台本概要

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タイトル 私のさいごのお客様
作者名 野菜  (@irodlinatuyasai)
ジャンル ホラー
演者人数 5人用台本(男2、女2、不問1)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 オカルトホラー5人劇。
深夜、急いで乗り込んだ電車(と乗客たち)は、どうも様子がおかしいようで・・・?
キャラは性別の表記が便宜上ありますが、役者様の性別は問いません。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
信也 87 神田信也(かんだしんや)。運動馬鹿で好奇心旺盛。覚えたことは三日で忘れる。時々血を吐く。喀血(血を吐く)系男子。まだ生きてる。
たくと 94 藤森拓斗(ふじもりたくと)。勉強はできるが人生とか社会とか未来を諦めている。信也の上京してからの友人。事故死。
みどり 76 中嶋水鳥(なかじまみどり)。明るく、子供っぽさの残る少女。…………に、なりたかった。自殺。
めぐみ 65 石井恵(いしいめぐみ)。「電車」に騙されて怨霊化した人々の代表として侵入。レッツ復讐。もちろん怨霊。
車掌 不問 72 頭に怪我をした車掌さん。「電車」の怪異の核にあたる。美人で好印象に見える。仕事を長くしてきたせいか生きがいが歪んでいる。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:『私のさいごのお客様』  野菜  :   :  信也:神田信也(かんだしんや)。運動馬鹿で好奇心旺盛。覚えたことは三日で忘れる。時々血を吐く。喀血(血を吐く)系男子。まだ生きてる。 たくと:藤森拓斗(ふじもりたくと)。勉強はできるが人生とか社会とか未来を諦めている。信也の上京してからの友人。事故死。 みどり:中嶋水鳥(なかじまみどり)。明るく、子供っぽさの残る少女。…………に、なりたかった。自殺。 めぐみ:石井恵(いしいめぐみ)。「電車」に騙されて怨霊化した人々の代表として侵入。レッツ復讐。もちろん怨霊。 車掌:頭に怪我をした車掌さん。「電車」の怪異の核にあたる。美人で好印象に見える。仕事を長くしてきたせいか生きがいが歪んでいる。  :   :  0:本編開始  :   :  0:きれいな地下鉄電車内部、電車は動いていない。 車掌:お客様には、ご迷惑をおかけしております。車両点検が済み次第、再びご連絡ののち、発車いたします。 信也:これは電車です。ちかてーつ。 たくと:うん。 信也:でぃす、いず、あ、でんしゃ。 たくと:眠くてもせめてトレインくらいはしぼりだせ。 信也:しりとりしよ? たくと:ようかん。 信也:…………電車、動かないな。 たくと:次にそれ言ったら負けって言ったの、おまえだろ。 信也:あっ。 たくと:…………もう、動かなかったりして、な。 信也:さすがに朝になりゃ復旧するって! たくと:……朝が、来るならな。 信也:あけない夜は、…………なんだっけ。 たくと:あと二文字だったのにな、ほんとおまえは。 信也:そういや、なんでこんな終電に乗ることになったんだっけ。 たくと:思い出せないんなら別にいいんじゃないか。 信也:そうだよな!帰れりゃいいよな!  :  0:みどりがめぐみの手を引いてやってくる。  :  みどり:どーもー。お兄さんたち、知り合い~? たくと:ええ。お二人はお友達ですか。 みどり:さっき隣に座ってたから! 信也:たくと。 たくと:なに。 信也:女子って、初対面で恋人つなぎすんの? たくと:知ってる範囲ではしない。 みどり:私はみどり!よろしくね!それで、こっちがめぐちゃん。 めぐみ:…………めぐみです。どうも。 信也:俺は神田信也(かんだしんや)。 たくと:あー、俺もたくとでいいですよ。 みどり:ねー!めっちゃ暇じゃない!?事故?点検?はしょうがないけどさー。ねね、なんかして暇つぶさない? たくと:それは良いと思いますけど……スマホとか財布くらいしか持っていないですよ、俺たち。 信也:確かにろくなもの持ってないし、スマホは圏外だし。 みどり:それなー!スマホ使えないのほんとありえない!……めぐちゃんトランプとか持ってない? めぐみ:どうして持ってると思うの…………? たくと:…………めぐみさん、荷物は? めぐみ:家庭の事情で家出したままよ。着の身着のまま。 たくと:…………なんか、すみません。 めぐみ:昔のことよ。 みどり:あ、そうそう私ね!すごいことに気づいちゃったの! 信也:なんだよ、田舎の電車が数時間に一本とか? みどり:ええ!? 信也:なんかシシにぶつかって運休したこともあったな……俺がまだ実家にいたころだけど。 みどり:じゃあ私の発見もそれとおんなじなのかな? たくと:発見? みどり:乗る時は何両もあった気がしたのに、さっき他の車両に行こうとしたら、…………なかったの。 たくと:ない、ですか? めぐみ:一両編成になっていたのですよ。 信也:一両編成かー。なつかしー。 たくと:ここ、がっつり都市部なんだけど……そういうこともある、のか? めぐみ:それよりも私、車両の前の方が見たいです。 みどり:前?運転席? めぐみ:みどりと電車の後ろは見たけど、それだけですもの。ちゃんと「点検」、しているなら。運転席とやらでしょう? 車掌:ご覧になりますか? 信也:うわっ。 めぐみ:(舌打ち) 車掌:驚かせてしまい申し訳ありません。私、この「電車、車掌」でございます。 みどり:車掌さん!怪我してる!? 車掌:ご心配おかけしております。私の方は、お気になさらず。 たくと:…………電車、動きそうですか? 車掌:そちらの件で私参りまして。その説明のためにも、ご覧になっていただいた方がよいでしょう。 みどり:うーん、私たちが見て分かるの? 車掌:なんとご説明いたしましょうか。 みどり:うん。 車掌:がちゃーんです。 みどり:がちゃーん。 たくと:一瞬で知能指数下がったような…… 信也:なんかこの美人の顔で言われると違和感すごいな。 車掌:こちらになります。  :   :  0:運転席全体が三分の一くらいに圧縮されたようにぐちゃぐちゃにつぶれている。 信也:がちゃーんだ。 みどり:がちゃーんだね。 たくと:壁に、全力で激突したみたいになってますね…………機械はほぼ全部…………がちゃーんですか。 みどり:車掌さん、上着落ちてるよ。 車掌:あ、その下には運転士が…… 信也:みどりちゃんおててぽっけにいれておこうね。 みどり:はーい。 めぐみ:車掌は、よくご無事でしたのね? 車掌:ありがとうございます。