台本概要

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タイトル Escape play
作者名 民代  (@tamiyo_boikone)
ジャンル その他
演者人数 4人用台本(男2、女1、不問1)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 「Escape play-Perfect Navigation-」(エスケープ プレイ-パーフェクトナビゲーション-)

アドニス・ナビゲーション・システムズに所属する新人ハルとその上司ジェイは
警備システム会社の大手、フォートレスセキュリティ株式会社からシステムメンテナンスの依頼を受けた

サーバールームでの作業を始めようとした 次の瞬間、建物が大きく揺れるほどの衝撃と地響きがハル達を襲う
そして、サーバールームのAIが何者かにハッキングされ警備システムが作動…
彼女はサーバールームに取り残されてしまう

ハルは上司の荷物から通信機を見つけ出し、外部への連絡を試みた
応答したのは、ユーリと名乗り建物が武装集団の襲撃にあった事をハルに伝えた

ハルは無事にサーバールームから脱出できるのか?
武装集団の目的とは?
顔も素性も知らない、通信機越しの相手とバディを組み 彼女の脱出劇が今始まる

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ハル 147 ハル・タチバナ アドニス・ナビゲーション・システムの社員 経験はまだ浅い
ユーリ 不問 80 ユーリ・マックレイン 男女不問 通信機の先にいた人物 ハルと共に建物内からの脱出を図る 体力に自信がある ナレーション・受付AI・アナウンスの兼役をお願いします
ジェイ 67 ジェイ・ダンドレッド  アドニス・ナビゲーション・システムの社員 経験豊富な頼れる上司 ギーク気質があり、自信の興味をそそられる事にはつい興奮しがち 男B・Dの兼役をお願いします
マイケル 42 マイケル・トンプソン  フォートレスセキュリティ株式会社の社員システム管理部に所属 男A・C・放送の兼役をお願いします
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:タイトル「Escape play」 0:(読み方 エスケープ プレイ) 0: 0:以下、台詞 ナレーション:アドニス・ナビゲーション・システムズに所属する新人ハルとその上司ジェイは警備システム会社の大手、フォートレスセキュリティ株式会社からシステムメンテナンスの依頼を受けた ナレーション:夜空に浮かぶ星の光に勝る歓楽街(かんらくがい)のネオンライトが走行中の車内に注がれる ナレーション:夜の高速道路を走りながら、ニ人は目的地へと向かっていた 0:場面 車中 ジェイ:(揶揄うように) ジェイ:おいハル、顔がこわばってるぞ ハル:(溜め息) ハル:やめてよ、ジェイ ハル:新人じゃあるまいし、緊張なんてしてないわ ジェイ:はっ、何言ってんだ ジェイ:お前なんざ、まだ新米みたいなもんだろ ジェイ:まぁ、今日のクライアントはフォートレスセキュリティだ ジェイ:うちの顧客の中でも飛び抜けてデカイ会社だからな ジェイ:ナーバスになるのもわかるが… ハル:(少しイライラしている) ハル:だから緊張なんてしてないってば ハル:今夜のワイドショーに間に合わなそうで少し落ち込んでるだけよ ハル:それに今日はただのサーバーメンテナンスなんだから問題ないでしょ… ジェイ:(食い気味に台詞が入る) ジェイ:おいおい、メンテナンスだからって気ぃ抜いてると、ミスってサーバー落としちまうかもしれないぞ? ハル:(溜め息) ハル:仕事はちゃんとやるわ、完璧にね ジェイ:まぁ…冗談抜きに フォートレス本社のサーバーなんか落としちまったら、セキュリティを受けもってる銀行は大パニックだぜ ジェイ:フォートレス製の電子ロックは、今から向かう本社で全て管理してるからな ハル:ミスったらジェイの所為にするから大丈夫よ ハル:ジェイこそ、そうやってウンチクばっかり貯めこんでると… ジェイ:(食い気味に話をそらす) ジェイ:おっと。そんなこんなで御到着だぜ…さてと、じゃあ 張り切って行きますか ハル:了解よ 0:少しの間 0:場面 フォートレス社 ハル:(周囲を見渡しながら) ハル:…噂通り、凄い会社ね 受付AI:いらっしゃいませ、フォートレスセキュリティへようこそ ハル:あ、どうも。こんばんは 受付AI:本日のご用件をお聞かせください ハル:アドニス・ナビゲーション・システムズの者です、サーバーメンテナンスの件で… 受付AI:承知しました 受付AI:では、身分証明書のご提示をお願いします ハル:えぇ ハル:(視線をジェイへと移す) ハル:ジェイ、身分証明書貸して ハル:はい、こっちが私ので。あと…こっちが連れの分 受付AI:ただいまスキャンしています… 0:3秒ほどの間 受付AI:アドニス・ナビゲーション・システムズの社員名簿にニ件照合あり 受付AI:ようこそ、いらっしゃいました 受付AI:ただ今、担当のシステム管理部の者をお呼び致しますので少々お待ち下さい ハル:ありがとう ジェイ:………。 ハル:どうしたの、ジェイ ジェイ:(受付嬢を見ながら) ジェイ:いやー、よく出来できてるよな ハル:…何が? ジェイ:受付嬢にしては、中々のルックスだろ? ジェイ:ありゃ、そうとう高い部品使ってるぞ… ジェイ:あの技術…ロドウィック社か…いや、クレメント社製か?? ジェイ:それに機械の違和感を感じさせない人工音声…いやー、さすが一流会社は違うねぇ ハル:(呆れ気味) ハル:はぁ…あっそ マイケル:(小走りでハルとジェイに近づく) マイケル:すみませーん!! ジェイ:(声をかけられた事に気づく) ジェイ:…ん? マイケル:はぁはぁ、お待たせして申し訳ありません! ジェイ:あー、いえいえ ジェイ:定刻より早めに来てしまったのはこちらですし、気になさらず マイケル:そう言って頂き、恐縮です マイケル:(姿勢を正し、一呼吸あける) マイケル:改めまして、アドニス・ナビゲーション・システムズの皆さん。いつもお世話になっております マイケル:私(わたくし)システム管理部のマイケル・トンプソンと申します ハル:ハル・タチバナよ。宜しく ハル:それで、こっちが ジェイ:ジェイ・ダンドレッドです、どーも ジェイ:(マイケルと握手を交わす) ジェイ:あー…マイケルさん。早速ですみませんが、今回我々に付くのはシステム管理部のクロエ・マイヤーズと伺っていたんですが… ハル:確かに。我が社のシステムメンテナンスには、毎回クロエさんが担当になるとジェイから聞いてました… ハル:今日は、彼女はお休みですか? マイケル:あー…その件はですね… マイケル:……。(気まずそうにする) マイケル:彼女は本日急用がありまして… マイケル:今回は私(わたくし)が担当させて頂きますので、なにとぞ宜しくお願いします ジェイ:急用ですか… ジェイ:まぁ、大手となれば 急な案件もありますからね マイケル:私も上層部から急に代替えの依頼がきたもので… マイケル:ですが、任されたからには全力で皆さんのサポートをさせて頂きます ハル:ええ、宜しくね。マイケル マイケル:では早速、こちらへ マイケル:サーバールーム専用のエレベーターにご案内します。少し歩きますが、ご容赦ください 0:歩きながら話す三人 ハル:(感心しながら) ハル:ロビーだけでも相当な広さですね マイケル:(少し自慢げに) マイケル:そうでしょう。我が社の建築デザインは、あの人気アーキテクト(建築家)のレオン・バーテンが手掛けたものです マイケル:基本的な設備構造をおさえつつも、常に先進なデザインを求める彼の思想が 我が社にマッチしたんでしょう ハル:…なるほど、素晴らしいですね ハル:でも、これだけ広いと迷いそうですね ジェイ:おいおい、やっぱり怖気づいたか? ジェイ:(揶揄うように) ジェイ:あー、すみませんね。ハルはこちらのメンテナンスは初めてなもので ちょっとナーバスに… ハル:だから怖気付いたりも、緊張もしてないって言ってるでしょ…!!余計な事言わないでよ マイケル:ははは。大丈夫ですよ マイケル:それに、ここだけの話、私も未だに迷いますしね マイケル:この本社ビルだけで、国の半分の銀行や証券会社を警備してますからね マイケル:あ、失礼。このパネルで指紋と網膜の記録を取らさせていただきます マイケル:こちらの、自動ドアの先にエレベーターがございます ハル:なるほど、完璧なセキュリティですね ジェイ:まさに要塞、フォートレスの看板に偽り無しってわけさ 0:自動ドアが開く マイケル:まぁ、セキュリティはバッチリなのですが…念には念をといいますか…あまりにも厳重すぎて使い勝手が悪いって社員には不評ですがね… マイケル:おっと今のは内緒ですよ ジェイ:ええ、もちろん ジェイ:こうみえて、口は硬い方ですから ハル:そうね、こうみえて…ね マイケル:さて、お待たせしました。こちらのエレベーターにお乗り下さい 0:エレベーターに乗る三人 0:少しの間 アナウンス:フォートレスセキュリティ株式会社へようこそ アナウンス:フォートレスセキュリティでは高度な警備システムで大手金融機関やインテリジェントビルの警備を行っております アナウンス:世界最大のサーバーシステムと、プロフェッショナルの確かな経験、技術、知識に基づいたオペレーションで完璧な安全性を提供致します ハル:(エレベーターから景色を眺めながら、独り言) ハル:ご立派な宣伝アナウンス…流石、一流企業……ね ジェイ:こんなんで驚いてたら、今からいくサーバールームなんてこの比じゃないぞ ジェイ:腰抜かすなよ、ハル マイケル:ははは、なかなかハードルを上げてきますね。勿論、それにお応え出来るほどのものかと思います マイケル:社内ではサーバールームの事を、別名”金庫室”なんて言われる程ですからね ハル:金庫室…それはまた凄そうですね ジェイ:(食い気味に会話を始める。少し興奮しながら) ジェイ:凄いも何も、電子ロックのかかった扉が二枚も有るわ、電源が落ちても内部電源で自動運用されるわ… ジェイ:世紀末が来てもあのサーバールームだけはきっと無事だろうな! マイケル:まあサブサーバーも有りますから全てがそこに集まってるわけでもないんですけどね マイケル:ですが、警備対象施設の電子ロックの施錠・解錠は全てサーバールームで管理してますから… ハル:サーバールームという名の金庫で、銀行の財産を守る…だから、金庫室 マイケル:その通りです ジェイ:フォートレスの技術の凄さはそれだけじゃあない! ジェイ:通常、停電なんかのアクシデントが発生した場合、サブ電源に移行するだろ? ジェイ:そうなると、十分な電力が行き届かないから機能を最低限に留めておく必要がある ジェイ:プログラムを保護するファイヤー・ウォールも然りだ ジェイ:それら諸々を制限するとハッカー連中ども、言わば第三者の侵入を許しやすくなっちまうんだが ジェイ:ここのはサブ電源に移った瞬間にそれ専用の防護プログラムが展開してな ジェイ:外からの侵入をシャットアウトしちまうんだ。