台本概要

 182 views 

タイトル 『カフェ「ベル&ベラン」窓際F席、女性客2名、午後2時』
作者名 sazanka  (@sazankasarasara)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(女2)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 職場ではヤンチャさを隠し気味の保育士「真奈子(マナコ)」さんが、ゴールデンウィークのとある祝日に、同僚とカフェでお茶をするお話。
―2022年5月5日―

或いは、『コドモ共和国』オトナside、M&E編その2
或いは『茶話会にティフィン・タイガーを』【ボーナス・トラック3】

 182 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
真奈子 104 「遊勢 真奈子(ゆぜ まなこ)」。保育士。今年で23歳。
笑満 108 「洲崎 笑満(すざき えま)」。保育士。今年で24歳。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
【モノローグ】(真奈子):ゴールデンウィークって何がゴールデンなん? 【モノローグ】(真奈子):っつーのは昔から思ってた。 【モノローグ】(真奈子):中学の時とかは、所属してた女子サッカークラブの練習ミッチミチでやってたから、あるイミ黄金の右足(当時のウチのダッサいアダ名!)育ててたケド。 【モノローグ】(真奈子):就職してからは特にそー。カレンダー通りのウチの職場じゃ、間埋めて大型連休ゥー、とはいかねー。認可保育園のツレーとこ。 【モノローグ】(真奈子):……っていう、貴重な赤文字の祝日を。 【モノローグ】(真奈子):なんでウチは、腐れ縁の、変な女の同僚と。 【モノローグ】(真奈子):最近買った古着の、バチバチにヤベぇ赤のライダースの革ジャン着て。 【モノローグ】(真奈子):服とおんなじよーな色の、映(ば)えるヤツが撮ったら映(ば)えそーな煉瓦っぽいタイル壁のカフェで、 【モノローグ】(真奈子):ウソみたいに真っ赤な、……何だっけコレ、アセロラの、クリームソーダなんか飲んでんのか。 【モノローグ】(真奈子):……いや赤好きなヤツみたいじゃん、ウチ。 0:タイトルコール。 笑満:『カフェ「ベル&ベラン」窓際F席、女性客2名、午後2時』。 0:昼下り。店内の控え目な雑踏。 笑満:ねぇねぇねぇ〜っ、 笑満:聞いてるのっ? マぁナぁちゃぁーんっ。 真奈子:……片っぽの耳だけな。 真奈子:てかマジで外ではヤメて、その呼び方。 笑満:もぉっ。 笑満:じゃあ私が何の話してたか、 真奈子:言えるよ。 真奈子:アレっしょ、さっきまでソコ座ってたカップルの男の方、 真奈子:頭も眼も真っ茶色でミックスかなァー、どーかなァー、って、 笑満:それもう5分くらい前っ。 笑満:時は進んでるのっ、地球は廻ってるのぉっ。 真奈子:ジダイサクゴな女でいーよ。 真奈子:続けて、どーぞ。 笑満:でねでねっ、その、雑貨と輸入食品のお店、ルーチェに入ってたのが無くなっちゃってションボリしてたんだけどぉ、 笑満:この春からねっ、これから行くね、 真奈子:(言葉を継ぎ) 真奈子:ベルギー公園通りの中に移転したんだろ。 真奈子:聞いたし、マジで……。 笑満:ドライハーブもスパイスも、品揃えパワーアップしてるらしくてねっ、 笑満:「ギリィカ」のジャムとかコンポートのシリーズもぉっ、 真奈子:揃ってんでしょ。 真奈子:行ってから聞くって、もー……。 0:窓から、笑満のドリンクへと目を移し。 真奈子:……美味いん? それ。 笑満:クリーム・ミントジュレップ? 笑満:うん美味しいよぉミントが本格的で、あっ、飲むっ? 笑満:比べっこしよぉマナちゃん、 真奈子:いーし。マジでパス。 真奈子:……、クリームまで緑なん珍しー。 笑満:ミントアイスね。 笑満:マナちゃんのはバニラだけど、ソーダの味によってクリームも変わるの。 笑満:去年までは夏からしかやってなかったんだけどね、今年からはぁ〜っ、 【モノローグ】(真奈子):くるっくる、アッチコッチ飛ぶ話題を、引き続き片っぽの耳だけで、半分くらい。 【モノローグ】(真奈子):……甘ったるい声は、気ィ抜くと音楽みたいでフワフワしてくる。 笑満:あとねっ、それからねっ、ハンドメイドの、革の靴を売ってるお店があってぇ、 笑満:木靴っぽい形ですっごく可愛いのっ、前から目を付けててぇ〜っ、 【モノローグ】(真奈子):「ベルギー公園通り」ってのは、この近くにあるトコで。 【モノローグ】(真奈子):十何年か前、ホームレスのオッサンたちのテントとか、ボッロい飲み屋とかあった界隈を無理くり引っぺがして、オッシャれーな感じに整えた場所。 【モノローグ】(真奈子):公園の中にも外にも、キラっキラした店とか、カフェとか。 【モノローグ】(真奈子):服キメキメの学生とか、家族連れとか、若いカップルとか。 【モノローグ】(真奈子):陽キャごよーたし、みたいなスポットになってっケド。 【モノローグ】(真奈子):……あの、汚ネーし臭せーけど、スッカスカの歯でケラケラ笑ってたオッサンたちはドコへ行ったのか。 【モノローグ】(真奈子):何で、住んでるトコをイキナリ、追い出されなきゃなんなかったのか、 【モノローグ】(真奈子):病室でジイちゃんに聞いてみたのは、小3のトキ、とかだったと思う。 【モノローグ】(真奈子):「マナコにもわかるように、纏めとくからな」、って、言ったまま。 【モノローグ】(真奈子):ある日ひゅっ、って、ジイちゃんが死んじゃったのは、 【モノローグ】(真奈子):確かこんな、昼間アチぃのに朝と夜はサムい、こんなぐらいの、季節の……、 笑満:マナちゃんっ! 真奈子:(引き戻され) 真奈子:んぉっ。……、ゴメン。 真奈子:あ、納豆は食えるよ別に。 笑満:そんな話してませぇーーんっ。 笑満:もぉーーーーーっ。 真奈子:ゴメン、て。 0:赤いグラスからストローで一口含み、何とはなしに店内を見渡し。 真奈子:……学生多いな、やっぱ。 笑満:大学が、近くに幾つかあるからねー。 笑満:でもマナちゃんも、大学生の歳だよねー、前年度までは。 