台本概要

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タイトル 洒涙雨
作者名 薙介  (@Gy_voicone)
ジャンル コメディ
演者人数 1人用台本(不問1) ※兼役あり
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 七夕の話をするはなし。
所要時間10分強。
いっそ叩き台くらいの感覚で
自分好みにアレンジして欲しい所存。
過去の天気は作成時のもの。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
語り手 不問 2 基本的に天帝の話をしてる
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0: 語り手:本日はお足元の悪い中ありがとうございます。 語り手:まあ、といっても都内ですから、 語り手:ほとんどの方は電車をご利用になったかと思います。 語り手:最寄り駅から会場に来ようとしますと、 語り手:商店街のアーケードを通るでしょう。 語り手:あそこは屋根がありますから、 語り手:そこまで不便なく来れたんじゃないでしょうか。 語り手: 語り手:皆さん、商店街で見ました? 語り手:目立ってたでしょう? 語り手:旦那さん、見ました?うん? 語り手:いやポスターじゃなくて。 語り手:今更ポスターでアタシの顔じーっと見たってしょうがないでしょう。 語り手:今見なさいよほら、立体的。 語り手:そうじゃなくて、あったでしょう? 大きな笹が。 語り手:ね? 語り手:……あー? じゃないのよもう。はい、思い出してくださいね。 語り手:他の皆さんもよろしいですか? 語り手:夜橋(よばし)駅西口の改札を出まして正面、 語り手:商店街のアーチを潜りまして、 語り手:まずは天井を川のごとく覆う網飾り、 語り手:次いで左右にくす玉飾りと吹き流し。 語り手:そして、6尺越える立派な笹竹がドンと構えておりまして、 語り手:横断幕に「文月商店街七夕まつり」、と。 語り手:思い出しました?……気が付かなかった? 語り手:気が付かなかった??? 語り手:あらあ……随分とアタシに会うのを楽しみにして頂いたようで。 語り手:周りも目に入らないくらい急いで来て下さったなんて、 語り手:有り難い限りですけども、 語り手:結構ね、ええ、立派なもんですから。 語り手:お帰りの際にでもね、道すがら 語り手:ゆっくりご覧になって頂ければと思います。 語り手: 語り手:さて、そんなわけで本日は七夕。 語り手:怠惰の罰として天の川のあちらとこちら、 語り手:引き離された織女(しょくじょ)と牽牛(けんぎゅう)が、 語り手:年に一度、勤勉のご褒美として唯一逢瀬の叶う日でございます。 語り手:日本だと織姫、彦星の名前の方が親しみやすいですかね。 語り手:今日のように当日雨なんか降りますと、 語り手:天の川が溢れて二人が会えなくなる、なんて話もありますが、 語り手:別の説ですとね、これ真逆なんですね。 語り手:雨が降るから会えないんじゃないんです。 語り手:会えないから雨が降るんです。 語り手:昔から七夕に降る雨を洒涙雨(さいるいう)と申しまして、 語り手:会えた二人が別れを惜しんで流す涙とも、 語り手:会えない二人が悲しみにくれて流す涙とも言われています。 語り手:まあ夕方辺りから降れば前者って思いますけれども、 語り手:朝っぱらから降ってたら惜しむ別れもない。 語り手:そうなると後者、会えない涙なんだろうって話になります。 語り手:それじゃあ何で会えないのかと申しますと、はい、先程言いましたね。 語り手:会えるのは、一年間、真面目に働いたご褒美なんです。 語り手:……そう。