裏の業界でも難攻不落のオフィス街の要塞って話題らしいぜ… マイケル:あのー…すみませんあまりそういう話は…ちょっと… ハル:あー、すみません。この人 機械オタク兼(けん)セキュリティオタクでして… マイケル:……上司もその話題は非常にナーバスになってまして ジェイ:あー、いや、こいつは失敬 0:エレベーターの扉が開く マイケル:まあ、なんとか入れたとしても侵入を感知した瞬間に、金庫室も、警備システムも全部ロックされちゃいますから…銀行強盗はまず無理ですよ マイケル:(いたずらっぽく笑う) ハル:お金に困ってもここは狙いませんよ ハル:リスクが高すぎますし ジェイ:ハイリスク、ハイリターンって言葉もあるけどな ジェイ:中々そそられるだろ? ハル:(怪訝そうな表情) ハル:はぁ、冗談はよしてよ マイケル:はは、さてと此処が10階の管理フロアです マイケル:この奥にあるのがメインサーバールーム。”金庫室”です マイケル:少しお待ち下さい…こちらの電子パネルを操作して、っと アナウンス:フォートレスセキュリティ・システム管理部マイケル・トンプソンの社員証を検知。サーバールーム専用のカードキーを30秒以内に差し込んで下さい ハル:確かに厳重ですね ハル:社員証だけでなく、専用のカードキーまで マイケル:これを無くしたら、上司に大目玉を食らいますけどね ハルM:二重の電子ロックが解除され、ゆっくりと扉が開かれる ハルM:そしてようやく、私達の目の前に金庫室と呼ばれるサーバールームが姿を現した 0:場面 メインサーバールーム ジェイ:さってと…ようやく金庫室にご到着だ。こっからは俺たちの仕事だな マイケル:毎回クロエからも言われてるかと思いますが… マイケル:犯罪防止条例に基づき、メンテナンス作業中はシステム管理部の人間が最低でも一名、立ち会う規則になってまして…ご理解ください ジェイ:(半分聞き流してる) ジェイ:あー、分かってます分かってます 大丈夫ですよー ジェイ:それに、もう夜遅いですし すぐに終わらせますんで ジェイ:よし。準備はいいか、ハル ハル:始めます。端末これですね? 0:ハルはキーボードを操作する マイケル:あぁ、はい。それでこの金庫室の中のサーバーマシンにはアクセスできます。それとこちらが… ハルM:彼の言葉を遮るかのように、突然 建物が大きく揺れるほどの衝撃と地響きがサーバールームにいた私達を襲った ハル:…っ!? ジェイ:なんだっ!?!! マイケル:じ、地震でしょうか… ハル:地震とは違う…嫌な揺れね… 0:サーバールームのモニターの電源が落ちている事にハルはいち早く気づいた ハル:ちょっと…何!?で、電気が消えた? ジェイ:おい、ハルちょっと退(ど)け!! ジェイ:(モニターの前で狼狽えているハルを強引に退かす) ジェイ:……っ!! ジェイ:…これは…配電室からの供給が止まってる! マイケル:な、なんで急に… ジェイ:アクシデントには慣れてるが、規模が違いすぎるな… ジェイ:……今、サブ電源に切り替わったみたいだな。よし、俺は配電室を見に行く ジェイ:ハル、お前はここにいろ ハル:え…ちょ、ちょっと待ってよ マイケル:わ、私も行きます!配電室は社員じゃないと入れないので!! ジェイ:分かった、頼む ハル:待って!私はここでどうしてればいいの!! ジェイ:落ち着け、ハル ジェイ:ほっといてもサーバーは動く。お前は此処で問題がないか、それをしっかり見届けてればいい ジェイ:分かったな? ハル:え…えぇ アナウンス:警告。警告。侵入プログラムを検知…第三者によるアクセスを確認しました アナウンス:繰り返します。侵入プログラムを検知。第三者によるアクセスを…… ジェイ:(アナウンスの言葉を遮るように) ジェイ:おいおいおい!冗談だろ!? ジェイ:アクセスの出どころはどこだ……っ!! ジェイ:(キーボードを操作する) ジェイ:なっ…!?サブサーバールームからだと!? マイケル:ま、待ってください! マイケル:サーバールームのAIを使ってアクセス権限を解析する事が可能です! マイケル:今すぐ解析を開始させます!! ハル:(独り言のように呟く) ハル:一体何がどうなってるのよ… アナウンス:アクセス権限を解析中 アナウンス:(数秒の間) アナウンス:解析完了。当アクセスは、フォートレスセキュリティ・システム管理部、クロエ・マイヤーズによるものです ハル:クロエですって!? マイケル:し、しかし…彼女は…!! ジェイ:(ひときわ慌てた様子で) ジェイ:馬鹿な…そんなはずは… ジェイ:おい!このサブサーバールームってのはどこにある!? マイケル:は、はいっ!!こちらです!! ジェイ:ハル!お前はここに居ろ!いいな! 0:(ハルの返事を待たず、サブサーバールームへと踵を返すマイケルとジェイ) ハル:ジェイ!マイケル!! ハル:…はぁ、全く ハル:落ち着けって言った本人が、あんなに慌ててるんじゃ説得力ないじゃない 0:少しの間 アナウンス:警告、警告 ハル:…っ!? ハル:今度はなに!? アナウンス:エマージェンシーロック、アクティブ アナウンス:ただちに施錠を開始します ハル:エ、エマージェンシーロック!? ハル:ちょ、ちょっと待ってそれってどういう… ハル:……え!?嘘…サーバールームの扉が…!! ハル:(モニターを確認する) ハル:…っ!?ちょっと待って…! ハル:社内の電子ロックが全て閉まってる…。侵入したプログラムがロックしたのね… ハル:(軽く舌打ち) ハル:なんてこと…閉じ込められた… 0:(落ち着きなく歩きまわるハル) ハル:落ち着いて…そう…落ち着いて考えるのよ、ハル ハル:電子ロックの扉はそんなに沢山あるわけじゃない…けれども、主要設備には必ずついてる ハル:となると、ジェイたちもサブサーバールームに辿り着けてないはず… ハル:どうすれば…このままじゃ、警備システムを完全に乗っ取られる ハル:(不安と苛立ちを見せる) ハル:……なんとかここから侵入を防いで… ハル:いや、ジェイならまだしも、私じゃ… 0:(少しの間) ハル:あっ!!これ…ジェイの荷物だわ、慌てて置いていったのね ハル:なにか…なにか役に立つものは……!! ハル:これ、通信機!車から持ってきてたのね。完璧だわ、ジェイ ハル:サーバールームで通信機器なんてタブーもいいとこだけど…緊急事態よ。おねがい、つながって… 0:(少しの間) ハル:誰か…誰か返事して!…聞こえないの!? ハル:ダメか…やっぱりここじゃ電波が遮断されて… 男A:ん?誰だ…お前…? 男A:お、おい!このチャンネル…まさかっ!! 0:(男Aはユーリが消化器を振りかぶり、襲いかかってくるのに気がついた) 男A:うわっ!!なんだお前!!やめ……っ!!! ハルM:そして、無線機越しからは 何かを殴打したような音、男のうめき声、そして床に倒れる音が聞こえた ハル:な、なに?…どうしたの!? ハル:もしもし!もしもし!!聞こえてる!?お願い切らないで! ハル:閉じ込められてるの! ユーリ:はぁ…はぁ…閉じ込められてるって…貴方、犯人じゃないんですか? ハル:は、犯人…って…一体何のこと? ハル:私は警備システムのメンテナンスに来てたんだけど…突然セキュリティに誰かが侵入して、館内の電子ロックが全部閉じて、いま金庫室に閉じ込められてるのよ ユーリ:(ハルの事を疑っている) ユーリ:…犯人じゃないって証拠は? ハル:納得いく証明は出来ないかもしれないわ ハル:でも、さっき言った事は事実よ ハル:閉じ込められてるの。助けがいる… ユーリ:………。 ユーリ:信じていいんですよね? ハル:信じるって…さっきから何の話? ユーリ:さっき、ロビーから銃を持った人たちが入ってきて、私(僕)の同僚も皆捕まって… ハル:な、なんですって!? ユーリ:私(僕)はなんとか逃げ出したんですけど、携帯もロッカーに置いてきてしまっていて…外部への連絡手段が無いんです ユーリ:咄嗟に隠れてた部屋に、銃を持った人が入ってきて…もうダメかと思ったその時、通信機に気を取られてくれて ユーリ:でも、見つかるのは時間の問題だって思ったんです…だから後ろから… ハル:まさか殴り倒したの!? ユーリ:あ、はい…ここの部屋に消火器があって…それで… ハル:貴方、なかなか根性あるわね… ユーリ:あはは…体力には…その、自信あるんです… ユーリ:学生の頃陸上部で…あー、でも…これからどうしたら良いか… ハル:そうね、そうよね、わかった。まずは落ちついて。ゆっくり深呼吸するのよ ユーリ:は、はい。すぅー…はー ハル:完璧よ。この無線が命綱だわ…これが切れたら他と繋がる見込みはない、だから通信を切らないで ハル:いま、倒した男はそこに転がってるのね ユーリ:はい、こ、転がってます ハル:何か手足を縛れるものはある?怖いかもしれないけど、そいつが起きたらもっと怖いし、厄介よ ユーリ:縛れるもの…あ、あります!延長コード! ハル:それで十分。コードをキツく縛るのよ…あ、それと口も塞いで、隠せそうな場所に隠すのよ… ハル:はぁ、なんだか犯罪の片棒を担いでる気分だわ ユーリ:(コードを縛りながら) ユーリ:それで…この後どうしましょう。ここに隠れ続けても、また仲間が来るかもしれないですし… ハル:そうね、私は自由に動けないし、あなただけでも何とか逃げて、誰かにこの事を伝えてもらうしか ユーリ:そ、そんな…私(僕)には無理ですよ… ハル:今更隠れてるところを見つかるのも危険だわ ハル:そういえば、あなた…まだ名前を聞いてなかったわね ハル:私はハル。ハル・タチバナよ。あなたは? ユーリ:私(僕)はシステム課のユーリ・マクレインといいます ハル:システム課?ってことはメンテナンス担当のマイケル・トンプソンと同じ部署なのね ハル:さっきまで彼と一緒にいたのよ ユーリ:マイケル…?そ、そんな名前の人…うちの課には…いませんけど… ハル:なんですって?でもさっき確かに… ユーリ:あ、ちょっと待って下さい!聞こえますか?これ、館内放送… 0:(館内放送が通信機越しに伝わる) 放送:あー…テスト、テスト、聞こえるだろうか。業務中のところ申し訳ない。突然だがこの施設は武装勢力によって制圧された。