台本概要
1142 views
タイトル | 「かもしれない」を選ぶなら |
---|---|
作者名 | 大輝宇宙@ひろきうちゅう (@hiro55308671) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 3人用台本(男1、女2) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
自分が生まれる前の両親に会う物語 利用規約はXをご参照ください。 作者名、タイトルの表記は必須です。 1142 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
美月 | 女 | 96 | みつき。20代前半。付き合っている彼氏との間に子供が出来たことを知る。母親は4年前に他界。ひとりっこ。両親との仲は良かったが母の死をキッカケに父と距離を感じている。 |
芽依子 | 女 | 63 | めいこ。(過去のシーン)20代半ば〜後半。美月の母親。夫の匠のことをたっくんと呼ぶ。世間知らずのお嬢様。愛情深く、思い込みが激しい。持病が原因で4年前に他界している。 |
匠 | 男 | 55 | たくみ。20代〜30代。大工。芽依子と駆け落ち同然で結婚。愛情深い一家の大黒柱。芽依子を失ってからは仕事に没頭し、美月と少し距離がある。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
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:夕方 産婦人科からの帰り道
0:
美月:どうしよう…。まずは裕一に言わないと…。怖いな…。どんな反応が返ってくるんだろう。結婚…するとして、お父さんにも言わなきゃいけないし…。そもそも結婚どころか別れを切り出されたら?…殺したくない…けど…私ひとりで何とか出来るとは思えない…。
0:
美月:どうしたらいいんだろう…。あー…今は考えたくない…。締切のあることとか、昔から大嫌い。何で…こんな時に…。一番相談できる人、お母さんがいないんだろう。何で死んじゃってるんだろう…。お母さんがいれば…
0:
:交差点は赤信号だが、ぼーっと進み続ける美月
芽依子:危ない!!(美月の腕を掴み、歩道へ引っ張る)
美月:え…おかあ…さん?
芽依子:大丈夫!?ちょっと?あなた!?
匠:芽依子、どうした大丈夫か!?
芽依子:この子が車道に飛び出そうとしたの
匠:大丈夫ですか?
美月:…お父さん…若い…
匠:…様子がおかしな人だ…芽依子?もう行こう?
芽依子:……。
匠:芽依子?
芽依子:うち、来ます?
匠:おい、芽依子
芽依子:大丈夫。おかしな人じゃないわ、きっと。体調は悪そうだけど…少し休めば良くなるんじゃないかしら。うち、すぐそこなんです。良かったら寄っていって?
美月:……はい
芽依子:うんっ じゃあたっくん、彼女のバッグ持って。はい…あっ(バッグを落としてしまう)…私と同じ産婦人科の診察券…あなた、失礼だけど、妊婦さん…なの?
美月:ええ、まぁ…
芽依子:だったら尚更、自分の体を大事にしないと
美月:……(泣き出す)
芽依子:あら…ごめんなさい、泣かせるつもりはなかったのよ?えっと…ああ…
匠:妻がすみません。実はコイツも身重なもんで、あなたと重なった所があったんだと思います。すみません…!
芽依子:ごめんなさい…
美月:いえ…何か、気にかけて叱ってもらうのがすごく久しぶりで。こちらこそ…突然泣き出して…ごめんなさい
芽依子:そうだったの…うん、たっくん、私この方と色々お話したいわっ。ねぇ、もしお嫌じゃなければうちに寄っていって下さいな?
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0:
:芽依子と匠の家。ローテーブルを挟んで向かい合う、美月と匠。奥のキッチンで芽依子はお茶の支度をしている
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匠:小さな家で驚いたでしょう?俺が大工やってるんですけど、会社に金借りて、狭い土地買って無理やり建てた家なもんで
美月:いえ…若いのに家を建てて、奥さんと娘さん養ってて、本当にすごいって思ってます
匠:娘…?ああ、芽依子が勝手に言ってるだけですよ?お腹の子は絶対に娘だって言い張ってて、医者はまだ分かんないっていってるんです
芽依子:あらっ!ぜーったい女の子よ!宿してる私がいってるんだもん。間違いないわ
匠:すいません…こういうヤツなんです…
美月:ふふっ
芽依子:はい ノンカフェインのお茶と、たっくんが焼いたクッキー。よかったらどうぞ
美月:お父…たっくんさん、クッキーなんて焼けるんですね
匠:ええ、まぁ…
芽依子:たっくんは、手先がとっても器用なの。まだまだ沢山あるから、食べられそうだったら仰って
美月:いただきます…あ、おいしい…
匠:お口に合って良かった
芽依子:うん…良かった。えっと…あ、やだ私ったら、お名前も聞かないでお連れしてしまったわ!私は、青田芽依子。こちらは夫のたっくんこと、匠さんです
匠:すいません…こういうヤツなんです…
美月:私は…美月です
芽依子:みつきさん!字はどんな字を書くの!?
美月:美しい月です…
芽依子:素敵な名前ね、綺麗だわ
美月:ありがとうございます
芽依子:私もね、生まれてくる子に、「月」の字を入れたいって思っているの
匠:こいつ、名前の候補を考えるのが日課になってて。それもみんな女の子の名前ばっか
芽依子:うふふ、名前を考えるのってとっても楽しいわ
美月:どうして、「月」を入れたいんですか?
