台本概要
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タイトル | 神官アティシアの冒険記~冒険の始まり~ |
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作者名 | 火演花-カエンバナ (@Flower_Actfire) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 6人用台本(男2、女2、不問2) |
時間 | 60 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
神官戦士アティシアは、優秀な神の守り手として神殿都市「ランヴァ」を守護している。 しかし、ある日強大な魔獣の出現によりランヴァは危機に晒されてしまう… 320 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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アティシア | 女 | 112 | 18歳。優秀な神官戦士。捨て子として拾われた過去を持つ。 |
エディ | 男 | 60 | 22歳。冒険者で元傭兵。剣、槍、斧を使いこなす実力者。 |
メリン | 女 | 42 | 22歳。エディの昔馴染み。魔法都市の魔道学院を主席卒業したエリート。 |
ヴァスラガ | 不問 | 52 | 25歳。リザードマン。部族の戦闘技術を使い戦う冷静沈着な武人。 |
ドラフ | 男 | 39 | 46歳。アティシアを拾った司教。優しく柔和な性格。エディを古くから知っている。 |
魔獣使 | 不問 | 17 | 魔獣を使いランヴァを襲撃する。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
アティシア:物心ついた時から私は教会で生活していた。お父さんとお母さんの顔は知らない。小さい頃から唯一神リーガ様に信仰を捧げ、私は神官戦士としての修練に励んできた。そして今は、神殿都市「ランヴァ」の守り手として働いている。
アティシア:ドラフ様、もう朝ですよ。起きてください。
ドラフ:む…ああ、おはようアティシア。
アティシア:もう。聖職者が規則正しい生活を守らないでどうするんですか。
ドラフ:手厳しいな…今は何時だ…
アティシア:7時です!朝の礼拝の時間はすぐですよ
ドラフ:分かった、分かった。今すぐ行こう。
ドラフ:主の名のもと、祈りを捧げたまえ。神の慈愛の中に、我らの時を刻みたまえ。
アティシア:(毎日の礼拝。そんな変わり映えの無い毎日を、私は過ごしている。平和なのは良いことだ。でも、どこかでつまらなく感じている私が居る。)
ドラフ:おいアティシア。どうした?ボーっとして。お前らしくもない。
アティシア:あ…申し訳ありません。少し気を抜いてしまいました。…そろそろ訓練の時間ですね。行ってまいります。
アティシア:まだまだ基本がなってませんね。しっかり剣の使い方を学ぶことです。
モブA:は、はい…ありがとうございます………凄いですね…一本も取れませんでした…
アティシア:当然です。私は神官戦士です。どんな時も強くなければなりませんから。
アティシア:(私以上に強い神官戦士も、このランヴァにはほとんどいない。毎日訓練場では、私に稽古をつけてもらおうと色んな人が来るけれど…正直…張り合いが無くて退屈だ。)
0:教会にて
エディ:すんませーん。
アティシア:ん、はい。冒険者の方々ですね。教会の設備を御利用になるのでしたら、ギルドの証明書をお出しください。
エディ:あ、うっす。
アティシア:(教会では冒険者に向けて回復や解毒などのサービスを行っている。ギルドの証明書があれば無料で受けられるのだけれど…)
エディ:あれ、無え。メリン!持ってないか?
メリン:は?持ってないけれど。ちゃんと確認しなさいよ。ヴァスラガは?
ヴァスラガ:私も持っていないぞ。そもそも、貴重品はエディ殿が管理しているはずではないか。
エディ:……ギルドに置いてきたかも…
メリン:はあ…ほんと…何やってんだか…
ヴァスラガ:自分の持ち物ならまだしも、皆に必要な証明書を忘れてしまうとは。エディ殿…気が緩んでおるぞ。
アティシア:(おそらく身なりから冒険者であることは間違いないけれど…その内の一人はリザードマンか。珍しいな。)
アティシア:もし、お持ちでないのであれば…教会の設備は利用できませんが…
エディ:ええっ、そいつは困るよー!あ、そうだ!金払えば受けさせてくれるか!頼むってー!
アティシア:な!唯一神リーガ様の恵みを金銭で買おうとは…何たる無礼でしょうか!許されませんよ!
エディ:え、ごめんって!そんな大事なことだったのか。許してくれって~!
アティシア:全く…
ドラフ:まあまあそう熱くなるでない。アティシアよ。
アティシア:ドラフ様…
エディ:(遮って)ドラフじゃねえか!まだこの街に居たのかよ!
アティシア:え…面識が、有るのですか?
ドラフ:うむ。古き縁でな。そちらは新たな仲間か?見たところ、人間以外の種族も居るようだが。
ヴァスラガ:ヴァスラガと申す。エディ殿の知人のようだな。訳有って、今は旅を共にさせてもらっている。
メリン:メリンです。エディとは昔に知り合ってそれからずっと一緒に冒険しています。
ドラフ:成程な。よろしく頼むぞ。して、何やら揉めていたようだが…
アティシア:ああ、いえ。この方々がギルドの証明書をお持ちでないみたいで。教会の設備を提供するのは無理ですと言っていたのですが…
エディ:いやあ。忘れちまったんだよ~。ドラフ!堅いこと言わずに受けさせてくれないか!
ドラフ:うーん…まあ、その代わりに金銭以外での代償を支払ってくれるのならば良いが。
エディ:え、まじ!?いいぜいいぜ。魔物退治か?それとも賊退治?
ドラフ:いや、このアティシアに戦いの指南をしてやってほしい。
ヴァスラガ:そんなことで良いのか。
メリン:まあ、私たちで良いなら。どうするの?エディ。
エディ:勿論俺も良いが…彼女は神官だろ?戦いなんてするのか?
ドラフ:アティシアはこのランヴァでも指折りの神官戦士だ。強くなるために、様々な戦い方を知っておいた方がこ奴のためになるだろう?
アティシア:私としても、冒険者の方々に指南をしていただけるのであれば、とてもありがたいです。
エディ:よし。良いぜ。後で訓練場に案内してくれ。
アティシア:はい!
アティシア:(思いがけない形でだけれど…平凡な日々に少しだけ、刺激ができたような気がした。)
エディ:まずは俺から稽古をつけてやろう。最初はお前の実力を測らなくちゃあな。一回切りかかってこい。
アティシア:はい。よろしくお願いします。
アティシア:(凄い…流石冒険者…精錬され尽くした無駄のない構え…付け入る隙が無い。でも、ここは全力で!)
0:カンっ!と鈍い金属音が響き渡る。
エディ:…うーん…神官らしく華やかで、素早い一撃だな。
アティシア:ありがとうございます。
エディ:でもなあ威力が全然だ。ちゃんと鍛えてるのか?
アティシア:一応、毎日素振りを1000回、対人稽古も日々欠かさず行っていますが…
エディ:へえ、どんな剣使ってるんだ?
アティシア:一応、これを。
0:渡された訓練用の剣を見て、エディは成程。といった顔をする。
エディ:駄目だな。これ。いくら訓練用とはいえ軽すぎる。最低でもこれの五倍くらいの重さを使え。
アティシア:五倍、ですか。
エディ:ああ。速さや巧みさは戦士本人の才能の面がでかいが、力っていうのは唯一凡人も等しく伸ばせる要素の一つだ。どんな状況でも伸ばしておいて損は無い。んで、力を手っ取り早く伸ばせるのが重い得物に慣れることだ。
アティシア:分かりました。今度は五倍でやってみます。
エディ:それともう一つ。お前、何かスキルや技は持っているか?
アティシア:ええ。一応。体得している技は『ホーリースラッシュ』と『エネルギードレイン』で、スキルは『祈り』と『祝福付与』です。
エディ:神官らしいラインナップだな。お前も知っている通り、経験を積んだり伝授してもらうことで手に入れることができるのが技、生まれた時からある程度覚えられるものが決まっているのがスキルだ。技が主に攻撃の面でのサポートなのに対して、スキルは自身や周囲の強化や敵へのマイナス効果を担っている。俺からは「明鏡止水」という技を伝授しよう。
アティシア:明鏡止水…確か、集中力を高めることで敵の攻撃を受け流しつつ攻撃する技ですよね。
エディ:その通りだ。技の伝授には、双方の同意が必要だ。アティシア、俺の手を握ってくれ。
アティシア:はい。
0:手を握るとエディが呪文を唱える。
エディ:『戦士を見守る技の神よ戦士から戦士へ、新たな力を伝えたまえ』
0:するとアティシアに力がそそがれる。
エディ:よし。これで伝授完了だ。試しに技を使ってみろ。
アティシア:はい。(深呼吸)
アティシア:(精神を研ぎ澄まして…自分の気を剣に込めろ)
アティシア:はっ!
0:水のような音と共に剣閃が走る
エディ:しっかり体得できてるな。これで俺から教えるのは終わりだ。
アティシア:ありがとうございます。学んだことを活かして更に精進します。
エディ:ああ。頑張れよ!よし、じゃあ次は…メリン、お前が教えてやれ。
メリン:分かった。そうね…私は、魔法について教えてあげるわ。
メリン:まず、魔法にはどんな種類が有るか知っているかしら。
アティシア:自然魔法、精霊魔法、闇魔法、神聖魔法、そして…原理魔法ですね。
メリン:そう。あなたはどれを使えるのかしら?
