台本概要

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タイトル 知らせ虫
作者名 Kei  (@kei20_)
ジャンル その他
演者人数 1人用台本(不問1)
時間 10 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 いつの間にか自分だけに見える『虫』がいる。『虫』がいる場所には何かが起こる。それに気づいた新聞記者の行動は。
最新版・利用についてはこちら:https://note.com/kei20_/

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
新聞記者 不問 - いつの間にか『虫』が見えるようになったうだつの上がらない新聞記者。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
記者:それに気づいたのは最近のことだった。 記者:小さな、本当に小さな点だった。 記者:それがあちこちにある。 記者:いや、いるのだ。 記者:それはいつの間にか、いる場所を変えている。 記者:よくよく見ると、どうやら小さな虫のようだった。 記者:最初は嫌悪感があった。 記者:何しろ身の回りに小さな虫ちらほらいるのだ。 記者:しかし、人間慣れてしまうものだ。 記者:特に害があるわけでもなく、ただそこにいるだけ。 記者:それにこの虫は私以外の誰にも見えていないらしい。 記者:追い払っても、気がつくと同じ場所にいる。 記者:  記者:ある朝、いつものようにバスに乗っていた。 記者:やけに虫が多かった。 記者:充満する虫たちに辟易した私は、勤務先の新聞社に遅れるにも関わらず降車した。 記者:その日はこってり上司に絞られたのだが。 記者:  記者:翌日の新聞を見て、私の背筋は凍り付いた。 記者:私が降車したバスが事故に遭い、乗客や乗員に死傷者が出ていたのだ。 記者:もし、私が乗り続けていれば事故に巻き込まれていただろう。 記者:  記者:それから、私は『虫』を観察するようになった。 記者:指についていた虫。台所で指を切った。 記者:子供の膝についていた虫。転んで擦り剝いていた。 記者:網戸についていた虫。網が裂けた。 記者:虫がついている場所は何かしらの怪我、というより損壊することにはすぐ気が付いた。 記者:  記者:ある日、通勤中の電車から、黒い煙のような『虫』の群れが見えた。 記者:私は寒気を覚えると共に、興奮した。 記者:あそこで、今日は何かが起こる。 記者:会社にスクープをとれると連絡を入れ、『虫』の群れを目指した。 記者:そこには、雑居ビルがあった。三階に『虫』達がびっしりと張り付いていた。 記者:いつだ。いつ起こる。必ずあそこで何かが起きるはずだ。 記者:じりじりと時間が過ぎていく。 記者:ふと、私は何を期待しているのだろうと思った、その瞬間。 記者:今や虫に埋もれていた三階が、文字通り爆発した。 記者:ガラス片をまき散らし、炎を上げるその階にはまだ『虫』が飛び交っている。ぞわぞわと、上へと昇っていく。燃えることもなく。 記者:  記者:私は必死でカメラを回していた。どこからか悲鳴が上がる。レンズには上の階で助けを求める人が映っている。吹き出る汗を拭おうとカメラから目を離すと、みるみるうちに『虫』に覆われていくビルが見えた。 記者:  記者:社内でうだつの上がらなかった私の評価はまちまちだった。スクープ記事は評価されたが、まぐれだろうという声が多かった。 記者:  記者:まぐれなんかじゃない。私は『虫』を見ることができる。 記者:『虫』を追いかけていればより大きな事件をスクープできる。 記者:そう、私は確信した。 記者:  記者:社内での評価は鰻登りだった。 記者:私は有頂天になっていた。 記者:認められる、というのはこんなに気持ちいいものなのか。 