芽依子:十月十日、ずっと一緒にいたことと、これから長い年月一緒にいようねっていうメッセージを込めたいと思って
美月:…そんな意味が
芽依子:美月さん…美月ちゃんでいいかしら?
美月:…はい
芽依子:美月ちゃんは、まだ妊娠が分かったばっかり?
美月:はい…
芽依子:不安?
美月:はい…
芽依子:うん、そっか。私も不安。初めてのことばっかりで…
美月:私の場合、それだけじゃなくて…私、まだ結婚してないんです。
匠:相手の男は?
美月:ちゃんと、付き合ってる人。…です
芽依子:結婚前提…?
美月:…そういう話は出たことなくて…
匠:結婚する気もなく、美月さんを…
芽依子:たっくん、する気がないとは限らないでしょう?…これから相手の方には話をするのね?
美月:うん…そのつもりです…けど、何て言われるか怖くて…別れようとか…こどもは…その…
匠:そんなやつ、別れちゃえばいいですよ
芽依子:たっくん!そんな簡単な話じゃないから!私も確かに…そういうことを言うような人だったら、別れたほうがいいと思うけど…
美月:でも、私…結婚しようって言われるのも怖くて
匠:何でですか?責任取って結婚って、当たり前だと思いますけど…
美月:っていうか、お腹に今こどもがいるっていうことが、もう怖くて…生活そのものが変わることは確実じゃないですか、結婚するにしても、しなくて産むにしても…産まないにしても…
芽依子:そうね
美月:この漠然とした不安を…聞いてくれる人がいないって思ってたら…
匠:お友達とかは?
美月:いますけど…なかなか生々しい話なので…ちょっとはばかられるっていうか…
匠:(成程というため息)
芽依子:…ご家族…ご両親、お母様は?
美月:…母は、4年前に、私が大学生の時に他界しました。父はいますが、もともと仕事に明け暮れていて、母が亡くなってからはとても落ち込んで…より仕事に没頭するようになって…喋らなくはないですけど…何か父って、こういうこと、一番言いづらい…かも…しれないです
匠:…寂しいっすね、父親って
美月:…ごめん。…なさい
匠:あ、すいません…なんか、でしゃばっちゃって
美月:いえ…
芽依子:…タイムリミットのあることだから、相手の方にはちゃんと伝えましょう。相手にも考える時間をあげないとダメだから、怖くてもすぐに伝えましょう。
美月:…あ、そっか…はい
芽依子:確かに、変わることが沢山あると思うわ。もし、今そこに居る子と一緒にいない生活を選んだとしても、きっと美月ちゃんの中に、昨日までと違う感覚だったり、価値観は、もう芽生えていると思うの。だから、なかったことにはできない。
美月:…うん
芽依子:大丈夫よ、美月ちゃん。沢山色々な可能性を考えると爆発してしまうわ。バラバラにして、ひとつずつ、向き合いましょう。もちろん、色んな「かもしれない」を考えることは大切よ?でも、いつも美月ちゃんが何を選びたいかを忘れないことと、一個ずつしか出来ないんだってことを忘れないことだわ
美月:…お母…芽依子さん、ありがとう
芽依子:いいの。せっかくマタニティ仲間ができたんだもの!励まし合いたいわ
美月:欲しかった答えのプレゼントをもらえたみたい…
芽依子:そう?…あ!そうだ!!美月ちゃん、今日泊まっていかない!?
美月:え…!?
匠:おい、芽依子、強引すぎるぞ
芽依子:うち、狭いけど、お風呂は素敵なのよ!たっくんが腕によりをかけてつくった檜風呂なの!あんまりないでしょう?ヒノキのお風呂なんて!入っていって!?
匠:おいおい、いくらなんでも「風呂入れ」は初対面の美月さん困るだろ…
美月:毎日入ってま…あ、いえ、あの、えっと
匠:?美月さんの家も、檜風呂なんですか?
美月:えー…いえいえ!「毎日入…りたい…」そう!毎日入りたいと思ってたんです!檜風呂!!!う、嬉しいなぁ…あはははは
匠:え、そうなんですか?…じゃあ、良かったら、ぜひ。風呂の縁のとこは丁寧に削ったりしてて自信作なんです
芽依子:ほらぁ、たっくんも嬉しいくせにぃっ。そうと決まればっ!新しいタオルと〜かわいいパジャマおろさなくっちゃ!
匠:すいません…こういうヤツなんです…
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:浴槽の中
美月:このお風呂って…出来たばっかりの頃は、こんなにいい香りがしてたんだ…。はぁ〜…気持ちいい。お父さんも、お母さんも…今の私より少し年上?だよね。ここは過去なのか、夢なのか…。私が車道で実は撥ねられてて、死んだ後の世界って説もある。…もとの世界…戻れるのかな…でも…もう少しだけ…何も考えずに…ここにいたい
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:風呂を上がり、リビングに戻る美月 ローテーブルには匠がおり、缶ビールを飲んでいる
0:
美月:お風呂、ごちそうさまでした
匠:あ…!はい…
美月:どうかしました?