アティシア:私は、自然魔法と神聖魔法を使えます。精霊魔法は適性が無く、闇魔法は私の職業では規制がかかってしまい使えません。原理魔法は…私の魔力ではとても…
メリン:成程。まあ予想通りね。だったら自然魔法の「効率化」について教えるわ。まず、あなたのMPを教えてくれる?
アティシア:64です。頑張って伸ばそうとしているのですが…中々伸びなくて…
メリン:まあMPは体質が影響するから仕方無いわね。あなたも知っている通り、「どれだけ魔法を撃てるか」はMPに依存する。MPが多ければ多いほど魔法を使った長期戦ができる。いわば魔法の体力と言っても良いわ。魔力はその人が持つ魔法の基本威力。魔法はこの魔力に魔法自体の威力を上乗せして、更にどれだけのMPを出力するかで決まる。これは分かるかしら?
アティシア:はい。自然魔法の基本原理、ですよね。知っています。
メリン:そ。私が今から教えるのは省エネルギー且つ相手を仕留めるのに充分なMPの出力の仕方よ。これができる魔法使いとできない魔法使いとでは持久力が全く変わってくるわ。試しに私が今から召喚する人工獣(アーティビースト)に魔法を撃ってみなさい。
メリン:『魔の流れに宿りし獣、我が呼びかけに応えよ』
0:魔法陣が浮かび上がりそこから人工獣が出てくる
メリン:とりあえず、一番簡単なファイアーを使いなさい。そこから私が色々教えていくわ。
アティシア:分かりました。
アティシアは魔力を込める
アティシア:『ファイアー!』
0:人工獣は倒れる
アティシア:どうでしょうか。
メリン:うーん…全然だめね。ファイアーにしては人工獣の外傷が大きすぎる。人工獣に対して出力するべき最適なMPを上回っているってことね。じゃあ問題、その「最適なMP」を私たち魔法使いはどうやって図っているでしょうか。
アティシア:え………専用の道具が有るとか?
メリン:半分正解ね。確かに、専用の道具が無いわけじゃ無い。どうしてもこの「効率化」ができない人って居るからね。そういう人の為の道具は有るにはあるけれど、高価だし道具無しでできるようになった方が絶対的に良い。正解は、相手の魔の流れを見極めること。
アティシア:魔の流れ…?
メリン:そもそも「魔」っていうのは、私たちが生きてるこの世界の空気の中にあふれている。これらを自身の魔力を使って意識的に知覚することでどこにどれくらい、どの勢いで「魔」が流れているかが分かるようになるの。試しにやってみなさい。コツは、普段自分に込めてる魔力を少しずつ外に溢れさせてみなさい。
アティシア:分かりました…(普段使っている魔力を外に……)
0:すると、アティシアの周りに流れる「魔」が分かるようになる
アティシア:あ!
メリン:どう?分かった?
アティシア:分かりました!メリンさんはこの世界を見ていたのですね。
メリン:そうそう。まあ、これをわざわざ意識せずに行えるようになれれば良いんだけど。まだそのステップじゃ無いわね。そして、対象の生き物や物体の持つ魔力が高ければ高いほど「魔」の流れは強く、勢いの有る物へと変わる。試しに、私とヴァスラガとエディを見てみなさい。
アティシア:本当だ。皆さんの周りに流れている「魔」は、全然流れが違いますね。
エディ:こん中じゃ俺が一番魔力が低いが、俺の周りは一番ゆったりしている。対して、一番ぶっちぎりの魔力を持っているメリンの周りだけすげえ激しい。そういうことだろう?
ヴァスラガ:魔の訓練を受けていない我々には分からぬが…
アティシア:はい。成程…つまりこの「魔」の流れに丁度良い魔力を、MPをコントロールしてぶつけるっていうのが自然魔法の「効率化」なのですね。
メリン:その通り。凄いわね。ちょっとのアドバイスでここまでできるようになっちゃうなんて。分かっちゃったならもう話は必要無いわね。もう一回人工獣を呼び出すから今度は最適なMPを出力してみなさい!
0:また人工獣が現れる
アティシア:分かる…さっきまで分からなかった「魔」の流れが…どれだけの威力で魔法を放てば良いのかが…
アティシア:人工獣に対して一番丁度良いMP…こうだ!
0:また人工獣は倒れる
メリン:お。良いわね…合格よ。ここまでできれば充分よ。よくやったわ。
アティシア:はい!教えていただきありがとうございます!
メリン:ああ、そうそう言い忘れていた。いくら効率化ができるようになったとはいえ、いつまでも弱い魔法を使うのは禁物よ。魔法にはそれぞれ込められるMPの限界が有るの。だからあまりに強い魔の流れを持っている敵には使用する魔法を変えること。ファイアーがだめならフレイムに、フレイムがだめならバーンに、って感じにね。実戦慣れしてない子がやりがちなことだから気をつけなさい。
アティシア:はい。とても勉強になりました。
ヴァスラガ:メリン殿、修練は終わったか?
メリン:ええ。次はヴァスラガが教えてあげて。
エディ:ヴァスラガが人に戦いの指南をするなんて、珍しいな。俺も楽しみだ。
アティシア:人間以外の方に物を教えていただくのは初めてですが、よろしくお願いします。
ヴァスラガ:うむ。よろしく頼む。ではまず、場所を移動しよう。ランヴァの周りには森林地帯が有ると聞いた。そちらに案内してはくれないか。
アティシア:え、森林にですか……分かりました。因みにどんなことを教えてくださるのですか?
ヴァスラガ:それは着いてから話す。
ヴァスラガ:では、訓練を始めよう。
アティシア:はい。よろしくお願いします。
ヴァスラガ:まず、訓練の内容についてだ。今からこの森林内で、私と本気で戦ってもらう。良いか、最初から本気だ。絶対に手を抜いてはならん。訓練用の武器とはいえ、私は貴殿を殺しにかかる勢いで仕留めに行く。互いのどちらかが拘束、あるいはギブアップするまで訓練は続ける。私は何分器用ではない故、このような荒い方法ですまんが納得してくれ。
アティシア:分かりました。絶対に良い訓練にしてみせます!
ヴァスラガ:その意気やよし。では、参る!
0:すると、ヴァスラガの姿が森の中に消える。
アティシア:(リザードマンの超人的身体能力…森林のような複雑な地形をものともせず飛び回る機敏さを活かして、攻撃を仕掛ける気ですね…ならば私も得意な戦い方で応えてみせます!)
アティシア:神聖魔法『ファリーセンス』!
ヴァスラガ:(ほう、あれは確か…神官のような神職のものが体得する感知の魔法か。そちらがその気なら、こちらは魔法の精度を超えて動きを激しくするまで!)
アティシア:!ファリーセンスに反応が現れない…成程…魔法の限界速度を超えて動いている、ということですね。
ヴァスラガ:そろそろしかけるか…
0:突然草むらからヴァスラガが飛び出す
ヴァスラガ:はあっ!
アティシア:くっ…!
0:すんでのところでアティシアが受け止める
ヴァスラガ:ふむ…やるな。
アティシア:ファイアー!
0:すかさず魔法で反撃を図る
ヴァスラガ:すぐに反撃に移る反射神経…見事だ。
アティシア:(くっ…流石冒険者にしてリザードマンの戦士の方…こちらの力と比べるとまさに圧倒的…本当に最初から全力でなければすぐにやられる…)
アティシア:ホーリースラッシュ!
0:光と共に斬撃が飛ぶ
アティシア:もう一度…ホーリー…
ヴァスラガ:(遮って)いかん。焦りすぎだ。
アティシア:な!いつのまに後ろに…
0:瞬間、ヴァスラガの強力な一撃がアティシアの脇腹に下る
アティシア:がっ…
アティシアが倒れるとともにヴァスラガは用意していたツタでアティシアを拘束する
ヴァスラガ:これで私の勝ちだ。
アティシア:はあ…はあ…手も、足も…出ません、、でした…
ヴァスラガ:今の訓練を率直にどう思った?
アティシア:え…
ヴァスラガ:率直な感想で良い。
アティシア:そう、ですね…正直…完全に相手の土俵でしてやられたと…思いました…
ヴァスラガ:うむ。そう思うだろう?
アティシア:?あの…一体何を聞きたいのですか?
ヴァスラガ:私が教えたかったのは主に二つだ。一つは、圧倒的に不利な状況での立ち回り方と、どんな窮地だろうと平静を保つ心意気だ。
アティシア:なるほど…
ヴァスラガ:貴殿は今、森林という完全なる私のテリトリーの中で私と交戦した。戦士たるもの、時には完全に不利な状況下で戦闘を行う場合も有る。そういった時に如何に最大限の力を発揮し、焦らず冷静な対処をできるかが重要なのだ。
アティシア:敵にアドバンテージが有る状況で、自らをコントロールする…簡単なようでとても精神力が必要なのだと改めて分かりました。貴方はそういった不利な状況の時にどのような方法で平静を保ち、自身の全力を出せる立ち回りをしているのですか?
ヴァスラガ:そうだな…それを話すには、私の種族…リザードマンについて理解してもらう必要が有る。まず、貴殿はリザードマンがどのような環境で生活をしているかは知っているか?