真奈子:言ってあんたもほぼ、な。1個上なだけじゃん。 笑満:エマって呼んでっ! 真奈子:何でだし。 真奈子:……保育士3年目、まーマダマダだけどさ。 真奈子:サスガに学生気分、ちょい忘れて来たわ。 笑満:マナちゃんて短大時代どんなだったの? 真奈子:別に……、今とそんな、一緒だよ。 真奈子:髪とかはまー、ケッコー遊んでたケド、 笑満:どんなどんなっ??? 笑満:金とか、明るい茶髪とかっ!? 真奈子:色々……、別に、ホドホドに盛(も)って。 真奈子:いっぱい居た感じのさ。イキってたダケだし、 笑満:写真見せてぇ、ねっ、ねっ? 真奈子:絶対ヤダ。何かヤダ。 真奈子:……やべ、クリーム溶けてきた。 笑満:あっ、早く掬って食べなきゃー。 笑満:「あーん」て、食べさせ合いっこするっ? 真奈子:ナイから。 真奈子:誰得だろが。 笑満:私が得するからソレで良いのにぃ〜。ちぇーーっ。 真奈子:暴君(ぼーくん)か。 真奈子:ハバネロか。 【モノローグ】(真奈子):ほっぺた膨らまして、ぷいっ、とか。 【モノローグ】(真奈子):声とおんなじくらい甘ったるい色の、緩いウェーブの髪が揺れる。 【モノローグ】(真奈子):短大時代のウチならマジで無理なタイプ。虫唾(むしず)全力疾走だし。 【モノローグ】(真奈子):……って、ならんくなって来たぐらいには、この女のイタさにも慣れた、ケド。 【モノローグ】(真奈子):……ヤベーかな、何だかんだ付き合わされてるうちに、感覚ユガんで来たんかも……、 笑満:私はね〜っ、 笑満:マナちゃんの、今みたいにカッコいい所、園のみんなにも見てほしいなぁーー。 真奈子:……カッコいいとかじゃネーだろ。 真奈子:出来るよーになんなかったダケだよ、あんたみたいに。 笑満:勿論、言葉遣いとかはね、 笑満:子どもたちにはまず、正しい日本語を浴びて、育ってもらうべきだと思うけど……、 真奈子:保育士としては、まー同感。 真奈子:絵本とかもそーいう風に書いてあるしな、文章。 笑満:マナちゃんの読み聞かせ、好きっ。 笑満:パッションが溢れててっ。 真奈子:んんーー……。 真奈子:「感情入れスギて伝わりにくくなってる」、って。 真奈子:短大んトキはよく言われたケド。 0:赤く泡立つドリンクを一口。カラン、と氷。 真奈子:……言葉も、雰囲気も。 真奈子:あんたみたいなのがイイと思うよ。見本としては。 笑満:そう? 真奈子:あ、園での、な。 笑満:二人の時のこれは駄目ぇ? 真奈子:駄目。コドモだから。 笑満:えへへぇ。 笑満:……、旧来的な価値観の中で、求められ易い形なのは分かるけど……。 笑満:でも女性だって誰だって、色々な在り方があって良いんだって、ロールモデルを幅広く提示出来た方が良いとも、思うかなぁ。 真奈子:早い内に? 笑満:そう。価値観や自我が形成される、前の段階で。 真奈子:んー。最初に上から、「色々あるんだよー」って言いスギんのもどーなん、ってのはあるケドね。 真奈子:ソレはソレで型にハメてるっぽくネーか、とか。 笑満:結局は「ここからここまで」って、幅を規定する事になる、っていう事? 真奈子:自分で好きなよーに、したい風にしたい、って思える為には、まずベース作んなきゃだろ。 真奈子:基礎トレ サボるヤツにトリックプレーは出来ねー。 笑満:おおーーー……っ、 真奈子:最初っから自由に、自分で、ってのもさ。 真奈子:じゃ、親とか保育士は何教えんの、ってハナシだし。 笑満:勿論……、何でもオッケー、っていうのは違うよね、絶対。 0:突如、はっ、として、 笑満:……っ、マナちゃんっ!! 真奈子:ちょっ、おいっ、 真奈子:急にボリューム上げんなて! 笑満:……私たち、今すっごく…………っ、 真奈子:……、何、 笑満:ペアっぽい……! 相棒っぽいっ!! 真奈子:…………、は、 笑満:これなの、こういう関係が作りたかったのっ! 笑満:歯に衣着せ過ぎず、お休みの日とかにカジュアルに、話し合ったりして、っていうーっ、 真奈子:別に……、普通なんじゃネーの。 真奈子:どのペア担もやってるって絶対。 真奈子:てか相棒て。 笑満:新年度もコンビ続行ってぇ、 笑満:どうあれ私たちの連携プレーを、主任や園長先生も、認めてくださってるっていう事だよねーっ。 笑満:うふふふふふぅっ。 真奈子:ウチが。アシストしてんだし。 真奈子:サッカーやってて良かったわ、マジ。 真奈子:……や、勿論あんただって色々試したり考えたり、だいぶ、イイとは思うケドさ……、 【モノローグ】(真奈子):ま……、コレは本音。 【モノローグ】(真奈子):意外と。ケッコー。最近は。 【モノローグ】(真奈子):助けられてる、って思うトキも、 【モノローグ】(真奈子):ちょっとは、時々、たまァーーに、ある、っちゃあるし。 笑満:子どもたちにするのと、同じように……、 笑満:粘り強く、向き合ってくれる人で良かったぁ。 真奈子:あ? 笑満:マナちゃん先生がっ。 笑満:ふふ、ふふふふふっ。 真奈子:…………、 真奈子:あんたって、 笑満:「エ・マ」っ。お願ぁい、 真奈子:洲崎(すざき)センセー、って、 笑満:もぉーーーっ。 笑満:遊勢(ゆぜ)先生のイケズぅ〜っ。 真奈子:何で保育士なろーと思ったん? 笑満:……っ、え……、 0:刹那、沈黙。薄い緑のグラスが、からん、と鳴く。 真奈子:ん……、ま、今更だけどさ。 真奈子:新人歓迎会の時、あんま喋んなかったし、そーいや聞いたコト、 笑満:あ……、ううん、何か、マナちゃんから私の事、聞いて来てくれるって、思って無かったから……、 笑満:いつも私からどんどん、話し続けちゃうし、 真奈子:自覚あんのね。 真奈子:や……、お嬢だし、留学とかもしてたし、なんか別に、何でもイケそーなのに、っつーのも変だけど……。 笑満:……、私……、 【モノローグ】(真奈子):珍しく。 【モノローグ】(真奈子):いつも貼っ付いてるゆるふわスマイルが剥がれて、素の顔になったのを見ると。 【モノローグ】(真奈子):……マジで美人だなこの女。 【モノローグ】(真奈子):てか。無表情が一番、綺麗。 笑満:私、ピアノとか、バレエとか、お歌とか、習い事をたくさん、してたから……、 真奈子:うん、 笑満:音大か、宝塚を、受けるつもりだったの。 