匠:いや、「お風呂ご馳走様」ってうちの妻しか言わないやつかと思ってたんで…そうか一般的なものだったのか…
美月:あー…どうですかね、うちの家では、昔からお母さんがそう言うので、私も自然にそうなったって感じかもしれません。たしかに彼氏には笑われましたし
匠:そうなんですか?はは じゃあ、きっと妻と、美月さんが特殊なんだ
美月:だと思います。芽依子さんは?
匠:眠くなったって、先に部屋に引っ込みました。ほんとにマイペースなヤツで、振り回してしまってすみませんでした
美月:いえいえ、…そんなところがお好きなんだろうな、と。
匠:…はは、ま、そうです
美月:2人は、理想の夫婦です。理想の…両親です…
匠:まだまだそう言ってもらうには、足りてないですよ。もっと俺がしっかりしないと。…あ、その布団、使って下さい。お客さん用なので。このビール飲み終わったら、テーブル上げて敷くんで、ちょっと待っててもらっていいですか?
美月:大丈夫です。ありがとうございます
匠:あ、美月さんも飲みます?…ってダメだった。梅ジュースなんてどうです?
美月:え、あ、はい!飲みたいです
匠:取ってきます(立ち上がり、キッチンへ向かう)
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匠:どうぞ
美月:いただきます
匠:…あいつは、いいとこのお嬢さんなんですよ
美月:…!え?そうなんですか?
匠:ちょっと浮世離れしたとこありますけど、あれは、世間知らずっていうか、まぁ不自由なく暮らしてきた結果っていうか…で
美月:知らなかった…
匠:俺が、修繕に入ったお屋敷のお嬢さんだったんです
美月:そこで、恋に落ちたんですか?
匠:美月さんって結構ストレートですよね…
美月:すみません…母親譲りで…。あとすごくお二人の恋バナに興味があります!
匠:ははっ そうですか。…まぁ、そこで完全に一目惚れしました。妻は、兄と妻の2人兄妹で、跡取りで婿を取らないといけないとかはなかったのですが、いいところの方との縁談が予定されていたようで、お義父さんには猛反対されました。どっちが彼女にとって幸せかは、一目瞭然でしょう?…でも諦められなかった。芽依子と俺は…出会ってしまったから…。
美月:それで…?
匠:駆け落ち同然で結婚しました。居場所はお知らせしましたし、子供を授かったことも報告しました…けど…お義父さんからは何の連絡もなくて…
美月:そうですか…
匠:だから、美月さんに頼れる人がいないように、俺のせいで妻にも頼れる人がいないんです。俺の両親は、とっくに他界してますし。そんな中で、あんなに幸せそうに俺との子を産もうとしてくれる妻を…俺はもっと大事にしないと。
美月:匠さんは、超愛妻家ですよ。
匠:そこだけは、自信ありますから
美月:もし…
匠:はい?
美月:もし、芽依子さんが、子供を残して先に亡くなったら…
匠:美月さん?怒りますよ?
美月:すみません…
匠:多分、激しく動揺するでしょうし、生きてられないかもしれません。でも、いつかは来る日だろうから、受け入れるしかないんでしょうね。どんなに受け入れられなくても…。美月さんのお父さんみたいに仕事に没頭することで、芽依子を忘れようとするかもしれない…でも、子供のことに目を向けなくなるのは嫌だな…
美月:そうですね…
匠:……怖くて、怖くて、たまらないんです
美月:え?
匠:…妻には持病がある
美月:…はい
匠:免疫機能の障害みたいな病気なんですけど…紫外線に当たることや、疲労、あとは出産が症状を悪化させることが分ってるんです。
美月:え…?
匠:彼女の病気が何であるかハッキリした直後に、妊娠が分かった。…俺は、まだ見ぬ子供より、彼女の命を優先しようとした。…でも、彼女は俺との子を生みたいって、生きられるかもしれない未来に賭けたいって…。産まなくても、長く生きられるか分からないなら、産む未来を選びたいって…そう…言って…
美月:産まなければ…もっと長く生きられたかもしれない…の?
匠:俺は、怖くて。さっきはあんな風に言ったけど…妻がいなくなることが怖くて…。でも、絶対に後悔しないように、妻のことも、子供のことも愛すって決めたんで…覚悟決めなきゃいけないって思うんですけど…全然できなくて…
美月:…匠さんなら、きっと。芽依子さんを大事に、娘さんのことも大事にすると思います。
匠:…すいません。ちょっと…酔いが回ったかも…布団、敷いて行きますね。
美月:ありがとうございます…
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:リビングの真ん中の客用ぶとんに包まる美月。
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美月:お母さんの持病…こんな早くから分かってたんだ…。私を産まなければ…悪化しなかったかもしれない…。私なんて産まなくて良かっ…ああっ!!…だめだ眠れない…水飲もう(起き上がる)
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:キッチンからコップを持って戻る美月。
芽依子:美月ちゃん?
美月:わっ!おか…芽依子さん、起きちゃったんですか?
芽依子:お水?あ、ちょっと待って。お白湯いれてあげるわ
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芽依子:はい、どーぞ
美月:すみません、起こしちゃいましたか?
芽依子:ううん。たっくんがベッドに来たから、目が覚めちゃって。私も喉乾いたから下りてきたの。
美月:うん
芽依子:たっくんが、ちょっと喋りすぎた〜って言ってたわ
美月:馴れ初めとか…聞かせてもらいました
芽依子:うふふ、なかなかドラマチックだったでしょう?