といっても、運転士の救助、機械の点検に自分の止血。これだけに随分と時間をかけてしまったこと、お詫びいたします。 みどり:呼んでくれれば助けに行ったのに~ 信也:そうだぞ怪我してるんだから。 車掌:すみません。いち早く皆様をお送りするのが私の生きがいです…………急がねばと、判断を誤りました。 めぐみ:まあいいです。機械がやられてる?というのはよくわかりませんが、ドアを開けることはできません? 車掌:できませんね。 めぐみ:あら?こういった非常時、しかも電車は動かない。それなら近くの駅まで歩く方が建設的ではありませんか?ねえみなさん。 たくと:電車の不具合で、乗客が線路を歩く……聞いたことはありますね。 みどり:みどりも大丈夫だけど……それっていいの? めぐみ:…………いいもなにも、このまま待ち続けるつもり? たくと:信也、おまえはどうしたい。 信也:俺? たくと:ああ。 信也:分かんね。 たくと:おまえなあ。 信也:あー……俺と、たくとはとりあえずいいとするじゃん?歩くの。 めぐみ:ええ。 信也:でももし、ここが次の駅まで遠いところだったら、女の子にめっちゃ歩かせちゃうじゃん?車掌も怪我してるし、動かない方がいいと思うし? めぐみ:ええ、ええ。そうですね。ねえ車掌さん。あなたなら、ここがどこか知ってますよね?車掌ですものね?まさか?知らないなんてことはないでしょう? 車掌:……そうきますか。 めぐみ:教えてくださいな、ここは、どこか。 車掌:…………そうですね。確かに次の駅までご婦人に歩いていただくには忍びない距離でございます。しかし、住所を申し上げても、専門用語で位置をお伝えしてもピンとこないでしょう。連絡できない以上、逆に何か事故に遭っていると次の駅で判断してくださるはず。助けを待ちましょう。 めぐみ:(小声)逃げやがったな。 みどり:それにしても、信也くんて意外と紳士なんだねえ。 信也:紳士、っつーか、なんか、時々予感がするっつーか。 みどり:予感? 信也:ちっちゃい時田舎のばぁちゃんがめっちゃ厳しくてさ!ずーっと俺のこと見てて、悪いことしたりいたずらしたりするとすっとんできて殴るんだ。 みどり:……それ、信也君が悪くない? 信也:だからか知らねぇけど、ばぁちゃんが亡くなった後も、時々あの視線を感じるんだよなあ。 たくと:どうしたんですか、車掌さん、めぐみさん。信也の上、なんかあります? めぐみ:信也くんのおばあ様、イタコとか巫女とかされてましたの? 信也:くそばばあのこととか少しも興味なかったから全然知らね…………かはっ(吐血&転倒) みどり:信也くんが血を吐いて倒れたーーー!! たくと:ああ、みどり。割といつものことだから。なんか突然、血を吐いて倒れる。 みどり:割といつも!? たくと:貧血以外に問題ないらしい。…………あの、なので、車掌さん、めぐみさん。そんな真っ青な顔しなくても。 信也:そうですよ!いやあびっくりさせてすみませんね! みどり:復活した…… 車掌:……電車、なんとかして前の駅に戻した方がいい、のでしょうか。でも前代未聞ですし………… めぐみ:ほんとは全員使う予定だったのに……まあいいわ、二人いれば足りるでしょう…………  :   :  0:地下鉄内、助けを待つ みどり:ふりだしに戻ったね! たくと:と、いいますと? みどり:暇! 信也:いかにスマホ使いまくって暇つぶししてたか実感するなー。 めぐみ:そういえば私、お友達に面白いお話を聞いたんです。どなたかご存じかしら。 たくと:有名なんですか? めぐみ:一部では、ね。ただ、あまりその子は知らなかったの。「サルユメ」って言うんだけど。 車掌:その話題は今は不適切かと。 めぐみ:あら、どうして? 車掌:…………。 たくと:俺も今する話では、ないかと。 信也:え、なにかえって気になるんだけど。 みどり:みどり知ってる!怖い話だよね!電車に乗っている夢の中で、ぐろーい殺され方しちゃうの! めぐみ:そうそう、そこまでは私も聞いたのです。 車掌:いたずらに他の方をおびえさせるのはいただけませんね。 めぐみ:あら?今は異常事態でしょう?どんなことでも想定しておかないといけません。そうでしょう? みどり:あのね、みどりが知ってるのはね。電車が次の駅に着くたびに前の人が順番に…………それでね、最後は夢を見てる主人公の番が来て、お話が終わるの。 たくと:オカルトや都市伝説、噂ですからね。様々なパターンがありますが、俺の知ってるものも同じです。 信也:……俺、今寝てる? たくと:それはない。いや、ある意味…… 信也:ある意味? たくと:なんでもない。 信也:やめろよおっかねえな!! めぐみ:私が言いたいのはですね、本当に次の駅を目指していいのか、ということです。 みどり:なるほど! たくと:死人の乗る電車、という怪異かと俺は思ったんですけど。 めぐみ:まあ。博識なんですね、お聞きしても? 信也:みんなオカルト好きなんだなあ。 たくと:なんでも終電がとっくになくなってるのに、普通の電車に紛れてホームにとまっていたり。 車掌:だってホーム以外に行くとこないですもん。 たくと:事故に遭った後、気が付いたら真っ青な、無表情の人々……つまり、死者があの世に行くために乗る電車だったり。 車掌:だってここからだと三途の川までけっこう距離ありますし………… みどり:おお!すごい!怪異、って言うんでしょ?怪異の仲間かな! めぐみ:たくと様、みどり様、さすがですわ。私、そこまで詳細は存じてなかったので。 信也:すごいな、なんか、思ったより楽しかった。 めぐみ:ところで、窓を開けてもいいかしら?いざという時に開くか試したいのだけれど。 車掌:開きませんよ。 たくと:……換気は? 車掌:……必要だと、思いますか? たくと:それも、そうですね。 みどり:なんで窓ついてるの? 車掌:今までみどり様は電車に乗ったことがありますよね? みどり:いっぱい! 車掌:電車に乗って、休もうと椅子に座ります。その時目の前にいつもあった窓が、もしなかったら…………そわそわしませんか? みどり:する! 信也:飾りってこと? たくと:言い方の違いだな。 車掌:まあ、おかげさまで、一つ分かったことがあります。 信也:ん? 車掌:めぐみ様。貴女様は…………窓の外の方ですね? めぐみ:…………。 たくと:窓の、外? みどり:何もいないよー? 車掌:いつ紛れ込んで……ああ、聞くまでもありませんね。たくと様かみどり様についてきたのでしょう。 めぐみ:バレたところで痛くもかゆくもないです。 車掌:そうでしょうね。だからこそ私を何度も挑発し、あからさまにドアや窓の開閉を促したのですから。  :   :   :  みどり:どうしよう二人とも。 信也:俺だってなあ…… たくと:俺も同じ気持ちです。 