台本概要

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タイトル 乙女ゲーム連続殺人事件
作者名 なおと(ばあばら)  (@babara19851985)
ジャンル コメディ
演者人数 3人用台本(男1、女2)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 乙女のドキドキとワクワクと胸キュンが詰まっているはずの乙女ゲー。
そんな舞台でも、凄惨な殺人事件は起きてしまう……。恋慕と嫉妬が交錯するミステリーコメディです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
広井 いん子 - ひろい いんこ。主人公。高校一年生。理想の男性を求め、学園生活を送る。
育美 たすく - はぐくみ たすく。いん子の同級生。いん子の恋が実るよう、サポートをしてくれるお助けキャラ。
攻略男性キャラ4人分 - 攻略キャラが4人います。一人一人のセリフが多くないので、男性一人が演じて下さい。 小山内 なじみ(おさない なじみ)…いん子の同級生。さわやか気弱幼馴染キャラ。 石動 音也(いするぎ おとなり)…いん子の同級生。ギター好きのちょい軽薄キャラ。 学 勉(まなび つとむ)…いん子の先輩。秀才ツンデレキャラ。 鬼瓦 綺羅(おにがわら きら)…いん子の先輩。不良だけど正義感あるキャラ。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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いん子:(M)この物語はフィクションであり、実在の人物や団体などとは一切関係がありません。 いん子:また、物語内で殺人が行われますが、決して同犯行を助長するものではありません。それを踏まえたうえで、どうぞ、ごゆっくりお楽しみ下さい。 いん子:(M)私の名前は広井いん子。今日から私立青春学園に通うことになる、ぴっかぴかの女子高生だ! 地味で冴えなかった中学時代とはオサラバ! イケメン男子とバラ色のスクールライフが過ごせる……といいなぁ。 小山内:「(遠くから)おーい! 広井さ~ん」 いん子:「あ、小山内君」 小山内:「(小走りで駆け寄って)広井さん。おはよう。今日から僕たち、高校生だね。あらためて、よろしく。新しい環境に慣れるのはちょっと大変だけど……広井さんがいるなら心強いや。何といっても小学校からの付き合いだもんね。昔から人見知りで、なかなか友達を作れずにいた僕に、広井さんが声をかけてくれたこと、僕は一生感謝するからね。高校でも、お互い友達がたくさんできるといいね! あ、いけない。ゆっくり話してたら遅刻しちゃうね。それじゃ、僕は先に行ってるから! それじゃ、またね!(去っていく)」 いん子:(M)一緒には登校しないんだね~。はぁ~あ、そういうところが今一つ関係が発展しない原因なんだよなぁ~。優しいし、顔も悪くないのに……どうも、こう、何て言うか……。 たすく:「(近い距離で)押しが弱い……ですねぇ~」 いん子:「うわっ! びっくりした。……え、あなた、誰?」 たすく:「アタシは『育美(はぐくみ)たすく』と申します。以後お見知りおき下さい。制服から察するに、あなた、アタシと同じ青春学園の生徒とお見受けしました。さらに察するに、先ほどの男子生徒とのやり取りからして、アタシと同じぴっかぴかの新入生と思われます」 いん子:「(独り言)どこから聞いてたの、この子」 たすく:「さらに察するに、先ほどの男子生徒は小学校からの幼馴染であり、お互い憎からず思っているものの、友達以上恋人未満の距離を縮められずにいるものと思われる! たすく:旦那、そんなことでいいんですかい? 花の女子高生ライフは光陰矢の如し。思春期男女がひしめく学び舎は、ホレたハレたの群雄割拠。 たすく:もたもたしてたら、旦那。あっという間に幼馴染の純情ボーイを、どこの馬の骨とも知れないふしだら女狐に、とられっちまいやすぜ?」 いん子:「馬だか狐だか知らないけど、そんなぽっと出の女になびくほど、小山内君は安い男じゃないよ。 いん子:だいたいアンタ、いきなり声かけてきて失礼じゃないの!?」 たすく:「(食い気味で)まぁ~、そう~思いたいんだったら、思い続けるがいいってことっす。 たすく:乙女の思いは一日千秋。縮まる距離は日進月歩。時の流れは人それぞれでさぁ。 たすく:……ただ、勘違いしないで下さい。アタシは女の味方、乙女の味方。広井姐さんの恋を応援させて頂きやす」 いん子:「(呆れて独り言)姐さんって……」 たすく:「それに何も男は幼馴染ひとりじゃ、ありやせん! たすく:この高校には、きっと姐さん好みのイケメンがたんまりいるはず! 時間はまだまだたっぷりあります。じっくり考えて、どのボーイをかどわかすか、決めておくんなせぇ」 いん子:「アンタ、さっきは光陰矢の如しとか言ってたくせに」 たすく:「(食い気味で)お~っと! いけねぇ! 遅刻しちやいやす! たすく:旦那、アタシはひとっ走りお先に行かせて頂きやすよ! たすく:それでわ~、これからも育美たすくを末永くご愛顧下せぇ~!(走り去る)」 いん子:「まったく……。なんなのよ、あのケッタイな奴は。まぁ、でもあれがきっと『お助けキャラ』なんでしょうね。イケメン達の情報はあの子が仕入れてきてくれるんでしょ……イタっ!」 音也:「あっ! ごっめ~ん。楽譜見ながら歩いてたら、ぶつかっちゃった。 音也:君、大丈夫? 音也:ん? あ~! 同じ制服~! 