美月:はい…びっくりしました…
芽依子:うん…
美月:後悔…してないですよね?
芽依子:私!?してないしてないっ。良かったって思ってるもの。たっくんと夫婦になれて、子供まで授かって…本当に幸せ
美月:…匠さんを残して、死んじゃうとしても?
芽依子:…そうね、幸せよ
美月:不安じゃないの…?
芽依子:不安よ?この子を残して死ぬことも、たっくんを残して逝くことも、…不安っていうか、申し訳なさと、悲しさで、もうぐっちゃぐっちゃよ…。でもね…せっかく来てくれたこの子を、産まないなんて選択肢は、私にはないわ。エゴかもしれないけど…会いたいの。この子に、私は会いたい。
美月:……
芽依子:この子に会えない未来より、会える未来を、私は選びたい。…だから、私は産むわ
美月:…生きててほしかった…。まだ会ってもいない私との未来なんかより、お父さんと2人の、楽しい未来を長く生きててほしかった…。…って娘さんは思うかもしれない
芽依子:そう…ね。寂しい思いをさせるかもしれない。例えば、今の私や、美月ちゃんみたいな時、相談したい時に私は傍にいてあげられないかもしれない…。助けてあげたい時に、何もしてあげられないかもしれない。でも…長く長く、生きられるかもしれない。いっぱいお話できるかもしれない。毎日いってらっしゃい、いってきます、おかえり、ただいまを交わせるかもしれない…。たくさんの「かもしれない」を思う時、私は…あなたに会える「かもしれない」を選びたいの
美月:え…?
芽依子:これもひとつの「かもしれない」だから、引いてくれても、笑ってくれても構わない。…美月ちゃん、あなたは、未来から来た私とたっくんの娘…かもしれない
美月:…どうして?
芽依子:だって…目がたっくんそっくりなんだもん。マグカップの持ち方もおんなじ。
美月:……おかあさん…
芽依子:…わたしは、四年前に死んじゃったのね…
美月:うん…。お父さんも、私も、抜け殻みたいになっちゃった…お母さんは、うちのお日様みたいなひとだったから…
芽依子:ありがとう、美月ちゃん。私、いっぱいいーっぱい、あなたにしてあげたいことがあるのよ?
美月:お菓子作ったり、洋服作ったり…あ、逆上がりの特訓とか?
芽依子:やだ!何で…ってそっか…ちゃんと私、教えられた?
美月:うん、練習に毎日付き合ってくれた。お父さんじゃなくて、何でお母さんが?って思ったけど…
芽依子:それは、私がなかなかできなくて、クラスで一番最後にできるようになったっていう経験からよ。美月ちゃんには、大変な思いさせたくなかったのよ。
美月:なるほど…。お母さんは、一人でできるようになったの?
芽依子:ううん、お父様が、特訓してくれたわ。仕事で疲れてるのに、庭に鉄棒を建ててね…ふふ
美月:へぇ…。お母さんは結構たくましかったな。お嬢様だったなんてびっくりした。
芽依子:うふふ、褒めてくれてありがとう
美月:褒めてるのかな?
芽依子:褒めてるわよ!…でも…だめねぇ。娘の肝心な時に傍にいない母親なんて…
美月:……そんな…
芽依子:こういうときこそ、お母さんの出番なのにね…
美月:お母さん、体のあちこちが痛かったと思う。これから芽依子さんを襲うのは、痛みだよ?辛かったはずなの…だけど…いつもいつも私やお父さんには、大丈夫って笑ってて…私、つらいお母さんに何も…何もしてあげられなかった…ねぇ…そんなの嫌だ。私、何もないの、まだ守るものとか。だから…会わなければ…最初からなかったんだから、今なら…
芽依子:美月ちゃん!…もういるの。ここに…いるのよ?なかったことになんて、絶対にしない。それに、守るもの…美月ちゃんにもあるかもしれない…でしょう?
美月:あ……!
芽依子:ごめんね…一緒にいてあげられなくて。いつか、美月ちゃんが結婚する時に、ウェディングベールをかけてあげたかった…美月ちゃんが子供を産んだら、その子を抱きしめてあげたかった…美月ちゃんが不安な時、悲しい時、迷ってる時…傍にいてあげたかった。
美月:…いてほしかった。結婚もみてほしかった、子供だって…一緒にいてくれたらすごく心強かった…大好きって…死んじゃいやだって何回も思ったし、死んじゃって馬鹿!!って怒った時もあった…
芽依子:うん…
美月:でも、いてくれたんだよ?生きてる時、いつも、いてくれた。もう!お母さんうっとおしい!ってくらい…私を、お父さんを大事にしてくれた…ありがとう
芽依子:美月ちゃん…愛してる。これから先、美月ちゃんが、いろんなことにぶつかって、悩んだり、苦しんだりする時、私は絶対にそばにいるから。そして…絶対に頑張って長生きするわ!だって、ずっと一緒にいたいもの。
美月:…うん!
芽依子:未来で待ってて…!
美月:未来で。
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:抱きしめ合う2人
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:美月の体が光に包まれる
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匠:美月!!(腕をぐっと掴まれて歩道へ戻される)
美月:お父さん…
匠:ぼーっとして…危ないじゃないか!
美月:…ごめんなさい…。…っ!お母さんは!?
