台本概要

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タイトル 黄昏(前編)
作者名
ジャンル ラブストーリー
演者人数 5人用台本(男4、女1)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 3人の男がゆるやかに身を滅ぼすお話。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
日向彼方 278 (ひむかいかなた) ・男 ・高校生、帰宅部 ・一人が好き、勉強は得意 ・作中16から18歳へ 高校時代、友人の佐倉暁の兄である夕陽に好意を抱く。
暁とは性格こそ真反対だが妙に馬が合い、近所であったことから、毎日のように互いの家に遊びに行くほどだった。 暁の失踪から人生が変わる。 二十五歳で死亡か。
佐倉暁 262 (さくらあかつき) ・男 ・高校生、サッカー部 ・体力がある、顔が広い ・作中16から18歳へ 彼方の同級生で親友。 彼方を密かに恋愛対象として見ていた。 ある日突然姿を消す。
佐倉夕陽 69 (さくらゆうひ) ・男 ・暁の兄 ・作中26から28歳へ 大学卒業後に実家を出て、一人暮らしをする。 腹違いの弟・暁を密かに溺愛。 少しでも長い休みが取れると、両親のいない期間を狙って実家に帰省していた。
モブ男性 19 男子生徒1: 高校2年。彼方と同じクラスの文化祭委員。いつも眠そうで面倒くさがり屋。内申点のために委員に立候補。人の名前をよく間違える。 男子生徒2: 高校2年。サッカー部。暁と仲がいい。顔が濃い。モテる。 男子生徒3: 高校2年。サッカー部。暁と仲がいい。黒目が大きく、歯を見せて笑う。
モブ女性 38 女子生徒1: 高校2年。高校入学したての頃、図書館にいる彼方を見て一目惚れ。普段は静かめだが、仲良い人とははっちゃけるタイプ。彼方が卒業するタイミングで勇気を出して告白。連絡先を交換する。数年後、彼方と再会する。 女子生徒2: 高校1年。サッカー部にマネージャーとして入部。暁のエースとしての活躍や一生懸命な様子を見て好意を寄せる。告白するが、好きな人がいると振られる。以降登場なし。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:前編 : 0:■場面1「誰かの証言」 登場*彼方、夕陽、暁、モブ男性(兼証人2、4、6)、モブ女性(兼証人1、3、5) : 0:ニュースのインタビュー映像が次々と流れてくるようなイメージで。 : 0:(SE)ザザ、ラジオのノイズのような音(各証言の前に入る) 日向彼方:「日向彼方、没25歳。」 モブ女性:(証人1)『え?! 日向くんが? うそ……。同窓会で久々に会えると思ってたのに。』(日向彼方の幼馴染K) モブ男性:(証人2)『いや、家までは知らないっスよ、はい。大学んときの友達なんて、そんなもんでしょ。』(日向彼方の同級生H) 佐倉夕陽:「佐倉夕陽、没35歳。」 モブ女性:(証人3)『優しそうな人だなあ、って。いや、ちゃんと話したことはないですけど、正直ちょっといいなって思ってたので。』(佐倉夕陽宅の近隣住民A) モブ男性:(証人4)『この間、見かけました、階段のところで。え? いや、一人暮らしだったんじゃないですか?』(佐倉夕陽宅の近隣住民K) 佐倉暁:「佐倉暁、25歳、現在行方不明。」 モブ女性:(証人5)『いつも元気に挨拶してくれてねえ。ええ、向こうから。まさか家出するだなんて。』(佐倉暁の実家の隣人M) モブ男性:(証人6)『真面目なやつでしたよ。優しくて、一生懸命で。……はあ。なんで気づいてやれなかったんだ。』(佐倉暁の高校時代の担任) 0:■場面2「日向彼方と言う人物」 登場*彼方=25歳 : 0:夕暮れ、日の差し込む自室にて。 : 0:(彼方、横たわり、絶命寸前。※死にかけの声で読む必要はないです。) : 0:(SE)不穏な音楽、規則的なリズムで同音(眠る時の心臓くらいのBPM) 日向彼方:(語り)「あの日から今日まで、生きた心地がしなかった。この世界で自分だけが見えない存在で、たとえ真っ昼間の太陽に照らされても、地にその影を落とすことはない、そんな気がする。本当は、最初から、生まれても存在してもいなかったのではないか。」 日向彼方:(語り)「ただ、あの人の影だけは、最期まで、自分の前から消えてはくれなかった。ああ、こんなことを思うくらいなら、いっそ、あのとき、一緒に消えておくんだった。」 日向彼方:(語り)「ねえ、そうでしょ……?」 0:彼方、絶命。 : 0:SE終わり 日向彼方:(語り)「(タイトルコール)黄昏れ」 0:■場面3「佐倉暁という人物」 登場*彼方・暁=16歳、夕陽=26歳、 : 0:(SE)カラスの声(小さめ)、少し入れてすぐ消す。 日向彼方:(語り)「高校を卒業して間もない頃だった。生涯で唯一親友と呼べる人物が、突然に姿を消した。『ごめん、しばらく帰らない、暁』。そう書かれた小さなメモが一枚、自宅の居間に残されていた、という話は、あとに人から聞いた。」 日向彼方:(語り)「佐倉暁、人生で唯一の親友だった。」 0:暁の自室にて。 : 0:彼方、暁、丸机を挟んで向かい合う。 : 0:(SE)時計の針の音、鉛筆が机にコロン 佐倉暁:「はい、終わったー! ふーっ。(ー伸びをして後ろに手をつく)んああ、疲れた。彼方は? 終わった?」 日向彼方:「終わってるよ。少し前に。」 佐倉暁:「んえっ?! 嘘だろ? 同時に始めたのに?」 日向彼方:「嘘じゃない。」 佐倉暁:「うわ……本当だ。てか、めちゃくちゃ進んでんじゃん! ここって、テスト範囲じゃないだろ? すごいなあ、彼方!」 日向彼方:「習った知識で解けるよ。」 佐倉暁:「あー、はいはい、そうですか。……ったく、そういうところだぞ?」 日向彼方:「何が。」 佐倉暁:「モテないの。」 日向彼方:「ん……? なんでそうなるの?」 佐倉暁:「素直にありがとう、って、言やぁいいの。」 日向彼方:「(ー納得してない感じで)……なるほど。」 佐倉暁:「……ま、いいやっ。」 日向彼方:「全く手をつけてなかったのに、3時間しっかり集中して、なんとか終わらせた暁の方が、すごいんじゃない。」 佐倉暁:「おまっ……」 日向彼方:「照れてる。」 佐倉暁:「照れてねえ!」 日向彼方:「あ、もう9時だ。」 佐倉暁:「へ? うわ、やばっ。えー、スマホ、スマホ……。」 日向彼方:「ん?」 佐倉暁:「ああ、彼方。そこのバックから俺のスマホ取って。」 日向彼方:「どこ。」 佐倉暁:「ベットの上。」 0:(SE)ベットぎしっ、バック漁る音、スマホタッチ音など 日向彼方:「ああ。んしょ……。んー……あった。ほい。」 佐倉暁:「サンキュ。(ースマホを操作しながら)部活のことで、マネージャーに連絡しなきゃいけない事あんの、忘れてた。」 日向彼方:「ふうん。サッカー部のエースは大変だね。(ー背中側のベットに寝転ぶ)んー……。」 佐倉暁:「一年の中では、な。俺なんて、まだまだ。」 日向彼方:「そこは素直にありがとう、じゃないの?」 佐倉暁:「はは、そうだな。彼方は部活入んねえの? 中学の頃はバレーやってたんだろ?」 日向彼方:「やだよ。あそこ人多いもん。」 佐倉暁:「人がいなきゃスポーツはできないだろっ。友達増えるぞー?」 日向彼方:「(ー話半分)そうだねー。」 佐倉暁:「送信っと。オッケー。……おい、彼方ー。人のベットで寝るなー?」 日向彼方:「(ーあくびしながら)寝ないよ。」 佐倉暁:「ふふん……。スキあり!(ー彼方の脇腹をつつく)おりゃ!」 日向彼方:「(ー飛び起きて)ばっ……か!」 佐倉暁:「はは! ホント弱いよなあ。っくく。」 日向彼方:「はあ……。」 佐倉暁:「ボケッとしてる、お前が悪い。」 日向彼方:「(ー体勢を立て直し)んっしょ。今日は何時まで居ていいの?」 佐倉暁:「いつも通り、何時でもー。親は、どっちも、まだ帰ってこないと思うし。」 日向彼方:「そ。じゃあ、10時くらいに帰ろ。」 佐倉暁:「なんか食べる?」 日向彼方:「お、作ってくれんの。」 佐倉暁:「仕方ないなー! 課題を頑張ったお前のために、スペシャルうまい・特性・夜食を振る舞ってやるかー!」 日向彼方:「いえーい。」 佐倉暁:「もうちょい、嬉しそうにしろー?」 日向彼方:「わーい。」 佐倉暁:「変わんねえなあ! あ……なあ、一緒に作るか?」 日向彼方:「ええ。(ー否定の意で)いいよ。暁が一人で作った方いい。料理うまいんだし。見た目によらず。」 佐倉暁:「一言余計だな? でも、できなくはないと思うぜ? 彼方は器用だし。ほら、たまにはいいじゃん。行こ。」 0:彼方、暁、キッチンへ移動、並んで立つ。 佐倉暁:「さて、何を作ろう。」 日向彼方:「決めてないんかい。」 佐倉暁:「キッチンに立って、冷蔵庫を開けたときの気分で、メニューを決める。」 日向彼方:「おお。なんか、料理できそうな人の発言。」 佐倉暁:「できそうじゃなくて、できるんだよ。んー、そうだなー……この間、彼方がうまいって言ってた、ピザトーストでもいいけど……」 0:(SE)冷蔵庫ガチャ 佐倉暁:「あー、ベーコンがなかったか……」 日向彼方:「(ー冷蔵庫を暁の肩から覗いて)どれどれ……。相変わらず整頓されてるね。」 佐倉暁:「っ……! そ、そうだろー……はは。」 日向彼方:「あ、りんご。りんご食べたい。」 佐倉暁:「りんごか……。確か、さつまいももあったから、うん、あれにしよう。」 日向彼方:「ん?」 0:(SE)冷蔵庫ガチャ 佐倉暁:「よし。」 0:(SE)食材を大に並べる音 日向彼方:「何作んの?」 佐倉暁:「りんごとさつまいもを煮た、甘さ控えめ、あったかスイーツ。その名も、りんごとさつまいも煮ぃ!」 日向彼方:「そのまんまだね。」 佐倉暁:「食材切って、フライパンに並べて、あとはバターと砂糖で煮るだけ。」 日向彼方:「へえ。」 佐倉暁:「彼方でも、できるぞー。ふふ。」 日向彼方:「でも、って。」 佐倉暁:「包丁は使えるよな?」 日向彼方:「あ、ある程度は。」 佐倉暁:「んふふ……。」 日向彼方:「り、りんごくらい切れるよ。」 佐倉暁:「ほおん。」 日向彼方:「ぎゃっ。」 佐倉暁:「ん、どした?」 日向彼方:「何これ……?」 0:(SE)フライパンを持ち上げる(鉄が擦れるような)音 日向彼方:「真っ黒。こ、これ……フライパン、だよね?」 佐倉暁:「ああ……。そういや、昨日、夕陽さんがキッチン使ったんだった……。」 日向彼方:「(ー少し声色が変わって)え、夕陽くん? 今、帰ってきてるの?」 佐倉暁:「うん。帰省中。」 日向彼方:「てか、な、何を焦がしたら、ここまでに……?」 佐倉暁:「多分、卵……? 夕陽さん、ほんと料理以外は何でもできるんだけどな、はは……。」 日向彼方:「へえ。なあ。」 佐倉暁:「ん?」 日向彼方:「ずっと気になってたんだけど。夕陽くんのこと、なんで「さん」付けで呼ぶの? 兄弟なのに。」 佐倉暁:「ああ。癖くせ。」 日向彼方:「癖?」 佐倉暁:「うん。ちっちゃい頃にさ、婆ちゃんにそうしろ、って言われたんだよ。