音也:ってことは、君も青春学園の人!? ひょっとして一年生!? オレもオレも~! 音也:へへへ、道を歩いてたら、たまたま同じ学校の同級生とぶつかるなんて、何かめちゃめちゃ奇遇だね、オレ達! 音也:あ、オレ、石動音也(いするぎおとなり)。君は? 音也:……ふ~ん。いん子ちゃん、って言うのかぁ~。じゃぁ……いんリンって呼んでいい? 音也:ねぇねぇ、いんリンは部活とか入る予定ある!? オレはある~! 音也:どこの部活かって? そんなもん、軽音楽部に決まってんじゃ~ん。今もね、楽譜見ながら脳内でギターコードの練習してたんだぁ~。 音也:へへへ、ギターってさ、マジマジかっこよくない!? 特に、エレキ! ぴんと張りつめた弦を、決められた順番で正確に、でも時には大胆にはじく! そうすると、アンプから流れるギューンっていう重低音! 音也:くぅ~、たっまんないよねぇ~! あっ、そうだ! いんリン、部活入る予定ないんだったら、軽音部のマネージャーになってよ~。 音也:オレ、いんリンとだったら、最っ高のロックを奏でられる気がするんだよね~。 音也:……って、いけね! 朝からこんな長話してたら、入学初日から遅刻しちゃうや! 音也:じゃあ、いんリン、まったね~(去る)」 いん子:「ウソ……でしょ。なになに、展開が早すぎる! 矢の如しすぎる! いん子:初対面であんな長い自分語りする奴いる? しかももうあだ名? あだ名って、もうちょっと親密度が上がってから発生するイベントなんじゃないの? いん子:まだ自分が入部もしてないのに、マネージャーに誘うって、どんだけ……イタっ!」 学:「おっと。これは失礼した。参考書を読んでいて、前を見ていなかったよ。 学:……うん? 君は、青春学園の生徒かい? 学:そうか、一年生だね。 学:僕の名前は『学勉(まなびつとむ)』。二年だ。 学:……え? なぜ君が一年とわかったかって? 学:それはもちろん、僕が知らない顔だからだよ。一年間も高校生活を送っていれば、全校生徒の顔を覚えるのは、そう難儀なことではない。 学:人間の顔なんて、決められた数値による順列でしかないからね。凹凸(おうとつ)の特徴さえ記憶してしまえば、日々の生活の中で自ずと知らない顔はなくなってくる。 学:ほら、僕が名乗ったのだから、君も名を名乗るべきじゃないのか? 学:……ふむ。広井いん子と言うのか。 学:では、広井くん。これだけは覚えておくんだ。今後、学内で僕が歩いている姿を見かけたら、必ず道を開けろ。 学:僕は歩行中は必ず本を読んでいる。歩行のみを行うのは非生産的だからな。ゆえに視界が狭い。先ほどのように進行の邪魔をされると、時間の無駄なのでね。 学:わかったかい? 学:では、失礼するよ(去る)」 いん子:「……いや、おかしいでしょ! いん子:初対面であんな失礼な人、いるわけないじゃん。時間の無駄だって言うなら、聞いてもいないキャラ設定を話すんじゃない! いん子:しかも、この登校イベントだけで、どんだけキャラ紹介を消化するつもりなの? いん子:こんな調子じゃ、私絶対遅刻……イタっ」 綺羅:「おう、嬢ちゃん。悪ぃな。俺は人に道を譲るのが嫌ぇだから、道の真ん中に嬢ちゃんがいるとわかっていながら、ぶつかっちまったぜ。 綺羅:これがヤローだったら、殴りつけて道をどかせるとこだったがよ。俺は女には優しいんだ。 綺羅:おばあちゃんが言っていたからな。女の子には優しくしろってよ。 綺羅:俺は『鬼瓦 綺羅(おにがわら きら)』。三年だ。 綺羅:見た目は怖ぇかもしれねぇが、案外優しいとこもあるんだぜ。 綺羅:じゃ、遅刻しねぇように気ぃ付けな(去る)」 いん子:「……雑っ! どんどん紹介が雑になってきてる! いん子:確かに一見怖そうな人が、根はいい奴って、王道かもだけど、自分で言わないでよ! いん子:今後の学園生活パートのイベントの中でわかりたかったよ! いん子:まったく……、入学初日から波乱万丈すぎるよ~」 いん子:(M)その後、私はさらなるキャラが登場しないかと待ってみたが、誰も来なかったので、学校へ向かった。 いん子:(M)当然、遅刻した いん子:(M)その後、なんやかんやあったけど、私は充実した学園生活を送っていった。 いん子:(M)最初は押し付けがましいだけだった彼らのキャラクターも、一緒に学園生活を送ることで、徐々に好感が持てるようになっていった。 いん子:(M)音也君はその明るさで、いつも私を笑顔にしてくれた。落ち込むことがあっても、音也君と一緒にいると、いつの間にか元気を取り戻しているということが何度もあった 音也:「いんリン、どうだった? オレのライブパフォーマンス? 音也:え? めちゃめちゃカッコよかったって? 音也:えへへ、いんリンにそう言ってもらえるのが一番嬉しいや! また、見に来てよね!」 いん子:(M)登校初日に、あんなにつっけんどんだった学先輩は、私がミカちゃん人形のコレクターだと知るや、急速に距離が縮まった。 いん子:(M)優等生であるがゆえに、お人形遊びが趣味であることを家族にも話せなかったため、ずっと趣味友達を探していたらしい。 学:「広井くん。今度の日曜日、個展に行かないか? 学:何のって……(小声で)み、ミカちゃん人形生誕五十周年大展覧会だ。わざわざ言わすな。 学:……オホン。実は誤ってチケットを二枚買ってしまったのだ。 学:一人で二回行くよりも、芸術品を同好の士と語り合うことの方が、僕にとってメリットが大きいと感じるんだが……(照れて)な、何がおかしいのだ!」 いん子:(M)そして綺羅先輩は、登校初日に自分で言っていた通り、とても優しい人だった。 いん子:(M)それは、同じ高校生とは思えないような、包み込むような優しさだ。