記者:事件が起こる場所には『虫』が集まっている。遠くからでも『虫』が群がっているのが良く見える。ただ町を眺めていれば、大事件の起きる場所がわかるのだ。 記者:気づけば朝の散歩をする健康的な習慣もできた。深夜に走り回り、目の下に隈を作っていたころが懐かしい。 記者:部長の腹に軽く『虫』がたかっているのは肝臓を悪くしているからかもしれない。ちょっといい気味だった。 記者:  記者:そんなある日。 記者:日課となった散歩中に、ふと、目の前の女性が何かを落としたのに気づいた。 記者:声をけると、女性が振り返った。 記者:女性の顔はびっしりと『虫』に覆われていた。 記者:  記者:ひっ……。 記者:  記者:私は思わず引き攣った声をあげた。 記者:波打つその『虫』の顔が「ありがとうございます」と澄んだ声で私に話しかけてきた。 記者:私は何が起きたのかわからなかった。 記者:私はこのままこの女性を追いかけるべきなのか。 記者:止めるべきなのか。 記者:いや、止めるとどうなる? 記者:止めたことで『虫』がこの女性についたのか? 記者:混乱しながらも当たり障りのない挨拶をする私を他所に、女性は立ち去って行った。 記者:  記者:翌日、女性の変死体が発見された。 記者:顔に酷い傷。傷なんてものじゃない。 記者:あの『虫』の量は異常だった。 記者:おそらくは顔の原型すら残っていないだろう。 記者:  記者:私はどうすればよかった。 記者:  記者:眠れない夜を過ごした私は、いつもの通り顔を洗った直後。 記者:鏡を見て悲鳴を上げた。 記者:顔には『虫』がわらわらと張り付いていた。 記者:あの女性に声をかけたところを犯人に見られていたのか? 記者:知り合いだと思われたのか? 記者:次の標的は私だというのか。 記者:冗談じゃない。 記者:  記者:とにかく普段通りの行動をとっていてはいけない。 記者:  記者:会社に休む旨を伝えて、引きこもっていた。 記者:鏡を見るたび、徐々に虫が減っていくのがわかった。 記者:なんだ、変えられるじゃないか。 記者:  記者:そう安心した瞬間、罪悪感が湧いてきた。 記者:あの女性は死ななくても済んだのかもしれない。 記者:  記者:翌日に鏡を見ると、私の顔から『虫』が消えていた。 記者:ああ、これで私には何事もない。 記者:気分が良くなり、空気を入れ替えようとカーテンを開ける。 記者:  記者:町中が『虫』に覆われていた。

記者:それに気づいたのは最近のことだった。 記者:小さな、本当に小さな点だった。 記者:それがあちこちにある。 記者:いや、いるのだ。 記者:それはいつの間にか、いる場所を変えている。 記者:よくよく見ると、どうやら小さな虫のようだった。 記者:最初は嫌悪感があった。 記者:何しろ身の回りに小さな虫ちらほらいるのだ。 記者:しかし、人間慣れてしまうものだ。 記者:特に害があるわけでもなく、ただそこにいるだけ。 記者:それにこの虫は私以外の誰にも見えていないらしい。 記者:追い払っても、気がつくと同じ場所にいる。 記者:  記者:ある朝、いつものようにバスに乗っていた。 記者:やけに虫が多かった。 記者:充満する虫たちに辟易した私は、勤務先の新聞社に遅れるにも関わらず降車した。 記者:その日はこってり上司に絞られたのだが。 記者:  記者:翌日の新聞を見て、私の背筋は凍り付いた。 記者:私が降車したバスが事故に遭い、乗客や乗員に死傷者が出ていたのだ。 記者:もし、私が乗り続けていれば事故に巻き込まれていただろう。 記者:  記者:それから、私は『虫』を観察するようになった。 記者:指についていた虫。台所で指を切った。 記者:子供の膝についていた虫。転んで擦り剝いていた。 記者:網戸についていた虫。網が裂けた。 記者:虫がついている場所は何かしらの怪我、というより損壊することにはすぐ気が付いた。 