みどり:二人が何言ってるのかまったく分からない。 たくと:どちらが俺たちの味方なのかも分からない。 信也:じゃあ聞いてくるか。 たくと:おまえなあ……正直に話すわけないだろ………… 信也:めぐみーー!車掌ーーー!! みどり:すごいね本当に行ったよ。 信也:二人とも正座ーーー!!! たくと:どうして!? めぐみ:はい。 車掌:分かりました。 みどり:わんちゃんのように従順だあ! 信也:二人も来いって。 みどり:え、正座? 信也:しなくていいから。 たくと:どうして二人はまた信也の頭上を見て青い顔をしてるんだろう………… 信也:じゃあ……車掌から、本当の、真実百パーセントの自己紹介を。あ、めぐみさんもこのあとお願いするからね、嘘無しの自己紹介。 めぐみ:………あなた、嘘ついたら私には分かるんですからね。 車掌:それはお互い様でしょう。 みどり:わーくわーく。 信也:では、どうぞ。 車掌:私は、もとより嘘などついておりません。この「電車、車掌」でございます。 たくと:…………ん? 車掌:皆様のお話しされていた怪異、生者死者をあの世へお連れする電車そのものでございます。いち早く皆様をお送りするのが私の生きがいです。 たくと:え、生きてる人も死んでる人も? 車掌:私め、地下鉄ですので、基本的に線路の上以外に行くところがございません。死者の皆さんを乗せている時に、酔っぱらった方や残業帰りの方も間違えてご乗車なさるのです、それなりの頻度で。 みどり:教えてあげたり、降ろしてあげたりしないのー? 車掌:「皆様」をお送りするのが私の生きがいですから(満面の笑み) たくと:…………では、めぐみさんは? めぐみ:その電車車掌にまんまと騙された被害者の会代表よ。 みどり:え、あの世に行かなかったの? 車掌:一応まだ生きてる人なので、三途の川最寄りの駅に着いても、渡れないんですよ。川。 たくと:…………それを知っていてなお、生きてる人乗せてるんですか? 車掌:生きがいですから(満面の笑み) めぐみ:川の側にいたってみじめなだけ。私たちは黄泉帰る(よみがえる)ために、線路の隅を歩くのよ。 みどり:…………めぐちゃんは、帰れたの? めぐみ:帰れたらこんなとこにいないわ。…………私たちは成仏できないまま、どこかも分からない線路の上で、怨霊になる。そして、帰ろうとしては何度もこいつに轢かれるのよ。 車掌:いや、ほんと皆さん数いるし壁際歩かないしで邪魔なんですよ。 めぐみ:私たちは全員の力を合わせて、この電車に復讐をすることにしたの。 たくと:今回の事故が、それなんですね。 めぐみ:八割の怨霊が地下鉄の天井部分を破壊。それで電車の怪異が消滅すれば万々歳。一応私がスパイとして中の様子を探り、残りの二割の怨霊を中に引き入れて、電車の核である「車掌」を倒す。それが計画。 車掌:おや、話してしまって良かったんですか? めぐみ:あなたには分からないでしょうね。二人の顔を見なさいよ。 車掌:え? めぐみ:お二人は、どちらが悪いか、どちらを手伝うべきか、分かるでしょう? たくと:この電車がある限り、被害者は増え続けますよね…… みどり:めぐちゃんたちかわいそうすぎるよ~ 信也:…………。 車掌:ま、待ってください!お優しいお二人は、死んでしまったとはいえ、暴力をふるい、死に至らしめるなんてことしませんよね? めぐみ:どの口が言ってるの。 たくと:………めぐみさんたちの無念も、これが一か八かの賭けなんだろうなっていうのも分かります。でもさすがに車掌さんを倒す、というのも気が引けて… みどり:武器とかないし、叩くの痛いからやだなあ。 めぐみ:では、ドアか窓をこじ開けるお手伝いでいいですから! みどり:私あんまり力ないよ? たくと:……信也、どうしたんだ。さっきから随分と静かだけど。 信也:あのさ。 たくと:うん。 信也:さっきから二人、二人って……俺、カウントされてないよね、人数になんで? たくと:車掌さん、めぐみさん。なぜ顔を背けるんですか。 車掌:…………めぐみさん、男性は力になりますよ? めぐみ:…………貴方こそ。信也さんは優しい方ですからかばってくださいますよ? 信也:やめて!!俺を譲り合わないで!!心が、心が痛いからぁ!! みどり:あ、もしかしてここにおばあちゃん居たりする?さっきから二人が見てる、この、このへんっ! めぐみ:え、あー…… 車掌:…………おそらく、そうなのではないかと。 みどり:うーん、なんでみどりには見えないのかな? 車掌:私とこれは、怪異と怨霊ですからね。敵だと思われて威嚇されているのかもしれません。 たくと:ああ、なるほど。 信也:あともいっこ。 たくと:なんだ。 信也:たくととみどりって、死んでるの? たくと:…………何言ってるんだよ。 信也:……そうだよな、まさか。 たくと:一緒にトラックにはねられたじゃないか。 信也:え。 みどり:いいなー!私はひとりだったよ。お風呂につかりながらほうちょ 信也:わーーーわーーーわーー!!!聞きたくない聞きたくない!?みどりその明るさでそんな最期!? めぐみ:みどり…………あなたとは親友になれそうな気がするのです。 みどり:ほんとーー!嬉しいな! たくと:闇属性二人ががっちり手を組んだな。 信也:俺はあの友情を止める勇気ないんだけど、なんかヤバそうなのは分かる。 たくと:……おまえ、覚えてないのか?草場(くさば)四丁目の交差点、分かるか? 信也:ああ、事故が妙に多いあの交差点な。 たくと:あそこの交差点を渡っただろ。 信也:渡ったけど…………一人だったぞ? たくと:え。 信也:おまえが先に行くから追いかけようとしたらいつものアレが起きてな。血を吐いていた。で、振り向いたら信号赤なんだもん。 たくと:えっ、えっ。 信也:置いて行かれたと思って急いで駅に向かってさ、ちょうど地下鉄とまってたから乗ってさ。そしたらおまえがいたから。 車掌:たしかに信也様は駅で、おひとりで、ご乗車なさいました。ちなみに今回のお客様でご存命の方は信也様だけですよ。  :   :  0:【間】車内が気まずい空気になり、数分が立つ みどり:あー! めぐみ:どうしたの。 車掌:もはや皆さま驚かなくなりましたね、みどり様の言動に。 みどり:なんとかできないかな、この状況! 車掌:しかし、地下鉄の前方は天井が落ちてしまい、進めません。戻ろうにも………… みどり:信也君のおばあちゃんならなんとかできないかな? 信也:えぇ? たくと:…………信也。やるだけ、やってみろって。 信也:んなこと言ったって…………どうやんの? みどり:お祈り! めぐみ:先程は信也様が失言すると反応しておりました。直接口に出して言ってみたらいかがでしょう? 車掌:物は試しですよ! たくと:…………車掌さん、めぐみさん。