匠:…どうしたんだ…美月?お母さんは…
美月:…ああ…。
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美月:こちらの世界は、何も変わりはなくて、お母さんも生きてはいなかった…。でも、あの夢かもしれない世界で、わたしはお母さんに会ったのだ。これから私は、彼氏に、お父さんに、お腹の赤ちゃんのことを伝える。…彼の答えが、お父さんの答えがどうであれ、私の答えは決まっている。…私は今、このお腹の子が女の子であり、お母さんの生まれ変わり「かもしれない」なーんて思っているのだ
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:夕方 産婦人科からの帰り道
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美月:どうしよう…。まずは裕一に言わないと…。怖いな…。どんな反応が返ってくるんだろう。結婚…するとして、お父さんにも言わなきゃいけないし…。そもそも結婚どころか別れを切り出されたら?…殺したくない…けど…私ひとりで何とか出来るとは思えない…。
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美月:どうしたらいいんだろう…。あー…今は考えたくない…。締切のあることとか、昔から大嫌い。何で…こんな時に…。一番相談できる人、お母さんがいないんだろう。何で死んじゃってるんだろう…。お母さんがいれば…
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:交差点は赤信号だが、ぼーっと進み続ける美月
芽依子:危ない!!(美月の腕を掴み、歩道へ引っ張る)
美月:え…おかあ…さん?
芽依子:大丈夫!?ちょっと?あなた!?
匠:芽依子、どうした大丈夫か!?
芽依子:この子が車道に飛び出そうとしたの
匠:大丈夫ですか?
美月:…お父さん…若い…
匠:…様子がおかしな人だ…芽依子?もう行こう?
芽依子:……。
匠:芽依子?
芽依子:うち、来ます?
匠:おい、芽依子
芽依子:大丈夫。おかしな人じゃないわ、きっと。体調は悪そうだけど…少し休めば良くなるんじゃないかしら。うち、すぐそこなんです。良かったら寄っていって?
美月:……はい
芽依子:うんっ じゃあたっくん、彼女のバッグ持って。はい…あっ(バッグを落としてしまう)…私と同じ産婦人科の診察券…あなた、失礼だけど、妊婦さん…なの?
美月:ええ、まぁ…
芽依子:だったら尚更、自分の体を大事にしないと
美月:……(泣き出す)
芽依子:あら…ごめんなさい、泣かせるつもりはなかったのよ?えっと…ああ…
匠:妻がすみません。実はコイツも身重なもんで、あなたと重なった所があったんだと思います。すみません…!
芽依子:ごめんなさい…
美月:いえ…何か、気にかけて叱ってもらうのがすごく久しぶりで。こちらこそ…突然泣き出して…ごめんなさい
芽依子:そうだったの…うん、たっくん、私この方と色々お話したいわっ。ねぇ、もしお嫌じゃなければうちに寄っていって下さいな?
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:芽依子と匠の家。ローテーブルを挟んで向かい合う、美月と匠。奥のキッチンで芽依子はお茶の支度をしている
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匠:小さな家で驚いたでしょう?俺が大工やってるんですけど、会社に金借りて、狭い土地買って無理やり建てた家なもんで
美月:いえ…若いのに家を建てて、奥さんと娘さん養ってて、本当にすごいって思ってます
匠:娘…?ああ、芽依子が勝手に言ってるだけですよ?お腹の子は絶対に娘だって言い張ってて、医者はまだ分かんないっていってるんです
芽依子:あらっ!ぜーったい女の子よ!宿してる私がいってるんだもん。間違いないわ
匠:すいません…こういうヤツなんです…
美月:ふふっ
芽依子:はい ノンカフェインのお茶と、たっくんが焼いたクッキー。よかったらどうぞ
美月:お父…たっくんさん、クッキーなんて焼けるんですね
匠:ええ、まぁ…
芽依子:たっくんは、手先がとっても器用なの。まだまだ沢山あるから、食べられそうだったら仰って
美月:いただきます…あ、おいしい…
匠:お口に合って良かった
芽依子:うん…良かった。えっと…あ、やだ私ったら、お名前も聞かないでお連れしてしまったわ!私は、青田芽依子。こちらは夫のたっくんこと、匠さんです
匠:すいません…こういうヤツなんです…
美月:私は…美月です
芽依子:みつきさん!字はどんな字を書くの!?
美月:美しい月です…
芽依子:素敵な名前ね、綺麗だわ
美月:ありがとうございます
芽依子:私もね、生まれてくる子に、「月」の字を入れたいって思っているの
匠:こいつ、名前の候補を考えるのが日課になってて。それもみんな女の子の名前ばっか
芽依子:うふふ、名前を考えるのってとっても楽しいわ
美月:どうして、「月」を入れたいんですか?
芽依子:十月十日、ずっと一緒にいたことと、これから長い年月一緒にいようねっていうメッセージを込めたいと思って
美月:…そんな意味が
芽依子:美月さん…美月ちゃんでいいかしら?
美月:…はい
芽依子:美月ちゃんは、まだ妊娠が分かったばっかり?
美月:はい…
芽依子:不安?
美月:はい…
芽依子:うん、そっか。私も不安。初めてのことばっかりで…
美月:私の場合、それだけじゃなくて…私、まだ結婚してないんです。
匠:相手の男は?