年が離れてるんだから、兄のことは『お兄さん』か『夕陽さん』って呼べ、って。」 日向彼方:「ええ。珍し。」 佐倉暁:「みたいだな。俺は普通だと思ってた。」 日向彼方:「へえ。」 佐倉暁:「あ、そうだ。この惨状を見てしまったことは、夕陽さんには内緒で……」 0:(SE)ドアガチャ 佐倉夕陽:「ただいま。」 日向彼方:「あ……!」 佐倉暁:「あ、夕陽さん、おかえり!」 日向彼方:「あっ……あ、ど、どうも。」 佐倉夕陽:「こんばんは、彼方くん。」 日向彼方:「す、すいません。お、お邪魔してます。いつも遅くまで、すいません。」 佐倉夕陽:「ふふ。いいよ。ゆっくりしていってね。」 佐倉暁:「夕陽さん、ちょうど良かった。今日は、彼方が夜食を作ってくれるんだよ。」 日向彼方:「えっ!?」 佐倉夕陽:「へえ。いいね。」 日向彼方:「い、いや、じゃなくて、い、一緒にって……」 佐倉暁:「夕陽さんも食べる? あ、何か食べてきちゃった?」 佐倉夕陽:「いいや、まだだよ。僕の分も、作ってくれるの?」 佐倉暁:「まあ、成功すれば? なっ?」 日向彼方:「え。う、うん、まあ。」 佐倉夕陽:「ふふ、楽しみにしてるね。」 日向彼方:「あ……はい……。」 日向彼方:(語り)「暁のお兄さん、夕陽くんは、なんだか、とても、緊張する人だ。日本人とは思えないスタイルに、整った顔、そして、憂いを帯びた目。そして、その声。優しく包むような低い声で、それでいてどこか冷たい。」 0:(SE)机にお皿、コトン 佐倉暁:「はいっ! お待たせー。」 日向彼方:「……。」 佐倉夕陽:「うん、美味しそうな匂い。りんご煮か、久々だね。」 佐倉暁:「やっぱ、彼方は器用だよなー。教えたらすぐ出来ちゃうんだもん。」 日向彼方:「べ、別に、これくらい……。」 佐倉夕陽:「ふふ。すごいね。じゃあ、いただくね。」 日向彼方:「(ー唾をごくり)んっ……。」 佐倉暁:「いっただきまーす!」 佐倉夕陽:「んん……。美味しい。」 日向彼方:「ほ……」 佐倉暁:「うん、うまいうまい。 彼方、食べないの?」 日向彼方:「あ、ああ、食べる食べる。」 佐倉暁:「で、どうだった? 初めて料理した感想は。」 日向彼方:「どうって、別に。手順通りにやっただけだよ。」 佐倉暁:「楽しかった?」 日向彼方:「まあ、それなりに。」 佐倉暁:「おお!」 佐倉夕陽:「初めてだったの?」 佐倉暁:「家庭科の授業以外で、料理したことないんだって。」 佐倉夕陽:「へえ。彼方くんは、すごいね。」 日向彼方:「そ、そんな。」 佐倉夕陽:「(ー深刻そう)】僕はね……どうも料理が苦手でね。暁に教えてもらっても、いつも失敗しちゃうんだ。」 佐倉暁:「……。」 日向彼方:「……。」 佐倉夕陽:「え、何? 僕、何か変なこと言った?」 佐倉暁:「あ、いや……。」 日向彼方:「その……。」 佐倉暁:「俺らさっき……夕陽さんが焦がしたフライパンを、ですね……。」 日向彼方:「……見ちゃい、ました。」 佐倉夕陽:「え。」 佐倉暁:「……ブッフフフ……。」 日向彼方:「……。」 佐倉夕陽:「あ、笑ったな?」 佐倉暁:「だって……」 日向彼方:「フフ……」 佐倉夕陽:「あ、彼方くんまで。」 佐倉暁:「はは! 彼方なんて、何を焦がしたら、こうなるんだって、引いてたよ!」 佐倉夕陽:「ええ?」 日向彼方:「い、いや、引いては……フッフフフ」 佐倉夕陽:「もう……二人とも、そんなに笑わなくても。」 佐倉暁:「だって、夕陽さん、普段は、完璧っていうか、なんでも出来そうなのに……アッハハハ!」 日向彼方:「深刻そうにカミングアウトするのが、また……ンフフ」 佐倉夕陽:「恥ずかしいなあ、もう。」 0:暁、夕陽の楽しそうな声をバック(小さめ)に語り 日向彼方:(語り)「ああ、いいな。家族と、大切な誰かと、こうして食卓を囲んで、くだらないことで笑って。あいつは、暁は、俺にないものをたくさん持ってる。だから、俺とは違って、幸せなんだって、そう思っていた。あいつがいなくなる前までは。」 0:暁、夕陽の笑い声、少し大きくなってエコー : 0:■場面4「佐倉夕陽という人物」 登場*彼方・暁=17歳、夕陽=27歳、モブ男性(兼男子生徒1〜3)、モブ女性(兼女子生徒2) 日向彼方:(語り)「はじめは、勘違いだと思った。兄という存在に憧れていたから。高校生から見て社会人はとても大人に見えたから。だから、この憧れを、恋と錯覚しているんだ、と。」 0:一年後 : 0:暁、夕陽、学校の休み時間に廊下で立ち話 : 0:(SE)チャイム。足音。生徒たちの声「ご飯行こー」「やっと昼休みー」 日向彼方:「(ー小さな独り言)はあ……お腹すいた。」 モブ男性:(男子生徒1)「日向(ひなた)ー、待って待って。」 日向彼方:「な……何。」 モブ男性:(男子生徒1)「日向(ひなた)さあ。」 日向彼方:「『ひむかい』です。」 モブ男性:(男子生徒1)「え、ああ、ごめん。日向か。これ、さっきのクラス投票。文化祭でやりたい出し物、お前、書いてないだろ。」 日向彼方:「あ、ああ……」 モブ男性:(男子生徒1)「やっぱりな。ほら、書いてー。「自作ビデオ上映」と「お化け屋敷」が同票で、さ。日向が書いたら、どっちやるかが決まるんだよ。」 日向彼方:「え……。ほ、他の人は。」 モブ男性:(男子生徒1)「だから、書いてないの、お前だけなんだって。」 日向彼方:「なんでもいいよ。……えっと、文化祭委員で、決めて。」 モブ男性:(男子生徒1)「いや、一応、クラスのみんなで投票って、話だから。俺らが決めたら、いろいろ言われるだろ? な? 頼むよ。」 日向彼方:「ええ……」 佐倉暁:「俺、お化け屋敷!」 日向彼方:「わっ。」 モブ男性:(男子生徒1)「佐倉、お前はクラス違えんだから、関係ねーよ。」 佐倉暁:「絶対、お化け屋敷の方が、楽しいって! 毎年人気だし。広い教室使えるんだぜ? 良くね? なー?」 モブ男性:(男子生徒1)「ま、まあ。」 日向彼方:「そこ?」 佐倉暁:「なんか、特別感あるじゃん!」 日向彼方:「はあ。暁のクラスは?」 佐倉暁:「俺んとこは、劇すんの。さっき決まったー。」 日向彼方:「演劇? それって三年しかできないんじゃないの。」 佐倉暁:「いいや、二年の俺らでもできるよ。体育館の舞台は、使わせてもらえないらしいけどな。」 日向彼方:「へえ。」 佐倉暁:「で、どうすんの?」 日向彼方:「あ、ああ。じ、じゃあ、お化け屋敷で。」 モブ男性:(男子生徒1)「お、おっけ……。」 佐倉暁:「よーし。彼方、放課後は?」 日向彼方:「課題やってる、かな。多分。」 佐倉暁:「おお。じゃ、一緒に帰ろうぜ。俺、部活終わったら、連絡するわ。」 日向彼方:「分かった。」 モブ男性:(男子生徒1)「……佐倉と日向って知り合いだったんだ。」 佐倉暁:「ん? そうだけど。」 モブ男性:(男子生徒1)「意外だな……。幼馴染、とか?」 佐倉暁:「いや。高校から。」 モブ男性:(男子生徒1)「へえ……。」 佐倉暁:「なんだよ。」 モブ男性:(男子生徒1)「い、いや、別に。」 モブ男性:(男子生徒2)「暁ー。食堂行くぞー。」 モブ男性:(男子生徒3)「早くしろー。カツカレー売り切れんぞー。」 佐倉暁:「今行くー! じゃ、また後で。」 日向彼方:「ん。」 モブ男性:(男子生徒1):「はあ……珍しいこともあるもんだな……」 0:暁、夕陽、学校の帰り道 : 0:(SE)カラスの声、二人の足音 日向彼方:「最初はグー、ジェンケン……」 佐倉暁:「ほい!」 日向彼方:「勝った。」 佐倉暁:「じゃ、今日は彼方の家なー。」 日向彼方:「んー。」 佐倉暁:「久々だなー。一緒に帰んのも、お前ん家行くのも。」 日向彼方:「って言っても1週間くらいでしょ。」 佐倉暁:「でも、1年の頃は毎日行ってたんだし。」 日向彼方:「部活、忙しいんだっけ。」 佐倉暁:「大会、近いからな。」 日向彼方:「帰って休まなくていいの?」 佐倉暁:「別にー。全然オッケー。」 日向彼方:「体力すごいな。」 佐倉暁:「っへへ。っま、これでもキャプテン候補ですから。」 日向彼方:「お、そうなの? すごいじゃん。」 佐倉暁:「コーチにさ、お前には期待してるからな、って言われてんだ。俺、まじで、3年になったらキャプテンになるから。今よりもっと、強いチームにして、もっと練習して……」 日向彼方:「すごいなあ。」 佐倉暁:「へへ、かっこいいだろ。」 日向彼方:「うん。」 佐倉暁:「へ……ま、真顔で言うなよ。」 日向彼方:「ほんとに思ってるから。」 佐倉暁:「……まじ?」 日向彼方:「僕には到底できないよ。」 モブ女性:(女子生徒2)「佐倉先輩……!」 日向彼方:「……?」 モブ女性:(女子生徒2)「あ、お、お疲れ様です!」 佐倉暁:「ああ、お疲れ! どうしたの?」 モブ女性:(女子生徒2)「こ、コーチから、そ、その、伝言があって……」 佐倉暁:「あ、もしかして、俺のこと走って追いかけてくれた?」 モブ女性:(女子生徒2)「あ、まあ……」 佐倉暁:「ごめん! 部活終わって早々帰っちゃって。それで、何かな。」 モブ女性:(女子生徒2)「あ、あの……」 日向彼方:「俺、コンビニ入ってる。」 佐倉暁:「え? ああ、おけ。」 モブ女性:(女子生徒2)「すいません……。」 佐倉暁:「……?」 モブ女性:(女子生徒2)「あ、あの、ごめんなさい! コーチの伝言っていうのは、嘘で、その……さ、佐倉先輩に、あの、話したいことがあって、その……」 佐倉暁:「部活の話じゃなくて?」 モブ女性:(女子生徒2)「あ、はい……すいません、嘘ついて。」 佐倉暁:「うん。」 モブ女性:(女子生徒2)「あの、私、サッカー部に入った時から、その、さ、佐倉先輩のことが、好き……です。」 佐倉暁:「え……」 モブ女性:(女子生徒2)「だから、その、せ、先輩がよければ、その、部活以外のところで、お話したいと、思ってて、その、オフの日に、私と二人で遊びにいったりしてくれ、ませんか……?」 佐倉暁:「ああ……」 モブ女性:(女子生徒2)「……」 佐倉暁:「……つまり、付き合いたいってこと?」 モブ女性:(女子生徒2)「……つ、付き合うのは、まだ、考えなくてもいいです、その、一度二人で会いたいというか……」 佐倉暁:「……ごめん。それは……。」 モブ女性:(女子生徒2)「遊びに行くだけでも、ですか……。れ、連絡先だけ、でも……」 佐倉暁:「……。」 モブ女性:(女子生徒2)「(ー半泣き)うぅ……あ、ご、ごめんなさい。」 佐倉暁:「いや……ごめん。ありがとう。」 モブ女性:(女子生徒2)「か、彼女、本当はいるんですか?」 佐倉暁:「え?」 モブ女性:(女子生徒2)「噂では、いないって言ってたから……」 佐倉暁:「あ、いや、彼女はいないけど……」 モブ女性:(女子生徒2)「じゃ、じゃあ、どうして会うのも、だめなん、ですか……。」 佐倉暁:「だ、だめっていうか……」 モブ女性:(女子生徒2)「……。」 佐倉暁:「俺、好きな人がいるんだ。」 モブ女性:(女子生徒2)「……羨ましい。」 佐倉暁:「え?」 モブ女性:(女子生徒2)「ごめんなさい、なんでもないです。