要求は特にない、こちらで勝手に作業させて頂く ハル:なによ…これ… 放送:要求はないといったが、社員諸君は通常業務を中止して我々の指示に従うことをおすすめする 放送:余計なことをした場合はその場で射殺する。銃で手に負えないと判断した場合、致死性の強いハンタウィルスというウィルスを散布する 放送:急性で重篤な呼吸器疾患にかかりたくない者は振る舞いに気をつけるといい。以上だ ユーリ:ウ、ウィルスって…こんな逃げ場ないとこでそんなの撒かれたら… ハル:空調ダクトを伝って建物中に拡散するかもしれない、もちろんここにも ハル:まずいわ…ウィルスなんて本当かどうかわからいけど…うかつに動くわけにもいかなくなった ユーリ:でも、動かないでずっと此処にいたら、見つかって撃たれちゃいますよ…!! ユーリ:あぁ…もうどうすれば… ユーリ:(足音が近づいて来るのに気づく) ユーリ:……っ!? ユーリ:…ハルさん、誰かこっちに来ます!! ハル:ユーリ、落ちついて!とにかく静かにそこから離れるのよ ユーリ:……分かりました…やってみます 0:(ユーリはこそこそと歩き始める) 男B:で?通信機はあいつが持ってるんだな? 男C:はい、ですがまだ連絡は来てません 男B:(舌打ち) 男B:なんだトラブルか?完璧な計画とかぬかしやがって…だから俺はハナから信用ならないって言ってたんだ 男C:とにかくさっきの応急措置でしばらくはしのげます。連絡を待ちましょう 0:少しの間 ユーリ:も、もう大丈夫です…多分倒れてる人も、見つかってないと思います ハル:ふぅ…よかった…。とりあえず身を隠せそうな場所を探したほうがいいわね ユーリ:分かりました… ハル:ねえ、ユーリ。貴方は最初にロビーからそいつらが入ってきたのを見たのよね?何人くらい居た? ユーリ:正確には数えてないですけど…10人は…居たような… ユーリ:直ぐその場から離れたので、後からもっと入ってきてる可能性もあります ハル:10人…たとえその倍居たとしてもこの巨大な建物中をくまなく監視することは出来ないはず ハル:幸い、今は夜中(よなか)で残ってる社員も少ないし、あの放送である程度私達の動きを封じたとしても、出入口と主要設備がある部屋に固まってる可能性が高いんじゃないかしら ユーリ:じゃあ…偶然敵に出くわす可能性は…低いってことですかね? ハル:配電室やサーバー室を避ければね。相手の狙いがホントのところ何なのかわからないけど ハル:ねえ、さっき携帯持ってないって言ったけどオフィスの電話は通じないの? ユーリ:ダメでした。ネット回線も切られてるみたいで ハル:はぁ…期待はしてなかったけど ハル:その辺の対策は取られてるのね ユーリ:あ、近くの会議室なら隠れられそうです! ユーリ:近くに重要な設備室も無いはず… ユーリ:あ、あれ?でもそう言えば…主要設備の電子ロックって全部しまってるんですよね? ハル:ええ、そのはずよ ユーリ:それって…何かおかしくないですか? ハル:同感。私もそれに対して妙に引っかかってるのよ ハル:わざわざメインサーバーに侵入してロックを掛けるなんて不自然 ハル:何か目的があるなら、逆にロックを外すほうが自然だわ ユーリ:重要な設備がある部屋をおさえた方が、都合が良いですからね… ハル:そうなのよ… ユーリ:じゃ、じゃあ銃を持った人たちとは関係ない…とか? ハル:…まさかそんな… ハル:……。(考え込むハル) ハル:そうだ!このプログラム、システム部のクロエ・マイヤーズの権限でアクセスしてるみたいなの ハル:ユーリもシステム課の人間なら、名前くらいは知ってる筈よね ユーリ:(困惑している) ユーリ:…あのー…ハルさん ハル:どうしたの? ユーリ:先程のマイケルって人もそうですけど…クロエって人もうちの課には…その…居ないんです ハル:そ、そんなはずは無いわ!?ねえ、どこかで調べられない? ハル:外との回線が切れてても社員の記録を見る事は出来るんじゃない? ユーリ:えーっと…あ!!この下の階に人事課があります!いまエレベーターの近くですし行ってみます! 0:小走りで走りはじめる ハル:ま、まって!!エレベーターは危ないわ!階段を…!!! 0:エレベーターの扉閉まる ユーリ:え…あ、もう乗っちゃいました… ハル:なるほどね…その扉が開いた瞬間に出くわさないことを祈ってるわ ユーリ:あ…あははは。き…きっと大丈夫ですよ ユーリ:(急に不安になる) ユーリ:たぶん 0:(少しの間) 0:(通信機越しエレベーターの扉が開く音が聞こえる) ユーリ:あ、開きます… ハル:(固唾を飲む) ユーリ:はぁああ… ユーリ:だ、大丈夫みたいです… ハル:それなら良かった ハル:神様に感謝しないとね ユーリ:人事部オフィスに着きました!今から調べてみます ハル:ええ、お願い ハル:そしてこれは私の仮説だけど、クロエのプログラムは武装した奴らの邪魔をしてる…そう思うの ハル:彼女が何者か解れば、もしかしたらこの状況をどうにか出来るかも… ユーリ:あ、あのハルさん? ハル:見つかった? ユーリ:そ、それが…本店から支店まで調べても二人とも見つかりません ハル:そんな…じゃあ私があったマイケルは…システムに侵入してきたクロエは…一体何者なの!? 0:(間) 0:場面 フォートレス社 廊下 ジェイ:(電子ロックされた扉をコンコンと叩く) ジェイ:はぁ、ここも電子ロックが掛かってる ジェイ:八方塞がりってやつか マイケル:反対側の通路も施錠されてました マイケル:これじゃあ配電室はおろか、サブサーバールームにすら辿り着けそうにないですね ジェイ:まぁ、そうだな ジェイ:さてと、これからどうするかねぇ マイケル:……はい マイケル:……。 マイケル:(独り言) マイケル:クロエのアクセスが何故…だって彼女は ジェイ:どうした? マイケル:あぁ…いえ、何でもありませ…… ジェイ:クロエ・マイヤーズは交通事故で重体。未だICUを出られず、予断を許さない状態 ジェイ:だからアクセスなんて出来っこない…そう言いたいんだろ? マイケル:……っ!?!! マイケル:な、何故貴方がそれを…!? マイケル:まだその情報は公(おおやけ)にはなっていない筈です!! ジェイ:まぁ、そう慌てるなよマイケル… ジェイ:天下のフォートレス様が一般人巻き込んで事故なんて起こしちゃあ、イメージダウンもいいところだもんな マイケル:(動揺している) マイケル:………っ!! ジェイ:それにしても、こっちも色々と大変だったんだぜ ジェイ:交通事故の偽装ってのは中々に骨が折れた。でも、その苦労の甲斐あって、目的のものは手に入ったけどな 0:(ジェイは一枚の社員証をマイケルに見せつける) マイケル:それは…クロエの!!! マイケル:まさか…そんな……あ、貴方が…っ!! ジェイ:(マイケルの話を遮る) ジェイ:なぁ〜マイケル ジェイ:目的を達成するために、多少の犠牲は必要だと思わないか? マイケル:……何を言ってっ!! ジェイ:悪く思うなよ。これは目的のために、仕方なく…だ ジェイ:恨むなら、目敏い(めざとい)あの女を恨めよ マイケル:(怒りを露わにする) マイケル:…お前っ…!!! ジェイ:あの怪我じゃあクロエはもうダメだろう ジェイ:もってあと数日がいいところだ マイケル:何を勝手な事を…俺は、彼女が意識を取り戻すと信じている! マイケル:そして彼女の口からお前の悪事を聞き出して、全世界に流してやる!! ジェイ:ははは、威勢がいいねぇ! ジェイ:そういうの、嫌いじゃないぜ ジェイ:さてと、生憎今日は綺麗に殺せる道具を持ち合わせていなくてなぁ ジェイ:まぁ、でも…おあつらえ向きな道具がなくたって、完璧に仕事はこなすさ マイケル:お前の目的はなんだっ! ジェイ:今それを知ってどーすんだよ? ジェイ:あー?あれか?冥土の土産にってやつか? マイケル:いい加減に…!! ジェイ:ちょっとコイツを拝借するぜ マイケルM:そう言うと、彼は通路に設置されていた消化器を手にし マイケルM:俺との距離を一気に詰めると、それを大きく振りかぶり…こう言った ジェイ:恋人同士 二人仲良く、あの世でデートでもしててくれよっ!!! 0:頭部を殴られるマイケル マイケル:…ぅ……あっ マイケル:(頭から血を流し倒れる) ジェイ:死因は武装した集団に襲われ後頭部打撲…ってことにしとくか。さてと あとはアイツだけ、か 0:(間) ハル:存在する筈のクロエとマイケルがいない… ハル:一体何がどうなってるの ユーリ:謎ばかり増えて…私(僕)達どうしたら ハル:とにかく今はそこに隠れて、なんとか脱出の方法を考えましょう ハル:私は出来る限りそれをサポートする。サーバーから監視カメラの映像だけでも見られないかやってみるわ ユーリ:わ、わかりました! ユーリ:ハルさんは、凄いですね。そんなことが出来るなんて ハル:出来るかどうか保証はないけどね。それに、私よりジェイのほうがきっと上手くやるでしょうね ハル:あ、ジェイってのは私と一緒にメンテナンスに来てた腕利きのエンジニアよ ハル:きっと今頃、なんとか外からロックを解除する方法を探してる ユーリ:私(僕)はそこまで頭が良い方じゃないから、アドバイスも出来ないし…自慢できるのは体力くらいしか ユーリ:閉じ込められているハルさんに助けてもらわないと何も出来なくて… ユーリ:その…ごめんなさい ハル:いいのよ 非常時なんだから、助け合わなくちゃ。それにね、私には銃持った人間を消火器で叩きのめすなんて出来ないわ ユーリ:そ、それはとにかく必死だったから… ハル:ふふっ…昔ね、私の父がよく言ってたわ『世の中どうしてこうも不完全なものばかりなんだ』ってね ハル:父は完璧主義者でね、潔癖(けっぺき)と言ってもいいくらい何事にも厳しい人だった ユーリ:は、はぁ… ハル:周りの人間も自分も、完璧じゃないのが許せなかったんでしょうね ハル:私も、そうならなきゃいけないんだと思ってた。でもね、大人になってからある人に真正面から否定されたの『完璧な人間には絶対になれない』って ユーリ:そ、それでどうしたんですか…? ハル:その人の会社に入ったわ。それを言ったのは、今の会社の社長なの ユーリ:そうだったんですね ハル:完璧な人間には絶対になれない、だから完璧になろうって気持ちが常に必要だし、それでも人は完全じゃない…だからチームが必要だって ハル:面接でそんなこと言われるなんて、衝撃を受けたわよ ユーリ:確かに…でもなんか…納得しちゃう言葉ですね… ハル:そうでしょ?だからね、ユーリ。あなたは十分頑張ってる、でもあなたばっかり危険なところで頑張ってもらうもらう訳にはいかないの… ハル:成り行きだけど私達はチームよ、できることはするわ。声だけだけど、隣で戦うから ユーリ:そうですよね…。