真奈子:……、へぇー。 笑満:というか、受けるように薦められて、当たり前に従うつもりで、いたんだけど……、 笑満:ふと、何となく、ね、 真奈子:うん。 笑満:自分の人生の、進路だし……、 笑満:従うにしろ、どうするにしろ、一度きちんとしっかり、考えてみようって、思ったの。唐突に。 真奈子:ま……、普通じゃね。 笑満:うん。でも不思議とあんまり、そういう風に立ち止まった事って、無くって……、 笑満:……そしたら、 真奈子:うん。 笑満:全然、何にも、わかんなくなっちゃったの。 真奈子:……、あーー……。 笑満:どうしたい、よりも、どうするべきかが大事って、教わって生きて来たし……。 笑満:歌や踊りやお芝居を学んで、高めて、その道に進んで行きたい、って、私自身が思っているのか。 笑満:そういう事に、自分は喜びを見出せるのか、どうなのか……、 笑満:考えれば考えるほど、答えが出せなくて。 真奈子:うん……、 笑満:結局、納得出来る答えを探す為に、1年の猶予を貰ったの。 真奈子:だからか。一個上。 笑満:そう。 笑満:相当揉めたんだけど……、 笑満:私が、譲らなかったから。 笑満:こう見えて……意外と、変なところで頑固っていうか、一度決めたら曲げられないっていうか、 真奈子:いや知ってる。 真奈子:意外でもナイし。 笑満:そうかなぁ……? 真奈子:ま……、側(ガワ)だけ見てるヤツからは意外かもだけど、 笑満:っ、それってっ! 笑満:私の内面の深ぁいところまで、見てくれてるってこと!? 笑満:マナちゃんっ!! 真奈子:そっちが勝手にカブってる猫脱ぎ出したんだろがっ! 真奈子:そのノリいーからもう、ホレ続き続きっ。 笑満:うんっ。えへへぇ。 笑満:……えっと。 笑満:それで……、1年間の暇(いとま)を貰って、色々と考えを纏めようと思って……、 真奈子:おー。 笑満:短い旅行をしたり、美術館へ行ったり劇場でお芝居を観たり、家の……、避暑地の別荘、とかじゃないんだけど、夏の間に借りている所があって、そこへ1か月ぐらい、籠もらせてもらったり……、 真奈子:自分探しもゴッテりお嬢なのムカつくわァー。 笑満:高校の時の、留学先のボストンへも、1週間くらい。 笑満:それで、えっと、そこで、ね、 真奈子:うん。好きに喋りなよ。 笑満:うんっ。……留学の時にお世話になっていたご家族に、新しく末の息子さんが生まれてて、 真奈子:おー。子ども……。 笑満:その時で、2歳くらい。当たり前だけど人見知りで、かなり、泣かれちゃったんだけど、 真奈子:まー、その子的には「誰コイツ」よな。 真奈子:アメリカの子どもってやっぱチョイ開放的だったり……? 真奈子:や、関係ナイか、 笑満:その子はね、シャイな性格で困ってる、ってお母さんも。 笑満:心を開けば、明るい子なんだけどね、って。 真奈子:誰でも大体、そーかもね。 真奈子:他人に開いてくのがムズいだけで。 真奈子:それで? 笑満:ごめんね、未整理で。 笑満:纏めながらだから……、 真奈子:そーいうの聞いてくプロじゃん、なんだかんだ。あんたもだけど。 真奈子:だから、大丈夫。 笑満:(涙を滲ませ) 笑満:……マナちゃん優しいぃ……っ。 笑満:やっぱり運命の人ぉっ……、 真奈子:ソレはヤメろっ。 真奈子:マジのマジのマジでっ! 笑満:カフェじゃ無かったら飛び付いてるのにっ。 真奈子:んじゃカフェ来て良かったわァー。 真奈子:……で、よ。で。 笑満:うんっ。 笑満:……滞在の、中日にね、壮行会の、パーティーを開いてもらって……、 真奈子:おー。 笑満:皆さん、ギターを弾いたり、ダンスを披露してくれたり、持ち寄りの特技で、元気付けてくれて……、 笑満:私もお礼に何かしなきゃ、って思って、そのお宅にはアップライトピアノがあったから、弾かせて貰って……、 真奈子:うん、 笑満:歌を、歌ったの。 真奈子:あー。あんた歌も、習ってただけあってエグいもんな……、 笑満:そしたら、ね、それを聞いて、お母さんにしがみついてた、シャイな、その子が……、 真奈子:おー。 笑満:理由はわからないけど、何だかすっごく、笑って、喜んで、くれて……、 笑満:ご家族もびっくりしたぐらい、 真奈子:何歌ったん。 笑満:童謡の『送り火』。峠口閑山(とうげぐち かんざん)の。 真奈子:あー、あの音程取りにくい曲……。 真奈子:てか、日本の曲? クラシックとかじゃなくて。 笑満:何だか……、自分の、体に染みた言葉の歌を歌った方が、良いような気がして。 笑満:それに、そもそもその子は2歳だから、歌も意味も、わかる筈はないんだけど、どうしてか……、 真奈子:声が良かったんじゃネーの。 笑満:声……? 真奈子:あんたの声。普通にしてる時も、なんかこー……、子どもは好きそーな。 真奈子:甘口の、人を駄目にする、っつーか、ハマったらハマる、っつーか……、 笑満:(とろんとした眼で) 笑満:マナちゃん、そんな風に……。 笑満:もう毎日耳元で囁くから……。 真奈子:変な目すんなや! あとコワいし。 真奈子:……ウチがとかじゃなくて。 真奈子:歌ったらもっとハッキリ届くじゃん。子どもはフィジカルに正直だから、声聞いただけで何か、アガったんじゃネーの、って。 笑満:…………、そう、なのかなぁ。 0:窓の外より家族連れの声。雑踏。 真奈子:……で、よ。ソレがキッカケ? 笑満:えっ……、うん、そうっ。 笑満:どうしてわかったの?? 真奈子:や、流れ的にそーじゃん。 真奈子:その子が、喜んだコトが。 笑満:そう……、そう、なの。 笑満:上手くは説明出来ないんだけどね……、 真奈子:イイよ。 笑満:私、楽器や歌唱をもっともっと訓練して、上手になって、それによって人から相応の評価をされて、自分の価値を高めていく、っていうのが、どうにもイメージ出来なかったんだけど……、 真奈子:そーいう生き方が? 笑満:うん。本当にストイックに、行為そのものを愛して、楽しめる人たちの世界なんだろうな、って。 真奈子:アスリートっぽいよな、あるイミ……。 笑満:でもね、私が習ったり、覚えたりして身に付けた事で……、 笑満:誰かが喜んだり、笑ったり、助かったり、してくれた時は、 笑満:素直に、本当に、良かった、って思うの。 