サボってるんです、あいつら。 語り手: 語り手:……いやあのね、うん。諸説ありますよ、皆さん。 語り手:……ところでここ3年の7月7日の東京の天気ですがね、 語り手:まあ、雨天なんですよ。 語り手:それで午前中から雨が降ってるのがね、そのうち2回ですね。 語り手: 語り手:……ね! 語り手: 語り手:はい、諸説あります。 語り手: 語り手:まあ、そもそもの発端が、色恋にうつつを抜かし 語り手:仕事をほっぽりだした当人達でございますから、 語り手:自業自得ではありますけれども、 語り手:とはいえ、1年に1日を除いてずっと気を張って仕事をなさい 語り手:というのも、今の時代にはなかなかそぐわない考え方でもございます。 語り手:そして、時代の流れについていけずに四苦八苦するのは、 語り手:いつの頃にも父親の常。 語り手:織姫の父、天帝も同じく。 語り手:神様だって年頃の娘の機微なんざ分かりません。 語り手:今日も朝から、シトシトと降り続く雨に深ーい溜息が出る。 0: 0: 0: 0: 語り手:はーーーぁ…雨。雨だよねぇ。 語り手:やんなっちゃうなぁ、もう……。 語り手:別にね? 語り手:別にずーっと織り機に向かってなさいって 語り手:言ってるわけじゃないのよこっちはね。 語り手:ただ、期限内に仕事を終わらせなさいって言ってるだけでしょう? 語り手:お父さん難しい事言ってる?言ってないでしょ! 語り手:……私に言ってもしょうがないでしょって、いやそうだけどさぁ。 語り手:ねえ…お母さんから言ってくれたり……やだ?ああそう。 語り手:いやでもさ、そもそも彦君紹介したのお父さんでしょ? 語り手:そんでサボらないようにって左遷したのもお父さんじゃない? 語り手:ただでさえ今娘との距離を測りかねてるのに、ほら。 語り手:雨。 語り手:雨降ってるもんこれ絶対泣いてるやつじゃない。 語り手:気まずいよおぉー。 語り手:もう織ちゃん何考えてるのか最近全っ然分かんないし、 語り手:お父さん今度こそ口きいてもらえなくなったらどうし…… 語り手:え、多分大丈夫? 語り手:本当にぃ? いいから行って来い? 語り手:ええー……いやまあ行きますよ。行きますけどね……はぁ。 語り手: 語り手: 語り手:織ちゃーん。織ちゃ…ああ居た居た。 語り手:はい、おはよう。 語り手:えーっとね…織ちゃん、朝御飯の前にちょっと良い? 語り手:うん。お父さんの部屋。 語り手:はい、うんそこ座って。そう……はい。 語り手:えー、何で呼ばれたか粗方検討は付いてると思うんだけどね? 語り手:……んんん、そう、自覚あるねぇ。 語り手:そうだね。織ちゃん最近全然仕事に集中出来てないもんね。 語り手:今年に入ってから月2回くらいずつ納期ブッチしてるもんね。 語り手:もうね、服が。 語り手:服がないのよみんな。 語り手:縫製(ほうせい)部門の子なんてみーんなピリピリしちゃって、 語り手:お父さん胃に穴が空いちゃいそ…ウフフじゃないの。 語り手:いや、うん、それでね、ここまで言えばもう分かると思うけど。 語り手:うん、そう。今日ね。7月7日だけども。 語り手:今年もね、渡れません。 語り手:やっぱり? じゃないのよ 語り手:何その可愛い顔。 語り手:そりゃそうだよだってサボっちゃってるもの。 語り手:え? サボりじゃない? 怪我で作業が遅れた? 語り手:え、織ちゃんどっか怪我してたの? 語り手:あららららら、あーそれはお父さん気付かなくてごめんね。 語り手:何、どこ怪我しちゃったの、仕事中? ん? 語り手:……ささくれ? 語り手:……あー……ささくれだとちょ……っと、苦しいかなあ。 語り手:いや、痛い。痛いよ? ささくれ。 語り手:こう、ね?逆剥けとかしちゃうとね、泣いちゃうよね。 語り手:んでもお仕事休んで治すほどじゃあない……かなぁ。うん。 