綺羅先輩と一緒にいると私はとても穏やかな気持ちになれる。 綺羅:「どうした、いん子? なんで泣いているんだ? 綺羅:……いや、無理に話す必要はない。話すだけで楽になることばかりじゃないものな。 綺羅:いん子がどうしたいのか、できたら教えてくれ。辛いことを忘れるくらい、思いっきり遊びまくりたいのか。涙がなくなるまで泣きまくりたいのか。 綺羅:俺は全部付き合うぞ。 綺羅:どうしていいかわからないなら、俺も一緒に悩ませてくれ。 綺羅:……ん? 何だ? 話す気になったのか? 綺羅:……ふむ。駅前のケーキ屋からスペシャルぴよ子ケーキが販売中止になったのか。 綺羅:あぁ……(優しく)あれは旨かったものな」 いん子:(M)みんなとの関係を深めていくにあたり、育美たすくには本当に助けられた。 いん子:(M)たすくはどこから仕入れてくるのか、彼らの趣味、家族構成、誕生日に血液型、何歳まで母親とお風呂に入っていたか等、細かな情報まで私に提供してくれるのだった。 いん子:(M)そんな充実した学園生活を送っていた私だったが、それは長くは続かなかった。夢のような時間は、まさに光陰矢の如しだったのである……。 たすく:「それにしても……ホントびっくりすよねぇ、姐さん」 いん子:(M)私と育美たすくは、近所のファミレスで昼食を食べていた。 たすく:「まさか一週間の間に、生徒が3人も……」 いん子:「ホントに……。(涙ぐむ)みんな……どうして」 たすく:「こんなこと考えたくもないっすけど……これはどう考えても殺人事件。しかも同一犯による、連続殺人としか思えないっすね」 いん子:(M)連続殺人……。その禍々しい言葉が、私の脳内に反響する。そう……もう彼らはこの世にいないんだ。 たすく:「姐さんにとっては辛いかもしれないっすけど……アタシなりに三件の犯行の状況を整理したので、聞いて欲しいっす……。 たすく:まず一件目。石動音也っす。 たすく:彼の死因は窒息死。死体発見現場は、青春学園校庭の一角にある、鯉を飼育している小さな池。 たすく:月曜日の朝、飼育委員の生徒が鯉に餌をやろうとしたところ、池に浮いている石動音也を発見したとのこと。 たすく:当初は池で溺れてしまったのかと思われていたが、警察の捜査の結果、ロープのようなもので首を絞められていたことがわかったそうっす。 たすく:つまり、絞殺された後に、死体を池に遺棄したということっすね。 たすく:そして、二件目。石動音也の死が他殺だと断定された頃、学勉の死体が発見されたっす。学内にある弓道部の練習場で学勉は胸に矢が刺さった状態で発見されたっす。 たすく:死因は出血多量。突き刺さった矢が致命傷にならなかったせいか、死に至るまで相当もがき苦しんだ様子だと、警察は言っているっすね。 たすく:……それから2日後、鬼瓦綺羅の死体が発見されたっす。 たすく:鬼瓦綺羅の死因は、二十階建てのライオンズマンションからの落下死。 たすく:屋上から突き落とされたらしいっす。落下死なので、他殺と断定する根拠はありやせんが、先の二件の殺人と関連付けて、警察はこの三人の男子高校生の死を、同一犯による連続殺人であると仮定して、捜査を進めているらしいっす」 いん子:「(涙ぐみ)ぐす……。どうして……こんなことに……。ひどい……あんまりだわ」 たすく:「心中お察ししやす、姐さん。せっかく、どのキャラとも仲良くなってきたのに」 いん子:「……キャラって言うな」 たすく:「すいやせん」 小山内:「(ファミレスに入ってくる)あっ、広井さん、いたいた。(二人の席に近づいてくる)広井さん、大丈夫? 電話じゃ、相当ショックを受けているみたいだったけど」 いん子:「……うん。大丈夫、(涙を拭いながら)心配させちゃってごめんね」 たすく:「小山内君……。姐さんが小山内君を呼んだんすか?」 いん子:「ええ、どうしても心細くて……。辛い時は…やっぱり幼馴染にそばにいて欲しいかなって」 たすく:「……」 小山内:「広井さん、僕にできることがあったら、何でも言ってね? 何か力になれることがあれば……」 いん子:「うん……、ありがとう小山内君。……(何かに気づく)あっ」 小山内:「ん? どうしたの、広井さん?」 いん子:「小山内君。……唐突なんだけど私……犯人わかっちゃったみたい」 小山内:「えーー!?」 いん子:「……うん。間違いない。犯人は……あなたね! 育美たすく!」 小山内:「えっ! 育美さんが!?」 いん子:「そう! この陰惨な連続殺人を犯した張本人。外道中の外道は、間違いなくこの女よ!」 たすく:「(静かに)……外道とは随分な物言いっすね、姐さん」 いん子:「いけしゃあしゃあと、よくもこの女……!」 小山内:「ま、待ってよ、広井さん。ど、どうして、育美さんが犯人だと思うの?」 たすく:「(落ち着いて)そうっすね。アタシも興味あるっす。姐さんがどうして、アタシを犯人と特定したのか」 いん子:「三人の死の状況と彼らのプロフィールを考えれば、簡単なことだったわ!」 小山内:「ぷ、プロフィール?」 いん子:「育美たすく! あなたが私に教えてくれた三人のプロフィール、もう一度ここで披露してもらえるかしら?」 たすく:「……姐さんには以前にすでに教えたっす。今もう一度ここでいう必要は……」 いん子:「(遮って)いいからっ! 早く言って!」 たすく:「……仕方ないっすね。 たすく:石動音也。青春学園一年三組。血液型はB型。二月二十五日生まれ。軽音楽部に所属。一見軽薄そうだが、音楽に関しては真摯に向き合っている。好みの女性のタイプは……」 いん子:「(遮って)そこまででいいわ。次!」 たすく:「……(溜息)はぁ。学勉。青春学園二年六組。血液型はA型。