動く時は動いて、休む時は休まなきゃ、1試合持たないって。コーチの口癖。
タニマチ:サッカーの話くないかソレ。
マナコ:バカ、コレ何でもイケんだって。ジイちゃんも死ぬ前、似たよーなコト言ってたし。
タニマチ:んー……。
0:店員はカウンター内の木椅子を引き寄せ、カタンと座る。
タニマチ:何か案外、この人も、職場ではどーやったらイイのかわかんないのかもな。
マナコ:ナニが??
タニマチ:打ち解けたり、距離詰めたりさ。
マナコ:……飲みニケーション的な事がしたい、ってコト?
タニマチ:書き方はカタいケド、要はそういう事じゃね?
タニマチ:自分がしたいコトとか思ってるコトとか、相手に伝えるの下手なヒトって居るじゃん。
マナコ:コミュ障的な? そーゆー感じでもナイけど……。
タニマチ:一見そう見えなくても、ゆるふわなのは鎧で、堅くて融通利かないのが、そのヒトの素なのかもよ。
マナコ:…………。
タニマチ:マナコだってさ、職場でのキャラと素は違うワケじゃん。
タニマチ:そのヒトもそうで、ホントは困ってんのかも。
マナコ:……んー。
マナコ:そーゆー、子どもは、確かに居るけど。
マナコ:…………「大人だって子どもの、成れの果て」、だしな。
タニマチ:それも誰かが言ってたヤツ?
マナコ:短大の婆ちゃん先生。
マナコ:イケてる大人の言うコトはさ、
マナコ:覚えとく事にしてんの。ヒントになるから。
タニマチ:ほぉー。
0:常連客は一口含む。
マナコ:でも、よ?
マナコ:とりまそーゆー感じだったとして……。
マナコ:ウチは何、サシ飲みでもすればいいんコレ?
タニマチ:ルーチェの地下とか行けば。
マナコ:園でのキャラのまま? カルアミルクとか飲めばいいワケ?
タニマチ:ティフィンもポジション変わんねーケドね。
タニマチ:ただ、ま、今の、素で行きゃイイんじゃね? 逆に。
マナコ:バレるじゃん色々。
タニマチ:秘密で、ソコは。
タニマチ:切り替えにもなるかもだし。
マナコ:友達じゃん、タダの。
タニマチ:いっそのこと、もう。
タニマチ:てかぶっちゃけ友達になりたいんじゃねーの。
マナコ:…………。
マナコ:ぅえええええーーーーっ。
マナコ:スザキとぉーーー??
タニマチ:わからんけど。
タニマチ:ナイか?
マナコ:ナっ……、イかどうかも、よくわかんねーぐらいだけど。
マナコ:……ええーーーー。何食うん、あーゆー女子て……。
マナコ:主食マカロンとか?
タニマチ:糖尿なるわ。
タニマチ:見かけによらんかもだし。日本酒とカラスミとか。
マナコ:ウチが無理だわソレ。
マナコ:何だろ、なんか肉とか食わなさそーだけど。野菜とか食えるトコ……、
タニマチ:ルーチェの4階なら結構、色んなニーズにも、
マナコ:ルーチェ大好きだなお前!
マナコ:覚えたてか!
マナコ:てか、何で飲み食べ行く流れになってんの。
タニマチ:意外と、まんざらでもナイとか?
マナコ:……、や、連携取りやすくなったら、ウチも楽だけどさ……。
タニマチ:だし、ヤな言い方だけど、暴走しないようにコントロール出来るかもよ、仲良くなった方が。
マナコ:んんーーーー……。
マナコ:…………。
タニマチ:ま、同僚と休日会うとか、キツいはキツいだろーケドさ。
マナコ:ベッタベタの職場とかあるじゃん。皆で旅行行ってー、みたいな。あーゆーんがヤなワケ。
タニマチ:なあなあなヤツな。
マナコ:ケジメ付けろや、ていう。
マナコ:……、仕事しやすくする為に、ってゆーんなら、別に……、
タニマチ:そんなに変な話でも、
マナコ:いやいやいやいや。オカシいオカシい。
マナコ:行く流れじゃんコレ。ネーって。
タニマチ:とはいえ、物は試し、
マナコ:マジでキツいんだって! 大人で保育士で天然チャンは許されねーから!
タニマチ:んじゃ、2人で会う前にどんなカンジか、1回ココ連れて来たら?