なんだか不思議なんですけど、ハルさんとは会ったこともないのにすぐ横にいるみたいな気分です… ユーリ:少しだけ勇気が出てきました!一緒に頑張ります! ハル:いいわ、その意気よ ハル:ねえ、ユーリ。脱出するにも出入口は見張りがいると思うわ、何処か他に出入りできるところ知らない? ユーリ:駐車場に出る現金搬入口は…当然見張られてるだろうし…後は屋上にヘリポートは有りますけど、ヘリを呼ぶなんて無理ですし… ハル:そうよね、あと設備と言ったら配電、空調にボイラー…どれも脱出に役立ちそうには無いわね ユーリ:通気ダクトを通るとか! ハル:人が通れるような作りの空気ダクトは映画だけよ。やっぱりなんとか見張りを突破するしか… ユーリ:そうだ、非常口!非常口ですよ、赤い三角形のマークの! ハル:非常用侵入口…あの消防隊が入るための? ユーリ:そうです!そこからロープか何か伝って…。備え付けの消火栓のホースを使うとか! ハル:いくらなんでも無茶がすぎるわ、それに階を通り過ぎるたびに窓から見つかるかもしれないし ユーリ:確かにそうですよね… ハル:それに、映画みたいなスタントは素人じゃ無理よ ユーリ:ははは…もう既に映画みたいな状況ですけどね…ハッキングに銀行強盗なんて… ハル:え?ちょ…ちょっと待って。今、なんて? ユーリ:え、私(僕)なにか変なこと言いました? ハル:銀行って……も、もしかしてあなたがいるのって… ユーリ:ど、どういう意味です? ハル:あなたが今いる建物の名前よ! ユーリ:えっと…セントラルバンクの本店ビルですけど ハル:セントラルバンクの本店ビル……それって、此処から50マイルも離れてるじゃない…!? ユーリ:私(僕)たち、違う建物にいるって事ですか!? ハル:なるほど、それなら納得がいくわ ハル:会社が違えば部署の名前も違うし、いる人間だって違う…。思い返してみれば、さっきユーリが乗ったエレベーターからは、フォートレス会社の宣伝アナウンスは聞こえなかった ハル:そして、どこのオフィスビルも基本的な設備構成はだいたい同じだし…どちらのビルにも”金庫室”があった… ハル:目で見ればすぐに分かったはず、だけど私達には音しかなかった ユーリ:そんな…だって、じゃあなんで無線がつながって… ハル:そんなの偶然…いや、それは出来過ぎてる ユーリ:電子ロックが施錠されるのも、この目で見ました! ハル:もしかしてその銀行のセキュリティって、フォートレスのシステム? ユーリ:そうです、うちの警備はフォートレスセキュリティです ハル:それじゃもしかして…もしかしてクロエは… ユーリ:ハルさん…? ハル:ねぇ、ユーリ。今から私の言う事をよく聞いて… 0:(少しの間) ユーリ:そんな、それじゃハルさんが… ハル:私は大丈夫よ…自分で何とかするわ、今まであなたに任せてきたんだもの ハル:今度は私が戦う番 ユーリ:ダメです… ハル:大丈夫よ、あなたは隠れて全部終わった後に警察にデータを見せればいいの ユーリ:まだきっと、何か方法は有ります!! ユーリ:さっきのスタントだって、やってみせますから!! ハル:ス、スタントって非常用侵入口の!?危険すぎるわ! ユーリ:ハルさんも命がけで戦うんです、私(僕)も出来ることをします! ハル:無茶はやめて!私も貴方も命がけなのは変わらないでしょ! ユーリ:ハルさんの力になりたいんです! ユーリ:(近づいてくる足音に気づく) ユーリ:……っ!! ユーリ:また誰か来ます!! 男C:おい、今こっちからなにか聞こえなかったか? 男D:いや、特には… 男C:念の為確認しておきたい、いくぞ 男D:了解 ハル:(声を潜ませて) ハル:ユーリ…!!大丈夫!? ユーリ:(ハルと同じくらいの声のトーンで) ユーリ:はい、今のところは ユーリ:なんとかやり過ごして脱出します。それに、きっと間に合わせますから 信じてください ハル:えぇ、了解よ ハル:ねぇ、ユーリ ユーリ:なんですか? ハル:幸運を ユーリ:はいっ!!二人分の幸運ですから…きっとうまくいきますよ ユーリ:(足音が更に近づく) ユーリ:あ…こ、こっちに来ます!一旦通信を切りますね!! ハル:ユーリ!! ハル:……(音のしない無線機を見つめ、暫くの沈黙) ハル:…さて、やってやろうじゃないの 0:金庫室の扉が開く ジェイ:何やってんだ?ハル? ハル:っ…!? ハル:ジェイ! ジェイ:おいおい、なんて声だしてるんだ。俺がこれくらいのプログラム、何とか出来ないと思ったか? ハル:そうよね、あなたならどうにか出来ると思ってた ハル:……。 ハル:(騒動の犯人を確信している) ハル:ねぇ、ジェイ。貴方が此処を開けられたって事は、銀行の方のロックも解除されたかしら… ジェイ:銀行? ハル:クロエのプログラムの侵入を感知して、フォートレスセキュリティが受け持ってる施設は緊急ロックされてるんでしょ? ジェイ:ああ、そのはずだ ジェイ:なあハル、ちょっとどいてくれ ジェイ:そこのサーバー端末に用があるんだ ハル:どんな用件かしら? ジェイ:おいおい、ふざけてるのか? ジェイ:異常がないかチェックするんだよ、俺達の仕事を忘れたのか? ハル:銀行の金庫破りでもするのかと思ったわ ハル:定期メンテナンスの時に仕込んだプログラムを使って ジェイ:(鼻で笑いながら) ジェイ:…金庫破りだって? ハル:ここのシステムは外からの侵入には強いけれど、中からの侵入にはそこまでじゃない ハル:クロエのプログラムが簡単に入れてしまったのは、社員のアクセスだったから…そうでしょ? ジェイ:……。 ハル:ようは権限さえあれば、突破は不可能じゃないという事よね? ジェイ:だからなんだっていうんだ? ハル:貴方は自由に動ける権限が欲しかった、私はそう推理したの ジェイ:……ほう ハル:そういえば、あなたの持ってる通信機、銀行強盗につながるわよ? ハル:あっちは計画通りロックが開いてくれなくて大変みたいだけど ハル:…ところでマイケルはどうしたの? ジェイ:マイケルは… ハル:マイケルは死んだ。それとも、貴方が殺したと言った方が正確かしら ジェイ:……。 ハル:その様子だとクロエ・マイヤーズの事も、貴方が殺したのね ジェイ:クロエ…か。はははっほんと、目敏い女だったぜ ジェイ:あの女。俺がメンテナンスのたびに少しずつサーバーに細工してるのに気づきかけてた ジェイ:だから始末してやったんだよ ジェイ:けど、利用したいもんがあってな。それを手に入れるために、交通事故を偽装。つってもこういうのは楽じゃないんだぜ? ジェイ:挙句の果てにあの女…こんな仕掛けしていきやがって…お陰で俺の完璧な計画が台無しになるとこだったぜ ハル:あなたはマイケルが自分と行動を共にするよう仕向け、彼を殺害し そして、サーバールームに残っている邪魔者を排除する ハル:そして一人悠々と残った貴方は、このサーバールームから銀行の隅々まで思い通りに操って武装強盗をナビゲートする、そんなところかしら? ジェイ:まさに"完璧な"ナビゲーターだろ? ジェイ:その通信機は特別製でね、電波が通りにくいサーバールームでも仲間の声がよく聞こえただろう ハル:ええ、よく聞こえたわ。仲間の声がね。ウィルスをばらまくって話も ジェイ:ウィルス?ははーん、向こうの様子はよく知らんが、短時間でも社員の足止めをするにはいい手だな。よくアドリブを効かせたもんだ…ははは ハル:一応聞いといてあげる、なんでこんなことしたのか ジェイ:おいおい、なんでしたかだって?逆に聞きたいね! ジェイ:一流のファイヤーウォールに電子ロック、国中を股にかけた最高難易度のパズルに挑戦できて、目もくらむような大金まで手に入るんだぜ?なぜ誰もやらないんだ!! ハル:人まで殺して? ジェイ:些細な犠牲さ! ハル:私利私欲の為に… ジェイ:おいおい、正義のヒーロー気取りか?ハル ハル:(溜め息) ハル:もういいわ、十分よ…貴方もそう思うでしょ? ジェイ:あ?何が十分だって? ハル:ふん、アンタに言ったんじゃないわ ハル:ねぇ、ユーリ。聞こえてたかしら? ユーリ:ええ、もうばっちりです!!録音もされてますし警察の方々にもくまなく聞こえてます! ジェイ:は?……な、なんだそれ? ジェイ:おい、お前は誰だ!!! ユーリ:どうも、はじめまして。システム課の…いえ、セントラルバンク、システム課のユーリ・マクレインと申します ハル:偶然私にも仲間が出来てね、アンタよりずっと優秀な相棒よ ジェイ:く…こ、この…!! ハル:あー、それと…私もさっきサーバーに進入するプログラムをセットしてみたんだけど… ジェイ:な、なんだって!? ハル:あなたほど上手くいかなかったみたい、バレちゃったわ ハル:だから私はここでお暇させてもらうわ アナウンス:警告、警告、エマージェンシーロック、アクティブ ジェイ:あ、お、おいまてまてまて! 0:金庫室の内側扉が閉まる 0:金属の扉越しにジェイの声が聞こえる ジェイ:(ドアを力強く叩く) ジェイ:おい!てめえ!!閉じ込めやがったな!くそっ開けてやる!絶対に開けてやるぞ!! ハル:はいはい。警察が来るまで存分にパズルごっこを楽しむといいわ 0:(間) ハルM:建物から脱出した私を待っていたのは大勢の警察とマスコミと、野次馬だった ハルM:まさか自分の上司が、こんな馬鹿げた事件を引き起こしてしまっただなんで…ほんと呆れるわ ハルM:世間を騒がせて、色んな意味で私の会社も名が知れる ハルM:これ以上面倒なアフターフォローが今まであっただろうか… ハル:(ため息) ユーリ:大丈夫ですか?ハルさん ハル:人を見る目がなくて落ち込んでるとこよ ハル:あんなやつだったなんて…ほんと、最悪 ユーリ:ハルさんのせいじゃないですよ ハル:…ありがとう ハル:で?そっは大丈夫だった?怪我はない? ユーリ:はい、特にこれといった怪我もないですし ユーリ:助かってホッとしました ハル:ふふ、それならよかった ハル:でも、まさか本当にスタントをやってのけると思わなかったわ ハル:大した度胸…いや、勇気に救われたわ ユーリ:やれる事をしたまでですよ ユーリ:建物から脱出した後は、手筈(てはず)通りに警察に通信機の内容を聞かせる…ハルさんの作戦がうまくいって良かったです! 0:担架で運ばれるマイケル マイケル:…ハ、ハルさん。無事で良かったです ハル:マイケル!?大丈夫なのっ!!! マイケル:(出血が多いので、少し辛そうに). マイケル:あはははっ…あ、あと少し発見が遅かったら……死んでたみたいですけど…ね ハル:…良かった…… ハル:そうだマイケル。貴方に良い知らせがあるの ハル:ユーリが色々と連絡をとってくれてね ハル:クロエさん。目を覚ましたみたいよ マイケル:…っ!!! マイケル:本当…ですか……ああ、よか…った ハル:彼女のいる病気へ搬送するよう手配済みよ。ゆっくり休んでね マイケル:ありがとう…ございます… 0:救急車で運ばれるマイケルを、ハルはジッと見つめていた ユーリ:一件落着、ですかね ハル:ふふっ、そうね ハル:ねぇ、ユーリ ユーリ:はい、何ですか? ハル:今回の事件は私一人じゃ解決できなかった ハル:これは貴方がいてくれたからこそよ。本当に有難う ユーリ:いえ…それ程まででも… ハル:でも不思議ね。私達、50マイルも離れてるのに一緒に戦った戦友みたい。是非一杯酌み交わしたいところだわ ユーリ:(演者が女性の場合以下のセリフ) ユーリ:ホントですね、これが異性だったら運命のひと…なんでしょうけど。あ、じゃあ今度合コンしましょうよ! ユーリ: ユーリ:(演者が男性の場合以下のセリフ) ユーリ:え…あ、あの、これってもしかして、デートのお誘いですか? ハル:(悪戯っぽく) ハル:私は男を見る目がないみたいだけど? ユーリ:見る目がなくても大丈夫ですよ!まだお互い顔も見てないんだし! ハル:ふふ、わかったわよ…でもパズルマニアはゴメンだわ ユーリ:では、銀行員なんてどうですか? ハル:ええ、いいわね。完璧よ 0:完

