台本概要
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タイトル | 知らせ虫 |
---|---|
作者名 | Kei (@kei20_) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 1人用台本(不問1) |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
いつの間にか自分だけに見える『虫』がいる。『虫』がいる場所には何かが起こる。それに気づいた新聞記者の行動は。 最新版・利用についてはこちら:https://note.com/kei20_/ 65 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
新聞記者 | 不問 | - | いつの間にか『虫』が見えるようになったうだつの上がらない新聞記者。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
記者:それに気づいたのは最近のことだった。
記者:小さな、本当に小さな点だった。
記者:それがあちこちにある。
記者:いや、いるのだ。
記者:それはいつの間にか、いる場所を変えている。
記者:よくよく見ると、どうやら小さな虫のようだった。
記者:最初は嫌悪感があった。
記者:何しろ身の回りに小さな虫ちらほらいるのだ。
記者:しかし、人間慣れてしまうものだ。
記者:特に害があるわけでもなく、ただそこにいるだけ。
記者:それにこの虫は私以外の誰にも見えていないらしい。
記者:追い払っても、気がつくと同じ場所にいる。
記者:
記者:ある朝、いつものようにバスに乗っていた。
記者:やけに虫が多かった。
記者:充満する虫たちに辟易した私は、勤務先の新聞社に遅れるにも関わらず降車した。
記者:その日はこってり上司に絞られたのだが。
記者:
記者:翌日の新聞を見て、私の背筋は凍り付いた。
記者:私が降車したバスが事故に遭い、乗客や乗員に死傷者が出ていたのだ。
記者:もし、私が乗り続けていれば事故に巻き込まれていただろう。
記者:
記者:それから、私は『虫』を観察するようになった。
記者:指についていた虫。台所で指を切った。
記者:子供の膝についていた虫。転んで擦り剝いていた。
記者:網戸についていた虫。網が裂けた。
記者:虫がついている場所は何かしらの怪我、というより損壊することにはすぐ気が付いた。
記者:
記者:ある日、通勤中の電車から、黒い煙のような『虫』の群れが見えた。
記者:私は寒気を覚えると共に、興奮した。
記者:あそこで、今日は何かが起こる。
記者:会社にスクープをとれると連絡を入れ、『虫』の群れを目指した。
記者:そこには、雑居ビルがあった。三階に『虫』達がびっしりと張り付いていた。
記者:いつだ。いつ起こる。必ずあそこで何かが起きるはずだ。
記者:じりじりと時間が過ぎていく。
記者:ふと、私は何を期待しているのだろうと思った、その瞬間。
記者:今や虫に埋もれていた三階が、文字通り爆発した。
記者:ガラス片をまき散らし、炎を上げるその階にはまだ『虫』が飛び交っている。ぞわぞわと、上へと昇っていく。燃えることもなく。
記者:
記者:私は必死でカメラを回していた。どこからか悲鳴が上がる。レンズには上の階で助けを求める人が映っている。吹き出る汗を拭おうとカメラから目を離すと、みるみるうちに『虫』に覆われていくビルが見えた。
記者:
記者:社内でうだつの上がらなかった私の評価はまちまちだった。スクープ記事は評価されたが、まぐれだろうという声が多かった。
記者:
記者:まぐれなんかじゃない。私は『虫』を見ることができる。
記者:『虫』を追いかけていればより大きな事件をスクープできる。
記者:そう、私は確信した。
記者:
記者:社内での評価は鰻登りだった。
記者:私は有頂天になっていた。
記者:認められる、というのはこんなに気持ちいいものなのか。
記者:事件が起こる場所には『虫』が集まっている。遠くからでも『虫』が群がっているのが良く見える。ただ町を眺めていれば、大事件の起きる場所がわかるのだ。
記者:気づけば朝の散歩をする健康的な習慣もできた。深夜に走り回り、目の下に隈を作っていたころが懐かしい。
記者:部長の腹に軽く『虫』がたかっているのは肝臓を悪くしているからかもしれない。ちょっといい気味だった。
記者:
記者:そんなある日。
記者:日課となった散歩中に、ふと、目の前の女性が何かを落としたのに気づいた。
記者:声をけると、女性が振り返った。
記者:女性の顔はびっしりと『虫』に覆われていた。
記者:
記者:ひっ……。
記者:
記者:私は思わず引き攣った声をあげた。
記者:波打つその『虫』の顔が「ありがとうございます」と澄んだ声で私に話しかけてきた。
記者:私は何が起きたのかわからなかった。
記者:私はこのままこの女性を追いかけるべきなのか。
記者:止めるべきなのか。
記者:いや、止めるとどうなる?