しつこく言って引き止めて、すいませんでした。」 佐倉暁:「いや、大丈夫。」 モブ女性:(女子生徒2)「……失礼します。」 佐倉暁:「気をつけて帰って。」 モブ女性:(女子生徒2)「ありがとうございます……では。」 佐倉暁:「……」 0:(SE)コンビニ内の音 日向彼方:「(ー独り言)『新登場、濃厚抹茶ミルクグミ』。美味しいのか?」 佐倉暁:「彼方。」 日向彼方:「んー?」 佐倉暁:「待たせてごめん。」 佐倉暁:「いいよ。お菓子でも買っていく?」 佐倉暁:「いや、いい。帰ろう。」 日向彼方:「あ、そう。じゃあ、ジュースは?」 佐倉暁:「いらない。」 日向彼方:「僕の家、なんもないけど?」 佐倉暁:「いい。」 日向彼方:「そう。」 佐倉暁:「……俺、さっき告られた。部活のマネージャーから。」 日向彼方:「へえ、すごい、ね。」 佐倉暁:「はは。だろ。」 日向彼方:「この前は先輩に告白されてなかった?」 佐倉暁:「……そうだったかな、覚えてないわ。」 日向彼方:「ええ。モテる男は違うね。」 佐倉暁:「断ったよ。」 日向彼方:「へえ、なんで?」 佐倉暁:「……なんでって。」 日向彼方:「あ、別に、いいんだけどさ。」 佐倉暁:「……そっか。ほら、いくぞ。(ー手を掴む)」 日向彼方:「いっ……ちょっと、なに?」 佐倉暁:「……」 0:(SE)自動ドアが開く音 : 0:二人とも早足の息遣いで 日向彼方:「ちょっと、なんでそんなに急いでんの。」 佐倉暁:「ん? さあ? なんか、むしゃくしゃしてさ。」 日向彼方:「……なんで?」 佐倉暁:「(ー間髪入れずに)なんでだと思う?(ー立ち止まって至近距離で睨む)」 日向彼方:「っ……!」 佐倉暁:「っ……俺はさ……!」 日向彼方:「……」 佐倉暁:「ずっとお前に……」 日向彼方:「ちょ……暁……腕、痛いんだけど。」 佐倉暁:「はっ……! ご、ごめん! ごめん……。ちが……これは……彼方、ごめん。い、痛かった?」 日向彼方:「った……力強いよ、はは。」 佐倉暁:「ごめん。」 日向彼方:「本当にどうしたの?」 佐倉暁:「いや……。」 日向彼方:「やっぱり疲れてんじゃない。」 佐倉暁:「そう、かも。疲れてるかも、俺。」 日向彼方:「え……。あ、そう。」 佐倉暁:「帰るわ。」 日向彼方:「う、うん。まあ、無理しないほうがいいよ。明日も部活でしょ。」 佐倉暁:「おう。じゃ、また。悪かった、本当に。」 日向彼方:「いや、うん。また明日……。」 0:(SE)走り去る足音 日向彼方:(語り)「このとき彼の違和感に気づいていたら? いや、気づいていていて何もしなかった。あの言葉の続きを聞いていたら? いや、彼は今よりひどい目に遭っていたかもしれない。俺が彼を助けられた? いや、彼も俺たちも救われなかった。」 0:暁、帰宅 佐倉暁:「(ー走った後の息遣い)はあ……はあ……。くそ……。」 佐倉夕陽:「おかえり。」 佐倉暁:「は……ゆ、夕陽さん。か、帰ってたんだ……」 佐倉夕陽:「……。」 佐倉暁:「ゆ、夕飯は? 食べた? 俺は今から……」 佐倉夕陽:「今日は、彼方くんの家には行かないの?」 佐倉暁:「……あ、うん、まあ。」 佐倉夕陽:「そう……。何かあった?」 佐倉暁:「いや、別に。」 佐倉夕陽:「彼方くんと、喧嘩でもした?」 佐倉暁:「え……ち、違うよ。毎日会ってるわけでもないし。」 佐倉夕陽:「……」 佐倉暁:「ほんと、なんでもないって。」 佐倉夕陽:「彼方くんに何かしたの?」 佐倉暁:「……」 佐倉夕陽:「それとも、何かしようとした……とか。」 佐倉暁:「っ……お、俺、飯作ってくる。(ー夕陽の隣を通り過ぎる)」 佐倉夕陽:「暁。」 佐倉暁:「……。(ー背を向けたまま立ち止まる)」 佐倉夕陽:「悩みがあるなら、兄さんに相談しなさい。」 佐倉暁:「なんでもないよ。」 佐倉夕陽:「僕に気をつかってる?」 佐倉暁:「……。」 佐倉夕陽:「僕じゃ頼りない?」 佐倉暁:「そ、そうじゃなくて。」 佐倉夕陽:「兄さんには相談しづらいことかな。」 佐倉暁:「ち、違う……ほんと、なんでもないから……!」 佐倉夕陽:「(ー暁の後ろから肩に手をかける)暁。」 佐倉暁:「な……。」 佐倉夕陽:「無理してるんだね。暁は優しいから。兄さんには分かるよ? 大丈夫、兄さんに話してごらん。」 佐倉暁:「夕陽さん、俺、汗臭いから。」 佐倉夕陽:「何言ってるんだ今更。『きょうだい』なんだから気にしなくていい。暁は兄さんがこうしてやると、いつも……」 佐倉暁:「子供の頃の話だろ。(ー暁の手を払い除ける)」 佐倉夕陽:「……そう、だね。」 佐倉暁:「あ……ごめん、夕陽さん。俺、疲れてて、なんか、むしゃくしゃしてるんだ。だから、その、一人にして欲しい。」 佐倉夕陽:「……わかった。」 佐倉暁:「ほんと、ごめん。」 佐倉夕陽:「ううん。」 佐倉暁:「……(ーその場を去る)」 佐倉夕陽:「へえ……」 0:(SE)スマホの操作音、電話をかける音、電話に出る音 : 0:彼方、自宅にて 日向彼方:「……ん? えっ、夕陽くんから? も、もしもし……」 0:以下、夕陽の声は電話口から聞こえる 佐倉夕陽:「あ、もしもし? 夕陽です。」 日向彼方:「ゆ、夕陽くん、こ、こんにちは。」 佐倉夕陽:「こんにちは、彼方くん。今、大丈夫かな。」 日向彼方:「はい。」 佐倉夕陽:「ほんと? よかった。」 日向彼方:「ど、どうしたんですか。」 佐倉夕陽:「ちょっと暁のことで聞きたいことがあって……今家に帰ってきてちょうど顔を合わせたんだけど、どうも元気がなくてね。彼方くん、何か知ってるかなって。こんなこと、わざわざ電話してごめんね。」 日向彼方:「え、いや、全然。僕もさっき一緒に帰ってて、ちょっと様子が変だな、というか。疲れてるのかなって。」 佐倉夕陽:「彼方くんは、原因が何だか分かる?」 日向彼方:「原因ですか……。」 佐倉夕陽:「帰り道に何かあったとか。」 日向彼方:「うーん、帰り道、あ……そういえば、告白、されてました。えっと、サッカー部の子に。」 佐倉夕陽:「……サッカー部の?」 日向彼方:「えっと、マネージャーさん、だと思います。女子に告白されてるのは何度か見たことあるんですけど。」 0:以下、彼方の声は電話口から聞こえる 佐倉夕陽:「(ー素で)……へえ。」 日向彼方:「って、原因とは関係ないですよね。断ったみたいですけど、別に告白自体、嫌なことでもないだろうし。」 佐倉夕陽:「ふ……(ー気を取り戻して)そうだね。」 日向彼方:「あいつ、結構部活で忙しくしてるみたいですから。コーチからの期待とかプレッシャーとか……それが原因ですかね。」 佐倉夕陽:「ああ……(ー大袈裟に)なるほどね。」 日向彼方:「あっ、明日また様子見ときます。多分、すぐ元気になると思うし。」 佐倉夕陽:「そう。ありがとうね、彼方くん。」 日向彼方:「いえ。」 0:以下、夕陽の声は電話口から聞こえる 佐倉夕陽:「やっぱり、彼方くんに相談してよかった。」 日向彼方:「はは。夕陽くんは、その、や、優しい、ですね。弟思いというか。」 佐倉夕陽:「そうかな? 歳が離れてるから、放って置けないというか。甘やかしたくなるっていうか。暁にはうっとうしいと思われてるだろうけど。」 日向彼方:「え、全然そんなことないと思いますよ! そんなふうに心配してくれるなんて、すごく……」 佐倉夕陽:「ふふ、彼方くんはいい子だね。」 日向彼方:「ほ、本当ですよ。(ー小声で)……ほんと、羨ましい、です。」 佐倉夕陽:「ん?」 日向彼方:「いえ、なんでもないです。あ、もし、また暁に何かあったら、その、僕でよければ……。」 佐倉夕陽:「ほんと? ありがとう。これからも、弟をよろしくね。」 日向彼方:「はい。」 佐倉夕陽:「今日は彼方くんと話せてよかったよ。」 日向彼方:「えっ、ぼ、僕も、です……」 佐倉夕陽:「また家に遊びに来てね。今度来たときに会えたら、もう一度彼方くんのつくったスイーツ、食べたいな。」 日向彼方:「あ、あれは……はは、簡単なものですし。暁がつくった方が上手いですよ、きっと。」 佐倉夕陽:「二人とも、僕よりは上手だよ?」 日向彼方:「えっ……ふふ。」 佐倉夕陽:「あ、また笑ったな?」 日向彼方:「ち、違います!」 佐倉夕陽:「もう……はは。おっと、長話しちゃった。ごめんね。」 日向彼方:「いえ! た、楽しいです、し。」 佐倉夕陽:「あはは、こんなおじさんと話してて楽しい?」 日向彼方:「なっ、おじさんだなんて、そんな! 夕陽くんはまだ、若い、です。」 佐倉夕陽:「高校生からしたら、おじさんだよ。」 日向彼方:「いや、本当に夕陽くんは、その、僕からしたら、大人だけど、すごく、か……かっこいいと思います。」 佐倉夕陽:「え?」 日向彼方:「あ、いや! す、すいません! ちが……その、こ、こんなお兄さんがいたらいいなあって……。」 佐倉夕陽:「はは、ほんとに彼方くんは優しいんだね。はあ。なんだか、僕が元気付けられちゃった。ありがと。」 日向彼方:「そんな。僕でよければ、また、い、いつでも。」 佐倉夕陽:「うん、ありがとう。あ、そうだ。」 0:以下、彼方の声は電話口から聞こえる 日向彼方:「はい?」 佐倉夕陽:「彼方くんに電話かけたこと、暁には秘密にしてくれる?」 日向彼方:「……あ、ああ、はい! わかりました。」 佐倉夕陽:「ありがとう。じゃ、またね、彼方くん。」 日向彼方:「はい……!」 0:(SE)電話の切れる音 : 0:彼方、自宅にて 日向彼方:「はあ……夕陽くん。」 0:■場面5「日常の終焉」 登場*彼方・暁=18歳、モブ女性(兼女子生徒1)(夕陽は最後の一言のみ) : 0:一年後 : 0:(SE)生徒達の声「卒業おめでとー」「はい、撮るよー」など 佐倉暁:「彼方ー。」 日向彼方:「ああ、暁。」 佐倉暁:「良かった、帰ってなくて。」 日向彼方:「暁が帰るなって言ったんでしょ。」 佐倉暁:「はは。だって一緒に帰るのもこれで最後だろ?」 日向彼方:「……って、お前。」 佐倉暁:「ん?」 日向彼方:「制服のボタンが……。」 佐倉暁:「ああ、これね。気づいたら、全部なかったわ。」 日向彼方:「ほんとにあるんだ、そんなこと。」 佐倉暁:「それより、見てみて。ジャーン! 皆勤賞! 式のとき、俺が表彰されてたの見てた? ほら、なんか高そうなペンも、もらった。」 日向彼方:「おお。」 佐倉暁:「彼方は?」 日向彼方:「僕ももらったよ。腕時計。」 佐倉暁:「え?! うわっ! めっちゃかっけえー! っかー! やっぱ首席ともなると賞品の格が違うな!」 日向彼方:「へへ。」 佐倉暁:「すげえよ、ほんと。」 日向彼方:「暁もね。」 佐倉暁:「まあ、頭はあれだけど、体には自信あるからな!」 日向彼方:「それだけじゃなくて、部活も。3年間よくやったよ。」 佐倉暁:「お、おう。」 日向彼方:「お疲れ。」 佐倉暁:「ありがとな。」 日向彼方:「ま、帰宅部の僕が言えることじゃないか。」 佐倉暁:「そんなことない。俺、彼方に言われんのが一番嬉しいわ。」 日向彼方:「なんでよ。」 佐倉暁:「そりゃあ……高校生活では一番一緒にいたからな!」 日向彼方:「まあ、毎日のようにお互いの家に行ってたらね。」 