美月:ちゃんと、付き合ってる人。…です
芽依子:結婚前提…?
美月:…そういう話は出たことなくて…
匠:結婚する気もなく、美月さんを…
芽依子:たっくん、する気がないとは限らないでしょう?…これから相手の方には話をするのね?
美月:うん…そのつもりです…けど、何て言われるか怖くて…別れようとか…こどもは…その…
匠:そんなやつ、別れちゃえばいいですよ
芽依子:たっくん!そんな簡単な話じゃないから!私も確かに…そういうことを言うような人だったら、別れたほうがいいと思うけど…
美月:でも、私…結婚しようって言われるのも怖くて
匠:何でですか?責任取って結婚って、当たり前だと思いますけど…
美月:っていうか、お腹に今こどもがいるっていうことが、もう怖くて…生活そのものが変わることは確実じゃないですか、結婚するにしても、しなくて産むにしても…産まないにしても…
芽依子:そうね
美月:この漠然とした不安を…聞いてくれる人がいないって思ってたら…
匠:お友達とかは?
美月:いますけど…なかなか生々しい話なので…ちょっとはばかられるっていうか…
匠:(成程というため息)
芽依子:…ご家族…ご両親、お母様は?
美月:…母は、4年前に、私が大学生の時に他界しました。父はいますが、もともと仕事に明け暮れていて、母が亡くなってからはとても落ち込んで…より仕事に没頭するようになって…喋らなくはないですけど…何か父って、こういうこと、一番言いづらい…かも…しれないです
匠:…寂しいっすね、父親って
美月:…ごめん。…なさい
匠:あ、すいません…なんか、でしゃばっちゃって
美月:いえ…
芽依子:…タイムリミットのあることだから、相手の方にはちゃんと伝えましょう。相手にも考える時間をあげないとダメだから、怖くてもすぐに伝えましょう。
美月:…あ、そっか…はい
芽依子:確かに、変わることが沢山あると思うわ。もし、今そこに居る子と一緒にいない生活を選んだとしても、きっと美月ちゃんの中に、昨日までと違う感覚だったり、価値観は、もう芽生えていると思うの。だから、なかったことにはできない。
美月:…うん
芽依子:大丈夫よ、美月ちゃん。沢山色々な可能性を考えると爆発してしまうわ。バラバラにして、ひとつずつ、向き合いましょう。もちろん、色んな「かもしれない」を考えることは大切よ?でも、いつも美月ちゃんが何を選びたいかを忘れないことと、一個ずつしか出来ないんだってことを忘れないことだわ
美月:…お母…芽依子さん、ありがとう
芽依子:いいの。せっかくマタニティ仲間ができたんだもの!励まし合いたいわ
美月:欲しかった答えのプレゼントをもらえたみたい…
芽依子:そう?…あ!そうだ!!美月ちゃん、今日泊まっていかない!?
美月:え…!?
匠:おい、芽依子、強引すぎるぞ
芽依子:うち、狭いけど、お風呂は素敵なのよ!たっくんが腕によりをかけてつくった檜風呂なの!あんまりないでしょう?ヒノキのお風呂なんて!入っていって!?
匠:おいおい、いくらなんでも「風呂入れ」は初対面の美月さん困るだろ…
美月:毎日入ってま…あ、いえ、あの、えっと
匠:?美月さんの家も、檜風呂なんですか?
美月:えー…いえいえ!「毎日入…りたい…」そう!毎日入りたいと思ってたんです!檜風呂!!!う、嬉しいなぁ…あはははは
匠:え、そうなんですか?…じゃあ、良かったら、ぜひ。風呂の縁のとこは丁寧に削ったりしてて自信作なんです
芽依子:ほらぁ、たっくんも嬉しいくせにぃっ。そうと決まればっ!新しいタオルと〜かわいいパジャマおろさなくっちゃ!
匠:すいません…こういうヤツなんです…
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:浴槽の中
美月:このお風呂って…出来たばっかりの頃は、こんなにいい香りがしてたんだ…。はぁ〜…気持ちいい。お父さんも、お母さんも…今の私より少し年上?だよね。ここは過去なのか、夢なのか…。私が車道で実は撥ねられてて、死んだ後の世界って説もある。…もとの世界…戻れるのかな…でも…もう少しだけ…何も考えずに…ここにいたい
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:風呂を上がり、リビングに戻る美月 ローテーブルには匠がおり、缶ビールを飲んでいる
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美月:お風呂、ごちそうさまでした
匠:あ…!はい…
美月:どうかしました?
匠:いや、「お風呂ご馳走様」ってうちの妻しか言わないやつかと思ってたんで…そうか一般的なものだったのか…
美月:あー…どうですかね、うちの家では、昔からお母さんがそう言うので、私も自然にそうなったって感じかもしれません。たしかに彼氏には笑われましたし
匠:そうなんですか?はは じゃあ、きっと妻と、美月さんが特殊なんだ
美月:だと思います。芽依子さんは?
匠:眠くなったって、先に部屋に引っ込みました。ほんとにマイペースなヤツで、振り回してしまってすみませんでした
美月:いえいえ、…そんなところがお好きなんだろうな、と。
匠:…はは、ま、そうです
美月:2人は、理想の夫婦です。理想の…両親です…
匠:まだまだそう言ってもらうには、足りてないですよ。もっと俺がしっかりしないと。…あ、その布団、使って下さい。お客さん用なので。このビール飲み終わったら、テーブル上げて敷くんで、ちょっと待っててもらっていいですか?