マナコ:その時点で懇親会しちゃってんだろーがソレ!
マナコ:……イイってもー、スザキせんせーの話は……。どーせ園で顔合わすんだし。
タニマチ:ま、そーな。
タニマチ:でも何か、意外っつーか。
タニマチ:高校の時はケッコー、どんなキャラのヤツにでも、グイグイ行くタイプだったけど。
マナコ:社会出て慎重になったトカ言いてェの? キモ、殺すわ。
タニマチ:少なくとも丸くはなってねーな……。
タニマチ:じゃなくて、ピンポイントで苦手なタイプなんかなー、とか。
マナコ:……言ったべ。別に嫌いとかとチガウし、真面目なのは、イイと思うケド。
タニマチ:うん、うん。
マナコ:たださァ、空回りして暴走して、結果子どもにシワ寄せ行ってたら、ソレは普通にダメだろ。こっちは大人なんだから。
タニマチ:ソコはそーね。ピュアで子供みたいって言っても、ホントの子供から見たら、
マナコ:どーしよーもなく大人だから。
マナコ:てか、どーしよーもネー大人。コドモに子どもの世話は務まんねーし。
タニマチ:手厳し。
マナコ:辞めてったヤツとか見ててもそーだよ。
マナコ:対等な目線で、とか言って、責任から逃げんじゃねーっつって。ソレが1番子どもナメてるから。
タニマチ:このヒトもそんな感じ?
マナコ:……ソコはそーでもナイけど。
マナコ:周りも自分も見えて無い。
タニマチ:て、言ってあげたら? 言われて初めて気付く、とかかも。
マナコ:…………。
マナコ:そりゃ、ウチらペーペーだからヤラカすしさ。
マナコ:ベテランのおばはん先生たちだって、カンペキとかじゃ全然ナイから。
タニマチ:うん。
マナコ:子どもの反応なんか、コッチの予想全く通じねーし。
マナコ:てか、通じねーのが普通。だから勉強して、観察して、ちょっとでもわかろうとすんのね。
タニマチ:大人に気ィ使って、期待通りに振る舞ってくれる子供ばっかだったら、保育士イラナイ、と。
マナコ:そーゆー子は病むから。むしろ要注意。
タニマチ:(ほんの一瞬、思案し)
タニマチ:うん……、
タニマチ:そう、な。
マナコ:だからさ、コッチがどーしてほしいか、じゃなくて。
マナコ:その子がどうしたいか、の方が大事なんだって。園来たくなきゃ、来なきゃいーんだよ、取り敢えずは。
タニマチ:休みたい子が休めてるのは、イイ状態ってコトね、ひとまず。
マナコ:まーな。まずそっからじゃなきゃ、行きたい気にもなって貰えねーから。
タニマチ:ふむ。そこはそりゃ、そーなんだ、ろうと思う。
マナコ:「どーして来ないの?」「どーやったら来てくれるの?」
マナコ:「知りたい、教えて?」って、グイグイ来られたらさ、
タニマチ:大人でもヤだもんな。
マナコ:逆らえねーデカいヤツにそんなんされてみろよ。
マナコ:最悪、病むだろ。
タニマチ:そーね。
マナコ:もちろん、だからって何もしねーワケにはいかないケドさ。
マナコ:ただ、気ィ遣うのはコッチ。ウマいコトやんなきゃ、いつでも。
タニマチ:真正面からぶつかってくだけじゃ駄目なワケだ。
マナコ:ぶつかったらブッ飛ぶじゃん、大人と子どもなんだから。
タニマチ:……、ナルホド、なァー……。
タニマチ:……でもアレだな、ソレ、
マナコ:あ?
タニマチ:ムチャクチャ難しいな。当たり前だけど。
マナコ:…………。
マナコ:そーだよ?
マナコ:だから、毎日ブッツケ本番なんだって。
マナコ:……そりゃ、さァ、意見交換して、わかってくれんならイーよ? でもなんか……、
タニマチ:ワカンナさそう?
マナコ:……どーだか。喋ってみねーとワカんねー。
マナコ:てかまず、ウチがこのヒトの言ってるコトわかんのか微妙。
タニマチ:そーなん? そーいう系?
