台本概要

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タイトル 紫陽花の咲く前に
作者名 ひろ  (@hiro_3330141)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(女2)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 高校の頃の親友であるほのかとさやか。
さやかはほのかに密かに恋心を寄せているが、久しぶりに会ったほのかは結婚すると言い出す。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ほのか 79 可愛らしい雰囲気の女性。店員と兼役。
さやか 84 綺麗で大人っぽい雰囲気の女性。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:小さなカフェのテラスにて さやか:久しぶりね、ほのか。 ほのか:さやかちゃん……だよね? さやか:ひどいわ。私の顔も忘れちゃったの? ほのか:あ、ううん、違うの! さやかちゃん、元から綺麗だったけど今は……なんていうか、すごい美人さんだから、その……。 さやか:ふふ、そう? 嬉しいわ。でもお世辞なんか言ったって何も出ないわよ。 ほのか:お世辞じゃないよ、本当だってば! さやか:知ってる。ほのかは嘘をつかないし、つけないいい子だもの。 ほのか:ちょっと、そんな昔の話……。からかわないでよ、もう。 さやか:むくれちゃって。……可愛い頬っぺ。食べちゃいたい。 ほのか:食べるならケーキにしてよね。本当、さやかちゃんってば。はい、メニュー。 さやか:ほのかはシフォンケーキとミルクティー? ほのか:えっ、あ、うん。どうして分かったの? さやか:昔来たとき頼んでたでしょ。 ほのか:そうだっけ? よく覚えてるね。 さやか:……じゃあ、私は何を頼むと思う? ほのか:え? うーん、フルーツタルトとコーヒー、とか。 さやか:半分正解。ガトーショコラとコーヒーよ。あ、すみません。シフォンケーキとミルクティーのセットを一つ、ガトーショコラとコーヒーのセットを一つ。 店員:かしこまりました。 さやか:見て、紫陽花の蕾だわ。 ほのか:まだ固いね。何色になるのかな? さやか:さあ。じきに梅雨入りすると思うと憂鬱ね……。 ほのか:……あ、あのさ。その……梅雨は確かに憂鬱なんだけど、でも私は楽しみっていうか……。 さやか:何? 何かあるの? ほのか:……えっとね、私……私、結婚するの。 さやか:……え? 店員:お待たせいたしました。 さやか:ああ、ありがとう。彼女にシフォンケーキを。いいえ、砂糖もミルクも結構。……ほのか。 ほのか:さやかちゃん? さやか:結婚するって聞こえたけど、本当なの? 誰と? いつから? ほのか:それは……えっと……。彼と会ったのは――。 さやか:待って。ごめんなさい、驚いてしまって。まずはお祝いするべきよね。……結婚、おめでとう。 ほのか:ありがとう! それでね、せっかくだからさやかちゃんの作ったウェディングドレスを着て式を挙げたいの。どうかな? さやか:それは……ええ、素敵、ね。私の服を門出の祝いに着てもらえるなんて……嬉しい、そう、とても嬉しいわ。 ほのか:本当? 本当に引き受けてくれるの? さやか:え、ええ……もちろんよ。 ほのか:ありがとう、さやかちゃん大好き! さやか:私も……好きよ、ほのか。……苦いわね。ミルクくらいは入れるべきだったかしら……ね。 0:さやかの事務所にて ほのか:ごめんくださーい。 さやか:あら、ほのか。待っていたわ。さ、奥へ入って。 ほのか:お、お邪魔します……。 さやか:もしかして、緊張してる? ほのか:うん。だって素敵なお洋服がこんなにたくさんあるし、おしゃれだし。 さやか:ほのかはもっと自信を持つべきよ。女の子らしくて可愛いんだから。