美月:大丈夫です。ありがとうございます
匠:あ、美月さんも飲みます?…ってダメだった。梅ジュースなんてどうです?
美月:え、あ、はい!飲みたいです
匠:取ってきます(立ち上がり、キッチンへ向かう)
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匠:どうぞ
美月:いただきます
匠:…あいつは、いいとこのお嬢さんなんですよ
美月:…!え?そうなんですか?
匠:ちょっと浮世離れしたとこありますけど、あれは、世間知らずっていうか、まぁ不自由なく暮らしてきた結果っていうか…で
美月:知らなかった…
匠:俺が、修繕に入ったお屋敷のお嬢さんだったんです
美月:そこで、恋に落ちたんですか?
匠:美月さんって結構ストレートですよね…
美月:すみません…母親譲りで…。あとすごくお二人の恋バナに興味があります!
匠:ははっ そうですか。…まぁ、そこで完全に一目惚れしました。妻は、兄と妻の2人兄妹で、跡取りで婿を取らないといけないとかはなかったのですが、いいところの方との縁談が予定されていたようで、お義父さんには猛反対されました。どっちが彼女にとって幸せかは、一目瞭然でしょう?…でも諦められなかった。芽依子と俺は…出会ってしまったから…。
美月:それで…?
匠:駆け落ち同然で結婚しました。居場所はお知らせしましたし、子供を授かったことも報告しました…けど…お義父さんからは何の連絡もなくて…
美月:そうですか…
匠:だから、美月さんに頼れる人がいないように、俺のせいで妻にも頼れる人がいないんです。俺の両親は、とっくに他界してますし。そんな中で、あんなに幸せそうに俺との子を産もうとしてくれる妻を…俺はもっと大事にしないと。
美月:匠さんは、超愛妻家ですよ。
匠:そこだけは、自信ありますから
美月:もし…
匠:はい?
美月:もし、芽依子さんが、子供を残して先に亡くなったら…
匠:美月さん?怒りますよ?
美月:すみません…
匠:多分、激しく動揺するでしょうし、生きてられないかもしれません。でも、いつかは来る日だろうから、受け入れるしかないんでしょうね。どんなに受け入れられなくても…。美月さんのお父さんみたいに仕事に没頭することで、芽依子を忘れようとするかもしれない…でも、子供のことに目を向けなくなるのは嫌だな…
美月:そうですね…
匠:……怖くて、怖くて、たまらないんです
美月:え?
匠:…妻には持病がある
美月:…はい
匠:免疫機能の障害みたいな病気なんですけど…紫外線に当たることや、疲労、あとは出産が症状を悪化させることが分ってるんです。
美月:え…?
匠:彼女の病気が何であるかハッキリした直後に、妊娠が分かった。…俺は、まだ見ぬ子供より、彼女の命を優先しようとした。…でも、彼女は俺との子を生みたいって、生きられるかもしれない未来に賭けたいって…。産まなくても、長く生きられるか分からないなら、産む未来を選びたいって…そう…言って…
美月:産まなければ…もっと長く生きられたかもしれない…の?
匠:俺は、怖くて。さっきはあんな風に言ったけど…妻がいなくなることが怖くて…。でも、絶対に後悔しないように、妻のことも、子供のことも愛すって決めたんで…覚悟決めなきゃいけないって思うんですけど…全然できなくて…
美月:…匠さんなら、きっと。芽依子さんを大事に、娘さんのことも大事にすると思います。
匠:…すいません。ちょっと…酔いが回ったかも…布団、敷いて行きますね。
美月:ありがとうございます…
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:リビングの真ん中の客用ぶとんに包まる美月。
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美月:お母さんの持病…こんな早くから分かってたんだ…。私を産まなければ…悪化しなかったかもしれない…。私なんて産まなくて良かっ…ああっ!!…だめだ眠れない…水飲もう(起き上がる)
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:キッチンからコップを持って戻る美月。
芽依子:美月ちゃん?
美月:わっ!おか…芽依子さん、起きちゃったんですか?
芽依子:お水?あ、ちょっと待って。お白湯いれてあげるわ
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芽依子:はい、どーぞ
美月:すみません、起こしちゃいましたか?
芽依子:ううん。たっくんがベッドに来たから、目が覚めちゃって。私も喉乾いたから下りてきたの。
美月:うん
芽依子:たっくんが、ちょっと喋りすぎた〜って言ってたわ
美月:馴れ初めとか…聞かせてもらいました
芽依子:うふふ、なかなかドラマチックだったでしょう?
美月:はい…びっくりしました…
芽依子:うん…
美月:後悔…してないですよね?
芽依子:私!?してないしてないっ。良かったって思ってるもの。たっくんと夫婦になれて、子供まで授かって…本当に幸せ
美月:…匠さんを残して、死んじゃうとしても?
芽依子:…そうね、幸せよ
美月:不安じゃないの…?