語り手:あと爪? 爪が割れちゃったか。あー、爪。爪ねぇ、うん。 語り手:うううううん…… 語り手:あの、まず、まずね? 織ちゃん。 語り手:それ、その爪ちょーっと長すぎるんでないかな? 語り手:あ、うん似合う。似合うよ?なんだその、ラメ? 語り手:ん? ストーン? そうそう宝石みたいな。 語り手:きらきらしててね。うん、可愛い可愛い。 語り手:いやでもお仕事の手じゃあないかなぁ 語り手:え、何? スクエア? えっとーあっ、ちょ 語り手:ごめん、ストップストップ! 語り手:専門的なお話お父さん分かんないから! 語り手:ともかくね、総合的に!総合的に考えて、 語り手:今年も、駄目です! 語り手: 語り手:はい。渡れません。 語り手:……でも織ちゃん、自分でもちょっと分かってたでしょう? 語り手:だって今日雨降ってるもの。 語り手:朝からこーんな、ほら。 語り手:会えないから悲しくなっちゃったんでしょう? 語り手:ね? こうやって結局泣いちゃうのは織ちゃんなんだから、 語り手:これからはちゃんと真面目に働い……え、泣いてない? 語り手:いや泣いて……ないねえ 語り手:………え? 泣いてないね??? んん?え、何で? 語り手:うん。最近? 語り手:気になる人が出来……織ちゃん好きな人出来ちゃったの!? 語り手:まだそういう関係じゃな……イヤイヤイヤ 語り手:そういう事じゃな…ウフフじゃないの! 語り手:ええぇ……罰を受けてる間に? 相談に乗ってくれて? 語り手:色々親身に聞いてもらう内に……はぁ、そう……。 語り手:あー、えっとぉ。 語り手:お父さんちょーっと理解が追いつかな……え? 語り手:彦君知ってる? 語り手:彦君知ってるの!? 語り手:昨日ラインで伝え……待って君達ラインしてるの? 語り手:ダメだよ。 語り手:何で直接会わなきゃセーフとか思ってるのアウトだよ。 語り手:そもそも連絡は1日2時間までの電話か文通って 語り手:お父さんと約束したでしょ? 語り手:固定電話じゃ嫌? 家族に聞かれるから? 語り手:聞かないよぉ。お父さんちゃんとそこは空気呼んで席外すよぉ。 語り手:え、大体シロちゃんは? 語り手:ほら、白鷺の。 語り手:文通するならってお父さんが用意したじゃない。 語り手:最初は楽しそうに可愛いレターセットとか買ってたでしょ? 語り手:シロちゃんは中庭で遊んで……え、あれ? 語り手:あれシロちゃんなの? 語り手:最近池の所にいる? 語り手:……もう原型とどめてないじゃない。 語り手:絶対手紙配達とかしてないじゃないあの体型。 語り手:やっぱり話すか打ち込む方が楽? 語り手:墨書き段々面倒臭くなっちゃった? 語り手:愛を惜しまないでよそこは。 語り手:良いものでしょう? 文通。 語り手:ほら、手紙を待ってる間ソワソワドキドキしてね、 語り手:良いところ見せたくて習字なんてしたりして、 語り手:「とても知的で美しい字を書かれますね」 語り手:なーんて言われて嬉しくなっちゃったりして!! 語り手: 語り手:え、遅い? 語り手:不便? 語り手:そもそも長文読み辛い……まあ、そうね。 語り手:ラインならシュッ!シュボ!って一瞬だものね。 語り手:なんだろう。 語り手:今お父さんの青春が軽く色褪せた気がする。 語り手: 語り手:え、うん。それで彦くんが? 語り手:「お前が幸せならそれが一番だよ」って? 語り手:「応援するから」って!? 語り手:……あぁ、そう。 語り手:なんかもう……うん。 語り手:えっと、とりあえず、納期はね、守ってね。 語り手:じゃないとまた川向こうに左遷するからね。 語り手:駄目だからね。 語り手:……はい、じゃあもう行っていいよ。うん。 語り手:お仕事頑張ってね。はい。 語り手: 語り手:はぁーーー……なんだろね、この…… 語り手:気力という気力を全部持ってかれた感じ。 語り手:はぁーー……。ん? 語り手:あれ?じゃあこの雨は…… 語り手: 語り手:あっ 語り手:……お母さーん。 語り手:お母さん。ああ、終わったよ、うん。 語り手:それでね、今晩。夕飯は一人分いらないからね。 語り手:彦君と済ますから。 語り手:え、織ちゃんが? 違う違う。 語り手:今夜はアタシと男二人、 語り手: 語り手:雨が上がるまで呑むんだよ。