十二月二日生まれ。学年トップの成績を誇る。が、実はミカちゃん人形愛好家でもあり、それを親にも……」 いん子:「(遮って)次!」 たすく:「……鬼瓦綺羅。青春学園三年一組。血液型はO型。八月十五日生まれ……」 いん子:「(遮って)聞いてのとおりよ、小山内君! この犯行は、やはり目の前にいる冷酷卑劣女、育美たすくによって行われているわ!」 小山内:「ごめん、広井さん。僕にもわかるように説明してもらえるかな?」 いん子:「簡単なことだったのよ、小山内君。これは……見立て殺人だったの!」 小山内:「見立て…殺人?」 いん子:「音也君は二月二十五日生まれの、うお座……。小山内君、彼は殺害後、どこに遺棄されていたか覚えてる?」 小山内:「確か……校庭の一角にある鯉の池……(気づく)あっ!」 いん子:「そう。そして、十二月二日生まれ、いて座の学先輩は、胸に矢が突き刺さって死んでいた。八月十五日生まれ、しし座の綺羅先輩はライオンズマンションから転落死……。つまり犯人は、三人の生年月日を熟知した上で、彼らの星座になぞらえて犯行におよんだ、ということになるわ! 小山内:「で、でも広井さん。三人の生年月日を知っていたのは、育美さんだけとは限らないんじゃないかな? 学校の先生だって、きっと三人のプロフィールくらい……」 いん子:「確かに、三人の星座を知っているのは、育美たすくだけではないかもしれない。 いん子:でもね、小山内君、この物語はフィクションなのよ? 最初に私がナレーションで言ってたでしょ?  いん子:フィクションの中で、今まで一度も登場していない人物が犯人なわけないでしょうが」 たすく:「(ここから高飛車な感じ)……ふふ、んふふ…、あ~はっはっはっはっ!! 何を言い出すかと思えば、広井いん子! とんだ茶番劇ね!」 いん子:「な、何を言っているの?」 たすく:「あなたの推理は、ボッコボコの穴だらけだと言っているの。もぐら叩きかと思ったわよ」 いん子:「い、言い訳するつもりなの? あと、ちょっとキャラ変わりすぎじゃない?」 たすく:「言い訳ではないわ。あなたの話す空論があまりに愉快だったから、最後まで聞いてあげただけ……。本当は、あなたが私を犯人だと断定したその時に……真実を話しても良かったのよ?」 小山内:「し、真実?」 たすく:「でもここは、名探偵広井いん子さんに敬意を表して……私も少々回りくどく、あなたの推理の穴を解説してあげるわ」 いん子:「推理の……穴?」 たすく:「あなたの推理には、大きく三つの穴が存在するわ。まず一つ目、それは動機よ」 小山内:「動機……?」 たすく:「私が三人の生年月日を知っていたのは事実よ。そしてそれをもとに、あの犯行を思いつくことはできたかもしれない。しかし、私はなぜそんなことをする必要があるの? 三人を殺すことだけが目的なら、いちいちそんな面倒くさい見立てをする意味がないわ」 いん子:「ぐ……。じゃ、じゃああなたには、真犯人の動機が分かっているとでも……」 たすく:「(遮って)推理の穴、その二。私には……犯行時刻のアリバイがあるの」 いん子:「……なっ!」 たすく:「私は三人の殺害が行われたと思われる時刻は、ずっとあなたと一緒にいたわよね? ……小山内君?」 いん子:「(驚いて)えっ!!」 小山内:「……」 たすく:「小山内君、幼馴染に隠し事をするなんて、良くないんじゃないの?」 いん子:「(ぷるぷるして)お、小山内君? ど、どゆこと?」 小山内:「広井さん、黙っててごめんね……。僕、育美さんと……付き合ってるんだ」 いん子:「ぎゃふんっ!」 たすく:「あらあら、そんなに動揺してどうしたの? たすく:幼馴染キャラはず~っと自分のことを無条件で慕い続けてくれるとでも思ってたの~?  たすく:それとも、お助けキャラである育美たすくは、自我がなく、ひたすらに主人公の恋をサポートするだけの、都合の良い存在だとでも思っていたのかしら?  たすく:……(真剣に)笑わせないで」 いん子:「(たじろぐ)う……」 たすく:「アタシはゲームの中のキャラクターかもしれない。フィクションの登場人物かもしれない。でもね……! たすく:生きているのよ。あなたと同じく感情があるの。 たすく:だから恋もして、恋人だって作りたいと思うの。 たすく:わかる? たすく:……あの三人だって、そうだったんじゃないかしら?」 いん子:「……!」 たすく:「……推理の穴、その三。彼らの生年月日を知っていて、且つこの物語に登場している人間は……アタシだけじゃない。アタシからその情報を聞いて、彼らにアプローチをしていた、広井いん子……。あなたこそが、この乙女ゲーム殺人事件の真犯人よ!」 いん子:「……!」 小山内:「そ、そんな……広井さんが殺人犯? ね、ねぇ、広井さん! 何か言ってよ! そんなの、間違いだよね?」 たすく:「間違いじゃないわ、愛しの小山内君。その女は、八方美人に色んなタイプのイケメンにちょっかい出した挙げ句、自分の本命キャラの攻略の邪魔になると思った途端、そのイケメン達を惨殺した……最低最悪性悪ど低能クソびっち女だったのよ!」 いん子:「そこまで言う!?」 たすく:「そりゃ言うわよ! しかもアンタ、散々サポートしてあげたアタシに罪を擦り付けようとするなんて、本当にどうしようもないクズネズミね! あんな手の込んだ見立て殺人までしちゃってさ!」 いん子:「(駄々っ子)だってだってだってだって……っ! いん子:皆、優しくてカッコいいんだけど、やっぱり幼馴染キャラは捨てがたいな~って思っちゃったんだもん! いん子:でも一人を攻略するには、他のキャラの好感度下げなきゃだし……そんなことしてたら、高校三年間あっという間に終わっちゃいそうだったし」 たすく:「……(溜息)はぁ。