アティシア:はい。森林や山間部、ジャングルなどの自然豊かな地帯に集落を作る部族が多いと聞きました。
ヴァスラガ:その通りだ。正確に言えば「自然の力が宿る場所」と言うことができる。部族によっては砂漠や火山地帯などの過酷な場所で生活をしている者たちも居る。自然とは何も「緑の豊かな場所」のみを指すものではない。砂漠の無機質な自然の静寂、火山の荒れ狂うような自然の勇ましさ。これらに我々は太古の時代から触れてきたことで『自然と調和する術』を身に着けたのだ。
アティシア:なる…ほど…ですが、それと先ほどの話に何の繋がりが?
ヴァスラガ:「有利」には様々な形式が存在する。地形の有利、天候の有利、気温の有利、等々…一つ想像をしてみろ。もし貴殿より圧倒的に弱い相手と対峙したと考えてみろ。油断はしないにせよ、何か小細工をわざわざ弄する必要は有るか?
アティシア:いえ。正面から戦うのみで勝負がつくと思います。
ヴァスラガ:そうだろう。では逆をまた想像してみろ。貴殿よりも圧倒的な力を持つ者と対峙したとする。そういった時、弱者の側はどのようにして戦いに臨む?
アティシア:力で勝てないのなら、環境を少しでも自分に有利な状況にしてどうにか相手との力量の差を埋めて…あっ。
ヴァスラガ:もう分かっただろう。弱者が強者に太刀打ちするためには自分の力以外をいじる必要が有る。その最も大きい要素が『環境』だ。そして環境を変えるのに一番大きな役割をこなすのが自然の力だ。このように、自然の力は偉大なのだ。しかし、自然によるアドバンテージを気にせずに戦う方法が有る。それは何だ?
アティシア:自然と…調和すること…
ヴァスラガ:うむ。相手が自然を利用するのならばこちらも自然に語り掛け、味方に着ける。そうすることで本来自分にとって不利だったはずの状況はひっくり返り、己にも余裕が生まれて楽になる。例えば私の種族は寒所に弱い。だが、自然の中の「気温」に語り掛けることで多少の身体への影響を緩和できる。…これらの技術は一種の自己暗示に近い。しかし、この技術を身に着けることで戦いにおける「隙」が減る。我々リザードマンはこの技術を『ラヴグディ』(自然との調和)と呼んでいるが、これらは人間にも体得が可能だということが分かっている。少しずつで良い。貴殿も体得できるように自然と対話をすることだ。
アティシア:はい。自然との調和…ですか。正直、分からないことばかりですがどうにかコツを掴んで見せます。
ヴァスラガ:精進せよ。言えることはそれだけだ。さて、私も教えることは終わったが、後はどうする?
エディ:あー、とりあえずドラフの所行って報告するか?
メリン:そうね。アティシアもよく頑張ったわ。貴方、中々筋が良いわよ。エディの武芸の技術も積極的に取り入れて、私の魔道理論も物にして、ヴァスラガの自然との調和も理屈だけとはいえ理解ができる。このまま修行を続ければもっと強くなれるわ。
ヴァスラガ:私も貴殿には大きな可能性を感じている。いつか貴殿の活躍が我々の耳に入ってくるのを期待しているぞ。
アティシア:はい!私の方こそありがとうございました。皆さんの技術は何というか、難しい所もあったのですがとても参考になりました。そして、何より…今日はとても楽しかったです。本当に、良い経験ができました。
エディ:はは。なら良かったよ。さーて、さっさと街に戻りますか。って…おい。あれ…
メリン:ん?どうしたの。
エディ:あそこ…何で煙上がってんだ?何か祭でもやってんのか?
アティシア:いえ、今日は特に祭祀の予定はないはずです。
ヴァスラガ:ということは…もしや危険な状況にあるのではないか?
アティシア:行きましょう。一刻も早く!ランヴァには沢山の人が住んでいます。巡礼者の方々の命も危ない。時間との勝負です!
エディ:おいおい、マジかよ…これって…
メリン:魔獣…?おかしいわ。ここらへんで魔獣の出現報告なんて聞いたことが無い。
ヴァスラガ:一先ず、考えるより行動だ。行くぞ。
0:ヴァスラガがまず最初に付近の魔獣を一掃し、他の三人もそれに続いて魔獣をかたづける。
メリン:突然現れたとなると…考えられるのは一つしかない。
アティシア:もしかして…魔獣使ですか?
メリン:そう。魔獣は野生と人の手で手懐けられた個体が居る。動きを見るにこれは後者の個体。となると、その魔獣たちを従える魔獣使が居ると考えるのが自然よ。
エディ:やべえな…ドラフのやつ生きてっかな…とりあえず先を急ぐぞ!
0:ドラフの教会に一行はたどり着く
アティシア:ドラフ様!大丈夫ですか!
0:すると教会内でドラフと何者かが戦っていた。
ドラフ:アティシア!来るんじゃない!
魔獣使:人の心配してる暇かしら?隙だらけよ。
ドラフ:くっ。
0:魔獣使の一撃が命中する。
ドラフ:ほおう。やるな。貴様のような手練れもまだ残っているとは…ガジュルの手先よ。
魔獣使:うふふ。リーガを信仰している軟弱者たちと一緒にしないでくれないかしら?
アティシア:貴方、もしやガジュル教団の方ですね。
魔獣使:ええ、そうよ。ランヴァは私たちにとっては邪魔だからねえ。襲撃しておこうと思って。
メリン:ガジュル教団…暗黒神ガジュルを信奉している者たちの集まりね。しかしおかしいわ。随分前にリーガ教との宗教戦争でその姿を消したと聞いていたけど。
魔獣使:そんなのはもう500年も前のことよ。私たちは何年もこの世界の影の場所で生きながらえてきた。そして今こそ、リーガに復讐の鉄槌が下る時だわ。手始めに、あなた達には死んでもらう。
0:瞬間、魔獣使がアティシアとの距離を詰める
ドラフ:アティシア!危ない!
アティシア:なっ!
0:アティシアが魔獣使に一気に吹き飛ばされる。魔獣使とアティシアは遠くに飛んでいく
魔獣使:ああら。尖兵があなたは相当強いと言っていたけどそうでも無いようね。
アティシア:はあ、はあ…今のは不意打ちだったからです…私はこんな物では…
魔獣使:にしては隙が多すぎじゃない?早くしなさいな。魔獣はどんどん町の人々を殺していくわよ?
エディ:おい、大丈夫か!アティシア!
メリン:まずいわ。探知魔法を使って調べてみたけど、町の至る所に魔獣が居る。
ドラフ:神官戦士や聖騎士団が動いてはくれている。しかし…思ったよりこ奴の力は強力だ。たった一人で相当数の魔獣を従えている。魔獣一体ずつの力も強い。
ヴァスラガ:私たちも散った方が良いのではないか?このままでは消耗するのみだ。
エディ:そうだな…分かった。メリンとヴァスラガは町の魔獣たちを倒してくれ。こいつは俺とアティシアで抑える。ドラフは二人の案内とサポートを頼む。
メリン:分かった。無理するんじゃないわよ。
ヴァスラガ:武運を祈っておく。
ドラフ:ならば急ぐぞ。二人とも、着いてこい。
0:三人は離れる
魔獣使:ああら。戦力を分散して良かったのかしら?
エディ:構わないさ。むしろ少人数の方が俺は戦いやすい。アティシア、まだ戦えるだろう?
アティシア:勿論です。
エディ:その意気や良しだ。どうだ、あいつの一撃をもらっての感想は。
アティシア:…正直、私より幾つも格上の相手です。これだけの規模の魔獣の襲撃を統率しているだけある…という所でしょうか。
エディ:成程…おいあんた。
魔獣使:んー?何かしら。ギルドの剣士さん。
エディ:あんたの目的は何だよ。さっき襲撃しに来たとか言ってたが、もしこのランヴァを落とすのが目的なのならもっと大人数で攻めるはずだろう。だが、見たところ来てるのはあんた一人。こいつはどういうことだ。無論一人であの量の魔獣を統率できるその技術は何十人分の戦力になるだろうが…
魔獣使:鋭いわね。まあ、私の目的は飽くまでガジュルの復活を世界に知らしめるためよ。別にここの壊滅が目的じゃないわ。少し威圧して、そこそこの被害が及んだら帰る予定よ。
アティシア:そうはさせません!唯一神の砕光よ、敵を裁き給え!神聖魔法『パニッシュメント』!
魔獣使:甘いわねえ。宵闇に宿りし神よ、罪人に報いを。闇魔法『ヴェンデスガ』。
アティシア:はあ、はあ、嘘…私の神聖魔法が…
エディ:おいおい、俺は放置か?混ぜてくれよ!
0:エディの攻撃を魔獣使は黒い短剣でいなす。
魔獣使:そんなに急がなくてもほったらかしになんてしないわ。
エディ:おいおい、あんた魔獣使だろ?なんで接近戦までいけんだよ…
魔獣使:魔獣使が魔法や魔獣の使役しかできない時代は終わったのよ。まずはあなたから眠りましょうか。(深呼吸)はっ!
0:魔獣使が剣を振ると影のような斬撃が空気中を駆け抜ける
エディ:(っと、シャドウスラッシュか。会得には高い魔力が要されると聞いたが…あいつ…自身の能力に見合った技を持ってやがる。相当強いな)
エディ:おい、アティシア。
アティシア:はい。
エディ:俺と攻撃を合わせるぞ。あいつはめちゃくちゃ強い。俺でも一対一は分が悪いくらいだ。俺の斬撃に合わせて、お前はサポートと援護を頼む。
アティシア:分かりました。やれるだけのことはやってみます。
0:瞬間、一気に二人は距離を詰める
アティシア:ファイアー!