0: 語り手:本日はお足元の悪い中ありがとうございます。 語り手:まあ、といっても都内ですから、 語り手:ほとんどの方は電車をご利用になったかと思います。 語り手:最寄り駅から会場に来ようとしますと、 語り手:商店街のアーケードを通るでしょう。 語り手:あそこは屋根がありますから、 語り手:そこまで不便なく来れたんじゃないでしょうか。 語り手: 語り手:皆さん、商店街で見ました? 語り手:目立ってたでしょう? 語り手:旦那さん、見ました?うん? 語り手:いやポスターじゃなくて。 語り手:今更ポスターでアタシの顔じーっと見たってしょうがないでしょう。 語り手:今見なさいよほら、立体的。 語り手:そうじゃなくて、あったでしょう? 大きな笹が。 語り手:ね? 語り手:……あー? じゃないのよもう。はい、思い出してくださいね。 語り手:他の皆さんもよろしいですか? 語り手:夜橋(よばし)駅西口の改札を出まして正面、 語り手:商店街のアーチを潜りまして、 語り手:まずは天井を川のごとく覆う網飾り、 語り手:次いで左右にくす玉飾りと吹き流し。 語り手:そして、6尺越える立派な笹竹がドンと構えておりまして、 語り手:横断幕に「文月商店街七夕まつり」、と。 語り手:思い出しました?……気が付かなかった? 語り手:気が付かなかった??? 語り手:あらあ……随分とアタシに会うのを楽しみにして頂いたようで。 語り手:周りも目に入らないくらい急いで来て下さったなんて、 語り手:有り難い限りですけども、 語り手:結構ね、ええ、立派なもんですから。 語り手:お帰りの際にでもね、道すがら 語り手:ゆっくりご覧になって頂ければと思います。 語り手: 語り手:さて、そんなわけで本日は七夕。 語り手:怠惰の罰として天の川のあちらとこちら、 語り手:引き離された織女(しょくじょ)と牽牛(けんぎゅう)が、 語り手:年に一度、勤勉のご褒美として唯一逢瀬の叶う日でございます。 語り手:日本だと織姫、彦星の名前の方が親しみやすいですかね。 語り手:今日のように当日雨なんか降りますと、 語り手:天の川が溢れて二人が会えなくなる、なんて話もありますが、 語り手:別の説ですとね、これ真逆なんですね。 語り手:雨が降るから会えないんじゃないんです。 語り手:会えないから雨が降るんです。 語り手:昔から七夕に降る雨を洒涙雨(さいるいう)と申しまして、 語り手:会えた二人が別れを惜しんで流す涙とも、 語り手:会えない二人が悲しみにくれて流す涙とも言われています。 語り手:まあ夕方辺りから降れば前者って思いますけれども、 語り手:朝っぱらから降ってたら惜しむ別れもない。 語り手:そうなると後者、会えない涙なんだろうって話になります。 語り手:それじゃあ何で会えないのかと申しますと、はい、先程言いましたね。 語り手:会えるのは、一年間、真面目に働いたご褒美なんです。 語り手:……そう。サボってるんです、あいつら。 語り手: 語り手:……いやあのね、うん。諸説ありますよ、皆さん。 語り手:……ところでここ3年の7月7日の東京の天気ですがね、 語り手:まあ、雨天なんですよ。 語り手:それで午前中から雨が降ってるのがね、そのうち2回ですね。 語り手: 語り手:……ね! 語り手: 語り手:はい、諸説あります。 