マナコ:何考えてんのかワカンネーし。
マナコ:基本ふわふわ笑ってて愛想イーんだけど、ヨク考えたらソレ以外の表情見たコトねー。
タニマチ:ほォ。ふむ……。
マナコ:シャレと本気の区別もムズいし。ビックリするよーなコト急に言ってさァ、後から聞いたら本気だったり。逆もある。
タニマチ:あー。あーー……。
タニマチ:そういう、感じ。
マナコ:周りはそりゃ困るじゃん。子どもでそーゆーんはあるけど、そんまま保育士なられても。
タニマチ:んー。
マナコ:自覚あるんなら、本人だって困ってんだろーけど、
タニマチ:ぶっちゃけさ、
マナコ:ん?
タニマチ:向いてない、と思う?
マナコ:…………。
マナコ:んあーーーーー。
0:常連客は首を反らし、思案。
マナコ:……ソレは、言いたくネーな。
タニマチ:何で?
マナコ:ウチがサンザン言われて来たから。
マナコ:気合いで黙らすもんじゃん、ソレって。
タニマチ:マナコは向いてそーだケドな、意外と。
マナコ:意外とてナンだよ? 殺すぞ。
タニマチ:あヒっ。スイマセンっ。
マナコ:ウチの場合は偏見だけど。言われる理由はカンケー無いし。
マナコ:サッカーに向いてるヤツがサッカーやるんじゃネーの。
マナコ:サッカーやってるヤツが、サッカー向いてるヤツなの。
タニマチ:わかるケド意味わからん。
マナコ:向いてねーなテメー。やめちまえや。
タニマチ:えぇ……。
マナコ:向いてよーが無かろーが、気合いさえありゃ、何か見つけてどーにかすんの。
マナコ:大人なんだから。
タニマチ:……かっけェっス。
マナコ:(猛く笑み)
マナコ:アタリマエじゃん。ウチだし。
タニマチ:虎に憧れてるダケあるわァ。
マナコ:(吹き出し)
マナコ:ぶっ。憧れてネーし。好きなダケだし。
タニマチ:(スカジャンの刺繍を見やり)
タニマチ:またまたァ、そんな真っ正面の虎付けて、
マナコ:イジんなや殺すぞ。
マナコ:……ま、真っ直ぐガーって行ってる感じがキたのは確かだけど。プーマもそうだし。
タニマチ:プーマは横向きじゃね?
マナコ:どー見ても真っ直ぐ進んでんのを横から映してんだろーが! 目ェ銀紙(ぎんがみ)か。
タニマチ:ていうか豹だし。
マナコ:ピューマだろ。
タニマチ:あそっか。
タニマチ:……まあ、まあ……、さ、
タニマチ:……そのヒトの、そういう感じさ。
マナコ:んあ?
タニマチ:付き合い長くなって馴れたら、
タニマチ:判るようになるカモよ。
マナコ:……、ナンそれ。
タニマチ:悪意は多分ナイし。どーにかする方法、本人も見つけたいんカモだし。
マナコ:……、そんなんさァ、ウチが付き合う筋合い、
マナコ:……あ、ペア担か。
マナコ:んんーーーー……、
0:常連客が眉間に指を当て思案しかけた所へ、
0:ブ、
0:と、LINE通知。
マナコ:(ビクリとし)
マナコ:うっ。
マナコ:…………。
マナコ:ナンでウチがビビんなきゃなんないん……。
タニマチ:まだ追伸あんのかね。
マナコ:もーマジでさァ……。
マナコ:おげ、スザキだし。
0:うんざりしながら文面を確認。暫し、硬直する常連客。
マナコ:……あァ??
タニマチ:おわ、眉毛キレーにハの字だ。
タニマチ:ヤバい?
マナコ:……マジかコイツ。
タニマチ:読んでイイ?
0:常連客は無言でスマートフォンを差し出す。店員は立ち上がり、受け取る。
タニマチ:なになに……。
タニマチ:「突然のお誘いで困らせてしまうかもしれませんが、ダメ元で。今夜、今からの時間、お暇ではありませんか?」
タニマチ:……ほォーん。
マナコ:…………。
タニマチ:「思い立って作ったシチューが、想像以上にたくさんになってしまって。カッコ、タンシチューです、お嫌いですか? カッコ閉じる。」
マナコ:うああーーーっ。
タニマチ:「マナコ先生のお家は、確かうちと1駅ぐらいの距離でしたよね?」
タニマチ:そーなの?