佐倉暁:「はは……それに俺は……」 モブ女性:(女子生徒1)「あの!」 佐倉暁:「ん?」 モブ女性:(女子生徒1)「ちょっと、いいですか?」 日向彼方:「あ……」 佐倉暁:「どうしたの……」 モブ女性:(女子生徒1)「日向先輩!」 日向彼方:「えっ……ぼ、僕?」 佐倉暁:「(ー小声で)おっと……」 モブ女性:(女子生徒1)「あの、急にこんなこと、迷惑かもしれないんですけど、その、ずっとずっと……好きでした!」 日向彼方:「え?」 モブ女性:(女子生徒1)「驚くのはわかります! でも、その、ほんとに、1年の頃から、好きでした。最後だから、れ、連絡先だけでも交換してくれませんか!」 日向彼方:「え? えっと……」 モブ女性:(女子生徒1)「お願いします!」 日向彼方:「あ、えー……なんで、僕……?」 モブ女性:(女子生徒1)「……も、もしかして、彼女、いますか?」 日向彼方:「い、いないけど。」 モブ女性:(女子生徒1)「あっ、じゃあ……好きな人が……(ー泣きそうになる)」 日向彼方:「え、ちょっと……ちが、あ、連絡、先、か、えっと、スマホ……」 佐倉暁:「……。」 モブ女性:(女子生徒1)「(ーだんだん半泣き)交換してくれるんですか!」 日向彼方:「へ? そうじゃないの?」 モブ女性:(女子生徒1)「そうです!」 日向彼方:「はい、ど、どうぞ」 モブ女性:(女子生徒1)「ありがとうございます! 嬉しいです! あ、私だけごめんなさい。突然話しかけちゃって、意味わかんないですよね。」 日向彼方:「ああ、いや、うん、まあ。」 モブ女性:(女子生徒1)「また連絡しますね!」 日向彼方:「はい、あ、うん。」 モブ女性:(女子生徒1)「卒業、おめでとうございますっ!」 日向彼方:「ど、どうも……。」 日向彼方:「では!」 日向彼方:「え、で、では……。」 0:(SE)走り去る足音 : 0:(SE)学生たちの騒がしい声フェイドアウト後 日向彼方:「……あれ?」 佐倉暁:「ったく……。」 日向彼方:「え……。こ、告白……だよね、これ。は、はじめてされた……」 佐倉暁:「まじで?」 日向彼方:「うん。」 佐倉暁:「へえ……。」 日向彼方:「でも、なんか、何が起こったのか、分からん、だった。」 佐倉暁:「はは。」 日向彼方:「なんといういうか……僕が状況を理解する前に、行っちゃった。連絡先渡しただけ、だけど。そっけなかったかな。」 佐倉暁:「……別に、彼方が悪く思う必要ないだろ。」 日向彼方:「う、うん。暁は、こんなことを何度も経験してたのか、すごいな。」 佐倉暁:「すごくない、すごくない。」 日向彼方:「もっと、スマートにやりたかった。」 佐倉暁:「なんとも思ってないのに、気を使われる方が、向こうにとっては辛い、かもよ。」 日向彼方:「ま、まあ……。」 佐倉暁:「(ー優しいため息)はあ……。帰るぞ。」 日向彼方:「お、おう。」 0:(SE)二人の足音 佐倉暁:「桜。綺麗だなー。」 日向彼方:「うん。」 佐倉暁:「はあーあ。卒業かあ。」 日向彼方:「卒業したねえ」 佐倉暁:「あんま、実感ないなあ。」 日向彼方:「たしかに。」 佐倉暁:「この通学路も、もう通らなくなるのかー。」 日向彼方:「うん……(ーふざけてしんみりと)暁の家に行くのも……これで最後かあ。」 佐倉暁:「ええっ?!」 日向彼方:「うそうそ。」 佐倉暁:「ちょ、びっくりした! やめろよー!」 日向彼方:「そんな驚かないでよ。冗談。」 佐倉暁:「ったくー。しんみりすんなって。」 日向彼方:「大学行っても、なんだかんだ集まるんじゃない。家近いんだし。」 佐倉暁:「そうだなー。でも、彼方はちゃんと俺以外にも友達つくれよ?」 日向彼方:「わかってるよ。ていうか、高校にも友達はいました。」 佐倉暁:「はは、そっか。」 日向彼方:「じゃ、今日もジャンケンしますか。」 佐倉暁:「帰り道のジャンケンもこれで最後かー。」 日向彼方:「しんみりしてるじゃん。」 佐倉暁:「毎日のようにお互いの家に行ってさあ。お互い共働きだから気楽だったし。もうこの日課がなくなるんだなと思うと、やっぱ寂しいじゃん。」 日向彼方:「まあね。ほんと、ありがとね。」 佐倉暁:「ちょ……改まるなよお。」 日向彼方:「最初はグー、ジェンケン、ホイ」 佐倉暁:「お、じゃあ俺ん家な。」 日向彼方:「おっけ。」 佐倉暁:「あ……。な、なあ。」 日向彼方:「ん?」 佐倉暁:「今日も、夜までいる、よな?」 日向彼方:「いや。夜は打ち上げあるし。暁のクラスもやるでしょ。」 佐倉暁:「あ、ああ……。そうだった。」 日向彼方:「早めに帰るから、安心して。」 佐倉暁:「あ、いや……」 日向彼方:「ん?」 佐倉暁:「な、なんでもない。……ああ、そうだ! 帰ったら、これ、見よう、アルバム。」 日向彼方:「ああ、うん。……?」 0:彼方、暁、暁の部屋にて、卒業アルバムを見る。 : 0:(SE)以下、タイミング良いところでページめくり 佐倉暁:「あー! うわっ。これ、懐かしいー!」 日向彼方:「暁が、まだ俺と同じぐらいの身長だ。」 佐倉暁:「だな。」 日向彼方:「伸びたね。」 佐倉暁:「こっちは……二年の体育祭んとき、か。おー! これ、俺めっちゃかっこよく写ってる!」 日向彼方:「うん、すごい……カメラマン。」 佐倉暁:「おいっ!」 日向彼方:「はは。ああ、この先生、懐かしい。えっと……」 佐倉暁:「藤先生な。怖かったなー。短髪のおばさん先生は怒ると怖い、って相場が決まってるからな。」 日向彼方:「偏見だよ。」 佐倉暁:「でも、俺は嫌いじゃなかった。」 佐倉暁:「ま、良い先生だったよね。」 日向彼方:「うん。お、これは?」 佐倉暁:「ああ! 朝倉先生! 俺、この先生も好きだったわ。」 日向彼方:「誰?」 佐倉暁:「あれ? 彼方は知らないか。 物理の先生。」 日向彼方:「ああ、知らないわ。僕、生物だし。」 佐倉暁:「結局俺らさ、1年のときしか、同じクラスじゃなかったよなー。」 日向彼方:「まあね。」 佐倉暁:「お、これは……」 日向彼方:「ああ、修学旅行の余興ね。」 佐倉暁:「うっわ……」 日向彼方:「ふふ。そういえば、暁、ステージの上で告白されてたね。」 佐倉暁:「ああー! もう! これ、マジで、ずっとイジられるのかよおー! あの後、ほんと大変だったんだからなー?」 日向彼方:「はは。」 佐倉暁:「笑い事じゃねーって! 次の日も呼び出されて、さ。ごめん、ってフったら、その場で泣き出されるわ、その子の友達からフリ方が雑い、って総攻撃くらうわで、もう……」 日向彼方:「同窓会のいいネタだね。」 佐倉暁:「勘弁してくれー!」 日向彼方:「はは。」 佐倉暁:「サッカー部の奴らにも散々言われたし、何故か他校の奴らにも噂が広まってて、もう……」 日向彼方:「あ、そういや、今日は部活の人たちと集まらなくて良かったの?」 佐倉暁:「ああ、いいの、いいの。」 日向彼方:「部長なのに。」 佐倉暁:「いいんだって。アイツらとは、しょっちゅう一緒にいたし、嫌でもまた集まるよ。」 日向彼方:「そ。」 佐倉暁:「それに……家来るの久々じゃん、彼方。」 0:(SE)暁のスマホ、着信音 佐倉暁:「おっ。」 日向彼方:「ん? 電話?」 佐倉暁:「あ……」 日向彼方:「……? どした?」 佐倉暁:「ああ、いや……。夕陽さんだわ。」 日向彼方:「え、夕陽くん?」 佐倉暁:「うん。今日、こっちに帰ってくるんだよ。」 日向彼方:「えっ。いつ? 何時くらい?」 佐倉暁:「そろそろ、かな……。」 日向彼方:「へえー。そうなんだ。」 佐倉暁:「ちょっと電話してくる。(ー暁、立ち上がって部屋を出る)」 日向彼方:「ほーい。(ー声が漏れる)ラッキー。」 佐倉暁:「(ー少しためらう)……。もしもし。」 日向彼方:(語り)「じわじわと押し寄せてくるような違和感は確かにあった。でもまさか、この日が、暁と会う最後の日になるとは、思ってもいなかった。」 0:(SE)ドアガチャ 日向彼方:「お。夕陽くん、なんて?」 佐倉暁:「ああ……。そ、卒業のお祝いに好きなもの買ってやるー、だってさ!」 日向彼方:「へえ。」 佐倉暁:「いやー、持つべきものは兄だねー、つって……はは。」 日向彼方:「いいなあ。」 佐倉暁:「はは……。」 日向彼方:「何、お願いしたの?」 佐倉暁:「……。」 日向彼方:「暁?」 佐倉暁:「へっ? あ、ああ、えっと……と、時計! 彼方のやつ見て、俺も、欲しくなってさ! かっこいいやつ!」 日向彼方:「ふうん。今から買いに行ってくれるの?」 佐倉暁:「ちょっと、贅沢なお願いだったかなー、はは。」 日向彼方:「夕陽くんなら、きっと良いやつ買ってくれるよ。いいな……」 佐倉暁:「だからさっ!」 日向彼方:「ん?」 佐倉暁:「あ、いや、だから……。今日は、もう少し……いろよ。……な?」 日向彼方:「おう……?」 佐倉暁:「サンキュ。」 日向彼方:「うん。」 佐倉暁:「……。」 日向彼方:「もしできたら、今度また、夕陽くんと三人で……」 佐倉暁:「(ー言い終わる前に)彼方は、大学行ったら、何すんの?」 日向彼方:「え?」 佐倉暁:「勉強のことじゃなくて。大学生は時間あるって言うじゃん。」 日向彼方:「ああ、まあね。」 佐倉暁:「やりたいこと、沢山あるだろ? 彼方は今までずっと勉強漬けだったわけだし!」 日向彼方:「や、やりたいこと?」 佐倉暁:「おう! あー、ほら。海外に行く、とか、サークルに入る、とか。」 日向彼方:「んー……。」 佐倉暁:「俺は、いっぱいあるぞー! 自転車で離島一周旅行とか、車の免許とって全国ラーメン巡りとか!」 日向彼方:「全部ハードすぎ。」 佐倉暁:「ええー、いいじゃん。彼方も一緒に行こー?」 日向彼方:「ええ。そうだな……あ。でも、あれは、見たい。」 佐倉暁:「何!」 日向彼方:「日の出。高い山から見る。」 佐倉暁:「日の出?」 日向彼方:「うん。この間、テレビで見たんだ。」 佐倉暁:「ご来光ってこと?」 日向彼方:「そうそう。日が出る前はさ、当たり前だけど、ほんとに真っ暗で、山だから、すごく寒そうで。怖いとか不安、っていうよりか……寂しいって、テレビの人は言ってた。」 佐倉暁:「へえ。」 日向彼方:「もう一生、太陽が見られなくなるんじゃないか、って思うんだって。すごく寒いし、先が見えない。でもさ、だんだん明るくなって、朝でも夜でもない、空が不思議な色に染まっていって、そんでさ、目が痛くなるくらいの光が……」 佐倉暁:「……ふふ。」 日向彼方:「何。」 佐倉暁:「いや……。」 日向彼方:「なんだよ。」 佐倉暁:「大学生っぽくねー、と思って。」 日向彼方:「わ、悪かったな。……お前が言えって言うから。」 佐倉暁:「ごめん、ごめん。はは。……でも、彼方らしいわ。」 日向彼方:「なんだよ、それ。」 佐倉暁:「……彼方。」 日向彼方:「ん?」 佐倉暁:「……ずっと……俺と、仲良くしてくれ、な! 卒業しても!」 日向彼方:「……改まるなよ。」 佐倉暁:「はは。今日はおセンチな日なんだよ。」 日向彼方:「おセンチって。」 佐倉暁:「あ、そうだ! 今日、日の出見に行くか!」 日向彼方:「今日?」 佐倉暁:「あー。日の出なら、正確には、明日?」 日向彼方:「暁は興味ないんだろ?」 佐倉暁:「興味ないことないって!。」 日向彼方:「(ー否定の意)いいよ、無理しなくて。一人で行くし。」 佐倉暁:「なんでだよー無理してねえって! あー、ほら、さっき言ってたじゃん。日の出見る前は寂しくなるって。二人で見ればそうはならないだろ。」 日向彼方:「……まあ。」 佐倉暁:「あとで滝の山駅に集合しよ! 朝の5時、6時くらい? まあ、テレビみたいな光景は無理かもしれないけど……きっと綺麗だよ。今日は天気もいいし!」 日向彼方:「そうだね。」 佐倉暁:「よし。決まりな!」 日向彼方:「うん。」 佐倉暁:「……ありがとう。」 日向彼方:「付き合ってもらってんのは、こっちだよ。ありがと。」 佐倉暁:「ううん。俺も見てみたい。ま、俺のラーメン巡りにも付き合ってもらうけど、な?」 日向彼方:「ええっ?」 佐倉暁:「はは!」 日向彼方:(語り)「翌朝、いくら待っても、暁が待ち合わせ場所に来ることはなかった。」 0:数年後、夕陽の自宅にて 日向彼方:「こんにちは。」 佐倉夕陽:「いらっしゃい、待ってたよ。」 0:■場面6へ続く