エディ:旋風斬!
魔獣使:うーん…二対一はきついわね…
エディ:このまま耐えるぞ!
アティシア:はい!
ドラフ:この先に魔獣が密集している中央広場が有る。そこを私とメリン殿で攻撃、町の各地に居る魔獣には聖騎士や神官戦士が対処しているが…そっちには機動力のあるヴァスラガ殿が援軍に行ってくれ。そして、各地の騎士に中央の広場に魔獣を連れてくるように伝えてくれ。集まってきたところをメリン殿と私の魔法で一気に叩く。
メリン:了解です。
ヴァスラガ:承知した。では、ここで私は離れる。健闘を祈るぞ。
ヴァスラガ、家屋をジャンプして渡っていく
ドラフ:…一つ良いか。
メリン:何でしょう
ドラフ:何故、エディと共に旅をしている。
メリン:あー…話すと長いんで色々省くんですけど、魔道学院を卒業してから自分の生きる価値が分かんなくなってて。その時に助けてくれたのがエディだったんです。それからは彼といると居心地が良いので一緒に旅をしています。
ドラフ:成程な。彼は情に厚いからな。ずっと人助けをしているのだろう。これからもエディを支えてやってくれ。
メリン:はい。楽しく旅しながら、私の命が続く限りは一緒に居る予定です。
ドラフ:ははは。おっと、ここだな。
0:二人が着いた場所は大きな広場。既に被害は甚大で周囲には騎士たちの死体が散らばっている。魔獣の数は3体。
ドラフ:メリン殿、どうだ。やれそうか。
メリン:三匹程度ならば私のフレイムカーテンを使えば倒せるかと…ですが物凄い魔力を使用するのでかなりの隙が生まれてしまいます。
ドラフ:ならば私が時間を稼ごう。『ゴーレム』を呼び出し、強化魔法をかける。
メリン:分かりました。自然魔法『フレイムカーテン』。
0:メリンは魔を込める
ドラフ:リーガの御許の騎士よ。現世に降りて顕現せよ。
0:光と共に銅像のような見た目をした「ゴーレム」が召喚される。
ドラフ:唯一神リーガの名の下に、我らに無限の魔力を。はっ!
0:ゴーレム、ドラフ、メリンに魔力を底上げするバフがかかる。
メリン:!ありがとうございます。
ドラフ:なに、この程度はただの支援魔法だ。
0:ゴーレムは魔獣たちを光る剣で威圧し、攻撃する。しかし魔獣もゴーレムを攻撃する
ドラフ:ううむ、ゴーレムだけでは少しばかり心もとないか。ならば私も少しばかり攻撃を。『ブリザード』!
メリン:ブリザード…氷魔法がお得意なのですね。
ドラフ:うむ。自然魔法は氷しか扱えんのだ。
0:魔獣たちは氷に苦しむ。
メリン:あと…少しで…よし!炎の幕よ、大地を覆い尽くせ!『フレイムカーテン』!
0:瞬間、広場は炎に包まれ、魔獣たちは燃えていく。
ドラフ:流石だ。凄まじい魔力だな。
メリン:いえ…しかし、少し…疲れました…
ドラフ:魔力を回復させよう。しかし…騎士たちはもう…助からんな。
メリン:もう少し私たちが早く来てれば…
ドラフ:いいや、過ぎたことだ。民間人を避難させよう。まだ戦いは終わっていない。
モブA:はあ…はあ…なんだこの魔物…勝てない…
ヴァスラガ:飛んでる魔獣が一体、少し強い魔獣が一体か。
0:瞬間、ヴァスラガは弓を取り出し飛ぶ魔獣を打ち抜く、魔獣は落ちてくる。
ヴァスラガ:風の精霊よ。我が身体に翠風を。
0:ヴァスラガの槍に風の力が宿り、一刺し。
モブA:貴方は…ギルドの方ですか。
ヴァスラガ:左様。立てるか。
モブA:ええ。大丈夫です。
ヴァスラガ:ならば騎士全体に伝令し、中央の広場に魔獣を集めるよう伝えてくれ。
モブA:わ、分かりました。ですがなぜ…
ヴァスラガ:早くしろ。時間との勝負だ。
モブA:!了解。
0:モブA去る
ヴァスラガ:さて、あとは貴様か。
0:もう片方の魔獣は不意を突き攻めてくる
ヴァスラガ:竜弓殺法・風式・飛空現世(ひくうげんせい)
ヴァスラガの放った弓が一本から数本に分裂していく。目や足に命中して魔獣は苦しむ
ヴァスラガ:騒ぐな。今楽にしてやる。竜槍殺法・土式・開権柱塩(かいごんちゅうえん)!
0:魔獣は地を鳴らすほどの連撃で息絶える
ヴァスラガ:よし、まずは二匹。後は…外れの方に居る魔獣を狩って回るか。
エディ:(よし、確実に効いている)
アティシア:(やはり人数の差が有ればいくら手練れとはいえ…かなり消耗している)
魔獣使:はあ…流石に疲れてきたわね。いつまでこうしてるつもりかしら。
エディ:そりゃ勿論お前が降参するまでだ。まだ畳みかけるぜ。『削岩斬』!
アティシア:光の刃よ…我が敵を貫け。『プライジャベリン』!
魔獣使:くっ…避けきれない…がっ!
エディ:よっしゃ!一気に攻めろ!
アティシア:はい!『ホーリースラッシュ』!
魔獣使:ぐっ…『オメガ』。
0:鎧のような魔獣が現れる
エディ:ちっ…魔獣を呼び出しやがった。
魔獣使:ふふふ…久しぶりに面白い戦いができたわ。でもね。さっきも言った通り今回はただの様子見なの。相手してくれ嬉しかったわ。それじゃあね。お二人さん。
0:魔獣使は消えていく
アティシア:待て!逃げるなあ!
エディ:よせ!今はこの魔獣を倒すぞ。
アティシア:くっ…分かりました…
ヴァスラガ:大丈夫か。二人とも。
エディ:ヴァスラガ!二人は作戦は上手くいったのか。
ヴァスラガ:ああ。メリン殿とドラフ殿が集まってきた魔物たちを相手してくれている。二人にも加勢してもらおうと迎えに来たのだが…面倒なことになっているな…
エディ:ああ。めちゃくちゃ面倒だ。悪いが手を貸してくれ。アティシア。MPは大丈夫か。
アティシア:はい。あと三回程度なら魔法を放てます。
エディ:分かった。俺とヴァスラガに攻撃力の強化魔法を頼む。そして後方から遠距離魔法による支援攻撃をしてくれ。
アティシア:はい。唯一神リーガの名の下に、我らに無限の力を。はっ!
エディ:よし。ヴァスラガ、お前は左から攻めろ。俺は右から攻める。見たところこいつはアーマー魔獣だ。鎧をぶっ壊すのが先だ。
ヴァスラガ:了解。竜槍殺法・鋼式・鐘鳴壊岩(しょうめいかいがん)!
エディ:食らえ!『アーマーブレイク』!
アティシア:自然魔法、『フィストプローション』!
0:魔獣の鎧が砕けて本体が露わになる。
エディ:今だ!畳みかけろ!『明鏡止水』!
ヴァスラガ:竜弓殺法・宵式・奪命遊蘭(だつめいゆうらん)!
アティシア:(なぜだろう。町は荒れ、危険な実戦に身を置いて、命を散らすぎりぎりの戦いの中に私は居るのに…この非日常を私はどうも…)
アティシア:(楽しいと思ってしまった)
エディ:はあああああああああああ!疲れたああああああああああ!
メリン:久々にこんなに魔力を使ったわ…しばらく休みたい…
ヴァスラガ:二人ともたるんでいるな。まあ…皆非常に良い働きだった。アティシア殿も、実戦経験も少ないのに上手く立ち回れていたぞ。
アティシア:ありがとうございます。実戦で皆様の動きや戦いから沢山のことが学べました。本当に参考になりました。
ドラフ:…
エディ:ドラフ、どうした?だんまり決め込んで。
ドラフ:アティシア。
アティシア:!はい。何でしょう。
ドラフ:お前、ランヴァを出ていきたいだろう?
アティシア:え…!…はい。前々から思っていました。
ドラフ:やはりな…(溜息)どうだ。エディよ。こいつを連れて行ってくれないか。
エディ:え!?良いのかよ。
ヴァスラガ:冒険には危険が伴うが…任せてよいのか。我々に。
ドラフ:ああ。お前たちならば任せられると思った。そして何より今回の襲撃により、各地への調査も必要だろうと思っていた。ガジュルとの戦いの上で、実力を持ち外部への関心も有るお前は適任だろう。
アティシア:では…あくまで名目上は外部調査としてのギルドへの入団ということですか?
ドラフ:ああ。どうだ。この際こ奴らと旅をするのは。
アティシア:私は、お三方が良いと言ってくださるのであれば…ご一緒したいです。
メリン:私は歓迎するわ。魔法使いで私と同じ女の子だもの。色々互いに学べる事も多いと思うし。
ヴァスラガ:私は…此度の戦いで貴殿に興味がわいた。ぜひ、旅の中で高め合えたらと思う。
エディ:俺も構わない。だがドラフ、本当に良いのか?愛弟子を俺に渡して。ギルドに入る以上、俺らも安全を保障できるわけじゃない。こいつが死体になって帰ってくるかもしれない。
ドラフ:その時は…運命を受け入れるまでだ。
エディ:分かった。アティシア、お前を歓迎する。俺らのパーティーへようこそ。
アティシア:はい!これからよろしくお願いします!