マナコ:そーなの……。役所通りのハイツ……。
タニマチ:あのデッカいトコか。
タニマチ:ケッコー近くじゃん、こっからも徒歩圏だし。
マナコ:くおおおーーーー。
タニマチ:えっと。
タニマチ:「何なら、車でお迎えにあがれます。この時間ですし、明日早くにご予定無いなら、泊まって行っても貰えます。カッコ、お泊りセット一式あります、カッコ閉じる。」
マナコ:何でじゃぁあーーーー。
タニマチ:「自分で提案しておいてなんですが、懇親会と言うと堅いし、カジュアルに、ご飯を食べて、お茶を飲みながら寛(くつろ)ぎつつ、お話しませんか。」
マナコ:……っ、
タニマチ:「美味しい所のバゲットがあります。お茶菓子もあります。お酒を飲まれるなら、頂き物の貴腐ワイン等も。カッコ、白です。」
タニマチ:おー、イイなー、貴腐ワイン。
マナコ:ワイン苦手だしっ。
タニマチ:そーなん?
マナコ:パンみたいな匂いすんじゃん。
タニマチ:あー。ちょっとわかるけど。醸造酒(じょうぞうしゅ)独特の……。
マナコ:特に白。甘くネー。
タニマチ:基本甘党なのな。お茶に砂糖入れてもらえば。
マナコ:何でこの時間に変な女とお茶会だよっ。不思議の国のアリスか!
タニマチ:ハートの女王シメれそーなアリスだな。
マナコ:あー、アノおばはんそっくりの先生居るわ……。
マナコ:……ヤベーな。茶ァ出されてお菓子食って。
マナコ:帰って来たらゆるふわパーマになってんじゃネーの。
タニマチ:それメチャメチャおもろいじゃん。
マナコ:ちょい前のキャバ嬢みたくなるだろが。
タニマチ:(ややウケ)
タニマチ:うははっ。
タニマチ:……え、っと。
タニマチ:「お忙しければ、遠慮なく断わってください。失礼を承知で、素敵な思い付きを捨て切れませんでした。御一考くだされば、嬉しいです。土下座マーク、の横にキラキラ」
タニマチ:……との、事デスが。
マナコ:お前お辞儀の絵文字ドゲザだと思って打ってたんかよ。
マナコ:……。はァーーーー。
マナコ:暴走してるわァーーー。こーゆートコよ、コレ。
タニマチ:(スマートフォンを客前に返しつつ)
タニマチ:確かにグイグイだな。
マナコ:メーワクとか考えネーのかよ。
タニマチ:遠慮なく断わってイイらしいけど。
マナコ:て言われたら断わりニクイじゃん、ワカルだろ。
タニマチ:んーーー。
タニマチ:ソコは多分……、あんまそーゆーチャンネルで会話してないと思うけど。
マナコ:マジで思い付いたまま誘ってるってコト!?
タニマチ:来てくれたら嬉しいな、ぐらいの感じじゃね?
マナコ:(思案が募り)
マナコ:…………っ、んがァーーーーーーっ!
0:吠え、後、パタリとカウンターに突っ伏す常連客。
タニマチ:虎が死んだ。
マナコ:…………。
0:グラスの氷がカランと鳴る。
タニマチ:(カウンター内の時計を確認しつつ)
タニマチ:もーちょいかなー、シイナさん。
0:静寂。
マナコ:(伏したまま)
マナコ:……断わったら傷付くと思う?
タニマチ:先生?
マナコ:…………。
タニマチ:んんー。
タニマチ:……やー、
0:古びた木椅子に店員は座り、カタンと鳴る。
タニマチ:傷付きはしないんじゃナイかね。
タニマチ:残念、とは思うカモしんないケド。
マナコ:それウチが悪い?
タニマチ:悪いとかではないだろ。実際今、ココ来てんだし。
マナコ:そーだけど、さ。
タニマチ:「今日うちで遊ぼ」って、眼ぇキラキラさして言われてる気ィする?
マナコ:…………。
マナコ:小学生のトキのコト思い出す。
タニマチ:あるある、よな。もう先約あったりー、とかどーとか。
マナコ:ウチは女子からも男子からも人気あったからな。お前と違って。
タニマチ:俺のナニ知ってんだっつの。
マナコ:…………。
マナコ:断わんのってイイ気しない。
タニマチ:そりゃ、よ。
マナコ:子どもの時ってそーゆーのあんマナコ:じゃん。遊ぶとか、遊ばねーとか。
タニマチ:あるな。大人でもあるくないか?