ほら、このワンピースなんか似合いそうじゃない? ほのか:私はもっとさやかちゃんみたいに大人っぽくなりたかったな。こういうアシンメトリーなシャツなんかを着こなす女の人。 さやか:じゃあ後で着てみる? ほのか:えっ……いいよ、似合わないし。 さやか:似合う似合わないよりも着たい服を着てほしいな、私は。ピンときた服って案外馴染むものよ。それに私が作った服なんだから、ほのかに合わないはずがないわ。ね? ほのか:そっか、そうだよね! ありがとう、さやかちゃん。 さやか:ほのかはそうして笑っているのが一番よ。はい、この更衣室で脱いでくれる? 下着だけになってね。 ほのか:やっぱり脱ぐんだ……。恥ずかしいな。 さやか:大丈夫、優しくするわ。 ほのか:あはは、もう、何それ。 さやか:うふふ。 ほのか:脱いだよー。 さやか:採寸していくわね。失礼。 ほのか:ひゃっ! さやか:可愛い声。メジャーって意外と冷たいのよね。びっくりした? ほのか:さやかちゃんの意地悪。昔はこんなんじゃなかったのに。 さやか:つい。ごめんなさいね。……へえ、ほのかは華奢なのね。 ほのか:そうなの。身体が薄っぺらいから、ドレスで盛りたいなって。 さやか:うーん、そうねえ。気持ちは分かるけど、私は骨の細さを見せたいかしら。ドレスの白さもあって儚げな印象になるじゃない? 思わず攫ってしまいたくなるような花嫁って素敵だと思うの。 ほのか:そう言われると……確かにそうかも。彼が守ってくれるって思えば、うん。 さやか:……そうかもね。 ほのか:ねえ、なんか息がかかってくすぐったいんだけど……。 さやか:この更衣室、狭いんだから仕方ないじゃない。もう少し我慢して。……はい終わり。私はデザインのスケッチを描くから、ほのかはさっき言ってたシャツでも試着してみる? ほのか:うん! あ、おすすめしてくれたワンピースも着てみていい? さやか:ええ。それじゃ。 0:ある日の放課後 ほのか:ずっと下駄箱にいるけど……どうしたの? さやか:あ……。いえ、何も。 ほのか:……雨、今朝からずっと降ってるね。梅雨だからしょうがないんだけど。傘、持ってる? さやか:…………。 ほのか:ないんだね。あ、じゃあさ、一緒に帰らない? 私の傘壊れちゃってさ、これお母さんのだから結構おっきいんだ。派手だし、私一人で差すのちょっと恥ずかしくてさ。 さやか:……私、あなたと話したことありましたか? ほのか:あ、馴れ馴れしかった? ごめんね。でもクラスメイトを濡鼠にして帰すわけにはいかないよ。私、学級委員だもん。 さやか:そう、ですか。 ほのか:そう。あ、私ほのかっていうの。よろしくね、さやかさん。行こ! さやか:あ、あの。 ほのか:うん? さやか:ありがとうございます、ほのかさん。 ほのか:やだな、友達なんだから言いっこなし! さやか:友達……。 ほのか:嫌だった? さやか:いえ。ただ、初めてだったから。 ほのか:え!? 0:修学旅行の夜 さやか:ほのかちゃん、電気消すね。 ほのか:あ、ありがとう。 さやか:おやすみ。 ほのか:おやすみ。 さやか:……あのね、ほのかちゃん。明日なんだけど――。 ほのか:シーッ。先生来てる。 さやか:…………。行ったかな? ほのか:うん、行ったみたい。それで、どうかした? さやか:その、ね。明日の遊園地、もう誰かと約束した? ほのか:まさか。 さやか:えっ。でも、誘われてるの見たよ? ほのか:断ったよ。私はさやかちゃんと行くつもりだから。 さやか:本当? いいの? ほのか:当たり前じゃん! 私たち、親友だもん。そうでしょ? さやか:うん……! 0:遊園地 ほのか:人いっぱい! 手、繋ごう。はぐれたら大変だし。 さやか:うん、そうだね。 ほのか:よし! まずはお化け屋敷行こう! さやか:無理だよ! ほのかちゃん、ジェットコースターにしよう? ほのか:大丈夫、私がついてるから。 さやか:……怖かったね。あれ、ほのかちゃん? なんか顔が白いけど……。 ほのか:そ、そんなことないよ! た、楽しかったあ。