0:前編 : 0:■場面1「誰かの証言」 登場*彼方、夕陽、暁、モブ男性(兼証人2、4、6)、モブ女性(兼証人1、3、5) : 0:ニュースのインタビュー映像が次々と流れてくるようなイメージで。 : 0:(SE)ザザ、ラジオのノイズのような音(各証言の前に入る) 日向彼方:「日向彼方、没25歳。」 モブ女性:(証人1)『え?! 日向くんが? うそ……。同窓会で久々に会えると思ってたのに。』(日向彼方の幼馴染K) モブ男性:(証人2)『いや、家までは知らないっスよ、はい。大学んときの友達なんて、そんなもんでしょ。』(日向彼方の同級生H) 佐倉夕陽:「佐倉夕陽、没35歳。」 モブ女性:(証人3)『優しそうな人だなあ、って。いや、ちゃんと話したことはないですけど、正直ちょっといいなって思ってたので。』(佐倉夕陽宅の近隣住民A) モブ男性:(証人4)『この間、見かけました、階段のところで。え? いや、一人暮らしだったんじゃないですか?』(佐倉夕陽宅の近隣住民K) 佐倉暁:「佐倉暁、25歳、現在行方不明。」 モブ女性:(証人5)『いつも元気に挨拶してくれてねえ。ええ、向こうから。まさか家出するだなんて。』(佐倉暁の実家の隣人M) モブ男性:(証人6)『真面目なやつでしたよ。優しくて、一生懸命で。……はあ。なんで気づいてやれなかったんだ。』(佐倉暁の高校時代の担任) 0:■場面2「日向彼方と言う人物」 登場*彼方=25歳 : 0:夕暮れ、日の差し込む自室にて。 : 0:(彼方、横たわり、絶命寸前。※死にかけの声で読む必要はないです。) : 0:(SE)不穏な音楽、規則的なリズムで同音(眠る時の心臓くらいのBPM) 日向彼方:(語り)「あの日から今日まで、生きた心地がしなかった。この世界で自分だけが見えない存在で、たとえ真っ昼間の太陽に照らされても、地にその影を落とすことはない、そんな気がする。本当は、最初から、生まれても存在してもいなかったのではないか。」 日向彼方:(語り)「ただ、あの人の影だけは、最期まで、自分の前から消えてはくれなかった。ああ、こんなことを思うくらいなら、いっそ、あのとき、一緒に消えておくんだった。」 日向彼方:(語り)「ねえ、そうでしょ……?」 0:彼方、絶命。 : 0:SE終わり 日向彼方:(語り)「(タイトルコール)黄昏れ」 0:■場面3「佐倉暁という人物」 登場*彼方・暁=16歳、夕陽=26歳、 : 0:(SE)カラスの声(小さめ)、少し入れてすぐ消す。 日向彼方:(語り)「高校を卒業して間もない頃だった。生涯で唯一親友と呼べる人物が、突然に姿を消した。『ごめん、しばらく帰らない、暁』。そう書かれた小さなメモが一枚、自宅の居間に残されていた、という話は、あとに人から聞いた。」 日向彼方:(語り)「佐倉暁、人生で唯一の親友だった。」 0:暁の自室にて。 : 0:彼方、暁、丸机を挟んで向かい合う。 : 0:(SE)時計の針の音、鉛筆が机にコロン 佐倉暁:「はい、終わったー! ふーっ。(ー伸びをして後ろに手をつく)んああ、疲れた。彼方は? 終わった?」 日向彼方:「終わってるよ。少し前に。」 佐倉暁:「んえっ?! 嘘だろ? 同時に始めたのに?」 日向彼方:「嘘じゃない。」 佐倉暁:「うわ……本当だ。てか、めちゃくちゃ進んでんじゃん! ここって、テスト範囲じゃないだろ? すごいなあ、彼方!」 日向彼方:「習った知識で解けるよ。」 佐倉暁:「あー、はいはい、そうですか。……ったく、そういうところだぞ?」 日向彼方:「何が。」 佐倉暁:「モテないの。」 日向彼方:「ん……? なんでそうなるの?」 佐倉暁:「素直にありがとう、って、言やぁいいの。」 日向彼方:「(ー納得してない感じで)……なるほど。」 佐倉暁:「……ま、いいやっ。」 日向彼方:「全く手をつけてなかったのに、3時間しっかり集中して、なんとか終わらせた暁の方が、すごいんじゃない。」 佐倉暁:「おまっ……」 日向彼方:「照れてる。」 佐倉暁:「照れてねえ!」 日向彼方:「あ、もう9時だ。」 佐倉暁:「へ? うわ、やばっ。えー、スマホ、スマホ……。」 日向彼方:「ん?」 佐倉暁:「ああ、彼方。そこのバックから俺のスマホ取って。」 日向彼方:「どこ。」 佐倉暁:「ベットの上。」 0:(SE)ベットぎしっ、バック漁る音、スマホタッチ音など 日向彼方:「ああ。んしょ……。んー……あった。ほい。」 佐倉暁:「サンキュ。(ースマホを操作しながら)部活のことで、マネージャーに連絡しなきゃいけない事あんの、忘れてた。」 日向彼方:「ふうん。サッカー部のエースは大変だね。(ー背中側のベットに寝転ぶ)んー……。」 佐倉暁:「一年の中では、な。俺なんて、まだまだ。」 日向彼方:「そこは素直にありがとう、じゃないの?」 佐倉暁:「はは、そうだな。彼方は部活入んねえの? 中学の頃はバレーやってたんだろ?」 日向彼方:「やだよ。あそこ人多いもん。」 佐倉暁:「人がいなきゃスポーツはできないだろっ。友達増えるぞー?」 日向彼方:「(ー話半分)そうだねー。」 佐倉暁:「送信っと。オッケー。……おい、彼方ー。人のベットで寝るなー?」 日向彼方:「(ーあくびしながら)寝ないよ。」 佐倉暁:「ふふん……。スキあり!(ー彼方の脇腹をつつく)おりゃ!」 日向彼方:「(ー飛び起きて)ばっ……か!」 佐倉暁:「はは! ホント弱いよなあ。っくく。」 日向彼方:「はあ……。」 佐倉暁:「ボケッとしてる、お前が悪い。」 日向彼方:「(ー体勢を立て直し)んっしょ。今日は何時まで居ていいの?」 佐倉暁:「いつも通り、何時でもー。親は、どっちも、まだ帰ってこないと思うし。」 日向彼方:「そ。じゃあ、10時くらいに帰ろ。」 佐倉暁:「なんか食べる?」 日向彼方:「お、作ってくれんの。」 佐倉暁:「仕方ないなー! 課題を頑張ったお前のために、スペシャルうまい・特性・夜食を振る舞ってやるかー!」 日向彼方:「いえーい。」 佐倉暁:「もうちょい、嬉しそうにしろー?」 日向彼方:「わーい。」 佐倉暁:「変わんねえなあ! あ……なあ、一緒に作るか?」 日向彼方:「ええ。(ー否定の意で)いいよ。暁が一人で作った方いい。料理うまいんだし。見た目によらず。」 佐倉暁:「一言余計だな? でも、できなくはないと思うぜ? 彼方は器用だし。ほら、たまにはいいじゃん。行こ。」 0:彼方、暁、キッチンへ移動、並んで立つ。 佐倉暁:「さて、何を作ろう。」 日向彼方:「決めてないんかい。」 佐倉暁:「キッチンに立って、冷蔵庫を開けたときの気分で、メニューを決める。」 日向彼方:「おお。なんか、料理できそうな人の発言。」 佐倉暁:「できそうじゃなくて、できるんだよ。んー、そうだなー……この間、彼方がうまいって言ってた、ピザトーストでもいいけど……」 0:(SE)冷蔵庫ガチャ 佐倉暁:「あー、ベーコンがなかったか……」 日向彼方:「(ー冷蔵庫を暁の肩から覗いて)どれどれ……。相変わらず整頓されてるね。」 佐倉暁:「っ……! そ、そうだろー……はは。」 日向彼方:「あ、りんご。りんご食べたい。」 佐倉暁:「りんごか……。確か、さつまいももあったから、うん、あれにしよう。」 日向彼方:「ん?」 0:(SE)冷蔵庫ガチャ 佐倉暁:「よし。」 0:(SE)食材を大に並べる音 日向彼方:「何作んの?」 佐倉暁:「りんごとさつまいもを煮た、甘さ控えめ、あったかスイーツ。その名も、りんごとさつまいも煮ぃ!」 日向彼方:「そのまんまだね。」 佐倉暁:「食材切って、フライパンに並べて、あとはバターと砂糖で煮るだけ。」 日向彼方:「へえ。」 佐倉暁:「彼方でも、できるぞー。ふふ。」 日向彼方:「でも、って。」 佐倉暁:「包丁は使えるよな?」 日向彼方:「あ、ある程度は。」 佐倉暁:「んふふ……。」 日向彼方:「り、りんごくらい切れるよ。」 佐倉暁:「ほおん。」 日向彼方:「ぎゃっ。」 佐倉暁:「ん、どした?」 日向彼方:「何これ……?」 0:(SE)フライパンを持ち上げる(鉄が擦れるような)音 日向彼方:「真っ黒。こ、これ……フライパン、だよね?」 佐倉暁:「ああ……。そういや、昨日、夕陽さんがキッチン使ったんだった……。」 日向彼方:「(ー少し声色が変わって)え、夕陽くん? 今、帰ってきてるの?」 佐倉暁:「うん。帰省中。」 日向彼方:「てか、な、何を焦がしたら、ここまでに……?」 佐倉暁:「多分、卵……? 夕陽さん、ほんと料理以外は何でもできるんだけどな、はは……。」 日向彼方:「へえ。なあ。」 佐倉暁:「ん?」 日向彼方:「ずっと気になってたんだけど。夕陽くんのこと、なんで「さん」付けで呼ぶの? 兄弟なのに。」 佐倉暁:「ああ。癖くせ。」 日向彼方:「癖?」 佐倉暁:「うん。ちっちゃい頃にさ、婆ちゃんにそうしろ、って言われたんだよ。年が離れてるんだから、兄のことは『お兄さん』か『夕陽さん』って呼べ、って。」 日向彼方:「ええ。珍し。」 佐倉暁:「みたいだな。俺は普通だと思ってた。」 日向彼方:「へえ。」 佐倉暁:「あ、そうだ。この惨状を見てしまったことは、夕陽さんには内緒で……」 0:(SE)ドアガチャ 佐倉夕陽:「ただいま。」 日向彼方:「あ……!」 佐倉暁:「あ、夕陽さん、おかえり!」 日向彼方:「あっ……あ、ど、どうも。」 佐倉夕陽:「こんばんは、彼方くん。」 日向彼方:「す、すいません。お、お邪魔してます。いつも遅くまで、すいません。」 佐倉夕陽:「ふふ。いいよ。ゆっくりしていってね。」 佐倉暁:「夕陽さん、ちょうど良かった。今日は、彼方が夜食を作ってくれるんだよ。」 日向彼方:「えっ!?」 佐倉夕陽:「へえ。いいね。」 日向彼方:「い、いや、じゃなくて、い、一緒にって……」 佐倉暁:「夕陽さんも食べる? あ、何か食べてきちゃった?」 佐倉夕陽:「いいや、まだだよ。僕の分も、作ってくれるの?」 佐倉暁:「まあ、成功すれば? なっ?」 日向彼方:「え。う、うん、まあ。」 