0:タイトル「Escape play」 0:(読み方 エスケープ プレイ) 0: 0:以下、台詞 ナレーション:アドニス・ナビゲーション・システムズに所属する新人ハルとその上司ジェイは警備システム会社の大手、フォートレスセキュリティ株式会社からシステムメンテナンスの依頼を受けた ナレーション:夜空に浮かぶ星の光に勝る歓楽街(かんらくがい)のネオンライトが走行中の車内に注がれる ナレーション:夜の高速道路を走りながら、ニ人は目的地へと向かっていた 0:場面 車中 ジェイ:(揶揄うように) ジェイ:おいハル、顔がこわばってるぞ ハル:(溜め息) ハル:やめてよ、ジェイ ハル:新人じゃあるまいし、緊張なんてしてないわ ジェイ:はっ、何言ってんだ ジェイ:お前なんざ、まだ新米みたいなもんだろ ジェイ:まぁ、今日のクライアントはフォートレスセキュリティだ ジェイ:うちの顧客の中でも飛び抜けてデカイ会社だからな ジェイ:ナーバスになるのもわかるが… ハル:(少しイライラしている) ハル:だから緊張なんてしてないってば ハル:今夜のワイドショーに間に合わなそうで少し落ち込んでるだけよ ハル:それに今日はただのサーバーメンテナンスなんだから問題ないでしょ… ジェイ:(食い気味に台詞が入る) ジェイ:おいおい、メンテナンスだからって気ぃ抜いてると、ミスってサーバー落としちまうかもしれないぞ? ハル:(溜め息) ハル:仕事はちゃんとやるわ、完璧にね ジェイ:まぁ…冗談抜きに フォートレス本社のサーバーなんか落としちまったら、セキュリティを受けもってる銀行は大パニックだぜ ジェイ:フォートレス製の電子ロックは、今から向かう本社で全て管理してるからな ハル:ミスったらジェイの所為にするから大丈夫よ ハル:ジェイこそ、そうやってウンチクばっかり貯めこんでると… ジェイ:(食い気味に話をそらす) ジェイ:おっと。そんなこんなで御到着だぜ…さてと、じゃあ 張り切って行きますか ハル:了解よ 0:少しの間 0:場面 フォートレス社 ハル:(周囲を見渡しながら) ハル:…噂通り、凄い会社ね 受付AI:いらっしゃいませ、フォートレスセキュリティへようこそ ハル:あ、どうも。こんばんは 受付AI:本日のご用件をお聞かせください ハル:アドニス・ナビゲーション・システムズの者です、サーバーメンテナンスの件で… 受付AI:承知しました 受付AI:では、身分証明書のご提示をお願いします ハル:えぇ ハル:(視線をジェイへと移す) ハル:ジェイ、身分証明書貸して ハル:はい、こっちが私ので。あと…こっちが連れの分 受付AI:ただいまスキャンしています… 0:3秒ほどの間 受付AI:アドニス・ナビゲーション・システムズの社員名簿にニ件照合あり 受付AI:ようこそ、いらっしゃいました 受付AI:ただ今、担当のシステム管理部の者をお呼び致しますので少々お待ち下さい ハル:ありがとう ジェイ:………。 ハル:どうしたの、ジェイ ジェイ:(受付嬢を見ながら) ジェイ:いやー、よく出来できてるよな ハル:…何が? ジェイ:受付嬢にしては、中々のルックスだろ? ジェイ:ありゃ、そうとう高い部品使ってるぞ… ジェイ:あの技術…ロドウィック社か…いや、クレメント社製か?? ジェイ:それに機械の違和感を感じさせない人工音声…いやー、さすが一流会社は違うねぇ ハル:(呆れ気味) ハル:はぁ…あっそ マイケル:(小走りでハルとジェイに近づく) マイケル:すみませーん!! ジェイ:(声をかけられた事に気づく) ジェイ:…ん? マイケル:はぁはぁ、お待たせして申し訳ありません! ジェイ:あー、いえいえ ジェイ:定刻より早めに来てしまったのはこちらですし、気になさらず マイケル:そう言って頂き、恐縮です マイケル:(姿勢を正し、一呼吸あける) マイケル:改めまして、アドニス・ナビゲーション・システムズの皆さん。いつもお世話になっております マイケル:私(わたくし)システム管理部のマイケル・トンプソンと申します ハル:ハル・タチバナよ。宜しく ハル:それで、こっちが ジェイ:ジェイ・ダンドレッドです、どーも ジェイ:(マイケルと握手を交わす) ジェイ:あー…マイケルさん。早速ですみませんが、今回我々に付くのはシステム管理部のクロエ・マイヤーズと伺っていたんですが… ハル:確かに。我が社のシステムメンテナンスには、毎回クロエさんが担当になるとジェイから聞いてました… ハル:今日は、彼女はお休みですか? マイケル:あー…その件はですね… マイケル:……。(気まずそうにする) マイケル:彼女は本日急用がありまして… マイケル:今回は私(わたくし)が担当させて頂きますので、なにとぞ宜しくお願いします ジェイ:急用ですか… ジェイ:まぁ、大手となれば 急な案件もありますからね マイケル:私も上層部から急に代替えの依頼がきたもので… マイケル:ですが、任されたからには全力で皆さんのサポートをさせて頂きます ハル:ええ、宜しくね。マイケル マイケル:では早速、こちらへ マイケル:サーバールーム専用のエレベーターにご案内します。少し歩きますが、ご容赦ください 0:歩きながら話す三人 ハル:(感心しながら) ハル:ロビーだけでも相当な広さですね マイケル:(少し自慢げに) マイケル:そうでしょう。我が社の建築デザインは、あの人気アーキテクト(建築家)のレオン・バーテンが手掛けたものです マイケル:基本的な設備構造をおさえつつも、常に先進なデザインを求める彼の思想が 我が社にマッチしたんでしょう ハル:…なるほど、素晴らしいですね ハル:でも、これだけ広いと迷いそうですね ジェイ:おいおい、やっぱり怖気づいたか? ジェイ:(揶揄うように) ジェイ:あー、すみませんね。ハルはこちらのメンテナンスは初めてなもので ちょっとナーバスに… ハル:だから怖気付いたりも、緊張もしてないって言ってるでしょ…!!余計な事言わないでよ マイケル:ははは。大丈夫ですよ マイケル:それに、ここだけの話、私も未だに迷いますしね マイケル:この本社ビルだけで、国の半分の銀行や証券会社を警備してますからね マイケル:あ、失礼。このパネルで指紋と網膜の記録を取らさせていただきます マイケル:こちらの、自動ドアの先にエレベーターがございます ハル:なるほど、完璧なセキュリティですね ジェイ:まさに要塞、フォートレスの看板に偽り無しってわけさ 0:自動ドアが開く マイケル:まぁ、セキュリティはバッチリなのですが…念には念をといいますか…あまりにも厳重すぎて使い勝手が悪いって社員には不評ですがね… マイケル:おっと今のは内緒ですよ ジェイ:ええ、もちろん ジェイ:こうみえて、口は硬い方ですから ハル:そうね、こうみえて…ね マイケル:さて、お待たせしました。こちらのエレベーターにお乗り下さい 0:エレベーターに乗る三人 0:少しの間 アナウンス:フォートレスセキュリティ株式会社へようこそ アナウンス:フォートレスセキュリティでは高度な警備システムで大手金融機関やインテリジェントビルの警備を行っております アナウンス:世界最大のサーバーシステムと、プロフェッショナルの確かな経験、技術、知識に基づいたオペレーションで完璧な安全性を提供致します ハル:(エレベーターから景色を眺めながら、独り言) ハル:ご立派な宣伝アナウンス…流石、一流企業……ね ジェイ:こんなんで驚いてたら、今からいくサーバールームなんてこの比じゃないぞ ジェイ:腰抜かすなよ、ハル マイケル:ははは、なかなかハードルを上げてきますね。勿論、それにお応え出来るほどのものかと思います マイケル:社内ではサーバールームの事を、別名”金庫室”なんて言われる程ですからね ハル:金庫室…それはまた凄そうですね ジェイ:(食い気味に会話を始める。少し興奮しながら) ジェイ:凄いも何も、電子ロックのかかった扉が二枚も有るわ、電源が落ちても内部電源で自動運用されるわ… ジェイ:世紀末が来てもあのサーバールームだけはきっと無事だろうな! マイケル:まあサブサーバーも有りますから全てがそこに集まってるわけでもないんですけどね マイケル:ですが、警備対象施設の電子ロックの施錠・解錠は全てサーバールームで管理してますから… ハル:サーバールームという名の金庫で、銀行の財産を守る…だから、金庫室 マイケル:その通りです ジェイ:フォートレスの技術の凄さはそれだけじゃあない! ジェイ:通常、停電なんかのアクシデントが発生した場合、サブ電源に移行するだろ? ジェイ:そうなると、十分な電力が行き届かないから機能を最低限に留めておく必要がある ジェイ:プログラムを保護するファイヤー・ウォールも然りだ ジェイ:それら諸々を制限するとハッカー連中ども、言わば第三者の侵入を許しやすくなっちまうんだが ジェイ:ここのはサブ電源に移った瞬間にそれ専用の防護プログラムが展開してな ジェイ:外からの侵入をシャットアウトしちまうんだ。裏の業界でも難攻不落のオフィス街の要塞って話題らしいぜ… マイケル:あのー…すみませんあまりそういう話は…ちょっと… ハル:あー、すみません。この人 機械オタク兼(けん)セキュリティオタクでして… マイケル:……上司もその話題は非常にナーバスになってまして ジェイ:あー、いや、こいつは失敬 0:エレベーターの扉が開く マイケル:まあ、なんとか入れたとしても侵入を感知した瞬間に、金庫室も、警備システムも全部ロックされちゃいますから…銀行強盗はまず無理ですよ マイケル:(いたずらっぽく笑う) ハル:お金に困ってもここは狙いませんよ ハル:リスクが高すぎますし ジェイ:ハイリスク、ハイリターンって言葉もあるけどな ジェイ:中々そそられるだろ? ハル:(怪訝そうな表情) ハル:はぁ、冗談はよしてよ マイケル:はは、さてと此処が10階の管理フロアです マイケル:この奥にあるのがメインサーバールーム。”