記者:止めたことで『虫』がこの女性についたのか?
記者:混乱しながらも当たり障りのない挨拶をする私を他所に、女性は立ち去って行った。
記者:
記者:翌日、女性の変死体が発見された。
記者:顔に酷い傷。傷なんてものじゃない。
記者:あの『虫』の量は異常だった。
記者:おそらくは顔の原型すら残っていないだろう。
記者:
記者:私はどうすればよかった。
記者:
記者:眠れない夜を過ごした私は、いつもの通り顔を洗った直後。
記者:鏡を見て悲鳴を上げた。
記者:顔には『虫』がわらわらと張り付いていた。
記者:あの女性に声をかけたところを犯人に見られていたのか?
記者:知り合いだと思われたのか?
記者:次の標的は私だというのか。
記者:冗談じゃない。
記者:
記者:とにかく普段通りの行動をとっていてはいけない。
記者:
記者:会社に休む旨を伝えて、引きこもっていた。
記者:鏡を見るたび、徐々に虫が減っていくのがわかった。
記者:なんだ、変えられるじゃないか。
記者:
記者:そう安心した瞬間、罪悪感が湧いてきた。
記者:あの女性は死ななくても済んだのかもしれない。
記者:
記者:翌日に鏡を見ると、私の顔から『虫』が消えていた。
記者:ああ、これで私には何事もない。
記者:気分が良くなり、空気を入れ替えようとカーテンを開ける。
記者:
記者:町中が『虫』に覆われていた。
記者:それに気づいたのは最近のことだった。
記者:小さな、本当に小さな点だった。
記者:それがあちこちにある。
記者:いや、いるのだ。
記者:それはいつの間にか、いる場所を変えている。
記者:よくよく見ると、どうやら小さな虫のようだった。
記者:最初は嫌悪感があった。
記者:何しろ身の回りに小さな虫ちらほらいるのだ。
記者:しかし、人間慣れてしまうものだ。
記者:特に害があるわけでもなく、ただそこにいるだけ。
記者:それにこの虫は私以外の誰にも見えていないらしい。
記者:追い払っても、気がつくと同じ場所にいる。
記者:
記者:ある朝、いつものようにバスに乗っていた。
記者:やけに虫が多かった。
記者:充満する虫たちに辟易した私は、勤務先の新聞社に遅れるにも関わらず降車した。
記者:その日はこってり上司に絞られたのだが。
記者:
記者:翌日の新聞を見て、私の背筋は凍り付いた。
記者:私が降車したバスが事故に遭い、乗客や乗員に死傷者が出ていたのだ。
記者:もし、私が乗り続けていれば事故に巻き込まれていただろう。
記者:
記者:それから、私は『虫』を観察するようになった。
記者:指についていた虫。台所で指を切った。
記者:子供の膝についていた虫。転んで擦り剝いていた。
記者:網戸についていた虫。網が裂けた。
記者:虫がついている場所は何かしらの怪我、というより損壊することにはすぐ気が付いた。
記者:
記者:ある日、通勤中の電車から、黒い煙のような『虫』の群れが見えた。
記者:私は寒気を覚えると共に、興奮した。
記者:あそこで、今日は何かが起こる。
記者:会社にスクープをとれると連絡を入れ、『虫』の群れを目指した。
記者:そこには、雑居ビルがあった。三階に『虫』達がびっしりと張り付いていた。
記者:いつだ。いつ起こる。必ずあそこで何かが起きるはずだ。
記者:じりじりと時間が過ぎていく。
記者:ふと、私は何を期待しているのだろうと思った、その瞬間。