笑満:自分がそういう風に感じてるっていう事自体、具(つぶさ)に考えたことって、無かったんだけど。 真奈子:……、ふーーーん。 笑満:それで……、 笑満:歌はそれほど、なんだけど、ピアノはちょっと、慌てない程度の自信はあったから、 真奈子:歌もヤバいって。 真奈子:NHKのオネーサンかと思ったし。 笑満:全然……。 笑満:あの人たちってそれこそ、劇団四季とか宝塚出身だから。 笑満:それで、えっとね、 真奈子:ピアノはそこそこ、イケる自信あって、 笑満:うん。だから……、安直なんだけど、今のピアノの技術を、活かす事の出来るお仕事を探し始めて……、 真奈子:あーーー。ナルホド……、 笑満:それで……、それまで考えた事も無かったんだけど、 笑満:保育士かぁ、って。 笑満:行き着いた時に何だかストン、って、お腹に落ちた、気がして。 笑満:それで……、 真奈子:…………。 【モノローグ】(真奈子):子どもの、笑って喜んでる顔キッカケで、保育士なったんだ、この人は。 【モノローグ】(真奈子):……ウチとは真逆。 【モノローグ】(真奈子):だけど多分、その話はしネー。 【モノローグ】(真奈子):何でかっつったら、 【モノローグ】(真奈子):…………、ハズい。普通に。 笑満:どうかした? マナちゃん、 真奈子:や……、別に。 真奈子:……ま、わかったわ。ありがと。 笑満:何だか恥ずかしいね、えへへ……っ。 笑満:あっ、私のもクリーム溶けちゃったぁ。混ぜちゃおーっと。 0:マドラースプーンの撹拌。白と緑が混ざり合う。 真奈子:(一口含み) 真奈子:……ケッコー喋ったな。 真奈子:飲んだら行く? 笑満:うん、そうだねぇ。 0:一口含み。上目遣いで、同僚を見やり。 笑満:…………、マナちゃん、 真奈子:んー? 真奈子:イイよゆっくり飲んで、 笑満:それもだけど、 笑満:…………、嫌、じゃない? マナちゃん。 真奈子:は……? 0:再び笑みは潜み。 笑満:私、こんなだし……、 笑満:知らずにイライラさせちゃって、お友達と、上手く行かなくなっちゃう事って、少なくなかったし……、 真奈子:…………、 笑満:ペアとしても、ね、 笑満:自分では頑張ってるつもりなんだけど、 笑満:手間を増やしたり、後から考えると悪い手を選んでたり……。 笑満:マナちゃんにかなり、助けてもらってる、けど……、 笑満:人の、役に立ちたいって、気持ちだけがあっても、って……。 笑満:だから、 真奈子:(遮り)もう3年目でさー。 真奈子:ナニ気弱になってんだよ? 笑満:……、 真奈子:しかも天気イイ日の、ゴールデンウィークに。 笑満:ほんとは……、いつでも、不安、なのかも。 真奈子:……、全員。ウチも、主任も園長も、だよ。 真奈子:そんなん、そこも、お気楽ウェーーーイて感じのセンセーだったら困るじゃん、子ども。 真奈子:……、あんね、 0:組んでいた足を解き。眼(まなこ)はグラスの赤を映し、真摯に光る。 真奈子:100発100中でシュートが入るコトなんかネーの。 真奈子:人間は機械じゃナイから。 笑満:……、 真奈子:でも蹴るヤツは皆、絶対入れるつもりでシュートすんじゃん。 笑満:そう、なの? 真奈子:そーなの。 真奈子:でもだから……、外したら悔しーし。 真奈子:大事な場面だったら死にてーってなる、ケド。 笑満:…………、 真奈子:でも外すのにビビって、蹴れるトコで蹴らねーヤツは駄目なの。 真奈子:どんどん蹴るのが怖くなってくから。 笑満:……こわく、 真奈子:んじゃー。だったら。 真奈子:どーすりゃ、イイんスかね。 真奈子:先生。 笑満:…………、 0:短い沈黙。速い思案の後、シンプルな回答。 笑満:……いっぱい蹴って、練習、する? 真奈子:……、(に、と笑み) 真奈子:お。 笑満:ピアノだったら、そう。 笑満:指が、思った通りに動くまで、失敗しても、もどかしくても、一歩一歩、少しずつ……、 真奈子:わかってんじゃん。 真奈子:……タフになんなきゃ、駄目だけど、さ。 笑満:タフに……、 真奈子:失敗してヘコんでも。 真奈子:クッソ、次、って。思える図太さ。 真奈子:あと……、そんで、 笑満:あっ、うん、 0:半ば空のグラスは、汗をかいている。 真奈子:他のヤツは知らんケド。 真奈子:あんたと居て、イライラするトキはあるし。 真奈子:ヤな事はマジで、ヤなんだけど、さ。 笑満:…………、う、ん、 真奈子:ヤだったら「ヤメて」って言うし。 真奈子:遊びたくネーヤツと、我慢して遊ぶほど……、 笑満:……、 真奈子:コドモじゃネーから。ウチは。 笑満:……あ……、 真奈子:こんな、ワザワザ休日に、さ。 笑満:……っ! 0:感極まり。 笑満:……っ、マっ、マっ、 笑満:マナぁっっ…………っ! 真奈子:だからっ! 真奈子:その呼び方ヤメてって! 真奈子:そろそろ100回越えるぞマジでコレっ。 笑満:じゃあ101回でもっ、 笑満:1000回でも呼ぶぅっ! 真奈子:どーゆー理屈だテメーっ! 真奈子:話聞いてたんかよあんたっ、 笑満:「あんた」じゃなくて「エマ」っ! 真奈子:ウルセーなァっ。 真奈子:店とかでギャイギャイ騒ぐ女が一番キラいなんだってマジ! 笑満:やだぁっ! 嫌いにならないでぇっ! 真奈子:うわヤメろマジっ! 真奈子:グロいグロいっ、ホレ行くぞ! 真奈子:おらっ! 伝票コレかっ! 0:慌ただしく立ち上がり。 笑満:あっ、あっ、待ってぇっ、 笑満:お手洗いっ、お手洗い行きたいっ、 真奈子:行って来いや! 真奈子:払っとくから! 笑満:うんっ、あ、えっと、 笑満:鞄っ、ハンカチ……っ、 真奈子:あー……っ、 真奈子:……、わかった一回、一回落ち着こーや。 真奈子:急がねーから。待ってるから。 笑満:うん、うん……、 笑満:エマ、落ち着く……、 真奈子:……はァアーーーーーーーっ。 真奈子:コドモの世話かマジでーーーーーーーっ。 0:暗転。 : 【モノローグ】(真奈子):メインの目的地に着く前に。 【モノローグ】(真奈子):普通に、疲れた。 【モノローグ】(真奈子):悪くもないカフェだけど、今日の服とは合わねーし。 【モノローグ】(真奈子):クリームもソーダも、甘ったるいし。 【モノローグ】(真奈子):いや甘ったるいのは別に嫌いでもねーけど……。 【モノローグ】(真奈子):日が、落ちて来て。 【モノローグ】(真奈子):夕方ぐらいの天気はちょーど良かった。 【モノローグ】(真奈子):絵本っぽい造りの店が並ぶ公園の中、しつこく繋ごうとしてくる柔っこい手を払いながら、空を見る。 【モノローグ】(真奈子):何か、知らない鳥とかも飛んでて。 【モノローグ】(真奈子):明日マジで出勤かクソ、とか思いながら。 【モノローグ】(真奈子):まー、 【モノローグ】(真奈子):とりあえず……、 0:【間】 【モノローグ】(真奈子):マナコは、こんな感じで働いてるよ。 【モノローグ】(真奈子):ジイちゃん。 : 0:【終】