佐倉夕陽:「ふふ、楽しみにしてるね。」 日向彼方:「あ……はい……。」 日向彼方:(語り)「暁のお兄さん、夕陽くんは、なんだか、とても、緊張する人だ。日本人とは思えないスタイルに、整った顔、そして、憂いを帯びた目。そして、その声。優しく包むような低い声で、それでいてどこか冷たい。」 0:(SE)机にお皿、コトン 佐倉暁:「はいっ! お待たせー。」 日向彼方:「……。」 佐倉夕陽:「うん、美味しそうな匂い。りんご煮か、久々だね。」 佐倉暁:「やっぱ、彼方は器用だよなー。教えたらすぐ出来ちゃうんだもん。」 日向彼方:「べ、別に、これくらい……。」 佐倉夕陽:「ふふ。すごいね。じゃあ、いただくね。」 日向彼方:「(ー唾をごくり)んっ……。」 佐倉暁:「いっただきまーす!」 佐倉夕陽:「んん……。美味しい。」 日向彼方:「ほ……」 佐倉暁:「うん、うまいうまい。 彼方、食べないの?」 日向彼方:「あ、ああ、食べる食べる。」 佐倉暁:「で、どうだった? 初めて料理した感想は。」 日向彼方:「どうって、別に。手順通りにやっただけだよ。」 佐倉暁:「楽しかった?」 日向彼方:「まあ、それなりに。」 佐倉暁:「おお!」 佐倉夕陽:「初めてだったの?」 佐倉暁:「家庭科の授業以外で、料理したことないんだって。」 佐倉夕陽:「へえ。彼方くんは、すごいね。」 日向彼方:「そ、そんな。」 佐倉夕陽:「(ー深刻そう)】僕はね……どうも料理が苦手でね。暁に教えてもらっても、いつも失敗しちゃうんだ。」 佐倉暁:「……。」 日向彼方:「……。」 佐倉夕陽:「え、何? 僕、何か変なこと言った?」 佐倉暁:「あ、いや……。」 日向彼方:「その……。」 佐倉暁:「俺らさっき……夕陽さんが焦がしたフライパンを、ですね……。」 日向彼方:「……見ちゃい、ました。」 佐倉夕陽:「え。」 佐倉暁:「……ブッフフフ……。」 日向彼方:「……。」 佐倉夕陽:「あ、笑ったな?」 佐倉暁:「だって……」 日向彼方:「フフ……」 佐倉夕陽:「あ、彼方くんまで。」 佐倉暁:「はは! 彼方なんて、何を焦がしたら、こうなるんだって、引いてたよ!」 佐倉夕陽:「ええ?」 日向彼方:「い、いや、引いては……フッフフフ」 佐倉夕陽:「もう……二人とも、そんなに笑わなくても。」 佐倉暁:「だって、夕陽さん、普段は、完璧っていうか、なんでも出来そうなのに……アッハハハ!」 日向彼方:「深刻そうにカミングアウトするのが、また……ンフフ」 佐倉夕陽:「恥ずかしいなあ、もう。」 0:暁、夕陽の楽しそうな声をバック(小さめ)に語り 日向彼方:(語り)「ああ、いいな。家族と、大切な誰かと、こうして食卓を囲んで、くだらないことで笑って。あいつは、暁は、俺にないものをたくさん持ってる。だから、俺とは違って、幸せなんだって、そう思っていた。あいつがいなくなる前までは。」 0:暁、夕陽の笑い声、少し大きくなってエコー : 0:■場面4「佐倉夕陽という人物」 登場*彼方・暁=17歳、夕陽=27歳、モブ男性(兼男子生徒1〜3)、モブ女性(兼女子生徒2) 日向彼方:(語り)「はじめは、勘違いだと思った。兄という存在に憧れていたから。高校生から見て社会人はとても大人に見えたから。だから、この憧れを、恋と錯覚しているんだ、と。」 0:一年後 : 0:暁、夕陽、学校の休み時間に廊下で立ち話 : 0:(SE)チャイム。足音。生徒たちの声「ご飯行こー」「やっと昼休みー」 日向彼方:「(ー小さな独り言)はあ……お腹すいた。」 モブ男性:(男子生徒1)「日向(ひなた)ー、待って待って。」 日向彼方:「な……何。」 モブ男性:(男子生徒1)「日向(ひなた)さあ。」 日向彼方:「『ひむかい』です。」 モブ男性:(男子生徒1)「え、ああ、ごめん。日向か。これ、さっきのクラス投票。文化祭でやりたい出し物、お前、書いてないだろ。」 日向彼方:「あ、ああ……」 モブ男性:(男子生徒1)「やっぱりな。ほら、書いてー。「自作ビデオ上映」と「お化け屋敷」が同票で、さ。日向が書いたら、どっちやるかが決まるんだよ。」 日向彼方:「え……。ほ、他の人は。」 モブ男性:(男子生徒1)「だから、書いてないの、お前だけなんだって。」 日向彼方:「なんでもいいよ。……えっと、文化祭委員で、決めて。」 モブ男性:(男子生徒1)「いや、一応、クラスのみんなで投票って、話だから。俺らが決めたら、いろいろ言われるだろ? な? 頼むよ。」 日向彼方:「ええ……」 佐倉暁:「俺、お化け屋敷!」 日向彼方:「わっ。」 モブ男性:(男子生徒1)「佐倉、お前はクラス違えんだから、関係ねーよ。」 佐倉暁:「絶対、お化け屋敷の方が、楽しいって! 毎年人気だし。広い教室使えるんだぜ? 良くね? なー?」 モブ男性:(男子生徒1)「ま、まあ。」 日向彼方:「そこ?」 佐倉暁:「なんか、特別感あるじゃん!」 日向彼方:「はあ。暁のクラスは?」 佐倉暁:「俺んとこは、劇すんの。さっき決まったー。」 日向彼方:「演劇? それって三年しかできないんじゃないの。」 佐倉暁:「いいや、二年の俺らでもできるよ。体育館の舞台は、使わせてもらえないらしいけどな。」 日向彼方:「へえ。」 佐倉暁:「で、どうすんの?」 日向彼方:「あ、ああ。じ、じゃあ、お化け屋敷で。」 モブ男性:(男子生徒1)「お、おっけ……。」 佐倉暁:「よーし。彼方、放課後は?」 日向彼方:「課題やってる、かな。多分。」 佐倉暁:「おお。じゃ、一緒に帰ろうぜ。俺、部活終わったら、連絡するわ。」 日向彼方:「分かった。」 モブ男性:(男子生徒1)「……佐倉と日向って知り合いだったんだ。」 佐倉暁:「ん? そうだけど。」 モブ男性:(男子生徒1)「意外だな……。幼馴染、とか?」 佐倉暁:「いや。高校から。」 モブ男性:(男子生徒1)「へえ……。」 佐倉暁:「なんだよ。」 モブ男性:(男子生徒1)「い、いや、別に。」 モブ男性:(男子生徒2)「暁ー。食堂行くぞー。」 モブ男性:(男子生徒3)「早くしろー。カツカレー売り切れんぞー。」 佐倉暁:「今行くー! じゃ、また後で。」 日向彼方:「ん。」 モブ男性:(男子生徒1):「はあ……珍しいこともあるもんだな……」 0:暁、夕陽、学校の帰り道 : 0:(SE)カラスの声、二人の足音 日向彼方:「最初はグー、ジェンケン……」 佐倉暁:「ほい!」 日向彼方:「勝った。」 佐倉暁:「じゃ、今日は彼方の家なー。」 日向彼方:「んー。」 佐倉暁:「久々だなー。一緒に帰んのも、お前ん家行くのも。」 日向彼方:「って言っても1週間くらいでしょ。」 佐倉暁:「でも、1年の頃は毎日行ってたんだし。」 日向彼方:「部活、忙しいんだっけ。」 佐倉暁:「大会、近いからな。」 日向彼方:「帰って休まなくていいの?」 佐倉暁:「別にー。全然オッケー。」 日向彼方:「体力すごいな。」 佐倉暁:「っへへ。っま、これでもキャプテン候補ですから。」 日向彼方:「お、そうなの? すごいじゃん。」 佐倉暁:「コーチにさ、お前には期待してるからな、って言われてんだ。俺、まじで、3年になったらキャプテンになるから。今よりもっと、強いチームにして、もっと練習して……」 日向彼方:「すごいなあ。」 佐倉暁:「へへ、かっこいいだろ。」 日向彼方:「うん。」 佐倉暁:「へ……ま、真顔で言うなよ。」 日向彼方:「ほんとに思ってるから。」 佐倉暁:「……まじ?」 日向彼方:「僕には到底できないよ。」 モブ女性:(女子生徒2)「佐倉先輩……!」 日向彼方:「……?」 モブ女性:(女子生徒2)「あ、お、お疲れ様です!」 佐倉暁:「ああ、お疲れ! どうしたの?」 モブ女性:(女子生徒2)「こ、コーチから、そ、その、伝言があって……」 佐倉暁:「あ、もしかして、俺のこと走って追いかけてくれた?」 モブ女性:(女子生徒2)「あ、まあ……」 佐倉暁:「ごめん! 部活終わって早々帰っちゃって。それで、何かな。」 モブ女性:(女子生徒2)「あ、あの……」 日向彼方:「俺、コンビニ入ってる。」 佐倉暁:「え? ああ、おけ。」 モブ女性:(女子生徒2)「すいません……。」 佐倉暁:「……?」 モブ女性:(女子生徒2)「あ、あの、ごめんなさい! コーチの伝言っていうのは、嘘で、その……さ、佐倉先輩に、あの、話したいことがあって、その……」 佐倉暁:「部活の話じゃなくて?」 モブ女性:(女子生徒2)「あ、はい……すいません、嘘ついて。」 佐倉暁:「うん。」 モブ女性:(女子生徒2)「あの、私、サッカー部に入った時から、その、さ、佐倉先輩のことが、好き……です。」 佐倉暁:「え……」 モブ女性:(女子生徒2)「だから、その、せ、先輩がよければ、その、部活以外のところで、お話したいと、思ってて、その、オフの日に、私と二人で遊びにいったりしてくれ、ませんか……?」 佐倉暁:「ああ……」 モブ女性:(女子生徒2)「……」 佐倉暁:「……つまり、付き合いたいってこと?」 モブ女性:(女子生徒2)「……つ、付き合うのは、まだ、考えなくてもいいです、その、一度二人で会いたいというか……」 佐倉暁:「……ごめん。それは……。」 モブ女性:(女子生徒2)「遊びに行くだけでも、ですか……。れ、連絡先だけ、でも……」 佐倉暁:「……。」 モブ女性:(女子生徒2)「(ー半泣き)うぅ……あ、ご、ごめんなさい。」 佐倉暁:「いや……ごめん。ありがとう。」 モブ女性:(女子生徒2)「か、彼女、本当はいるんですか?」 佐倉暁:「え?」 モブ女性:(女子生徒2)「噂では、いないって言ってたから……」 佐倉暁:「あ、いや、彼女はいないけど……」 モブ女性:(女子生徒2)「じゃ、じゃあ、どうして会うのも、だめなん、ですか……。」 佐倉暁:「だ、だめっていうか……」 モブ女性:(女子生徒2)「……。」 佐倉暁:「俺、好きな人がいるんだ。」 モブ女性:(女子生徒2)「……羨ましい。」 佐倉暁:「え?」 モブ女性:(女子生徒2)「ごめんなさい、なんでもないです。しつこく言って引き止めて、すいませんでした。」 佐倉暁:「いや、大丈夫。」 モブ女性:(女子生徒2)「……失礼します。」 佐倉暁:「気をつけて帰って。」 モブ女性:(女子生徒2)「ありがとうございます……では。」 佐倉暁:「……」 0:(SE)コンビニ内の音 日向彼方:「(ー独り言)『新登場、濃厚抹茶ミルクグミ』。美味しいのか?」 佐倉暁:「彼方。」 日向彼方:「んー?」 佐倉暁:「待たせてごめん。」 佐倉暁:「いいよ。お菓子でも買っていく?」 佐倉暁:「いや、いい。帰ろう。」 日向彼方:「あ、そう。じゃあ、ジュースは?」 佐倉暁:「いらない。」 日向彼方:「僕の家、なんもないけど?」 佐倉暁:「いい。」 日向彼方:「そう。」 佐倉暁:「……俺、さっき告られた。部活のマネージャーから。」 日向彼方:「へえ、すごい、ね。」 佐倉暁:「はは。だろ。」 日向彼方:「この前は先輩に告白されてなかった?」 佐倉暁:「……そうだったかな、覚えてないわ。」 日向彼方:「ええ。モテる男は違うね。」 佐倉暁:「断ったよ。」 日向彼方:「へえ、なんで?」 佐倉暁:「……なんでって。」 日向彼方:「あ、別に、いいんだけどさ。」 