語り手: 語り手:まあ、そもそもの発端が、色恋にうつつを抜かし 語り手:仕事をほっぽりだした当人達でございますから、 語り手:自業自得ではありますけれども、 語り手:とはいえ、1年に1日を除いてずっと気を張って仕事をなさい 語り手:というのも、今の時代にはなかなかそぐわない考え方でもございます。 語り手:そして、時代の流れについていけずに四苦八苦するのは、 語り手:いつの頃にも父親の常。 語り手:織姫の父、天帝も同じく。 語り手:神様だって年頃の娘の機微なんざ分かりません。 語り手:今日も朝から、シトシトと降り続く雨に深ーい溜息が出る。 0: 0: 0: 0: 語り手:はーーーぁ…雨。雨だよねぇ。 語り手:やんなっちゃうなぁ、もう……。 語り手:別にね? 語り手:別にずーっと織り機に向かってなさいって 語り手:言ってるわけじゃないのよこっちはね。 語り手:ただ、期限内に仕事を終わらせなさいって言ってるだけでしょう? 語り手:お父さん難しい事言ってる?言ってないでしょ! 語り手:……私に言ってもしょうがないでしょって、いやそうだけどさぁ。 語り手:ねえ…お母さんから言ってくれたり……やだ?ああそう。 語り手:いやでもさ、そもそも彦君紹介したのお父さんでしょ? 語り手:そんでサボらないようにって左遷したのもお父さんじゃない? 語り手:ただでさえ今娘との距離を測りかねてるのに、ほら。 語り手:雨。 語り手:雨降ってるもんこれ絶対泣いてるやつじゃない。 語り手:気まずいよおぉー。 語り手:もう織ちゃん何考えてるのか最近全っ然分かんないし、 語り手:お父さん今度こそ口きいてもらえなくなったらどうし…… 語り手:え、多分大丈夫? 語り手:本当にぃ? いいから行って来い? 語り手:ええー……いやまあ行きますよ。行きますけどね……はぁ。 語り手: 語り手: 語り手:織ちゃーん。織ちゃ…ああ居た居た。 語り手:はい、おはよう。 語り手:えーっとね…織ちゃん、朝御飯の前にちょっと良い? 語り手:うん。お父さんの部屋。 語り手:はい、うんそこ座って。そう……はい。 語り手:えー、何で呼ばれたか粗方検討は付いてると思うんだけどね? 語り手:……んんん、そう、自覚あるねぇ。 語り手:そうだね。織ちゃん最近全然仕事に集中出来てないもんね。 語り手:今年に入ってから月2回くらいずつ納期ブッチしてるもんね。 語り手:もうね、服が。 語り手:服がないのよみんな。 語り手:縫製(ほうせい)部門の子なんてみーんなピリピリしちゃって、 語り手:お父さん胃に穴が空いちゃいそ…ウフフじゃないの。 語り手:いや、うん、それでね、ここまで言えばもう分かると思うけど。 語り手:うん、そう。今日ね。7月7日だけども。 語り手:今年もね、渡れません。 語り手:やっぱり? じゃないのよ 語り手:何その可愛い顔。 語り手:そりゃそうだよだってサボっちゃってるもの。 語り手:え? サボりじゃない? 怪我で作業が遅れた? 語り手:え、織ちゃんどっか怪我してたの? 語り手:あららららら、あーそれはお父さん気付かなくてごめんね。 語り手:何、どこ怪我しちゃったの、仕事中? ん? 語り手:……ささくれ? 語り手:……あー……ささくれだとちょ……っと、苦しいかなあ。 語り手:いや、痛い。痛いよ? ささくれ。 語り手:こう、ね?逆剥けとかしちゃうとね、泣いちゃうよね。 語り手:んでもお仕事休んで治すほどじゃあない……かなぁ。うん。 語り手:あと爪? 爪が割れちゃったか。あー、爪。爪ねぇ、うん。 語り手:うううううん…… 語り手:あの、まず、まずね? 織ちゃん。 語り手:それ、その爪ちょーっと長すぎるんでないかな? 語り手:あ、うん似合う。似合うよ?なんだその、ラメ? 語り手:ん? ストーン? そうそう宝石みたいな。 語り手:きらきらしててね。うん、可愛い可愛い。 