ホント、救いようのないゴミカスクズ鉄人間ね。愛しの小山内君、こんな幼馴染を持って、かわいそう」 いん子:「うるさいっ! あんた、どんだけ罵詈雑言のレパートリー持ってんのよ! いん子:あと、ちょいちょい当てつけのように小山内君とのラブラブぶりをアピールすんな!」 小山内:「まぁまぁ、愛しの育美さん。それくらいにしてあげてもいいんじゃない?」 いん子:「(感激して)あぁ~、小山内君! あんたもラブラブアピールは気になるけど、やっぱり私の味方なのね! いん子:うぅ…こんな連続殺人犯の私でも、もう一度幼馴染として、友達からやり直してくれると言うのね!?」 小山内:「え? 無理無理。死んで」 いん子:「(溜めて)……ゲェ~~~~~ム・オ~~バァ~~~~!!!!!!」

いん子:(M)この物語はフィクションであり、実在の人物や団体などとは一切関係がありません。 いん子:また、物語内で殺人が行われますが、決して同犯行を助長するものではありません。それを踏まえたうえで、どうぞ、ごゆっくりお楽しみ下さい。 いん子:(M)私の名前は広井いん子。今日から私立青春学園に通うことになる、ぴっかぴかの女子高生だ! 地味で冴えなかった中学時代とはオサラバ! イケメン男子とバラ色のスクールライフが過ごせる……といいなぁ。 小山内:「(遠くから)おーい! 広井さ~ん」 いん子:「あ、小山内君」 小山内:「(小走りで駆け寄って)広井さん。おはよう。今日から僕たち、高校生だね。あらためて、よろしく。新しい環境に慣れるのはちょっと大変だけど……広井さんがいるなら心強いや。何といっても小学校からの付き合いだもんね。昔から人見知りで、なかなか友達を作れずにいた僕に、広井さんが声をかけてくれたこと、僕は一生感謝するからね。高校でも、お互い友達がたくさんできるといいね! あ、いけない。ゆっくり話してたら遅刻しちゃうね。それじゃ、僕は先に行ってるから! それじゃ、またね!(去っていく)」 いん子:(M)一緒には登校しないんだね~。はぁ~あ、そういうところが今一つ関係が発展しない原因なんだよなぁ~。優しいし、顔も悪くないのに……どうも、こう、何て言うか……。 たすく:「(近い距離で)押しが弱い……ですねぇ~」 いん子:「うわっ! びっくりした。……え、あなた、誰?」 たすく:「アタシは『育美(はぐくみ)たすく』と申します。以後お見知りおき下さい。制服から察するに、あなた、アタシと同じ青春学園の生徒とお見受けしました。さらに察するに、先ほどの男子生徒とのやり取りからして、アタシと同じぴっかぴかの新入生と思われます」 いん子:「(独り言)どこから聞いてたの、この子」 たすく:「さらに察するに、先ほどの男子生徒は小学校からの幼馴染であり、お互い憎からず思っているものの、友達以上恋人未満の距離を縮められずにいるものと思われる! たすく:旦那、そんなことでいいんですかい? 花の女子高生ライフは光陰矢の如し。思春期男女がひしめく学び舎は、ホレたハレたの群雄割拠。 たすく:もたもたしてたら、旦那。あっという間に幼馴染の純情ボーイを、どこの馬の骨とも知れないふしだら女狐に、とられっちまいやすぜ?」 いん子:「馬だか狐だか知らないけど、そんなぽっと出の女になびくほど、小山内君は安い男じゃないよ。 いん子:だいたいアンタ、いきなり声かけてきて失礼じゃないの!?」 たすく:「(食い気味で)まぁ~、そう~思いたいんだったら、思い続けるがいいってことっす。 たすく:乙女の思いは一日千秋。縮まる距離は日進月歩。時の流れは人それぞれでさぁ。 たすく:……ただ、勘違いしないで下さい。アタシは女の味方、乙女の味方。広井姐さんの恋を応援させて頂きやす」 いん子:「(呆れて独り言)姐さんって……」 たすく:「それに何も男は幼馴染ひとりじゃ、ありやせん! たすく:この高校には、きっと姐さん好みのイケメンがたんまりいるはず! 時間はまだまだたっぷりあります。じっくり考えて、どのボーイをかどわかすか、決めておくんなせぇ」 いん子:「アンタ、さっきは光陰矢の如しとか言ってたくせに」 たすく:「(食い気味で)お~っと! いけねぇ! 遅刻しちやいやす! たすく:旦那、アタシはひとっ走りお先に行かせて頂きやすよ! たすく:それでわ~、これからも育美たすくを末永くご愛顧下せぇ~!(走り去る)」 いん子:「まったく……。なんなのよ、あのケッタイな奴は。まぁ、でもあれがきっと『お助けキャラ』なんでしょうね。イケメン達の情報はあの子が仕入れてきてくれるんでしょ……イタっ!」 音也:「あっ! ごっめ~ん。楽譜見ながら歩いてたら、ぶつかっちゃった。 音也:君、大丈夫? 音也:ん? あ~! 同じ制服~! 音也:ってことは、君も青春学園の人!? ひょっとして一年生!? オレもオレも~! 音也:へへへ、道を歩いてたら、たまたま同じ学校の同級生とぶつかるなんて、何かめちゃめちゃ奇遇だね、オレ達! 音也:あ、オレ、石動音也(いするぎおとなり)。君は? 音也:……ふ~ん。いん子ちゃん、って言うのかぁ~。じゃぁ……いんリンって呼んでいい? 音也:ねぇねぇ、いんリンは部活とか入る予定ある!? オレはある~! 音也:どこの部活かって? そんなもん、軽音楽部に決まってんじゃ~ん。今もね、楽譜見ながら脳内でギターコードの練習してたんだぁ~。 音也:へへへ、ギターってさ、マジマジかっこよくない!? 特に、エレキ! ぴんと張りつめた弦を、決められた順番で正確に、でも時には大胆にはじく! そうすると、アンプから流れるギューンっていう重低音! 