マナコ:ウチはしょーもねーからキライだけどな。
マナコ:…………4年生の時さ。
タニマチ:おー。
マナコ:クラスで、イジメられてる感じでもナイけど、ちょい浮いてるかなー、ぐらいの子が居て、
タニマチ:女子?
マナコ:うん……。
マナコ:あんま学校来てなくて。
マナコ:みんな居たら黙ってるケド、イチイチで喋ったら割りと楽しくて、みたいな。
タニマチ:うん、うん。
マナコ:ウチはケッコー、嫌いじゃなかったケド。
マナコ:……ある日さ。
マナコ:誘って来たの。そいつから。
タニマチ:家来て、って?
マナコ:うん。かなり勇気出してる感じで。
タニマチ:うんうん。
マナコ:その日の為に掃除して、お菓子もジュースも買ったって。
マナコ:遊ぶ為に色々、用意したって。
タニマチ:うん……、うん。
マナコ:でもウチは、仲イイ子らと出かける約束してたから。
マナコ:ごめんだけど、無理だわ、って、
タニマチ:断わった。
マナコ:うん。
マナコ:そしたら、
タニマチ:うん。
マナコ:……関係あるかはワカンナイけど。
マナコ:学校、来なくなった。
タニマチ:あ……。
タニマチ:そ、っか。
マナコ:別にさ。ウチのせいとか、思ったワケじゃナイし、今も思わない。
マナコ:でも。でも……、
タニマチ:その子はずっと来なかったん?
マナコ:……クラス別れてからは知らないけど。
マナコ:フリースクール行って、高校には行ったらしい。後から聞いた。
タニマチ:ふーん。んじゃあ、
マナコ:「良かった」、とかどーとか、外野が言うコトじゃネーって、今なら思うよ。
マナコ:でも後のコトじゃ無くて。
マナコ:覚えてんのは、断わったトキの、その子の眼。
タニマチ:焼き付いてんの。
マナコ:……なんとも言えねー。雨降る前の空みたいな眼。
マナコ:保育士なってからは、よく見るヤツだけどさ。
タニマチ:遊べる気でいたんだろな、その子。
マナコ:だからさ。
マナコ:ウチ忙しーから。期待すんのヤメテって。その後しばらくイライラしたり。
マナコ:マジでサッカーやり出してからは、逆にその辺ラクになったケドさ。
タニマチ:ふーん……。
0:常連客は一口飲み下し、乾きを癒やす。
タニマチ:何でヤメたんだっけ? そういや。
マナコ:サッカー?
マナコ:言ってなかったっけ。靭帯切った。
タニマチ:あ、そーなん……。
マナコ:中学の時な。副キャプテンだったから引退まではピッチ立ってたケド。
マナコ:シュート出来ねーしスパっとヤメた。
タニマチ:ふーん。生活には、
マナコ:全然問題ネーよ。バイク乗ってるし、子ども追っかけ回してるし。ガッツリ試合とかは無理だけど。
タニマチ:んで、高校からギャルになったん? それかサッカーやるギャルだったん?
マナコ:テメー殺すぞ。ウチのコトはそろそろどーでもイーんだよ。
タニマチ:あ、そう。
タニマチ:で、どーすんの?
マナコ:…………。
0:再び沈黙。
0:ぼんやりと画面をスワイプし、文章を確認。
マナコ:……大人的にはナシじゃん。当日だし。夜だし。
タニマチ:そーね。よっぽど友達とかならイイけど。
タニマチ:てか、シイナさんに話あったんじゃないの?
マナコ:ソレはまー。そんなシンコクなヤツじゃネーけど。
タニマチ:あ、そ。
マナコ:…………。
タニマチ:別に、気ィ乗んないなら、適当に理由つけてさ、
マナコ:そーゆーの含めてダリぃの。ウソ考えんのもメンドいし。
タニマチ:わかるけど。
マナコ:こーゆーんが1番ヤなワケ。グニグニした気分。
タニマチ:ぐにぐに?
マナコ:スパッとしねー。
マナコ:自分がヤになる。
0:店員は何気なく、刺繍の虎と目が合う。
タニマチ:何か……、
タニマチ:受け売り、ナイの。
マナコ:受け売り?