金庫室”です マイケル:少しお待ち下さい…こちらの電子パネルを操作して、っと アナウンス:フォートレスセキュリティ・システム管理部マイケル・トンプソンの社員証を検知。サーバールーム専用のカードキーを30秒以内に差し込んで下さい ハル:確かに厳重ですね ハル:社員証だけでなく、専用のカードキーまで マイケル:これを無くしたら、上司に大目玉を食らいますけどね ハルM:二重の電子ロックが解除され、ゆっくりと扉が開かれる ハルM:そしてようやく、私達の目の前に金庫室と呼ばれるサーバールームが姿を現した 0:場面 メインサーバールーム ジェイ:さってと…ようやく金庫室にご到着だ。こっからは俺たちの仕事だな マイケル:毎回クロエからも言われてるかと思いますが… マイケル:犯罪防止条例に基づき、メンテナンス作業中はシステム管理部の人間が最低でも一名、立ち会う規則になってまして…ご理解ください ジェイ:(半分聞き流してる) ジェイ:あー、分かってます分かってます 大丈夫ですよー ジェイ:それに、もう夜遅いですし すぐに終わらせますんで ジェイ:よし。準備はいいか、ハル ハル:始めます。端末これですね? 0:ハルはキーボードを操作する マイケル:あぁ、はい。それでこの金庫室の中のサーバーマシンにはアクセスできます。それとこちらが… ハルM:彼の言葉を遮るかのように、突然 建物が大きく揺れるほどの衝撃と地響きがサーバールームにいた私達を襲った ハル:…っ!? ジェイ:なんだっ!?!! マイケル:じ、地震でしょうか… ハル:地震とは違う…嫌な揺れね… 0:サーバールームのモニターの電源が落ちている事にハルはいち早く気づいた ハル:ちょっと…何!?で、電気が消えた? ジェイ:おい、ハルちょっと退(ど)け!! ジェイ:(モニターの前で狼狽えているハルを強引に退かす) ジェイ:……っ!! ジェイ:…これは…配電室からの供給が止まってる! マイケル:な、なんで急に… ジェイ:アクシデントには慣れてるが、規模が違いすぎるな… ジェイ:……今、サブ電源に切り替わったみたいだな。よし、俺は配電室を見に行く ジェイ:ハル、お前はここにいろ ハル:え…ちょ、ちょっと待ってよ マイケル:わ、私も行きます!配電室は社員じゃないと入れないので!! ジェイ:分かった、頼む ハル:待って!私はここでどうしてればいいの!! ジェイ:落ち着け、ハル ジェイ:ほっといてもサーバーは動く。お前は此処で問題がないか、それをしっかり見届けてればいい ジェイ:分かったな? ハル:え…えぇ アナウンス:警告。警告。侵入プログラムを検知…第三者によるアクセスを確認しました アナウンス:繰り返します。侵入プログラムを検知。第三者によるアクセスを…… ジェイ:(アナウンスの言葉を遮るように) ジェイ:おいおいおい!冗談だろ!? ジェイ:アクセスの出どころはどこだ……っ!! ジェイ:(キーボードを操作する) ジェイ:なっ…!?サブサーバールームからだと!? マイケル:ま、待ってください! マイケル:サーバールームのAIを使ってアクセス権限を解析する事が可能です! マイケル:今すぐ解析を開始させます!! ハル:(独り言のように呟く) ハル:一体何がどうなってるのよ… アナウンス:アクセス権限を解析中 アナウンス:(数秒の間) アナウンス:解析完了。当アクセスは、フォートレスセキュリティ・システム管理部、クロエ・マイヤーズによるものです ハル:クロエですって!? マイケル:し、しかし…彼女は…!! ジェイ:(ひときわ慌てた様子で) ジェイ:馬鹿な…そんなはずは… ジェイ:おい!このサブサーバールームってのはどこにある!? マイケル:は、はいっ!!こちらです!! ジェイ:ハル!お前はここに居ろ!いいな! 0:(ハルの返事を待たず、サブサーバールームへと踵を返すマイケルとジェイ) ハル:ジェイ!マイケル!! ハル:…はぁ、全く ハル:落ち着けって言った本人が、あんなに慌ててるんじゃ説得力ないじゃない 0:少しの間 アナウンス:警告、警告 ハル:…っ!? ハル:今度はなに!? アナウンス:エマージェンシーロック、アクティブ アナウンス:ただちに施錠を開始します ハル:エ、エマージェンシーロック!? ハル:ちょ、ちょっと待ってそれってどういう… ハル:……え!?嘘…サーバールームの扉が…!! ハル:(モニターを確認する) ハル:…っ!?ちょっと待って…! ハル:社内の電子ロックが全て閉まってる…。侵入したプログラムがロックしたのね… ハル:(軽く舌打ち) ハル:なんてこと…閉じ込められた… 0:(落ち着きなく歩きまわるハル) ハル:落ち着いて…そう…落ち着いて考えるのよ、ハル ハル:電子ロックの扉はそんなに沢山あるわけじゃない…けれども、主要設備には必ずついてる ハル:となると、ジェイたちもサブサーバールームに辿り着けてないはず… ハル:どうすれば…このままじゃ、警備システムを完全に乗っ取られる ハル:(不安と苛立ちを見せる) ハル:……なんとかここから侵入を防いで… ハル:いや、ジェイならまだしも、私じゃ… 0:(少しの間) ハル:あっ!!これ…ジェイの荷物だわ、慌てて置いていったのね ハル:なにか…なにか役に立つものは……!! ハル:これ、通信機!車から持ってきてたのね。完璧だわ、ジェイ ハル:サーバールームで通信機器なんてタブーもいいとこだけど…緊急事態よ。おねがい、つながって… 0:(少しの間) ハル:誰か…誰か返事して!…聞こえないの!? ハル:ダメか…やっぱりここじゃ電波が遮断されて… 男A:ん?誰だ…お前…? 男A:お、おい!このチャンネル…まさかっ!! 0:(男Aはユーリが消化器を振りかぶり、襲いかかってくるのに気がついた) 男A:うわっ!!なんだお前!!やめ……っ!!! ハルM:そして、無線機越しからは 何かを殴打したような音、男のうめき声、そして床に倒れる音が聞こえた ハル:な、なに?…どうしたの!? ハル:もしもし!もしもし!!聞こえてる!?お願い切らないで! ハル:閉じ込められてるの! ユーリ:はぁ…はぁ…閉じ込められてるって…貴方、犯人じゃないんですか? ハル:は、犯人…って…一体何のこと? ハル:私は警備システムのメンテナンスに来てたんだけど…突然セキュリティに誰かが侵入して、館内の電子ロックが全部閉じて、いま金庫室に閉じ込められてるのよ ユーリ:(ハルの事を疑っている) ユーリ:…犯人じゃないって証拠は? ハル:納得いく証明は出来ないかもしれないわ ハル:でも、さっき言った事は事実よ ハル:閉じ込められてるの。助けがいる… ユーリ:………。 ユーリ:信じていいんですよね? ハル:信じるって…さっきから何の話? ユーリ:さっき、ロビーから銃を持った人たちが入ってきて、私(僕)の同僚も皆捕まって… ハル:な、なんですって!? ユーリ:私(僕)はなんとか逃げ出したんですけど、携帯もロッカーに置いてきてしまっていて…外部への連絡手段が無いんです ユーリ:咄嗟に隠れてた部屋に、銃を持った人が入ってきて…もうダメかと思ったその時、通信機に気を取られてくれて ユーリ:でも、見つかるのは時間の問題だって思ったんです…だから後ろから… ハル:まさか殴り倒したの!? ユーリ:あ、はい…ここの部屋に消火器があって…それで… ハル:貴方、なかなか根性あるわね… ユーリ:あはは…体力には…その、自信あるんです… ユーリ:学生の頃陸上部で…あー、でも…これからどうしたら良いか… ハル:そうね、そうよね、わかった。まずは落ちついて。ゆっくり深呼吸するのよ ユーリ:は、はい。すぅー…はー ハル:完璧よ。この無線が命綱だわ…これが切れたら他と繋がる見込みはない、だから通信を切らないで ハル:いま、倒した男はそこに転がってるのね ユーリ:はい、こ、転がってます ハル:何か手足を縛れるものはある?怖いかもしれないけど、そいつが起きたらもっと怖いし、厄介よ ユーリ:縛れるもの…あ、あります!延長コード! ハル:それで十分。コードをキツく縛るのよ…あ、それと口も塞いで、隠せそうな場所に隠すのよ… ハル:はぁ、なんだか犯罪の片棒を担いでる気分だわ ユーリ:(コードを縛りながら) ユーリ:それで…この後どうしましょう。ここに隠れ続けても、また仲間が来るかもしれないですし… ハル:そうね、私は自由に動けないし、あなただけでも何とか逃げて、誰かにこの事を伝えてもらうしか ユーリ:そ、そんな…私(僕)には無理ですよ… ハル:今更隠れてるところを見つかるのも危険だわ ハル:そういえば、あなた…まだ名前を聞いてなかったわね ハル:私はハル。ハル・タチバナよ。あなたは? ユーリ:私(僕)はシステム課のユーリ・マクレインといいます ハル:システム課?ってことはメンテナンス担当のマイケル・トンプソンと同じ部署なのね ハル:さっきまで彼と一緒にいたのよ ユーリ:マイケル…?そ、そんな名前の人…うちの課には…いませんけど… ハル:なんですって?でもさっき確かに… ユーリ:あ、ちょっと待って下さい!聞こえますか?これ、館内放送… 0:(館内放送が通信機越しに伝わる) 放送:あー…テスト、テスト、聞こえるだろうか。業務中のところ申し訳ない。突然だがこの施設は武装勢力によって制圧された。要求は特にない、こちらで勝手に作業させて頂く ハル:なによ…これ… 放送:要求はないといったが、社員諸君は通常業務を中止して我々の指示に従うことをおすすめする 放送:余計なことをした場合はその場で射殺する。銃で手に負えないと判断した場合、致死性の強いハンタウィルスというウィルスを散布する 放送:急性で重篤な呼吸器疾患にかかりたくない者は振る舞いに気をつけるといい。以上だ ユーリ:ウ、ウィルスって…こんな逃げ場ないとこでそんなの撒かれたら… ハル:空調ダクトを伝って建物中に拡散するかもしれない、もちろんここにも ハル:まずいわ…ウィルスなんて本当かどうかわからいけど…うかつに動くわけにもいかなくなった ユーリ:でも、動かないでずっと此処にいたら、見つかって撃たれちゃいますよ…!! ユーリ:あぁ…もうどうすれば… ユーリ:(足音が近づいて来るのに気づく) ユーリ:……っ!? ユーリ:…ハルさん、誰かこっちに来ます!! ハル:ユーリ、落ちついて!とにかく静かにそこから離れるのよ ユーリ:……分かりました…やってみます 0:(ユーリはこそこそと歩き始める) 男B:で?通信機はあいつが持ってるんだな? 