うん、楽しかった! さやか:冷たい! ほのかちゃん、手冷たいよ? 大丈夫? ほのか:だ、大丈夫! ちょっと怖かっただけだから! さやか:怖かったんだ……。 ほのか:あ。 0:放課後、小さなカフェにて ほのか:わあ、素敵なカフェ! さやか:でしょ? この間見つけて、ほのかと来たかったの。どの席がいい? ほのか:ちょっと寒いかもしれないけどテラスがいいな。 さやか:分かった。すみません、二人でテラス席、いいですか? ほのか:見て、コスモスが咲いてる。綺麗。 さやか:壁の蔦も色が変わってきてる。……もうすっかり秋ね。 ほのか:そうだね。みんな進路について真剣に考え出してるし。 さやか:ほのかは、大学へ行くんでしょう? ほのか:うん。さやかちゃんは服飾学校だっけ。 さやか:ええ。……寂しくなるわね。 ほのか:そうだね……。あ、じゃあメアド交換しようよ! メールで何でもない話をするの。どうかな? さやか:そうしましょうか。……これでいい? ほのか:あ、届いた! 何々? 「好きよ」。あはは、さやかちゃんてば律儀だなあ。空メールでいいのに。 さやか:……ところで何頼む? 私はガトーショコラとコーヒー。 ほのか:私は……迷うなあ。シフォンケーキとミルクティーにしようかな。 さやか:ねえ、ほのか。 ほのか:どうしたの? さやか:あのね……私、あの、その……。あなたのことが――。 店員:ご注文はお決まりでしょうか? さやか:あ……はい。ガトーショコラとコーヒー、それからシフォンケーキとミルクティーで。 店員:かしこまりました。 さやか:…………。 ほのか:さやかちゃん? さやか:やっぱり、なんでもない。 0:ドレスを縫うさやか さやか:あのとき告白していれば、今頃ほのかは私の隣にいてくれたかしら。……どうして私は彼女をどこの馬の骨とも知れない男に贈るためのドレスなんか! 本当、馬鹿みたい……。 0:さやかの事務所にて ほのか:この布の奥に、ウェディングドレスが? さやか:そうよ。ほのか、目をつむっていて。 ほのか:う、うん……。 さやか:……さ、目を開けてみて。 ほのか:わあ……! すごい! すごく綺麗だよ! ありがとう、さやかちゃん。ね、これ本当に私が着てもいいの? さやか:ほのか以外はお断りよ。早速だけど、着てみてくれる? 手伝うから。 ほのか:緊張するなあ……。わ、さらさらしてる! さやか:シルクをたっぷり使ったの。シンプルだけど光沢があって上品に見えるわ。布の重みでラインが膨らんで崩れることもないし。 さやか:あとは、ほのかの華奢なデコルテが見えるように肩に布はなし、代わりに背中へレースをあしらったわ。 ほのか:ぴったり! でも裾が長くて踏んじゃいそうで怖いな。 さやか:本番では高いヒールを履くから大丈夫よ。はい、鏡。 ほのか:素敵……お姫様になったみたい……。こんなに色々考えて作ってくれて……ありがとうね、さやかちゃん。私、私、幸せになるから……! さやか:……ねえ、ほのか。どうして花嫁は美しいんだと思う? ほのか:え……? 急にどうしたの? さやか:どうして、花嫁は美しいんだと思う? ほのか:な、何? 変だよさやかちゃん。 さやか:紫陽花だからよ。 ほのか:……紫陽花? さやか:そう、紫陽花。ほのかは紫陽花がどうして色んな色に咲くか知ってる? ほのか:ううん、知らない……。 さやか:土よ。土が酸性かアルカリ性かで変わるのよ。そして――ほのか、あなたは紫陽花の蕾なの。まだ何ものにも染まっていない、白い蕾なのよ。その蕾は何色の花を咲かせると思う? ほのか:ねえ、さっきから何の話をして――。 さやか:私の知らない色。そう、そのはずだった。でもね、気が変わったの。 ほのか:さやかちゃん……? さやか:私はね、お人好しじゃないの。ほのかと違ってね。だからあなたが他の男の色に染まっていくのを指を咥えて見てはいられない。今、ここで、ほのか。私にキスして。 ほのか:できないよ! だって、私は――は、鋏なんて持って何するの!? さやか:できないのならドレスが布に戻るだけ。どの糸を切ればどうなるか、私はよく知ってるわ。……どうする? ほのか。 ほのか:そんな、私、さやかちゃんは友達だって信じてたのに……。 さやか:友達。友達ね。懐かしいわ。 ほのか:ねえ、今からでもまた――。 さやか:早く。 ほのか:…………。んっ……。 さやか:……よくできたわ、ほのか。ふふ、っ、あはは……。これで、これでほのかは私の、っ……。なんで、なんで私、泣いてるのよ……。