記者:今や虫に埋もれていた三階が、文字通り爆発した。
記者:ガラス片をまき散らし、炎を上げるその階にはまだ『虫』が飛び交っている。ぞわぞわと、上へと昇っていく。燃えることもなく。
記者:
記者:私は必死でカメラを回していた。どこからか悲鳴が上がる。レンズには上の階で助けを求める人が映っている。吹き出る汗を拭おうとカメラから目を離すと、みるみるうちに『虫』に覆われていくビルが見えた。
記者:
記者:社内でうだつの上がらなかった私の評価はまちまちだった。スクープ記事は評価されたが、まぐれだろうという声が多かった。
記者:
記者:まぐれなんかじゃない。私は『虫』を見ることができる。
記者:『虫』を追いかけていればより大きな事件をスクープできる。
記者:そう、私は確信した。
記者:
記者:社内での評価は鰻登りだった。
記者:私は有頂天になっていた。
記者:認められる、というのはこんなに気持ちいいものなのか。
記者:事件が起こる場所には『虫』が集まっている。遠くからでも『虫』が群がっているのが良く見える。ただ町を眺めていれば、大事件の起きる場所がわかるのだ。
記者:気づけば朝の散歩をする健康的な習慣もできた。深夜に走り回り、目の下に隈を作っていたころが懐かしい。
記者:部長の腹に軽く『虫』がたかっているのは肝臓を悪くしているからかもしれない。ちょっといい気味だった。
記者:
記者:そんなある日。
記者:日課となった散歩中に、ふと、目の前の女性が何かを落としたのに気づいた。
記者:声をけると、女性が振り返った。
記者:女性の顔はびっしりと『虫』に覆われていた。
記者:
記者:ひっ……。
記者:
記者:私は思わず引き攣った声をあげた。
記者:波打つその『虫』の顔が「ありがとうございます」と澄んだ声で私に話しかけてきた。
記者:私は何が起きたのかわからなかった。
記者:私はこのままこの女性を追いかけるべきなのか。
記者:止めるべきなのか。
記者:いや、止めるとどうなる?
記者:止めたことで『虫』がこの女性についたのか?
記者:混乱しながらも当たり障りのない挨拶をする私を他所に、女性は立ち去って行った。
記者:
記者:翌日、女性の変死体が発見された。
記者:顔に酷い傷。傷なんてものじゃない。
記者:あの『虫』の量は異常だった。
記者:おそらくは顔の原型すら残っていないだろう。
記者:
記者:私はどうすればよかった。
記者:
記者:眠れない夜を過ごした私は、いつもの通り顔を洗った直後。
記者:鏡を見て悲鳴を上げた。
記者:顔には『虫』がわらわらと張り付いていた。
記者:あの女性に声をかけたところを犯人に見られていたのか?
記者:知り合いだと思われたのか?
記者:次の標的は私だというのか。
記者:冗談じゃない。
記者:
記者:とにかく普段通りの行動をとっていてはいけない。
記者:
記者:会社に休む旨を伝えて、引きこもっていた。
記者:鏡を見るたび、徐々に虫が減っていくのがわかった。
記者:なんだ、変えられるじゃないか。
記者:
記者:そう安心した瞬間、罪悪感が湧いてきた。
記者:あの女性は死ななくても済んだのかもしれない。
記者:
記者:翌日に鏡を見ると、私の顔から『虫』が消えていた。
記者:ああ、これで私には何事もない。
記者:気分が良くなり、空気を入れ替えようとカーテンを開ける。
記者:
記者:町中が『虫』に覆われていた。