そんな車両のすみっこに行かなくとも。 信也:えーと、えーと。ばあちゃんへ。 みどり:お手紙かな? 信也:なんとかしてください。 たくと:これ怒られないか? 信也:よろしくお願いします。…………がはっっ!!! めぐみ:本当に通じると思わなかったです。 車掌:今回は血の量が多いですね。 みどり:あ!!信也君、右手になにか持ってる!! たくと:これは……お菓子ですね。 みどり:げろ甘いゼリーだ!おばあちゃんがよくくれるげろ甘ゼリー! めぐみ:それは寒天(かんてん)でできていますのよ。 車掌:オブラートに包まれた、グミともゼリーともつかない飴ですね。なつかしい。 みどり:これ飴の仲間なの!? 車掌:お客様から聞いた知識になりますが。 めぐみ:ぽっけに入れておいてあげましょう。 たくと:…………今日おそらく三回目の吐血にしては血の量が多いと思ったが………… みどり:たくとくんどしたのー? たくと:「ムリ」、だそうです。 めぐみ:…………吐き出した血がダイイングメッセージみたいになってますね。 車掌:器用でございますね、おばあさま。 信也:もっと他に意思伝達方法なかったかなあ、ばあちゃん!! 車掌:おそらく先程のお祈りへの怒りも含まれているかと。  :   :   :  たくと:あの。 みどり:どしたの? たくと:これ全員詰んでません? みどり:詰み? たくと:だから、さっきのがちゃーんが失敗した時点で車掌さんを仕留められなかった、かつ運転席を壊滅させてしまった時点で、終わってるんですよ。そうですよね、めぐみさん? めぐみ:この怪異の核であるコイツをどうにかすれば問題ないです。 たくと:俺は手伝うつもりありませんけど。それに、素手でどうこうできるものなんですか? 車掌:もう一回がちゃーんされない限り平気ですよ。 めぐみ:(舌打ち) たくと:車掌さん。進めないんですよね。運転士もいないし、設備はつぶれてるし。道もない。 車掌:助けも正直なところ、来ないでしょうね。私、ぼっちの怪異ですから。 たくと:…………これだけ長い間停止してて、追突されない理由が分かりました。 車掌:申し訳ございません。がちゃーんさえなければ。(ちら) めぐみ:本当にごめんなさいねえ。一撃で仕留められなくって。(ちら) たくと:と、いうわけで、この電車に乗っている俺たち三人ももれなく詰み。 めぐみ:ではでは、窓かドアを皆でこじ開けて脱出するのはいかがでしょう? たくと:…………車掌さん、もしここでドアが開いたら、俺たち三人はどうなりますか? 車掌:運が良ければ死者であるみどり様、たくと様は無視されるかと。信也様は…… めぐみ:申し訳ないですけれど、他の方の中には生きてる方を羨んでいる方もいますので……仲間にされるかと。 たくと:みどりさん。ドア、開けたいですか? みどり:やだ!信也君死んじゃう! たくと:さて、まただんまりモードになっている当事者の信也は?何か思いつかない? 信也:おまえのがいろいろ詳しいからなー。たくとが無理だっていうなら無理なんじゃね? みどり:信頼されてるねえ。 信也:ただなあ…………車掌。 車掌:はい。 信也:俺が乗った草場駅(くさばえき)、あそこが最初の駅か?出発したスタート地点っていうか…… 車掌:ああ、なるほど。確かに草場駅発でございますよ。 信也:そっか。めぐみ。終点の三途の川?の線路ってひとつか? めぐみ:そうです。まっすぐ一本道ですが、戻って来ようにも絶対に草場駅にたどり着けないのです。悪夢ですよ。 たくと:ホームは? めぐみ:ひとつです。 たくと:なぜ乗って帰ってこないのですか? めぐみ:そもそも駅の中に入れないのです。怨霊になってからは、ですけれど。終着駅から出てくる電車も見たことありません。あそこで行き止まりのはずなのに……神だの仏だの、何かに守られてるとしか思えません。 たくと:…………ほう。車掌さん? 車掌:はーい車掌今からちょっと耳が遠くなりまーす。 たくと:よくやった信也。グッジョブ。 信也:なんかした? みどり:スタートとゴールが一本の線でつながってるじゃん? 信也:うん。 みどり:ゴールしたら、次のお客さん乗せるために、スタートに帰りたいじゃん? 信也:うん。 みどり:どうやって戻る? 信也:ワープ。 みどり:そうきたかあ! 信也:だって、ゴールから出てくるの、めぐみたちは見てないんだろ?ワープじゃん。 たくと:そういう結論になりますが…………車掌さん?聞こえていますか? 車掌:きこえてないです。 みどり:なにかあるの?できないの? 車掌:だってこんなあいまいな、現世とあの世の境目で転移とか!!前代未聞、怖い!やったことないです!!「壁の中にいる」とか、どこかの駅にめり込んじゃったりとか、車体傷つけちゃったらどうしようとかー! 信也:できるの?できないの? 車掌:…………できますが、成功するかは、保証いたしかねます。 みどり:信也君だけでも、むずい? 車掌:私、所詮電車ですので、お客様単体の転移はできません。空間移動をするのは、この車体です。 めぐみ:みどりは戻りたくないの?家族とか、友達とか、会いたくないの? みどり:(明るく)……みんな、気にしてなんか、いないって。 めぐみ:…………そう。 信也:車掌、ダメかな?このとーり!! 車掌:……分かりました。ただ…… たくと:ただ? 車掌:頭に当たる部分を誰かさんが、がちゃーんしたせいで体調がとてもつらいです。 めぐみ:はあ?!謝らないから!ばーかばーか! 信也:めぐみさん正座。 めぐみ:はい。  :   :   :  0:朝4時4分、草場駅4番ホーム たくと:本当に……着きました、ね? 信也:しゃしょー、大丈夫かー?おおよしよし。 車掌:ダイジョブちがいます…あと数十年はお仕事できそうにない… みどり:あはは、それでいいんだよーきっと! 車掌:皆さん、ほら降りて、いいですよ。ドア開けました。………めぐみ様も。 めぐみ:え? 車掌:皆様なら、ご自分で成仏できるでしょう。本来、私がお連れしたいお客様は、迷われ、恨み、ご自分であの世へ向かえない方でしたから。本当は、最初から、そういう方のお手伝いをしたかった。 みどり:成仏、かあ。できるかなあ私。 めぐみ:行きましょみどり! みどり:わわっ、なに!? めぐみ:あんたを追い詰めたやつら、後悔させてやりましょ!! みどり:…………!うん!!  :  0:みどり、めぐみ、駅を出ていく。 信也:あれ、野放しにしていいの? たくと:彼女たちが満足するなら、いいんじゃないか? 信也:わあああ早くもたくとが透けてる!!? たくと:いや、おまえは助かって生きてるって分かったし、心残りとか無いし。 信也:…………おまえ。 たくと:まあ線香くらいあげに来いよ。 信也:ロケット花火何本くらいほしい?享年分? たくと:バースデーケーキか。そして友人の実家の室内でロケット花火をするな。 車掌:それでは皆様。 信也:ありがとな!しゃしょー!元気でな! 車掌:ふふ。 たくと:元気でなって、おまえな… 車掌:ご乗車、ありがとうございました。  :   :   :   :  信也:朝の光が目に染みる帰り道。スマホを出そうとぽっけに手を突っ込むと、なんか、いつもとちがう感触。 信也:昔よく、ばあちゃんがくれた、お菓子。嫌々だけど家事を手伝ったり、いいことをしたりすると、決まってばあちゃんは俺にこの菓子を握らせた。無言で。 信也:俺の嫌いな、げろ甘いゼリーのお菓子。 信也:包みをひらいて、口に入れる。 信也:思い出の味は、やっぱり大嫌いで 信也:とびっきり甘かった。  :   :   :   : 