0:小さなカフェのテラスにて さやか:久しぶりね、ほのか。 ほのか:さやかちゃん……だよね? さやか:ひどいわ。私の顔も忘れちゃったの? ほのか:あ、ううん、違うの! さやかちゃん、元から綺麗だったけど今は……なんていうか、すごい美人さんだから、その……。 さやか:ふふ、そう? 嬉しいわ。でもお世辞なんか言ったって何も出ないわよ。 ほのか:お世辞じゃないよ、本当だってば! さやか:知ってる。ほのかは嘘をつかないし、つけないいい子だもの。 ほのか:ちょっと、そんな昔の話……。からかわないでよ、もう。 さやか:むくれちゃって。……可愛い頬っぺ。食べちゃいたい。 ほのか:食べるならケーキにしてよね。本当、さやかちゃんってば。はい、メニュー。 さやか:ほのかはシフォンケーキとミルクティー? ほのか:えっ、あ、うん。どうして分かったの? さやか:昔来たとき頼んでたでしょ。 ほのか:そうだっけ? よく覚えてるね。 さやか:……じゃあ、私は何を頼むと思う? ほのか:え? うーん、フルーツタルトとコーヒー、とか。 さやか:半分正解。ガトーショコラとコーヒーよ。あ、すみません。シフォンケーキとミルクティーのセットを一つ、ガトーショコラとコーヒーのセットを一つ。 店員:かしこまりました。 さやか:見て、紫陽花の蕾だわ。 ほのか:まだ固いね。何色になるのかな? さやか:さあ。じきに梅雨入りすると思うと憂鬱ね……。 ほのか:……あ、あのさ。その……梅雨は確かに憂鬱なんだけど、でも私は楽しみっていうか……。 さやか:何? 何かあるの? ほのか:……えっとね、私……私、結婚するの。 さやか:……え? 店員:お待たせいたしました。 さやか:ああ、ありがとう。彼女にシフォンケーキを。いいえ、砂糖もミルクも結構。……ほのか。 ほのか:さやかちゃん? さやか:結婚するって聞こえたけど、本当なの? 誰と? いつから? ほのか:それは……えっと……。彼と会ったのは――。 さやか:待って。ごめんなさい、驚いてしまって。まずはお祝いするべきよね。……結婚、おめでとう。 ほのか:ありがとう! それでね、せっかくだからさやかちゃんの作ったウェディングドレスを着て式を挙げたいの。どうかな? さやか:それは……ええ、素敵、ね。私の服を門出の祝いに着てもらえるなんて……嬉しい、そう、とても嬉しいわ。 ほのか:本当? 本当に引き受けてくれるの? さやか:え、ええ……もちろんよ。 ほのか:ありがとう、さやかちゃん大好き! さやか:私も……好きよ、ほのか。……苦いわね。ミルクくらいは入れるべきだったかしら……ね。 0:さやかの事務所にて ほのか:ごめんくださーい。 さやか:あら、ほのか。待っていたわ。さ、奥へ入って。 ほのか:お、お邪魔します……。 さやか:もしかして、緊張してる? ほのか:うん。だって素敵なお洋服がこんなにたくさんあるし、おしゃれだし。 さやか:ほのかはもっと自信を持つべきよ。女の子らしくて可愛いんだから。ほら、このワンピースなんか似合いそうじゃない? ほのか:私はもっとさやかちゃんみたいに大人っぽくなりたかったな。こういうアシンメトリーなシャツなんかを着こなす女の人。 さやか:じゃあ後で着てみる? ほのか:えっ……いいよ、似合わないし。 さやか:似合う似合わないよりも着たい服を着てほしいな、私は。ピンときた服って案外馴染むものよ。それに私が作った服なんだから、ほのかに合わないはずがないわ。ね? ほのか:そっか、そうだよね! ありがとう、さやかちゃん。 