【モノローグ】(真奈子):ゴールデンウィークって何がゴールデンなん? 【モノローグ】(真奈子):っつーのは昔から思ってた。 【モノローグ】(真奈子):中学の時とかは、所属してた女子サッカークラブの練習ミッチミチでやってたから、あるイミ黄金の右足(当時のウチのダッサいアダ名!)育ててたケド。 【モノローグ】(真奈子):就職してからは特にそー。カレンダー通りのウチの職場じゃ、間埋めて大型連休ゥー、とはいかねー。認可保育園のツレーとこ。 【モノローグ】(真奈子):……っていう、貴重な赤文字の祝日を。 【モノローグ】(真奈子):なんでウチは、腐れ縁の、変な女の同僚と。 【モノローグ】(真奈子):最近買った古着の、バチバチにヤベぇ赤のライダースの革ジャン着て。 【モノローグ】(真奈子):服とおんなじよーな色の、映(ば)えるヤツが撮ったら映(ば)えそーな煉瓦っぽいタイル壁のカフェで、 【モノローグ】(真奈子):ウソみたいに真っ赤な、……何だっけコレ、アセロラの、クリームソーダなんか飲んでんのか。 【モノローグ】(真奈子):……いや赤好きなヤツみたいじゃん、ウチ。 0:タイトルコール。 笑満:『カフェ「ベル&ベラン」窓際F席、女性客2名、午後2時』。 0:昼下り。店内の控え目な雑踏。 笑満:ねぇねぇねぇ〜っ、 笑満:聞いてるのっ? マぁナぁちゃぁーんっ。 真奈子:……片っぽの耳だけな。 真奈子:てかマジで外ではヤメて、その呼び方。 笑満:もぉっ。 笑満:じゃあ私が何の話してたか、 真奈子:言えるよ。 真奈子:アレっしょ、さっきまでソコ座ってたカップルの男の方、 真奈子:頭も眼も真っ茶色でミックスかなァー、どーかなァー、って、 笑満:それもう5分くらい前っ。 笑満:時は進んでるのっ、地球は廻ってるのぉっ。 真奈子:ジダイサクゴな女でいーよ。 真奈子:続けて、どーぞ。 笑満:でねでねっ、その、雑貨と輸入食品のお店、ルーチェに入ってたのが無くなっちゃってションボリしてたんだけどぉ、 笑満:この春からねっ、これから行くね、 真奈子:(言葉を継ぎ) 真奈子:ベルギー公園通りの中に移転したんだろ。 真奈子:聞いたし、マジで……。 笑満:ドライハーブもスパイスも、品揃えパワーアップしてるらしくてねっ、 笑満:「ギリィカ」のジャムとかコンポートのシリーズもぉっ、 真奈子:揃ってんでしょ。 真奈子:行ってから聞くって、もー……。 0:窓から、笑満のドリンクへと目を移し。 真奈子:……美味いん? それ。 笑満:クリーム・ミントジュレップ? 笑満:うん美味しいよぉミントが本格的で、あっ、飲むっ? 笑満:比べっこしよぉマナちゃん、 真奈子:いーし。マジでパス。 真奈子:……、クリームまで緑なん珍しー。 笑満:ミントアイスね。 笑満:マナちゃんのはバニラだけど、ソーダの味によってクリームも変わるの。 笑満:去年までは夏からしかやってなかったんだけどね、今年からはぁ〜っ、 【モノローグ】(真奈子):くるっくる、アッチコッチ飛ぶ話題を、引き続き片っぽの耳だけで、半分くらい。 【モノローグ】(真奈子):……甘ったるい声は、気ィ抜くと音楽みたいでフワフワしてくる。 笑満:あとねっ、それからねっ、ハンドメイドの、革の靴を売ってるお店があってぇ、 笑満:木靴っぽい形ですっごく可愛いのっ、前から目を付けててぇ〜っ、 【モノローグ】(真奈子):「ベルギー公園通り」ってのは、この近くにあるトコで。 【モノローグ】(真奈子):十何年か前、ホームレスのオッサンたちのテントとか、ボッロい飲み屋とかあった界隈を無理くり引っぺがして、オッシャれーな感じに整えた場所。 【モノローグ】(真奈子):公園の中にも外にも、キラっキラした店とか、カフェとか。 【モノローグ】(真奈子):服キメキメの学生とか、家族連れとか、若いカップルとか。 【モノローグ】(真奈子):陽キャごよーたし、みたいなスポットになってっケド。 【モノローグ】(真奈子):……あの、汚ネーし臭せーけど、スッカスカの歯でケラケラ笑ってたオッサンたちはドコへ行ったのか。 【モノローグ】(真奈子):何で、住んでるトコをイキナリ、追い出されなきゃなんなかったのか、 【モノローグ】(真奈子):病室でジイちゃんに聞いてみたのは、小3のトキ、とかだったと思う。 【モノローグ】(真奈子):「マナコにもわかるように、纏めとくからな」、って、言ったまま。 【モノローグ】(真奈子):ある日ひゅっ、って、ジイちゃんが死んじゃったのは、 【モノローグ】(真奈子):確かこんな、昼間アチぃのに朝と夜はサムい、こんなぐらいの、季節の……、 笑満:マナちゃんっ! 真奈子:(引き戻され) 真奈子:んぉっ。……、ゴメン。 真奈子:あ、納豆は食えるよ別に。 笑満:そんな話してませぇーーんっ。 笑満:もぉーーーーーっ。 真奈子:ゴメン、て。 0:赤いグラスからストローで一口含み、何とはなしに店内を見渡し。 真奈子:……学生多いな、やっぱ。 笑満:大学が、近くに幾つかあるからねー。 笑満:でもマナちゃんも、大学生の歳だよねー、前年度までは。 真奈子:言ってあんたもほぼ、な。1個上なだけじゃん。 笑満:エマって呼んでっ! 真奈子:何でだし。 真奈子:……保育士3年目、まーマダマダだけどさ。 真奈子:サスガに学生気分、ちょい忘れて来たわ。 笑満:マナちゃんて短大時代どんなだったの? 真奈子:別に……、今とそんな、一緒だよ。 真奈子:髪とかはまー、ケッコー遊んでたケド、 笑満:どんなどんなっ??? 笑満:金とか、明るい茶髪とかっ!? 真奈子:色々……、別に、ホドホドに盛(も)って。 真奈子:いっぱい居た感じのさ。