0:『私のさいごのお客様』  野菜  :   :  信也:神田信也(かんだしんや)。運動馬鹿で好奇心旺盛。覚えたことは三日で忘れる。時々血を吐く。喀血(血を吐く)系男子。まだ生きてる。 たくと:藤森拓斗(ふじもりたくと)。勉強はできるが人生とか社会とか未来を諦めている。信也の上京してからの友人。事故死。 みどり:中嶋水鳥(なかじまみどり)。明るく、子供っぽさの残る少女。…………に、なりたかった。自殺。 めぐみ:石井恵(いしいめぐみ)。「電車」に騙されて怨霊化した人々の代表として侵入。レッツ復讐。もちろん怨霊。 車掌:頭に怪我をした車掌さん。「電車」の怪異の核にあたる。美人で好印象に見える。仕事を長くしてきたせいか生きがいが歪んでいる。  :   :  0:本編開始  :   :  0:きれいな地下鉄電車内部、電車は動いていない。 車掌:お客様には、ご迷惑をおかけしております。車両点検が済み次第、再びご連絡ののち、発車いたします。 信也:これは電車です。ちかてーつ。 たくと:うん。 信也:でぃす、いず、あ、でんしゃ。 たくと:眠くてもせめてトレインくらいはしぼりだせ。 信也:しりとりしよ? たくと:ようかん。 信也:…………電車、動かないな。 たくと:次にそれ言ったら負けって言ったの、おまえだろ。 信也:あっ。 たくと:…………もう、動かなかったりして、な。 信也:さすがに朝になりゃ復旧するって! たくと:……朝が、来るならな。 信也:あけない夜は、…………なんだっけ。 たくと:あと二文字だったのにな、ほんとおまえは。 信也:そういや、なんでこんな終電に乗ることになったんだっけ。 たくと:思い出せないんなら別にいいんじゃないか。 信也:そうだよな!帰れりゃいいよな!  :  0:みどりがめぐみの手を引いてやってくる。  :  みどり:どーもー。お兄さんたち、知り合い~? たくと:ええ。お二人はお友達ですか。 みどり:さっき隣に座ってたから! 信也:たくと。 たくと:なに。 信也:女子って、初対面で恋人つなぎすんの? たくと:知ってる範囲ではしない。 みどり:私はみどり!よろしくね!それで、こっちがめぐちゃん。 めぐみ:…………めぐみです。どうも。 信也:俺は神田信也(かんだしんや)。 たくと:あー、俺もたくとでいいですよ。 みどり:ねー!めっちゃ暇じゃない!?事故?点検?はしょうがないけどさー。ねね、なんかして暇つぶさない? たくと:それは良いと思いますけど……スマホとか財布くらいしか持っていないですよ、俺たち。 信也:確かにろくなもの持ってないし、スマホは圏外だし。 みどり:それなー!スマホ使えないのほんとありえない!……めぐちゃんトランプとか持ってない? めぐみ:どうして持ってると思うの…………? たくと:…………めぐみさん、荷物は? めぐみ:家庭の事情で家出したままよ。着の身着のまま。 たくと:…………なんか、すみません。 めぐみ:昔のことよ。 みどり:あ、そうそう私ね!すごいことに気づいちゃったの! 信也:なんだよ、田舎の電車が数時間に一本とか? みどり:ええ!? 信也:なんかシシにぶつかって運休したこともあったな……俺がまだ実家にいたころだけど。 みどり:じゃあ私の発見もそれとおんなじなのかな? たくと:発見? みどり:乗る時は何両もあった気がしたのに、さっき他の車両に行こうとしたら、…………なかったの。 たくと:ない、ですか? めぐみ:一両編成になっていたのですよ。 信也:一両編成かー。なつかしー。 たくと:ここ、がっつり都市部なんだけど……そういうこともある、のか? めぐみ:それよりも私、車両の前の方が見たいです。 みどり:前?運転席? めぐみ:みどりと電車の後ろは見たけど、それだけですもの。ちゃんと「点検」、しているなら。運転席とやらでしょう? 車掌:ご覧になりますか? 信也:うわっ。 めぐみ:(舌打ち) 車掌:驚かせてしまい申し訳ありません。私、この「電車、車掌」でございます。 みどり:車掌さん!怪我してる!? 車掌:ご心配おかけしております。私の方は、お気になさらず。 たくと:…………電車、動きそうですか? 車掌:そちらの件で私参りまして。その説明のためにも、ご覧になっていただいた方がよいでしょう。 みどり:うーん、私たちが見て分かるの? 車掌:なんとご説明いたしましょうか。 みどり:うん。 車掌:がちゃーんです。 みどり:がちゃーん。 たくと:一瞬で知能指数下がったような…… 信也:なんかこの美人の顔で言われると違和感すごいな。 車掌:こちらになります。  :   :  0:運転席全体が三分の一くらいに圧縮されたようにぐちゃぐちゃにつぶれている。 信也:がちゃーんだ。 みどり:がちゃーんだね。 たくと:壁に、全力で激突したみたいになってますね…………機械はほぼ全部…………がちゃーんですか。 みどり:車掌さん、上着落ちてるよ。 車掌:あ、その下には運転士が…… 信也:みどりちゃんおててぽっけにいれておこうね。 みどり:はーい。 めぐみ:車掌は、よくご無事でしたのね? 車掌:ありがとうございます。といっても、運転士の救助、機械の点検に自分の止血。これだけに随分と時間をかけてしまったこと、お詫びいたします。 みどり:呼んでくれれば助けに行ったのに~ 信也:そうだぞ怪我してるんだから。 車掌:すみません。いち早く皆様をお送りするのが私の生きがいです…………急がねばと、判断を誤りました。 めぐみ:まあいいです。機械がやられてる?というのはよくわかりませんが、ドアを開けることはできません? 車掌:できませんね。 めぐみ:あら?こういった非常時、しかも電車は動かない。それなら近くの駅まで歩く方が建設的ではありませんか?ねえみなさん。 たくと:電車の不具合で、乗客が線路を歩く……聞いたことはありますね。 みどり:みどりも大丈夫だけど……それっていいの? めぐみ:…………いいもなにも、このまま待ち続けるつもり? たくと:信也、おまえはどうしたい。 