佐倉暁:「……そっか。ほら、いくぞ。(ー手を掴む)」 日向彼方:「いっ……ちょっと、なに?」 佐倉暁:「……」 0:(SE)自動ドアが開く音 : 0:二人とも早足の息遣いで 日向彼方:「ちょっと、なんでそんなに急いでんの。」 佐倉暁:「ん? さあ? なんか、むしゃくしゃしてさ。」 日向彼方:「……なんで?」 佐倉暁:「(ー間髪入れずに)なんでだと思う?(ー立ち止まって至近距離で睨む)」 日向彼方:「っ……!」 佐倉暁:「っ……俺はさ……!」 日向彼方:「……」 佐倉暁:「ずっとお前に……」 日向彼方:「ちょ……暁……腕、痛いんだけど。」 佐倉暁:「はっ……! ご、ごめん! ごめん……。ちが……これは……彼方、ごめん。い、痛かった?」 日向彼方:「った……力強いよ、はは。」 佐倉暁:「ごめん。」 日向彼方:「本当にどうしたの?」 佐倉暁:「いや……。」 日向彼方:「やっぱり疲れてんじゃない。」 佐倉暁:「そう、かも。疲れてるかも、俺。」 日向彼方:「え……。あ、そう。」 佐倉暁:「帰るわ。」 日向彼方:「う、うん。まあ、無理しないほうがいいよ。明日も部活でしょ。」 佐倉暁:「おう。じゃ、また。悪かった、本当に。」 日向彼方:「いや、うん。また明日……。」 0:(SE)走り去る足音 日向彼方:(語り)「このとき彼の違和感に気づいていたら? いや、気づいていていて何もしなかった。あの言葉の続きを聞いていたら? いや、彼は今よりひどい目に遭っていたかもしれない。俺が彼を助けられた? いや、彼も俺たちも救われなかった。」 0:暁、帰宅 佐倉暁:「(ー走った後の息遣い)はあ……はあ……。くそ……。」 佐倉夕陽:「おかえり。」 佐倉暁:「は……ゆ、夕陽さん。か、帰ってたんだ……」 佐倉夕陽:「……。」 佐倉暁:「ゆ、夕飯は? 食べた? 俺は今から……」 佐倉夕陽:「今日は、彼方くんの家には行かないの?」 佐倉暁:「……あ、うん、まあ。」 佐倉夕陽:「そう……。何かあった?」 佐倉暁:「いや、別に。」 佐倉夕陽:「彼方くんと、喧嘩でもした?」 佐倉暁:「え……ち、違うよ。毎日会ってるわけでもないし。」 佐倉夕陽:「……」 佐倉暁:「ほんと、なんでもないって。」 佐倉夕陽:「彼方くんに何かしたの?」 佐倉暁:「……」 佐倉夕陽:「それとも、何かしようとした……とか。」 佐倉暁:「っ……お、俺、飯作ってくる。(ー夕陽の隣を通り過ぎる)」 佐倉夕陽:「暁。」 佐倉暁:「……。(ー背を向けたまま立ち止まる)」 佐倉夕陽:「悩みがあるなら、兄さんに相談しなさい。」 佐倉暁:「なんでもないよ。」 佐倉夕陽:「僕に気をつかってる?」 佐倉暁:「……。」 佐倉夕陽:「僕じゃ頼りない?」 佐倉暁:「そ、そうじゃなくて。」 佐倉夕陽:「兄さんには相談しづらいことかな。」 佐倉暁:「ち、違う……ほんと、なんでもないから……!」 佐倉夕陽:「(ー暁の後ろから肩に手をかける)暁。」 佐倉暁:「な……。」 佐倉夕陽:「無理してるんだね。暁は優しいから。兄さんには分かるよ? 大丈夫、兄さんに話してごらん。」 佐倉暁:「夕陽さん、俺、汗臭いから。」 佐倉夕陽:「何言ってるんだ今更。『きょうだい』なんだから気にしなくていい。暁は兄さんがこうしてやると、いつも……」 佐倉暁:「子供の頃の話だろ。(ー暁の手を払い除ける)」 佐倉夕陽:「……そう、だね。」 佐倉暁:「あ……ごめん、夕陽さん。俺、疲れてて、なんか、むしゃくしゃしてるんだ。だから、その、一人にして欲しい。」 佐倉夕陽:「……わかった。」 佐倉暁:「ほんと、ごめん。」 佐倉夕陽:「ううん。」 佐倉暁:「……(ーその場を去る)」 佐倉夕陽:「へえ……」 0:(SE)スマホの操作音、電話をかける音、電話に出る音 : 0:彼方、自宅にて 日向彼方:「……ん? えっ、夕陽くんから? も、もしもし……」 0:以下、夕陽の声は電話口から聞こえる 佐倉夕陽:「あ、もしもし? 夕陽です。」 日向彼方:「ゆ、夕陽くん、こ、こんにちは。」 佐倉夕陽:「こんにちは、彼方くん。今、大丈夫かな。」 日向彼方:「はい。」 佐倉夕陽:「ほんと? よかった。」 日向彼方:「ど、どうしたんですか。」 佐倉夕陽:「ちょっと暁のことで聞きたいことがあって……今家に帰ってきてちょうど顔を合わせたんだけど、どうも元気がなくてね。彼方くん、何か知ってるかなって。こんなこと、わざわざ電話してごめんね。」 日向彼方:「え、いや、全然。僕もさっき一緒に帰ってて、ちょっと様子が変だな、というか。疲れてるのかなって。」 佐倉夕陽:「彼方くんは、原因が何だか分かる?」 日向彼方:「原因ですか……。」 佐倉夕陽:「帰り道に何かあったとか。」 日向彼方:「うーん、帰り道、あ……そういえば、告白、されてました。えっと、サッカー部の子に。」 佐倉夕陽:「……サッカー部の?」 日向彼方:「えっと、マネージャーさん、だと思います。女子に告白されてるのは何度か見たことあるんですけど。」 0:以下、彼方の声は電話口から聞こえる 佐倉夕陽:「(ー素で)……へえ。」 日向彼方:「って、原因とは関係ないですよね。断ったみたいですけど、別に告白自体、嫌なことでもないだろうし。」 佐倉夕陽:「ふ……(ー気を取り戻して)そうだね。」 日向彼方:「あいつ、結構部活で忙しくしてるみたいですから。コーチからの期待とかプレッシャーとか……それが原因ですかね。」 佐倉夕陽:「ああ……(ー大袈裟に)なるほどね。」 日向彼方:「あっ、明日また様子見ときます。多分、すぐ元気になると思うし。」 佐倉夕陽:「そう。ありがとうね、彼方くん。」 日向彼方:「いえ。」 0:以下、夕陽の声は電話口から聞こえる 佐倉夕陽:「やっぱり、彼方くんに相談してよかった。」 日向彼方:「はは。夕陽くんは、その、や、優しい、ですね。弟思いというか。」 佐倉夕陽:「そうかな? 歳が離れてるから、放って置けないというか。甘やかしたくなるっていうか。暁にはうっとうしいと思われてるだろうけど。」 日向彼方:「え、全然そんなことないと思いますよ! そんなふうに心配してくれるなんて、すごく……」 佐倉夕陽:「ふふ、彼方くんはいい子だね。」 日向彼方:「ほ、本当ですよ。(ー小声で)……ほんと、羨ましい、です。」 佐倉夕陽:「ん?」 日向彼方:「いえ、なんでもないです。あ、もし、また暁に何かあったら、その、僕でよければ……。」 佐倉夕陽:「ほんと? ありがとう。これからも、弟をよろしくね。」 日向彼方:「はい。」 佐倉夕陽:「今日は彼方くんと話せてよかったよ。」 日向彼方:「えっ、ぼ、僕も、です……」 佐倉夕陽:「また家に遊びに来てね。今度来たときに会えたら、もう一度彼方くんのつくったスイーツ、食べたいな。」 日向彼方:「あ、あれは……はは、簡単なものですし。暁がつくった方が上手いですよ、きっと。」 佐倉夕陽:「二人とも、僕よりは上手だよ?」 日向彼方:「えっ……ふふ。」 佐倉夕陽:「あ、また笑ったな?」 日向彼方:「ち、違います!」 佐倉夕陽:「もう……はは。おっと、長話しちゃった。ごめんね。」 日向彼方:「いえ! た、楽しいです、し。」 佐倉夕陽:「あはは、こんなおじさんと話してて楽しい?」 日向彼方:「なっ、おじさんだなんて、そんな! 夕陽くんはまだ、若い、です。」 佐倉夕陽:「高校生からしたら、おじさんだよ。」 日向彼方:「いや、本当に夕陽くんは、その、僕からしたら、大人だけど、すごく、か……かっこいいと思います。」 佐倉夕陽:「え?」 日向彼方:「あ、いや! す、すいません! ちが……その、こ、こんなお兄さんがいたらいいなあって……。」 佐倉夕陽:「はは、ほんとに彼方くんは優しいんだね。はあ。なんだか、僕が元気付けられちゃった。ありがと。」 日向彼方:「そんな。僕でよければ、また、い、いつでも。」 佐倉夕陽:「うん、ありがとう。あ、そうだ。」 0:以下、彼方の声は電話口から聞こえる 日向彼方:「はい?」 佐倉夕陽:「彼方くんに電話かけたこと、暁には秘密にしてくれる?」 日向彼方:「……あ、ああ、はい! わかりました。」 佐倉夕陽:「ありがとう。じゃ、またね、彼方くん。」 日向彼方:「はい……!」 0:(SE)電話の切れる音 : 0:彼方、自宅にて 日向彼方:「はあ……夕陽くん。」 0:■場面5「日常の終焉」 登場*彼方・暁=18歳、モブ女性(兼女子生徒1)(夕陽は最後の一言のみ) : 0:一年後 : 0:(SE)生徒達の声「卒業おめでとー」「はい、撮るよー」など 佐倉暁:「彼方ー。」 日向彼方:「ああ、暁。」 佐倉暁:「良かった、帰ってなくて。」 日向彼方:「暁が帰るなって言ったんでしょ。」 佐倉暁:「はは。だって一緒に帰るのもこれで最後だろ?」 日向彼方:「……って、お前。」 佐倉暁:「ん?」 日向彼方:「制服のボタンが……。」 佐倉暁:「ああ、これね。気づいたら、全部なかったわ。」 日向彼方:「ほんとにあるんだ、そんなこと。」 佐倉暁:「それより、見てみて。ジャーン! 皆勤賞! 式のとき、俺が表彰されてたの見てた? ほら、なんか高そうなペンも、もらった。」 日向彼方:「おお。」 佐倉暁:「彼方は?」 日向彼方:「僕ももらったよ。腕時計。」 佐倉暁:「え?! うわっ! めっちゃかっけえー! っかー! やっぱ首席ともなると賞品の格が違うな!」 日向彼方:「へへ。」 佐倉暁:「すげえよ、ほんと。」 日向彼方:「暁もね。」 佐倉暁:「まあ、頭はあれだけど、体には自信あるからな!」 日向彼方:「それだけじゃなくて、部活も。3年間よくやったよ。」 佐倉暁:「お、おう。」 日向彼方:「お疲れ。」 佐倉暁:「ありがとな。」 日向彼方:「ま、帰宅部の僕が言えることじゃないか。」 佐倉暁:「そんなことない。俺、彼方に言われんのが一番嬉しいわ。」 日向彼方:「なんでよ。」 佐倉暁:「そりゃあ……高校生活では一番一緒にいたからな!」 日向彼方:「まあ、毎日のようにお互いの家に行ってたらね。」 佐倉暁:「はは……それに俺は……」 モブ女性:(女子生徒1)「あの!」 佐倉暁:「ん?」 モブ女性:(女子生徒1)「ちょっと、いいですか?」 日向彼方:「あ……」 佐倉暁:「どうしたの……」 モブ女性:(女子生徒1)「日向先輩!」 日向彼方:「えっ……ぼ、僕?」 佐倉暁:「(ー小声で)おっと……」 モブ女性:(女子生徒1)「あの、急にこんなこと、迷惑かもしれないんですけど、その、ずっとずっと……好きでした!」 日向彼方:「え?」 モブ女性:(女子生徒1)「驚くのはわかります! でも、その、ほんとに、1年の頃から、好きでした。最後だから、れ、連絡先だけでも交換してくれませんか!」 日向彼方:「え? えっと……」 モブ女性:(女子生徒1)「お願いします!」 日向彼方:「あ、えー……なんで、僕……?」 モブ女性:(女子生徒1)「……も、もしかして、彼女、いますか?」 日向彼方:「い、いないけど。」 モブ女性:(女子生徒1)「あっ、じゃあ……好きな人が……(ー泣きそうになる)」 日向彼方:「え、ちょっと……ちが、あ、連絡、先、か、えっと、スマホ……」 佐倉暁:「……。」 