音也:くぅ~、たっまんないよねぇ~! あっ、そうだ! いんリン、部活入る予定ないんだったら、軽音部のマネージャーになってよ~。 音也:オレ、いんリンとだったら、最っ高のロックを奏でられる気がするんだよね~。 音也:……って、いけね! 朝からこんな長話してたら、入学初日から遅刻しちゃうや! 音也:じゃあ、いんリン、まったね~(去る)」 いん子:「ウソ……でしょ。なになに、展開が早すぎる! 矢の如しすぎる! いん子:初対面であんな長い自分語りする奴いる? しかももうあだ名? あだ名って、もうちょっと親密度が上がってから発生するイベントなんじゃないの? いん子:まだ自分が入部もしてないのに、マネージャーに誘うって、どんだけ……イタっ!」 学:「おっと。これは失礼した。参考書を読んでいて、前を見ていなかったよ。 学:……うん? 君は、青春学園の生徒かい? 学:そうか、一年生だね。 学:僕の名前は『学勉(まなびつとむ)』。二年だ。 学:……え? なぜ君が一年とわかったかって? 学:それはもちろん、僕が知らない顔だからだよ。一年間も高校生活を送っていれば、全校生徒の顔を覚えるのは、そう難儀なことではない。 学:人間の顔なんて、決められた数値による順列でしかないからね。凹凸(おうとつ)の特徴さえ記憶してしまえば、日々の生活の中で自ずと知らない顔はなくなってくる。 学:ほら、僕が名乗ったのだから、君も名を名乗るべきじゃないのか? 学:……ふむ。広井いん子と言うのか。 学:では、広井くん。これだけは覚えておくんだ。今後、学内で僕が歩いている姿を見かけたら、必ず道を開けろ。 学:僕は歩行中は必ず本を読んでいる。歩行のみを行うのは非生産的だからな。ゆえに視界が狭い。先ほどのように進行の邪魔をされると、時間の無駄なのでね。 学:わかったかい? 学:では、失礼するよ(去る)」 いん子:「……いや、おかしいでしょ! いん子:初対面であんな失礼な人、いるわけないじゃん。時間の無駄だって言うなら、聞いてもいないキャラ設定を話すんじゃない! いん子:しかも、この登校イベントだけで、どんだけキャラ紹介を消化するつもりなの? いん子:こんな調子じゃ、私絶対遅刻……イタっ」 綺羅:「おう、嬢ちゃん。悪ぃな。俺は人に道を譲るのが嫌ぇだから、道の真ん中に嬢ちゃんがいるとわかっていながら、ぶつかっちまったぜ。 綺羅:これがヤローだったら、殴りつけて道をどかせるとこだったがよ。俺は女には優しいんだ。 綺羅:おばあちゃんが言っていたからな。女の子には優しくしろってよ。 綺羅:俺は『鬼瓦 綺羅(おにがわら きら)』。三年だ。 綺羅:見た目は怖ぇかもしれねぇが、案外優しいとこもあるんだぜ。 綺羅:じゃ、遅刻しねぇように気ぃ付けな(去る)」 いん子:「……雑っ! どんどん紹介が雑になってきてる! いん子:確かに一見怖そうな人が、根はいい奴って、王道かもだけど、自分で言わないでよ! いん子:今後の学園生活パートのイベントの中でわかりたかったよ! いん子:まったく……、入学初日から波乱万丈すぎるよ~」 いん子:(M)その後、私はさらなるキャラが登場しないかと待ってみたが、誰も来なかったので、学校へ向かった。 いん子:(M)当然、遅刻した いん子:(M)その後、なんやかんやあったけど、私は充実した学園生活を送っていった。 いん子:(M)最初は押し付けがましいだけだった彼らのキャラクターも、一緒に学園生活を送ることで、徐々に好感が持てるようになっていった。 いん子:(M)音也君はその明るさで、いつも私を笑顔にしてくれた。落ち込むことがあっても、音也君と一緒にいると、いつの間にか元気を取り戻しているということが何度もあった 音也:「いんリン、どうだった? オレのライブパフォーマンス? 音也:え? めちゃめちゃカッコよかったって? 音也:えへへ、いんリンにそう言ってもらえるのが一番嬉しいや! また、見に来てよね!」 いん子:(M)登校初日に、あんなにつっけんどんだった学先輩は、私がミカちゃん人形のコレクターだと知るや、急速に距離が縮まった。 いん子:(M)優等生であるがゆえに、お人形遊びが趣味であることを家族にも話せなかったため、ずっと趣味友達を探していたらしい。 学:「広井くん。今度の日曜日、個展に行かないか? 学:何のって……(小声で)み、ミカちゃん人形生誕五十周年大展覧会だ。わざわざ言わすな。 学:……オホン。実は誤ってチケットを二枚買ってしまったのだ。 学:一人で二回行くよりも、芸術品を同好の士と語り合うことの方が、僕にとってメリットが大きいと感じるんだが……(照れて)な、何がおかしいのだ!」 いん子:(M)そして綺羅先輩は、登校初日に自分で言っていた通り、とても優しい人だった。 いん子:(M)それは、同じ高校生とは思えないような、包み込むような優しさだ。綺羅先輩と一緒にいると私はとても穏やかな気持ちになれる。 綺羅:「どうした、いん子? なんで泣いているんだ? 綺羅:……いや、無理に話す必要はない。話すだけで楽になることばかりじゃないものな。 綺羅:いん子がどうしたいのか、できたら教えてくれ。辛いことを忘れるくらい、思いっきり遊びまくりたいのか。涙がなくなるまで泣きまくりたいのか。 綺羅:俺は全部付き合うぞ。 綺羅:どうしていいかわからないなら、俺も一緒に悩ませてくれ。 綺羅:……ん? 何だ? 話す気になったのか? 綺羅:……ふむ。駅前のケーキ屋からスペシャルぴよ子ケーキが販売中止になったのか。 綺羅:あぁ……(優しく)あれは旨かったものな」 いん子:(M)みんなとの関係を深めていくにあたり、育美たすくには本当に助けられた。 