男C:はい、ですがまだ連絡は来てません 男B:(舌打ち) 男B:なんだトラブルか?完璧な計画とかぬかしやがって…だから俺はハナから信用ならないって言ってたんだ 男C:とにかくさっきの応急措置でしばらくはしのげます。連絡を待ちましょう 0:少しの間 ユーリ:も、もう大丈夫です…多分倒れてる人も、見つかってないと思います ハル:ふぅ…よかった…。とりあえず身を隠せそうな場所を探したほうがいいわね ユーリ:分かりました… ハル:ねえ、ユーリ。貴方は最初にロビーからそいつらが入ってきたのを見たのよね?何人くらい居た? ユーリ:正確には数えてないですけど…10人は…居たような… ユーリ:直ぐその場から離れたので、後からもっと入ってきてる可能性もあります ハル:10人…たとえその倍居たとしてもこの巨大な建物中をくまなく監視することは出来ないはず ハル:幸い、今は夜中(よなか)で残ってる社員も少ないし、あの放送である程度私達の動きを封じたとしても、出入口と主要設備がある部屋に固まってる可能性が高いんじゃないかしら ユーリ:じゃあ…偶然敵に出くわす可能性は…低いってことですかね? ハル:配電室やサーバー室を避ければね。相手の狙いがホントのところ何なのかわからないけど ハル:ねえ、さっき携帯持ってないって言ったけどオフィスの電話は通じないの? ユーリ:ダメでした。ネット回線も切られてるみたいで ハル:はぁ…期待はしてなかったけど ハル:その辺の対策は取られてるのね ユーリ:あ、近くの会議室なら隠れられそうです! ユーリ:近くに重要な設備室も無いはず… ユーリ:あ、あれ?でもそう言えば…主要設備の電子ロックって全部しまってるんですよね? ハル:ええ、そのはずよ ユーリ:それって…何かおかしくないですか? ハル:同感。私もそれに対して妙に引っかかってるのよ ハル:わざわざメインサーバーに侵入してロックを掛けるなんて不自然 ハル:何か目的があるなら、逆にロックを外すほうが自然だわ ユーリ:重要な設備がある部屋をおさえた方が、都合が良いですからね… ハル:そうなのよ… ユーリ:じゃ、じゃあ銃を持った人たちとは関係ない…とか? ハル:…まさかそんな… ハル:……。(考え込むハル) ハル:そうだ!このプログラム、システム部のクロエ・マイヤーズの権限でアクセスしてるみたいなの ハル:ユーリもシステム課の人間なら、名前くらいは知ってる筈よね ユーリ:(困惑している) ユーリ:…あのー…ハルさん ハル:どうしたの? ユーリ:先程のマイケルって人もそうですけど…クロエって人もうちの課には…その…居ないんです ハル:そ、そんなはずは無いわ!?ねえ、どこかで調べられない? ハル:外との回線が切れてても社員の記録を見る事は出来るんじゃない? ユーリ:えーっと…あ!!この下の階に人事課があります!いまエレベーターの近くですし行ってみます! 0:小走りで走りはじめる ハル:ま、まって!!エレベーターは危ないわ!階段を…!!! 0:エレベーターの扉閉まる ユーリ:え…あ、もう乗っちゃいました… ハル:なるほどね…その扉が開いた瞬間に出くわさないことを祈ってるわ ユーリ:あ…あははは。き…きっと大丈夫ですよ ユーリ:(急に不安になる) ユーリ:たぶん 0:(少しの間) 0:(通信機越しエレベーターの扉が開く音が聞こえる) ユーリ:あ、開きます… ハル:(固唾を飲む) ユーリ:はぁああ… ユーリ:だ、大丈夫みたいです… ハル:それなら良かった ハル:神様に感謝しないとね ユーリ:人事部オフィスに着きました!今から調べてみます ハル:ええ、お願い ハル:そしてこれは私の仮説だけど、クロエのプログラムは武装した奴らの邪魔をしてる…そう思うの ハル:彼女が何者か解れば、もしかしたらこの状況をどうにか出来るかも… ユーリ:あ、あのハルさん? ハル:見つかった? ユーリ:そ、それが…本店から支店まで調べても二人とも見つかりません ハル:そんな…じゃあ私があったマイケルは…システムに侵入してきたクロエは…一体何者なの!? 0:(間) 0:場面 フォートレス社 廊下 ジェイ:(電子ロックされた扉をコンコンと叩く) ジェイ:はぁ、ここも電子ロックが掛かってる ジェイ:八方塞がりってやつか マイケル:反対側の通路も施錠されてました マイケル:これじゃあ配電室はおろか、サブサーバールームにすら辿り着けそうにないですね ジェイ:まぁ、そうだな ジェイ:さてと、これからどうするかねぇ マイケル:……はい マイケル:……。 マイケル:(独り言) マイケル:クロエのアクセスが何故…だって彼女は ジェイ:どうした? マイケル:あぁ…いえ、何でもありませ…… ジェイ:クロエ・マイヤーズは交通事故で重体。未だICUを出られず、予断を許さない状態 ジェイ:だからアクセスなんて出来っこない…そう言いたいんだろ? マイケル:……っ!?!! マイケル:な、何故貴方がそれを…!? マイケル:まだその情報は公(おおやけ)にはなっていない筈です!! ジェイ:まぁ、そう慌てるなよマイケル… ジェイ:天下のフォートレス様が一般人巻き込んで事故なんて起こしちゃあ、イメージダウンもいいところだもんな マイケル:(動揺している) マイケル:………っ!! ジェイ:それにしても、こっちも色々と大変だったんだぜ ジェイ:交通事故の偽装ってのは中々に骨が折れた。でも、その苦労の甲斐あって、目的のものは手に入ったけどな 0:(ジェイは一枚の社員証をマイケルに見せつける) マイケル:それは…クロエの!!! マイケル:まさか…そんな……あ、貴方が…っ!! ジェイ:(マイケルの話を遮る) ジェイ:なぁ〜マイケル ジェイ:目的を達成するために、多少の犠牲は必要だと思わないか? マイケル:……何を言ってっ!! ジェイ:悪く思うなよ。これは目的のために、仕方なく…だ ジェイ:恨むなら、目敏い(めざとい)あの女を恨めよ マイケル:(怒りを露わにする) マイケル:…お前っ…!!! ジェイ:あの怪我じゃあクロエはもうダメだろう ジェイ:もってあと数日がいいところだ マイケル:何を勝手な事を…俺は、彼女が意識を取り戻すと信じている! マイケル:そして彼女の口からお前の悪事を聞き出して、全世界に流してやる!! ジェイ:ははは、威勢がいいねぇ! ジェイ:そういうの、嫌いじゃないぜ ジェイ:さてと、生憎今日は綺麗に殺せる道具を持ち合わせていなくてなぁ ジェイ:まぁ、でも…おあつらえ向きな道具がなくたって、完璧に仕事はこなすさ マイケル:お前の目的はなんだっ! ジェイ:今それを知ってどーすんだよ? ジェイ:あー?あれか?冥土の土産にってやつか? マイケル:いい加減に…!! ジェイ:ちょっとコイツを拝借するぜ マイケルM:そう言うと、彼は通路に設置されていた消化器を手にし マイケルM:俺との距離を一気に詰めると、それを大きく振りかぶり…こう言った ジェイ:恋人同士 二人仲良く、あの世でデートでもしててくれよっ!!! 0:頭部を殴られるマイケル マイケル:…ぅ……あっ マイケル:(頭から血を流し倒れる) ジェイ:死因は武装した集団に襲われ後頭部打撲…ってことにしとくか。さてと あとはアイツだけ、か 0:(間) ハル:存在する筈のクロエとマイケルがいない… ハル:一体何がどうなってるの ユーリ:謎ばかり増えて…私(僕)達どうしたら ハル:とにかく今はそこに隠れて、なんとか脱出の方法を考えましょう ハル:私は出来る限りそれをサポートする。サーバーから監視カメラの映像だけでも見られないかやってみるわ ユーリ:わ、わかりました! ユーリ:ハルさんは、凄いですね。そんなことが出来るなんて ハル:出来るかどうか保証はないけどね。それに、私よりジェイのほうがきっと上手くやるでしょうね ハル:あ、ジェイってのは私と一緒にメンテナンスに来てた腕利きのエンジニアよ ハル:きっと今頃、なんとか外からロックを解除する方法を探してる ユーリ:私(僕)はそこまで頭が良い方じゃないから、アドバイスも出来ないし…自慢できるのは体力くらいしか ユーリ:閉じ込められているハルさんに助けてもらわないと何も出来なくて… ユーリ:その…ごめんなさい ハル:いいのよ 非常時なんだから、助け合わなくちゃ。それにね、私には銃持った人間を消火器で叩きのめすなんて出来ないわ ユーリ:そ、それはとにかく必死だったから… ハル:ふふっ…昔ね、私の父がよく言ってたわ『世の中どうしてこうも不完全なものばかりなんだ』ってね ハル:父は完璧主義者でね、潔癖(けっぺき)と言ってもいいくらい何事にも厳しい人だった ユーリ:は、はぁ… ハル:周りの人間も自分も、完璧じゃないのが許せなかったんでしょうね ハル:私も、そうならなきゃいけないんだと思ってた。でもね、大人になってからある人に真正面から否定されたの『完璧な人間には絶対になれない』って ユーリ:そ、それでどうしたんですか…? ハル:その人の会社に入ったわ。それを言ったのは、今の会社の社長なの ユーリ:そうだったんですね ハル:完璧な人間には絶対になれない、だから完璧になろうって気持ちが常に必要だし、それでも人は完全じゃない…だからチームが必要だって ハル:面接でそんなこと言われるなんて、衝撃を受けたわよ ユーリ:確かに…でもなんか…納得しちゃう言葉ですね… ハル:そうでしょ?だからね、ユーリ。あなたは十分頑張ってる、でもあなたばっかり危険なところで頑張ってもらうもらう訳にはいかないの… ハル:成り行きだけど私達はチームよ、できることはするわ。声だけだけど、隣で戦うから ユーリ:そうですよね…。なんだか不思議なんですけど、ハルさんとは会ったこともないのにすぐ横にいるみたいな気分です… ユーリ:少しだけ勇気が出てきました!一緒に頑張ります! ハル:いいわ、その意気よ ハル:ねえ、ユーリ。脱出するにも出入口は見張りがいると思うわ、何処か他に出入りできるところ知らない? ユーリ:駐車場に出る現金搬入口は…当然見張られてるだろうし…後は屋上にヘリポートは有りますけど、ヘリを呼ぶなんて無理ですし… ハル:そうよね、あと設備と言ったら配電、空調にボイラー…どれも脱出に役立ちそうには無いわね ユーリ:通気ダクトを通るとか! ハル:人が通れるような作りの空気ダクトは映画だけよ。やっぱりなんとか見張りを突破するしか… ユーリ:そうだ、非常口!非常口ですよ、赤い三角形のマークの! ハル:非常用侵入口…あの消防隊が入るための? ユーリ:そうです!そこからロープか何か伝って…。備え付けの消火栓のホースを使うとか! ハル:いくらなんでも無茶がすぎるわ、それに階を通り過ぎるたびに窓から見つかるかもしれないし ユーリ:確かにそうですよね… ハル:それに、映画みたいなスタントは素人じゃ無理よ ユーリ:ははは…もう既に映画みたいな状況ですけどね…ハッキングに銀行強盗なんて… ハル:え?