信也:俺? たくと:ああ。 信也:分かんね。 たくと:おまえなあ。 信也:あー……俺と、たくとはとりあえずいいとするじゃん?歩くの。 めぐみ:ええ。 信也:でももし、ここが次の駅まで遠いところだったら、女の子にめっちゃ歩かせちゃうじゃん?車掌も怪我してるし、動かない方がいいと思うし? めぐみ:ええ、ええ。そうですね。ねえ車掌さん。あなたなら、ここがどこか知ってますよね?車掌ですものね?まさか?知らないなんてことはないでしょう? 車掌:……そうきますか。 めぐみ:教えてくださいな、ここは、どこか。 車掌:…………そうですね。確かに次の駅までご婦人に歩いていただくには忍びない距離でございます。しかし、住所を申し上げても、専門用語で位置をお伝えしてもピンとこないでしょう。連絡できない以上、逆に何か事故に遭っていると次の駅で判断してくださるはず。助けを待ちましょう。 めぐみ:(小声)逃げやがったな。 みどり:それにしても、信也くんて意外と紳士なんだねえ。 信也:紳士、っつーか、なんか、時々予感がするっつーか。 みどり:予感? 信也:ちっちゃい時田舎のばぁちゃんがめっちゃ厳しくてさ!ずーっと俺のこと見てて、悪いことしたりいたずらしたりするとすっとんできて殴るんだ。 みどり:……それ、信也君が悪くない? 信也:だからか知らねぇけど、ばぁちゃんが亡くなった後も、時々あの視線を感じるんだよなあ。 たくと:どうしたんですか、車掌さん、めぐみさん。信也の上、なんかあります? めぐみ:信也くんのおばあ様、イタコとか巫女とかされてましたの? 信也:くそばばあのこととか少しも興味なかったから全然知らね…………かはっ(吐血&転倒) みどり:信也くんが血を吐いて倒れたーーー!! たくと:ああ、みどり。割といつものことだから。なんか突然、血を吐いて倒れる。 みどり:割といつも!? たくと:貧血以外に問題ないらしい。…………あの、なので、車掌さん、めぐみさん。そんな真っ青な顔しなくても。 信也:そうですよ!いやあびっくりさせてすみませんね! みどり:復活した…… 車掌:……電車、なんとかして前の駅に戻した方がいい、のでしょうか。でも前代未聞ですし………… めぐみ:ほんとは全員使う予定だったのに……まあいいわ、二人いれば足りるでしょう…………  :   :  0:地下鉄内、助けを待つ みどり:ふりだしに戻ったね! たくと:と、いいますと? みどり:暇! 信也:いかにスマホ使いまくって暇つぶししてたか実感するなー。 めぐみ:そういえば私、お友達に面白いお話を聞いたんです。どなたかご存じかしら。 たくと:有名なんですか? めぐみ:一部では、ね。ただ、あまりその子は知らなかったの。「サルユメ」って言うんだけど。 車掌:その話題は今は不適切かと。 めぐみ:あら、どうして? 車掌:…………。 たくと:俺も今する話では、ないかと。 信也:え、なにかえって気になるんだけど。 みどり:みどり知ってる!怖い話だよね!電車に乗っている夢の中で、ぐろーい殺され方しちゃうの! めぐみ:そうそう、そこまでは私も聞いたのです。 車掌:いたずらに他の方をおびえさせるのはいただけませんね。 めぐみ:あら?今は異常事態でしょう?どんなことでも想定しておかないといけません。そうでしょう? みどり:あのね、みどりが知ってるのはね。電車が次の駅に着くたびに前の人が順番に…………それでね、最後は夢を見てる主人公の番が来て、お話が終わるの。 たくと:オカルトや都市伝説、噂ですからね。様々なパターンがありますが、俺の知ってるものも同じです。 信也:……俺、今寝てる? たくと:それはない。いや、ある意味…… 信也:ある意味? たくと:なんでもない。 信也:やめろよおっかねえな!! めぐみ:私が言いたいのはですね、本当に次の駅を目指していいのか、ということです。 みどり:なるほど! たくと:死人の乗る電車、という怪異かと俺は思ったんですけど。 めぐみ:まあ。博識なんですね、お聞きしても? 信也:みんなオカルト好きなんだなあ。 たくと:なんでも終電がとっくになくなってるのに、普通の電車に紛れてホームにとまっていたり。 車掌:だってホーム以外に行くとこないですもん。 たくと:事故に遭った後、気が付いたら真っ青な、無表情の人々……つまり、死者があの世に行くために乗る電車だったり。 車掌:だってここからだと三途の川までけっこう距離ありますし………… みどり:おお!すごい!怪異、って言うんでしょ?怪異の仲間かな! めぐみ:たくと様、みどり様、さすがですわ。私、そこまで詳細は存じてなかったので。 信也:すごいな、なんか、思ったより楽しかった。 めぐみ:ところで、窓を開けてもいいかしら?いざという時に開くか試したいのだけれど。 車掌:開きませんよ。 たくと:……換気は? 車掌:……必要だと、思いますか? たくと:それも、そうですね。 みどり:なんで窓ついてるの? 車掌:今までみどり様は電車に乗ったことがありますよね? みどり:いっぱい! 車掌:電車に乗って、休もうと椅子に座ります。その時目の前にいつもあった窓が、もしなかったら…………そわそわしませんか? みどり:する! 信也:飾りってこと? たくと:言い方の違いだな。 車掌:まあ、おかげさまで、一つ分かったことがあります。 信也:ん? 車掌:めぐみ様。貴女様は…………窓の外の方ですね? めぐみ:…………。 たくと:窓の、外? みどり:何もいないよー? 車掌:いつ紛れ込んで……ああ、聞くまでもありませんね。たくと様かみどり様についてきたのでしょう。 めぐみ:バレたところで痛くもかゆくもないです。 車掌:そうでしょうね。だからこそ私を何度も挑発し、あからさまにドアや窓の開閉を促したのですから。  :   :   :  みどり:どうしよう二人とも。 信也:俺だってなあ…… たくと:俺も同じ気持ちです。 みどり:二人が何言ってるのかまったく分からない。 たくと:どちらが俺たちの味方なのかも分からない。 信也:じゃあ聞いてくるか。 たくと:おまえなあ……正直に話すわけないだろ………… 信也:めぐみーー!車掌ーーー!! みどり:すごいね本当に行ったよ。 信也:二人とも正座ーーー!!! たくと:どうして!? めぐみ:はい。 車掌:分かりました。 みどり:わんちゃんのように従順だあ! 信也:二人も来いって。 みどり:え、正座? 信也:しなくていいから。 たくと:どうして二人はまた信也の頭上を見て青い顔をしてるんだろう………… 信也:じゃあ……車掌から、本当の、真実百パーセントの自己紹介を。あ、めぐみさんもこのあとお願いするからね、嘘無しの自己紹介。 めぐみ:………あなた、嘘ついたら私には分かるんですからね。 