アティシア:(こうして、私の冒険は始まった。これからどんな日々が待っているのだろう。心を躍らせながら私は、このランヴァを出た。私の日常が、非日常へと変わるのだった。)
アティシア:物心ついた時から私は教会で生活していた。お父さんとお母さんの顔は知らない。小さい頃から唯一神リーガ様に信仰を捧げ、私は神官戦士としての修練に励んできた。そして今は、神殿都市「ランヴァ」の守り手として働いている。
アティシア:ドラフ様、もう朝ですよ。起きてください。
ドラフ:む…ああ、おはようアティシア。
アティシア:もう。聖職者が規則正しい生活を守らないでどうするんですか。
ドラフ:手厳しいな…今は何時だ…
アティシア:7時です!朝の礼拝の時間はすぐですよ
ドラフ:分かった、分かった。今すぐ行こう。
ドラフ:主の名のもと、祈りを捧げたまえ。神の慈愛の中に、我らの時を刻みたまえ。
アティシア:(毎日の礼拝。そんな変わり映えの無い毎日を、私は過ごしている。平和なのは良いことだ。でも、どこかでつまらなく感じている私が居る。)
ドラフ:おいアティシア。どうした?ボーっとして。お前らしくもない。
アティシア:あ…申し訳ありません。少し気を抜いてしまいました。…そろそろ訓練の時間ですね。行ってまいります。
アティシア:まだまだ基本がなってませんね。しっかり剣の使い方を学ぶことです。
モブA:は、はい…ありがとうございます………凄いですね…一本も取れませんでした…
アティシア:当然です。私は神官戦士です。どんな時も強くなければなりませんから。
アティシア:(私以上に強い神官戦士も、このランヴァにはほとんどいない。毎日訓練場では、私に稽古をつけてもらおうと色んな人が来るけれど…正直…張り合いが無くて退屈だ。)
0:教会にて
エディ:すんませーん。
アティシア:ん、はい。冒険者の方々ですね。教会の設備を御利用になるのでしたら、ギルドの証明書をお出しください。
エディ:あ、うっす。
アティシア:(教会では冒険者に向けて回復や解毒などのサービスを行っている。ギルドの証明書があれば無料で受けられるのだけれど…)
エディ:あれ、無え。メリン!持ってないか?
メリン:は?持ってないけれど。ちゃんと確認しなさいよ。ヴァスラガは?
ヴァスラガ:私も持っていないぞ。そもそも、貴重品はエディ殿が管理しているはずではないか。
エディ:……ギルドに置いてきたかも…
メリン:はあ…ほんと…何やってんだか…
ヴァスラガ:自分の持ち物ならまだしも、皆に必要な証明書を忘れてしまうとは。エディ殿…気が緩んでおるぞ。
アティシア:(おそらく身なりから冒険者であることは間違いないけれど…その内の一人はリザードマンか。珍しいな。)
アティシア:もし、お持ちでないのであれば…教会の設備は利用できませんが…
エディ:ええっ、そいつは困るよー!あ、そうだ!金払えば受けさせてくれるか!頼むってー!
アティシア:な!唯一神リーガ様の恵みを金銭で買おうとは…何たる無礼でしょうか!許されませんよ!
エディ:え、ごめんって!そんな大事なことだったのか。許してくれって~!
アティシア:全く…
ドラフ:まあまあそう熱くなるでない。アティシアよ。
アティシア:ドラフ様…
エディ:(遮って)ドラフじゃねえか!まだこの街に居たのかよ!
アティシア:え…面識が、有るのですか?
ドラフ:うむ。古き縁でな。そちらは新たな仲間か?見たところ、人間以外の種族も居るようだが。
ヴァスラガ:ヴァスラガと申す。エディ殿の知人のようだな。訳有って、今は旅を共にさせてもらっている。
メリン:メリンです。エディとは昔に知り合ってそれからずっと一緒に冒険しています。
ドラフ:成程な。よろしく頼むぞ。して、何やら揉めていたようだが…
アティシア:ああ、いえ。この方々がギルドの証明書をお持ちでないみたいで。教会の設備を提供するのは無理ですと言っていたのですが…
エディ:いやあ。忘れちまったんだよ~。ドラフ!堅いこと言わずに受けさせてくれないか!
ドラフ:うーん…まあ、その代わりに金銭以外での代償を支払ってくれるのならば良いが。
エディ:え、まじ!?いいぜいいぜ。魔物退治か?それとも賊退治?
ドラフ:いや、このアティシアに戦いの指南をしてやってほしい。
ヴァスラガ:そんなことで良いのか。
メリン:まあ、私たちで良いなら。どうするの?エディ。
エディ:勿論俺も良いが…彼女は神官だろ?戦いなんてするのか?
ドラフ:アティシアはこのランヴァでも指折りの神官戦士だ。強くなるために、様々な戦い方を知っておいた方がこ奴のためになるだろう?
アティシア:私としても、冒険者の方々に指南をしていただけるのであれば、とてもありがたいです。
エディ:よし。良いぜ。後で訓練場に案内してくれ。
アティシア:はい!
アティシア:(思いがけない形でだけれど…平凡な日々に少しだけ、刺激ができたような気がした。)
エディ:まずは俺から稽古をつけてやろう。最初はお前の実力を測らなくちゃあな。一回切りかかってこい。
アティシア:はい。よろしくお願いします。
アティシア:(凄い…流石冒険者…精錬され尽くした無駄のない構え…付け入る隙が無い。でも、ここは全力で!)
0:カンっ!と鈍い金属音が響き渡る。
エディ:…うーん…神官らしく華やかで、素早い一撃だな。
アティシア:ありがとうございます。
エディ:でもなあ威力が全然だ。ちゃんと鍛えてるのか?
アティシア:一応、毎日素振りを1000回、対人稽古も日々欠かさず行っていますが…
エディ:へえ、どんな剣使ってるんだ?
アティシア:一応、これを。
0:渡された訓練用の剣を見て、エディは成程。といった顔をする。
エディ:駄目だな。これ。いくら訓練用とはいえ軽すぎる。最低でもこれの五倍くらいの重さを使え。
アティシア:五倍、ですか。
エディ:ああ。速さや巧みさは戦士本人の才能の面がでかいが、力っていうのは唯一凡人も等しく伸ばせる要素の一つだ。どんな状況でも伸ばしておいて損は無い。んで、力を手っ取り早く伸ばせるのが重い得物に慣れることだ。
アティシア:分かりました。今度は五倍でやってみます。
エディ:それともう一つ。お前、何かスキルや技は持っているか?
アティシア:ええ。一応。体得している技は『ホーリースラッシュ』と『エネルギードレイン』で、スキルは『祈り』と『祝福付与』です。
エディ:神官らしいラインナップだな。お前も知っている通り、経験を積んだり伝授してもらうことで手に入れることができるのが技、生まれた時からある程度覚えられるものが決まっているのがスキルだ。技が主に攻撃の面でのサポートなのに対して、スキルは自身や周囲の強化や敵へのマイナス効果を担っている。俺からは「明鏡止水」という技を伝授しよう。
アティシア:明鏡止水…確か、集中力を高めることで敵の攻撃を受け流しつつ攻撃する技ですよね。
エディ:その通りだ。技の伝授には、双方の同意が必要だ。アティシア、俺の手を握ってくれ。
アティシア:はい。
0:手を握るとエディが呪文を唱える。
エディ:『戦士を見守る技の神よ戦士から戦士へ、新たな力を伝えたまえ』
0:するとアティシアに力がそそがれる。
エディ:よし。これで伝授完了だ。試しに技を使ってみろ。
アティシア:はい。(深呼吸)
アティシア:(精神を研ぎ澄まして…自分の気を剣に込めろ)
アティシア:はっ!
0:水のような音と共に剣閃が走る
エディ:しっかり体得できてるな。これで俺から教えるのは終わりだ。
アティシア:ありがとうございます。学んだことを活かして更に精進します。
エディ:ああ。頑張れよ!よし、じゃあ次は…メリン、お前が教えてやれ。
メリン:分かった。そうね…私は、魔法について教えてあげるわ。
メリン:まず、魔法にはどんな種類が有るか知っているかしら。
アティシア:自然魔法、精霊魔法、闇魔法、神聖魔法、そして…原理魔法ですね。
メリン:そう。あなたはどれを使えるのかしら?
アティシア:私は、自然魔法と神聖魔法を使えます。精霊魔法は適性が無く、闇魔法は私の職業では規制がかかってしまい使えません。原理魔法は…私の魔力ではとても…
メリン:成程。まあ予想通りね。だったら自然魔法の「効率化」について教えるわ。まず、あなたのMPを教えてくれる?
アティシア:64です。頑張って伸ばそうとしているのですが…中々伸びなくて…
メリン:まあMPは体質が影響するから仕方無いわね。あなたも知っている通り、「どれだけ魔法を撃てるか」はMPに依存する。MPが多ければ多いほど魔法を使った長期戦ができる。いわば魔法の体力と言っても良いわ。魔力はその人が持つ魔法の基本威力。魔法はこの魔力に魔法自体の威力を上乗せして、更にどれだけのMPを出力するかで決まる。これは分かるかしら?