いん子:(M)たすくはどこから仕入れてくるのか、彼らの趣味、家族構成、誕生日に血液型、何歳まで母親とお風呂に入っていたか等、細かな情報まで私に提供してくれるのだった。 いん子:(M)そんな充実した学園生活を送っていた私だったが、それは長くは続かなかった。夢のような時間は、まさに光陰矢の如しだったのである……。 たすく:「それにしても……ホントびっくりすよねぇ、姐さん」 いん子:(M)私と育美たすくは、近所のファミレスで昼食を食べていた。 たすく:「まさか一週間の間に、生徒が3人も……」 いん子:「ホントに……。(涙ぐむ)みんな……どうして」 たすく:「こんなこと考えたくもないっすけど……これはどう考えても殺人事件。しかも同一犯による、連続殺人としか思えないっすね」 いん子:(M)連続殺人……。その禍々しい言葉が、私の脳内に反響する。そう……もう彼らはこの世にいないんだ。 たすく:「姐さんにとっては辛いかもしれないっすけど……アタシなりに三件の犯行の状況を整理したので、聞いて欲しいっす……。 たすく:まず一件目。石動音也っす。 たすく:彼の死因は窒息死。死体発見現場は、青春学園校庭の一角にある、鯉を飼育している小さな池。 たすく:月曜日の朝、飼育委員の生徒が鯉に餌をやろうとしたところ、池に浮いている石動音也を発見したとのこと。 たすく:当初は池で溺れてしまったのかと思われていたが、警察の捜査の結果、ロープのようなもので首を絞められていたことがわかったそうっす。 たすく:つまり、絞殺された後に、死体を池に遺棄したということっすね。 たすく:そして、二件目。石動音也の死が他殺だと断定された頃、学勉の死体が発見されたっす。学内にある弓道部の練習場で学勉は胸に矢が刺さった状態で発見されたっす。 たすく:死因は出血多量。突き刺さった矢が致命傷にならなかったせいか、死に至るまで相当もがき苦しんだ様子だと、警察は言っているっすね。 たすく:……それから2日後、鬼瓦綺羅の死体が発見されたっす。 たすく:鬼瓦綺羅の死因は、二十階建てのライオンズマンションからの落下死。 たすく:屋上から突き落とされたらしいっす。落下死なので、他殺と断定する根拠はありやせんが、先の二件の殺人と関連付けて、警察はこの三人の男子高校生の死を、同一犯による連続殺人であると仮定して、捜査を進めているらしいっす」 いん子:「(涙ぐみ)ぐす……。どうして……こんなことに……。ひどい……あんまりだわ」 たすく:「心中お察ししやす、姐さん。せっかく、どのキャラとも仲良くなってきたのに」 いん子:「……キャラって言うな」 たすく:「すいやせん」 小山内:「(ファミレスに入ってくる)あっ、広井さん、いたいた。(二人の席に近づいてくる)広井さん、大丈夫? 電話じゃ、相当ショックを受けているみたいだったけど」 いん子:「……うん。大丈夫、(涙を拭いながら)心配させちゃってごめんね」 たすく:「小山内君……。姐さんが小山内君を呼んだんすか?」 いん子:「ええ、どうしても心細くて……。辛い時は…やっぱり幼馴染にそばにいて欲しいかなって」 たすく:「……」 小山内:「広井さん、僕にできることがあったら、何でも言ってね? 何か力になれることがあれば……」 いん子:「うん……、ありがとう小山内君。……(何かに気づく)あっ」 小山内:「ん? どうしたの、広井さん?」 いん子:「小山内君。……唐突なんだけど私……犯人わかっちゃったみたい」 小山内:「えーー!?」 いん子:「……うん。間違いない。犯人は……あなたね! 育美たすく!」 小山内:「えっ! 育美さんが!?」 いん子:「そう! この陰惨な連続殺人を犯した張本人。外道中の外道は、間違いなくこの女よ!」 たすく:「(静かに)……外道とは随分な物言いっすね、姐さん」 いん子:「いけしゃあしゃあと、よくもこの女……!」 小山内:「ま、待ってよ、広井さん。ど、どうして、育美さんが犯人だと思うの?」 たすく:「(落ち着いて)そうっすね。アタシも興味あるっす。姐さんがどうして、アタシを犯人と特定したのか」 いん子:「三人の死の状況と彼らのプロフィールを考えれば、簡単なことだったわ!」 小山内:「ぷ、プロフィール?」 いん子:「育美たすく! あなたが私に教えてくれた三人のプロフィール、もう一度ここで披露してもらえるかしら?」 たすく:「……姐さんには以前にすでに教えたっす。今もう一度ここでいう必要は……」 いん子:「(遮って)いいからっ! 早く言って!」 たすく:「……仕方ないっすね。 たすく:石動音也。青春学園一年三組。血液型はB型。二月二十五日生まれ。軽音楽部に所属。一見軽薄そうだが、音楽に関しては真摯に向き合っている。好みの女性のタイプは……」 いん子:「(遮って)そこまででいいわ。次!」 たすく:「……(溜息)はぁ。学勉。青春学園二年六組。血液型はA型。十二月二日生まれ。学年トップの成績を誇る。が、実はミカちゃん人形愛好家でもあり、それを親にも……」 いん子:「(遮って)次!」 たすく:「……鬼瓦綺羅。青春学園三年一組。血液型はO型。八月十五日生まれ……」 いん子:「(遮って)聞いてのとおりよ、小山内君! この犯行は、やはり目の前にいる冷酷卑劣女、育美たすくによって行われているわ!」 小山内:「ごめん、広井さん。僕にもわかるように説明してもらえるかな?」 いん子:「簡単なことだったのよ、小山内君。これは……見立て殺人だったの!」 小山内:「見立て…殺人?」 いん子:「音也君は二月二十五日生まれの、うお座……。小山内君、彼は殺害後、どこに遺棄されていたか覚えてる?」 小山内:「確か……校庭の一角にある鯉の池……(気づく)あっ!」 いん子:「そう。