車掌:それはお互い様でしょう。 みどり:わーくわーく。 信也:では、どうぞ。 車掌:私は、もとより嘘などついておりません。この「電車、車掌」でございます。 たくと:…………ん? 車掌:皆様のお話しされていた怪異、生者死者をあの世へお連れする電車そのものでございます。いち早く皆様をお送りするのが私の生きがいです。 たくと:え、生きてる人も死んでる人も? 車掌:私め、地下鉄ですので、基本的に線路の上以外に行くところがございません。死者の皆さんを乗せている時に、酔っぱらった方や残業帰りの方も間違えてご乗車なさるのです、それなりの頻度で。 みどり:教えてあげたり、降ろしてあげたりしないのー? 車掌:「皆様」をお送りするのが私の生きがいですから(満面の笑み) たくと:…………では、めぐみさんは? めぐみ:その電車車掌にまんまと騙された被害者の会代表よ。 みどり:え、あの世に行かなかったの? 車掌:一応まだ生きてる人なので、三途の川最寄りの駅に着いても、渡れないんですよ。川。 たくと:…………それを知っていてなお、生きてる人乗せてるんですか? 車掌:生きがいですから(満面の笑み) めぐみ:川の側にいたってみじめなだけ。私たちは黄泉帰る(よみがえる)ために、線路の隅を歩くのよ。 みどり:…………めぐちゃんは、帰れたの? めぐみ:帰れたらこんなとこにいないわ。…………私たちは成仏できないまま、どこかも分からない線路の上で、怨霊になる。そして、帰ろうとしては何度もこいつに轢かれるのよ。 車掌:いや、ほんと皆さん数いるし壁際歩かないしで邪魔なんですよ。 めぐみ:私たちは全員の力を合わせて、この電車に復讐をすることにしたの。 たくと:今回の事故が、それなんですね。 めぐみ:八割の怨霊が地下鉄の天井部分を破壊。それで電車の怪異が消滅すれば万々歳。一応私がスパイとして中の様子を探り、残りの二割の怨霊を中に引き入れて、電車の核である「車掌」を倒す。それが計画。 車掌:おや、話してしまって良かったんですか? めぐみ:あなたには分からないでしょうね。二人の顔を見なさいよ。 車掌:え? めぐみ:お二人は、どちらが悪いか、どちらを手伝うべきか、分かるでしょう? たくと:この電車がある限り、被害者は増え続けますよね…… みどり:めぐちゃんたちかわいそうすぎるよ~ 信也:…………。 車掌:ま、待ってください!お優しいお二人は、死んでしまったとはいえ、暴力をふるい、死に至らしめるなんてことしませんよね? めぐみ:どの口が言ってるの。 たくと:………めぐみさんたちの無念も、これが一か八かの賭けなんだろうなっていうのも分かります。でもさすがに車掌さんを倒す、というのも気が引けて… みどり:武器とかないし、叩くの痛いからやだなあ。 めぐみ:では、ドアか窓をこじ開けるお手伝いでいいですから! みどり:私あんまり力ないよ? たくと:……信也、どうしたんだ。さっきから随分と静かだけど。 信也:あのさ。 たくと:うん。 信也:さっきから二人、二人って……俺、カウントされてないよね、人数になんで? たくと:車掌さん、めぐみさん。なぜ顔を背けるんですか。 車掌:…………めぐみさん、男性は力になりますよ? めぐみ:…………貴方こそ。信也さんは優しい方ですからかばってくださいますよ? 信也:やめて!!俺を譲り合わないで!!心が、心が痛いからぁ!! みどり:あ、もしかしてここにおばあちゃん居たりする?さっきから二人が見てる、この、このへんっ! めぐみ:え、あー…… 車掌:…………おそらく、そうなのではないかと。 みどり:うーん、なんでみどりには見えないのかな? 車掌:私とこれは、怪異と怨霊ですからね。敵だと思われて威嚇されているのかもしれません。 たくと:ああ、なるほど。 信也:あともいっこ。 たくと:なんだ。 信也:たくととみどりって、死んでるの? たくと:…………何言ってるんだよ。 信也:……そうだよな、まさか。 たくと:一緒にトラックにはねられたじゃないか。 信也:え。 みどり:いいなー!私はひとりだったよ。お風呂につかりながらほうちょ 信也:わーーーわーーーわーー!!!聞きたくない聞きたくない!?みどりその明るさでそんな最期!? めぐみ:みどり…………あなたとは親友になれそうな気がするのです。 みどり:ほんとーー!嬉しいな! たくと:闇属性二人ががっちり手を組んだな。 信也:俺はあの友情を止める勇気ないんだけど、なんかヤバそうなのは分かる。 たくと:……おまえ、覚えてないのか?草場(くさば)四丁目の交差点、分かるか? 信也:ああ、事故が妙に多いあの交差点な。 たくと:あそこの交差点を渡っただろ。 信也:渡ったけど…………一人だったぞ? たくと:え。 信也:おまえが先に行くから追いかけようとしたらいつものアレが起きてな。血を吐いていた。で、振り向いたら信号赤なんだもん。 たくと:えっ、えっ。 信也:置いて行かれたと思って急いで駅に向かってさ、ちょうど地下鉄とまってたから乗ってさ。そしたらおまえがいたから。 車掌:たしかに信也様は駅で、おひとりで、ご乗車なさいました。ちなみに今回のお客様でご存命の方は信也様だけですよ。  :   :  0:【間】車内が気まずい空気になり、数分が立つ みどり:あー! めぐみ:どうしたの。 車掌:もはや皆さま驚かなくなりましたね、みどり様の言動に。 みどり:なんとかできないかな、この状況! 車掌:しかし、地下鉄の前方は天井が落ちてしまい、進めません。戻ろうにも………… みどり:信也君のおばあちゃんならなんとかできないかな? 信也:えぇ? たくと:…………信也。やるだけ、やってみろって。 信也:んなこと言ったって…………どうやんの? みどり:お祈り! めぐみ:先程は信也様が失言すると反応しておりました。直接口に出して言ってみたらいかがでしょう? 車掌:物は試しですよ! たくと:…………車掌さん、めぐみさん。そんな車両のすみっこに行かなくとも。 信也:えーと、えーと。ばあちゃんへ。 みどり:お手紙かな? 信也:なんとかしてください。 たくと:これ怒られないか? 信也:よろしくお願いします。…………がはっっ!!! めぐみ:本当に通じると思わなかったです。 車掌:今回は血の量が多いですね。 みどり:あ!!信也君、右手になにか持ってる!! たくと:これは……お菓子ですね。 みどり:げろ甘いゼリーだ!おばあちゃんがよくくれるげろ甘ゼリー! めぐみ:それは寒天(かんてん)でできていますのよ。 車掌:オブラートに包まれた、グミともゼリーともつかない飴ですね。なつかしい。 みどり:これ飴の仲間なの!? 車掌:お客様から聞いた知識になりますが。 めぐみ:ぽっけに入れておいてあげましょう。 