イキってたダケだし、 笑満:写真見せてぇ、ねっ、ねっ? 真奈子:絶対ヤダ。何かヤダ。 真奈子:……やべ、クリーム溶けてきた。 笑満:あっ、早く掬って食べなきゃー。 笑満:「あーん」て、食べさせ合いっこするっ? 真奈子:ナイから。 真奈子:誰得だろが。 笑満:私が得するからソレで良いのにぃ〜。ちぇーーっ。 真奈子:暴君(ぼーくん)か。 真奈子:ハバネロか。 【モノローグ】(真奈子):ほっぺた膨らまして、ぷいっ、とか。 【モノローグ】(真奈子):声とおんなじくらい甘ったるい色の、緩いウェーブの髪が揺れる。 【モノローグ】(真奈子):短大時代のウチならマジで無理なタイプ。虫唾(むしず)全力疾走だし。 【モノローグ】(真奈子):……って、ならんくなって来たぐらいには、この女のイタさにも慣れた、ケド。 【モノローグ】(真奈子):……ヤベーかな、何だかんだ付き合わされてるうちに、感覚ユガんで来たんかも……、 笑満:私はね〜っ、 笑満:マナちゃんの、今みたいにカッコいい所、園のみんなにも見てほしいなぁーー。 真奈子:……カッコいいとかじゃネーだろ。 真奈子:出来るよーになんなかったダケだよ、あんたみたいに。 笑満:勿論、言葉遣いとかはね、 笑満:子どもたちにはまず、正しい日本語を浴びて、育ってもらうべきだと思うけど……、 真奈子:保育士としては、まー同感。 真奈子:絵本とかもそーいう風に書いてあるしな、文章。 笑満:マナちゃんの読み聞かせ、好きっ。 笑満:パッションが溢れててっ。 真奈子:んんーー……。 真奈子:「感情入れスギて伝わりにくくなってる」、って。 真奈子:短大んトキはよく言われたケド。 0:赤く泡立つドリンクを一口。カラン、と氷。 真奈子:……言葉も、雰囲気も。 真奈子:あんたみたいなのがイイと思うよ。見本としては。 笑満:そう? 真奈子:あ、園での、な。 笑満:二人の時のこれは駄目ぇ? 真奈子:駄目。コドモだから。 笑満:えへへぇ。 笑満:……、旧来的な価値観の中で、求められ易い形なのは分かるけど……。 笑満:でも女性だって誰だって、色々な在り方があって良いんだって、ロールモデルを幅広く提示出来た方が良いとも、思うかなぁ。 真奈子:早い内に? 笑満:そう。価値観や自我が形成される、前の段階で。 真奈子:んー。最初に上から、「色々あるんだよー」って言いスギんのもどーなん、ってのはあるケドね。 真奈子:ソレはソレで型にハメてるっぽくネーか、とか。 笑満:結局は「ここからここまで」って、幅を規定する事になる、っていう事? 真奈子:自分で好きなよーに、したい風にしたい、って思える為には、まずベース作んなきゃだろ。 真奈子:基礎トレ サボるヤツにトリックプレーは出来ねー。 笑満:おおーーー……っ、 真奈子:最初っから自由に、自分で、ってのもさ。 真奈子:じゃ、親とか保育士は何教えんの、ってハナシだし。 笑満:勿論……、何でもオッケー、っていうのは違うよね、絶対。 0:突如、はっ、として、 笑満:……っ、マナちゃんっ!! 真奈子:ちょっ、おいっ、 真奈子:急にボリューム上げんなて! 笑満:……私たち、今すっごく…………っ、 真奈子:……、何、 笑満:ペアっぽい……! 相棒っぽいっ!! 真奈子:…………、は、 笑満:これなの、こういう関係が作りたかったのっ! 笑満:歯に衣着せ過ぎず、お休みの日とかにカジュアルに、話し合ったりして、っていうーっ、 真奈子:別に……、普通なんじゃネーの。 真奈子:どのペア担もやってるって絶対。 真奈子:てか相棒て。 笑満:新年度もコンビ続行ってぇ、 笑満:どうあれ私たちの連携プレーを、主任や園長先生も、認めてくださってるっていう事だよねーっ。 笑満:うふふふふふぅっ。 真奈子:ウチが。アシストしてんだし。 真奈子:サッカーやってて良かったわ、マジ。 真奈子:……や、勿論あんただって色々試したり考えたり、だいぶ、イイとは思うケドさ……、 【モノローグ】(真奈子):ま……、コレは本音。 【モノローグ】(真奈子):意外と。ケッコー。最近は。 【モノローグ】(真奈子):助けられてる、って思うトキも、 【モノローグ】(真奈子):ちょっとは、時々、たまァーーに、ある、っちゃあるし。 笑満:子どもたちにするのと、同じように……、 笑満:粘り強く、向き合ってくれる人で良かったぁ。 真奈子:あ? 笑満:マナちゃん先生がっ。 笑満:ふふ、ふふふふふっ。 真奈子:…………、 真奈子:あんたって、 笑満:「エ・マ」っ。お願ぁい、 真奈子:洲崎(すざき)センセー、って、 笑満:もぉーーーっ。 笑満:遊勢(ゆぜ)先生のイケズぅ〜っ。 真奈子:何で保育士なろーと思ったん? 笑満:……っ、え……、 0:刹那、沈黙。薄い緑のグラスが、からん、と鳴く。 真奈子:ん……、ま、今更だけどさ。 真奈子:新人歓迎会の時、あんま喋んなかったし、そーいや聞いたコト、 笑満:あ……、ううん、何か、マナちゃんから私の事、聞いて来てくれるって、思って無かったから……、 笑満:いつも私からどんどん、話し続けちゃうし、 真奈子:自覚あんのね。 真奈子:や……、お嬢だし、留学とかもしてたし、なんか別に、何でもイケそーなのに、っつーのも変だけど……。 笑満:……、私……、 【モノローグ】(真奈子):珍しく。 【モノローグ】(真奈子):いつも貼っ付いてるゆるふわスマイルが剥がれて、素の顔になったのを見ると。 【モノローグ】(真奈子):……マジで美人だなこの女。 【モノローグ】(真奈子):てか。無表情が一番、綺麗。 笑満:私、ピアノとか、バレエとか、お歌とか、習い事をたくさん、してたから……、 真奈子:うん、 笑満:音大か、宝塚を、受けるつもりだったの。 真奈子:……、へぇー。 笑満:というか、受けるように薦められて、当たり前に従うつもりで、いたんだけど……、 笑満:ふと、何となく、ね、 真奈子:うん。 笑満:自分の人生の、進路だし……、 笑満:従うにしろ、どうするにしろ、一度きちんとしっかり、考えてみようって、思ったの。唐突に。 真奈子:ま……、普通じゃね。 笑満:うん。でも不思議とあんまり、そういう風に立ち止まった事って、無くって……、 笑満:……そしたら、 真奈子:うん。 笑満:全然、何にも、わかんなくなっちゃったの。 真奈子:……、あーー……。 