ちょ…ちょっと待って。今、なんて? ユーリ:え、私(僕)なにか変なこと言いました? ハル:銀行って……も、もしかしてあなたがいるのって… ユーリ:ど、どういう意味です? ハル:あなたが今いる建物の名前よ! ユーリ:えっと…セントラルバンクの本店ビルですけど ハル:セントラルバンクの本店ビル……それって、此処から50マイルも離れてるじゃない…!? ユーリ:私(僕)たち、違う建物にいるって事ですか!? ハル:なるほど、それなら納得がいくわ ハル:会社が違えば部署の名前も違うし、いる人間だって違う…。思い返してみれば、さっきユーリが乗ったエレベーターからは、フォートレス会社の宣伝アナウンスは聞こえなかった ハル:そして、どこのオフィスビルも基本的な設備構成はだいたい同じだし…どちらのビルにも”金庫室”があった… ハル:目で見ればすぐに分かったはず、だけど私達には音しかなかった ユーリ:そんな…だって、じゃあなんで無線がつながって… ハル:そんなの偶然…いや、それは出来過ぎてる ユーリ:電子ロックが施錠されるのも、この目で見ました! ハル:もしかしてその銀行のセキュリティって、フォートレスのシステム? ユーリ:そうです、うちの警備はフォートレスセキュリティです ハル:それじゃもしかして…もしかしてクロエは… ユーリ:ハルさん…? ハル:ねぇ、ユーリ。今から私の言う事をよく聞いて… 0:(少しの間) ユーリ:そんな、それじゃハルさんが… ハル:私は大丈夫よ…自分で何とかするわ、今まであなたに任せてきたんだもの ハル:今度は私が戦う番 ユーリ:ダメです… ハル:大丈夫よ、あなたは隠れて全部終わった後に警察にデータを見せればいいの ユーリ:まだきっと、何か方法は有ります!! ユーリ:さっきのスタントだって、やってみせますから!! ハル:ス、スタントって非常用侵入口の!?危険すぎるわ! ユーリ:ハルさんも命がけで戦うんです、私(僕)も出来ることをします! ハル:無茶はやめて!私も貴方も命がけなのは変わらないでしょ! ユーリ:ハルさんの力になりたいんです! ユーリ:(近づいてくる足音に気づく) ユーリ:……っ!! ユーリ:また誰か来ます!! 男C:おい、今こっちからなにか聞こえなかったか? 男D:いや、特には… 男C:念の為確認しておきたい、いくぞ 男D:了解 ハル:(声を潜ませて) ハル:ユーリ…!!大丈夫!? ユーリ:(ハルと同じくらいの声のトーンで) ユーリ:はい、今のところは ユーリ:なんとかやり過ごして脱出します。それに、きっと間に合わせますから 信じてください ハル:えぇ、了解よ ハル:ねぇ、ユーリ ユーリ:なんですか? ハル:幸運を ユーリ:はいっ!!二人分の幸運ですから…きっとうまくいきますよ ユーリ:(足音が更に近づく) ユーリ:あ…こ、こっちに来ます!一旦通信を切りますね!! ハル:ユーリ!! ハル:……(音のしない無線機を見つめ、暫くの沈黙) ハル:…さて、やってやろうじゃないの 0:金庫室の扉が開く ジェイ:何やってんだ?ハル? ハル:っ…!? ハル:ジェイ! ジェイ:おいおい、なんて声だしてるんだ。俺がこれくらいのプログラム、何とか出来ないと思ったか? ハル:そうよね、あなたならどうにか出来ると思ってた ハル:……。 ハル:(騒動の犯人を確信している) ハル:ねぇ、ジェイ。貴方が此処を開けられたって事は、銀行の方のロックも解除されたかしら… ジェイ:銀行? ハル:クロエのプログラムの侵入を感知して、フォートレスセキュリティが受け持ってる施設は緊急ロックされてるんでしょ? ジェイ:ああ、そのはずだ ジェイ:なあハル、ちょっとどいてくれ ジェイ:そこのサーバー端末に用があるんだ ハル:どんな用件かしら? ジェイ:おいおい、ふざけてるのか? ジェイ:異常がないかチェックするんだよ、俺達の仕事を忘れたのか? ハル:銀行の金庫破りでもするのかと思ったわ ハル:定期メンテナンスの時に仕込んだプログラムを使って ジェイ:(鼻で笑いながら) ジェイ:…金庫破りだって? ハル:ここのシステムは外からの侵入には強いけれど、中からの侵入にはそこまでじゃない ハル:クロエのプログラムが簡単に入れてしまったのは、社員のアクセスだったから…そうでしょ? ジェイ:……。 ハル:ようは権限さえあれば、突破は不可能じゃないという事よね? ジェイ:だからなんだっていうんだ? ハル:貴方は自由に動ける権限が欲しかった、私はそう推理したの ジェイ:……ほう ハル:そういえば、あなたの持ってる通信機、銀行強盗につながるわよ? ハル:あっちは計画通りロックが開いてくれなくて大変みたいだけど ハル:…ところでマイケルはどうしたの? ジェイ:マイケルは… ハル:マイケルは死んだ。それとも、貴方が殺したと言った方が正確かしら ジェイ:……。 ハル:その様子だとクロエ・マイヤーズの事も、貴方が殺したのね ジェイ:クロエ…か。はははっほんと、目敏い女だったぜ ジェイ:あの女。俺がメンテナンスのたびに少しずつサーバーに細工してるのに気づきかけてた ジェイ:だから始末してやったんだよ ジェイ:けど、利用したいもんがあってな。それを手に入れるために、交通事故を偽装。つってもこういうのは楽じゃないんだぜ? ジェイ:挙句の果てにあの女…こんな仕掛けしていきやがって…お陰で俺の完璧な計画が台無しになるとこだったぜ ハル:あなたはマイケルが自分と行動を共にするよう仕向け、彼を殺害し そして、サーバールームに残っている邪魔者を排除する ハル:そして一人悠々と残った貴方は、このサーバールームから銀行の隅々まで思い通りに操って武装強盗をナビゲートする、そんなところかしら? ジェイ:まさに"完璧な"ナビゲーターだろ? ジェイ:その通信機は特別製でね、電波が通りにくいサーバールームでも仲間の声がよく聞こえただろう ハル:ええ、よく聞こえたわ。仲間の声がね。ウィルスをばらまくって話も ジェイ:ウィルス?ははーん、向こうの様子はよく知らんが、短時間でも社員の足止めをするにはいい手だな。よくアドリブを効かせたもんだ…ははは ハル:一応聞いといてあげる、なんでこんなことしたのか ジェイ:おいおい、なんでしたかだって?逆に聞きたいね! ジェイ:一流のファイヤーウォールに電子ロック、国中を股にかけた最高難易度のパズルに挑戦できて、目もくらむような大金まで手に入るんだぜ?なぜ誰もやらないんだ!! ハル:人まで殺して? ジェイ:些細な犠牲さ! ハル:私利私欲の為に… ジェイ:おいおい、正義のヒーロー気取りか?ハル ハル:(溜め息) ハル:もういいわ、十分よ…貴方もそう思うでしょ? ジェイ:あ?何が十分だって? ハル:ふん、アンタに言ったんじゃないわ ハル:ねぇ、ユーリ。聞こえてたかしら? ユーリ:ええ、もうばっちりです!!録音もされてますし警察の方々にもくまなく聞こえてます! ジェイ:は?……な、なんだそれ? ジェイ:おい、お前は誰だ!!! ユーリ:どうも、はじめまして。システム課の…いえ、セントラルバンク、システム課のユーリ・マクレインと申します ハル:偶然私にも仲間が出来てね、アンタよりずっと優秀な相棒よ ジェイ:く…こ、この…!! ハル:あー、それと…私もさっきサーバーに進入するプログラムをセットしてみたんだけど… ジェイ:な、なんだって!? ハル:あなたほど上手くいかなかったみたい、バレちゃったわ ハル:だから私はここでお暇させてもらうわ アナウンス:警告、警告、エマージェンシーロック、アクティブ ジェイ:あ、お、おいまてまてまて! 0:金庫室の内側扉が閉まる 0:金属の扉越しにジェイの声が聞こえる ジェイ:(ドアを力強く叩く) ジェイ:おい!てめえ!!閉じ込めやがったな!くそっ開けてやる!絶対に開けてやるぞ!! ハル:はいはい。警察が来るまで存分にパズルごっこを楽しむといいわ 0:(間) ハルM:建物から脱出した私を待っていたのは大勢の警察とマスコミと、野次馬だった ハルM:まさか自分の上司が、こんな馬鹿げた事件を引き起こしてしまっただなんで…ほんと呆れるわ ハルM:世間を騒がせて、色んな意味で私の会社も名が知れる ハルM:これ以上面倒なアフターフォローが今まであっただろうか… ハル:(ため息) ユーリ:大丈夫ですか?ハルさん ハル:人を見る目がなくて落ち込んでるとこよ ハル:あんなやつだったなんて…ほんと、最悪 ユーリ:ハルさんのせいじゃないですよ ハル:…ありがとう ハル:で?そっは大丈夫だった?怪我はない? ユーリ:はい、特にこれといった怪我もないですし ユーリ:助かってホッとしました ハル:ふふ、それならよかった ハル:でも、まさか本当にスタントをやってのけると思わなかったわ ハル:大した度胸…いや、勇気に救われたわ ユーリ:やれる事をしたまでですよ ユーリ:建物から脱出した後は、手筈(てはず)通りに警察に通信機の内容を聞かせる…ハルさんの作戦がうまくいって良かったです! 0:担架で運ばれるマイケル マイケル:…ハ、ハルさん。無事で良かったです ハル:マイケル!?大丈夫なのっ!!! マイケル:(出血が多いので、少し辛そうに). マイケル:あはははっ…あ、あと少し発見が遅かったら……死んでたみたいですけど…ね ハル:…良かった…… ハル:そうだマイケル。貴方に良い知らせがあるの ハル:ユーリが色々と連絡をとってくれてね ハル:クロエさん。目を覚ましたみたいよ マイケル:…っ!!! マイケル:本当…ですか……ああ、よか…った ハル:彼女のいる病気へ搬送するよう手配済みよ。ゆっくり休んでね マイケル:ありがとう…ございます… 0:救急車で運ばれるマイケルを、ハルはジッと見つめていた ユーリ:一件落着、ですかね ハル:ふふっ、そうね ハル:ねぇ、ユーリ ユーリ:はい、何ですか? ハル:今回の事件は私一人じゃ解決できなかった ハル:これは貴方がいてくれたからこそよ。本当に有難う ユーリ:いえ…それ程まででも… ハル:でも不思議ね。私達、50マイルも離れてるのに一緒に戦った戦友みたい。是非一杯酌み交わしたいところだわ ユーリ:(演者が女性の場合以下のセリフ) ユーリ:ホントですね、これが異性だったら運命のひと…なんでしょうけど。あ、じゃあ今度合コンしましょうよ! ユーリ: ユーリ:(演者が男性の場合以下のセリフ) ユーリ:え…あ、あの、これってもしかして、デートのお誘いですか? ハル:(悪戯っぽく) ハル:私は男を見る目がないみたいだけど? ユーリ:見る目がなくても大丈夫ですよ!まだお互い顔も見てないんだし! ハル:ふふ、わかったわよ…でもパズルマニアはゴメンだわ ユーリ:では、銀行員なんてどうですか? ハル:ええ、いいわね。完璧よ 0:完