芽依子:不安よ?この子を残して死ぬことも、たっくんを残して逝くことも、…不安っていうか、申し訳なさと、悲しさで、もうぐっちゃぐっちゃよ…。でもね…せっかく来てくれたこの子を、産まないなんて選択肢は、私にはないわ。エゴかもしれないけど…会いたいの。この子に、私は会いたい。
美月:……
芽依子:この子に会えない未来より、会える未来を、私は選びたい。…だから、私は産むわ
美月:…生きててほしかった…。まだ会ってもいない私との未来なんかより、お父さんと2人の、楽しい未来を長く生きててほしかった…。…って娘さんは思うかもしれない
芽依子:そう…ね。寂しい思いをさせるかもしれない。例えば、今の私や、美月ちゃんみたいな時、相談したい時に私は傍にいてあげられないかもしれない…。助けてあげたい時に、何もしてあげられないかもしれない。でも…長く長く、生きられるかもしれない。いっぱいお話できるかもしれない。毎日いってらっしゃい、いってきます、おかえり、ただいまを交わせるかもしれない…。たくさんの「かもしれない」を思う時、私は…あなたに会える「かもしれない」を選びたいの
美月:え…?
芽依子:これもひとつの「かもしれない」だから、引いてくれても、笑ってくれても構わない。…美月ちゃん、あなたは、未来から来た私とたっくんの娘…かもしれない
美月:…どうして?
芽依子:だって…目がたっくんそっくりなんだもん。マグカップの持ち方もおんなじ。
美月:……おかあさん…
芽依子:…わたしは、四年前に死んじゃったのね…
美月:うん…。お父さんも、私も、抜け殻みたいになっちゃった…お母さんは、うちのお日様みたいなひとだったから…
芽依子:ありがとう、美月ちゃん。私、いっぱいいーっぱい、あなたにしてあげたいことがあるのよ?
美月:お菓子作ったり、洋服作ったり…あ、逆上がりの特訓とか?
芽依子:やだ!何で…ってそっか…ちゃんと私、教えられた?
美月:うん、練習に毎日付き合ってくれた。お父さんじゃなくて、何でお母さんが?って思ったけど…
芽依子:それは、私がなかなかできなくて、クラスで一番最後にできるようになったっていう経験からよ。美月ちゃんには、大変な思いさせたくなかったのよ。
美月:なるほど…。お母さんは、一人でできるようになったの?
芽依子:ううん、お父様が、特訓してくれたわ。仕事で疲れてるのに、庭に鉄棒を建ててね…ふふ
美月:へぇ…。お母さんは結構たくましかったな。お嬢様だったなんてびっくりした。
芽依子:うふふ、褒めてくれてありがとう
美月:褒めてるのかな?
芽依子:褒めてるわよ!…でも…だめねぇ。娘の肝心な時に傍にいない母親なんて…
美月:……そんな…
芽依子:こういうときこそ、お母さんの出番なのにね…
美月:お母さん、体のあちこちが痛かったと思う。これから芽依子さんを襲うのは、痛みだよ?辛かったはずなの…だけど…いつもいつも私やお父さんには、大丈夫って笑ってて…私、つらいお母さんに何も…何もしてあげられなかった…ねぇ…そんなの嫌だ。私、何もないの、まだ守るものとか。だから…会わなければ…最初からなかったんだから、今なら…
芽依子:美月ちゃん!…もういるの。ここに…いるのよ?なかったことになんて、絶対にしない。それに、守るもの…美月ちゃんにもあるかもしれない…でしょう?
美月:あ……!
芽依子:ごめんね…一緒にいてあげられなくて。いつか、美月ちゃんが結婚する時に、ウェディングベールをかけてあげたかった…美月ちゃんが子供を産んだら、その子を抱きしめてあげたかった…美月ちゃんが不安な時、悲しい時、迷ってる時…傍にいてあげたかった。
美月:…いてほしかった。結婚もみてほしかった、子供だって…一緒にいてくれたらすごく心強かった…大好きって…死んじゃいやだって何回も思ったし、死んじゃって馬鹿!!って怒った時もあった…
芽依子:うん…
美月:でも、いてくれたんだよ?生きてる時、いつも、いてくれた。もう!お母さんうっとおしい!ってくらい…私を、お父さんを大事にしてくれた…ありがとう
芽依子:美月ちゃん…愛してる。これから先、美月ちゃんが、いろんなことにぶつかって、悩んだり、苦しんだりする時、私は絶対にそばにいるから。そして…絶対に頑張って長生きするわ!だって、ずっと一緒にいたいもの。
美月:…うん!
芽依子:未来で待ってて…!
美月:未来で。
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:抱きしめ合う2人
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:美月の体が光に包まれる
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匠:美月!!(腕をぐっと掴まれて歩道へ戻される)
美月:お父さん…
匠:ぼーっとして…危ないじゃないか!
美月:…ごめんなさい…。…っ!お母さんは!?
匠:…どうしたんだ…美月?お母さんは…
美月:…ああ…。
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美月:こちらの世界は、何も変わりはなくて、お母さんも生きてはいなかった…。でも、あの夢かもしれない世界で、わたしはお母さんに会ったのだ。これから私は、彼氏に、お父さんに、お腹の赤ちゃんのことを伝える。…彼の答えが、お父さんの答えがどうであれ、私の答えは決まっている。…私は今、このお腹の子が女の子であり、お母さんの生まれ変わり「かもしれない」なーんて思っているのだ
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