笑満:どうしたい、よりも、どうするべきかが大事って、教わって生きて来たし……。 笑満:歌や踊りやお芝居を学んで、高めて、その道に進んで行きたい、って、私自身が思っているのか。 笑満:そういう事に、自分は喜びを見出せるのか、どうなのか……、 笑満:考えれば考えるほど、答えが出せなくて。 真奈子:うん……、 笑満:結局、納得出来る答えを探す為に、1年の猶予を貰ったの。 真奈子:だからか。一個上。 笑満:そう。 笑満:相当揉めたんだけど……、 笑満:私が、譲らなかったから。 笑満:こう見えて……意外と、変なところで頑固っていうか、一度決めたら曲げられないっていうか、 真奈子:いや知ってる。 真奈子:意外でもナイし。 笑満:そうかなぁ……? 真奈子:ま……、側(ガワ)だけ見てるヤツからは意外かもだけど、 笑満:っ、それってっ! 笑満:私の内面の深ぁいところまで、見てくれてるってこと!? 笑満:マナちゃんっ!! 真奈子:そっちが勝手にカブってる猫脱ぎ出したんだろがっ! 真奈子:そのノリいーからもう、ホレ続き続きっ。 笑満:うんっ。えへへぇ。 笑満:……えっと。 笑満:それで……、1年間の暇(いとま)を貰って、色々と考えを纏めようと思って……、 真奈子:おー。 笑満:短い旅行をしたり、美術館へ行ったり劇場でお芝居を観たり、家の……、避暑地の別荘、とかじゃないんだけど、夏の間に借りている所があって、そこへ1か月ぐらい、籠もらせてもらったり……、 真奈子:自分探しもゴッテりお嬢なのムカつくわァー。 笑満:高校の時の、留学先のボストンへも、1週間くらい。 笑満:それで、えっと、そこで、ね、 真奈子:うん。好きに喋りなよ。 笑満:うんっ。……留学の時にお世話になっていたご家族に、新しく末の息子さんが生まれてて、 真奈子:おー。子ども……。 笑満:その時で、2歳くらい。当たり前だけど人見知りで、かなり、泣かれちゃったんだけど、 真奈子:まー、その子的には「誰コイツ」よな。 真奈子:アメリカの子どもってやっぱチョイ開放的だったり……? 真奈子:や、関係ナイか、 笑満:その子はね、シャイな性格で困ってる、ってお母さんも。 笑満:心を開けば、明るい子なんだけどね、って。 真奈子:誰でも大体、そーかもね。 真奈子:他人に開いてくのがムズいだけで。 真奈子:それで? 笑満:ごめんね、未整理で。 笑満:纏めながらだから……、 真奈子:そーいうの聞いてくプロじゃん、なんだかんだ。あんたもだけど。 真奈子:だから、大丈夫。 笑満:(涙を滲ませ) 笑満:……マナちゃん優しいぃ……っ。 笑満:やっぱり運命の人ぉっ……、 真奈子:ソレはヤメろっ。 真奈子:マジのマジのマジでっ! 笑満:カフェじゃ無かったら飛び付いてるのにっ。 真奈子:んじゃカフェ来て良かったわァー。 真奈子:……で、よ。で。 笑満:うんっ。 笑満:……滞在の、中日にね、壮行会の、パーティーを開いてもらって……、 真奈子:おー。 笑満:皆さん、ギターを弾いたり、ダンスを披露してくれたり、持ち寄りの特技で、元気付けてくれて……、 笑満:私もお礼に何かしなきゃ、って思って、そのお宅にはアップライトピアノがあったから、弾かせて貰って……、 真奈子:うん、 笑満:歌を、歌ったの。 真奈子:あー。あんた歌も、習ってただけあってエグいもんな……、 笑満:そしたら、ね、それを聞いて、お母さんにしがみついてた、シャイな、その子が……、 真奈子:おー。 笑満:理由はわからないけど、何だかすっごく、笑って、喜んで、くれて……、 笑満:ご家族もびっくりしたぐらい、 真奈子:何歌ったん。 笑満:童謡の『送り火』。峠口閑山(とうげぐち かんざん)の。 真奈子:あー、あの音程取りにくい曲……。 真奈子:てか、日本の曲? クラシックとかじゃなくて。 笑満:何だか……、自分の、体に染みた言葉の歌を歌った方が、良いような気がして。 笑満:それに、そもそもその子は2歳だから、歌も意味も、わかる筈はないんだけど、どうしてか……、 真奈子:声が良かったんじゃネーの。 笑満:声……? 真奈子:あんたの声。普通にしてる時も、なんかこー……、子どもは好きそーな。 真奈子:甘口の、人を駄目にする、っつーか、ハマったらハマる、っつーか……、 笑満:(とろんとした眼で) 笑満:マナちゃん、そんな風に……。 笑満:もう毎日耳元で囁くから……。 真奈子:変な目すんなや! あとコワいし。 真奈子:……ウチがとかじゃなくて。 真奈子:歌ったらもっとハッキリ届くじゃん。子どもはフィジカルに正直だから、声聞いただけで何か、アガったんじゃネーの、って。 笑満:…………、そう、なのかなぁ。 0:窓の外より家族連れの声。雑踏。 真奈子:……で、よ。ソレがキッカケ? 笑満:えっ……、うん、そうっ。 笑満:どうしてわかったの?? 真奈子:や、流れ的にそーじゃん。 真奈子:その子が、喜んだコトが。 笑満:そう……、そう、なの。 笑満:上手くは説明出来ないんだけどね……、 真奈子:イイよ。 笑満:私、楽器や歌唱をもっともっと訓練して、上手になって、それによって人から相応の評価をされて、自分の価値を高めていく、っていうのが、どうにもイメージ出来なかったんだけど……、 真奈子:そーいう生き方が? 笑満:うん。本当にストイックに、行為そのものを愛して、楽しめる人たちの世界なんだろうな、って。 真奈子:アスリートっぽいよな、あるイミ……。 笑満:でもね、私が習ったり、覚えたりして身に付けた事で……、 笑満:誰かが喜んだり、笑ったり、助かったり、してくれた時は、 笑満:素直に、本当に、良かった、って思うの。 笑満:自分がそういう風に感じてるっていう事自体、具(つぶさ)に考えたことって、無かったんだけど。 真奈子:……、ふーーーん。 笑満:それで……、 笑満:歌はそれほど、なんだけど、ピアノはちょっと、慌てない程度の自信はあったから、 真奈子:歌もヤバいって。 真奈子:NHKのオネーサンかと思ったし。 笑満:全然……。 笑満:あの人たちってそれこそ、劇団四季とか宝塚出身だから。 笑満:それで、えっとね、 真奈子:ピアノはそこそこ、イケる自信あって、 笑満:うん。だから……、安直なんだけど、今のピアノの技術を、活かす事の出来るお仕事を探し始めて……、 真奈子:あーーー。