語り手:いやでもお仕事の手じゃあないかなぁ 語り手:え、何? スクエア? えっとーあっ、ちょ 語り手:ごめん、ストップストップ! 語り手:専門的なお話お父さん分かんないから! 語り手:ともかくね、総合的に!総合的に考えて、 語り手:今年も、駄目です! 語り手: 語り手:はい。渡れません。 語り手:……でも織ちゃん、自分でもちょっと分かってたでしょう? 語り手:だって今日雨降ってるもの。 語り手:朝からこーんな、ほら。 語り手:会えないから悲しくなっちゃったんでしょう? 語り手:ね? こうやって結局泣いちゃうのは織ちゃんなんだから、 語り手:これからはちゃんと真面目に働い……え、泣いてない? 語り手:いや泣いて……ないねえ 語り手:………え? 泣いてないね??? んん?え、何で? 語り手:うん。最近? 語り手:気になる人が出来……織ちゃん好きな人出来ちゃったの!? 語り手:まだそういう関係じゃな……イヤイヤイヤ 語り手:そういう事じゃな…ウフフじゃないの! 語り手:ええぇ……罰を受けてる間に? 相談に乗ってくれて? 語り手:色々親身に聞いてもらう内に……はぁ、そう……。 語り手:あー、えっとぉ。 語り手:お父さんちょーっと理解が追いつかな……え? 語り手:彦君知ってる? 語り手:彦君知ってるの!? 語り手:昨日ラインで伝え……待って君達ラインしてるの? 語り手:ダメだよ。 語り手:何で直接会わなきゃセーフとか思ってるのアウトだよ。 語り手:そもそも連絡は1日2時間までの電話か文通って 語り手:お父さんと約束したでしょ? 語り手:固定電話じゃ嫌? 家族に聞かれるから? 語り手:聞かないよぉ。お父さんちゃんとそこは空気呼んで席外すよぉ。 語り手:え、大体シロちゃんは? 語り手:ほら、白鷺の。 語り手:文通するならってお父さんが用意したじゃない。 語り手:最初は楽しそうに可愛いレターセットとか買ってたでしょ? 語り手:シロちゃんは中庭で遊んで……え、あれ? 語り手:あれシロちゃんなの? 語り手:最近池の所にいる? 語り手:……もう原型とどめてないじゃない。 語り手:絶対手紙配達とかしてないじゃないあの体型。 語り手:やっぱり話すか打ち込む方が楽? 語り手:墨書き段々面倒臭くなっちゃった? 語り手:愛を惜しまないでよそこは。 語り手:良いものでしょう? 文通。 語り手:ほら、手紙を待ってる間ソワソワドキドキしてね、 語り手:良いところ見せたくて習字なんてしたりして、 語り手:「とても知的で美しい字を書かれますね」 語り手:なーんて言われて嬉しくなっちゃったりして!! 語り手: 語り手:え、遅い? 語り手:不便? 語り手:そもそも長文読み辛い……まあ、そうね。 語り手:ラインならシュッ!シュボ!って一瞬だものね。 語り手:なんだろう。 語り手:今お父さんの青春が軽く色褪せた気がする。 語り手: 語り手:え、うん。それで彦くんが? 語り手:「お前が幸せならそれが一番だよ」って? 語り手:「応援するから」って!? 語り手:……あぁ、そう。 語り手:なんかもう……うん。 語り手:えっと、とりあえず、納期はね、守ってね。 語り手:じゃないとまた川向こうに左遷するからね。 語り手:駄目だからね。 語り手:……はい、じゃあもう行っていいよ。うん。 語り手:お仕事頑張ってね。はい。 語り手: 語り手:はぁーーー……なんだろね、この…… 語り手:気力という気力を全部持ってかれた感じ。 語り手:はぁーー……。ん? 語り手:あれ?じゃあこの雨は…… 語り手: 語り手:あっ 語り手:……お母さーん。 語り手:お母さん。ああ、終わったよ、うん。 語り手:それでね、今晩。夕飯は一人分いらないからね。 語り手:彦君と済ますから。 語り手:え、織ちゃんが? 違う違う。 語り手:今夜はアタシと男二人、 語り手: 語り手:雨が上がるまで呑むんだよ。