たくと:…………今日おそらく三回目の吐血にしては血の量が多いと思ったが………… みどり:たくとくんどしたのー? たくと:「ムリ」、だそうです。 めぐみ:…………吐き出した血がダイイングメッセージみたいになってますね。 車掌:器用でございますね、おばあさま。 信也:もっと他に意思伝達方法なかったかなあ、ばあちゃん!! 車掌:おそらく先程のお祈りへの怒りも含まれているかと。  :   :   :  たくと:あの。 みどり:どしたの? たくと:これ全員詰んでません? みどり:詰み? たくと:だから、さっきのがちゃーんが失敗した時点で車掌さんを仕留められなかった、かつ運転席を壊滅させてしまった時点で、終わってるんですよ。そうですよね、めぐみさん? めぐみ:この怪異の核であるコイツをどうにかすれば問題ないです。 たくと:俺は手伝うつもりありませんけど。それに、素手でどうこうできるものなんですか? 車掌:もう一回がちゃーんされない限り平気ですよ。 めぐみ:(舌打ち) たくと:車掌さん。進めないんですよね。運転士もいないし、設備はつぶれてるし。道もない。 車掌:助けも正直なところ、来ないでしょうね。私、ぼっちの怪異ですから。 たくと:…………これだけ長い間停止してて、追突されない理由が分かりました。 車掌:申し訳ございません。がちゃーんさえなければ。(ちら) めぐみ:本当にごめんなさいねえ。一撃で仕留められなくって。(ちら) たくと:と、いうわけで、この電車に乗っている俺たち三人ももれなく詰み。 めぐみ:ではでは、窓かドアを皆でこじ開けて脱出するのはいかがでしょう? たくと:…………車掌さん、もしここでドアが開いたら、俺たち三人はどうなりますか? 車掌:運が良ければ死者であるみどり様、たくと様は無視されるかと。信也様は…… めぐみ:申し訳ないですけれど、他の方の中には生きてる方を羨んでいる方もいますので……仲間にされるかと。 たくと:みどりさん。ドア、開けたいですか? みどり:やだ!信也君死んじゃう! たくと:さて、まただんまりモードになっている当事者の信也は?何か思いつかない? 信也:おまえのがいろいろ詳しいからなー。たくとが無理だっていうなら無理なんじゃね? みどり:信頼されてるねえ。 信也:ただなあ…………車掌。 車掌:はい。 信也:俺が乗った草場駅(くさばえき)、あそこが最初の駅か?出発したスタート地点っていうか…… 車掌:ああ、なるほど。確かに草場駅発でございますよ。 信也:そっか。めぐみ。終点の三途の川?の線路ってひとつか? めぐみ:そうです。まっすぐ一本道ですが、戻って来ようにも絶対に草場駅にたどり着けないのです。悪夢ですよ。 たくと:ホームは? めぐみ:ひとつです。 たくと:なぜ乗って帰ってこないのですか? めぐみ:そもそも駅の中に入れないのです。怨霊になってからは、ですけれど。終着駅から出てくる電車も見たことありません。あそこで行き止まりのはずなのに……神だの仏だの、何かに守られてるとしか思えません。 たくと:…………ほう。車掌さん? 車掌:はーい車掌今からちょっと耳が遠くなりまーす。 たくと:よくやった信也。グッジョブ。 信也:なんかした? みどり:スタートとゴールが一本の線でつながってるじゃん? 信也:うん。 みどり:ゴールしたら、次のお客さん乗せるために、スタートに帰りたいじゃん? 信也:うん。 みどり:どうやって戻る? 信也:ワープ。 みどり:そうきたかあ! 信也:だって、ゴールから出てくるの、めぐみたちは見てないんだろ?ワープじゃん。 たくと:そういう結論になりますが…………車掌さん?聞こえていますか? 車掌:きこえてないです。 みどり:なにかあるの?できないの? 車掌:だってこんなあいまいな、現世とあの世の境目で転移とか!!前代未聞、怖い!やったことないです!!「壁の中にいる」とか、どこかの駅にめり込んじゃったりとか、車体傷つけちゃったらどうしようとかー! 信也:できるの?できないの? 車掌:…………できますが、成功するかは、保証いたしかねます。 みどり:信也君だけでも、むずい? 車掌:私、所詮電車ですので、お客様単体の転移はできません。空間移動をするのは、この車体です。 めぐみ:みどりは戻りたくないの?家族とか、友達とか、会いたくないの? みどり:(明るく)……みんな、気にしてなんか、いないって。 めぐみ:…………そう。 信也:車掌、ダメかな?このとーり!! 車掌:……分かりました。ただ…… たくと:ただ? 車掌:頭に当たる部分を誰かさんが、がちゃーんしたせいで体調がとてもつらいです。 めぐみ:はあ?!謝らないから!ばーかばーか! 信也:めぐみさん正座。 めぐみ:はい。  :   :   :  0:朝4時4分、草場駅4番ホーム たくと:本当に……着きました、ね? 信也:しゃしょー、大丈夫かー?おおよしよし。 車掌:ダイジョブちがいます…あと数十年はお仕事できそうにない… みどり:あはは、それでいいんだよーきっと! 車掌:皆さん、ほら降りて、いいですよ。ドア開けました。………めぐみ様も。 めぐみ:え? 車掌:皆様なら、ご自分で成仏できるでしょう。本来、私がお連れしたいお客様は、迷われ、恨み、ご自分であの世へ向かえない方でしたから。本当は、最初から、そういう方のお手伝いをしたかった。 みどり:成仏、かあ。できるかなあ私。 めぐみ:行きましょみどり! みどり:わわっ、なに!? めぐみ:あんたを追い詰めたやつら、後悔させてやりましょ!! みどり:…………!うん!!  :  0:みどり、めぐみ、駅を出ていく。 信也:あれ、野放しにしていいの? たくと:彼女たちが満足するなら、いいんじゃないか? 信也:わあああ早くもたくとが透けてる!!? たくと:いや、おまえは助かって生きてるって分かったし、心残りとか無いし。 信也:…………おまえ。 たくと:まあ線香くらいあげに来いよ。 信也:ロケット花火何本くらいほしい?享年分? たくと:バースデーケーキか。そして友人の実家の室内でロケット花火をするな。 車掌:それでは皆様。 信也:ありがとな!しゃしょー!元気でな! 車掌:ふふ。 たくと:元気でなって、おまえな… 車掌:ご乗車、ありがとうございました。  :   :   :   :  信也:朝の光が目に染みる帰り道。スマホを出そうとぽっけに手を突っ込むと、なんか、いつもとちがう感触。 信也:昔よく、ばあちゃんがくれた、お菓子。嫌々だけど家事を手伝ったり、いいことをしたりすると、決まってばあちゃんは俺にこの菓子を握らせた。無言で。 信也:俺の嫌いな、げろ甘いゼリーのお菓子。 信也:包みをひらいて、口に入れる。 信也:思い出の味は、やっぱり大嫌いで 信也:とびっきり甘かった。  :   :   :   :