そして、十二月二日生まれ、いて座の学先輩は、胸に矢が突き刺さって死んでいた。八月十五日生まれ、しし座の綺羅先輩はライオンズマンションから転落死……。つまり犯人は、三人の生年月日を熟知した上で、彼らの星座になぞらえて犯行におよんだ、ということになるわ! 小山内:「で、でも広井さん。三人の生年月日を知っていたのは、育美さんだけとは限らないんじゃないかな? 学校の先生だって、きっと三人のプロフィールくらい……」 いん子:「確かに、三人の星座を知っているのは、育美たすくだけではないかもしれない。 いん子:でもね、小山内君、この物語はフィクションなのよ? 最初に私がナレーションで言ってたでしょ?  いん子:フィクションの中で、今まで一度も登場していない人物が犯人なわけないでしょうが」 たすく:「(ここから高飛車な感じ)……ふふ、んふふ…、あ~はっはっはっはっ!! 何を言い出すかと思えば、広井いん子! とんだ茶番劇ね!」 いん子:「な、何を言っているの?」 たすく:「あなたの推理は、ボッコボコの穴だらけだと言っているの。もぐら叩きかと思ったわよ」 いん子:「い、言い訳するつもりなの? あと、ちょっとキャラ変わりすぎじゃない?」 たすく:「言い訳ではないわ。あなたの話す空論があまりに愉快だったから、最後まで聞いてあげただけ……。本当は、あなたが私を犯人だと断定したその時に……真実を話しても良かったのよ?」 小山内:「し、真実?」 たすく:「でもここは、名探偵広井いん子さんに敬意を表して……私も少々回りくどく、あなたの推理の穴を解説してあげるわ」 いん子:「推理の……穴?」 たすく:「あなたの推理には、大きく三つの穴が存在するわ。まず一つ目、それは動機よ」 小山内:「動機……?」 たすく:「私が三人の生年月日を知っていたのは事実よ。そしてそれをもとに、あの犯行を思いつくことはできたかもしれない。しかし、私はなぜそんなことをする必要があるの? 三人を殺すことだけが目的なら、いちいちそんな面倒くさい見立てをする意味がないわ」 いん子:「ぐ……。じゃ、じゃああなたには、真犯人の動機が分かっているとでも……」 たすく:「(遮って)推理の穴、その二。私には……犯行時刻のアリバイがあるの」 いん子:「……なっ!」 たすく:「私は三人の殺害が行われたと思われる時刻は、ずっとあなたと一緒にいたわよね? ……小山内君?」 いん子:「(驚いて)えっ!!」 小山内:「……」 たすく:「小山内君、幼馴染に隠し事をするなんて、良くないんじゃないの?」 いん子:「(ぷるぷるして)お、小山内君? ど、どゆこと?」 小山内:「広井さん、黙っててごめんね……。僕、育美さんと……付き合ってるんだ」 いん子:「ぎゃふんっ!」 たすく:「あらあら、そんなに動揺してどうしたの? たすく:幼馴染キャラはず~っと自分のことを無条件で慕い続けてくれるとでも思ってたの~?  たすく:それとも、お助けキャラである育美たすくは、自我がなく、ひたすらに主人公の恋をサポートするだけの、都合の良い存在だとでも思っていたのかしら?  たすく:……(真剣に)笑わせないで」 いん子:「(たじろぐ)う……」 たすく:「アタシはゲームの中のキャラクターかもしれない。フィクションの登場人物かもしれない。でもね……! たすく:生きているのよ。あなたと同じく感情があるの。 たすく:だから恋もして、恋人だって作りたいと思うの。 たすく:わかる? たすく:……あの三人だって、そうだったんじゃないかしら?」 いん子:「……!」 たすく:「……推理の穴、その三。彼らの生年月日を知っていて、且つこの物語に登場している人間は……アタシだけじゃない。アタシからその情報を聞いて、彼らにアプローチをしていた、広井いん子……。あなたこそが、この乙女ゲーム殺人事件の真犯人よ!」 いん子:「……!」 小山内:「そ、そんな……広井さんが殺人犯? ね、ねぇ、広井さん! 何か言ってよ! そんなの、間違いだよね?」 たすく:「間違いじゃないわ、愛しの小山内君。その女は、八方美人に色んなタイプのイケメンにちょっかい出した挙げ句、自分の本命キャラの攻略の邪魔になると思った途端、そのイケメン達を惨殺した……最低最悪性悪ど低能クソびっち女だったのよ!」 いん子:「そこまで言う!?」 たすく:「そりゃ言うわよ! しかもアンタ、散々サポートしてあげたアタシに罪を擦り付けようとするなんて、本当にどうしようもないクズネズミね! あんな手の込んだ見立て殺人までしちゃってさ!」 いん子:「(駄々っ子)だってだってだってだって……っ! いん子:皆、優しくてカッコいいんだけど、やっぱり幼馴染キャラは捨てがたいな~って思っちゃったんだもん! いん子:でも一人を攻略するには、他のキャラの好感度下げなきゃだし……そんなことしてたら、高校三年間あっという間に終わっちゃいそうだったし」 たすく:「……(溜息)はぁ。ホント、救いようのないゴミカスクズ鉄人間ね。愛しの小山内君、こんな幼馴染を持って、かわいそう」 いん子:「うるさいっ! あんた、どんだけ罵詈雑言のレパートリー持ってんのよ! いん子:あと、ちょいちょい当てつけのように小山内君とのラブラブぶりをアピールすんな!」 小山内:「まぁまぁ、愛しの育美さん。それくらいにしてあげてもいいんじゃない?」 いん子:「(感激して)あぁ~、小山内君! あんたもラブラブアピールは気になるけど、やっぱり私の味方なのね! いん子:うぅ…こんな連続殺人犯の私でも、もう一度幼馴染として、友達からやり直してくれると言うのね!?」 小山内:「え? 無理無理。死んで」 いん子:「(溜めて)……ゲェ~~~~~ム・オ~~バァ~~~~!!!!!!」