アティシア:はい。自然魔法の基本原理、ですよね。知っています。
メリン:そ。私が今から教えるのは省エネルギー且つ相手を仕留めるのに充分なMPの出力の仕方よ。これができる魔法使いとできない魔法使いとでは持久力が全く変わってくるわ。試しに私が今から召喚する人工獣(アーティビースト)に魔法を撃ってみなさい。
メリン:『魔の流れに宿りし獣、我が呼びかけに応えよ』
0:魔法陣が浮かび上がりそこから人工獣が出てくる
メリン:とりあえず、一番簡単なファイアーを使いなさい。そこから私が色々教えていくわ。
アティシア:分かりました。
アティシアは魔力を込める
アティシア:『ファイアー!』
0:人工獣は倒れる
アティシア:どうでしょうか。
メリン:うーん…全然だめね。ファイアーにしては人工獣の外傷が大きすぎる。人工獣に対して出力するべき最適なMPを上回っているってことね。じゃあ問題、その「最適なMP」を私たち魔法使いはどうやって図っているでしょうか。
アティシア:え………専用の道具が有るとか?
メリン:半分正解ね。確かに、専用の道具が無いわけじゃ無い。どうしてもこの「効率化」ができない人って居るからね。そういう人の為の道具は有るにはあるけれど、高価だし道具無しでできるようになった方が絶対的に良い。正解は、相手の魔の流れを見極めること。
アティシア:魔の流れ…?
メリン:そもそも「魔」っていうのは、私たちが生きてるこの世界の空気の中にあふれている。これらを自身の魔力を使って意識的に知覚することでどこにどれくらい、どの勢いで「魔」が流れているかが分かるようになるの。試しにやってみなさい。コツは、普段自分に込めてる魔力を少しずつ外に溢れさせてみなさい。
アティシア:分かりました…(普段使っている魔力を外に……)
0:すると、アティシアの周りに流れる「魔」が分かるようになる
アティシア:あ!
メリン:どう?分かった?
アティシア:分かりました!メリンさんはこの世界を見ていたのですね。
メリン:そうそう。まあ、これをわざわざ意識せずに行えるようになれれば良いんだけど。まだそのステップじゃ無いわね。そして、対象の生き物や物体の持つ魔力が高ければ高いほど「魔」の流れは強く、勢いの有る物へと変わる。試しに、私とヴァスラガとエディを見てみなさい。
アティシア:本当だ。皆さんの周りに流れている「魔」は、全然流れが違いますね。
エディ:こん中じゃ俺が一番魔力が低いが、俺の周りは一番ゆったりしている。対して、一番ぶっちぎりの魔力を持っているメリンの周りだけすげえ激しい。そういうことだろう?
ヴァスラガ:魔の訓練を受けていない我々には分からぬが…
アティシア:はい。成程…つまりこの「魔」の流れに丁度良い魔力を、MPをコントロールしてぶつけるっていうのが自然魔法の「効率化」なのですね。
メリン:その通り。凄いわね。ちょっとのアドバイスでここまでできるようになっちゃうなんて。分かっちゃったならもう話は必要無いわね。もう一回人工獣を呼び出すから今度は最適なMPを出力してみなさい!
0:また人工獣が現れる
アティシア:分かる…さっきまで分からなかった「魔」の流れが…どれだけの威力で魔法を放てば良いのかが…
アティシア:人工獣に対して一番丁度良いMP…こうだ!
0:また人工獣は倒れる
メリン:お。良いわね…合格よ。ここまでできれば充分よ。よくやったわ。
アティシア:はい!教えていただきありがとうございます!
メリン:ああ、そうそう言い忘れていた。いくら効率化ができるようになったとはいえ、いつまでも弱い魔法を使うのは禁物よ。魔法にはそれぞれ込められるMPの限界が有るの。だからあまりに強い魔の流れを持っている敵には使用する魔法を変えること。ファイアーがだめならフレイムに、フレイムがだめならバーンに、って感じにね。実戦慣れしてない子がやりがちなことだから気をつけなさい。
アティシア:はい。とても勉強になりました。
ヴァスラガ:メリン殿、修練は終わったか?
メリン:ええ。次はヴァスラガが教えてあげて。
エディ:ヴァスラガが人に戦いの指南をするなんて、珍しいな。俺も楽しみだ。
アティシア:人間以外の方に物を教えていただくのは初めてですが、よろしくお願いします。
ヴァスラガ:うむ。よろしく頼む。ではまず、場所を移動しよう。ランヴァの周りには森林地帯が有ると聞いた。そちらに案内してはくれないか。
アティシア:え、森林にですか……分かりました。因みにどんなことを教えてくださるのですか?
ヴァスラガ:それは着いてから話す。
ヴァスラガ:では、訓練を始めよう。
アティシア:はい。よろしくお願いします。
ヴァスラガ:まず、訓練の内容についてだ。今からこの森林内で、私と本気で戦ってもらう。良いか、最初から本気だ。絶対に手を抜いてはならん。訓練用の武器とはいえ、私は貴殿を殺しにかかる勢いで仕留めに行く。互いのどちらかが拘束、あるいはギブアップするまで訓練は続ける。私は何分器用ではない故、このような荒い方法ですまんが納得してくれ。
アティシア:分かりました。絶対に良い訓練にしてみせます!
ヴァスラガ:その意気やよし。では、参る!
0:すると、ヴァスラガの姿が森の中に消える。
アティシア:(リザードマンの超人的身体能力…森林のような複雑な地形をものともせず飛び回る機敏さを活かして、攻撃を仕掛ける気ですね…ならば私も得意な戦い方で応えてみせます!)
アティシア:神聖魔法『ファリーセンス』!
ヴァスラガ:(ほう、あれは確か…神官のような神職のものが体得する感知の魔法か。そちらがその気なら、こちらは魔法の精度を超えて動きを激しくするまで!)
アティシア:!ファリーセンスに反応が現れない…成程…魔法の限界速度を超えて動いている、ということですね。
ヴァスラガ:そろそろしかけるか…
0:突然草むらからヴァスラガが飛び出す
ヴァスラガ:はあっ!
アティシア:くっ…!
0:すんでのところでアティシアが受け止める
ヴァスラガ:ふむ…やるな。
アティシア:ファイアー!
0:すかさず魔法で反撃を図る
ヴァスラガ:すぐに反撃に移る反射神経…見事だ。
アティシア:(くっ…流石冒険者にしてリザードマンの戦士の方…こちらの力と比べるとまさに圧倒的…本当に最初から全力でなければすぐにやられる…)
アティシア:ホーリースラッシュ!
0:光と共に斬撃が飛ぶ
アティシア:もう一度…ホーリー…
ヴァスラガ:(遮って)いかん。焦りすぎだ。
アティシア:な!いつのまに後ろに…
0:瞬間、ヴァスラガの強力な一撃がアティシアの脇腹に下る
アティシア:がっ…
アティシアが倒れるとともにヴァスラガは用意していたツタでアティシアを拘束する
ヴァスラガ:これで私の勝ちだ。
アティシア:はあ…はあ…手も、足も…出ません、、でした…
ヴァスラガ:今の訓練を率直にどう思った?
アティシア:え…
ヴァスラガ:率直な感想で良い。
アティシア:そう、ですね…正直…完全に相手の土俵でしてやられたと…思いました…
ヴァスラガ:うむ。そう思うだろう?
アティシア:?あの…一体何を聞きたいのですか?
ヴァスラガ:私が教えたかったのは主に二つだ。一つは、圧倒的に不利な状況での立ち回り方と、どんな窮地だろうと平静を保つ心意気だ。
アティシア:なるほど…
ヴァスラガ:貴殿は今、森林という完全なる私のテリトリーの中で私と交戦した。戦士たるもの、時には完全に不利な状況下で戦闘を行う場合も有る。そういった時に如何に最大限の力を発揮し、焦らず冷静な対処をできるかが重要なのだ。
アティシア:敵にアドバンテージが有る状況で、自らをコントロールする…簡単なようでとても精神力が必要なのだと改めて分かりました。貴方はそういった不利な状況の時にどのような方法で平静を保ち、自身の全力を出せる立ち回りをしているのですか?
ヴァスラガ:そうだな…それを話すには、私の種族…リザードマンについて理解してもらう必要が有る。まず、貴殿はリザードマンがどのような環境で生活をしているかは知っているか?
アティシア:はい。森林や山間部、ジャングルなどの自然豊かな地帯に集落を作る部族が多いと聞きました。
ヴァスラガ:その通りだ。正確に言えば「自然の力が宿る場所」と言うことができる。部族によっては砂漠や火山地帯などの過酷な場所で生活をしている者たちも居る。自然とは何も「緑の豊かな場所」のみを指すものではない。砂漠の無機質な自然の静寂、火山の荒れ狂うような自然の勇ましさ。これらに我々は太古の時代から触れてきたことで『自然と調和する術』を身に着けたのだ。
アティシア:なる…ほど…ですが、それと先ほどの話に何の繋がりが?
ヴァスラガ:「有利」には様々な形式が存在する。地形の有利、天候の有利、気温の有利、等々…一つ想像をしてみろ。もし貴殿より圧倒的に弱い相手と対峙したと考えてみろ。油断はしないにせよ、何か小細工をわざわざ弄する必要は有るか?