記者:  記者:ある日、通勤中の電車から、黒い煙のような『虫』の群れが見えた。 記者:私は寒気を覚えると共に、興奮した。 記者:あそこで、今日は何かが起こる。 記者:会社にスクープをとれると連絡を入れ、『虫』の群れを目指した。 記者:そこには、雑居ビルがあった。三階に『虫』達がびっしりと張り付いていた。 記者:いつだ。いつ起こる。必ずあそこで何かが起きるはずだ。 記者:じりじりと時間が過ぎていく。 記者:ふと、私は何を期待しているのだろうと思った、その瞬間。 記者:今や虫に埋もれていた三階が、文字通り爆発した。 記者:ガラス片をまき散らし、炎を上げるその階にはまだ『虫』が飛び交っている。ぞわぞわと、上へと昇っていく。燃えることもなく。 記者:  記者:私は必死でカメラを回していた。どこからか悲鳴が上がる。レンズには上の階で助けを求める人が映っている。吹き出る汗を拭おうとカメラから目を離すと、みるみるうちに『虫』に覆われていくビルが見えた。 記者:  記者:社内でうだつの上がらなかった私の評価はまちまちだった。スクープ記事は評価されたが、まぐれだろうという声が多かった。 記者:  記者:まぐれなんかじゃない。私は『虫』を見ることができる。 記者:『虫』を追いかけていればより大きな事件をスクープできる。 記者:そう、私は確信した。 記者:  記者:社内での評価は鰻登りだった。 記者:私は有頂天になっていた。 記者:認められる、というのはこんなに気持ちいいものなのか。 記者:事件が起こる場所には『虫』が集まっている。遠くからでも『虫』が群がっているのが良く見える。ただ町を眺めていれば、大事件の起きる場所がわかるのだ。 記者:気づけば朝の散歩をする健康的な習慣もできた。深夜に走り回り、目の下に隈を作っていたころが懐かしい。 記者:部長の腹に軽く『虫』がたかっているのは肝臓を悪くしているからかもしれない。ちょっといい気味だった。 記者:  記者:そんなある日。 記者:日課となった散歩中に、ふと、目の前の女性が何かを落としたのに気づいた。 記者:声をけると、女性が振り返った。 記者:女性の顔はびっしりと『虫』に覆われていた。 記者:  記者:ひっ……。 記者:  記者:私は思わず引き攣った声をあげた。 記者:波打つその『虫』の顔が「ありがとうございます」と澄んだ声で私に話しかけてきた。 記者:私は何が起きたのかわからなかった。 記者:私はこのままこの女性を追いかけるべきなのか。 記者:止めるべきなのか。 記者:いや、止めるとどうなる? 記者:止めたことで『虫』がこの女性についたのか? 記者:混乱しながらも当たり障りのない挨拶をする私を他所に、女性は立ち去って行った。 記者:  記者:翌日、女性の変死体が発見された。 記者:顔に酷い傷。傷なんてものじゃない。 記者:あの『虫』の量は異常だった。 記者:おそらくは顔の原型すら残っていないだろう。 記者:  記者:私はどうすればよかった。 記者:  記者:眠れない夜を過ごした私は、いつもの通り顔を洗った直後。 記者:鏡を見て悲鳴を上げた。 記者:顔には『虫』がわらわらと張り付いていた。 記者:あの女性に声をかけたところを犯人に見られていたのか? 記者:知り合いだと思われたのか? 記者:次の標的は私だというのか。 記者:冗談じゃない。 記者:  記者:とにかく普段通りの行動をとっていてはいけない。 記者:  記者:会社に休む旨を伝えて、引きこもっていた。 記者:鏡を見るたび、徐々に虫が減っていくのがわかった。 記者:なんだ、変えられるじゃないか。 記者:  記者:そう安心した瞬間、罪悪感が湧いてきた。 記者:あの女性は死ななくても済んだのかもしれない。 記者:  記者:翌日に鏡を見ると、私の顔から『虫』が消えていた。 記者:ああ、これで私には何事もない。 記者:気分が良くなり、空気を入れ替えようとカーテンを開ける。 記者:  記者:町中が『虫』に覆われていた。