さやか:ほのかはそうして笑っているのが一番よ。はい、この更衣室で脱いでくれる? 下着だけになってね。 ほのか:やっぱり脱ぐんだ……。恥ずかしいな。 さやか:大丈夫、優しくするわ。 ほのか:あはは、もう、何それ。 さやか:うふふ。 ほのか:脱いだよー。 さやか:採寸していくわね。失礼。 ほのか:ひゃっ! さやか:可愛い声。メジャーって意外と冷たいのよね。びっくりした? ほのか:さやかちゃんの意地悪。昔はこんなんじゃなかったのに。 さやか:つい。ごめんなさいね。……へえ、ほのかは華奢なのね。 ほのか:そうなの。身体が薄っぺらいから、ドレスで盛りたいなって。 さやか:うーん、そうねえ。気持ちは分かるけど、私は骨の細さを見せたいかしら。ドレスの白さもあって儚げな印象になるじゃない? 思わず攫ってしまいたくなるような花嫁って素敵だと思うの。 ほのか:そう言われると……確かにそうかも。彼が守ってくれるって思えば、うん。 さやか:……そうかもね。 ほのか:ねえ、なんか息がかかってくすぐったいんだけど……。 さやか:この更衣室、狭いんだから仕方ないじゃない。もう少し我慢して。……はい終わり。私はデザインのスケッチを描くから、ほのかはさっき言ってたシャツでも試着してみる? ほのか:うん! あ、おすすめしてくれたワンピースも着てみていい? さやか:ええ。それじゃ。 0:ある日の放課後 ほのか:ずっと下駄箱にいるけど……どうしたの? さやか:あ……。いえ、何も。 ほのか:……雨、今朝からずっと降ってるね。梅雨だからしょうがないんだけど。傘、持ってる? さやか:…………。 ほのか:ないんだね。あ、じゃあさ、一緒に帰らない? 私の傘壊れちゃってさ、これお母さんのだから結構おっきいんだ。派手だし、私一人で差すのちょっと恥ずかしくてさ。 さやか:……私、あなたと話したことありましたか? ほのか:あ、馴れ馴れしかった? ごめんね。でもクラスメイトを濡鼠にして帰すわけにはいかないよ。私、学級委員だもん。 さやか:そう、ですか。 ほのか:そう。あ、私ほのかっていうの。よろしくね、さやかさん。行こ! さやか:あ、あの。 ほのか:うん? さやか:ありがとうございます、ほのかさん。 ほのか:やだな、友達なんだから言いっこなし! さやか:友達……。 ほのか:嫌だった? さやか:いえ。ただ、初めてだったから。 ほのか:え!? 0:修学旅行の夜 さやか:ほのかちゃん、電気消すね。 ほのか:あ、ありがとう。 さやか:おやすみ。 ほのか:おやすみ。 さやか:……あのね、ほのかちゃん。明日なんだけど――。 ほのか:シーッ。先生来てる。 さやか:…………。行ったかな? ほのか:うん、行ったみたい。それで、どうかした? さやか:その、ね。明日の遊園地、もう誰かと約束した? ほのか:まさか。 さやか:えっ。でも、誘われてるの見たよ? ほのか:断ったよ。私はさやかちゃんと行くつもりだから。 さやか:本当? いいの? ほのか:当たり前じゃん! 私たち、親友だもん。そうでしょ? さやか:うん……! 0:遊園地 ほのか:人いっぱい! 手、繋ごう。はぐれたら大変だし。 さやか:うん、そうだね。 ほのか:よし! まずはお化け屋敷行こう! さやか:無理だよ! ほのかちゃん、ジェットコースターにしよう? ほのか:大丈夫、私がついてるから。 さやか:……怖かったね。あれ、ほのかちゃん? なんか顔が白いけど……。 ほのか:そ、そんなことないよ! た、楽しかったあ。うん、楽しかった! さやか:冷たい! ほのかちゃん、手冷たいよ? 大丈夫? ほのか:だ、大丈夫! ちょっと怖かっただけだから! さやか:怖かったんだ……。 ほのか:あ。 0:放課後、小さなカフェにて ほのか:わあ、素敵なカフェ! さやか:でしょ? この間見つけて、ほのかと来たかったの。どの席がいい? ほのか:ちょっと寒いかもしれないけどテラスがいいな。 さやか:分かった。すみません、二人でテラス席、いいですか? ほのか:見て、コスモスが咲いてる。