アティシア:いえ。正面から戦うのみで勝負がつくと思います。
ヴァスラガ:そうだろう。では逆をまた想像してみろ。貴殿よりも圧倒的な力を持つ者と対峙したとする。そういった時、弱者の側はどのようにして戦いに臨む?
アティシア:力で勝てないのなら、環境を少しでも自分に有利な状況にしてどうにか相手との力量の差を埋めて…あっ。
ヴァスラガ:もう分かっただろう。弱者が強者に太刀打ちするためには自分の力以外をいじる必要が有る。その最も大きい要素が『環境』だ。そして環境を変えるのに一番大きな役割をこなすのが自然の力だ。このように、自然の力は偉大なのだ。しかし、自然によるアドバンテージを気にせずに戦う方法が有る。それは何だ?
アティシア:自然と…調和すること…
ヴァスラガ:うむ。相手が自然を利用するのならばこちらも自然に語り掛け、味方に着ける。そうすることで本来自分にとって不利だったはずの状況はひっくり返り、己にも余裕が生まれて楽になる。例えば私の種族は寒所に弱い。だが、自然の中の「気温」に語り掛けることで多少の身体への影響を緩和できる。…これらの技術は一種の自己暗示に近い。しかし、この技術を身に着けることで戦いにおける「隙」が減る。我々リザードマンはこの技術を『ラヴグディ』(自然との調和)と呼んでいるが、これらは人間にも体得が可能だということが分かっている。少しずつで良い。貴殿も体得できるように自然と対話をすることだ。
アティシア:はい。自然との調和…ですか。正直、分からないことばかりですがどうにかコツを掴んで見せます。
ヴァスラガ:精進せよ。言えることはそれだけだ。さて、私も教えることは終わったが、後はどうする?
エディ:あー、とりあえずドラフの所行って報告するか?
メリン:そうね。アティシアもよく頑張ったわ。貴方、中々筋が良いわよ。エディの武芸の技術も積極的に取り入れて、私の魔道理論も物にして、ヴァスラガの自然との調和も理屈だけとはいえ理解ができる。このまま修行を続ければもっと強くなれるわ。
ヴァスラガ:私も貴殿には大きな可能性を感じている。いつか貴殿の活躍が我々の耳に入ってくるのを期待しているぞ。
アティシア:はい!私の方こそありがとうございました。皆さんの技術は何というか、難しい所もあったのですがとても参考になりました。そして、何より…今日はとても楽しかったです。本当に、良い経験ができました。
エディ:はは。なら良かったよ。さーて、さっさと街に戻りますか。って…おい。あれ…
メリン:ん?どうしたの。
エディ:あそこ…何で煙上がってんだ?何か祭でもやってんのか?
アティシア:いえ、今日は特に祭祀の予定はないはずです。
ヴァスラガ:ということは…もしや危険な状況にあるのではないか?
アティシア:行きましょう。一刻も早く!ランヴァには沢山の人が住んでいます。巡礼者の方々の命も危ない。時間との勝負です!
エディ:おいおい、マジかよ…これって…
メリン:魔獣…?おかしいわ。ここらへんで魔獣の出現報告なんて聞いたことが無い。
ヴァスラガ:一先ず、考えるより行動だ。行くぞ。
0:ヴァスラガがまず最初に付近の魔獣を一掃し、他の三人もそれに続いて魔獣をかたづける。
メリン:突然現れたとなると…考えられるのは一つしかない。
アティシア:もしかして…魔獣使ですか?
メリン:そう。魔獣は野生と人の手で手懐けられた個体が居る。動きを見るにこれは後者の個体。となると、その魔獣たちを従える魔獣使が居ると考えるのが自然よ。
エディ:やべえな…ドラフのやつ生きてっかな…とりあえず先を急ぐぞ!
0:ドラフの教会に一行はたどり着く
アティシア:ドラフ様!大丈夫ですか!
0:すると教会内でドラフと何者かが戦っていた。
ドラフ:アティシア!来るんじゃない!
魔獣使:人の心配してる暇かしら?隙だらけよ。
ドラフ:くっ。
0:魔獣使の一撃が命中する。
ドラフ:ほおう。やるな。貴様のような手練れもまだ残っているとは…ガジュルの手先よ。
魔獣使:うふふ。リーガを信仰している軟弱者たちと一緒にしないでくれないかしら?
アティシア:貴方、もしやガジュル教団の方ですね。
魔獣使:ええ、そうよ。ランヴァは私たちにとっては邪魔だからねえ。襲撃しておこうと思って。
メリン:ガジュル教団…暗黒神ガジュルを信奉している者たちの集まりね。しかしおかしいわ。随分前にリーガ教との宗教戦争でその姿を消したと聞いていたけど。
魔獣使:そんなのはもう500年も前のことよ。私たちは何年もこの世界の影の場所で生きながらえてきた。そして今こそ、リーガに復讐の鉄槌が下る時だわ。手始めに、あなた達には死んでもらう。
0:瞬間、魔獣使がアティシアとの距離を詰める
ドラフ:アティシア!危ない!
アティシア:なっ!
0:アティシアが魔獣使に一気に吹き飛ばされる。魔獣使とアティシアは遠くに飛んでいく
魔獣使:ああら。尖兵があなたは相当強いと言っていたけどそうでも無いようね。
アティシア:はあ、はあ…今のは不意打ちだったからです…私はこんな物では…
魔獣使:にしては隙が多すぎじゃない?早くしなさいな。魔獣はどんどん町の人々を殺していくわよ?
エディ:おい、大丈夫か!アティシア!
メリン:まずいわ。探知魔法を使って調べてみたけど、町の至る所に魔獣が居る。
ドラフ:神官戦士や聖騎士団が動いてはくれている。しかし…思ったよりこ奴の力は強力だ。たった一人で相当数の魔獣を従えている。魔獣一体ずつの力も強い。
ヴァスラガ:私たちも散った方が良いのではないか?このままでは消耗するのみだ。
エディ:そうだな…分かった。メリンとヴァスラガは町の魔獣たちを倒してくれ。こいつは俺とアティシアで抑える。ドラフは二人の案内とサポートを頼む。
メリン:分かった。無理するんじゃないわよ。
ヴァスラガ:武運を祈っておく。
ドラフ:ならば急ぐぞ。二人とも、着いてこい。
0:三人は離れる
魔獣使:ああら。戦力を分散して良かったのかしら?
エディ:構わないさ。むしろ少人数の方が俺は戦いやすい。アティシア、まだ戦えるだろう?
アティシア:勿論です。
エディ:その意気や良しだ。どうだ、あいつの一撃をもらっての感想は。
アティシア:…正直、私より幾つも格上の相手です。これだけの規模の魔獣の襲撃を統率しているだけある…という所でしょうか。
エディ:成程…おいあんた。
魔獣使:んー?何かしら。ギルドの剣士さん。
エディ:あんたの目的は何だよ。さっき襲撃しに来たとか言ってたが、もしこのランヴァを落とすのが目的なのならもっと大人数で攻めるはずだろう。だが、見たところ来てるのはあんた一人。こいつはどういうことだ。無論一人であの量の魔獣を統率できるその技術は何十人分の戦力になるだろうが…
魔獣使:鋭いわね。まあ、私の目的は飽くまでガジュルの復活を世界に知らしめるためよ。別にここの壊滅が目的じゃないわ。少し威圧して、そこそこの被害が及んだら帰る予定よ。
アティシア:そうはさせません!唯一神の砕光よ、敵を裁き給え!神聖魔法『パニッシュメント』!
魔獣使:甘いわねえ。宵闇に宿りし神よ、罪人に報いを。闇魔法『ヴェンデスガ』。
アティシア:はあ、はあ、嘘…私の神聖魔法が…
エディ:おいおい、俺は放置か?混ぜてくれよ!
0:エディの攻撃を魔獣使は黒い短剣でいなす。
魔獣使:そんなに急がなくてもほったらかしになんてしないわ。
エディ:おいおい、あんた魔獣使だろ?なんで接近戦までいけんだよ…
魔獣使:魔獣使が魔法や魔獣の使役しかできない時代は終わったのよ。まずはあなたから眠りましょうか。(深呼吸)はっ!
0:魔獣使が剣を振ると影のような斬撃が空気中を駆け抜ける
エディ:(っと、シャドウスラッシュか。会得には高い魔力が要されると聞いたが…あいつ…自身の能力に見合った技を持ってやがる。相当強いな)
エディ:おい、アティシア。
アティシア:はい。
エディ:俺と攻撃を合わせるぞ。あいつはめちゃくちゃ強い。俺でも一対一は分が悪いくらいだ。俺の斬撃に合わせて、お前はサポートと援護を頼む。
アティシア:分かりました。やれるだけのことはやってみます。
0:瞬間、一気に二人は距離を詰める
アティシア:ファイアー!
エディ:旋風斬!
魔獣使:うーん…二対一はきついわね…
エディ:このまま耐えるぞ!
アティシア:はい!