タニマチ:誰かが言ってたヤツ。
タニマチ:イカす大人のさ。
0:常連客は店員を見、次いで、首を反らす。
0:視線は、虚空。
マナコ:…………。
マナコ:「考えるのは、大事。
マナコ:でも考えても、考えてもわかんない時は……、
0:虎の眼(まなこ)が光った気がした。
マナコ:直感に従え」。
マナコ:行くわ。
0:グラスの残りをグイと干し、常連客は颯爽と立ち上がる。トートバッグを引き寄せ、スマートフォンその他を放り込む。
タニマチ:(薄く笑み)
タニマチ:……何となくそんな気ィしてたわ。
マナコ:(財布を取り出しつつ)
マナコ:んだソノ顔? 今日1キモいな。
タニマチ:や、別に……。
タニマチ:あ、シイナさん居なかったしドリンク代だけでイーよ。
マナコ:そんなサービスねーだろ。仕事した分は取れや。
0:言いつつ、紙幣2枚を差出す。
タニマチ:あ、そっスか? ありがとーゴザイマァス……。
0:受け取り、店員は貨幣を返す。
マナコ:(釣り銭を財布に戻しつつ)
マナコ:はァーっ。変な気分。謎メンツで謎のお茶会。
タニマチ:タンシチュー食えるんだしイイじゃん。どんなんだったかまた聞かして。
マナコ:地獄スギて黙るカモだけどな。
マナコ:あ、バイクさァ、
タニマチ:裏置いてってイイけど。迎え来てもらうん?
マナコ:ありがと。
マナコ:歩いていくわ。駅ビルで何か買ってく。
タニマチ:お、手土産忘れないヒトだ。
マナコ:アタリマエだろ、家行くんだから。そーゆーの出来ねーとかナイわ。
タニマチ:俺だって買ってくし。
マナコ:チョイス キモイんだろ絶対。
マナコ:……は。スイーツ食って、好きくネーけどワイン飲んで。
マナコ:OLかよ。保育士だけど。
タニマチ:酒も何か買ってけば?
マナコ:チューハイとか? 雰囲気チガくナイか。
マナコ:ま、イイけど別に……。
タニマチ:…………。
0:店員は思い立ち、カウンター奥の棚を開ける。
タニマチ:んじゃ、コレは店としてじゃなくて……、
マナコ:ああ?
0:棚の下段、奥から茶色い小瓶を取り出す。
0:紅茶のリキュール。200ml入りミニチュアボトル。
タニマチ:(小瓶を卓上にトン、と置き)
タニマチ:俺から餞別(せんべつ)。
マナコ:ナンこれ。カワイーじゃん。
タニマチ:飲んでたヤツに入ってた酒。甘いし、炭酸で割ってもイケるし、牛乳でも割れる。
マナコ:へー。まー美味かったケド。
マナコ:買えって? いくらよ。
タニマチ:違う違う。
タニマチ:やるから。持ってって飲めば。
マナコ:はあ……?
マナコ:なんで??
タニマチ:何となく。別にワイン無理して飲まんくてもイイと思って。
マナコ:店のじゃネーの。
タニマチ:俺の個人的なヤツ。コレは新品だから。
0:常連客は暫し怪訝な顔。
0:後、薄っすらと納得。
マナコ:……くれるってんなら貰うけど。
マナコ:そーいや、お前昔から……、
マナコ:たまーに、ワケわかんねーコトするヤツだったわ。
タニマチ:キモくて悪かったな。
マナコ:コレは別に、キモくはネーよ。
0:は、と笑み。
マナコ:ありがと。
0:小瓶をポケットに入れ、ヘルメットを抱える常連客。
タニマチ:ま……、楽しんできんさいや。
マナコ:他人事かよ。
マナコ:他人事か。
マナコ:……イイよ。こーゆーのは期待したらダメだから。テキトーにカマしてくるわ。
タニマチ:シイナさんには言っとく。
マナコ:んー。また来るってヨロシク。
マナコ:んじゃ。
タニマチ:おー。気ィ付けて。
0:常連客はドアに手を掛け、押し開く。ドアベルが果敢に鳴り響く。
マナコ:あ、そーだ。
マナコ:この酒さ、オレンジで割ればさっきのっぽくなんの?
タニマチ:あー、うん、なる。そもそもバニラは入れないのが基本レシピなんだけど、
マナコ:細かいのはイーわ。
マナコ:ん。オレンジジュース買ってく。
タニマチ:十分美味いから。
マナコ:名前とかあんの?
タニマチ:名前? 「ティフィン」?