ナルホド……、 笑満:それで……、それまで考えた事も無かったんだけど、 笑満:保育士かぁ、って。 笑満:行き着いた時に何だかストン、って、お腹に落ちた、気がして。 笑満:それで……、 真奈子:…………。 【モノローグ】(真奈子):子どもの、笑って喜んでる顔キッカケで、保育士なったんだ、この人は。 【モノローグ】(真奈子):……ウチとは真逆。 【モノローグ】(真奈子):だけど多分、その話はしネー。 【モノローグ】(真奈子):何でかっつったら、 【モノローグ】(真奈子):…………、ハズい。普通に。 笑満:どうかした? マナちゃん、 真奈子:や……、別に。 真奈子:……ま、わかったわ。ありがと。 笑満:何だか恥ずかしいね、えへへ……っ。 笑満:あっ、私のもクリーム溶けちゃったぁ。混ぜちゃおーっと。 0:マドラースプーンの撹拌。白と緑が混ざり合う。 真奈子:(一口含み) 真奈子:……ケッコー喋ったな。 真奈子:飲んだら行く? 笑満:うん、そうだねぇ。 0:一口含み。上目遣いで、同僚を見やり。 笑満:…………、マナちゃん、 真奈子:んー? 真奈子:イイよゆっくり飲んで、 笑満:それもだけど、 笑満:…………、嫌、じゃない? マナちゃん。 真奈子:は……? 0:再び笑みは潜み。 笑満:私、こんなだし……、 笑満:知らずにイライラさせちゃって、お友達と、上手く行かなくなっちゃう事って、少なくなかったし……、 真奈子:…………、 笑満:ペアとしても、ね、 笑満:自分では頑張ってるつもりなんだけど、 笑満:手間を増やしたり、後から考えると悪い手を選んでたり……。 笑満:マナちゃんにかなり、助けてもらってる、けど……、 笑満:人の、役に立ちたいって、気持ちだけがあっても、って……。 笑満:だから、 真奈子:(遮り)もう3年目でさー。 真奈子:ナニ気弱になってんだよ? 笑満:……、 真奈子:しかも天気イイ日の、ゴールデンウィークに。 笑満:ほんとは……、いつでも、不安、なのかも。 真奈子:……、全員。ウチも、主任も園長も、だよ。 真奈子:そんなん、そこも、お気楽ウェーーーイて感じのセンセーだったら困るじゃん、子ども。 真奈子:……、あんね、 0:組んでいた足を解き。眼(まなこ)はグラスの赤を映し、真摯に光る。 真奈子:100発100中でシュートが入るコトなんかネーの。 真奈子:人間は機械じゃナイから。 笑満:……、 真奈子:でも蹴るヤツは皆、絶対入れるつもりでシュートすんじゃん。 笑満:そう、なの? 真奈子:そーなの。 真奈子:でもだから……、外したら悔しーし。 真奈子:大事な場面だったら死にてーってなる、ケド。 笑満:…………、 真奈子:でも外すのにビビって、蹴れるトコで蹴らねーヤツは駄目なの。 真奈子:どんどん蹴るのが怖くなってくから。 笑満:……こわく、 真奈子:んじゃー。だったら。 真奈子:どーすりゃ、イイんスかね。 真奈子:先生。 笑満:…………、 0:短い沈黙。速い思案の後、シンプルな回答。 笑満:……いっぱい蹴って、練習、する? 真奈子:……、(に、と笑み) 真奈子:お。 笑満:ピアノだったら、そう。 笑満:指が、思った通りに動くまで、失敗しても、もどかしくても、一歩一歩、少しずつ……、 真奈子:わかってんじゃん。 真奈子:……タフになんなきゃ、駄目だけど、さ。 笑満:タフに……、 真奈子:失敗してヘコんでも。 真奈子:クッソ、次、って。思える図太さ。 真奈子:あと……、そんで、 笑満:あっ、うん、 0:半ば空のグラスは、汗をかいている。 真奈子:他のヤツは知らんケド。 真奈子:あんたと居て、イライラするトキはあるし。 真奈子:ヤな事はマジで、ヤなんだけど、さ。 笑満:…………、う、ん、 真奈子:ヤだったら「ヤメて」って言うし。 真奈子:遊びたくネーヤツと、我慢して遊ぶほど……、 笑満:……、 真奈子:コドモじゃネーから。ウチは。 笑満:……あ……、 真奈子:こんな、ワザワザ休日に、さ。 笑満:……っ! 0:感極まり。 笑満:……っ、マっ、マっ、 笑満:マナぁっっ…………っ! 真奈子:だからっ! 真奈子:その呼び方ヤメてって! 真奈子:そろそろ100回越えるぞマジでコレっ。 笑満:じゃあ101回でもっ、 笑満:1000回でも呼ぶぅっ! 真奈子:どーゆー理屈だテメーっ! 真奈子:話聞いてたんかよあんたっ、 笑満:「あんた」じゃなくて「エマ」っ! 真奈子:ウルセーなァっ。 真奈子:店とかでギャイギャイ騒ぐ女が一番キラいなんだってマジ! 笑満:やだぁっ! 嫌いにならないでぇっ! 真奈子:うわヤメろマジっ! 真奈子:グロいグロいっ、ホレ行くぞ! 真奈子:おらっ! 伝票コレかっ! 0:慌ただしく立ち上がり。 笑満:あっ、あっ、待ってぇっ、 笑満:お手洗いっ、お手洗い行きたいっ、 真奈子:行って来いや! 真奈子:払っとくから! 笑満:うんっ、あ、えっと、 笑満:鞄っ、ハンカチ……っ、 真奈子:あー……っ、 真奈子:……、わかった一回、一回落ち着こーや。 真奈子:急がねーから。待ってるから。 笑満:うん、うん……、 笑満:エマ、落ち着く……、 真奈子:……はァアーーーーーーーっ。 真奈子:コドモの世話かマジでーーーーーーーっ。 0:暗転。 : 【モノローグ】(真奈子):メインの目的地に着く前に。 【モノローグ】(真奈子):普通に、疲れた。 【モノローグ】(真奈子):悪くもないカフェだけど、今日の服とは合わねーし。 【モノローグ】(真奈子):クリームもソーダも、甘ったるいし。 【モノローグ】(真奈子):いや甘ったるいのは別に嫌いでもねーけど……。 【モノローグ】(真奈子):日が、落ちて来て。 【モノローグ】(真奈子):夕方ぐらいの天気はちょーど良かった。 【モノローグ】(真奈子):絵本っぽい造りの店が並ぶ公園の中、しつこく繋ごうとしてくる柔っこい手を払いながら、空を見る。 【モノローグ】(真奈子):何か、知らない鳥とかも飛んでて。 【モノローグ】(真奈子):明日マジで出勤かクソ、とか思いながら。 【モノローグ】(真奈子):まー、 【モノローグ】(真奈子):とりあえず……、 0:【間】 【モノローグ】(真奈子):マナコは、こんな感じで働いてるよ。 【モノローグ】(真奈子):ジイちゃん。 : 0:【終】