ドラフ:この先に魔獣が密集している中央広場が有る。そこを私とメリン殿で攻撃、町の各地に居る魔獣には聖騎士や神官戦士が対処しているが…そっちには機動力のあるヴァスラガ殿が援軍に行ってくれ。そして、各地の騎士に中央の広場に魔獣を連れてくるように伝えてくれ。集まってきたところをメリン殿と私の魔法で一気に叩く。
メリン:了解です。
ヴァスラガ:承知した。では、ここで私は離れる。健闘を祈るぞ。
ヴァスラガ、家屋をジャンプして渡っていく
ドラフ:…一つ良いか。
メリン:何でしょう
ドラフ:何故、エディと共に旅をしている。
メリン:あー…話すと長いんで色々省くんですけど、魔道学院を卒業してから自分の生きる価値が分かんなくなってて。その時に助けてくれたのがエディだったんです。それからは彼といると居心地が良いので一緒に旅をしています。
ドラフ:成程な。彼は情に厚いからな。ずっと人助けをしているのだろう。これからもエディを支えてやってくれ。
メリン:はい。楽しく旅しながら、私の命が続く限りは一緒に居る予定です。
ドラフ:ははは。おっと、ここだな。
0:二人が着いた場所は大きな広場。既に被害は甚大で周囲には騎士たちの死体が散らばっている。魔獣の数は3体。
ドラフ:メリン殿、どうだ。やれそうか。
メリン:三匹程度ならば私のフレイムカーテンを使えば倒せるかと…ですが物凄い魔力を使用するのでかなりの隙が生まれてしまいます。
ドラフ:ならば私が時間を稼ごう。『ゴーレム』を呼び出し、強化魔法をかける。
メリン:分かりました。自然魔法『フレイムカーテン』。
0:メリンは魔を込める
ドラフ:リーガの御許の騎士よ。現世に降りて顕現せよ。
0:光と共に銅像のような見た目をした「ゴーレム」が召喚される。
ドラフ:唯一神リーガの名の下に、我らに無限の魔力を。はっ!
0:ゴーレム、ドラフ、メリンに魔力を底上げするバフがかかる。
メリン:!ありがとうございます。
ドラフ:なに、この程度はただの支援魔法だ。
0:ゴーレムは魔獣たちを光る剣で威圧し、攻撃する。しかし魔獣もゴーレムを攻撃する
ドラフ:ううむ、ゴーレムだけでは少しばかり心もとないか。ならば私も少しばかり攻撃を。『ブリザード』!
メリン:ブリザード…氷魔法がお得意なのですね。
ドラフ:うむ。自然魔法は氷しか扱えんのだ。
0:魔獣たちは氷に苦しむ。
メリン:あと…少しで…よし!炎の幕よ、大地を覆い尽くせ!『フレイムカーテン』!
0:瞬間、広場は炎に包まれ、魔獣たちは燃えていく。
ドラフ:流石だ。凄まじい魔力だな。
メリン:いえ…しかし、少し…疲れました…
ドラフ:魔力を回復させよう。しかし…騎士たちはもう…助からんな。
メリン:もう少し私たちが早く来てれば…
ドラフ:いいや、過ぎたことだ。民間人を避難させよう。まだ戦いは終わっていない。
モブA:はあ…はあ…なんだこの魔物…勝てない…
ヴァスラガ:飛んでる魔獣が一体、少し強い魔獣が一体か。
0:瞬間、ヴァスラガは弓を取り出し飛ぶ魔獣を打ち抜く、魔獣は落ちてくる。
ヴァスラガ:風の精霊よ。我が身体に翠風を。
0:ヴァスラガの槍に風の力が宿り、一刺し。
モブA:貴方は…ギルドの方ですか。
ヴァスラガ:左様。立てるか。
モブA:ええ。大丈夫です。
ヴァスラガ:ならば騎士全体に伝令し、中央の広場に魔獣を集めるよう伝えてくれ。
モブA:わ、分かりました。ですがなぜ…
ヴァスラガ:早くしろ。時間との勝負だ。
モブA:!了解。
0:モブA去る
ヴァスラガ:さて、あとは貴様か。
0:もう片方の魔獣は不意を突き攻めてくる
ヴァスラガ:竜弓殺法・風式・飛空現世(ひくうげんせい)
ヴァスラガの放った弓が一本から数本に分裂していく。目や足に命中して魔獣は苦しむ
ヴァスラガ:騒ぐな。今楽にしてやる。竜槍殺法・土式・開権柱塩(かいごんちゅうえん)!
0:魔獣は地を鳴らすほどの連撃で息絶える
ヴァスラガ:よし、まずは二匹。後は…外れの方に居る魔獣を狩って回るか。
エディ:(よし、確実に効いている)
アティシア:(やはり人数の差が有ればいくら手練れとはいえ…かなり消耗している)
魔獣使:はあ…流石に疲れてきたわね。いつまでこうしてるつもりかしら。
エディ:そりゃ勿論お前が降参するまでだ。まだ畳みかけるぜ。『削岩斬』!
アティシア:光の刃よ…我が敵を貫け。『プライジャベリン』!
魔獣使:くっ…避けきれない…がっ!
エディ:よっしゃ!一気に攻めろ!
アティシア:はい!『ホーリースラッシュ』!
魔獣使:ぐっ…『オメガ』。
0:鎧のような魔獣が現れる
エディ:ちっ…魔獣を呼び出しやがった。
魔獣使:ふふふ…久しぶりに面白い戦いができたわ。でもね。さっきも言った通り今回はただの様子見なの。相手してくれ嬉しかったわ。それじゃあね。お二人さん。
0:魔獣使は消えていく
アティシア:待て!逃げるなあ!
エディ:よせ!今はこの魔獣を倒すぞ。
アティシア:くっ…分かりました…
ヴァスラガ:大丈夫か。二人とも。
エディ:ヴァスラガ!二人は作戦は上手くいったのか。
ヴァスラガ:ああ。メリン殿とドラフ殿が集まってきた魔物たちを相手してくれている。二人にも加勢してもらおうと迎えに来たのだが…面倒なことになっているな…
エディ:ああ。めちゃくちゃ面倒だ。悪いが手を貸してくれ。アティシア。MPは大丈夫か。
アティシア:はい。あと三回程度なら魔法を放てます。
エディ:分かった。俺とヴァスラガに攻撃力の強化魔法を頼む。そして後方から遠距離魔法による支援攻撃をしてくれ。
アティシア:はい。唯一神リーガの名の下に、我らに無限の力を。はっ!
エディ:よし。ヴァスラガ、お前は左から攻めろ。俺は右から攻める。見たところこいつはアーマー魔獣だ。鎧をぶっ壊すのが先だ。
ヴァスラガ:了解。竜槍殺法・鋼式・鐘鳴壊岩(しょうめいかいがん)!
エディ:食らえ!『アーマーブレイク』!
アティシア:自然魔法、『フィストプローション』!
0:魔獣の鎧が砕けて本体が露わになる。
エディ:今だ!畳みかけろ!『明鏡止水』!
ヴァスラガ:竜弓殺法・宵式・奪命遊蘭(だつめいゆうらん)!
アティシア:(なぜだろう。町は荒れ、危険な実戦に身を置いて、命を散らすぎりぎりの戦いの中に私は居るのに…この非日常を私はどうも…)
アティシア:(楽しいと思ってしまった)
エディ:はあああああああああああ!疲れたああああああああああ!
メリン:久々にこんなに魔力を使ったわ…しばらく休みたい…
ヴァスラガ:二人ともたるんでいるな。まあ…皆非常に良い働きだった。アティシア殿も、実戦経験も少ないのに上手く立ち回れていたぞ。
アティシア:ありがとうございます。実戦で皆様の動きや戦いから沢山のことが学べました。本当に参考になりました。
ドラフ:…
エディ:ドラフ、どうした?だんまり決め込んで。
ドラフ:アティシア。
アティシア:!はい。何でしょう。
ドラフ:お前、ランヴァを出ていきたいだろう?
アティシア:え…!…はい。前々から思っていました。
ドラフ:やはりな…(溜息)どうだ。エディよ。こいつを連れて行ってくれないか。
エディ:え!?良いのかよ。
ヴァスラガ:冒険には危険が伴うが…任せてよいのか。我々に。
ドラフ:ああ。お前たちならば任せられると思った。そして何より今回の襲撃により、各地への調査も必要だろうと思っていた。ガジュルとの戦いの上で、実力を持ち外部への関心も有るお前は適任だろう。
アティシア:では…あくまで名目上は外部調査としてのギルドへの入団ということですか?
ドラフ:ああ。どうだ。この際こ奴らと旅をするのは。
アティシア:私は、お三方が良いと言ってくださるのであれば…ご一緒したいです。
メリン:私は歓迎するわ。魔法使いで私と同じ女の子だもの。色々互いに学べる事も多いと思うし。
ヴァスラガ:私は…此度の戦いで貴殿に興味がわいた。ぜひ、旅の中で高め合えたらと思う。
エディ:俺も構わない。だがドラフ、本当に良いのか?愛弟子を俺に渡して。ギルドに入る以上、俺らも安全を保障できるわけじゃない。こいつが死体になって帰ってくるかもしれない。
ドラフ:その時は…運命を受け入れるまでだ。
エディ:分かった。アティシア、お前を歓迎する。俺らのパーティーへようこそ。
アティシア:はい!これからよろしくお願いします!
アティシア:(こうして、私の冒険は始まった。これからどんな日々が待っているのだろう。心を躍らせながら私は、このランヴァを出た。私の日常が、非日常へと変わるのだった。)