モブ女性:(女子生徒1)「(ーだんだん半泣き)交換してくれるんですか!」 日向彼方:「へ? そうじゃないの?」 モブ女性:(女子生徒1)「そうです!」 日向彼方:「はい、ど、どうぞ」 モブ女性:(女子生徒1)「ありがとうございます! 嬉しいです! あ、私だけごめんなさい。突然話しかけちゃって、意味わかんないですよね。」 日向彼方:「ああ、いや、うん、まあ。」 モブ女性:(女子生徒1)「また連絡しますね!」 日向彼方:「はい、あ、うん。」 モブ女性:(女子生徒1)「卒業、おめでとうございますっ!」 日向彼方:「ど、どうも……。」 日向彼方:「では!」 日向彼方:「え、で、では……。」 0:(SE)走り去る足音 : 0:(SE)学生たちの騒がしい声フェイドアウト後 日向彼方:「……あれ?」 佐倉暁:「ったく……。」 日向彼方:「え……。こ、告白……だよね、これ。は、はじめてされた……」 佐倉暁:「まじで?」 日向彼方:「うん。」 佐倉暁:「へえ……。」 日向彼方:「でも、なんか、何が起こったのか、分からん、だった。」 佐倉暁:「はは。」 日向彼方:「なんといういうか……僕が状況を理解する前に、行っちゃった。連絡先渡しただけ、だけど。そっけなかったかな。」 佐倉暁:「……別に、彼方が悪く思う必要ないだろ。」 日向彼方:「う、うん。暁は、こんなことを何度も経験してたのか、すごいな。」 佐倉暁:「すごくない、すごくない。」 日向彼方:「もっと、スマートにやりたかった。」 佐倉暁:「なんとも思ってないのに、気を使われる方が、向こうにとっては辛い、かもよ。」 日向彼方:「ま、まあ……。」 佐倉暁:「(ー優しいため息)はあ……。帰るぞ。」 日向彼方:「お、おう。」 0:(SE)二人の足音 佐倉暁:「桜。綺麗だなー。」 日向彼方:「うん。」 佐倉暁:「はあーあ。卒業かあ。」 日向彼方:「卒業したねえ」 佐倉暁:「あんま、実感ないなあ。」 日向彼方:「たしかに。」 佐倉暁:「この通学路も、もう通らなくなるのかー。」 日向彼方:「うん……(ーふざけてしんみりと)暁の家に行くのも……これで最後かあ。」 佐倉暁:「ええっ?!」 日向彼方:「うそうそ。」 佐倉暁:「ちょ、びっくりした! やめろよー!」 日向彼方:「そんな驚かないでよ。冗談。」 佐倉暁:「ったくー。しんみりすんなって。」 日向彼方:「大学行っても、なんだかんだ集まるんじゃない。家近いんだし。」 佐倉暁:「そうだなー。でも、彼方はちゃんと俺以外にも友達つくれよ?」 日向彼方:「わかってるよ。ていうか、高校にも友達はいました。」 佐倉暁:「はは、そっか。」 日向彼方:「じゃ、今日もジャンケンしますか。」 佐倉暁:「帰り道のジャンケンもこれで最後かー。」 日向彼方:「しんみりしてるじゃん。」 佐倉暁:「毎日のようにお互いの家に行ってさあ。お互い共働きだから気楽だったし。もうこの日課がなくなるんだなと思うと、やっぱ寂しいじゃん。」 日向彼方:「まあね。ほんと、ありがとね。」 佐倉暁:「ちょ……改まるなよお。」 日向彼方:「最初はグー、ジェンケン、ホイ」 佐倉暁:「お、じゃあ俺ん家な。」 日向彼方:「おっけ。」 佐倉暁:「あ……。な、なあ。」 日向彼方:「ん?」 佐倉暁:「今日も、夜までいる、よな?」 日向彼方:「いや。夜は打ち上げあるし。暁のクラスもやるでしょ。」 佐倉暁:「あ、ああ……。そうだった。」 日向彼方:「早めに帰るから、安心して。」 佐倉暁:「あ、いや……」 日向彼方:「ん?」 佐倉暁:「な、なんでもない。……ああ、そうだ! 帰ったら、これ、見よう、アルバム。」 日向彼方:「ああ、うん。……?」 0:彼方、暁、暁の部屋にて、卒業アルバムを見る。 : 0:(SE)以下、タイミング良いところでページめくり 佐倉暁:「あー! うわっ。これ、懐かしいー!」 日向彼方:「暁が、まだ俺と同じぐらいの身長だ。」 佐倉暁:「だな。」 日向彼方:「伸びたね。」 佐倉暁:「こっちは……二年の体育祭んとき、か。おー! これ、俺めっちゃかっこよく写ってる!」 日向彼方:「うん、すごい……カメラマン。」 佐倉暁:「おいっ!」 日向彼方:「はは。ああ、この先生、懐かしい。えっと……」 佐倉暁:「藤先生な。怖かったなー。短髪のおばさん先生は怒ると怖い、って相場が決まってるからな。」 日向彼方:「偏見だよ。」 佐倉暁:「でも、俺は嫌いじゃなかった。」 佐倉暁:「ま、良い先生だったよね。」 日向彼方:「うん。お、これは?」 佐倉暁:「ああ! 朝倉先生! 俺、この先生も好きだったわ。」 日向彼方:「誰?」 佐倉暁:「あれ? 彼方は知らないか。 物理の先生。」 日向彼方:「ああ、知らないわ。僕、生物だし。」 佐倉暁:「結局俺らさ、1年のときしか、同じクラスじゃなかったよなー。」 日向彼方:「まあね。」 佐倉暁:「お、これは……」 日向彼方:「ああ、修学旅行の余興ね。」 佐倉暁:「うっわ……」 日向彼方:「ふふ。そういえば、暁、ステージの上で告白されてたね。」 佐倉暁:「ああー! もう! これ、マジで、ずっとイジられるのかよおー! あの後、ほんと大変だったんだからなー?」 日向彼方:「はは。」 佐倉暁:「笑い事じゃねーって! 次の日も呼び出されて、さ。ごめん、ってフったら、その場で泣き出されるわ、その子の友達からフリ方が雑い、って総攻撃くらうわで、もう……」 日向彼方:「同窓会のいいネタだね。」 佐倉暁:「勘弁してくれー!」 日向彼方:「はは。」 佐倉暁:「サッカー部の奴らにも散々言われたし、何故か他校の奴らにも噂が広まってて、もう……」 日向彼方:「あ、そういや、今日は部活の人たちと集まらなくて良かったの?」 佐倉暁:「ああ、いいの、いいの。」 日向彼方:「部長なのに。」 佐倉暁:「いいんだって。アイツらとは、しょっちゅう一緒にいたし、嫌でもまた集まるよ。」 日向彼方:「そ。」 佐倉暁:「それに……家来るの久々じゃん、彼方。」 0:(SE)暁のスマホ、着信音 佐倉暁:「おっ。」 日向彼方:「ん? 電話?」 佐倉暁:「あ……」 日向彼方:「……? どした?」 佐倉暁:「ああ、いや……。夕陽さんだわ。」 日向彼方:「え、夕陽くん?」 佐倉暁:「うん。今日、こっちに帰ってくるんだよ。」 日向彼方:「えっ。いつ? 何時くらい?」 佐倉暁:「そろそろ、かな……。」 日向彼方:「へえー。そうなんだ。」 佐倉暁:「ちょっと電話してくる。(ー暁、立ち上がって部屋を出る)」 日向彼方:「ほーい。(ー声が漏れる)ラッキー。」 佐倉暁:「(ー少しためらう)……。もしもし。」 日向彼方:(語り)「じわじわと押し寄せてくるような違和感は確かにあった。でもまさか、この日が、暁と会う最後の日になるとは、思ってもいなかった。」 0:(SE)ドアガチャ 日向彼方:「お。夕陽くん、なんて?」 佐倉暁:「ああ……。そ、卒業のお祝いに好きなもの買ってやるー、だってさ!」 日向彼方:「へえ。」 佐倉暁:「いやー、持つべきものは兄だねー、つって……はは。」 日向彼方:「いいなあ。」 佐倉暁:「はは……。」 日向彼方:「何、お願いしたの?」 佐倉暁:「……。」 日向彼方:「暁?」 佐倉暁:「へっ? あ、ああ、えっと……と、時計! 彼方のやつ見て、俺も、欲しくなってさ! かっこいいやつ!」 日向彼方:「ふうん。今から買いに行ってくれるの?」 佐倉暁:「ちょっと、贅沢なお願いだったかなー、はは。」 日向彼方:「夕陽くんなら、きっと良いやつ買ってくれるよ。いいな……」 佐倉暁:「だからさっ!」 日向彼方:「ん?」 佐倉暁:「あ、いや、だから……。今日は、もう少し……いろよ。……な?」 日向彼方:「おう……?」 佐倉暁:「サンキュ。」 日向彼方:「うん。」 佐倉暁:「……。」 日向彼方:「もしできたら、今度また、夕陽くんと三人で……」 佐倉暁:「(ー言い終わる前に)彼方は、大学行ったら、何すんの?」 日向彼方:「え?」 佐倉暁:「勉強のことじゃなくて。大学生は時間あるって言うじゃん。」 日向彼方:「ああ、まあね。」 佐倉暁:「やりたいこと、沢山あるだろ? 彼方は今までずっと勉強漬けだったわけだし!」 日向彼方:「や、やりたいこと?」 佐倉暁:「おう! あー、ほら。海外に行く、とか、サークルに入る、とか。」 日向彼方:「んー……。」 佐倉暁:「俺は、いっぱいあるぞー! 自転車で離島一周旅行とか、車の免許とって全国ラーメン巡りとか!」 日向彼方:「全部ハードすぎ。」 佐倉暁:「ええー、いいじゃん。彼方も一緒に行こー?」 日向彼方:「ええ。そうだな……あ。でも、あれは、見たい。」 佐倉暁:「何!」 日向彼方:「日の出。高い山から見る。」 佐倉暁:「日の出?」 日向彼方:「うん。この間、テレビで見たんだ。」 佐倉暁:「ご来光ってこと?」 日向彼方:「そうそう。日が出る前はさ、当たり前だけど、ほんとに真っ暗で、山だから、すごく寒そうで。怖いとか不安、っていうよりか……寂しいって、テレビの人は言ってた。」 佐倉暁:「へえ。」 日向彼方:「もう一生、太陽が見られなくなるんじゃないか、って思うんだって。すごく寒いし、先が見えない。でもさ、だんだん明るくなって、朝でも夜でもない、空が不思議な色に染まっていって、そんでさ、目が痛くなるくらいの光が……」 佐倉暁:「……ふふ。」 日向彼方:「何。」 佐倉暁:「いや……。」 日向彼方:「なんだよ。」 佐倉暁:「大学生っぽくねー、と思って。」 日向彼方:「わ、悪かったな。……お前が言えって言うから。」 佐倉暁:「ごめん、ごめん。はは。……でも、彼方らしいわ。」 日向彼方:「なんだよ、それ。」 佐倉暁:「……彼方。」 日向彼方:「ん?」 佐倉暁:「……ずっと……俺と、仲良くしてくれ、な! 卒業しても!」 日向彼方:「……改まるなよ。」 佐倉暁:「はは。今日はおセンチな日なんだよ。」 日向彼方:「おセンチって。」 佐倉暁:「あ、そうだ! 今日、日の出見に行くか!」 日向彼方:「今日?」 佐倉暁:「あー。日の出なら、正確には、明日?」 日向彼方:「暁は興味ないんだろ?」 佐倉暁:「興味ないことないって!。」 日向彼方:「(ー否定の意)いいよ、無理しなくて。一人で行くし。」 佐倉暁:「なんでだよー無理してねえって! あー、ほら、さっき言ってたじゃん。日の出見る前は寂しくなるって。二人で見ればそうはならないだろ。」 日向彼方:「……まあ。」 佐倉暁:「あとで滝の山駅に集合しよ! 朝の5時、6時くらい? まあ、テレビみたいな光景は無理かもしれないけど……きっと綺麗だよ。今日は天気もいいし!」 日向彼方:「そうだね。」 佐倉暁:「よし。決まりな!」 日向彼方:「うん。」 佐倉暁:「……ありがとう。」 日向彼方:「付き合ってもらってんのは、こっちだよ。ありがと。」 佐倉暁:「ううん。俺も見てみたい。ま、俺のラーメン巡りにも付き合ってもらうけど、な?」 日向彼方:「ええっ?」 佐倉暁:「はは!」 日向彼方:(語り)「翌朝、いくら待っても、暁が待ち合わせ場所に来ることはなかった。」 0:数年後、夕陽の自宅にて 日向彼方:「こんにちは。」 佐倉夕陽:「いらっしゃい、待ってたよ。」 0:■場面6へ続く