マナコ:割った状態の。話題尽きたトキの為に聞いとくわァ。
タニマチ:あー。ソレな。
タニマチ:何でかは知らんけど……、
0:看板灯の反射を受け、
0:虎の刺繍の眼が光る。
タニマチ:『ティフィン・タイガー』、っつーの。
0:暗転。
0:タニマチにスポット。
タニマチ:【本日のカクテルレシピ】
タニマチ:『ティフィン・タイガー』タニマチアレンジ。
タニマチ:■ブラックティーリキュール「ティフィン」30ml
タニマチ:■バニラシロップ 2tsp(ティースプーン)
タニマチ:■オレンジジュース 60ml
タニマチ:以上を大型のシェーカーで強めにシェーク、氷を満たしたゴブレットグラスに注いでサーブ。
0:【終】
:
0:【空白】/【空白】/【空白】
:
0:【ボーナス・トラック】
0:二十数分後、店内。長身秀麗の女性店員は到着している。
シイナ:ふーん。
シイナ:じゃ、また次でイイって?
タニマチ:っスね、相談はナンか、そんな緊急のヤツじゃナイ的な……、
シイナ:ま……、どうであれそー言うよね、マナコちゃんの場合。
シイナ:他は?
タニマチ:無い、スね。マナコ来て、帰った、てか行っただけ。
シイナ:OK。
シイナ:遅目からかな、最近の土曜のパターンからいくと。
0:アウターを脱ぎ、奥のクロークへと放り込み。
シイナ:……高校一緒なんだっけか、そーいや。
タニマチ:あ、マナコと?
シイナ:お前が下の名前で呼び捨てにするコトって基本無いじゃん。
タニマチ:あー、
シイナ:「弁天山(べんてんやま)」、だったな確か。
タニマチ:そー、そっスね、アホ高……。
シイナ:そー?
タニマチ:多かったっスよ、色んな意味で、アホ。
タニマチ:てか、賢いヤツとテキトーなヤツの落差がエグい。
シイナ:都会の自由目な高校ってそんな感じだよなー。
シイナ:……あ、ジャスミンティー作ろ。
0:女性店員は自前用のカウンタードリンクを作るべく、ティーパックを煮出す作業にかかる。
タニマチ:まー山ん中、って感じでしたケドね。
タニマチ:半端な田舎の……、
シイナ:(手を動かしつつ)
シイナ:って言ったって都会だよ、あんなトコ。マジの田舎と比べたら。
タニマチ:地元みたいな?
シイナ:私の? 言ったコト……、あったかそーいや。
シイナ:ま、そーね……。
シイナ:ロクな思い出ナイけども。
タニマチ:大体どっちかスよね、地元。
シイナ:あん?
タニマチ:好きか、嫌いか。
シイナ:…………。まー。
シイナ:好きなら居るんじゃないの、ずっと。
シイナ:……どんなだったワケ? 高校の時。
タニマチ:マナコっスか?
タニマチ:今とあんまり……、まァ髪とかは派手にしてたっスけど、
シイナ:お前、は。
タニマチ:……、……、
タニマチ:俺、は……、……。
0:何とも言えぬ、読み切れぬ表情。
タニマチ:……それこそ一緒っスけどね。
タニマチ:生徒会(セートカイ)でしたケド。柄にもなく。
シイナ:らしーね。
シイナ:扱いも似たよーな?
タニマチ:あつかい?
タニマチ:どー、えェ……、
タニマチ:……てかまあ、変な面子ばっかだったんでね、マナコ含め……、
シイナ:ふーん。
シイナ:…………、
0:束の間、何事かを考えた後、ドリンクポットをカウンター下の小型冷蔵庫へ。
シイナ:ちょい、ティーパック煮出してる間タバコ吸って来る。
シイナ:ヤニ切れ気味……。
タニマチ:吸えなかったんスか、今日。
シイナ:おお……。あんまり。
シイナ:喫煙所無かった。今日の、稽古場。
タニマチ:へー。
タニマチ:いつもは、
シイナ:ある、トコにはある。
シイナ:ま、吸うヤツ自体少ないらしーけど。
シイナ:ミュージシャンとかと違って、真面目ってか……、
シイナ:どっちかってーと、
0:煙草一式を収めたポーチを取り、含みなく言う。
シイナ:暗い子、多いっぽい。
シイナ:今の、演劇の界隈って。
0:暗転。
0:【終】