綺麗。 さやか:壁の蔦も色が変わってきてる。……もうすっかり秋ね。 ほのか:そうだね。みんな進路について真剣に考え出してるし。 さやか:ほのかは、大学へ行くんでしょう? ほのか:うん。さやかちゃんは服飾学校だっけ。 さやか:ええ。……寂しくなるわね。 ほのか:そうだね……。あ、じゃあメアド交換しようよ! メールで何でもない話をするの。どうかな? さやか:そうしましょうか。……これでいい? ほのか:あ、届いた! 何々? 「好きよ」。あはは、さやかちゃんてば律儀だなあ。空メールでいいのに。 さやか:……ところで何頼む? 私はガトーショコラとコーヒー。 ほのか:私は……迷うなあ。シフォンケーキとミルクティーにしようかな。 さやか:ねえ、ほのか。 ほのか:どうしたの? さやか:あのね……私、あの、その……。あなたのことが――。 店員:ご注文はお決まりでしょうか? さやか:あ……はい。ガトーショコラとコーヒー、それからシフォンケーキとミルクティーで。 店員:かしこまりました。 さやか:…………。 ほのか:さやかちゃん? さやか:やっぱり、なんでもない。 0:ドレスを縫うさやか さやか:あのとき告白していれば、今頃ほのかは私の隣にいてくれたかしら。……どうして私は彼女をどこの馬の骨とも知れない男に贈るためのドレスなんか! 本当、馬鹿みたい……。 0:さやかの事務所にて ほのか:この布の奥に、ウェディングドレスが? さやか:そうよ。ほのか、目をつむっていて。 ほのか:う、うん……。 さやか:……さ、目を開けてみて。 ほのか:わあ……! すごい! すごく綺麗だよ! ありがとう、さやかちゃん。ね、これ本当に私が着てもいいの? さやか:ほのか以外はお断りよ。早速だけど、着てみてくれる? 手伝うから。 ほのか:緊張するなあ……。わ、さらさらしてる! さやか:シルクをたっぷり使ったの。シンプルだけど光沢があって上品に見えるわ。布の重みでラインが膨らんで崩れることもないし。 さやか:あとは、ほのかの華奢なデコルテが見えるように肩に布はなし、代わりに背中へレースをあしらったわ。 ほのか:ぴったり! でも裾が長くて踏んじゃいそうで怖いな。 さやか:本番では高いヒールを履くから大丈夫よ。はい、鏡。 ほのか:素敵……お姫様になったみたい……。こんなに色々考えて作ってくれて……ありがとうね、さやかちゃん。私、私、幸せになるから……! さやか:……ねえ、ほのか。どうして花嫁は美しいんだと思う? ほのか:え……? 急にどうしたの? さやか:どうして、花嫁は美しいんだと思う? ほのか:な、何? 変だよさやかちゃん。 さやか:紫陽花だからよ。 ほのか:……紫陽花? さやか:そう、紫陽花。ほのかは紫陽花がどうして色んな色に咲くか知ってる? ほのか:ううん、知らない……。 さやか:土よ。土が酸性かアルカリ性かで変わるのよ。そして――ほのか、あなたは紫陽花の蕾なの。まだ何ものにも染まっていない、白い蕾なのよ。その蕾は何色の花を咲かせると思う? ほのか:ねえ、さっきから何の話をして――。 さやか:私の知らない色。そう、そのはずだった。でもね、気が変わったの。 ほのか:さやかちゃん……? さやか:私はね、お人好しじゃないの。ほのかと違ってね。だからあなたが他の男の色に染まっていくのを指を咥えて見てはいられない。今、ここで、ほのか。私にキスして。 ほのか:できないよ! だって、私は――は、鋏なんて持って何するの!? さやか:できないのならドレスが布に戻るだけ。どの糸を切ればどうなるか、私はよく知ってるわ。……どうする? ほのか。 ほのか:そんな、私、さやかちゃんは友達だって信じてたのに……。 さやか:友達。友達ね。懐かしいわ。 ほのか:ねえ、今からでもまた――。 さやか:早く。 ほのか:…………。んっ……。 さやか:……よくできたわ、ほのか。ふふ、っ、あはは……。これで、これでほのかは私の、っ……。なんで、なんで私、泣いてるのよ……。